【文献】
肥野明大(外3名),「広帯域小型H面方向性結合器の設計」,電子情報通信学会技術研究報告,2000年12月15日,Vol.100,No.528,pp.85-92,MW2000-163
【文献】
村井克弥(外4名),「SIW構造3dB方向性結合器の広帯域設計」,2011年電子情報通信学会総合大会講演論文集,2011年 2月28日,エレクトロニクス(1),pp.119,C-2-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
開口が形成された第1の狭壁を共有し、且つ、上記第1の狭壁に対向する第2の狭壁をそれぞれが有する第1の矩形導波路と第2の矩形導波路とを備えた方向性結合器であって、
上記第1の矩形導波路及び上記第2の矩形導波路の各々は、
上記第1の狭壁における、上記開口よりも入射側及び上記開口よりも出射側の上記開口に対して対称な位置に形成された、上記第1の狭壁から上記第2の狭壁に向かって突出している一対の第1の突出部と、
上記第2の狭壁から上記開口に向かって突出している第2の突出部とを備えている、ことを特徴とする方向性結合器。
上記一対の第1の突出部同士の間隔は、設計目標とする動作周波数の高周波信号が上記第1の矩形導波路及び上記第2の矩形導波路を導波する場合の管内波長の120.8%以上197.7%以下である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方向性結合器。
上記一対の第1の突出部及び上記第2の突出部は、それぞれ、上記第1の矩形導波路の広壁同士、又は、上記第2の矩形導波路の広壁同士を導通させる導体ポストからなる、
ことを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の方向性結合器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者(以下、発明者)は、設計目標とする動作周波数(以下、目標周波数という)が78.5GHzとなるように、すなわち、78.5GHzのおよそ2/3倍である52.3GHzがTE
10モードのカットオフ周波数となるように、従来例の方向性結合器7の各パラメータを以下の通りに設計した。
【0007】
第1の矩形導波路71の内部及び第2の矩形導波路72の内部の比誘電率を3.823とした。
【0008】
第1の矩形導波路71の幅及び第2の矩形導波路72の幅を1.47mmとした。
【0009】
第1の矩形導波路71の高さ及び第2の矩形導波路72の高さを0.5mmとした。
【0010】
狭壁73の厚みを0.1mmとした。
【0011】
なお、結合度がおおよそ3dB付近の方向性結合器とするために、開口731の幅Wを1.95mmとした。
【0012】
各パラメータをこのように定めた従来の方向性結合器7(以下、従来例)を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を、
図25に示す。
図25に示したSパラメータのうちS(1,1)は、第1のポートP1に入射する高周波信号の電力に対する、第1のポートP1から反射された高周波信号の電力の割合を表す。同様に、S(1,2)、S(1,3)、及びS(1,4)の各々は、第1のポートP1に入射する高周波信号の電力に対する、第2のポートP2、第3のポートP3、及び第4のポートP4のそれぞれから出射する高周波信号の電力の割合を表す。
【0013】
65GHz以上81GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、それぞれ、−13dBを下回り、第1の矩形導波路71と第2の矩形導波路72との結合状態としては、オーバーカップル特性を実現している。すなわち、65GHz以上81GHz以下の周波数帯域において、従来例の方向性結合器7は、方向性結合器として動作していることが分かる。
【0014】
一方、目標周波数である78.5GHzを上回る周波数帯域(82GHz以上90GHz以下の周波数帯域)において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、増大することが分かる。具体的には、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、82GHzにおいて−13dBを上回る−10dB程度に達している。第1のポートP1に高周波信号を入射させた場合において、第4のポートP4から高周波信号が出射されるということは、方向性結合器7の方向性が劣化しているということを意味する。また、第1のポートP1に高周波信号を入射させた場合において、第1のポートP1から高周波信号が反射されるということは、方向性結合器7の整合状態が崩れていることを意味する。以上のように、方向性結合器7は、82GHzにおいて反射損失を十分に抑制できないことが分かった。
【0015】
82GHzは、目標周波数である78.5GHzのおよそ105%に相当する周波数である。換言すれば、方向性結合器7は、目標周波数では反射損失を抑制可能であるものの、目標周波数の105%に相当する周波数では反射損失を抑制できないことが分かった。
【0016】
この原因を探るために、発明者は、従来例の方向性結合器7の広壁に平行な面における電界強度を計算した。その電界強度の計算結果を、
図26に示す。
図26の(a)及び(b)は、それぞれ、70GHz及び82GHzの高周波信号を第1のポートP1に入射させた場合に得られた電界強度のコンター図である。
【0017】
図26の(a)を参照すると、(1)第1のポートP1に入射された高周波信号が第1の導波路71の内部を伝搬し第2のポートP2から出射されること、(2)開口731において第1の導波路71の内部から第2の導波路72の内部へ入射した高周波信号が第3のポートP3から出射されること、(3)開口731において第1の導波路71の内部から第2の導波路72の内部へ入射した高周波信号のうち、第4のポートP4から出射される高周波信号の電界強度は、第3のポートP3から出射される高周波信号の電界強度と比較して明確に小さいこと、の3点が読み取れた。
【0018】
一方、
図26の(b)を参照すると、(1)開口731を隔てて第1の導波路71及び第2の導波路72の双方にまたがって分布する電界強度の姿態が乱れており、その結果、(2)第1のポートP1に入射された高周波信号が第2のポートP2及び第3のポートP3のみならず、第4のポートP4からも電界強度の高い高周波信号が出射されていることが読み取れた。
【0019】
以上のように、従来例の方向性結合器7は、目標周波数において、反射損失を抑制可能であるものの、目標周波数を下限とする特定の周波数帯域(ここでは、目標周波数の105%を上限周波数とする周波数帯域)において、反射損失を十分に抑制できないことが分かった。
【0020】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、マイクロ波及びミリ波に対して利用可能な方向性結合器であって、目標周波数を下限とする特定の周波数帯域において反射損失が従来よりも小さい方向性結合器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明に係る方向性結合器は、開口が形成された第1の狭壁を共有し、且つ、上記第1の狭壁に対向する第2の狭壁をそれぞれが有する第1の矩形導波路と第2の矩形導波路とを備えた方向性結合器であって、上記第1の矩形導波路及び上記第2の矩形導波路の各々は、上記第1の狭壁又は上記第2の狭壁における、上記開口よりも入射側及び上記開口よりも出射側の上記開口の対して対称な位置に形成された、上記第1の狭壁及び上記第2の狭壁のうち、一方の狭壁から他方の狭壁に向かって突出している一対の第1の突出部と、上記第2の狭壁から上記開口に向かって突出している第2の突出部とを備えている、ことを特徴とする。
【0022】
上記のように構成された方向性結合器の第1の矩形導波路の一方の端部に、設計目標とする動作周波数である目標周波数を下限とする特定の周波数帯域(例えば、目標周波数を下限とし、目標周波数の105%を上限周波数とする周波数帯域)の高周波信号を入射させた場合、当該周波数帯域におけるS(1,1)及びS(1,4)の各々は、何れも、従来例に係る方向性結合器よりも小さくなる。すなわち、この方向性結合器は、開口よりも入射側及び開口よりも出射側に形成された一対の突出部であって、開口に対して対称な位置に形成された一対の第1の突出部と、第2の狭壁から開口に向かって突出している第2の突出部とを備えていることにより、当該周波数帯域において反射損失を抑制することができる。
【0023】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記第1の矩形導波路に形成された一対の第1の突出部同士の間隔と、上記第2の矩形導波路に形成された一対の第1の突出部同士の間隔とは、共通である、ことが好ましい。
【0024】
方向性結合器を上記のように構成することにより、目標周波数を下限とする特定の周波数帯域において反射損失を従来よりも抑制することができる。
【0025】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記一対の第1の突出部同士の間隔は、設計目標とする動作周波数の高周波信号が上記第1の矩形導波路及び上記第2の矩形導波路を導波する場合の管内波長の120.8%以上197.7%以下である、ことが好ましい。
【0026】
方向性結合器を上記のように構成することにより、目標周波数を下限とする特定の周波数帯域において反射損失を従来よりも抑制することができる。
【0027】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記一対の第1の突出部における、上記一方の狭壁から上記他方の狭壁に向かって突出している突出量は、上記管内波長の13.5%以下である、ことが好ましい。
【0028】
方向性結合器を上記のように構成することにより、目標周波数を下限とする特定の周波数帯域において反射損失を従来よりも抑制することができる。
【0029】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記第2の突出部は、上記第2の狭壁が上記第1の狭璧に向かって突出している突出区間であり、上記突出区間において上記第2の狭璧が上記第1の狭璧に向かって突出する突出量は、上記突出区間の第1および第2の矩形導波路の延伸方向における両端よりも中央において大きい、ことが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、目標周波数を下限とする特定の周波数帯域において反射損失を従来よりも更に抑制することができる。
【0031】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記突出区間の上記両端から上記中央に近づくにしたがって連続的に大きくなる、ように構成されていてもよい。
【0032】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記突出量は、上記突出区間の上記両端から上記中央に近づくにしたがって離散的に大きくなる、ように構成されていてもよい。
【0033】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記突出区間は、当該突出区間の第1および第2の矩形導波路の延伸方向における端部を含むスロープ区間であって、当該端部から当該突出区間の中央に近づくに従って上記突出量が連続的に大きくなるように構成されたスロープ区間と、当該突出区間の中央を含むステップ区間であって、当該ステップ区間の第1および第2の矩形導波路の延伸方向における端部から当該ステップ区間の中央に近づくにしたがって上記突出量が離散的に大きくなるように構成されたステップ区間とにより構成されていてもよい。
【0034】
上記の構成によれば、目標周波数を下限とする特定の周波数帯域において反射損失を従来よりも更に抑制することができる。
【0035】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記第1の矩形導波路の広壁及び上記第2の矩形導波路の広壁は、それぞれ、誘電体基板の両面に設けられた一対の導体板からなり、上記第1の矩形導波路及び上記第2の矩形導波路によって共有される上記第1の狭壁、並びに上記第1の矩形導波路及び上記第2の矩形導波路それぞれの上記第2の狭壁は、それぞれ、上記誘電体基板を貫通する導体ポストからなる、ことが好ましい。
【0036】
このように構成された方向性結合器は、ポスト壁導波路技術を用いることによって製造することができる。したがって、金属製の導波管を用いて方向性結合器を作製する場合よりも製造が容易になる。その結果として、方向性結合器の製造コストを抑制することができる。
【0037】
本発明の一態様に係る方向性結合器において、上記一対の第1の突出部及び上記第2の突出部は、それぞれ、上記第1の矩形導波路の広壁同士、又は、上記第2の矩形導波路の広壁同士を導通させる導体ポストからなる、ことが好ましい。
【0038】
上記の構成によれば、一対の第1の突出部および第2の突出部を簡単に製造することができる。また、一対の第1の突出部および第2の突出部を、導体璧により構成する場合よりも軽量に実現することができる。
【0039】
本発明の一態様に係るダイプレクサは、本発明の各態様に係る方向性結合器の何れかを第1の方向性結合器及び第2の方向性結合器として備えたダイプレクサであって、上記第1の方向性結合器の第1の矩形導波路及び上記第2の方向性結合器の第1の矩形導波路の間に挿入された第1のバンドパスフィルタと、上記第1の方向性結合器の第2の矩形導波路及び上記第2の方向性結合器の第2の矩形導波路の間に挿入された第2のバンドパスフィルタと、を更に備えている、ことが好ましい。
【0040】
上記の構成によれば、本発明の各態様に係る方向性結合器と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、マイクロ波及びミリ波に対して利用可能な方向性結合器であって、目標周波数を下限とする特定の周波数帯域において反射損失が従来よりも小さい方向性結合器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る方向性結合器ついて、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る方向性結合器1の構成を示す斜視図である。
【0044】
図1に示すように、方向性結合器1は、第1の導波路11と第2の導波路12とを備えている。第1の導波路11の高さ及び第2の導波路12の高さは、高さHで共通である。第1の導波路11は、その幅W1が高さHよりも長い矩形導波路である。同様に、第2の導波路12は、その幅W2が高さHよりも長い矩形導波路である。第1の導波路11及び第2の導波路12の各々は、それぞれを構成する一対の狭壁のうち第1の狭壁である狭壁13を共有する。
【0045】
第1の導波路11は、狭壁13に加えて、狭壁13と対向する第2の狭壁である狭壁112、並びに、一対の広壁である広壁111a及び広壁111bによって構成された管状の導波路である。同様に、第2の導波路12は、狭壁13に加えて、狭壁13と対向する第2の狭壁である狭壁122、並びに、一対の広壁である広壁121a及び広壁121bによって構成された管状の導波路である。
【0046】
狭壁13には、開口131が形成されている。第1の導波路11の内部と第2の導波路12の内部とは、開口131を介して連通する。開口131の高さは、第1の導波路11及び第2の導波路12の高さである高さHと共通である。第1の導波路11と第2の導波路12とは、開口131を介して結合する。したがって、方向性結合器1は、H面結合を利用した方向性結合器である。
【0047】
開口131の幅Wを変化させることによって、方向性結合器1における第1の導波路11と第2の導波路12との結合度(以下、方向性結合器1の結合度)を変化させることができる。すなわち、幅Wは、方向性結合器1の結合度を制御する重要なパラメータである。
【0048】
本明細書において、例えば、結合度が3dBである方向性結合器1のことを結合度3dBの方向性結合器と呼称する。
【0049】
本発明の方向性結合器1において、第1の導波路11は、一対の突出部(第1の突出部)11aと他の突出部(第2の突出部)11bとを備えている。第2の導波路12は、一対の突出部12aと他の突出部12bとを備えている。
【0050】
(一対の突出部)
一対の突出部11aは、第1の狭壁13又は第2の狭壁112に設けられ、開口131よりも入射側及び開口131よりも出射側に開口131に対して対称な位置に形成されている。一対の突出部11aは、第1の狭壁13及び第2の狭壁112のうち、一方の狭壁(13又は112)から他方の狭壁(112又は13)に向かって突出している。また、一対の突出部12aは、第1の狭壁13又は第2の狭壁122に設けられ、開口131よりも入射側及び開口131よりも出射側に開口131に対して対称な位置に形成されている。一対の突出部12aは、第1の狭壁13及び第2の狭壁122のうち、一方の狭壁(13又は122)から他方の狭壁(122又は13)に向かって突出している。本実施形態においては、一対の突出部11a,12aが第1の狭壁13から第2の狭壁112,122に向かって突出する構成を採用している。
【0051】
方向性結合器1において、第1の導波路11及び第2の導波路12は、第1の狭壁13を対称面として面対称になるように構成されている。すなわち、第1の導波路11に形成された一対の突出部11aと、第2の導波路12に形成された一対の突出部12aとは、第1の狭壁13を対称面として面対称になるように構成されている。そのため、一対の突出部11aを構成する2つの突出部同士の間隔2Lと、一対の突出部12aを構成する2つの突出部同士の間隔2Lとは共通である。本実施形態では、一対の突出部11aについて説明し、一対の突出部12aに関する説明を省略する。
【0052】
上述したように、一対の突出部11aは、開口131よりも入射側及び開口131よりも出射側に形成された一対の突出部11aであって、開口131に対して対称な位置に形成された一対の突出部11aである。換言すれば、一対の突出部11aの各々は、導波路11,12の延伸されている方向(導波路11,12の長軸方向)に対して垂直な断面であって、開口131の中心Cを通る断面を対称面として、面対称な位置に形成されている。すなわち、一対の突出部11aの各々から上記対称面までの距離Lは、互いに共通である。
【0053】
また、一対の突出部11aの各々の形状は、同一である。より具体的には、一対の突出部11aの各々において、突出量Pa及び幅Waは、互いに共通である。突出量Paは、一対の突出部11aの各々が第1の狭壁13から第2の狭壁112に向かって突出している長さである。
【0054】
一対の突出部11aが形成されている位置における第1の導波路11の幅W1は、第1の導波路11の両端、すなわち、第1のポートP1及び第2のポートP2における幅W1より、突出量Paの分だけ狭い。
【0055】
なお、開口131の中心Cは、開口131に狭壁13の構成部材が存在すると仮定した場合に、開口131の重心と一致する点である。
図1に示すように、方向性結合器1において、長方形の開口131が採用されている場合、中心Cは、開口131の対角線同士の交点である。
【0056】
なお、本実施形態において、一対の突出部11aは、第1の狭壁13から第2の狭壁112に向かって突出している。しかし、一対の突出部11aとして、第2の狭壁112から第1の狭壁13に向かって突出している構成を採用することもできる。
【0057】
一対の突出部11aが形成されていることによって、方向性結合器1は、例えば第1のポートP1に目標周波数を下限とする特定の周波数帯域、例えば目標周波数を下限とし、目標周波数の105%を上限周波数とする周波数帯域の高周波信号を入射させた場合、当該周波数帯域におけるSパラメータS(1,1)及びS(1,4)の各々を、何れも十分に小さくすることができる。すなわち、方向性結合器1は、一対の突出部11aを備えていることにより、上記周波数帯域において、従来例に係る方向性結合器7よりも反射損失を抑制することができる。
【0058】
なお、以下において、目標周波数を下限とし、目標周波数の105%を上限周波数とする周波数帯域のことを目標周波数の100%以上105%以下である周波数帯域という。
【0059】
一対の突出部11a同士の間隔2Lは、目標周波数を有する高周波信号が第1の導波路11及び第2の導波路12を導波する場合の管内波長の
120.8%以上197.7%以下である、ことが好ましい。このように構成された方向性結合器1によれば、目標周波数の100%以上105%以下である周波数帯域において、従来例に係る方向性結合器7よりも反射損失を抑制可能である。
【0060】
また、一対の突出部11aの突出量Paは、目標周波数を有する高周波信号が第1の導波路11及び第2の導波路12を導波する場合の管内波長の13.5%以下であることが好ましい。このように構成された方向性結合器1によれば、目標周波数の100%以上105%以下である周波数帯域において、従来例に係る方向性結合器7よりも反射損失を抑制可能である。
【0061】
(他の突出部)
他の突出部11b,12bは、第2の狭壁112,122から開口131、より具体的には開口131の中心Cに向かって突出している。第1の導波路11に形成された他の突出部11bと、第2の導波路12に形成された他の突出部12bとは、第1の狭壁13を対称面として面対称になるように構成されている。したがって、ここでは、他の突出部11bについて説明し、他の突出部12bに関する説明を省略する。
【0062】
他の突出部11bは、開口131の中心Cに対向する位置に形成されている。他の突出部11bの突出量Pbは、開口131及び一対の突出部11a,12aを設けたことによる反射損失の増大を抑制可能な範囲内で適宜選択することができる。突出量Pbの一例としては、300μmが挙げられるが、突出量Pbは、これらの値に限定されない。
【0063】
(方向性結合器の構成)
方向性結合器1は、第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとして、ポスト壁導波路を採用してもよいし、金属製の導波管を採用してもよい。ポスト壁導波路は、(1)誘電体基板の両面に設けられた一対の導体板と、(2)一対のポスト壁とによって四方を囲まれた導波路である。上記一対のポスト壁は、上記誘電体基板を貫通し、上記一対の導体板を導通させる。導体ポストは、誘電体基板を貫通するスルーホールの内壁に沿って形成された導体、又は、このスルーホールの内側に充填された導体からなる。第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとして、ポスト壁導波路を採用した構成については、
図22を参照しながら後述する。第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとしてポスト壁導波路を採用する場合、一対の突出部11a,12a及び他の突出部11b,12bの各々は、上記誘電体基板を貫通する導体ポストにより構成されていることが好ましい。
【0064】
第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとして金属製の導波管を採用する場合、一対の突出部11a,12a及び他の突出部11b,12bの各々は、(1)導波管の内側を切削することによって構成されていてもよいし、(2)金属製の導波管の一方の狭壁を、他方の狭壁に向かって突出させるように折り曲げることによって構成されていてもよいし、(3)導体ポストにより構成されていてもよい。第1の導波路11及び第2の導波路は、それらの内部の比誘電率を制御するために、それぞれの金属製の導波管の内部に所望の比誘電率を有する誘電体が充填されていてもよい。一方、第1の導波路11及び第2の導波路12のそれぞれとしてポスト壁導波路を採用する場合には、所望の比誘電率を有する誘電体基板を選択することによって、第1の導波路11の内部及び第2の導波路の媒質の比誘電率を制御することができる。
【0065】
(方向性結合器の機能)
方向性結合器1の第1のポートP1に高周波信号を入射させた場合、入射された高周波信号は、第1の導波路11の内部を伝搬して第2のポートP2から出射される。また、開口131を介して第2の導波路12と結合した高周波信号は、第2の導波路12の内部を伝搬して第3のポートP3から出射される。このように、方向性結合器1は、1つのポートに入射された高周波信号を2つのポートから出射する分波器として機能する。
【0066】
なお、第2のポートP2から出射された高周波信号は、第1のポートP1に入射された高周波信号と同位相である。それに対して、第3のポートP3から出射された高周波信号は、第1のポートP1に入射された高周波信号に対して位相が90°ずれる。すなわち、第2のポートP2から出射された高周波信号の位相と、第3のポートP3から出射された高周波信号の位相とは、90°ずれている。このことから、方向性結合器1は、90°ハイブリッドとも呼ばれる。
【0067】
第2のポートP2に第1の高周波信号を入射させ、且つ、第3のポートP3に第1の高周波信号と位相が90°異なる第2の高周波信号を入射させた場合、第1のポートP1からは、合波された第1の高周波信号及び第2の高周波信号が出射される。このように、方向性結合器1は、2つのポートに入射された高周波信号を1つのポートから出射する合波器としても機能する。
【0068】
〔実施例〕
本発明の実施例に係る方向性結合器ついて、
図2〜
図3を参照して説明する。本実施例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1の各パラメータを以下のように定めたものである。
【0069】
幅W1及び幅W2の各々として、それぞれ、1.47mmを採用した。
【0071】
導波路11,12の内部に充填する誘電体の比誘電率として、3.823を採用した。
【0073】
一対の突出部11a,12aに関して、突出量Pa及び幅Waとして、それぞれ、150μm及び100μmを採用した。また、一対の突出部11a,12aの間隔2Lとして、4.14mmを採用した。
【0074】
他の突出部11b,12bに関して、突出量Pb及び幅Wbとして、それぞれ、300μm及び100μmを採用した。
【0075】
本実施例に係る方向性結合器1の目標周波数は、78.5GHzである。周波数が78.5GHzである高周波信号の波長は、自由空間中及び比誘電率が3.823である誘電体中において、それぞれ3.82mm及び1.95mmである。また、周波数が78.5GHzである高周波信号の管内波長は、上述のように構成された方向性結合器1において2.6mm(有効数字2桁。有効数字3桁で言えば2.61mm)である。上述した間隔2Lは、この管内波長の159.2%に相当する。
【0076】
また、本実施例に係る方向性結合器1は、結合度3dBの方向性結合器として設計されている。
【0077】
本実施例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図2に示す。
図2は、本実施例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。なお、本実施例に係る方向性結合器1のSパラメータS(1,1)、S(1,2)、S(1,3)、及びS(1,4)を計算するときに、第1のポートP1に高周波信号を入射するものとした。また、その高周波信号の周波数を65GHz以上90GHz以下の周波数範囲において変化させた。これらのSパラメータの周波数依存性を計算するために用いた条件は、後述する各変形例に係る方向性結合器1についても共通である。
【0078】
図2に示したSパラメータのうちS(1,1)は、第1のポートP1に高周波信号を入射させた場合において、入射させた高周波信号の電力に対する、第1のポートP1から反射された高周波信号の電力の割合を表す。同様に、S(1,2)、S(1,3)、及びS(1,4)の各々は、第1のポートP1に高周波信号を入射させた場合において、入射させた高周波信号の電力に対する、第2のポートP2、第3のポートP3、及び第4のポートP4のそれぞれから出射された高周波信号の電力の割合を表す。
【0079】
本明細書において、方向性結合器が方向性結合器として動作しているか否かの判定基準を、目標周波数において、S(1,1)及びS(1,4)の各々が−13dB未満である、と定める。また、方向性結合器が方向性結合器としてより好適に動作しているか否かの判定基準を、S(1,2)とS(1,3)との差が1.0dB未満である、と定める。
【0080】
図2を参照すると、周波数が67.2GHz以上86.8GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、本実施例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下(有効数字3桁。有効数字5桁で言えば82.425Gz)である周波数帯域を含む67.2GHz以上86.8GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0081】
また、周波数が65GHz以上83.6GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、本実施例に係る方向性結合器1は、67.2GHz以上83.6GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0082】
本実施例に係る方向性結合器1のH面における電界強度を計算した結果を、
図3に示す。
図3は、方向性結合器1のH面における電界強度を示すコンター図である。
図3を参照すると、開口131を隔てて導波路11,12の双方にまたがって分布する電界強度の姿態が乱れていないことが分かった。
【0083】
一方、上述したように、
図26の(b)に示した従来例の方向性結合器7のH面における電界強度においては、開口731を隔てて導波路71,72の双方にまたがって分布する電界強度の姿態が乱れていた。
【0084】
これらの結果より、発明者は、この電界強度の姿態が乱れている状態では、高次モードが発生している可能性が高いと推測している。また、発明者は、(1)この高次モードの発生と、(2)反射損失が増大すること及び方向性結合器の方向性が劣化すること(S(1,1)及びS(1,4)の各々が増大すること)との間には、密接な関係があると推測している。したがって、発明者は、目標周波数で方向性結合器として動作する方向性結合器1を提供するために、開口131を隔てて導波路11,12の双方にまたがって分布する電界強度の姿態を乱さないような形状の一対の突出部11a,12aを設計することが重要であり、そのうえで、開口131及び一対の突出部11a,12aを設けたことによる反射損失の増大を抑制可能な形状の他の突出部11b,12bを設計することが重要であるとの知見を得た。
【0085】
〔第1の変形例〕
本発明の第1の変形例に係る方向性結合器ついて、
図4を参照して説明する。第1の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における、(1)一対の突出部11a,12aの突出量Paとして、50μmを採用し、且つ、(2)他の突出部11b,12bの突出量Pbとして、300μmを採用することによって得られる。
【0086】
第1の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図4に示す。
図4は、第1の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0087】
図4を参照すると、周波数が65.0GHz以上86.9GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第1の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む65.0GHz以上86.9GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0088】
また、周波数が65.0GHz以上83.3GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第1の変形例に係る方向性結合器1は、65.0GHz以上83.3GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0089】
〔第2の変形例〕
本発明の第2の変形例に係る方向性結合器ついて、
図5を参照して説明する。第2の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における、(1)一対の突出部11a,12aの突出量Paとして、100μmを採用し、且つ、(2)他の突出部11b,12bの突出量Pbとして、300μmを採用することによって得られる。
【0090】
第2の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図5に示す。
図5は、第2の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0091】
図5を参照すると、周波数が65.0GHz以上86.9GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第2の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む65.0GHz以上86.9GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0092】
また、周波数が65.0GHz以上83.6GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第2の変形例に係る方向性結合器1は、65.0GHz以上83.6GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0093】
〔第3の変形例〕
本発明の第3の変形例に係る方向性結合器ついて、
図6を参照して説明する。第3の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における、(1)一対の突出部11a,12aの突出量Paとして、200μmを採用し、且つ、(2)他の突出部11b,12bの突出量Pbとして、300μmを採用することによって得られる。
【0094】
第3の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図6に示す。
図6は、第3の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0095】
図6を参照すると、周波数が69.7GHz以上86.9GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第3の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む69.7GHz以上86.9GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0096】
また、周波数が65.0GHz以上84.2GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第3の変形例に係る方向性結合器1は、69.7GHz以上84.2GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0097】
〔第4の変形例〕
本発明の第4の変形例に係る方向性結合器ついて、
図7を参照して説明する。第4の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における、(1)一対の突出部11a,12aの突出量Paとして、250μmを採用し、且つ、(2)他の突出部11b,12bの突出量Pbとして、300μmを採用することによって得られる。
【0098】
第4の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図7に示す。
図7は、第4の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0099】
図7を参照すると、周波数が71.3GHz以上86.8GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第4の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む71.3GHz以上86.8GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0100】
また、周波数が、65.0GHz以上68.0GHz以下の周波数帯域及び69.8GHz以上84.2GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第4の変形例に係る方向性結合器1は、71.3GHz以上84.2GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0101】
〔第5の変形例〕
本発明の第5の変形例に係る方向性結合器ついて、
図8を参照して説明する。第5の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における、(1)一対の突出部11a,12aの突出量Paとして、300μmを採用し、且つ、(2)他の突出部11b,12bの突出量Pbとして、300μmを採用することによって得られる。
【0102】
第5の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図8に示す。
図8は、第5の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0103】
図8を参照すると、周波数が73.1GHz以上87.0GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第5の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む73.1GHz以上87.0GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0104】
また、周波数が、71.5GHz以上74.2GHz以下及び76.9GHz以上84.6GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第5の変形例に係る方向性結合器1は、73.1GHz以上74.2GHz以下の周波数帯域及び76.9GHz以上84.6GHz以下の周波数領域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0105】
〔第6の変形例〕
本発明の第6の変形例に係る方向性結合器ついて、
図9を参照して説明する。第6の変形例に係る方向性結合器1は、第1の実施形態に係る方向性結合器1における、(1)一対の突出部11a,12aの突出量Paとして、350μmを採用し、且つ、(2)他の突出部11b,12bの突出量Pbとして、300μmを採用することによって得られる。
【0106】
第6の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図9に示す。
図9は、第6の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0107】
図9を参照すると、周波数が77.1GHz以上87.1GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第6の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む77.1GHz以上87.1GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0108】
また、周波数が77.5GHz以上85.0GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第6の変形例に係る方向性結合器1は、77.5GHz以上85GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0109】
(突出量Paについて)
以上のように、第1〜第6の変形例に係る方向性結合器1によって得られたSパラメータの周波数依存性(
図4〜
図9参照)によれば、突出量Paが350μm以下である場合に、本実施形態に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。350μmは、2.6mmである管内波長の13.5%に相当する。すなわち、本実施形態に係る方向性結合器1において、突出量Paは、目標周波数を有する高周波信号が第1の導波路11及び第2の導波路12を導波する場合の管内波長の13.5%以下である。
【0110】
〔第7の変形例〕
本発明の第7の変形例に係る方向性結合器ついて、
図10を参照して説明する。第7の変形例に係る方向性結合器1は、第3の変形例に係る方向性結合器1(
図6参照)において、一対の突出部11a,12aの各々を、開口131に近づく方向へ、それぞれ200μm移動することによって得られる。すなわち、第7の変形例に係る方向性結合器1は、一対の突出部11a,12aの間隔2Lとして3.74mmを採用している。
【0111】
第7の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図10に示す。
図10は、第7の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0112】
図10を参照すると、周波数が71.4GHz以上88.3GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第7の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む71.4GHz以上88.3GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0113】
また、周波数が66.5GHz以上83.6GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第7の変形例に係る方向性結合器1は、71.4GHz以上83.6GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0114】
〔第8の変形例〕
本発明の第8の変形例に係る方向性結合器ついて、
図11を参照して説明する。第8の変形例に係る方向性結合器1は、第3の変形例に係る方向性結合器1(
図6参照)において、一対の突出部11a,12aの各々を、開口131に近づく方向へ、それぞれ500μm移動することによって得られる。すなわち、第8の変形例に係る方向性結合器1は、一対の突出部11a,12aの間隔2Lとして3.14mmを採用している。
【0115】
第8の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図11に示す。
図11は、第8の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0116】
図11を参照すると、周波数が74.9GHz以上89.1GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第8の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む74.9GHz以上89.1GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0117】
また、周波数が72.8GHz以上82.0GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第6の変形例に係る方向性結合器1は、74.9GHz以上82.0GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0118】
〔第9の変形例〕
本発明の第9の変形例に係る方向性結合器ついて、
図12を参照して説明する。第9の変形例に係る方向性結合器1は、第3の変形例に係る方向性結合器1(
図6参照)において、一対の突出部11a,12aの各々を、開口131から遠ざかる方向へ、それぞれ200μm移動することによって得られる。すなわち、第9の変形例に係る方向性結合器1は、一対の突出部11a,12aの間隔2Lとして4.54mmを採用している。
【0119】
第9の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図12に示す。
図12は、第9の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0120】
図12を参照すると、周波数が67.9GHz以上85.0GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第9の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む67.9GHz以上85.0GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0121】
また、周波数が65.0GHz以上83.5GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第9の変形例に係る方向性結合器1は、67.9GHz以上83.5GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0122】
〔第10の変形例〕
本発明の第10の変形例に係る方向性結合器ついて、
図13を参照して説明する。第10の変形例に係る方向性結合器1は、第3の変形例に係る方向性結合器1(
図6参照)において、一対の突出部11a,12aの各々を、開口131から遠ざかる方向へ、それぞれ500μm移動することによって得られる。すなわち、第10の変形例に係る方向性結合器1は、一対の突出部11a,12aの間隔2Lとして5.14mmを採用している。
【0123】
第10の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図13に示す。
図13は、第10の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0124】
図13を参照すると、周波数が65.4GHz以上75.7GHz以下の周波数帯域と、77.5GHz以上83.2GHz以下の周波数帯域とにおいて、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第10の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む77.5GHz以上83.2GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0125】
また、周波数が、65.5GHz以上72.0GHz以下の周波数帯域及び78.0GHz以上81.8GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第10の変形例に係る方向性結合器1は、65.5GHz以上72.0GHz以下の周波数帯域及び78.0GHz以上81.8GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0126】
(間隔2Lについて)
以上のように、第7〜第10の変形例に係る方向性結合器1によって得られたSパラメータの周波数依存性(
図10〜
図13参照)によれば、一対の突出部11a,12aの間隔2Lが3.14mm以上5.14mm以下である場合に、本実施形態に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。3.14mmmmは、2.6mmである管内波長の120.8%に相当し、5.14mmは、2.6mmである管内波長の197.7%に相当する。すなわち、本実施形態に係る方向性結合器1において、間隔2Lは、目標周波数を有する高周波信号が第1の導波路11及び第2の導波路12を導波する場合の管内波長の120.8%以上197.7%以下である。
【0127】
〔第11の変形例〕
本発明の第11の変形例に係る方向性結合器ついて、
図14〜
図15を参照して説明する。
図14は、第11の変形例に係る方向性結合器1の構成を示す斜視図である。
【0128】
第11の変形例に係る方向性結合器1は、実施例に係る方向性結合器1が備えていた突出部11a,12aを変更することによって得られる。具体的には、第11の変形例に係る方向性結合器1は、第1の狭壁13から第2の狭壁112,122に向かって突出していた一対の突出部11a,12aの代わりに、第2の狭壁112,122から第1の狭壁13に向かって突出している一対の突出部11a,12aを採用している。
【0129】
第11の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図15に示す。
図15は、第11の変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。
【0130】
図15を参照すると、周波数が67.2GHz以上86.7GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第11の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む67.2GHz以上86.7GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0131】
また、周波数が65.0GHz以上83.5GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第11の変形例に係る方向性結合器1は、67.2GHz以上83.5GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0132】
以上のように、本実施形態に係る方向性結合器1において、第2の狭壁112,122から第1の狭壁13に向かって突出している一対の突出部11a,12aを採用してもよい。
【0133】
〔第12の変形例〕
本発明の第12の変形例に係る方向性結合器について、
図16を参照して説明する。
図16は、第12の変形例に係る方向性結合器1の構成を示す斜視図である。
【0134】
本変形例に係る方向性結合器1は、実施例に係る方向性結合器1の第1の導波路11に設けられていた一対の突出部11aを、第1の狭壁13から第2の狭壁112に向かって突出させる代わりに、第2の狭壁112から第1の狭壁13に向かって突出させることによって得られる。換言すれば、本変形例に係る方向性結合器1は、第11の変形例に係る方向性結合器1の第2の導波路12に設けられていた一対の突出部12aを、第2の狭壁122から第1の狭壁13に向かって突出させる代わりに、第1の狭壁13から第2の狭壁122に向かって突出させることによって得られる。
【0135】
すなわち、第1の狭壁13を一方の狭壁とし、第2の狭壁112,122を他方の狭壁として、第1の導波路11の一対の突出部11aは、他方の狭壁から一方の狭壁に向かって突出しており、第2の導波路12の一対の突出部12aは、一方の狭壁から他方の狭壁に向かって突出している。
【0136】
以上のように、本発明の一態様に係る方向性結合器1において、一対の突出部11a及び一対の突出部12aの各々は、(1)いずれも第1の狭壁13に設けられていてもよいし(実施例参照)、(2)いずれも第2の狭壁112,122に設けられていてもよいし(第11の変形例参照)、(3)一方が第1の狭壁13に設けられていて、他方が第2の狭壁に設けられていてもよい(本変形例)。
【0137】
本変形例に係る方向性結合器1においても、導波路11,12の延伸されている方向に対して垂直な断面であって、開口131の中心Cを通る断面を対称面として、(1)一対の突出部11aの各々から上記対称面までの距離Lと、(2)一対の突出部12aの各々から上記対称面までの距離Lとは、互いに共通であることが好ましい。
【0138】
このように構成された本変形例に係る方向性結合器1は、実施例に係る方向性結合器1と同様の効果を奏する。
【0139】
〔第13〜15の変形例〕
本発明の第13〜
図15の変形例に係る方向性結合器について、
図17〜
図21を参照して説明する。
図17〜
図19の各々は、それぞれ、第13〜第15の変形例に係る方向性結合器1の構成を示す斜視図である。まず、第13の変形例に係る方向性結合器1について説明する。
【0140】
本変形例に係る方向性結合器1は、実施例に係る方向性結合器1が備えている他の突出部11b,12bを、突出区間11d,12dに置換することによって得られる。第1の導波路11と第2の導波路12とは、第1の狭壁13を対称面として、面対称になるように構成されている。したがって、ここでは、突出区間11dについて説明し、突出区間12dに関する説明を省略する。突出区間11d,12dは、特許請求の範囲に記載した他の突出部の一類型である。
【0141】
(突出区間11d)
第1の導波路11は、幅W1が一定である第1の区間11cと幅W1が一定である第2の区間11eとの間に挿入された突出区間11dであって、開口131に対向する狭壁112が、開口131に向かって突出している突出区間11dを含む。突出区間11dにおいて、狭壁112が狭壁13に向かって突出する突出量Pdは、突出区間11dの両端(突出区間11dと第1の区間11cとの接続位置、及び、突出区間11dと第2の区間11eとの接続位置)より突出区間11dの中央において大きい。すなわち、突出区間11dの中央における突出量Pdは、突出区間11dの両端における突出量Pdより大きく、突出区間11dの中央における第1の導波路11の幅は、突出区間11dの両端における第1の導波路11の幅より狭い。
【0142】
(突出区間11dの分類)
ここで、突出区間における突出量Pdの変化の仕方に着目して、突出区間11dを分類しておく。
【0143】
突出区間の両端から突出区間の中央に近づくにしたがって突出量Pdが大きくなるように構成された突出区間11dを含む方向性結合器1のことをテーパ型の方向性結合器と呼称する。このテーパ型の方向性結合器1は、突出量Pdの変化の仕方に応じて(1)スロープテーパ型と、(2)ステップテーパ型と、(3)スロープステップテーパ型とに分類される。
図17に示した第13の変形例に係る方向性結合器1は、スロープテーパ型であり、
図18に示した第14の変形例に係る方向性結合器1は、ステップテーパ型であり、
図19に示した第15の変形例に係る方向性結合器1は、スロープステップテーパ型である。
【0144】
スロープテーパ型の方向性結合器1とは、突出区間の両端から突出区間の中央に近づくにしたがって突出量Pdが連続的に大きくなるように構成された突出区間11dを含む方向性結合器のことを指す(
図17参照)。連続的に大きくなる突出量Pdの具体例としては、突出区間の両端からの距離の関数として、突出量Pdが一次関数又は二次関数で表される場合が挙げられる。また、方向性結合器1の広壁を上面視した場合において、突出区間11dにおける狭壁の形状が円又は楕円の円弧の一部によって構成されている方向性結合器もスロープテーパ型の方向性結合器1である。
【0145】
図17に示した方向性結合器1の突出区間11dにおいて、突出量Pdは、突出区間11dの両端からの距離の関数として一次関数で表されるように構成されている。したがって、方向性結合器1は、スロープテーパ型の方向性結合器の具体例である。
【0146】
ステップテーパ型の方向性結合器1とは、突出区間11dの両端から突出区間11dの中央に近づくにしたがって突出量Pdが離散的に大きくなるように構成された方向性結合器1のことを指す(
図18参照)。別の言い方をすれば、ステップテーパ型の方向性結合器1は、突出区間11dの両端から突出区間11dの中央に近づくにしたがって突出量Pdが階段状に大きくなるように構成された方向性結合器1である。突出区間11dにおいて突出量Pdが離散的に大きくなる段数は、1段であってもよいし、複数段であってもよい。
【0147】
図18に示した方向性結合器1の突出区間11dにおいて、突出量Pdが離散的に大きくなる段数は、2段である。
【0148】
スロープステップテーパ型の方向性結合器1とは、突出区間11dがスロープ区間11d1とステップ区間11d2とによって構成された方向性結合器1のことを指す(
図19参照)。スロープ区間11d1は、突出区間11dの端部を含み、突出区間11dの端部から突出区間11dの中央に近づくにしたがって突出量Pdが連続的に大きくなるように構成された区間である。ステップ区間11d2は、突出区間11dの中央を含み、ステップ区間11d2の端部からステップ区間11d2の中央に近づくにしたがって突出量Pdが離散的に大きくなるように構成された区間である。ステップ区間11d2において突出量Pdが離散的に大きくなる段数は、1段であってもよいし、複数段であってもよい。
【0149】
図19に示した方向性結合器1において、スロープ区間11d1の突出量Pdは、突出区間11dの両端からの距離の関数として一次関数で表されるように構成されている。また、
図19に示した方向性結合器1において、ステップ区間11d2の突出量Pdが離散的に大きくなる段数は、1段である。
【0150】
(突出区間の長さLと開口の幅Wとの大小関係)
第13〜第15の変形例に係る方向性結合器1の突出区間11dの長さLdと開口131の幅Wとの大小関係は、特に限定されるものではない。すなわち、長さLdと幅Wとの大小関係は、Ld>W、Ld=W、及びLd<Wの何れであってもよい。なお、
図17に示した方向性結合器1においては、長さLdと幅Wとの大小関係としてLd>Wを採用している。
【0151】
第13の変形例に係る方向性結合器1の一例を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図20の(a)に示す。
図20の(a)は、この方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。この方向性結合器1は、
図17に示したようにスロープテーパ型の突出区間11d,12dを備えている。この方向性結合器1は、突出量Pdとして100μmを採用し、長さLdとして15mmを採用している。それ以外の構成は、実施例に係る方向性結合器1と同様である。
【0152】
図20の(a)を参照すると、周波数が65.0GHz以上86.8GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、本変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む65.0GHz以上86.8GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0153】
また、周波数が、82.9GHz以上85.2GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、本変形例に係る方向性結合器1は、82.9GHz以上85.2GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0154】
以上のように、本実施形態に係る方向性結合器1は、他の突出部として突出区間11d,12dを更に備えていてもよい。
【0155】
本発明の第13の変形例に係る方向性結合器の別の例について、
図20の(b)を参照して説明する。
図20の(b)は、この方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。この方向性結合器1は、
図20の(a)に示した方向性結合器1の突出量Pdを100μmから300μmに変更することによって得られた。
【0156】
図20の(b)を参照すると、周波数が71.3GHz以上90.0GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、本変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む71.3GHz以上90.0GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0157】
また、周波数が、78.9GHz以上90.0GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、本変形例に係る方向性結合器1は、78.9GHz以上90.0GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0158】
第15の変形例に係る方向性結合器1を用いてSパラメータの周波数依存性を計算した結果を
図21に示す。
図21は、本変形例に係る方向性結合器1のSパラメータの周波数依存性を示すグラフである。本変形例に係る方向性結合器1においては、突出量Pdとして300μmを採用し、長さLdとして15mmを採用した。突出量Pd(300μm)の内訳は、スロープ区間11d1の突出量が100μmであり、ステップ区間11d2の突出量が200μmである。
【0159】
図21を参照すると、周波数が71.3GHz以上90.0GHz以下の周波数帯域において、S(1,1)及びS(1,4)の各々は、−13dB未満であった。すなわち、第14の変形例に係る方向性結合器1は、目標周波数である78.5GHzの100%以上105%以下である周波数帯域、すなわち、78.5GHz以上82.4GHz以下である周波数帯域を含む71.3GHz以上90.0GHz以下の周波数帯域において、反射損失を抑制可能であることが分かった。
【0160】
また、周波数が、78.9GHz以上90.0GHz以下の周波数帯域において、S(1,2)とS(1,3)との差は、1.0dB未満であった。すなわち、上述した反射損失を抑制可能な周波数帯域に鑑みると、第14の変形例に係る方向性結合器1は、78.9GHz以上90.0GHz以下の周波数帯域において、結合度3dBの方向性結合器としてより好適に動作することが分かった。
【0161】
以上のように、第13〜第15の変形例に係る方向性結合器1は、他の突出部として突出区間11d,12dを更に備えている。
【0162】
〔構成例〕
第1の実施形態に係る方向性結合器1の構成例について、
図22を参照して説明する。
図22は、本構成例に係る方向性結合器1の構成を示す上面図である。
【0163】
本構成例に係る方向性結合器1が備えている第1の導波路11及び第2の導波路12の各々は、何れもポスト壁導波路技術を用いて作製されている。
【0164】
上述したように、第1の導波路11と第2の導波路12とは、第1の狭壁13を対称面として面対称になるように構成されている。したがって、ここでは、第1の導波路11について説明し、第2の導波路12に関する説明を省略する。
【0165】
具体的には、第1の導波路11は、誘電体基板10と、誘電体基板10の両面に設けられた一対の導体板(
図22に不図示)と、誘電体基板10を貫通する導体ポスト112iを壁状に配置したポスト壁と、導体ポスト13iを壁状に配置したポスト壁とによって構成されている。本構成例において、導体ポスト13iは、一対の導体ポストからなる。
【0166】
方向性結合器1を上面視した場合に、導体ポスト112iの各々は、それらの中心を結んだ線が、
図1に示した狭壁112の形状と一致するように配置されており、導体ポスト13iの各々は、それらの中心を結んだ線が、
図1に示した狭壁13の形状と一致するように配置されている。
【0167】
したがって、誘電体基板10の両面に設けられた一対の導体板の各々は、それぞれ、広壁111a及び広壁111bとして機能する。導体ポスト13iを壁状に配置したポスト壁は、第1の狭壁である狭壁13として機能する。導体ポスト112iを壁状に配置したポスト壁は、第2の狭壁である狭壁112として機能する。
【0168】
一対の突出部11aは、狭壁13を構成する導体ポスト13iに隣接するように1本又は複数本の導体ポストを配置することによって形成される。一対の突出部11aを形成する導体ポストが複数本からなる場合、この複数本の導体ポストは、狭壁13から狭壁112に向かう方向に沿って、狭壁13の近傍に並べられる。
【0169】
本構成例に係る方向性結合器1において、一対の突出部11aの突出量Paは、導体ポスト13iの中心の各々を結んだ線、すなわち、狭壁13の壁心を表す線から、一対の突出部11aを形成する導体ポストの末端までの距離である。また、一対の突出部11aの幅Waは、一対の突出部11aを形成する導体ポストの直径である。
【0170】
他の突出部11bは、一対の突出部11aと同様に構成されている。したがって、本構成例に係る方向性結合器1において、他の突出部11bの突出量Pbは、導体ポスト112iの中心の各々を結んだ線、すなわち、狭壁112の壁心を表す線から、他の突出部11bを形成する導体ポストの末端までの距離である。また、他の突出部11bの幅Wbは、他の突出部11bを形成する導体ポスト112iの直径である。
【0171】
なお、本構成例において、導体ポスト112i,122iの直径、導体ポスト13i、一対の突出部11aを形成する導体ポスト、及び他の突出部11bを形成する導体ポストの直径は、何れも100μmである。また、互いに隣接する導体ポスト112iと導体ポスト112i+1との間隔、互いに隣接する導体ポスト122iと導体ポスト122i+1との間隔、及び、互いに隣接する導体ポスト13iと導体ポスト13i+1との間隔は、何れも200μmである。しかし、これらの直径及びこれらの間隔は、何れも、本構成例に限定されるものではなく、目標周波数に応じて適宜定めることができる。
【0172】
本構成例によれば、ポスト壁導波路技術を用いて方向性結合器1を作成することができる。したがって、方向性結合器1を、ポスト壁導波路技術を用いて作成された他の導波路やバンドパスフィルタなどと共に1枚の誘電体基板に集積化することができる。
【0173】
また、方向性結合器1は、共有する狭壁13に形成された開口131を介して第1の導波路11と第2の導波路12とが結合するH面結合型の方向性結合器である。H面結合型の方向性結合器1は、ポスト壁導波路技術を利用して作製する方向性結合器として好適である。なぜなら、1枚の誘電体基板10を利用して方向性結合器1を作製できるからである。
【0174】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るダイプレクサについて、
図23を参照して説明する。
図23の(a)及び(b)は、本実施形態に係るダイプレクサ5の構成を示すブロック図である。
【0175】
図23の(a)に示すように、ダイプレクサ5は、2つの第1の実施形態に係る方向性結合器1と、第1のフィルタ51と、第2のフィルタ52とを備えている。
【0176】
本実施形態では、2つの方向性結合器1の各々を、方向性結合器1a(第1の方向性結合器)及び方向性結合器1b(第2の方向性結合器)と表記することによって区別する。また、方向性結合器1aの4つのポートの各々を第1のポートP1a〜第4のポートP4aと表記し、方向性結合器1bの4つのポートの各々を第1のポートP1b〜第4のポートP4bと表記することによって区別する。
【0177】
また、本実施形態では、第1のフィルタ51及び第2のフィルタ52の各々としてバンドパスフィルタ(BPF)を採用している。以下では、第1のフィルタ51のことをBPF51と表記し、第2のフィルタ52のことをBPF52と表記する。BPF51,52は、所定の周波数帯域の高周波信号のみを透過させ、それ以外の周波数帯域の高周波信号を反射する。
【0178】
BPF51は、方向性結合器1aの第2のポートP2aと方向性結合器1bの第1のポートP1bとを接続する。また、BPF52は、方向性結合器1aの第3のポートP3aと方向性結合器1bの第4のポートP4bとを接続する。
【0179】
BPF51,52は、アンテナ63が受信した高周波信号を透過させ、且つ、送信回路61が送信する高周波信号を反射するように構成されている。
【0180】
このように構成されたダイプレクサ5が実現する機能について、次に説明する。
図23の(a)に示すように、方向性結合器1aの第1のポートP1aにアンテナ63を接続し、方向性結合器1aの第4のポートP4aに送信回路61(Tx)を接続し、方向性結合器1bの第2のポートP2bを終端抵抗64を介して接地し、方向性結合器1bの第3のポートP3bに受信回路62(Rx)を接続する。
【0181】
アンテナ63が接続された第1のポートP1aから受信回路62が接続された第3のポートP3bまでの経路は、2つある。第1の経路は、第1のポートP1aから第2のポートP2a、BPF51及び第1のポートP1bを経由して第3のポートP3bに至る経路である。第2の経路は、第1のポートP1aから第3のポートP3a、BPF52及び第4のポートP4bを経由して第3のポートP3bに至る経路である。
【0182】
上記のように構成されたダイプレクサ5によれば、アンテナ63が受信し第1のポートP1aに入射された高周波信号は、受信回路62に到達することができる。
【0183】
同様に、送信回路61が接続された第4のポートP4aからアンテナ63が接続された第1のポートP1aまでの経路も、2つある。第1の経路は、第3のポートP3aとBPF52との界面で反射された後に、第1のポートP1aに至る経路であり、第2の経路は、第2のポートP2aとBPF51との界面で反射された後に、第1のポートP1aに至る経路である。
【0184】
上記のように構成されたダイプレクサ5によれば、送信回路61から第4のポートP4aに入射された高周波信号は、アンテナ63に到達することができる。
【0185】
以上のように、ダイプレクサ5は、(1)アンテナ63が接続された第1のポートP1aから入射された高周波信号を受信回路62が接続された第3のポートP3bから出射させ、(2)送信回路61が接続された第4のポートP4aから入射された高周波信号をアンテナ63が接続された第1のポートP1aから出射させることができる。
【0186】
なお、ダイプレクサ5は、構成例に上述したようにポスト壁導波路技術を適用して作製されていることが好ましい。ポスト壁導波路技術を用いて作製することにより、方向性結合器1a、方向性結合器1b、BPF51、及びBPF52の各々を同一の誘電体基板に集積することができる。したがって、ダイプレクサ5の製造コストを抑制することができ、且つ、集積化を図ることができる。
【0187】
また、ダイプレクサ5は、
図23の(b)に示すように、方向性結合器1aの第4のポートP4aに受信回路62を接続し、方向性結合器1bの第3のポートP3bに送信回路61を接続する構成を採用してもよい。この場合、BPF51,52は、アンテナ63が受信した高周波信号を反射させ、且つ、送信回路61が送信する高周波信号を透過するように構成されていればよい。
図23の(b)に示すダイプレクサ5は、
図23の(a)に示すダイプレクサ5と同様の機能を有する。
【0188】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【解決手段】方向性結合器の矩形導波路(11,12)の各々は、第1の狭壁(13)又は第2の狭壁(112,122)に設けられ、開口(131)に対して対称な位置に形成された一対の突出部であって、一方の狭壁(13又は112,122)から他方の狭壁(112,122又は13)に向かって突出している一対の突出部(11a,12a)と、第2の狭壁(112,122)から開口(131)に向かって突出している他の突出部(11b,12b)と、を備えている。