特許第6046555号(P6046555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6046555焼鈍処理における急冷方法及び焼鈍炉における急冷設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046555
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】焼鈍処理における急冷方法及び焼鈍炉における急冷設備
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/00 20060101AFI20161206BHJP
   F27D 9/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C21D1/00 119
   F27D9/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-100325(P2013-100325)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2014-218721(P2014-218721A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2015年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】391024205
【氏名又は名称】オリエンタルエンヂニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】大竹 保男
(72)【発明者】
【氏名】平田 丞
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−266615(JP,A)
【文献】 特開2005−163155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00
F27D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍処理において加熱されたワークに予め設定した急冷時間内で、調温されたガスを吹き付けて予め設定した制御目標温度へ降温させる急冷方法であって、
ワークが配置される急冷室のガスを排出する排出ステップと、
急冷室から排出されたガスを、冷却する冷却側のガスと冷却しない非冷却側のガスとに分割する分割ステップと、
分割された冷却側のガスを冷却する冷却ステップと、
冷却された冷却側のガスと非冷却側のガスとを混合する混合ステップと、
混合されたガスを加熱して調温する加熱ステップと、
調温されたガスを急冷室に送り込んでワークに吹き付ける送風ステップとを有することを特徴とする焼鈍処理における急冷方法。
【請求項2】
前記加熱ステップによって調温されたガスの温度を測定する測定ステップと、
測定されたガスの温度と制御目標温度との差異を算出する算出ステップと、
測定されたガスの温度が制御目標温度より高い場合には算出された差異に基づいて、以下の処理Aと処理Bの少なくとも一方を行うとともに、測定されたガスの温度が制御目標温度より低い場合には算出された差異に基づいて、以下の処理Cと処理Dの少なくとも一方を行うフィードバックステップとを、さらに有し、前記各ステップを急冷時間の間繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の焼鈍処理における急冷方法。
処理A:混合される冷却側のガスの風量を増加させる風量増加処理
処理B:調温されるガスの加熱温度を下降させる加熱温度下降処理
処理C:混合される冷却側のガスの風量を減少させる風量減少処理
処理D:調温されるガスの加熱温度を上昇させる加熱温度上昇処理
【請求項3】
焼鈍炉の加熱設備において加熱されたワークに、調温されたガスを吹き付けて予め設定した制御目標温度へ降温させる急冷設備であって、
周囲が断熱材により囲まれた本体内にあってワークを配置する急冷室と、
前記本体内において急冷室へガスを送り込む送風口と、
前記本体内において急冷室からガスを排出させる排風口と、
前記本体内において排風口と送風口との間を結び排風口から取り込んだガスを送風口に循環させるとともに、その内部を通過するガスを加熱して調温する加熱装置を備えたメインダクトと、
前記本体内において内部を通過するガスを冷却する冷却装置を備えるとともに、メインダクトを排風口と加熱装置との間でバイパスさせて、排風口から取り込んだガスの一部を冷却側のガスとして取り込み、これを中途に配設された送風機によってメインダクトへ送り返すバイパスダクトとを有し、
前記メインダクトには、バイパスダクトから送り出された冷却側のガスとメインダクト内部のみを通過した非冷却側のガスとを混合する混合部が設けられることを特徴とする焼鈍炉における急冷設備。
【請求項4】
前記メインダクトには、前記加熱装置によって調温されたガスの温度を測定する温度センサがさらに備えられるとともに、
温度センサによって測定されたガスの温度と制御目標温度との差異を算出するとともに、測定されたガスの温度が制御目標温度より高い場合には算出した差異に基づいて、以下の信号Aと信号Bの少なくとも一方を前記送風機或いは前記加熱装置に出力し、測定されたガスの温度が制御目標温度より低い場合には算出した差異に基づいて、以下の信号Cと信号Dの少なくとも一方を前記送風機或いは前記加熱装置に出力する制御手段と、をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の焼鈍炉における急冷設備。
信号A:送風機へ出力され、バイパスダクトに取り込む冷却側のガスの風量を増加させる風量増加信号
信号B:加熱装置へ出力され、加熱装置による加熱温度を下降させる加熱温度下降信号
信号C:送風機へ出力され、バイパスダクトに取り込む冷却側のガスの風量を減少させる風量減少信号
信号D:加熱装置へ出力され、加熱装置による加熱温度を上昇させる加熱温度上昇信号
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の焼鈍処理における急冷方法及び焼鈍炉における急冷設備に関し、特に、焼鈍処理の中で、熱処理品に発生する冷却ムラを抑制するための有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼製又は特殊鋼製の熱処理品(以下「ワーク」という。)に施す焼き入れ処理や焼鈍処理を構成する複数の工程の中に、急冷と呼ばれる処理工程(以下「急冷工程」という。)がある。これは、高温下で加熱されたワークの温度を予め設定した比較的短い時間(以下単に「急冷時間」という。)内に、予め目標として設定された温度(以下「制御目標温度」という。)へ冷却して降温させる工程である。
【0003】
例えば焼鈍処理、特に恒温焼鈍処理では、鋼を粗パーライト組織に変態させ易くするために、ワークを600〜650℃程度(恒温変態曲線中のいわゆるパーライトノーズにかからない温度)の比較的高温の温度域で所定時間恒温保持(恒温工程)する場合がある。この恒温工程の前段階として、ワークをA1変態点温度(約730℃)以上に加熱する加熱工程を経て、鋼を一旦オーステナイト組織に変態させる。そして加熱されたワークを約5〜10分程度の急冷時間内に、制御目標温度として例えば650℃度へ冷却して降温させ(急冷工程)、鋼を後続の恒温工程で軟化させるための前段階の状態とする。尚、恒温工程の後、ワークは常温までゆっくり冷却する徐冷工程が施されて、恒温焼鈍処理が終了し、ワークは所望の硬さとされる。
【0004】
このとき冷却されるワークの温度の時間変化の速度は、図6中の冷却曲線Cのように急冷工程中(図中t1〜t2)制御目標温度に向かって一定であることが理想である。しかし実際には、比較的短い時間内に冷却動作と加熱動作を組み合わせて調温するため、急冷工程中に一時的な過冷却や過加熱が生じる。そのためワークの温度は、図中の冷却曲線C1のように冷却曲線Cの上下を変動することが多い。急冷工程では、こうしたワークの冷却温度の変動を可能な限り抑制して冷却曲線Cの状態に近づけるとともに、急冷時間内に確実に冷却が完了することが重要視される。
【0005】
特に、熱処理ではワークの大きさや形状によっては複数のワークを一つのトレイに配置して処理される。複数のワークを急冷する場合、ワークの形状や配置によってワーク毎に熱伝達率が異なるため、ワーク毎の冷却度合いが異なるいわゆる冷却ムラが発生することが知られている。そして一般に、冷却ムラが一旦発生するとその後どんなに処理を施してもワークの硬さにばらつきが生じるとともに、上記した冷却速度の変動が大きい程冷却ムラはより拡大する。
【0006】
そこで、こうした急冷技術を見てみると特許文献1に記載の技術がある。ここには焼鈍ではなく焼き入れのための加熱工程、急冷工程、恒温工程、徐冷工程の全ての工程をひとつの真空炉内で行われる技術が開示されている。具体的には、1000℃のワークが配置された真空炉と熱交換器側が2つのダクトで接続されて、これらの間を急冷用のガスが循環する構成とされる。熱交換器は加熱手段と冷却手段とを備えており、これらによって不活性ガスを制御目標温度である300℃に予め調温して蓄積する。そしてこのガスを真空炉内部へ所定の圧力で送り込むとともに、送り込まれたガスはワークを冷却した後、熱交換機側に還流され、再び調温されて真空炉へ送り返されて循環する。この循環ガスはワークの温度を1000℃から300℃まで数分で急冷させるとともに、その後続けて、炉内温度を300℃以下に過冷却することなく、ワークを300℃に恒温保持する。よって、この技術を使用すれば比較的高温に加熱されたワークであっても、制御目標温度に向かって一定速度で降温させることができると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−129127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、実際にこの急冷装置を用いた場合、急冷工程が始まった直後は当初蓄積されていた調温ガスを用いるため問題は生じないが、急冷工程が進むと、蓄積されていた調温ガスが減少するため、大量のガスを予め蓄積する必要がある。そのため急冷装置が大規模となってしまい費用が嵩んでしまう。またこうした事態を回避するため、還流されたガスを適宜循環して制御目標温度に熱交換させる点も示唆されているが、急冷工程中にワークの温度は大きく変動し、それに伴いワークによって加熱されたワーク近傍のガスの温度も大きく変動する。そのためこの急冷装置では、急冷工程が進むと、熱交換機が還流されたガスを循環して制御目標温度に熱交換する能力が追いつかず、急冷時間内に亘ってワーク近傍のガスを適切に調温できないという問題が生じていた。そしてこれらの点は、上記した比較的高温の温度域でワークを恒温保持する必要性が高い焼鈍処理において、特に問題となっていた。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、比較的高温の温度域でワークを恒温保持する必要性が高い焼鈍処理において、急冷工程中にワークの温度が変動し、これに伴いワーク近傍のガスの温度が変動しても、循環させるガスを急冷時間内に亘って適切に調温することができる急冷方法及び急冷設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の目的を達成するために、焼鈍処理における急冷方法を次のように構成したことを特徴とする。
本発明の第一の態様は、ワークの焼鈍処理において加熱されたワークに予め設定した急冷時間内で、調温されたガスを吹き付けて予め設定した制御目標温度へ降温させる急冷方法であって、ワークが配置される急冷室のガスを排出する排出ステップと、急冷室から排出されたガスを、冷却する冷却側のガスと冷却しない非冷却側のガスとに分割する分割ステップと、分割された冷却側のガスを冷却する冷却ステップと、冷却された冷却側のガスと非冷却側のガスとを混合する混合ステップと、混合されたガスを加熱して調温する加熱ステップと、調温されたガスを急冷室に送り込んでワークに吹き付ける送風ステップとを有することを特徴とする。
【0011】
よって、加熱されたワーク近傍のガス(温度T1とする)を冷却するガスと冷却しないガスの2つに一旦分割した後、再びこれらを混合し、この混合されたガス(温度T2とする)をさらに加熱して調温する(温度T3とする)。このときT1≧T3≧T2である。
この態様では、焼鈍処理において取り込んだガスをそのまま冷却せずにその一部をバイパスして取り出し、この取り出したガスのみを冷却した後再び、バイパスしなかったガスと混合して混合したガス全体を降温させるので、取り込んだガスを過冷却する状態を抑制する。仮に過冷却状態が生じても、その後さらに加熱して調温することで、冷却し過ぎた温度分を昇温させるための修正を行う。
【0012】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様の焼鈍処理における急冷方法において、前記加熱ステップによって調温されたガスの温度を測定する測定ステップと、測定されたガスの温度と制御目標温度との差異を算出する算出ステップと、測定されたガスの温度が制御目標温度より高い場合には算出された差異に基づいて、以下の処理Aと処理Bの少なくとも一方を行うとともに、測定されたガスの温度が制御目標温度より低い場合には算出された差異に基づいて、以下の処理Cと処理Dの少なくとも一方を行うフィードバックステップとをさらに有し、前記各ステップを急冷時間の間繰り返すこととしてもよい。
処理A:混合される冷却側のガスの風量を増加させる風量増加処理
処理B:調温されるガスの加熱温度を下降させる加熱温度下降処理
処理C:混合される冷却側のガスの風量を減少させる風量減少処理
処理D:調温されるガスの加熱温度を上昇させる加熱温度上昇処理
この態様では、加熱調温後のガスの温度を測定し、この温度と制御目標温度との差異を算出し、その差異を修正するように冷却側のガスの風量或いは加熱温度を調節するので、ワークに吹き付けるガスの温度をより細かく制御目標温度に近づける。
【0013】
また本発明の第三の態様は、焼鈍炉において加熱されたワークに予め設定した急冷時間、調温されたガスを吹き付けて予め設定した制御目標温度へ降温させる焼鈍炉における急冷設備であって、周囲が断熱材により囲まれた本体内にあってワークを配置する急冷室と、前記本体内において急冷室へガスを送り込む送風口と、前記本体内において急冷室からガスを排出させる排風口と、前記本体内において排風口と送風口との間を結び排風口から取り込んだガスを送風口に循環させるとともに、前記本体内において内部を通過するガスを加熱して調温する加熱装置を備えたメインダクトと、その内部を通過するガスを冷却する冷却装置を備えるとともに、メインダクトを排風口と加熱装置との間でバイパスさせて、排風口から取り込んだガスの一部を冷却側のガスとしてこれを取り込み、これを中途に配設された送風機によってメインダクトへ送り返すバイパスダクトとを有し、前記メインダクトには、バイパスダクトから送り出された冷却側のガスとメインダクト内部のみを通過した非冷却側のガスとを混合する混合部が設けられることを特徴とする。
【0014】
さらに本発明の第四の態様は、前記第三の態様の焼鈍炉における急冷設備において、前記メインダクトには、前記加熱装置によって調温されたガスの温度を測定する温度センサがさらに備えられるとともに、温度センサによって測定されたガスの温度と制御目標温度との差異を算出するとともに測定されたガスの温度が制御目標温度より高い場合には算出した差異に基づいて、以下の信号Aと信号Bの少なくとも一方を前記送風機或いは前記加熱装置に出力し、測定されたガスの温度が制御目標温度より低い場合には算出した差異に基づいて、以下の信号Cと信号Dの少なくとも一方を前記送風機或いは前記加熱装置に出力する制御手段と、をさらに有することを特徴とする。
信号A:送風機へ出力され、バイパスダクトに取り込む冷却側のガスの風量を増加させる風量増加信号
信号B:加熱装置へ出力され、加熱装置による加熱温度を下降させる加熱温度下降信号
信号C:送風機へ出力され、バイパスダクトに取り込む冷却側のガスの風量を減少させる風量減少信号
信号D:加熱装置へ出力され、加熱装置による加熱温度を上昇させる加熱温度上昇信号
【発明の効果】
【0015】
従って本発明の第一の態様の急冷方法によれば、比較的高温の温度域でワークを恒温保持する必要性が高い焼鈍処理において、急冷工程中のワークの温度変動に伴いワーク近傍のガスの温度が変動しても、循環させるガスを急冷時間内に亘って適切に調温することができる。本発明の第三の態様の急冷設備による効果も同様である。
本発明の第二の態様の急冷方法によれば、循環させるガスをより精密に調温することができる。本発明の第四の態様の急冷設備による効果も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態を一部破断した正面図である。
図2図1の平面図である。
図3】制御装置を説明する図である。
図4】急冷室を説明する正面図である。
図5】急冷室を説明する平面図である。
図6】冷却曲線を示す時間及び温度の線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る急冷設備は、加熱設備と恒温設備との間にあって、徐冷設備と共にワークの焼鈍処理を行う焼鈍炉を構成する。これら設備の間は、ローラコンベヤによって連結されている。ワークを支持する支持板を載置したトレイは、このローラコンベヤによって上流側の加熱設備から下流側の徐冷設備まで順次搬送され、各設備の中でワークに各々の工程が施されることによって焼鈍処理が施される。
焼鈍処理の中でワークは、まず加熱設備で加熱工程を経た後、本発明の実施形態に係る急冷設備に搬送され急冷が施される。以下、本発明の実施形態に係る急冷設備の構成を、図面を参照して説明する。尚、図中に示された急冷設備や他の装置等の形状や大きさ又は比率は、適宜簡略化及び誇張して示されている。
【0018】
(構成)
本発明の実施形態に係る急冷設備1は、その本体2内部に、図1に示すようにワークを冷却する空間である急冷室Sと、その急冷室Sのガスを取り込んで再び急冷室Sに送り出すファン20及び取り込まれたガスを加熱する加熱装置30を備えたメインダクト10を有する。メインダクト10内にはさらに、ガスの温度を測定する温度センサ40及びガスの流れを均一化させる分散板34a、34bが備えられる。
急冷設備1の本体2外部には、メインダクト10内のガスの一部を取り出して再びメインダクト10に送り出すブロワ50及びこの取り出されたガスを冷却する冷却装置48を備えたバイパスダクト42を有する。また温度センサ40から入力される温度情報に基づいて、加熱装置30の加熱温度及びブロワ50の回転数を調節する制御信号を出力する制御装置(図3参照)が、急冷設備1を含む焼鈍炉を操作する操作室内に配設される。
【0019】
(本体)
図1に示すように、急冷設備1の本体2の外表面は化粧板60によって覆われ、その化粧板60の内側には断熱材58が、本体2の天井部の一部及びトレイ64の出入口を除いて設けられる。トレイ64の入口は、図2に示すようにトレイ64の搬送方向(図1では正面視で紙面の手前から奥方向)における搬入側の扉52aの位置にあり、出口は同搬送方向における搬出側の扉52bの位置にある。これら2つの扉52a、52bの間に前記急冷室Sが設けられ、急冷設備1に搬入されたトレイ64がここに配置される。2つの扉52a、52bには、各々の扉を昇降自在に駆動するシリンダ54a、54bが接続され、2つの扉がともに最下位置まで下降すると、急冷設備1の本体は密閉される。急冷設備1はこの密閉状態と断熱材58により、急冷工程中に急冷室Sの温度が可能な限り本体外部の温度の影響を受けないように構成される。
【0020】
(急冷室、メインダクト)
メインダクト10は、図1に示すように急冷設備1本体の下部に配設された2つの架台62a、62bによって下方から支持される。またその上面は、急冷設備1本体の天井部の内側に固着されるとともに、その側面の一部は断熱材58の内側に固着される。メインダクト10は、急冷室Sのガスを排出させる排風口12と急冷室Sへガスを送り込む送風口14とを両端に備える。排風口12と送風口14とは、トレイ64の搬送方向と直交する方向(図1中の左右方向)に急冷室Sを挟んで、各々開口状態で急冷室Sに近接配置される。よってメインダクト10は、図示のように急冷室Sの左右両側及び上側を囲むように、下向きの略凹型の形状で配設される。その結果、排風口12と送風口14は互いの間がメインダクト10によって結ばれるとともに、互いの位置は同一直線状で相対する。尚、図1中の実線矢印がメインダクト10におけるガスの流れを示しており、このように流路を形成するのがメインダクト10である。また本明細書ではメインダクト10及びバイパスダクト42に関する方向を、排風口12側を上流側とするとともに送風口14側を下流側と定義して以下の説明の中で用いる。
【0021】
排風口12は、本実施形態ではガスの流れを整える水平板36aを上下方向に複数備えた整流箱35aによって構成される。メインダクト10は、図1に示すようにこの整流箱35aの下流側で直ちに略90度上方へ屈曲形成され、この形成された屈曲部の上方位置に、ファン20が配設される。ファン20はガスを下方から上方に送る軸流羽22を有し、軸流羽22は、本体の天井部の上部に配設された駆動装置によって回転する。メインダクト10内のファン20の位置が、図中ファン20の下方からメインダクト10内を上昇するガスと後述するバイパスダクト42から送り出されるガスとが混合される混合部を形成する。
【0022】
メインダクト10は、図示のようにファン20の配設位置で屈曲されて、ここから天井部に沿って下流側へ水平に延伸される。メインダクト10内にはファン20の下流側にある分散板34aのさらに下流側に、加熱装置30をなすラジアントチューブ32が天井部を貫通して垂下した状態で配設される。加熱装置30は、メインダクト10内を通過するガスを設定された加熱温度で加熱するものであり、ラジアントチューブ型以外で同様の動作が行われる加熱手段を用いて構成されてよい。加熱装置30の下流側には温度センサ40が配設されており、その温度測定部はメインダクト10内に配置される。よって温度センサ40は加熱装置30で加熱された後のガスの温度を測定する。
【0023】
メインダクト10は、図2中の一点鎖線で示すように、ファン20の配設位置から分散板34aに至る間の移行部において、拡径形成される。その移行部は搬送方向に沿って4つの区画に分けられ、これら4つの区画は、搬入側の区画から搬出側の区画に向かうにつれ大きくなるように形成される。このような移行部と分散板34aの構成により、メインダクト10内のガスは、ファン20から加熱装置30に均一に送り出される。
【0024】
メインダクト10は、図1に示すように加熱装置30の下流側で略90度下方へ屈曲された後、急冷室Sの高さ位置まで延伸される。続けて送風口14側へ略90度屈曲され、ガスの流れを整える垂直板38b(図5参照)を搬送方向に複数備えた整流箱37bに連通する。この整流箱37bは、その下流側で整流箱35aと同じ構成の整流箱35bに連通し、さらにこの整流箱35bは、その下流側で整流箱37bと同じ構成の整流箱37aに連通して、整流箱37aは急冷室Sに開口する。この整流箱37aが、本実施形態に係る送風口14を構成する。
【0025】
(バイパスダクト)
図1中の破線矢印がバイパスダクト42におけるガスの流れを示している。このバイパスダクト42は、メインダクト10内の排風口12とファン20との間に設けられた分岐部16で、冷却設備1の本体2の外側へ水平方向に分岐し、図1に示すように、断熱材58及び化粧板60を貫通して本体2の外側へ延伸される。この延伸部位の終端には、開閉ダンパ42a及びその開閉ダンパ42aを開閉自在に動作させるシリンダ46aが配設される。開閉ダンパ42aは、後述の冷却装置48が動作しないときは閉じ、冷却装置48が動作するときは開くように構成される。バイパスダクト42は、開閉ダンパ42aの位置から搬出側に屈曲して延伸される。この延伸された部位に、バイパスダクト42内を通過するガスと外気との間で熱交換を行う冷却装置48が配設される。バイパスダクト42は、冷却装置48の下流側で上方にU字状に屈曲形成されることで、冷却装置48の上方に折り重なるように延伸される(図2参照)。
【0026】
その後バイパスダクト42は上方に略90度屈曲形成され、この形成された屈曲部の上方位置に、図1に示すようにブロワ50が配設される。ブロワ50は、設定された回転数で回転して、メインダクト10からバイパスダクト42内にガスを吸い出すとともに、バイパスダクト42からメインダクト10へガスを送り出す。よってその回転数の増減に伴ってバイパスダクト42内を通過するガスの風量を増減させることができるので、冷却装置48で冷却されメインダクト10へ送り出されるガスの風量を調節することができる。
【0027】
バイパスダクト42は、ブロワ50の配設位置から本体2側に水平に延伸された後、その内部の上端に開閉ダンパ(不図示)を備えた鉛直状のダンパ部44に連通する。このダンパ部44は、シリンダ46bによって開閉自在に動作する。ダンパ部44の下端は天井部を貫通して急冷設備1の本体2内部に位置し、バイパスダクト42はこの位置から搬送方向へ略90度屈曲形成された後延伸され、メインダクト10に合流する合流部18に連通する。このようにバイパスダクト42の終端はメインダクト10に連通する。また図示のように、バイパスダクト10はメインダクト10に近い部分を除いて殆ど多くの部分が本体の外部に配設される。
【0028】
(制御装置)
制御装置は、図3に示すように温度センサ40、加熱装置30並びにブロワ50と接続され、温度センサ40からガスの温度の情報、加熱装置30から加熱温度の情報、ブロワ50から回転数の情報が入力される。制御装置は、予め設定された制御目標温度の情報を記憶する制御目標温度記憶部と、この制御目標温度と入力されたガスの温度との差異を算出する差異算出部とを備える。この差異の値が正であれば測定されたガスの温度は制御目標温度よりも低いこととなり、反対に負であれば測定されたガスの温度は制御目標温度よりも高いこととなる。差異算出部には、算出された差異に基づいて加熱装置30の加熱温度を設定する加熱温度調節信号並びにブロワ50の回転数を設定する回転数調節信号を生成する演算部が接続され、差異算出部は演算部へガスの温度情報及び算出した差異情報を出力する。
【0029】
演算部は、測定されたガスの温度が本実施形態に係る急冷設備の動作によって制御目標温度に近づくように、生成された加熱温度調節信号及び回転数調節信号を、加熱装置30及びブロワ50へ各々出力する。加熱温度調節信号には以下の2つの信号がある。
信号b:加熱温度を下降させる加熱温度下降信号
信号d:加熱温度を上昇させる加熱温度上昇信号
また回転数調節信号には以下の2つの信号がある。
信号a:バイパスダクトに取り出すガスの風量を増加させる風量増加信号
信号c:バイパスダクトに取り出すガスの風量を減少させる風量減少信号
尚、この制御装置が本発明の制御手段に相当するとともに、信号a、信号b、信号c、信号dが本発明の信号A、信号B、信号C、信号Dに各々相当する。
【0030】
(ワークの配置)
次に急冷室中のワークの配置について説明する。図4は複数のワークWを支持する支持板66を載置したトレイ64が急冷室Sに配置された状態を正面視で示し、図5は平面視で示す。ワークWは中空部を有する円筒形(軸付き歯車の母材となる鍛造物)である。図4中、5つのワークWが軸方向に中空部を揃えて上下方向に連ねられ、その中空部に、支持板66に備えられた支持棒68が挿入されて支持される。
図4及び図5では、このようにワークWを支持した支持棒68が、支持板66上において上下方向に5段で、搬送方向に4行で、幅方向に4列で配置される。これらの段数や列数は、ワークWの形状や数に応じて適宜変更されてよいし、支持棒68の有無も適宜選択されてよい。図5に示すように、軸方向及び搬送方向に夫々平行に配置されたワークW間にガスの通り道である通風路Rを設けて支持棒68を配置すると、ワークW近傍のガスの流れがスムーズとなるため冷却ムラを軽減することができる。また平面視で、ワークWを千鳥状に配置すると、ワークWの熱伝達率が向上するため急冷時間を短縮することができる。
【0031】
(その他)
本実施形態において、ワークを冷却するために送り出されるガスは窒素であるが、焼鈍処理において雰囲気ガスとして通常用いられる他のガスを用いてもよい。またブロワが本発明の送風機に相当し、熱交換器が冷却装置に相当するが、これらは各々同様の機能を有する他の手段とされてもよい。また制御装置が加熱装置とブロワへ信号を出力するように構成されるが、いずれか一方のみへ出力してもよい。またこれらとともに或いはこれらに替えて、ファンの回転数及び熱交換器の冷却温度の少なくとも一方が制御されるように構成されてもよい。
【0032】
(動作)
本発明の実施形態に係る急冷設備の動作を、図面を参照して説明する。前記したように図1図2中のメインダクト10及びバイパスダクト42の内部に描かれた実線矢印及び破線矢印は、本実施形態の動作に伴うガスの流れを示す。
まず、加熱工程を施されたワークを載置するトレイ66が急冷設備1に搬入される前に加熱装置30及びファン20を動かし、本体2内部のガスの温度を制御目標温度とする。
その後、本体2内部のガスの温度が制御目標温度になった後、ファン20の回転を一旦停止或いは低速とし、急冷設備1の入口が開口しても本体2内部のガスが外部へ漏れないようにする。なお本動作の説明では制御目標温度を600℃とする。
【0033】
次に、搬入側の扉52aを上昇させてトレイ66を急冷設備1の入口から搬入して急冷室Sに配置した後、搬入側の扉52aを下降させて急冷設備1を密閉する。このときのワークの温度は約1000℃であり、ワーク近傍のガスは徐々に加熱される。
急冷設備1を密閉後、ファン20の回転数を増加させる。また冷却装置48及びブロワ50の動作を開始するとともにこれに併せて開閉ダンパを開く。これによりメインダクト10及びバイパスダクト42にガスの循環を生じさせる。次に排風口12によってワーク近傍のガスを急冷室Sから排出する(排出ステップ)。この排出されたガスはメインダクト10の中に取り込まれ、ファン20の位置まで上昇する。このとき、取り込まれたガスの中の一部を分岐部16からバイパスし、バイパスダクト42の中に取り出す(分割ステップ)。
【0034】
その後、このバイパスダクト42に取り出されたガスを、熱交換機48によって熱交換することで冷却して降温させる(冷却ステップ)。このガスが本発明における冷却側のガスに相当する。また分割ステップの際、バイパスダクト42に取り出されずにメインダクト10内部のみを通過してファン20の位置まで上昇するガスもあるが、これが本発明における非冷却側のガスに相当する。
【0035】
次に冷却側のガスを、合流部18を経由してメインダクト10に再度送り込む。冷却側のガスと非冷却側のガスとをファン20の位置において混合する(混合ステップ)。このファン20の位置が本発明における混合部に相当する。
この混合されたガスを下流側へ送り、加熱装置30によって加熱して調温する(加熱ステップ)。その後、温度センサ40aによってその温度を測定する(測定ステップ)。測定ステップで測定された温度情報は制御装置の差異算出部に出力され、差異算出部によって制御目標温度記憶部から入力された600℃の温度と、測定されたガスの温度との差異を算出する(算出ステップ)。そして算出ステップで算出された差異情報を演算部へ出力する。
【0036】
この差異の値には負と零と正の3つの場合があり、負の場合は調温されたガスが制御目標温度よりも低く、零の場合は調温されたガスが制御目標温度と同じであり、正の場合は調温されたガスが制御目標温度よりも高いことを示す。零の場合は特段の制御を行わず、負と正の場合は演算部によって以下のI及びIIの処理を行う(フィードバックステップ)。
【0037】
I.差異が負の場合
演算部によって信号a及び信号bを生成し、これらをブロワ50及び加熱装置30へ出力し、ブロワ50及び加熱装置30によって下記の処理a及び処理bを行う。
(処理a)冷却側のガスの風量を増加させる風量増加処理
この処理により、バイパスダクト42内をバイパスされる単位時間内のガスの風量が増加するので、冷却側のガスの風量が増加する。よって冷却側のガスと非冷却側のガスとが混合されたガスの温度を、フィードバックステップを行う前の温度より降温させる。
(処理b)調温されるガスの加熱温度を下降させる加熱温度下降処理
この処理により、調温されたガスの温度を、フィードバックステップを行う前の温度より降温させる。
このように、冷却し過ぎたガスの温度を制御目標温度に近づくように修正する。
【0038】
II.差異が正の場合
演算部によって信号c及び信号dを生成し、これらをブロワ50及び加熱装置30へ出力し、ブロワ50及び加熱装置30によって下記の処理c及び処理dを行う。
(処理c)冷却側のガスの風量を減少させる風量増加処理
この処理により、バイパスダクト42内をバイパスされる単位時間内のガスの風量が減少するので、冷却側のガスの風量が減少する。よって冷却側のガスと非冷却側のガスとが混合されたガスの温度を、フィードバックステップを行う前の温度より昇温させる。
(処理b)調温されるガスの加熱温度を上昇させる加熱温度上昇処理
この処理により、調温されたガスの温度を、フィードバックステップを行う前の温度より昇温させる。
このように、加熱し過ぎたガスの温度を制御目標温度に近づくように修正する。
尚、処理a、処理b、処理c並びに処理dは、本発明における処理A、処理b、処理C並びに処理Dに各々相当する。
【0039】
その後、フィードバックステップによって修正して調温されたガスを送風口14から急冷室Sに送り出し、急冷室Sに配置されたワークに吹付けて冷却する(送風ステップ)。ワークに吹付けられたガスは急冷室Sを通過する間にワークの熱によって再び昇温する。昇温したガスは、本体2内部を循環するガスの流れに沿ってメインダクト10に取り込まれ、本実施形態の動作は上記した排出ステップに戻る。
【0040】
上記の一連のステップを急冷時間の間繰り返すことにより、本実施形態に係る急冷方法が構成される。この設定時間は、事前に急冷設備1を用いて様々な形状や数量のワークを急冷することで取得されたデータに基づき、実証的に決められる。尚、急冷工程が完了した後、搬出側の扉52bを上昇させてトレイ64を急冷設備1の出口から搬出し、トレイ64を後続の恒温工程が施される恒温設備へ搬送して、焼鈍処理を続行する。
【実施例】
【0041】
次に本発明の実施例を説明する。
本実施例に係る急冷室の寸法は、上下方向800mm、搬送方向800mm、幅方向1000mmとした。この急冷室の中にワークを、上下方向に3段、搬送方向に5行、幅方向に6列として、支持棒に支持させて配置した。これら90個のワークに対して、従来の急冷設備と発明の実施例に係る急冷設備を用いて、10分間の急冷工程を施す焼鈍処理を夫々行った。
その後、ワークのロックウェル硬さ(HRB)を測定し、測定データから標準偏差を算出してワークの硬さのばらつきを標準偏差で比較した。また併せて各々の急冷工程の工程能力指数(Cpk)を算出して比較した。このとき目標とするHRB硬さ規格の下限値を80とした。
(従来設備) 標準偏差:1.17 Cpk:1.02
(本実施例) 標準偏差:0.59 Cpk:2.87
よって本発明の実施例に係る急冷設備は、急冷工程における冷却ムラの発生を低減できた。
【0042】
(効果)
本発明の実施形態に係る急冷設備は、容量の上で主要部となるメインダクトが急冷設備の本体内部に配設され、本体外部に大きな配設用のスペースを必要としないので、熱処理設備全体のスペースを削減することができる。
また本発明の実施形態に係る急冷設備は、メインダクトが急冷室を跨ぐように配設され、循環するガスの移動距離が比較的短くなるので、メインダクトを介したガスの熱損失を抑制するとともに、メインダクトの設置費用を抑制することができる。
また本発明の実施形態に係る急冷設備は、バイパスダクト中の冷却装置を備えた部位が本体の外部に配設され、本体内部の比較的高温であるガスが冷却装置の冷媒に影響を与えることを回避するので、循環するガスを効率的に調温することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 急冷設備
2 本体
10 メインダクト
12 排風口
14 送風口
16 分岐部
18 合流部
30 加熱装置
40 温度センサ
42 バイパスダクト
48 熱交換機
50 ブロワ
W ワーク
S 急冷室
図1
図2
図3
図4
図5
図6