特許第6046507号(P6046507)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6046507-負圧ブースタ 図000002
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  • 特許6046507-負圧ブースタ 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046507
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】負圧ブースタ
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/567 20060101AFI20161206BHJP
   F16J 15/06 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B60T13/567
   F16J15/06 M
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-21222(P2013-21222)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-151696(P2014-151696A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】オートリブ日信ブレーキシステムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 貴博
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−163951(JP,A)
【文献】 特開平01−212659(JP,A)
【文献】 実開昭55−050843(JP,U)
【文献】 特許第4638054(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00−13/74
F16J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椀状の前部シェル半体(1a)と,この前部シェル半体(1a)の後端部にダイヤフラム(5)を挟んで前端部が対向する椀状の後部シェル半体(1b)と,これら前部及び後部シェル半体(1a,1b)を軸方向に貫通しながらそれらを相互に連結するタイロッド(6)とを備えてなり,そのタイロッド(6)には,後部シェル半体(1b)に気密に結合される気密結合部(33)と,前部シェル半体(1a)の後面を支承する締結受け部と,部シェル半体(1)及び,その前端面に重ねられるマスタシリンダ(M)の取り付けフランジ(Ma1)にそれぞれ設けられる透孔(34,36)を貫通する前部ボルト部(30)と設け,前記締結受け部と協働して前部シェル半体(1a)及び前記取り付けフランジ(Ma1)間を締結するナット(40)を前部ボルト部(30)に螺着した負圧ブースタにおいて,
前記締結受け部として前部フランジ(32)をタイロッド(6)に一体形成し,前記取り付けフランジ(Ma1)の前部シェル半体(1a)との対向面に,前記取り付けフランジ(Ma1)の透孔(36)の後縁部に形成されるテーパ面(37)とタイロッド(6)の外周面とで断面三角形状に画成されてタイロッド(6)を囲繞する環状のシール溝(38)を形成し,このシール溝(38)に前部シェル半体(1a)に密接するOリング(39)を装着して,このOリング(39)を前記テーパ面(37)により前記前部シェル半体(1a)の前部透孔(34)に向かって押圧し,前記前部フランジ(32)を,その外径(D1)が前記シール溝(38)の外径(D2)よりも大となるように形成したことを特徴とする負圧ブースタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,自動車のブレーキマスタシリンダの倍力作動のために用いられる負圧ブースタに関し,特に,椀状の前部シェル半体と,この前部シェル半体の後端部にダイヤフラムを挟んで前端部が対向する椀状の後部シェル半体と,これら前部及び後部シェル半体を軸方向に貫通しながらそれらを相互に連結するタイロッドとを備えてなり,そのタイロッドには,後部シェル半体に気密に結合される気密結合部と,前部シェル半体の後面を支承する締結受け部と,部シェル半体及び,その前面に重ねられるマスタシリンダの取り付けフランジにそれぞれ設けられる透孔を貫通するボルト部と設け,前記締結受け部と協働して前部シェル半体及び前記取り付けフランジ間を締結するナットを前記ボルト部に螺着した負圧ブースタの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる負圧ブースタは,特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4638054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の負圧ブースタでは,前部シェル半体の後面を支承する締結受け部を,タイロッドに螺着したナットで構成しているので,タイロッドにより前部及び後部シェル半体を連結してブースタシェルの気密性を確保するためには,そのナットの螺合位置を調整して,そのナットと,後部シェル半体に結合した気密結合部との間の距離を規定通りに設定する必要があり,したがって部品点数が多い上,組立作業が面倒である。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,前部シェル半体の後面を支承する締結受け部をタイロッドに一体形成して,従来のようなナットの螺合位置の調整を不要にして,タイロッドによる前部及び後部シェル半体の連結作業,並びにマスタシリンダの取り付け作業の容易化を図り,また締結受け部タイロッドに一体形成したとしても,締結受け部とマスタシリンダの取り付けフランジとの間の締結軸力を確保しながら,タイロッドが貫通する前部シェル半体の透孔を確実にシールし得るようにした前記負圧ブースタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,椀状の前部シェル半体と,この前部シェル半体の後端部にダイヤフラムを挟んで前端部が対向する椀状の後部シェル半体と,これら前部及び後部シェル半体を軸方向に貫通しながらそれらを相互に連結するタイロッドとを備えてなり,そのタイロッドには,後部シェル半体に気密に結合される気密結合部と,前部シェル半体の後面を支承する締結受け部と,部シェル半体及び,その前端面に重ねられるマスタシリンダの取り付けフランジにそれぞれ設けられる透孔を貫通する前部ボルト部と設け,前記締結受け部と協働して前部シェル半体及び前記取り付けフランジ間を締結するナットを前部ボルト部に螺着した負圧ブースタにおいて,前記締結受け部として前部フランジをタイロッドに一体形成し,前記取り付けフランジの前部シェル半体との対向面に,前記取り付けフランジの透孔の後縁部に形成されるテーパ面とタイロッドの外周面とで断面三角形状に画成されてタイロッドを囲繞する環状のシール溝を形成し,このシール溝に前部シェル半体に密接するOリングを装着して,このOリングを前記テーパ面により前記前部シェル半体の前部透孔に向かって押圧し,前記前部フランジを,その外径が前記シール溝の外径よりも大となるように形成したことを特徴とする。
【0007】
尚,前記気密結合部は,後述する本発明の実施形態中の後部フランジ33に対応する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の特徴によれば,締結受け部として前部フランジをタイロッドに一体形成したので,ブースタシェルの組立時,前部フランジ及び気密結合部間の距離調整を行う必要がなく,組立性が良好となり,延いてはタイロッドの前部ボルト部及びナットによるマスタシリンダの取り付けフランジの前部シェル半体への取り付けを容易に行うことができる。
【0009】
しかも,取り付けフランジの前部シェル半体との対向面に,前記取り付けフランジの透孔の後縁部に形成されるテーパ面とタイロッドの外周面とで断面三角形状に画成されてタイロッドを囲繞する環状のシール溝を形成し,このシール溝に前部シェル半体に密接するOリングを装着したので,前部シェル半体への取り付けフランジの取り付けと同時にシール部材にシール圧力を付与し,前部シェル半体の透孔を確実にシールすることができる。
【0010】
また,前記テーパ面は,Oリングを前部シェル半体の透孔に向かって押圧するので,前部シェル半体の透孔に対するシール効果を効果的に高めることができる。
【0011】
また更に,前部フランジを,その外径がシール溝の外径よりも大となるように形成したので,シール溝の存在に拘らず,前部フランジと取り付けフランジとの間で締結軸力が確実に伝達して,前部シェル半体を強固に挟持すると共に,シール溝内のOリングにシール圧力を確実に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る負圧ブースタの縦断面図。
図2図1の2部拡大図。
図3】本発明の参考形態を示す,図2との対応図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0014】
先ず,図1において,負圧ブースタBのブースタシェル1は,それぞれ椀状に形成されて対向端を相互に結合される前部シェル半体1a及び後部シェル半体1bより構成される。これら前部シェル半体1a及び後部シェル半体1bは鋼板製であり,これらは,鋼材製の一対のタイロッド6(図1には,そのうちの一本のみを示す。)を介して結合される。一対のタイロッド6は,ブースタシェル1の中心軸線を挟んで並ぶように配置され,これらタイロッド6を利用して,前部シェル半体1aの前面に,自動車のブレーキ用マスタシリンダMのシリンダボディMaの取り付けフランジMa1が締結され,またこれらタイロッド6を利用して,後部シェル半体1bが自動車の車体F前面に締結される。
【0015】
ブースタシェル1の内部は,両シェル半体1a,1b間に挟止されるダイヤフラム5により,前側の負圧室2と後側の作動室3とに区画され,このダイヤフラム5の前面には,ブースタシェル1内を前後往復動可能なブースタピストン4が重ねて配設される。ダイヤフラム5には,ブースタピストン4の中間部を気密に貫通して前記タイロッド6上を摺動し得る筒状のスライドシール8が一体に形成されている。両シェル半体1a,1bの相対向する端部は,ダイヤフラム5の外周ビード部を挟止した状態で相互にカシメ結合される。
【0016】
ブースタピストン4及びダイヤフラム5の中心部には,樹脂製の弁筒10が一体的に結合される。この弁筒10は,後部シェル半体1bの中心部に後方へ突設された軸受筒12に軸受ブッシュ9を介して摺動自在に支承される。
【0017】
負圧室2は,負圧導入管14及び逆止弁19を介して負圧源V(例えば内燃機関の吸気マニホールド内部)と接続される。
【0018】
弁筒10の後端部には,弁筒10内に大気を導入する大気導入口7が設けられる。また弁筒10内には,ブレーキペダルPに連結される入力杆20と,この入力杆20の前後動に応じて作動室3を負圧室2と大気導入口7とに連通切換えする制御弁11とが配設される。即ち,制御弁11は,入力杆20の後退時には,作動室3を,大気導入口7と遮断して負圧室2と連通し,入力杆20の前進時には,作動室3を,負圧室2と遮断して大気導入口7と連通し得る公知の構成を有する。入力杆20及び弁筒10間には,入力杆20を後退方向へ付勢する入力戻しばね13が縮設される。
【0019】
制御弁11は,弁筒10に摺動自在に嵌合されて入力杆20の前端部に連接される弁ピストン18を備えており,この弁ピストン18の前端には反力ピストン17が形成される。
【0020】
弁筒10には,前記軸受筒12の前端部に当接して弁筒10及び入力杆20の後退限を規定するキー部材23が取り付けられる。
【0021】
また弁筒10には,前方に突出する作動ピストン15と,この作動ピストン15の中心部を貫通する小径シリンダ孔16とが設けられ,この小径シリンダ孔16に前記反力ピストン17が摺動自在に嵌合される。作動ピストン15の外周にはカップ体21が摺動自在に嵌合され,このカップ体21には作動ピストン15及び反力ピストン17に対向する偏平な弾性ピストン22が充填される。
【0022】
カップ体21の前面には出力杆25が連設される。したがって,出力杆25は,カップ体21を介して弁筒10に摺動可能に支持されることになる。この出力杆25は,前記マスタシリンダMの,前部シェル半体1aの中心部を貫通するマスタピストンMbの後端部に連接される。
【0023】
以上において,作動ピストン15,反力ピストン17,弾性ピストン22及びカップ体21は,出力杆25の出力の一部を入力杆20にフィードバックする反力機構24を構成する。
【0024】
ブースタシェル1の前壁と弁筒10の前端面との間には,弁筒10を後退方向へ付勢するブースタ戻しばね27が縮設される。
【0025】
さて,タイロッド6による前部シェル半体1a,後部シェル半体1b及びマスタシリンダMの連結構造について,図1及び図2を参照しながら説明する。
【0026】
タイロッド6には,その前端に位置する前部ボルト部30と,後端に位置する後部ボルト部31と,前部ボルト部30の内端に隣接する前部フランジ32と,後部ボルト部31の内端に隣接する後部フランジ33とが一体形成される。その際,前部及び後部フランジ32,33間の距離L1は,互いに連結される前部及び後部シェル半体1a,1b間の端壁間の距離L2に対応するよう,予め設定される。
【0027】
一方,前部シェル半体1aには,前部ボルト部30が貫通する前部透孔34が,また後部シェル半体1bには後部ボルト部31が貫通する後部透孔35が穿設されており,後部シェル半体1bは,後部透孔35の周縁部で前記後部フランジ33と気密にかしめ結合される。
【0028】
また前部シェル半体1aの前面に重ねられる,マスタシリンダMの取り付けフランジMa1にも前部ボルト部30が貫通する透孔36が穿設される。この透孔36の後縁部には,テーパ面37が形成され,このテーパ面37とタイロッド6の外周面とで,タイロッド6を囲繞する環状で断面三角形状のシール溝38が画成され,このシール溝38にOリング39が装着される。そして,前記取り付けフランジMa1の前方に突出する前部ボルト部30には,ナット40が螺合緊締される。
【0029】
以上において,タイロッド6の前部フランジ32は,その外径D1がシール溝38の外径D2よりも大となるように形成される。
【0030】
前部シェル半体1aへのマスタシリンダMの取り付け後,後部シェル半体1bは,タイロッド6の後部ボルト部31と,それに螺合緊締されるナット41とで車体Fに締結され,こうして負圧ブースタBは車体Fに取り付けられる。
【0031】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0032】
タイロッド6には,前部シェル半体1aの後面を支承する前部フランジ32と,後部シェル半体1bに気密にかしめ結合される後部フランジ33とが一体形成されるので,前部及び後部シェル半体1a,1bよりなるブースタシェル1の組立時,前部及び後部フランジ32,33間の距離調整を行う必要がなく,組立性が良好となり,延いてはタイロッド6の前部ボルト部30及びナット40によるマスタシリンダMの取り付けフランジMa1の前部シェル半体1aへの取り付けを容易に行うことができる。
【0033】
しかも,前部シェル半体1aとマスタシリンダMの取り付けフランジMa1とは,前部フランジ32と,タイロッド6の前部ボルト部30に螺合したナット40との協働により締結され,同時に,シール溝38に装着されるOリング39は,取り付けフランジMa1のテーパ面37,前部シェル半体1aの前面及びタイロッド6の外周面の三面に押圧され密着して,前部シェル半体1aの前部透孔34を確実にシールし,負圧室2の負圧の前部透孔34からのリークを防ぐことができる。特に,前記テーパ面37は,Oリング39を前部シェル半体1aの前部透孔34に向かって押圧することになり,前部シェル半体1aの前部透孔34に対するシール効果を効果的に高めることができる。
【0034】
またタイロッド6の前部フランジ32は,その外径D1がシール溝38の外径D2よりも大となるように形成されるので,シール溝38の存在に拘らず,前部フランジ32とマスタシリンダMの取り付けフランジMa1との間で締結軸力が確実に伝達して,前部シェル半体1aを強固に挟持すると共に,シール溝38内のOリング39にシール圧力を確実に付与することができる。
【0035】
次に,図3に示す本発明の参考形態について説明する。
【0036】
この参考形態では,前記取り付けフランジMa1のシール溝38に代えて,タイロッド6の前部フランジ32の前端面に,タイロッド6を囲繞する環状のシール溝138が形成され,このシール溝138にOリング139が装着される。その他の構成は,実施形態と同様であるので,図3,実施形態と対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0037】
この参考形態によれば,Oリング139は,シール溝138の各内面には勿論,前部シェル半体1aの後面に密接して前部透孔34を確実にシールすることができ,その他,実施形態と同様の効果を達成することができる。
【0038】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,実施形態のシール溝38及びOリング39と参考形態のシール溝138及びOリング139とを併設することもできる。
【符号の説明】
【0039】
B・・・・負圧ブースタ
M・・・・マスタシリンダ
Ma1・・マスタシリンダの取り付けフランジ
1・・・・ブースタシェル
1a・・・前部シェル半体
1b・・・後部シェル半体
5・・・・ダイヤフラム
6・・・・タイロッド
30・・・前部ボルト部
32・・・締結受け部(前部フランジ)
34・・・前部シェル半体の透孔(前部透孔)
36・・・取り付けフランジの透孔
8・・・シール溝
9・・・シール部材(Oリング)
40・・・ナット

図1
図2
図3