(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持させた種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法であって、
結晶成長面の界面直下の中央部における前記Si−C溶液の温度より、前記結晶成長面の界面直下の外周部における前記Si−C溶液の温度を低くするように前記Si−C溶液の温度を制御し、且つ前記結晶成長面の界面直下の前記中央部から前記外周部に前記Si−C溶液を流動させることを含む、
SiC単結晶の製造方法。
前記Si−C溶液を流動させることが、前記種結晶基板の外周に沿う方向に回転方向を切り替えながら前記種結晶基板を回転させることを含み、前記種結晶基板を回転させることが、前記種結晶基板の外周部を25mm/秒よりも速い速度で、且つ同一方向に連続して30秒よりも長い時間、回転させることを含む、請求項1に記載のSiC単結晶の製造方法。
結晶成長ジャスト面に対して、中央部の一部が平行であり、成長面の外周部ほど傾きが大きくなる凹形状の結晶成長面を有し且つインクルージョンを含まない、SiC単結晶。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
【0017】
本願発明者は、SiC単結晶成長におけるインクルージョン発生の抑制について鋭意研究を行い、インクルージョンを含まないSiC単結晶及びその製造方法を見出した。
【0018】
本発明は、種結晶基板及び種結晶基板を基点として溶液法により成長させたSiC成長結晶を含むSiC単結晶のインゴットであって、成長結晶が凹形状の結晶成長面を有し且つインクルージョンを含まない、SiC単結晶のインゴットを対象とする。
【0019】
本発明によれば、凹形状の結晶成長面を有し、インクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。本明細書において、インクルージョンとは、SiC単結晶成長に使用するSi−C溶液の、成長結晶中の巻き込みである。成長結晶にインクルージョンが発生する場合、インクルージョンとして、例えば、Si−C溶液として用いる溶媒中に含まれ得るCrやNi等の溶媒成分を検出することができる。
【0020】
溶液法とは、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、iC種結晶を接触させてSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶の製造方法である。Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成することによってSi−C溶液の表面領域を過飽和にして、Si−C溶液に接触させた種結晶を基点として、SiC単結晶を成長させることができる。
【0021】
従来の溶液法によるジャスト面成長、例えば(0001)ジャスト面成長では、最初はきれいにSiC単結晶を成長させることができるが、成長とともにすぐに成長面(フラット)に凹凸が発生して欠陥が生じるため、所望の厚みまで良好な単結晶成長を行うことが困難であった。また、一部はきれいな結晶が得られても、全体でみるとインクルージョンが混入してしまうため、所望の厚み方向または直径方向の全体にわたってインクルージョンを含まない結晶を得ることは難しかった。成長面にオフ角を設けた種結晶基板を用いた場合でも、すぐにジャスト面がでるような成長になりやすく、ジャスト面がでた後は、成長促進部がないため、ジャイアントステップバンチングが発生しやすいという問題があった。
【0022】
本発明においては、凹形状の結晶成長面を有するように結晶成長させることによって、上記のような問題がなく、インクルージョンを含まない高品質なSiC単結晶を得ることができる。
【0023】
本発明に係るSiC成長単結晶は、結晶成長ジャスト面に対して、中央部の一部がほぼ並行であり、成長面の外周部ほど傾きが大きくなる凹形状の結晶成長面を有する。結晶成長ジャスト面に対する凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは、好ましくは0<θ≦8°の範囲内にあり、より好ましくは1≦θ≦8°の範囲内にあり、さらに好ましくは2≦θ≦8°の範囲内にあり、さらにより好ましくは4≦θ≦8°の範囲内にある。凹形状の結晶成長面の傾き最大角θが上記範囲内にあることによって、インクルージョンの発生を抑制しやすくなる。
【0024】
傾き最大角θは、任意の方法で測定され得る。例えば、
図1に示すように、ジャスト面16を有する種結晶基板14を用いて、凹形状の結晶成長面20を有するSiC単結晶を成長させた場合、種結晶基板14のジャスト面16に対する凹形状の結晶成長面20の最外周部の接線の傾きを最大角θとして測定することができる。
【0025】
本発明において、SiC単結晶の成長面は、(0001)面(Si面ともいう)または(000−1)面(C面ともいう)であることができる。
【0026】
本発明に係るSiC成長単結晶の成長厚みは、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上、さらにより好ましくは4mm以上、さらにより好ましくは5mm以上である。本発明によれば、上記厚みの範囲の全体にわたってインクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。
【0027】
本発明に係るSiC成長単結晶の直径は、好ましくは3mm以上、より好ましくは6mm以上、さらに好ましくは10mm以上、さらにより好ましくは15mm以上である。本発明によれば、上記直径の範囲の全体にわたってインクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。
【0028】
なお、上記厚み及び/または直径を超える厚み及び/または直径を有するSiC単結晶を成長させてもよく、上記厚み及び/または直径を超える結晶領域においてもインクルージョンを含まないことがさらに好ましい。ただし、本発明は、上記厚み及び/または直径を有する領域の全体にてインクルージョンを含まないSiC単結晶が得られれば、上記厚み及び/または直径を超える結晶領域にインクルージョンを含むSiC単結晶を排除するものではない。したがって、凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは、例えば結晶成長面20内の所望の直径が得られる位置におけるジャスト面16に対する角度として測定してもよい。
【0029】
結晶成長面を凹形状に成長させるには、結晶成長面の界面直下の外周部におけるSi−C溶液の過飽和度を、結晶成長面の界面直下の中央部におけるSi−C溶液の過飽和度よりも大きくすることが有効である。これにより、水平方向にて結晶成長の量を傾斜させて結晶成長面を凹形状に成長させることができ、結晶成長面全体がジャスト面とならないようにすることができる。
【0030】
また、結晶成長面の界面直下の中央部から外周部にSi−C溶液を流動させることによって、Si−C溶液の滞留を抑制することができ、凹形状成長面の成長の遅い中央部に溶質を供給しつつ、外周部を含む成長界面全体への溶質の安定的な供給が可能になり、インクルージョンを含まない凹形状の成長面を有するSiC単結晶を得ることができる。
【0031】
結晶成長面の界面直下の中央部から外周部へのSi−C溶液の流動は、Si−C溶液の機械的攪拌や高周波加熱による電磁攪拌等によって、Si−C溶液の深部から結晶成長面に向けてSi−C溶液を流動させ、さらに中央部から外周部にSi−C溶液を流動させ、外周部から深部へとSi−C溶液が循環するような流動を形成することによって行うことができる。
【0032】
インクルージョンの検査方法としては、特に限定されないが、
図2(a)に示すように成長結晶40を成長方向に対して水平にスライスして、
図2(b)に示すような成長結晶42を切り出し、成長結晶42の全面が連続した結晶であるかどうかを透過画像から観察してインクルージョンの有無を検査することができる。成長結晶40を実質的に同心円状に成長させた場合、切り出した成長結晶42の中央部にて、さらに半分に切断して、半分に切断した成長結晶42について、同様の方法でインクルージョンの有無を検査してもよい。また、成長結晶を成長方向に対して垂直にスライスして、切り出した成長結晶について、同様の方法でインクルージョンの有無を検査してもよい。あるいは、上記のように成長結晶を切り出して、エネルギー分散型X線分光法(EDX)や波長分散型X線分析法(WDX)等により、切り出した成長結晶内のSi−C溶液成分について定性分析または定量分析を行って、インクルージョンを検出することもできる。
【0033】
透過画像観察によれば、インクルージョンが存在する部分は可視光が透過しないため、可視光が透過しない部分をインクルージョンとして検出することができる。EDXやWDX等による元素分析法によれば、例えばSi−C溶液としてSi/Cr系溶媒、Si/Cr/Ni系溶媒等を用いる場合、成長結晶内にCrやNi等のSi及びC以外の溶媒成分が存在するか分析し、CrやNi等のSi及びC以外の溶媒成分を、インクルージョンとして検出することができる。
【0034】
本発明はまた、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶保持軸に保持させた種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造方法であって、
結晶成長面の界面直下の中央部におけるSi−C溶液の温度より、結晶成長面の界面直下の外周部におけるSi−C溶液の温度を低くするように前記Si−C溶液の温度を制御し、且つ結晶成長面の界面直下の中央部から外周部にSi−C溶液を流動させることを含む、SiC単結晶の製造方法を対象とする。
【0035】
本方法により、凹形状の結晶成長面を有するSiC単結晶を成長させつつ、結晶の成長界面の全面において十分且つ安定的に溶質が供給され続けるようにSi−C溶液の滞留を防止して流動を続けることが可能となり、成長結晶の全体にわたってインクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。
【0036】
本方法においては、Si−C溶液の温度制御及び流動の開始及び終了のタイミングは、限定されず、同じでもよく、あるいは異なってもよい。例えば、種結晶基板をSi−C溶液に接触させると同時にまたは接触させた直後に、Si−C溶液の温度制御及び流動を開始し、種結晶基板をSi−C溶液から切り離して成長を終了すると同時に、Si−C溶液の温度制御及び流動を終了することができる。あるいは、種結晶基板をSi−C溶液に接触させ、Si−C溶液の温度制御を行い、次いでSi−C溶液の流動を行ってもよい。
【0037】
本発明に係るSiC単結晶の製造方法は、結晶成長面の界面直下の中央部におけるSi−C溶液の温度より、結晶成長面の界面直下の外周部におけるSi−C溶液の温度を低くするように温度を制御することを含む。結晶成長界面直下の中央部のSi−C溶液の温度より、外周部のSi−C溶液の温度を低くすることによって、外周部におけるSi−C溶液の過飽和度を、中央部におけるSi−C溶液の過飽和度よりも大きくすることができる。このように結晶成長界面直下のSi−C溶液内にて水平方向の過飽和度の傾斜を形成することによって、凹形状の結晶成長面を有するようにSiC結晶を成長させることができる。これにより、SiC単結晶の結晶成長面がジャスト面とならないように結晶成長させることができ、インクルージョンの発生を抑制することができる。なお、結晶成長の界面においては、Si−C溶液の温度と成長結晶の温度とは実質的に同じであり、本方法においては、界面直下のSi−C溶液の温度を制御することは、成長結晶表面の温度を制御することと実質的に同じである。
【0038】
結晶成長面の界面直下の中央部よりも外周部のSi−C溶液の温度が低くなる温度勾配を形成するための方法として、種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成しながら結晶成長させるメニスカス成長法、中心部よりも側面部の熱伝導率が高い種結晶保持軸による抜熱制御方法、成長結晶の外周側からのガス吹き込み等の方法が挙げられる。
【0039】
本願において、メニスカスとは、
図3に示すように、表面張力によって種結晶基板に濡れ上がったSi−C溶液の表面に形成される凹状の曲面をいう。そして、メニスカス成長法とは、種結晶基板とSi−C溶液との間にメニスカスを形成しながら、SiC単結晶を成長させる方法である。例えば、種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、種結晶基板の下面がSi−C溶液の液面よりも高くなる位置に種結晶基板を引き上げて保持することによって、メニスカスを形成することができる。
【0040】
成長界面の外周部に形成されるメニスカス部分は輻射抜熱により温度が低下しやすいので、メニスカスを形成することによって、結晶成長面の界面直下の中央部よりも外周部のSi−C溶液の温度が低くなる温度勾配を形成することができる。これにより、成長界面の外周部のSi−C溶液の過飽和度を、成長界面の中心部のSi−C溶液の過飽和度よりも大きくすることができる。
【0041】
単結晶製造装置への種結晶基板の設置は、接着剤等を用いて種結晶基板の上面を種結晶保持軸に保持させることによって行うことができる。
【0042】
一般的に、種結晶保持軸はその端面に種結晶基板を保持する黒鉛の軸であることができ、本発明においても、通常用いられる黒鉛軸を種結晶保持軸として用いることができる。種結晶保持軸は、円柱状、角柱状等の任意の形状であることができ、種結晶の上面の形状と同じ端面形状を有する黒鉛軸を用いてもよい。
【0043】
本発明においては、上記の通常用いられる黒鉛軸に代えて、側面部が中心部よりも高い熱伝導率を示す構成を有する種結晶保持軸を用いることができる。熱伝導率が側面部と中心部とで異なる種結晶保持軸を用いることで、種結晶保持軸を介した抜熱の程度を種結晶保持軸の直径方向にて制御することができる。
【0044】
側面部が中心部よりも高い熱伝導率を示す構成を有する種結晶保持軸は、
図4に示すように、側面部50の熱伝導率が中心部52の熱伝導率よりも高い構成を有することができる。このような構成を有する種結晶保持軸を用いることによって、種結晶保持軸を介した抜熱の程度を種結晶保持軸の直径方向で変えることができ、成長結晶界面直下におけるSi−C溶液の中央部よりも外周部の抜熱を促進することができる。そして、結晶成長界面直下の外周部のSi−C溶液の温度を、結晶成長界面直下の中央部のSi−C溶液の温度よりも低くすることができ、結晶成長界面直下の外周部のSi−C溶液の過飽和度を、結晶成長界面直下の中央部のSi−C溶液の過飽和度よりも大きくすることができる。
【0045】
図4に示す熱伝導率が側面部50と中心部52とで異なる種結晶保持軸は、中心部52が空洞であってもよい。中心部52を空洞で構成することにより、側面部50の熱伝導率に対して中心部52の熱伝導率を低くすることができる。
【0046】
中心部52を空洞で構成する場合、空洞の少なくとも一部に断熱材を配置してもよい。例えば、
図5に示すように、中心部52の底部に断熱材54を配置して、種結晶保持軸12の側面部50と中心部52との熱伝導率の差をより大きくすることができる。断熱材54は中心部52の全体を占めてもよい。
【0047】
また、中心部52を空洞で構成する場合、空洞に2以上の断熱材を配置してもよく、2以上の断熱材は、同一材料及び/若しくは同一形状であってもよく、または異なる材料及び/若しくは異なる形状であってもよい。2以上の断熱材を用いる場合、2以上の断熱材は任意の位置に配置にすることができ、
図6に示すように中心部52の底部に断熱材54を重ねて配置してもよい。
図6に示すように断熱材54を配置する場合、中心部50と側面部52との間で熱伝導率に所望の傾斜をつけやすく、凹形状の結晶成長面の傾きを調整しやすくなる。また、2以上の断熱材を用いる場合、断熱材54を離して配置してもよい。例えば、
図7に示すように中心部52の底部と上部に断熱材54を離して配置して、上部の断熱材の位置を上下させて中心部52の熱伝導率を変更することができる。
【0048】
断熱材としては、黒鉛系断熱材料、炭素繊維成形断熱材料、パイロリティックグラファイト(PG)等の異方性断熱材料を用いることができる。異方性断熱材料を用いる場合、熱伝導率に異方性を有するため、種結晶保持軸の軸方向に熱伝導しにくく種結晶保持軸の直径方向に熱伝導がしやすくなる向きに、異方性断熱材料を配置することができる。
【0049】
種結晶保持軸12の中心部52を空洞で構成する場合、空洞に断熱材とともに高熱伝導率材料を配置してもよい。例えば、
図8に示すように中心部52の底部に断熱材54を配置し、中心部52の上部に高熱伝導率材料56を配置して、高熱伝導率材料の位置を上下させて中心部52の熱伝導率を変更することができる。高熱伝導率材料として高融点材料を有する金属を用いることができ、例えば、モリブデン、タンタル等を用いることができる。
【0050】
側面部が中心部よりも高い熱伝導率を示す構成を有する種結晶保持軸は、中心部の熱伝導率が、側面部の熱伝導率に対して、好ましくは1/2〜1/20、より好ましく1/5〜1/10である構成を有することができる。
【0051】
なお、種結晶保持軸12は、中心部52を構成する材料の全体が、側面部50を構成する材料の全体よりも熱伝導率が低い材料で構成してもよく、あるいは、成長結晶界面直下におけるSi−C溶液の中央部よりも外周部の抜熱を促進することができる範囲で、種結晶保持軸の側面部50及び中心部52のそれぞれ少なくとも一部が、熱伝導率が異なる構成を有してもよい。
【0052】
本発明に係るSiC単結晶の製造方法は、結晶成長面の界面直下の中央部から外周部にSi−C溶液を流動させることを含む。結晶成長界面直下の中央部から外周部にSi−C溶液を流動させることによって、Si−C溶液の滞留を抑制することができ、凹形状の結晶成長面の成長の遅い中央部に溶質を供給しつつ、外周部を含む成長界面全体への溶質の安定的な供給が可能になり、インクルージョンを含まない凹形状の結晶成長面を有するSiC単結晶を得ることができる。
【0053】
結晶成長面の界面直下の中央部から外周部へのSi−C溶液の流動は、Si−C溶液の深部から結晶成長面に向けてSi−C溶液を流動させ、さらに中央部から外周部にSi−C溶液を流動させ、外周部から深部へとSi−C溶液が循環するように流動させることによって行うことができる。
【0054】
結晶成長面の界面直下の中央部から外周部にSi−C溶液を流動させる方法として、Si−C溶液の機械的攪拌や高周波加熱による電磁攪拌等が挙げられるが、本願発明者は、結晶成長面の界面直下の中央部から外周部にSi−C溶液を流動させるための好適な方法として、種結晶基板を所定の速度で所定の時間以上、連続して一定方向に回転させる方法を見出した。
【0055】
本願発明者は、種結晶基板を所定の速度で所定の時間以上、連続して一定方向に回転させることによって、結晶成長界面直下のSi−C溶液の流動を促進することができ、特に、外周部におけるSi−C溶液の流動停滞部を解消することができ、外周部における溶液巻き込み(インクルージョン)を抑制し得ることを見出した。
【0056】
本明細書において、種結晶基板の回転速度とは種結晶基板の成長面(下面)の最外周部(本明細書において、種結晶基板の外周部または最外周部ともいう)の速度である。種結晶基板の外周部の速度は、25mm/秒よりも速い速度が好ましく、45mm/秒以上がより好ましく、63mm/秒以上がさらに好ましい。種結晶基板の外周部の速度を、前記範囲にすることでインクルージョンを抑制しやすくなる。
【0057】
種結晶基板の外周部の速度を制御して、SiC単結晶の成長が進んだ場合、種結晶基板の成長面に対して成長結晶は概して口径が同じか口径拡大するように成長するため、成長結晶の外周部の回転速度は種結晶基板の外周部の速度と同じかそれよりも大きくなる。したがって、種結晶基板の外周部の速度を上記範囲に制御することによって、結晶成長が進んだ場合でも、成長結晶直下のSi−C溶液の流動を続けることができる。
【0058】
また、本発明においては、種結晶基板の外周部の速度に代えて、成長結晶の外周部の速度を上記の速度範囲に制御してもよい。SiC単結晶の成長が進むにつれ、種結晶基板の成長面に対して成長結晶は概して口径が同じか口径拡大するように成長し、成長結晶の外周部の速度は速くなるが、この場合、1分間当たりの回転数(rpm)を維持してもよく、あるいは成長結晶の外周部の速度が一定となるように1分間当たりの回転数(rpm)を下げてもよい。
【0059】
本発明に係る方法には、上記のようにSi−C溶液の流動を促進するように種結晶基板を回転させることが含まれるが、坩堝を回転させる必要はない。ただし、坩堝を回転させる態様を排除するものではなく、坩堝の回転により流動するSi−C溶液に対して、相対的に、上記の種結晶基板の外周部の回転速度が得られる範囲で、種結晶基板とともに、坩堝を回転させてもよい。
【0060】
本願発明者はまた、種結晶基板の回転方向を周期的に切り替える場合に、種結晶基板を同方向に回転させている時間(回転保持時間)を所定時間よりも長く設定することによって、溶液流動を安定化させることができ、外周部の溶液巻き込みを抑制し得ることを見出した。
【0061】
種結晶基板の回転方向を周期的に変化させることによって、同心円状にSiC単結晶を成長させることが可能となり、成長結晶中に発生し得る欠陥の発生を抑制することができるが、その際、同一方向の回転を所定の時間以上、維持することによって、結晶成長界面直下のSi−C溶液の流動を安定化することができる。回転保持時間が短すぎると、回転方向の切り替えを頻繁に行うことになり、Si−C溶液の流動が不十分または不安定になると考えられる。
【0062】
種結晶基板の回転方向を周期的に変化させる場合、同方向の回転保持時間は、30秒よりも長いことが好ましく、200秒以上がより好ましく、360秒以上がさらに好ましい。種結晶基板の同方向の回転保持時間を、前記範囲にすることでインクルージョンをより抑制しやすくなる。
【0063】
種結晶基板の回転方向を周期的に変化させる場合、回転方向を逆方向にきりかえる際の種結晶基板の停止時間は短いほどよく、好ましくは10秒以下、より好ましくは5秒以下、さらに好ましくは1秒以下、さらにより好ましくは実質的に0秒である。
【0064】
本方法に用いられ得る種結晶基板として、例えば昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を用いることができるが、成長面がフラットであり(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面を有するSiC単結晶か、または成長面が凹形状を有し凹形状の成長面の中央部付近の一部に(0001)面または(000−1)面を有するSiC単結晶が好ましく用いられる。種結晶基板の全体形状は、例えば板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
【0065】
本発明はまた、Si−C溶液を収容する坩堝と、
前記坩堝の周囲に配置された加熱装置と、
上下方向に移動可能に配置された種結晶保持軸とを備え、
前記種結晶保持軸に保持された種結晶基板を、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するように加熱された前記Si−C溶液に接触させて、前記種結晶基板を基点としてSiC単結晶を成長させる、溶液法によるSiC単結晶の製造装置であって、
結晶成長面の界面直下の中央部における前記Si−C溶液の温度より、前記結晶成長面の界面直下の外周部における前記Si−C溶液の温度を低くする温度制御手段と、
前記結晶成長面の界面直下の前記中央部から前記外周部に前記Si−C溶液を流動させる流動手段と
を備えた、SiC単結晶の製造装置を対象とする。
【0066】
本発明に係るSiC単結晶の製造装置は、結晶成長面の界面直下の中央部におけるSi−C溶液の温度より、結晶成長面の界面直下の外周部におけるSi−C溶液の温度を低くする温度制御手段を含む。温度制御手段としては、上記のメニスカスを形成する方法、熱伝導率の異なる構成を有する種結晶保持軸を用いる方法、結晶外周側からのガス吹き込み等の方法が挙げられる。
【0067】
本発明に係るSiC単結晶の製造装置はまた、結晶成長面の界面直下の中央部から外周部にSi−C溶液を流動させる流動手段を含む。流動手段として、上記の機械的攪拌や高周波加熱による電磁攪拌等が挙げられ、種結晶基板を所定の速度で所定の時間以上、連続して一定方向に回転させる方法が好ましく用いられる。
【0068】
上記の本発明に係る方法において記載した内容は、本装置の構成に適用される。
【0069】
本願において、Si−C溶液とは、SiまたはSi/X(XはSi以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするCが溶解した溶液をいう。Xは一種類以上の金属であり、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されない。適当な金属Xの例としては、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V、Fe等が挙げられる。
【0070】
Si−C溶液はSi/Cr/X(XはSi及びCr以外の1種以上の金属)の融液を溶媒とするSi−C溶液が好ましい。さらに、原子組成百分率でSi/Cr/X=30〜80/20〜60/0〜10の融液を溶媒とするSi−C溶液が、Cの溶解量の変動が少なく好ましい。例えば、坩堝内にSiに加えて、Cr、Ni等を投入し、Si−Cr溶液、Si−Cr−Ni溶液等を形成することができる。
【0071】
Si−C溶液は、その表面温度が、Si−C溶液へのCの溶解量の変動が少ない1800〜2200℃が好ましい。
【0072】
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
【0073】
図9に、本発明を実施し得るSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、SiまたはSi/Xの融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。
【0074】
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSiまたはSi/Xの融液にCを溶解させることによって調製される。坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液を形成することができる。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
【0075】
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
【0076】
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
【0077】
坩堝10は、上部に種結晶保持軸12を通す開口部28を備えており、開口部28における坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間(間隔)を調節することによって、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱の程度を変更することができる。概して坩堝10の内部は高温に保つ必要があるが、開口部28における坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間を大きく設定すると、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱を大きくすることができ、開口部28における坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間を狭めると、Si−C溶液24の表面からの輻射抜熱を小さくすることができる。メニスカスを形成したときは、メニスカス部分からも輻射抜熱をさせることができる。
【0078】
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。温度勾配は、例えば溶液表面からの深さがおよそ30mmまでの範囲で、1〜100℃/cmが好ましく、10〜50℃/cmがより好ましい。
【0079】
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、加熱装置の出力制御、Si−C溶液24の表面からの放熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部よりも低温となる温度勾配が形成され得る。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC結晶を成長させることができる。
【0080】
いくつかの態様において、SiC単結晶の成長前に、種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
【0081】
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。
【0082】
メルトバックは、Si−C溶液に温度勾配を形成せず、単に液相線温度より高温に加熱されたSi−C溶液に種結晶基板を浸漬することによっても行うことができる。この場合、Si−C溶液温度が高くなるほど溶解速度は高まるが溶解量の制御が難しくなり、温度が低いと溶解速度が遅くなることがある。
【0083】
いくつかの態様において、あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は種結晶保持軸ごと加熱して行うことができる。この場合、種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、SiC単結晶を成長させる前に種結晶保持軸の加熱を止める。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
【実施例】
【0084】
(共通条件)
実施例及び比較例に共通する条件を示す。各例において、
図9に示す単結晶製造装置100を用いた。Si−C溶液24を収容する内径70mm、高さ125mmの黒鉛坩堝10にSi/Cr/Niを原子組成百分率で56:40:4の割合で融液原料として仕込んだ。単結晶製造装置の内部の空気をアルゴンで置換した。黒鉛坩堝10の周囲に配置された高周波コイル22に通電して加熱により黒鉛坩堝10内の原料を融解し、Si/Cr/Ni合金の融液を形成した。そしてSi/Cr/Ni合金の融液に黒鉛坩堝10から十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液24を形成した。
【0085】
上段コイル22A及び下段コイル22Bの出力を調節して黒鉛坩堝10を加熱し、Si−C溶液24の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成した。所定の温度勾配が形成されていることの確認は、昇降可能な、ジルコニア被覆タングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対を用いて、Si−C溶液24の温度を測定することによって行った。高周波コイル22A及び22Bの出力制御により、Si−C溶液24の表面における温度を2000℃にした。Si−C溶液の表面を低温側として、Si−C溶液の表面における温度と、Si−C溶液24の表面から溶液内部に向けて垂直方向の深さ10mmの位置における温度との温度差を25℃とした。
【0086】
(実施例1)
直径が12mm及び長さが200mmの円柱形状の黒鉛の種結晶保持軸12を用意した。昇華法により作成された厚み1mm、直径16mmの(000−1)ジャスト面を有する円盤状4H−SiC単結晶を用意して種結晶基板14として用いた。
【0087】
種結晶基板14の下面が(000−1)面となるようにして種結晶基板14の上面を、種結晶保持軸12の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。坩堝10の上部に開けた直径20mmの開口部28に種結晶保持軸12を通すようにして種結晶保持軸12及び種結晶基板14を配置した。開口部28における坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間は4.0mmであった。
【0088】
次いで、種結晶基板14を保持した種結晶保持軸12を降下させ、Si−C溶液24の表面位置に種結晶基板14の下面が一致するようにして種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させ、種結晶基板14の下面をSi−C溶液24に濡らした。次いで、Si−C溶液24の液面から種結晶基板14の下面が1.0mm上方に位置するように種結晶基板14を引き上げ、Si−C溶液のメニスカスを形成させ、10時間、SiC結晶を成長させた。
【0089】
結晶成長をさせている間、種結晶基板14の下面の外周部が126mm/秒の速度で回転するように種結晶保持軸12を150rpmの速度で回転させ、且つ種結晶基板14を同一方向に連続して回転させる回転保持時間を36000秒間とし、回転方向切り替え時の種結晶基板14の停止時間を5秒として、周期的に回転方向を切り替えた。
【0090】
図2に示すように、得られたSiC単結晶を種結晶基板14とともに、成長方向に水平方向に成長面の中心部分が含まれるように1mm厚に切り出し、さらに中央部にて半分に切断し、鏡面研磨を行い、切り出した成長結晶の断面について、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
図10に、得られた成長結晶の断面の光学顕微鏡写真を示す。
【0091】
得られたSiC単結晶は、成長結晶の外周部の方が中央部よりも成長膜厚が厚い凹形状の結晶成長面20を有していた。成長結晶には、黒色部がみられず、インクルージョンは含まれていなかった。
【0092】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは5.5°であり、凹部の中央部の結晶成長厚みは3.3mmであり、成長結晶の成長面における直径は20.0mmであった。各実施例及び比較例における成長結晶の成長面における直径は、(000−1)ジャスト面への投影直径であり、以下に記載した直径は全て同様である。
【0093】
(実施例2)
直径が45mmの種結晶基板14を用い、開口部28における坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間を3.0mmとし、Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を3.0mmとしてメニスカスを形成し、種結晶保持軸12を100rpmの速度で回転させて種結晶基板14の下面の外周部の回転速度を236mm/秒とし、種結晶基板14の同一方向回転保持時間を360秒間とし、結晶成長時間を14時間としたこと以外は、実施例1と同様の条件にて結晶成長を行った。
【0094】
実施例1と同様にして、種結晶基板とともに成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行い、成長結晶の断面について透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
図11に、得られた成長結晶の断面の光学顕微鏡写真を示す。
【0095】
得られたSiC単結晶は、成長結晶の外周部の方が中央部よりも成長膜厚が厚く、凹形状の結晶成長面を得していた。
図11に示した領域Aにおいて、黒色部がみられずインクルージョンを含まないSiC単結晶が得られた。領域Bにおいては成長結晶にインクルージョンが含まれていた。
【0096】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する凹形状の結晶成長面の傾き角θは、領域Aの最外周部において8.0°であり、それよりも外周側において傾き角θは8.0°より大きかった。凹形状の成長結晶面の中央部の結晶成長厚みは2.7mmであり、領域Aの成長面における直径は33.6mmであった。
【0097】
(実施例3)
Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を1.7mmとしてメニスカスを形成し、種結晶基板の同一方向回転保持時間を7200秒とし、結晶成長時間を2時間としたこと以外は実施例1と同様の条件で結晶成長を行った。
【0098】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
【0099】
得られたSiC単結晶は、成長結晶の外周部の方が中央部よりも成長膜厚が厚い凹形状の結晶成長面20を有していた。成長結晶には、黒色部がみられず、インクルージョンは含まれていなかった。
【0100】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは2.0°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは1.2mmであり、成長結晶の成長面の直径は15.6mmであった。
【0101】
(実施例4)
Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を1.3mmとしてメニスカスを形成し、種結晶保持軸の回転速度を120rpmとして種結晶基板の外周速度を101mm/sとし、同一方向回転保持時間を360秒とし、結晶成長時間を20時間としたこと以外は実施例1と同様の条件で結晶成長を行った。
【0102】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
【0103】
得られたSiC単結晶は、成長結晶の外周部の方が中央部よりも成長膜厚が厚い凹形状の結晶成長面20を有していた。成長結晶には、黒色部がみられず、インクルージョンは含まれていなかった。
【0104】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは5.7°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは12.5mmであり、成長結晶の成長面の直径は30.0mmであった。
【0105】
(実施例5)
直径が12mmの種結晶基板を用い、Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を1.3mmとしてメニスカスを形成し、種結晶保持軸の回転速度を100rpmとして種結晶基板の外周速度を63mm/sとし、同一方向回転保持時間を18000秒とし、結晶成長時間を5時間としたこと以外は実施例1と同様の条件で結晶成長を行った。
【0106】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
図12に、得られた成長結晶の断面の光学顕微鏡写真を示す。
【0107】
得られたSiC単結晶は、成長結晶の外周部の方が中央部よりも成長膜厚が厚い凹形状の結晶成長面20を有していた。成長結晶には、黒色部がみられず、インクルージョンは含まれていなかった。
【0108】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは2.0°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは2.3mmであり、成長結晶の成長面の直径は16.0mmであった。
【0109】
(実施例6)
種結晶基板の同一方向回転保持時間を3600秒とし、結晶成長時間を10時間としたこと以外は実施例5と同様の条件で結晶成長を行った。
【0110】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
【0111】
得られたSiC単結晶は、成長結晶の外周部の方が中央部よりも成長膜厚が厚い凹形状の結晶成長面20を有していた。成長結晶には、黒色部がみられず、インクルージョンは含まれていなかった。
【0112】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは4.0°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは4.5mmであり、成長結晶の成長面の直径は26.0mmであった。
【0113】
(実施例7)
Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を1.5mmとしてメニスカスを形成し、種結晶基板の同一方向回転保持時間を360秒とし、結晶成長時間を30時間としたこと以外は、実施例5と同様の条件で結晶成長を行った。
【0114】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
【0115】
得られたSiC単結晶は、成長結晶の外周部の方が中央部よりも成長膜厚が厚い凹形状の結晶成長面20を有していた。成長結晶には、黒色部がみられず、インクルージョンは含まれていなかった。
【0116】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する凹形状の結晶成長面の傾き最大角θは6.0°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは2.5mmであり、成長結晶の成長面の直径は19.0mmであった。
【0117】
(比較例1)
【0118】
直径が25mmの種結晶基板14を用い、開口部28における坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間を1.5mmとし、種結晶基板14の下面をSi−C溶液24に接触させた後の引き上げ位置を1.3mmとし、結晶成長中に、種結晶保持軸12を40rpmの速度で回転させて種結晶基板14の下面の最外周部を52mm/秒の速度で回転させ、同時に坩堝10を同方向に5rpmで回転させ、且つ種結晶基板を同一方向に連続して回転させる回転保持時間を15秒間とし、回転方向切り替え時の種結晶保持軸12の停止時間を5秒として周期的に回転方向を切り替え、結晶成長時間を18時間としたこと以外は、実施例1と同様の条件にて結晶成長を行った。
【0119】
図2に示すように、得られたSiC結晶を、成長方向に水平方向に成長面の中心部分が含まれるように1mm厚に切り出し鏡面研磨をして、切り出した成長結晶の断面について、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
図13に、得られた成長結晶の光学顕微鏡写真を示す。
【0120】
得られたSiC結晶は、小さな凹凸が複数存在するやや凸形状の成長面を有していた。成長結晶の全体に不連続なステップがみられ、ステップ部にインクルージョンの発生がみられた。
【0121】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する結晶成長面の傾き最大角θは−0.6°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは8.0mmであり、成長結晶の成長面の直径は35.0mmであった。
【0122】
図14に、得られた成長結晶の断面についてEDX(堀場製作所製、EMAX)により観察した反射電子像を示す。反射電子像から、得られたSiC単結晶中にインクルージョンとみられる領域46が含まれていることが分かる。領域46及びSiC単結晶とみられる領域48についてEDXによりSi及びCrの定量分析を行ったところ、領域48においてはCr/Si=0であり、領域46において、Crが原子組成百分率でCr/Si=1.3の比率で検出され、成長結晶中にインクルージョンが含まれていることが確認された。仕込みのSi−C溶液のCr/Si比率は0.7であり、本例で得られた成長結晶中のインクルージョンからは、この比率よりも多くのCrが検出された。
【0123】
(比較例2)
坩堝10の上部に開けた開口部28に種結晶保持軸12を通すようにして配置し、開口部28に20mm厚の断熱材を配置して、開口部28における坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間を0.5mmとして、種結晶保持軸12を介した抜熱を実質的に維持しつつ、Si−C溶液表面からの輻射抜熱が低減するようにした。そして、種結晶基板14の下面をSi−C溶液24に接触させSi−C溶液24の液面と同じ高さに保持し、結晶成長時間を5時間としたこと以外は、実施例7と同様の条件にて結晶成長を行った。
【0124】
比較例1と同様にして、得られたSiC成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行い、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
図15に、得られた成長結晶の光学顕微鏡写真を示す。
【0125】
得られたSiC結晶は、凸形状の結晶成長面を有していた。また、成長結晶中の成長差が存在する個所にインクルージョンが混入していることが確認された。
【0126】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する結晶成長面の傾き最大角θは−14.4°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは1.7mmであり、成長結晶の成長面の直径は12.0mmであった。
【0127】
(比較例3)
直径が16mmの種結晶基板を用い、開口部28における坩堝10と種結晶保持軸12との間の隙間を2.0mmとし、結晶成長時間を10時間としたこと以外は実施例7と同様の条件で結晶成長を行った。
【0128】
比較例1と同様にして、得られたSiC成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行い、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
図16に、得られた成長結晶の光学顕微鏡写真を示す。
【0129】
得られたSiC結晶は、ほぼフラットな結晶成長面を有していた。また、成長結晶にはインクルージョンが混入していることが確認された。
【0130】
(000−1)ジャスト面に対する得られた成長結晶の結晶成長面の傾き最大角θは0.0°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは3.8mmであり、成長結晶の成長面の直径は17.1mmであった。
【0131】
(比較例4)
Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を1.7mmとしてメニスカスを形成し、種結晶保持軸の回転速度を40rpmとして種結晶基板の外周速度を25mm/sとし、同時に坩堝10を同方向に5rpmで回転させたこと以外は実施例5と同様の条件で結晶成長を行った。
【0132】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
図17に、得られた成長結晶の光学顕微鏡写真を示す。得られたSiC成長結晶はほぼフラットな結晶成長面を有しており、黒色部がみられ、インクルージョンが含まれていた。
【0133】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する結晶成長面の傾き最大角θは−0.5°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは2.8mmであり、成長結晶の最大直径は16.6mmであった。
【0134】
(比較例5)
Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を1.0mmとしてメニスカスを形成し、種結晶保持軸の回転速度を40rpmとして、種結晶基板の外周速度を25mm/sとし、同時に坩堝10を同方向に5rpmで回転させ、同一方向回転保持時間を15秒とし、結晶成長時間を10時間としたこと以外は実施例5と同様の条件で結晶成長を行った。
【0135】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。得られたSiC成長結晶はほぼフラットな結晶成長面を有しており、黒色部がみられ、インクルージョンが含まれていた。
【0136】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する結晶成長面の傾き最大角θは−0.7°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは4.7mmであり、成長結晶の最大直径は27.5mmであった。
(比較例6)
Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を1.0mmとしてメニスカスを形成し、種結晶保持軸の回転速度を0.4rpmとして種結晶基板の外周速度を0.3mm/sとし、同一方向回転保持時間を36000秒とし、結晶成長時間を10時間としたこと以外は実施例5と同様の条件で結晶成長を行った。
【0137】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。得られたSiC成長結晶は凸形状の結晶成長面を有しており、黒色部がみられ、インクルージョンが含まれていた。
【0138】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する結晶成長面の傾き最大角θは−2.3°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは3.1mmであり、成長結晶の最大直径は15.0mmであった。
【0139】
(比較例7)
種結晶基板の同一方向回転保持時間を15秒とし、同時に坩堝10を同方向に5rpmで回転させたこと以外は実施例5と同様の条件で結晶成長を行った。
【0140】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。
図18に、得られた成長結晶の光学顕微鏡写真を示す。得られたSiC成長結晶はほぼフラットな結晶成長面を有しており、黒色部がみられ、インクルージョンが含まれていた。
【0141】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する結晶成長面の傾き最大角θは−2.0°であった。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは2.6mmであり、成長結晶の最大直径は17.1mmであった。
【0142】
(比較例8)
Si−C溶液24の液面からの種結晶基板14の引き上げ位置を1.5mmとしてメニスカスを形成し、同一方向回転保持時間を30秒とし、結晶成長時間を10時間としたこと以外は実施例4と同様の条件で結晶成長を行った。
【0143】
実施例1と同様にして成長結晶の断面を切り出して鏡面研磨を行って、透過モードで光学顕微鏡観察を行った。得られたSiC成長結晶は凹形状の結晶成長面を有しており、黒色部がみられ、インクルージョンが含まれていた。
【0144】
得られた成長結晶の(000−1)ジャスト面に対する結晶成長面の傾き最大角θは−10.0°であり、結晶成長面の大部分において傾き最大角θは8°を超えていた。また、結晶成長面の中央部の結晶成長厚みは4.9mmであり、成長結晶の最大直径は12.2mmであった。
【0145】
(Si−C溶液の流動方向シミュレーション)
Si−C溶液の流動方向について、CG SIMを用いてシミュレーションを行った。
図19及び20にそれぞれ、実施例1及び比較例4の条件でSi−C溶液の流動が安定したときの成長界面直下のSi−C溶液の流動状態について、シミュレーションを行った結果を示す。
【0146】
結晶回転速度が126mm/秒と大きい実施例1の条件では、
図19に表されるように、Si−C溶液24の深部から種結晶基板14の直下中央部に向かってSi−C溶液が流動し、中央部から外周部へ向かう流動がみられ、さらに外周部から深部へ流動するSi−C溶液の循環がみられ、成長界面直下において停滞部はみられなかった。これに対して、結晶回転速度が25mm/秒と小さい比較例4の条件の場合、
図20に表されるように、Si−C溶液の流動が小さく、特に成長界面直下の外周部及びメニスカス部分にて流動が停滞しており、また、実施例1の場合と対照的に、外周部から中央部に向かう弱い流動がみられた。
【0147】
表1に各実施例及び比較例における結晶成長条件を示し、表2に得られたSiC成長結晶の成長面形状、インクルージョンの有無、成長結晶の厚み及び直径、並びに結晶成長面の傾き最大角θを示す。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
図21に、実施例1及び3〜7、並びに比較例4〜8で得られた成長結晶のインクルージョン有無と、種結晶基板の外周速度及び同一方向回転保持時間との関係を表したグラフを示す。また、
図22に、
図21の同一方向回転保持時間の短い領域を拡大したグラフを示す。
【0151】
図21及び22から分かるように、種結晶基板の外周速度が速いほど、また、同一方向回転保持時間が長いほど、インクルージョンを含まないSiC単結晶を得ることができる。