(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の等価回路解析方法には、以下のような解決すべき課題が存在している。すなわち、この等価回路解析方法には、測定した内部インピーダンスについての周波数特性にインダクタンス成分が現れている場合に、等価回路モデルにインダクタを加えて解析するという技術的事項が開示されているが、インダクタを加えた等価回路モデルにおいて各パラメータを調整する際の具体的な調整方法が開示されていないため、インダクタンス成分を含む各パラメータの値を算出するのが困難であるという解決すべき課題が存在している。
【0006】
本発明は、かかる課題を改善するためになされたものであり、インダクタを含む等価回路の各パラメータ値を確実に算出し得る等価回路解析装置および等価回路解析方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく請求項1記載の等価回路解析装置は、
インピーダンスZCPEの容量および
抵抗値R1の電荷移動抵抗の並列回路に
抵抗値Rsの溶液抵抗および
インダクタンス値L1のインダクタが直列接続され
て全体のインピーダンスZTOTALが(jωL1+Rs+1/(1/R1+1/ZCPE))となる等価回路で表される測定対象の
当該インピーダンスについての実測された周波数特性に基づいて、各周波数
fでの前記インピーダンスの実数成分実測値および虚数成分実測値を測定する実測値測定処理と、前記虚数成分実測値のうちの高周波側の特定周波数での虚数成分実測値に基づいて前
記インダクタンス値L1だけを算出する第1インダクタンス算出処理と、前記算出したインダクタンス値L1を使用して前記各周波数
fでのリアクタンスωL1
(=2πf×L1)を算出すると共に前記各周波数
fでの前記虚数成分実測値に当該算出した
対応する周波数fでのリアクタンスωL1を加算して当該各周波数
fでの虚数成分実測値
に負の項(−ωL1)として現れる前記インダクタの影響を
キャンセルする補正処理と、実数成分を横軸とし、かつ虚数成分を縦軸とする直交平面内に、前記実数成分実測値を前記横軸の座標とし、かつ前記補正された虚数成分実測値を前記縦軸の座標としてプロットされたドットで構成されるナイキストプロット曲線における円弧状領域に含まれる前記ドットの前記実数成分実測値および前記補正された虚数成分実測値に基づいて前記円弧状領域に対応する半円をカーブフィッティング法によって算出するフィッティング処理と、前記算出した半円の前記横軸との2つの交点での各実数成分値、および前記補正された虚数成分実測値のうちの極小の虚数成分実測値での前記周波数に基づいて前記等価回路を構成する前記容量
の前記インピーダンスZCPEの各パラメータ値と前記電荷移動抵抗および前記溶液抵抗の各パラメータ値
としての前記抵抗値R1,Rsとを算出するパラメータ値算出処理と、前記等価回路のうちの前記算出した各パラメータ値の前記容量、前記電荷移動抵抗および前記溶液抵抗で構成される部分等価回路の前記特定周波数でのインピーダンスの虚数成分理論値を算出すると共に、当該虚数成分理論値、および前記特定周波数での虚数成分実測値に基づいて前記インダクタの新たなインダクタンス値を算出する第2インダクタンス算出処理とを実行する処理部を備えている等価回路解析装置であって、前記処理部は、前記第2インダクタンス算出処理で算出した前記新たなインダクタンス値を使用しつつ、前記補正処理、前記フィッティング処理、前記パラメータ値算出処理および前記第2インダクタンス算出処理を予め規定された回数だけ繰り返すことにより、当該パラメータ値算出処理で算出される前記容量、前記電荷移動抵抗および前記溶液抵抗の各パラメータ値を収束させる。
【0009】
請求項2記載の等価回路解析方法は、
インピーダンスZCPEの容量および
抵抗値R1の電荷移動抵抗の並列回路に
抵抗値Rsの溶液抵抗および
インダクタンス値L1のインダクタが直列接続され
て全体のインピーダンスZTOTALが(jωL1+Rs+1/(1/R1+1/ZCPE))となる等価回路で表される測定対象の
当該インピーダンスについての実測された周波数特性に基づいて、各周波数
fでの前記インピーダンスの実数成分実測値および虚数成分実測値を測定する実測値測定処理と、前記虚数成分実測値のうちの高周波側の特定周波数での虚数成分実測値に基づいて前
記インダクタンス値L1だけを算出する第1インダクタンス算出処理と、前記算出したインダクタンス値L1を使用して前記各周波数
fでのリアクタンスωL1
(=2πf×L1)を算出すると共に前記各周波数
fでの前記虚数成分実測値に当該算出した
対応する周波数fでのリアクタンスωL1を加算して当該各周波数
fでの虚数成分実測値
に負の項(−ωL1)として現れる前記インダクタの影響を
キャンセルする補正処理と、実数成分を横軸とし、かつ虚数成分を縦軸とする直交平面内に、前記実数成分実測値を前記横軸の座標とし、かつ前記補正された虚数成分実測値を前記縦軸の座標としてプロットされたドットで構成されるナイキストプロット曲線における円弧状領域に含まれる前記ドットの前記実数成分実測値および前記補正された虚数成分実測値に基づいて前記円弧状領域に対応する半円をカーブフィッティング法によって算出するフィッティング処理と、前記算出した半円の前記横軸との2つの交点での各実数成分値、および前記補正された虚数成分実測値のうちの極小の虚数成分実測値での前記周波数に基づいて前記等価回路を構成する前記容量
の前記インピーダンスZCPEの各パラメータ値と前記電荷移動抵抗および前記溶液抵抗の各パラメータ値
としての前記抵抗値R1,Rsとを算出するパラメータ値算出処理と、前記等価回路のうちの前記算出した各パラメータ値の前記容量、前記電荷移動抵抗および前記溶液抵抗で構成される部分等価回路の前記特定周波数でのインピーダンスの虚数成分理論値を算出すると共に当該虚数成分理論値、および前記特定周波数での虚数成分実測値に基づいて前記インダクタの新たなインダクタンス値を算出する第2インダクタンス算出処理とを実行する等価回路解析方法であって、前記第2インダクタンス算出処理で算出した前記新たなインダクタンス値を使用しつつ、前記補正処理、前記フィッティング処理、前記パラメータ値算出処理および前記第2インダクタンス算出処理を予め規定された回数だけ繰り返すことにより、当該パラメータ値算出処理で算出される前記容量、前記電荷移動抵抗および前記溶液抵抗の各パラメータ値を収束させる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の等価回路解析装置および請求項
2記載の等価回路解析方法では、第2インダクタンス算出処理を実行して、真のインダクタンス値により近い値の新たなインダクタンス値を算出し、さらに、この新たなインダクタンス値を使用して、補正処理、フィッティング処理、およびパラメータ値算出処理を再度実行して、部分等価回路を構成する溶液抵抗、電荷移動抵抗および容量の各パラメータ値を再度算出する。
【0012】
したがって、この等価回路解析装置および等価回路解析方法によれば、測定対象の等価回路を構成する溶液抵抗、電荷移動抵抗、容量およびインダクタの各パラメータ値を、より真値に近い値に収束させることができるため、各パラメータ値をより高い精度で測定することができる。
【0013】
また、この等価回路解析装置および
この等価回路解析方法によれば、第2インダクタンス算出処理で算出した新たなインダクタンス値を使用して、補正処理、フィッティング処理、パラメータ値算出処理、および第2インダクタンス算出処理を予め決められた回数(例えば3回以上の複数回)実行することにより、測定対象の等価回路を構成する溶液抵抗、電荷移動抵抗、容量およびインダクタの各パラメータ値を、より一層真値に近い値に収束させることができるため、各パラメータ値をより一層高い精度で測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、等価回路解析装置1および等価回路解析方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
最初に、等価回路解析装置1の構成について、図面を参照して説明する。なお、一例として、電池を測定対象として、その等価回路の各パラメータを算出して解析する等価回路解析装置1を例に挙げて説明する。
【0017】
等価回路解析装置1は、
図1に示すように、交流電流供給部2、電流検出部3、電圧検出部4、処理部5、記憶部6、表示部7および操作部8を備え、電池(リチウムイオン電池や鉛蓄電池などの二次電池)11についての等価回路の各パラメータを算出して解析する。なお、電池の等価回路は、電池の種類などに応じて異なるため、測定対象の電池11についての等価回路が予め選択される。本例では一例として、測定対象の電池11の等価回路として、
図2に示す等価回路、すなわち、溶液抵抗としての抵抗成分21(抵抗値Rs)と、電荷移動抵抗としての抵抗成分22(抵抗値R1)および容量としての容量成分23(本例では一例としてCPE(Constant Phase Element)であるが、キャパシタでもよい)の並列回路と、インダクタ24(インダクタンス値L1)とが直列接続されて構成された等価回路が選択されている。
【0018】
交流電流供給部2は、一例として、交流定電流源を備えている。交流電流供給部2では、交流定電流源が、一定の振幅の交流電流(交流定電流)I1を、処理部5によって指定された周波数fで生成して、電池11に供給する。なお、交流電流供給部2は、処理部5によって指定された振幅の交流電流I1を生成する構成や、さらに処理部5によって指定された直流成分を重畳させて交流電流I1を生成する構成を採用することもできる。電流検出部3は、不図示のA/D変換回路を備え、交流電流供給部2から電池11に供給されている交流電流I1を検出すると共に、A/D変換回路において、検出した交流電流I1の波形を予め規定されたサンプリング周期でサンプリングすることにより、電流波形データDiに変換して処理部5に出力する。
【0019】
電圧検出部4は、交流電流I1の供給に起因して電池11の両端間に発生する交流電圧V1を検出すると共に、その波形を予め規定されたサンプリング周期(電流検出部3のサンプリング周期と同一で、かつ同期した周期)でサンプリングすることにより、電圧波形データDvに変換して処理部5に出力する。
【0020】
処理部5は、CPUを備えて構成されて、一例として、実測値測定処理、第1インダクタンス算出処理、補正処理、フィッティング処理、パラメータ値算出処理、および第2インダクタンス算出処理を含む等価回路解析処理(
図4参照)を実行して、等価回路の各構成要素についてのパラメータ値(抵抗値Rs、抵抗値R1、CPEの後述するパラメータ値p,T、およびインダクタンス値L1)を算出する。また、処理部5は、算出した各パラメータ値を表示部7に表示させる表示処理を実行する。
【0021】
記憶部6は、一例として、RAMおよびROMなどの半導体メモリや、HDD(Hard Disk Drive )で構成されて、処理部5用の動作プログラムが予め記憶されている。また、記憶部6は、処理部5のワークメモリとしても機能する。
【0022】
表示部7は、一例として、液晶ディスプレイなどの表示装置で構成されて、処理部5において算出された数値やグラフを画面上に表示する。
【0023】
操作部8は、一例として、数値キーおよび複数のコマンドキー(いずれも図示せず)を備えて構成されて、コマンドキーが操作されたときには各コマンドキーに予め割り当てられている指示内容を示す命令データDcmを処理部5に対して出力する。また、操作部8は、数値キーが操作されたときにはこの数値キーの操作によって特定された数値データDnuを処理部5に対して出力する。本例では、この数値データDnuとして、実測値測定処理においてスイープさせる周波数fの下限値fminおよび上限値fmax、並びに補正処理、フィッティング処理、パラメータ値算出処理、および第2インダクタンス算出処理を繰り返す繰り返し回数n(2以上の整数)を示す数値が出力される。
【0024】
次に、等価回路解析装置1の解析動作および等価回路解析方法について図面を参照して説明する。
【0025】
等価回路解析装置1では、処理部5は、まず、操作部8からの命令データDcmの出力の有無を繰り返し検出して、検出した命令データDcmで示される指示内容が、上記した下限値fmin、上限値fmaxおよび繰り返し回数nの取り込み指示のときには、その後に操作部8から出力される数値データDnu(下限値fmin、上限値fmaxおよび繰り返し回数nを示す数値データ)を入力すると共に、この数値データDnuを記憶部6に記憶させる。
【0026】
また、処理部5は、検出した命令データDcmで示される指示内容が、解析の開始指示のときには、
図4に示す等価回路解析処理50を実行する。この等価回路解析処理50では、処理部5は、まず、実測値測定処理を実行する(ステップ51)。この実測値測定処理では、処理部5は、記憶部6から周波数fの下限値fminおよび上限値fmaxを読み出すと共に、交流電流供給部2に対して周波数f(fmin≦f≦fmax)を指定して、この指定した周波数fの交流電流I1を測定対象の電池11に供給させる。この交流電流I1が電池11に供給されている状態において、電流検出部3は、交流電流I1の波形を示す電流波形データDiを処理部5に出力し、電圧検出部4は、交流電流I1の供給に起因して電池11の両端間に発生する交流電圧V1を検出すると共に電圧波形データDvに変換して処理部5に出力する。
【0027】
処理部5は、電流波形データDiおよび電圧波形データDvを例えば1周期分ずつ取得して、記憶部6に記憶させる。続いて、処理部5は、記憶部6に記憶されている電流波形データDiおよび電圧波形データDvに基づいて、指定した周波数fでの電池11についてのインピーダンスZ(インピーダンスZの実数成分(R)と虚数成分(X))を算出して、指定した周波数fに対応させて、実数成分(R)を実数成分実測値として、かつ虚数成分(X)を虚数成分実測値として記憶部6に記憶させる。
【0028】
処理部5は、交流電流供給部2に対して指定する周波数fを順次変化させつつ(下限値fminから上限値fmaxまで(例えば、0.1Hzから10kHzまで)順次変化(例えば、単位周波数ずつ増加。スイープ)させつつ)、指定した周波数fでのインピーダンスZの実数成分(R)および虚数成分(X)を算出すると共に、この周波数fに対応させて記憶部6に実数成分実測値および虚数成分実測値として記憶させる。これにより、実測値測定処理が完了する。
【0029】
次いで、処理部5は、第1インダクタンス算出処理を実行する(ステップ52)。この第1インダクタンス算出処理では、処理部5は、記憶部6に記憶されている各周波数fでの虚数成分実測値のうちの高周波側の特定周波数(本例では一例として、上限値fmax)での虚数成分実測値に基づいて、インダクタ24のインダクタンス値L1を算出して、記憶部6に記憶させる。
【0030】
一般的に、
図2に示す電池11の等価回路のように、抵抗成分22と並列接続された状態で、容量成分23としてのCPEを含む等価回路でのCPEのインピーダンスZ
CPEは、下記式(1)で表される。
Z
CPE=1/[(jω)
p×T]
ここで、p=1−(2/π)×cos
−1(Cx/r)、T=1/(ω
p×R1
) ・・・ (1)
なお、Cxは、フィッティング処理において算出される円(後述の円A)の実数成分(R)を横軸とし、虚数成分(X)を縦軸とする直交座標平面(複素平面)での中心座標(Cx,Cy)の実数成分値であり、rは、この円の半径を表している。また、
Tについての上記式(1/(ωp×R1))中におけるωは(2π×fp)であり、この周波数fpは、フィッティング処理を適用したナイキストプロット曲線における極小点(後述する
図3のナイキストプロット曲線CU2における虚数成分実測値が極小となるドットP3)での周波数である。
【0031】
また、上記の式(1)は、実数成分と虚数成分とに分けることにより、下記の式(2)のようにも表される。
Z
CPE=1/(ω
p×T)×cos(π×p/2)
−j×1/(ω
p×T)×sin(π×p/2) ・・・ (2)
【0032】
したがって、このCPEで構成される容量成分23を含む
図2の等価回路全体のインピーダンスZ
TOTALは、下記の式(3)のように表される。
Z
TOTAL=jωL1+Rs+1/(1/R1+1/Z
CPE)
=Z'
TOTAL−jZ"
TOTAL ・・・ (3)
ここで、Z'
TOTAL=Rs+{R1×[1/ω
2p+1/ω
p×T×R1×cos(π×p/2)]}/[1/ω
2p+2/ω
p×T×R1×cos(π×p/2)+(T×R1)
2] ・・・ (4)
Z"
TOTAL=R1×[1/ω
p×T×R1×sin(π×p/2)]/[1/ω
2p+2/ω
p×T×R1×cos(π×p/2)+(T×R1)
2]−ωL1 ・・・ (5)
【0033】
このため、周波数fが十分に高いときには、ω(=2πf)も十分に大きな値になることから、上記式(4)における第2項の分子がほぼゼロであるとみなすことができ、この式(4)は下記式(6)のように近似することができる。また、同様にして、上記式(5)における第1項の分子もほぼゼロであるとみなすことができ、この式(5)は下記式(7)のように近似することができる。
Z'
TOTAL≒Rs ・・・ (6)
Z"
TOTAL≒−ωL1 ・・・ (7)
【0034】
したがって、処理部5は、この第1インダクタンス算出処理において、上記したように、周波数fの上限値fmaxを最も好ましい高周波側の特定周波数として、この上限値fmaxでの虚数成分実測値(Z"
TOTAL)と、ω(=2π×fmax)とに基づいて、上記式(7)からインダクタ24のインダクタンス値L1(=−Z"
TOTAL/ω)を算出する。なお、最も好ましい高周波側の特定周波数として、周波数fの上限値fmaxを使用する構成を採用しているが、ω(=2πf)が十分に大きな値になるのであれば、上限値fmax以外の高周波側の周波数を特定周波数として使用する構成を採用することもできる。
【0035】
続いて、処理部5は、補正処理を実行する(ステップ53)。この補正処理では、処理部5は、第1インダクタンス算出処理で算出したインダクタンス値L1を使用して、記憶部6に記憶されている各周波数
f(実測値測定処理において、インピーダンスZの実数成分(R)および虚数成分(X)を算出した各周波数f)でのリアクタンス(ωL1
=2πf×L1)を算出すると共に、対応する周波数
fでの虚数成分実測値にこのリアクタンスを適用する(具体的には加算する)ことにより、各周波数
fでの虚数成分実測値を補正し、補正した各周波数
fでの虚数成分実測値を記憶部6に記憶させる。例えば、処理部5は、周波数f1,f2での虚数成分実測値を補正する場合、周波数f1での虚数成分実測値の補正に際しては、この周波数f1でのリアクタンス(2π×f1×L1)を算出して、この虚数成分実測値に適用(加算)することで補正を行い、周波数f2での虚数成分実測値の補正に際しては、この周波数f2でのリアクタンス(2π×f2×L1)を算出して、この虚数成分実測値に適用(加算)することで補正を行う。
【0036】
図2に示す電池11の等価回路では、インダクタ24の影響(ωL1)は、上記の式(4)に示すように等価回路全体のインピーダンスZ
TOTALの実数成分Z'
TOTALには現れず、上記の式(5)に示すように虚数成分Z"
TOTALにのみ負の項として現れる。このため、この補正処理において、処理部5が各周波数
fでのリアクタンス(ωL1
=2πf×L1)を算出すると共に、対応する周波数
fでの虚数成分実測値にこのリアクタンス(ωL1)を加算することにより、虚数成分Z"
TOTALにおけるインダクタ24の影響をキャンセルすることが可能となる。ただし、補正に使用されたリアクタンス(ωL1)におけるL1は、上記の式(7)で表される近似式から算出されたものであるため、式(5)に示される虚数成分Z"
TOTALからリアクタンス(ωL1)が完全にキャンセルされてはいないが、虚数成分Z"
TOTALにおけるインダクタ24の影響が大幅に低減されたものになっている。このため、記憶部6に記憶されている各周波数
fでの実数成分実測値と、補正された虚数成分実測値とは、
図2に示す電池11の等価回路からインダクタ24を省いた等価回路(以下、「部分等価回路」ともいう)についてのインピーダンスの各周波数
fでの実数成分実測値と虚数成分実測値とをほぼ表すものになっていると考えられる。
【0037】
続いて、処理部5は、フィッティング処理を実行する(ステップ54)。このフィッティング処理では、処理部5は、
図3に示すように、実数成分(R)を横軸とし、かつ虚数成分(X)を縦軸とする直交平面内に、実数成分実測値をこの横軸の座標とし、かつ補正された虚数成分実測値をこの縦軸の座標としてプロットされたドットで構成されるナイキストプロット曲線CU2(実線で示される曲線)における円弧状領域Wに含まれるドットの実数成分実測値および補正された虚数成分実測値に基づいて、この円弧状領域Wに対応する半円(本例では、この円弧状領域Wを含む円A)をカーブフィッティング法(例えば、最小二乗法を利用したカーブフィッティング法)によって算出する。この場合、算出した円Aの中心Oの座標は(Cx,Cy)であり、半径はrであるものとする。なお、
図3中の破線で示される曲線CU1は、実数成分実測値を横軸の座標とし、かつ補正されていない虚数成分実測値を縦軸の座標とするプロットで構成されるナイキストプロット曲線を表している。
【0038】
次いで、処理部5は、パラメータ値算出処理を実行する(ステップ55)。このパラメータ値算出処理では、処理部5は、算出した円Aの横軸(
図3における虚数成分(X)がゼロの線分)との2つの交点P1,P2での各実数成分値、および補正された虚数成分実測値のうちの極小の虚数成分実測値(ドットP3での虚数成分実測値)での周波数fpに基づいて、部分等価回路を構成する抵抗成分21、抵抗成分22および容量成分23の各パラメータ値(抵抗値Rs,抵抗値R1,p,T)を算出する。
【0039】
具体的には、処理部5は、交点P1の実数成分値を抵抗値Rsとして算出し、交点P2の実数成分値から交点P1の実数成分値を減算した値を抵抗値R1として算出する。また、処理部5は、上記の式(1)に、円Aの中心Oの実数成分値Cx、円Aの半径r、抵抗成分22の抵抗値R1、周波数fpを代入して、各パラメータ値p,Tを算出すると共に、Z
CPEを算出する。
【0040】
続いて、処理部5は、第2インダクタンス算出処理を実行する(ステップ56)。この第2インダクタンス算出処理では、処理部5は、上記式(5)を使用して、部分等価回路の特定周波数(本例では上記のように、上限値fmax)でのインピーダンスの虚数成分理論値を算出すると共に、算出した虚数成分理論値、および特定周波数での虚数成分実測値に基づいてインダクタ24の新たなインダクタンス値L1を算出して、記憶部6に更新記憶させる。
【0041】
この場合、上記式(5)における第1項は、部分等価回路についてのインピーダンスの虚数成分値を表している。このため、処理部5は、まず、この式(5)における第1項に、パラメータ値算出処理で算出した各パラメータ値(抵抗値R1、周波数fmax、パラメータ値p,T)を適用して、部分等価回路についてのインピーダンスの虚数成分値(以下、「虚数成分理論値」ともいう)を算出する。次いで、処理部5は、この算出した虚数成分理論値を特定周波数での虚数成分実測値Z"
TOTALから減算し、この減算によって得られた値を(−ω)で除算することにより、インダクタ24の新たなインダクタンス値L1(=−(Z"
TOTAL−虚数成分理論値)/ω)を算出する。
【0042】
この第2インダクタンス算出処理では、上記のようにして上記式(5)における第1項の値を考慮して、虚数成分実測値Z"
TOTALからインダクタ24のインダクタンス値L1を算出している。このため、式(5)における第1項の値をゼロとみなした上記式(7)を使用してインダクタンス値L1を算出したときよりも、真のインダクタンス値L1に一層近いインダクタンス値L1を算出することが可能となっている。
【0043】
次いで、処理部5は、第2インダクタンス算出処理の実行回数が記憶部6に記憶されている繰り返し回数(予め規定された回数)nに達したか否かを判別し(ステップ57)、達していないときには、ステップ53の補正処理に戻り、第2インダクタンス算出処理で算出した新たなインダクタンス値L1を使用して、補正処理、フィッティング処理、パラメータ値算出処理および第2インダクタンス算出処理を再度実行する。このように、真のインダクタンス値L1に一層近いインダクタンス値L1を使用して、処理部5が補正処理、フィッティング処理、パラメータ値算出処理および第2インダクタンス算出処理を再度実行することにより、インダクタ24のインダクタンス値L1は、真のインダクタンス値L1により一層近い値に収束させられると共に、部分等価回路を構成する抵抗成分21、抵抗成分22および容量成分23の各パラメータ値(Rs,R1,p,T)についても、真のインダクタンス値L1により一層近い値のインダクタンス値L1を使用して再度算出することにより、真の値により近い値に収束させられる(より高い精度で算出される)。
【0044】
一方、処理部5は、ステップ57において、第2インダクタンス算出処理の実行回数が繰り返し回数nに達したと判別したときには、表示処理を実行する(ステップ58)。この表示処理では、処理部5は、算出した各パラメータ値(抵抗値Rs、抵抗値R1、CPEについてのパラメータ値p,T,Z
CPE、およびインダクタンス値L1(最後の第2インダクタンス算出処理で算出した最新のインダクタンス値L1))を表示部7に表示させる。これにより、等価回路解析処理50が完了する。
【0045】
このように、この等価回路解析装置1および等価回路解析方法では、上記の第2インダクタンス算出処理(ステップ56)を実行して、真のインダクタンス値L1により近い値の新たなインダクタンス値L1を算出し、さらに、この新たなインダクタンス値L1を使用して、補正処理(ステップ53)、フィッティング処理(ステップ54)、およびパラメータ値算出処理(ステップ55)を再度実行して、部分等価回路を構成する抵抗成分21、抵抗成分22および容量成分23の各パラメータ値(Rs,R1,p,T)を再度算出する。
【0046】
したがって、この等価回路解析装置1および等価回路解析方法によれば、電池11の等価回路を構成する抵抗成分21の抵抗値Rs、抵抗成分22の抵抗値R1、容量成分23の各パラメータ値p,T(およびZ
CPE)、およびインダクタ24のインダクタンス値L1を、より真値に近い値に収束させることができるため、各パラメータ値をより高い精度で測定(算出)することができる。
【0047】
また、この等価回路解析装置1および等価回路解析方法によれば、第2インダクタンス算出処理で算出した新たなインダクタンス値L1を使用して、補正処理、フィッティング処理、パラメータ値算出処理、および第2インダクタンス算出処理を予め決められた複数回(この例ではn回:例えば3回以上)実行することにより、電池11の等価回路を構成する抵抗成分21の抵抗値Rs、抵抗成分22の抵抗値R1、容量成分23の各パラメータ値p,T(およびZ
CPE)、およびインダクタ24のインダクタンス値L1を、より一層真値に近い値に収束させることができるため、各パラメータ値をより一層高い精度で測定(算出)することができる。
【0048】
具体的に、
図5,6を参照して説明する。
図5において実線で示す曲線は、第1インダクタンス算出処理において算出されたインダクタンス値L1を使用して、補正処理、フィッティング処理、およびパラメータ値算出処理を1回実行して得られる抵抗成分21の抵抗値Rs、抵抗成分22の抵抗値R1、および容量成分23の各パラメータ値p,T(およびZ
CPE)に基づいて算出した
図2に示す電池11の等価回路についてのナイキストプロット曲線CU3(理論曲線)である。また、
図5中において破線で示す曲線は、実測値測定処理(ステップ51)で測定された各周波数fでの実数成分実測値および虚数成分実測値をプロットして得られたナイキストプロット曲線CU1(実測曲線)である。同図によれば、理論曲線が実測曲線から大きくずれているため、このことから、抵抗成分21の抵抗値Rs、抵抗成分22の抵抗値R1、容量成分23の各パラメータ値p,T(およびZ
CPE)、およびインダクタ24のインダクタンス値L1が真値から大きく外れた値として算出されていることが確認できる。
【0049】
一方、
図6において実線で示す曲線は、新たなインダクタンス値L1を使用して、補正処理、フィッティング処理、パラメータ値算出処理、および第2インダクタンス算出処理を2回実行して得られた抵抗成分21の抵抗値Rs、抵抗成分22の抵抗値R1、容量成分23の各パラメータ値p,T(およびZ
CPE)、およびインダクタ24のインダクタンス値L1に基づいて算出した
図2に示す電池11の等価回路についてのナイキストプロット曲線CU4(理論曲線)である。また、
図6中において破線で示す曲線は、実測値測定処理(ステップ51)で測定された各周波数fでの実数成分実測値および虚数成分実測値をプロットして得られたナイキストプロット曲線CU1(実測曲線)である。同図によれば、理論曲線が実測曲線に極めて近いため、このことから、抵抗成分21の抵抗値Rs、抵抗成分22の抵抗値R1、容量成分23の各パラメータ値p,T(およびZ
CPE)、およびインダクタ24のインダクタンス値L1が真値に近い値として算出されていることが確認できる。すなわち、この等価回路解析装置1および等価回路解析方法によれば、電池11の等価回路を構成する抵抗成分21の抵抗値Rs、抵抗成分22の抵抗値R1、容量成分23の各パラメータ値p,T(およびZ
CPE)、およびインダクタ24のインダクタンス値L1を、より高い精度で測定(算出)することができる。
【0050】
なお、上記の等価回路解析装置1および等価回路解析方法では、上記したように、繰り返し回数nを増やす程、電池11の等価回路を構成する抵抗成分21の抵抗値Rs、抵抗成分22の抵抗値R1、容量成分23の各パラメータ値p,T(およびZ
CPE)、およびインダクタ24のインダクタンス値L1を、より一層真値に近い値に収束させることが可能になるが、繰り返し回数nを増やす程、解析に要する時間が長くなる。このため、この等価回路解析装置1では、繰り返し回数nを操作者が操作部8を介して処理部5に設定できる構成として、電池11の等価回路を構成する抵抗成分21の抵抗値Rs等の精度と、解析に要する時間とのバランスを取ることが可能になっている。
【0051】
また、
図2に示す電池11の等価回路では、抵抗成分22と容量成分23の並列回路が1組だけであるが、図示はしないが、この種の並列回路を2以上備えた等価回路で構成される電池も存在しており、このような等価回路の各パラメータ値の算出に際しても、上記した等価回路解析処理50を適用することが可能である。
【0052】
また、測定対象として電池を例に挙げて説明したが、等価回路が
図2に示されるような回路である限り、電池以外の素子についても測定対象として、その等価回路の各パラメータ値を算出することができる。