特許第6046559号(P6046559)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6046559-特定動作検出装置 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046559
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】特定動作検出装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/20 20060101AFI20161206BHJP
   H04N 7/18 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G06T7/20 300Z
   H04N7/18 D
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-111144(P2013-111144)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-229266(P2014-229266A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100908
【氏名又は名称】アイホン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】井上 円
(72)【発明者】
【氏名】梅崎 太造
【審査官】 佐田 宏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−097624(JP,A)
【文献】 特開2008−046903(JP,A)
【文献】 渡邉 章二、松島 宏典,“車載カメラを用いたGLACに基づく高精度歩行者認識”,映像情報メディア学会技術報告,日本,(一社)映像情報メディア学会,2013年 2月11日,Vol.37, No.8,pp.257-262
【文献】 川合 諒、外2名,“STHOG特徴を用いた複数カメラ間での人物照合”,情報処理学会研究報告 コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM),日本,一般社団法人情報処理学会,2011年 6月15日,No.177,pp.1-8
【文献】 小林 匠,“安全・安心のための動画像認識技術”,情報処理学会研究報告 コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM),日本,一般社団法人情報処理学会,2013年 4月15日,No.186,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00−7/60
H04N 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像映像を連続する画像フレームで出力する撮像手段と、
前記画像フレームに対して微小領域毎の輝度勾配を求める輝度勾配算出部と、
複数の時系列画像フレームに対して求めた前記輝度勾配の差分を抽出する輝度勾配差分算出部と、
前記輝度勾配差分から動き特徴を抽出するために、抽出した前記輝度勾配の差分情報から時間変化を抽出して勾配強度の自己相関特徴を算出する時系列特徴算出部と、
事前に特定物体の行動特徴を数値化したデータと前記時系列特徴算出手段の算出結果とを比較して類似度を判定する判定部と、
判定結果を出力する結果出力部とを有することを特徴とする特定動作検出装置。
【請求項2】
前記撮像手段が、ベッド上の人物を撮像するカメラであると共に、事前に特定物体の行動特徴を数値化したデータがベッド上で起床動作する人物のデータであり、前記判定部が、前記カメラの撮像映像から人物の起床動作を判定することを特徴とする請求項1記載の特定動作検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未知の映像データから特定の動きと形状情報を定量化し、事前情報として保持している特定の物体の特定の動作情報と比較して類似度を判定する特定動作検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
映像から人物の行動を推定するには、ある時刻に撮影された画像から人物の特徴を抽出し、その情報が時間の経過に伴いどのように変化していくかを観察し、その画像特徴の時系列変化と、予め蓄積した特定の動作に関する画像の特徴データとを比較し、その類似度を算出して行動が推定される。
近年、このような動作を識別する方法としてCHLAC(例えば、特許文献1参照)特徴が知られている。CHLAC特徴は単純な特徴記述であるだけでなく、シーン中へ侵入する物体の位置に関わらず同じ記述が可能であるし、複数の同時動作に対応する特徴量の和による表現が可能であるため、広く採用されている。
【0003】
一方で、老人ホームや高齢者施設では、被介護者等の施設居住者が転倒により骨折等の深刻な怪我をする事例が増えてきている。この場合、最も怪我をするのがトイレに行くためにベッドから起き上がって立ち上がる際に発生するとされている。このような怪我を防ぐ対策としてカメラを使用したものは、例えば非特許文献1に開示された技術がある。これは、カメラにより人物を撮像して、その頭部を追跡して3軸方向の加速度の変化から転倒を見分けるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−079272号公報
【特許文献2】特開2008−269063号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C. Rougier, J. Meunier, A. Saint-Arnaud, and J. Rousseau, “Monocular 3D head tracking to detect falls of elderly people,” In Proc. of 28th AC. Rougier, J. Meunier, A. Saint-Arnaud, and J. Rousseau, “Monocular 3D head tracking to detect falls of elderly people,” In Proc. of 28th Annual International Confer-ence of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society, pp. 6384-6387 , 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、CHLAC特徴は定常動作以外の行動に対して一定の反応を示すが、モデルフリーな特性を持つために行為自体を識別することが難しかった。また、CHLACを応用した手法として例えば特許文献2の技術があるが、特許文献2では多重分割した画像を用いて人物の動作を分解するため、CHLACの特徴である位置不変性が生かされなかったし、計算量が多く実装コストが高くなっていた。
また、非特許文献1の技術は、転倒を検出するアプローチであり、転倒そのものを防止できる技術ではなかった。
【0007】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、動きと形状の両者の特性を併せ持つ特徴量を少ない計算量で算出して特定の動作を検出できる特定動作検出装置、そして人がベッドから立ち上がる前の起き上がる動作を少ない計算量で算出して検出できる特定動作検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明に係る特定動作検出装置は、撮像映像を連続する画像フレームで出力する撮像手段と、画像フレームに対して微小領域毎の輝度勾配を求める輝度勾配算出部と、複数の時系列画像フレームに対して求めた輝度勾配の差分を抽出する輝度勾配差分算出部と、輝度勾配差分から動き特徴を抽出するために、抽出した輝度勾配の差分情報から時間変化を抽出して勾配強度の自己相関特徴を算出する時系列特徴算出部と、事前に特定物体の行動特徴を数値化したデータと時系列特徴算出手段の算出結果とを比較して類似度を判定する判定部と、判定結果を出力する結果出力部とを有することを特徴とする。
この構成によれば、画像フレーム間の輝度勾配差分を求めることで動く物体の輪郭を把握でき、輝度勾配差分から算出した自己相関から動き特徴を抽出して行動を判定できる。よって、動きと形状の両者の特性を併せ持つ特徴量を比較的少ない計算量で算出することができ、人物の特定の動作や特徴ある動作を安価な装置で判別することが可能となる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成において、撮像手段が、ベッド上の人物を撮像するカメラであると共に、事前に特定物体の行動特徴を数値化したデータがベッド上で起床動作する人物のデータであり、判定部が、カメラの撮像映像から人物の起床動作を判定することを特徴とする。
この構成によれば、カメラの撮像映像を基にベッド上に伏している患者等の人物が起き上がる動作を判別するため、安価な装置で判別できる。そして、監視対象の人物の動作が危険な状態に至る前に介護者等の関係者に通知でき、事故の防止に役立つ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、画像フレーム間の輝度勾配差分を求めることで動く物体の輪郭を把握でき、輝度勾配差分から算出した自己相関から動き特徴を抽出して行動を判定できる。よって、動きと形状の両者の特性を併せ持つ特徴量を比較的少ない計算量で算出することができ、人物の特定の動作や特徴ある動作を安価な装置で判別することが可能となる。
そして、事前に特定物体の行動特徴を数値化したデータをベッド上で起床動作する人物のデータとすることで、ベッド上での人物の起き上がり動作を安価な装置で判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る特定動作検出装置の一例を示すブロック図である。
図2】時系列情報算出部での特徴量抽出の概要を示す図である。
図3】画像から特定動作を判定する流れを示す説明図であり、(a)は判別するカメラ撮像画像の時系列画像フレーム、(b)は各画像フレームの輝度勾配ヒストグラム、(c)は輝度勾配の画像フレーム間差分を抽出した図、(d)は輝度勾配のフレーム間差分から自己相関特徴を算出したヒストグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に係る特定動作検出装置の一例を示すブロック図であり、1は監視対象を撮像するためのカメラ、2はカメラ1が撮像した映像データから輝度勾配データを算出する輝度勾配算出部、3は輝度勾配の画像フレーム間差分を抽出する輝度勾配差分算出部、4は自己相関を算出する時系列情報算出部、5はアダブーストによるカスケード型識別器を用いて動作を識別する判定部、6は結果出力部である。
尚、輝度勾配抽出部2、輝度勾配差分抽出部3、時系列情報算出部4、及び判定部5は、所定のプログラムをインストールしたCPU或いはDSPで一体に構成される。また、ここで検出する特定の動作は、具体的にはベッドに伏している患者等の人物が起き上がる動作の場合であり、監視対象人物の起き上がる動作を検出したら報知する構成について説明する。
【0013】
カメラ1は、ベッドの上方であって、ベッド上の人物の少なくとも頭部を良好に撮像できる位置に設置され、例えば0.03秒毎に画像フレーム(静止画)を生成して出力する。
【0014】
輝度勾配算出部2は、輝度勾配強度、勾配方向を算出する。具体的には、先ず入力される画像フレーム毎に予め定義したパッチサイズにダウンサンプリングし、各ピクセルの輝度から勾配強度mと勾配方向θを次式(数1、数2)により算出し、近隣画素でN次ヒストグラム(輝度勾配ヒストグラム)を生成する。
【0015】
【数1】
【0016】
【数2】
【0017】
dx(x,y)、dy(x,y)は輝度差であり、次式(数3)で算出される。
【0018】
【数3】
【0019】
尚、I(x,y)は、(x,y)座標上の輝度である。
【0020】
輝度勾配差分算出部3は、輝度勾配算出部2によって算出された輝度勾配データに対して、時系列で隣接する画像フレーム間の輝度勾配の差分を算出し、輝度勾配方向θをビン数Kに畳み込む。具体的に、S×Sピクセル領域における近似画素の角度情報をビン数Kとする勾配ヒストグラムに畳み込む。
畳み込んだ各ビンのスコアである輝度勾配ヒストグラムhk(x,y)は数4で表される。
【0021】
【数4】
【0022】
θ’(x,y)は、角度方向θ(x,y)をビン数Kに畳み込んだ値、δはクロネッカーのデルタであり、kがθ’(x、y)と等しければ1を、それ以外ならば0を返す。
最後に、数4で求めた隣接フレーム間の輝度勾配ヒストグラムhk(x、y)の差分を求める。時刻tにおける輝度勾配強度ヒストグラム差分hKsub(x,y)は数5により得られる。
【0023】
【数5】
【0024】
時系列情報算出部4では、輝度勾配差分特徴である輝度勾配の時間変化量から自己相関を算出する。輝度勾配の画像フレーム間差分情報に対して、隣接セルで構成した所定のマスクパターンを使用して勾配強度の自己相関を算出する。ここでは、座標位置、時刻、並びに輝度勾配方向の組合せによる4次元情報の自己相関を取得する。
図2は特徴抽出の概要を示し、画像フレームFLはXY平面上に配置(セル位置をXY平面で定義)され、時系列情報はt軸上で定義される。
尚、CLはセルを示し、画像フレームFLを複数に分割したピクセルの集合体(例えば5×5ピクセルで構成される)である。また輝度勾配方向は、ヒストグラムのセル毎のビン数により定義され、勾配強度はこれら座標位置、時刻、並びに輝度勾配方向から成る4次元ベクトルとなる。
【0025】
ここでマスクパターンについて説明する。N次元マスクパターンは、N×N×Nセルで定義されたマスクブロック内の3次元ベクトル(x,y,t)から得られる。例えば、マスクパターンの次元数を3とした場合、マスクブロック内には81(=9×1×9)のマスクパターンが定義される。この際、基点となる時刻のセル位置は1点に固定され、抽出される特徴の総数は、セル領域サイズに分割した画像に対してマスクブロックを1セルずつずらして走査したマスクブロック数となる。例えば、1画像にH×W個のセルが存在する場合、1画像あたり(W−N+1)×(H−N+1)個のマスクブロックが得られる。更に角度方向を組み合わせて、合計すると(W−N+1)×(H−N+1)×K個の特徴が得られる。
一方、セル位置(x,y)を位置ベクトルrとし、輝度勾配差分をf(r,k)とすると、時系列情報算出部4が算出するN次の自己相関特徴Xは数6によって得ることができる。
【0026】
【数6】
【0027】
anは変位ベクトル、kならびにknは勾配方向、Nは自己相関の次数、αは畳み込まれた角度情報の差分、G(・)はガウスカーネル、Cはマスクブロック数である。
このように、本発明の幾何学特徴は、マスクパターンを使用して勾配強度の自己相関を算出するが、事前に複雑なマスクパターンを定義する必要がないため、従来のCHLACより演算を簡略化でき実装が容易となる。
【0028】
判定部5は、人物と背景によってクラス分けされた学習サンプルと、算出した上記特徴量を用いて学習された強識別器によって構成され、周知のアダブーストによるカスケード型識別器を用いて統計特徴量を算出して類似度を判別する。
【0029】
結果出力部6は、警報等を報音する報音部、検出した映像を表示する表示部、外部に通報する通報部等を備え、判定部5が類似する評価を下したら報音通知し、カメラの撮像映像を表示する。
【0030】
次に、上述した特定動作検出装置の検知動作、具体的にベッドに伏している人が起き上がる起床動作を検出する動作を説明する。図3は、画像から人物の起床動作を検出する流れを示す説明図であり、図3を参照して説明する。図3(a)はカメラ1が出力する時系列画像フレーム、(b)はカメラ1が出力した各画像フレームから抽出された輝度勾配ヒストグラム(HOG)、(c)は抽出された輝度勾配ヒストグラムの画像フレーム間差分情報、(d)は輝度勾配ヒストグラムのフレーム間差分から自己相関特徴を算出した結果をそれぞれ示している。
【0031】
図3(b)に示すように、輝度勾配算出部2によりカメラ1が出力する例えば2秒単位で抽出した4フレームの画像の個々のピクセルの輝度から勾配強度mと勾配方向θとを算出し、輝度勾配ヒストグラムを生成する。
次に、輝度勾配差分算出部3が、輝度勾配算出部2が出力する輝度勾配データを基に、時系列で隣接する画像フレーム間の輝度勾配ヒストグラムの差分を算出する。この算出により、図3(c)に示すように変動した部位の輪郭が抽出される。
そして、時系列情報算出部4が、算出された輝度勾配差分特徴から自己相関を算出する。この結果、照明変動や移動方向の異なる他の物体の動作など無相関の変位を排除して着目物体の変位だけを抽出することができる。
こうして、フレーム間差分を算出して更に自己相関を求めて2段階の特徴抽出過程を経ることで、最終結果としての統計特徴量を得る。
【0032】
最後に、判定部5において連続3フレームの自己相関特徴から図3(d)のようにアダブーストを用いた統計特徴量を得て、起床動作であるか判定される。こうして起床動作と判定されたら、結果出力部6において警報の報音等通知動作が成され、モニタを備えている場合はカメラ1の撮像映像の表示が行われる。
【0033】
このように、輝度勾配のフレーム間差分を求めることで動く物体の輪郭を把握でき、フレーム間差分の時間変化を抽出して行動推定できる。よって、動きと形状の両者の特性を併せ持つ特徴量を比較的少ない計算量で算出することができ、人の特定の動作や、特徴ある動作を安価な装置で判別することが可能となる。
また、エッジの勾配強度と勾配方向から得られた自己相関特徴を基に物体の特定動作を検出するため、少ない計算量で特定動作を検出できる。
そして、ベッドの上方に配置したカメラ1の撮像映像を基に、ベッド上に伏している人が起き上がる動作を検知することが可能であり、安価な装置で起き上がりを判別できる。よって、監視対象の人物の動作が危険な状態に至る前に介護者等の関係者に通知でき、事故の防止に役立つし、監視対象者に対して音や光を発しないので、監視対象者に負担になるようなこともない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
上記実施形態は、ベッドに伏している人が起き上がる動作を検出する動作に関して説明したが、本発明の特定動作検出装置は、検出する動作を限定するものではない。判定部5において比較する学習サンプルの内容に応じて特定動作を幅広く変更でき、起き上がりの延長線上で考えれば、起床動作は反応せずにベッドから離れようとする動作を検出して通知するよう動作させても良い。
また、防犯設備に組み込み不審者を検出したい場合は、学習サンプルとして窓を覗き込む動作の学習サンプルを蓄積させることで、不審者の検出に利用できる。
更に、検出対象を人物に限定しなくとも良く、学習サンプルの内容を変更することにより幅広く動く物体を判別することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1・・カメラ(撮像手段)、2・・輝度勾配算出部、3・・輝度勾配差分算出部、4・・時系列情報算出部、5・・判定部、6・・結果出力部。
図1
図2
図3