(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の鋭意検討によれば、活物質層では、正極であるか負極であるかに関わりなく、充放電反応の進行の難易は、部位によって相違する。すなわち、活物質層中、集電体との接触界面近傍では電流(電子)が流れ易く、このため、充放電反応が集中して起こる。すなわち、接触界面近傍では、他の部位に比して多量のリチウムイオンが吸蔵又は放出される。
【0008】
活物質層は、リチウムイオンの吸蔵又は放出に伴って体積変化を起こす。従って、充放電が繰り返されると、活物質層と集電体との接触界面に応力が繰り返し作用することになる。このことに起因して、活物質層が集電体から脱落する懸念がある。
【0009】
特許文献1記載の技術では、上記したように負極活物質層の表面を絶縁層で被覆しているが、負極活物質層と集電体との接触界面近傍には絶縁層が設けられていない。このため、該接触界面近傍を絶縁層によって補強することはできない。
【0010】
また、特許文献1記載の技術では、負極活物質層の表面が絶縁層で覆われるため、細孔以外の箇所では負極活物質層に対する電子の授受が阻害される。このため、充放電反応が遅延して内部抵抗が上昇するという不具合がある。
【0011】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、活物質層が集電体から脱落する懸念を払拭し得、しかも、活物質層に対する電子の授受が阻害されることを回避し得るリチウムイオン電池用電極及びその製造方法と、それを具備するリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、集電体に形成されて活物質を含む活物質層を有するリチウムイオン電池用電極において、
前記集電体に、非リチウムイオン伝導体であるとともに電子伝導体からなる反応防止層が形成され、
前記活物質層の基端部の側壁が前記反応防止層に囲繞されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、集電体に形成されて活物質を含む活物質層を有するリチウムイオン電池用電極において、
前記活物質層の側壁中、少なくとも、前記集電体に接触した基端部近傍が、非リチウムイオン伝導体であるとともに電子伝導体からなる反応防止皮膜で被覆されていることを特徴とする。
【0014】
以上の本発明においては、活物質層の基端部(集電体と活物質層との接触界面近傍)が反応防止層又は反応防止皮膜で囲繞されている。この反応防止層又は反応防止皮膜が非リチウムイオン伝導体であるため、基端部では、集電体に近接しているにも関わらず、電極反応(リチウムイオンの吸蔵又は放出)が起こることが抑制される。このため、基端部で体積変化が起こり難くなるので、リチウムイオン電池に充放電を行う際、前記接触界面に応力が作用することが回避される。これにより、活物質層が集電体から脱落する懸念が払拭される。
【0015】
しかも、反応防止層又は反応防止皮膜が電子伝導体であるため、集電体から活物質層へ、又はその逆方向に電子が流れることが阻害されることがない。このため、電極反応が円滑に進行する。
【0016】
なお、本発明においていう「リチウムイオン電池用電極」は、正極又は負極のいずれであってもよい。すなわち、上記の構成は、正極又は負極のいずれにも採用することが可能である。
【0017】
反応防止皮膜を形成する場合、活物質層の側壁の全体を反応防止皮膜で被覆す
る。さらに、活物質層の露呈面の外縁部まで反応防止皮膜で被覆するようにしてもよい。
【0018】
反応防止皮膜は電子伝導体であるので、このような部位にまで反応防止皮膜を形成した場合、活物質層の厚み方向全体に電子が到達することが容易となる。このため、活物質層の厚み方向に沿って電極反応が活発に進行する。すなわち、反応活性が向上する。
【0019】
さらに、本発明に係るリチウムイオン電池は、上記した構成のリチウムイオン電池用電極を具備することを特徴とする。なお、上記のリチウムイオン電池用電極は、正極又は負極の少なくともいずれか一方であればよい。勿論、両電極に上記のリチウムイオン電池用電極を採用するようにしてもよい。
【0020】
また、本発明は、集電体に形成されて活物質を含む活物質層を有するリチウムイオン電池用電極の製造方法において、
前記集電体に、非リチウムイオン伝導体であるとともに電子伝導体からなる反応防止層を形成する工程と、
前記反応防止層上に前記活物質層を形成する工程と、
前記反応防止層を融点以上に加熱するとともに、前記活物質層を押圧して該活物質層の一部を前記反応防止層内に埋没する工程と、
前記反応防止層を固相とし、前記活物質層の基端部の側壁が前記反応防止層で囲繞されたリチウムイオン電池用電極を得る工程と、
を有することを特徴とする。
【0021】
このような過程を経ることにより、集電体に反応防止層が形成されるとともに、該反応防止層に活物質層の基端部が埋没した(換言すれば、活物質層の基端部の側壁が反応防止層で囲繞された)リチウムイオン電池用電極を得ることができる。
【0022】
また、本発明は、集電体に形成されて活物質を含む活物質層を有するリチウムイオン電池用電極の製造方法において
前記集電体上に前記活物質層を形成する工程と、
前記活物質層の側壁中、少なくとも、前記集電体に接触した基端部近傍に、非リチウムイオン伝導体であるとともに電子伝導体からなる反応防止皮膜を選択的に形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【0023】
この場合、活物質層の側壁中、少なくとも、集電体に接触した基端部近傍が反応防止皮膜で被覆されたリチウムイオン電池用電極を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、活物質層の基端部(集電体と活物質層との接触界面近傍)を、非リチウムイオン伝導体である反応防止層又は反応防止皮膜で囲繞するようにしている。従って、基端部では、電極反応が阻害されるために体積変化が起こり難くなり、その結果、前記接触界面に応力が作用することが回避される。これにより、活物質層が集電体から脱落する懸念が払拭される。
【0025】
しかも、反応防止層又は反応防止皮膜が電子伝導体であるため、集電体から活物質層への電子の流れ、又はその逆方向に向かう電子の流れが阻害されることがない。このため、電極反応が円滑に進行する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るリチウムイオン電池用電極及びその製造方法につき、それを具備するリチウムイオン電池との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1は、
参考例としての第1実施形態に係るリチウムイオン電池10の概略縦断面模式図である。このリチウムイオン電池10は、正極12及び負極14が電解液16とともに筐体18に収容されて構成されている。筐体18には、正極端子20及び負極端子22が設けられる。
【0029】
正極12は、正極集電体24の一端面に、正極側反応防止層26と正極活物質層28が形成されて構成されている。この中の正極集電体24は、例えば、Al、Cu、ステンレス、Ni、W、Au、Pt等の金属からなる。正極集電体24は平板形状体であってもよいし、メッシュであってもよい。又は、多孔質体であってもよい。
【0030】
正極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを放出・吸蔵可能な物質であれば特に限定されるものではなく、一般的なリチウムイオン電池で正極活物質として採用されているLiFePO
4、LiCoO
2、LiMn
2O
4、LiNiO
2、Li
2FePO
4F、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、Li
4Ti
5O
12等を選定すればよい。又は、FeF
3やS等であってもよい。
【0031】
正極活物質層28は、上記したような正極活物質が導電助剤及び結着剤と混合された合材40(
図2C参照)を正極集電体24に塗布することによって形成することができる。
【0032】
第1実施形態では、見掛け上、正極集電体24と正極活物質層28の間に前記正極側反応防止層26が介在する。この正極側反応防止層26は、リチウムイオン伝導性を示さない非リチウムオン伝導体である。同時に、該正極側反応防止層26は電子伝導性を示す。すなわち、正極側反応防止層26は、リチウムを授受することはできず、その一方で、電子を授受することが可能である。
【0033】
正極側反応防止層26をなす物質は、非リチウムイオン伝導体であり且つ電子伝導体であれば特に限定されるものではないが、その好適な例としては、Mg、Bi、Pb、Ba、Cd、Agの群の少なくとも1種、又はこれらの中の2種以上の金属元素を含む合金を挙げることができる。これらはいずれも、低融点金属である。
【0034】
正極側反応防止層26には、正極活物質の粒子が含まれる。換言すれば、正極活物質層28の基端部は、正極側反応防止層26中に埋没している。すなわち、正極活物質層28の基端部の側壁は、正極側反応防止層26に囲繞されている。
【0035】
一方、負極14は、負極集電体30の一端面に、負極側反応防止層32と負極活物質層34が形成されて構成されている。この中の負極集電体30、負極側反応防止層32は、前記正極集電体24、前記正極側反応防止層26と同様に構成されており、従って、詳細な説明は省略する。
【0036】
なお、負極側反応防止層32も負極活物質(後述)の粒子を含有している。すなわち、負極活物質層34の基端部も負極側反応防止層32に埋没しており、このため、負極活物質層34の基端部の側壁は、負極側反応防止層32に囲繞されている。
【0037】
負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを放出・吸蔵可能な物質であれば特に限定されるものではないが、一般的なリチウムイオン電池で負極活物質として採用されているLi
4Ti
5O
12、Li−Si合金、Li−Ge合金、Li−Al合金、Li−Sn合金等を選定すればよい。又は、グラファイト、Si、Ge、Al、Sn等であってもよい。
【0038】
負極活物質層34は、上記したような負極活物質が導電助剤及び結着剤と混合された合材を負極集電体30に塗布することによって形成することができる。
【0039】
詳細は図示していないが、正極集電体24、負極集電体30は、正極端子20、負極端子22の各々に対して電気的に接続されている。従って、正極端子20及び負極端子22に外部負荷を電気的に接続したときには放電によって該外部負荷を付勢することができ、電源を電気的に接続したときには、リチウムイオン電池10に対して充電を行うことができる。
【0040】
正極12と負極14は筐体18内で互いに十分に離間しており、このために短絡が生じることが回避される。勿論、正極12と負極14の間に、ガラス不織布や多孔質の樹脂フィルム等の絶縁体からなるセパレータを設けるようにしてもよい。
【0041】
正極12と負極14の間には、リチウムイオン伝導体である電解液16が充填されている。すなわち、正極12及び負極14は、電解液16に個別に接触している。リチウムイオンは、電界の向きに沿って電解液16中を移動することが可能である。
【0042】
この種の電解液16の好適な例としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ビニレンカーボネート等の適切な有機溶媒の群から選択された少なくとも1種以上からなる溶媒に、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等のリチウム塩を溶解させたものが挙げられる。
【0043】
筐体18において、正極端子20及び負極端子22以外の部位は絶縁体である。筐体18は、缶体等の高剛性のものであってもよいし、ラミネートフィルム等の可撓性を示すものであってもよい。
【0044】
第1実施形態に係るリチウムイオン電池10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき説明する。
【0045】
このリチウムイオン電池10によって外部負荷を電気的に付勢する場合には、正極端子20及び負極端子22に外部負荷を電気的に接続する。リチウムイオン電池10と外部負荷とで閉回路が形成されると、負極活物質から電解液16中にリチウムイオンが放出される。すなわち、負極14ではリチウムイオンの放出反応(酸化反応)が起こる。
【0046】
電解液16中に放出されたリチウムイオンは、電気的吸引力によって正極活物質層28に向かい、最終的に、正極活物質に吸蔵される。すなわち、正極12では、リチウムイオンの吸蔵反応(還元反応)が起こる。
【0047】
これとは逆に、リチウムイオン電池10に充電を行う場合、正極端子20及び負極端子22に電源を電気的に接続する。これにより、正極12では正極活物質から電解液16中にリチウムイオンが放出される放出反応(酸化反応)が起こり、一方、負極14では負極活物質にリチウムイオンが吸蔵される吸蔵反応(還元反応)が起こる。
【0048】
ここで、第1実施形態では、正極活物質層28の基端部の側壁を正極側反応防止層26で囲繞するとともに、負極活物質層34の基端部の側壁を負極側反応防止層32で囲繞している。これら正極側反応防止層26及び負極側反応防止層32は、上記したように非リチウムイオン伝導体からなる。従って、正極活物質層28及び負極活物質層34の各基端部からはリチウムイオンが放出されることが防止されるとともに、該基端部にリチウムイオンが吸蔵されることが防止される。
【0049】
従って、基端部が体積変化を起こすことが抑制される。このため、正極集電体24と正極活物質層28との接触界面、及び負極集電体30と負極活物質層34との接触界面に大きな応力が繰り返して作用することを回避することができるので、正極活物質層28又は負極活物質が正極集電体24又は負極集電体30から脱落する懸念が払拭される。
【0050】
しかも、正極側反応防止層26及び負極側反応防止層32が電子伝導体であるので、正極集電体24・負極集電体30から正極活物質層28・負極活物質層34の各々へ、又はその逆方向に電子(電流)が流れることが阻害されることがない。このため、正極側反応防止層26から露呈した正極活物質層28、及び負極側反応防止層32から露呈した負極活物質層34において、上記の酸化反応・還元反応が円滑に進行する。
【0051】
第1実施形態に係るリチウムイオン電池10は、以下のようにして作製することができる。
【0052】
先ず、
図2Aに示す正極集電体24を用意し、次に、この正極集電体24上に、
図2Bに示すように、正極側反応防止層26を形成する。この際には、例えば、蒸着を行えばよい。又は、メッキやスパッタ、含浸、スクリーン印刷、スラリーコート等を行うようにしてもよい。正極側反応防止層26の厚みは、1〜数μmで十分である。
【0053】
その一方で、上記したような正極活物質の粒子と、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン等の導電助剤と、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、スチレン−ブタジエンゴム等の結着剤を溶媒に添加して合材40(
図2C参照)を調製する。溶媒の好適な例としては、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、水等が挙げられる。
【0054】
このような合材40を、
図2Cに示すように、正極側反応防止層26上に塗布する。この状態で合材40を乾燥させ、半製品42とする。
【0055】
次に、乾燥した合材40(正極活物質層28)をプレス機等で押圧する。この際、正極側反応防止層26の融点以上となるように半製品42を加熱する。すなわち、この場合、正極側反応防止層26が軟化した状態で正極活物質層28が押圧される。従って、正極活物質層28の下端部が正極側反応防止層26に埋没する。埋没した下端部は、正極側反応防止層26に囲繞される。
【0056】
その後、正極側反応防止層26を冷却固化させて固相とする。これにより基端部が正極側反応防止層26に埋没した正極活物質層28が形成され、正極12が得られるに至る。
【0057】
一方の負極14は、正極活物質に代替して負極活物質を用いることを除いては上記に準拠した作業を行うことにより作製することができる。このため、負極14を得る過程の詳細な説明は省略する。
【0058】
このようにして得た正極12及び負極14を、互いが接触しないように筐体18内に位置決め固定し、その後、筐体18内に電解液16を注入することによってリチウムイオン電池10が得られる。
【0059】
次に、第2実施形態に係るリチウムイオン電池50につき説明する。なお、
図1及び
図2A〜
図2Dに示される構成要素と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0060】
図3は、第2実施形態に係るリチウムイオン電池50の概略縦断面模式図である。このリチウムイオン電池50における正極52は、正極集電体24に形成された正極活物質層28と、正極側反応防止皮膜54とを有し、負極56は、負極集電体30に形成された負極活物質層34と、負極側反応防止皮膜58とを有する。
【0061】
正極側反応防止皮膜54は、正極活物質層28の側壁全体、及び露呈端面(上端面)の外縁部を被覆している。このため、正極活物質層28において、正極集電体24と正極活物質層28の接触界面近傍、すなわち、基端部の側壁は、正極側反応防止皮膜54で囲繞されている。
【0062】
負極活物質層34も同様に、その側壁全体、及び露呈端面(下端面)の外縁部が負極側反応防止皮膜58によって被覆されている。従って、負極集電体30との接触界面近傍である基端部の側壁は、負極側反応防止皮膜58で囲繞されている。
【0063】
これら正極側反応防止皮膜54及び負極側反応防止皮膜58は、正極側反応防止層26及び負極側反応防止層32と同様に、非リチウムイオン伝導体であり且つ電子伝導体である物質からなる。その好適な例としては、上記したMg、Bi、Pb、Ba、Cd、Agの群の少なくとも1種、又はこれらの中の2種以上の金属元素を含む合金が挙げられる。なお、この場合、Au、Cr、Cu、Fe、Mg、Ni、Pd、Pt、Rh、Ti、W等の高融点金属であってもよい。
【0064】
勿論、正極52と負極56の間には、電解液16が介在する。
【0065】
以上のように構成されるリチウムイオン電池50に対しても、第1実施形態に係るリチウムイオン電池10と同様に充放電が行われる。この際、正極活物質ではリチウムイオンの放出・吸蔵反応が生起され、一方、負極活物質ではリチウムイオンの吸蔵・放出反応が生起される。
【0066】
第2実施形態では、正極活物質層28の基端部(正極集電体24との接触界面近傍)の側壁が正極側反応防止皮膜54で囲繞されるとともに、負極活物質層34(負極集電体30との接触界面近傍)の基端部の側壁が負極側反応防止皮膜58で囲繞されている。これら正極側反応防止皮膜54及び負極側反応防止皮膜58は、上記したように非リチウムイオン伝導体からなる。従って、正極活物質層28及び負極活物質層34の各基端部からはリチウムイオンが放出されることが防止されるとともに、該基端部にリチウムイオンが吸蔵されることが防止される。
【0067】
従って、基端部が体積変化を起こすことが抑制される。このため、正極集電体24と正極活物質層28との接触界面、及び負極集電体30と負極活物質層34との接触界面に大きな応力が繰り返して作用することを回避することができる。
【0068】
以上については、正極活物質層28及び負極活物質層34の外縁部全体において同様である。上記したように、正極活物質層28の側壁全体と露呈端面の外縁部が正極側反応防止皮膜54で被覆されるとともに、負極活物質層34の側壁全体と露呈端面の外縁部が負極側反応防止皮膜58で被覆されているからである。
【0069】
しかも、正極側反応防止皮膜54及び負極側反応防止皮膜58が電子伝導体であるので、正極集電体24・負極集電体30から正極活物質層28・負極活物質層34の各々へ、又はその逆方向に電子(電流)が流れることが阻害されることがない。このため、正極側反応防止皮膜54から露呈した正極活物質層28の露呈端面、及び負極側反応防止皮膜58から露呈した負極活物質層34の露呈端面において、上記の酸化反応・還元反応が円滑に進行する。
【0070】
以上のように、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0071】
しかも、正極側反応防止皮膜54及び負極側反応防止皮膜58が電子伝導体であるので、電子は、正極側反応防止皮膜54及び負極側反応防止皮膜58に沿って移動することが容易である。このため、正極活物質層28、負極活物質層34の厚み方向全体にわたって電子の授受が活発化する。換言すれば、電極反応が活発に進行するので反応活性が向上する。
【0072】
第2実施形態に係るリチウムイオン電池50は、以下のようにして作製することができる。
【0073】
先ず、
図4Aに示す正極集電体24を用意する。その一方で、第1実施形態と同様にして合材40を調製する。次に、この合材40を、
図4Bに示すように、正極集電体24上に塗布する。この状態で合材40を乾燥させ、正極活物質層28とする。正極活物質層28は、スパッタ等の公知の成膜法によって成膜するようにしてもよい。
【0074】
次に、正極活物質層28の上端面の外縁部が露呈するように、該上端面にマスクを形成する。
【0075】
次に、例えば、スパッタを行うことにより、マスクが形成されていない部位に選択的に正極側反応防止皮膜54を形成する。正極側反応防止皮膜54の厚みは、0.5〜数μmで十分である。
【0076】
その後、
図4Cに示すようにマスクを除去することにより、正極52が得られるに至る。
【0077】
一方の負極56は、正極活物質に代替して負極活物質を用いることを除いては上記に準拠した作業を行うことにより作製することができる。このため、負極56を得る過程の詳細な説明は省略する。
【0078】
このようにして得た正極52及び負極56を、互いが接触しないように筐体18内に位置決め固定し、その後、筐体18内に電解液16を注入することによってリチウムイオン電池50が得られるに至る。
【0079】
本発明は、上記した実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0080】
例えば、第2実施形態では、正極活物質層28及び負極活物質層34の側壁と露呈端面の外縁部を被覆するようにしているが、正極側反応防止皮膜54、負極側反応防止皮膜58は、正極集電体24、負極集電体30との接触界面近傍(基端部)に形成すれば十分である。例えば、正極活物質層28及び負極活物質層34の一端面の全部を露呈させる場合、該一端面の全体をマスクで被覆すればよい。
【0081】
また、第1実施形態及び第2実施形態のいずれにおいても、反応防止層ないし反応防止皮膜は、正極12、52又は負極14、56のいずれか一方にのみ設けるようにしてもよい。すなわち、正極12、52又は負極14、56の残余の一方は、反応防止層ないし反応防止皮膜が形成されていないものであってもよい。
【0082】
さらに、リチウムイオン電池10、50は、放電のみが可能な一次電池であってもよい。
【実施例1】
【0083】
厚み35μmのアルミニウム箔を用意し、該アルミニウム箔の一端面にPb膜を蒸着した。該Pb膜の厚みは、1μmとした。
【0084】
その一方で、LiFePO
4とポリイミドを重量比で95:5の割合でN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、正極合材を調製した。この正極合材を、前記Pb膜上にバーコータにて塗工した後、80℃で1時間乾燥して半製品を得た。
【0085】
次に、前記半製品をプレス機にて押圧しながら真空下で300℃に加熱し、Pb膜を溶解させるとともに、溶解したPb膜に合材を押し込んだ。その後、常温で冷却してPb膜を固化させ、アルミニウム箔を正極集電体、LiFePO
4を正極活物質層とし、この正極活物質層の基端部が、Pbからなる正極側反応防止層に埋没した正極を得た。
【0086】
さらに、アルミニウム箔に代替して銅箔を用い、且つLiFePO
4に代替してグラファイトを用いた以外は上記と同様にして、銅箔を負極集電体、グラファイトを負極活物質層とし、この負極活物質層の基端部が、Pbからなる負極側反応防止層に埋没した負極を得た。
【0087】
次に、袋状となったラミネートフィルム内で、負極、セパレータとしてのガラス不織布、正極をこの順序で積層した。さらに、ラミネートフィルム内に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートが体積比で3:7で混合され、且つLiPF
6が1Mの濃度で溶解した電解液を注入した。
【0088】
その後、ラミネートフィルム内を真空引きしながら該ラミネートフィルムの開口をヒートシールすることで筐体を形成した。筐体からは正極集電体、負極集電体の各一部を露呈させ、電極端子とした。
【0089】
このようにして得たリチウムイオン電池に対して充放電を繰り返し行ったところ、十分なサイクル寿命を示した。
【実施例2】
【0090】
厚み35μmのアルミニウム箔を用意し、該アルミニウム箔の一端面に、厚み1μmのLiCoO
2をスパッタで成膜した。その後、アルゴン雰囲気下で700℃において30分間保持し、LiCoO
2を結晶化させた。
【0091】
このLiCoO
2をマスクで被覆した後にスパッタを行い、該LiCoO
2からなる層の側壁及び上端面の外縁部を、厚み0.5μmのCuで被覆した。
【0092】
以上により、アルミニウム箔を正極集電体、LiCoO
2を正極活物質層とし、この正極活物質層の外縁部が、Cuからなる正極側反応防止皮膜で被覆された正極を得た。
【0093】
その一方で、厚み35μmの銅箔を用意し、該銅箔の一端面に、厚み1μmのSiをスパッタで成膜した。
【0094】
このSiをマスクで被覆した後にスパッタを行い、該Siからなる層の側壁及び上端面の外縁部を、厚み0.5μmのCuで被覆した。
【0095】
以上により、銅箔を負極集電体、Siを負極活物質層とし、この負極活物質層の外縁部が、Cuからなる負極側反応防止皮膜で被覆された負極を得た。
【0096】
次に、袋状となったラミネートフィルム内で、負極、セパレータとしてのガラス不織布、正極をこの順序で積層した。さらに、ラミネートフィルム内に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートが体積比で3:7で混合され、且つLiPF
6が1Mの濃度で溶解した電解液を注入した。
【0097】
その後、ラミネートフィルム内を真空引きしながら該ラミネートフィルムの開口をヒートシールすることで筐体を形成した。筐体からは正極集電体、負極集電体の各一部を露呈させ、電極端子とした。
【0098】
このようにして得たリチウムイオン電池に対して充放電を繰り返し行ったところ、十分なサイクル寿命を示した。