(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045944
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】蓄熱材
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
C09K5/06 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-41661(P2013-41661)
(22)【出願日】2013年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-169381(P2014-169381A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】岸本 章
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−297381(JP,A)
【文献】
特開昭62−109885(JP,A)
【文献】
特開昭60−130672(JP,A)
【文献】
特開2000−345147(JP,A)
【文献】
特開2003−261866(JP,A)
【文献】
特開昭58−136681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00−5/20、
F24F1/06−1/68、
F24F5/00、
F28D17/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化を伴う無機化合物を含んでなる蓄熱材であって、前記無機化合物とともにアニオン界面活性剤を含み、前記アニオン界面活性剤が、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム及びアルキルリン酸カリウムのいずれか或いはこれらの任意の二つ以上の混合物であることを特徴とする蓄熱材。
【請求項2】
前記無機化合物に対する前記アニオン界面活性剤の含有割合が、0.0005〜5重量%であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱材。
【請求項3】
前記無機化合物に対する前記アニオン界面活性剤の含有割合が、0.001〜1重量%であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質を冷やしたり、温めたりするときに用いる蓄熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
冷たい温度に保つために用いる保冷材、温かい温度に保つために用いる保温材などの蓄熱材は、容器、袋などに封入して用いられ、蓄熱材を封入した蓄熱容器(保冷用蓄熱容器、保温用蓄熱容器)などは、食品などの加工物とともに収容容器、収容箱などに収容されて加工物の温度調整材として使用される。
【0003】
このような蓄熱材として潜熱を利用したものがあり、潜熱を利用したものとして酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの無機化合物を利用したものが知られている。また、これらの無機化合物の蓄熱材の熱交換率を高めるために、この蓄熱材を微小カプセルに封入して単位体積当たりの表面積を増加させる方法も提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
このように蓄熱材を微小カプセルに封入すると、その熱交換率が向上するのみならず、蓄熱材が蓄熱状態で液体状となっても、それは微小カプセルの内部での状態であって、外観上は微小カプセルという固体のままであり、それ故に、蓄熱材の利用上において非常に都合が良いものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−40524号公報
【特許文献2】特開平5−163486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、蓄熱に相変化を伴う無機化合物を内包するカプセルを調整し、このカプセルを用いて蓄熱操作を試みたところ、次のような問題が生じる。即ち、相変化を伴う無機化合物を内包するカプセルは、加熱/冷却を施すことにより、吸熱/放熱をそれぞれ繰り返されて各種用途に使用されるが、その際に、カプセルに内包された相変化を伴う無機化合物の融点と凝固点との温度が相違する現象、即ち、著しい過冷却現象(凝固点が下がる現象)が生じる。このような過冷却現象が蓄熱操作で発生すると、凝固が所定の温度域で完全に起こらず、例えば次のような問題が発生する。
【0007】
例えば、蓄熱材を保温材として用いる場合、蓄熱材の融点にて温熱の蓄熱が行われ、その凝固点にて蓄熱した温熱の放熱が行われるが、この過冷却現象が発生すると、凝固点が融点よりも大きく下がり、蓄熱した温熱の放熱が所望温度よりも低い温度でもって行われ、例えば加工物を所望温度状態に保つことができなくなる。また、例えば、蓄熱材を保冷材として用いる場合、蓄熱材の凝固点にて冷熱の蓄熱が行われ、その融点にて蓄熱した冷熱の放熱が行われるが、この過冷却現象が発生すると、凝固点が大きく下がることから冷熱を蓄熱するための温度が下がり、蓄熱材への冷熱の蓄熱に大きなエネルギーを消費することになる。
【0008】
本発明の目的は、相変化を伴う無機化合物からなる蓄熱材において、過冷却現象を抑え、加熱と冷却を施したときの融点と凝固点の差を小さくすることができる蓄熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を達成すべく検討した結果、相変化を伴う無機化合物を含む蓄熱材にアニオン界面活性剤を含ませることにより過冷却現象を抑えることができることを見出した。
【0010】
本発明の請求項1に記載の蓄熱材は、相変化を伴う無機化合物を含んでなる蓄熱材であって、前記無機化合物とともにアニオン界面活性剤を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載の蓄熱材では、前記アニオン界面活性剤は、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム及びアルキルリン酸カリウムのいずれか或いはこれらの任意の二つ以上の混合物であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に記載の蓄熱材では、前記無機化合物に対する前記アニオン界面活性剤の含有割合が、0.0005〜5重量%であることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の請求項4に記載の蓄熱材では、前記無機化合物に対する前記アニオン界面活性剤の含有割合が、0.001〜1重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に記載の蓄熱材によれば、相変化を伴う無機化合物を含む蓄熱材にアニオン界面活性剤を含ませたので、このアニオン界面活性剤が核発生剤(凝固するときの核となるもの)して機能し、これによって、蓄熱材の過冷却現象の発生を抑えることができる。
【0015】
一般的に、相変化物質の過冷却現象を防止するためには、この相変化物質に核発生剤の添加が行われる。最も効果のある核発生剤は、相変化物質そのものの結晶であるが、相変化物質の一部をいかなる温度状態においても結晶のまま保持しなければ過冷却現象を防止できず、そのようなことは現実的な解決策ではなく不可能と考えられる。
【0016】
このようなことから、核発生剤としてアニオン界面活性剤を添加したものであり、この蓄熱材では、無機化合物が蓄熱する相変化物質を伴う物質となり、アニオン界面活性剤が核発生剤となる。即ち、相変化物質(無機化合物)が冷却して凝固する際に、アニオン界面活性剤が核発生剤として作用し、これを核として相変化物質の結晶化反応が促進され、その結果、相変化物質の固化が非常にスムーズに進行し、過冷却現象の発生を効果的に抑えることができる。
【0017】
また、本発明の請求項2に記載の蓄熱材によれば、このアニオン界面活性剤がアルキル硫酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム及びアルキルリン酸カリウムのいずれか或いはこれらの任意の二つ以上の混合物であるので、相変化物質(無機化合物)の核発生剤として有効に機能し、蓄熱材(無機化合物)の過冷却現象の発生を効果的に抑えることができる。
【0018】
また、本発明の請求項3に記載の蓄熱材によれば、無機化合物に対するアニオン界面活性剤の含有割合が0.0005〜5重量%であるので、アニオン界面活性剤が核発生剤として効果的に機能して過冷却現象の発生を抑えることができる。アニオン界面活性剤の添加量が5重量%より多いと、無機化合物の結晶化が妨げられて凝固せず、蓄熱材として機能しなくなり、またアニオン界面活性剤の添加量が0.0005重量%より少ないと、アニオン界面活性剤による過冷却防止効果が低下し、このようなことから0.0005〜5重量%の範囲を外れると好ましくない。
【0019】
また、本発明の請求項4に記載の蓄熱材によれば、無機化合物に対するアニオン界面活性剤の含有割合が、0.001〜1重量%であるので、アニオン界面活性剤が核発生剤として非常に有効に作用し、融点と凝固点との温度がほとんどなくなり、過冷却現象の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に従う蓄熱材の使用例を簡略的に示す断面図。
【
図2】アニオン界面活性剤の添加量と過冷却現象の発生程度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う蓄熱材の実施例について説明する。
図1において、この蓄熱材2は、相変化を起こす相変化物質としての無機化合物4と、核発生剤としてのアニオン界面活性剤6とを含有し、この蓄熱材2は、例えば合成樹脂製袋8などに充填密封して使用される。例えば、食品などの加工物を保温するための保温材として用いる場合、この蓄熱材2に温熱が蓄えられ、凝固するときの凝固熱が保温に利用される。また、加工物などを保冷するための保冷材として用いる場合、この蓄熱材2に冷熱が蓄えられ、融解するときの融解熱が保冷に利用される。
【0022】
この蓄熱材2では、蓄熱するために、相変化物質としての無機化合物4が用いられ、融点又は凝固点を有する無機化合物であれば使用可能である。無機化合物4は、単位重量当たりの蓄熱量が大きく、蓄熱材として好適であり、この無機化合物4として、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、リン酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩、ピロリン酸塩、サリチル酸塩などが好都合に用いることができ、これらの無機化合物のうち硫酸塩、酢酸塩、ピロリン酸塩がより好ましい。これら無機化合物の脂肪族炭化水素は、炭素数の増加と共に融点が上昇するため、目的に応じた融点を有する化合物を選択したり、また2種類以上のものを混合して用いることもできる。
【0023】
酢酸塩としては、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸バリウム、酢酸ナトリウム水和物、酢酸カリウム水和物、酢酸バリウム水和物などを用いることができ、硫酸塩としては、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、硫酸ナトリウム水和物、硫酸カリウム水和物、硫酸バリウム水和物などを用いることができ、硝酸塩としては、例えば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸バリウム、硝酸ナトリウム水和物、硝酸カリウム水和物、硝酸バリウム水和物などを用いることができ、塩酸塩としては、例えば塩酸ナトリウム、塩酸カリウム、塩酸バリウム、塩酸ナトリウム水和物、塩酸カリウム水和物、塩酸バリウム水和物などを用いることができ、リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸バリウム、リン酸ナトリウム水和物、リン酸カリウム水和物、リン酸バリウム水和物などを用いることができ、亜硫酸塩としては、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸バリウム、亜硫酸ナトリウム水和物、亜硫酸カリウム水和物、亜硫酸バリウム水和物などを用いることができ、亜硝酸塩としては、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸ナトリウム水和物、亜硝酸カリウム水和物、亜硝酸バリウム水和物などを用いることができ、ピロリン酸塩としては、例えばピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸バリウム、ピロリン酸ナトリウム水和物、ピロリン酸カリウム水和物、ピロリン酸バリウム水和物などを用いることができ、またサルチル酸塩としては、例えばサリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸バリウム、サリチル酸ナトリウム水和物、サリチル酸カリウム水和物、サリチル酸バリウム水和物などを用いることができる。
【0024】
上述したような無機化合物4に添加されるアニオン界面活性剤6としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム、アルキルリン酸カリウムのいずれか、或いはそれらの任意の二つ以上の混合物が好都合に用いることができ、このようなアニオン界面活性剤6は、上述した無機化合物4に対して核発生剤として有効に機能し、蓄熱材2として用いたときの過冷却現象の発生を抑える又はほとんど発生しないようにすることができる。
【0025】
このアニオン界面活性剤6の添加量は、無機化合物に対するアニオン界面活性剤の含有割合で0.0005〜5重量%であるのが好ましく、この添加量が5重量%より多いと、無機化合物の結晶化が妨げられて凝固しなくなり、この添加量が0.0005重量%より少ないと、アニオン界面活性剤6による過冷却防止効果が低下する。この添加量は、0.001〜1重量%であるのが更に好ましく、この範囲では、蓄熱材2の過冷却現象がほとんど発生しなくなり、蓄熱材2として優れたものを提供することができる。
【0026】
以上、本発明に従う蓄熱材の実施例について説明したが、本発明はかかる実施例に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【実施例】
【0027】
本発明に従う蓄熱材の効果を確認するために、次の通りの蓄熱材を調整して過冷却現象の発生程度を調べ、この過冷却現象の発生程度は、融点と凝固点との温度差を測定して行った。
【0028】
実施例1として、相変化物質の無機化合物としての酢酸ナトリウム三水和物5g(融点40℃)に、アニオン界面活性剤としてのドデシル硫酸ナトリウム(アルドリッチ株式会社製試薬)を所定量(無機化合物に対するアニオン界面活性剤の含有割合(重量%):0.0001重量%、0.0005重量%、0.001重量%、0.01重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.3重量%、0.5%重量%、1.0重量%、5重量%、10重量%)添加して蓄熱材を調整した。
【0029】
実施例2として、相変化物質の無機化合物としての硫酸ナトリウム十水和物5g(融点30℃)に、アニオン界面活性剤としてのドデシル硫酸ナトリウム(アルドリッチ株式会社製試薬)を所定量添加(0.0001重量%、0.0005重量%、0.001重量%、0.01重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.3重量%、0.5%重量%、1.0重量%、5重量%、10重量%)添加して蓄熱材を調整した。
【0030】
実施例3として、相変化物質の無機化合物としての酢酸ナトリウム三水和物5g(融点40℃)に、アニオン界面活性剤としてのドデシルリン酸ナトリウム(アルドリッチ株式会社製試薬)を所定量添加(0.0001重量%、0.0005重量%、0.001重量%、0.01重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.3重量%、0.5%重量%、1.0重量%、5重量%、10重量%)添加して蓄熱材を調整した。
【0031】
また、実施例4として、相変化物質の無機化合物としての硫酸ナトリウム十水和物5g(融点30℃)に、アニオン界面活性剤としてのドデシルリン酸ナトリウム(アルドリッチ株式会社製試薬)を所定量添加(0.0001重量%、0.0005重量%、0.001重量%、0.01重量%、0.05重量%、0.1重量%、0.3重量%、0.5%重量%、1.0重量%、5重量%、10重量%)添加して蓄熱材を調整した。
【0032】
比較のために、比較例1として、実施例1で無機化合物として用いた酢酸ナトリウム三水和物そのものを蓄熱材とした。また、比較例2として、実施例2で無機化合物として用いた硫酸ナトリウム十水和物そのものを蓄熱材とした。
【0033】
〔過冷却の程度の測定〕
実施例1〜4及び比較例1〜2の蓄熱材について、示差走査熱量計(株式会社島津製作所製)を用いて融点(T1)と凝固点(T2)との温度差(ΔT=T1ーT2)を測定した。この温度差(ΔT)が小さいほど融点(T1)を基準にして凝固点(T2)の低下が少なく、過冷却の程度が小さいとすることができる。
【0034】
この過冷却の程度の測定結果は、
図2に示す通りであった。
図2は、アニオン界面活性剤の添加割合(重量%)とこの温度差(ΔT=T1ーT2)との関係を示し、この
図2から明らかなように、相変化物質の無機化合物にアニオン界面活性剤を添加することで、蓄熱材の過冷却現象の発生を抑えることができ、特にアニオン界面活性剤の含有割合が0.001〜1重量%の範囲においてはこの温度差(ΔT)が小さく、過冷却現象がほとんど発生しないことがわかった。
【符号の説明】
【0035】
2 蓄熱材
4 無機化合物
6 アニオン界面活性剤
8 合成樹脂製袋