【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
<実施例1>
実施例1では、ガラスとして廃液晶パネルから回収されたアルミノホウケイ酸ガラスと石英ガラスとを用い、発光賦活剤として酸化マンガン(II)(MnO)を用い、結晶化促進剤として酸化亜鉛(ZnO)を用いた。さらに、残光特性を向上させる材料として三酸化二ホウ素(B
2O
3)を用いた。
【0053】
具体的には、まず、遊星型ボールミル(フリッチュ社製 遊星型ボールミル プレミアムラインP−7)にアルミノホウケイ酸ガラス292.2mgと石英ガラス25.4mgと酸化亜鉛(ZnO)559.5mgと酸化マンガン(II)(MnO)2.7mgと三酸化二ホウ素(B
2O
3)120.2mgとを入れて、メカニカルミリング処理を行った。メカニカルミリング処理の条件は、以下の通りである。
・回転速度:510rpm
・ポット:ZrO
2製45ml容器
・ボール:ZrO
2製直径5mm×160個
・処理時間:10時間
・処理温度:20℃。
【0054】
得られた中間体のX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを
図3に示す。得られたX線回折スペクトルは
図3に示すようにハローパターンを有し、アモルファス状態であった。このことから、得られた中間体はガラス固溶体であることを確認した。
【0055】
また、DTA装置(示差熱分析装置、リガク製TG8120)により、10℃/分の昇温レートにて、中間体の熱量変化を測定した。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、650℃〜1000℃の温度範囲に数点の発熱変化が見られた。
【0056】
次に、得られた中間体を、アルミナ製のるつぼに入れ、マッフル炉にて加熱した。中間体の加熱条件としては、大気雰囲気中で5℃/分の昇温速度で900℃まで加熱し、900℃で2時間保持したのち、約4〜5時間かけて室温まで冷却した。これにより、中間体が結晶化された。つまり、実施例1の蓄光性蛍光材料が得られた。
【0057】
実施例1の蓄光性蛍光材料をメノウ製の乳鉢で粉砕してX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを
図5に示す。
図5に示すスペクトルから、実施例1の蓄光性蛍光材料はケイ酸亜鉛結晶構造の一例であるα―Zn
2SiO
4結晶構造を主に含有していることがわかった。
【0058】
蛍光分光光度計(日本分光製FP−8500)を用いて、実施例1の蓄光性蛍光材料に波長250nmの紫外線を照射して、その蛍光スペクトルを測定した。その結果を
図6に示す。
図6から、実施例1の蓄光性蛍光材料は524nm付近に強い発光(緑色)を示すことがわかった。
【0059】
上記蛍光分光光度計を用いて、実施例1の蓄光性蛍光材料に波長250nmの紫外線を5分間照射してから当該紫外線(励起光)を遮断した後に、波長524nmにおける残光強度の時間変化を測定した。その結果を
図7に示す。実施例1では、紫外線(励起光)を遮断してから1200秒が経過してもPL強度はそれほど低下せず、よって、蓄光性蛍光材料は優れた残光特性を示すことがわかった。
【0060】
<実施例2>
実施例2では、上述のようにして得られたアルミノホウケイ酸ガラス146.1mgと、石英ガラス124.3mg、結晶化促進剤として酸化亜鉛(ZnO)572.0mg、発光賦活剤として、酸化マンガン(II)(MnO)2.7mg、更に、残光特性を向上させるための成分として、三酸化二ホウ素(B
2O
3)154.8mgを加え、実施例1と同様にして、蓄光性蛍光材料を製造した。
【0061】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例2の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを測定した結果、実施例2の蓄光性蛍光材料はケイ酸亜鉛結晶構造の一例であるα―Zn
2SiO
4結晶構造を主に含有していることがわかった。
【0062】
上記実施例1に記載の方法にしたがって、実施例2の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを測定した。
図6に示すように、実施例2の蓄光性蛍光材料も524nm付近に強い発光(緑色)を示した。
【0063】
上記実施例1に記載の方法にしたがって、実施例2の蓄光性蛍光材料の波長524nmにおける残光強度の時間変化を測定した。
図7に示すように、実施例2においても、紫外線(励起光)を遮断してから1200秒が経過してもPL強度はそれほど低下せず、よって、蓄光性蛍光材料は優れた残光特性を示すことがわかった。
【0064】
<実施例3>
実施例3では、廃液晶パネルから回収されたアルミノホウケイ酸ガラス146.1mgと、石英ガラス166.3mgと、結晶化促進剤としての酸化亜鉛(ZnO)530.0mgと、発光賦活剤としての酸化マンガン(II)(MnO)2.8mgと、残光特性を向上させる材料としての三酸化二ホウ素(B
2O
3)154.8mgとを用い、上記実施例1に記載の方法にしたがって、蓄光性蛍光材料を製造した。
【0065】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例3の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを測定した結果、実施例3の蓄光性蛍光材料はケイ酸亜鉛結晶構造の一例であるα―Zn
2SiO
4結晶構造を主に含有していることがわかった。
【0066】
上記実施例1に記載の方法にしたがって、実施例3の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを測定した。
図6に示すように、実施例3の蓄光性蛍光材料も524nm付近に強い発光(緑色)を示した。
【0067】
上記実施例1に記載の方法にしたがって、実施例3の蓄光性蛍光材料の波長524nmにおける残光強度の時間変化を測定した。
図7に示すように、実施例3においても、実施例1と同様に、紫外線(励起光)を遮断してから1200秒が経過してもPL強度はそれほど低下せず、よって、蓄光性蛍光材料は優れた残光特性を示すことがわかった。
【0068】
<比較例1>
比較例1では、メカニカルミリング処理を行わなかったことを除いては上記実施例1に記載の方法にしたがって、比較例1の蓄光性蛍光材料を製造した。
【0069】
上記実施例1に記載の方法にしたがって比較例1の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを
図8に示す。
図8に示すように、得られた結晶はケイ酸亜鉛結晶構造の一例であるα―Zn
2SiO
4結晶構造、Zn
3(BO
3)
2結晶構造およびZn
4O(BO
2)
6結晶構造を含有していることがわかった。
【0070】
上記実施例1に記載の方法にしたがって、比較例1の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを測定した。
図6に示すように、比較例1の蓄光性蛍光材料は524nm付近に発光を示さなかった。
【0071】
上記実施例1に記載の方法にしたがって、比較例1の蓄光性蛍光材料の波長524nmにおける残光強度の時間変化を測定した。
図7に示すように、比較例1では、紫外線(励起光)を遮断してから200秒以内にPL強度がバックグラウンドレベルにまで低下し、蓄光性蛍光材料は残光特性を示さないことがわかった。
【0072】
このように、比較例1では、波長524nm付近に発光を示さず、また残光特性も示さなかった。この理由としては、次に示すことが考えられる。比較例1では、メカニカルミリング処理を行わなかったため、発光賦活剤(MnO)および結晶化促進剤(ZnO)がガラスに固溶されず、よって、母体材料であるα−Zn
2SiO
4は結晶性に優れなかった。そのため、発光賦活剤がガラスに均一に導入されなかった。
【0073】
<比較例2>
比較例2では、アルミノホウケイ酸ガラスとして中央粒径が0.768μmであるガラス原料を用いたことを除いては上記比較例1に記載の方法にしたがって、比較例2の蓄光性蛍光材料を製造した。
【0074】
上記実施例1に記載の方法にしたがって比較例2の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを
図9に示す。
図9に示すように、得られた結晶はケイ酸亜鉛結晶構造の一例であるα―Zn
2SiO
4結晶構造およびZn
4O(BO
2)
6結晶構造を含有していることがわかった。
【0075】
上記実施例1に記載の方法にしたがって、比較例2の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを測定した。
図6に示すように、比較例2の蓄光性蛍光材料は524nm付近に発光(緑色)を示したが、524nm付近における蛍光強度は実施例1〜3よりも低かった。
【0076】
上記実施例1に記載の方法にしたがって、比較例2の蓄光性蛍光材料の波長524nmにおける残光強度の時間変化を測定した。
図7に示すように、比較例2では、紫外線(励起光)を遮断してから1200秒が経過すると、PL強度は、実施例1の半分程度であった。よって、蓄光性蛍光材料は残光特性に優れないことがわかった。
【0077】
このように、比較例2では、波長524nmにおける蛍光強度は実施例1よりも低く、残光特性に優れなかった。この理由としては、次に示すことが考えられる。比較例2では、メカニカルミリング処理を行わなかったため、発光賦活剤(MnO)および結晶化促進剤(ZnO)がガラスに固溶されず、よって、母体材料であるα−Zn
2SiO
4は結晶性に優れなかった。そのため、発光賦活剤がガラスに均一に導入されなかった。
【0078】
<実施例4、5>
実施例4、5では、中間体の加熱温度およびその加熱保持時間を表1に記載の値となるように変更したことを除いては上記実施例1に記載の方法にしたがって蓄光性蛍光材料を製造した。
【0079】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例4、5の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを測定した。その結果、表1に示すように、実施例4、5の蓄光性蛍光材料も、実施例1〜3と同様のケイ酸亜鉛結晶構造の一例であるα―Zn
2SiO
4結晶構造を主に含有していることがわかった。
【0080】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例4、5の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを測定した。実施例4の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを
図10に示す。
図10および表1に示すように、実施例4、5の蓄光性蛍光材料も524nm付近に強い発光(緑色)を示した。
【0081】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例4、5の蓄光性蛍光材料の波長524nmにおける残光強度の時間変化を測定した。実施例4の蓄光性蛍光材料の残光特性を
図11に示す。
図11に示すように、実施例4、5においても、紫外線(励起光)を遮断してから1200秒が経過してもPL強度はそれほど低下せず、よって、優れた残光特性を示す蓄光性蛍光材料が得られたと言える。
【0082】
<実施例6、7>
実施例6、7では、中間体の加熱温度およびその加熱保持時間を表1に記載の値となるように変更したことを除いては上記実施例1に記載の方法にしたがって蓄光性蛍光材料を製造した。
【0083】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例6、7の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを測定した。実施例6の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを
図12に示す。
図12および表1に示すように、実施例6、7の蓄光性蛍光材料は、ケイ酸亜鉛結晶構造の一例であるβ―Zn
2SiO
4結晶構造を主に含有していることがわかった。
【0084】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例6、7の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを測定した。実施例6の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを
図10に示す。
図10および表1に示すように、実施例6、7の蓄光性蛍光材料は555nm付近に強い発光(黄色)を示した。
【0085】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例6、7の蓄光性蛍光材料の波長555nmにおける残光強度の時間変化を測定した。実施例6の蓄光性蛍光材料の残光特性を
図11に示す。
図11に示すように、実施例6、7においても、紫外線(励起光)を遮断してから1200秒が経過してもPL強度はそれほど低下せず、よって、優れた残光特性を示す蓄光性蛍光材料が得られたと言える。
【0086】
<実施例8〜11>
実施例8〜11では、中間体の加熱温度およびその加熱保持時間を表1に記載の値となるように変更したことを除いては上記実施例1に記載の方法にしたがって蓄光性蛍光材料を製造した。
【0087】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例8〜11の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを測定した。実施例8の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを
図13に示す。
図13および表1に示すように、実施例8〜11の蓄光性蛍光材料は、ケイ酸亜鉛結晶構造の一例であるZn
1.7SiO
4結晶構造を主に含有していることがわかった。
【0088】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例8〜11の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを測定した。実施例8の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを
図10に示す。
図10および表1に示すように、実施例8〜11の蓄光性蛍光材料は524nm付近に強い発光(緑色)を示した。
【0089】
上記実施例1に記載の方法にしたがって実施例8〜11の蓄光性蛍光材料の波長524nmにおける残光強度の時間変化を測定した。実施例8の蓄光性蛍光材料の残光特性を
図11に示す。
図11に示すように、実施例8〜11においても、紫外線(励起光)を遮断してから1200秒が経過してもPL強度はそれほど低下せず、よって、優れた残光特性を示す蓄光性蛍光材料が得られたと言える。
【0090】
<比較例3>
比較例3では、中間体の加熱温度およびその加熱保持時間を表1に記載の値となるように変更したことを除いては上記実施例1に記載の方法にしたがって蓄光性蛍光材料を製造した。
【0091】
上記実施例1に記載の方法にしたがって比較例3の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを測定した。比較例3の蓄光性蛍光材料のX線回折スペクトルを
図14に示す。
図14および表1に示すように、比較例3の蓄光性蛍光材料は、結晶として析出していないことがわかった。
【0092】
上記実施例1に記載の方法にしたがって比較例3の蓄光性蛍光材料の蛍光スペクトルを測定した。
図10および表1に示すように、比較例3の蓄光性蛍光材料は、実施例1〜11の蓄光性蛍光材料に比較して、弱い発光を示すことがわかった。
【0093】
上記実施例1に記載の方法にしたがって比較例3の蓄光性蛍光材料の波長524nmにおける残光強度の時間変化を測定した。
図11に示すように、残光強度は極めて弱く、紫外線(励起光)を遮断してから100秒足らずでPL強度がバックグラウンドレベルにまで低下した。
【0094】
このように、比較例3では、蛍光強度は実施例1〜11に比較して低く、残光特性に優れなかった。この理由としては、次に示すことが考えられる。比較例3では、中間体を結晶化させるための中間体の加熱温度が低いため、母体材料であるα―Zn
2SiO
4結晶、β−Zn
2SiO
4結晶またはZn
1.7SiO
4結晶の析出量が少なく、よって、残光特性が低下したと考えられる。
【0095】
【表1】
【0096】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。