特許第6046582号(P6046582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

特許6046582放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置
<>
  • 特許6046582-放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置 図000003
  • 特許6046582-放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置 図000004
  • 特許6046582-放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046582
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20161212BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G21F9/12 501J
   G21F9/12 501K
   G21F9/06 531
   G21F9/12 501A
   G21F9/06 521F
   B01J20/22 B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-194469(P2013-194469)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-59870(P2015-59870A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐子
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 守
(72)【発明者】
【氏名】浅野 隆
(72)【発明者】
【氏名】北本 優介
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−220067(JP,A)
【文献】 特表2009−520185(JP,A)
【文献】 特開2009−216577(JP,A)
【文献】 特開昭57−048971(JP,A)
【文献】 特開2002−031697(JP,A)
【文献】 特開昭60−214299(JP,A)
【文献】 特開平02−258006(JP,A)
【文献】 特開昭55−051480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00 − 9/46
G01T 1/167
G21C 19/46
G21C 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド状物質、前記コロイド状物質よりも粒径が大きい粒子状物質及び放射性物質を含む放射性廃液を、ろ過装置に供給して前記粒子状物質を前記ろ過装置で除去し、前記ろ過装置から排出された前記放射性廃液に含まれる前記コロイド状物質を除去し、前記コロイド状物質が除去された前記放射性廃液が第1吸着装置に供給され、前記放射性廃液に含まれる放射性核種を前記第1吸着装置で除去し、前記第1吸着装置から排出された前記放射性廃液を、前記第1吸着装置の下流に配置されて、オキシン基を表面に担持した吸着剤を充填している第2吸着装置に供給することを特徴とする放射性廃液の処理方法。
【請求項2】
前記コロイド状物質を静電フィルタで除去する請求項1に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項3】
負に帯電している前記コロイド状物質の除去が正に帯電される前記静電フィルタを用いて行われる請求項2に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項4】
前記第1吸着装置で前記放射性核種のイオンが除去された前記放射性廃液に、酸化剤、pH調整剤及び還元剤のうちの少なくとも1つを注入し、前記酸化剤、前記pH調整剤及び前記還元剤のうちの少なくとも1つの注入により前記放射性廃液に生成された、前記放射性核種のイオンを、第3吸着装置内の吸着剤で除去し、前記第3吸着装置から排出された前記放射性廃液を前記第2吸着装置に供給する請求項1に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項5】
前記第1吸着装置から排出された前記放射性廃液を液性調整部に供給し、前記酸化剤、前記pH調整剤及び前記還元剤のうちの少なくとも1つの前記放射性廃液への注入が、前記液性調整部内で行われる請求項4に記載の放射性廃液の処理方法。
【請求項6】
放射性廃液からコロイド状物質よりも粒径が大きい粒子状物質を除去するろ過装置と、前記ろ過装置に接続され、前記コロイド状物質を除去するコロイド除去装置と、前記コロイド除去装置に接続され、放射性核種を吸着する吸着剤を有する第1吸着装置と、前記第1吸着装置の下流に配置されて前記第1吸着装置に連絡され、オキシン基を表面に担持した吸着剤を充填している第2吸着装置とを備えたことを特徴とする放射性廃液処理装置。
【請求項7】
前記コロイド除去装置が前記コロイド状物質を除去する静電フィルタを有する請求項6に記載の放射性廃液処理装置。
【請求項8】
前記放射性核種が除去されて前記第1吸着装置から排出される前記放射性廃液に、酸化剤、pH調整剤及び還元剤のうちの少なくとも1つを注入する注入装置と、前記酸化剤、前記pH調整剤及び前記還元剤のうちの少なくとも1つの注入により前記放射性廃液に生成される前記放射性核種のイオンを除去する第3吸着装置とを備え、
前記第2吸着装置が、前記第3吸着装置の下流に配置され、前記第3吸着装置に接続される請求項6に記載の放射性廃液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置に係り、特に、放射性核種を含む放射性廃液から放射性核種を分離除去するのに好適な放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設、例えば、原子力プラントにおいて発生する放射性核種を含む放射性廃液の処理方法の一つとして、イオン交換樹脂等を用いて放射性核種を放射性廃液から除去する吸着処理方法がある。この吸着処理方法は、無機系または有機系の吸着剤、またはイオン交換樹脂によりイオン状の放射性核種を吸着して除去する処理方法である。
【0003】
原子力関連施設において発生する放射性廃液には、種々の性状(含有成分及びpHなど)が想定される。例えば、酸性の放射性廃液及びアルカリ性の放射性廃液が考えられる。また、吸着剤によっては吸着性能を発揮するために適切なpH領域があり、そのような吸着剤を選択する場合には、吸着剤に応じて放射性廃液のpHを酸性あるいはアルカリ性に調整し、その後、放射性廃液に含まれる放射性核種を吸着剤に吸着させる処理になる場合もある。いずれにしても、吸着処理後の放射性廃液は、発生時の性状、または含まれる放射性核種及び選択された吸着剤に応じて、種々のpHになると考えられる。
【0004】
放射性核種を除去した後の放射性廃液の処理は、濃縮減容、貯留、固化または系外(例えば環境への)放出などの種々の選択肢が考えられる。いずれの場合も、放射性廃液のpHを中性付近に調整した後に、これらを実施する。従って、放射性核種の吸着処理後の放射性廃液のpHが中性領域(例えば、pH4〜9)を外れている場合には、放射性廃液のpHを調整する工程が必要である。放射性廃液が酸性になっていればアルカリ添加または脱酸処理を行い、放射性廃液がアルカリ性であれば酸を加えて中和することが必要である。
【0005】
放射性廃液から放射性核種を吸着除去する処理方法の一例が、例えば、Ikeda et al., Proceedings of GLOBAL 2011, Dec.11-16, 2011, Makuhari, Japan, USA, Paper No. 524705 (2011)に記載されている。この放射性核種の吸着除去処理方法では、吸着材を充填した容器内に放射性廃液を通水し、放射性廃液に含まれたイオン状の放射性核種を吸着材に吸着させて除去している。なお、吸着材を充填した容器内に放射性廃液を供給する前において、放射性廃液に含まれる粒状物質がろ過装置で除去される。
【0006】
特開2013−108808号公報に記載された放射性廃液の処理方法でも、放射性廃液に含まれるコロイド成分がろ過装置(例えば、限外ろ過膜)で除去されている。放射性廃液のろ過装置への供給は、放射性廃液に水酸化ナトリウムを添加して放射性廃液のpHを所定の値に調節した後に行われる。ろ過装置でコロイドが除去された放射性廃液がチタン酸塩系吸着材を充填した吸着塔に供給される。チタン酸塩系吸着材はストロンチウムを吸着しやすいので、放射性廃液に含まれたストロンチウムが吸着塔内で除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−108808号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ikeda et al., Proceedings of GLOBAL 2011, Dec.11-16, 2011, Makuhari, Japan, USA, Paper No. 524705 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
吸着処理後の放射性廃液に対して、酸及びアルカリなどの薬剤を添加してpH調整を行うと、その分、放射性廃液の処理方法の工程が増え、さらに、放射性廃液中の塩濃度が増えて最終的な放射性廃棄物の発生量が増加するという課題が生じる。
【0010】
本発明の目的は、処理工程の追加及び放射性廃棄物の増加を抑制しつつ放射性廃液の最終的なpHを中性領域(pH4〜9)に調整できる放射性廃液の処理方法及び放射性廃液処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成する本発明の特徴は、コロイド状物質、前記コロイド状物質よりも粒径が大きい粒子状物質及び放射性物質を含む放射性廃液を、ろ過装置に供給して粒子状物質をろ過装置で除去し、ろ過装置から排出された放射性廃液に含まれるコロイド状物質を除去し、コロイド状物質が除去された放射性廃液が第1吸着装置に供給され、放射性廃液に含まれる放射性核種を第1吸着装置で除去し、第1吸着装置から排出された放射性廃液を、第1吸着装置の下流に配置されて、オキシン基を表面に担持した吸着剤を充填している第2吸着装置に供給することにある。
【0012】
第1吸着装置の下流に配置されている、オキシン基を表面に担持した吸着剤を充填している第2吸着装置に、第1吸着装置から排出された放射性廃液を救急するので、pHを調節する薬剤を放射性廃液に投入することなしに、放射性廃液のpHを4〜9の範囲に調整することができ、放射性廃棄物の発生量を低減することができる。
【0013】
好ましくは、第1吸着装置で放射性核種のイオンが除去された放射性廃液に、酸化剤、pH調整剤及び還元剤のうちの少なくとも1つを注入し、酸化剤、pH調整剤及び還元剤のうちの少なくとも1つの注入により放射性廃液に生成された、放射性核種のイオンを、第3吸着装置内の吸着剤で除去し、第3吸着装置から排出された放射性廃液を第2吸着装置に供給することが望ましい。
【0014】
これにより、イオンが第1吸着装置で除去された放射性廃液に、酸化剤、pH調整剤及び還元剤のうちの少なくとも1つを注入し、酸化剤、pH調整剤及び還元剤のうちの少なくとも1つの注入により放射性廃液に生成された、放射性核種のイオンを、第2吸着装置内の吸着剤で除去するので、放射性廃液に含まれる放射性核種の除去効率をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放射性廃棄物の発生量を低減しつつ、簡素な装置構成で放射性廃液から放射性廃液のpHを中性付近に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置の構成図である。
図2】本発明の他の好適な実施例である実施例2の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置の構成図である。
図3】pHの異なる各放射性廃液に含まれる放射性ルテニウムの化学形態、及び放射性ルテニウムの化学形態ごとの、除去される割合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、種々の放射性核種のイオンを吸着処理するプロセスを開発する過程で、放射性核種の吸着に伴う放射性廃液のpHの変化を調べる試験を行った。これは、吸着剤の組み合わせによっては前段の或る吸着剤による放射性核種の吸着処理が後段の他の吸着剤による別の放射性核種の吸着性能に影響を及ぼす場合があるかもしれないと考えて実施した試験である。その結果、放射性廃液の性状が酸性及びアルカリ性のいずれであっても、放射性廃液を、遷移元素イオンを吸着することで知られるオキシン添着活性炭の充填層を通すことにより、放射性廃液のpHが4〜9の範囲内に調整されることを発見した。
【0018】
発明者らによる上記の試験結果を基に得られた新たな知見に基づいて、発明者らは、オキシン添着活性炭を充填した吸着塔を、放射性廃液に含まれた放射性核種を吸着除去する吸着装置の下流に配置することにより、放射性核種を除去した放射性廃液のpHを4〜9の範囲内に調整できることを見出し、本発明の創生に至った。
【0019】
放射性廃液の処理は、放射性のセシウムやストロンチウムなどの陽イオン、及び放射性アンチモンなどの陰イオン、及び放射性コバルトなどの遷移金属イオンを含む放射性廃液を処理することを想定した。放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを選択的に吸着するために、例えば、天然ゼオライト、人工ゼオライトあるいはケイチタン酸を用いる。放射性アンチモン等を選択的に吸着するために、例えば、含水酸化セリウム担持吸着剤を用い、放射性の重金属(例えば、遷移金属及び希土類のイオン)を選択的に吸着するために、例えば、オキシン添着活性炭を用いる。
【0020】
【表1】
【0021】
表1は、上記の放射性イオンを吸着除去する場合に使用可能な吸着剤、及びこの吸着剤の充填層の通過前後の各試験水のpHを示している。試験水−1、試験水−2及び試験水−3は、いずれも、放射性廃液の模擬水である。入口の( )内の数値は、吸着剤の充填層の入口での試験水−1、試験水−2及び試験水−3のそれぞれのpH値を示している。「Cs,Sr除去」、「アニオン除去」及び「重金属除去」のそれぞれの欄の( )内の各数値は、各試験水が吸着剤充填層を通過した後のpH値である。いずれの場合も、放射性核種吸着の最終段に、オキシン添着炭充填層を配置することによって、各試験水のpHを4〜9の範囲に調整することができる。
【0022】
さらに、発明者らは上記の基礎的検討にとどまらず、機器システムの観点からも課題と対応策を検討した。単に、オキシン添着活性炭を充填した吸着塔の配置だけでは、吸着塔の中で放射性廃液のpHが中性領域になった結果、放射性廃液に含まれる溶存成分が吸着塔内で析出して閉塞を起こすことが懸念される。その対策として、吸着工程の前にろ過装置及びコロイド除去装置を配置し、固形分の析出ポテンシャルを極力低減するシステム構成にすることが必要である。
【0023】
上記の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0024】
上記の知見に基づいた本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃液の処理方法を、図1を用いて説明する。さらに、この放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置を、図1を用いて説明する。
【0025】
本実施例に用いられる放射性廃液処理装置1は、ろ過装置2、コロイド除去装置3、吸着装置(第1吸着装置)5及び吸着塔(第2吸着装置)21を有する。ろ過装置2は、放射性廃液に含まれる粒子成分を物理的にろ過する装置であり、ろ過材を充填したカートリッジフィルタ(またはプリーツフィルタ)を内部に設けている。ろ過装置2は、放射性廃液に含まれる約1μm以上の粒子を除去する。コロイド除去装置3は、ケーシング内に複数の静電フィルタ4を設置している。吸着装置5は複数の吸着塔6を有する。放射性廃液に含まれる放射性核種の種類に応じて選定した吸着剤が、別々に各吸着塔6内に充填されている。放射性廃液供給管7がろ過装置2に接続される。ろ過装置2とコロイド除去装置3は接続配管8によって接続される。吸着装置5における複数の吸着塔6のうち最も上流に位置する吸着塔6が、接続配管9によってコロイド除去装置3に接続される。吸着装置5内のそれぞれの吸着塔6は、配管10によって順次接続されている。吸着装置5の下流に配置されてオキシン添着活性炭が充填された吸着塔21が、配管11によって吸着装置5内で最も下流に位置する吸着塔6に接続される。オキシン添着活性炭は、オキシン基が担体である活性炭の表面に担持されている吸着剤である。
【0026】
吸着装置5の各吸着塔6に充填する吸着剤としては、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを選択的に吸着するために、例えば、天然ゼオライト、人工ゼオライト及びケイチタン酸を用い、放射性アンチモン等を選択的に吸着するために、例えば、含水酸化セリウム担持吸着剤を用い、放射性の重金属を選択的に吸着するために、例えば、オキシン添着活性炭を用いる。これらの吸着剤が各吸着塔6に別々に充填されている。吸着装置5において用いられる放射性核種を吸着する吸着剤として、ゼオライト、フェロシアン化物、チタン酸化合物、チタン酸塩化合物、イオン交換樹脂、キレート樹脂、活性炭及び添着活性炭のうちの少なくとも一つが選択される。ここで、本実施例では、上記したように、オキシン添着活性炭を充填した吸着塔21が、吸着装置5の下流に配置されている。
【0027】
放射性廃液処理装置1を用いた本実施例の放射性廃液の処理方法を説明する。
【0028】
放射性廃液に含まれた1μm以上の粒子がろ過装置2内のカートリッジフィルタによって除去される。ろ過装置2から排出された放射性廃液が、接続配管8を通してコロイド除去装置3に供給される。
【0029】
放射性廃液に含まれるコロイドが、コロイド除去装置3内の静電フィルタ4によって除去される。1μm未満の微粒子は、コロイドと呼ばれている。コロイドが放射性核種(放射性セシウム、放射性ストロンチウム及び放射性アンチモンなど)を含んでおり、静電フィルタ4によるコロイドの除去は、コロイドに含まれる放射性核種も併せて除去する。コロイドは表面が正または負に帯電している。コロイドの帯電が正か負かは、そのコロイドを形成する物質及び表面構造によって決まる。例えば、土壌成分由来のコロイドは負に帯電していることが多い。本実施例では、コロイド除去装置3内の静電フィルタ4は正に帯電したものを使用し、放射性廃液に含まれた負に帯電しているコロイドが静電フィルタ4の表面に付着されて除去される。コロイド除去装置3に供給される放射性廃液のpH調節は不要である。静電フィルタ4では、約1nm以上1μm未満の範囲の粒径を有するコロイド粒子が除去される。
【0030】
コロイド粒子が除去された放射性廃液が、接続配管9を通して吸着装置5の吸着塔6に供給される。吸着装置5に供給される放射性廃液は、粒子成分及びコロイドを含んでいない。放射性廃液に含まれる、例えば、放射性セシウム、放射性ストロンチウム及び放射性アンチモン等の放射性核種はイオンになっている。放射性廃液が複数の吸着塔6を通過するたびに、放射性廃液に含まれる放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素等の各放射性核種が各吸着塔6で別々に吸着剤に吸着されて除去される。
【0031】
吸着装置5から排出された放射性廃液に残存しているコバルトなどの遷移金属イオン及びランタン及びセウムなどの希土類の金属元素イオンが、吸着塔21内のオキシン添着活性炭に吸着されて除去されると共に、吸着塔21内で放射性廃液のpHが中性(pH4〜9の範囲)に調整される。吸着塔21から排出管14に排出された処理水のpHは(pH4〜9の範囲)に調整されている。吸着装置5のそれぞれの吸着塔6には、放射性廃液に含まれるそれぞれの放射性核種の全量を十分に吸着できる量の該当する吸着剤が充填されている。このため、吸着塔21から排出管14に排出された処理水に含まれる各放射性核種の濃度は、測定下限値以下になる。吸着装置5から排出された処理水は、排出管14を通して貯蔵タンク(図示せず)に供給されて保管される。
【0032】
本実施例によれば、ろ過装置2、静電フィルタ4を用いたコロイド除去装置3及び吸着装置5を有する簡素な装置構成で、放射性廃棄物の発生量を低減することができ、放射性核種を測定下限値以下まで除去することができる。さらに、オキシン添着活性炭を充填した吸着塔21を吸着装置5の下流に配置することにより、特別に、pHを調節する薬剤を放射性廃液に投入することなしに、放射性廃液のpHを4〜9の範囲に調整することができる。
【実施例2】
【0033】
吸着剤を用いた、放射性廃液からの放射性核種の除去には、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂、及び陰イオン交換樹脂などが用いられる。これらの吸着剤は、プラスの電荷を有するイオン、マイナスの電荷を有するイオン、及び錯体を形成するイオンに対しては高い除去性能を有している。しかしながら、吸着剤は、コロイド及び中性溶存種については、比較的低い除去性能しか有していない。
【0034】
このため、放射性廃液に含まれている放射性核種を効率良く除去するために、酸化剤、還元剤またはpH調整剤を用いて、放射性廃液に含まれる放射性核種の化学形態を調整することが望ましい。しかし、実際には、多くの放射性核種が複数の化学形態をとるため、放射性廃液の状態(pHなど)をある一つの条件に調整したとしても、放射性廃液に含まれるあらゆる放射性核種を完全に除去することは困難である。
【0035】
そこで、発明者らは、放射性核種の種類及び濃度、及び放射性廃液の組成などが不明である場合においても、放射性核種を吸着剤により放射性廃液から効率良く除去できる方法を、鋭意、検討した。この検討の結果、放射性廃液に含まれる放射性核種を吸着剤層に通水して吸着剤層内の吸着剤により除去し、その後に、酸化剤、還元剤及びpH調整剤のうちの少なくとも1つの薬剤を放射性廃液に添加し、その薬剤を添加した放射性廃液を、再度、吸着剤層に通液してこの放射性廃液に含まれる放射性核種を除去することが、放射性廃液からの、効果的な放射性核種の除去方法となることを発明者らはさらに見出した。
【0036】
放射性核種の一つであるルテニウムを例として説明する。ルテニウムの放射性同位体、例えばRu−106は、放射性廃液の性状により複数の酸化数を取り且つ複数の化学形態をとることが知られている。
【0037】
発明者らは、ルテニウムを含む海水のpHを酸性(pH2)、中性(pH7)、及びアルカリ性(pH12)と変え、各pHの海水に含まれる化学形態が異なる各ルテニウムの吸着剤による除去率を求めた。この結果、上記の各pHの海水に含まれるルテニウムの代表的な各化学形態、及びそれぞれのpHの海水に含まれる各化学形態のルテニウムの、吸着剤による除去率を図3に示す。
【0038】
中性の海水中では、ルテニウムは、主に陽イオン(Ru(OH)2+など)及び中性溶存種(Ru(OH)4など)として存在しており、吸着剤により除去困難な中性溶存種の割合は約74%である。一方、酸性(pH2)の海水では、ルテニウムの約58%が陽イオン(RuCl2+など)、及び約12%が陰イオン(RuCl4-など)として存在し、ルテニウムの中性溶存種(RuCl3など)は約30%になっている。アルカリ性の海水中では、ほぼ100%がルテニウムの中性溶存種(Ru(OH)4)である。
【0039】
したがって、放射性廃液に含まれるルテニウムを吸着剤により除去するためには、放射性廃液を酸性に調整した後でルテニウムを吸着剤で吸着して除去することが望ましい。この場合では、酸性の放射性廃液に含まれる約30%の中性溶存種は吸着剤によって除去することができない。
【0040】
そこで、例えば、最初に、中性の放射性廃液に対して吸着剤によるルテニウムの吸着処理を行った場合には、26%のルテニウムの陽イオン(Ru(OH)2+)が除去される。その後、その放射性廃液を酸性(例えば、pH2)に調整してルテニウムの吸着処理を行うと、放射性廃液に残存する中性溶存種の割合を約22%(=74%×30%)に低減することができる。このため、放射性廃液のpH調整前に、放射性廃液から除去可能なルテニウムを吸着除去し、その後、放射性廃液のpHを酸性(例えば、pH2)に調整して、再度、ルテニウムの吸着処理を行うことにより、放射性廃液に含まれる、吸着剤での除去が困難な中性溶存種を、低減することができる。
【0041】
また、例えば、放射性廃液のpHが2であった場合、放射性廃液に含まれるルテニウムの吸着処理を行うと、約30%の中性溶存種が放射性廃液中に残存する。この放射性廃液のpHを、再度、pH2に調整して吸着剤による吸着処理を行った場合には、放射性廃液に残存する中性溶存種の割合が、9%(=30%×30%)に低減される。
【0042】
このように、以上に述べた、発明者らが新たに創生した放射性廃液の処理方法によれば、放射性廃液に含まれる放射性核種を吸着剤により効率良く除去することができる。
【0043】
吸着剤としては、例えば、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂)、キレート樹脂、活性炭、オキシン添着活性炭、ゼオライト、チタン酸化合物、チタン酸塩化合物及びフェロシアン化物のうち少なくとも一つが用いられる。これらの吸着剤は、吸着する放射性核種の種類に応じて適宜選択して使用される。また、使用可能な酸化剤としては、例えば、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸及びその塩の水溶液、次亜塩素酸及びその塩の水溶液がある。
【0044】
使用可能な還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、ヒドラジン、シュウ酸などがある。pH調整剤としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、及びリン酸等の酸溶液、及び炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ溶液がある。
【0045】
発明者らが得た上記の新しい知見を前述の実施例1に反映してなる、本発明の他の好適な実施例である実施例2の放射性廃液の処理方法を、図2を用いて説明する。
【0046】
本実施例の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置1Bは、実施例1の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置1において調整タンク(液性調整部)15、pH調整剤供給装置及び吸着装置5Bを追加した構成を有する。放射性廃液処理装置1Bの他の構成は放射性廃液処理装置1と同じである。
【0047】
放射性廃液処理装置1Bの、放射性廃液処理装置1と異なる構成を説明する。調整タンク15が、配管12によって吸着装置内で最も下流に位置する吸着塔に接続される。pH調整剤供給装置はpH調整剤タンク16及びpH調整剤供給配管17を有し、pH調整剤タンク16は開閉弁(図示せず)を設けたpH調整剤供給配管17によって調整タンク15に接続される。本実施例では、pH調整剤である塩酸水溶液がpH調整剤タンク16に充填されている。
【0048】
吸着装置5Bは複数の吸着塔6Bを有する。放射性廃液に含まれる放射性核種の種類に応じて選定した吸着剤が、別々に各吸着塔6B内に充填されている。調整タンク15に接続された配管13が、吸着装置5B内で最も上流に位置する吸着塔6Bに接続される。吸着装置5B内の各吸着塔6Bは配管10Bによって順次接続されている。
【0049】
オキシン添着活性炭が充填された吸着塔21が、吸着装置5Bの下流に配置され、配管11によって吸着装置5B内で最も下流に位置する吸着塔6Bに接続される。排出管14が吸着塔21に接続される。
【0050】
各吸着塔6B内のそれぞれの吸着剤層には、吸着により除去する放射性核種に応じて選択された吸着剤が別々に充填されている。放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを選択的に吸着するためには、例えば、天然ゼオライト、人工ゼオライト及びケイチタン酸を用い、放射性アンチモン等を選択的に吸着するためには、例えば、含水酸化セリウム担持吸着剤を用いる。また、ある吸着塔2Aの吸着剤層には、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂)が充填される。
【0051】
放射性廃液処理装置1Bを用いた本実施例の放射性廃液の処理方法を説明する。本実施例の放射性廃液の処理方法では、沸騰水型原子力プラントにおいて発生した放射性廃液が処理される。放射性廃液は、例えば、ルテニウム、テクネチウム及びニオブなどの遷移金属、セシウムなどのアルカリ金属、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、セリウムなどの希土類といった金属元素、アンチモン、テルル、ヨウ素などのハロゲン、及び炭素、ホウ素といった非金属元素のうちの一種あるいは複数の放射性核種を含んでいる。
【0052】
複数の放射性核種を含む放射性廃液は、実施例1と同様に、ろ過装置2及びコロイド除去装置3に順次供給される。放射性廃液に含まれる1μm以上の粒子がろ過装置2で除去される。その後、ろ過装置2から排出された放射性廃液が吸着装置5の各吸着塔6内を流れるとき、各吸着塔6内の吸着剤は、吸着剤層内の吸着剤の種類に応じて、その放射性廃液に含まれるルテニウム等の放射性核種の陽イオン及び陰イオンを吸着して除去する。各吸着塔6内の吸着剤によって吸着除去されなかった放射性核種は、放射性廃液と共に配管12内を流れて調整タンク15に導かれる。
【0053】
吸着装置5に供給される放射性廃液のpHが7である場合には、放射性核種の一種であるルテニウムは、放射性廃液内で陽イオン(Ru(OH)2+など)及び中性溶存種(Ru(OH)4など)として存在している。放射性廃液が吸着装置5内を流れる間に該当する吸着塔6において、ルテニウムの陽イオン(Ru(OH)2+など)が吸着されて除去される。ルテニウムの中性溶存種(Ru(OH)4など)は、吸着装置5で除去されないまま、調整タンク15に流入する。
【0054】
pH調整剤タンク16内の塩酸水溶液がpH調整剤供給配管17を通して調整タンク15内の放射性廃液に注入される。オゾンが溶解された放射性廃液及び塩酸水溶液が、調整タンク15内で、上記の撹拌装置によって混合される。オゾンガスの注入によってもルテニウムの陽イオンに転換されなかったルテニウムの中性溶存種(Ru(OH)4)が、塩酸水溶液の注入によって放射性廃液を酸性(例えば、pH2)に調整することにより、ルテニウムの陽イオン(RuCl2+など)、ルテニウムの陰イオン(RuCl4-など)及びルテニウムの中性溶存種(RuCl3など)に転換される。放射性廃液に含まれるルテニウム以外の放射性核種も陽イオン及び陰イオンに転換される。
【0055】
調整タンク15内で生成されたルテニウムの陽イオン(RuCl2+など)、ルテニウムの陰イオン(RuCl4-など)及びルテニウムの中性溶存種(RuCl3など)、さらに、ルテニウム以外の放射性核種の陽イオン、陰イオン及び中性溶存種を含む放射性廃液が、配管13を通して、吸着装置5Bの最上流に位置する吸着塔6Bに供給される。そして、この放射性廃液は、配管12を通して吸着装置の他のそれぞれの吸着塔6Bに、順次、供給される。3価のルテニウムの陽イオン(RuCl2+など)及びルテニウムの陰イオン(RuCl4-など)、及びルテニウム以外の放射性核種の陽イオン及び陰イオンが、該当する吸着塔6Bで吸着剤に吸着されて除去される。吸着装置5Bの各吸着塔6Bで除去されなかったルテニウムの中性溶存種(RuCl3など)及びルテニウム以外の放射性核種を含む放射性廃液が、吸着装置5Bから排出管14に排出される。
【0056】
pH調整剤水溶液は、調整タンク15内の放射性廃液に必要に応じて添加してもよいし、または添加しなくてもよい。
【0057】
本実施例では、放射性廃液にpH調整剤を添加する例について述べたが、放射性廃液に添加する薬剤としては、酸化剤、還元剤及びpH調整剤のうち少なくとも1種を用いればよい。例えば、さらに、調整タンク15内の放射性廃液に酸化剤及び還元剤を添加する場合には、pH調整剤と同様に、酸化剤タンク、及び開閉弁を設けた酸化剤供給配管を有する酸化剤供給装置、及び還元剤タンク、及び開閉弁を設けた還元剤供給配管を有する還元剤供給装置をそれぞれ調整タンク15に接続すればよい。
【0058】
本実施例は実施例1で生じる効果を得ることができる。さらに、本実施例では、吸着装置5で放射性廃液に含まれるルテニウム等の放射性核種のイオン(陽イオン及び陰イオン)を除去し、調整タンク15内で、ルテニウム等の放射性核種の中性溶存種を含む放射性廃液にpH調整剤である塩酸を注入して、ルテニウム等の放射性核種の中性溶存種を、放射性廃液のpHを、例えば、酸性に調整することによって、ルテニウム等の放射性核種の中性溶存種を、陽イオン及び陰イオンに変えることができる。このため、中性溶存種から生成されたルテニウム等の放射性核種の陽イオン及び陰イオンを吸着装置5Bで吸着により除去することができる。このため、放射性廃液に含まれる放射性核種をさらに低減することができる。本実施例では、放射性廃液に含まれる放射性核種の除去効率をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0059】
1、1B…放射性廃液処理装置、2…ろ過装置、3…コロイド除去装置、4…静電フィルタ、5、5B…吸着装置、6、6B、21…吸着塔、15…調整タンク、16…pH調整剤タンク、17…pH調整剤供給配管。
図1
図2
図3