【実施例】
【0032】
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
金属錯体化合物(II)の合成
(第1の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に従って合成した。
【0033】
(化合物1の合成)
グリシン・メチル・エステル一塩酸塩(glycine methyl ester monohydrochloride)(10.0g, 0.079mol)を含むギ酸エチル(ethyl formate)溶液(60mL)にP-TsOH (10 mg)を加えた。そして、その溶液を加熱して沸騰させた。沸騰中にトリエチルアミン(triethylamine)を数滴滴下し、その混合液を24時間還流した。その後、その溶液を室温まで冷却した。白いトリエチルアミン塩酸塩をろ過した。ろ過物を20mLまで濃縮した。得られた溶液をマイナス摂氏5度まで冷却し、ろ過を行った。ろ過物である、赤茶色の濃縮溶液(化合物1)を得た。
【0034】
(化合物2の合成)
化合物1に、CH
2Cl
2 (20mL)を溶かした。その後に、ethane-1,2-diamine(1.2g)、そして、酢酸(HOAc)(20μL)を加えた。反応させた混合溶液を6時間還流させた。そして、反応混合溶液を室温まで冷却し、4グラムの黄色い油状の濃縮物(化合物2)を得た。得られた化合物2の純度を、シリカゲルを用いたフラッシュコラムクロマトグラフィーによって向上させた。
【0035】
(化合物0の合成)
メタノール(50ml)の中に化合物2、triethylamineを入れ、10mlメタノールの中に、金属塩化物(鉄サレン錯体化合物の合成の際は、FeCl
3(4H
2O)である。)溶液を窒素雰囲気下で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。その後、これを真空中で乾燥した。得られた化合物をジクロロメタン400mLで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、真空中で乾燥させて化合物0(金属錯体化合物(II))を得た。
【0036】
(第2の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に基づいて合成した。
【0037】
氷上の酢酸でpH6に調整しながら無水メタノール(50mL)の中に3.4gの3-メチルアセチルアセトン(化合物2)と0.9gのエチレンジアミン(化合物1)を入れて化合物3を合成した。得られた溶液を15分間還流し、これが半分の体積になるまで蒸発させた。その後、同体積の水を加えて析出させたところ1.4gの白い化合物(化合物3)を合成した。
【0038】
その後、化合物3(1.2g、5mmol)をメタノール(50mL)に入れ、FeSO
4・7H
2O
(1.4 g, 5 mmol)を加えたところ、青白い緑の溶液が得られた。混合溶液を、8時間、室温、窒素雰囲気で攪拌したところ、色が徐々に茶色になった。その後、溶液を蒸発させてその体積を半分にした後、同体積の水を加えた。次いで、真空引きでメタノールを蒸発させたて茶色の塊を得た。その塊を集めて水で洗浄し、真空引きで乾燥したところ目的の化合物0(鉄錯体化合物(II))が360mg得られた。
【0039】
(第3の合成例)
金属錯体化合物(II)を次の反応式に基づいて合成した。
【0040】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し1.07gの中間体を得た。
【0041】
窒素雰囲気下、中間体(1.07mg, 3.4 mmol)、配位原子(0.70g, 3.4 mmol)、脱気デカリン30mLを反応容器に仕込み、還流下1時間攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン10mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、0.17gの生成物(鉄錯体化合物(II))を得た。
【0042】
(実施例2)
金属錯体化合物(III)の合成
金属錯体化合物(III)を次の反応式に基づいて合成した。
【0043】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.78g, 4.5mmol)、脱気メタノール20mLを仕込み、アセチルアセトン(0.91g, 9.9mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し0.58gの中間体を得た(収率 67%)。
【0044】
窒素雰囲気下、中間体(240mg, 0.75 mmol)、配位原子(210mg, 0.75 mmol)、脱気デカリン10mLを反応容器に仕込み、還流下30分攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン3mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、101mgの生成物(金属錯体化合物(III))を得た。
【0045】
(実施例3)
金属錯体化合物(IV)の合成
金属錯体化合物(IV)を次の反応式に基づいて合成した。
【0046】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。CH
2Cl
2(10mL)に溶かした化合物1の溶液(60mg, 1.0 mmol)に化合物2(120mg, 2.0 mmol)とSiO
2 (1g)を加えた。得られた溶液を、反応させるため終夜、室温で攪拌したところ化合物3が合成された。その後、得られた化合物を窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを入れ、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、析出した結晶をろ過したところ茶色の目的化合物(金属錯体化合物(IV))を得た。
【0047】
(実施例4)
前記(V)〜(XI)の化合物は、国際公開第2010/058280号公報43〜47頁に記載の方法によって合成する。側鎖である臭素、又は、メトキシル基の主骨格への付加は、サレンに金属錯体の結合を形成する際に、ベンゼン環のOH基とはパラの位置でベンゼン環に結合している保護基(NHBoc)を臭素、又は、メトキシル基で置換する。(c,d),(e,f)がアントラセンを構成する(VIII)及び(IX)の化合物では、出発物質として、パラニトロフェノールに代えて、下記化合物を使用する。
(a,h)がシクロヘキサンを構成する金属サレン錯体(VI)、さらに、(a,h)がベンゼンを構成する金属サレン錯体(VII)の合成については、Journal of
thermal Analysis and Calorimetry, Vol.75(2004)599-606 のExperimental
の600Pに記載の方法によって、金属と配位結合する前の目的のサレンを作成する。
【0048】
(実施例5)
下記(1)の化合物は、鉄の2価のサレン錯体化合物である。本化合物はがん細胞の中に存在する活性酸素と結合して酸素ラジカルをトラップするにより、2価から3価に変化する。ここでは、下記(1)の化合物ががん細胞から発生する酸素ラジカルをトラップする様子を3価の錯体を検出して発色するヘマトキシン(hamatoxylin)を用いて確認した。
(R
1,R
2,R
3,R
4は、いずれも「H」である。)
【0049】
最初に皮膚がんであるメラノーマ細胞(clone
M3)を(1)式の鉄サレン錯体化合物(濃度1mM)の存在下で培養した。培養は丸型シャーレを用い、そのシャーレ(直径100mm)の下に磁束密度240mTの丸いボタン状の磁石(直径10mm)を置き、そのシャーレを24時間培養した(培地はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)、培養時間24時間、培養温度37℃)。この培地をヘマトキシリンで染色した。
【0050】
染色の手法は次のとおりである。
(1)脱パラフィン、脱キシレン、水洗を行う。
(2)核染色をヘマトキシリンで5-15分行う。
(3)軽く水洗をする。
(4)必要に応じ0.25%−0.5%塩酸水で分別する。
(5)色だしを行うため、流水で水洗10分(冬季15分)する。
(6)水洗5分(アルカリ水にて色だしを行った場合に必要)行う。
(7)細胞質染色(エオシン)1分−1010分行う。
(8)脱水、透徹、封入して、染色を終了する。
【0051】
以上の結果、ボタン状磁石の直下及びその周辺で、培地が青紫色に染色されたことが確認された。これは、化合物(1)ががん細胞から生じる酸素ラジカル原子をトラップすることによって2価から3価に変化してことを示している。また、染色された領域では、メラノーマ細胞が死滅していることを顕微鏡によって確認した。なお、2価金属サレン錯体の抗ラジカル作用の発揮のためには、ボタン状磁石の存在は必須ではない。ボタン状磁石を置いたのは、2価金属サレン錯体の濃度を高めるためである。