特許第6046039号(P6046039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6046039選択性薄膜層の析出のための新しいシーディング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046039
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】選択性薄膜層の析出のための新しいシーディング方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20161206BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20161206BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20161206BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20161206BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20161206BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20161206BHJP
   B01D 69/04 20060101ALI20161206BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20161206BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20161206BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20161206BHJP
   C01B 3/50 20060101ALI20161206BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20161206BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20161206BHJP
   C22C 5/02 20060101ALN20161206BHJP
   C22C 16/00 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   C23C18/31 A
   C23C18/18
   B01D71/02
   B01D53/22
   B01D69/12
   B01D69/10
   B01D69/04
   C22C5/04
   C22C19/03 Z
   C22C5/06 Z
   C01B3/50
   C01B13/02 Z
   !C22C9/00
   !C22C5/02
   !C22C16/00
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-527028(P2013-527028)
(86)(22)【出願日】2011年8月26日
(65)【公表番号】特表2013-540892(P2013-540892A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】NL2011050578
(87)【国際公開番号】WO2012030212
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年7月31日
(31)【優先権主張番号】2006423
(32)【優先日】2011年3月18日
(33)【優先権主張国】NL
(31)【優先権主張番号】2005290
(32)【優先日】2010年8月30日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】500512759
【氏名又は名称】シュティヒティン・エネルギーオンデルツォイク・セントラム・ネーデルランド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】コーレイア、ルクレティア・アグネス
(72)【発明者】
【氏名】オバービーク、ヨハニース・ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デルフト、イボンヌ・クリスティーン
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−066011(JP,A)
【文献】 特開2005−319384(JP,A)
【文献】 特開2006−239679(JP,A)
【文献】 特表2010−522827(JP,A)
【文献】 特開2009−185308(JP,A)
【文献】 特開2003−183840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体上に1種以上の遷移金属の層を生成する方法であって、
− 56〜225mMの範囲のFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtから選択される遷移金属の塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩またはセレン酸塩を、水、低級アルコールおよびアセトンから選択される溶媒中に含む溶液でのフィルムコーティングにより、担体の長さで毎秒5〜100mmのコーティング速度で、前記多孔質担体を前処理することと、
− 前記前処理した担体を乾燥させることと、
− 前記遷移金属塩を対応する遷移金属に還元することと、
− 前記前処理した担体を1種以上のNi、Cu、Pd、Ag、Pt、Au、Rh、RuおよびCrから選択される遷移金属で無電解メッキすることとを含む方法。
【請求項2】
前記遷移金属塩が、塩化物塩または硝酸塩である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属塩はニッケル、パラジウムまたは白金の塩化物である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記遷移金属塩の前記溶液が水性溶液であり、前記前処理した担体が40〜100℃で乾燥される請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遷移金属塩を還元することが、400〜700℃の温度で水素含有ガスを用いて行われる請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遷移金属塩を還元することが、475℃〜625℃の温度で行われる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記担体が管状であり、前記前処理した担体中の遷移金属の量が、100mm管長さに付き5〜12mgの範囲にわたる請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記担体が管状であり、前記コーティング速度が毎秒15〜75mm管長さである請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記担体中への前記遷移金属の浸透が5μm以下である請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記前処理溶液中の遷移金属の濃度が113〜188mMである請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
メッキのために使用される前記遷移金属が、パラジウム、ニッケルおよび銀から選択される請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記遷移金属が少なくとも40重量%のパラジウムを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
管状の多孔質担体上の遷移金属をベースとする管状膜であって、前記膜が、前記担体の1つの面における1〜5μmの厚さを有する少なくとも40重量%のAgおよび/またはNiを含む1種以上の遷移金属の層であり、担体の0.5〜5μmの深さへ浸透するFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtから選択される遷移金属のシードと、前記膜の窒素に対する酸素の選択性は350℃で>10であることによって特徴付けられる膜。
【請求項14】
前記層が、前記管状膜の外側の表面に存在する請求項13に記載の膜。
【請求項15】
前記1種以上の遷移金属の層が、少なくとも50重量%の銀を含む請求項13または14に記載の膜。
【請求項16】
ガス混合物から水素を分離する方法であって、前記ガス混合物を請求項1から12の何れか一項に記載の方法によって得られる膜に曝すことを含み、前記遷移金属層が少なくとも40重量%のパラジウムおよび/またはニッケルを含む方法。
【請求項17】
ガス混合物から酸素を分離する方法であって、前記ガス混合物を請求項13から15の何れか一項に記載の膜または請求項1から12の何れか一項に記載の方法によって得られる膜に曝すことを含み、前記遷移金属層が少なくとも40重量%の銀を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、水素の分離のための遷移金属ベースの層および膜の生成方法、ならびにこの方法によって得られる膜に関する。
【0002】
背景
多孔質担体および薄い密なパラジウム層を含む非対称膜は、水素をその他のガス、例えば二酸化炭素、ならびにその他の小分子、例えば炭化水素およびその他の水素化物から分離するのに有用である。多孔質担体の無電解メッキによるパラジウムベースの膜の費用効率の高い生成は、多孔質担体上にパラジウムシードが存在することを必要とする。実質的に欠損のない薄い密なPd膜を成長させるために、シードは、十分な量で担体上に均一に分布させるべきである。
【0003】
多孔質担体および薄い密な銀層を含む非対称膜は、酸素を、その他の小分子から分離するのに有用である(例えば、http://www.anorg.chem.uu.nl/PDF/Bergwerff_silver%20literature.pdf参照)。
【0004】
CollinsおよびWay(Ind. Eng. Chem. Res. 1993、32巻、3006〜13頁)は、塩化スズによる担体の複数の前処理を利用し、続いて酸性の塩化パラジウムに浸漬し、その後パラジウム−アミン錯体で無電解メッキを繰り返している。Liら(Catalysis Today、56巻、2000、45〜51頁)は、同様に、塩化スズの前処理とそれに続く酸性のパラジウムアミンを利用し、その後浸透によって引き起こされる強化された無電解メッキを行っている。Paglieriら(Ind. Eng. Chem. Res. 1999、38巻、1925〜1936頁)は、溶媒としてクロロホルムを用いる酢酸パラジウム溶液中に担体の内側を浸漬させ、乾燥およびか焼が続く、改善されたシーディング手順を提唱した。得られる膜は、約20μmの厚さを有しであり、H2/N2選択性は50を超えなかった。Zhaoら(Catalysis Today、56巻、2000、89〜96頁)は、Pd修飾したベーマイトゾルでスリップキャスティングし、それに乾燥およびか焼が続く、活性化を使用した。ベーマイトゾルの使用は、CN1164436およびUS2008-176060にも記載されている。シリカゾルによる前処理は、KR2001-045207およびKR2001-018853に記載されている。Houら(WO2005/065806)は、塩化スズの手順に続くシーディングの前に、孔充填剤(pore filler)としてベーマイトゾルを使用する。か焼の後、γ−アルミナが、孔中に形成されて、担体の多孔質構造を回復させる。Haroldら(US2008/0176060)は、2層のγ−アルミナ層を使用してパラジウムシード層を挟み込み、パラジウムシードは、無電解メッキによる上層のγ−アルミナ層の孔中に、パラジウムを成長させるための核として働く、これもまた無電解メッキにより適用される。
【0005】
これらの先行技術の方法は、水素流動、H2/N2選択性および安定性の観点から、このようにして得られた膜の不十分な性能をもたらす。塩化スズの前処理は、スズの混入の存在を結果として生じ、これはメッキ浴の安定性とパラジウム膜の温度安定性との両方に影響する。前処理がスズ塩の前処理を含まない場合、例えば、酢酸パラジウムのみを使用するPaglieriによる改善された手順でさえ、膜は厚く、50という残念ながら低い選択性が得られる。製作の間の溶媒としてクロロホルムを使用することは、それらの手順のさらなる欠点である。ベーマイトゾル等の使用は、孔を塞ぐ結果を生じ、そのため分離性能を低下させ得る。この使用はまた、限られた熱安定性のせいで、最大適用温度を低下させ得る。また、先行技術の方法は、非常に薄いパラジウム層を常に製造させるとは限らない。
【0006】
したがって、パラジウムベースの分離層の改善された性能をもたらし、パラジウムの非常に薄い(<5μm)層を有する分離膜の生成を可能にする、パラジウムをベースとする薄い膜を製造するための方法を提供することが、本発明の目的である。
【0007】
発明の説明
本発明は、ガス分離、装飾もしくは抗菌の目的、腐食防止、またはその他の目的に適することができる、遷移金属ベースの層を生成する方法に関し、この方法は、
−遷移金属塩の溶液により多孔質担体を前処理することと、
−担体を乾燥させることと、
−遷移金属塩を対応する遷移金属に還元することと、
−1種以上の遷移金属錯体で無電解メッキすることと
を含む。特に、この層は多孔質担体上の膜の部分である。
【0008】
好ましくは、本発明の方法は、スズ塩による前処理を含まない。また、その他の非遷移金属化合物によって担体を前処理することは、好ましくない。さらに、パラジウム塩のための潜在的に有害な溶媒、例えばクロロアルカンの使用は、好ましくは回避される。
【0009】
本発明はさらに、多孔質担体上の遷移金属ベースの膜であって、ガス分離に適しており、前記膜は、1つの面における厚さ1〜10μmを有する遷移金属層によって特徴付けられる膜に関する。
【0010】
本発明の層または膜は、遷移金属シードが多孔質担体中に最大で5μmでありかつ0.5μmを超える深さで固定される。遷移金属膜は、表面での混入物の蓄積を減少させる表面の平滑さのおかげで、輝く外観を有する。
【0011】
多孔質担体は、好ましくは、特に分離目的のために、円筒形状、例えば管であるが、多孔質担体はまた、例えば装飾適用のために、平坦であっても良いしまたはその他の任意の形状を有しても良い。担体は、任意のセラミックス材料、例えばアルミナ、ジルコニア、シリカ、金属、例えば鋳鉄、ステンレス鋼、有機ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等であってもよい。担体が円筒形状を有する場合、軸に沿った担体中のチャネルの数は、1以上、好ましくは、六角形の準円筒状配置での6n+1(nは、整数、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜7、最も好ましくは1または3である)、より好ましくは1、7(2+3+2)、19(3+4+5+4+3)、または43(1+4+7+6+7+6+7+4+1)チャネル、最も好ましくは7、19であり得る。管は、任意の長さを有することができ、これはいくつかの要因、例えば使用可能な熱処理設備および使用目的によって決定され得る。好ましい長さは0.4〜5メートルである。最も好ましい長さは0.5〜2メートル、例えば約1メートルである。担体のポロシティおよび孔径は、孔が処理溶液の適切な浸透を可能にする程十分大きい限り、重要ではない。好ましくは、孔径は少なくとも25nmである。より好ましくは、担体は、50nm〜1μmの範囲の、最も好ましくは100〜500nmの範囲の孔径を有するマクロポーラス担体である。
【0012】
本発明の方法の好ましい態様では、遷移金属層は、管状の多孔質担体の外側に適用され、それにより、選択層が管の内側に配置されている状況と比較して、分離工程においてより高いフィード圧を使用できる外側の遷移金属層を有する膜をもたらす。
【0013】
もう1つの好ましい態様では、例えば7、19または43チャネルを有する多チャネル担体が、非常に高いフィード圧に対して抵抗性が概して優れるので使用される。非常に大きな表面積を使用するために、遷移金属層が、個々のチャネルの内側に適用される。
【0014】
この説明においてにおいて、遷移金属は、元素の周期表の第4〜第6周期の第3〜第12(IIIb〜IIb)族(元素番号21〜30、39〜48および57〜80)からの、特に第4〜第11(IVb〜Ib)族からの元素である。特に、遷移金属は、白金族(第8〜第10もしくはVIIIb族)または金族(11もしくはIb族)からの元素である。前処理ステップは好ましくは白金族(Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)からの1種以上の金属を使用して実施され、一方無電解メッキによって適用される最終的な金属層は、好ましくは、第10および第11族(Ni、Cu、Pd、Ag、Pt、Aa)ならびにRh、Ru、Crからの1種以上の金属を含む、最も好ましくはパラジウム(Pd)および/または銀(Ag)および/またはニッケル(Ni)を少なくとも40%(w/w)含む層である。
【0015】
前処理
本発明の方法では、前処理溶液中で使用される遷移金属塩は、可溶性、特に水溶性であり、好ましくは二価の遷移金属塩、例えば塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウムまたはセレン酸パラジウム、塩化白金、硝酸白金、塩化ロジウム(III)、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル等である。これらの塩は、例えば酢酸塩よりも均一な結果を示す。好ましい塩は、均一な被覆度という観点からもまた、塩化白金(IV)の塩化パラジウム(II)である。遷移金属塩の溶液の濃度は、例えば56〜225mM、好ましくは113〜188mMであり得る。これらの値は、例えば1リットルに付きPd6〜24g、好ましくは12〜20g、または1リットルに付きPt11〜43.9g、好ましくは22〜36.7g、または1リットルに付きNi3.3〜13.2g、好ましくは6.6〜11.0gに相当し、その他の金属についても同様である。
【0016】
好ましい溶媒は、遷移金属塩に対して高い溶解度を有する、安価且つ無害なものである。好ましい溶媒としては、水、低級アルコール、例えば2−プロパノール、およびアセトンが挙げられ、最も好ましくは、遷移金属塩の溶液は、水性溶液であり、「水性」は、溶媒の50(重量)%超が、水から成ることを意味する。最も好ましい溶媒は水である。クロロホルムの適用は好ましくない。また、その他のハロアルカンも好ましくない。この処理は、任意のコーティング技術、例えば、浸漬、スプレー、ブラッシングなどを使用して実施できる。有利なコーティング方法は、フィルムコーティングであり、含浸の深さおよび付着(loading)の容易な制御を可能にする。
【0017】
前処理の条件は、遷移金属塩の溶液が、過剰な浸透なしに、担体中へ十分に浸透するように選択される。これは、比較的短い接触時間を使用することによって、例えばフィルムコーティングを使用して達成できる。パラジウムは、1〜10μm、より好ましくは5μm以下の深さへ浸透することが好ましい。溶液の量および濃度ならびに接触時間は、好ましくは、孔の中への遷移金属(パラジウム、白金またはその他)の量が、還元後、管の長さ100mmに付き5〜15mgの範囲であるように選択される。したがって、好ましいコーティング速度は、毎秒5〜100mm、好ましくは15〜75mm、最も好ましくは25〜60mmである。
【0018】
前処理は、好ましくは、前処理された担体中に、10,000mm2(dm2)に付き10〜30mg、好ましくは12〜24mgの遷移金属の量をもたらす。担体が管状であり、特に外径が12〜18mmである場合、遷移金属の量は、好ましくは、管の長さ100mmに付き5〜12mgである。付着および浸透の深さは、前処理溶液中の遷移金属濃度を変化させることにより、さらに調整することができる。付着および浸透の深さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)測光法を使用することによって検査できる。
【0019】
多孔質担体は、場合によって、密な担体によって担持されることができ、粗い定着層として働いてもよい。担体は、好ましくは、前処理前に、十分な濡れ性を有する。必要な場合、濡れ性を、適切なエッチング剤、例えばハロゲン化水素酸を使用して、プラズマ(化学)エッチングによって改善できる。
【0020】
前処理は、断続的な、部分的または完全な乾燥を有する単回のコーティングステップまたは反復コーティングステップであることができる。前処理後、前処理した担体を、周囲温度または高温、例えば40〜100℃で乾燥させる。
【0021】
還元
次のステップは、0価状態まで還元することによる遷移金属の活性化である。これは、好ましくは、高温での水素含有ガスまたはその他の還元性ガスによる処理によって達成される。水素含有ガスは、例えば、純粋な水素でも良いが、水素とその他の不活性ガス、例えばアルゴンもしくは窒素との混合物、または別の還元性ガスであっても良い。還元ステップにとって有利な条件としては、400〜700℃、好ましくは475〜625℃の温度が挙げられる。還元された遷移金属(パラジウム、白金またはその他)シードを担持する膜を、引き続いて、不活性雰囲気、例えば窒素下で周囲温度まで冷却する。
【0022】
メッキ
最後に、パラジウムおよび/またはその他の金属は、例えば無電解方法において、遷移金属錯体、例えば二塩化テトラアミンパラジウム(Pd(NH34Cl2・2H2O)、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム、ジアミン銀塩、ペンタクロロルテニウム酸カリウムおよびそれらの組合せ、ならびに安定剤、例えばEDTA、ならびに還元剤、例えばヒドラジンを使用する、無電解、すなわち自己触媒メッキとしてそれ自体が知られている方法に従って、遷移金属シーディングした担体上に析出される。無電解メッキの方法は、例えばCollinsおよびWay(Ind. Eng. Chem. Res. 1993)ならびに「背景」内で上記したその他の参考文献によって記載されている。本発明の前処理の結果として、例えば、不均一な析出のみがあり、均一な析出がないという点において、無電解メッキ浴の安定性が上昇する。これは、担体の表面上に形成されるのは遷移金属のみであり、結晶性物質は、浴自体において形成されないことを意味する。かかる均一な析出は、混濁溶液をもたらし、担体上および浴の底に物質の不規則な凝集体の析出と、その結果としての遷移金属前駆物質の枯渇およびメッキ速度の低下に陥る。ニッケル、銀、銅、金、白金、コバルト等を含む遷移金属の無電解メッキについての詳細は、「Electroless Plating, Fundamentals and Applications」、O. Mallory & Hajdu編、American Electroplateers and Surface Finishers Society, Inc.、Noyes Publications, NYに見出すことができる。
【0023】
パラジウムの代わりに、または特にパラジウムに加えて、その他の適切な金属、例えば、銀、白金、銅、金、ロジウム、ルテニウムおよびクロムが使用できる。したがって、上および下の説明において「パラジウム」が言及される度に、これは、全体的または好ましくは部分的(合金)に、その他の金属、特にニッケル、銅、銀および/または金によって交換することができる。本発明に係る膜において、金属層は、好ましくは、5〜95重量%のニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、ロジウムおよび金から選択される1種以上の金属を含む。
【0024】
好ましくは、メッキされた層のパラジウム含有量は、少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも50重量%である。特に有利であるのは、50〜95重量%のパラジウムと5〜50重量%のその他の金属との合金である。これらのその他の金属としては、第8〜第11(VIIIおよびIb)族からの1種以上の金属、例えばニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、白金、銀および金が挙げられるが、金属、例えばイットリウム、セリウム、インジウム、クロム、ジルコニウム等、および特にニッケルと組み合わせたリンも挙げられる。65〜85重量%のパラジウムと15〜35重量%の銀とを含有するパラジウム合金は、特に有用である。また、70〜99重量%のパラジウムと1〜30重量%の銅および/または金との合金は、水素分離に非常に適している。
【0025】
或いは、膜層は、少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも50重量%の銀および/またはニッケル、特に銀を含有することができる。65〜85重量%の銀と、5〜35重量%のジルコニウムと、場合によって0〜25重量%のその他の金属とを含有する合金が特に有用である。パラジウム、白金、銀またはその他の合金の無電解メッキは、関連金属塩、例えば塩化または硝酸パラジウムと硝酸銀とを必要とされる割合で含有するメッキ浴を使用して実施できる。
【0026】
合金層が製造される場合、最初に第一の金属(例えばパラジウムまたは銀)のメッキステップを実行することが有利であり、次に、さらなる1種または複数の金属を第二の浴を用いて適用することができる。かかる多段階の合金製造にとっては、第二および場合によってさらなるメッキ浴が、メッキ工程を促進するために、いくらかのパラジウム、例えば2〜20重量%を含有することが好ましい。
【0027】
適用
上記の方法によって生成できる多孔質担体上の遷移金属ベースの膜は、水素分離に特に適している。この膜は1つの面における1〜10μmの厚さを有する遷移金属層によって特徴付けられる。好ましくは、遷移金属層は、2〜5μm、最も好ましくは2〜4μmの厚さを有する。好ましくは、遷移金属層は、40〜100重量%のパラジウム、より好ましくは50〜95重量%のパラジウムと、0〜60重量%、より好ましくは5〜50重量%、最も好ましくは10〜40重量%の上述したその他の金属、特にニッケル、白金、銅、銀および/または金とを含有する。
【0028】
上で説明した通り、膜の好ましい態様は、管状膜、より好ましくは、外側の表面に遷移金属層を有する管状膜である。特に、管状膜は、外径が5〜50mm、好ましくは10〜25mmである。水素透過率は、少なくとも5×10-7mol/m2・s・Pa、特に少なくとも10-6mol/m2・s・Paまたはさらに少なくとも2×10-6mol/m2・s・Paである。H2/N2選択性、すなわち窒素に対する水素の相対透過は、少なくとも200、特に少なくとも1000、またはさらに少なくとも5000である。
【0029】
本発明はさらに、ガス混合物を上で説明した膜に曝すことを含む、ガス混合物から水素を分離する方法に関する。膜は、水素の通過を選択的に可能にし、かくして、酸化物、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、および窒素酸化物、ならびに水素化物、例えばアンモニア、水、炭化水素(メタン、エタン、エテン、および高級同族体などのその他のガス分子から水素を分離することになる。本発明の方法によって得ることができる膜は、本方法によって生成される欠損のない薄いフィルムのおかげで、より薄い厚さおよび結果的により高い透過率でのより高い選択性(より良好な分離)を提供するという利点を有する。
【0030】
或いは、遷移金属層は、40〜100重量%の銀、より好ましくは50〜95重量%の銀と、0〜60重量%、より好ましくは5〜50重量%、最も好ましくは10〜40重量%の上述のその他の金属、特にニッケル、白金、パラジウム、銅、金および/もしくはジルコニウム、またはその他の卑金属とを含有する。
【0031】
例えば、別の態様では、本発明は、ガス混合物を上記膜に曝すことを含む、ガス混合物からの酸素の分離の方法に関する。銀含有膜は、酸素の通過を選択的に可能にし、それにより、その他のガス分子から酸素を分離することになる。本発明の方法によって得ることができる膜は、本方法によって生成される欠損のない薄いフィルムのおかげで、より薄い厚さおよび結果的により高い透過率でのより高い選択性(より良好な分離)を提供するという利点を有する。
【0032】
さらに別の態様では、本発明は、抗菌、保護、装飾またはその他の目的のために、遷移金属、特に貴金属または準貴金属(pseudo noble metal)、例えば銀、金、パラジウム、クロム等を含む、膜以外の層に関する。金の非常に薄い,100nm,層は、例えば、ニッケル材料のろう付けおよびはんだ付けを強化することが知られている。さらに、宝石類も同様に処理することができる。自己触媒により析出したニッケルリン合金は、より硬く、電着により析出したニッケルより良好な保護を実現する。担体上での定着は、これらの層の長期的な作用にとって重要である。無電解メッキ技術によって析出した銀フィルムは、殺生物剤で知られている(Sabbaniら、Microporous and Mesoporous Materials、135巻(2010)131〜136頁)。ロジウム仕上げは、金属の鮮やかな白色の外観のために宝石類においてしばしば使用される。調製は、トリアミントリス(ニトリト−N,N,N)ロジウム(III)での無電解メッキによって行うことができる(US6,455,175)。
【0033】
実施例
例1
2層のα−アルミナ層を有し、外径が14mmであり、孔径が0.2μmである管状非対称マクロポーラスAl23担体500mmを、PdCl2を1.57gのPdCl2、1.025mlの37%のHClおよび63.150mlのMQ水を入れた溶液で、フィルムコーティングした。コーティング速度は、40mm/secであった。フィルムコーティング工程を、一度繰り返した。コーティングした管を、70℃で乾燥させた。
【0034】
次に、Pdシーディングし乾燥させた管を、最初に穏やかな窒素流下で500℃までゆっくり加熱し、続いて500℃で水素により処理することによって、活性化させた。管の重量を計測して、パラジウムシードの付着量を測定する。Pd付着量は、担体100mmに付き少なくとも7mgである。
【0035】
引き続いて、パラジウムシーディングした管状膜を、2時間にわたって、メッキ浴溶液1リットルに付き、5.4gのPdCl2、70gのEDTA(Titriplex)、434mlのNH4OH(25w/o)および7.5mlのヒドラジン(2.05M)を含有するメッキ浴溶液により、55℃で、無電解メッキによってメッキした。
【0036】
得られた膜は、4μm未満の厚さおよび高いH2/N2選択性を有する。窒素流が膜の2バールの圧力差で測定されないという点で、膜は漏れがなく、水素流動率(透過率)は、9.5×10-7mol/m2・s・Paである。H2/N2選択透過性は、純粋な水素および純粋な窒素の透過を別々に測定することによって測定され、350℃で>1000である。
【0037】
例2
1層のアルミナ層および1層のジルコニア層を有し、外径が14mmであり、孔径が0.2μmである500mmの管状非対称マクロポーラスAl23−ZrO2担体を、パラジウムでフィルムコーティングし、引き続いて、例1で説明したように活性化させた。パラジウムシードの付着量は、管の長さ100mmに付き少なくとも7mgであった。
【0038】
引き続いて、パラジウムシーディングした管状膜を、例1に記載の無電解メッキによってメッキした。得られた膜は、4μm未満の厚さおよび高いH2/N2選択性を有し漏れがない。H2/N2選択透過性は>1000であり、水素流動率(透過率)は、350℃で、1.5×10-6mol/m2・s・Paである。
【0039】
例3
1層のアルミナ層および1層のジルコニア層を有し、外径が14mmであり、孔径が0.2μmである500mmの管状非対称マクロポーラスAl23−ZrO2担体を、パラジウムでフィルムコーティングし、引き続いて、例1で説明したように活性化させた。パラジウムシードの付着量は、管の長さ100mmに付き少なくとも7mgであった。
【0040】
引き続いて、パラジウムシーディングした管状膜を、6時間にわたり、メッキ浴溶液1リットルに付き4.8gのAgCl2、33gのEDTA(Titriplex)、730mlのNH4OH(25w/o)および3.5mlのヒドラジン(2.05M)を含有するメッキ浴溶液により、55℃で、無電解メッキによってメッキした。
【0041】
得られた膜は、5μm未満の厚さ高いO2/N2選択性を有する。窒素流が膜の2バールの圧力差で測定されないという点で、膜は、漏れがなくず、酸素流動率(透過率)は、>10-8mol/m2・s・Paである。O2/N2選択透過性は、純粋な酸素および純粋な窒素の透過を別々に測定することによって測定され、350℃で>10である。
【0042】
例4
2層のα−アルミナ層を有し、外径が14mmであり、孔径が0.2μmである500mmの管状非対称マクロポーラスAl23担体を、1.57gのPtCl4および63.150mlのMQ水を含有する溶液で、フィルムコーティングした。コーティング速度は40mm/secであった。フィルムコーティングプロセスを、一度繰り返した。コーティングした管を、70℃で乾燥させた。
【0043】
次に、Ptシーディングし乾燥させた管を最初に、穏やかな窒素流下で500℃までゆっくり加熱し、続いて500℃で水素により処理することによって、活性化させた。管の重量を計測して、白金シードの付着量を測定する。Pt付着量は、担体100mmに付き少なくとも7mgである。
【0044】
引き続いて、白金シーディングした管状膜を、例1で記載した無電解メッキによってメッキした。得られた膜は、4μm未満の厚さおよび高いH2/N2選択性を有し、漏れがない。H2/N2選択透過性は、>1000であり、水素流動率(透過率)は、350℃で、1×10-6mol/m2・s・Paである。
以下に、本願発明の実施態様を付記する。
[1]多孔質担体上に1種以上の遷移金属の層を生成する方法であって、−遷移金属塩の溶液でのフィルムコーティングにより前記多孔質担体を前処理することと、−前記前処理した担体を乾燥させることと、−前記遷移金属塩を対応する遷移金属に還元することと、
−前記前処理した担体を1種以上の遷移金属で無電解メッキすることとを含む方法。
[2]前記遷移金属塩が、遷移金属の塩化物または硝酸塩、好ましくは、白金族の金属(Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pd)の塩化物、より好ましくはニッケル、パラジウムまたは白金の塩化物である[1]に記載の方法。
[3]前記遷移金属塩の前記溶液が水性溶液である[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記遷移金属塩を還元することが、400〜700℃、好ましくは475〜625℃の温度で水素含有ガスを用いて行われる[1]から[3]の何れか一に記載の方法。
[5]前記担体が管状であり、前記前処理した担体中の遷移金属の量が、100mm管長さに付き5〜12mgの範囲にわたる[1]から[4]の何れか一に記載の方法。
[6]前記担体が管状であり、コーティング速度が毎秒15〜75mm管長さである[1]から[5]の何れか一に記載の方法。
[7]前記担体中への前記遷移金属の浸透が5μm以下である[1]から[6]の何れか一に記載の方法。
[8]前記前処理溶液中の遷移金属の濃度が113〜188mMである[1]から[7]の何れか一に記載の方法。
[9]メッキのために使用される前記遷移金属が、パラジウム、ニッケルおよび銀から選択され、好ましくは少なくとも40重量%のパラジウムを含む[1]から[8]の何れか一に記載の方法。
[10]多孔質管状担体上の遷移金属をベースとする管状膜であって、前記担体の1つの面における1〜10μmの厚さを有する遷移金属層によって特徴付けられる膜。
[11]前記遷移金属層が前記管状膜の外側の表面に存在する[10]に記載の膜。
[12]複数の6n+1多孔質管状担体(nは1〜10までの整数である)上の遷移金属をベースとするマルチチャネルの管状膜であって、前記管状担体の内側の表面における1〜10μmの厚さを有する遷移金属層によって特徴付けられる膜。
[13]前記遷移金属層が2〜5μmの厚さを有する[10]から[12]の何れか一に記載の膜。
[14]前記金属層が、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、ロジウムおよび金から選択される5〜95重量%の1種以上の金属を含む[10]から[13]の何れか一に記載の膜。
[15]少なくとも5×10-7mol/m2・s・Paの水素透過率を有する[10]から[14]の何れか一に記載の膜。
[16]窒素に対する水素の選択性が少なくとも200、好ましくは少なくとも1000である[10]から[15]の何れか一に記載の膜。
[17]ガス混合物から水素を分離する方法であって、前記ガス混合物を[10]から[16]の何れか一項に記載の膜または[1]から[9]の何れか一に記載の方法によって得られる膜に曝すことを含み、前記遷移金属層が少なくとも40重量%のパラジウムニッケルを含む方法。
[18]ガス混合物から酸素を分離する方法であって、前記ガス混合物を[10]から[16]の何れか一に記載の膜または[1]から[9]の何れか一に記載の方法によって得られる膜に曝すことを含み、前記遷移金属層が少なくとも40重量%の銀を含む方法。