(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の第1実施形態から第5実施形態について詳細に説明する。これらの第1実施形態から第5実施形態に係る免震吊上装置は、吊荷の荷重により鉛直方向に移動可能な可動部材と、鉛直方向にこの可動部材に対向して設けられ、吊荷の荷重が掛かる所定のベース面に支持される支持部材と、前記可動部材と前記支持部材との間に配置される後記の付勢部材と、を有する衝撃緩衝機構(免震ユニット)を備えることを主な特徴とする。
本実施形態では、原子力発電所等の原子力施設で使用される天井クレーンを例にとって免震吊上装置を具体的に説明する。
なお、以下の説明において、上下方向は鉛直方向に一致させた
図1の上下方向を基準とする。
【0011】
(第1実施形態)
ここでは先ず免震吊上装置の全体構成について説明した後に衝撃緩衝機構としての免震ユニットについて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る免震吊上装置の斜視図である。
図2(a)は、
図1の免震吊上装置の構成を模式的に示す側面図であり、
図2(b)は、
図2(a)の吊策(ワイヤロープ)の掛け要領を模式的に示す斜視図である。
【0012】
なお、
図2(b)中の複数のシーブ同士の間隔、複数のシーブに架け渡される吊策の長さ、互いに隣接する吊策同士の距離、シーブから延出する吊策同士のなす角度等は、作図の便宜上、実際のものと相違している。また、
図2(b)中、吊策(ワイヤロープ)の数は、作図の便宜上、ドラムから延出する2本1組の吊策(ワイヤロープ)として描かれているが、実際にはドラムから延出する4本2組の吊策(ワイヤロープ)で構成されている。つまり、
図2(a)のフックシーブ側では4本掛けとなっているが、実際には8本掛けとなっている。しかしながら、この吊策の構成については特に限定されるものではなく、任意の構成とすることができる。
【0013】
<免震吊上装置の全体構成>
図1に示すように、本実施形態の免震吊上装置20は、図示しない原子炉建屋の建屋対向壁のそれぞれに沿って略水平に配置される一対の架台21と、この架台21上に設けられる走行レール22と、この走行レール22上を走行可能に設けられる一対のサドル23と、この一対のサドル23両端に渡し架けられてサドル23と枠体を形成する一対のガーダ24と、ガーダ24の延在方向に沿って設けられる横行レール25と、一対のガーダ24に渡し架けられるように配置され、横行レール25上を横行可能に設けられるトロリ26と、トロリ26に設けられる吊策巻き上げ機構としてのドラム27と、このドラム27によって巻き上げられるワイヤロープ、チェーン等の吊策28と、吊策28の下端に設けられる吊具10と、を主に備えて構成されている。
【0014】
図1中、矢印Xは、サドル23の走行方向であり、矢印Yは、トロリ26の横行方向であり、符号29は、吊具10を構成するフックであり、符号Cは、操縦室(運転席)である。
【0015】
図2(a)に示すように、免震吊上装置20のトロリ26は、前記したように、ガーダ24(
図1参照)の横行レール25上を図示しない横行装置で駆動する車輪13で横行方向Y(
図1参照)に横行可能になっている。
【0016】
トロリ26は、図示しない駆動装置で吊策28を巻き上げる前記ドラム27と、ヘッドシーブ9と、エコライザシーブ12とを備えている。
なお、エコライザシーブ12は、後に詳しく説明するように、衝撃緩衝機構としての免震ユニット1に取り付けられている。
【0017】
吊具10は、フック29と、フックシーブ11を備えている。
そして、ドラム27から延出する吊策28は、フックシーブ11、ヘッドシーブ9及びエコライザシーブ12に架け渡されている。本実施形態での吊策28としては、ワイヤロープを想定しているが、本発明での吊策28はこれに限定されるものではなくチェーン等で構成することもできる。
【0018】
図2(b)に示すように、ヘッドシーブ9は第1ヘッドシーブ9a及び第2ヘッドシーブ9bからなり、フックシーブ11は第1フックシーブ11a、第2フックシーブ11b、第3フックシーブ11c、及び第4フックシーブ11dからなっているが、これに限定されるものではない。
【0019】
ドラム27側から延出する2条の吊策28のうち、一方の吊策28は、第2フックシーブ11b、第1ヘッドシーブ9a、及び第1フックシーブ11aの順番に架け渡された後、エコライザシーブ12を介して、第4フックシーブ11d、第2ヘッドシーブ9b、及び第3フックシーブ11cの順番に架け渡されてから他方の吊策28としてドラム27に巻き取られている。つまり、免震吊上装置20は、ドラム27が2条の吊策28を巻き上げると、エコライザシーブ12でバランスを取りながら、4連のフックシーブ11a〜11dを備える吊具10(
図2(a)参照)を引き上げる構成となっている。なお、この免震吊上装置20においては、前記したように、
図2(b)には図示しない他の1組の2条の吊策についても、
図2(b)に示した2条の吊策28と同様に、他のフックシーブ(図示省略)、ヘッドシーブ(図示省略)及びエコライザシーブ(図示省略)に架け渡されている。
【0020】
<免震ユニット>
次に、衝撃緩衝機構としての免震ユニット1について説明する。
次に参照する
図3(a)は、
図2(a)中の衝撃緩衝機構としての免震ユニットの拡大図であり、
図3(b)は、
図3(a)のIIIb方向から見た免震ユニットの正面図である。なお、
図3(a)は、
図3(b)のA−A断面を表している。
【0021】
図2(a)に示すように、エコライザシーブ12が取り付けられる免震ユニット1は、トロリ26に規定される略水平のベース面30上に固定されている。このベース面30は、特許請求の範囲にいう「ベース面」であり、このベース面30には、吊具10に吊るされる図示しない吊荷の荷重が、吊策28、エコライザシーブ12及び免震ユニット1を介して掛かることとなる。
【0022】
図3(a)及び(b)に示すように、免震ユニット1は、固定フレーム2と、可動フレーム7と、圧縮コイルばね6と、破断ピン8と、を主に備えて構成されている。
なお、圧縮コイルばね6は、特許請求の範囲にいう「付勢部材」に相当する。
【0023】
固定フレーム2は、トロリ26の所定のベース面30(
図2(a)参照)に支持される略矩形の支持板31と、この支持板31の両端に立設される一対のばね軸3と、この一対のばね軸3よりも内側で支持板31に立設される一対の固定側連結部材32と、を主に備えて構成されている。なお、支持板31は、特許請求の範囲にいう「支持部材」に相当する。また、
図3(b)中、符号31aは吊策28に対する支持板31の干渉を防止するための支持板31の切欠部である。
【0024】
ばね軸3は、圧縮コイルばね6の内側に挿通され、圧縮コイルばね6を支持板31と次に説明する可動フレーム7の可動板33との間に保持すると共に、上下に(鉛直方向に)移動する可動板33を案内するものである。
このばね軸3の先端には、ストッパ5が取り付けられている。このストッパ5は、ばね軸3から圧縮コイルばね6及び可動板33が抜け出るのを防止するものである。
【0025】
固定側連結部材32の先端部には、ピン孔34が形成されている。
可動フレーム7は、可動板33と、この可動板33に立設される一対の可動側連結部材36と、を主に備えて構成されている。なお、可動板33は、特許請求の範囲にいう「可動部材」に相当する。
【0026】
可動板33は、支持板31と略同じ平面形状を有しており、本実施形態での可動板33は、支持板31と同じ矩形に形成されている。この可動板33は、固定フレーム2の支持板31と対向するように配置され、ばね軸3に対応する位置には、ばね軸3を挿通させる挿通孔36aが形成されている。
【0027】
可動板33の挿通孔36aにばね軸3が挿通されて、可動板33と支持板31とが向き合うように配置された際に、可動側連結部材36の先端部と固定側連結部材32の先端部とは、互いに重なり合うようになっている。さらに詳しくは、一対の可動側連結部材36の各先端部は、一対の固定側連結部材32の各先端部の内側に位置することで、固定側連結部材32の各先端部に挟まれるように配置されることとなる。
【0028】
固定側連結部材32の先端部に設けられたピン孔34の位置に対応する、可動側連結部材36の先端部の位置には、ピン孔34と同径のピン孔35が形成されている。そして、互いに位置合わせされたピン孔34,35には、破断ピン8が挿通される。ちなみに、この破断ピン8は、所定値以上の荷重が負荷されると破断するようになっており、特許請求の範囲にいう「リミッタ」に相当する。
【0029】
可動側連結部材36のピン孔35よりも先端には、一対の可動側連結部材36に架け渡されるように回転軸部材37が配置されている。この回転軸部材37には、この回転軸部材37周りに回動可能にシーブ支持部材38が取り付けられる。
ちなみに、本実施形態でのシーブ支持部材38は、平面形状が矩形の板体で形成され、その一端縁が回転軸部材37に取り付けられている。
【0030】
エコライザシーブ12は、回転軸39を介してシーブ支持部材38に回転可能に取り付けられている。
このように可動側連結部材36に取り付けられるシーブ支持部材38は、エコライザシーブ12に掛けられる吊策28の張力方向に応じて回転軸部材37周りに回動自在となっている。
【0031】
<免震吊上装置の動作>
次に、本実施形態に係る免震吊上装置20の動作を説明しつつその作用効果について説明する。
図1に示す操縦室Cのオペレータは、吊具10が目的の吊荷(図示省略)の上方に位置するように、走行レール22上のサドル23を走行方向Xに移動させると共に、横行レール25上のトロリ26を横行方向Yに移動させる。
【0032】
次いで、操縦室Cのオペレータが、
図2(a)及び(b)に示す吊策28がドラム27から繰り出されるようにドラム27を回転させると、ヘッドシーブ9とフックシーブ11との間に架け渡された吊策28の長さが長くなることで、吊具10はトロリ26から離れるように吊荷のある下方に降りていく。
そして、たま掛け作業員による吊具10への吊荷の取付作業が完了すると、操縦室Cのオペレータは、ドラム27を逆回転させることで吊策28を巻き上げると、ヘッドシーブ9とフックシーブ11との間に架け渡された吊策28の長さが短くなることで、吊荷は吊具10とともにトロリ26に向かって上方に昇っていく。
【0033】
その後、操縦室Cのオペレータは、吊荷が目的の場所まで搬送されるように、走行レール22上のサドル23を走行方向Xに移動させると共に、横行レール25上のトロリ26を横行方向Yに移動させる。そして、再び吊策28がドラム27から繰り出されるようにドラム27を回転させて吊荷を下方に降ろして通常運転時における免震吊上装置20の動作が終了する。
【0034】
このような通常運転時における免震吊上装置20の免震ユニット1は、
図3(b)に示すように、固定フレーム2の固定側連結部材32と可動フレーム7の可動側連結部材36とは、破断ピン8で互いに連結されている。
これによりエコライザシーブ12に掛かる吊荷の荷重は、シーブ支持部材38、回転軸部材37、可動側連結部材36、破断ピン8、固定側連結部材32、及び支持板31を介して、トロリ26のベース面30に掛かることとなる。
【0035】
これに対して、吊荷を取り付けた吊具10に所定値以上の衝撃荷重を発生させるような大きな地震発生時には、通常運転時と比較して予期し得ない大きさで吊策28に張力が生じる場合がある。
【0036】
図3(b)に示す固定側連結部材32と可動側連結部材36とを連結する破断ピン8は、前記したように、所定値を超える荷重が負荷されると破断する。例えば、大きな地震が発生することによって、
図3(b)に示す吊策28に所定値を超える張力が発生すると、
図3(b)に示すエコライザシーブ12に掛かる荷重によって破断ピン8が破断する。
【0037】
次に参照する
図4は、
図3(b)中のリミッタとしての破断ピンが破断した様子を示す免震ユニットの正面図である。
図4に示すように、破断ピン8が破断すると、吊策28に掛かる張力によって可動側連結部材36及び可動板33は下方に移動する。この際、その挿通孔36aにばね軸3が挿通される可動板33は、圧縮コイルばね6の弾発力に抗しながらばね軸3に案内されて下方に移動する。
これにより吊策28を介してエコライザシーブ12に掛かる荷重は、前記の通常運転時とは異なって、シーブ支持部材38、回転軸部材37、可動側連結部材36、可動板33、圧縮コイルばね6、及び支持板31を介して、トロリ26(
図2(a)参照)のベース面30に掛かることとなる。
【0038】
以上のような本実施形態の免震吊上装置20によれば、例えば大きな地震が発生することによって、吊荷を取り付けた吊具10に所定値以上の衝撃荷重を発生した際に、前記のとおり破断ピン8が破断することによって係る衝撃荷重の一部が吸収される。次いで、破断ピン8が破断することでエコライザシーブ12が下方に移動する際に、可動板33は、圧縮コイルばね6の弾発力に抗しながらばね軸3に案内されて下方に移動するので、衝撃荷重の一部は更に吸収される。
【0039】
そして、エコライザシーブ12に掛かる荷重は、トロリ26のベース面30に対して免震ユニット1を圧縮する方向に掛かるので、前記の固定側連結部材32、可動側連結部材36、可動板33、ばね軸3、圧縮コイルばね6等の免震ユニット1の構成要素が圧縮変形することによっても衝撃荷重の一部は更に吸収される。
これにより本実施形態の免震吊上装置20は、喩え天井クレーン等の大型の吊上装置に適用したとしても吊荷に発生する衝撃荷重を免震ユニット1が効率よく吸収することによって、構造部材の破損を防ぎ、吊荷の落下等をより確実に防止することができる信頼性の高い免震構造を有することとなる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る免震吊上装置20について説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る免震吊上装置の免震ユニットを模式的に示す側面図である。なお、本実施形態において前記第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0041】
前記第1実施形態(
図3(b)参照)では、エコライザシーブ12に免震ユニット1を適用する構成となっているが、第2実施形態では、
図5に示すように、ヘッドシーブ9に免震ユニット1を適用する構成となっている。
なお、
図5には、作図の便宜上、1つのヘッドシーブ9のみ描いているが、
図2(b)に示す掛け要領に基づいて説明すると、両方のヘッドシーブ9a,9bのそれぞれに免震ユニット1が適用される免震吊上装置20が望ましい。しかしながら、複数のヘッドシーブ9を有する免震吊上装置20においては、少なくもと1つのヘッドシーブ9に免震ユニット1が適用される構成であればよい。
【0042】
図5中、符号6は、圧縮コイルばねであり、符号8は、破断ピンであり、符号12は、エコライザシーブであり、符号13は、車輪であり、符号25は、横行レールであり、符号26は、トロリであり、符号28は、吊策であり、符号30は、トロリ26のベース面であり、符号31は、支持板であり、符号33は、可動板である。
【0043】
以上のような第2実施形態に係る免震吊上装置20によれば、ヘッドシーブ9から鉛直方向の下方に延在する吊策28を介して吊具10(
図2(a)参照)が吊り下げられる構造となるので、吊荷に発生する衝撃荷重を免震ユニット1が最も効率よく吸収することができる。
【0044】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る免震吊上装置20について説明する。
図6は、本発明の第3実施形態に係る免震吊上装置の免震ユニットを模式的に示す側面図である。なお、本実施形態において前記第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
前記第1実施形態(
図3(b)参照)では、エコライザシーブ12に免震ユニット1を適用する構成となっていたが、第3実施形態では、
図6に示すように、吊具10のフックシーブ11に免震ユニット1を適用する構成となっている。
【0045】
第3実施形態での免震ユニット1は、前記の第1実施形態での免震ユニット1と異なって、その上下が逆になるように(その天地が入れ替わるように)ケーシング40内に配置されている。つまり、支持板31が上側に配置され、可動板33が下側に配置されている。
そして、支持板31の縁部は、ケーシング40の上部開口周りに固定されている。さらに詳しくは、ケーシング40の上部開口の開口縁部の裏側面40aに支持板31の縁部が固定されている。この裏側面40aは、特許請求の範囲にいう「ベース面」に相当する。
可動板33の縁部は、ケーシング40の内壁に設けられたフランジ部40bの上面に離反可能に当接している。
なお、
図6には、作図の便宜上、1つのフックシーブ11のみ描いているが、
図2(b)に示す掛け要領に基づいて説明すると、第1から第4までのフックシーブ11a〜11dのそれぞれに免震ユニット1が適用される免震吊上装置20が望ましい。しかしながら、複数のフックシーブ11を有する免震吊上装置20においては、少なくもと1つのフックシーブ11に免震ユニット1が適用される構成であればよい。
【0046】
このような第3実施形態に係る免震吊上装置20によれば、フック29に吊荷(図示省略)が取り付けられた状態で下方への衝撃荷重が生じた際に、この衝撃荷重は、前記開口縁部の裏側面40aを介して支持板31の縁部に作用する。これにより、固定側連結部材32には、支持板31を介して下方への衝撃荷重が伝達される。一方、可動側連結部材36は、フックシーブ11、及びシーブ支持部材38を介して吊策28に吊り下げられている。よって、前記の衝撃荷重が所定値よりも大きいと破断ピン8が破断する。そして、可動板33は、圧縮コイルばね6の弾発力に抗して支持板31に向かって移動する。これにより、本実施形態に係る免震吊上装置20は、第1実施形態及び第2実施形態に係る免震吊上装置20と同様に、喩え天井クレーン等の大型の吊上装置に適用したとしても吊荷に発生する衝撃荷重を免震ユニット1が効率よく吸収することによって、構造部材の破損を防ぎ、吊荷の落下等をより確実に防止することができる信頼性の高い免震構造を有することとなる。
また、第3実施形態に係る免震吊上装置20によれば、トロリ26側の構造を変更することなく、吊具10側の構造を変更することで前記の信頼性の高い免震構造を形成することができるので免震吊上装置20の製造コストを低減することができる。
【0047】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る免震吊上装置20について説明する。
図7は、本発明の第4実施形態に係る免震吊上装置20の免震ユニットを模式的に示す側面図である。
図8(a)は、
図7中の衝撃緩衝機構としての免震ユニット1aの拡大図であり、右半分が中心軸を通る断面で表されている半断面図、
図8(b)は、
図8(a)の免震ユニット1aの組立図である。なお、本実施形態において前記第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0048】
前記第1実施形態から前記第3実施形態では、吊策28を架け渡すシーブ、つまりエコライザシーブ12、ヘッドシーブ9、及びフックシーブ11に免震ユニット1を適用する構成となっていたが、第4実施形態では、
図7に示すように、トロリ26に免震ユニット1を適用する構成となっている。
【0049】
図7に示すように、第4実施形態に係る免震吊上装置20で使用されるトロリ26は、車輪13の駆動装置を備えるトロリ下部26aと、ドラム27の駆動装置を備えるトロリ上部26bとに分かれて構成されている。
そして、トロリ下部26aとトロリ上部26bとの間には、次に説明する免震ユニット1aが配置されている。なお、
図7中、符号9は、ヘッドシーブであり、符号10は、吊具であり、符号11は、フックシーブであり、符号12は、エコライザシーブであり、符号25は、横行レールであり、符号27は、ドラムであり、符号28は、吊策であり、符号29は、フックであり、符号30は、次に説明する免震ユニット1aの支持板31(
図8(a)参照)を固定するための、トロリ下部26aの上面の適所に規定された略水平のベース面である。
【0050】
図8(a)に示すように、第4実施形態で使用される免震ユニット1aは、固定フレーム2と、可動フレーム7と、圧縮コイルばね6と、破断ピン8と、を主に備えて構成されている。
なお、圧縮コイルばね6は、特許請求の範囲にいう「付勢部材」に相当する。
【0051】
固定フレーム2は、トロリ26の所定のベース面30(
図7参照)に支持される略円形の支持板31と、この支持板31の中央部に立設されるばね軸3と、このばね軸3を内包するように支持板31に立設される円筒形状の固定側連結部材32と、を主に備えて構成されている。なお、支持板31は、特許請求の範囲にいう「支持部材」に相当する。
【0052】
ばね軸3は、圧縮コイルばね6の内側に挿通され、圧縮コイルばね6を支持板31と次に説明する可動フレーム7の可動板33との間に保持すると共に、上下に(鉛直方向に)移動する可動板33を案内するものである。
このばね軸3の先端には、ストッパ5が取り付けられている。このストッパ5は、ばね軸3から圧縮コイルばね6及び可動板33が抜け出るのを防止するものである。
【0053】
可動フレーム7は、可動板33と、この可動板33に立設される円筒形状の可動側連結部材36と、を主に備えて構成されている。なお、可動板33は、特許請求の範囲にいう「可動部材」に相当する。
【0054】
可動板33は、支持板31と略同じ平面形状を有しており、本実施形態での可動板33は、支持板31と同じ円形に形成されている。この可動板33は、固定フレーム2の支持板31と対向するように配置され、ばね軸3に対応する位置には、ばね軸3を挿通させる挿通孔36aが形成されている。なお、
図8(a)中、符号8は、リミッタとしての破断ピンである。
【0055】
このような免震ユニット1aの組み立ては、
図8(b)に示すように、固定フレーム2のばね軸3を圧縮コイルばね6内に挿嵌した後、固定側連結部材32の先端部に、可動側連結部材36の先端部を内嵌し、ばね軸3の先端部を可動板33の挿通孔36aに挿通する。
そして、固定側連結部材32に形成されたピン孔34と、可動側連結部材36に形成されたピン孔35を位置合わせし、これらのピン孔34,35に破断ピン8を挿嵌する。その後、ばね軸3の先端にストッパ5を取り付けて、
図8(a)に示す免震ユニット1aが完成する。なお、
図8(b)中、符号31は、支持板である。
【0056】
このような免震ユニット1aは、支持板31がトロリ下部26aの適所に規定されたベース面30(
図7参照)に固定される。また、可動板33はトロリ上部26bの適所に固定される。
【0057】
そして、通常運転時における免震吊上装置20の免震ユニット1は、
図8(a)に示すように、固定フレーム2の固定側連結部材32と可動フレーム7の可動側連結部材36とが破断ピン8で互いに連結されている。
これにより吊具10に取り付けられる吊荷の荷重は、フックシーブ11及び吊策28、並びにドラム27、ヘッドシーブ9及びエコライザシーブ12を介してトロリ上部26bに伝達される。そして、トロリ上部26bは、免震ユニット1aを介して荷重をトロリ下部26aに伝達する。更に詳しく説明すると、この荷重は、可動板33、可動側連結部材36、破断ピン8、固定側連結部材32、及び支持板31を介して、トロリ下部26aのベース面30に掛かることとなる。
【0058】
これに対して、吊荷を取り付けた吊具10に所定値以上の衝撃荷重を発生させるような大きな地震発生時には、破断ピン8が破断する。その結果、可動板33は、圧縮コイルばね6の弾発力に抗しながらばね軸3に案内されて下方に移動する。
これにより可動板33に掛かる荷重は、前記の通常運転時とは異なって、圧縮コイルばね6及び支持板31を介して、トロリ下部26aのベース面30に掛かることとなる。
【0059】
以上のような本実施形態の免震吊上装置20によれば、例えば大きな地震が発生することによって、吊荷を取り付けた吊具10に所定値以上の衝撃荷重を発生した際に、前記のとおり破断ピン8が破断することによって係る衝撃荷重の一部が吸収される。次いで、破断ピン8が破断することで、可動板33が圧縮コイルばね6の弾発力に抗しながらばね軸3に案内されて下方に移動するので衝撃荷重の一部は更に吸収される。
【0060】
そして、可動板33に掛かる荷重は、トロリ下部26aのベース面30に対して免震ユニット1aを圧縮する方向に掛かるので、前記の固定側連結部材32、可動側連結部材36、ばね軸3、圧縮コイルばね6等の免震ユニット1aの構成要素が圧縮変形することによっても衝撃荷重の一部は更に吸収される。
【0061】
これにより本実施形態の免震吊上装置20は、喩え天井クレーン等の大型の吊上装置に適用したとしても吊荷に発生する衝撃荷重を免震ユニット1aが効率よく吸収することによって、吊荷の落下等をより確実に防止することができる信頼性の高い免震構造を有することとなる。
【0062】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る免震吊上装置20について説明する。
図9は、本発明の第5実施形態に係る免震吊上装置の免震ユニットを模式的に示す側面図である。なお、本実施形態において前記第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0063】
前記第4実施形態では、免震ユニット1aがトロリ下部26aと、トロリ上部26bとの間に配置される構成となっているが、この第5実施形態に係る免震吊上装置20では、車輪13の軸受を備えるピローブロック13aと、トロリ26の適所に規定されるベース面30との間に免震ユニット1aを介在させた構成となっている。
【0064】
この第5実施形態での免震ユニット1aは、前記第4実施形態での免震ユニット1aと異なって、その上下が逆になるように(その天地が入れ替わるように)、ピローブロック13aとベース面30との間に配置されている。
また、本実施形態でのベース面30は、前記第4実施形態でのベース面30とは異なって、下向きの略水平面で形成されている。
【0065】
この第5実施形態に係る免震吊上装置20によれば、前記第4実施形態と同様に、吊荷を取り付けた吊具10に所定値以上の衝撃荷重を発生した際に、破断ピン8(
図8(a)参照)が破断し、可動板33が圧縮コイルばね6の弾発力に抗しながらばね軸3に案内されて下方に移動することで衝撃荷重を吸収することができる。また、トロリ26のベース面30に対して免震ユニット1aが圧縮される方向に荷重が掛かるので、免震ユニット1aの構成要素が圧縮変形することによっても衝撃荷重の一部は更に吸収される。
また、第5実施形態に係る免震吊上装置20によれば、前記第4実施形態と異なって、トロリ26をトロリ下部26aとトロリ上部26bとに分ける必要がないので構造が簡素化されて製造コストを低減することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記第1実施形態から前記第3実施形態では、エコライザシーブ12、ヘッドシーブ9及びフックシーブ11のいずれかに免震ユニット1を適用する構成について説明したが、本発明はエコライザシーブ12及びヘッドシーブ9のそれぞれに免震ユニット1を適用する構成、エコライザシーブ12及びフックシーブ11のそれぞれに免震ユニット1を適用する構成、ヘッドシーブ9及びフックシーブ11のそれぞれに免震ユニット1を適用する構成、並びにエコライザシーブ12、ヘッドシーブ9及びフックシーブ11のそれぞれに免震ユニット1を適用する構成とすることができる。
【0067】
前記第4実施形態では、トロリ下部26aに規定したベース面30とトロリ上部26bとの間に免震ユニット1aを介在させる構成について説明し、前記第5実施形態では、トロリの下部26aに規定したベース面と車輪13のピローブロック13aとの間に免震ユニット1aを介在させる構成について説明したが、本発明はこれらを組み合わせた構成とすることができる。また、本発明は、このようなトロリ26内に免震ユニット1aを設ける構成に、前記のエコライザシーブ12、ヘッドシーブ9、フックシーブ11等に免震ユニット1を適用する構成を組み合わせることもできる。
【0068】
また、前記実施形態では、リミッタとしての破断ピン8について説明したが、本発明でのリミッタはこれに限定されるものではなく固定側連結部材32と可動側連結部材36との少なくともいずれかに切り欠き等を形成して構成することもできる。
【0069】
また、本発明は、第1実施形態から前記第5実施形態における免震ユニット1,1aをエコライザシーブ12、ヘッドシーブ9、フックシーブ11、トロリ26等に適用する構成に加えて、前記破断ピン8の破断後に圧縮コイルばね6の伸縮運動(振動)を減衰させる減衰機構を更に有する構成とすることもできる。このような減衰機構としては、特に制限はなく公知のオイルダンパ等を好適に使用することができる。
【0070】
また、前記実施形態での吊策28は、多条掛けのものを想定しているが、本発明は吊策構成を特に限定するものではなく任意の吊策構成を採用することができる。