特許第6046364号(P6046364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046364
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】焼入れ装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/40 20060101AFI20161206BHJP
   C21D 1/62 20060101ALI20161206BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C21D1/40 Z
   C21D1/62
   H05B3/00 340
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-83391(P2012-83391)
(22)【出願日】2012年3月31日
(65)【公開番号】特開2013-213252(P2013-213252A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100152342
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 益史
(72)【発明者】
【氏名】脇谷 聡一郎
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−241121(JP,A)
【文献】 特開2010−242168(JP,A)
【文献】 特開平05−007916(JP,A)
【文献】 特開平05−069025(JP,A)
【文献】 特開2008−087001(JP,A)
【文献】 特開昭52−103740(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0152256(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/09,1/40,1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品における焼入れ対象部分の両側に一対の電極を当接させて、前記一対の電極間に電流を流すことにより前記焼入れ対象部分を加熱するように構成された焼入れ装置であって、
前記一対の電極のそれぞれは、前記金属部品に接触する複数の接触部と、前記金属部品に接触しない非接触部とに区分され、これら複数の接触部および非接触部は、交互に並んだ構成とされており、
前記金属部品は、天井部と縦壁部とからなる断面L型形状部を有し、
前記断面L型形状部が前記焼入れ対象部分に含まれるように、前記一対の電極の内、第1の電極は前記天井部に当接し、第2の電極は前記第1の電極との間に前記断面L型形状部を挟んで前記縦壁部に当接するように構成され、
前記一対の電極が前記焼入れ対象部分を加熱した後に、前記断面L型形状部に合わさるように前記焼入れ対象部分の表裏面に当接し、前記焼入れ対象部分を冷却しつつ型締めする一対の冷却型を備え
前記第1および前記第2電極のそれぞれには、冷却水が供給可能なパイプ状の貫通部材が貫通しており、前記貫通部材は、両端が前記焼入れ対象部分に対して略直交するように屈曲したコ字状に形成されていることを特徴とする、焼入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品に焼入れを施すのに用いられる焼入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、自動車のボディには、断面がハット形状に成形(プレス加工)された鋼板からなるハット型成形品が用いられている。このハット型成形品などの金属部品には、高強度化を図ることを目的として焼入れが施されることがある。
【0003】
従来、焼入れの手法として、高周波焼入れが知られている。高周波焼入れでは、成形後の鋼板(金属部品)における焼入れ対象部分にコイルが近づけられ、そのコイルに高周波電源から電流が、供給される。コイルに高周波電流が流れると、磁界が生じ、焼入れ対象部分の表面に渦電流が流れる。これにより、焼き入れ対象部分でジュール熱が発生し、焼入れ対象部分が加熱される。そして、その加熱直後に焼入れ対象部分に冷却液が直接かけられて、焼入れ対象部分が急冷され、焼入れ対象部分に対する焼入れが達成される。
【0004】
また、焼き入れの他の手法として、ダイクエンチが知られている。ダイクエンチでは、加熱炉で鋼板が加熱された後、その鋼板が冷却されている金型によりプレス加工される。これにより、鋼板の成形と同時に、鋼板への焼入れが達成される。
【0005】
また、焼入れの他の手法として、直接通電加熱がある。直接通電加熱では、金属部品の焼入れ対象部分の両端付近から電極を介して電流が供給される。この電流の供給により発生するジュール熱により、焼入れ対象部分の加熱が行われる。加熱後に焼入れ対象部分に冷却液がかけられ、焼入れ対象部分が急冷され、金属部品への焼入れが達成される。直接通電加熱によれば、安価な設備で、熱効率の良い金属部品の加熱を行うことができる。
【0006】
しかしながら、従来においては、次に述べるように、未だ改善すべき余地があった。
【0007】
すなわち、高周波焼入れでは、高周波電源が必要であり、装置のコストが高くつくうえに、冷却液が鋼板に直接かけられるので、使用済みの汚染された冷却液を浄化する設備が必要であり、設備に要するコストが高くつく。さらに、成形後の鋼板が加熟された直後に急冷されるため、鋼板に熱歪みが生じ、金属部品の寸法精度が低下するといった問題もある。
【0008】
ダイクエンチでは、冷間加工と比較して、1つの金属部品の加工(成形)に長い時間がかかり、生産性が悪い。また、ダイクエンチでは、加熱された鋼板が加熱炉からプレス機械に搬送される間に、鋼板の表面に酸化スケールが生じる。そのため、成形後(プレス加工後)に、酸化スケールを除去するためのショットブラスト加工が必要となる。その結果、鋼板の加熱、プレス加工およびショットブラスト加工の一連の処理を実行する専用ラインを構築しなければならず、大規模な設備投資を余儀なくされる。また、酸化スケールの飛散や酸化スケールに起因する金型の消耗などの問題もある。
【0009】
また、直接通電加熱の問題点として、焼入れ対象部分を均一に加熱することが容易でないことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−17933号公報
【特許文献2】特開2000−256733号公報
【特許文献3】特開2003−239018号公報
【特許文献4】特開2001−353548号公報
【特許文献5】特開平04−280924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであって、金属部品の成形および焼入れのための設備に要するコストおよびランニングコストを低減でき、高強度かつ高品質な金属部品を得ることができる焼入れ装置を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0013】
本発明により提供される焼入れ装置は、金属部品における焼入れ対象部分の両側に一対の電極を当接させて、前記一対の電極間に電流を流すことにより前記焼入れ対象部分を加熱するように構成された焼入れ装置であって、前記一対の電極のそれぞれは、前記金属部品に接触する複数の接触部と、前記金属部品に接触しない非接触部とに区分され、これら複数の接触部および非接触部は、交互に並んだ構成とされており、前記金属部品は、天井部と縦壁部とからなる断面L型形状部を有し、前記断面L型形状部が前記焼入れ対象部分に含まれるように、前記一対の電極の内、第1の電極は前記天井部に当接し、第2の電極は前記第1の電極との間に前記断面L型形状部を挟んで前記縦壁部に当接するように構成され、前記一対の電極が前記焼入れ対象部分を加熱した後に、前記断面L型形状部に合わさるように前記焼入れ対象部分の表裏面に当接し、前記焼入れ対象部分を冷却しつつ型締めする一対の冷却型を備え、前記第1および前記第2電極のそれぞれには、冷却水が供給可能なパイプ状の貫通部材が貫通しており、前記貫通部材は、両端が前記焼入れ対象部分に対して略直交するように屈曲したコ字状に形成されていることを特徴としている。
【0014】
このような構成によれば、金属部品のうち、一対の電極で挟まれた部分(焼き入れ対象部分)に通電を行ない、ジュール熱を発生させることによって、焼き入れ対象部分を効率良く加熱することができる。とくに、各電極は、接触部と非接触部とが交互に並んだ構成とされているために、各電極の近傍部分が他の部分と比較して局所的な高温領域となるようなことを適切に抑制し、焼き入れ対象部分全体を略均一な温度に加熱することが可能となる。したがって、焼入れ対象部分全体の均質な焼き入れが可能となり、高強度かつ高品質な金属部品を得ることができる。その結果、比較的安価な鋼板を用いて、従来の金属部品と同等以上の強度および品質を有する金属部品を得ることができる。本発明の焼入れ装置は、金属部品に電流を流すための電源として高周波電源を必要としない。また、冷間加工などによる加工後の金属部品に焼入れを行うことができるので、ダイクエンチとは異なり焼入れのための設備に要するコストを低減できるとともに、焼入れの処理時間を短くできる。その結果、従来の金属部品と同等以上の強度および品質を有する金属部品を従来よりも安価に製造することが可能である。
【0015】
また、このような構成によれば、金属部品に歪みが生じることを防止しつつ、焼入れ対象部分を冷却することができる。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る焼入れ装置の構成の一例を示す断面図である。
図2図1に示す焼入れ装置の第1および第2電極を金属部品とともに示す斜視図である。
図3】(A)は、図1に示す焼入れ装置の第1および第2電極、ならびに焼入れ対象部分の寸法条件を説明するための図であり、(B)は、(A)のIIIB−IIIB線に沿う断面図である。
図4図1に示す焼入れ装置における金属部品の冷却時の状態を示す断面図である。
図5】実施例1〜6および比較例1,2における部分焼入れの試験方法を説明するための図である。
図6】実施例1〜6および比較例1,2の(Lb+p)/Lbの値と、焼入れ対象部分の中心部分からL方向にずれた2点における温度と、の関係を示すグラフである。
図7】実施例1〜6および比較例1,2の(Lb+p)/Lbの値と、焼入れ対象部分の中心部分からW方向にずれた位置における温度と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0019】
図1に示す焼入れ装置1は、直接通電加熱により金属部品7を加熱し、部分焼入れを行うための装置であり、金属部品7のクランプおよび冷却が可能なクランプ機構6と、金属部品7の通電加熱を行なうための第1および第2電極4A,4Bとを備えている。
【0020】
金属部品7は、図1の仮想線で示すように、断面ハット形状に成形された鋼板であり、縦壁部7b、天井部7c、およびフランジ部7aを有している。この金属部品7は、図1の紙面に直交する方向に延びた形状を有しており、たとえば、自動車のインパクトビームなどに用いられるものである。なお、図1では、金属部品7の右側領域のみが焼き入れ対象とされた例を示している。無論、本発明において、焼入れ対象となる金属部品は、これに限定されない。
【0021】
クランプ機構6は、上下クランプ部材6A,6B、およびこれらを接離させるクランプ駆動機構60を備えている。これら上下クランプ部材6A,6Bは、ともに金属部品7の長手方向(以下、単に「長手方向」)に延びるブロック状であり、これらを互いに接近させた際に金属部品7をその両側から挟むようにして面接触可能な面を有している。上下クランプ部材6A,6Bのうち、金属部品7の焼入れ対象部分51(第1および第2の電極4A,4B間の部分)に対向する箇所には、凹部62a,62bが設けられ、冷却型61a,61bが収容されている。この冷却型61a,61bは、焼入れ対象部分51に当接させるための当接面63a,63bを有しており、この当接面63a,63bは金属部品7に当接する位置と離間する位置とに切り替え可能である。冷却型61a,61b内には、冷却水流路64a,64bが配されており、この冷却水流路64a,64bには、開閉弁V2を備えた冷却水配管28a,28bから供給される冷却水が流通する。上下クランプ部材6A,6Bには、凹部62a,62bに一端が繋がったエア供給路18a,18bが設けられている。このエア供給部18a,18bには、開閉弁V3を有するエア配管20a,20bを介して、エアポンプ19からエア供給が可能である。このエア供給は、冷却型61a,61bの動作用である。
【0022】
第1および第2電極4A,4Bは、たとえば銅管を用いて構成されており、上クランブ部材6Aに設けられた電極配置用の凹部33,35内に収容されている。図2によく表われているように、第1および第2電極4A,4Bのそれぞれは、大径状とされて金属部品7に接触可能な複数の接触部41aと、これら複数の接触部41aよりも小径とされて金属部品7には非接触の複数の非接触部41bとに区分されており、これら接触部41aおよび非接触部41bは1つずつ交互に並んでいる。第1および第2の電極4A,4Bによる通電は、複数の接触部41aのみを介して行なわれる。接触部41aおよび非接触部41bの長さの関係については、後述する。図1に示すように、第1および第2電極4A,4Bは、電源43と接続されている。電源43は、直流電源および交流電源のいずれであってもよい。なお、上下クランプ部材6A,6Bに電流が不当に流れることを防止するこ
とを目的として、それらの適当な部分(たとえば、エア供給路18a,18bの内面など)には、電気絶縁材が配設されている。
【0023】
第1および第2電極4A,4Bには、パイプ状の貫通部材42A,42Bが貫通している。この貫通部材42A,42Bは、両端が屈曲したコ字状であり、その内部には、冷却水が供給可能である。この冷却水供給は、第1および第2電極4A,4Bの溶融を防止するためのものであり、開閉弁V1を備えた冷却水配管44A,44Bを利用して行なわれる。
【0024】
次に、第1および第2電極4A,4Bの好ましい配置や寸法条件について、図3(A),(B)を参照して説明する。
第1および第2電極4A,4Bのそれぞれの全長をLa、第1および第2電極4A,4Bどうしの間隔をW(図3(B)を参照)とした場合、これらは、次の式1の関係を満たすように設定されている。
La/W≧1.5 ・・・式1
【0025】
接触部41aの長さをLb、接触部41の間隔(非接触部41bの長さ)をpとした場合、これらは、次の式2の関係を満たすように設定されている。
1.0<〔(Lb+p)/Lb〕≦5.0 ・・・式2
なお、2.0≦〔(Lb+p)/Lb〕≦5.0であることがより好ましく、2.0≦〔(Lb+p)/Lb〕≦3.0であることがさらに好ましい。
【0026】
次に、前記した焼入れ装置1の作用について説明する。
【0027】
まず、図1に示すように、上下クランプ部材6A,6B間に、金属部品7を挟み込む。冷却型61a,61bについては、金属部品7から離間させておき、バキュームポンプ50を駆動することにより、金属部品7と冷却型61a,61bとの間の空間部を真空引きしておく。このような状態において、電源43をオンとする。このことにより、第1および第2電極4A,4B間には、金属部品7を介して電流が流れる。したがって、その部分(焼き入れ対象部分51)にジュール熱が発生し、当該部分51が加熱される。なお、第1および第2の電極4A,4Bの貫通部材42A,42Bには、冷却水が供給されることにより、第1および第2電極4A,4Bを構成する銅管が熱溶融することは適切に防止される。焼き入れ対象部分51が所定温度(たとえば、900℃程度)まで昇温すると電源43はオフされる。
【0028】
電源43をオフにした後には、上下クランプ部材6A,6Bの凹部62a,62bに対し、エアポンプ19からエアが供給される。このエア圧により、図4に示すように、冷却型61a,61bが金属部品7側に移動し、金属部品7に接触する。このことにより、先に加熱されていた焼入れ対象部分51が効率良く冷却され、焼入れ対象部分51に対する焼入れが達成される。
【0029】
本実施形態においては、第1および第2電極4A,4Bのそれぞれが、接触部41aと非接触部41bとが交互に並んだ構成されているために、第1および第2電極4A,4B付近の加熱量を抑制し、焼入れ対象部分51の中心部(間隔W方向の中心)に対し、第1および第2電極4A,4B寄り部分がかなり高温となる現象を緩和することができる。もちろん、非接触部41bに対応する箇所も、有効に加熱することができる。また、間隔W方向における加熱温度の均一化は、前記した式1の条件を満たすことによって、より適切に図られる。
【0030】
加えて、本実施形態では、前記した式2の条件をも満たしており、接触部41aと非接
触部41bとが程良い関係とされているために、焼入れ対象部分51の加熱温度分布をより均一にする効果も得られる。すなわち、〔Lb+p)/Lb〕の値が過大であると、非接触部41bに対応する箇所の温度が低く、かつ接触部41aに対応する箇所が高温となって、この部分が溶融するといった不具合を生じ易くなるが、前記の式2の条件を満足すれば、そのようなことを回避することができる。なお、本実施形態とは異なり、非接触部41bが設けられておらず、その寸法pがゼロの場合には、〔Lb+p〕/Lb〕=1となるが、式2では、そのような範囲は除外されている。焼入れ対象部分51を均一に加熱することができれば、焼き入れの均質化が図られ、高強度かつ高品質な金属部品を得るのに好適となる。このような点は、後述する実施例からも理解される。
【0031】
電源43は、高周波電源である必要はない。このため、焼入れ装置1では、高周波焼入れのための装置と比較して、装置のコストを低く抑えることができる。また、加熱後の焼入れ対象部分51には冷却液が直接かけられるようなことはなく、冷却型61a,61bを利用して焼入れ対象部分51の冷却が達成される。したがって、使用済みの冷却液を処理する設備も不要である。
【0032】
また、焼入れ前の金属部品7の成形は、冷間加工(冷間プレス)により達成することができる。すなわち、成形と焼入れとが同時に進行するダイクエンチとは異なり、金属部品7の成形と焼入れとを分離して行うことができる。このことにより、冷間加工を活用しつつ、比較的長い処理時間を要する焼入れを低コストの焼入れ装置1により達成することができる。よって、ダイクエンチの手法が採用される場合と比較して、金属部品7の成形のための設備コストも低減できる。また、生産性も高まる。
【0033】
また、焼入れ対象部分51がその加熱直後に冷却されるので、焼入れ対象部分51に酸化スケールが生じることを防止できる。しかも、焼入れ装置1には、バキュームポンプ50が備えられており、金属部品7と冷却型61a,61bとの間の空間が真空状態に近づけられた状態で、焼入れ対象部分51が加熱および冷却されるので、焼入れ対象部分51に酸化スケールが生じることを良好に防止できる。そのため、焼入れ後に、酸化スケールを除去するためのショットブラスト加工を必要としない。さらに、焼入れ対象部分51の冷却は、冷却型61a,61bによって型締めされた状態で行なわれるために、金属部品7に熱歪みが生じることも防止できる。
【0034】
このようなことから、本実施形態の焼入れ装置1によれば、比較的安価な鋼板を用いて、従来の金属部品と同等以上の強度および品質を有する金属部品を得ることができる。また、金属部品の成形および焼入れのための設備に要するコストを低減できる。その結果、従来の金属部品と同等以上の強度および品質を有する金属部品7を従来の金属部品よりも安価に製造することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例に基づいて、前記実施形態の構成による効果をさらに詳細に説明する。
図5は、下表1に示す実施例1〜6および比較例1,2における部分焼入れの試験方法を説明するための図である。
試験では、前記実施形態における第1および第2電極4A,4Bにそれぞれ相当する正負の電極4A’,4B’を使用し、鋼板加熱状態(温度分布)を調べた。加熱方法としては、電極4A’,4B’を平板状の鋼板に当接させ、電極4A’,4B’に挟まれた焼入れ対象部分51’の中心Oの目標温度を900℃に設定し、電極4A’,4B’間に電流を流した。
【0036】
なお、表1において、実施例1〜4の〔(Lb+p)/Lb〕の値は、前記した式2の
関係、すなわち、1.0 <〔(Lb+p)/Lb〕≦ 5.0を満たしている。比較例1の〔(Lb+p)/Lb〕の値は、1.0であり、電極の形状が非接触部のない棒状である。比較例2の〔(Lb+p)/Lb〕の値は、5.0以上の7.7である。この数字は、接触部の長さLbに比べて非接触部の長さpが長いことを示している。実施例1〜4および比較例1,2は、いずれも前記した式1の関係、すなわち(La/W)≧1.5の条件を満たしている。
【0037】
【表1】
【0038】
図6は、実施例1〜6および比較例1,2の〔(Lb+p)/Lb〕の値と、焼入れ対象部分51’の中心Oから長手方向にずれた2点(位置La(100%)および位置La(80%))における温度と、の関係を示している。図5に示すように、位置La(100%)は、焼入れ対象部分51’のLa方向の一端であって、電極4A’,4B’の対抗方向(以下、単に「W方向」という。)の中央位置である。位置La(80%)は、位置La(100%)よりも長手方向に長さLaの20%分だけ内側の位置である。
図7は、実施例1〜6および比較例1,2の〔(Lb+p)/Lb〕の値と、焼入れ対象部分51’の中心部分からW方向にずれた位置における温度と、の関係を示している。図5に示したように、位置W(80%)は、中心OからW方向に30%ずれた位置である。
【0039】
図6に示すように、実施例1〜4では、位置La(80%)の温度は、中心Oの温度に対して93〜97%である。また、位置La(100%)の温度は、中心Oの温度に対して、79〜82%である。位置La(80%)と位置La(100%)の差は、15〜16%である。以上のように、位置La(80%)および位置La(100%)の温度差は少ない。従って、焼入れ対象部分51’は、La方向において、略均一に加熱されていると理解できる。また、図7に示されるように、実施例1〜4では、位置W(80%)の温度は、中心Oの温度に対して91〜95%である。従って、焼入れ対象部分51’は、W方向においても、略均一に加熱されていると理解することができる。
【0040】
図6に示すように、比較例1では、位置L(80%)の温度は、中心Oの温度に対して96%である。位置L(100%)の温度は、中心Oの温度に対して、80%である。また、位置La(80%)と位置La(100%)の差は、15%である。このように、位置La(80%)および位置La(100%)の温度低下は小さく、実施例1〜4の低下率と比較しても遜色がない。従って、比較例1では、長手方向の加熱は、略均一にされているといえる。しかし、図7に示すように、比較例1では、位置W(80%)の温度は、中心点の温度に対して78%であり、実施例1〜4と比較して低下率が大きい。
【0041】
図6に示されるように、比較例2では、位置La(80%)の温度は、中心Oの温度に対して86%である。位置La(100%)の温度は、中心Oの温度に対して、72%である。また、位置La(80%)と位置La(100%)の差は、14%である。このように、位置La(80%)および位置La(100%)における温度低下の幅は、実施例1〜4と比較して大きい。図7に示されるように、比較例2では、位置W(80%)の温度は、中心Oの
温度に対して91%であり、実施例1〜4と比較して低下率は大きくない。しかし、比較例2の条件では、正電極4A’および負電極4B’の周辺で、鋼板の溶け落ちが発生した。
【0042】
以上を纏めると、実施例1〜4の条件では、焼入れ対象部分51’は、略均一に加熱されている。比較例1の条件による加熱は、W方向の均一性に問題がある。また、比較例2の条件による加熱は、電極4A’,4B’の周辺で、鋼板の溶け落ちが発生する点で問題がある。
【0043】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る焼入れ装置の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において変更可能である。
【0044】
たとえば、第1および第2電極4A,4Bは、複数の接触部41aおよび非接触部41bが直線状に並んでいなくてもよく、屈曲または湾曲した状態に並んでいてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 焼入れ装置
2 金属部品
4A,4B 第1および第2電極(一対の電極)
41a 接触部(電極の)
41b 非接触部(電極の)
51 焼入れ対象部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7