(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本願の発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と称す)を、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るベクトル制御装置10を
図1〜
図4を参照して説明する。なお、当該ベクトル制御装置10を備えたモータ制御装置21の説明も兼ねる。
第1実施形態は、本発明のベクトル制御装置10による制御方法をモータ制御装置21に適用し、モータトルク指令値とトルク推定値の差分より位相誤差指令値を演算して弱め界磁制御を行うものである。
【0011】
[ベクトル制御装置:その1]
図1は、本発明の第1実施形態に係るベクトル制御装置10の内部の構成を示したものである。ただし、ベクトル制御装置10は、モータ制御装置21(
図2)の構成要素として備えられたものであり、相互に信号が行き交うこともあって、まずモータ制御装置21を先に説明し、その後に、詳細にベクトル制御装置10について説明する。
【0012】
<モータ制御装置と直流電源、モータとの関連>
図2は、本発明の第1実施形態に係るモータ制御装置21の構成と、このモータ制御装置21と直流電源22とモータ23との関連を示す図である。
図2において、モータ制御装置21は、直流電源22から直流電力を受けて、3相交流電力に変換する。また、モータ(永久磁石同期モータ)23は、モータ制御装置21から3相交流電力を供給され、駆動制御されて回転し、負荷(不図示)を回転駆動させる。
次に、モータ制御装置21の、詳細について説明する。
【0013】
<モータ制御装置>
図2において、前記したように、モータ制御装置21は、直流電源22から供給される直流電力を可変電圧可変周波数の3相交流電力に変換する電力変換器24と、電力変換器24に流れる直流母線電流を検出する直流母線電流検出回路25と、直流母線電流検出回路25で検出された直流母線電流情報25Aを基にベクトル制御を行う制御装置26とを備えて構成されている。
【0014】
《電力変換器》
また、電力変換器24は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチング素子と逆並列に接続されたダイオード素子から構成された電力変換主回路41と、後記するPWM(Pulse Width Modulation)パルス生成部35からのPWMパルス信号35Aに基づいて電力変換主回路41のIGBT(Sup、Sun、Svp、Svn、Swp、Swn)へのゲート信号を発生するゲート・ドライバ42とを備えて構成されている。
IGBTが直列に接続されてレッグを構成するIGBT(Sup、Sun)は、直流電源22間に接続され、それぞれの上アーム(Sup)と下アーム(Sun)の接続点は、U相の交流出力端子となっている。
【0015】
同様に直列に接続されてレッグを構成するIGBT(Svp、Svn)は、直流電源22間に接続され、それぞれの上アーム(Svp)と下アーム(Svn)の接続点は、V相の交流出力端子となっている。
また、直列に接続されてレッグを構成するIGBT(Swp、Swn)は、直流電源22間に接続され、それぞれの上アーム(Swp)と下アーム(Swn)の接続点は、W相の交流出力端子となっている。
以上のIGBT(Sup、Sun、Svp、Svn、Swp、Swn)を制御装置26がゲート・ドライバ42を介して、適切に制御をすることにより、直流電源22の直流電力は、可変電圧可変周波数の3相交流電力(3相交流電圧Vu、Vv、Vw、3相交流電流Iu、Iv、Iw)が前記のU相、V相、W相の交流出力端子から出力される。
【0016】
《制御装置》
また、制御装置26は、ベクトル制御部(ベクトル制御装置)10と電流再現部31と位置センサレス制御部32と速度指令発生部33と座標変換部34とPWMパルス生成部35とを備えて構成されている。
なお、ベクトル制御部10は、前記のようにベクトル制御装置10でもある。また、後記するように比較例1のベクトル制御部10A(
図5)の構成が用いられるときには、
図2において、ベクトル制御部10のブロックがベクトル制御部10Aに相当する。
【0017】
電流再現部31は、直流母線電流検出回路25で検出された直流母線電流情報(I
DC)25Aを基に前記の永久磁石同期モータ(モータ)23に流れる相電流情報を再現電流(I
dc,I
qc)として再現する。そして、その再現電流(I
dc,I
qc)31A、31Bをベクトル制御部10と位置センサレス制御部32とに出力する。
なお、電流再現部31における、後記する直流母線電流検出回路25からの相電流情報の取得は、特開2004−48886号公報に開示されている方式や、電流センサを用いる方式など一般的な方式を用いることで可能であり、相電流情報の検出方式を特定するものではない。
【0018】
位置センサレス制御部32は、前記再現電流(I
dc,I
qc)(31A、31B)と印加電圧指令値(V
d*,V
q*)とを用いて、モータ回転速度ω
c(32A)と回転位相θ
dc(32B)を推定する。そして、モータ回転速度ω
c(32A)の信号をベクトル制御部10に出力する。また、回転位相θ
dc(32B)の信号を電流再現部31と座標変換部34とに出力する。
なお、位置センサレス制御部32によるモータ回転速度ω
cと回転位相θ
dcの推定は、位置センサを用いる方式など、一般的な方式を用いることで可能であり、回転速度および回転位相の検出方式を特定するものではない。
【0019】
速度指令発生部33は、モータ回転速度指令値ω
1*(33A)を発生して、その信号をベクトル制御部10に出力する。
【0020】
ベクトル制御部10は、再現電流(I
dc,I
qc)(31A、31B)と、モータ回転速度ω
c(32A)と、速度指令発生部33からのモータ回転速度指令値ω
1*とを用いて、モータ23への印加電圧指令値(V
d*,V
q*)を算出する。そして、印加電圧指令値(V
d*,V
q*)を座標変換部34と位置センサレス制御部32とに出力する。
なお、ベクトル制御部10の詳細については後記する。
【0021】
座標変換部34は、前記の印加電圧指令値(V
d*,V
q*)を交流印加電圧指令値(Vu
*,Vv
*,Vw
*)へ変換し、その信号34AをPWMパルス生成部35へ出力する。
【0022】
PWMパルス生成部35は、前記交流印加電圧指令値(Vu
*,Vv
*,Vw
*)とキャリア信号(PWMパルス生成部35内部で発生)を基にしてPWMパルス信号35Aを生成し、その信号35Aを電力変換器24に備えられたゲート・ドライバ42に出力する。
【0023】
《直流母線電流検出回路》
直流母線電流検出回路25は、直流電源22の負側の直流母線に接続され、U相、V相、W相の脈流が混在した電流I
DCから相電流情報を取得する。取得された相電流情報は、直流母線電流情報(相電流の情報)25Aとして、電流再現部31へ出力される。
また、直流母線電流検出回路25からの相電流情報の取得は、前記した特開2004−48886号公報に開示されている方式や、電流センサを用いる方式など一般的な方式を用いることで可能であり、相電流情報の検出方式を特定するものではない。
【0024】
[ベクトル制御装置:その2]
再び
図1を参照して、ベクトル制御装置10について詳細に説明する。
前記したように、
図1は、本発明の第1実施形態に係るベクトル制御装置10の内部の構成を詳細に示したものである。
図1において、ベクトル制御装置10は、トルク指令演算部101、q軸電流指令演算部102、トルク推定演算部103、位相誤差指令演算部111、第2のq軸電流指令演算部112、第2のd軸電流指令演算部113、電圧ベクトル演算部100、出力電圧制限検出部107を備えている。
また、ベクトル制御装置10は、比較器121〜124を備えている。
また、ベクトル制御装置10は、トルク入力切替部104、q軸電流入力切替部105、d軸電流入力切替部106をさらに備えて構成される。
なお、d軸とは、モータ回転子の磁石の主磁束方向の座標軸であり、q軸とは、前記d軸と直角方向の回転座標軸である。
【0025】
ベクトル制御装置10には、
図2に示したモータ制御装置21における各信号のモータ回転速度指令値ω
1*、推定されたモータ回転速度ω
c、d軸、q軸のそれぞれの再現電流であるI
dc、I
qcがそれぞれ入力される。
また、ベクトル制御装置10から印加電圧指令値V
d*、V
q*が出力される。なお、印加電圧指令値V
d*は、d軸に関する印加電圧指令であり、印加電圧指令値V
q*は、q軸に関する印加電圧指令である。
【0026】
図1において、比較器121にモータ回転速度指令値ω
1*と推定されたモータ回転速度ω
cとが入力されて、その差分がトルク指令演算部101とq軸電流指令演算部102とに出力する。
【0027】
《トルク指令演算部》
トルク指令演算部101は、モータ回転速度指令値ω
1*と推定されたモータ回転速度ω
cとの差分からトルク指令値τ
*を演算する。
【0028】
《q軸電流指令演算部》
q軸電流指令演算部102は、モータ回転速度指令値ω
1*と推定されたモータ回転速度ω
cとの差分からq軸電流指令値I
q*を演算する。
【0029】
《トルク推定演算部》
トルク推定演算部103は、モータ23(
図2)の電気定数と再現電流値(I
dc,I
qc)に基づいてトルク推定値τ
cを演算する。
なお、トルク推定演算部103によるトルクの推定は、印加電圧指令値(V
d*,V
q*)と再現電流値(I
dc,I
qc)を基にした電力変換器出力電力とモータ回転速度推定値(推定されたモータ回転速度)ω
cからトルクを推定する方式や、トルクセンサを用いる方式など、一般的な方式を用いることで可能であり、トルクの検出方式を特定するものではない。
【0030】
《各種の比較器》
比較器122にトルク指令値τ
*とトルク推定値τ
cとが入力されて、その差分Δτをトルク入力切替部104に出力する。
【0031】
比較器123にq軸電流指令値I
q*とq軸再現電流値I
qcとが入力されて、その差分ΔI
qをq軸電流入力切替部105に出力する。
【0032】
比較器124にd軸電流指令値I
d*とd軸再現電流値I
dcとが入力されて、その差分ΔI
dをd軸電流入力切替部106に出力する。
なお、比較器124の入力における「0」は、d軸電流指令値I
d*が0であることを意味する。
【0033】
《各種の入力切替部》
トルク入力切替部104は、出力電圧制限検出部107の出力する出力電圧制限フラグV
1lim−flgに基づいて、トルク指令値τ
*とトルク推定値τ
cとの差分Δτ、あるいは0値を意味する「0」を、信号Δτ
1として位相誤差指令演算部111に出力する。
なお、出力電圧制限フラグV
1lim−flgについては、後記する。
【0034】
q軸電流入力切替部105は、出力電圧制限フラグV
1lim−flgに基づいて、q軸電流指令値I
q*とq軸再現電流値I
qcとの差分ΔI
q、あるいは「0」を、信号ΔI
q1として第2のq軸電流指令演算部112に出力する。
【0035】
d軸電流入力切替部106は、出力電圧制限フラグV
1lim−flgに基づいて、d軸電流指令値I
d*とd軸再現電流値I
dcとの差分ΔI
d、あるいは「0」を、信号ΔI
d1として第2のd軸電流指令演算部113に出力する。
【0036】
《位相誤差指令演算部》
位相誤差指令演算部111は、トルク入力切替部104の出力値Δτ
1から、位相誤差の指令値(位相誤差指令値)Δθ
c*を出力する。
【0037】
《第2のq軸電流指令演算部》
第2のq軸電流指令演算部112は、q軸電流入力切替部105の出力値ΔI
q1から第2のq軸電流指令値I
q**を出力する。
【0038】
《第2のd軸電流指令演算部》
第2のd軸電流指令演算部113は、d軸電流入力切替部106の出力値ΔI
d1から第2のd軸電流指令値I
d**を出力する。
【0039】
《電圧ベクトル演算部》
電圧ベクトル演算部100は、図示していないベクトル制御出力電圧演算部と出力電圧制限部とを備えている。そして、前記ベクトル制御出力電圧演算部において、第2のd軸電流指令値I
d**と第2のq軸電流指令値I
q**とに基づいて、ベクトル制御出力電圧V
1(
図4(b)、(c))を演算する。
また、前記出力電圧制限部において、ベクトル制御出力電圧V
1の振幅を電力変換器24(
図2)の供給可能な電圧(電力変換器供給可能電圧V
0、
図4(b)、(c))の振幅の範囲に制限して、ベクトル制御出力電圧V
1をベクトル制御出力電圧V
1lim(
図4(b)、(c))に変換する。
【0040】
次に、電圧ベクトル演算部100は、前記のベクトル制御出力電圧V
1limと位相誤差指令値(弱め界磁位相)Δθ
c*とに基づいて、ベクトル制御出力電圧V
1limの位相を変換して、弱め界磁出力電圧V
1lθを演算する。
さらにモータ23(
図2)の電気定数と、モータ回転速度ω
cとを参照して、印加電圧指令値(V
d*、V
q*)を演算して出力する。
【0041】
《出力電圧制限検出部》
出力電圧制限検出部107は、電圧ベクトル演算部100の出力する印加電圧指令値(V
d*,V
q*)から出力電圧振幅値V
1*を演算し、出力電圧振幅値V
1*が電力変換器24(
図2)の供給可能電圧(電力変換器供給可能電圧V
0)より小さい場合は、出力電圧制限フラグV
1lim−flgを「0」、出力電圧振幅値V
1*が電力変換器供給可能電圧V
0に到達した場合は、出力電圧制限フラグV
1lim−flgを「1」、に設定する。
【0042】
以上の構成により、ベクトル制御部10は、印加電圧指令値の出力電圧振幅値V
1*が電力変換器の供給可能電圧V
0より大きい出力電圧飽和状態の場合、出力電圧振幅値V
1*が一定の状態で、トルク指令値τ
*とトルク推定値τ
cの差分Δτより位相誤差指令値Δθ
c*を演算して、電力変換器の出力電圧位相(電圧位相)V
θを制御することで弱め界磁制御を行う。
この弱め界磁制御を行うことにより,出力電圧飽和状態で電圧位相を磁石磁束に対して180度以上で制御することが可能となる。
【0043】
<シミュレーションによるトルク限界時の駆動説明>
前記したベクトル制御部10によって、モータ回転速度指令値ω
1*を一定とした状態でモータ負荷を一定の割合で増加させた場合の特性を、
図3、
図4を参照して説明する。
図3は、本発明の第1実施形態に係るベクトル制御部10によって、モータ回転速度指令値ω
1*を一定とした状態で、モータ負荷を一定の割合で増加させた場合のデータの特性をシミュレーションで示す図であり、(a)は電圧位相[deg]、(b)はトルク[Nm]、(c)は回転速度[rpm]を示している。なお、
図3(a)、(b)、(c)の横軸は時間[s]であり、電圧位相やトルクが応答する概ね数秒程度の現象を図示している。
図4は、本発明の第1実施形態に係るベクトル制御部10によって、モータ出力限界トルクを向上させるための出力電圧のベクトル制御を説明する図であり、(a)は推定トルクと出力トルクの関係を示し、(b)は電圧位相が90度以下の場合の各電圧の電圧ベクトル図であり、(c)は電圧位相が90度を超す場合の各電圧の電圧ベクトル図である。
【0044】
《電圧位相が90度以下におけるモータ特性》
まず、電圧位相が90度以下のモータ特性について説明する。
モータの回転速度(モータ回転速度、回転数/分)を所定の値ω
1*に指令しながら(
図3(c)の実線)、モータトルクを一定の割合で増加させる(
図3(b))。なお、この回転速度を増加させる過程において、モータ回転速度推定値ω
cは、正確には、モータ回転速度指令値ω
1*と一致しないこともあるが、概ね追従していく。
このモータトルクを一定の割合で増加させる過程において、
図3(a)に示すように、電圧位相V
θが増加することで弱め界磁制御を行う。
なお、電圧位相V
θは、トルク指令値τ
*とトルク推定値τ
cの差分を基に演算した位相誤差指令値Δθ
c*により演算される印加電圧指令値(V
d*,V
q*)の電圧位相に相当する。
【0045】
なお、
図4(b)、(c)において、d
c軸(d軸)は、回転子の磁石の主磁束方向であり、q
c軸(q軸)は、前記d
c軸(d軸)と直角方向である。そして、前記の電圧位相90度とは、q
c軸(q軸)を基準としている。したがって、磁石の主磁束方向を基準にとれば、180度に相当する。
また、q
c軸およびd
c軸は、ベクトル制御部(ベクトル制御装置)10の中の概念であるために、モータにおけるq軸およびd軸とは区別する符号を用いているが、各要素のベクトル関係は概ね同一である。
また、弱め界磁出力電圧V
1lθの電圧位相V
θを「弱め界磁出力電圧位相」あるいは「電圧位相」と、適宜、簡略化して称す。
【0046】
また、このときの各電圧のベクトル図を示しているのが
図4(b)である。
図4(b)において、ベクトル制御出力電圧V
1は、前記したように、
図1の第2のd軸電流指令値I
d**と第2のq軸電流指令値I
q**とに基づいて演算されたものである。このベクトル制御出力電圧V
1に対して、電力変換器供給可能電圧V
0の振幅の範囲に制限して変換したものがベクトル制御出力電圧V
1limである。
さらに、位相誤差の指令値である弱め界磁位相Δθc
*とに基づいて、ベクトル制御出力電圧V
1limの位相(電圧位相V
θ)を変換して、弱め界磁出力電圧V
1lθを演算する。
なお、弱め界磁出力電圧V
1lθには、d
c軸方向である磁石の主磁束方向とは逆方向の電圧成分を含んでいるので、回転子による逆起電力を低減させる効果がある。
【0047】
《電圧位相が90度以上(超)におけるモータ特性》
さらにモータトルクが増加し、弱め界磁出力電圧V
1lθの電圧位相V
θがq
c軸から90度を超す場合、言い換えると磁石磁束から180度を超す場合(
図4(c))でも、出力電圧位相限界(電圧位相制限値V
θlim*、
図3(a))に達しない限りは、安定して制御できる。
したがって、弱め界磁出力電圧位相V
θと出力トルクの比例関係が続くので、
図4(a)に示すように、推定トルクと出力トルクの比例関係が続き、非線形とはならない。
そのため、
図3(b)に示すように、トルク指令値τ
*にトルク推定値τ
cが追随するとともに、定常的な差分が発生しない。
また、
図3(a)に示すように、弱め界磁出力電圧位相V
θは、電圧位相制限値V
θlim*に対して余裕も残している。
したがって、電圧位相V
θが90度以上(超)の領域でも弱め界磁制御を行う事ができ、
図3(c)に示すように、所定の時間後においては、モータ回転速度指令値ω
1*にモータ回転速度ω
cが追随し、概ね一致した状態となる。
【0048】
なお、
図4(c)に示すように、弱め界磁出力電圧V
1lθは、90度以上(超)、つまり磁石の磁束方向に対しては、180度以上(超)でも駆動可能であるため、出力電圧位相限界(電圧位相制限値V
θlim*)に到達せず、
図4(a)のように出力トルクがモータ出力限界トルクに到達するまでは、推定トルクと出力トルクが線形の関係を保つ。
なお、90以上(超)、つまり磁石の磁束方向に対しては、180度以上(超)の領域は、出力トルクτ
cとq軸電流(q軸再現電流値)I
qcとの関係においては、後記する
図7に示すように非線形となる可能性がある領域である。
【0049】
このように、本実施例のベクトル制御部10(
図2)の構成では、出力電圧飽和状態で弱め界磁出力電圧位相V
θが磁石の主磁束方向から180度以上(超)となる場合でも、弱め界磁制御を行うことが可能となる。言い換えるとモータが出力可能な限界トルクまで駆動することが可能となる。
【0050】
<本発明の顕現性>
前記したように、
図1で示した第1実施形態のベクトル制御部10の構成により、電力変換器24からは出力電圧飽和状態で,トルク指令値τ
*とトルク推定値τ
cの差分に基づき演算された位相誤差指令値Δθ
c*により弱め界磁制御された印加電圧指令値(V
d*,V
q*)相当の電圧が出力される。言い換えると、電力変換器24からは、出力電圧飽和状態で磁石磁束に対して180度以上の位相の電圧が出力される。
【0051】
<駆動時のトルクの向上例>
次に、実機による駆動時のトルクの向上例について、
図8を参照して説明する。なお、
図5〜
図7は比較例として後記する。
図8は、
図1に示した本発明の第1実施形態のベクトル制御装置10を用いた場合の弱め界磁制御のときと、後記する比較例1のベクトル制御装置10Aとにおける、モータ出力限界トルクを比較した一例を示す図である。
図8において、符号800で示したグラフの頂点の値は、後記する比較例1の出力限界トルクの値であり、比較基準として100%と表記している。また、符号801のグラフの頂点の値は、第1実施形態の出力限界トルクの百分率に換算した値を示すものであり、符号800の比較基準としての100%を上回った値を示している。
図8に示すように、第1実施形態の構成による弱め界磁制御を行うことで、モータ出力限界トルクを向上することが出来る。なお、
図8に示したグラフは一例であって、モータの構造や特性などの条件が変われば、さらに向上した結果が得られる可能性がある。
【0052】
<第1実施形態の効果>
図1に示す第1実施形態のベクトル制御部10を用いることで、出力電圧飽和状態で電圧位相を磁石の主磁束方向に対して180度以上で制御することが可能となる。言い換えると、本実施形態の構成を用いることで、モータ出力限界トルクまで弱め界磁制御を行う事が可能となる。つまり、電力変換器を変更することなく、低速・高効率設計された永久磁石モータを駆動するモータ制御装置21の高出力化を実現し、高効率化と高出力化の両立が可能となる。
【0053】
(比較例1)
次に、前記した特許文献1などに開示されているq軸電流指令値I
q*とq軸再現電流値I
qcの差分から電力変換器の出力電圧を制御する方式を比較例1として、
図5、
図6を参照して説明する。
【0054】
<比較例1の構成>
図5は、比較例1の方式におけるベクトル制御部10Aを示す図である。なお、ベクトル制御部10Aを備えたモータ制御装置21(
図2)は、
図2に示したモータ制御装置21の回路ブロック図と概ね同じ構成であって、
図2において、ベクトル制御部10をベクトル制御部10Aに置き換えたものである。
図5のベクトル制御部10Aが
図1のベクトル制御部10と異なるのは、
図1におけるトルク指令演算部101とトルク推定演算部103と比較器122がなく、
図5の比較器123からq軸電流指令値I
q*とq軸再現電流I
qcとの差分ΔI
qを、q軸電流入力切替部A505とq軸電流入力切替部B504とに出力していることである。
【0055】
また、q軸電流入力切替部B504は、出力電圧制限フラグV
1lim−flgに基づいて、q軸電流指令値I
q*とq軸再現電流値I
qcとの差分ΔI
q、あるいは「0」を位相誤差指令演算部511にΔI
q2として出力する。
また、位相誤差指令演算部511は、q軸電流入力切替部B504の出力値ΔI
q2から位相誤差指令値Δθ
c*を出力する。
なお、
図5において、q軸電流入力切替部A505は、
図1におけるq軸電流入力切替部105と概ね同一の機能である。
図5におけるその他の構成は、
図1の構成と概ね同じであり、同一の符号を付したものは同一の機能と動作をするので重複する説明は省略する。
【0056】
<比較例1の動作の説明>
図5に示した、ベクトル制御部10Aは、
図1のベクトル制御部10のようにトルクによる制御ではなく、q軸電流を主体とした制御で行われる。
すなわち、印加電圧指令値の電圧振幅値V
1*が電力変換器の供給可能電圧V
0より小さい場合、指令電流値(I
d*,I
q*)と再現電流値(I
dc,I
qc)の差分(ΔI
d,ΔI
q)から第2の電流指令値(I
d**、I
q**)を演算し、モータ回転速度推定値ω
cを用いて印加電圧指令値(V
d*、V
q*)を出力し、ベクトル制御を行う。
【0057】
また、印加電圧指令値の電圧振幅値V
1*が電力変換器の供給可能電圧V
0より大きい出力電圧飽和状態の場合には、電圧振幅値V
1*が一定の状態で、q軸電流指令値I
q*とq軸再現電流値I
qcとの差分ΔI
qより位相誤差指令値Δθ
c*を演算して電力変換器の電圧位相を制御することで弱め界磁制御を行う。
【0058】
次に、シミュレーションによるトルク限界時の駆動について
図6、
図7を参照して説明する。
図6は、比較例1の方式におけるベクトル制御部10Aにより、モータ回転速度指令値ω
1*を一定とした状態で、モータ負荷を一定の割合で増加させた場合の特性を示す図であり、(a)は電圧位相[deg]、(b)はq軸電流[A]、(c)は回転速度[rpm]を示している。なお、
図6(a)、(b)、(c)の横軸は時間[s]である。
図7は、比較例1の方式におけるベクトル制御部10Aにより、モータ出力限界トルクを向上させるための出力電圧のベクトル制御を説明する図であり、(a)はトルク電流と出力トルクの関係を示し、(b)は電圧位相が90度以下の場合の各電圧の電圧ベクトル図であり、(c)は電圧位相が90度を超す場合の各電圧の電圧ベクトル図である。
【0059】
モータ負荷を一定の割合で増加させる場合に、
図6(b)に示すように、q軸電流を一定の割合で増加させて対応している。つまり、
図5の回路において、q軸電流指令値I
q*とq軸再現電流値I
qcの差分を基に演算した位相誤差指令値Δθ
c*により、印加電圧指令値(V
d*,V
q*)の電圧位相V
θが増加することで弱め界磁制御を行っている(電圧位相が90度以下)。
このとき、
図6(a)に示すように電圧位相は、モータ負荷の上昇とともに、増加している。
また、
図6(c)に示すようにモータ回転速度(回転速度)ω
cは、モータ回転速度指令値ω
1*に概ね追従している。
なお、このときの各電圧(弱め界磁出力電圧V
1lθ、ベクトル制御出力電圧V
1)のベクトル図を示しているのが
図7(b)である。
【0060】
さらにモータ負荷が増加し、電圧位相V
θがq軸から90度以上、言い換えると磁石磁束から180度以上となると、
図6(b)に示すように、q軸再現電流値I
qcが減少に転じる。
この領域においては、増加するq軸電流指令値に対してq軸再現電流値が減少することで、定常的な差分(I
q*−I
qc)が発生する。
また、この領域においては、
図6(a)に示すように、電圧位相V
θは、電圧位相制限値V
θlim*まで増加してしまうので、さらなる弱め界磁ができなくなる。
このため、
図7(a)に示したように、出力トルクが電流型の安定限界を超して、出力電圧位相とq軸電流の関係が非線形となり、トルク電流と出力トルクとの関係が非線形の領域に入る。
【0061】
この非線形の領域においては、前記したように、q軸電流指令値I
q*とq軸再現電流値I
qcとの間に、定常的な差分が発生する(
図6(b))。
また、それとともに
図6(c)に示すように、モータ回転速度指令値ω
1*とモータ回転速度ω
cが乖離した状態となる。
このように、比較例1の構成であるベクトル制御部10Aの構成では、出力電圧飽和状態で電圧位相V
θが磁石磁束から180度以上となると、弱め界磁制御が困難となる。言い換えるとモータが出力可能な限界トルク(モータ出力限界トルク、
図7(a))まで駆動することが困難となる。
なお、このときの各電圧のベクトル図が
図7(c)である。
図7(c)において、電圧位相V
θを出力電圧位相限界に到達させる前に不安定な領域に入ってしまう。
【0062】
(比較例2)
次に、比較例2として、第1実施形態や比較例1で行っている弱め界磁方式などの対策を特に立てない場合の現象と問題点について説明する。
まず、比較例2におけるモータの回転速度と出力との間の一般的な特性について説明する。
【0063】
図11は、比較例2において、モータ出力トルクを所定値τ
1として、モータ制御装置でモータを駆動した場合の特性を示す図であり、(a)はモータの回転速度と電力変換器の出力電圧および出力電流の関係を示し、(b)はモータの回転速度とモータ出力トルクの関係を示している。
【0064】
図11(a)において、横軸は回転速度N[rpm]であり、縦軸は出力電圧[V]と出力電流[A]である。
モータ(23、
図2)には、回転速度に比例した誘起電圧が発生するため、電力変換器は、この誘起電圧を上回る電圧を出力する必要がある。そのため電力変換器の出力電圧は、
図11(a)の出力電圧に示すように回転速度に比例して増加する。
しかし、
図11(a)に示すように、モータの回転速度が所定の値である回転速度N1を超えると、電力変換器(24、
図2)の必要とされる出力電圧が、電力変換器の供給可能電圧(電力変換器供給可能電圧)V
0を上回る領域に入る。
電力変換器は、限界である供給可能電圧V
0を超すと、出力電圧が上昇しなくなる。この供給可能電圧V
0に達した状態を電圧飽和領域と呼ぶ。
このような電圧飽和領域においては、それ以上、電力変換器の出力電圧の電圧振幅を大きくすることが出来ない。ただし、電力変換器の出力電流を増加させることはできるので、モータ出力トルクが所定値τ
1のもとに回転速度をさらに上げることはできる。
【0065】
また、
図11(b)において、横軸は回転速度N[rpm]であり、縦軸はモータ出力トルク[Nm]である。
図11(b)に示すように、モータ出力トルクが所定値τ
1のもとに回転速度N1を超して、回転速度N2まで回転速度を上昇させることができる。ただし、回転速度N2が限界で、それ以上、回転速度を上げるとモータ出力トルクが所定値τ
1より低下する。
そのため、回転速度N2以下の状態がモータ出力トルクの所定値τ
1を出力することが可能な領域であり、回転速度N2を超えた領域は、モータ出力トルクが低下するのでモータ出力トルク限界領域である。
【0066】
なお、
図11(a)、(b)において、比較例2のモータの回転速度と出力との間の一般的な特性としての注目点は、回転速度N1において、電圧飽和領域に入ることである。この電圧飽和領域に入るためモータの高出力の駆動、制御に限界が生ずる。
【0067】
<比較例1の補足:電圧飽和領域において駆動範囲を拡大する弱め界磁制御方式>
電圧飽和領域において駆動範囲を拡大する弱め界磁制御方式として、特許文献1では、「電力変換器の出力電圧値が制限された場合は、q軸の電流指令値とq軸の電流検出値との偏差により、制御の基準軸とモータの磁束軸との偏差である位相誤差の指令値を作成すること」ことで弱め界磁制御を行う技術が提案されているが、その問題点について、
図12、
図13を参照して、比較例1を補足して説明する。
なお、この方式では、定常的に電力変換器が出力可能な電圧(供給可能電圧)V
0(以下では電圧飽和状態と呼ぶ)で電力変換器の出力電圧を制御可能である。ここで、電圧飽和領域で駆動する永久磁石モータは、埋め込み磁石形モータのようにリラクタンストルク成分が発生する場合がある。
【0068】
図12は、比較例1において、出力電圧位相と出力トルクおよびq軸電流との関係を示す図である。なお、横軸は出力電圧位相[deg]であり、縦軸には出力トルク[Nm]、およびq軸電流[A]である。
図12に示すように、出力電圧位相がq軸から90度(deg)、つまり磁石磁束から180度を超えた位相でモータの出力トルクが最大となる。言い換えると、出力電圧位相が90度を超えた出力電圧限界位相(電圧位相制限値V
θlim*)でモータが最大出力限界トルクを出力する。
しかし、前記した
図7(a)に示したように、電力変換器の出力電圧位相とモータのq軸電流とが、出力電圧位相が90度を超えた範囲では線形の関係とはならず、非線形な関係となる。
したがって、前記特許文献1を含む比較例の方式では出力電圧位相が90度を超えた領域では制御が困難となる。そのため、制御可能な出力の領域における実質的な出力電圧限界位相は、
図12に示した「比較例の出力電圧限界位相」であって、概ね90度程度となる。
【0069】
図13は、比較例1において、モータの回転速度Nとモータ出力トルクとの関係を示す図である。なお、横軸は回転速度N[rpm]であり、縦軸にはモータ出力トルク[Nm]である。
図13において、前記のように特許文献1を含む比較例1の方式では、出力電圧位相が90度を超えた領域では制御が困難となる。そのため、モータがトルクτ
1を出力する場合には、前記特許文献1の方式では電力変換器の出力電圧を出力限界位相(電圧位相制限値V
θlim*)まで制御して、理想的な限界の回転速度N2まで駆動する事が出来ず、駆動可能な回転数が回転数N3まで低下してしまう。言い換えると、モータの出力可能な限界トルクまで駆動することが出来ない。
【0070】
<第1実施形態の補足>
以上の背景により、比較例1や比較例2の問題点を克服するために、本発明の第1実施形態の構成をとる。
すなわち、前記したように第1実施形態は、ベクトル制御部10(
図1)を用いることで、出力電圧飽和状態で電圧位相を磁石の主磁束方向に対して180度以上で制御することが可能となり、モータ出力限界トルクまで弱め界磁制御を行う事ができる。
つまり、電力変換器を変更することなく、低速・高効率設計された永久磁石モータを駆動するモータ制御装置21(
図1)の高出力化を実現し、高効率化と高出力化の両立が可能となる。
【0071】
(第2実施形態)
本発明の第1実施形態のベクトル制御装置10を搭載したモータ制御装置21を圧縮機駆動モータの制御に適用した空調機900を第2実施形態として、
図9、
図10を参照して説明する。
図9は、本発明の第2実施形態に係る空調機900の内部の構成を示すものである。
また、
図10は、本発明の第2実施形態に係る空調機900に搭載した圧縮機駆動モータの特性を示す図である。
【0072】
図9において、空調機900は、外気と熱交換を行う室外機901、室内と熱交換を行う室内機902、両者をつなぐ配管903を備えて構成される。
【0073】
室外機901は、冷媒を圧縮する圧縮機904と、圧縮機904を駆動する圧縮機駆動モータ905と、圧縮機駆動モータ905を制御するモータ制御装置906と、圧縮冷媒を用いて外気と熱交換する熱交換機907とを備えて構成される。
モータ制御装置906には、前記した本発明の第1実施形態のベクトル制御装置10(
図1)を搭載したモータ制御装置21(
図2)が適用される。
【0074】
また、室内機902は、室内と熱交換を行う熱交換機908と、室内に送風する送風機909とを備えて構成される。
【0075】
次に、圧縮機駆動モータ905の特性について
図10を参照して説明する。
図10は、圧縮機駆動モータ905の回転速度とモータ効率の関係を示す図である。なお、横軸は圧縮機の駆動モータの回転速度(圧縮機駆動モータ回転速度)[rpm]を表し、縦軸は圧縮機の駆動モータの効率(圧縮機駆動モータ効率)[%]を表している。
【0076】
空調機の性能を表す指標として、近年、実使用時に近い状態での評価を行うための指標である通年エネルギー消費効率(APF:Annual Performance Factor)が用いられている。
APF指標では低速回転・低負荷での効率が重視される。そのため、空調機圧縮機駆動モータの設計では、
図10の実線の特性線1001に示すモータ効率がピークとなる回転数N3を低い回転速度になるようにモータの低速度設計を行っている。
しかし、
図6および
図7で示した通り、比較例の弱め界磁制御方式では、モータが出力可能な限界トルクまで制御することが出来なかった。したがって、APF指標と圧縮機の最大出力の両立を図るために、さらなる低速度設計をすることが出来なかった。
【0077】
第2実施形態の空調機900では、第1実施形態のモータ制御装置21を空調機900に適用し、弱め界磁制御を行う。つまり、モータ制御装置906は、電力変換器24(
図2)の出力電圧飽和状態で電圧位相を磁石磁束に対して180度以上で制御することで,モータが出力可能な限界トルクを出力することが可能となる。
これによって、
図11の点線の特性線1002に示すように、圧縮機駆動モータの最大出力を低下させること無く、効率がピークとなる回転速度をさらに低い回転速度N4に、モータを低速設計する事が可能となる。
【0078】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態により、従来のモータ駆動装置と同じ電力変換器の構成で圧縮機駆動モータ905の最大出力を低下させること無く、モータ効率がピークとなる回転速度が低い低速度設計モータを適用することが可能となる。言い換えると、空調機の高出力化とAPF指標の向上の両立を図ることが可能となる。
【0079】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明はこれら実施形態およびその変形に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があってもよく、以下にその例をあげる。
【0080】
《各構成、機能の実現》
前記の本実施形態の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、プログラム変更可能なソフトウェアにより実現してもよい。また、ハードウェアとソフトウェアを混載してもよい。
例えばベクトル制御装置10は、独立した装置ではなくともよい。例えばCPU(Central Processing Unit)などにおいて、他の回路、機能とともにソフトウェアのプログラムに組み込まれていてもよい。
【0081】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0082】
《電圧ベクトル演算部》
また、
図1の第1実施形態における構成では,位相誤差指令演算部111からの位相誤差指令値Δθ
c*に基づいて電圧ベクトル演算部で印加電圧指令値(V
d*、V
q*)を演算しているが、
図2の位置センサレス制御部32の回転位相θ
dcへ位相誤差指令値Δθ
c*を加算する方式でも同様の駆動を行う事が可能である。
【0083】
《モータ回転速度推定値、トルク推定値》
第1実施形態において、モータ回転速度推定値ω
cは、位置センサレス制御部32による推定(演算)のみならず、前記したように、センサなどで検出した値、すなわちモータ回転速度検出値でもよい。
同様に、トルク推定値τ
cは、トルク推定演算部103における再現電流(I
dc,I
qc)を基にした推定(演算)のみならず、センサなどで検出した値、すなわちトルク検出値でもよい。
【0084】
《スイッチング素子、半導体素子》
また電力変換器24に備えた電力変換主回路41のスイッチング素子としてIGBTを用いた例を説明したが、他の半導体素子のスイッチング素子を用いてもよく、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)でもよい。
【0085】
《モータの型》
第1実施形態においては駆動するモータとして永久磁石同期モータを例にあげたが、巻線界磁型同期モータでもよく、また、永久磁石と巻線の両方で界磁磁束を確保する方式でもみよい。
また、モータの回転子が固定子の内部の空洞を回転するインナーロータ型のみならず、固定子の外側を回転するアウターロータ型にも本実施形態は適用できる。
【0086】
《モータを搭載した各種の機器》
第2実施形態においては、第1実施形態のベクトル制御装置10を搭載したモータ制御装置21を圧縮機駆動に適用した空調機900について説明したが、第1実施形態のベクトル制御装置10を搭載したモータ制御装置21で駆動するモータの応用例は、空調機に限定されるものではない。モータを搭載した各種の機器において、本発明の第1実施形態のベクトル制御装置、またはモータ制御装置を搭載すれば、モータ制御装置の高出力化と、高効率化と高出力化が両立するので、前記各種の機器としての性能向上や効率化に寄与する。