【実施例1】
【0024】
上記の知見に基づいた本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃液の処理方法を、
図1を用いて説明する。さらに、この放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置を、
図1を用いて説明する。
【0025】
本実施例に用いられる放射性廃液処理装置1は、ろ過装置2、コロイド除去装置3、吸着装置(第1吸着装置)5及び吸着塔(第2吸着装置)21を有する。ろ過装置2は、放射性廃液に含まれる粒子成分を物理的にろ過する装置であり、ろ過材を充填したカートリッジフィルタ(またはプリーツフィルタ)を内部に設けている。ろ過装置2は、放射性廃液に含まれる約1μm以上の粒子を除去する。コロイド除去装置3は、ケーシング内に複数の静電フィルタ4を設置している。吸着装置5は複数の吸着塔6を有する。放射性廃液に含まれる放射性核種の種類に応じて選定した吸着剤が、別々に各吸着塔6内に充填されている。放射性廃液供給管7がろ過装置2に接続される。ろ過装置2とコロイド除去装置3は接続配管8によって接続される。吸着装置5における複数の吸着塔6のうち最も上流に位置する吸着塔6が、接続配管9によってコロイド除去装置3に接続される。吸着装置5内のそれぞれの吸着塔6は、配管10によって順次接続されている。吸着装置5の下流に配置されてオキシン添着活性炭が充填された吸着塔21が、配管11によって吸着装置5内で最も下流に位置する吸着塔6に接続される。オキシン添着活性炭は、オキシン基が担体である活性炭の表面に担持されている吸着剤である。
【0026】
吸着装置5の各吸着塔6に充填する吸着剤としては、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを選択的に吸着するために、例えば、天然ゼオライト、人工ゼオライト及びケイチタン酸を用い、放射性アンチモン等を選択的に吸着するために、例えば、含水酸化セリウム担持吸着剤を用い、放射性の重金属を選択的に吸着するために、例えば、オキシン添着活性炭を用いる。これらの吸着剤が各吸着塔6に別々に充填されている。吸着装置5において用いられる放射性核種を吸着する吸着剤として、ゼオライト、フェロシアン化物、チタン酸化合物、チタン酸塩化合物、イオン交換樹脂、キレート樹脂、活性炭及び添着活性炭のうちの少なくとも一つが選択される。ここで、本実施例では、上記したように、オキシン添着活性炭を充填した吸着塔21が、吸着装置5の下流に配置されている。
【0027】
放射性廃液処理装置1を用いた本実施例の放射性廃液の処理方法を説明する。
【0028】
放射性廃液に含まれた1μm以上の粒子がろ過装置2内のカートリッジフィルタによって除去される。ろ過装置2から排出された放射性廃液が、接続配管8を通してコロイド除去装置3に供給される。
【0029】
放射性廃液に含まれるコロイドが、コロイド除去装置3内の静電フィルタ4によって除去される。1μm未満の微粒子は、コロイドと呼ばれている。コロイドが放射性核種(放射性セシウム、放射性ストロンチウム及び放射性アンチモンなど)を含んでおり、静電フィルタ4によるコロイドの除去は、コロイドに含まれる放射性核種も併せて除去する。コロイドは表面が正または負に帯電している。コロイドの帯電が正か負かは、そのコロイドを形成する物質及び表面構造によって決まる。例えば、土壌成分由来のコロイドは負に帯電していることが多い。本実施例では、コロイド除去装置3内の静電フィルタ4は正に帯電したものを使用し、放射性廃液に含まれた負に帯電しているコロイドが静電フィルタ4の表面に付着されて除去される。コロイド除去装置3に供給される放射性廃液のpH調節は不要である。静電フィルタ4では、約1nm以上1μm未満の範囲の粒径を有するコロイド粒子が除去される。
【0030】
コロイド粒子が除去された放射性廃液が、接続配管9を通して吸着装置5の吸着塔6に供給される。吸着装置5に供給される放射性廃液は、粒子成分及びコロイドを含んでいない。放射性廃液に含まれる、例えば、放射性セシウム、放射性ストロンチウム及び放射性アンチモン等の放射性核種はイオンになっている。放射性廃液が複数の吸着塔6を通過するたびに、放射性廃液に含まれる放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性ヨウ素等の各放射性核種が各吸着塔6で別々に吸着剤に吸着されて除去される。
【0031】
吸着装置5から排出された放射性廃液に残存しているコバルトなどの遷移金属イオン及び
ランタン及びセ
リウムなどの希土類の金属元素イオンが、吸着塔21内のオキシン添着活性炭に吸着されて除去されると共に、吸着塔21内で放射性廃液のpHが中性(pH4〜9の範囲)に調整される。吸着塔21から排出管14に排出された処理水のpHは(pH4〜9の範囲)に調整されている。吸着装置5のそれぞれの吸着塔6には、放射性廃液に含まれるそれぞれの放射性核種の全量を十分に吸着できる量の該当する吸着剤が充填されている。このため、吸着塔21から排出管14に排出された処理水に含まれる各放射性核種の濃度は、測定下限値以下になる。吸着装置5から排出された処理水は、排出管14を通して貯蔵タンク(図示せず)に供給されて保管される。
【0032】
本実施例によれば、ろ過装置2、静電フィルタ4を用いたコロイド除去装置3及び吸着装置5を有する簡素な装置構成で、放射性廃棄物の発生量を低減することができ、放射性核種を測定下限値以下まで除去することができる。さらに、オキシン添着活性炭を充填した吸着塔21を吸着装置5の下流に配置することにより、特別に、pHを調節する薬剤を放射性廃液に投入することなしに、放射性廃液のpHを4〜9の範囲に調整することができる。
【実施例2】
【0033】
吸着剤を用いた、放射性廃液からの放射性核種の除去には、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂、及び陰イオン交換樹脂などが用いられる。これらの吸着剤は、プラスの電荷を有するイオン、マイナスの電荷を有するイオン、及び錯体を形成するイオンに対しては高い除去性能を有している。しかしながら、吸着剤は、コロイド及び中性溶存種については、比較的低い除去性能しか有していない。
【0034】
このため、放射性廃液に含まれている放射性核種を効率良く除去するために、酸化剤、還元剤またはpH調整剤を用いて、放射性廃液に含まれる放射性核種の化学形態を調整することが望ましい。しかし、実際には、多くの放射性核種が複数の化学形態をとるため、放射性廃液の状態(pHなど)をある一つの条件に調整したとしても、放射性廃液に含まれるあらゆる放射性核種を完全に除去することは困難である。
【0035】
そこで、発明者らは、放射性核種の種類及び濃度、及び放射性廃液の組成などが不明である場合においても、放射性核種を吸着剤により放射性廃液から効率良く除去できる方法を、鋭意、検討した。この検討の結果、放射性廃液に含まれる放射性核種を吸着剤層に通水して吸着剤層内の吸着剤により除去し、その後に、酸化剤、還元剤及びpH調整剤のうちの少なくとも1つの薬剤を放射性廃液に添加し、その薬剤を添加した放射性廃液を、再度、吸着剤層に通液してこの放射性廃液に含まれる放射性核種を除去することが、放射性廃液からの、効果的な放射性核種の除去方法となることを発明者らはさらに見出した。
【0036】
放射性核種の一つであるルテニウムを例として説明する。ルテニウムの放射性同位体、例えばRu−106は、放射性廃液の性状により複数の酸化数を取り且つ複数の化学形態をとることが知られている。
【0037】
発明者らは、ルテニウムを含む海水のpHを酸性(pH2)、中性(pH7)、及びアルカリ性(pH12)と変え、各pHの海水に含まれる化学形態が異なる各ルテニウムの吸着剤による除去率を求めた。この結果、上記の各pHの海水に含まれるルテニウムの代表的な各化学形態、及びそれぞれのpHの海水に含まれる各化学形態のルテニウムの、吸着剤による除去率を
図3に示す。
【0038】
中性の海水中では、ルテニウムは、主に陽イオン(Ru(OH)
2+など)及び中性溶存種(Ru(OH)
4など)として存在しており、吸着剤により除去困難な中性溶存種の割合は約74%である。一方、酸性(pH2)の海水では、ルテニウムの約58%が陽イオン(RuCl
2+など)、及び約12%が陰イオン(RuCl
4-など)として存在し、ルテニウムの中性溶存種(RuCl
3など)は約30%になっている。アルカリ性の海水中では、ほぼ100%がルテニウムの中性溶存種(Ru(OH)
4)である。
【0039】
したがって、放射性廃液に含まれるルテニウムを吸着剤により除去するためには、放射性廃液を酸性に調整した後でルテニウムを吸着剤で吸着して除去することが望ましい。この場合では、酸性の放射性廃液に含まれる約30%の中性溶存種は吸着剤によって除去することができない。
【0040】
そこで、例えば、最初に、中性の放射性廃液に対して吸着剤によるルテニウムの吸着処理を行った場合には、26%のルテニウムの陽イオン(Ru(OH)
2+)が除去される。その後、その放射性廃液を酸性(例えば、pH2)に調整してルテニウムの吸着処理を行うと、放射性廃液に残存する中性溶存種の割合を約22%(=74%×30%)に低減することができる。このため、放射性廃液のpH調整前に、放射性廃液から除去可能なルテニウムを吸着除去し、その後、放射性廃液のpHを酸性(例えば、pH2)に調整して、再度、ルテニウムの吸着処理を行うことにより、放射性廃液に含まれる、吸着剤での除去が困難な中性溶存種を、低減することができる。
【0041】
また、例えば、放射性廃液のpHが2であった場合、放射性廃液に含まれるルテニウムの吸着処理を行うと、約30%の中性溶存種が放射性廃液中に残存する。この放射性廃液のpHを、再度、pH2に調整して吸着剤による吸着処理を行った場合には、放射性廃液に残存する中性溶存種の割合が、9%(=30%×30%)に低減される。
【0042】
このように、以上に述べた、発明者らが新たに創生した放射性廃液の処理方法によれば、放射性廃液に含まれる放射性核種を吸着剤により効率良く除去することができる。
【0043】
吸着剤としては、例えば、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂)、キレート樹脂、活性炭、オキシン添着活性炭、ゼオライト、チタン酸化合物、チタン酸塩化合物及びフェロシアン化物のうち少なくとも一つが用いられる。これらの吸着剤は、吸着する放射性核種の種類に応じて適宜選択して使用される。また、使用可能な酸化剤としては、例えば、過酸化水素、オゾン、過マンガン酸及びその塩の水溶液、次亜塩素酸及びその塩の水溶液がある。
【0044】
使用可能な還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、ヒドラジン、シュウ酸などがある。pH調整剤としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、及びリン酸等の酸溶液、及び炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ溶液がある。
【0045】
発明者らが得た上記の新しい知見を前述の実施例1に反映してなる、本発明の他の好適な実施例である実施例2の放射性廃液の処理方法を、
図2を用いて説明する。
【0046】
本実施例の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置1Bは、実施例1の放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理装置1において調整タンク(液性調整部)
15、pH調整剤供給装置及び吸着装置5Bを追加した構成を有する。放射性廃液処理装置1Bの他の構成は放射性廃液処理装置1と同じである。
【0047】
放射性廃液処理装置1Bの、放射性廃液処理装置1と異なる構成を説明する。調整タンク15が、配管12によって吸着装置
5内で最も下流に位置する吸着塔
6に接続される。pH調整剤供給装置はpH調整剤タンク16及びpH調整剤供給配管17を有し、pH調整剤タンク16は開閉弁(図示せず)を設けたpH調整剤供給配管17によって調整タンク15に接続される。本実施例では、pH調整剤である塩酸水溶液がpH調整剤タンク16に充填されている。
【0048】
吸着装置5Bは複数の吸着塔6Bを有する。放射性廃液に含まれる放射性核種の種類に応じて選定した吸着剤が、別々に各吸着塔6B内に充填されている。調整タンク15に接続された配管13が、吸着装置5B内で最も上流に位置する吸着塔6Bに接続される。吸着装置5B内の各吸着塔6Bは配管10Bによって順次接続されている。
【0049】
オキシン添着活性炭が充填された吸着塔21が、吸着装置5Bの下流に配置され、配管11によって吸着装置5B内で最も下流に位置する吸着塔6Bに接続される。排出管14が吸着塔21に接続される。
【0050】
各吸着塔6B内のそれぞれの吸着剤層には、吸着により除去する放射性核種に応じて選択された吸着剤が別々に充填されている。放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを選択的に吸着するためには、例えば、天然ゼオライト、人工ゼオライト及びケイチタン酸を用い、放射性アンチモン等を選択的に吸着するためには、例えば、含水酸化セリウム担持吸着剤を用いる。また、ある吸着塔2Aの吸着剤層には、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂)が充填される。
【0051】
放射性廃液処理装置1Bを用いた本実施例の放射性廃液の処理方法を説明する。本実施例の放射性廃液の処理方法では、沸騰水型原子力プラントにおいて発生した放射性廃液が処理される。放射性廃液は、例えば、ルテニウム、テクネチウム及びニオブなどの遷移金属、セシウムなどのアルカリ金属、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、セリウムなどの希土類といった金属元素、アンチモン、テルル、ヨウ素などのハロゲン、及び炭素、ホウ素といった非金属元素のうちの一種あるいは複数の放射性核種を含んでいる。
【0052】
複数の放射性核種を含む放射性廃液は、実施例1と同様に、ろ過装置2及びコロイド除去装置3に順次供給される。放射性廃液に含まれる1μm以上の粒子がろ過装置2で除去される。その後、ろ過装置2から排出された放射性廃液が吸着装置5の各吸着塔6内を流れるとき、各吸着塔6内の吸着剤は、吸着剤層内の吸着剤の種類に応じて、その放射性廃液に含まれるルテニウム等の放射性核種の陽イオン及び陰イオンを吸着して除去する。各吸着塔6内の吸着剤によって吸着除去されなかった放射性核種は、放射性廃液と共に配管12内を流れて調整タンク15に導かれる。
【0053】
吸着装置5に供給される放射性廃液のpHが7である場合には、放射性核種の一種であるルテニウムは、放射性廃液内で陽イオン(Ru(OH)
2+など)及び中性溶存種(Ru(OH)
4など)として存在している。放射性廃液が吸着装置5内を流れる間に該当する吸着塔6において、ルテニウムの陽イオン(Ru(OH)
2+など)が吸着されて除去される。ルテニウムの中性溶存種(Ru(OH)
4など)は、吸着装置5で除去されないまま、調整タンク15に流入する。
【0054】
pH調整剤タンク16内の塩酸水溶液がpH調整剤供給配管17を通して調整タンク15内の放射性廃液に注入される。オゾンが溶解された放射性廃液及び塩酸水溶液が、調整タンク15内で、上記の撹拌装置によって混合される。オゾンガスの注入によってもルテニウムの陽イオンに転換されなかったルテニウムの中性溶存種(Ru(OH)
4)が、塩酸水溶液の注入によって放射性廃液を酸性(例えば、pH2)に調整することにより、ルテニウムの陽イオン(RuCl
2+など)、ルテニウムの陰イオン(RuCl
4-など)及びルテニウムの中性溶存種(RuCl
3など)に転換される。放射性廃液に含まれるルテニウム以外の放射性核種も陽イオン及び陰イオンに転換される。
【0055】
調整タンク15内で生成されたルテニウムの陽イオン(RuCl
2+など)、ルテニウムの陰イオン(RuCl
4-など)及びルテニウムの中性溶存種(RuCl
3など)、さらに、ルテニウム以外の放射性核種の陽イオン、陰イオン及び中性溶存種を含む放射性廃液が、配管13を通して、吸着装置5Bの最上流に位置する吸着塔6Bに供給される。そして、この放射性廃液は、配管12を通して吸着装置の他のそれぞれの吸着塔6Bに、順次、供給される。3価のルテニウムの陽イオン(RuCl
2+など)及びルテニウムの陰イオン(RuCl
4-など)、及びルテニウム以外の放射性核種の陽イオン及び陰イオンが、該当する吸着塔6Bで吸着剤に吸着されて除去される。吸着装置5Bの各吸着塔6Bで除去されなかったルテニウムの中性溶存種(RuCl
3など)及びルテニウム以外の放射性核種を含む放射性廃液が、吸着装置5Bから排出管14に排出される。
【0056】
pH調整剤水溶液は、調整タンク15内の放射性廃液に必要に応じて添加してもよいし、または添加しなくてもよい。
【0057】
本実施例では、放射性廃液にpH調整剤を添加する例について述べたが、放射性廃液に添加する薬剤としては、酸化剤、還元剤及びpH調整剤のうち少なくとも1種を用いればよい。例えば、さらに、調整タンク15内の放射性廃液に酸化剤及び還元剤を添加する場合には、pH調整剤と同様に、酸化剤タンク、及び開閉弁を設けた酸化剤供給配管を有する酸化剤供給装置、及び還元剤タンク、及び開閉弁を設けた還元剤供給配管を有する還元剤供給装置をそれぞれ調整タンク15に接続すればよい。
【0058】
本実施例は実施例1で生じる効果を得ることができる。さらに、本実施例では、吸着装置5で放射性廃液に含まれるルテニウム等の放射性核種のイオン(陽イオン及び陰イオン)を除去し、調整タンク15内で、ルテニウム等の放射性核種の中性溶存種を含む放射性廃液にpH調整剤である塩酸を注入して、ルテニウム等の放射性核種の中性溶存種を、放射性廃液のpHを、例えば、酸性に調整することによって、ルテニウム等の放射性核種の中性溶存種を、陽イオン及び陰イオンに変えることができる。このため、中性溶存種から生成されたルテニウム等の放射性核種の陽イオン及び陰イオンを吸着装置5Bで吸着により除去することができる。このため、放射性廃液に含まれる放射性核種をさらに低減することができる。本実施例では、放射性廃液に含まれる放射性核種の除去効率をさらに向上させることができる。