(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の個別ロールは、個別ロールの中心部分を貫通する貫通孔に2本のシャフトが挿通され、それぞれの個別ロールが2本のシャフトにピンで回動可能に連結されており、前記シャフトを個別ロールの配列方向に相対的に移動させることにより、すべての個別ロールの傾斜角度が調節されることを特徴とする請求項1に記載の搬送製膜装置。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールとして、複数枚の短冊状の太陽電池セルを短手方向に並べて接合したスラット構造型のものが知られている(例えば、特許文献1参照)この太陽電池セルは、金属材料からなる基材上に、下部導電膜(Ag、ZnO等)、光電変換膜(アモルファスシリコン等)及び上部導電膜(ITO等)等の薄膜を形成する処理(製膜処理)を行ってこれらが積層されて形成されている。この下部導電膜、光電変換膜、上部導電膜は、各チャンバー内でスパッタやCVD法等により形成されている。
【0003】
最近では、基材を無駄なく使用できること、製膜処理速度が各製膜チャンバでの製膜レートに依存しないというメリットが得られることから、ロールトゥロールタイプの搬送製膜装置において、チャンバ内に回転軸が互いに傾斜した2つのローラを配置したネルソンロールを設け、このネルソンロールの間に基材を複数回架け渡して、製膜処理による製膜処理が連続的に実行されて、所定の膜厚になるような製膜装置が提案されている(例えば、特願2011−270465)。
【0004】
このネルソンロールを用いたロールトゥロールタイプの搬送製膜装置は、例えば
図9に示すように、送出リールBと、巻取リールCと、複数の製膜処理部Dとを備えており、送出リールBに巻回された基材Aが複数の製膜処理部Dを通過することにより基材A上に所定の薄膜が順次製膜される。そして、最終的に巻取リールCに巻き取られることにより、すべての製膜処理が完了した製膜基材Aが巻回された状態で形成される。そして、得られた製膜基材Aは、切断工程、接合工程を経ることにより、スラット構造型の太陽電池モジュールが形成される。
【0005】
この製膜処理部Dには、チャンバ内にネルソンロールEが用いられている。このネルソンロールEは、
図10(a)に示すように、円筒形状の主ロール部Fと副ロール部Gとを有している。主ロール部Fは、その回転軸f(主ロール軸)が基材Aの搬送方向に対して垂直に配置されており、副ロール部Gは、その回転軸g(副ロール軸)が主ロール部Fの回転軸fに対して所定角度傾斜させて配置されている。すなわち、副ロール軸方向に延びる円筒形状の副ロール部Gは、その全体が所定角度傾斜させた状態で、主ロール部F及び副ロール部Gの外周面がそれぞれ対向するように配置されている。この主ロール部Fと副ロール部Gに、基材Aが複数回交互に架け渡されることにより、主ロール部Fと副ロール部Gとの間を基材Aが所定間隔で複数列走行するようになっている。そして、基材Aが複数列走行する部分には、製膜材料供給部Hが対向して配置されており、この製膜材料供給部Hから特定の原料ガスが供給されることにより、基材A上に所定の薄膜が形成されるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記製膜搬送装置では、製膜処理が安定しないという問題があった。すなわち、主ロール部Fと副ロール部Gは、それぞれの回転軸f、gが互いに所定の角度を有する状態で配置されているため、主ロール部Fと副ロール部Gとの距離が複数列をなして走行する基材Aそれぞれについて異なっている。すなわち、副ロール部G上を走行する基材Aが主ロール部Fから最も離れる点P1〜P5、基材Aが主ロール部Fに接する接点との距離k1〜k5とすると、k1>・・・>k5となっている。そして、基材A全体が一定の速度で走行するため、主ロール部Fと副ロール部Gとの距離の差に応じて走行中のそれぞれの基材Aに生じる張力が異なることになり、張力が大きいところでは基材A上の薄膜に影響を及ぼす虞があり、さらに基材A自体が破断等により損傷を受けるという問題があった。
【0008】
また、距離k1〜k5が異なることにより、走行中の基材Aが時間と共に副ロール部Gの回転軸g方向に変位する現象が生じる。その結果、
図10(b)に示すように、ほぼ等間隔で走行していた複数列の基材Aのピッチが乱れ、ピッチの広い部分と狭い部分とが形成される。このようなピッチの広狭が形成されると基材A上に形成される薄膜の形成状態が不安定になるとともに、製膜材料供給部Hから供給される材料の使用効率が低下する要因になるという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題を鑑みてなされたものであり、ネルソンロールを用いた製膜搬送装置において、複数列で走行するそれぞれの基材に生じる張力の乱れを抑えることにより、安定した製膜処理を行うことができる搬送製膜装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の搬送製膜装置は、薄板長尺体の基材を送出リール部から巻取リール部に連続的に搬送し、搬送中の基材に所定の処理を行って、基材の表面に薄膜を形成する搬送製膜装置であって、基材の搬送経路には、ネルソンロールを有しており、少なくとも薄膜を形成する材料を供給する材料供給部に対向して配置されるネルソンロールは、主ロール部とこれに対向して配置される副ロール部とを有しており、前記副ロール部は、前記主ロール部の回転軸である主ロール軸に平行に配置される副ロール軸と、この副ロール軸に配列される複数の個別ロールとを有しており、前記複数の個別ロールは、それぞれの中心軸が前記主ロール軸に対してねじれの位置になるように傾斜させて設けられ、
前記副ロール部は、前記主ロール軸方向に相対的に移動可能に形成されており、前記副ロール部が相対的に移動することにより、すべての個別ロールが前記主ロール軸方向に相対的に移動することを特徴としている。
【0011】
上記搬送製膜装置によれば、複数列をなして走行する基材に生じる張力の乱れを抑えることができる。すなわち、主ロール部の主ロール軸と、副ロール部の副ロール軸とが互いに平行に配置されており、副ロール軸に設けられる複数の個別ロールが主ロール軸に対してねじれの位置になるように傾斜させて設けられているため、主ロール部と、すべての個別ロールとが等距離に配置される。そのため、主ロール部と副ロール部間を走行する複数列の基材は、それぞれ等距離を走行することにより、それぞれの基材に生じる張力がほぼ一定になる。したがって、従来のように主ロール軸に対して副ロール軸を所定角度を有するように配置される場合に比べて、主ロール部と副ロール部との距離の差から生じる張力の乱れを抑えることができるため、張力の製膜への影響、複数列で走行中の基材に時間と共にピッチの広狭が生じるという問題を抑えることができる。
【0013】
また、基材の走行方向を順逆変更した場合でも、安定した製膜処理を行うことができる。すなわち、製膜搬送装置は、通常、基材を順方向に走行させて使用し、薄膜が形成された基材(製膜基材)が巻取リール部に巻き取られた後、その製膜基材に次の薄膜を形成する場合には、巻取リール部から製膜基材を取り外して再度送出リール部に取付るリールの掛け替え作業が必要になる。しかし、基材を逆方向に走行させることにより、製膜基材が巻取リール部に巻き取られた後、搬送方向を逆転させることにより、リールの掛け替え作業を不要にすることができる。このように逆方向に走行させる場合、ネルソンロールでは複数列の基材それぞれの張力をほぼ一定にすることができるが、この張力により基材に生じる回転軸方向の力が順方向と逆方向とで正反対になる。そのため、走行方向を逆方向に切替えると、副ロール部を走行する基材の走行位置は、順方向の走行位置から軸方向において反対側に変位する。すなわち、副ロール部の個別ロールにおける基材の走行位置が、軸方向反対側の走行位置に変化する。したがって、副ロール部と主ロール部とを軸方向に相対的に移動させて調節できることにより、走行方向を順逆切替えた場合でも、基材が個別ロールから脱落することなく、基材の走行位置を個別ロールの外周面上に留めておくことができる。
【0014】
また、前記複数の個別ロールは、個別ロールの中心部分を貫通する貫通孔に2本の支持シャフトが挿通され、それぞれの個別ロールが2本の支持シャフトにピンで回動可能に連結されており、前記支持シャフトを個別ロールの配列方向に相対的に移動させることにより、すべての個別ロールの傾斜角度が調節される構成にしてもよい。
【0015】
この構成によれば、主ロール軸に対するすべての個別ロールの傾斜角度を一度に変更することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の搬送製膜装置によれば、ネルソンロールを用いた製膜搬送装置において、複数列で走行するそれぞれの基材に生じる張力の乱れを抑えることにより、安定した製膜処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の搬送製膜装置の実施の形態について説明する。ここで、
図1は、本実施形態における搬送製膜装置全体を示す概略図であり、
図2は、製膜処理部の主要構成を示す図である。なお、本実施形態では、太陽電池モジュールの製膜形成に適用した例として説明することとする。
【0019】
図1及び
図2に示すように、搬送製膜装置は、送出リール部10と、巻取リール部20と、製膜処理部30とを有しており、送出リール部10に巻回された基材2が製膜処理部30を通過することにより基材2上に太陽電池セル4を形成する表面処理が行われ(製膜処理が行われ)、巻取リール部20に巻き取られることにより、ロール状の太陽電池セル母材4’が形成される。すなわち、送出リール部10から巻取リール部20に基材2が連続的に搬送される、いわゆるロール トゥ ロールにより、基材2上に太陽電池に必要な薄膜が積層されて太陽電池セル母材4’が形成される。この太陽電池セル母材4’は、後工程である切断工程により、
図8(b)に示す短冊状の太陽電池セル4が形成され、さらに接合工程を経ることにより、太陽電池セル4同士が短手方向に配列して接合された太陽電池モジュール1が形成される(
図8(a))。
【0020】
なお、本実施形態では、送出リール部10側を上流側とし、基材2が処理される後工程側、すなわち、巻取リール部20側を下流側として説明を進めることにする。
【0021】
送出リール部10は、基材2を下流側に供給するためのものである。送出リール部10は、基材2を巻き付ける送出ロール11を有しており、この送出ロール11を駆動制御することにより基材2を送り出すことができるようになっている。すなわち、図示しない制御装置により送出ロール11の回転が制御されることにより、基材2の送出量を増加及び減少させることができる。具体的には、基材2が下流側から引張力を受けた状態で送出ロール11を回転させることにより基材2が下流側に送り出され、適宜、送出ロール11にブレーキをかけることにより基材2が撓むことなく一定速度で送り出されるようになっている。
【0022】
ここで、基材2は、薄板の長尺体であり、厚み0.01mm〜0.2mm 幅5mm〜50mmの平板形状を有する長尺体が適用される。また、材質として、特に限定しないが、ステンレス、銅等が好適に用いられる。
【0023】
巻取リール部20は、供給された基材2を巻き取るものである。巻取リール部20は、送出リール部10と同様に、巻取ロール21を有しており、この巻取ロール21を駆動制御することにより基材2を巻き取ることができるようになっている。すなわち、図示しない制御装置により巻取ロール21の回転が制御されることにより、基材2の巻取量を増加及び減少させることができる。具体的には、巻取ロール21の回転が調節されることにより、送り出された基材2が撓むのを抑えつつ、逆に基材2が必要以上の張力がかからないように巻き取られるようになっている。そして、本実施形態では、送出リール部10を出た基材2が一定速度で搬送され、巻取リール部20に巻き取られるように駆動制御されている。なお、これら送出リール部10と巻取リール部20は、真空環境を形成するチャンバー(破線で示す)内に配置されている。
【0024】
製膜処理部30は、基材2上に太陽電池に必要な薄膜を形成する(製膜する)ためのものであり、本実施形態では、複数の製膜処理部30が設けられている。具体的には、送出リール部10と巻取リール部20との間に複数の製膜処理部30が直線状に配置されており、送出リール部10から送り出された基材2が各製膜処理部30を走行して通過することにより基材2上に順次薄膜が形成される。すなわち、基材2側から下部電極層3a、光電変換層3b、上部電極層3c等の薄膜がこの順に製膜され、太陽電池セル母材4’が形成される(
図8(b)参照)。
【0025】
これら製膜処理部30は、CVD、スパッタ、又は蒸着装置で構成されており、
図2に示すように、チャンバー31と、このチャンバー31に収容されるネルソンロール5と材料供給部6とを有している。チャンバー31は、その内部を真空環境に保つものである。そして、真空環境に保たれたチャンバー31内に材料供給部6から特定の原料ガス(薄膜を形成する材料)が供給されることにより基材2上に所定の薄膜が形成される。チャンバー31には、入口部31aと出口部31bが形成されており、上流側から搬送される基材2が入口部31aからチャンバー31内に供給され、チャンバー31内で製膜処理された後、出口部31bを通じて下流側に搬送される。これら入口部31aと出口部31bとは、基材2が通過可能にシールされており、基材2が搬送により走行した場合でも、各チャンバー31は各薄膜を形成するのに適切な真空度に保たれているようになっている。
【0026】
材料供給部6は、基材2上に薄膜を形成するための材料を供給するためのものである。材料供給部6は、薄膜の原材料である原料ガスを噴出する噴出部(不図示)を有している。そして、噴出部から噴出した原料ガスがプラズマ雰囲気で分解され基材2上に堆積することにより所定の薄膜が形成される。この材料供給部6は、噴出部が基材並走部2aと対向した状態で設けられている。
図2の例では、主ロール部51の外周面51aに形成された基材並走部2aと対向した状態で設けられている。具体的には、基材並走部2aの複数の基材2に対して1つの材料供給部6が共通に設けられており、これら基材並走部2aの複数の基材2に対向する位置に配置されて設けられている。これにより、これら複数の基材2に所定の薄膜が形成される。
【0027】
ネルソンロール5は、材料供給部6に対向して配置され、基材2を複数列並んだ状態の基材並走部2aを形成するものである。ここで、
図3は、ネルソンロールの概略図であり、
図3(a)は、
図2におけるA方向から見た図であり、
図3(b)は、
図2におけるB方向から見た図である。ネルソンロール5は、主ロール部51と副ロール部52とを有しており、これらが所定の距離をおいて配置されている。そして、この主ロール部51及び副ロール部52に基材2が交互に架け渡され、1本の基材2が軸方向に所定間隔をおいて複数列並んだ状態の基材並走部2aを形成して走行している。
【0028】
主ロール部51は、基材2の搬送方向に対して直交する状態で配置されるロールである。主ロール部51は、一方向に延びる主ロール軸53を有しており、この主ロール軸53が上流側から搬送される基材2の搬送方向と直交する状態で配置されている。この主ロール軸53には図示しないサーボモータが連結されており、サーボモータを駆動制御することにより主ロール軸53を軸回りに回転及び停止できるようになっている。
【0029】
また、主ロール部51は、略円筒形状を有しており、その外周面51aに沿って基材2が搬送される。具体的には、搬送された基材2が主ロール部51の外周面51aに沿って走行した後、副ロール部52を経て、再度主ロール部51の外周面51aに沿って走行するというように、主ロール部51と副ロール部52とに基材2が交互に架け渡されることにより、主ロール部51の外周面51aには基材2が軸方向に所定間隔で並んだ基材並走部2aが形成される。すなわち、サーボモータにより主ロール部51が回転駆動されると、主ロール部51の外周面51aには、1本の基材2が軸方向に複数列並んだ状態で走行するようになっている。
【0030】
副ロール部52は、主ロール部51に対向して配置されるロールである。副ロール部52は、副ロール軸54と、この副ロール軸54に設けられる個別ロール7とを有しており、個別ロール7が主ロール軸53に対して所定角度傾斜させて設けられている。
【0031】
副ロール軸54は、後述するように一方向に延びる棒状部材で形成されている。この副ロール軸54は、上流側から搬送される基材2の搬送方向に対して直交する状態で配置されている。すなわち、副ロール軸54は、主ロール軸53に平行に設けられており、軸方向に亘って主ロール部51と等距離になるように配置されている。また、副ロール軸54は、駆動装置には連結されておらず固定して設けられている。したがって、副ロール軸54は、基材2の走行中であってもその軸回りに回転せず、主ロール軸53に対して平行な状態を保ったまま固定される。
【0032】
個別ロール7は、副ロール軸54に回転可能に設けられるロールである。ここで、
図4は、副ロール部52の概略断面図であり、
図4(a)は、副ロール部52を副ロール軸54に直交する方向から見た断面図であり、
図4(b)は、副ロール部52を副ロール軸54方向から見た断面図である。
図3、
図4に示すように、個別ロール7は、短尺に形成される小型のロールであり、副ロール軸54に複数設けられている。そして、すべての個別ロール7は、その外周面7aが主ロール部51の外周面51aに対向する状態で設けられている。本実施形態では、個別ロール7は、副ロール軸54の延びる方向に所定間隔を置いて配置されており、それぞれの個別ロール7は、副ロール軸54に対して所定角度を有するように配置されている。具体的には、それぞれの個別ロール7は、その中心軸71が副ロール軸54に対して同じ角度αを有するように配置されており、すべての個別ロール7は、主ロール部51(主ロール軸53)に対して一定の角度αを有する状態で配置されている。そして、副ロール軸54と主ロール軸53とが軸方向に亘って等距離に配置されているため、それぞれの個別ロール7は、主ロール部51に対して等距離に配置されている。
【0033】
また、それぞれの個別ロール7は、それぞれの中心軸71回りに回転するように形成されている。具体的には、個別ロール7は、副ロール軸54に固定される内径ロール72と、この内径ロール72の外径側に嵌め込まれて設けられるベアリング73とを有しており、このベアリング73が内径ロール72に対して回転することにより、個別ロール7が中心軸71回りに回転できるようになっている。すなわち、すべての個別ロール7のベアリング73で形成される外周面7aが主ロール部51の外周面51aに対向するように配置され、それぞれの個別ロール7のベアリング73が主ロール部51に対して所定角度を有する状態で回転するようになっている。そして、主ロール部51及び副ロール部52に架け渡される基材2は、主ロール部51の外周面51aと個別ロール7のベアリング73とに架け渡されており、主ロール部51が駆動されることにより基材2が走行すると、基材2が個別ロール7のベアリング73に摺接しつつ走行することにより、それぞれの個別ロール7のベアリング73が自由に基材2の走行に合わせて従動回転するようになっている。
【0034】
このように、それぞれの個別ロール7は、主ロール部51に対して等距離に配置されるとともに、所定の角度に傾斜した状態で回転可能に配置されているため、それぞれの個別ロール7上を走行する基材2は、同じ張力が付加された状態で走行することが可能になる。すなわち、
図3(a)に示すように、副ロール軸54が主ロール軸53と平行であって、すべての個別ロール7の中心軸71が主ロール軸53に対してねじれの位置になるように傾斜させて設けられているため、個別ロール7の外周面7a上を走行する基材2が主ロール部51から最も離れる点P1〜P5は副ロール軸54上に配列され、P1〜P5は、主ロール部51と等距離に配置される。そして、これらP1〜P5と、基材2が主ロール部51の外周面51aに接する接点との距離k1〜k5は全て等しい関係(k1=・・・=k5)になる。これにより、主ロール部51と副ロール部52とに架け渡される基材2それぞれに負荷される張力は(基材並走部2aの基材2それぞれに負荷される張力は)、ほぼ均一な状態になる。そして、主ロール部51に対して所定角度有する状態で走行するため、ネルソンロールの機能を奏する状態で走行することが可能になり、基材2が主ロール部51と副ロール部52とに架け渡されて走行させた場合でも、基材2が軸方向に移動することなく個別ロール7上の初期の走行位置を保った状態で安定して走行することができる。
【0035】
また、副ロール部52は、軸方向移動機構と傾斜調節機構を有している。ここで、軸方向移動機構は、副ロール部52を主ロール部51に対して軸方向に移動させるものであり、傾斜調節機構は、個別ロール7の傾斜角度を調節するものである。本実施形態では、
図4に示すように、副ロール軸54が2本のシャフト54aで形成されており、このシャフト54aに個別ロール7が固定されている。この副ロール軸54は、その両端部分が支持台(不図示)に支持されている。支持台には、2本のシャフト54aを軸方向に移動させることができるようになっており、シャフト54a2本共に軸方向に移動させたり(軸方向移動機構)、シャフト54a1本ずつ相対的に移動させる(傾斜調節機構)という動作が可能になっている。
【0036】
また、シャフト54aは、2本共に同じ形状の角柱状部材であり、個別ロール7の内径ロール72に設けられた貫通孔72aに挿通されている。そして、シャフト54aには長手方向に沿って等間隔でピン55が固定されており、このピン55と個別ロール7とが連結されている。したがって、軸方向移動機構により2本のシャフト54aが共に軸方向に移動すると、副ロール軸54に設けられたすべての個別ロール7が主ロール部51に対して主ロール軸53方向に移動することができる。
【0037】
また、個別ロール7の内径ロール72には、ピン55の直径よりも大径のピン孔が設けられており、このピン孔にシャフト54aに設けられたピン55が挿入されることによって連結されている。すなわち、ピン55がピン孔に挿入された状態では、ピン55に対して個別ロール7が回動できるようになっている。したがって、一方のシャフト54aを固定した状態で、他方のシャフト54aを軸方向に移動させると、個別ロール7は、ピン孔にピン55が挿通された状態で他方のシャフト54aの軸移動に追従して回動することにより、個別ロール7の傾斜角度を調節することができる。例えば、
図4の状態から、左側のシャフト54aに対して右側のシャフト54aを紙面下向き方向に移動させることにより、2本のシャフト54aに対する個別ロール7の傾斜角度を大きくすることができ(
図5(a))、紙面上向きに移動させることにより、個別ロール7の傾斜角度を小さくすることができる(
図5(b))(傾斜調節機構)。
【0038】
このように、軸方向移動機構、及び、傾斜調節機構により、基材2の走行経路に合わせて個別ロール7の配置状態を調整することができる。例えば、設計上、主ロール部51の径と副ロール部52の個別ロール7の径、主ロール部51と副ロール部52との距離等から、個別ロール7の傾斜角度が決定されるが、実際に基材2を走行させた場合に微妙なズレが生じる。このような場合には、傾斜調節機構により個別ロール7の傾斜角度を調節することができ、基材並走部2aにおける各基材2に掛る張力を均等にすることができる。
【0039】
また、当初、送出リール部10から巻取リール部20に基材2を順方向に走行させて基材2上に所定の薄膜を形成させた後、順方向時に形成した薄膜上に、さらに別の薄膜を形成する場合、巻取リール部20から送出リール部10に基材2を逆方向に走行させて形成する場合がある。仮に、基材2の走行方向を順逆入れ替えた場合には、個別ロール7における基材2の走行経路が全体的に副ロール軸54方向にずれてしまい、基材2が個別ロール7から脱落したり、個別ロール7に鍔が設けられている場合には、基材2が鍔に接触し損傷してしまう虞がある。すなわち、
図6(a)に示すように、基材2を順方向に走行させている場合には、基材2は、個別ロール7の外周面7aのほぼ中央部分を走行する。ここで、基材2の走行方向を逆方向にした場合には、基材2に生じる軸方向の力が順方向と逆方向とで正反対になるため、
図6(b)に示すように、基材2の走行位置が全体的に軸方向にずれる(
図6(b)の例では上方向)。このように、基材2の走行方向を順逆入れ替える場合には、軸方向移動機構により副ロール軸54を予め軸方向に移動させて個別ロール7全体を軸方向に移動させることにより、基材2の走行位置を個別ロール7の中央に維持することができる(
図6(c)。この
図6(c)の例では、個別ロール7全体をδだけ移動させている。)。これにより、走行方向を入れ替えても基材2が脱落したり、鍔に接触するという問題を回避することができる。
【0040】
次に、上記実施形態における搬送製膜装置を用いて太陽電池セル母材4’を製造する方法について説明する。
【0041】
まず、傾斜調節機構により、副ロール部52について個別ロール7の傾斜角度を調節する。すなわち、主ロール部51の径と副ロール部52の個別ロール7の径、主ロール部51と副ロール部52との距離等から個別ロール7の傾斜角度を算出し、副ロール軸54のシャフト54aを軸方向に移動させることにより個別ロール7の傾斜角度を調節する。なお、ここでダミーの基材を主ロール部51と副ロール部52とに架け渡して走行させることにより、個別ロール7の傾斜角度を精度よく調節することもできる。
【0042】
次に、巻回された基材2を送出リール部10にセットし、各製膜処理部30のネルソンロールを経た基材2の端部を巻取リール部20に取付けることにより、搬送製膜装置への基材2の取付を完了させる。ネルソンロールには、主ロール部51と副ロール部52の個別ロール7の外周面に基材2を沿わせるようにして、主ロール部51と副ロール部52に複数回架け渡して基材並走部2aを形成する。
【0043】
次に、基材2に薄膜を形成する。具体的には、各製膜処理部30の材料供給部6から原料ガスを噴出させた状態で、送出リール部10、巻取リール部20、及びネルソンロールの主ロール部51を駆動制御して基材2を所定の走行速度で走行させることにより、基材2上に薄膜を形成する。例えば、
図7(a)の例では、プラズマ雰囲気で分解された原料ガスが5列の基材2に対して積層される。すなわち、供給される基材2が1列目に主ロール部51の外周面51aに巻き付けられて材料供給部6と対向して走行する(1番の位置で材料供給部6を通過する)ことにより、1列目の薄膜が形成される。そして、主ロール部51を回転させて基材2が走行すると、再度、材料供給部6を通過することにより(2列目の位置で材料供給部6を通過することにより)、2列目の薄膜が形成され、1列目の位置で形成された薄膜上に2列目の薄膜が形成される。同様にして主ロール部51を回転させて基材2を走行させることにより、3列目、4列目・・と材料供給部6を通過し、最終的に5列目の位置を通過することにより製膜が5回行われる。これにより、基材2は、1列目から5列目の位置で製膜される薄膜が順次基材2の表面から順に積層される。仮に、
図7(b)の例のように、基材並走部2aの2列の基材に共通して材料供給部6を設けた場合には、基材2上に1列目と2列目の位置で製膜される薄膜が順次基材2に積層される。すなわち、材料供給部6と対向させる基材並走部2aの基材2の列数によって製膜される膜厚を調節することができる。
【0044】
次に、各製膜処理部30の処理を経た基材2が巻取リール部20に巻き取られた後、基材2を逆方向に走行させて、基材2上に形成された薄膜上に、さらに新たな薄膜を形成する。具体的には、軸方向移動機構により副ロール軸54を軸方向に移動させて、個別ロール7全体を軸方向に移動させる。すなわち、基材2の走行方向を逆転させることにより基材2がずれる分だけ個別ロール7を移動させ、基材2が個別ロール7の外周面7aの中央部分を走行できるように調節する。そして、各製膜処理部30の材料供給部6から原料ガスを噴出させた状態で、送出リール部10、巻取リール部20、及びネルソンロール5の主ロール部51を駆動制御して基材2を所定の走行速度で巻取リール部20から送出リール部10に走行させることにより、基材2上に形成された薄膜上に新たな薄膜を形成する。
【0045】
このようにして、基材2上に太陽電池に必要な薄膜を積層させることにより太陽電池セル母材4’が形成される。その後、この太陽電池セル母材4’は、後工程である切断工程により、
図8(b)に示す短冊状の太陽電池セル4が形成され、さらに接合工程を経ることにより、太陽電池セル4同士が短手方向に配列して接合された太陽電池モジュール1が形成される。
【0046】
上記本実施形態における搬送製膜装置によれば、主ロール部51の主ロール軸53と、副ロール部52の副ロール軸54とが互いに平行に配置されており、副ロール軸54に設けられる複数の個別ロール7が主ロール軸53に対してねじれの位置になるように傾斜させて設けられているため、主ロール部51と、すべての個別ロール7とが等距離に配置される。そのため、主ロール部51と副ロール部52間を走行する複数列の基材は、それぞれ等距離を走行することにより、それぞれの基材に生じる張力がほぼ一定になる。したがって、従来のように主ロール軸53に対して副ロール軸54を所定角度を有するように配置される場合に比べて、主ロール部51と副ロール部52との距離の差から生じる張力の乱れを抑えることができるため、張力の製膜への影響、複数列で走行中の基材に時間と共にピッチの広狭が生じるという問題を抑えることができる。
【0047】
また、上記実施形態では、副ロール部52が軸方向移動機構、傾斜調節機構を有する場合について説明したが、これらを省略した搬送製膜装置にしてもよい。例えば、上記実施形態では、副ロール軸54が2本のシャフト54aで形成される例について説明しているが、シャフト54aを1本のみとし、このシャフト54aに個別ロール7が固定されるものであってもよい。このように軸方向移動機構、傾斜調節機構を省略した場合には、搬送製膜装置が簡素化されるため、装置自体のコストダウンを図ることができる。
【0048】
また、上記実施形態では、主ロール部51の外周面に形成された基材並走部2aに対向するように材料供給部6が設けられる例について説明したが、主ロール部51と副ロール部52との間に形成される基材並走部2aに対向するように材料供給部6が設けられるものであってもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、主ロール部51が一体型の円筒形状ロールである場合について説明したが、主ロール部51を副ロール部52同様、基材2の走行経路ごとに分割した個別ロールの構成にしてもよい。この場合、主ロール部51の個別ロールは、すべて主ロール軸53に直交する向きに配置し、副ロール部52の個別ロール7と所定の傾斜角度αの関係を保つように配置させることにより、ネルソンロールの特性を発揮させるように構成する必要がある。
【0050】
また、上記実施形態では、太陽電池を製造する例について説明したが、本発明の搬送製膜装置は、有機ELなど、いわゆるロール トゥ ロールにより、平板状の基材2を搬送させながら基材2上に薄膜を形成するあらゆる用途に対して適用することができる。