特許第6046591号(P6046591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046591
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】オーステナイト系耐熱鋳鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20161212BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20161212BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/60
   !C21D6/00 101H
   !C21D6/00 101L
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-231680(P2013-231680)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-208875(P2014-208875A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2015年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-59253(P2013-59253)
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(74)【代理人】
【識別番号】100160668
【弁理士】
【氏名又は名称】美馬 保彦
(72)【発明者】
【氏名】大竹 和実
(72)【発明者】
【氏名】上田 貴康
(72)【発明者】
【氏名】弦間 喜和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高浩
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−113143(JP,A)
【文献】 特開昭55−038957(JP,A)
【文献】 特開平07−228955(JP,A)
【文献】 特開昭53−137818(JP,A)
【文献】 特許第5353716(JP,B2)
【文献】 特開昭60−197816(JP,A)
【文献】 特開2014−185361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 6/00− 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.1〜0.6質量%、
Si:1.0〜3.0質量%、
Mn:0.5〜1.5質量%、
P:0.05質量%以下、
S:0.05〜0.3質量%、
Cr:14〜20質量%、
Ni:9〜16質量%、
N:0.1〜0.2質量%、
残部:鉄および不可避不純物からなるオーステナイト系耐熱鋳鋼であって、
基地組織がオーステナイト結晶粒で構成されており、フェライト相が前記オーステナイト結晶粒の粒界近傍に形成されており、前記フェライト相の面積率は、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して1〜10%の範囲にあることを特徴とするオーステナイト系耐熱鋳鋼。
【請求項2】
前記オーステナイト系耐熱鋳鋼には、1.0〜3.0質量%のCuをさらに含有していることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系耐熱鋳鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーステナイト系耐熱鋳鋼に関し、特に、熱疲労特性に優れたオーステナイト系耐熱鋳鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オーステナイト系耐熱鋳鋼は、自動車のエキゾーストマニホールドやタービンハウジング等の排気系部品等に使用されている。このような、部品は、使用環境が高温で過酷となることから、優れた熱疲労特性を備えるには、高温強度特性に優れることと、常温から高温までの靱性に優れることが必要とされている。
【0003】
このような点から、たとえば、特許文献1には、C:0.2〜0.6質量%,Si:2質量%以下,Mn:2質量%以下,Ni:8〜20質量%,Cr:15〜30質量%,Nb:0.2〜1質量%,W:1〜6質量%,N:0.01〜0.3質量%,残部:Feおよび不可避不純物からなるオーステナイト系耐熱鋳鋼が提案されている。このような耐熱鋳鋼は、上述した成分の材料を出発材料として溶融して得られた溶湯を、鋳造後、残留応力を除去するために、1000℃、2時間の加熱条件で熱処理される。
【0004】
また、特許文献2には、C:0.20〜0.60質量%、Si:2.0質量%以下、Mn:1.0質量%以下、Ni:4.0〜6.0質量%、Cr:20.0〜30.0質量%、W:1.0〜5.0質量%、Nb:0.2〜1.0質量%、N:0.05〜質量0.2%、残部Feおよび不可避不純物からなる組成を有し、オーステナイト相が20〜95%、残りがフェライト相の2相組織である耐熱鋳鋼が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−228950号公報
【特許文献2】特開平6−256908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のオーステナイト系耐熱鋳鋼は、組織の大半をオーステナイト結晶粒が占有するため、高温時における引張強さは高いが、オーステナイト結晶粒が過多であるため熱膨張が大きく、熱疲労特性は十分なものではなかった。
【0007】
一方、特許文献2に記載の耐熱鋳鋼は、オーステナイト相と、フェライト相との2相系の耐熱鋳鋼であるため、上述した如きオーステナイト結晶粒による熱膨張を低減することができる。しかしながら、フェライト相自体は、結晶粒として組織内に存在している。そのため、オーステナイト結晶粒よりも柔らかいフェライト結晶粒により、高温時における引張強さは、高いものであると言い難い。これにより、特許文献2に記載の耐熱鋳鋼は、熱膨張を抑えているが、高温時における引張強さが従来のオーステナイト系耐熱鋳鋼よりも低いため、結果として熱疲労特性は十分なものであるとはいえなかった。
【0008】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高温時における引張強さを保持しつつ、熱膨張を緩和することにより、熱疲労特性を向上させることができるオーステナイト系耐熱鋳鋼およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは多くの実験と研究を鋭意行うことにより、オーステナイト結晶粒により高温時におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張り強さを確保し、フェライト相で、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張を抑えることが重要であると考えた。具体的には、オーステナイト結晶粒を基地組織とし、オーステナイト結晶粒の周りにフィエライト相を結晶粒化させず(偏在させず)、微細なフェライト相をオーステナイト結晶粒間に介在させることにより、高温時におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さを保持できるとの新たな知見を得た。
【0010】
本発明は発明者らの前記新たな知見に基づくものであり、本発明に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼は、C:0.1〜0.6質量%、Si:1.0〜3.0質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.05〜0.3質量%、Cr:14〜20質量%、Ni:9〜16質量%、N:0.1〜0.2質量%、残部:鉄および不可避不純物からなるオーステナイト系耐熱鋳鋼であって、基地組織がオーステナイト結晶粒で構成されており、該オーステナイト結晶粒のまわりを覆うように、フェライト相がオーステナイト結晶粒間に分散して介在していることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の基本成分は、鉄(Fe)をベースとしたオーステナイト系耐熱鋳鋼であって、全体を100質量%(以下、単に「%」と表示する。)としたときに、上述した成分の炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、および窒素(N)を上述した範囲で含有している。そして、基地組織がオーステナイト結晶粒で構成されており、該オーステナイト結晶粒のまわりを覆うように、フェライト相がオーステナイト結晶粒間に分散して介在しているので、高温におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さを保持しつつ、熱膨張を緩和することにより、熱疲労特性を向上させることができる。
【0012】
すなわち、フェライト相自体が結晶粒として組織内に存在せず、オーステナイト結晶粒の周りをフェライト相が覆うように分散されているので、オーステナイト結晶粒そのものに起因した、高温時におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さを高めることができる。また、フェライト相自体は、オーステナイト相に比べて熱膨張が小さいので、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張を抑えることができる。このような結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性をこれまでのものに比べて画期的に向上させることができる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記フェライト相の面積率は、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して1〜10%の範囲にある。後述する発明者らの実験からも明らかなように、このような面積率で、フェライト相を含有させることにより、より確実にオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性をこれまでのものに比べて向上させることができる。
【0014】
すなわち、フェライト相の面積率が、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して、1%未満である場合には、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張が大きくなる。このような結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性が低下してしまうおそれがある。
【0015】
一方、フェライト相の面積率が、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して、10%を越えた場合には、フェライト相が結晶粒として組織内に存在し易くなる。このような結果、高温時におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さが低下し、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性が低下してしまうおそれがある。
【0016】
より好ましい態様としては、前記オーステナイト系耐熱鋳鋼には、1.0〜3.0質量%のCuをさらに含有している。この態様によれば、上述した範囲の銅(Cu)をさらに含有することにより、オーステナイト結晶粒にCuが固溶する。これにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さをさらに高めることができる。このような結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性をさらに向上させることができる。
【0017】
ここで、Cuの含有量が1質量%未満である場合には、Cuを含有することによるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの向上をあまり期待することができない。一方、Cuの含有量が3質量%を越えた場合には、オーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの向上をこれ以上期待することができないばかりでなく、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張が大幅に増大することになる。このような結果、Cuを含有しないもの以上に、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性が低下してしまうおそれがある。
【0018】
本発明として、上述したオーステナイト系耐熱鋳鋼を好適に製造することができる製造方法をも開示する。本発明に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の製造方法は、C:0.1〜0.6質量%、Si:1.0〜3.0質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.05〜0.3質量%、Cr:14〜20質量%、Ni:9〜16質量%、N:0.1〜0.2質量%、残部:鉄および不可避不純物からなる溶湯により鋳鋼を鋳造する工程と、該鋳鋼を、加熱温度700℃〜800℃、加熱時間20〜300時間の加熱条件で熱処理する工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、鋳造工程において、オーステナイト系耐熱鋳鋼の基本成分となる、鉄(Fe)をベースとし、全体を100質量%(以下、単に「%」と表示する。)としたときに、上述した成分の炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、および窒素(N)を上述した範囲で添加して、これを溶融させて、溶湯を作製する。この溶湯を所定の鋳型等に流し込み冷却することにより、溶湯から鋳鋼を鋳造する。
【0020】
次に、熱処理工程において、上述した加熱条件となるように、鋳造した鋳鋼に対して熱処理を行う。これにより、基地組織がオーステナイト結晶粒で構成され、オーステナイト結晶粒のまわりを覆うように、フェライト相がオーステナイト結晶粒間に分散して介在した組織を得ることができる。さらに、フェライト相の面積率が、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して1〜10%の範囲となる。
【0021】
このような結果、上述したオーステナイト系耐熱鋳鋼の組織を得ることができるので、高温時におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さを保持しつつ、熱膨張を緩和することにより、熱疲労特性を向上させることができる。
【0022】
より好ましい態様としては、鋳造前の溶湯に、1.0〜3.0質量%のCuをさらに添加する。この態様によれば、上述した範囲の銅(Cu)を溶湯にさらに添加することにより、Cuがオーステナイト結晶粒に固溶する。これにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さをさらに高めることができる。このような結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性をさらに向上させることができる。
【0023】
ここで、Cuの添加量が1質量%未満である場合には、Cuを添加することによるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの向上をあまり期待することができない。一方、Cuの添加量が3質量%を越えた場合には、オーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの向上をこれ以上期待することができないばかりでなく、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張が大幅に増大することになる。このような結果、Cuを添加しないもの以上に、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性が低下してしまうおそれがある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高温時における引張強さを保持しつつ、熱膨張を緩和することにより、熱疲労特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)は、実施例4に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の組織写真であり、(b)は、比較例6に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の組織写真図。
図2】実施例1〜12および比較例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼のフェライトの面積率と加熱時間との関係を示した図。
図3】実施例1〜12および比較例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数の測定結果を示した図。
図4】実施例1〜12および比較例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの測定結果を示した図。
図5】実施例1〜12および比較例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労寿命の測定結果を示した図。
図6】実施例12〜14および比較例15に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数の測定結果を示した図。
図7】実施例12〜14および比較例15に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの測定結果を示した図。
図8】実施例12〜14および比較例15に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労寿命の測定結果を示した図。
図9】被削性試験を説明するための模式図。
図10】実施例15〜18および比較例22〜比較例26に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼のSの添加量と熱疲労寿命との関係を示した図。
図11】実施例15〜18および比較例22〜比較例24に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の被削試験における、加工パスの増加に伴うフライスの逃げ面摩耗量の結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の本発明の実施形態に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼を好適に製造する方法を説明する。
【0027】
本実施形態に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の製造方法は、C:0.1〜0.6質量%、Si:1.0〜3.0質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.05〜0.3質量%、Cr:14〜20質量%、Ni:9〜16質量%、N:0.1〜0.2質量%、残部:鉄および不可避不純物からなる溶湯により鋳鋼を鋳造する工程と、該鋳鋼を、加熱温度700℃〜800℃、加熱時間20〜300時間の加熱条件で熱処理する工程と、を含む。
【0028】
これにより、上述した範囲の成分を基本成分として、基地組織がオーステナイト結晶粒で構成されており、該オーステナイト結晶粒のまわりを覆うように、フェライト相がオーステナイト結晶粒間に分散して介在した組織を得ることができる。さらに、フェライト相の面積率は、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して1〜10%の範囲となる。
【0029】
このようにして得られた、オーステナイト系耐熱鋳鋼は、すなわち、フェライト相自体が結晶粒として組織内に偏在せず、オーステナイト結晶粒の周りをフェライト相が覆うように分散されている。この結果、オーステナイト結晶粒そのものに起因した、高温時におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さを高めることができる。また、フェライト相自体は、オーステナイト相に比べて熱膨張が小さいので、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張を抑えることができる。このような結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性をこれまでのものに比べて向上させることができる。
【0030】
ここで、フェライト相の面積率が、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して、1%未満である場合には、オーステナイト結晶粒の割合が多くなることにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さは確保できる。しかしながら、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張が大きくなる。このような結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性が低下してしまうおそれがある。
【0031】
一方、フェライト相の面積率が、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して、10%を越えた場合には、フェライト相が増加することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張を抑えることができる。しかしながら、フェライト相が結晶粒として組織内に偏在し易くなる。これにより、高温時におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さが低下してしまう。このような結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性が低下してしまうおそれがある。
【0032】
本実施形態に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼において、各成分の範囲を上記のように限定した理由は次のとおりであり、後に示す実施例によって、それの値はより具体的に説明される。
【0033】
C:Cは、上述した範囲で、オーステナイト安定化元素として作用すると共に、高温強度の向上と鋳造性の改善に有効である。しかし、0.1質量%未満では鋳造性の効果が少ない。一方、0.6質量%を超えるとCrCの析出により組織硬さが増加するとともに靱性が低下する。これにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の被削性が低下することがある。
【0034】
Si:Siは、上述した範囲で、耐酸化性と鋳造性の改善に有効である。しかし、1.0質量%未満では、鋳造性が損なわれるおそれがあり、一方、3.0質量%を超えるとオーステナイト系耐熱鋳鋼の被削性が低下する。
【0035】
Mn:Mnは、上述した範囲で、脱酸反応を促すとともに、オーステナイト相を安定化させる。しかし、0.5質量%未満では、脱酸効果がなく鋳造欠陥が生じてしまう。一方、1.5質量%を超えると加工誘起によるオーステナイト相が生じ、オーステナイト系耐熱鋳鋼の被削性が低下する。
【0036】
P:Pは、上述した範囲で、鋳造割れ等を回避することができる。0.05質量%を越えてしまうと、加熱冷却の繰り返しによる熱劣化が発生しやすくなり、靱性も低下するため、鋳造割れの原因となる。
【0037】
S:Sは、上述した範囲で、被削性を確保するができる。しかし、0.05質量%未満では、被削性が低下してしまう。0.3質量%を超えるとSが母相に溶け込み、熱疲労寿命を低下させてしまう。
【0038】
Cr:Crは、上述した範囲で、耐酸化性を高め、高温強度の改善に有効である。14質量%未満では耐酸化性の効果が低下する。一方、20質量%を超えるとCrCの析出により組織硬さが増加する。これにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の被削性が低下することがある。
【0039】
Ni:Niは、上述した範囲で、フェライト相をオーステナイト結晶粒の周りに結晶粒を覆うように均一に分散させることができる。9質量%未満ではフェライト相の面積率が10%を超えるとともに、フェライト相の結晶粒が生成される。この結果、高温時におけるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さが低下してしまい、熱疲労特性が損なわれてしまう。一方、16質量%を越えた場合には、フェライト相の面積率が1%未満となり、オーステナイト結晶粒が起因となってオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張が大きくなる。この結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性が損なわれてしまう。
【0040】
N:Nは、上述した範囲で、高温強度の向上とオーステナイト相の安定化、組織の微細化に有効である。しかし、0.1%未満ではその効果は十分でなく、0.2%を超える添加は歩留まりが極端に低下して、ガス欠陥の原因となる。
【0041】
本実施形態では、上述した溶湯に、1.0〜3.0質量%のCuをさらに添加し、オーステナイト系耐熱鋳鋼には、このような範囲のCuをさらに含有させてもよい。上述した範囲の銅(Cu)をさらに含有することにより、オーステナイト結晶粒にCuが固溶する。これにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さをさらに高めることができる。このような結果、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性をさらに向上させることができる。
【0042】
ここで、Cuの含有量が1質量%未満である場合には、Cuを含有することによるオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの向上をあまり期待することができない。一方、Cuの含有量が3質量%を越えた場合には、フェライト相の生成が阻害され、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張が大幅に増大することになる。このような結果、Cuを含有しないもの以上に、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労特性が低下してしまうおそれがある。
【実施例】
【0043】
以下、実施例と比較例により、本発明をより具体的に説明する。
[実施例1]
表1に示す組成を持つ、Feをベースとしたオーステナイト系耐熱鋳鋼の出発材料となる試料50kg準備し、高周波誘導炉を用いて大気溶解を行った。得られた溶湯を、1600℃で出湯し、1550℃で25mm×25mm×300mmの砂型鋳型(余熱なし)に注湯し凝固させて鋳鋼品(粗材)を鋳造により得た。鋳鋼品を大気炉で、表2に示す所定温度(具体的には、700℃および800℃)で、所定時間(具体的には20時間)熱処理を行って、実施例1に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。
【0044】
[実施例2〜14]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表1に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表2に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。
【0045】
[比較例1〜5]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表1に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表2に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。比較例1〜5では、加熱時間を20時間未満にした点が、本発明の範囲から外れている。
【0046】
[比較例6〜11]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表1に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表2に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。比較例6〜11では、Niの添加量を9質量%未満とした点、比較例6および9の場合には、さらに加熱時間を20時間未満にした点が、本発明の範囲から外れている。
【0047】
[比較例12〜14]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表1に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表2に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。比較例12〜14では、Niの添加量を16質量%越えにした点、さらに、比較例12の場合には、加熱時間を20時間未満にした点が、本発明の範囲から外れている。
【0048】
[比較例15]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表1に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表2に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。特に、比較例15では、Cuの添加量を3質量%越えにした点が、本発明の範囲から外れている。
【0049】
[比較例16〜18]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表1に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表2に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。特に、比較例16〜18では、加熱温度を800℃越え(具体的には810℃)にした点が、本発明の範囲から外れている。
【0050】
[比較例19〜21]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表1に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表2に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。特に、比較例19〜21では、加熱温度を700℃未満(具体的には690℃)にした点が本発明の範囲から外れている。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
<組織観察およびフェライト面積率の測定>
実施例1〜14および比較例1〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片に対して、電子後方散乱回折像解析(EBSD法:Electron BackScatter Diffraction)により、組織観察を行い、フェライト面積率を測定した。なお、フェライト面積率は、30μm×30μmの矩形状の観察視野内における、組織全体(視野全体)の面積に対してフェライトが占有している面積の割合を画像処理により算出した。この結果を表2に示す。なお、実施例1〜14および比較例1〜15に関しては、加熱温度700℃と800℃とにおける値が、ほとんど変化なかったのでこれらの平均値を表2に示した。
【0054】
図1(a)は、実施例4に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の組織写真であり、図1(b)は、比較例6に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の組織写真図である。図2は、実施例1〜12および比較例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼のフェライトの面積率と加熱時間との関係を示した図である。
【0055】
<熱膨張係数の測定>
実施例1〜14、比較例1〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片に対して、熱膨張係数を測定した。具体的には、900℃における熱膨張係数を、押し棒式膨張計を用いて測定した。テストピースの形状はφ6×50mmを使用し、石英ガラスの熱膨張と比較することにより測定した。この結果を表2に示す。なお、実施例1〜14および比較例1〜15に関しては、加熱温度700℃と800℃とにおける値が、ほとんど変化なかったのでこれらの平均値を表2に示した。
【0056】
図3は、実施例1〜12および比較例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数の測定結果を示した図であり、図6は、実施例12〜14および比較例15に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数の測定結果を示した図である。
【0057】
<引張強さの測定>
実施例1〜14および比較例1〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片に対して、引張り強さを測定した。具体的には、試験はJISZ2241およびJISG0567の規定に準拠し、900℃の温度で引張強さを測定した。この結果を表2に示す。
【0058】
図4は、実施例1〜12および比較例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの測定結果を示した図であり、図7は、実施例12〜14および比較例15に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さの測定結果を示した図である。なお、実施例1〜14および比較例1〜15に関しては、加熱温度700℃と800℃とにおける値が、ほとんど変化なかったのでこれらの平均値を表2に示した。
【0059】
<熱疲労寿命の測定>
実施例1〜14および比較例1〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の試験片に対して、熱疲労試験を行った。この熱疲労試験は、電気−油圧サーボ式の熱疲労試験機により、試験片(標点距離:15mm、標点径:φ8mm)を用い、上限・下限温度の中央となる温度からの加熱による試験片の熱膨張伸びを100%拘束率(機械的に完全拘束させた状態)で、1サイクル9分とする三角波の加熱冷却サイクル(下限温度:200℃、上限温度900℃)を繰り返し、試験片が完全切断するまでの繰り返し数によって熱疲労特性を評価した。この結果を表2に示す。なお、実施例1〜14および比較例1〜15に関しては、加熱温度700℃と800℃とにおける値が、ほとんど変化なかったのでこれらの平均値を表2に示した。
【0060】
図5は、実施例1〜12および比較例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労寿命の測定結果を示した図であり、図8は、実施例12〜14および比較例15に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱疲労寿命の測定結果を示した図である。
【0061】
[結果1:フェライト相とフェライト面積率について]
表2および図2に示すように、実施例1〜12に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼では、フェライト相の面積率は、オーステナイト系耐熱鋳鋼の組織全体に対して1〜10%の範囲にあった。これは、Niの含有量を9〜16質量%とし、加熱温度700℃〜800℃、加熱時間20〜300時間の加熱条件で熱処理したことによると考えられる。
【0062】
このようにして得られた組織は、図1(a)に示すように、基地組織がオーステナイト結晶粒で構成され、該オーステナイト結晶粒のまわりを覆うように、フェライト相がオーステナイト結晶粒間に分散して介在した組織であった。
【0063】
一方、比較例1〜5(加熱時間:20時間未満)および比較例12〜14(Niの添加量:16質量%越え)に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼には、フェライトは生成されていなかった。また、比較例6〜11(Niの添加量:9質量%未満)に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼では、フェライト相の面積率が10%を越えていた。さらに、結晶粒としてオーステナイト結晶粒とフェライト結晶粒が生成されていた。
【0064】
また、表2に示すように、比較例16〜18(加熱温度:800℃越え)に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼では、フェライト相の面積率が10%を越えていた。比較例19〜21(加熱温度:700℃未満)に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼には、フェライト相の面積率が1%未満となった。
【0065】
[結果2:熱膨張係数について]
図3に示すように、実施例1〜12に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数は、比較例1〜5および比較例12〜14のものよりも低く、比較例6〜11のものよりも高かった。すなわち、実施例1〜12に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数は、比較例1〜5および比較例12〜14のものと、比較例6〜11ものとの中間値となった。
【0066】
また、表2に実施例1〜14および比較例1〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数を示すが、図3および表2により、実施例1〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼のフェライト面積率が、1〜10%の範囲にあり、比較例1〜5、比較例12〜15、および比較例19〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼のフェライト面積率は1%未満であり、比較例6〜11および比較例16〜18に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼のフェライト面積率は10%を越えており、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数は、フェライト面積率に依存しているからであると考えられる。
【0067】
すなわち、オーステナイト系耐熱鋳鋼のフェライト相の占有率が高いほど、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数が低くなると考えられる。なお、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数が低いほど、熱膨張を緩和し、熱疲労特性には有利な傾向をもつ。
【0068】
[結果3:引張強さについて]
図4および表2に示すように、実施例1〜12に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さは、比較例1〜5、比較例12〜14、および比較例19〜21のものと同程度であり、比較例6〜11および比較例16〜18のものよりも高かった。また、表2に実施例1〜14および比較例1〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さを示すが、比較例6〜11および比較例16〜18のオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さが他のものと比べて低かったのは、オーステナイト系耐熱鋳鋼にフェライト結晶粒が生成されていたからであると考えられる。
【0069】
一方、実施例1〜12に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼は、オーステナイト結晶粒のまわりを覆うように、フェライト相がオーステナイト結晶粒間に分散して介在している(オーステナイト結晶粒の粒界近傍にフェライト相が形成されている)ので、比較例1〜5、比較例12〜14、および比較例19〜21のものと同程度の引張り強さが確保されたと考えられる。
【0070】
[結果4:熱疲労特性について]
図5に示すように、実施例1〜12に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の疲労寿命は、他の比較例のものよりも長かった。また、表2に実施例1〜14および比較例1〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の疲労寿命を示すが、図5および表2より、比較例1〜5、比較例12〜15、および比較例19〜21に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の場合には、実施例1〜12に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張り強さと同等であったが、これらの熱膨張係数は実施例1〜12のものよりも高かったため、実施例1〜12のものに比べて熱疲労寿命が短くなったと考えられる。
【0071】
一方、比較例6〜11および比較例16〜18のオーステナイト系耐熱鋳鋼の場合には、実施例1〜12に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張り強さよりも大幅に小さかったため、実施例1〜12のものに比べて熱疲労寿命が短くなったと考えられる。
【0072】
[結果5:Cuをさらに添加した場合の効果について]
図6に示すように、実施例12〜14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張係数は、比較例15のものに比べて低い。比較例15の如く、Cuの含有量が3質量%を越えた場合には、フェライト相が生成されず、オーステナイト系耐熱鋳鋼の熱膨張が大幅に増大すると考えられる。
【0073】
図7に示すように、実施例13、14、および比較例15に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の引張り強さは、実施例12のものよりも高かった。これは、オーステナイト系耐熱鋳鋼のオーステナイト結晶粒にCuが固溶したからであると考えられる。
【0074】
図8に示すように、実施例13および14に係るオーステナイト系耐熱鋳鋼の疲労寿命は、実施例12および比較例15のものよりも長かった。これは、Cuを1.0〜3.0質量%添加することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の引張強さが向上したことに起因すると考えられる。
【0075】
[実施例15〜18]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表3に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表4に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。なお、今回は、後述する被削性試験用の鋳型として、20mm×40mm×2200mmの粗材が採取できる鋳型を採用している。
【0076】
なお、実施例15は表1の実施例1に相当し、実施例16は表1の実施例13に相当し、実施例17は表1の実施例4に相当し、実施例18は表1の実施例7に相当するものであり、フェライト面積率と熱疲労寿命の測定の結果に、上述した対応する実施例の結果(表1参照)を採用して、表4および図10に示した。
【0077】
<被削性試験>
実施例15〜18に係る試験片に対して被削性試験を行った。具体的には、図9に示すように、フライスを回転速度20mm/mim、送り速度0.2mm/rev、取代1.0mmに設定し、面積が40mm×220mmを切削した回数を1パスとした。このときに被削性(旋削性)の評価として、加工数(最大150パス)におけるフライスの逃げ面摩耗量を測定した。この結果を、図11に示す。
【0078】
図11は、加工バスの増加に伴うフライスの逃げ面摩耗量の結果を示した図である。なお、実施例15〜18において加熱温度700℃と800℃とにおける値が、ほとんど変化なかったのでこれらの結果の平均値を図11に示している。さらに、表4には、加工数100パスで逃げ面摩耗量が0.1mm以下である場合には○、0.1mmを超えた場合には×を記載した。
【0079】
[比較例22〜26]
実施例1と同じように、オーステナイト系耐熱鋳鋼からなる試験片を作製した。具体的には、表3に示す成分の試料を用いて試験片を鋳造し、表4に示す加熱条件で、試験片に対して熱処理を行った。特に、比較例22〜24では、Sの添加量を0.05質量%未満にした点が、本発明の範囲から外れており、比較例25、26では、Sの添加量を0.3質量%越えにした点が、本発明の範囲から外れている。
【0080】
比較例22〜26の試験片に対して、実施例1で行った測定と同じ測定方法で、フェライト面積率と熱疲労寿命の測定を行った。さらに、比較例22〜26の試験片に対して、実施例15〜18で行った被削性試験と同様の試験を行った。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
[結果6:Sの添加量の効果について]
図10に示すように、比較例25、26の如く、Sの添加量が0.3質量%を超えた場合、熱疲労寿命が急激に低下した。これは、Sの添加量が0.3質量%を超えた場合、Sが母相に溶け込んだからであると考えられる。
【0084】
一方、図11に示すように、比較例22〜24の如く、Sの添加量が0.05質量%未満の場合、フライスの逃げ面摩耗量が多く、オーステナイト系耐熱鋳鋼被削性が低下した。これは、Sの添加量が0.05質量%未満の場合、オーステナイト系耐熱鋳鋼に含まれるMnSによる快削性の効果が十分に得られないからであると考えられる。
【0085】
このような結果から、実施形態の如く、オーステナイト系耐熱鋳鋼に、Sの添加量を0.05〜0.3質量%とすることにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼の被削性を向上させるとともに、熱疲労特性の低下を抑えることができると考えられる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11