特許第6046372号(P6046372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6046372-除染剤組成物及び除染方法 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046372
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】除染剤組成物及び除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20161206BHJP
   G21F 9/10 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G21F9/28 525B
   G21F9/28 Z
   G21F9/10 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-96462(P2012-96462)
(22)【出願日】2012年4月20日
(65)【公開番号】特開2013-224840(P2013-224840A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】510116808
【氏名又は名称】八紀産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000114905
【氏名又は名称】ヤマトプロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(72)【発明者】
【氏名】福井 佳和
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昭光
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰欣
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−061372(JP,A)
【文献】 特開平07−328390(JP,A)
【文献】 特開昭61−124800(JP,A)
【文献】 特開昭57−001996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/10
B09B 1/00−5/00
C02F 1/20−1/26
C02F 1/28
C02F 1/30−1/38
C02F 1/52−1/56
C02F 1/58−1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アオイ科トロロアオイ属に分類される植物を乾燥させて粉砕した粉状体及びケラチン加水分解物を含有することを特徴とする放射性物質を含む放射性汚染物の除染剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の除染剤組成物を、放射性物質を含む放射性汚染物と水相において混合する工程と、前記混合物に気体を注入して前記放射性汚染物を含む泡を発生させる工程と、前記泡を収集して凝集剤を添加し、前記泡に含まれる前記放射性物質を凝集分離・濃縮し、前記泡を消泡する工程と、
により、前記放射性汚染物から前記放射性物質を除去する除染方法。
【請求項3】
前記泡の発生により前記放射性物質を除去した後の前記混合物を、更に界面活性剤で洗浄すること、を特徴とする請求項2に記載の除染方法。
【請求項4】
前記凝集剤が、アオイ科トロロアオイ属に分類される植物を乾燥させて粉砕した粉状体を含むこと、を特徴とする請求項2に記載の除染方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除染剤組成物及び除染方法に関し、更に具体的には、放射性物質を含む放射性汚染物の除染剤組成物及び除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月に発生した未曾有の東日本大震災により、地震と津波による被害を受けた 東京電力福島第一原子力発電所では、全電源を喪失して原子炉を冷却できなくなり、大量の放射性物質の漏洩を伴う重大な原子力事故に発展した(福島第一原子力発電所事故)。
【0003】
特に大量の放射性物質の漏洩により、土壌、建物、道路、森林、瓦礫及び焼却灰等が放射性物質によって汚染されてしまい、これら放射性汚染物から放射性物質を除去する除染方法が被災地では最も重要な事項のうちのひとつとされている。
【0004】
ここで、例えば特許文献1(特開2006−078336号公報)においては、形状が複雑な除染対象物に付着した放射性物質についても、また、油汚染、塗膜汚染、塵埃汚染、酸化皮膜汚染等の汚染形態の異なる放射性廃棄物に対しても十分な除染効果を得ることができ、しかも二次廃棄物の問題も解決した除染方法およびこれに用いる除染装置を提供することを意図した技術が提案されている。
【0005】
即ち、上記特許文献1においては、原子力施設から発生する除染対象物を、アルカリ除染剤を用いるアルカリ除染工程と、有機酸および無機酸を組み合わせた酸除染剤を用いる酸除染工程とを組み合わせた除染処理に付すことを特徴とする放射性物質の除去方法等が提案されている。
【0006】
また、特許文献2(特開2004−286471公報)においては、除染速度が高く除染装置の腐食が少なく二次廃棄物発生量の少ない放射能の化学除染方法及び装置を提供することを意図した技術が提案されている。
【0007】
即ち、上記特許文献2においては、放射性物質で汚染された除染対象物をギ酸とシュウ酸からなる除染液に浸漬し前記除染対象物の電位を腐食領域まで下げて前記除染対象物の表面を溶解し、前記除染液中の金属イオンを陽イオン交換樹脂で分離し除去する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−078336号公報
【特許文献2】特開2004−286471公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2等の従来技術で提供されているアルカリ除染剤及びギ酸とシュウ酸からなる除染液では、土壌、建物、道路、森林、瓦礫及び焼却灰等の放射性汚染物から放射性物質を必ずしも効率良く除去できず、また、必ずしも自然に優しい成分を含んでいるともいえず、未だ改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、土壌、建物、道路、森林、瓦礫及び焼却灰等の放射性汚染物から放射性物質を効率良く除去することができ、かつ、自然に優しい成分からなる除染剤組成物と、当該除染剤組成物を用いた除染方法と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決すべく、本発明者らは鋭意実験を繰り返して検討した結果、放射性汚染物から放射性物質を効率良く除去することができ、かつ、自然に優しい成分からなる除染剤組成物を得るためには、天然成分であるアオイ科トロロアオイ属由来成分を用いれば、当該アオイ科トロロアオイ属由来成分が放射性物質を吸着して確実に捕捉し、放射性汚染物から放射性物質を効率良く除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、アオイ科トロロアオイ属由来成分を含有することを特徴とする放射性物質を含む放射性汚染物の除染剤組成物を提供するものである。
【0013】
このような構成を有する本発明の除染剤組成物によれば、アオイ科トロロアオイ属由来成分が、放射性汚染物に含まれる放射性物質を吸着して捕捉することから、放射性汚染物から放射性物質を効率良く除去できる。また、アオイ科トロロアオイ属由来成分は天然成分であるから本発明の除染剤組成物は自然に優しくもある。
【0014】
上記の本発明の除染剤組成物は、更にケラチン加水分解物を含有することが好ましい。
【0015】
このような構成を有する本発明の除染剤組成物によれば、ケラチン加水分解物がアオイ科トロロアオイ属由来成分とともに、放射性汚染物に含まれる放射性物質を吸着して捕捉し、放射性汚染物から放射性物質をより効率良く除去できる。また、ケラチン加水分解物はタンパク質であるからこの本発明の除染剤組成物は自然に優しくもある。
【0016】
また、本発明は、上記除染剤組成物を、例えば水相において、放射性物質を含む放射性汚染物と混合することにより、前記放射性汚染物から前記放射性物質を除去する除染方法を提供するものである。
【0017】
このような構成を有する本発明の除染方法によれば、アオイ科トロロアオイ属由来成分が、放射性汚染物に含まれる放射性物質を吸着して捕捉することから、放射性汚染物から放射性物質を効率良く除去でき、放射性物質を含む排液を得ることができる。また、アオイ科トロロアオイ属由来成分は天然成分であるから上記排水本発明の除染剤組成物は自然に優しくもある。
【0018】
上記本発明の除染方法においては、除染剤組成物と放射性汚染物との混合物に気体を注入すること、が好ましい。
【0019】
このような構成を有する本発明の除染方法によれば、気体の注入により除染剤組成物と放射性汚染物との混合物内に泡が発生し、当該泡によって放射性汚染物に含まれる汚染物を浮上分級させることができ(例えば、放射性汚染物が土壌の場合、粘土及びシルトを浮上する泡によって分級・分離させることができ)、除染が困難とされている粒径等のサイズが小さい放射性汚染物(この場合はシルトや粘土)から放射性物質をより確実に除去することができる。これにより、放射性汚染物の除染処理後の容積を小さくすることができ、除染処理後の放射性汚染物の減容化に好適である。なお、気体を注入した後に発生した泡を収集し、ケラチン加水分解物を用いて当該泡を物理的又は化学的に消泡してもよい。
【0020】
また、上記本発明の除染方法においては、除染剤組成物を放射性汚染物と混合して放射性汚染物から放射性物質を除去した後、更に放射性汚染物を界面活性剤で洗浄すること、が好ましい。
【0021】
このような構成を有する本発明の除染方法によれば、アオイ科トロロアオイ属由来成分単独、又は、アオイ科トロロアオイ属由来成分及びケラチン加水分解物の組合せ、によって除染処理を施した放射性汚染物に放射性物質が残存している場合に、当該残存放射性物質を洗い流すことができ、放射性汚染物から放射性物質を更に効率良く除去できる。
【0022】
上記本発明の除染方法においては、上記除染方法により得られる放射性物質を含む排液に更に凝集剤を添加し、放射性物質を凝集分離して濃縮すること、が好ましい。
【0023】
このような構成を有する本発明の除染方法によれば、放射性汚染物から放射性物質を凝集分離及び濃縮することができ、放射性汚染物の減容化効率が高い。更に、凝集沈殿処理後の排液は放射性物質を含まないため、安全に公共水域に放流することができ、このことからも放射性汚染物の減容化効率が高いといえる。
【0024】
上記本発明の除染方法においては、凝集剤がアオイ科トロロアオイ属由来成分を含むこと、が好ましい。
【0025】
このような構成を有する本発明の除染方法によれば、排液に含まれる放射性物質を効率良く凝集分離することができ、また、天然成分により凝集させるため、より排液に凝集剤が残存していても安全に公共水域に放流することができ、自然に優しい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、土壌、建物、道路、森林、瓦礫及び焼却灰等の放射性汚染物から放射性物質を効率良く除去することができ、かつ、自然に優しい成分からなる除染剤組成物と、当該除染剤組成物を用いた除染方法と、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の除染方法の一実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(1)除染剤組成物
本発明の除染剤組成物は、アオイ科トロロアオイ属由来成分を含有することを特徴とする放射性物質を必須成分として含むことを特徴とする。このアオイ科トロロアオイ属由来成分は、被子植物門、双子葉植物綱、アオイ目、アオイ科、トロロアオイ属(Abelmoschus)に属するオクラやリュウキュウトロロアオイなどの植物に由来する成分である。
【0029】
アオイ科トロロアオイ属由来成分は、アオイ科トロロアオイ属に分類される植物を、例えば乾燥させて粉砕した粉状体によって構成され、オクラを乾燥させて粉砕した粉状体(オクラ由来成分)等がこれに含まれるものであり、ペクチン、ガラクタン、アラバン及びムチン等の他、ミネラル、カルシウム、カリウム、ビタミンA、B1、B2及びC等のオクラの構成成分を含む。
【0030】
このようにアオイ科トロロアオイ属由来成分を乾燥及び粉砕したものをアオイ科トロロアオイ属由来成分として用いれば、アオイ科トロロアオイ属由来成分の表面積が大きくなる等し、本発明の除染剤組成物による除染効果が更に得られ易い。
【0031】
より具体的には、アオイ科トロロアオイ属由来成分をなす粉状体の粒度は、18メッシュ以下であることが望ましく、40メッシュ以下であることがより一層好ましい。アオイ科トロロアオイ属由来成分の粒度は、処理対象となる放射性汚染物に除染剤組成物を投入した際の分散度や反応度を考慮し、可能な限り細かいことが望ましい。また、使用する形態は、粉体のままでもよく、粉状体を水に溶解(又は分散)した水溶液(又は分散液)でもよい。
【0032】
また、本発明における「アオイ科トロロアオイ属由来成分」は、アオイ科トロロアオイ属に属する植物の表皮部分、当該植物の内部において内壁をなす繊維壁(以下、「内側繊維壁」ともいう。)及び種のうちの全てを一緒に乾燥して粉砕したものであっても、これらのうちのいずれかを組み合わせて選択して乾燥し粉砕したものであってもよい。
【0033】
後述するように、アオイ科トロロアオイ属由来成分は、表皮部分、内側繊維壁及び種のいずれについても同様の効果を発揮するが、その製造の容易さや原料となるオクラなどのアオイ科トロロアオイ属に分類される植物を有効利用する等の観点から、アオイ科トロロアオイ属に属する植物の全部分を乾燥して粉砕したものをアオイ科トロロアオイ属由来成分として用いることが好適である。
【0034】
本発明の除染剤組成物におけるアオイ科トロロアオイ属由来成分の含有量は、例えば放射性汚染物に含まれる放射性物質等の量に応じて適宜調整することが可能であるが、除染剤組成物の調製や保存安定性等の観点から、例えば、放射性汚染物が土壌の場合は、当該土壌を水に分散させて得られる試料中に含まれる放射性物質の量を予め測定しておき、これに対応して適度に選択すればよい。
【0035】
また、本発明の除染剤組成物は、必須成分であるアオイ科トロロアオイ属由来成分に加えて、ケラチン加水分解物を含有することが好ましい。
【0036】
ケラチン加水分解物がアオイ科トロロアオイ属由来成分とともに、放射性汚染物に含まれる放射性物質を吸着して捕捉し、放射性汚染物から放射性物質をより効率良く除去でき、ケラチン加水分解物はタンパク質であるからこの本発明の除染剤組成物は自然に優しくもある。
【0037】
本発明の除染剤組成物におけるケラチン加水分解物の含有量は、発泡性、放射性物質の吸着能力、経済性という観点から、アオイ科トロロアオイ属由来成分の質量に対して、1〜10万倍程度であればよい。
【0038】
本発明の除染剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭化水素系界面活性剤、発泡助剤、泡安定剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、泡調整剤、アルカリ剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0039】
(2)除染方法
次に、本発明の除染方法について説明する。本発明の除染方法は、上記除染剤組成物を、放射性物質を含む放射性汚染物に散布、又は混合することにより、放射性汚染物から放射性物質を除去するものである。
【0040】
土壌、建物、道路、森林、瓦礫及び焼却灰等の放射性汚染物をそのまま上記除染剤組成物と混合することも可能であり、これら放射性汚染物をできるだけ細かく破砕した後(土壌及び焼却灰等であればそのまま)、水に分散し、放射性汚染物の水分散体を得てから、上記除染剤組成物と混合することも可能である。
【0041】
この混合により、放射性汚染物に含まれる放射性物質は、上記除染剤組成物に含まれるアオイ科トロロアオイ属由来成分に吸着して捕捉され、放射性汚染物は効率良く除染される。
【0042】
本発明の除染方法においては、除染剤組成物と放射性汚染物との混合物に気体を注入すること、が好ましい。上記のように、気体の注入により除染剤組成物と放射性汚染物との混合物内に泡が発生し、当該泡によって放射性汚染物に含まれる汚染物を浮上分級させることができ(例えば、放射性汚染物が土壌の場合、粘土及びシルトを浮上する泡によって分級・分離させることができ)、除染が困難とされている粒径等のサイズが小さい放射性汚染物(この場合はシルトや有機物)から放射性物質をより確実に除去することができるからである。これにより、放射性汚染物の除染処理後の容積を小さくすることができる。なお、気体を注入した後に発生した泡を収集し、ケラチン加水分解物を用いて当該泡を物理的又は化学的に消泡してもよい。
【0043】
気体の注入方法としては、例えば、バブリング乃至はエアレーションという方法が挙げられる。また、気体の注入量としては、処理作業の負荷、処理装置の規模、経済性という観点から、1分間あたりの流量は、例えば、処理物容積の0.1〜100倍程度の流量であればよい。
【0044】
また、本発明の除染方法においては、除染剤組成物を放射性汚染物と混合して放射性汚染物から放射性物質を除去した後、更に放射性汚染物を界面活性剤で洗浄すること、が好ましい。上記のようにアオイ科トロロアオイ属由来成分単独、又は、アオイ科トロロアオイ属由来成分及びケラチン加水分解物の組合せ、又は、アオイ科トロロアオイ属由来成分及びケラチン加水分解物及び気体の組合せ、によって除染処理を施した放射性汚染物に放射性物質が残存している場合に、当該残存放射性物質を洗い流すことができ、放射性汚染物から放射性物質を更に効率良く除去できるからである。
【0045】
ここで、本発明において用いることのできる界面活性剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の界面活性剤を採用することが可能である。即ち、界面活性剤は、両性イオン界面活性剤や、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等公知の界面活性剤から選ばれる1種又はそれ以上の界面活性剤を含むものとすることが可能であり、その液性は塩基性、酸性、中性のいずれであってもよい。
【0046】
界面活性剤には、両性イオン界面活性剤であるアルキルアミンオキシドや、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン等を採用することが可能である。また同様に、界面活性剤成分には、陰イオン系界面活性剤である脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウム、陽イオン系界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、非イオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルや、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を採用することが可能である。また、界面活性剤成分には、前述したような界面活性剤の他、発泡助剤、泡安定剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、泡調整剤や、アルカリ剤等が含まれていてもよい。
【0047】
界面活性剤の使用量としては、洗浄性能、経済性という観点から、洗浄対象物に対して0.05〜10%という量であればよい。
【0048】
また、本発明の除染方法においては、上記除染方法により得られる放射性物質を含む排液に更に凝集剤を添加し、放射性物質を凝集分離して濃縮すること、が好ましい。上記のように、放射性汚染物から放射性物質を凝集分離及び濃縮することができ、放射性汚染物の減容化効率が高くなり、更に、凝集沈殿処理後の排液は放射性物質を含まないため、安全に公共水域に放流することができ、このことからも放射性汚染物の減容化効率が高いからである。
【0049】
この場合、凝集剤がアオイ科トロロアオイ属由来成分を含むこと、が好ましい。上記のように、排液に含まれる放射性物質を効率良く凝集分離することができ、また、天然成分により凝集させるため、より排液に凝集剤が残存していても安全に公共水域に放流することができ、自然に優しいからである。
【0050】
また、アオイ科トロロアオイ属由来成分以外の凝集剤を用いることも可能であり、アオイ科トロロアオイ属由来成分と、アオイ科トロロアオイ属由来成分以外の凝集剤と、を含む凝集剤を用いることも可能である。
【0051】
アオイ科トロロアオイ属由来成分以外の凝集剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の凝集剤を用いることができ、凝集助剤を併用してもよい。
【0052】
凝集剤としては、多価金属塩を含む凝集剤や高分子凝集剤を好適に使用することが可能である。凝集剤として用いることが可能な多価金属塩には、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等の多価の金属塩を採用することが可能であり、例えば硫酸アルミニウム(硫酸バンド;Al2(SO43・nH2O)(日本工業規格 規格番号JISK1423)や、ポリ塩化アルミニウム(PAC;Al2(OH)mCl6-m)等を好適に使用することが可能である。
【0053】
また、高分子凝集剤としては、カチオン性、アニオン性及びノニオン性のいずれの属性に分類されるものであってもよく、アクリル系の高分子の水溶性有機物にカルボキシル基やアミド基、スルホン基等を配置したものを凝集剤成分として好適に使用することが可能である。
【0054】
また、凝集剤は、前述した硫酸アルミニウム(硫酸バンド)やポリ塩化アルミニウム等の多価金属塩から選ばれる1種又はそれ以上の物質を組み合わせて構成されたものや、1種又はそれ以上の物質を主成分とし、他の物質を副成分として含むものであってもよい。同様に、凝集剤は、前述した高分子凝集剤を1種又はそれ以上の物質を組み合わせて構成されたものや、1種又はそれ以上の物質を主成分とし、他の物質を副成分として含むものであってもよい。さらに、凝集剤成分は、多価金属塩からなる凝集剤及び高分子凝集剤の双方を含むものであってもよい。
【0055】
凝集助剤としては、凝集促進剤やpH調整剤を使用可能である。具体的には、凝集助剤成分としては、凝集促進剤として機能する珪酸塩白土や、その他の活性珪酸、アルギン酸ナトリウム、ベントナイト、粉末活性炭等についても好適に使用可能である。珪酸塩白土は、二酸化珪素(SiO2)を主成分とし、酸化アルミルミニウム(アルミナ)(Al23)や、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化鉄(Fe23)、酸化カルシウム(CaO)、酸化カリウム(K2O)、酸化マグネシウム(MgO)、水分(H2O)等を含むものである。
【0056】
珪酸塩白土としては、上記成分を種々の配合比で含むものを用いることができるが、例えば二酸化珪素(SiO2)を72.96%、酸化アルミルミニウム(Al23)を9.92%、酸化ナトリウム(Na2O)を4.98%、酸化鉄(Fe23)を4.95%、酸化カルシウム(CaO)を3.27%、酸化カリウム(K2O)を0.13%、酸化マグネシウム(MgO)をこん跡程度、水分(H2O)を3.81%含むもの等を好適に使用することができる。具体的には、珪酸塩白土には、ソフトシリカ(株)製の製品名「ミリオン」等を好適に使用することができる。
【0057】
また、凝集助剤としては、pH調整剤として機能する塩基性物質や、酸性物質等を好適に使用することが可能である。塩基性物質としては、水酸化ナトリウムや、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を好適に使用することが可能である。また、酸性物質としては、硫酸や炭酸、塩酸等を好適に使用することが可能である。凝集助剤成分は、前述した塩基性物質や酸性物質から選ばれる1種又はそれ以上の物質を組み合わせて構成されたものや、1種又はそれ以上の物質を主成分とし、他の成分を副成分として含むものであってもよい。
【0058】
ここで、図1は、本発明の除染方法の一実施形態を説明するための図である。図1に示すように、放射性汚染物質としての土壌(汚染土)を除染処理に供する場合、まず、汚染土を処理容器内にて水に攪拌して、水分散体とし、ここに除染剤組成物を投入する。
【0059】
次に、水分散体においては自然に粘土とシルトが分離するが、ここで水分散体に気体を注入する(バブリング乃至はエアレーション)。これにより、汚染土壌における粘土部分(粒径等のサイズが大きい放射性汚染物)とシルト部分粒径等のサイズが小さい放射性汚染物)とを泡によってより確実に浮上分離する。泡とともに浮上分離されたシルト部分は、処理容器から溢れ出て、隣接する第二の処理容器に移動する。
【0060】
この第二の処理容器には、放射性物質が含まれた放射性汚染物の大部分であるシルト部分が貯められ、ここに上記凝集剤を添加するとともに攪拌する。この攪拌により、シルト部分に含まれる放射性物質は凝集分離し、排液となる排水には放射性物質は含まれずそのままは排水することが可能である。
【0061】
また、ケラチン加水分解物は発泡性能を有するが、その条件を設定することで発泡後の泡が発泡し易くしたり、容易に消泡する性能とすることができる。また、容易に消泡するためには金属板や金網等の機械的な構造で消泡する方法や化学的につぶす方法を使えば、さらに、容易に液化できる。
【実施例】
【0062】
以下において、上述した除染剤組成物及びこれを用いた除染方法についての実施例及び比較例を含む実験例について説明する。
【0063】
放射能に汚染された土壌を各除染剤組成物で除染処理した放射線量を測定した。また、除染剤組成物で除染処理した後に界面活性剤で洗浄した場合、更にその後に水洗処理した場合の放射線量も測定した。具体的には以下のような手順で実験を行ない、結果は以下の表に示した。
【0064】
≪実験1≫
水単独と、A剤(オクラを乾燥・粉砕して得られた粉状体)の吸着効果の差を評価するため、汚染タオルを洗濯機に入れ、30Lの水で5分間洗濯した後に乾燥し、乾燥後の汚染タオル(固体相)について、文部科学省 放射線測定法シリーズ7 ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー方法により、セシウム137の放射線(量)濃度を測定した。
【0065】
≪実験2≫
次に、上記実験2の水30Lに、アオイ科トロロアオイ属由来成分として、八紀産業(株)製のA剤(オクラを乾燥・粉砕して得られた粉状体)1.5gを溶解し、上記実験1と同様な処理を施した汚染タオルについて、放射線濃度を測定した。
【0066】
【表1】
【0067】
上記実験の結果から、本発明の除染剤組成物は、従来の水洗に比して除染効率が高いことがわかる。
【0068】
≪実験3≫
次に、A剤の吸着効果と界面活性剤による汚染物質の洗浄効果を評価するため、汚染土壌80gを、A剤40mgを溶解した水400mlで10分間撹拌洗浄後、遠心分離をし、乾燥後の固体相の放射線濃度を表面汚染サーベイメーターにて測定した。
【0069】
≪実験4≫
実験3に引き続いて、遠心分離、乾燥後の固体相を、両性イオン界面活性剤であるアルキルベタインとして竹本油脂(株)製のパイオニンC−158D1.2mlを添加した水400mlで10分間撹拌洗浄した後、遠心分離をし、乾燥後の固体相の放射線濃度を表面汚染サーベイメーターにて測定した。
【0070】
【表2】
【0071】
上記実験結果から、本発明の除染剤組成物は、従来の水洗に比して除染効率が高いことがわかる。さらに界面活性剤で洗浄することで除染効果が高まることがわかる。
【0072】
≪実験5≫
汚染土壌の粒子径ごとの放射線濃度を確認するため、汚染土壌を適量の水に分散させながら標準ふるいで粒度ごとにふるい分けた汚染土壌について、放射線濃度を表面汚染サーベイメーターにて測定した。
【0073】
【表3】
【0074】
上記実験の結果から、汚染土壌中の38μm以下の微粒子部分の放射線濃度が集中していることがわかる。
【0075】
≪実験6≫
次に、ケラチン加水分解物と気体による土壌の分級効果を評価するために、土壌40kgを、ケラチン加水分解物1Lを溶解した水100Lで撹拌した後、空気を毎分100Lの流量で注入し、泡化しながら泡に付着した土壌の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置にて測定した。
【0076】
【表4】
【0077】
上記実験結果から、ケラチン加水分解物と気体注入を併用することで効率的に土壌の微粒子部分のみを効率的に捕捉できることがわかる。このことは汚染土壌中の微粒子部分の放射線量が集中している部分のみを効率的に捕捉できることを意味する。
【0078】
≪実験7≫
A剤の吸着効果を評価するため、汚染土壌60gを、A剤を50mg溶解した水1L中に分散させ、容積2.7Lの容器に入れ、その底部から毎分4.4Lの流速でマイクロバブル水を導入しながら、容器内に浮遊した土壌を採取し、乾燥後の固体相について、文部科学省 放射線測定法シリーズ7 ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリーという方法によりセシウム137の放射線濃度を測定した。
【0079】
【表5】
【0080】
≪実験8≫
更に、マイクロバブル水を導入し得られた水分散体に凝集剤として八紀産業(株)製のFROGを20gと助剤を投入した後、撹拌して凝集分離し、濾別後に固体相及び水相の放射線濃度を測定した。
【0081】
【表6】
【0082】
上記実験の結果から、本発明の除染剤組成物は、従来の水洗に比して除染効率が高いことがわかる。
【0083】
また、一般的に放射性汚染物の中でも粒径の小さい(比表面積の大きい)粒子の汚染度が高いが、気体を注入することで同様の吸着効果が得られるとともに、粒径の小さい粒子を捕集(分級)することで除染後の汚染物質の減容化効率が高くなる。
【0084】
また、除染剤組成物に気体を混合し泡化することで建物等の立体構造物からなる放射性汚染物を処理する場合に付着性が高まることが期待される。このことは、除染剤成分の放射性汚染物に対する感作時間を延長することとなり、結果として除染効果を高めることができる。
図1