【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも部分的には、診断および治療のための、膵管腺癌(PDAC)細胞バイオマーカーのような癌細胞バイオマーカーおよび結合分子を提供するための組成物
および方法に関する。具体的には、PDAC同定用のプレクチン−1のようなバイオマーカーを提供するための「利用可能な」プロテオーム同定法が開示される。さらに、ペプチドリガンドとコンジュゲートされた磁性蛍光ナノ粒子を含む、PDAC同定用のイメージング組成物が提供される。
【0008】
診断および治療で使用するため、例えば、ペプチド、小分子、ペプチド模倣物、非ペプチド模倣物、抗体などのような結合パートナー(すなわち、リガンド)を提供するための、非癌細胞に対する癌細胞同定用のバイオマーカーが本明細書に記載されている。
【0009】
一態様において、本発明は癌細胞のバイオマーカーを提供し、ここでこのバイオマーカーは、プレクチン−1フラグメントを含みかつ癌細胞の外膜上に局在する。いくつかの実施形態において、バイオマーカーフラグメントは、配列番号9〜23で記述される配列のいずれか1つを含む。さらに、本発明は、癌細胞の型により制限されない。実際、様々な癌細胞の型が意図され、胃腸管癌細胞、肝胆道癌細胞、胆嚢癌細胞、膵臓癌細胞、肺癌細胞、中皮腫癌細胞、膀胱癌細胞、前立腺癌細胞、乳癌細胞、頭部癌細胞、頸部癌細胞、甲状腺癌細胞、子宮癌細胞、子宮体−頸部癌細胞、血液癌細胞、白血癌細胞、骨髄癌細胞、胸膜癌細胞、胸水癌細胞、前立腺癌細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、癌細胞は、膵臓癌細胞および膵管腺癌細胞(PDAC)からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、バイオマーカーは、配列番号24またはそのアイソフォームを含む。いくつかの実施形態において、バイオマーカーは、GenBankデータベースにおいてアクセッション番号NM_000445.2;同NM_201378.1;同NM_201379.1;同NM_201380.2;同NM_201381.1;同NM_201382.1;同NM_201383.1;および/または同NM_201384.1に記載されているような、ヒトmRNA配列によりコードされるペプチドまたはそのフラグメントを含む。いくつかの実施形態において、バイオマーカーは、ファージディスプレイペプチドと結合する。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、検出可能部分または治療剤を含む第二部分と結合したプレクチン−1結合部分を有する第一部分を含む、プレクチン−1リガンドを特徴とする。いくつかの実施形態において、プレクチン−1結合部分は、配列番号1、2、または4〜8からなる群より選択されるアミノ酸配列またはそのペプチド模倣物である。いくつかの実施形態において、プレクチン−1結合部分は、抗プレクチン−1抗体またはその抗原結合フラグメント、小分子あるいはアプタマーである。いくつかの実施形態において、プレクチン−1結合部分は、ナノ粒子、微粒子または固相化試薬と結合している。検出可能部分は、放射性同位元素、磁性化合物、X線吸収剤、化学的化合物、生物学的標識および蛍光分子からなる群より選択され得る。治療剤は、例えば、細胞毒性部分または免疫調節性部分(例えば、腫瘍に対する免疫応答を増強させる化合物、例えば、インターロイキン−1(IL−1)および腫瘍壊死因子−アルファ(TNF−α))であり得る。
【0011】
いくつかの実施形態において、第一部分と第二部分との間にリンカー、例えば可動性のアミノ酸配列、例えばフォトリンカーが存在し得る。
【0012】
いくつかの実施形態において、第二部分は、例えば、検出可能部分または治療剤に加えてあるいはそれら自体として生理学的に不活性なナノ粒子を含む。
【0013】
ナノ粒子が、磁性、蛍光性または放射性である、請求項8に記載のペプチドリガンド。ナノ粒子の例として、架橋酸化鉄ナノ粒子(CLIO)、超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION)および架橋超常磁性酸化鉄ナノ粒子が挙げられる。
【0014】
いくつかの実施形態において、第二部分は、例えば、最大励起波長の範囲が500nm
〜1000nmである蛍光色素を含む。いくつかの実施形態において、蛍光色素は、例えば、最大励起波長の範囲が650〜680nmである近赤外蛍光色素(例えば、シアニン5.5のようなシアニン誘導体)である。
【0015】
いくつかの実施形態において、第二部分は、NIRF(例えば、シアニン5.5)とコンジュゲートされた架橋酸化鉄ナノ粒子(CLIO−Cy5.5)を含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、本発明は、ナノ粒子と(任意でリンカー、例えば、蛍光標識リンカーにより)結合された配列番号1およびナノ粒子(例えば、磁性蛍光ナノ粒子)を含むかまたは基本的にそれらからなる、ペプチドリガンドを特徴とする。いくつかの実施形態において、リンカーおよび粒子の一方または両方が蛍光性である。いくつかの実施形態において、磁性蛍光ナノ粒子は、近赤外(NIR)蛍光色素(NIRF)を含む。
【0017】
別の態様において、本発明は、バイオマーカーに対するリガンドを提供し、ここではこのリガンドは、ペプチドリガンド、模倣物、小分子および抗体からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、リガンドはペプチドである。したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号1〜8のアミノ酸のいずれか1つを含む、膵管腺癌細胞と結合するためのペプチドリガンドを提供する。いくつかの実施形態において、ペプチドリガンドは、プレクチン−1のような、膵管腺癌細胞分子に対するバイオマーカーと結合する。したがって、いくつかの実施形態において、本発明は、配列番号1のアミノ酸を含む、膵管腺癌細胞と結合するためのペプチドリガンドを提供する。いくつかの実施形態において、リガンドは膵臓癌細胞上の受容体と結合する。いくつかの実施形態において、リガンドは膵臓癌細胞のバイオマーカーと結合する。いくつかの実施形態において、バイオマーカーは、癌細胞において非癌細胞とは異なる形で発現する。いくつかの実施形態において、リガンドは、癌細胞の受容体との結合パターンが非癌細胞と異なる。いくつかの実施形態において、リガンドは、癌細胞において非癌細胞内とは異なる位置でバイオマーカーと結合する。いくつかの実施形態において、リガンドは、非癌細胞の受容体よりも多い数の癌細胞の受容体と結合する。いくつかの実施形態において、リガンドは、非癌細胞よりも多い数の癌細胞と結合する。いくつかの実施形態において、リガンドは癌細胞のバイオマーカーを同定する。いくつかの実施形態において、リガンドは癌細胞のバイオマーカーと結合する。いくつかの実施形態において、バイオマーカーはプレクチン−1である。いくつかの実施形態において、リガンドは、ファージディスプレイランダムペプチドライブラリー由来である。いくつかの実施形態において、ペプチドリガンドは、ファージディスプレイランダムペプチドライブラリー由来である。いくつかの実施形態において、リガンドは、ファージディスプレイペプチド由来である。いくつかの実施形態において、リガンドは合成物である。
【0018】
別の態様において、本発明は、膵管腺癌細胞に結合するペプチドリガンドをディスプレイするバクテリオファージを提供する。いくつかの実施形態において、バクテリオファージは、蛍光分子、例えば、フルオレセインイソチオシアナートを含む。
【0019】
さらに別の態様において、本発明は、膵管腺癌細胞から溶出されたペプチドリガンドをディスプレイする単離されたバクテリオファージ、例えば、配列番号1を含むペプチドリガンドをディスプレイする単離されたバクテリオファージを特徴とする。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、診断用ペプチド、例えば、配列番号1を含むペプチドを提供する。いくつかの実施形態において、診断用ペプチドは、標識、例えば、放射性同位元素、化学的化合物、生物学的標識および蛍光分子からなる群より選択される標識と結合している。いくつかの実施形態において、標識は、I
125、ビオチン、ヒスタジン(histadine)タグ、蛍光色素−ヒドロスクシンイミドエステル由来の蛍光色素
およびフルオレセインイソチオシアナートからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、診断用ペプチドはリンカーをさらに含む。いくつかの実施形態において、リンカーはフォトリンカーである。いくつかの実施形態において、フォトリンカーは、スルホスクシンイミジル−2−[7−アミノ−4−メチルクマリン−3−アセトアミド]エチル−l,3−ジチオプロピオナートである。いくつかの実施形態において、リンカーは標識、例えば、蛍光標識されている。いくつかの実施形態において、蛍光標識リンカーはGGSK(フルオレセインイソチオシアナート(FITC))Cリンカーである。
【0021】
いくつかの実施形態において、ペプチドは、生理学的に不活性なナノ粒子とコンジュゲートされている。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、架橋酸化鉄ナノ粒子(CLIO)、超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION)、架橋超常磁性酸化鉄ナノ粒子などからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、フルオロフォア、例えば、近赤外(NIR)蛍光色素(例えば、785nm/810nmの最大励起/発光波長または675nm/694nmの最大励起/発光波長を有する)をさらに含む。いくつかの実施形態において、近赤外(NIR)蛍光色素は、シアニン5.5またはその誘導体である。
【0022】
いくつかの実施形態において、診断用ペプチドは、磁性蛍光ナノ粒子、例えば、シアニン5.5(CLIO−Cy5.5)とコンジュゲートされた架橋酸化鉄ナノ粒子と連結されている。
【0023】
別の態様において、本発明は、配列番号1と任意で蛍光標識リンカーおよび磁性蛍光ナノ粒子の一方または両方とを含むペプチドを含有する、診断用組成物を提供する。いくつかの実施形態において、診断用組成物は、架橋酸化鉄ナノ粒子とコンジュゲートされた蛍光標識リンカー分子と結合した配列番号1を含むペプチドリガンドを含有し、ここでは当該ナノ粒子は、近赤外(NIR)蛍光色素(NIRF)とコンジュゲートされている。
【0024】
さらなる態様において、本発明はペプチド、例えば、配列番号2(すなわち、KTLLPTPGGSK)、例えば、架橋酸化鉄ナノ粒子とコンジュゲートされた配列番号2を含むFITC標識ペプチド(すわなち、KTLLPTPGGSK(フルオレセインイソチオシアナート(FITC))C)を含有する診断用組成物を提供し、ここでは当該ナノ粒子は蛍光色素、例えばNIRF、例えばシアニン5.5(CLIO−Cy5.5)のようなシアニン誘導体と、さらにコンジュゲートされている。
【0025】
また、膵管腺癌の診断または治療用のならびに膵管腺癌の診断または治療用の薬剤製造における、本明細書に記載のプレクチン−1結合化合物の使用が本明細書に提供される。
【0026】
別の態様において、本発明は、被検体における癌細胞の検出のための方法を提供する。これらの方法には、被検体由来の細胞または組織(例えば、生検由来、あるいは血漿または血液由来、すなわち、被検体由来の循環腫瘍細胞)の提供;および細胞または組織におけるプレクチン−1タンパク質の存在または細胞内局在の検出が含まれ、ここでは、プレクチン−1の細胞膜発現が癌細胞の存在を示す。いくつかの実施形態において、プレクチン−1の非存在あるいはプレクチン−1の細胞質および/または核発現のみの存在は、その細胞または組織に癌細胞が存在しないことを示す。
【0027】
いくつかの実施形態において、試料中でのプレクチン−1の細胞内局在の検出には、プレクチン−1タンパク質と結合し任意に検出可能部分を含む薬剤と試料とを接触させること;および薬剤の細胞内局在を検出することが含まれ、ここでは、薬剤の細胞内局在がプレクチン−1発現の細胞内局在を示す。いくつかの実施形態において、プレクチン−1タンパク質と結合する薬剤は、本明細書に記載のようなペプチドリガンドあるいはプレクチ
ン−1に対して特異的な抗体またはその抗原結合部分である。いくつかの実施形態において、細胞内局在は、レーザー走査顕微鏡法、免疫組織化学法、蛍光顕微鏡法および/または放射線写真撮影を用いて検出される。その他の方法として、ラマン分光法、光干渉断層撮影(OCT)、放射線(例えば、X線)散乱または吸収の検出ならびにアイソトープ検出を含めた方法も使用され得る。
【0028】
さらに別の態様において、本発明は、被検体における膵管腺癌(PDAC)または前駆病変膵上皮内新生物(PanIN)をインビボで検出するための方法を提供する。これらの方法には、PDACのリスクがあるかまたはPDACを有する疑いのある被検体を同定すること;被検体に本明細書に記載のような診断用組成物を投与すること;および被検体の膵臓中のペプチドリガンドの存在をインビボイメージング装置を用いて検出することが含まれる。膵臓中のペプチドリガンドの存在は、被検体がPDACを有することを示す。いくつかの実施形態において、ペプチドリガンドは、真皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口および/または胃経路を介して投与される。いくつかの実施形態において、インビボイメージング装置は、磁気共鳴イメージング装置(MRI)、レーザー走査生体顕微鏡、内視鏡および放射線画像装置からなる群より選択される。
【0029】
また、被検体における膵管腺癌(PDAC)の治療法が本明細書において提供される。これらの方法には、PDACのリスクがあるかまたはPDACを有する疑いのある被検体を同定すること;被検体に本明細書に記載のような診断用組成物を含む診断用組成物を投与すること;被検体の膵臓中のペプチドリガンドの局在をインビボイメージング装置を用いて検出すること(ここでは、ペプチドリガンドの局在がPDAC細胞の局在を示す);およびPDAC細胞を外科的に除去することが含まれる。
【0030】
さらなる態様において、本発明は、被検体における膵管腺癌(PDAC)の治療法を提供する。これらの方法には、PDACのリスクがあるかまたはPDACを有する疑いのある被検体を同定すること;被検体に本明細書に記載のような治療用組成物(例えば、治療剤と結合したプレクチン−1結合部分を含む)の治療有効量を投与することが含まれる。いくつかの実施形態において、組成物は、真皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口および/または胃経路を介して投与される。
【0031】
いくつかの実施形態において、治療剤は、治療薬、放射性同位元素、植物、真菌または細菌起源の分子ならびに生体タンパク質からなる群より選択される細胞毒性または細胞分裂阻害性部分である。いくつかの実施形態において、治療剤は、光毒性または免疫調節性化合物である。
【0032】
また、配列番号9〜23のいずれかからなる群より選択されるアミノ酸配列で基本的に構成されるペプチドが、本明細書において提供される。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、膵臓癌細胞ペプチドリガンドの同定法を提供する。これらの方法には、a)i)ファージディスプレイランダムコンビナトリアルペプチドライブラリーであって、当該ペプチドが7〜12merの範囲にあるライブラリー、ii)ペプチドに対する受容体であって、当該受容体が膵臓癌細胞の「利用可能な」プロテオーム由来である受容体およびiii)ファージディスプレイペプチド−受容体結合アッセイの提供;b)ファージディスプレイペプチド−受容体結合アッセイの実施;ならびにc)膵臓癌細胞バイオマーカーの同定が含まれる。いくつかの実施形態において、癌細胞は膵管腺癌細胞である。いくつかの実施形態において、ファージディスプレイランダムコンビナトリアルペプチドライブラリーは、配列番号1のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、ファージは蛍光標識をさらに含む。いくつかの実施形態において、標識は、蛍光色素−ヒドロスクシンイミドエステル、シアニン5.5およびフルオレセインイソチ
オシアナートからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、膵臓癌細胞の「利用可能な」プロテオームは、タンパク質、細胞成分分画、細胞溶解物および全細胞からなる群より選択される成分を含む。いくつかの実施形態において、受容体はプレクチン−1である。いくつかの実施形態において、ペプチド−受容体結合アッセイは、酵素結合免疫測定法(ELISA)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)アッセイ、競合結合アッセイ、免疫蛍光アッセイ、放射アッセイ、インタクト細胞結合アッセイ、SDS/PAGEゲルアッセイ、蛍光顕微鏡アッセイおよびフローサイトメトリーアッセイからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、同定の段階には、差次的遺伝子発現、タンパク質プロセシング、炭水化物プロセシング、輸送、細胞内局在、細胞表面発現、結合パターンおよび結合量の検出が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、膵臓癌細胞に対するペプチドリガンドの同定法を提供する。これらの方法には、a)i)受容体を発現する膵臓癌細胞、ii)非癌細胞、iii)ファージディスプレイペプチドリガンドおよびiv)ペプチドリガンド−受容体結合アッセイの提供;b)癌細胞および非癌細胞へのペプチドリガンドの添加;ならびにc)癌細胞と非癌細胞を識別するためのペプチド結合アッセイの実施が含まれる。いくつかの実施形態において、この方法は、受容体からのペプチドの溶離をさらに含む。いくつかの実施形態において、この方法には、ファージディスプレイペプチドの配列決定がさらに含まれる。いくつかの実施形態において、受容体は、固定化受容体結合パートナーである。いくつかの実施形態において、固定化受容体は、生検標本、ビーズ、膜、ゲル、膜およびプラスティックからなる群より選択される支持体材料上に固定化されている。
【0035】
別の態様において、本発明は、被検体における癌の診断法を提供する。これらの方法には、患者由来の試料(例えば、生検試料)およびペプチドリガンド(ここでは当該ペプチドリガンドは、任意に検出可能部分とコンジュゲートされた配列番号1を含む)を含有する診断用組成物の提供、試料へのペプチドの添加ならびに診断用組成物の検出(例えば、試料中の検出可能部分の検出による)が含まれる。いくつかの実施形態において、イメージング法としてレーザー走査顕微鏡法、免疫組織化学法、蛍光顕微鏡法、放射線イメージングなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
さらなる態様において、本発明は、インビボでの癌の診断法を提供する。これらの方法には、膵臓細胞癌のリスクがあるかまたは膵臓細胞癌を有する疑いのある被検体の同定;イメージング分子とコンジュゲートされた配列番号1のペプチドリガンドを含む診断用組成物の被検体への投与;およびインビボイメージングを用いた被検体内のイメージング分子の画像化が含まれる。いくつかの実施形態において、膵臓細胞癌は膵管腺癌である。いくつかの実施形態において、イメージング分子は磁性蛍光ナノ粒子である。いくつかの実施形態において、磁性蛍光粒子は近赤外(NIR)蛍光色素(NIRF)を含む。いくつかの実施形態において、組成物は、真皮内、皮下、腹腔内、静脈内、動脈内、経口および胃経路からなる群より選択される経路を介して投与される。いくつかの実施形態において、インビボイメージング法として、磁気共鳴イメージング(MRI)、レーザー走査生体顕微鏡法、内視鏡法および放射線イメージングが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、膵臓癌細胞の外科的除去法を提供する。これらの方法には、a)i)膵臓癌細胞と膵臓非癌細胞を識別するためのペプチドを含む組成物であって、当該ペプチドが配列番号1である組成物、ii)膵臓癌を有することが既知である被検体、iii)インビボイメージング装置の提供およびb)組成物の被検体への投与、c)イメージング装置によるインビボでの膵臓癌細胞のイメージングおよびd)被検体からの膵臓癌細胞の除去が含まれる。いくつかの実施形態において、投与は30mgFe/kg(ミリグラム鉄/キログラム)の静脈内注射である。いくつかの実施形態において、投与は2.6mg/kgの静脈内注射である。
【0038】
本発明は、癌を有する患者の治療法を提供し、この方法は、a)i)治療を必要とする癌患者、ii)リガンドを含む医薬組成物であって、当該リガンドが本発明のバイオマーカーと結合する医薬組成物の提供およびb)治療用組成物の患者への投与を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は治療剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、治療剤は、融合タンパク質、毒素、薬剤からなる群より選択される。本発明は、癌の種類により制限されない。実際、本発明の検出方法が使用される様々な種類の癌が意図され、肺癌、膀胱癌、頭部および/または頸部癌、乳癌、食道癌、口腔癌、舌癌、歯肉癌、皮膚癌(例えば、黒色腫、基底細胞癌、カポジ肉腫など)、筋肉癌、心臓癌、肝臓癌、気管支癌、軟骨癌、骨癌、胃癌、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌;子宮頸癌、子宮内膜癌、子宮癌、膵臓癌、大腸癌、結腸直腸、胃癌、腎臓癌、膀胱癌、リンパ腫癌、脾臓癌、胸腺癌、甲状腺癌、脳癌、神経癌、中皮腫、胆嚢癌、眼癌(例えば、角膜の癌、ブドウ膜の癌、脈絡膜の癌、黄斑の癌、硝子体液の癌など)、関節癌(滑膜癌など)、膠芽腫、白血球癌(例えば、リンパ腫、白血病など)、遺伝性非ポリポーシス癌、大腸炎関連癌などが挙げられるが、これらに限定されない。癌の例として、さらに肉腫(骨肉腫およびカポジ肉腫など)がある。
【0039】
本発明は、膵臓癌を有する患者の治療法を提供し、この方法は、a)治療を必要とする癌患者、ii)リガンドを含む医薬組成物であって、当該リガンドがプレクチン−1またはそのフラグメントと結合する医薬組成物の提供およびb)治療用組成物の患者への投与を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は治療剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、治療剤は、融合タンパク質、毒素、薬剤からなる群より選択される。
【0040】
さらなる態様において、本発明は、膵臓癌を有する被検体の治療法を提供する。これらの方法には、治療を必要とする被検体の同定(例えば、膵臓癌を有することに基づく)および細胞毒性剤(例えば、毒素または薬剤)と連結された配列番号1を含むペプチドを含有する医薬組成物の治療有効量の投与が含まれる。
【0041】
別の態様において、本発明は、ペプチドリガンドに対して選択的親和性を有する癌細胞結合パートナー(受容体)の同定法を提供する。これらの方法には、多様な結合分子群を固体支持体へ選択的に固定化すること、固体支持体上に固定化された多様な集団を1つまたは複数のペプチドリガンドと接触させること(例えば、同時に接触させること)ならびにバクテリオファージにより発現されたものを含めた1つまたは複数のペプチドリガンドと選択的に結合する結合分子を少なくとも1つ決定することが含まれる。また、腫瘍抗原(結合分子)に対する選択的親和性を有するペプチドリガンドの同定法が提供される。これらの方法には、腫瘍抗原を固体支持体へ選択的に固定化すること、固体支持体上に固定化された腫瘍抗原を1つまたは複数のペプチドリガンドと接触させること(例えば、同時に接触させること)ならびに1つまたは複数の腫瘍抗原と選択的に結合するペプチドリガンドを少なくとも1つ同定することが含まれる。また、腫瘍抗原に対して選択的である単離された結合ペプチド(「ペプチドリガンド」)、具体的には、プレクチン−1に対するペプチドリガンドが提供される。
【0042】
また、対象とする1つまたは複数のペプチドリガンドに対して選択的親和性を示す結合分子同定のための迅速かつ効率的な方法が、本明細書に記載されている。これらの方法は、対象とする複数のペプチドリガンドに対する複数の結合分子を同時にスクリーニングすることを可能にするという点で有利である。さらに、本発明で使用するための結合分子またはリガンドの独自性または機能に関して必要とされる情報が非常に少ない。例えば、多様なペプチドリガンド集団に対して多様な結合分子群を同時にスクリーニングして、所望の結合特異性を示す多数の分子を迅速に同定することができる。したがって、本明細書に記載の方法は、ペプチドリガンドおよびバイオマーカーのような、ヒト疾患の診断および
治療用の特異的試薬の発見に有利に応用することができる。
【0043】
定義
本発明の理解を容易にするために、数多くの用語および語句を以下に定義する。
【0044】
冠詞「a(1つの)」または「an(1つの)」の使用は、1つまたは複数を包含するものとする。本願で使用される単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」及び「the(その)」は、文脈から明らかにそうでないことが示されない限り、複数形の指示対象を包含するものとする。例えば、「an agent(1つの薬剤)」という用語は、複数の薬剤およびそれらの混合物を包含する。
【0045】
本明細書で使用される「患者」または「被検体」という用語は、膵臓癌またはその他の悪性腫瘍の症状を有するかまたはそのリスクのある個体のことである。患者は、ヒトまたは非ヒトであってもよく、例えば、本明細書に記載されているマウスモデルのような研究目的で「モデル系」として使用される動物系統または種を包含し得る。患者は、成体または幼若体(例えば、子供)のいずれも包含し得る。「患者」という用語は、本明細書で意図される組成物の投与が有効であり得る任意の生物、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒトまたは非ヒト)をさらに指す。
【0046】
本明細書で使用される「動物」という用語は、任意の動物、好ましくは哺乳動物を指し、より好ましくは、哺乳動物は、ヒトおよび非ヒト動物、例えばサル類、齧歯類、ヒツジ類、ウシ類、反芻動物類、ウサギ類、ブタ類、ヤギ類、ウマ類、イヌ類、ネコ類、鳥類などのような動物を非限定的に包含する。好ましい非ヒト動物は、齧歯目(例えば、マウスおよびラット)、ヒツジ、ブタ、ウサギまたはウシの仲間である。
【0047】
本明細書で使用される「利益」という用語は、診断分析法、診断法、手術道具などを非限定的に指す。
【0048】
本明細書で使用される「癌を有する疑いのある被検体」という用語は、癌を示唆する1つまたは複数の症状(例えば、顕著なしこりまたは腫瘤)を示すかあるいは癌検診が行われている(例えば、通常健診中の)被検体を指す。癌を有する疑いのある被検体は、1つまたは複数の危険因子も有し得る。癌を有する疑いのある被検体は、一般に癌の検査を受けていない。しかし、「癌を有する疑いのある被検体」は、初期診断を受けているが、癌の段階が未知の個体を包含する。この用語は、かつて癌を有した人(例えば、寛解期の個人)をさらに含む。
【0049】
本明細書で使用される「癌のリスクがある被検体」という用語は、特定の癌を生じる1つまたは複数の危険因子を有する被検体を指す。危険因子として、性別、年齢、遺伝的素因、環境曝露および癌の病歴、既存の非癌疾患および生活様式が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本明細書で使用される「疾患に罹患している」という用語は、特定の疾患を経験している被検体(例えば、ヒト)を指す。本発明は、いかなる特定の徴候または症状あるいは疾患にも限定されないものとする。したがって、本発明は、潜在的な疾患から末期の疾患までの任意の範囲の疾患を経験している被検体を包含し、ここでは当該被検体は、特定の疾患と関連した兆候(例えば、徴候および症状)の少なくとも一部を示すものとする。
【0051】
本明細書で使用される「試料」および「標本」という用語は、それらの広義において使用され、緩衝液、生理食塩水、細胞培養液などを含めた任意の供給源から得られた試料または標本を包含する。
【0052】
本明細書で使用される「生体試料」という用語は、動物(ヒト、家畜ならびに有蹄類、クマ、サカナ、ウサギ類、齧歯類のような野生化したまたは野生種の動物を包含する)から得られた試料または標本を指し、細胞、液体、固体、組織および気体を包含する。本発明の好適な実施形態において、生体試料は、組織(例えば、生検材料)、細胞株、組織から単離された細胞(組織から単離後に培養されたか否かは問わない)、固定された(例えば、組織学的および/または免疫組織化学的解析用に固定された)細胞、脳脊髄液(CSF)、漿液、血液および血漿、血清などの血液産物を包含する。しかし、これらの例は、本発明での使用が見出される試料の種類を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0053】
本明細書で使用される「生検組織」という用語は、その試料が癌性組織を含むか否かを判定する目的で被検体から取り出された組織試料を指す。ある実施形態において、被検体が癌を有する疑いがあるという理由で生検組織を採取する。次いでこの生検組織を、癌の存在または非存在について検査する。
【0054】
本明細書で使用される「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語はすべて、共有結合である「ペプチド結合」により連結されたアミノ酸の一次配列を指す。一般に、ペプチドは、完全長のタンパク質よりも少ないアミノ酸、通常は2〜50個のアミノ酸からなる。
【0055】
本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、ペプチドおよびタンパク質の両方を包含し得る。ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、合成、組換えまたは天然のものであり得る。合成ペプチドは、人工的な方法によりインビトロで製造される(例えば、インビボで産生されなかった)ペプチドである。「タンパク質」、「ペプチド」または「ポリペプチド」のアミノ酸配列は、化学的化合物も含み得る。
【0056】
本明細書で使用される「ファージ」または「φ」は、「バクテリオファージ」と同義であり、大腸菌(E.coli)のような細菌に感染する、例えば、M13、T4などのウイルスを指す。ファージは、個々のウイルス粒子も指し得る。
【0057】
本明細書で使用される「ファージディスプレイペプチド(phage displayed peptide)」または「バクテリオファージディスプレイペプチド」または「ファージディスプレイペプチド(phage−displayed peptide)」という用語は、1つのペプチド核酸配列を発現し、当該ペプチドがウイルス粒子の外表面上にあるバクテリオファージ粒子を指す。1つのウイルス粒子は、1つのペプチドまたはそのペプチドの複数コピー、例えば5コピー、7コピーなどをディスプレイし得る。
【0058】
本明細書で使用される、ライブラリーに関連した「ファージディスプレイ」という用語は、ペプチドまたはタンパク質あるいはそれらのバリアントのライブラリーがファージ粒子の外面上に発現され、それに対し、各バリアントをコードする遺伝物質が内側のバリアント上に存在する選択手法を指し、例えば、市販のPh.D.(商標)−7Phage Display Peptide Library(New England Biolabs)は、20億を超える独立したクローンの7merペプチドを提供し、Ph.D.−12Phage Display Peptide Library(New England Biolabs)は、12merペプチドを提供し、非市販のファージディスプレイペプチドライブラリーは、特定の細胞型またはリガンドなどに対するような、複数の供給源由来のランダムに生成または選択された様々なペプチドサイズを提供する。
【0059】
「ペプチド配列」に関連した「単離(された)」および「精製(された)」という用語は、非所望のペプチド配列およびその他の夾雑物(例えば、所望のペプチド配列を発現し
ていないファージ粒子、不完全なまたは歪んだ合成ペプチド、脂質、炭水化物、核酸など)から,所望の1つまたは複数のペプチド配列を分離することを指す。「単離(された)」および「精製(された)」という用語は、100%の均質性まで単離および精製されていることも意図されるが、必ずしもそのことを意味するわけではない。むしろ、これらの用語は、少なくとも50%の均質性まで単離または精製されていることを意味する。好適な一実施形態においては、ペプチド配列は、少なくとも75%の均質性まで単離または精製されている。より好適な一実施形態においては、ペプチド配列は、少なくとも90%の均質性まで単離または精製されている。単離および/または精製後、ペプチド配列は、他の化合物または分子とコンジュゲートされるか、混合されるか、またはそれらに添加される。
【0060】
本明細書で使用される、「ファージ」または「ファージ粒子」に関連した「単離(された)」という用語は、本発明のペプチド−受容体スクリーニングアッセイのような1つまたは複数のスクリーニングアッセイの後に得られるペプチドをディスプレイするファージを指し、このアッセイでは、ファージディスプレイライブラリーのファージディスプレイペプチド群を癌細胞受容体との結合に関してスクリーニングし、その結果、結合したファージは癌細胞分子との結合に関してファージライブラリーから「単離」される。「単離ファージ」は、結合したファージから溶出されるファージ粒子も指す。
【0061】
本明細書で使用される、ペプチドリガンドに関連した「単離(された)」という用語は、そのペプチドを発現する単離ファージによりコードされるペプチドリガンドを指し、したがってこの用語は、表される通りのペプチドリガンドならびにファージディスプレイペプチド、単離ペプチドの核酸配列、単離ペプチドのアミノ酸配列、天然および合成形態の単離ペプチドリガンドなどを含めたペプチドリガンドを非限定的に包含する。したがって、本発明の典型的な「単離ペプチドリガンド」は、クローン4、15および27のいずれか1つにより発現されるペプチドを非限定的に包含する。
【0062】
本明細書で使用される、ペプチドリガンド、特に単離ペプチドリガンドに関連した「由来する」または「由来の」という用語は、そのペプチドをディスプレイする単離ファージ粒子から得られるペプチドリガンド配列を指す。しかし、ペプチド、ペプチド誘導体またはペプチド模倣物、アナログおよび模倣化合物もこの用語の定義内に包含されるものとする。
【0063】
本明細書で使用される「模倣物」という用語は、リガンドのバイオマーカー(受容体)との結合を模倣する分子を指し、ペプチド、非ペプチド模倣物、小分子模倣物などを包含する。
【0064】
本明細書で使用される「有機小分子」という用語は、本明細書で使用される場合、医薬品において一般に使用される有機分子と同等の大きさの任意の分子を指す。この用語は、生体高分子(例えば、タンパク質、核酸など)は除外する。好ましい有機小分子の大きさの範囲は、約10Daから約5000Daまで、より好ましくは2000Daまで、そして最も好ましくは約1000Daまでである。
【0065】
本明細書で使用される、ペプチドリガンドに関連した「所望の」という用語は、癌細胞の同定が可能なペプチドリガンドを指す。本明細書で使用される、ペプチドリガンドに対する結合パートナーに関連した「所望の」という用語は、癌細胞バイオマーカーを非限定的に含めたバイオマーカーを指す。
【0066】
本明細書で使用される蛍光色素に関連した「由来の蛍光色素」という用語は、類似の構造を有する任意の蛍光色素、例えば、エステル基を有する蛍光色素およびペプチドとの共
有結合中に荷電エステル基を遊離した後の蛍光色素、フルオレセイン(IUPAC:3’,6’−ジヒドロキシスピロ[2−ベンゾフラン−3,9’−キサンテン]−1−オン)化合物のファミリーのような任意の蛍光色素化合物のファミリーを指し、非限定的にフルオレセインイソチオシアナート、フルオレセインイソチオシアナート異性体Iなど、関連したおよび類似の化合物を包含する。
【0067】
本明細書で使用される「バイオマーカー」という用語は、一般に生物学的状態の指標である分子または物質、例えば、特定の発生段階を識別する(例えば、多能性細胞、幹細胞、分化した細胞(神経細胞など)を他の細胞から識別する)ためのタンパク質または化学物質などを指す。バイオマーカーは、成熟のような通常の生物学的過程、癌細胞発生のような発病過程または治療的介入に対する薬理学的反応の指標となるものであり、例えば、バイオマーカーが減少または増加した可能性がある場合、疾患の消散または癌細胞の消失を示すものとなる。具体的には、本発明のバイオマーカーは、同系列の非癌細胞に比べて癌細胞において発現の増加のような発現の変化、位置の変化が見られる分子を指す。「癌細胞を識別すること」、特に、非癌細胞から癌細胞をという場合、識別とは、各細胞型における1つまたは複数のタンパク質、ペプチドまたは遺伝子の発現を検出するために使用される試薬およびアッセイ(例えば、本発明の癌マーカーを非限定的に含む)を指す。適切な試薬の例として、ペプチドリガンド、対象とする遺伝子と特異的にハイブリダイズすることができる核酸プローブ、アプタマー、対象とする遺伝子を特異的に増幅することができるPCRプライマーおよび対象とする遺伝子により発現されるタンパク質(バイオマーカーを非限定的に含む)と特異的に結合できる抗体が挙げられるが、これらに限定されない。その他の非限定的な例は、以下の説明および実施例において見出すことができる。細胞分子に関連した「バイオマーカー」という用語は、細胞のサブセットを同定するための本発明の分子、例えば、プレクチン−1のような、膵臓非癌細胞から膵臓癌を同定するためのバイオマーカーを指す。
【0068】
本明細書で使用される「プレクチン−1」という用語は、プレクチン−1のフラグメントまたは一部分を含む任意の分子、例えば、プレクチン−1アミノ酸配列のフラグメント、例えば、配列番号8〜23または24のいずれか1つならびにそのフラグメントのみならず、これらのアミノ酸配列をコードする単離された核酸なども指す。
【0069】
本明細書で使用される「ペプチドリガンド」(またはペプチドに関連した「リガンド」という語)は、タンパク質、炭水化物などのような分子と特異的に結合するタンパク質フラグメントを指す。受容体は基本的に、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質または任意の有機化合物のような任意の分子種であり得る。リガンドの具体的な例は、本発明のペプチドリガンドである。
【0070】
本明細書で使用される「選択的な」または「選択的に」という用語は、受容体分子とリガンドとの結合に言及する場合、所望でないまたは非特異的な相互作用から識別される相互作用を指す。識別には、例えば、ファージディスプレイペプチドリガンド−細胞結合アッセイのようなリガンド−受容体結合アッセイにより判定される、受容体分子に対するリガンドの親和性、ファージディスプレイペプチドリガンドの生検スクリーニング、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などのようなアフィニティー精製、競合結合アッセイ、パニングアッセイ、アフィニティーアッセイ、結合活性アッセイ、ELISAアッセイなど、定性的または定量的なものが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、親和性は、ヒートマップにより示されるように、パニングアッセイ、ELISAなどにより定性的に測定され得る。ヒートマップでは、ELISAアッセイにおける表示のクローンの平均吸光度値として親和性が描写され)、クローンの腫瘍細胞に対する親和性と正常導管細胞に対する親和性との比により特異性が判定される。例えば、特異的なペプチドリガンド結合相互作用では、PDAC細胞対正常導管細胞に関して2倍高い吸光度の比を示した
。
【0071】
さらに、親和性は、複合体中の構成要素の結合力を測定することにより、親和性定数(結合定数)(Kα)を以下のように計算して定量的に測定され得る:結合平衡がA(リガンド)+B(受容体分子)=ABで表される構成要素AおよびBにおいて、結合定数が[AB]/[A][B]で与えられ、この値は、A−B間の結合が強くなるほど大きくなり、A−B間の結合が弱くなるほど小さくなる。これとは対照的に、解離定数(Kd)は、複合体が解離する傾向の尺度を示すものであり、解離定数は[A][B]/[AB]で表され、強い結合ほどKdは小さくなるのに対し、弱い結合ほどKdは大きくなる。例えば、結合分子とリガンドとの選択的相互作用に対する結合定数Kdは、10
−3Mからピコモルの値までの範囲であり得、例えば、選択的結合相互作用に対する結合定数Kdは、一般に10
−3Mよりも大きく、好ましくは10
−4Mより大きく、より好ましくは10
−5Mよりも大きく、さらにより好ましくは10
−6Mよりも大きい。高親和性相互作用では、一般に10
−8M〜10
−9Mよりも大きく、より好ましくは10
−9Mよりも大きい。
【0072】
本明細書で使用される「結合活性」という用語は、リガンドと受容体分子との結合力の合計を指し、したがって相互作用の強さは、複数の低親和性相互作用または少数の高親和性相互作用から生じ得る、パートナー間の複数の独立した結合相互作用を含む。
【0073】
本明細書で使用される「付着する/させる」または「付着」または「付着させた」または「付着している」という用語は、「結合する/させる(bind)」または「結合」または「結合する/させる(binds)」または「結合した」と互換的に使用され、安定な複合体の形成を生じる分子間の任意の物理的関係、例えば、ペプチドまたは小分子のようなリガンドと「結合パートナー」または「受容体分子」との間の物理的関係などを指す。この関係は、選択的非共有結合、イオン結合、水素結合、共有結合、ファンデルワールス力または疎水結合を非限定的に含む、物理化学的相互作用により媒介される。
【0074】
ペプチド(リガンド)と受容体(分子)との相互作用に関連した「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、特定の構造(すなわち、リガンドのアミノ酸配列またはタンパク質内のリガンド結合ドメイン)に依存する相互作用も指す;言い換えれば、ペプチドは、結合パートナー内の特定のタンパク質構造を認識し、一般の分子ではなく前者と結合することを可能にする構造を含む。例えば、リガンドが結合ポケット「A」に対して特異的である場合、標識ペプチドリガンド「A」(単離されたファージディスプレイペプチドまたは単離合成ペプチドなど)および非標識ペプチドリガンドを含み、結合ポケット「A」を含むタンパク質が存在する反応において、非標識ペプチドリガンドは、結合パートナーと結合する標識ペプチドリガンドの量を減少させることになる(つまり、競合結合アッセイのこと)。
【0075】
「特異的に結合する」は、結合部分(例えば、オリゴヌクレオチドまたは抗体)のような分子が、試料中に他の分子が存在する中で、標的分子(例えば、核酸またはタンパク質)のような別の分子と優先的に結合することを意味する。
【0076】
本明細書で使用される「アミノ酸配列」という用語は、本明細書で使用される場合、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドの一次(すなわち、直線状の)構造を指し、ここでは個々のアミノ酸は、ペプチド結合により連結されている。
【0077】
本明細書で使用される「受容体」という用語は、本明細書で使用される場合、任意の「結合分子」または「結合パートナー」(例えば、癌細胞タンパク質に「認識される」または「結合する」あるいはペプチドリガンド「から溶出される」)を指し、本発明のアミノ
酸ペプチド配列が相互作用するまたは特異的に結合すると考えられるペプチド、タンパク質または糖タンパク質を非限定的に含む。例えば、結合分子は、細胞表面上または細胞内に存在し得る。結合分子の一例は、本発明の配列番号1と相互作用するプレクチン−1分子である。本明細書で使用される「結合分子」という用語は、癌細胞または腫瘍細胞により発現されペプチドリガンドと選択的に結合することができる、十分な大きさおよび複雑性を有する分子を指す。このような分子は、一般にはポリペプチドのような高分子であるが、核酸、炭水化物および脂質を包含する。結合分子の大きさは、その分子がペプチドリガンドとの結合活性を示すかまたは示させることができる限り重要ではない。
【0078】
本明細書で使用される、「癌細胞」または「細胞」または「宿主細胞」に関連した「標的細胞」という用語は、本発明の任意のアッセイにおいてペプチドリガンドの標的として使用される任意の細胞または分子を指す。「標的細胞」は、対象とする特定のバイオマーカーを天然に発現するか、あるいは通常のまたは変異したバイオマーカーを産生するように遺伝的に変化させた、任意の細胞も指す。
【0079】
本明細書で使用される「標的結合分子」または「標的受容体」という用語は、単離ペプチドリガンドのような対象とするペプチドリガンドの結合パートナー分子である、既知および未知の両方の分子を指す。
【0080】
ポリペプチドと関連した「バリアント」および「変異体」という用語は、別のポリペプチド、通常は関連するポリペプチドと1つまたは複数のアミノ酸が異なっているアミノ酸配列を指す。バリアントは、置換アミノ酸が類似の構造的または化学的特性を有するような、「保存的」変化を有し得る。1つのタイプの保存的アミノ酸置換は、類似の側鎖を有する残基の互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンであり;脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリンおよびスレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギンおよびグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループは、リジン、アルギニンおよびヒスチジンであり;ならびに硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換のグループは:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリンおよびアスパラギン−グルタミンである。より稀には、バリアントは、「非保存的」変化(例えば、グリシンとトリプトファンの置換)を有し得る。同様な少数のバリアントはまた、アミノ酸の欠失または挿入(すなわち、追加)あるいはその両方を有し得る。いずれのおよび何個のアミノ酸残基が生物学的活性を失うことなく置換、挿入または欠失され得るかを決定する際の手引きは、当該分野で公知のコンピュータプログラム、例えば、DNAStarソフトウェアを用いて見出し得る。バリアントは、機能アッセイにおいて試験し得る。好ましいバリアントは、10%未満、好ましくは5%未満、さらにより好ましくは2%未満の変化を(置換、欠失などを問わず)有する。
【0081】
本明細書で使用される「核酸分子」という用語は、核酸を含有する任意の分子を指し、DNAまたはRNAを非限定的に包含するが、これらに限定されない。この用語は、DNAおよびRNAの任意の既知の塩基類似体を含む配列を包含し、既知の塩基類似体としては、4−アセチルシトシン、8−ヒドロキシ−N−6−メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、プソイドイソシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルアデニン、1−メチルプソイドウラシル、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデ
ニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−メチルアデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、ベータ−D−マンノシルキュエオシン、5’−メトキシカルボニルメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N−6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、オキシブトキソシン、プソイドウラシル、キュエオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、N−ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、プソイドウラシル、キュエオシン、2−チオシトシンおよび2,6−ジアミノプリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、ポリペプチド、前駆体またはRNA(例えば、rRNA、tRNAなど)の産生に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNA)配列を指す。ポリペプチドは、完全長またはフラグメントの所望の活性または機能的特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、免疫原性など)が保持される限り、完全長のコード配列によりまたはコード配列の任意の部分によりコードされ得る。この用語は、構造遺伝子のコード領域ならびにこのコード領域の5’および3’両末端側に隣接して位置し両端約1kbまたはそれを超える距離にわたる配列も包含し、したがってこの遺伝子は完全長のmRNAの長さに相当する。コード領域の5’側に位置しかつmRNA上に存在する配列は、5’非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3’側または下流に位置しかつmRNA上に存在する配列は、3’非翻訳配列と呼ばれる。
【0083】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、cDNAおよびゲノム両形態の遺伝子を包含する。ゲノム形態またはクローンの遺伝子は、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる非コード配列で隔てられたコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり;イントロンは、エンハンサーのような調節エレメントを含み得る。イントロンは、核または一次転写産物から除去または「スプライスアウト」され;したがってイントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写産物中に存在しない。mRNAは、翻訳中に新生ポリペプチド中のアミノ酸の配列または順序を指定するよう機能する。
【0084】
本明細書で使用される「遺伝子発現」という用語は、遺伝子中にコードされている遺伝情報を、遺伝子の「転写」により(例えば、RNAポリメラーゼの酵素作用を介して)RNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNAまたはsnRNA)に変換する、およびタンパク質をコードする遺伝子に関してはmRNAの「翻訳」によりタンパク質へ変換する過程を指す。遺伝子発現は、この過程において多くの段階で制御される。「上方制御」または「活性化」は、遺伝子発現産物(例えば、RNAまたはタンパク質)の産生を増加させる制御を指すのに対し、「下方制御」または「抑制」は、産生を減少させる制御を指す。上方制御または下方制御に関与する分子(例えば、転写因子)は、それぞれ「アクチベーター」および「レプレッサー」と呼ばれることが多い。
【0085】
本明細書で使用される「標識」という用語は、本明細書で使用される場合、検出可能な(好ましくは定量化できる)シグナルをもたらすために使用され得る、および核酸またはタンパク質に付着させ得る、任意の原子または分子を指す。標識は、蛍光、放射活性、比色分析、重量分析、X線回折または吸収、磁性、酵素活性などにより検出可能なシグナルをもたらし得る。標識は、荷電部分(正または負荷電)であり得るか、あるいは荷電中性であり得る。標識は、その標識を含む配列が検出可能である限り、核酸またはタンパク質配列を含むかまたはこれらから構成され得る。
【0086】
本明細書で使用される「リンカー」という用語は、架橋という形で1つの分子または配
列と別の分子または配列とを付着させる、分子またはアミノ酸配列のような配列を指す。「架橋された」、「コンジュゲートされた」または「結合された」は、共有結合または非共有結合またはファンデルワールス力のようなその他の結合により付着または結合されていることを意味する。
【0087】
本明細書で使用される「細胞培養」という用語は、細胞の任意のインビトロ培養を指す。この用語には、連続細胞株(例えば、不死化表現型)、初代細胞培養物、有限細胞株(例えば、非形質転換細胞)およびインビトロで維持されるその他の任意の細胞集団が包含される。
【0088】
本明細書で使用される「上皮細胞」という用語は、膵管細胞のような、立方形で一般に組織表面上に位置する有核細胞を指す。上皮細胞層は一般に、輸送過程にも関与し得る保護的な内層および/または表面を形成するよう機能する。上皮細胞は、当該分野で公知の組織学的方法を用いて非上皮細胞(例えば、筋細胞、神経細胞、分泌細胞など)と容易に区別される。
【0089】
本明細書で使用される「内皮細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、管腔を含む身体器官(例えば、血管、腸管、リンパ管または導管など)の内層を形成し得る任意の細胞を指す。通常、内皮細胞は、物理的および化学的保護をもたらし、さらに栄養分またはその他の代謝的に活性な化合物の選択的吸収ももたらす。
【0090】
本明細書で使用される、膵臓に関連した「導管細胞」は、膵臓内のまたは膵臓から出る導管の導管内層を形成する能力を有するかまたは導管内層に由来する任意の細胞を指す。
【0091】
本明細書で使用される、器官に関連した「膵臓」は、結合組織により結び付いた複数の細胞型の集まりを指し、これら複数の細胞には、腺房細胞、導管細胞および島細胞が包含されるが、これらに限定されない。「腺房」は、十二指腸内の食物を消化するのに必要とされる、リパーゼのような多くの酵素を産生する。腺房により産生された酵素は、導管と呼ばれる細い管により十二指腸へ運ばれる。通常、導管細胞は、結合組織により血管細胞および神経細胞に近接した位置に保持されている。ランゲルハンス島は通常、膵臓の外分泌腺房単位の間に埋め込まれている。内分泌細胞の例は、インスリンの働きを抑えるグルカゴンを分泌するアルファ細胞であり、これに対してベータ細胞は、糖質代謝の調節を助けるインスリンを分泌する。
【0092】
本明細書で使用される「膵臓癌」は、膵臓を含む組織内で発生する、膵管腺癌細胞のような癌を指す。
【0093】
本明細書で使用される「腺癌」は、腺(空間を取り囲む細胞の集まり)を形成する細胞からなる良性(非癌性)腫瘍を指す「腺腫」に対して、癌性腫瘍を指す。
【0094】
本明細書で使用される「膵管腺癌細胞」は、膵臓の導管内層を形成する能力を有していたまたは導管内層に由来する癌性細胞を指す。膵管腺癌細胞は、腺を形成する膵臓内に見られるか、またはあらゆる転移細胞として器官内に見られるか、またはリンパ系の血流中に見られ得る。
【0095】
本明細書で使用される「被検体中の癌の特徴付け」という用語は、良性、前癌性または癌性の組織の存在、癌の段階および被検体の予後を非限定的に含む、被検体中の癌試料の1つまたは複数の特性の同定を指す。癌は、本明細書に開示される癌マーカーを非限定的に含めた1つまたは複数の癌マーカー遺伝子の発現を同定することにより特徴付けられ得る。
【0096】
本明細書で使用される「幹細胞癌マーカー」という用語は、単独または他の遺伝子と組み合わせた発現レベルが腫瘍化癌細胞の存在と相関している遺伝子またはその遺伝子により発現されるペプチドを指す。その相関関係は、その遺伝子発現の減少または増加(例えば、mRNAレベルまたはその遺伝子にコードされるペプチドレベルの増加または減少)と関連し得る。
【0097】
本明細書で使用される「被検体中の癌検出用キット使用のための説明書」という用語は、被検体由来の試料中における癌の検出および特徴付け用キットに含まれる試薬を使用するための説明書を包含する。
【0098】
本明細書で使用される「予後診断を提供する」という用語は、癌の存在(例えば、本発明の診断法により判定されるような)が被検体の将来の健康状態に与える影響に関する情報(例えば、予想される罹患率または死亡率、癌に罹患する可能性および転移のリスク)を提供することを指す。
【0099】
本明細書で使用される「術後腫瘍組織」という用語は、(例えば手術中に)被検体から除去された癌性組織(例えば生検組織)を指す。
【0100】
本明細書で使用される「癌を有すると診断された被検体」という用語は、検査され癌性細胞を有することが判明した被検体を指す。癌は、生検、X線、血液検査および本発明の診断法を非限定的に含めた適切な任意の方法を用いて診断され得る。
【0101】
本明細書で使用される、膵臓細胞に関連した「非癌性」という用語は、その発生段階および活性に応じた制御可能な細胞増殖および機能的生理を示す細胞を指す。
【0102】
本明細書で使用される「腫瘍」という用語は、無制御かつ進行性である過剰な細胞分裂により生じる異常な組織の塊を指す。腫瘍は新生物とも呼ばれる。腫瘍は、良性(癌性でない)または悪性であり得る。
【0103】
本明細書で使用される「腫瘍細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、任意の無制御な増殖パターンまたは変化した生理機能を示す任意の細胞の塊を指す。腫瘍細胞は、生物体内のあらゆる組織に由来し得る(例えば、膵管腫瘍細胞)。
【0104】
本明細書で使用される「癌」という用語は、無制御で異常な細胞増殖により特徴付けられる100を超える疾患の総称である。癌細胞は、局所的に拡散し得るか、または血管内に侵入し血流およびリンパ系を経て体の他の部分へ拡散し転移を形成し得る。拡散する癌細胞は「悪性」と呼ばれる。
【0105】
本明細書で使用される、哺乳動物における生理的状態に関連した「癌」および「癌性」という用語は、通常、無制御な細胞増殖により特徴付けられる。癌の例として、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫および白血病が挙げられるが、これらに限定されない。このような癌のより詳細な例として、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌腫、肺扁平上皮癌、腹膜癌、肝細胞癌、消化管癌、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌腫ならびに様々な型の頭部および頸部癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
本明細書で使用される「悪性」という用語は、退形成、近接領域または血管系などへの浸透ならびに転移という特性を有することを指す。
【0107】
本明細書で使用される「浸潤性」または「転移」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞、特に浸潤性の癌細胞または腫瘍細胞の任意の移動を指す。この用語は、創傷治癒線維芽細胞のような正常な浸潤性の細胞および異常に移動する細胞にも適用される。この用語は、いかなる機構原理にも制限されるべきではないが、このような細胞は、体がそれらを正常に機能するよう十分に「適切な位置に」保つ手段を打ち破ることにより移動すると考えられている。このような細胞が組織または腫瘍内を異常に移動するか、あるいは組織から逸脱するか、あるいは他の組織に浸潤する場合、それらは「浸潤性」である。
【0108】
本明細書で使用される「細胞の移動」という用語は、ある細胞集団が1つの場所から別の場所へ移動することを指す。このような細胞の移動は、形態形成中の神経冠細胞の移動のような場合は正常であり得、あるいは原発部位から近接領域、血管系へ、そしてそこから元のまたは他の器官の新たなまたは二次部位へ悪性癌細胞が移動する場合は正常であり得ない。
【0109】
本明細書で使用される「インビトロ」という用語は、人工環境ならびに人工環境内で起こる過程または反応を指す。インビトロ環境は、制御された実験室環境からなるが、これに限定されない。
【0110】
本明細書で使用される「インビボ」という用語は、天然環境(例えば、生体内または細胞内)ならびに天然環境内で起こる過程または反応を指す。あるいは、「インビトロ」という用語は、実験用ペトリ皿内での実験のような、所与の実験を生体外の制御された環境内で行うことを指す。
【0111】
本明細書で使用される、ペプチドリガンドに関連した「阻害する」という用語、例えば「悪性細胞の移動を阻害するペプチドリガンド」または「癌細胞の増殖を阻害するペプチドリガンド」は、それぞれ移動または増殖の部分的または全体的な阻害を指す。
【0112】
本明細書で使用される、治療に関連した「患者における癌の縮小」という用語は、患者における癌細胞数の減少、患者における癌細胞増殖の低下、患者における癌細胞転移の減少のための任意の治療を指し、癌症状の軽減または患者の寿命延長のための任意の対応形式を包含する。
【0113】
本明細書で使用される「ELISA」という用語は、酵素結合免疫測定法を指す。ELISAを行うための数多くの方法および応用法が当該分野で公知であり、多くの情報源にて提供されている(例えば、Crowther,「Enzyme−Linked Immunosorbent Assay(ELISA)」,in Molecular Biomethods Handbook,Rapleyら,[eds.],pp.595−617,Humana Press,Inc.,Totowa,N.J.[1998];HarlowおよびLane(eds.),Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory
Press[1988];ならびにAusubelら(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,Ch.11,John Wiley & Sons,Inc.,New York[1994];ならびにNewtonら,(2006)Neoplasia.8:772−780を参照されたい)。本発明のいくつかの実施形態において、「直接ELISA」のプロトコールが提供され、ここでは、最初に細胞、細胞溶解物または単離されたタンパク質のような標的結合分子を、マイクロタイタープレートウェルに結合させて固定化しておく。別の実施形態において、「サンドイッチELISA」が提供され、ここでは、予めマイクロタイタープレートウェルに結合させておいた抗体で標的結合分子を捕捉することにより、これを基質を付着
させる。ELISA法では、蛍光標識したリガンドまたは抗体−酵素コンジュゲートの蛍光検出を用いて固定化されたリガンド−受容体複合体(結合)を検出し、ここでは、抗体がファージ粒子のような対象とする抗原に対して特異的であり、一方、酵素部分が、呈色したまたは蛍光を発する反応産物の生成により可視化および定量化を可能にする。ELISAで一般に用いられるコンジュゲートされた酵素として、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコアミラーゼまたはO−ガラクトシダーゼが挙げられる。発色強度は、反応ウェルに存在する抗原の量に比例する。
【0114】
本明細書で使用される「医薬組成物」は、ある配列または本発明の配列を含む組成物である。医薬組成物は、担体、薬学的に許容される添加剤などをさらに含み得る。「医薬組成物」および「治療用組成物」という用語は、本明細書において互換的に使用される。医薬組成物は、いかなる特定の担体または添加剤またはその他の成分にも限定されないものとする。
【0115】
本明細書で使用される「治療剤」という用語は、細胞機能を阻害する、細胞複製を阻害する、または哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞を殺すことができる、化学物質または薬物またはタンパク質を指す。
【0116】
本明細書で使用される、「キット」という用語は、試薬、特に本発明のペプチドリガンドとその他の材料との組合せに関して使用される。キットは、試薬、例えばファージディスプレイペプチド、単離ペプチドリガンド、任意の1つの蛍光マーカーとコンジュゲートされたペプチドリガンド、ナノ粒子、MRI用コンジュゲート、治療用コンジュゲート、抗体、対照タンパク質などおよび検査容器(例えば、マイクロタイタープレートなど)を含み得ることが意図される。「キット」という用語は、試薬および/またはその他の材料の特定の組み合わせに限定されないものとする。
【0117】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本発明で使用するために、方法および材料が本明細書に記載されているが、当該分野で公知である他の適切な方法および材料も使用され得る。材料、方法および実施例は、単に例示的なものであって、限定することを意図したものではない。本明細書で言及される刊行物、特許出願、特許、配列、データベース登録物およびその他の参照物は、その内容全体が参照により援用される。矛盾が生じた場合は、定義を含めた本明細書が統制する。
【0118】
本発明のその他の特長および利点は、以下の詳細な説明および図からならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。