特許第6046436号(P6046436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046436
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】防汚塗膜の形成方法及び防汚塗装物
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20161206BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20161206BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20161206BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20161206BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20161206BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20161206BHJP
   C09D 183/02 20060101ALN20161206BHJP
   C09D 5/00 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   B05D5/00 H
   B05D7/00 L
   B05D7/24 302A
   C09D1/00
   C09D5/02
   C09D7/12
   !C09D183/02
   !C09D5/00 D
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-216883(P2012-216883)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2013-81941(P2013-81941A)
(43)【公開日】2013年5月9日
【審査請求日】2015年7月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-217637(P2011-217637)
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和夫
(72)【発明者】
【氏名】皆良田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】古田 麻衣
【審査官】 安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4641563(JP,B2)
【文献】 特開2010−138358(JP,A)
【文献】 特開2003−326638(JP,A)
【文献】 特開昭60−106566(JP,A)
【文献】 特開2007−197912(JP,A)
【文献】 特開2010−235680(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0197003(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築基材上に下地塗膜用塗料を塗布し、1層又は複数層の下地塗膜を形成する工程と、
該下地塗膜上に、オーバーコート塗料の主成分として、
(a)水分散コロイダルシリカ(固形分換算)0.1〜10.0質量%と、
(b)1種類以上のノニオン系界面活性剤(固形分換算)0.01〜1.0質量%と、
(c)水89〜99質量%と
を含有し、有機系溶剤を含有しない(A)塗料組成物を塗布し、水に対する接触角が1°〜40°であるオーバーコート塗膜を形成する工程とを備え、
上記(A)塗料組成物が、更にフッ素系界面活性剤を含有し、上記(a)成分、水分散コロイダルシリカの溶液が、pH8〜10であることを特徴とする防汚塗膜の形成方法。
【請求項2】
上記(b)成分、ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルを含有する請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項3】
上記(b)成分、ノニオン系界面活性剤が、プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド付加物を含有する請求項1又は2に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項4】
上記フッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルケニル基を有する請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項5】
上記(A)塗料組成物が、更に無機酸化物粒子を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項6】
上記(a)成分、水分散コロイダルシリカは、球状であり、かつ平均粒子径が10〜40nmのコロイダルシリカである請求項1〜5のいずれかに記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項7】
上記(A)塗料組成物は、光触媒機能材料を含有しない請求項1〜のいずれかに記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項8】
上記(A)塗料組成物は、高分子重合体(樹脂)成分を含有しない請求項1〜のいずれかに記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項9】
上記下地塗膜用塗料が、結合剤としてSi−OR基(Rは水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基)を有する化合物を含有する請求項1〜のいずれかに記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項10】
上記下地塗膜用塗料が、艶消し剤又は骨材を含有し、艶消し塗膜又は高意匠性塗膜を形成することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項11】
上記骨材が、着色骨材であることを特徴とする請求項10に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項12】
建築基材上に1層又は複数層の下地塗膜を備え、上記下地塗膜上に、
(a)水分散コロイダルシリカ(固形分換算)0.1〜10.0質量%と、
(b)1種類以上のノニオン系界面活性剤(固形分換算)0.01〜1.0質量%と、
(c)水89〜99質量%と、
フッ素系界面活性剤と
を含有し、有機系溶剤を含有せず、上記(a)成分、水分散コリダルシリカの溶液がpH8〜10である(A)塗料組成物から形成された、水に対する接触角が1°〜40℃であるオーバーコート塗膜と
を備える防汚塗膜を有する防汚塗装物。
【請求項13】
上記防汚塗装物が建築外装材である請求項12に記載の防汚塗装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期メンテナンスフリーに対応できる耐汚染性、耐候性、耐温水性に優れた、自己洗浄能力を有する防汚層を形成することのできる防汚塗膜の形成方法及び防汚塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノポリシロキサン系の無機樹脂を結合剤とする塗膜は、耐候性や耐汚染性等に優れるものの、初期の親水性発現までに時間を要する。また、オルガノシラン及び/又はその部分加水分解縮合物と、シリル基含有化合物を加水分解縮合反応させて得られる有機無機複合樹脂を結合剤とする塗膜は、クラックが生じ難いものの、耐汚染性や、耐候性、耐溶剤性を更に向上させることが求められていた(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
本願発明者らは、特許文献3に記載されるように、耐汚染性や耐温水性に優れた、自己洗浄能力を有する防汚層を形成する防汚塗膜を見出してきた。防汚塗料の用途拡大により、外装建材向けの30年レベルの耐久性を有する長期メンテナンスフリーに対応できる防汚性・耐候性に優れる塗装システムの必要性が高まってきていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−313497号公報
【特許文献2】特開2001−98221号公報
【特許文献3】特許第4641563号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、このような従来技術の課題を背景になされたもので、特定のコロイド状シリカ、特定の界面活性剤、及び水を用いることにより、耐汚染性、耐候性、耐温水性に優れた、自己洗浄能力を有する防汚層を形成し、また、有機系溶剤を使用しないため環境面においても優しく、更に有機溶剤に脆弱な下地塗膜が溶解や膨潤等を起こすことのないオーバーコート塗膜を備えた防汚塗膜の形成方法、並びに該方法によって得られる防汚塗装物を提供することである。
【0006】
また、本発明の別の目的は、建築外装材向けの30年レベルの耐久性を有する長期メンテナンスフリーに対応できる耐汚染性や耐候性に優れる防汚塗膜の形成方法及び防汚塗装物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明の防汚塗膜の形成方法は、
建築基材上に下地塗膜用塗料を塗布し、1層又は複数層の下地塗膜を形成する工程と、
該下地塗膜上に、オーバーコート塗料の主成分として、(a)水分散コロイダルシリカ(固形分換算)0.1〜10.0質量%と、(b)1種類以上のノニオン系界面活性剤(固形分換算)0.01〜1.0質量%と、(c)水89〜99質量%とを含有し、有機系溶剤を含有しない(A)塗料組成物を塗布し、水に対する接触角が1°〜40°であるオーバーコート塗膜を形成する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の防汚塗装物は、上記の防汚塗膜の形成方法により得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐汚染性、耐候性、耐温水性に優れた、自己洗浄能力を有する防汚層を形成することが可能となり、30年レベルの耐久性を有する長期メンテナンスフリーに対応できる耐汚染性や耐候性に優れ、また、有機系溶剤を使用しないため環境面においても優しく、更に有機溶剤に脆弱な下地塗膜が溶解や膨潤等を起こすことのないオーバーコート塗膜を備えた防汚塗膜の形成方法、並びに該方法によって得られる防汚塗装物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
本発明の防汚塗膜の形成方法によれば、下地塗膜とオーバーコート塗膜とを備える防汚塗膜を建築基材上に形成できるが、まず、該オーバーコート塗膜を形成するための(A)塗料組成物について説明する。
【0012】
(A)塗料組成物(以下、オーバーコート塗料ともいう)は、オーバーコート塗料の主成分として、(a)水分散コロイダルシリカ(固形分換算)0.1〜10.0質量%と、(b)1種類以上のノニオン系界面活性剤(固形分換算)0.01〜1.0質量%と、(c)水89〜99質量%とを含有し、有機系溶剤を含有しないことを要する。
【0013】
(a)水分散コロイダルシリカについて
(a)成分の水分散コロイダルシリカは、シリカ粒子が、水媒体中に分散したものである。コロイダルシリカは、通常、平均粒子径が、5〜100nmのほぼ球状のシリカ粒子が分散したタイプと、シリカ粒子が太さ5〜50nm、長さ40〜400nm程度に鎖状に凝集して溶液中に分散したタイプと、平均粒子径10〜50nmの球状シリカ粒子がパールネックレス状に50〜400nmの長さに連なったパールネックレス状タイプと、平均粒子径5〜50nmのシリカ粒子が環状に凝集して溶液中に分散した環状タイプ等がある。本発明においては、球状コロイダルシリカを使用することが耐汚染性の観点から好ましい。また、異なるタイプの物も少量であれば混合して使用することができる。水分散コロイダルシリカの球状の平均粒子径は10〜40nmであることが好ましい。平均粒子径が10nm未満であると耐汚染性が低下し、40nmを超えると塗膜外観が低下する傾向がある。
【0014】
ほぼ球状のシリカ粒子が水に分散したコロイダルシリカは、市販品として容易に入手することができ、具体例としては、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックス−20、スノーテックス−O、スノーテックス−C、スノーテックス−Sや、旭電化工業(株)製のアデライトAT−20、AT−20N、AT−20A、及びAT−300等が挙げられる。
【0015】
鎖状コロイダルシリカは、水中にシリカ粒子が分散したものであり、市販品として容易に入手することができる。その具体例としては、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックス−UP、及びスノーテックス−OUP(以上、水分散系)等が挙げられる。
【0016】
パールネックレス状コロイダルシリカは、市販品として容易に入手することができ、具体例としては、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックス−PS−S、スノーテックス−PS−M、スノーテックス−PS−SO、及びスノーテックス−PS−MO等が挙げられる。
【0017】
本発明におけるオーバーコート塗料は、水系の塗料組成物であり、塗膜外観が低下するため、水分散コロイダルシリカの分散溶媒として、有機溶媒を含むものは使用できない。
【0018】
(a)成分は、塗膜の硬化性や耐汚染性を向上させるためのものであり、その配合量は、固形分換算で、オーバーコート塗料((A)塗料組成物)中、0.1〜10.0質量%であり、好ましくは、0.5〜5.0質量%が適当である。(a)成分の配合量が、0.1質量%より少ないと、塗膜の硬化性や、耐汚染性を向上させる効果が発揮されず、逆に10.0質量%を超えると、塗膜の外観が悪くなる傾向にある。
【0019】
一般に、水分散コロイダルシリカは、製造方法によりNaを含むが、本発明においてはそのNaを含んだアルカリ性タイプの水分散コロイダルシリカを用いることがシリカ粒子の分散性が向上するため好ましい。よって、(a)成分の水分散コロイダルシリカのpHは、8〜10であることが好ましく、更には、pHが8.5〜9.5であることがより好ましい。
【0020】
(b)ノニオン系界面活性剤について
(A)塗料組成物は、(a)成分の水分散コロイダルシリカの分散性向上や塗膜の耐汚染性、塗膜形成時のフロー性を向上させるために、(b)成分として1種類以上のノニオン系界面活性を含有する。
【0021】
(b)ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルを含有することが好ましい。これ以外にも、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド付加物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、及びアルキル(ポリ)グリコシド等のノニオン系界面活性剤を用いても構わない。これらの中でもプロピレンオキサイド−エチレンオキサイド付加物を含有すると耐雨筋汚染性が向上するため好ましい。
【0022】
(b)成分の配合量は、固形分換算で、オーバーコート塗料((A)塗料組成物)中0.01〜1.0質量%であり、好ましくは、0.05〜0.5質量%が適当である。(b)成分の配合量が、0.01質量%より少ないと、塗膜の成膜性、外観が悪くなる。逆に1.0質量%より多いと、塗膜の耐水性が低下し、塗膜の耐久性が悪くなる。
【0023】
(c)成分について
希釈剤としての(c)成分の水は、純水、蒸留水、イオン交換水、又は水道水等を使用することができる。
【0024】
(c)水の配合量は、オーバーコート塗料((A)塗料組成物)中、89〜99質量%であり、更に好ましくは、95〜99質量%である。(c)成分の配合量が、89質量%より少ないと、塗料粘度が高くなり塗装作業性が悪くなり、逆に99質量%を超えると、防汚塗料成分が希薄となり、均一な塗膜が得られなくなる。
【0025】
本発明におけるオーバーコート塗料は、更にフッ素系界面活性剤を含有することが好ましい。ここで言うフッ素系界面活性剤は、分子内にCF(CF−で構成されるパーフルオロアルキル基や、対応するパーフルオロアルケニル基を含有する界面活性剤であることが好ましい。上記フッ素系界面活性剤を添加することで、表面張力を更に低下させることができ、塗膜の親水性が向上し塗膜の耐汚染性も向上させることができる。
【0026】
このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルケニルスルホン酸塩、パーフルオロアルケニルカルボン酸塩等のアニオン型フッ素系界面活性剤;パーフルオロアルキルベタイン等の両性型フッ素系界面活性剤;パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム等のカチオン型フッ素系界面活性剤;パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキル基を含有するオリゴマー等のノニオン型フッ素系界面活性剤が挙げられる。これらの中でもパーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤が、特に塗膜の耐汚染性に優れるため好ましい。
【0027】
本発明におけるオーバーコート塗料は、更に無機酸化物粒子を含有することが好ましい。ここでいう無機酸化物粒子は、光触媒機能を有しない無機酸化物(M)を主成分とする微粒子であり、その態様は粉末やゾル等の分散体のタイプであっても構わない。無機酸化物粒子を添加することで、更に塗膜の耐汚染性が向上するため好ましい。塗料中へは固形分で、0.01〜1質量%添加するのが好ましい。
【0028】
このような無機酸化物粒子を形成する化合物としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化ビスマス、酸化インジウム錫、酸化アンチモン錫などが挙げられる。これらの中には、光触媒活性を有するものも含まれているが、これら無機酸化物粒子は、有機物または無機物により表面処理され、不活性化したものが好ましい。また、これらの中でも、酸化錫や酸化亜鉛は、特に塗膜の耐汚染性向上に優れるため好ましい。
【0029】
本発明におけるオーバーコート塗料は、高分子重合体(樹脂)成分を含有しないことが好ましい。高分子重合体(樹脂)成分を含むと、オーバーコート塗料を塗布後、硬化・乾燥の工程に時間を要するため、塗装した基材同士を積み重ねる際のブロッキング(塗膜の付着)が起こり易くなるためである。ここで言う高分子重合体とは、被膜形成成分としてのバインダー樹脂成分であり、その態様は水中に分散する成分でも水溶性成分であって構わない。
【0030】
そのような高分子重合体成分としては、例えば、アクリルエマルション、エポキシエマルション、ポリエステルエマルション、ポリウレタンエマルション、シリコン系エマルション、及びフッ素樹脂エマルション等の水分散性樹脂、水溶性アクリル、水溶性ポリエステル、水溶性ポリウレタン、水溶性アクリルシリコーン、及び水溶性フッ素樹脂等の水溶性樹脂が挙げられ、これらには変性されているものも含む。
【0031】
また、本発明におけるオーバーコート塗料は、光触媒機能材料を含有しないことが好ましい。光触媒機能材料を保持できるバインダー成分を含有しないことで、オーバーコート塗料組成物中の界面活性剤成分等が光触媒機能により分解され、塗膜の外観が悪くなる恐れがなくなる。ここで言う光触媒機能材料とは、紫外線や可視光等を照射すると電子及び正孔が生じ、この電子が空気中の酸素を還元することで活性酸素や水酸基ラジカルを発生し、それによる有機物の分解や消臭効果、抗菌・防カビ効果、塗膜表面の親水性付与(防汚機能)や帯電防止効果等を有する材料のことである。
【0032】
なお、光触媒機能は、その物質特有の表面特性であることから、その機能発現のため有機物や無機物によって表面処理されていない物質を指す。光触媒機能を有する材料としては、主に酸化チタンがあり、それ以外に、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化ニッケル及び酸化ビスマス等の酸化物半導体が挙げられる。
【0033】
本発明におけるオーバーコート塗料は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン及びキシレン等の有機系溶剤を含有しないことを特徴の一つとする。有機系溶剤を含んでいると、塗膜の成膜性が低下し、塗膜の外観等が悪くなる。また、有機系溶剤を含んでいると、下地塗膜の溶解や膨潤等により下地に悪影響を与える場合があり、特に有機塗膜上に塗装する場合は注意を要する。これに対して、本発明におけるオーバーコート塗料は有機系溶剤を含まないため、そのような課題は生じない。更に、揮発性の有機溶剤を含まないため、被塗物に付着しなかった塗料(オーバースプレー)も回収し再利用することが可能であり、環境に対して非常に優しい塗料である。
【0034】
本発明におけるオーバーコート塗料は、表面張力が、40dyn/cm(25℃)以下であることが好ましく、更には、30dyn/cm(25℃)以下であることがより好ましい。表面張力が、40dyn/cm(25℃)よりも大きいと均一な塗膜形成が困難となるため、十分な塗膜性能が発揮できない。
【0035】
本発明におけるオーバーコート塗料は、150℃、30分間の加熱残分が、0.1〜10.0質量%であることが好ましく、更には、0.5〜5.0質量%であることがより好ましい。加熱残分が、0.1質量%未満であると、塗膜の硬化性や、耐汚染性を向上させる効果が少なく、10.0質量%超過であると塗膜の外観が悪くなる傾向がある。
【0036】
本発明におけるオーバーコート塗料は、塗膜形成時に(a)成分の水分散コロイダルシリカが塗膜表面に偏析し、コロイダルシリカが互いにネットワーク構造を形成する。これにより、膜厚が薄くても強固な塗膜を形成するため、優れた耐汚染性、耐水性を発現することが可能となり、雨水により(a)成分の水分散コロイダルシリカが洗い流されることがなく、耐汚染機能の維持性にも優れると考えられる。しかしながら、オーバーコート塗料((A)塗料組成物)中に有機系溶剤を含んでいると、そのコロイダルシリカのネットワーク構造が形成されず、雨水により(a)成分の水分散コロイダルシリカが洗い流され易く良好な塗膜が形成されないと考えられる。
【0037】
本発明におけるオーバーコート塗料は、以上説明した(a)成分、(b)成分及び(c)成分の3成分を主成分とし、有機系溶剤を含有しない。更に、必要に応じて、塗膜物性の向上や着色等のために、充填剤や、染料、硬化剤、更には、硬化促進剤、増粘剤、及び顔料分散剤等の各種添加剤等を配合することができる。
【0038】
充填剤としては、例えば、タルクや、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、ベントナイト、酸化チタン(光触媒機能を有さない顔料)、カーボンブラック、及びベンガラ、リトポン等の各種塗料用体質顔料や、着色顔料が使用可能である。
【0039】
次に、オーバーコート塗料((A)塗料組成物)が塗装される建築基材や下地塗膜について説明する。本発明に使用される建築基材は、主に建材、特に建築外装材に使用されるものに適用され、例えば、フレキシブルボードや、珪酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、石綿セメント板、パルプセメント板、プレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート板(ALC板)、及び石膏ボード等の無機建材や、アルミニウム、鉄及びステンレス等の金属建材等が代表的なものとして挙げられる。これらはその表面が平滑なものであっても、凹凸形状を有するものであってもよい。
【0040】
建築基材上に下地塗膜が形成される場合、下地塗膜は、1層又は複数層の塗膜からなる。ここで、下地塗膜が、複数層の塗膜からなる場合、例えば、次のような構造が挙げられる。建築基材上に、下塗り塗料及び上塗り塗料を順に塗装してなる2層構造の下地塗膜や、建築基材上に、下塗り塗料、中塗り塗料、及び上塗り塗料を順に塗装してなる3層構造の下地塗膜が挙げられる。なお、下地塗膜を形成する塗料(下地塗膜用塗料)としては、基材と塗膜との長期間密着性を発現させる働きをなすものであり、ビニル樹脂、アクリルスチレン樹脂、エポキシ/ポリアミン樹脂又はウレタン樹脂等を結合剤とする各種の溶剤系又は水系塗料等が挙げられ、塗膜機能としては基材密着性や耐アルカリ性、耐エフロレッセンス性等が要求される。
【0041】
特に外壁等の塗膜に耐候性や耐凍害性等が要求される建築建材の場合には、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂又は有機無機複合系樹脂等を結合剤とする溶剤系又は水系塗料が塗装される。
【0042】
本発明において、下地塗膜を形成する塗料としては、形成される下地塗膜の水に対する接触角が120°以下になるものを適用することが好ましい。そのような下地塗膜を形成する塗料(下地塗膜が複数層の塗膜である場合、下地塗膜の最上層を形成する上塗り塗料)としては、結合剤として無機系樹脂、特にSi−OR基(Rは水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基)を有する化合物を含有するものが好ましく、その含有量は、塗膜形成成分換算で0.1〜50質量%であることが好ましい。これにより、オーバーコート塗料から形成されるオーバーコート塗膜との密着がより優れ、本発明が目的とする30年レベルの耐久性を有する長期メンテナンスフリーをより確実に達成できるため好ましい。
【0043】
Si−OR基(Rは水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基)を有する化合物を含有する塗料としては、加水分解性シリル基含有ビニル系塗料や、オルガノポリシロキサン系塗料、及びシランカップリング剤添加塗料等が挙げられる。
【0044】
本発明において、下地塗膜を形成する塗料には、各種機能を付与させるために、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、更に体質顔料や、着色顔料、防錆顔料、着色骨材等の骨材を配合できる他、分散剤や沈降防止剤、増粘剤等の各種添加剤をも配合することができる。
【0045】
本発明におけるオーバーコート塗料は、建築基材上に1つ又は複数種の塗料を塗布し、硬化・乾燥させ、1層又は複数層の下地塗膜を形成した後に、該下地塗膜の上から塗装し、硬化・乾燥させてオーバーコート塗膜を形成する。形成されたオーバーコート塗膜上の水に対する接触角は、1°〜40°であり、好ましくは5°〜30°である。接触角が40°より大きいと塗膜の防汚性能が低下する。
【0046】
本発明において、下地塗膜を形成する塗料(下地塗膜が複数層の塗膜である場合、下地塗膜の最上層を形成する上塗り塗料)は、艶消し剤、又は着色ビーズ、着色骨材等の骨材を含有し、艶消し塗膜、又は高意匠性塗膜を形成することが、塗膜外観及び意匠性の付与のために好ましい。なお、高意匠性塗膜とは、塗膜の最上層を形成する上塗り塗膜(一般的にクリヤー塗膜)に着色ビーズ、着色骨材などを添加することで、高度な意匠性を付与した塗膜を指す。艶消し剤としては、例えば、シリカ系艶消し剤、樹脂ビーズ、ガラスビーズ及びタルク等の体質顔料等が挙げられる。また、着色ビーズ、着色骨材等の骨材としては、例えば、着色樹脂ビーズ、着色ガラスビーズ、マイカ、カラーマイカ、珪砂、カラーサンド等が挙げられる。
【0047】
下地塗膜用塗料やオーバーコート塗料の塗装方法としては、例えば、刷毛、スプレー、ロール及びディッピング等の塗装手段によって、これら塗料を基材上に塗装し、例えば、常温もしくは300℃以下の温度で焼付けることにより、硬化塗膜を形成する方法が挙げられる。場合により、予め基材を加熱しておき(プレヒート)、その上から塗料を塗装し、硬化塗膜を形成することもできる。なお、本発明においては、建築基材上に防汚塗膜が形成された塗装物を防汚塗装物と称する。
【0048】
下地塗膜の膜厚は、数μm〜数百μmであり、特に制限されない。オーバーコート塗料により形成されるオーバーコート塗膜の膜厚は、0.1〜2μmであることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について、実施例により更に詳細に説明する。なお、実施例中の「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準で示す。なお、表1及び表2に記載される処方は、質量部で表示されている。
【0050】
(i)オーバーコート塗料組成物の調製
<実施例1〜12及び比較例1〜5>
表1〜表2に示すように各成分を配合し、実施例1〜12及び比較例1〜5のオーバーコート塗料組成物を得た。得られた各オーバーコート塗料組成物について、水に対する接触角、表面張力や加熱残分の測定を、以下のように行った。
【0051】
<水に対する静的接触角の測定>
塗板表面に0.1ccの蒸留水を滴下し、20℃の雰囲気下で滴下1分後の接触角を協和界面化学株式会社CA−X接触角測定装置にて測定した。
【0052】
<表面張力の測定方法>
表面張力の測定は、協和界面科学(株)製の表面張力計(CBVP−A3型)を用いて、25℃で測定した。
【0053】
<加熱残分の測定方法>
加熱残分は、試料約3グラムをアルミニウムカップに精秤し、150℃オーブンを用いて30分間乾燥後の質量を精秤し、元の質量に対する残分の質量から計算し、加熱残分(%)を求めた。
【0054】
各防汚塗料組成物の塗膜性能評価は、以下のように行った。
<性能評価試験>
(ii)防汚塗料組成物の塗膜性能評価用試験板の作製
基材として石膏スラグパーライト板(厚さ12mm)を用い、その表面にポリイソシアネートプレポリマー溶液シーラー「Vセラン#100シーラー」(大日本塗料(株)製、酢酸ブチル:キシレン=1:1の溶剤で100%希釈)を塗着量が90〜100g/m(wet質量)となるように吹付塗装した。これを100℃で5分間乾燥した。次いで上塗り塗料としてアクリルシリコーン樹脂系塗料「Vセラン#500エナメル」(大日本塗料(株)製、酢酸ブチル:キシレン=1:1の溶剤で40%希釈)を塗着量が80〜90g/m(wet質量)となるように吹付塗装した。これを120℃で15分間乾燥した。得られた上塗り塗膜の水に対する接触角は60°(20℃)、またその塗膜中のSi−OR基の含有量は1.5質量%であった。
【0055】
次いで、前述の各調製した溶液に界面活性剤や希釈剤等を添加し、表1〜表2に示す配合のオーバーコート塗料を、塗着量70〜80g/m(wet質量)となるように吹付塗装した。これを120℃で15分間乾燥した後、室温で3日間乾燥し、得られた塗膜の外観、耐温水性、耐汚染性、耐候性、耐凍害性及び接触角の各性能評価試験を行い、その結果を表1〜表2に示した。
【0056】
なお、各性能評価試験の試験方法及び評価基準は、以下に基づいて行った。
【0057】
<塗膜外観>
得られた塗膜の外観を、以下のように目視で評価した。
◎・・・良好(透明な膜)
○・・・やや良好(一部白濁)
△・・・不良(全体的にやや白濁)
×・・・不良(全体的に白濁)
【0058】
<耐温水性>
上記のように作製した塗板を80℃の温水中に3時間浸漬した後の塗膜外観を、浸漬中及び塗膜乾燥後において、以下のように目視判定した。
◎・・・浸漬中及び塗膜乾燥後、共に変化無し
○・・・浸漬中軽微な白化は有るが、塗膜乾燥後では変化無し
△・・・浸漬中での白化が酷く、塗膜乾燥後では光沢低下、白化等の軽微な変化有り
×・・・浸漬中での白化が酷く、塗膜乾燥後では光沢低下、白化等の変化大
【0059】
<耐汚染性>
塗板上にカーボンブラック分散液(ターペン溶液)をスポイトで数滴滴下して流し塗りした後、水の霧吹きでそれを洗い流し、その除染性を以下のように目視判定した。
◎・・・完全除去
○・・・極く軽微な汚染
△・・・少し汚染
×・・・汚染著しい
【0060】
<耐雨筋汚染性>
水平面に対して10度に傾斜し、かつ、長さ30cmで深さ3mmの溝が3mmピッチで刻まれた屋根を有する架台上に、上記の各塗板を、降雨が塗膜表面に筋状に流れ落ちるように南向きに垂直に取り付け、その状態で12ヶ月間暴露した後、塗膜外観を試験前の塗膜と比較し、塗膜表面の汚染状態を、以下のように目視判定した。
◎・・・汚れは無く、雨筋も確認されない
○・・・わずかな汚れは有るが、雨筋は確認されない
△・・・局所的な汚れが有り、雨筋が薄く確認される
×・・・全面にかなりの汚れが有り、雨筋がはっきりと確認される
【0061】
<耐候性>
サンシャインウェザー−オーメーターにより5000時間行い、その耐候性を以下のように判定した。
○・・・塗膜外観に変化は無く、光沢保持率95%以上
△・・・塗膜外観の変化が軽微にあり、光沢保持率80%以上95%未満
×・・・塗膜外観の変化が著しく、光沢保持率80%未満
【0062】
<耐凍害性>
ASTM−C666A法(凍結−融解サイクル)により、100サイクルの耐凍害性を実施し、以下のように目視判定した。
○・・・塗膜にクラックの発生無し
△・・・極く軽微なクラックの発生有り
×・・・クラックの発生又は塗膜の部分剥離
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
1)水分散コロイダルシリカA(日産化学工業(株)製、スノーテックス−O、固形分20%、pH3.8、平均粒子径10〜20nm、形状:球状、酸性タイプ)
2)水分散コロイダルシリカB(日産化学工業(株)製、スノーテックス−C、固形分20%、pH9.0、平均粒子径10〜20nm、形状:球状)
3)水分散コロイダルシリカC(日産化学工業(株)製、スノーテックス−PS−SO、固形分20%、pH3.0、平均粒子径80〜120nm、形状:パールネックレス状)
4)水分散コロイダルシリカD(日産化学工業(株)製、スノーテックス−UP、固形分20%、pH10.0、平均粒子径40〜100nm、形状:鎖状)
5)イソプロパノール分散コロイダルシリカE(日産化学工業(株)製、IPA−ST、固形分30%、pH3.2、平均粒子径10〜20nm、形状:球状)
6)酸化錫粒子(N.T.S.社製、光触媒機能を有さない酸化スズゾル、固形分20%)
7)酸化亜鉛粒子(BYK社製、光触媒を有さない酸化亜鉛ゾル、固形分45%)
8)光触媒酸化チタン粒子(石原産業(株)製、光触媒TiO、平均粒径8μm)
9)ノニオン系界面活性剤A(TEGO社製、ポリフローKL−510、固形分100%、成分:ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)
10)ノニオン系界面活性剤B(サンノプコ(株)製、SN984、固形分100%、成分:ポリエーテル系化合物)
11)ノニオン系界面活性剤C(第一工業製薬(株)、ニューコール1004、固形分100%、成分:ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル)
12)ノニオン系界面活性剤D(第一工業製薬(株)、ネオノイゲン140A、固形分100%、成分:ポリオキシエチレン−アルキルフェニルエーテル)
13)ノニオン系界面活性剤E(株式会社ADEKA製、プルロニックL−44、固形分100%、成分:プロピレンオキサイド・エチレンオキサイドブロックポリマー)
14)カチオン系界面活性剤F(ライオン(株)製、サンノール LMT−1430、固形分27%、成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩)
15)アニオン系界面活性剤G(株式会社ADEKA製、アデカコール EC−8600、固形分70%、成分:ジオクチルスルホコハク酸エステル塩)
16)アニオン系界面活性剤H(サンノプコ(株)製、ウェット50、固形分100%、成分:アルキルスルホコハク酸ナトリウム)
17)フッ素系界面活性剤I(株式会社ネオス製、フタージェント100C、パーフルオロアルケニル基含有フッ素系界面活性剤、固形分100%)
18)フッ素系界面活性剤J(DIC(株)製、メガファックF−444、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、有効成分100%)
19)アクリルエマルジョン(日本触媒(株)製、ユーダブルE−670、固形分45%)
【0066】
<評価結果>
表1〜表2より明らかな通り、本発明の防汚塗料組成物を使用した実施例1〜12は、優れた塗膜性能を有していた。一方、比較例1及び4の溶剤系コロイダルシリカを含有する塗料では、耐汚染性や耐候性が悪かった。比較例2及び5の有機溶剤としてエタノールを含有する塗料では、塗膜外観、耐汚染性が非常に悪かった。また、比較例3のノニオン系界面活性剤を使用しない塗料では、耐温水性及び耐雨筋汚染性が非常に悪かった。