特許第6045935号(P6045935)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6045935緩衝材用架橋性ゴム組成物及びこれを用いた緩衝材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045935
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】緩衝材用架橋性ゴム組成物及びこれを用いた緩衝材
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/02 20060101AFI20161206BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20161206BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20161206BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C08L9/02
   C08K3/06
   C08K3/04
   C08K5/36
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-29981(P2013-29981)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-159506(P2014-159506A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】日本バルカー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬田 雅之
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−111504(JP,A)
【文献】 特開2011−111532(JP,A)
【文献】 特開2008−179656(JP,A)
【文献】 特開2000−212330(JP,A)
【文献】 特開2012−163776(JP,A)
【文献】 特開平02−227444(JP,A)
【文献】 特開2013−010953(JP,A)
【文献】 特開2006−028435(JP,A)
【文献】 特開2012−214542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルブタジエンゴムを含むゴム成分100重量部と、
ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド1.0〜2.5重量部、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1.0〜2.5重量部及びテトラアルキルチウラムジスルフィド1.0〜4.5重量部を含む架橋促進剤と、
架橋遅延剤0.3〜1.0重量部と、
を含有する緩衝材用架橋性ゴム組成物。
【請求項2】
前記架橋遅延剤が、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミドである請求項1に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項3】
前記テトラアルキルチウラムジスルフィドが、テトラメチルチウラムジスルフィドである請求項1又は2に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項4】
前記アクリロニトリルブタジエンゴムにおけるアクリロニトリル由来の構成単位の含有率が、25〜43重量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100重量部に対して0.3〜1.0重量部の硫黄をさらに含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分100重量部に対して80〜120重量部のカーボンブラックをさらに含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物の架橋物からなる緩衝材。
【請求項8】
JIS K6251に従って測定される引張強さが18MPa以上であり、切断時伸びが150%以上であり、100%引張応力が8〜18MPaである請求項7に記載の緩衝材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝材用架橋性ゴム組成物に関し、より詳しくは、繰り返しの衝撃に対する耐久性(耐衝撃性)に優れた架橋性ニトリルゴム組成物に関する。また本発明は、当該ゴム組成物を用いた緩衝材に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製の緩衝材(以下、「ゴム緩衝材」ともいう。)は、稼働する部材による衝撃の吸収を担う部材として各種の装置や工具に組み込まれている。そのような装置又は工具の代表例は、空気圧によってシリンダ内に内蔵されたピストンを駆動させ、釘、針、ネジ等を打ち込む釘打ち機である。釘打ち機は、ピストン運動を繰り返し行うピストンによる衝撃を吸収するためのゴム緩衝材(典型的には円筒状のゴム緩衝材)を備えている。
【0003】
ゴム緩衝材には、繰り返しの衝撃に対する耐久性(耐衝撃性)に優れ、長寿命であることが求められる。ゴム緩衝材の交換頻度を低減させることができるためである。
【0004】
ゴム緩衝材の耐衝撃性を向上させる手段として、ゴム緩衝材を大きくすることが考えられるが、この場合、ゴム緩衝材を装着する装置や工具等も大型化及び重量化してしまうため、あまり望ましい手段とはいえない。特に近年では、釘打ち機の小型化及び高圧化が進んでおり、ゴム緩衝材の大型化はこの傾向に逆行する。
【0005】
特許文献1及び2では、ゴム緩衝材の形状を適切に制御することによって、ゴム緩衝材に加わる衝撃を緩和させる技術が提案されている。この技術によれば、ゴムの撓みを利用することで、ゴム緩衝材を大型化することなく、その耐衝撃性を向上させることが可能である。しかしながら、これらの文献は、耐衝撃性の向上を可能とするゴム組成物の配合設計を何ら教示しない。
【0006】
従来、ゴム緩衝材には、一般的に水素添加ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)又はウレタン等が用いられている。一般的に、HNBR及びウレタンは、NBRと比べて力学物性に優れる傾向にあるため、これらのゴム成分を用いたゴム緩衝材は、耐衝撃性により優れる傾向にある。しかしながら、HNBR又はウレタンの使用は、NBRと比べてゴム緩衝材の製造コストを上昇させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−049441号公報
【特許文献2】特開2002−103246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、汎用的な配合成分を用いるにもかかわらず、耐衝撃性に極めて優れる緩衝材を与えることができる緩衝材用架橋性ゴム組成物及びこれを架橋してなる緩衝材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下のものを含む。
[1] アクリロニトリルブタジエンゴムを含むゴム成分100重量部と、
ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド1.0〜2.5重量部、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1.0〜2.5重量部及びテトラアルキルチウラムジスルフィド1.0〜4.5重量部を含む架橋促進剤と、
架橋遅延剤0.3〜1.0重量部と、
を含有する緩衝材用架橋性ゴム組成物。
【0010】
[2] 前記架橋遅延剤が、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミドである[1]に記載の架橋性ゴム組成物。
【0011】
[3] 前記テトラアルキルチウラムジスルフィドが、テトラメチルチウラムジスルフィドである[1]又は[2]に記載の架橋性ゴム組成物。
【0012】
[4] 前記アクリロニトリルブタジエンゴムにおけるアクリロニトリル由来の構成単位の含有率が、25〜43重量%である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【0013】
[5] 前記ゴム成分100重量部に対して0.3〜1.0重量部の硫黄をさらに含有する[1]〜[4]のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【0014】
[6] 前記ゴム成分100重量部に対して80〜120重量部のカーボンブラックをさらに含有する[1]〜[5]のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【0015】
[7] [1]〜[6]のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物の架橋物からなる緩衝材。
【0016】
[8] JIS K6251に従って測定される引張強さが18MPa以上であり、切断時伸びが150%以上であり、100%引張応力が8〜18MPaである[7]に記載の緩衝材。
【発明の効果】
【0017】
本発明の架橋性ゴム組成物によれば、汎用的で安価なNBRをゴム成分として用い、かつ、他の配合成分についても汎用的なものであるにもかかわらず、配合成分の種類、組み合わせ及び含有量を適切に制御したことにより、製造コストを低減しつつ、耐衝撃性に極めて優れる緩衝材を提供することができる。
【0018】
本発明に係る緩衝材は、釘打ち機用の緩衝材として、あるいは、その他の装置や工具における繰り返しの衝撃を受ける箇所に設置するための緩衝材として好適に用いることができる。また、NBRは耐油性に優れることから、釘打ち機のような空圧シリンダを備えるものに限らず、油圧シリンダを備える装置や工具の緩衝材としても有効である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<緩衝材用架橋性ゴム組成物>
本発明の緩衝材用架橋性ゴム組成物は、
〔A〕 ゴム成分、
〔B〕 架橋促進剤、及び
〔C〕 架橋遅延剤
を含む。以下、本発明の緩衝材用架橋性ゴム組成物が含有する各成分及び任意で含有される成分について詳細に説明する。
【0020】
〔A〕 ゴム成分
ゴム成分は、ニトリルゴム(NBR;アクリロニトリルブタジエンゴム)を含む。汎用的なNBRを用いることにより、HNBRやウレタンを用いる場合に比べて安価に緩衝材を作製することができる。本発明に係る架橋性ゴム組成物の他の利点は、力学物性の面においてはHNBRやウレタンと比較して不利といい得るNBRをゴム成分として用いるにもかからわず、しかも他の配合成分についても汎用的なものであるにもかかわらず、耐衝撃性に極めて優れる緩衝材を提供できる点にある。
【0021】
NBRにおけるアクリロニトリル由来の構成単位の含有率は特に限定されないが、好ましくは25〜43重量%であり、より好ましくは27〜40重量%であり、さらに好ましくは29〜37重量%である。アクリロニトリル由来の構成単位の含有率がこの範囲内であることにより、得られる緩衝材の耐寒性と耐油性とを両立させることができる。
【0022】
NBRは、アクリロニトリル及びブタジエン(1,3−ブタジエン)のみからなっていてもよいが、これら以外の他のモノマーに由来する構成単位を含むこともできる。他のモノマーの具体例は、例えば、(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;エチレン性不飽和カルボン酸のエステル(例えばアルキルエステル);イソプレンを含む。他のモノマーを共重合させることにより、ゴム組成物の架橋特性や、得られる緩衝材の耐衝撃性、引張強度、硬度等のさらなる改善を図ることができる場合がある。他のモノマーは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
NBRにおける上記他のモノマー由来の構成単位の含有率は、例えば20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは8重量%以下である。また、NBRが他のモノマー由来の構成単位を含む場合において、その含有率は、他のモノマー由来の構成単位を含有させることの所期の効果を発現させるために、0.1重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
ゴム成分は、NBR以外の他のゴム成分を含むことができる。他のゴム成分の具体例は、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、水素添加ニトリルゴム(HNBR;水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム)、ウレタンゴム、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)を含む。他のゴム成分は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ただし、他のゴム成分の含有率は、本発明の趣旨又は本発明が奏する効果を阻害しない範囲内であることが好ましい。具体的には、ゴム成分中における他のゴム成分の含有率は、30重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましく、0重量%であることが特に好ましい。
【0026】
〔B〕 架橋促進剤
本発明の架橋性ゴム組成物は、架橋促進剤として特定の3種の化合物の組み合わせを含む。特定の3種の化合物とは、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド及びテトラアルキルチウラムジスルフィドであり、これらの含有量は、ゴム成分100重量部に対してそれぞれ1.0〜2.5重量部、1.0〜2.5重量部、1.0〜4.5重量部とされる。
【0027】
このような特定の化合物の組み合わせを含む架橋促進剤をそれぞれ所定量使用することにより、所定の他の配合成分〔A〕及び〔C〕を所定量使用することと相俟って、得られる緩衝材の耐衝撃性を顕著に向上させることができる。上記組み合わせを構成する架橋促進剤成分のいずれか1以上を含まない場合(あるいはその上で、他の架橋促進剤成分を含む場合)、又は、上記組み合わせを構成する架橋促進剤成分のいずれか1以上の含有量が上記所定の含有量より少ない場合には、極めて高い耐衝撃性を得ることができない。また、上記組み合わせを構成する架橋促進剤成分のいずれか1以上の含有量が上記所定の含有量より多い場合には、架橋速度が速すぎて(架橋完了までの時間が短すぎて)、緩衝材への成形自体が困難となり得る。緩衝材の耐衝撃性向上及び緩衝材への成形性の観点から、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド及びN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドの含有量は、ゴム成分100重量部に対して、それぞれ好ましくは1.2〜2.2重量部である。
【0028】
テトラアルキルチウラムジスルフィドとしては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等を用いることができる。テトラメチルチウラムジスルフィドを用いる場合において、その含有量はゴム成分100重量部に対して、好ましくは1.0〜2.5重量部である。テトラエチルチウラムジスルフィドを用いる場合において、その含有量はゴム成分100重量部に対して、好ましくは1.2〜3.1重量部である。テトラブチルチウラムジスルフィドを用いる場合において、その含有量はゴム成分100重量部に対して、好ましくは1.7〜4.3重量部である。
【0029】
テトラアルキルチウラムジスルフィドは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、なかでもテトラメチルチウラムジスルフィド及び/又はテトラエチルチウラムジスルフィドが好ましく用いられ、テトラメチルチウラムジスルフィド単独又はテトラエチルチウラムジスルフィド単独がより好ましく用いられる。
【0030】
なお、本発明の架橋性ゴム組成物は、上記特定の3種の化合物以外の他の架橋促進剤を含有していてもよい。ただし、緩衝材の耐衝撃性を効果的に向上させる観点及び緩衝材への成形性の観点から、他の架橋促進剤の含有量は、上記3種の化合物の合計量の10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、0重量%であることがさらに好ましい。
【0031】
〔C〕 架橋遅延剤
架橋遅延剤は、架橋・成形温度における架橋開始時期を遅延させる(架橋性ゴム組成物の金型内での初期流動時間を確保する)機能を有するとともに、部分的な架橋阻害の機能を有する添加剤であり、本来、このような機能を所望するか否かに応じて、任意で配合される添加剤であるが、本発明では必須として架橋性ゴム組成物に配合される。本発明において架橋遅延剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.3〜1.0重量部とされる。
【0032】
上記所定量の架橋遅延剤を架橋性ゴム組成物に含有させることにより、上述の架橋開始時期遅延効果及び部分的な架橋阻害効果を適切な程度で得ることができるとともに、所定の他の配合成分〔A〕及び〔B〕を所定量使用することと相俟って、得られる緩衝材の耐衝撃性を顕著に向上させることができる。これらの効果をより効果的に得るために、架橋遅延剤の含有量は、ゴム成分100重量部に対して0.4〜0.8重量部であることが好ましい。
【0033】
架橋遅延剤を含まない場合又はその含有量がゴム成分100重量部に対して0.3重量部を下回る場合には、上述の効果を得ることができないか、又は、その効果が不十分であるか、又は、架橋速度が速すぎて、緩衝材への成形自体が困難となり得る。一方、架橋遅延剤の含有量が、ゴム成分100重量部に対して1.0重量部を超える場合には、過度に架橋が阻害されるために、緩衝材に顕著な耐衝撃性を付与できないか、又は、さらに他の物性(硬度、100%引張応力等)が低下し得る。
【0034】
架橋遅延剤としては特に制限されないが、例えば、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド、N−(2−エチルヘキシルチオ)フタルイミド、N−(シクロヘキシルチオ)マレイミド、N−(4−t−ブチルフェニルチオ)スクシンイミド等のチオイミド誘導体;安息香酸、サリチル酸等の芳香族モノカルボン酸;N−イソプロピルチオ−N−シクロヘキシル−ベンゾチアジル−2−スルホンアミド、N−シクロヘキシル−N−トリクロロメチルチオ−ベンジル−2−スルホンアミド、N−フェニル−N−トリクロロメチルチオベンゼンスルホンアミド等のアミド誘導体;オルトフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物を挙げることができる。架橋遅延剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記の中でも、緩衝材の耐衝撃性向上の観点から、架橋遅延剤としては、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド、N−(2−エチルヘキシルチオ)フタルイミド、N−(シクロヘキシルチオ)マレイミド、N−(4−t−ブチルフェニルチオ)スクシンイミド等のチオイミド誘導体が好ましく用いられ、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミドがより好ましく用いられる。
【0036】
〔D〕 架橋剤
本発明の架橋性ゴム組成物は、通常、架橋剤を含む。架橋剤としては、硫黄系架橋剤、有機過酸化物架橋剤等を用いることができる。架橋剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
硫黄系架橋剤としては、例えば、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、高分子多硫化物等の硫黄化合物が挙げられる。硫黄系架橋剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
有機過酸化物架橋剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、3,3,5−トリメチルヘキサノンパーオキサイド、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン等を挙げることができる。有機過酸化物架橋剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
上記の中でも、緩衝材の耐衝撃性向上の観点から、架橋剤としては粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等が好ましく用いられる。
【0040】
架橋性ゴム組成物における架橋剤の含有量は、ゴム成分100重量部に対して、通常0.1〜10重量部であり、好ましくは0.2〜5.0重量部であり、より好ましくは0.3〜1.0重量部である。この範囲内であれば、架橋反応を十分に進行させることができるので、硬度や機械的強度、耐圧縮永久歪性等に優れるとともに、耐衝撃性に優れた緩衝材を得ることが可能である。
【0041】
〔E〕 その他の含有成分
本発明の架橋性ゴム組成物は、必要に応じて、上述の成分以外の他の成分を含有することができる。他の含有成分としては、例えば、フィラー(体質顔料及び着色顔料を含む意味である)、共架橋剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛等)、安定剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、ワックス類、滑剤等の添加剤を挙げることができる。添加剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
架橋性ゴム組成物が上記の添加剤を含有する場合、その含有量は当該分野において通常用いられる量であってよい。
【0043】
フィラーの具体例は、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、粒状又は粉末状樹脂、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉等を含む。
【0044】
なかでも、本発明の架橋性ゴム組成物は、補強剤としてカーボンブラック及び/又はシリカを含有することが好ましく、カーボンブラックを含有することがより好ましい。十分な補強効果を得るために、補強剤の含有量は、ゴム成分100重量部に対して80〜120重量部であることが好ましく、85〜115重量部であることがより好ましい。
【0045】
共架橋剤の具体例は、キノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2−ポリブタジエン、メタクリル酸金属塩、アクリル酸金属塩等を含む。架橋性ゴム組成物における液状共架橋剤の含有量は、ゴム成分100重量部に対して、好ましくは20重量部以下であり、より好ましくは10重量部以下である。
【0046】
老化防止剤の具体例は、フェノール誘導体、芳香族アミン誘導体、アミン−ケトン縮合物、ベンズイミダゾール誘導体、ジチオカルバミン酸誘導体、チオウレア誘導体等を含む。
【0047】
本発明の架橋性ゴム組成物は、上述の含有成分を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えば、ミキシングロール、加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)等の従来公知のものを用いることができる。この際、各配合成分のうち、架橋反応に寄与する成分(架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋剤等)を除く成分を先に均一に混練しておき、その後、架橋反応に寄与する成分を混練するようにしてもよい。混練り温度は、例えば常温付近である。
【0048】
<緩衝材>
本発明の緩衝材(衝撃吸収材)は、上述の本発明に係る架橋性ゴム組成物の架橋物からなるものである。緩衝材は、架橋性ゴム組成物を架橋(加硫)・成形することにより作製することができる。架橋・成形方法は、インジェクション成形、圧縮成形、移送成形等の従来公知の方法を採用することができる。
【0049】
成形時における加熱温度(架橋温度)は、例えば100〜200℃程度であり、加熱時間(架橋時間)は、例えば0.5〜120分程度である。
【0050】
本発明の緩衝材は、汎用的で安価なNBRをゴム成分として用い、かつ、他の配合成分についても汎用的なものであるにもかかわらず、配合成分の種類、組み合わせ及び含有量を上述のように適切に制御した架橋性ゴム組成物を用いていることにより、ゴム緩衝材として優れた物性を示し、とりわけ耐衝撃性(繰り返しの衝撃に対する耐久性)に極めて優れている。本発明の緩衝材は、典型的には、JIS K6251に従って測定される引張強さが18MPa以上(好ましくは20MPa以上)であり、切断時伸びが150%以上(好ましくは170%以上)であり、100%引張応力が8〜18MPa(好ましくは9〜16MPa)である。
【0051】
本発明の緩衝材は、釘打ち機用の緩衝材として、あるいは、その他の装置や工具における繰り返しの衝撃を受ける箇所に設置するための緩衝材として好適に用いることができる。また、NBRは耐油性に優れることから、釘打ち機のような空圧シリンダを備えるものに限らず、油圧シリンダを備える装置や工具の緩衝材としても有効である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<実施例1〜5、比較例1〜10>
(1) 架橋性ゴム組成物の調製及び緩衝材の作製
次の手順に従って、架橋性ゴム組成物を調製し、次いで緩衝材を作製した。まず、表1に示される配合組成に従って(表1における配合量の単位は重量部である)、ゴム成分、老化防止剤、加工助剤及びフィラーの所定量を加圧ニーダーにより混練した。この際、加圧ニーダーの回転速度は30rpm、混練時間は混練物の最大温度が120℃に到達するまでの時間とした。冷却後、得られた混練物に、架橋剤、架橋促進剤及び架橋遅延剤を投入し、ミキシングロールにより混練を行って、架橋性ゴム組成物を調製した。
【0054】
次に、得られた架橋性ゴム組成物を160〜180℃の温度でコンプレッション(直圧)成形機を用いて成形及び架橋を行って、成形品(緩衝材)を得た。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例及び比較例で用いた各成分の詳細は次のとおりである。
〔1〕 NBR:アクリロニトリルブタジエンゴム〔日本ゼオン(株)製の「Nipol 1042」(アクリロニトリル由来の構成単位の含有率33.5重量%)〕、
〔2〕 ウレタンゴム:一般的なミラブルタイプのウレタンゴム、
〔3〕 HNBR:一般的な水素添加ニトリルゴム(アクリロニトリル由来の構成単位の含有率36.2重量%、ヨウ素価28mg/100mg)、
〔4〕 老化防止剤:オクチル化ジフェニルアミン、
〔5〕 加工助剤:ステアリン酸及び酸化亜鉛(表1における配合量はこれらの合計量である)、
〔6〕 フィラー:ファーネスブラック、
〔7〕 架橋剤:硫黄〔鶴見化学(株)製の「金華印微粉硫黄」〕、
〔8〕 架橋促進剤1:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド〔大内新興化学工業(株)製の「ノクセラー DM−P」〕、
〔9〕 架橋促進剤2:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド〔大内新興化学工業(株)製の「ノクセラー CZ−G」〕、
〔10〕 架橋促進剤3:テトラメチルチウラムジスルフィド〔大内新興化学工業(株)製の「ノクセラー TT−P」〕、
〔11〕 架橋促進剤4:2-メルカプトベンゾチアゾール〔大内新興化学工業(株)製の「ノクセラー M−P」〕、
〔12〕 架橋促進剤5:ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛〔大内新興化学工業(株)製の「ノクセラー BZ−P」〕、
〔13〕 架橋遅延剤:N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド〔川口化学工業(株)製の「アンスコーチ CTP」〕。
【0057】
(2) 緩衝材の評価
得られた成形品(緩衝材)について、下記の項目を測定、評価した。結果を表1に併せて示す。
【0058】
〔ア〕 緩衝材の常態物性
JIS K6250に従い、2mmの厚さに作製したシート状成形品から、JIS K6251に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強さ、切断時伸び、100%引張応力を測定した。また、JIS K6253に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にてシート状成形品の硬度を測定した。これらの試験はすべて25℃の温度下で行った。
【0059】
〔イ〕 緩衝材の耐用回数
所定の円筒形状に成形した緩衝材を市販の釘打ち機〔仕様供給圧力0.3〜0.8MPaの一般的な釘打ち機〕に装着し、供給空気圧力0.7MPa、ピストン速度約1.2秒/サイクルの条件で作動試験を行い、ピストンが正常に作動しなくなるまでのピストン作動サイクル数を測定し、これを耐用回数とした。
【0060】
ピストン作動回数の増加に伴って、繰り返しの衝撃によってゴム緩衝材は劣化又は損傷していき、その程度がある限度を超えると、緩衝材破損片のピストンシール部への噛み込みや、緩衝材摩耗粉発生による潤滑剤の潤滑効果低下によって、ピストンの正常な作動が阻害される。
【0061】
表1に示されるとおり、実施例1〜5の緩衝材は、汎用的で安価なNBRをゴム成分として用い、かつ、他の配合成分についても汎用的なものであるにもかかわらず、極めて高い耐用回数(耐衝撃性)を示した。また、優れた引張強さ、切断時伸び及び100%引張応力を有していた。これに対して、比較例1、3、5〜8及び10の緩衝材は、耐用回数が低い。また、引張強さ、切断時伸び又は100%引張応力のいずれかが劣る傾向にあった。比較例2及び4では、架橋速度が速すぎて、緩衝材への成形自体が困難であった。