特許第6046083号(P6046083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6046083アクリル系樹脂フィルムの製造方法及びフィルム積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046083
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】アクリル系樹脂フィルムの製造方法及びフィルム積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
【請求項の数】2
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-131846(P2014-131846)
(22)【出願日】2014年6月26日
(62)【分割の表示】特願2009-534294(P2009-534294)の分割
【原出願日】2008年9月17日
(65)【公開番号】特開2014-208491(P2014-208491A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2014年6月26日
【審判番号】不服2016-3577(P2016-3577/J1)
【審判請求日】2016年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2007-256639(P2007-256639)
(32)【優先日】2007年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宇賀村 忠慶
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 宏和
(72)【発明者】
【氏名】福田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】高木 雅人
(72)【発明者】
【氏名】北谷 政明
【合議体】
【審判長】 千葉 成就
【審判官】 井上 茂夫
【審判官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−230016(JP,A)
【文献】 特開2002−363510(JP,A)
【文献】 特開2005−338150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が115℃以上、200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムの片面に、保護フィルムが貼り付けられたロール状のフィルム積層体であって、
上記アクリル系樹脂フィルムは、N−置換マレイミドが共重合されているか、あるいは、分子鎖中にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、若しくはグルタルイミド構造が導入されており、
上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上、0.07N/50mm幅以下の範囲内であることを特徴とするフィルム積層体。
【請求項2】
上記保護フィルムの膜厚が、30μmであることを特徴とする請求項1に記載のフィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂フィルムと保護フィルムとから成るフィルム積層体、並びに当該フィルム積層体を用いるアクリル系樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」と表す)に代表されるアクリル系樹脂は、光学性能に優れ、高い光線透過率や低複屈折率、低位相差の光学等方材料として従来各種光学材料に適用されている。近年、液晶表示装置やプラズマディスプレイ、有機EL表示装置等のフラットディスプレイや赤外線センサー、光導波路等の進歩に伴い、光学用透明高分子材料の耐熱性に対する要請が高まっていることから、アクリル系樹脂に対しても、耐熱性の高さが要求されるようになってきている。
【0003】
耐熱性を有するアクリル系樹脂(以下「耐熱アクリル系樹脂」と称する)としては、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体をラクトン環化縮合反応させることによって得られるラクトン環含有重合体(例えば、特許文献1〜4参照)や、マレイミド類を共重合したマレイミド系共重合体(例えば、特許文献5参照)、グルタル酸無水物骨格を有するアクリル系重合体(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜6に記載のアクリル系樹脂を含むフィルム(アクリル系樹脂フィルム)は柔軟性に欠けるため、フィルムの破断やひび割れが生じ易く、安定的に製造することが困難であるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−230016号公報(2000年8月22日公開)
【特許文献2】特開2001−151814号公報(2001年6月5日公開)
【特許文献3】特開2002−120326号公報(2002年4月23日公開)
【特許文献4】特開2002−254544号公報(2002年9月11日公開)
【特許文献5】特開平09−324016号公報(1997年12月16日公開)
【特許文献6】特開2006−283013号公報(2006年10月19日公開)
【発明の開示】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、破断やひび割れを抑制して安定的に製造することができるアクリル系樹脂フィルムの製造方法並びに当該方法に用いるフィルム積層体を実現することにある。
【0007】
本発明に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに保護フィルムを貼り付ける工程を含むアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であることを特徴としている。
【0008】
上記方法によれば、アクリル系樹脂フィルムに保護フィルムを貼り付ける工程を含むため、アクリル系樹脂フィルムの破断やひび割れを抑制することができる。具体的には、アクリル系樹脂フィルムは、柔軟性(可撓性)に欠けるため、製造装置の湾曲が多い部分を走行する際や、ロール状に巻き取られる際等に、破断やひび割れを生じ易いが、上記保護フィルムを貼り付けることにより、アクリル系樹脂フィルムの破断やひび割れを抑制することができる。これにより、アクリル系樹脂フィルムを安定的に製造することができる。
【0009】
更には、上記保護フィルムは上記範囲内の初期粘着力を有するため、保護フィルムを剥がす際のフィルムのひび割れを抑制することができる。
【0010】
従って、上記方法によれば、外観に優れたアクリル系樹脂フィルムを安定的に製造することができるという効果を奏する。
【0011】
本発明に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法では、張力テーパーを5%以上30%以下の範囲内の割合とし、ロール径の増加に伴い張力を減少させることにより、保護フィルムを貼り付けた上記アクリル系樹脂フィルムをロール状に巻き取る工程を更に含むことが好ましい。
【0012】
上記方法によれば、ロール径の増加に伴い張力を減少させてフィルムをロール状に巻き取るため、得られるフィルムロールの巻き崩れを抑制することができる。このため、形状が均一なフィルムロールを作製することができる。従って、上記方法によれば、より効率良く製造することができ、且つ安定的に運搬することができるという更なる効果を奏する。
【0013】
本発明に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法では、上記アクリル系樹脂フィルムの厚さが50μm以上600μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0014】
上記方法によれば、フィルムロールとした場合に、フィルムロールの巻き崩れをより抑制することができる。このため、形状がより均一なフィルムロールを作製することができる。
【0015】
本発明に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法では、上記アクリル系樹脂がラクトン環構造を有する重合体を含むことが好ましい。
【0016】
上記方法によれば、ラクトン環構造を有する重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形品中への気泡やシルバーストリークの混入を防ぐことができる。また、ラクトン環構造を有する重合体は、ラクトン環構造に起因する高い耐熱性を有する。従って、外観と耐熱性とにより優れたフィルムを製造することができる。
【0017】
本発明に係るフィルム積層体は、上記課題を解決するために、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに、保護フィルムが貼り付けられたフィルム積層体であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であることを特徴としている。
【0018】
また、本発明に係るフィルム積層体は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに、保護フィルムが貼り付けられたフィルム積層体であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であることを特徴としている。
【0019】
上記構成によれば、アクリル系樹脂フィルムに保護フィルムが貼り付けられているため、アクリル系樹脂フィルムの破断やひび割れを抑制することができる。このため、ロール状に巻き取ったり、運搬したりする際に生じ得るフィルムの破断やひび割れを抑制することができる。
【0020】
更には、上記保護フィルムは所定の初期粘着力若しくは粘着力を有するため、保護フィルムを剥がす際のフィルムのひび割れを抑制することができる。
【0021】
従って、上記構成によれば、外観に優れたアクリル系樹脂フィルムを提供することができ、且つ安定して運搬等することができるフィルム積層体を提供することができるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係るフィルム積層体では、上記アクリル系樹脂がラクトン環構造を有する重合体を含むことが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、ラクトン環構造を有する重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形品中への気泡やシルバーストリークの混入を防ぐことができる。また、ラクトン環構造を有する重合体は、ラクトン環構造に起因する高い耐熱性を有する。従って、外観と耐熱性とにより優れたフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得るものである。
【0025】
尚、本明細書では、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「主成分」とは50質量%以上含むことを意味し、「ppm」は特に断らない限り質量換算で求められる値を意味し、例えば、10,000ppmは1質量%を意味する。また、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱い、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
【0026】
また、本明細書における「フィルム」には、フィルム状のものもシート状のものも含まれるものとする。上記アクリル系樹脂フィルムの膜厚は、特に限定されるものではないが、50μm以上600mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0027】
更には、本明細書における「張力テーパー」とは、初期張力に対するフィルムが巻き取り終わる時点での張力の減少率(下降率)を意味する。ここで、初期張力は2Nを超え100N未満の範囲内であれば、どのような値であっても構わない。
【0028】
本実施の形態に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに保護フィルムを貼り付ける工程を含むアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内である方法である。
【0029】
(I)アクリル系樹脂
ガラスに成り得る物質は一般に、低温のガラス状態にあるときと高温の過冷却液体状態にあるときとで、物質に固有な狭い温度域を境にして、熱膨張係数や電気伝導度、粘度等の温度係数その他の物理量が急激に変化する。ガラス転移温度とは、この境の温度域をいい、ポリマー分子がミクロブラウン運動を始める温度のことである。
【0030】
ガラス転移温度には各種の測定方法があるが、本明細書においては示差走査熱量計(DSC)によってASTM−D−3418に従って中点法で求めた温度と定義する。
【0031】
本実施の形態に係るアクリル系樹脂は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であり、当該アクリル系樹脂は、一般に当該業者の間では耐熱アクリル系樹脂として認められる。
【0032】
ガラス転移温度が200℃より高いと、溶融樹脂の流動性が悪くなるため、フィルムの成形が困難となる傾向がある。ガラス転移温度は、より好ましくは115℃以上180℃以下の範囲内であり、更に好ましくは120℃以上160℃以下の範囲内である。
【0033】
また、上記アクリル系樹脂は、剪断速度が100(1/s)である場合における樹脂温度270℃での粘度が250Pa・s以上1000Pa・s以下の範囲内であることが好ましい。尚、剪断速度とは、流体の流れが壁に沿っている場合に、壁面に垂直な方向の位置の違いに基づく流速変化をいう。剪断速度は、通常、壁面で最大値をとり、壁面から離れるほど小さくなる。尚、100(1/s)の剪断速度は、押出機で通常作用する速度の中心値である。加えて、上記アクリル系樹脂は、剪断速度が100(1/s)である場合における樹脂温度250℃での粘度が300Pa・s以上2000Pa・s以下の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
上記粘度を測定する方法としては特に限定されるものではなく、従来公知のレオメーター等を用いて測定することができ、本明細書に記載の粘度は、後述する実施例に記載されている方法により求められる粘度を意味する。
【0035】
上記アクリル系樹脂としては、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であれば、特に限定されず、公知の(メタ)アクリル酸系熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0036】
上記アクリル系樹脂としては、例えば、一般式(1)
【0037】
【化1】
【0038】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を示し、有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、枝分かれ鎖状、若しくは環状のアルキル基を示す)
で表される構造を有する水酸基含有単量体、アクリル酸、メタクリル酸及びその誘導体を主成分として含む単量体(組成物)を重合して得られる樹脂及びその誘導体が挙げられる。
【0039】
上記(メタ)アクリル酸誘導体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシへキシル及び(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、熱安定性に優れる点で(メタ)アクリル酸メチルが最も好ましい。
【0040】
また、上記アクリル系樹脂は、耐熱性の観点より、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド及びメチルマレイミド等のN−置換マレイミドが共重合されていてもよいし、分子鎖中(重合体中の主骨格中又は主鎖中ともいう)にラクトン環構造、グルタル酸無水物構造、若しくはグルタルイミド構造等が導入されていてもよい。
【0041】
中でも、フィルムの着色(黄変)し難さの点で、窒素原子を含まない構造が好ましい。また、正の複屈折率(正の位相差)を発現させ易い点で、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系熱可塑性樹脂がより好ましい。主鎖中のラクトン環構造に関しては、4〜8員環でもよいが、構造の安定性から5〜6員環の方がより好ましく、特に6員環が好ましい。このように、主鎖中のラクトン環構造が6員環である場合としては、一般式(2)
【0042】
【化2】
【0043】
(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表し、有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、枝分かれ鎖状、若しくは環状のアルキル基を示し、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい)
や、特開2004−168882号公報において表される構造等が挙げられる。これらの中でも、主鎖にラクトン環構造を導入する前の重合体を合成する際に、重合収率が高い点や、ラクトン環構造の含有割合の高い重合体を高い重合収率で得易い点や、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステルとの共重合性が良い点で、一般式(2)で表される構造であることがより好ましい。
【0044】
また、上述したアクリル系樹脂は、耐熱性を損なわない範囲で共重合可能なその他の単量体成分と共重合していてもよく、その他の単量体成分の構造単位を有していてもよい。共重合可能なその他の単量体成分としては、具体的にはスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル等のニトリル系単量体、酢酸ビニル等のビニルエステル類等が挙げられる。
【0045】
上記アクリル系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1,000以上2,000,000以下の範囲内、より好ましくは5,000以上1,000,000以下の範囲内、更に好ましくは10,000以上500,000以下の範囲内、特に好ましくは50,000以上500,000以下の範囲内である。
【0046】
上記アクリル系樹脂を製造する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いて(メタ)アクリル酸エステルを含有する単量体組成物を重合すればよい。
【0047】
重合温度、重合時間は、使用する単量体(単量体組成物)の種類、使用比率等によって異なるが、好ましくは、重合温度が0℃以上150℃以下の範囲内、重合時間が0.5時間以上20時間以下の範囲内であり、より好ましくは、重合温度が80℃以上140℃以下の範囲内、重合時間が1時間以上10時間以下の範囲内である。
【0048】
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。後述するラクトン環含有重合体を製造する場合は、使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50℃以上200℃以下の範囲内のものが好ましい。
【0049】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;等が挙げられ、これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0050】
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50質量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50質量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50質量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。尚、重合反応混合物中の重合体の濃度があまりに低すぎると生産性が低下するため、重合反応混合物中の重合体の濃度は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
【0051】
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより十分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基及びエステル基の割合を高めた場合であってもゲル化を十分に抑制できる。
【0052】
添加する重合溶剤としては、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの溶剤であってもよいし、2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0053】
上記重合反応を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれている。上記重合体を、以下に詳述するラクトン環含有重合体とする場合では、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で、その後に続くラクトン環化縮合工程を行うことが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0054】
重合反応によって得られたアクリル系樹脂の色相は特に問わないが、透明であり黄変度が小さい方がアクリル系樹脂の本来の特徴を損なわない為、好適である。上記アクリル系樹脂は例えば3mm厚の成形体とした場合のヘイズ値が3以下、更に好ましくは2以下、最も好ましくは1以下である。また該成形体のYI(イエローインデックス)値が、10以下、好ましくは5以下である。
【0055】
〔ラクトン環含有重合体〕
上記アクリル系樹脂としては、透明性、耐熱性、光学等方性が何れも高く、各種光学用途に応じた特性を十分に発揮できるため、(メタ)アクリル酸エステルの共重合体に、分子内環化反応によりラクトン環構造を導入した、いわゆるラクトン環含有重合体であることが好ましく、当該ラクトン環含有重合体はラクトン環構造を主成分としていることが特に好ましい。尚、「主成分」とはアクリル系樹脂の総質量に対して50質量%以上含有しているという意味である。
【0056】
上記ラクトン環含有重合体は、特に限定されるものではないが、好ましくは、一般式(2)で表されるラクトン環構造を有する。
【0057】
ラクトン環含有重合体構造中の、一般式(2)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5質量%以上90質量%以下の範囲内、より好ましくは10質量%以上70質量%以下の範囲内、更に好ましくは10質量%以上60質量%以下の範囲内、特に好ましくは10質量%以上50質量%以下の範囲内である。上記含有割合が5質量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。また、上記含有割合が90質量%よりも多いと、成形加工性に乏しくなることがあり、好ましくない。
【0058】
ラクトン環含有重合体は、一般式(2)で表されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。一般式(2)で表されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されないが、例えば(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(3)
【0059】
【化3】
【0060】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R基、又はC−O−R基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R及びRは水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表し、有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、枝分かれ鎖状、若しくは環状のアルキル基を示す)
で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0061】
ラクトン環含有重合体において、(メタ)アクリル酸エステルを重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、その含有割合は、好ましくは10質量%以上95質量%以下の範囲内、より好ましくは10質量%以上90質量%以下の範囲内、更に好ましくは40質量%以上90質量%以下の範囲内、特に好ましくは50質量%以上90質量%以下の範囲内である。
【0062】
また、水酸基含有単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、その含有割合は、好ましくは0質量%以上30質量%以下の範囲内、より好ましくは0質量%以上20質量%以下の範囲内、更に好ましくは0質量%以上15質量%以下の範囲内、特に好ましくは0質量%以上10質量%以下の範囲内である。
【0063】
また、不飽和カルボン酸を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、その含有割合は、好ましくは0質量%以上30質量%以下の範囲内、より好ましくは0質量%以上20質量%以下の範囲内、更に好ましくは0質量%以上15質量%以下の範囲内、特に好ましくは0質量%以上10質量%以下の範囲内である。
【0064】
また、一般式(3)で表される単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、その含有割合は、好ましくは0質量%以上30質量%以下の範囲内、より好ましくは0質量%以上20質量%以下の範囲内、更に好ましくは0質量%以上15質量%以下の範囲内、特に好ましくは0質量%以上10質量%以下の範囲内である。
【0065】
ラクトン環含有重合体の製造方法は特に限定されるものではないが、好ましくは、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得た後に、当該重合体を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環縮合反応を行うことによって得ることができる。
【0066】
ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、重合体に高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不十分であると、耐熱性が十分に向上しなかったり、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在したりする恐れがあるため好ましくない。
【0067】
ラクトン環縮合反応を行うために、上記重合体を加熱処理する方法については、特に限定されず、公知の方法が利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
【0068】
環化縮合反応を行う際に、上記重合体に加えて、他のアクリル系樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様に、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等を用いてもよい。
【0069】
環化縮合反応を行う際には、有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。更に、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
【0070】
環化縮合反応の際に触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸等のアルキル(アリール)亜ホスホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)及びこれらのジエステルあるいはモノエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステルあるいはモノエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸ジエステルあるいはモノエステルあるいはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ、ジ若しくはトリアルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;等が挙げられる。
【0071】
これらの中でも、触媒活性が高くて低着色性のため、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸ジエステルあるいはモノエステル、リン酸ジエステルあるいはモノエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸ジエステルあるいはモノエステルが特に好ましい。これら有機リン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、上記重合体に対して、好ましくは0.001〜5質量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5質量%の範囲内、更に好ましくは0.01〜1質量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲内である。触媒の使用量が0.001質量%未満であると、環化縮合反応の反応率の向上が十分に図れない恐れがあり、一方、5質量%を超えると、着色の原因となったり、重合体の架橋により溶融賦形し難くなったりすることがあるため、好ましくない。
【0073】
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。
【0074】
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、且つ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、及び、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体に亘っては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0075】
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールとを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不十分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、泡やシルバーストリーク等の成形不良が起こったりする問題等が生じる。
【0076】
環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、使用する装置については特に限定されないが、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置やベント付き押出機、また、上記脱揮装置と上記押出機とを直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置又はベント付き押出機を用いることがより好ましい。
【0077】
上記熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。反応処理温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなる恐れがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こる恐れがある。
【0078】
上記熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜66.5hPa(600〜50mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
【0079】
上記ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でも何れでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
【0080】
上記ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、150〜350℃の範囲内が好ましく、200〜300℃の範囲内がより好ましい。上記温度が150℃より低いと、環化縮合反応が不十分となって残存揮発分が多くなる恐れがあり、350℃より高いと、着色や分解が起こる恐れがある。
【0081】
上記ベント付き押出機を用いる場合の、反応処理時の圧力は、931〜1.33hPa(700〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798〜13.3hPa(600〜10mmHg)の範囲内がより好ましい。上記圧力が931hPaより高いと、アルコールを含めた揮発分が残存し易いという問題があり、1.33hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
【0082】
尚、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られるラクトン環含有重合体の物性が悪化する恐れがあるので、好ましくは、上述した脱アルコール反応の触媒を使用し、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機等を用いて行うことが好ましい。
【0083】
また、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤とともに環化縮合反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機等の上記反応装置に通してもよい。
【0084】
脱揮工程を環化縮合反応の過程全体に亘っては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、更に加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化縮合反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行い、反応を完結させる形態である。
【0085】
先に述べた環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、2軸押出機を用いて、250℃近い、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化縮合反応が起こる前に一部分解等が生じ、得られるラクトン環含有重合体の物性が悪くなる恐れがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う前に、予め環化縮合反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られるラクトン環含有重合体の物性の悪化を抑制できるので好ましい。
【0086】
特に好ましい形態としては、脱揮工程を環化縮合反応の開始から時間をおいて開始する形態、即ち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型の反応器を用いて溶剤の存在下で環化縮合反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置の付いた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機等で、環化縮合反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特にこの形態の場合、環化縮合反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
【0087】
上述のように、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法は、ラクトン環含有重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、環化縮合反応率もより高まり、ガラス転移温度がより高く、耐熱性に優れたラクトン環含有重合体が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、実施例に示すダイナッミクTG測定における、150〜300℃間での質量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、更に好ましくは1%以下である。
【0088】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に採用できる反応器は特に限定されないが、好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置等が挙げられ、更に、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に好適なベント付き押出機も使用できる。より好ましくは、オートクレーブ、釜型反応器である。しかしながら、ベント付き押出機等の反応器を使用するときでも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュウ形状、スクリュウ運転条件等を調整することで、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化縮合反応を行うことが可能である。
【0089】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、好ましくは、重合工程で得られた重合体と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、及び、上記(i)又は(ii)を加圧下で行う方法が挙げられる。
【0090】
尚、ラクトン環化縮合工程において環化縮合反応に導入する「重合体と溶剤とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま使用してもよいし、一旦溶剤を除去した後に環化縮合反応に適した溶剤を再添加してもよいことを意味する。
【0091】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際に再添加できる溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;クロロホルム、DMSO、テトラヒドロフラン等でもよいが、好ましくは、重合工程で用いることができる溶剤と同じ種類の溶剤である。
【0092】
上記方法(i)で添加する触媒としては、一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒又はエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩等が挙げられるが、本実施の形態においては、上述の有機リン化合物を用いることが好ましい。
【0093】
触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。添加する触媒の量は特に限定されないが、重合体の質量に対し、好ましくは0.001〜5質量%の範囲内、より好ましくは0.01〜2.5質量%の範囲内、更に好ましくは0.01〜0.1質量%の範囲内、特に好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲内である。方法(i)の加熱温度と加熱時間とは特に限定されないが、加熱温度としては、好ましくは室温以上、より好ましくは50℃以上であり、加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
【0094】
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜等を用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。加熱温度としては、好ましくは100℃以上、更に好ましくは150℃以上である。加熱時間としては、好ましくは1〜20時間の範囲内、より好ましくは2〜10時間の範囲内である。加熱温度が低いと、あるいは、加熱時間が短いと、環化縮合反応率が低下するので好ましくない。また、加熱時間が長すぎると、樹脂の着色や分解が起こる場合があるので好ましくない。
【0095】
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては加圧下となっても何ら問題はない。また、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0096】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の終了時、即ち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150〜300℃の間での質量減少率は、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、更に好ましくは1%以下である。質量減少率が2%より高いと、続けて脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても、環化縮合反応率が十分高いレベルまで上がらず、得られるラクトン環含有重合体の物性が低下する恐れがある。尚、上記の環化縮合反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
【0097】
他の熱可塑性樹脂としては、ラクトン環含有重合体と熱力学的に相溶する熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを含む共重合体、具体的にはアクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル類を50質量%以上含有する重合体が挙げられる。
【0098】
これらの中でもアクリロニトリル−スチレン系共重合体が最も相溶性に優れ、耐熱性を損なわずに透明な成形体を得る事ができる。尚、ラクトン環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂とが熱力学的に相溶することは、これらを混合して得られた熱可塑性樹脂組成物のガラス転移点を測定することによって確認することができる。具体的には、示差走査熱量測定器により測定されるガラス転移点がラクトン環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂との混合物について1点のみ観測されることによって、熱力学的に相溶していると言える。
【0099】
その他の熱可塑性樹脂としてアクリロニトリル−スチレン系共重合体を用いる場合、ラクトン環含有重合体とアクリロニトリル−スチレン系共重合体とを重合する方法としては、乳化重合法や懸濁重合法、溶液重合法、バルク重合法等を用いることが可能であるが、得られるアクリル系樹脂フィルムの透明性や光学性能の観点から溶液重合法かバルク重合法で得られたものであることが好ましい。
【0100】
重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基及びエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤とを分離することなく、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行ってもよい。また、必要に応じて、上記重合体(分子鎖中に存在する水酸基及びエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を分離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行っても構わない。
【0101】
脱揮工程は、環化縮合反応と同時に終了することのみには限定されず、環化縮合反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
【0102】
ラクトン環含有重合体は、上述したように、環化縮合反応の際に触媒を使用することが好ましいが、当該触媒が樹脂中に残存していると、樹脂が加熱された際に、未反応の環形成性ユニット(即ち、未だ環を形成していないユニット)の水酸基、あるいは系中に少量存在する水等の活性水素と、アルキルエステル基とのエステル交換によりアルコールが発生して、発泡現象が起こることがある。この発泡現象を防ぐために、失活剤を配合することが好ましい。
【0103】
一般に、環化縮合反応に使用した触媒が酸性物質である場合、反応後に残存する触媒を失活させるためには、塩基性物質を使用して中和すればよい。それゆえ、環化縮合反応に使用した触媒が酸性物質である場合は、失活剤としては塩基性物質が好ましく用いられる。塩基性物質としては、熱加工時に樹脂組成物の物性を阻害する物質等を発生しない限り、特に限定されるものではない。例えば、金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物等が挙げられる。
【0104】
例えば、アクリル系樹脂として、ラクトン環含有重合体を使用した場合、上述したように、ラクトン環化縮合工程では、重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とが環化縮合して、エステル交換の1種である脱アルコール反応を起こすことにより、重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)にラクトン環構造が形成される。一般にエステル交換に使用した触媒が酸性物質である場合、反応後に残存する触媒を失活させるには、塩基性物質を用いて中和すればよい。
【0105】
それゆえ、この場合に用いられる失活剤としては、塩基性物質であって、熱加工時に樹脂組成物を阻害する物質等を発生しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、金属塩、金属錯体及び金属酸化物等の金属化合物が挙げられる。
【0106】
ここで、金属化合物を構成する金属としては、樹脂組成物の物性等を阻害せず、廃棄時に環境汚染を招くことがない限り、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム等のアルカリ土類金属;亜鉛、アルミニウム、スズ、鉛等の両性物質;ジルコニウム;等が挙げられる。
【0107】
これらの金属のうち、樹脂の着色が少ないことから、典型金属元素が好ましく、アルカリ土類金属や両性金属が特に好ましく、カルシウム、マグネシウム及び亜鉛が最も好ましい。金属塩としては、樹脂への分散性や溶剤への溶解性より、好ましくは有機酸の金属塩であり、特に好ましくは有機カルボン酸、有機リン酸化合物及び酸性有機イオウ化合物の金属塩である。有機カルボン酸の金属塩を構成する有機カルボン酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ペヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸等が挙げられる。
【0108】
有機リン酸の金属塩を構成する有機リン化合物としては、メチル亜スルホン酸、エチル亜スルホン酸、フェニル亜スルホン酸等のアルキル(アリール)亜スルホン酸(但し、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)及びこれらのモノエステル又はジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエステルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸等のジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のアルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのモノエステル又はジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸等のアルキル(アリール)亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等の亜リン酸モノエステル、ジエステル又はトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸モノエステル、ジエステル又はトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のモノ−、ジ−又はトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィン等のアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィン等の酸化モノ−、ジ−又はトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム等のハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;等が挙げられる。
【0109】
酸性有機イオウ化合物の金属塩を構成する酸性有機イオウ化合物としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。金属錯体における有機成分としては、特に限定されるものではないが、アセチルアセトン等が挙げられる。
【0110】
他方、エステル交換に使用した触媒が塩基性物質である場合には、例えば、有機リン酸化合物等の酸性物質を用いて、反応後に残存する触媒を失活させればよい。何れの場合にも、これらの失活剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。尚、失活剤は、固形物、粉末、粒状体、分散体、懸濁液、水溶液等、何れの形態で添加してもよく、特に限定されるものではない。
【0111】
失活剤の配合量は、環化縮合反応に使用した触媒の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。例えば、ラクトン環含有重合体の質量を基準として、好ましくは10ppm以上10,000ppm以下の範囲内、より好ましくは50ppm以上5,000ppm以下の範囲内、更に好ましくは100ppm以上3,000ppm以下の範囲内である。上記配合量が10ppm未満であると、失活剤の作用が不十分となり、加熱時に泡が発生することがあるため好ましくない。上記配合量が10,000ppmを超えると、失活剤の作用が飽和するとともに、必要以上に失活剤を使用することになり、製造コストが上昇することがあるため好ましくない。
【0112】
上記失活剤は、ラクトン環構造が形成された後であれば、いつ添加してもよい。例えば、ラクトン環含有重合体の製造中に所定の段階で添加し、ラクトン環含有重合体を得た後で、ラクトン環含有重合体、失活剤、その他の成分等を同時に加熱溶融させて混練する方法;ラクトン環含有重合体を製造した後、失活剤を添加し、ラクトン環含有重合体、失活剤、その他の成分等を同時に加熱溶融させて混練する方法;ラクトン環含有重合体その他の成分等を加熱溶融させておき、そこに失活剤、その他の成分等を添加して混練する方法;等が挙げられる。
【0113】
ラクトン環含有重合体は、重量平均分子量が、好ましくは1,000以上2,000,000以下の範囲内、より好ましくは5,000以上1,000,000以下の範囲内、更に好ましくは10,000以上500,000以下の範囲内、特に好ましくは50,000以上500,000以下の範囲内である。
【0114】
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150℃以上300℃以下の間での質量減少率が1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下である。
【0115】
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成形後の成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。更に、高い環化縮合反応率によってラクトン環構造が重合体に十分に導入されるため、得られたラクトン環含有重合体は十分に高い耐熱性を有している。
【0116】
ラクトン環含有重合体は、熱重量分析(TG)における5%質量減少温度が、280℃以上であることが好ましく、より好ましくは290℃以上、更に好ましくは300℃以上である。熱重量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが280℃未満であると、十分な熱安定性を発揮できない恐れがある。
【0117】
ラクトン環含有重合体は、含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは2,000ppm以下である。残存揮発分の総量が5,000ppmよりも多いと、成形時の変質等によって着色したり、発泡したり、シルバーストリーク等の成形不良の原因となる。
【0118】
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品の、ASTM−D−1003に準じた方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できない恐れがある。
【0119】
(II)保護フィルム
本実施の形態に係る保護フィルムは、23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内である表面を有するフィルムである。
【0120】
本明細書では、上記初期粘着力は、JIS Z−0237に準拠した180°剥離試験で測定した値を意味する。具体的には、ステンレス板の上に、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)を載せ、PMMA上に試験片(保護フィルム)を貼り付け、当該試験片を180°方向に速度300mm/minで引き剥がし、20mm間隔で4箇所の荷重を測定し、その平均値を初期粘着力とする。
【0121】
上記保護フィルムとしては、基材の上に粘着層がコーティング若しくは共押出されたフィルムが挙げられる。
【0122】
上記基材としては、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0123】
上記粘着層は、上記初期粘着力を付与することができるものであれば特に限定されず、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、メタロセンL−LDPE(メタロセン触媒を用いて重合した、直鎖状低密度ポリエチレン)等が好ましい。
【0124】
上記保護フィルムの膜厚は、10〜100μmの範囲内であることが好ましく、20〜90μmの範囲内であることがより好ましい。
【0125】
上記保護フィルムにおける粘着層は、上記アクリル系樹脂に保護フィルムを安定的に貼り付けることができれば、上記アクリル系樹脂フィルムと接する面全体に設けられていてもよいし、一部のみに設けられていてもよい。
【0126】
(III)アクリル系樹脂フィルムの製造方法
<製膜工程>
本実施の形態に係るアクリル系樹脂フィルムは、上述した本実施の形態に係るアクリル系樹脂から得ることができる。尚、上記アクリル系樹脂フィルムは、上記アクリル系樹脂を一旦取り出してから、後述する成形方法により作製してもよいし、上記アクリル系樹脂を取り出すことなく、後述する成形方法により連続的にフィルムを形成してもよい。
【0127】
上記アクリル系樹脂のフィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好適である。
【0128】
溶液キャスト法(溶液流延法)に使用する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0129】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーター等が挙げられる。
【0130】
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられ、その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは150〜350℃の範囲内、より好ましくは200〜300℃の範囲内である。
【0131】
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取ロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸等を行うこともできる。
【0132】
本実施の形態に係るアクリル系樹脂フィルムは、未延伸フィルムであってもよいし、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルム又は2軸延伸フィルムのどちらであってもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルム又は逐次2軸延伸フィルムのどちらであってもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。上記フィルムは、延伸しても位相差の増大を抑制することができ、光学的等方性を保持したフィルムを得ることができる。
【0133】
尚、上記アクリル系樹脂フィルムの膜厚は、50μm以上600μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0134】
本実施の形態に係る上記方法により得られるアクリル系樹脂フィルムは、上記アクリル系樹脂以外の成分を含ませることもできる。上記アクリル系樹脂以外に含み得る成分としては、アクリル系樹脂以外の重合体(その他の重合体)や、その他の添加剤等が挙げられる。
【0135】
その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;等が挙げられる。
【0136】
アクリル系樹脂フィルムにおける上記その他の重合体の含有割合は、好ましくは0質量%以上50質量%以下の範囲内、より好ましくは0質量%以上40質量%以下の範囲内、更に好ましくは0質量%以上30質量%以下の範囲内、特に好ましくは0質量%以上20質量%以下の範囲内である。
【0137】
上記その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、りん系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒロドキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;等が挙げられる。
【0138】
アクリル系樹脂フィルムにおける上記その他の添加剤の含有割合は、好ましくは0質量%以上5質量%以下の範囲内、より好ましくは0質量%以上2質量%以下の範囲内、更に好ましくは0質量%以上0.5質量%以下の範囲内である。
【0139】
上記その他の重合体や添加剤は、フィルム形成前に予めアクリル系樹脂に溶融混練しておくことが好ましい。
【0140】
<保護フィルム貼り付け工程>
保護フィルム貼り付け工程では、上記製膜工程により得られるアクリル系樹脂フィルムに、上述した保護フィルムを貼り付ける。
【0141】
上記保護フィルムを貼り付ける方法は、特には限定されず、例えば、製膜装置を走行しているフィルムラインの下側若しくは上側に設置された繰り出し機(又は巻き出し機)等のモーターを有する駆動軸に保護フィルムロールをセットし、製膜したフィルムと保護フィルムとを2つのゴムロールにより押し付けることにより貼り合わせる等の方法が挙げられる。
【0142】
また、保護フィルムは、アクリル系樹脂フィルムの片面のみに貼り合せてもよいし、両面に貼り合せてもよい。
【0143】
<巻取工程>
巻取工程では、上記保護フィルムを貼り付けたアクリル系樹脂フィルム(フィルム積層体)をロール状に巻き取る。より具体的には、巻取機に巻き芯をセットし、当該巻き芯に上記フィルム積層体を巻きつけ、フィルム積層体のラインスピードとほぼ同じ速度になるように、巻取速度を調整する。ここで、張力テーパーを5%以上30%以下の範囲内の割合とし、ロール径の増加に従って張力を減少させることにより、上記フィルム積層体をロール状に巻き取ることが好ましい。
【0144】
また、上記巻取時における初期張力は、巻き取るフィルムの膜厚等により適宜設定されるが、例えば、2Nを超え100N未満の範囲内に設定することができる。更には、上記巻取速度は、例えば、1〜100m/分の範囲内に設定することができる。
【0145】
尚、従来、フィルムに一定の厚みのナーリングを付与することによって巻きズレや巻き緩みを防ぐことが知られている(例えば、特開2002−211803号公報参照)。しかしながら、本実施の形態に係る方法によれば、ナーリングを付与することなく、フィルムロールの巻き崩れを抑制することができ、形状が均一なフィルムロールを作製することができる。
【0146】
また、上記ロール状に巻き取ったフィルム積層体は、アクリル系樹脂フィルムに保護フィルムが貼り付けられているため、アクリル系樹脂特有の破断やひび割れを抑制して運搬等を行うことができる。
【0147】
<保護フィルム剥離工程>
上記フィルム積層体は、保護フィルムを剥がすことにより、アクリル系樹脂フィルムとして使用することができる。
【0148】
ここで、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であるため、保護フィルムを剥がす際のアクリル系樹脂フィルムの破断やひび割れを抑制することができる。
【0149】
上記保護フィルムを剥がす方法は、特には限定されず、例えば、フィルム積層体の走行方向とは別の方向(例えば、フィルム積層体の下側若しくは上側)に設置された、トルクモーター等の駆動軸を備えた巻取機に保護フィルムを巻き取らせ、アクリル系樹脂フィルムから保護フィルムを剥離させる等の方法が挙げられる。
【0150】
尚、上述の説明では、フィルム積層体をロール状に巻き取る場合について説明したが、これに限るものではない。フィルム積層体をロール状に巻き取らずに、例えば、所定の長さ毎に切断してもよい。アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内である保護フィルムをアクリル系樹脂に貼り付ける工程を含んでいれば、本実施形態とほぼ同様の効果が得られる。
【0151】
但し、本実施形態のように、フィルム積層体をロール状に巻き取る場合は、より効率よくフィルムを製造することができるので、特に効果が大きい。
【0152】
(IV)フィルム積層体
本実施の形態に係るフィルム積層体は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに、保護フィルムが貼り付けられたフィルム積層体である。
【0153】
つまり、本実施の形態に係るフィルム積層体は、本実施の形態に係る上記アクリル系樹脂フィルムに、本実施の形態に係る上記保護フィルムが貼り付けられたフィルム積層体である。
【0154】
本実施の形態に係るフィルム積層体では、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力若しくは粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内である。
【0155】
上記「粘着力」は、上述した初期粘着力と同様の方法により測定することができる。具体的には、ステンレス板の上に、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)を載せ、PMMA上に、上記フィルム積層体から剥がした保護フィルムを、試験片として貼り付け、当該試験片を180°方向に速度300mm/minで引き剥がし、20mm間隔で4箇所の荷重を測定し、その平均値を粘着力とする。
【0156】
以上のように、本発明に係るアクリル系樹脂フィルムの製造方法は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに保護フィルムを貼り付ける工程を含むアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であることを特徴としている。
【0157】
このため、外観に優れたアクリル系樹脂フィルムを安定的に製造することができるという効果を奏する。
【0158】
また、本発明に係るフィルム積層体は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに、保護フィルムが貼り付けられたフィルム積層体であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での粘着力若しくは初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であることを特徴としている。
【0159】
このため、外観に優れたアクリル系樹脂フィルムを提供することができ、且つ安定して運搬等することができるフィルム積層体を提供することができるという効果を奏する。
【0160】
尚、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0161】
また、本発明は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに保護フィルムを貼り付ける工程を含むアクリル系樹脂フィルムの製造方法であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であり、張力テーパーを5%以上30%以下の範囲内の割合とし、ロール径の増加に伴い張力を減少させることにより、保護フィルムを貼り付けた上記アクリル系樹脂フィルムをロール状に巻き取る工程を更に含むことを特徴とするアクリル系樹脂フィルムの製造方法に関する。
【0162】
また、本発明は、上記アクリル系樹脂フィルムの厚さが50μm以上600μm以下の範囲内であることを特徴とする上記アクリル系樹脂フィルムの製造方法に関する。
【0163】
さらに、本発明は、上記アクリル系樹脂がラクトン環構造を有する重合体を含むことを特徴とする上記アクリル系樹脂フィルムの製造方法に関する。
【0164】
一方、本発明は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに、保護フィルムが貼り付けられたロール状のフィルム積層体であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での初期粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であることを特徴とするフィルム積層体に関する。
【0165】
また、本発明は、ガラス転移温度が110℃以上200℃以下の範囲内であるアクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂フィルムに、保護フィルムが貼り付けられたロール状のフィルム積層体であって、上記保護フィルムにおける上記アクリル系樹脂フィルムと接する面の23℃での粘着力が0.02N/50mm幅以上0.15N/50mm幅未満の範囲内であることを特徴とするフィルム積層体に関する。
【0166】
さらに、本発明は、上記アクリル系樹脂がラクトン環構造を有する重合体を含むことを特徴とする上記フィルム積層体に関する。
【実施例】
【0167】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、以下、便宜上、「質量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。
【0168】
<ダイナミックTG>
重合体(若しくは重合体溶液あるいはペレット)を一旦テトラヒドロフランに溶解若しくは希釈し、過剰のヘキサン若しくはメタノールへ投入して再沈殿を行い、取り出した沈殿物を真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分等を除去し、得られた白色固形状の樹脂を以下の方法(ダイナミックTG法)で分析した。
【0169】
測定装置:Thermo Plus2 TG−8120 Dynamic TG((株)リガク社製)
測定条件:試料量 5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー 200mL/min
方法:階段状等温制御法(60℃〜500℃の間で質量減少速度値0.005%/sec以下で制御)
<重量平均分子量>
重合体の重量平均分子量は、GPC(東ソー社製GPCシステム)のポリスチレン換算により求めた。展開液はクロロホルムを用いた。
【0170】
<樹脂の熱分析>
アクリル系樹脂の熱分析は、試料約10mg、昇温速度10℃/min、窒素フロー50cc/minの条件で、DSC((株)リガク社製、装置名:DSC−8230)を用いて行った。尚、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に従い、中点法で求めた。
【0171】
<溶融粘度>
十分に乾燥したアクリル系樹脂のペレットの溶融粘度を、ボーリンインストルメンツ社製キャピラリーレオメーターRH10を用いて測定した。
【0172】
<脱アルコール反応率とラクトン環構造の占める割合>
まず重合で得られた重合体組成から、全ての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる質量減少量を基準にし、ダイナミックTG測定において質量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による質量減少から、脱アルコール反応率を求めた。
【0173】
即ち、ラクトン環構造を有した重合体のダイナミックTG測定において、150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測質量減少率を(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与するためアルコールになり、脱アルコールすると仮定した時の理論質量減少率(即ち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した質量減少率)を(Y)とする。尚、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、即ち、当該重合体組成における上記原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値(X,Y)を脱アルコール計算式:
1−(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))
に代入してその値を求め、%で表記すると脱アルコール反応率が得られる。
【0174】
例として、後述の製造例1で得られるペレットにおいて、ラクトン環構造の占める割合を計算する。この重合体の理論質量減少率(Y)を求めてみると、メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの重合体中の含有率(質量比)は組成上30.0質量%であるから、(32/116)×30.0≒8.28%となる。
【0175】
他方、ダイナミックTG測定による実測質量減少率(X)は0.25質量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.25/8.28)≒0.97となるので、脱アルコール反応率は97.0%である。
【0176】
そして、この脱アルコール反応率の分だけ所定のラクトン環化が行われたものとして、ラクトン環化に関する構造(ヒドロキシ基)を有する原料単量体の当該共重合組成における含有率(質量比)に、脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環単位の構造の含有割合を算出することができる。
【0177】
製造例1の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの当該共重合体における含有率が30.0質量%、算出した脱アルコール反応率が97.0質量%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環化構造単位の式量が170であることから、当該共重合体中におけるラクトン環の含有割合は42.6(30.0×0.97×170/116)質量%となる。
【0178】
〔製造例1〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した容積1mの反応釜に、150kgのメタクリル酸メチル(MMA)、75kgの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、25kgのメタクリル酸n−ブチル(BMA)、250kgのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温した。還流開始後、重合開始剤として150gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加すると同時に、300gの重合開始剤と3.5kgのトルエンとからなる溶液を6時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、更に2時間かけて熟成を行った。
【0179】
得られた重合体溶液に、500gのリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)を加え、還流下(約85〜105℃)で2時間、環化縮合反応を行った。次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を熱交換器に通して220℃まで昇温し、バレル温度250℃、回転数170rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で15kg/時間の処理速度で導入し、当該押出機内で環化縮合反応と脱揮とを行い、押出すことにより、透明なペレット(1A)を得た。
【0180】
得られたペレット(1A)のガラス転移温度は132℃であり、剪断速度が100(1/s)である場合における樹脂温度270℃での粘度は670Pa・sであり、重量平均分子量は128,000であり、当該共重合体中におけるラクトン環の含有割合は42.6質量%であった。
【0181】
得られたペレット(1A)を、φ65mm、L/D=32、バリアフライト型スクリューを有するベント付き単軸押出機に仕込んだ。ペレット(1A)の温度は、ホッパーに加温した除湿空気を送風することにより、60℃前後にした。また、ホッパー下部に窒素導入管を設けて、押出機内に窒素ガスを導入した。ベント口から40Torrにて吸引を行いながら、バリアフライト型スクリューにて溶融混練した。溶融混練後、ペレット(1A)を、ギアポンプを用いて、Tダイより、90℃の冷却ロール上に厚さ350μmのアクリル系樹脂フィルムを成形した。
【0182】
〔実施例1〕
製造例1で得られたアクリル系樹脂フィルムに、膜厚30μmの保護フィルム(商品名:トレテック7332、東レフィルム加工(株)社製、23℃での初期粘着力:0.07N/50mm幅)を貼り付けた。そして、巻取装置(最大巻取幅:φ600mm)を用い、初期張力を50N、張力テーパーを15%とすることで上記保護フィルムを貼り付けたフィルム(フィルム積層体)をロール状に巻き取った。当該フィルム積層体の巻取では、アクリル系樹脂フィルムが破断することも無く100時間以上連続でロール状のフィルム積層体を取得することができた。
【0183】
尚、上記フィルム積層体のロール状の巻き取りは、内径76mmの芯を用い、巻取り径が600mmとなるまで行い、その後ロールを交換して巻き取りを再開するという操作を繰り返すことにより行った。
【0184】
得られたロール状のフィルム積層体は、巻き崩れも無く、ロール端部にひび割れを生じていなかった。また、保護フィルムを剥がす際にもアクリル系樹脂フィルムが割れることはなかった。
【0185】
〔比較例1〕
膜厚60μmの保護フィルム(商品名:トレテック7141、東レフィルム加工(株)社製、23℃での初期粘着力:0.50N/50mm幅)を保護フィルムとして使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ロール状のフィルム積層体を作製した。得られたロール状のフィルム積層体は、巻き崩れも無く、ロール端部にひび割れを生じていなかったが、保護フィルムを剥がす際にアクリル系樹脂フィルムにひび割れが生じた。
【0186】
〔比較例2〕
保護フィルムを貼り付けないこと以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、フィルムが巻取機に到達する前に、ひび割れ及び破断が頻発し、連続して運転をすることができなかった。また、巻取機まで到達したフィルムも巻き崩れは起こらなかったが、ロールの両端がひび割れ、微細なフィルム破片が多数付着したため、外観の悪い製品しか得られなかった。
【0187】
〔比較例3〕
フィルムの巻取を一定の張力(50N)で行ったこと以外は比較例2と同様の操作を行ったところ、製品ロール両端のひび割れに加えて、ロールの巻き崩れが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0188】
上述したように、本発明のアクリル系樹脂フィルムの製造方法を用いることにより、外観に優れたアクリル系樹脂フィルムを安定的に製造することができる。従って、本発明は、液晶表示装置等のフラットパネル表示装置に用いられる、保護フィルム、反射防止フィルム、位相差フィルム、偏光フィルム等の各種アクリル系樹脂フィルムの製造に好適に用いることができる。