(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046574
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20161212BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20161212BHJP
G01T 1/167 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
G21F9/12 501J
G21F9/06 521B
G21F9/06 531
G21F9/12 501F
G21F9/12 501B
G21F9/12 501D
G21F9/12 501C
G21F9/12 512D
G21F9/12 512B
G01T1/167 A
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-173407(P2013-173407)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-40826(P2015-40826A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 隆
(72)【発明者】
【氏名】北本 優介
(72)【発明者】
【氏名】武士 紀昭
【審査官】
村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−258006(JP,A)
【文献】
特開昭57−048971(JP,A)
【文献】
特開昭60−214299(JP,A)
【文献】
特開昭55−051480(JP,A)
【文献】
特開2009−220067(JP,A)
【文献】
特開2009−216577(JP,A)
【文献】
特開2002−031697(JP,A)
【文献】
特表2009−520185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00 − 9/36
G01T 1/167
G21C 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド状物質、前記コロイド状物質よりも粒径が大きい粒子状物質及び放射性物質を含む放射性廃液を、ろ過装置に供給して前記粒子状物質を前記ろ過装置で除去し、前記ろ過装置から排出された前記放射性廃液に含まれる前記コロイド状物質を静電フィルタで除去し、前記コロイド状物質が除去された前記放射性廃液が吸着装置に供給され、前記放射性廃液に含まれる放射性物質を前記吸着装置で除去することを特徴とする放射性廃液の処理方法。
【請求項2】
負に帯電している前記コロイド状物質の除去が正に帯電される前記静電フィルタを用いて行われる請求項1に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項3】
正に帯電している前記コロイド状物質の除去が負に帯電される前記静電フィルタを用いて行われる請求項1または2に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項4】
前記コロイド状物質が除去された前記放射性廃液の放射能濃度を測定し、測定された前記放射能濃度が、前記放射能濃度の測定下限値よりも大きいとき、前記コロイド状物質が除去された前記放射性廃液を前記吸着装置に供給し、測定された前記放射能濃度が、前記測定下限値以下であるとき、前記コロイド状物質が除去された前記放射性廃液を、前記吸着装置をバイパスさせる請求項1に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項5】
コロイド状物質、前記コロイド状物質よりも粒径が大きい粒子状物質及び放射性物質を含む放射性廃液から前記粒子状物質を除去するろ過装置と、前記ろ過装置に接続され、前記コロイド状物質を除去する静電フィルタを有するコロイド除去装置と、前記コロイド除去装置に接続され、前記放射性物質を吸着する吸着材を有する吸着装置とを備えたことを特徴とする放射性廃液処理装置。
【請求項6】
前記コロイド除去装置が、負に帯電している前記コロイド状物質を除去する正に帯電される第1静電フィルタを有する第1コロイド除去装置、及び正に帯電している前記コロイド状物質を除去する負に帯電される第2静電フィルタを有する第2コロイド除去装置を含んでいる請求項5に記載の放射性廃液処理装置。
【請求項7】
前記コロイド除去装置と前記吸着装置を接続する接続配管と、前記接続配管に設けられた第1開閉弁と、前記コロイド除去装置と前記第1開閉弁の間で前記接続配管に接続され、前記吸着装置をバイパスするバイパス配管と、前記バイパス配管に設けられた第2開閉弁と、前記第1開閉弁よりも上流で前記接続配管内を流れる前記放射性廃液の放射能濃度を測定する放射線検出器とを備えた請求項5に記載の放射性廃液処理装置。
【請求項8】
前記吸着装置において前記放射性物質を吸着する前記吸着材が、ゼオライト、フェロシアン化物、チタン酸化合物、イオン交換樹脂、キレート樹脂、活性炭及び添着活性炭のうちの少なくとも一つである請求項5に記載の放射性廃液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置に係り、特に、土壌などの粒子成分を含む放射性廃液に含まれる放射性核種を除去するのに好適な放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設、例えば、原子力プラントにおいて発生する放射性核種を含む放射性廃液の処理方法の一つに、無機系の吸着剤及びイオン交換樹脂等によりイオン状の放射性核種を吸着して除去する処理方法がある。
【0003】
放射性廃液から放射性核種を吸着除去する処理方法の一例が、例えば、Ikeda et al., Proceedings of GLOBAL 2011, Dec.11-16, 2011, Makuhari, Japan, USA, Paper No. 524705 (2011)に記載されている。この放射性核種の吸着除去処理方法では、吸着材を充填した容器内に放射性廃液を通水し、放射性廃液に含まれたイオン状の放射性核種を吸着材に吸着させて除去している。なお、吸着材を充填した容器内に放射性廃液を供給する前において、放射性廃液に含まれる粒状物質がろ過装置で除去される。
【0004】
また、例えば特開2013−57599号公報は放射性汚水の処理方法を記載している。放射性廃液が流入した容器内にフェロシアン化鉄を添加して放射性廃液に含まれている放射性セシウムをフェロシアン化鉄に吸着させ、その後、容器内の放射性廃液にゼオライト系吸着材を添加して放射性廃液に含まれる放射性ストロンチウムをゼオライト系吸着材に吸着させる。さらに、無機系凝集剤がその放射性廃液に添加される。無機系凝集剤の作用により、放射性セシウムを吸着したフェロシアン化鉄の粒子及び放射性ストロンチウムを吸着したゼオライト系吸着材の粒子を含む固形物粒子の集合体が形成され、この集合体が沈降分離される。
【0005】
さらに、特開2002−31697号公報に記載された放射性廃液の処理方法では、ろ過装置及びイオン交換装置が用いられる。ろ過装置として限外ろ過膜が用いられている。放射性廃液に含まれるコロイド成分が限外ろ過膜で除去され、その後、放射性廃液に含まれるイオン状の放射性核種がイオン交換装置で除去される。特開2013−108808号公報に記載された放射性廃液の処理方法でも、放射性廃液に含まれるコロイド成分がろ過装置(例えば、限外ろ過膜)で除去されている。放射性廃液のろ過装置への供給は、放射性廃液に水酸化ナトリウムを添加して放射性廃液のpHを所定の値に調節した後に行われる。ろ過装置でコロイドが除去された放射性廃液がチタン酸塩系吸着材を充填した吸着塔に供給される。チタン酸塩系吸着材はストロンチウムを吸着しやすいので、放射性廃液に含まれたストロンチウムが吸着塔内で除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−57599号公報
【特許文献2】特開2002−31697号公報
【特許文献3】特開2013−108808号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ikeda et al., Proceedings of GLOBAL 2011, Dec.11-16, 2011, Makuhari, Japan, USA, Paper No. 524705 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
放射性廃液から放射性核種を除去した処理水を原子力施設外に排出する場合には、処理水中の放射性核種の濃度を基準値以下にすることが求められている。基準値の例として、指定された仕様の放射線計測器による放射性核種の濃度の測定結果が、その放射線計測器の測定下限値以下であることが挙げられる。
【0009】
放射性核種を含む放射性廃液、特に原子力施設内で発生した汚染水には、土壌、砂成分、コンクリート片及び植物等の粒子状物質が含まれる場合がある。この放射性廃液は、多くの場合、一旦、タンク等に溜められ、放射性廃液に含まれる粒径の大きな物質がタンク内で沈降されて除去される。その後、粒径の大きな物質が除去された放射性廃液に含まれる放射性核種は、ろ過操作を経て吸着材によって除去されるか、凝集沈殿剤を放射性廃液に添加して沈殿させて除去する。
【0010】
発明者らは、放射性核種であるセシウム−137が付着した土壌試料を用い、セシウム−137の分布を調査した。始めに、土壌試料を水に懸濁させ、土壌試料を含む水をしばらく静置して沈降成分と上澄み水に分離した。その後、上澄み水を目開きの異なるろ紙でろ過し、上済水における、1マイクロメートル以上の粒子、1マイクロメートル以下の微粒子(コロイド)、及びイオン成分におけるセシウム−137のそれぞれの濃度を測定した。この結果、セシウム−137は、1μm以上の粒子を98.5%、1μm未満の微粒子及びコロイドに1%、溶液に0.5%に含まれていることが分かった。これより、放射性核種を、放射線計測器の測定下限値以下になるまで除去するためには、物理ろ過により除去できる粒子成分、及び吸着剤で化学吸着により除去されるイオン成分の他に、微粒子及びコロイドも除去する必要があることが分かった。
【0011】
Ikeda et al., Proceedings of GLOBAL 2011, Dec.11-16, 2011, Makuhari, Japan, USA, Paper No. 524705 (2011)に記載された方法における、ろ過装置による粒状物質の除去、及び吸着材によるイオン成分の吸着分離では、微粒子及びコロイド成分がろ過装置及び吸着材により除去できず、処理水の放射能濃度を測定下限値以下にすることは困難であった。
【0012】
一方、特開2013−57599号公報に記載された放射性汚水の処理方法では、放射性汚水に凝集沈殿剤を添加して沈殿を生成する際には、粒子、及びイオン成分を吸着した吸着材と共に、微粒子及びコロイドが放射性汚水に含まれている場合には微粒子及びコロイドも凝集して沈殿するため、処理水の放射能濃度を測定下限値以下にすることは可能である。しかし、凝集沈殿剤添加で発生する放射性物質を含む沈殿は量が多く、また水分を含む沈殿の貯蔵方法及び処分方法が難しいという課題がある。
【0013】
特開2002−31697号公報及び特開2013−108808号公報にそれぞれ記載された放射性核種の除去方法では、設置した限外ろ過装置により粒子成分、微粒子、コロイド成分を除去することができるが、限外ろ過膜は孔径が小さく、大量の粒子成分を除去する場合には、限外ろ過膜が閉塞する恐れがある。
【0014】
特開2002−31697号公
報に記載された放射性廃液の処理方法では、目詰まり防止装置を限外ろ過膜に設けている。目詰まり防止装置は、限外ろ過膜を振動させる振動機構、限外ろ過膜を回転させる回転機構等の限外ろ過膜に対して物理的な機構を有している。目詰まり防止装置から限外ろ過膜に物理的な衝撃を与えることにより、限外ろ過膜に堆積した粒子成分が限外ろ過膜から分離されてスラリーとして排出される。この含水量の多いスラリーを貯蔵して保管することは、放射性廃棄物の発生量及び性状安定性の観点で課題がある。特開2013−108808号公報に記載された放射性廃液の処理方法では、pH調整が必要であり、pH調整用の試薬、撹拌装置及びpH確認のための分析装置が必要となる。
【0015】
本発明の目的は、放射性廃棄物の発生量を低減しつつ、簡素な装置構成で放射性廃液から放射性物質を測定下限値以下まで除去できる放射性廃液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、コロイド状物質、コロイド状物質よりも粒径が大きい粒子状物質及び放射性物質を含む放射性廃液を、ろ過装置に供給して粒子状物質をろ過装置で除去し、ろ過装置から排出された放射性廃液に含まれるコロイド状物質を静電フィルタで除去し、コロイド状物質が除去された放射性廃液が吸着装置に供給され、放射性廃液に含まれる放射性物質を吸着装置で除去するこ
とにある。
【0017】
ろ過装置でコロイド状物質よりも粒径が大きい粒子状物質を除去し、静電フィルタでコロイド状物質を除去し、吸着装置で放射性物質を除去するので、簡素な装置構成で、放射性廃棄物の発生量を低減することができ、放射性物質を測定下限値以下まで除去することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、放射性廃棄物の発生量を低減しつつ、簡素な装置構成で放射性廃液から放射性物質を測定下限値以下まで除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置の構成図である。
【
図2】実施例1の放射性廃液の処理方法により発生する放射性廃棄物量を示す説明図である。
【
図3】本発明の他の好適な実施例である実施例2の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置の構成図である。
【
図4】本発明の他の好適な実施例である実施例3の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0021】
本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃液の処理方法を、
図1を用いて説明する。さらに、この放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置を、
図1を用いて説明する。
【0022】
本実施例に用いられる放射性廃液処理装置1は、ろ過装置2、コロイド除去装置3及び吸着装置5を有する。ろ過装置2は、放射性廃液に含まれる粒子成分を物理的にろ過する装置であり、ろ過材を充填したカートリッジフィルタ(またはプリーツフィルタ)を内部に設けている。ろ過装置2は、放射性廃液に含まれる約1μm以上の粒子を除去する。コロイド除去装置3は、ケーシング内に複数の静電フィルタ4を設置している。吸着装置5は複数の吸着塔6を有する。放射性廃液に含まれる放射性核種の種類に応じて選定した吸着材が、別々に各吸着塔6内に充填されている。放射性廃液供給管7がろ過装置2に接続される。ろ過装置2とコロイド除去装置3は接続配管8によって接続される。吸着装置5における複数の吸着塔6のうち最も上流に位置する吸着塔6が、接続配管9によってコロイド除去装置3に接続される。吸着装置5内のそれぞれの吸着塔6は、配管10によって順次接続されている。排出管11が、吸着装置5における複数の吸着塔6のうち最も下流に位置する吸着塔6に接続される。
【0023】
吸着装置5の各吸着塔6に充填する吸着材としては、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを選択的に吸着するために、例えば、天然ゼオライト、人工ゼオライト及びケイチタン酸を用い、放射性アンチモン等を選択的に吸着するために、例えば、含水酸化セリウム担持吸着剤を用い、放射性の重金属を選択的に吸着するために、例えば、オキシン添着活性炭を用いる。これらの吸着材が各吸着塔6に別々に充填されている。吸着装置5において用いられる放射性核種を吸着する吸着材として、ゼオライト、フェロシアン化物、チタン酸化合物、チタン酸塩化合物、イオン交換樹脂、キレート樹脂、活性炭及び添着活性炭のうちの少なくとも一つが用いられる。
【0024】
放射性廃液処理装置1を用いた本実施例の放射性廃液の処理方法を説明する。本実施例の放射性廃液の処理方法では、沸騰水型原子力プラントにおいて発生した放射性廃液が処理される。1μm以上の粒子、負に帯電しているコロイド及び2種類以上の放射性核種を含む放射性廃液が、放射性廃液供給管7に設けられたポンプ(図示せず)を駆動することによって放射性廃液供給管7を通してろ過装置2に供給される。放射性廃液に含まれた1μm以上の粒子がろ過装置2内のカートリッジフィルタによって除去される。ろ過装置2から排出された放射性廃液が、接続配管8を通してコロイド除去装置3に供給される。
【0025】
放射性廃液に含まれるコロイドが、コロイド除去装置3内の静電フィルタ4によって除去される。1μm未満の微粒子は、コロイドと呼ばれている。コロイドは表面が正または負に帯電している。コロイドの帯電が正か負かは、そのコロイドを形成する物質及び表面構造によって決まる。一般的に、土壌成分由来のコロイドは負に帯電していることが多い。本実施例では、コロイド除去装置3内の静電フィルタ4は通電されたときに正に帯電されるので、放射性廃液に含まれた負に帯電している土壌成分由来のコロイドが各静電フィルタ4の表面に付着されて除去される。コロイド除去装置3に供給される放射性廃液のpH調節は不要である。静電フィルタ4では、約1nm以上1μm未満の範囲の粒径を有するコロイド粒子が除去される。
【0026】
コロイド粒子が除去された放射性廃液が、接続配管9を通して吸着装置5の吸着塔6に供給される。吸着装置5に供給される放射性廃液は、粒子成分及びコロイドを含んでいない。放射性廃液に含まれる、例えば、放射性セシウム、放射性ストロンチウム及び放射性アンチモン等の放射性核種はイオンになっている。放射性廃液が複数の吸着塔6を通過するたびに、放射性廃液に含まれる放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素等の各放射性核種が各吸着塔6で別々に吸着材に吸着されて除去される。それぞれの吸着塔6には、放射性廃液に含まれるそれぞれの放射性核種の全量を十分に吸着できる量の該当する吸着材が充填されている。このため、吸着装置5から排出管11に排出された処理水に含まれる各放射性核種の濃度は、測定下限値以下になる。吸着装置5から排出された処理水は、排出管11を通して貯蔵タンク(図示せず)に供給されて保管される。排出管11に設けた放射線計測器(図示せず)で排出管11内を流れる処理水に含まれる各放射性核種の濃度を測定したところ、各放射性核種の濃度がそれぞれ測定下限値以下であった。
【0027】
吸着装置5の各吸着塔6に充填されたそれぞれの吸着材は処理水のpH調整なしで十分な吸着性能を有し、吸着装置5から排出された処理水のpHも中性(pH=6〜8)の範囲となるため、処理後のpH調整も不要である。
【0028】
本実施例の放射性廃液の処理方法による効果を検証するため、本実施例の放射性廃液の処理方法で発生する放射性廃棄物の発生量を評価した。本実施例の放射性廃液の処理方法で発生する放射性廃棄物の発生量を、
図2に示した。比較のため、公知例である凝集沈殿剤添加による放射性廃液の処理方法で発生する廃棄物発生量も評価し、
図2に示した。公知例では、ろ過工程、吸着材による吸着工程、及び凝集沈殿剤添加による凝集沈殿工程(スラッジを生成)でそれぞれ発生する放射性廃棄物の合計量が多くなる。これに対して、本実施例では、放射性廃棄物となる、ろ過装置2のろ材(カートリッジフィルタ等)、静電フィルタ4の廃フィルタ及び吸着装置5の廃吸着材の合計量は、凝集沈殿剤添加による公知の放射性廃棄物の処理方法で発生する放射性廃棄物量の合計量の1/3以下となり、放射性廃棄物の発生量が低減された。
【0029】
本実施例によれば、ろ過装置2、静電フィルタ4を用いたコロイド除去装置3及び吸着装置5を有する簡素な装置構成で、放射性廃棄物の発生量を低減することができ、放射性核種を測定下限値以下まで除去することができる。本実施例の放射性廃液の処理方法によって発生する放射性廃棄物は、ろ過装置2のろ材、静電フィルタの廃フィルタ、及び吸着装置5の廃吸着材であり、沈殿は発生せず、放射性廃棄物の発生量を低減することが可能である。
【0030】
放射性廃液がコロイドとして正に帯電しているコロイドを含んでいる場合には、コロイド除去装置3の替りに負に帯電される静電フィルタを有するコロイド除去装置を用いると良い。
【実施例2】
【0031】
本発明の他の好適な実施例である実施例2の放射性廃液の処理方法を、
図3を用いて説明する。さらに、この放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置を、
図3を用いて説明する。
【0032】
本実施例に用いられる放射性廃液処理装置1Aは、放射性廃液処理装置1においてコロイド除去装置3Aを追加した構成を有する。コロイド除去装置3Aは、ケーシング内に複数の静電フィルタ4Aを設置している。コロイド除去装置3Aは、接続配管8Aによってコロイド除去装置3に接続され、さらに、接続配管9によって吸着装置5において最も上流に位置する吸着塔6に接続される。コロイド除去装置3Aの各静電フィルタ4Aは、コロイド除去装置3の静電フィルタ4と異なり、通電により負に帯電される。放射性廃液処理装置1Aの他の構成は放射性廃液処理装置1と同じである。コロイド除去装置3の静電フィルタ4は正に帯電される。
【0033】
放射性廃液処理装置1Aを用いて実施される本実施例の放射性廃液の処理方法を、具体的に説明する。本実施例の放射性廃液の処理方法では、沸騰水型原子力プラントにおいて発生した放射性廃液が処理される。実施例1と異なる点を主に説明する。
【0034】
1μm以上の粒子、負に帯電しているコロイド、正に帯電しているコロイド及び2種類以上の放射性核種を含む放射性廃液が、及び2種類以上の放射性核種を含む放射性廃液が、放射性廃液供給管7を通してろ過装置2に供給され、さらに、接続配管8を通してコロイド除去装置3に供給される。1μm以上の粒子及び負に帯電しているコロイドが、ろ過装置2及びコロイド除去装置3で除去される。コロイド除去装置3から排出された放射性廃液は、接続配管8Aを通してコロイド除去装置3Aに供給される。コロイド除去装置3Aの各静電フィルタ4Aが負に帯電している。このため、放射性廃液に含まれた正に帯電したコロイドが、負に帯電した各静電フィルタ4Aに付着して放射性廃液から除去される。コロイド除去装置3Aから排出された放射性廃液は、吸着装置5の各吸着塔6に供給され、実施例1と同様に、放射性廃液に含まれる各放射性核種が除去される。
【0035】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、コロイド除去装置として、正に帯電する静電フィルタ4を設置したコロイド除去装置3及び負に帯電する静電フィルタ4Aを設置したコロイド除去装置3Aを用いているため、放射性廃液に含まれる負に帯電したコロイド及び正に帯電したコロイドを除去することができ、後段の吸着装置5の負荷を低減することができる。
【実施例3】
【0036】
本発明の他の好適な実施例である実施例3の放射性廃液の処理方法を、
図4を用いて説明する。さらに、この放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置を、
図4を用いて説明する。
【0037】
放射性廃液処理装置1Bは、放射性廃液処理装置1において放射線検出器12及びバイパス配管15を追加した構成を有する。開閉弁14が接続配管9に設けられ、放射線検出器12が開閉弁14よりも上流で接続配管9の側に配置される。開閉弁16が設けられたバイパス配管15の一端部が、コロイド除去装置3と開閉弁14の間で接続配管9に接続される。バイパス配管15の他端部が排出管11に接続される。放射性廃液処理装置1Bの他の構成は放射性廃液処理装置1と同じである。
【0038】
放射性廃液処理装置1Bを用いて実施される本実施例の放射性廃液の処理方法を、具体的に説明する。本実施例の放射性廃液の処理方法では、沸騰水型原子力プラントにおいて発生した放射性廃液が処理される。実施例1と異なる点を主に説明する。
【0039】
1μm以上の粒子、負に帯電しているコロイド及び2種類以上の放射性核種を含む放射性廃液が、放射性廃液供給管7を通してろ過装置2に供給され、さらに、コロイド除去装置3に供給される。放射性廃液に含まれた1μm以上の粒子がろ過装置2で除去され、負に帯電したコロイドがコロイド除去装置3の静電フィルタ4で除去される。
【0040】
放射線検出器12が、コロイド除去装置3から排出されて接続配管9内を流れる放射性廃液の放射能濃度を測定する。放射線検出器12で測定された放射能濃度が放射線検出器12の測定下限値よりも大きいとき、開閉弁14が開いて開閉弁16が閉じられ、コロイド除去装置3から排出された放射性廃液が吸着装置5に供給され、吸着装置5の各吸着塔6が放射性廃液に含まれているイオン状の各放射性核種を別々に吸着し除去する。吸着装置5で各放射性核種が除去されて吸着装置5から排出管11に排出された処理水の放射能濃度は放射線検出器12の測定下限値以下に低減されている。
【0041】
放射線検出器12で測定された、接続配管9内を流れる放射性廃液の放射能濃度が放射線検出器12の測定下限値以下であったとき、開閉弁16が開けられて開閉弁14が閉じられる。接続配管9内を流れる放射性廃液は、バイパス配管15を通って排出管11に導かれる。このとき、接続配管9内を流れる、測定下限値以下である放射性廃液は吸着装置5に供給されない。
【0042】
放射線検出器12で測定された放射能濃度に基づいた開閉弁14,16の開閉は、手動または自動で行われる。開閉弁14,16の手動による開閉は、放射線検出器12で測定された放射能濃度が表示装置(図示せず)に表示され、表示された放射能濃度を見たオペレータによって開閉弁14,16の開閉が行われる。開閉弁14,16の自動による開閉は、放射線検出器12で測定された放射能濃度を入力する制御装置(図示せず)が開閉弁14,16の開閉を行う。
【0043】
放射線検出器12は、放射性廃液に含まれる放射性核種が放出する放射線(例えば、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線)を測定し、例えば、電離箱、シンチレーション型検出器、または半導体型検出器である。放射線検出器12で測定する放射能は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0044】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。また、処理水にイオン状の放射性物質が含まれないときには吸着装置5に処理水を供給しないので、処理水の吸着装置5通過時に各吸着塔6内の吸着材からの放射性核種溶出による処理水の再汚染を回避することができ、また、不要な通水を避けることによる吸着材の性能劣化を低減することができる。
【0045】
放射性廃液処理装置1Bにおいて、コロイド除去装置2に放射性廃液処理装置1Aと同様に、コロイド除去装置2に接続配管8Aによりコロイド除去装置2Aを接続し、コロイド除去装置2Aに接続配管9を設置してもよい。この場合には、放射線検出器12は、コロイド除去装置2Aから排出される放射性廃液の放射能濃度を測定する。測定された放射能濃度が放射線検出器12の測定下限値以下であるとき、開閉弁16が開いて開閉弁14が閉じられる。測定された放射能濃度がその測定下限値よりも大きいとき、開閉弁14が開いて開閉弁16が閉じられる。
【0046】
実施例1〜4の各放射性廃液の処理方法は、加圧水型原子力プラントにおいて発生した放射性廃液の処理にも適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1,1A,1B…放射性廃液処理装置、2…ろ過装置、3,3A…コロイド除去装置、4,4A…静電フィルタ、5…吸着装置、6…吸着塔、12…放射線検出器、14,16…開閉弁、15…バイパス配管。