(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045897
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20161206BHJP
C08K 5/44 20060101ALI20161206BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20161206BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20161206BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
C08J3/20 ZCEQ
C08K5/44
C08K3/22
C08L21/00
B60C9/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-268058(P2012-268058)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-114341(P2014-114341A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(72)【発明者】
【氏名】三井 亮人
【審査官】
大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−248423(JP,A)
【文献】
特開2012−087272(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/147746(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムに対して加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程と、前記加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程で得た混合物に加硫系配合剤を添加して混合する工程とを有するゴム組成物の製造方法であって、
前記加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程で得た混合物に加硫系配合剤を添加して混合する工程において、下記一般式(1)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤を少なくとも1種含有する加硫系配合剤及び酸化亜鉛を添加して混合する
ことを特徴とする、ゴム組成物の製造方法。
【化1】
但し、式(1)中、R
1は
、炭素数1〜10の直鎖アルキル基、
又は炭素数3〜10の分岐アルキル
基を示し、R
2は、炭素数1〜10の直鎖アルキル基、
又は炭素数3〜10の分岐アルキル
基を示す。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によりスチールコード被覆用ゴム組成物を製造することを特徴とする、スチールコード被覆用ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法によりゴム組成物を製造し、得られたゴム組成物を用いてタイヤを製造する、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード被覆用等に使用される、接着性及び耐屈曲疲労性に優れたゴム組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用等のゴム組成物は、ジエン系ゴムに対して硫黄や加硫促進剤等の加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程と、その加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程で得た混合物に加硫系配合剤を添加して混合する工程とを有する製造方法により製造される。加硫促進剤としては、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(DZ)やその他のスルフェンアミド系加硫促進剤が、接着性に優れたゴム組成物が得られるものとして広く知られている。
【0003】
しかしこれらの従来のスルフェンアミド系加硫促進剤を用いたゴム組成物は耐屈曲疲労性が十分ではない傾向があり、優れた接着性を維持しつつ、耐屈曲疲労性をより向上させたゴム組成物が望まれている。
【0004】
ゴム組成物の接着性と耐疲労性をともに向上させるためには、他にも種々の試みがなされており、例えば、特許文献1には、ニトロキシドラジカルを含む化合物を有機コバルト酸塩とともに用いるスチールコード被覆用ゴム組成物が提案されている。また特許文献2には、変性天然ゴムとビスマレイミドを含むスチールコード被覆用ゴム組成物が開示されている。しかし、これらの文献で提案されている配合剤は入手が困難であり、タイヤ用ゴム組成物等としては実用性に乏しい。
【0005】
また、特許文献3には、タイヤコード被覆用ゴム組成物において、タイヤコードとの接着性能、ゴム強度、燃費性能の向上のために、改質天然ゴムに加硫促進助剤として酸化亜鉛を配合することが開示されている。しかし、本文献には耐屈曲疲労性向上については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−35598号公報
【特許文献2】特開2011−225678号公報
【特許文献3】特開2010−254954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、スチールコード被覆用ゴム等として使用できる優れた接着性を有し、かつ耐屈曲疲労性を従来のスルフェンアミド系加硫促進剤使用時よりも向上させたゴム組成物、その製造方法、及びこれを用いてなる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のゴム組成物の製造方法は、ジエン系ゴムに対して加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程と、加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程で得た混合物に加硫系配合剤を添加して混合する工程とを有するゴム組成物の製造方法において、上記の課題を解決するために、上記加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程で得た混合物に加硫系配合剤を添加して混合する工程において、下記一般式(1)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤を少なくとも1種含有する加硫系配合剤及び酸化亜鉛を添加して混合する方法とする。
【化1】
【0009】
但し、式(1)中、R
1は
、炭素数1〜10の直鎖アルキル基、
又は炭素数3〜10の分岐アルキル
基を示し、R
2は、炭素数1〜10の直鎖アルキル基、
又は炭素数3〜10の分岐アルキル
基であるものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴム組成物の製造方法によれば、接着性に優れ、スルフェンアミド系加硫促進剤使用時における耐屈曲疲労性を大幅に向上させたことにより、例えばスチールコード被覆用組成物として好適に用いられるゴム組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明で使用するジエン系ゴムは特に限定されず、従来からゴム分野で使用されてきた各種天然ゴム(NR)、各種ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレンブタジエンゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)等を用いることができ、ゴム組成物がタイヤ用である場合においては、天然ゴム、各種ポリブタジエンゴムが好ましい。また、ジエン系ゴムとしては、アミノ基、アルコキシシラン基、ヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン等を導入した変性ジエンゴムも必要に応じて用いることができる。これらジエン系ゴムはいずれか1種を用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明に係る組成物には、タイヤ用等のゴム分野で通常使用されている補強性充填剤を使用することができる。補強性充填剤の例としては、カーボンブラック、シリカ、タルク、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化チタン等が例示され、通常はカーボンブラック又はシリカが好ましく用いられる。
【0017】
上記補強性充填剤の配合量は特に限定されず、ゴム組成物の用途等によって適宜調整されるものであるが、カーボンブラックのみを使用する場合は、通常はゴム成分100質量部あたり30〜80質量部の範囲が好ましく、シリカを配合する場合は、通常はゴム成分100質量部あたり10〜120質量部の範囲が好ましい。またシリカを配合する場合、ゴム成分100質量部あたりカーボンブラックを5〜50質量部配合することが好ましく、シリカとカーボンブラックの配合比率は、質量比でシリカ/カーボンブラックが1/20〜1/0.1の範囲であるのが好ましい。
【0018】
上記補強性充填剤としてシリカを使用する場合は、シランカップリング剤を併用するのが好ましい。シランカップリング剤の種類は特に限定されず、ゴム分野において一般に使用されるものを使用することができ、例としては、スルフィドシラン、メルカプトシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の含有量は、シリカに対して5〜15質量%が好ましい。
【0019】
一般にゴム組成物は、ジエン系ゴムに対して加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する工程(以下、これを第1工程という)と、この加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する第1工程で得た混合物に加硫系配合剤を添加して混合する工程(以下、これを第2工程という)とを少なくとも有する製造方法により製造される。ここで加硫系配合剤とは、加硫剤及び加硫促進剤である。従来は、酸化亜鉛は第1工程のみで添加して混合していたが、本発明では、第1工程で得た混合物に、第2工程で加硫系配合剤とともに酸化亜鉛を添加して混合する。このように酸化亜鉛の添加混合のタイミングを従来と変えることにより、本発明では、ゴムの耐屈曲疲労性を大幅に向上させることが可能となる。これは、酸化亜鉛を第2工程で添加混合した場合、第1工程で添加混合した場合のように均一には分散せず、疎密が生じることによると考えられる。すなわち、酸化亜鉛の疎密化は架橋密度の疎密化につながり、結果として架橋が疎の部分で応力が緩和され、耐屈曲疲労性が向上すると考えられる。但し、本発明は第1工程において酸化亜鉛を添加混合する場合を排除するものではなく、第2工程においてある程度の量の酸化亜鉛を添加混合しさえすれば、所望の効果を得ることが可能である。
【0020】
本発明で使用する加硫剤としては、ゴム分野で従来から使用されてきた硫黄又は硫黄含有化合物を特に限定なく使用することができる。硫黄の例としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、オイル処理硫黄等が挙げられ、好ましい具体例としては、フレキシス社製の「クリステックスHS OT−20」等が挙げられる。
【0021】
次に、本発明で使用する加硫促進剤は、下記一般式(1)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤を少なくとも1種含有するものである。
【化2】
【0022】
但し、式(1)中、R
1は、水素、炭素数1〜10の直鎖アルキル基、炭素数3〜10の分岐アルキル基、又はシクロヘキシル基であり、炭素数9以上では加硫速度が遅くなり、また、接着性が低下する傾向が生じることから、直鎖アルキル基の炭素数は1〜8であることが好ましく、分岐アルキル基の炭素数は3〜8であることが好ましい。また、R
2は、炭素数1〜10の直鎖アルキル基、炭素数3〜10の分岐アルキル基、又はシクロヘキシル基であり、炭素数9以上では加硫速度が遅くなり、また、接着性が低下する傾向が生じることから、直鎖アルキル基の炭素数は1〜8であることが好ましく、分岐アルキル基の炭素数は3〜8であることが好ましい。
【0023】
上記スルフェンアミド系加硫促進剤の好ましい具体例としては、N−エチル−N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド、N−メチル−N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジ(2−メチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等が挙げられる。
【0024】
なお、加硫促進剤としては、本発明の目的に反しない範囲であれば、上記一般式(1)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤とともに、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤等を使用することもできる。
【0025】
さらに、酸化亜鉛(亜鉛華)も、従来からゴム分野で使用されてきたものを特に限定なく使用することができ、具体例としては三井金属鉱業(株)の亜鉛華3号等が挙げられる。
【0026】
上記各加硫系配合剤の配合量は特に限定されず、用いる配合剤の種類やゴム組成物の用途等に基づき適宜選択することが好ましいが、目安としては、スルフェンアミド系加硫促進剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、0.5〜3質量部であることがより好ましい。また、硫黄又は硫黄化合物の配合量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは2.5〜8質量部である。
【0027】
さらに、酸化亜鉛の配合量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して0.1〜15質量部であることが好ましく、より好ましくは3〜10質量部である。第1工程と第2工程との双方で酸化亜鉛を添加する場合は、第2工程で0.5質量部以上を添加することが好ましい。
【0028】
本発明に係るゴム組成物には、上記補強性充填剤、加硫剤、加硫促進剤及び酸化亜鉛以外に、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、オイル、樹脂等の、ゴム分野において一般に使用される各種添加剤を適宜配合することができる。これらの添加剤は、従来通りジエン系ゴムに対して加硫系配合剤を含まない配合剤を混合する第1工程で添加混合することが好ましい。
【0029】
本発明のゴム組成物の製造方法における混合は、第1工程及び第2工程ともに、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、上記した以外は常法に従い行うことができる。
【0030】
以上により得られるゴム組成物は、タイヤのトレッドゴムやサイドウォールゴムとして用いることができ、このゴム組成物を、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、タイヤを形成することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下で示す配合割合は、特にことわらない限り質量基準(「質量部」、「質量%」等)とする。
【0032】
[実施例・比較例]
表1に示す配合に基づいて、スチールコード被覆用ゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第1工程において、1.5リットルの密閉型ミキサーで、表1中の第1工程に示す各成分を3〜5分間混合し、内部の温度が165±5℃に達してから混合物を取り出した。次に、上記と同じ密閉型ミキサーを用いて、表1中の第2工程に示す各成分を添加し、1〜2分間混合して各ゴム組成物を得た。表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0033】
・天然ゴム:RSS#3
・カーボンブラック:HAF、東海カーボン(株)製「シースト300」
・老化防止剤:フレキシス社製「サントフレックス6PPD」
・レゾルシン:住友化学工業(株)製「レゾルシン」
・メラミン誘導体:ヘキサメトキシメチルメラミン、三井サイテック(株)製「サイレッツ963L」
・ステアリン酸コバルト:(株)ジャパンエナジー製「ステアリン酸コバルト」(Co含有率9.5質量%)
・ホウ酸亜鉛:2ZnO・3B
2O
3・3.5H
2O、ボラックス社製「ファイヤーブレイクZB−XF」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・不溶性硫黄:フレキシス社製「クリステックスHS OT−20」
・加硫促進剤DZ:N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDZ−G」
・加硫促進剤BEBS:WO2009/084538の段落0034に記載の方法により合成されたN−エチル−N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
・加硫促進剤BEHZ:N,N−ジ(2−エチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、川口化学工業(株)製「BEHZ」
・加硫促進剤DPBS:N,N−ジイソプロピルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド、三新化学工業(株)製「サンセラーDIB」
【0034】
得られた各ゴム組成物について、耐屈曲疲労性及び初期接着性を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0035】
・耐屈曲疲労性:JIS K6260に準拠し、160℃で20分間加熱して加硫した試験片について、デマチャ屈曲試験機を用い、亀裂が成長して破断するまでの回数を測定し、比較例1の当該回数を100とする指数で表示した。数値が大きいほど耐屈曲疲労性に優れることを示す。
【0036】
・初期接着性:黄銅メッキスチールコードを17本/25mm間隔で並べ、シーティングした評価用ゴムではさみこんだコード部材を作成し、このコード部材を2枚重ねて、150℃で30分間加熱して加硫して、25mm幅の評価用の試験片を作成した。得られた試験片をオートグラフ((株)島津製作所製 DCS500)を用いて2層のスチールコード間の剥離試験を行い、剥離後のスチールコードのゴム被覆率(被覆部が全体に占める面積比率)を目視にて確認し、0〜100%で示した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示された結果から分かるように、実施例では比較例と同じスルフェンアミド系加硫促進剤を使用しながら、酸化亜鉛を第2工程で添加して混合することにより、優れた接着性を維持しつつ、耐屈曲疲労性を大幅に向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
発明のゴム組成物は、乗用車、ライトトラック、トラック、バス等の各種タイヤに用いることができる。