(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1難燃助剤であるシリコーン系化合物が前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部未満の割合で配合されている、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
前記第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸の金属塩がステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の難燃性樹脂組成物ではJIS C3005に準拠した60度傾斜試験合格する程度の難燃性が求められていた。しかしながら、これよりもさらに厳しいJIS C3665−1に準拠した垂直一条試験に合格する程度の難燃性が求められる場合があった。この場合、難燃剤である炭酸カルシウムの平均粒径を1.2μm以上とすれば難燃性を向上させることはできる。しかし、炭酸カルシウムの平均粒径を大きくすると、難燃性樹脂組成物の低温脆化特性が低下するという問題があった。
【0005】
このため、優れた機械的特性を確保し、かつ優れた低温脆化特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる難燃性樹脂組成物が求められていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた機械的特性を確保し、かつ優れた低温脆化特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、種々の検討を行ったところ、上記特許文献1記載の難燃性樹脂組成物に多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物を所定の割合で配合した場合、難燃性を向上させるために炭酸カルシウムの平均粒径を1.2μm以上としたとしても、優れた低温脆化特性を確保することができることを本発明者らは見出した。また、多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物を配合した場合、シリコーン系化合物の配合量を減らしたとしても優れた難燃性が確保できるため、優れた機械的特性を確保できることも本発明者らは見出した。こうして本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、ポリオレフィン樹脂と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上120質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウムと、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合される第1難燃助剤と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される第2難燃助剤と、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.5質量部以上5質量部未満の割合で配合される多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物とを含み、前記炭酸カルシウムの平均粒径が1.2μm以上8.0μm未満であり、前記第1難燃助剤であるシリコーン系化合物であって、前記第2難燃助剤が脂肪酸又は脂肪酸金属塩であ
り、前記多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物がペンタエリスリトールモノステアレートである難燃性樹脂組成物である。
【0009】
本発明の難燃性樹脂組成物によれば、優れた機械的特性と優れた低温脆化特性を確保しながらより優れた難燃性を確保することができる。
【0010】
なお、本発明者らは、本発明の難燃性樹脂組成物において、より優れた難燃性が得られる理由については以下のように推察している。
【0011】
すなわち、炭酸カルシウム粒子と第1難燃助剤であるシリコーン系化合物と第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸金属塩とを用いることで、燃焼時に表面バリア層が形成される。このとき、表面バリア層が緻密で、且つ、このような緻密な表面バリア層が素早く形成されれば、難燃効果が高まると考えられる。緻密な表面バリア層が素早く形成されるためには、表面バリア層を構成する炭酸カルシウム又はその分解物の粒子間の隙間をできるだけ速く塞ぐ必要がある。その点、本発明のように、炭酸カルシウム粒子の平均粒径が1.2μm以上と大きいと、その比表面積が減少することから、炭酸カルシウム粒子間の隙間を素早く塞ぐことが可能となる。その結果、緻密な表面バリア層の形成速度が増加し、難燃効果が高まったのではないかと考えられる。
【0012】
さらに、ポリオレフィン樹脂は燃焼時に可燃性のガスに分解され、燃焼を促進する効果をもたらす。しかし、多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物を添加することで、ポリオレフィン樹脂は燃焼時に分解せず、炭化物として上述の表面バリア層を補強する効果を発揮する。これにより、さらに難燃効果が高まると考えられる。
【0013】
また本発明者らは、本発明の難燃性樹脂組成物において、優れた低温脆化特性が得られる理由については以下のように推察している。
【0014】
すなわち、難燃性樹脂組成物に多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物を添加することで、炭酸カルシウム粒子とポリオレフィン樹脂との界面の間に多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物が入り込み、界面への応力集中が緩和されるため、低温脆化特性が向上するのではないかと考えられる。
【0015】
また、上記難燃性樹脂組成物においては、前記第1難燃助剤であるシリコーン系化合物が前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部未満の割合で配合されていることが好ましい。
【0016】
この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する第1難燃助剤であるシリコーン系化合物の配合量が上記範囲より大きい場合に比べて、より優れた機械的特性が得られる。
【0017】
上記難燃性樹脂組成物においては、前記多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物がペンタエリスリトールモノステアレートであることが好ましい。
【0018】
この場合、多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物がペンタエリスリトールモノステアレートでない場合に比べて、より優れた低温脆化特性が得られる。
【0019】
上記難燃性樹脂組成物においては、前記第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸金属塩がステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムであることが好ましい。
【0020】
この場合、前記第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸金属塩がステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムのいずれでもない場合に比べて、より優れた難燃性が得られる。
【0021】
また本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを有する絶縁電線を備えており、前記絶縁層が、上述した難燃性樹脂組成物で構成されるケーブルである。
【0022】
さらに本発明は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、前記絶縁層を覆うシースを有するケーブルであって、前記絶縁層と前記シースの少なくとも一方が、上述した難燃性樹脂組成物で構成されるケーブルである。
【0023】
加えて本発明は、光ファイバと、前記光ファイバを被覆するシースとを有する光ファイバケーブルであって、前記シースが、上述した難燃性樹脂組成物で構成される光ファイバケーブルである。
【0024】
なお、本発明において、「平均粒径」とは、複数個の炭酸カルシウム粒子をSEMで観察したときの2次元画像の面積Sをそれぞれ求め、これらの面積Sをそれぞれ円の面積に等しいと考え、これらの面積から下記式:
R=2×(S/π)
1/2
に基づいてそれぞれ算出したRの平均値を言うものとする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、優れた機械的特性を確保し、かつ優れた低温脆化特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる難燃性樹脂組成物、及び、これを用いたケーブル並びに光ファイバケーブルが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について
図1〜
図3を用いて詳細に説明する。
【0028】
[ケーブル]
図1は、本発明に係るケーブルの一実施形態を示す部分側面図であり、
図2は、
図1のII−II線に沿った断面図である。
図1及び
図2に示すように、ケーブル10は、1本の絶縁電線4と、1本の絶縁電線4を被覆するシース3とを備えている。そして、絶縁電線4は、内部導体1と、内部導体1を被覆する絶縁層2とを有している。
【0029】
[光ファイバケーブル]
また、
図3は、本発明に係る光ファイバケーブルの一実施形態であり、インドア型光ファイバケーブルを示す断面図である。
図3に示すように、インドア型光ファイバケーブル20は、1本の光ファイバ11と、2本のテンションメンバ12と光ファイバ11とテンションメンバ12とを被覆するシース13とを有している。なお、テンションメンバは鋼線等、引張張力の高い材料で構成されている。
【0030】
ここで、絶縁層2及びシース3、13は難燃性樹脂組成物で構成されており、この難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂と、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上120質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウムと、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合される第1難燃助剤であるシリコーン系化合物と、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸金属塩と、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.5質量部以上5質量部未満の割合で配合される多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物とを含み、前記炭酸カルシウムの平均粒径が1.2μm以上8.0μm未満である。
【0031】
上記難燃性樹脂組成物は、優れた機械的特性を確保し、かつ優れた低温脆化特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる。このため、上記難燃性樹脂組成物で構成される絶縁層2及びシース3、13は、優れた機械的特性と優れた低温脆化特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる。このため、ケーブル10及び光ファイバケーブル20は、優れた機械的特性と優れた低温脆化特性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できる。
【0032】
[ケーブルの製造方法]
次に、上述したケーブル10の製造方法について説明する。
【0033】
(導体)
まず内部導体1を準備する。内部導体1は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。また、内部導体1は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。
【0034】
(難燃性樹脂組成物)
一方、上記難燃性樹脂組成物を準備する。難燃性樹脂組成物は、上述したように、ポリオレフィン樹脂と、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上120質量部以下の割合で配合される炭酸カルシウムと、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合される第1難燃助剤であるシリコーン系化合物と、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸の金属塩と、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.5質量部以上5質量部未満の割合で配合される多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物とを含み、前記炭酸カルシウムの平均粒径が1.2μm以上8.0μm未満である。
【0035】
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂としては、例えばエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂などが挙げられる。これらは1種類単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。ここで、エチレン系樹脂とは、エチレンを構成単位として含む樹脂を言い、エチレン系樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂(PE)、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などが挙げられる。またプロピレン系樹脂としては、プロピレンを構成単位として含む樹脂を言い、例えばポリプロピレン樹脂(PP)などが挙げられる。
【0036】
ここで、ポリオレフィン樹脂をポリエチレン樹脂とした場合、より優れた難燃性を得ることができるため好ましい。また、エチレン酢酸ビニル共重合体又はポリプロピレン樹脂とした場合、より優れた機械的特性を得ることができるため好ましい。
【0037】
(炭酸カルシウム)
炭酸カルシウム粒子は、重質炭酸カルシウム又は軽質炭酸カルシウムのいずれでもよい。炭酸カルシウム粒子の平均粒径は、上述したように1.2μm以上8.0μm未満である。この場合、炭酸カルシウム粒子の平均粒径が1.2μm未満である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。一方、炭酸カルシウム粒子の平均粒径が8.0μm以上である場合に比べて、低温脆化特性が著しく向上する。
【0038】
炭酸カルシウムは、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上120質量部以下の割合で配合される。この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する炭酸カルシウムの配合割合が120質量部より大きい場合に比べて、機械特性が優れるという利点がある。一方、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する炭酸カルシウムの配合割合が5質量部未満である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。
【0039】
(第1難燃助剤)
第1難燃助剤であるシリコーン系化合物としては、ポリオルガノシロキサンなどが挙げられる。ここで、ポリオルガノシロキサンは、シロキサン結合を主鎖とし側鎖に有機基を有するものであり、有機基としては、例えばメチル基、ビニル基、エチル基、プロピル基、フェニル基などが挙げられる。具体的にはポリオルガノシロキサンとしては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルエチルポリシロキサン、メチルオクチルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ポリシロキサンなどが挙げられる。ポリオルガノシロキサンとして、シリコーンパウダー、シリコーンガム及びシリコーンレジンが挙げられる。中でも、シリコーンガムが好ましい。この場合、ブルームが起こりにくくなる。
【0040】
第1難燃助剤であるシリコーン系化合物は、上述したようにポリオレフィン樹脂100質量部に対して1質量部よりも大きく10質量部以下の割合で配合される。この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の配合割合が1質量部以下である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。一方、ポリオレフィン樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の配合割合が10質量部より大きい場合と比べて、ブルームが起こりにくくなる。
【0041】
第1難燃助剤であるシリコーン系化合物は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部未満の割合で配合されていることが好ましい。この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対するシリコーン系化合物の配合割合が5質量部以上の場合に比べて、より優れた機械的特性が得られる。
【0042】
第1難燃助剤であるシリコーン系化合物は、炭酸カルシウムの表面に予め付着させておいてもよい。この場合、難燃性樹脂組成物中に含まれる各炭酸カルシウムの全体がシリコーン系化合物で被覆されていることが好ましい。この場合、炭酸カルシウムをポリオレフィン樹脂中に容易に分散させることができるため、難燃性樹脂組成物における特性の均一性がより向上する。また難燃性樹脂組成物の押出加工時のシリコーン系化合物のブリードアウトを抑制することができる。
【0043】
炭酸カルシウムの表面にシリコーン系化合物を付着させる方法としては、例えば炭酸カルシウムにシリコーン系化合物を添加して混合し、混合物を得た後、この混合物を40〜75℃にて10〜40分乾燥し、乾燥した混合物をヘンシェルミキサ、アトマイザなどにより粉砕することによって得ることができる。
【0044】
(第2難燃助剤)
第2難燃助剤としては脂肪酸又は脂肪酸の金属塩が挙げられる。脂肪酸としては、例えば炭素原子数が12〜28である脂肪酸が用いられる。このような脂肪酸としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、ベヘン酸及びモンタン酸が挙げられる。中でも、脂肪酸としては、ステアリン酸又はツベルクロステアリン酸が好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。この場合、ステアリン酸又はツベルクロステアリン酸以外の脂肪酸を用いる場合に比べて、より優れた難燃性が得られる。
【0045】
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛などが挙げられる。脂肪酸の金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸カルシウムが好ましい。この場合、より優れた難燃性が得られる。
【0046】
第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸の金属塩は、上述したようにポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の割合で配合される。
【0047】
この場合、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸の金属塩の配合割合が3質量部未満である場合に比べて、優れた難燃性を得ることができる。一方、ポリオレフィン樹脂100質量部に対する脂肪酸又は脂肪酸の金属塩の配合割合が20質量部より大きい場合と比べて、ブルームが起こりにくくなる。
【0048】
(多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物)
多価アルコールの価数は2価以上であればよいが、4〜10価であることが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、それらの縮合した2量体又は3量体等が挙げられる。これらは1種類単独で又は2種以上を組み合せて用いることもできる。
【0049】
脂肪酸としては、例えばパルミチン酸、ステアリン酸に代表される高級飽和脂肪酸、アジピン酸に代表される飽和脂肪酸二酸などの飽和脂肪酸や、オレイン酸、エルカ酸に代表される不飽和高級脂肪酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。ここで、「高級」とは、一般に脂肪酸の炭素原子数が6以上であることを意味する。特に工業上炭素数12〜18が価格や量の観点から入手しやすいため、好適である。さらに飽和脂肪酸としては、ポリオレフィン樹脂の加工温度以下の融点を有する飽和脂肪酸が好ましい。
【0050】
多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.5質量部以上5質量部未満の割合で配合される。
【0051】
この場合、多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物の配合割合が上記範囲内にあると、多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物の配合割合が0.5質量部未満である場合に比べて、難燃性が顕著に向上する。一方、多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物の配合割合が5質量部以上である場合に比べて、難燃性が顕著に向上する。
【0052】
また、多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物としては、ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジペンタエリスリトールアジペート等が挙げられ、ペンタエリスリトールモノステアレートであることが特に好ましい。この場合、ペンタエリスリトールモノステアレートでない場合に比べて、より優れた低温脆化特性が得られる。
【0053】
上記難燃性樹脂組成物は、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、加工助剤、着色顔料、滑剤、カーボンブラックなどの充填剤を必要に応じてさらに含んでもよい。
【0054】
上記難燃性樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂、炭酸カルシウム、第1難燃助剤であるシリコーン系化合物、第2難燃助剤である脂肪酸又は脂肪酸の金属塩、多価アルコールと脂肪酸のモノステアレートを混練することにより得ることができる。混練は、例えばバンバリーミキサ、タンブラ、加圧ニーダ、混練押出機、二軸押出機、ミキシングロール等の混練機で行うことができる。このとき、シリコーン系化合物の分散性を向上させる観点からは、ポリオレフィン樹脂の一部とシリコーン系化合物とを混練し、得られたマスターバッチ(MB)を、残りのポリオレフィン樹脂、炭酸カルシウム、脂肪酸又は脂肪酸の金属塩、及び多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物等と混錬しても良い。
【0055】
次に、上記難燃性樹脂組成物で内部導体1を被覆する。具体的には、上記の難燃性樹脂組成物を、押出機を用いて溶融混練し、チューブ状の押出物を形成する。そして、このチューブ状押出物を内部導体1上に連続的に被覆する。こうして絶縁電線4が得られる。
【0056】
(シース)
最後に、上記のようにして得られた絶縁電線4を1本用意し、これら絶縁電線4を、上述した難燃性樹脂組成物を用いて作製したシース3で被覆する。シース3は、絶縁層2を物理的又は化学的な損傷から保護するものである。
【0057】
以上のようにしてケーブル10が得られる。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態ではケーブル10は1本の絶縁電線4を有しているが、本発明のケーブルは1本の絶縁電線4を有するケーブルに限定されるものではなく、シース3の内側に絶縁電線4を2本以上有していてもよい。またシース3と絶縁電線4との間には、ポリプロピレン等からなる樹脂部が設けられていてもよい。
【0059】
また上記実施形態では、絶縁電線4の絶縁層2及びシース3が上記難燃性樹脂組成物で構成されているが、絶縁層2が通常の絶縁樹脂で構成され、シース3のみが、上記難燃性樹脂組成物で構成されてもよい。
【0060】
[光ファイバケーブルの製造方法]
さらに、上記光ファイバケーブル20の製造方法について説明する。
【0061】
まず光ファイバ11とテンションメンバ12と上記難燃性樹脂組成物を準備する。
【0062】
次に、上記難燃性樹脂組成物を光ファイバ11およびテンションメンバ12を被覆する。具体的には、上記の難燃性樹脂組成物を、押出機を用いて溶融混練する。そして、
図3に示すように並べた光ファイバ11およびテンションメンバ12上に、押出機から
図3に示す断面形状を有する筒状の押出物を押し出すことで、この筒状の押出物を光ファイバ11およびテンションメンバ12上に連続的に被覆する。こうして光ファイバケーブル20が得られる。
【0063】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、光ファイバケーブルはインドア型光ファイバケーブルに限定されず、上記難燃性樹脂組成物が適用可能であるならば、どのような形式のケーブルであっても構わない。
【実施例1】
【0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1〜21及び比較例1〜11)
ポリオレフィン樹脂、炭酸カルシウム、第1難燃助剤であるシリコーンマスターバッチ(シリコーンMB)、第2難燃助剤であるステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸Mg)及び多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物を、表1〜6に示す配合量で配合し、バンバリーミキサによって160℃にて15分間混練し、難燃性樹脂組成物を得た。なお、表1〜6において、各配合成分の配合量の単位は質量部である。また表1〜6において、ポリオレフィン樹脂の配合量が100質量部となっていないが、シリコーンMB中にも樹脂が含まれており、ポリオレフィン樹脂とシリコーンMB中の樹脂とを合計すればポリオレフィン樹脂の合計量は100質量部となる。
【0066】
上記ポリオレフィン樹脂、炭酸カルシウム、シリコーンMB、脂肪酸又は脂肪酸の金属塩及び多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物としては具体的には下記のものを用いた。
(1)ポリオレフィン樹脂
(A)ポリエチレン樹脂(PE)(商品名「エクセレンGMH GH030」、住友化学社製)
(B)エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)(商品名「DPDJ−6503」、日本ユニカー社製)
(C)エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)(商品名「エバフレックス V5274」、三井デュポンポリケミカル社製)
(D)ポリプロピレン樹脂(PP)(商品名「E111G」、プライムポリマー社製)
(2)炭酸カルシウム
(A)炭酸カルシウム粒子(平均粒径0.70μm)(商品名「ソフトン3200」、白石カルシウム社製)
(B)炭酸カルシウム粒子(平均粒径1.0μm)(商品名「NCC P‐2300」、日東粉化社製)
(C)炭酸カルシウム粒子(平均粒径1.2μm)(商品名「NCC P‐1000」、日東粉化社製)
(D)炭酸カルシウム粒子(平均粒径1.7μm)(商品名「NCC−P」、日東粉化社製)
(E)炭酸カルシウム粒子(平均粒径2.2μm)(商品名「ソフトン1000」、白石カルシウム社製)
(F)炭酸カルシウム粒子(平均粒径3.6μm)(商品名「BF100」、白石カルシウム社製)
(G)炭酸カルシウム粒子(平均粒径8.0μm)(商品名「BF300」、白石カルシウム社製)
(3)第1難燃助剤
(A)シリコーンMB(商品名「X−22−2125H」、信越化学社製)
50質量%シリコーンガムと50質量%PEとを含有
(4)第2難燃助剤
(A)ステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸Mg)(商品名「エフコケムMGS」、ADEKA社製)
(5)多価アルコールと脂肪酸のモノエステル化合物
(A)ペンタエリスリトールモノステアレート(商品名「エキセパールPE−MS、花王社製)
(B)ジペンタエリスリトールアジピン酸エステル(商品名「プレンライザー ST−210」、味の素ファインテクノ社製)
【0067】
次いで、この難燃性樹脂組成物をバンバリーミキサによって160℃にて15分間混練した。その後、この難燃性樹脂組成物を、単軸押出機(L/D=20、スクリュー形状:フルフライトスクリュー、マース精機社製)に投入し、その押出機からからチューブ状の押出物を押し出し、導体(素線数1本/断面積2mm
2)上に、厚さ0.7mmとなるように被覆した。こうして絶縁電線を得た。
【0068】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0069】
上記のようにして得られた実施例1〜21及び比較例1〜11の絶縁電線について、以下のようにして難燃性、機械的特性及び低温脆化特性についての評価を行った。
【0070】
<難燃性>
(60度傾斜燃焼試験)
実施例1〜21及び比較例1〜11の絶縁電線について、JIS K3005の60度傾斜燃焼試験を行い、難燃性を評価した。結果を表1〜6に示す。表1〜6においては、各実施例及び比較例ごとに、10本の絶縁電線を用意して難燃性試験を行い、10本の絶縁電線の消火時間(単位:秒)の平均値を測定した。ここで消火時間とは、接炎終了直後(バーナーの炎を電線から離した直後)から自己消火するまでの時間であり、消火時間が短ければ短いほど難燃性が高いことを表す。このとき、接炎は、30秒以内で電線に着火が起こるまで行った。結果を表1〜6に示す。なお、表1〜6において、消火時間の平均値の単位は秒であり、消火時間の平均値の合否基準は以下の通りとした。
60秒以下:合格
60秒超 :不合格
【0071】
(90度燃焼試験)
実施例1〜21及び比較例1〜11の絶縁電線をそれぞれ10本用意し、これらについて、JIS C3665−1に基づいて垂直一条燃焼試験を行い、難燃性を評価した。このとき、具体的には、絶縁電線を上部で支持する上部支持材の下端から炭化の終了点までの長さが50mm以上540mm以下であれば「合格」とし、50mm未満又は540mm超の場合には「不合格」とした。そして、合格率(%)を求めた。結果を表1〜6に示す。表1〜6においては、燃焼時間についても併記した。また表1〜6において、難燃性の合否基準は下記の通りとした。なお、燃焼試験においては、バーナーの炎を60秒間接触させた。
合格率が70%以上:合格
合格率が70%未満:不合格
【0072】
<機械的特性>
機械的特性の評価は、実施例1〜21及び比較例1〜11の絶縁電線について、JIS C3005により引張試験を行い、測定された引張強度に基づいて行った。結果を表1〜6に示す。表1〜6において、引張強度の単位はMPaであり、引張強度の合否基準は下記の通りとした。引張試験において、引張速度は200mm/min、標線間距離は20mmとした。
10MPa以上:合格
10MPa未満:不合格
【0073】
<低温脆化特性>
低温脆化特性は、実施例1〜21及び比較例1〜11の難燃性樹脂組成物について、JIS K7216に準拠した低温脆化試験を行うことにより評価した。具体的には、実施例1〜21及び比較例1〜11の難燃性樹脂組成物を用いて、厚さ2mmのシート状の試験片を作成し、それぞれの試験片を、0℃〜−60℃の試験温度に保たれた試験槽中に入れて、片持ちばりの先端に固定し、試験片に所定の打撃(試験速度2m/s)を与え、試験片の破壊の様子を観察した。試験は0℃から−60℃まで5℃刻みに行い、打撃により試験片にクラックが発生する温度(クラック発生温度)で耐低温性を評価した。結果を表1〜6に示す。耐低温性は、クラック発生温度が−50℃より低いものを合格とし、表中の合否の欄に「○」と、クラック発生温度が−50℃以上であるものを不合格とし、表中の合否の欄に「×」と記載した。
【0074】
表1〜6に示す結果より、実施例1〜21の絶縁電線は、難燃性、機械的特性及び耐低温性の点で合格基準に達していた。これに対し、比較例1〜11の絶縁電線は、難燃性、機械的特性及び耐低温性のうち少なくとも1つの点で合格基準に達していなかった。
【0075】
このことから、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、優れた機械的特性を確保し、かつ優れた耐低温性を確保しながらより優れた難燃性をも確保できることが確認された。