特許第6045961号(P6045961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6045961
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】水晶発振器及び発振装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20161206BHJP
   H03L 1/02 20060101ALI20161206BHJP
   H03L 7/08 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H03B5/32 A
   H03L1/02
   H03L7/08 210
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-74573(P2013-74573)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-168220(P2014-168220A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2015年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-17581(P2013-17581)
(32)【優先日】2013年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】赤池 和男
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−170050(JP,A)
【文献】 特開平04−068903(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0184819(US,A1)
【文献】 特開昭56−043806(JP,A)
【文献】 特開平4−363913(JP,A)
【文献】 特開2001−292030(JP,A)
【文献】 特開2007−251366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/32
H03L 1/02
H03L 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器出力用の水晶振動子に接続された発振器出力用の発振回路と、
温度検出用の第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
前記各水晶振動子が置かれる雰囲気の温度の一定化を図るための加熱部と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準温度における第1の発振回路の発振周波数をf1r、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準温度における第2の発振回路の発振周波数をf2rとすると、
前記f1とf2との一方により他方をラッチしたタイミングでパルスを出力するパルス作成部と、前記パルスの列に基づいてPLLにより、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する直流電圧を温度検出値として求める周波数差検出部と、
水晶振動子が置かれる雰囲気の温度の温度設定値と前記温度検出値との偏差分を取り出す加算部と、
この加算部にて取り出された偏差分に基づいて前記加熱部に供給される電力を制御する加熱電力制御用の回路部と、
前記パルスの列における設定時間内の周波数が検出範囲内、高温側の検出範囲外及び低温側の検出範囲外のいずれに含まれるかを判定する判定部と、
前記パルスの列における設定時間内の周波数が高温側の検出範囲外にあれば、前記加熱部に供給される電力が前記検出範囲内における供給電力よりも小さくなる制御信号を選択し、低温側の検出範囲外にあれば、前記加熱部に供給される電力が事前に設定された大きさとなる制御信号を選択するための信号選択部と、を備えたことを特徴とする水晶発振器。
【請求項2】
前記周波数差検出部は、
前記f1とf2との一方により他方をラッチしたタイミングでパルスを出力するパルス作成部と、入力された直流電圧の大きさに応じた周波数で時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号を出力するDDS回路部と、このDDS回路部から出力された周波数信号を前記パルス作成部にて作成されたパルスによりラッチするラッチ回路と、このラッチ回路にてラッチされた信号値を積分してその積分値を前記差分値に対応する値として出力するループフィルタと、このループフィルタの出力とf1rとf2rとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部に入力値とする加算部と、備えたことを特徴とする請求項1に記載の水晶発振器。
【請求項3】
前記加熱部に供給される電力が前記検出範囲内における供給電力よりも小さくなる制御信号は、前記加熱部に供給される電力がゼロとなる制御信号であることを特徴とする請求項1または2記載の水晶発振器。
【請求項4】
前記加熱部に供給される電力が事前に設定された大きさとなる制御信号は、前記加熱部に供給される電力が最大値であるかまたは最大値付近であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水晶発振器。
【請求項5】
前記発振器出力用の発振回路と前記第1の発振回路及び第2の発振回路の一方とが共用されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の水晶発振器。
【請求項6】
請求項1に記載した水晶発振器と、この水晶発振器の発振出力をクロック信号とし、PLLを含む発振装置の本体回路部と、を備えたことを特徴とする発振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子が置かれる雰囲気の温度を検出し、温度の検出結果に基づいて加熱部を制御して前記雰囲気の温度を一定にする水晶発振器及びこの水晶発振器を用いた発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶発振器は、極めて高い周波数安定度が要求されるアプリケーションに組み込まれる場合には、通常OCXO(oven controlled crystal oscillator)が一般的に用いられている。OCXOにおける温度制御は、サーミスタを温度検出器として用い、オペアンプ、抵抗、コンデンサなどのディスクリート部品を用いて構成されていたが、アナログ部品の個々のばらつきや経年変化により、例えば±20m℃もの温度制御を行うことはできなかった。
【0003】
しかしながら基地局や中継局などにおいて、極めて高い安定度のクロック信号を安価に用いることが要求されており、このため従来のOCXOでは対応が困難な状況が予想される。
特許文献1には、2つの水晶振動子の発振周波数差に応じた値を温度検出値として捉え、この温度検出値により発振装置の設定周波数を補正するTCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)が記載されている。この手法は、温度検出に基づいて発振周波数を補正するTCXO(temperature compensated crystal oscillator)に関するものであり、OCXOに関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−170050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、水晶振動子が置かれる雰囲気の温度を検出し、温度の検出結果に基づいて加熱部を制御して前記雰囲気の温度を一定にする水晶発振器(OCXO)において、周波数の安定度の高い発振出力を得ることができ、しかも水晶振動子の歩留まりの低下を抑えることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水晶発振器は、
発振器出力用の水晶振動子に接続された発振器出力用の発振回路と、
温度検出用の第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子に夫々接続された第1の発振回路及び第2の発振回路と、
前記各水晶振動子が置かれる雰囲気の温度の一定化を図るための加熱部と、
第1の発振回路の発振周波数をf1、基準温度における第1の発振回路の発振周波数をf1r、第2の発振回路の発振周波数をf2、基準温度における第2の発振回路の発振周波数をf2rとすると、
前記f1とf2との一方により他方をラッチしたタイミングでパルスを出力するパルス作成部と、前記パルスの列に基づいてPLLにより、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する直流電圧を温度検出値として求める周波数差検出部と、
水晶振動子が置かれる雰囲気の温度の温度設定値と前記温度検出値との偏差分を取り出す加算部と、
この加算部にて取り出された偏差分に基づいて前記加熱部に供給される電力を制御する加熱電力制御用の回路部と、
前記パルスの列における設定時間内の周波数が検出範囲内、高温側の検出範囲外及び低温側の検出範囲外のいずれに含まれるかを判定する判定部と、
前記パルスの列における設定時間内の周波数が高温側の検出範囲外にあれば、前記加熱部に供給される電力が前記検出範囲内における供給電力よりも小さくなる制御信号を選択し、低温側の検出範囲外にあれば、前記加熱部に供給される電力が事前に設定された大きさとなる制御信号を選択するための信号選択部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、水晶振動子が置かれる雰囲気の温度を検出し、温度の検出結果に基づいて加熱部を制御して前記雰囲気の温度を一定にする水晶発振器(OCXO)であって、2つの水晶振動子の発振周波数の差分に対応する値を温度検出値として取り扱う装置を対象としている。そして一方の水晶振動子の発振周波数を他方の水晶振動子の発振周波数によりラッチして得られたパルスの列をPLLに取り込んで温度検出値を生成している。このような回路において、前記パルスの列の設定時間における周波数がPLLに引き込めるか否かを判定し、パルスの列における設定時間内の周波数が高温側の検出範囲外にあれば、加熱部に供給される電力を例えばゼロとし、低温側の検出範囲外にあれば、前記電力を例えば最大値にしている。
【0008】
従って、温度検出値が不定値になると正常なヒータ制御が行われなくなるという課題を解決でき、周波数の安定度の高い発振出力を得ることができる。このことは、第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子の各々に対する周波数−温度特性の要求を緩和できることにつながり、結果として水晶振動子の歩留まりの低下が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態の一部を示すブロック図である。
図3図2に示す一部の出力の波形図である。
図4図2に示す、DDS回路部を含むループにおいてロックしていない状態を模式的に示す各部の波形図である。
図5図2に示す、DDS回路部を含むループにおいてロックしている状態を模式的に示す各部の波形図である。
図6】上記の実施形態に対応する実際の装置について前記ループにおける各部の波形図である。
図7】第1の発振回路の周波数f1及び第2の発振回路の周波数f2と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
図8】f1の変化率及びf2の変化率の各々を基準温度における値で正規化した値と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
図9図8に示すOSC1とOSC2との差分と温度との関係を示す周波数温度特性図である。
図10】周波数差検出部のディジタル出力値と温度との関係を示す特性図である。
図11】加熱部をなすヒータ回路を示す回路図である。
図12】上記実施形態にかかる発振装置の構造を示す概略縦断側面図である。
図13】第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子の各周波数温度特性の一例を示す特性図である。
図14】第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子の各周波数温度特性の一例を示す特性図である。
図15】周波数検出部のPLLに入力される信号に対応する値と、PLLから取り出されるディジタル値との対応関係を示すグラフ、及び前記グラフとヒータ制御との関係を示す説明図である。
図16】検出範囲外判定部の詳細を示す回路図である。
図17】前記PLLに挿入された論理回路を示す回路図である。
図18図16に示す検出範囲外判定部の各部の信号または値を示すタイムチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
本発明の実施形態の詳細を説明する前に、この実施形態の概略を簡単に述べておく。図1にて符号200にて示す部分は、この明細書では制御回路部と呼ぶが、実際には一般的にPLLを利用した発振機能を有する回路である。符号201はPLLに用いられるリファレンス信号を出力するDDS(Direct Digital Synthesizer)である。
このDDSを動作させるためのクロック信号は、図1にて符号1で示す第1の発振回路の発振出力が用いられる。従って結果として電圧制御発振器100からの出力(この出力がこの例では製品である発振出力に相当する)を安定させるためには、前記クロック信号を安定させることが必要である。
【0011】
そこで、第1の発振回路1の発振出力を安定させるために、ヒータ回路5を用いて水晶振動子10の雰囲気温度を一定化するようにしている。ヒータ回路5の発熱量を制御するための温度検出信号としては、2つの水晶振動子10及び20の発振周波数の差分に相当する値とが温度との関係を事前に把握しておくことで、この差分に相当する値を用いている。
【0012】
前記発振周波数の差分に相当する値については後述するが、用語の煩雑さを避けるために、この値を求める部分を周波数差検出部3という用語を用いている。なお、この実施形態では、温度検出信号に相当する周波数差検出部3の出力ΔFを、ヒータ回路5の制御に用いるだけにとどまらず、電圧制御発振器100の出力周波数の設定値に相当する周波数設定値の補正に利用している。前記周波数設定値はコンピュータがメモリ30内のデータを読み出して出力される。従って、この実施形態の発振装置は、OCXOの機能とTCXOの機能とを備えていることになる。なお、本発明は、TCXOの機能を備えていない場合にも適用できる。
【0013】
そしてこの実施形態は、周波数差検出部3にて温度検出信号に相当する既述のΔFを生成するにあたり、第1の発振回路1の発振周波数と第2の発振回路2の発振周波数との差が周波数差検出部3における検出範囲に入っているか否かを判定して、適切な対応をとる回路部分を備えている。この回路部分は、図1では検出範囲外判定部5及びセレクタ7に相当する。
【0014】
[実施形態の全体説明]
次に本発明の実施形態の全体を詳しく説明する。図1は本発明の実施形態にかかる水晶発振器を適用して構成した発振装置の全体を示すブロック図である。この発振装置は、設定された周波数の周波数信号を出力する周波数シンセサイザとして構成され、水晶振動子を用いた電圧制御発振器100と、この電圧制御発振器100におけるPLLを構成する制御回路部200と、前記PLLの参照信号を生成するためのDDS201を動作させるためのクロック信号を生成する水晶発振器(符号は付していない)と、この水晶発振器における水晶振動子10、20の置かれる雰囲気の温度を調整するための加熱部であるヒータ5と、を備えている。
【0015】
またこの発振装置は、制御回路部200に入力される基準クロックの温度補償を行う温度補償部も備えている。温度補償部については符号を付していないが、図1における制御回路部200よりも左側部分に相当し、前記ヒータ5を制御するための回路部分と共用化している。
制御回路部200は、DDS回路部201から出力するリファレンス(参照用)クロックと、電圧制御発振器100の出力を分周器204で分周したクロックの位相とを位相周波数比較部205にて比較し、その比較結果である位相差がチャージポンプ204によりアナログ化される。アナログ化された信号はループフィルタ206に入力され、PLL(Phase locked loop)が安定するように制御される。従って制御回路部200は、PLL部であると言うこともできる。ここでDDS回路部201は、後述の第1の発振回路1から出力される周波数信号を基準クロックとして用い、目的とする周波数の信号を出力するための周波数データ(ディジタル値)が入力されている。
【0016】
しかし前記基準クロックの周波数が温度特性をもっているため、この温度特性をキャンセルするためにDDS回路部201に入力される前記周波数データに後述の周波数補正値に対応する信号を加算部60にて加算している。DDS回路部201に入力される周波数データを補正することで、基準クロックの温度特性変動分に基づくDDS回路部201の出力周波数の温度変動分がキャンセルされ、結果として温度変動に対して参照用クロックの周波数が安定し、以って電圧制御発振器100からの出力周波数が安定することになる。
【0017】
この実施の形態は、以下に述べるように基準クロックを作成する水晶発振器がOCXOとして構成されており、このため基準クロックの周波数は安定しているので、当該基準クロックの温度特性は見えてこないといえる。しかしヒータの不具合などが起こったときには、基準クロックの温度特性変動分に基づくDDS回路部201の出力周波数の温度変動分を補償するように構成しておくことにより、極めて信頼性の高い周波数シンセサイザを構成することができる利点がある。
【0018】
次に本発明の水晶発振器に相当するOCXOの部分について説明する。この水晶発振器は、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を備えており、これら第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は、共通の水晶片Xbを用いて構成されている。即ち例えば短冊状の水晶片Xbの領域を長さ方向に2分割し、各分割領域(振動領域)の表裏両面に励振用の電極を設ける。従って一方の分割領域と一対の電極11、12とにより第1の水晶振動子10が構成され、他方の分割領域と一対の電極21、22とにより第2の水晶振動子20が構成される。このため第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は熱的に結合されたものということができる。水晶片Xbとしてはこの例ではATカットが用いられている。
【0019】
第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20には夫々第1の発振回路1及び第2の発振回路2が接続されている。これら発振回路1、2の出力は、いずれについても例えば水晶振動子10、20のオーバートーン(高調波)であってもよいし、基本波であってもよい。オーバートーンの出力を得る場合には、例えば水晶振動子と増幅器とからなる発振ループ内にオーバートーンの同調回路を設けて、発振ループをオーバートーンで発振させてもよい。あるいは発振ループについては基本波で発振させ、発振段の後段、例えばコルピッツ回路の一部である増幅器の後段にC級増幅器を設けてこのC級増幅器により基本波を歪ませると共にC級増幅器の後段にオーバートーンに同調する同調回路を設けて、結果として発振回路1、2からいずれも例えば3次オーバートーンの発振周波数を出力するようにしてもよい。
【0020】
ここで便宜上、第1の発振回路1から周波数f1の周波数信号が出力され、第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が出力されるものとすると、周波数f1の周波数信号は、前記制御回路部200に基準クロックとして供給される。3は周波数差検出部であり、この周波数差検出部3は概略的な言い方をすれば、f1とf2との差分と、Δfrとの差分である、f2−f1−Δfrを取り出すための回路部である。Δfrは、基準温度例えば25℃におけるf1(f1r)とf2(f2r)との差分である。f1とf2との差分の一例を挙げれば、例えば数MHzである。本発明は、周波数差検出部3によりf1とf2との差分に対応する値と、基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分に対応する値との差分であるΔFを計算することにより成り立つ。この実施形態の場合、より詳しく言えば、周波数差検出部3で得られる値は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}である。ただし、図面では周波数差検出部3の出力の表示は略記している。
【0021】
図2は、周波数差検出部3の具体例を示している。31はフリップフロップ回路(F/F回路)であり、このフリップフロップ回路31の一方の入力端に第1の発振回路1からの周波数f1の周波数信号が入力され、他方の入力端に第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が入力され、第1の発振回路1からの周波数f1の周波数信号により第2の発振回路2からの周波数f2の周波数信号をラッチする。以下において記載の冗長を避けるために、f1、f2は、周波数あるいは周波数信号そのものを表しているとして取り扱う。フリップフロップ回路31は、f1とf2との周波数差に対応する値である(f2−f1)の周波数をもつ信号が出力される。
【0022】
フリップフロップ回路31の後段には、ワンショット回路32が設けられ、ワンショット回路32では、フリップフロップ回路31から得られたパルス信号における立ち上がりにてワンショットのパルスを出力する。図3はここまでの一連の信号を示したタイムチャートである。
ワンショット回路32の後段にはPLL(Phase Locked Loop)が設けられ、このPLLは、ラッチ回路33、積分機能を有する第1のループフィルタ34、加算部35及びDDS回路部36により構成されている。またラッチ回路33とループフィルタ34との間には、ラッチ回路33の出力を一定の条件下でループフィルタ34に入力することを阻止するための論理回路38が設けられている。
【0023】
ラッチ回路33はDDS回路部36から出力された鋸波をワンショット回路32から出力されるパルスによりラッチするためのものであり、ラッチ回路33の出力は、前記パルスが出力されるタイミングにおける前記鋸波の信号レベルである。ループフィルタ34は、この信号レベルである直流電圧を積分し、第1の加算部35はこの直流電圧とΔfr(基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分)に対応する直流電圧と加算する。Δfrに対応する直流電圧のデータは図2に示すメモリ30に格納されている。
【0024】
この例では第1の加算部35における符号は、Δfrに対応する直流電圧の入力側が「+」であり、ループフィルタ34の出力電圧の入力側が「−」となっている。DDS回路部36には、第1の加算部35にて演算された直流電圧、即ちΔfrに対応する直流電圧からループフィルタ34の出力電圧を差し引いた電圧が入力され、この電圧値に応じた周波数の鋸波が出力される。PLLの動作の理解を容易にするために図4に極めて模式的に各部の出力の様子を示し、かつ直感的に把握できるようにするために極めて模式的な説明をしておく。装置の立ち上げ時には、Δfrに対応する直流電圧が第1の加算部35を通じてDDS回路部36に入力され、例えばΔfrが5MHzであるとすると、この周波数に応じた周波数の鋸波がDDL36から出力される。
【0025】
前記鋸波がラッチ回路33により(f2−f1)に対応する周波数のパルスでラッチされるが、(f2−f1)が例えば6MHzであるとすると、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が短いことから、鋸波のラッチポイントは図4(a)に示すように徐々に下がっていき、ラッチ回路33の出力及びループフィルタ34の出力は図4(b)、(c)に示すように−側に徐々に下がっていく。第1の加算部35におけるループフィルタ34の出力側の符号が「−」であることから、第1の加算部35からDDS回路部36に入力される直流電圧が上昇する。このためDDS回路部36から出力される鋸波の周波数が高くなり、DDS回路部36に6MHzに対応する直流電圧が入力されたときに、鋸波の周波数が6MHzとなって図5(a)〜(c)に示すようにPLLがロックされる。このときにループフィルタ34から出力される直流電圧は、Δfr−(f2−f1)=−1MHzに対応した値となる。つまりループフィルタ34の積分値は、5MHzから6MHzへ鋸波が変化するときの1MHzの変化分の積分値に相当するということができる。
【0026】
この例とは逆に、Δfrが6MHz、(f2−f1)が5MHzの場合には、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が長いためにことから、図4(a)に示すラッチポイントは徐々に高くなり、これに伴い、ラッチ回路33の出力及びループフィルタ34の出力も上昇する。このため第1の加算部35において差し引かれる値が大きくなるので、鋸波の周波数が徐々に下がり、やがて(f2−f1)と同じ5MHzとなったときにPLLがロックされる。このときにループフィルタ34から出力される直流電圧は、Δfr−(f2−f1)=1MHzに対応した値となる。なお、図6は実測データであり、この例では時刻t0にてPLLがロックしている。
【0027】
ところで既述のように実際には周波数差検出部3の出力、即ち図2に示す平均化回路37の出力は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}の値を34ビットのディジタル値で表した値である。−50℃付近から100℃付近までのこの値の集合は、(f1−f1r)/f1r=OSC1(単位はppmあるいはppb)、(f2−f2r)/f2r=OSC2(単位はppmあるいはppb)とすると、温度に対する変化はOSC2−OSC1と実質同じカーブとなる。従って周波数差検出部3の出力は、OSC2−OSC1=温度データとして取り扱うことができる。
【0028】
またフリップフロップ31においてf2をf1によりラッチする動作は非同期であることから、メタステーブル(入力データをクロックのエッジでラッチする際、ラッチするエッジの前後一定時間は入力データを保持する必要があるが、クロックと入力データとがほぼ同時に変化することで出力が不安定になる状態)など不定区間が生じる可能性もあり、ループフィルタ34の出力には瞬間誤差が含まれる可能性がある。このためループフィルタ34の出力側に、予め設定した時間における入力値の移動平均を求める平均化回路37を設け、前記瞬間誤差が生じても取り除くようにしている。平均化回路37を設けることにより、最終的に変動温度分の周波数ずれ情報を高精度に取得することができるが、平均化回路37を設けない構成としてもよい。
【0029】
ここでPLLのループフィルタ34にて得られた変動温度分の周波数ずれ情報であるOSC2−OSC1に関して図7から図10を参照して説明する。図7は、f1及びf2を基準温度で正規化し、温度と周波数との関係を示す特性図である。ここでいう正規化とは、例えば25℃を基準温度とし、温度と周波数との関係について基準温度における周波数をゼロとし、基準温度における周波数からの周波数のずれ分と温度との関係を求めることを意味している。第1の発振回路1における25℃のときの周波数をf1r、第2の発振回路2における25℃のときの周波数をf2rとすると、つまり25℃におけるf1、f2の値を夫々f1r、f2rとすると、図7の縦軸の値は(f1−f1r)及び(f2−f2r)ということになる。
【0030】
また図8は、図7に示した各温度の周波数について、基準温度(25℃)における周波数に対する変化率を表わしている。従って図8の縦軸の値は、(f1−f1r)/f1r及び(f2−f2r)/f2rであり、即ち既述のようにOSC1及びOSC2である。なお図8の縦軸の値の単位はppmである。
【0031】
図9は、OSC1と温度との関係(図8と同じである)、及び(OSC2−OSC1)と温度との関係を示しており、(OSC2−OSC1)が温度に対して直線関係にあることが分かる。従って(OSC2−OSC1)は基準温度からの温度変動ずれ分に対応していることが分かる。そして一般的には水晶振動子の周波数温度特性は3次関数で表わされると言われていることから、この3次関数による周波数変動分を相殺する周波数補正値と(OSC2−OSC1)との関係を求めておけば、(OSC2−OSC1)の検出値に基づいて周波数補正値が求まることになる。
また図10は周波数差検出部3の出力信号である34ビットのディジタル値と温度との関係を示している。従って(OSC2−OSC1)は基準温度からの温度変動ずれ分に対応していることが分かる。
【0032】
図1に説明を戻すと、周波数差検出部3の出力値は、実質(OSC2−OSC1)であり、この値は図9に示したように水晶振動子10、20が置かれている温度検出値ということができる。そこで周波数差検出部3の後段に第2の加算部(偏差分取り出し回路)6を設け、ディジタル信号である温度設定値(設定温度におけるOSC2−OSC1の34ビットのディジタル値)と周波数差検出部3の出力であるOSC2−OSC1との差分を取り出すようにしている。温度設定値は、水晶発振器の出力を得るための第1の水晶振動子10に対応するOSC1の値が温度変化により変動しにくい温度を選択することが好ましい。この温度は図8に示すOSC1と温度との関係カーブにおいて例えばボトム部分に対応する50℃が選択される。なお、OSC1の値が温度変化により変動しにくい温度という観点では10度を設定温度としてもよく、この場合には室温よりも低い場合もあるので、加熱部及びペルチェ素子などの冷却部と組み合わせた温調部を設けることになる。
【0033】
そして第2の加算部6の後段には、3つの入力ポートから選択されたディジタル信号が出力されるセレクタ7が設けられており、このセレクタ7の後段には、積分回路部に相当する第2のループフィルタ61が設けられている。このセレクタ7は、既述の周波数検出部3に入力されるf1とf2との差分が検出範囲であれば、第2の加算部6の出力信号がそのままループフィルタ61に出力される。セレクタ7については、検出範囲外判定部5とともに、後で説明することとし、ここではループフィルタ61以降に関して述べる。
【0034】
ループフィルタ61の後段には、D/A(ディジタル/アナログ)変換部62が設けられている。D/A変換部62の後段には、加熱部に相当するヒータ回路5が設けられている。この例では、ループフィルタ61と、D/A(ディジタル/アナログ)変換部62とは、加熱制御用の回路部に含まれる。
【0035】
ヒータ回路5は、図11に示すように、電源部Vcとアースとの間に互いに並列に接続された、トランジスタ63a(63b〜63c)及び抵抗64a(64b〜64c)からなる直列回路を備えている。D/A変換部62の出力端は4つのトランジスタ63a〜63dのベースに接続されている。トランジスタ63a〜63dの各ベースに供給される電圧と、トランジスタ63a〜63dの消費電力及び抵抗65の消費電力との合計電力と、の関係は直線関係になっている。従って既述の温度データと温度設定値との差分に応じて発熱温度が直線的に制御される。この例では、トランジスタ63a〜63dも発熱部の一部である。
【0036】
図12は、図1に示す発振装置の概略構造を示す図である。51は容器、52は容器51内に設けられたプリント基板である。プリント基板52の上面側には、水晶振動子10、20と、発振回路1、2及び周波数差検出部3などを含むディジタル処理を行う回路をワンチップ化した集積回路部300及び制御回路部200などが設けられている。またプリント基板52の下面側には、例えば水晶振動子10、20と対向する位置にヒータ5が設けられ、このヒータ5の発熱により、水晶振動子10、20が設定温度に維持されている。
【0037】
[実施形態の要部の説明]
周波数差検出部の課題
図13(a)は、2つの水晶振動子の周波数について基準温度である例えば25℃における値に対するある温度における値の周波数変化率を示しており、図13(b)は2本のカーブの周波数変化率の差分と温度との関係を示している。また図14(a)、(b)は、他の2つの水晶振動子について同様の関係をしめしている。これらグラフから分かるように、いわば温度検出部となる2つの水晶振動子の各周波数―温度特性は、2つの水晶振動子の組に応じてばらつきがある。
【0038】
ところで、上記の式の値の演算値と温度との関係を示すカーブをとると、当該カーブは、上記の周波数変化率である、[{(f2−f2r)/f2r}−{(f1−f1r)/f1r}]と温度との関係を示すカーブと同じになる。従ってワンショット回路32の後段に設けられたPLLにて得られる値は、図14(b)及び図14(b)の縦軸を求めていることになる。PLLが正常に動作するためには、PLLの入力値であるワンショット回路32の出力周波数(f2−f1)がPLLの引き込み可能な周波数の範囲であることが必要である。
【0039】
図15の上段は、ワンショット回路32の出力周波数を可変させたときの値を横軸にとり、第1のループフィルタ34から実際に得られる値を縦軸にとったグラフである。図15から分かるようにワンショット回路32の出力周波数がPLLの引き込み可能な範囲では直線関係になっている。しかしワンショット回路32の出力周波数がPLLの引き込み可能な範囲から外れると、第1のループフィルタ34の値は不定値(PLLの入力値に対して概ねの傾向は見られるが、値が常に同じであるとは限らない状態)となる。
【0040】
このようにループフィルタ34の値つまり温度検出値が不定値になると正常なヒータ制御が行われなくなる。例えば水晶振動子の置かれている温度が高すぎるためにヒータ回路5をオフしなければならない状態であるにもかかわらずヒータ回路5がオンのままになってしまうという不具合がる。あるいは、水晶振動子の置かれている温度が低くなってヒータ回路5のパワーを大きくしなければならないのにヒータ回路5がオフあるいは適切なパワーがヒータ回路5に供給されないという不具合が生じる。このため第1の水晶振動子及び第2の水晶振動子として適切な周波数−温度特性を有するものを選定する必要があり、このことは、水晶振動子の歩留まりの低下につながる。
【0041】
周波数差検出部に関連する工夫事項
この実施形態では、周波数差検出部3のPLLに取り込まれるワンショット回路32の出力周波数がPLLの引き込み可能な範囲(検出範囲)内に収まっているか否かを判定するための判定部をなす検出範囲外判定部5を備えている。検出範囲外判定部5は、この判定機能に加えて、更に前記出力周波数が検出範囲内に収まっていないときには、検出範囲よりも大きな値であるのか、検出範囲よりも小さい値であるのかを判定する機能も備えている。
【0042】
今、図15の横軸における例えば「−50」から「50」までの範囲を検出範囲内と設定したとする。これらの値をワンショット回路32の出力周波数の値に換算した値を説明の便宜上、夫々「f−50」及び「f50」と定義する。なお、「−50」から「50」までの範囲から少し外れていても実際には、PLL内への周波数の引き込みが可能であるが、マージンをみて、検出範囲を設定している。
【0043】
この場合、検出範囲外判定部5は、ワンショット回路32からの出力周波数(出力パルスの周波数)の値を検出し、その前記出力周波数が「f−50」と「f50」との間(検出範囲)に収まっているか否かを判定する機能を備えている。更に検出範囲外判定部5は、前記出力周波数が検出範囲外であるときには、「f−50」側に外れているのか(低温側に外れているのか)、「f50」側に外れているのか(高温側に外れているのか)を判定する機能を備えている。前記出力周波数が検出範囲の高温側あるいは低温側のいずれに位置しているのかを判定する理由は、その位置に応じてヒータ制御の内容が変わってくるからである。
【0044】
図16は、このような機能を実現する検出範囲外判定部5の回路構成の一例を示している。ワンショット回路32の出力パルスはカウンタ71により、一定時間だけカウントされ、そのカウント値がラッチ回路72にてラッチされる。タイマ73は、カウンタ71に対して一定時間間隔でカウント値をクリアすると共にラッチ回路72にそのときまでのカウント値をラッチするための信号を出力するものである。例えば外部のコンピュータからメモリ30にカウント区間を設定するための信号が入力され、この設定信号に応じてタイマ73からの前記信号の出力のタイミング(前記一定時間間隔)が調整される。
【0045】
以下では、説明を単純化するために便宜上タイマ73からのタイミング信号の時間間隔を便宜上1秒として取り扱って説明する。
【0046】
ラッチ回路72から出力されたカウント値は、第3の加算部74にて基準周波数差パラメータと比較されてその差分が取り出され、その差分値(入力値の極性を考慮すれば加算値である)の絶対値が絶対値変換部74aにて求められる。この計算は、図15の上段のグラフにおいて、横軸方向においてゼロ点に対応するワンショット回路32の出力周波数と、検出された出力周波数と、の差分を求めていることに相当する。従って基準周波数差パラメータは、[{(f2−f2r)/f2r}−{(f1−f1r)/f1r}]の値がゼロになる温度(図7及び図8にて縦軸の値がゼロになる温度)、つまり基準温度(例えば25℃)におけるラッチ回路72の出力値である。具体的には、既述の「f−50」と「f50」との中間値(両者を加算して2で除した値)に対応する値である。
【0047】
更に前記絶対値は、第4の加算部75にて検出範囲設定値と比較される。即ち、第4の加算部75では、検出範囲設定値から前記絶対値が差し引かれる。検出範囲設定値は、図15の上段のグラフに対応させれば、検出範囲の上限値(あるいは下限値)に相当する値と、「−50」及び「50」の中間値との差分の絶対値(距離)に対応する値である。検出範囲設定値は、具体的には、「f−50」(あるいは「f50」)と、これらの中間値と、の差分の絶対値である。
【0048】
従って第4の加算部75における加算値の符号が正であれば、ワンショット回路32の出力周波数は、「f−50」と「f50」との間に位置し、検出範囲に収まっている。逆に第4の加算部75における加算値の極性が負であれば、ワンショット回路32の出力周波数は、「f−50」と「f50」との間から外れた値であり、検出範囲外である。第1の極性判定部76は、第4の加算部75における加算値の極性を判定し、加算値の極性が負であれば、検出範囲外フラグとして論理「1」の値を出力する。
【0049】
一方、第3の加算部74にて得られた加算値は、第2の極性判定部77にて当該加算値の極性が判定される。この極性が正であれば、ワンショット回路32の出力周波数は基準周波数差パラメータの値よりも大きいので、検出範囲よりも高温側に位置していることになり、この場合第2の極性判定部77から論理「0」の値が出力される。逆に前記極性が負であれば、前記出力周波数は基準周波数差パラメータの値よりも小さいので、検出範囲よりも低温側に位置していることになり、この場合第2の極性判定部77から論理「1」の値が出力される。
【0050】
図1に戻って、第2の加算部6の後段側の信号路には、信号選択部であるセレクタ7が設けられている。セレクタ7は論理回路を組み合わせて構成され、第2の加算部6からの出力値とヒータ制御信号の最大値とヒータ制御信号の最小値と、の3つの入力値から前記検出範囲外判定部5からの判定信号に基づいて一つの入力値が選択される。信号選択の目的は、ワンショット回路32の出力周波数が前記検出範囲であれば、第2の加算部6からの出力値をそのまま出力するが、前記出力周波数が検出範囲の高温側に外れていれば、ヒータ回路5のパワーを最小にし、また前記出力周波数が検出範囲の低温側に外れていれば。ヒータ回路5のパワーを最大にする役割を持つ。
【0051】
このような役割を果たすために、セレクタ7は、検出範囲外判定部5から出力される検出範囲外フラグが論理「0」であれば、第2の加算部6からの信号が出力される。一方、セレクタ7は、検出範囲外判定部5から出力される検出範囲外フラグが論理「1」の場合には、周波数差極性フラグが論理「1」であれば、最大値が選択され、周波数差極性フラグが論理「0」であれば、最小値が選択される。図5の下段の(a)〜(d)は、検出範囲外判定部5の出力とヒータ回路5の制御状態との対応を示している。
【0052】
図1では、セレクタ7の入力側にパワーの最小値という表示をしてあるが、この最小値とは、例えばヒータパワーがゼロ、つまりヒータ回路5を電力が供給されない「オフ」の状態となる信号に相当する。
またこの例では、既述のようにラッチ回路33と第1のループフィルタ34との間に論理回路38が設けられている。図2では信号線を1本として略記しているが、ディジタル信号がnビット(例えば34ビット)であれば、図17に示すようにn本の信号ラインに対応してn個の論理素子38−1〜38−nが設けられる。各論理素子38−1〜38−nは、一方の入力端に入力信号の反転信号が入力されるアンド回路として構成されており、一方の入力端には検出範囲外判定部5の検出範囲外フラグを出力するラインが接続され、他方の入力端にラッチ回路33からの出力ラインが接続されている。
【0053】
従って検出範囲外フラグが論理「0」であれば(ワンショット回路32の出力周波数が検出範囲内であれば)、ラッチ回路33からの信号がそのまま出力されるが、検出範囲外フラグが論理「1」であれば、34ビットの信号はゼロとなり、PLLが停止する。このように構成した理由は、PLLが不適切な値にロックすることで、ワンショット回路32の出力周波数が検出範囲内に戻っても、PLLが正常な値を引き込まなくなるという事態を避けるためである。
【0054】
[TCXOの機能に関する構成部分の説明]
またこの実施の形態に係る発振装置は、既述のようにTCXOの機能を備えている。この機能は、制御回路部200に入力される基準クロックの温度補償を行う機能である。具体的には、PLLのループフィルタ34にて得られた変動温度分の周波数ずれ情報は、図1に示す補正値取得部である補正値演算部4に入力され、ここで周波数の補正値が演算される。変動温度分の周波数ずれ情報とは、水晶振動子10が基準温度におかれたときの第1の発振回路1の発振周波数と、水晶振動子10の雰囲気温度(水晶振動子10を収納している容器内の温度)における第1の発振回路1の発振周波数と、の差分に対応する値である。
【0055】
この例では、発振装置はOCXOの機能を備えているので、当該差分に対応する値は、通常は一定値であるが、発振装置が設置されている環境温度が予想を越えて変動した場合には、TCXOの機能が発揮されてくる。
【0056】
この実施形態の発振装置は、既述のように第1の発振回路1から得られる周波数信号(f1)を図1に示す制御回路部200の基準クロックとして用いており、この基準クロックに周波数温度特性が存在することから、基準クロックの周波数に対して温度補正を行おうとしている。このため先ず基準温度で正規化した、温度とf1との関係を示す関数を予め求めておき、この関数によるf1の周波数変動分を相殺するための関数を求めている。そして周波数差検出部3にて得られた温度検出信号と前記関数とに基づいて、周波数変動分を相殺するための補正信号を補正値演算部4にて求めている。この点について更に記載を加えておく。
【0057】
図1に示すように第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は共通の水晶片Xbを用いて構成され、互いに熱的に結合されていることから、発振回路1、2の周波数差は、環境温度に極めて正確に対応した値であり、従って周波数差検出部3の出力は、環境温度と基準温度(この例では25℃)との温度差情報である。第1の発振回路1の出力される周波数信号f1は制御部200のメインクロックとして使用されるものであることから、補正値演算部4にて得られた補正値は、温度が25℃からずれたことによるf1の周波数ずれ分に基づく制御部200の動作への影響を相殺するために制御部200の動作を補償するための信号として用いられる。この結果、本実施形態の発振装置1の出力である電圧制御発振器100の出力周波数が温度変動にかかわらず安定したものとなる。
【0058】
[実施形態の全体の動作]
次に上述の実施の形態の全体の動作についてまとめる。この発振装置の水晶発振器に着目すると、水晶発振器の出力は第1の発振回路1から出力される周波数信号に相当する。そしてヒータ回路5により水晶振動子10、20の置かれる雰囲気が設定温度になるように加熱されている。第1の水晶振動子10及び第1の発振回路1は、水晶発振器の出力である周波数信号を生成するものであるが、第2の水晶振動子20及び第2の発振回路2と共に温度検出部としての役割を持っている。これら発振回路1、2から各々得られる周波数信号の周波数差に対応する値OSC2−OSC1は、既述のように温度に対応し、第2の加算部6にて温度設定値(例えば50℃におけるOSC2−OSC1の値)との差分が取り出される。
【0059】
ワンショット回路32の出力周波数が検出範囲内である場合には、この差分はループフィルタ61で積分され、その後D/A変換部62にてアナログの直流電圧に変換されてヒータ5の制御電力が調整される。図10に示す特性図からわかるように、50℃のときの周波数差検出部3の出力値を−1.5×10とすると、加算器6の出力は、温度が50℃よりも低いときには正の値であって、温度が下がるに従って大きくなる。従って水晶振動子10、20が置かれている雰囲気温度が50℃よりも低くなるほど、ヒータ5の制御電力が大きくなるように作用する。また雰囲気温度が50℃よりも高いときには負の値になり、温度が上がるにつれてその絶対値が大きくなる。
【0060】
従って温度が50℃よりも高くなるほど、ヒータの供給電力が小さくなるように作用する。このため水晶振動子10、20が置かれる雰囲気の温度は設定温度である50℃に維持されようとするので、発振出力である第1の発振器1からの出力周波数が安定する。この結果、第1の発振器1からの出力をクロック信号として用いている制御回路部200において、位相比較部205に供給される参照信号の周波数が安定するので、発振装置(周波数シンセサイザ)の出力である電圧制御発振器100からの出力周波数も安定する。
なお、補正値演算部4に関連する事項は既に述べたので、省略する。
【0061】
次に図2に示すワンショット回路32の出力周波数とヒータ回路5の制御との関係について図18を参照しながら説明する。図18図16に示す検出範囲外判定部5の各部の信号あるいは値のタイムチャートである。ワンショット回路32の出力周波数は、第1の発振回路1の発振周波数f1と第2の発振回路2の発振周波数f2の周波数差に対応しているということができ、この周波数差が大きすぎても、小さすぎてもPLLの引き込み範囲から外れることになり、ある範囲に収まっていることが必要である。
【0062】
図16に示すタイマ73は、カウント区間設定パラメータによりフリーラン(エンドレス)で動作クロックをカウントし、カウントアップごとにクリア、ラッチ信号が出力される。今、検出範囲外フラグが論理「0」、すなわちワンショット回路32の出力周波数が検出範囲内であったとする。このときには、図1に示すセレクタ7は、第2の加算部6からの値を第2のループフィルタ61に出力し、いわば正常なヒータ回路5の制御が行われる。
【0063】
そしてタイマ出力によりラッチ回路72により前記出力周波数のカウント値がラッチされ、その値が「3456」であったとする。一方基準周波数パラメータは「3500」に設定されていたとすると、第3の加算部74の出力は「−44」となる。この値の絶対値は「44」であり、検出範囲設定値が「40」であるから、第4の加算部75の出力値は「−4」である。この値の極性が負であるということは、前記周波数差が検出範囲から外れている、つまりワンショット回路32の出力周波数が検出範囲から外れているということであり、検出範囲外フラグは論理「0」から論理「1」に変わる。このため図2に示す論理回路38の34ビットの出力はゼロになり、PLLが停止する。
【0064】
そして第3の加算部74の出力値の極性は負であるから、既述のように周波数極性フラグは論理「1」となる。即ち、前記周波数差が小さすぎ、検出範囲(PLLの引き込み範囲)よりも小さい状態になっている。この状態は、前記周波数差が検出範囲から低温側に外れている状態である。このためセレクタ7からは、最大値に相当する信号が出力され、ヒータ回路5に最大電力が供給される。なお、図18における数値は説明の便宜上の値である。
【0065】
またラッチ回路72により前記出力周波数のカウント値が「3544」であった場合には、検出範囲外フラグは論理「1」、周波数差極性フラグは論理「0」となり、ヒータ回路5への供給電力はゼロとなる。
[実施形態の効果]
以上のように上述実施の形態によれば、水晶振動子10、20の各々から得られる周波数信号の周波数差に相当する値の両者の差分を温度検出値として用い、水晶振動子10、20の雰囲気温度を管理しているヒータ回路5を前記温度検出値に基づいて制御している。このため雰囲気温度を設定温度に高精度に維持することができ、水晶発振器の出力(第1の発振器1の出力)が安定する。
【0066】
また上述実施の形態は、周波数差検出情報を求めるために、f1とf2との差分周波数に対応するパルスを作成し、DDS回路部36から出力された鋸波信号を前記パルスによりラッチ回路33でラッチし、ラッチされた信号値を積分してその積分値を前記周波数差として出力している。そしてこの出力とf1rとf2rとの差分に対応する値との差分を取り出して、前記DDS回路部36に入力してPLLを構成している。このため前記周波数差検出情報を高い精度で得ることができる。
【0067】
このような回路において、前記ワンショット回路32から出力されるパルスの列における設定時間における周波数がPLLに引き込めるか否かを判定し、パルスの列における設定時間内の周波数が高温側の検出範囲外にあれば、加熱部に供給される電力を例えばゼロとし、低温側の検出範囲外にあれば、前記電力を例えば最大値にしている。
【0068】
従って、温度検出値が不定値になると正常なヒータ制御が行われなくなるという課題を解決でき、周波数の安定度の高い発振出力を得ることができる。このことは、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20の各々に対する周波数−温度特性の要求を緩和できることにつながり、結果として水晶振動子の歩留まりの低下が抑えられる。
【0069】
[その他の説明]
ワンショット回路32から出力されるパルスの列における設定時間内の周波数が高温側(図15の右側)の検出範囲外にあった場合、ヒータ回路5に供給される電力をゼロにしているが、この電力は、設定時間内の周波数が検出範囲内であるときの供給電力よりも小さい値であればゼロに限られない。またワンショット回路32から出力されるパルスの列における設定時間内の周波数が低温側(図15の左側)の検出範囲外にあった場合、前記電力は最大値に限られず、最大値付近であってもよいし、あるいはこれらの値に限らず、事前に設定された大きさであってもよい。
【0070】
周波数差検出部3は、f1とf1rとの差分に対応する値と、f2とf2rとの差分に対応する値と、の差分値に対応する値として、(f1−f1r)と(f2−f2r)との差分値そのものを用いてもよく、この場合には、図7のグラフが活用されて温度が求められることになる。
【0071】
更にまた上述の例では第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20とは共通の水晶片Xbを用いているが、水晶片Xbが共通化されていなくてもよい。この場合、例えば共通の筐体の中に第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を配置する例を挙げることができる。このような構成によれば、実質同一の温度雰囲気下に置かれるため、同様の効果が得られる。
【0072】
周波数差検出部3のDDS回路部36の出力信号は、鋸波に限ることなく、時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号であればよく、例えば正弦波であってもよい。 また周波数差検出部3としては、f1とf2とをカウンタによりカウントし、そのカウント値の差分値からΔfrに相当する値を差し引いて、得られたカウント値に対応する値を出力するようにしてもよい。
【0073】
以上の実施の形態では、第1の水晶振動子10及び第1の発振回路1は温度検出値を取り出す役割と水晶発振器の出力を作成する役割とを持っている。即ち発振回路1は温度検出のための発振回路と、水晶発振器の出力用の発振回路とを共用している。しかし本発明は、例えば水晶振動子を3個用意すると共に発振回路を3個用意し、例えば図1の構成において、第3の水晶振動子と当該水晶振動子に接続された第3の発振回路とを用意し、第3の発振回路の出力を水晶発振器の出力とし、残りの第1の発振回路及び第2の発振回路の発振出力を周波数差検出部に入力し温度検出値を得るようにしてもよい。この場合、OCXOとTCXOとを組み合わせたものとするならば、第3の水晶発振回路の出力がDDS201のクロックとして使用されることになる。
【0074】
図1及び図15に示す発振装置である周波数シンセサイザは、水晶振動子10、20、発振回路1、2、周波数差検出部3、加算部6〜ヒータ回路5に至る部分からなる、本発明の実施形態である水晶発振器を利用して構成されている。しかし、本発明は、周波数シンセサイザとして構成することに限られず、第1の発振回路1の発振出力を、本発明の水晶発振器の出力とする構成、つまり制御回路部200を用いない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 第1の発振回路
2 第2の発振回路
10 第1の水晶振動子
20 第2の水晶振動子
3 周波数差検出部
31 フリップフロップ回路
32 ワンショット回路
33 ラッチ回路
34 ループフィルタ
35 加算部
36 DDS回路部
4 補正値演算部(補正値取得部)
5 ヒータ回路
6 加算部
100 電圧制御発振器
200 制御回路部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18