【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、高度の難燃性、GWIT及びHWIを達成し、かつ、強度、耐アーク性、耐加水分解性に優れるので、安全ブレーカーや漏電遮断機等の回路遮断器用部材に特に好適に使用できる。
【0012】
[発明の概要]
本発明の回路遮断器用ポリエステル系樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、臭素系難燃剤(B)5〜30質量部、トリアジン系難燃剤(C)5〜40質量部、アンチモン系難燃助剤(D)2〜12質量部及び長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5〜8である扁平断面ガラス繊維(E)35〜100質量部を含有することを特徴とする。
【0013】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
以下に記載する各構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定して解釈されるものではない。なお、本願明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
本発明のポリエステル系樹脂組成物の主成分であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸化合物と1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール化合物の重縮合の重縮合等によって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
【0015】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を構成するテレフタル酸以外のジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2、2’−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、アントラセン−2,5−ジカルボン酸、アントラセン−2,6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4,4’−ジカルボン酸、ピリジン−2,5−ジカルボン酸等が挙げられる。
【0016】
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用しても良い。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等のエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であれば、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0017】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を構成する1,4−ブタンジオール以外のジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等の脂環式ジオール等、及びそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400〜6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合せしめてもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0018】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)としては、通常、樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上が、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールに由来することが好ましい。なかでも好ましいのは、酸性分の95モル%以上がテレフタル酸に由来し、アルコール成分の95質量%以上が1,4−ブタンジオールに由来するものが好ましい。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度は、0.5〜2dl/gであるのが好ましい。成形性及び機械的特性の点からして、0.6〜1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものが好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械的強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。なお、ポリエステル樹脂の固有粘度は、1,1,2,2−テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0021】
[臭素系難燃剤(B)]
本発明のポリエステル系樹脂組成物が含有する臭素系難燃剤(B)としては、臭素化ポリカーボネート樹脂、臭素化エポキシ化合物、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等の臭素化ベンジルポリ(メタ)アクリレート、臭素化イミド(臭素化フタルイミド等)等の種々の臭素化合物が挙げられるが、臭素化ベンジルポリ(メタ)アクリレート、臭素化ポリスチレン、臭素化エポキシ化合物、臭素化芳香族ポリカーボネートオリゴマーが好ましく、耐アーク性の点から、臭素化ベンジルポリ(メタ)アクリレート、臭素化ポリスチレンがより好ましい。
【0022】
臭素化ポリスチレンとしては、下記の一般式で示される繰り返し単位を含有する臭素化ポリスチレンが挙げられる。
【化1】
(式中、tは1〜5の整数であり、nは繰り返し単位の数である。)
【0023】
臭素化ポリスチレンは、ポリスチレンを臭素化するか、または、臭素化スチレンモノマーを重合することによって製造するかのいずれであってもよいが、臭素化スチレンを重合したものは遊離の臭素(原子)の量が少ないので好ましい。
なお、上記一般式において、臭素化ベンゼンが結合したCH基はメチル基で置換されていてもよい。また、臭素化ポリスチレンは、他のビニルモノマーが共重合された共重合体であってもよい。この場合のビニルモノマーとしてはスチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、ブタジエン及び酢酸ビニル等が挙げられる。また、臭素化ポリスチレンは単一物あるいは構造の異なる2種以上の混合物として用いてもよく、単一分子鎖中に臭素数の異なるスチレンモノマー由来の単位を含有していてもよい。
【0024】
臭素化ポリスチレンの具体例としては、例えば、ポリ(4−ブロモスチレン)、ポリ(2−ブロモスチレン)、ポリ(3−ブロモスチレン)、ポリ(2,4−ジブロモスチレン)、ポリ(2,6−ジブロモスチレン)、ポリ(2,5−ジブロモスチレン)、ポリ(3,5−ジブロモスチレン)、ポリ(2,4,6−トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5−トリブロモスチレン)、ポリ(2,3,5−トリブロモスチレン)、ポリ(4−ブロモ−α−メチルスチレン)、ポリ(2,4−ジブロモ−α−メチルスチレン)、ポリ(2,5−ジブロモ−α−メチルスチレン)、ポリ(2,4,6−トリブロモ−α−メチルスチレン)及びポリ(2,4,5−トリブロモ−α−メチルスチレン)等が挙げられ、ポリ(2,4,6−トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5−トリブロモスチレン)及び平均2〜3個の臭素基をベンゼン環中に含有するポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレンが特に好ましく用いられる。
【0025】
臭素化ポリスチレンは、上記一般式における繰り返し単位の数n(平均重合度)が30〜1,500であることが好ましく、より好ましくは150〜1,000、特に300〜800のものが好適である。平均重合度が30未満ではブルーミングが発生しやすく、一方1,500を超えると、分散不良を生じやすく、機械的性質が低下しやすい。また、臭素化ポリスチレンの質量平均分子量(Mw)としては、5,000〜500,000であることが好ましく、10,000〜500,000であることがより好ましく、10,000〜300,000であることがさらに好ましく、10,000〜70,000であることが特に好ましい。
特に、上記したポリスチレンの臭素化物の場合は、質量平均分子量(Mw)は50,000〜70,000であることが好ましく、重合法による臭素化ポリスチレンの場合は、質量平均分子量(Mw)は10,000〜80,000程度であることが好ましい。なお、質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の値として求めることができる。
【0026】
また、臭素化エポキシ化合物としては、例えば、テトラブロモビスフェノールAエポキシに代表されるビスフェノールA型臭素化エポキシ化合物が挙げられる。
臭素化エポキシ化合物の分子量としては特に限定されるものではない。臭素化エポキシ化合物としてはオリゴマーを併用することもできる。臭素化エポキシ化合物としてはオリゴマーを併用する場合。例えば、分子量5000以下のオリゴマーを0〜50質量%程度用いることで、難燃性、離型性及び流動性を満足せせることができる。
【0027】
さらに、臭素化芳香族ポリカーボネートオリゴマーをとしては、テトラブロモビスフェノールA(「TBA」と略称することがある。)を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと、適当な分子量調節剤を用いて反応(縮重合)させることによって得られる臭素化芳香族ポリカーボネートオリゴマーが好ましい。また、テトラブロモビスフェノールAの一部を他の二価フェノールで置換した共重合型のものであってもよく、他の二価フェノールとしては上記芳香族ポリカーボネート樹脂で説明した二価フェノールが用いられ、さらに合成時の収率、固形化のしやすさ、汎用性の高さ(価格)の点からは、ビスフェノールA(「BPA」と略称することがある。)が好ましい。
かかる臭素化芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、重合度が1では成形時に成形品からブリードアウトし易く、他方重合度が大きくなると満足する流動性が得られ難くなる。好ましい重合度は2〜15である。
【0028】
上記を満たす臭素化芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、市販品があり、容易に入手することが可能である。例えば、2,4,6−トリブロモフェノール(「TBPH」と略称することがある。)を分子量調節剤として、TBAとホスゲンを反応させて得られたオリゴマー(平均重合度5)は、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)から、商品名「ユーピロンFR−53」として市販されている。
臭素化芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、一種単独使用でも、又は二種類以上の併用でも差し支えない。また、本発明の特性を損なわない限り、臭素含有芳香族ポリカーボネートオリゴマー以外の他の臭素系難燃剤を併用することもできる。
【0029】
臭素化ベンジルポリ(メタ)アクリレートとしては、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートを単独で重合、または2種以上を共重合、もしくは他のビニル系モノマーと共重合させることによって得られる重合体であることが好ましく、該臭素原子は、ベンゼン環に付加しており、付加数はベンゼン環1個あたり1〜5個、中でも4〜5個付加したものであることが好ましい。
【0030】
該臭素原子を含有するベンジルアクリレートとしては、ペンタブロモベンジルアクリレート、テトラブロモベンジルアクリレート、トリブロモベンジルアクリレート又はそれらの混合物などが挙げられる。また、臭素原子を含有するベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。
これらの中でも、ペンタブロモベンジルアクリレートが特に好ましい。
【0031】
臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートと共重合させるために使用される他のビニル系モノマーとしては、具体的には例えば、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類、スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸又はその無水物、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
これらは通常、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートに対して等モル量以下、中でも0.5倍モル量以下で用いることが好ましい。
【0032】
また、ビニル系モノマーとしては、キシレンジアクリレート、キシレンジメタクリレート、テトラブロモキシレンジアクリレート、テトラブロモキシレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼン等を使用することもでき、これらは通常、臭素原子を含有するベンジルアクリレートまたはベンジルメタクリレートに対し、0.5倍モル量以下で使用できる。
【0033】
臭素化ベンジルポリ(メタ)アクリレートとしては、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが、高臭素含有量であり、耐アーク性の点で特に好ましい。
【0034】
臭素系難燃剤(B)は、その臭素濃度が52〜75質量%であることが好ましく、56〜73質量%であることがより好ましく、57〜72質量%であることがさらに好ましい。臭素濃度をこのような範囲とすることにより、難燃性を良好に保つことが容易である。
また、臭素系難燃剤(B)中の遊離臭素の含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.45質量%以下であることがより好ましく、0.4質量%以下であることがさらに好ましい。遊離臭素の含有量が0.5質量%を超えると、最終的に得られる樹脂組成物中の遊離臭素量が多くなり、樹脂組成物の処理時や成形時等の高温になる際に脱離し、樹脂組成物の耐熱変色性、色調及び耐光変色安定性を悪化させたり、成形時に金型等の金属腐食を引き起こす場合がある。また、遊離臭素の含有量を0質量%まで除去することは、経済性を度外視するような精製を必要とするので、含有量の下限は、通常0.001質量%であり、0.005質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%である。
【0035】
また、臭素系難燃剤(B)中の塩素の含有量は、0.2質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以下であることがより好ましく、0.08質量%以下であることがさらに好ましく、0.03質量%以下であることが特に好ましい。臭素系難燃剤(B)中の塩素の含有量が0.2質量%を超えると、最終的に得られる樹脂組成物中の塩素含有量が多くなりすぎ、耐トラッキング性、靭性が悪くなる傾向にある。
【0036】
さらに、臭素系難燃剤(B)中の硫黄の含有量は、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.02質量%以下であることがさらに好ましい。臭素系難燃剤(B)中の硫黄の含有量が0.1質量%を超えると、最終的に得られる樹脂組成物中の硫黄含有量が多くなりすぎ、耐トラッキング性、耐金型腐食性が悪くなる傾向にある。
【0037】
なお、臭素系難燃剤(B)中の遊離臭素、塩素、硫黄の含有量は、燃焼イオンクロマトグラフィー法により測定することができる。具体的には、三菱化学アナリテック社製「AQF−100型」の自動試料燃焼装置を用い、アルゴン雰囲気下、270℃、10分の条件で臭素系難燃剤(B)を加熱し、発生した臭素、塩素、硫黄の量を、日本ダイオネクス社製「ICS−90」を用いて定量することにより求めることができる。
【0038】
臭素系難燃剤(B)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、5〜30質量部である。含有量が5質量部未満であると充分な難燃効果が得られず、また、30質量部を超えると機械的強度が低下する。臭素系難燃剤(B)の好ましい含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、10質量部以上であり、より好ましくは15質量部以上であり、好ましくは26質量部以下、より好ましくは23質量部以下である。
【0039】
[トリアジン系難燃剤(C)]
本発明に使用されるトリアジン系難燃剤(C)としては、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物、メラミン類及びシアヌル酸メラミン等が挙げられる。
【0040】
【化2】
(式中、R
1〜R
6は、それぞれ、水素原子又はアルキル基を示す。)。
【0041】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、シアヌル酸、トリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレート、トリ(n−プロピル)シアヌレート、メチルシアヌレート、ジエチルシアヌレート等が挙げられる。上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、イソシアヌル酸、トリメチルイソシアヌレート、トリエチルイソシアヌレート、トリ(n−プロピル)イソシアヌレート、ジエチルイソシアヌレート、メチルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0042】
メラミン類としては、メラミン、メラミン誘導体、メラミンと類似の構造を有する化合物及びメラミンの縮合物等が挙げられる。メラミン類の具体例としては、例えば、メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、アリールグアナミン、メラム、メレム、メロン等が挙げられる。
シアヌル酸メラミンとしては、シアヌル酸とメラミンとの等モル反応物が挙げられる。また、シアヌル酸メラミン中のアミノ基または水酸基のいくつかが、他の置換基で置換されていてもよい。シアヌル酸メラミンは、例えば、シアヌル酸の水溶液とメラミンの水溶液とを混合し、90〜100℃で攪拌下反応させ、生成した沈殿を濾過することによって得ることができ、白色の固体であり、微粉末状に粉砕して使用するのが好ましい。勿論、市販品をそのまま、又はこれを粉砕して使用することもできる。
【0043】
本発明に使用されるトリアジン系難燃剤(C)としては、好ましくは、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、シアヌル酸メラミン、シアヌル酸メレム等が挙げられ、分解物が成形物の表面に浮き出してくるブルーミング等の不都合がないことから、より好ましくは、シアヌル酸メラミンに代表されるシアヌル酸類とメラミン類との等モル反応物が挙げられる。但し、シアヌル酸メラミンは260℃以上になると分解が始まるので、成形不良の発生を抑え、難燃性を確保するためには、260℃以上での成形温度を避ける必要がある。
【0044】
トリアジン系難燃剤(C)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し5〜40質量部である。トリアジン系難燃剤の含有量が5質量部未満であると難燃効果、HWI特性、耐アーク性試験後の絶縁特性が期待されない。40質量部より多いと、成形時に分解しやすく金型汚染が問題となる。トリアジン系難燃剤(C)の含有量は、難燃性とGWIT特性、HWI特性、機械的特性のバランスの点より、好ましくは7〜30質量部であり、更に好ましくは9〜25質量部である。
【0045】
[アンチモン系難燃助剤(D)]
本発明のポリエステル系樹脂組成物が含有するアンチモン系難燃助剤(D)としては、三酸化アンチモン(Sb
2O
3)、五酸化アンチモン(Sb
2O
5)、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられるが、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムが好ましい。
アンチモン系難燃助剤(D)の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、2〜12質量部であり、より好ましくは4質量部以上であり、好ましくは10質量部以下である。アンチモン系難燃助剤の含有量が2質量部未満であると、難燃性が低下し、12質量部を超えると、耐衝撃性等の機械的特性が低下する。
【0046】
ポリエステル系樹脂組成物中の臭素系難燃剤(B)由来の臭素原子と、アンチモン系難燃助剤(D)由来のアンチモン原子の質量濃度は、両者の合計で3〜25質量%であることが好ましく、4〜22質量%であることがより好ましい。3質量%未満であると難燃性が低下する傾向があり、25質量%を超えると機械的強度やGWIT特性、HWI規格特性が低下する場合がある。また、臭素原子とアンチモン原子の質量比(Br/Sb)は、0.3〜5であることが好ましく、0.3〜4であることがより好ましい。
【0047】
[扁平断面ガラス繊維(E)]
本発明のポリエステル系樹脂組成物が含有するガラス繊維としては、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が1.5〜8である扁平断面ガラス繊維(E)である。このようなガラス繊維を用いることで、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の難燃性、HWI特性、耐アーク性、耐加水分解性、曲げ強度等の機械的特性を効果的に高めることができる。
【0048】
扁平断面ガラス繊維(E)の繊維断面の長径の平均値は、好ましくは10〜50μm、より好ましくは15〜40μm、さらに好ましくは20〜35μm、特に好ましくは25〜30μmである。短径の平均値は、好ましくは0.5〜30μm、より好ましくは2〜20μm、さらに好ましくは4〜10μmである。
【0049】
また、扁平断面ガラス繊維(E)の長径と短径の比(長径/短径)の平均値は、1.5〜8であるが、好ましくは2〜7、より好ましくは2.5〜6、さらに好ましくは3〜5である。このような範囲の長径と短径の比(長径/短径)の平均値を有する扁平断面ガラス繊維を用いることで本発明のポリエステル系樹脂組成物の流動性や低ソリ性、耐衝撃性を高めることができる。
【0050】
本発明に用いる扁平断面ガラス繊維(E)としては、断面形状は非円形であれは特に限定されず、断面の中心に対して対称の位置に略平行である部分を有する形状である長円形、楕円形、繭形、半円、円弧形、矩形、三つ葉状、及びこれに類する形状の非円形形状が含まれるが、なかでも機械的強度、低ソリ性、異方性の観点より、長円形、楕円形、繭形が好ましく、特に長円形が好ましい。
【0051】
扁平断面ガラス繊維(E)の断面積は、好ましくは2×10
−5〜8×10
−3mm
2、より好ましくは8×10
−5〜8×10
−3mm
2、さらに好ましくは8×10
−5〜8×10
−4mm
2である。断面積を2×10
−5mm
2以上とすることにより、ガラス繊維の製造および成形に用いる樹脂組成物ペレット製造時の取り扱いが容易になるため好ましい。さらに、上記断面積範囲内のガラス繊維を用いた場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂との接触面積が大きくなり、十分な補強効果を得ることができる。
なお、ガラス繊維断面の長径と短径の比及び断面積は、樹脂組成物の製造に用いるガラス繊維の断面を適当な倍率で顕微鏡観察し、得られた画像を画像解析ソフト、例えば、プラネトロン社製「Image−Pro Plus」等の画像解析ソフトを用い、2000本のガラス繊維について実寸を測定し、得られた値を数平均化することにより得ることができる。
【0052】
また、扁平断面ガラス繊維(E)の平均繊維長と平均繊維径の比(アスペクト比)は、通常2〜120、好ましくは2.5〜70、より好ましくは3〜50である。扁平断面ガラス繊維(E)の平均繊維長と平均繊維径の比(アスペクト比)が、2未満の場合は、機械的強度が低下する傾向にあり、逆に120を超える場合は、ソリや異方性が大きくなるほか、成形品外観が著しく悪化する傾向にある。
かかる扁平断面ガラス繊維(E)の平均繊維径とは、扁平断面形状を同一面積の真円形に換算したときの数平均繊維径をいう。また平均繊維長とは、本発明のポリエステル系樹脂組成物中における数平均繊維長をいう。なお、数平均繊維長は、成形品の高温灰化、溶剤による溶解、並びに薬品による分解等の処理で採取される充填剤残渣を光学顕微鏡にて観察した画像から、画像解析装置によって算出される値である。また、かかる値の算出に際しては繊維径を目安にそれ以下の長さのものはカウントしない方法による値である。
【0053】
扁平断面ガラス繊維(E)のガラス組成は、Aガラス、Cガラス、Eガラス等に代表される各種のガラス組成が適用され、特に限定されない。かかるガラス繊維(E)は必要に応じて、TiO
2、SO
3、P
2O
5、CaO、MgO、B
2O
3等の成分を含有するものであってもよい。これらのなかでも、Eガラス(無アルカリガラス)が本発明のポリエステル系樹脂組成物の機械強度、熱安定性が高まるため好ましい。
【0054】
本発明で使用する扁平断面ガラス繊維(E)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)との密着性を向上させる目的で、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤やチタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤等により表面処理を行うことができる。
【0055】
また、本発明に使用する扁平断面ガラス繊維(E)は、通常はこれらの繊維を多数本集束したものを、所定の長さに切断したチョップドストランド(チョップドガラス繊維)として用いることが好ましく、このとき本発明で使用する扁平断面ガラス繊維(E)は収束剤を配合することが好ましい。
収束剤としては、特に制限はないが、例えばウレタン系、エポキシ系、アクリル系、ポリエステル系、スチレン系、オレフィン系等の収束剤が挙げられる。なかでも本発明に使用する扁平断面ガラス繊維(E)の収束剤としては、ウレタン系、エポキシ系収束剤がより好ましく、エポキシ系収束剤がさらに好ましい。
なお収束剤の付着量は、扁平断面ガラス繊維(E)100質量%中、通常0.1〜3質量%、好ましくは0.2〜1質量%である。
【0056】
[硼酸金属塩]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、硼酸金属塩を含有することも好ましい。
硼酸金属塩としては、硼酸のアルカリ金属塩(例えば、四硼酸ナトリウム、メタ硼酸カリウム等)あるいはアルカリ土類金属塩(例えば、硼酸カルシウム、オルト硼酸マグネシウム、オルト硼酸バリウム、硼酸亜鉛等)等が挙げられる。これらの中でも好ましくは、硼酸亜鉛である。硼酸亜鉛は、一般に、2ZnO・3B
2O
3・xH2O(x=3.3〜3.7)で示される。水和硼酸亜鉛としては好ましくは、2ZnO・3B
2O
3・3.5H
2Oの式をもつものであり、かつ260℃またはそれより高い温度まで安定なものである。
【0057】
硼酸カルシウムとして、コレマナイトが挙げられる。コレマナイトは、主に硼酸カルシウムからなる無機化合物であり、通常、化学式2CaO・3B
2O
3・5H
2Oで表される水和物である。本発明に用いるコレマナイトは、コールマナイト(Colemanite)、コールマン石または灰硼鉱と呼称されるカルシウム系ホウ酸鉱や、合成物の何れでもよいが、中でも鉱物として産出されるコレマナイトが、熱安定性に優れるので好ましい。
【0058】
硼酸金属塩の量は、適宜選択して決定すればよいが、多すぎると機械物性が低下する傾向にあり、逆に少なすぎても添加効果が不十分であるので、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部、中でも0.1〜4質量部、更には1〜3質量部、特に1〜2質量部であることが好ましい。
【0059】
[カーボンブラック]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、さらにカーボンブラックを含有することも好ましい。カーボンブラックを含有することで回路遮断器材としての耐侯性が向上する。
本発明に用いるカーボンブラックは、その種類、原料種、製造方法に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のいずれをも使用することができる。その数平均粒径には特に制限はないが、5〜60nmであることが好ましい。このように数平均粒子径が所定の範囲にあるカーボンブラックを用いることにより、高温下でブリスターが発生し難い組成物を得ることができる。
【0060】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(単位:m
2/g)は、通常1000m
2/g未満が好ましく、なかでも50〜400m
2/gであることが好ましい。窒素吸着比表面積を1000m
2/g未満にすることで、本発明のポリエステル系樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。なお、窒素吸着比表面積はJIS K6217に準拠して測定することができる。
【0061】
またカーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート)吸収量は、300cm
3/100g未満であることが好ましく、なかでも30〜200cm
3/100gであることが好ましい。DBP吸収量を300cm
3/100g未満にすることで、本発明のポリエステル系樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。
なお、DBP吸収量(単位:cm
3/100g)はJIS K6217に準拠して測定することができる。また本発明で使用するカーボンブラックは、そのpHについても特に制限はないが、通常、2〜10であり、3〜9であることが好ましく、4〜8であることがさらに好ましい。
【0062】
カーボンブラックは、一種を単独でまた2種以上併用して使用することができる。更にカーボンブラックは、バインダーを用いて顆粒化することも可能であり、他の樹脂中に高濃度で溶融混練したマスターバッチでの使用も可能である。溶融混練したマスターバッチを使用することによって、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良が達成できる。上記樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられ、中でも、アクリロニトリル−スチレン系樹脂等のポリスチレン系樹脂が好ましい。
【0063】
カーボンブラックの含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、0.001〜5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.002質量部以上、さらに好ましくは0.003質量部以上であり、また、より好ましくは4.5質量部以下、さらに好ましくは4質量部以下、特に好ましくは3.5質量部以下である。
【0064】
[安定剤]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、さらに安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤としては、リン系安定剤及びフェノール系安定剤が好ましい。
【0065】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物又は有機ホスホナイト化合物が好ましい。
【0066】
有機ホスフェート化合物としては、好ましくは、下記一般式:
(R
1O)
3−nP(=O)OH
n
(式中、R
1は、アルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nは0〜2の整数を示す。)
で表される化合物である。より好ましくは、R
1が炭素原子数8〜30の長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。炭素原子数8〜30のアルキル基の具体例としては、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
【0067】
長鎖アルキルアシッドホスフェートとしては、例えば、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、オクタデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
これらの中でも、オクタデシルアシッドホスフェートが好ましく、このものはADEKA社の商品名「アデカスタブ AX−71」として、市販されている。
【0068】
有機ホスファイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R
2O−P(OR
3)(OR
4)
(式中、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ水素原子、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアリール基であり、R
2、R
3及びR
4のうちの少なくとも1つは炭素数6〜30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0069】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0070】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式:
R
5−P(OR
6)(OR
7)
(式中、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ水素原子、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアリール基であり、R
5、R
6及びR
7のうちの少なくとも1つは炭素数6〜30のアリール基である。)
で表される化合物が挙げられる。
【0071】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、及びテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0072】
リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
リン系安定剤としては、前述したように、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)との組み合わせにより、優れた相溶性を発揮し、伸びや薄肉靭性を飛躍的に向上させるオクタデシルアシッドホスフェートが特に好ましい。
【0073】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−ネオペンチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト−ルテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0074】
安定剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜5質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001〜4.5質量部であり、更に好ましくは、0.005〜4質量部、特に好ましくは0.01〜1質量部である。
【0075】
[エポキシ化合物]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、さらに耐加水分解抑制剤を含有することが、耐加水分解性、耐湿熱性を向上させ、機械的強度の低下を防止する効果を有するという点で好ましい。耐加水分解抑制剤としては、エポキシ化合物が好ましい。
【0076】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、エポキシ化ブタジエン重合体等が挙げられる。
【0077】
ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル等が、ビスフェノールF型エポキシ化合物としては、ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールF−ジグリシジルエーテル等、レゾルシン型エポキシ化合物としてはレゾルシンジグリシジルエーテル等が例示できる。
また、ノボラック型エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を例示できる。
【0078】
脂環式エポキシ化合物の例としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシル−3,4−シクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0079】
グリシジルエーテル類の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類が挙げられる。またグリシジルエステル類としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル等のモノグリシジルエステル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等のジグリシジルエステル類等が挙げられる。
【0080】
エポキシ化ブタジエン重合体としては、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン系共重合体、エポキシ化水素化スチレン−ブタジエン系共重合体等を例示できる。
【0081】
またエポキシ化合物は、グリシジル基含有化合物を一方の成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β−不飽和酸のグリシジルエステルと、α−オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる一種または二種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0082】
このようなエポキシ化合物としては、エポキシ当量100〜500g/eq、質量平均分子量2000以下のエポキシ化合物が好ましい。エポキシ当量が100g/eq未満のものは、エポキシ基の量が多すぎるため樹脂組成物の粘度が高くなり、逆にエポキシ等量が500g/eqを超えるものは、エポキシ基の量が少なくなるため、樹脂組成物の耐湿熱特性を向上させる効果が十分に発現しない。また質量平均分子量が2000を超えるものは、ポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性が低下し、成形品の機械的強度が低下する傾向にある。エポキシ化合物としては、ビスフェノールAやノボラックとエピクロロヒドリンとの反応から得られる、ビスフェノールA型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が好ましい。
【0083】
耐加水分解抑制剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、0.7質量部以上がさらに好ましい。また耐加水分解抑制剤の含有量が5質量部より多いと架橋化が進行し成形時の流動性が悪くなる場合があるので、3質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下が特に好ましい。
【0084】
[滴下防止剤]
本発明のポリエステル系樹脂組成物には、滴下防止剤を含有させることも好ましい。滴下防止剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましく、フィブリル形成能を有し、樹脂組成物中に容易に分散し、かつ樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものである。ポリテトラフルオロエチレンの具体例としては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より市販されている商品名「テフロン(登録商標)6J」又は「テフロン(登録商標)30J」、ダイキン工業(株)より市販されている商品名「ポリフロン」あるいは旭硝子(株)より市販されている商品名「フルオン」等が挙げられる。
ポリテトラフルオロエチレンの含有割合は、好ましくは、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して0.1〜20質量部である。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが0.1質量部未満では難燃性が不十分になりやすく、20質量部を超えると外観が悪くなりやすい。ポリテトラフルオロエチレンの含有割合は、より好ましくは、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、0.2〜10質量部、さらに好ましくは0.3〜1質量部である。
【0085】
[離型剤]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、更に、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン系化合物から選ばれる1種以上の離型剤が好ましい。
【0086】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、質量平均分子量が、700〜10,000、更には900〜8,000のものが好ましい。
【0087】
また、ポリオレフィン系化合物は、カルボキシル基(カルボン酸(無水物)基、即ちカルボン酸基及び/またはカルボン酸無水物基を表す。以下同様。)、ハロホルミル基、エステル基、カルボン酸金属塩基、水酸基、アルコシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等の、ポリブチレンテレフタレートと親和性のある官能基を付与することが、フォギング性、離型性の点で好ましい。この濃度は、ポリオレフィン系化合物の酸価として、5mgKOH/gを超えて50mgKOH/g未満が好ましく、中でも10〜40mgKOH/g、さらには15〜30mgKOH/g、特に20〜28mgKOH/gであることが好ましい。なお、酸価は、0.5mol KOHエタノール溶液による電位差滴定法(ASTM D1386)に従って測定することができる。
また、揮発分が少なく、同時に離型性の改良効果も著しい点で、ポリオレフィン系化合物としては、酸化ポリエチレンワックスが好ましい。
【0088】
脂肪酸エステル系化合物としては、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられ、中でも、炭素数11〜28、好ましくは炭素数17〜21の脂肪酸で構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。具体的には、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン−12−ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート等が挙げられる。
【0089】
また、シリコーン系化合物としては、ポリエステル樹脂との相溶性等の点から、変性されている化合物が好ましい。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端及び/又は片末端に有機基を導入したシリコーンオイル等が挙げられる。導入される有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等が挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが特に好ましい。
【0090】
離型剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜2質量部であることが好ましい。0.05質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下する傾向があり、一方、2質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下し、また成形品表面に曇りが見られる場合がある。離型剤の含有量は、好ましくは0.07〜1.5質量部、更に好ましくは0.1〜1.0質量部である。
【0091】
[その他成分]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、扁平断面ガラス繊維(E)以外の強化充填剤や、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0092】
また、本発明におけるポリエステル系樹脂組成物には、ポリブチレンテレフタレート樹脂以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損わない範囲で含有することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えばポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0093】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、ポリブチレンテレフタレート樹脂や他の樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、扁平断面ガラス繊維(E)は、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
【0094】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220〜300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0095】
[回路遮断器用成形品]
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、回路遮断器用の成形品として用いる。
回路遮断器としては、ブレーカー、電磁開閉器、アンペアブレーカー、漏電遮断器、配線用遮断機、電動機保護用遮断機(モーターブレーカー)、スリムブレーカー(ワンタッチブレーカー、ワンタッチ漏電ブレーカー)等の各種回路遮断器が挙げられる。回路遮断器用の成形品としては、回路遮断器のカバー、ハウジングや筐体等の成形品あるいは部材である。
成形品の製造方法は、特に限定されず、ポリエステル系樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられる。中でも、射出成形法を採用することが好ましい。