【実施例】
【0066】
[実験1]
実験1では、水中油型エマルションを安定させる澱粉顆粒の機能を調査した。
澱粉は湿式ミリング処理によってキノア(バイオフード、スウェーデン)から単離し、2.9%にOSA変性した。キノアは、そのかなり小さく単峰形の顆粒サイズ分布のために選択した。エマルションの連続相は、20℃での密度1009.6kg/m
3の、0.2MのNaClを含むpH7のリン酸緩衝液であった。そして、分散相は20℃での密度945kg/m
3の中等度鎖トリグリセリド油ミグリオール812(Sasol、独国)であった。
【0067】
[方法]
[キノア澱粉の分離]
キノアの種はブレンダー(PhilipsHR7625、オランダ)中で、水を使用してミリングし、濾し布を通して濾過した。澱粉が沈殿し、上澄みを取り除いた。真水を澱粉に加え、沈殿及び水の除去の後、20℃にて4日間真空乾燥機で乾燥した。澱粉を、3%のNaOH−溶液を用いて二度、水を用いて一度、及びクエン酸(pH4.5)を用いて一度洗浄することによって、乾燥澱粉の中のタンパク質を除去し、その後、澱粉を室温で空気乾燥してすり鉢とすりこぎを用いて分解した。
【0068】
[OSA−変性]
ステンレス−鋼のプロペラを使用して、2倍の重量部の水で澱粉を完全に懸濁し、pHを7.8に調節した。4等量のOSA(澱粉の重量に基づく計4%)を15分間隔で加え、1MのNaOH溶液を一滴一滴加えることによってpHを7.4〜7.9に維持した。pHを少なくとも15分間安定させたとき、澱粉溶液を3000xgで10分間遠心分離し、水を用いて二度、及びクエン酸(pH4.5)を用いて一度洗浄し、その後、澱粉を少なくとも48時間室温で空気乾燥した。
【0069】
OSAの置換を滴定法によって決定した。簡潔に言えば、5gの澱粉(乾燥重量)を、50ml、0.1MのHClに分散し、30分間撹拌した。スラリーを3000xgで10分間遠心分離し、50mlのエタノール(90%)を用いて一度、及び水を用いて二度洗浄し、その後、澱粉を300mlの水の中に懸濁し、10分間沸騰した湯浴で加熱し、25℃に冷却した。澱粉溶液を、0.1MのNaOHでpH8.3に滴定した。試料としてOSA澱粉と同じ由来の天然澱粉を用いて、同時にブランクを滴定した。澱粉顆粒の上のOSAからのカルボキシル基の割合を、以下によって計算した。
【数7】
ここで、Vは試料及びブランク滴定に必要なNaOHの体積(ml)であり、MはNaOH(0.1M)のモル濃度であり、Wは澱粉の乾燥重量(mg)であり、また、210はオクテニルスクシニル基の分子量である。
【0070】
[乳化]
エマルションは、ガラスの試験管中で、連続相6.65ml、分散相0.35ml、及び様々な量(12.5mg〜1250mg)の澱粉を組み合わせることにより調製し、イストロール(D−79282、Ballrechten−Dottingen、独国)中で、22000rpmで30秒間、高剪断の混合により乳化させた。続いて、ボルテックス処理して乳化した試料を、乳化の1日及び1週後に写真を撮り、試料の画像をImageJで分析し、乳脂状物/沈殿物層の体積を決定した。澱粉の乳化能力及びエマルションの安定性を、相対的閉塞体積(ROV)として表した。
【数8】
ここで、V
emulsは観察されるエマルション(即ち不明瞭な一部分)の体積であり、V
oilは油相の体積であり、そして、V
starchは添加した澱粉によって占有される体積である。完全に相分離した系において、ROV=1に等しく、即ちエマルション層の構成相の増加を越えるエマルション層の増加はない。
【0071】
[澱粉顆粒及びエマルションの粒子サイズ測定]
粒子サイズ分布は、乳化の1日及び1週後に、澱粉及び澱粉に覆われたエマルションについて、ミー光学モードのレーザー回折(CoulterLS130、コルター・エレクトロニクス社、Luton Beds、英国)を用いて測定し、1.54の屈折率を使用した。少量の体積の試料を流系に加え、測定用の光学容器にポンプで通した。
【0072】
[顕微鏡検査]
エマルションを連続相で5倍に希釈し、続いて、試料をVitroCom100マイクロメートル正方形チャネル(CMS社、イルクレー、英国)に置いた。エマルションの顕微鏡画像を、オリンパスBX50(東京、日本)及びデジタルカメラ(DFK 41AF02、Imaging source、独国)を使用して得た。
【0073】
[結果]
[油−水界面に吸着して安定化した澱粉顆粒]
キノア澱粉顆粒(平均直径1.34μm)は、ピカリング型エマルションであるように見える密接に充填された層(
図1−1中の挿入を参照)において、油水界面を安定化することが認められた。(体積平均直径D
43の)サイズ分布を、澱粉顆粒(実線)及び澱粉に安定化されたエマルション(点線)について、
図1−1にプロットする。測定した澱粉顆粒の粒子サイズ分布は、4〜10μmの範囲のサイズを有するいくつかの凝集を示した。SEM画像がそのような広範囲にわたる個々の顆粒サイズを示さないことから、それらは凝集したと推測される。結果として生じるエマルションにおいて、澱粉のいくつかの凝集体は顕微鏡で認められ、それらは主ピークの上の小さなショルダーとしてエマルションの粒子サイズ分布においても認められた(
図1−1の点線)。
【0074】
[滴サイズは添加する澱粉の量によって制御することができる]
油1ml当たりの澱粉の量が増加すると、最終的なエマルションの滴サイズは減少する。64μm(添加した澱粉36mg/ml油)〜9.9μm(添加した澱粉3600mg/ml油)に渡る滴サイズを有するエマルションが観察された。濃度のサイズに対する効果は、最も高い濃度を越えると減少効果を有する(
図1−2を参照、対数スケールに注意)。
【0075】
再現性の程度を推定するために、2つの乳化条件は三重、及びひとつは二重に作成した。油1mlにつき71mgの澱粉を用いた条件では、体積平均径D
43±平均値の標準誤差は58.4±1.13に等しく(n=3)、油1mlにつき571mgの澱粉を用いた条件では、D
43±平均値の標準誤差は26.9±3.26に等しく(n=3)、また、油1mlにつき1714mgの澱粉を用いた条件では、D
43±平均値の標準誤差は12.3±0.014に等しかった(n=2)。
【0076】
最も低い2つの澱粉濃度における7日後のわずかに大きい滴サイズの傾向を除いては、滴サイズは1日後及び7日後に測定し、ほとんど変化を有しないことがわかった(場合により滴サイズは減少さえするが複製の間のばらつきの範囲内のレベルである)(
図1−2を参照)。より容易なコアレッセンスを許す低濃度においては、完全に界面を安定させるのに十分な澱粉がなくてもよいことから、このことは予想することができた。その後、それらが室温で数カ月保管した後でさえ不変のままであることが認められた。
【0077】
油分率を増やしたとき(油に対する澱粉の比率は一定)、測定した滴サイズに有意な変化はなかった。12.5%の油でD
43は36.6±1.98μmであり、16.6%の油でD
43は36.9±0.240μmであり、25.0%の油でD
43は35.9±0.156μmであり、また、33.3%の油でD
43は36.4±2.16μmであった。これは、滴サイズは添加する澱粉の量によって決定するという上記の観測と合致した。
【0078】
[滴密度は添加する澱粉の量によって制御することができる]
澱粉、油、及び水の密度の違いのために、澱粉顆粒に覆われたエマルションは浮力効果がかなり減少するような高い割合で乳脂状にならない。澱粉の油水界面での最密充填、及び澱粉が滴径と比較して小さいと仮定して、幾何学的な分析、既知の相密度(ρ
starch 1550kg/m
3、ρ
oil 945kg/m
3)、及び体積(V
starch、V
oil、V
droplets)から、澱粉顆粒で覆われたエマルションがいかなる滴サイズで浮かび又は沈むかについて計算することができる。
【数9】
【0079】
澱粉濃度が増加するにつれ滴サイズは減少し、最終的にそれらが連続相より濃くなり沈み始めるまで、澱粉に覆われた滴の有効密度が増加する。このレベルは
図1−2中の垂直線として示しており、
図1−3中の観察及び写真と一致する。ここで、エマルション滴は200mg/ml油以上の濃度において大部分が沈んでいる。添加する澱粉(油1ml当たりのmgの澱粉として表される)の量を増やせば、油を覆っている澱粉層に対する油の相対体積が小さいため、滴サイズは減少し、密度は増加する。浮力中性のエマルションは乳脂状又は沈殿になりにくく、したがってより高い安定性を有する。
【0080】
[エマルション相の特性]
エマルションの特性は、油に対する澱粉の比率によって、低粘性の乳脂から、簡単に分散し分裂する弱い滴で満たされた降伏応力を示す粒子ゲル(油で架橋されてもよい)まで変化する。エマルション相の相対的閉塞体積は、油に対する澱粉の比率が中程度であるとき最高で約9に及び、即ち、澱粉1.7%及び油5.5%の体積濃度で空間を満たす粒子/油のゲルを形成することができる。
【0081】
[保管特性]
エマルションを1年間冷蔵保管する間、変化は認められなかった。
【0082】
[実験1からの結論]
実験1は、無傷の澱粉顆粒が油滴を効率的に安定させてピカリング型エマルションを作ることを示した。滴サイズは、より高い澱粉濃度においてより低い些細な変動を伴って添加する澱粉濃度に依存することがわかった。この点において、機械の処理レベルのような他の要因が決定的となる可能性がある。作成したエマルションの多くは乳脂状となるか又は沈殿することがあるが、コアレッセンスに対してそれらは安定であり、最初に乳脂状になるか又は沈殿した後は、外見及びエマルション層の高さはほとんど変化を示さない。それらは、室温で数カ月保管した後でさえ不変のままであることが認められた。この種類の澱粉顆粒のピカリング型エマルション系は食品の用途を越えて、例えば化粧品、及び澱粉が承認された賦形剤である製薬製剤において用途を有してもよい。
【0083】
[実験2]
実験2においては、疎水的な処理のタイプの効果、及び結果として生じるエマルションの特性上の疎水性の程度を例示する。
【0084】
[物質]
この実験では、キノアの粒から単離される澱粉を使用した(BiofoodAB、スウェーデン、密度1500kg/m
3)。単離した澱粉顆粒は熱処理するか、又はn−オクテニルスクシニル無水物(CAS:26680−54−6 Ziyun Chemicals Co.,Ltd,中国)を用いて、OSA−変性した。エマルションの本調査において、分散相は中等度鎖トリグリセリド油ミグリオール812(Sasol、独国、密度945kg/m
3)であり、連続相は0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液(密度1009.6kg/m
3)であった。本調査で使用した他の化学物質は、分析グレードであった。
【0085】
小さな粒状澱粉は、実験1に開示したようにキノアの粒から単離した。使用する前に、澱粉顆粒はすり鉢とすりこぎを用いて挽くことにより、微粉末に分解した。
【0086】
[澱粉のOsa−変性]
澱粉粉体の含水量は135℃で赤外バランス(IR-balance)により決定し、この値から、50gの乾燥重量に等しい澱粉粉体の量を量り分けた。ステンレス−鋼のプロペラを使用して2倍の重量部の水で澱粉を完全に懸濁し、pHを7.6に調節した。澱粉の乾燥重量に基づく3%(又は6%、10%)のOSAを加え、4つの部分にして添加の間15分遅れで加えた。pHは、25%のHCl及び/又は1MのNaOHで調節した。続いて、pH計器及び1MのNaOHを備える自動滴定装置を、pHを7.6に保つために使用した。少なくとも15分間pHが安定であったとき(即ち、pHを7.6に保つためにそれ以上のpH調節が必要ないとき)、処理を中断した。
【0087】
澱粉−水−OSA溶液を、3000gで10分間遠心分離し、水を吐出した。澱粉を蒸留水と混合し、2度遠心分離した。澱粉をクエン酸とpH4.5〜5で混合し、その後、遠心分離してすすいだ。澱粉をステンレス鋼のトレイに広げ、少なくとも48時間室温で乾燥した。
【0088】
OSA変性した澱粉の置換の程度の決定は、実験1で開示した滴定法により行った。決定は、OSA変性した澱粉、及びOSA変性した澱粉と同じバッチ由来の対照澱粉の両者について二重に行った。澱粉の乾燥重量は、135℃で赤外バランス(IR-balance)により決定した。そのために、試料の約1gの量を、二重に使用した。続いて、乾燥物質に基づく2.5gの澱粉を量り、50mlのビーカーに添加した。澱粉はエタノール数滴で濡らし、その後、0.1MのHCl25mlを加え、続いて30分間磁気スターラーを用いて撹拌した。スラリーを3000gで10分間遠心分離し、上澄みを捨てた。澱粉をエタノール25mlと混合し、その後、澱粉を洗浄するために遠心分離した。続いて、上澄みを捨てた。澱粉を前記のように洗浄したが、蒸留水を用いて二回行った。澱粉を500mlのビーカーに加え、150mlの蒸留水と混合した。混合物を95℃で沸騰している水浴で10分間加熱し、その後、25℃に冷却した。pHが8.3になるまで、混合物を0.1MのNaOHを用いて滴定した。使用したNaOH体積をメモした。顆粒のOSA由来のカルボキシル基の割合(表1−1を参照)は、以下によって計算した。
【数10】
ここで、Vは試料及び対照の滴定のために要したNaOHの体積(ml)であり、MはNaOHのモル濃度(0.1M)であり、Wは澱粉の乾燥重量(mg)であり、また、210はオクテニルスクシニル基の分子量である。
【0089】
【表1-1】
【0090】
[澱粉の熱的改質]
乾燥澱粉(10g)を、厚さ1〜2mmの層で、開いたペトリ皿に置いた。試料を、オーブンで、異なる時間(30、60、90、120、及び150分)の間、120℃で加熱した。熱処理した試料は、それらを使用する前に、数時間室温で放置した。この処理は、澱粉顆粒の表面を疎水的に改質して、それによって油水界面に対するより高い親和性を得るために行った。
【0091】
[乳化]
エマルションは、ガラスの試験管内で総体積6mlを調製した。すべてのエマルションは三重に作成した。エマルションは、分散相として7%のミグリオール(即ち0.4g)、澱粉量214mg/ml油(即ち0.089g)、及び連続相として0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液水溶液(即ち5.63g)を含んだ。すべての実験は、如何なる温度調節も行わず室温で行った。澱粉、油、及び緩衝液を秤量し、試験管に入れ、5秒間ボルテックスミキサー(VM20、チルターン・サイエンティフィック・インスツルメンテーション社、英国)を用いて撹拌し、その後、Ystral(D−79282、Ballrechten−Dottingen社、独国)を用いて22000rpmで30秒間混合した。
【0092】
[光散乱によるエマルションの特性評価]
レーザー回折粒子サイズ分析装置(Mastersizer 2000 Ver.5.60、Malvern、英国)を、油滴の粒子サイズ分布を決定するために使用した。エマルションを超純水を含む流系に加え、ポンプで光学容器を通した。凝集する滴の量を減らすため、ポンプ速度は2000rpmとした。粒子の屈折率(RI)は滴を覆っている澱粉に対応する1.54とした。連続相の屈折率は、水のRIである1.33とした。不明瞭度が10〜20%の間となるまで試料を加えた。平均滴サイズD
4,3及びD
3,2、並びにエマルションの滴サイズ分布モードも同様に決定した。
【0093】
[実験2からみた結論]
すべての処理は、澱粉粒子に安定化されたエマルションの生産を可能にし、また、滴のサイズは様々でありいくらかの遊離した澱粉顆粒があったものの、視覚的な観察は、それらが一旦形成されれば滴として残ることを示した。しかし、未処理の顆粒は著しく劣った乳化能力を有し、127μmのピーク(モード)の滴サイズ分布において最も大きな広がりを有した。表1−2に、測定した滴サイズを掲げる。3%周辺又は120℃における30〜90分の熱処理にOSA変性の最適レベルがあるように思われる。あまりに低い変性レベルは、油−水界面に吸着するために十分な親和性を顆粒に与えないことがあり、一方、あまりに高い疎水性のレベルは凝集滴になる。無傷の澱粉顆粒の疎水性変性は、下記の例に更に例示されている多くの有用な特性を有するピカリング型エマルションを安定させる粒子として、それらをうまく機能させる。
【0094】
【表1-2】
【0095】
[実験3]
実験3では、水中油型エマルションを作り出すための7つの異なる無傷の澱粉顆粒の安定化能力を調査した。
【0096】
以下の市販の澱粉を、スクリーニング調査で調査した;米、モチ米、トウモロコシ、モチトウモロコシ、高アミローストウモロコシ(HylonVII)及びモチ大麦(全てLyckeby−CulinarAB、スウェーデン)。実験1のように湿式ミリングによってキノアの粒(Biofood、スウェーデン)から単離した澱粉は、本調査に含まれる。澱粉は、それらの天然形、熱処理及びOSA−変性で調査した。OSA―変性は、実験1のように行った。連続相は0.2MのNaClを含む、及び含まないpH7の5mMのリン酸緩衝液であり、分散相は中等度鎖トリグリセリド油ミグリオール812(Sasol、独国)であった。
【0097】
[澱粉の熱処理]
乾燥澱粉をガラスシャーレに置き、澱粉顆粒の表面タンパク質を疎水的に改質し、それによってより高い油結合能を達成するために、120℃で150分間オーブンで熱処理した。
【0098】
[澱粉顆粒の粒子サイズ測定]
澱粉の粒子サイズ分布を、セルを通した流れのレーザー回折(Coulter LS130、Beckman Coulter、英国)(実験1で開示した)を使用して測定した。
【0099】
[乳化]
エマルションは、4mlの連続相、2mlの油相、及び100〜400mgの澱粉をガラスの試験管で、11000rpmで30秒間Ystrol(D−79282、Ballrechten―Dottingen、独国)を用いて混合することにより調製した。
【0100】
[色素安定性試験]
油溶性色素SolventRed26約1mgをエマルションの上部に加え、24h後に試験チューブを3回穏やかに回した。更に2時間後に、エマルションはボルテックスミキサーで5秒間振り、6日間室温で保管した。エマルションの色の変化が認められた。ボルテックス後の色は、形成された滴の安定性の尺度となる。安定した滴は、油溶性の色素と置換せず、それゆえ、エマルション相は白色のままである。赤色の増したエマルション相は、滴が澱粉顆粒を吸着することによってより安定しなかったか、又は系中に遊離した油相があることを示す。表2−1を参照のこと。
【0101】
[顕微鏡検査]
エマルションの顕微鏡検査には、オリンパスBX50(日本)顕微鏡、及びデジタルカメラを使用した。画像は、ImageJ(バージョン1.42m)で処理した。
【0102】
[分析]
連続及びエマルション層の相−分離は、以下のようにして監視した。即ち、エマルションを6日間室温で保管した。乳状試料の入った試験管はボルテックスした6日後に写真を撮影し、試料の画像はImageJで分析した。澱粉の乳化能力及びエマルションの安定性は、総試料体積に対する乳脂状のエマルション層の体積として表した。エマルション(E)の体積分率を以下の通りに計算した。
【数11】
試験管の底の物質、一般には残留する澱粉の量もまた、計算した。表2−1を参照のこと。
【0103】
エマルションの滴サイズ分布は、顕微鏡の画像から決定した。直径1.4mm未満の滴を含む試料で、少なくとも250滴の直径をImageJを用いて測定した。表面の平均滴直径(D
32)及び体積平均径(D
43)を、下記の方程式を使用して計算した。
【数12】
ここで、Dは測定した滴の直径であり、nは数えた総数である。割合の変動係数(CV)及び標準偏差を下記の方程式によって計算し、各々の試料におけるエマルション滴の分布を得た。
【数13】
【0104】
[実験3からみた議論]
[澱粉]
本調査のために選択した澱粉は異なる顆粒サイズを有し、キノアが最も小さく、米、トウモロコシ、及び大麦がこれに続き、これらの顆粒もまた異なる形状を有した。大麦澱粉顆粒は17μmの平均D
32のなめらかな形の球及び扁円の球状体であったが、キノア、米、及びトウモロコシはより不規則な多角形の形状を有した。キノア顆粒はおよそ2μmのD
32を有し滑らかな縁を有した一方、米は、モチ−及び通常の米についてそれぞれ4.5及び5.4μmのD
32を有する鋭い縁の顆粒を有した。モチ−及び通常のトウモロコシはそれらの顆粒の滑らかで鋭い縁を有した一方で、高アミロースのトウモロコシはより滑らかで、また、いくつかの棒形状の顆粒を有した。トウモロコシ顆粒の平均サイズは、高アミロースのトウモロコシで9.3μm、及びその他の2種のトウモロコシで15μmであった。顆粒の形状は、全3つのキノア顆粒(天然、熱処理、OSA−変性)において類似していた。しかし、熱処理又はOSA−変性を受けた顆粒について、高まった疎水性により生じた高い凝集度に部分的に起因して、サイズは増大した。個々のキノア澱粉顆粒は、0.7〜2.2μmの間のサイズを有した。
【0105】
澱粉は、アミロース/アミロペクチン組成物において自然変異を有し、また、通常の種類は20〜30%周辺のアミロース含有量を有する。モチ−澱粉は非常に低いアミロース含有量を有し、本調査においてはモチ−種の米、大麦、及びトウモロコシを使用した。より広範囲のアミロース含有量で乳化挙動を見るために、アミロース70%の高いアミロース含有量をもつ種々のトウモロコシ(HylonVII)もまた使用した。OSA結合が分子スケールで不均一であり澱粉分子の分岐の違いに影響を受けることが示された。
【0106】
表2−1は使用した試験条件及び主要な結果をまとめたものである。乳化後試料をボルテックス中で混合する前に、試料上に色素を添加したため、ボルテックス後の色は形成した滴の安定性の尺度となる。安定した滴は、如何なる染色した油とも置換しなかった。それゆえに、エマルション相は白色のままだった。赤色の増したエマルション相は、滴が吸着する澱粉顆粒によってより安定しないことを示した。
【0107】
滴のサイズは、エマルションの色及び安定性と相関した。小さな滴を安定させることができた澱粉顆粒は、最も安定した滴を作った。これは主に安定化顆粒のサイズに依存したが、顆粒の形もまた影響を有した。この調査で使用した状況下でエマルションを安定させるために、キノア(最も小さい顆粒サイズを有する)は優れた最高の能力を有した。キノア澱粉の処理及び濃度、又は使用した系に関係なく、エマルションを製造した(表2−1中の試料番号1〜10)。
【0108】
キノアの乳化能力は明らかに最もよく、米がそれに続き、米はわずかにより大きな顆粒サイズを有し、その顆粒は鋭い縁で形作られより不規則であった。乳化能力は、2種類の米で類似していた(試料番号11〜13、17〜18、及び20、表2−1)。モチ−及び通常のトウモロコシもまた、不規則な形状の顆粒を有し、これは、より大きな顆粒サイズを有するがより滑らかな形状を有する大麦と比較してトウモロコシの安定化能力がわずかにより劣る理由の1つである可能性がある。界面電位が減少するため、表面粗さ又は鋭い縁のために減少した粒子の表面接触は、乳化力に対して悪影響を有する。他の理由はおそらく、大麦の二峰性のサイズ分布であり、ここでは、より小さな顆粒が潜在的に滴安定性を増やして、滴サイズを減少させたと考えられる。4種の試料(表2−1中のラベルによれば、番号9(キノア)、20(米)、31(トウモロコシ)、及び42(モチ大麦)。全て、OSA澱粉200mg及び連続相として緩衝剤と塩。)を二重に製造した。安定なエマルションを製造するキノア及びモチ大麦は、エマルションの滴サイズ、沈殿分率、及び体積分率に関して良い再現性を示す一方、米及びトウモロコシの結果の再現性は劣っていた。
【0109】
モチ−及び通常のトウモロコシの安定化能力は類似したが(試料番号22〜24、28〜29、及び31、表2−1)、アミロース高含有量のトウモロコシ(HylonVII)は異なるパターンを示した。澱粉顆粒の処理に関係なく、3つの試料はエマルション分率及び滴サイズにおいてわずかな相違のみ有した(番号33〜35、表2−1)。棒形状の顆粒は安定性能力に大きな影響を及ぼし、アスペクト比4を越える長い粒子は、類似した湿潤性のより細長くない粒子より更に効率的な乳化剤であることを示すようであった。
【0110】
[処理]
この調査の中のすべての澱粉は、それらの天然の形、熱処理した形、及びOSA変性した形でそれぞれ使用した。天然澱粉顆粒は、低い疎水性のために油滴安定剤として効率が悪いと思われるが、天然キノア(及びある程度HylonVII)は、形成した滴を安定化することができた。すべての澱粉顆粒は表面に結合したタンパク質を有し、そして、たとえ変性した澱粉を使用した場合より天然キノア澱粉によって安定する滴が大きかったとしても、小さなキノア顆粒については、全ての顆粒を合計した大きな表面は、滴を安定化するのに十分な疎水性を与えることができる。
【0111】
表面タンパク質の疎水性が増加するため、熱処理した澱粉はいくぶん天然澱粉より良い安定剤であった。特にキノア、米、及びモチ大麦によって安定する滴は、減少した滴サイズを有した。澱粉顆粒の疎水性は明らかに増加したが、顆粒サイズがキノアほど小さい場合を除き、顆粒が安定剤の働きをすることができるほど十分に足りるものではなかった。
【0112】
OSA変性した澱粉のすべては油滴を安定させることができたが、澱粉がある程度沈殿するため、顆粒の利用は完全ではなかった。OSAの含有量はすべての澱粉において2.6〜3.6%の間であり、キノアもまた1.8%の低い程度に変性した。滴サイズ、エマルションの体積分率、又は安定性に関して2つの等級のOSAを用いたキノア試料の間で違いは見られず、これは、1.8%のOSA−結合がエマルションを安定させるのに十分な疎水性を顆粒表面に与えることを示す。3%のOSAで変性した澱粉は、市販されており、食品添加物として認可されている。
【0113】
[連続相]
0.2MのNaClを含む、又は含まない2つの異なるリン酸緩衝液を連続相として使用した。両緩衝剤のpHは7であった。塩の有無にかかわらず緩衝剤の間での滴形成パターンの違いは、注目に値するものであった。疎水的に変性した澱粉顆粒のマクロ及び顕微鏡のレベル上での違いは明らかだったが、天然顆粒では明らかでなかった。塩を用いない連続相を使用した場合、エマルションは試験管の先端で形成した異なる円錐形状を有し、これは、降伏応力を有する架橋エマルション層を示した。しかし、この形状は塩の存在下ではより明らかではなかった。更に、エマルションの体積分率はより大きく、そして、澱粉沈殿物は塩のない系でより少なかった。滴サイズ分布もまた異なる性質を有し、即ち、塩のないエマルションは大きなCV(74〜85%)で二峰性の滴サイズ分布を有し、そして、塩を含むエマルションの滴はおよそ40%のCVでより単峰形の分布を有した。滴形成の挙動により、これらの観察の大部分を説明することができる。塩がない場合、エマルション滴は、滴及び顆粒クラスターのより堅いオープンネットワークを形成した。ところが、塩を用いた系においては、滴はより効率的に安定せず、著しく凝集することはなく、均一でより大きなサイズに合体した。天然澱粉に安定化されたエマルションは、塩の存在に影響を受けなかった。
【0114】
[澱粉濃度]
澱粉濃度の乳化に対する効果を、4種類の澱粉(キノア、米、トウモロコシ、及びモチ大麦であってその全てはOSA変性され、0.2MのNaClリン酸緩衝剤に入れた)で調査した。初期スクリーニング調査において最良の乳化の結果であったため、これらの条件を使用し、そして、塩を用いたエマルションはより均一な滴サイズ分布を有し、ゼラチン化していないものであった。添加した澱粉の質量は100、200、及び400mgであり、これはそれぞれ、油のおよそ3.2、6.2、及び11.8体積%(又は系全体の1.1、2.2、及び3.9体積%)に一致する。表2−1中の試料番号8〜10(キノア)、19〜21(米)、30〜32(トウモロコシ)、及び41〜43(モチ大麦)に見られるように、澱粉顆粒の濃度が上昇すると、滴サイズは減少しエマルション相の体積分率が増大した。
【0115】
より多くの粒子がより小さな滴を安定させるために利用できるので、固体粒子によって安定するエマルションの平均の滴サイズは、粒子濃度の上昇に伴い減少することがこれまでに示された。しかし、各々の系はおそらく系の物理的及び機械的な特性(即ち粒子のサイズ及び乳化法)に依存する滴サイズの限界を有し、この滴サイズに到達した時に、過剰な粒子があればそれらは連続相に存在することになる。本調査において、最も高い澱粉の量を用いた試料は、連続相より高い密度のエマルションを生じた。澱粉濃度が上昇すると、滴サイズは減少し、滴の表面に付着した澱粉の量が増加し、それはより安定なエマルションとなる。高い澱粉濃度の他の効果は、滴の間の澱粉顆粒の量が増加したということであった。これは、滴及びエマルション相の総密度の増加につながった。
【0116】
低い澱粉濃度(100mg)でさえ、顆粒の沈殿物が試験管の底にあったことに注目することは興味深い。実際、澱粉の量を100から200mgに増やしたとき、澱粉沈殿物の画分は減少した。澱粉顆粒の低濃度で形成される滴は、顆粒によってより覆われず、コアレッセンスをより起こしやすく、より大きな滴の表面から顆粒を脱着した。しかし、シリカ(0.5〜0.8μm)又は胞子粒子(〜25μm)が滴の表面に非常に不均一に分布した場合でも、ピカリングエマルションはかなり安定することが示された。エマルションは低い澱粉顆粒濃度においてより濃くなく、これは、滴及び顆粒の易動性が連続相において吸収されていない顆粒の堆積を促進したことを意味する。
【0117】
[澱粉顆粒サイズ]
添加した澱粉の量及び顆粒サイズの効果を定量化するために、特定の粒子サイズの澱粉濃度について可能な限りの最大の表面被覆率を推定した。
設定した仮定は、滴の全てが同一のサイズであり、そして、全ての澱粉粒子が同一で、球形で、界面充填分率φ≒0.907(すなわち六方最密充填)の接触角度90°で油−水界面に付着しているということであった。理論的な最大の被覆率(Γ
M)は、以下の方程式を使用して推定した。
【数14】
ここで、d
sgは澱粉顆粒の表面平均径であり、ρ
sgは澱粉密度(1550kg/m
3)であり、また、φは充填密度である。種々の澱粉についての最大の表面被覆率及び平均澱粉顆粒サイズの推定を、表2−2に示す。表面被覆率(mg/m
2)が澱粉顆粒サイズとともに増加するため、単位質量あたりのより多くの面積がより小さな顆粒で覆われ、
図2−1における発生した滴の直径が顆粒サイズの減少に伴い減少することは驚くことではない。
【0118】
分散相の体積当たりのエマルションの比表面積を以下に定義する。
【数15】
ここで、表面平均径d
32は光散乱で測定した。添加した澱粉の量、C
sg(1ml当たりのmgとして)、及び澱粉顆粒の特定のサイズの理論的な最大被覆率(Γ
M)に基づき、分散相の単位体積当たりに発生することができる理論的な表面積を計算することができる。すなわち、
【数16】
【0119】
測定し及び計算された滴の表面積の比較を
図2−2にプロットする。これは、計算のかなり粗い仮定にもかかわらず、これらの推定と測定した澱粉で安定化した滴との間にかなり良い一致を示した。
図2−2において線より上に存在する澱粉は、予測より大きな滴面積を有し、線の下のそれらはより小さい滴面積を有する。より大きな滴面積の物理的説明としては、六方最密充填の仮定が表面上の澱粉の量を過大評価しており、また、これは単位面積当たりにより少ない澱粉を有し、なお滴の安定化を達成することができるということである。
【0120】
幾何学的な分析によって、コアレッセンスを防ぐ十分な立体障害を維持する一方で表面上の顆粒間のより大きな空間が可能であることから、形成する滴サイズに対する澱粉顆粒サイズの比率が増加すると、滴を安定させるために必要な最小表面被覆率が減少するということが言えるであろう。この理由から、例えば大麦及びトウモロコシ等のより大きな澱粉顆粒は予測より大きな表面積を持ち、面積を増やすと(即ちより少ない滴サイズにすると)、この傾向は増加する。顕微鏡観察によりこのことを確認し、吸着した澱粉の間の滴表面の上により大きな空間及び隙間があることが示される。米の場合、予測より小さな発生する面積を有する(データポイントは
図2−2中の線の下にある)。米のエマルションの顕微鏡画像において、連続相により多くの遊離した澱粉顆粒、及び沈殿物の量の顕著な増加が現れた。
【0121】
[実験3からみた結論]
無傷の澱粉顆粒はエマルション中で油滴を効率的に安定させることができることが、それらの粒形状の澱粉の幅広いスペクトルの乳化能力に関する本スクリーニング実験で明らかとなった。調査した異なる澱粉の中で、キノアから得た澱粉は、おそらく小さい顆粒サイズのため、安定剤として働くための優れた最良の能力があった。キノア澱粉はその天然の状態でさえ滴を安定させることができたが、熱処理したもの、及び、とりわけOSA変性した顆粒はより更に効率的であり、そのことはより小さい滴サイズ及び高まった滴安定性によって示された。本調査において使用したすべてのOSA変性した澱粉は滴を安定させることができ、そして、滴直径は顆粒サイズとともに減少した。澱粉顆粒の濃度を上昇させることによって、滴サイズもまた減少した。異なる食品系及び他のエマルションベースの製品の条件をシミュレートするために、乳化能力に対する塩濃度の影響を調査した。塩のない系は、二峰性の滴サイズ分布の凝集した滴を伴う非常に安定した固いエマルションを生じた。
【0122】
澱粉顆粒によって安定したエマルション滴のサイズは比較的大きかったが、滴は食品及び医薬品で価値ある成分を封入するために適切でありえる。
【0123】
【表2-1】
【0124】
【表2-2】
【0125】
[実験4]
実験4では、種々の油及び脂肪を使用し、分散相の物理的特性が油のタイプにより異なるエマルションを作成した。分散相として使用した油は、以下を含む。即ち、ミグリオール812、大豆油(天然及びAl
2O
3で精製したもの)、菜種油、パラフィン油、シアバターノキ・ナッツ・バター(室温で固体)、シアバターノキ・ナッツ油、BassolC、グリセリルトリブチラート、及びヘキサデカンである。実験1に開示したようなOSA−変性した小さな粒の澱粉は、滴安定化粒子として使用した。高剪断の均質化の前に固体脂肪を溶融したことを除き、エマルションを実験1に開示したように調製した。
【0126】
[分散相の影響]
エマルションは、使用した全ての異なる油でうまく作成した。しかし、トリブチラートの油滴の表面は、澱粉顆粒によってまばらに占有された。これは、水中でのトリブチラートのより高い可溶性よるものでありえる。
【0127】
[実験4からみた結論]
澱粉顆粒を用いた油滴の安定化は、広範囲に渡る油において効率的である。それが使用する油のタイプに特に敏感でないロバストな系を示したということは実務上衝撃であり、したがって、広範囲にわたる食品、化粧品、製薬、及び技術製品で適用できる。
【0128】
[実験5]
実験5では、澱粉粒子に安定化されたエマルションは種々の方法を使用して作成することができることを示すことを目的として、異なる処理技術を使用してエマルションを作成した。
【0129】
この実験における油相はBassolC(AAK、スウェーデン)であり、澱粉顆粒はキノアから単離して2.9%までOSA変性してより疎水性にし(実験2で開示した)、連続相は0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液であった。4つの試料を、以下の通りに計量した。即ち、3.50gの澱粉顆粒を59.5gのリン酸緩衝液に加え、続いて、7.00gのBassolCを加えて震とうし、その後均質化した。各々の試料は、異なる均質化法によって作成した。試料1は、Sorvall Omni Mixerを3200rpm(レベル2)で5分間使用して作成した。試料2は、Sorvall Omni Mixerを12800rpm(レベル8)で5分間使用して作成した。試料3は、ラボスケール高圧ホモジナイザー(HPH)40barで、体積全体を10回HPHに通して作成した。試料4は350ml/分で動くMasterflex蠕動ポンプで、全体積を合計300回循環回路でこのポンプを通過させ作成した。
【0130】
エマルションは連続相と同じ緩衝水溶液を用いて約5倍に希釈し、その後それらを分析した。レーザー回折粒子分析装置(Mastersizer 2000、Malvern Instruments)を使用し、エマルションの滴サイズ分布を決定した。分散度は、8〜12%の不明瞭度に到達するまで装置内で希釈した。サイズ分布は、1.54の澱粉の屈折率を使用したミー理論から計算した。また、エマルションはデジタルビデオカメラを備えた光学顕微鏡(オリンパスBX50、日本)を使用して調査した。
【0131】
[実験5の結果]
エマルションは、全4つの乳化法を使用して作成することができた。加える澱粉の量(500mg/mg油)に基づき、26〜33μm(D
43)の滴サイズ間隔を予測した。これはSorvallで混合した試料、及び蠕動ポンプで調製した試料で認められた。高圧ホモジナイザーで調製した試料は非常に高い機械的な処理を受け、そして、この理由で、滴は非常により小さかったが、サイズ約100μmの構造の綿状に凝集した。これは、ホモジナイザーで発生した油、及び油滴を共有した澱粉粒子(観察された微細構造を生み出している)の高い表面積を覆うのに十分な澱粉がなかったためである可能性がある。測定した平均滴サイズ、滴の顕微鏡写真、及び全体的なエマルションの外見の画像を、表3−1に示す。
【0132】
【表3-1】
【0133】
[実験5からみた結論]
本実験は、澱粉粒子に安定化されたエマルションを作成するために種々の機械的な乳化法を使用することができることを示した。これは、様々な用途で種々の異なる処理及び製品に適用することができるロバストな系が提供されたことを示す(
図3)。
【0134】
[実験6]
食品及び他のエマルション系は、pH及び塩濃度に大きな多様性を有する。したがって、pH4〜7、0.1〜2MのNaCl及び0.2MのCaCl
2の塩濃度の連続相を用いた乳化を調査した。
【0135】
分散相はミグリオール812であり、実験1に開示した小さな粒の澱粉顆粒を滴安定化粒子として使用し、連続相は5mMのリン酸緩衝液又は様々なpH及び量の塩を添加した超純水であった。エマルションは、実験1のように調製した。
【0136】
[連続相の影響]
塩濃度はpH7において様々であり、pHは0.1MのNaClの塩濃度において様々であった。他の試料として、0.1MのCaCl
2を超純水に加え、連続相として使用した。pH又は塩濃度のいずれもエマルジョンの体積分率又は平均滴サイズに対していかなる顕著な効果も有しなかった。しかし、実験3の結果は、塩を用いた又は用いない系の間にエマルションネットワークの違いがあることを示した。
【0137】
[実験6からみた結論]
連続相のpH及び塩濃度に関係なく、澱粉顆粒を用いた油滴の安定化は効率的である。これは、多種多様な製品において用途を有する非常にロバストな系を示す。
【0138】
[実験7]
この実験では、保管の間のエマルションの安定性及び粘弾性特性(これは種々のエマルションの用途において重要な2つの特性である)を試験するため、異なる油相含有量のエマルションを調製した。エマルションの安定性を決定するために、浮力中性のエマルション、即ち連続相とほぼ同じ密度を有する澱粉で覆われた油滴を調製した。油の体積分率は12.5、16.6、25.0、及び33.3%であり、油に対する澱粉の比率は澱粉214mg/ml油で一定であり、総試料体積は7mlであった。小さな粒の澱粉を単離し、実験2に開示したように1.8%までOSA変性した。
【0139】
エマルションの連続相は0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液(20℃での密度1009.6kg/m
3)であり、分散相はミグリオール812(20℃での密度945kg/m
3、SasolGmbH、独国)であった。エマルションは、6mmの分散ツールを備えるYstralX10ミキサー(YstralGmbH、独国)中で、22000rpmで30秒間高剪断の混合によって作成した。
【0140】
[保管安定性]
レーザー回折Coulter LS130を使用した滴サイズの測定(実験2の方法で開示した)、及び写真から体積分率を決定する(実験2の方法)前に、試料は1日、1、2、4及び8週間の間5℃で密封された試験管に保管した。
【0141】
[粘弾性測定]
8週間保管した試料の弾性率及び位相角を、振動応力の掃引により各々の振幅につき20秒間測定した(Kinexus、Malvern、英国)。振動数は、1Hzであった。直径40mm及び4°の円錐角の円錐及びプレート系を使用した。
【0142】
[保管安定性の結果]
滴サイズを決定し、そして、エマルション指数を1日〜8週間の保管の間、5回の間隔で計算した。油濃度によってでも保管時間によってでもなく、滴サイズは有意な違いを示さなかった。滴サイズ(D
43)は、すべての試料について34〜39μmであった。したがって、滴は経時的に安定しており、コアレッセンス、不可逆的綿状凝集、又はオストワルド熟成に影響されにくかった。水中でのミグリオールの比較的大きな滴サイズ及び低い可溶性のため、後者はこの系ではおそらく起こりそうにない。
【0143】
エマルション指数(EI、実験2で定義した)は、予想通りに油濃度(
図4−1)とともに増加した。EIは33.3%の油を用いた試料で約1であり、即ちエマルション相は試料全体をほとんど占有した。EIは、滴及び連続相の合致した密度のために、少なくとも最初の4週間、保管時間とともに増加する傾向であった。8週間の保管の間、エマルション滴はコアレッセンスに対し安定しており、そして、エマルション相によって塞がれる体積は影響を受けなかったか、又は増加さえした。5℃における8週間の保管の後でさえ、経時的な平均滴直径、又は濃度の間に有意な違いは無かった。
【0144】
[粘弾性の結果]
粘弾性測定は、分散相体積分率の変化によるエマルションの構造の観察された違いを確認した。
図4−2に、弾性率を複素剪断応力の関数としてプロットする。短い線形弾性の領域があり、〜1Pa又はそれ未満の応力において急速な減少がこれに続く。これは試料が弱いゲル構造を有することを示す。弾性率G’は、試料構造に蓄積することができる振動剪断応力のエネルギー量の尺度であり、エマルションの構成要素間の相互作用の強さ及び数の関数である。予想できるように、油の濃度がより高くなると、より多くの相互作用する物質が存在するため、弾性率がより大きくなる。
【0145】
剪断応力が増大すると、構造は最終的に壊れる。そして、それは位相角の変化によって示される。低剪断応力においては、試料は45°より小さい位相角を有し、即ち、試料はさらに弾性的な挙動を示す。剪断応力が弱いゲルが流動し始める点まで増大すると、位相角は試料中でより流体の様な挙動を示す45°より大きく増大する。表4−2は、油濃度がより高くなると、エマルションのゲル構造が減少して流体の様な挙動となる前に、剪断応力がより増大しうることを示す。
【0146】
[実験7からみた結論]
結果として生じるエマルションはそれらの大きな滴サイズにもかかわらず保管(少なくとも8週間)の間、安定であることが判明した。粘弾性測定は、弱いゲル構造を示した。これは、エマルションの処方に基づいて最終的な稠度を選択したい多くの用途において重要である。更に、エマルションの安定化に適切な粒子の部分的な二重湿潤性のために、粒子で安定化した滴及び遊離した澱粉顆粒はそれらに更にゲルの様な稠度を与える弱い凝集体を作る傾向がある。これは、乳脂のようなより濃い生成物が望まれる多くの用途において重要であり、本発明によれば、ゲルの様な稠度を達成するために更なる粘性調整剤は要求されない。
【0147】
【表4-1】
【0148】
【表4-2】
【0149】
[実験8]
目的は、澱粉粒子に安定化されたエマルションの相反転を調査すること、及び、局所的な乳脂の製剤のための、関連する条件を確認することである。
【0150】
[方法]
エマルションは、ミグリオール812、0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液、キノア、及びOSA1.8%を使用して製造した。試料を22000rpmで60秒間混合した。総体積は7mlであり、各々の実験は三重に実行した。油濃度及び澱粉濃度は、表6−1に開示したように様々であった。安定性を評価し、8週間の保管をシミュレートするために、試料L〜Mもまた遠心分離した。遠心分離は室温(21℃)で、1000gで81分間実行した。
【0151】
これらの実験に加え、2つの他の油(パラフィン及びシアバターノキ油)を使用し、試料Mに対応する条件でエマルションを製造した。目隠しの感覚でのランキング付け試験において、9名のボランティアが、これらのエマルション及び2つの市販製品(ワセリン及びスキンローション)の稠度及び適用性のパラメータを評価した。
【0152】
[相反転]
70%の油を含む試料は、すべての澱粉濃度において油中水型エマルションであったが、低い油濃度において、水中油型エマルションを形成した(表5−1)。
【0153】
[乳脂の製剤のための関連する条件]
56%又は41%の油濃度において、系の濃さ及び均一性に関する稠度は、局所的な乳脂の用途によく適する。遠心分離後に試料M及びNは無視できるほどの相分離を有し、一方試料Lはわずかに分離した。エマルションの滴サイズは試料Lにおいて52.0から62.2μm、試料Nにおいて33.0から37.3μmまで増加し、試料Mにおいては影響を受けなかった(遠心分離前に40.8μm、及び遠心分離後に40.5μm)。異なる油を試験したとき、ミグリオール及びパラフィンがより滑りやすく僅かに水っぽいエマルションを生じたのに対して、室温で固体の様な特性を持つシアバターノキ油はむしろ高い稠度のエマルションを生じた。パラフィンを含有するエマルション(1人の試験者により最良にランク付けされた)は、ミグリオールのエマルションより受け入れられ、シアバターノキ油のエマルションは2人のボランティアによって最良にランク付けされた。市販製品はそれぞれ2人(ワセリン)、及び4人(スキンローション)のボランティアによって最良にランク付けされた。それらは香水のような他の心地よい成分を含むため、これはもちろん驚くべきことではない。
【0154】
[実験8からみた結論]
70%以上の油を含む試料はすべての澱粉濃度において油中水型エマルションであったが、より低い油濃度において、水中油型エマルションを形成した(表5−1)。56%の油濃度において、系の濃さ及び均一性に関する稠度は、局所的な乳脂の用途によく適するものであった。これらの条件において、遠心分離の間の強制的な保管条件及び剪断に対する安定性は、無視することができた。56%及び214mg/ml油の澱粉濃度で使用される油において、全てはかなり良好に容認された乳脂を製造した。パラフィンは油相としてミグリオールよりよく受け入れられたが、ミグリオール又はパラフィンを含むエマルションはかなり類似していた。シアバターノキ油のエマルションはより更に固体の様であり、何名かの試験者によって市販製品より高い位置にランクされた。
【0155】
【表5-1】
【0156】
[実験9]
実験9において、澱粉粒子に安定化されたエマルションを使用して、皮膚への親油性化学物質の改善された透過性を調査した。
【0157】
[方法]
エマルションは、0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液、キノア、OSA1.8%、並びにミグリオール812、パラフィン又はシアバターノキ油を使用して製造した。試料を22000rpmで60秒間混合した。エマルションは、56%の油及び214mgの澱粉/ml油(実験8において試料Mに対応する)を含むものであった。総体積は7mlであり、各々の実験を三重に実行した。皮膚内への透過性を調査するための対照物質として、油相に溶解したサリチル酸メチルを使用した。
【0158】
皮膚浸透測定は、pH6.8のリン酸緩衝液の流れの下、3つの異なる局所的な製剤から豚皮膚膜及びシリコーン膜を通るサリチル酸メチルの移動を監視することにより、フローセル中で行った。拡散実験は32℃において7つの容器の拡散セル内で行い、ドナー相及びレセプター相は0.64cm
2(9mmΦ)の拡散面積を有する膜で分離した。約1gのエマルション(ドナー相)を、一様に膜に広げた。セルは、蒸発を避けるためにパラフィルムで覆った。緩衝剤を2ml/hの流れでポンプ(IsmateclPN−16、L852)中に流した。試料は12時間の間に2時間おきに収集し、サリチル酸メチルの検出波長(302nm)で分光光度計(Varian Carry 50Bio)を使用して分析した。
【0159】
[生体外皮膚浸透]
生体外皮膚浸透の間、定常状態流束は、全3種の製剤について約8μg/(cm
2×h)であった。この流束は、サリチル酸メチルの同じ濃度の緩衝剤溶液を使用した類似する実験の設定において以前観測したものより約2倍高い。それは、皮膚への浸透を増大させたエマルション系の存在を示す。最初に、浸透流束は経時的に減少し(
図5−1)、それは皮膚に最も近い油滴の枯渇のためである可能性がある。本発明の高い粘性系において、油滴の拡散は阻害され、従って濃度勾配及び定常状態領域が形成される。
【0160】
[実験9からみた結論]
使用した3つの油の間に生体外皮膚浸透において違いはなく、これは、系がそのような8μg/(cm
2×h)というかなり高い浸透を提供したことを示す。したがって、局所的な薬物送達システムとしての澱粉のピカリングエマルションの使用のために、例えば安定化に使用される油滴サイズ及び粒子に関する類似点は、これらのかなり異なる油の粘弾性特性及び個々の特性(実験8を参照)より更に重要である。
【0161】
[実験10]
実験10において、油に対する澱粉の比率を変えることにより、澱粉粒子に安定化されたエマルションの粘弾性及び流れ特性の調節を示す。澱粉は湿式ミリング処理によってキノア(Biofood、スウェーデン)から単離し、2.9%までOSA変性した(実験1に開示した)。エマルションの連続相は0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液であり、分散相はミグリオール812であった。エマルションは、22000rpmで30秒間Ystralの高剪断ミキサーを使用して調製した。滴サイズ分布は、実験1で開示したレーザー回折を使用して決定し、表面平均D
32及び分布モードとして表6−1に示す。
【0162】
3種の、油に対する澱粉の比率(即ち、143mg/ml油(366mgの澱粉及び2.56mlの油)、214mg/ml油(526mgの澱粉及び2.46mlの油)、及び1143mg/ml油(1841mgの澱粉及び1.61mlの油)であり、全てのエマルションは4.2mlの緩衝を有し、合計7ml)にて、同じ総量の分散相を含む(油及び澱粉が合計でエマルションの40%を占める)、粘弾性特性評価のためのエマルション試料を調製した。この量は、完全に空間を充填するように選択した。すべての試料は複製して調製し、測定した。
【0163】
[粘弾性測定]
粘弾性測定は、調製した24h後に、レオメータ(Malvern Kinexus、英国)で行った。エマルションの特徴は、25±0.1℃の温度で、鋸歯のあるプレート−プレートジオメトリー(上側プレートは直径40mm、下側プレートは直径65mm、隙間高さ1.0mm)を使用して分析した。すべての実験は、複製した試料について行った。試料の線形粘弾性領域を決定するために振動測定を行った(振幅掃引)。位相角、剪断粘性(η、Pa・s)、貯蔵弾性率(G’、Pa)、及び損失弾性率(G”、Pa)を調査した。振動試験は、1Hzの振動数で、0.001〜1000Paの剪断応力範囲で行った。
【0164】
[粘弾性の結果]
3つの試料は全て粘弾性挙動を示し、0.0001〜0.002の歪み範囲に渡って短い線形弾性の領域を有しており、構造が壊れるため急速な減少がこれに続く。試験した3つのエマルションの弾性率の剪断依存性を
図6−1に示す。油に対するこれら特定の澱粉の比率を、214mg/ml油の浮力中性の澱粉の濃度を下回るか、同等であるか、又は十分に越えるように選択した(実験1で論述した)。線形領域の粘弾性特性及び位相角45°(構造が壊れる点)の剪断応力を測定し、試験した3つの条件について表6−1に示す。
【0165】
弾性率G’は、試料構造に蓄積することができる振動剪断応力からのエネルギー量の尺度であり、エマルションの構成要素間の相互作用の強さ及び数の関数である。予測できるように、小さい滴サイズ及び過剰な澱粉があることでエマルション中により多くの相互作用する表面が存在するため、油に対する澱粉の比率が最も高いエマルションは最も大きな弾性率もまた有する。しかし、より小さな滴のエマルションのより高い弾性率への何らかの寄与がある可能性がある。分散相の総表面を増やすことにより、澱粉顆粒の凝集で見られる引力の相互作用がより更に顕著になりうる。より小さな滴のより高いラプラス圧が滴のより劣った変形能につながり、従って、より高い弾性率となる。更に、油及び澱粉の分散相の体積の一定和における弾性率を比較したところ、系は完全に変形できない澱粉顆粒の占有率の増加とともにより固くなった。
【0166】
[実験10からみた結論]
高い剪断均質化により製造したエマルションは、油に対する澱粉の比率によって9〜70μmの滴サイズを有した。粘弾性特性評価は、滴サイズによって200〜2000Paの範囲の弾性率を有するゲル構造を示した。これは、粘性調整剤を添加することなく流れ特性の調整を可能にする有用な特徴である。
【0167】
【表6-1】
【0168】
[実験11]
実験11では、二重エマルション(W/O/W)の外相を安定する澱粉顆粒の能力を調査し、そのような二重エマルションの封入効率を実証した。
【0169】
1.4mlの0.1MのNaCl溶液、及び1.4μLの家庭用食紅(Ekstroms/Procordia、Eslov、スウェーデン)からなる水相を、5.6mlのミグリオール及び0.28gのポリグリセリンポリリシノール酸エステル界面活性剤(Grindstedt PGPR90、Danisco、Copenhagen Denmark)からなる油相中で、6mmの分散ツールを備えるYstralX10ミキサーを24000rpmで10分間使用して乳化することにより、内部の、油が連続的であるエマルションEiを作成した。結果として生じるEiエマルションは、Malvern Mastersizer 2000Sで測定したことろ、1.17±0.13μm(D
43±標準偏差)の滴サイズを有していた。
【0170】
二重ピカリングエマルションは、20%の内部エマルションEi、及び1.8%OSA変性したキノア澱粉214mg/ml油を含む80%の連続相(pH7.0の5mMのリン酸緩衝液、0.2MのNaCl)を、22000rpmで30秒間、Ystral X10ミキサー中で調製した。結果として生じる二重エマルションは、48±10μm(D
43±標準偏差)の滴サイズを有した。保管の間、二重エマルションの封入安定性は、表7−1に示すように、520nmの分光光度法で異なる時間後の外側の水相への色素の漏出から評価した。
【0171】
【表7-1】
【0172】
[実験11からみた結論]
二重エマルションを安定させる澱粉顆粒の成功した使用が実証された。エマルションの封入効率を調査したところ、保管の間優れたままであった。そのような二重エマルションは、食品及び製剤処方において水溶性物質を封入するために適切でありえる。
【0173】
[実験12]
実験12では、凍結及び融解に対する、澱粉に安定化されたエマルション及び二重エマルションの優れた安定性を調査した。
【0174】
[実験]
実験1のように調製した、OSA変性した小さな粒の澱粉を使用した。連続相は0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液であり、分散相は中等度鎖トリグリセリド油ミグリオール812(Sasol、独国)、又はシアバターノキ・ナッツ・バター(室温で固体)であった。2つの異なる処方(油7%及び33%)及び油1mlにつき214mgの澱粉に基づき、総体積6mlのエマルションをガラス管で調製した。管に澱粉を添加した後、緩衝剤を加え、ボルテックスミキサー(VM20、Chiltern Scientific Instrumentation Ltd、英国)を使用して約5秒間混合した。その後、油を加え、11000rpmで30秒間Ystrolミキサー(D−79282、Ballrechten−Dottingen、独国)で混合した。シアバターノキ・ナッツ・バターを乳化の前に水浴で溶かした。いくつかのエマルションは、続いて水浴で70℃で1分間熱処理した。エマルションは、更なる実験の前に24h室温で保管した。
【0175】
冷凍機内で保管する前に液体窒素中に容器を浸漬することにより、エマルション試料をアルミ容器の上で凍らせた。試料は、再現性を調査するために、二重に作成した。試料は、実験1で開示した更なる粒子サイズ分析及び形状分析(顕微鏡検査)のため、翌日に融解した。ミグリオール7%の試料の熱処理していないエマルションについて、第2の凍結方法をラボブラストフリーザー(Frigoscandia、スウェーデン)を使用して評価した。
【0176】
凍結前及び融解後のエマルションの粒子サイズ分布は、実験2に開示したように、及び実験1に開示したように微細構造画像診断を使用することにより分析した。
【0177】
ミグリオール油がシアバターノキ・ナッツ・バターによって置換されたという違いを有する二重エマルションを、実験11に開示したように調製した。二重エマルションの凍結融解安定性は、液体窒素冷凍法を使用して、先に述べたように分析した。
【0178】
[結果]
エマルションは、凍結及び融解に対して安定しており、7%のミグリオールを有する澱粉に安定化されたエマルションの凍結前のD
43は50.5μmであり、急速凍結及び融解後のD
43は49.8であり、また、液体窒素中の凍結及び融解後に56.9μmであった。保たれた滴の形状が、顕微鏡の下で明らかに見られた(
図7−1を参照)。熱処理は、澱粉の膨張、部分的なゼラチン化、及び高められた滴の凝集度のため、滴サイズのわずかな増加を引き起こした。
【0179】
粒子サイズの分布カーブ(
図7−3)から見られるように、熱処理していない二重エマルションもまた滴の凝集度が増大したが、凍結及び融解に対して優れた安定性を示した(
図7−2)。熱処理した二重エマルションについては、最も大きな滴群の崩壊を示したが、滴サイズ分布は凍結及び融解にむしろ影響を受けなかった(
図7−3)。凍結融解安定性は、製品が広範な温度等にさらされる製品の品質にとって重要である。
【0180】
[実験12からみた結論]
澱粉に安定化されたエマルション及び二重エマルションは、エマルション滴の構造を保ちつつ、凍結及び融解することができた。異なる油相、熱処理又は非加熱のエマルション、並びに異なる冷凍方法の使用はすべて、非常に許容できる凍結融解安定性を有するエマルションを製造した。
【0181】
[実験13]
実験13では、エマルションを乾燥し、油で満たされた粉体を製造した。
【0182】
[実験]
[凍結乾燥]
エマルションを調製し、実験12に開示したように凍結した。試料トレイは、穴を開けたアルミホイルで覆った。使用したエマルションは、ミグリオール油又はシアバターノキ・ナッツ・バターを分散相として7%(非熱処理又は熱処理)又は33%の非熱処理の濃度で含むものであった。凍結した試料を、ラボフリーズドライヤー(Labconco Freeze Drier、Ninolab USA)へ移した。フリーズドライヤーはマイナス50℃まで予備冷却し、試料は52h乾燥した。
【0183】
[噴霧乾燥]
実験1のように、小さな粒の澱粉及び緩衝剤と、調節されたシアバターノキ・ナッツ・バターとを、Sorval Mixerを1800rpmで5分間使用して混合することによって、エマルションを調製した。使用した割合は、油7%、及び澱粉600mg/g油であった。エマルションは、70℃で1分間熱処理した。噴霧ドライヤーの入口温度は130℃であり、ポンプ速度は50に設定した。
【0184】
凍結前及び乾燥後のエマルションの粒子サイズ分布は、実験2に開示したように、及び実験1に開示したように微細構造画像診断を使用することにより分析した。乾いた粉体は、緩衝剤中で再水和した後分析した。乾燥粉体を金でスパッタコートし、5kV及び127の作動距離8mmで操作される走査電子顕微鏡検査(SEM、FegSEM、JEOLモデルJSM−6700F、日本)で画像を記録した。
【0185】
[結果]
乾燥エマルション(即ち粉体)が、凍結乾燥及び噴霧乾燥によって得られた。乾燥前の熱処理は、部分的にゼラチン化された澱粉の非常に安定した凝集性の層の形成に結びつき、それは保管及び処理の間、滴の安定性を増大した。分散相(液体/固体)の物理的状態が乾燥を通してエマルションの安定性に影響を及ぼしたため、この層は液体の分散相における場合より更に重要であった。より大きな滴は一般的に不安定化に対して更に影響を受けやすかったのに対して、より小さなエマルション滴は乾燥及び再水和の後よりよく保たれた。乾燥エマルション滴は、部分的な凝集のために全体的なサイズ分布の増加を示した。
【0186】
流体の油(ミグリオール)を含む熱処理したエマルションの無傷の滴が乾燥後に得られた(
図8−1を参照)。熱処理によって、凍結乾燥の間油滴を保護する凝集性の澱粉層が得られた。部分的に崩壊した滴は、澱粉層の空のポケットを残した。大きな滴サイズの変化及びいくらかの凝集があった。流体の油を含む熱処理していないエマルションは、乾燥の間に崩壊した。
図8−2(非加熱エマルション)及び
図8−3(乾燥前に熱処理した)の中で見られるように、固体油(シアバターノキ・ナッツ・バター)を含む熱処理したエマルションの無傷の滴が得られた。熱処理していないエマルションの凍結乾燥の後、遊離した油とともに乾燥した滴が得られた。澱粉顆粒が滴の表面上に見られた。凍結乾燥前に熱処理することで、乾燥後により更に無傷の滴となった。
図8−4に見られるように、無傷の滴は噴霧乾燥によっても得られた。澱粉を600mg/g油で過剰に添加したため、遊離した澱粉の存在もあったが、油で満たされた澱粉で覆われた球は噴霧乾燥後に無傷のままであった。
【0187】
滴の凝集(特に乾燥前に熱処理した乾燥エマルションの再水和後)は、粒子サイズ分布曲線により確認された(
図8−5を参照)。油相としてシアバターノキ・ナッツ・バターを有する凍結乾燥エマルション及び凍結乾燥二重エマルションについて(エマルションは乾燥する前に熱処理した)、粒子サイズ分布曲線は類似した結果を示した(
図8−5)。
【0188】
[実験13からみた結論]
澱粉に安定化されたエマルションは、凍結乾燥及び噴霧乾燥によって乾燥することができた。部分的なゼラチン化澱粉を引き起こす乳化の後に熱処理した場合、エマルションは乾燥に対してより安定であった。流体の油を乾かす際にこれは特に重要であった。結果として生じる油で満たされた粉体は、皮膚に簡単にすりこまれ、目視できる残留物なく滑らかな感覚を与える機能を含む、多くの魅力的な特性を有した。この側面は、例えば化粧品、又は局所的な送達システム等の多くの製品において有用であることが分かった。
【0189】
[実験14]
この実験では、澱粉バリアは、乳化の後の澱粉顆粒の膨張及びゼラチン化により様々であった。調査したエマルションの間の相対的なバリア特性を比較する手段として使用する目的で、脂肪分解率を監視する方法としてpHスタット法を使用した。澱粉膨張及びゼラチン化は、水の存在下で加熱する間に起こる。
【0190】
脂質の消化は、酵素がその基質と密接に接触することができるように、リパーゼ酵素及びそのコファクターと滴の表面との相互作用を含む界面のプロセスである。この理由から、界面面積(すなわちエマルションの比表面積)は重要であり、以下によって与えられる。
【数17】
ここでSはエマルションの単位体積あたりの表面積であり(m
2)、Φは油の体積分率であり、D
32はザウター平均粒子径である。Sは、種々の試料で異なる表面積の量を占める全体的な活性の結果を測定するために使用される。消化率を記述するために遊離した脂肪酸(FFAs)の放出を監視するpHスタット法は、食品及び医薬品の組成及び構造の、脂質消化の率及び範囲に対する効果を検査する、よく知られた生体外生理化学的な方法である。
【0191】
FFAsの生成は、特定のpH(この場合7.0)を維持するために必要なNaOHの消費を測定することでpHスタットで監視され、この放出率(油の表面積によって測定される)が酵素活性である。リパーゼ活性を100%として、澱粉層のバリア特性の定量化のため、容易にアクセスできる油の界面(バリアなし)を測定した。続いて、そのNaOHの消費率は、試験したエマルションの界面面積Sによって測定されるならば、FFAの放出率に比例するという前提の下、澱粉粒子に安定化されたエマルションにおける活性の相対的な減少を比較した。脂肪分解率がより低くなると、部分的にゼラチン化された澱粉層によって油はより保護され、バリア特性はより良くなった。
【0192】
[方法]
小さな粒の澱粉を単離し、実験1に開示したようにOSA−変性した。連続相は0.2MのNaClを含むpH7のリン酸緩衝液であり、分散相は中等度鎖トリグリセリド油ミグリオール812(Sasol、独国)であった。
【0193】
脂肪分解で使用したアッセイは、4mMのNaTDC(胆汁酸塩)、1mMのTris−Maleat、並びに1mMのCaCl
2及び150mMのNaClの緩衝剤であった。リパーゼ及びコリパーゼを油相の消化のための酵素として使用した。
【0194】
[乳化]
ガラスの試験管中で2.7mlの連続相、0.3mlの油相、及び22.5〜180mgの澱粉を、Ystrol(D−79282、Ballrechten−Dottingen、独国)で、22000rpmで30秒間混合することによって、エマルションを調製した。第二のエマルションの組は、異なる温度に加熱するために7%の油相及び1mlの油につき214mgの澱粉を使用して同じ方法で調製した。
【0195】
[エマルションの熱処理]
エマルションの最初の組は、水浴で73℃で熱処理した。試料は1分間70℃より高く保持し、全体の加温時間は約3分であった。試料を40℃まで冷却した後、エマルションを5秒間ボルテックスミキサーで震とうした。開示したように、45〜100℃に渡る温度で第二のエマルションの組を熱処理した。
【0196】
[粒子サイズ測定]
澱粉粒子及びエマルション滴の粒子サイズ分布は、実験1に開示したように様々な澱粉濃度について、そして、実験2のように様々な温度について測定した。滴サイズは、脂肪分解の前後に測定した。
【0197】
[pHスタット法]
リパーゼ及びコリパーゼの活性を、TIM854モデルRadiometer(分析的SAS、Cedex、France)を使用したpHスタット滴定により決定した。試料(エマルション又は対照物)は、15mlのアッセイ緩衝剤とそれぞれ3μlのリパーゼ(1mg/ml)及びコリパーゼ(1mg/ml)を含む溶液と混合した。pHは0.1MのNaOHの滴定によって7.0に維持し、18分での消費(μmol/min)はリパーゼ及びコリパーゼの活性とした。リパーゼから放出されるFFAsがpHを低くするため、脂肪分解の間pHを7に維持するために添加するNaOHの量としてリパーゼの活性を決定した。酵素の添加後15〜18分後の間の1分当たりのFFAの平均放出を、脂肪分解率として使用した。
【0198】
[対照物の準備]
澱粉の存在しない油の活性は、Tween20によって安定するエマルションを使用して対照物とした。澱粉が滴を安定するようなサイズ範囲(即ち10〜20μm)で、適切な量のTween20を使用し油滴を作成した。エマルションの熱処理の効果は、対応する加熱したエマルションと同じ組成の非加熱エマルションを使用して対照物とした。それに加えて、連続相の緩衝剤、及び澱粉(エマルションとして加熱した)の対照物を、澱粉の活性を確かめるために使用した。
【0199】
[顕微鏡検査]
光を偏光フィルタ(U−ANT、オリンパス)を通して送り、試料を顕微鏡のスライドに置いて、カバーグラスなしですぐ調査するという変更を加え、実験1で開示したように、エマルションの微細構造の点検及び画像診断を、熱処理前後に顕微鏡検査で行った。Java画像処理プログラムImageJ(バージョン1.42m)を使用して、画像を処理した。
【0200】
[実験14からみた結果]
添加した澱粉の量の増加に伴い滴サイズは減少し(表8−1を参照)、30分後に滴サイズは脂肪分解により影響を受けなかった。
【0201】
【表8-1】
【0202】
熱処理していないエマルションは、乳化剤及び滴安定剤としてTween20を用いたエマルションと比較して、脂肪の分解に効果を及ぼさなかった。
図9−1に見られるように、澱粉顆粒の部分的なゼラチン化により、加熱したエマルションにおいてのみリパーゼの活性が減少した。ゼラチン化された顆粒は、熱処理していないエマルションの滴表面の明瞭な顆粒とは異なる滴の周りに、より多くの不浸透性の層を形成した。しかし、顆粒は熱処理の間、完全にゼラチン化されず、それは
図9−1(一番下の写真)において、滴界面に最も近い澱粉の分極化した模様によって示される。個々の顆粒の間の境界線は拡散するが、油界面のある程度の無傷の粒子はなお残存する。これは、水性の相内に濃い凝集性の外層を得て、熱処理した、澱粉に安定化されたエマルションに観察される強化されたバリア特性の上昇を与えると同時に、粒子安定化メカニズムを維持する可能性がある。減少したリパーゼ活性によって見られるように、このバリアの強化は調査した温度範囲内で増加した(
図9−2を参照)。
【0203】
[実験14からみた結論]
滴界面の澱粉顆粒のバリアは、エマルションを加熱することによって強化することができ、それによって部分的に顆粒をゼラチン化することができる。この強化されたバリアは、リパーゼが油に到達して消化することを阻害する。リパーゼの活性は、熱処理していないエマルションの活性と比較して少なくとも60%減少し、これは、加熱が、封入用途においてバリア特性を強化するか又は調節するために有用な、凝集性の澱粉層を達成することができることを示す。
【0204】
[実験15]
実験15では、澱粉に安定化されたエマルション及び二重エマルションへの異なる物質の封入を実証した。
【0205】
[実験]
実験1のように調製したOSA−変性した小さな粒の澱粉を使用した。連続相は、0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液であった。油相及び乳化方法は、下記において各々の封入物質について開示される。
【0206】
[サリチル酸メチル(油相への封入)]
サリチル酸メチルは鎮痛剤として医薬で使用されるが、それがミントの香り及び風味があるため、香料として食品においても使用される。しかし、それは非常に毒性で、成人におけるLD50=500mg/kgであり、したがって、非常に低濃度で使用される。この物質の芳香族の性質は、302nmの波長の光電分光法(photo spectroscopy)による検出を可能にする。
【0207】
サリチル酸メチル(CAS nr.119−36−8)は、濃度50μL/g油で、50℃で撹拌する間、シアバターノキ・ナッツ・バターに溶解した。続いて、澱粉(500mg/gの油)、緩衝剤、及びサリチル酸メチルを含む溶融したシアバターノキ・ナッツ・バター(33%)を、50gのバッチで、水浴中40℃でSorvallミキサー(レベル8、2分)を使用して乳化した。更なるエマルションは、実験13に開示したように凍結乾燥した。実験9に開示したように、3つの異なる油を使用し、サリチル酸メチルもまた油相に封入し、乳化した。封入した物質は、滴サイズ分布又は滴の視覚的な外見を変えなかった。
【0208】
[香料(油相への封入)]
澱粉(50mg/g)、緩衝剤、及びシアバターノキ・ナッツ・バター(56%)及び食品用途のための一般的なアーモンド香料の数滴を、先に開示したようにSorvallミキサーを使用して乳化した。結果として生じるエマルションは例8に開示したように乳脂の特性を有し、乳脂が皮膚に適用されたとき、より露出してアーモンドの香りを呈した。1週間保管した後、減少した強度ではあるが、アーモンド香りはなお認められた。
【0209】
[ペニシリン(二重エマルションの内部の水相への封入)]
Kavepenin(フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV))の活性成分は、バクテリアによる通常の細胞壁の構築を防ぐペニシリン(抗菌剤)である。澱粉濃度が500mg/ml油であり、Kavepeninを62.5mg/mlの濃度で内部の水相に加えるという変更を加え、二重エマルションは実験11に開示したように調製した。続いて、エマルションを1000gで5分間遠心分離し(Beckman Coulter、Allegra(登録商標)X−15R、L284、英国)、水相を取り除き、エマルションを5mlの緩衝剤で洗浄した。この手順を5回繰り返した。実験11の初期に実証したように、高い封入効率及び低い漏出で二重エマルションを製造することができる。この理由から、エマルションを洗浄して、初期のエマルション工程の間に漏れていたであろう、好ましくない香味又は匂いを引き起こす内部の少量の水相を取り除くことは有用である。これは特に苦い風味の経口抗生物質、特にコンプライアンスが大きな問題となる小児用の液体の製剤に有用である。この側面は、実験16でさらに実証する。洗浄手順によって、滴サイズは変わらなかった(D
43は最初に30.4μmであり、洗浄1の後:30.4、洗浄2:42.5、洗浄3:34.7、洗浄4:42.9、洗浄5:41.6μm)。
【0210】
[着色剤(二重エマルションの内部の水相への封入)]
異なる着色剤を、二重エマルションの内部の水相に封入した。食品着色剤を、優れた封入効率及び保管安定性を示した実験11に開示したように封入した。これらのエマルションを、維持され許容できる程度の封入で、さらに実験12に開示したように液体窒素で凍結及び融解し、又は実験13に開示したように凍結乾燥した。クマシーブルーは、500mg/ml油の澱粉濃度であること以外は同じ方法を使用して封入した。封入された物質は、二重エマルション滴の滴サイズ分布又は視覚的な外見を変えなかった。ビタミンB12もまた、クマシーブルーについて開示した方法を使用して封入した。
【0211】
[実験15からみた結論]
物質は、良好な安定性でエマルションの油相に効率的に封入することができた。水溶性物質は、澱粉粒子が外側のエマルションを安定させることで、二重エマルションに封入することができた。これらの実験は、食品及び医薬品において成分又は活性物質の封入について、澱粉顆粒によって安定するエマルション滴の適合性を示す。
【0212】
[実験16]
実験16では、封入されたペニシリンの二重エマルションにおいて、並びに分散相として魚油を使用した加熱及び非加熱エマルションにおいて、異臭の抑制を達成する方法を調査した。魚油は異臭を引き起こす酸化に非常に影響されやすいが、オメガ−3脂肪酸を含み、一般的に、健康効果を有すると考えられている。また、ペニシリンは非常に認められる苦い風味として、異臭を放つことで知られている。
【0213】
[実験]
[ペニシリン]
ペニシリン(Kavepenin)を含み澱粉により安定化する二重エマルションを調製し、実験15に開示したように洗浄した。感覚による分析を洗浄の前後に行った。感覚のパラメータは、少量の二重エマルションを舌の上に適用して、続いて飲み込むことによって評価した。パネリストの感覚の限界を見つけるために、緩衝剤のみについて、及び異なる濃度のKavepeninについて感覚の検量線を作成した。
【0214】
[魚油]
実験1のように調製したOSA−変性した小さな粒の澱粉を使用した。連続相は、0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝液であった。油相は、市販の魚油(エスキモー−3 ピュア、Green Medicine AM、Malmo、スウェーデン)であった。澱粉500mg/ml油、及び10%の油相を使用した乳化は、実験1に開示したように行った。いくつかのエマルションを、その後70℃の水浴で1分間熱処理した。エマルションは、5℃で1週間、封をして保管した。エマルションの安定性は、試料の準備直後、及び1週間後に観察した。顕微鏡検査及び粒子サイズ分布分析を、実験2に開示したように行った。感覚の分析は、1人によって行った。舌の上に適用し、続いて飲み込む少量のエマルションから、感覚のパラメータを評価した。
【0215】
[結果 ペニシリン]
緩衝剤中のKavepeninのボランティアの検出限界は、検量線によれば10mg/ml以下であった。この濃度の約6倍を含む二重エマルションから、Kavepeninの臭いは検出されなかった。洗浄は、二重エマルションの風味の違いを生じさせなかった。
[魚油]
澱粉に安定化されたエマルションを作成し(
図10−1を参照)、エマルション滴は熱処理及び保管に対し安定していた。熱処理していないエマルションは白色であったが、熱処理したエマルションは保管の前後にわずかに黄色を呈していた。1週間の保管は、粒子サイズ分布を変えなかった。熱処理していないエマルションは、魚油からの非常に強い風味を有していた。加熱したエマルションは、魚油に関してより穏やかな風味を有していた。
【0216】
[実験16からみた結論]
ペニシリンが封入された場合、異臭の抑制が実証され、非常に効率的であった。また、澱粉に安定化されたエマルションは魚油でもまた作成することができた。魚油は、エマルションの安定性に悪影響を及ぼさなかった。澱粉に安定化されたエマルションは、好ましくない風味の成分又は物質の、食品及び医薬品への封入について適合し得る。
【0217】
[実験17]
実験17では、泡を安定させるために澱粉顆粒を使用した。
この実験の油相はシアバターノキ・ナッツ脂肪(AAK、スウェーデン)であり、澱粉顆粒はキノアから単離し、2.9%までOSA変性することで更に疎水性とし(実験2に開示した)、また、連続相は0.2MのNaClを含むpH7の5mMのリン酸緩衝剤であった。シアバターノキ・ナッツ・バターは60℃で溶解させ、その後、SorvallOmniミキサー中、レベル8で5分間、300mlの分散装置を使用して均質化した。液体の表面でボルテックスで混合する間、より大きな容器によって、空気を液体の相へ巻き込ませた。このように、粒子によって安定化された泡及び滴の両方を作成した。
【0218】
[実験17の結果]
ホイップクリームの密度に類似した密度の固い泡の様な構造体を製造した。それは固体で、
図11−1に示すように切り分けることができた。この泡もまた、1ヵ月より長期の保管の後で不変であった。
【0219】
[実験17からみた結論]
泡を安定させる澱粉顆粒の成功した使用が実証された。結果として生じる構造体は、種々の食品及び化粧用途に対し魅力的であり得る。
本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[15]に記載する。
[1]
粒子に安定化されたエマルション又は泡であって少なくとも2つの相及び固体粒子を含み、ここで、前記固体粒子は澱粉顆粒であり、前記澱粉顆粒又はこれらの一部が粒子に安定化されたエマルション又は泡を提供している2つの相の間の界面に位置している、粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[2]
前記澱粉顆粒は、物理的変性及び/又は化学的変性を受けて澱粉顆粒の疎水性が増大している、項目1に記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[3]
乾燥加熱により、又は部分的に表面タンパク質を変性させる他の手段により物理的変性が施された、項目2に記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[4]
アルケニルスクシニル無水物処理により、又は疎水性側鎖を有する他の化学物質とのグラフトによって化学的変性が施された、項目2又は3に記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[5]
前記澱粉顆粒が、約0.2〜20、好ましくは0.2〜8マイクロメートル、より好ましくは0.2〜4マイクロメートル、更により好ましくは0.2〜1マイクロメートルの範囲の小さい粒のサイズを好ましくは有する、項目1〜4のいずれかに記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[6]
前記澱粉顆粒が任意の植物源から得られる、項目1〜5いずれかに記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[7]
前記澱粉顆粒がキノア、米、トウモロコシ、アマランス、大麦、未熟スイートコーン、ライ麦、ライ小麦、小麦、ソバ、ガマ、セリ、ドリアン、穀物テフ、オート麦、アメリカボウフウ、小黍、ワイルドライス、カナリアクサヨシ、牛ザルガイ、タロイモ・アカザ、タロイモ、並びに上記のモチ−及び高アミロースの変種から得られる澱粉顆粒である、項目6に記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[8]
少なくとも2つの相が、水中油型エマルション又は油中水型エマルションなどの、油ベースの相/水ベースの相、又は気相/水ベースの相から選択される、項目1〜7のいずれかに記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[9]
添加した澱粉顆粒の量がエマルション滴の表面の10%より大きい範囲を覆う、項目1〜8のいずれかに記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[10]
前記粒子に安定化されたエマルションのバリア特性及び/又は粘弾性特性を強化する又は改変するために、前記粒子に安定化されたエマルションが熱処理を受けている、項目1〜9のいずれかに記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[11]
乾燥した、粒子に安定化されたエマルション又は泡であって、項目1〜10のいずれかに記載の粒子に安定化されたエマルション又は泡が、例えば乾燥することによって水の除去を受けている、乾燥した、粒子に安定化されたエマルション又は泡。
[12]
エマルション滴の密度を制御するための、項目1〜11のいずれかに記載の粒子に安定化されたエマルションの使用。
[13]
バイオ医薬品、タンパク質、生菌、生細胞、酵素、抗体、敏感な食品成分、ビタミン、及び脂質から選択される物質の封入のための、項目1〜11のいずれかに記載の粒子に安定化されたエマルションの使用。
[14]
食品製品、化粧品、皮膚クリーム、ローション、製剤処方、及び消費者製品における、項目1〜11のいずれかに記載の粒子に安定化されたエマルションの使用。
[15]
項目11に記載の乾燥した、粒子に安定化されたエマルション、並びにバイオ医薬品、タンパク質、生菌、生細胞、酵素、抗体、敏感な食品成分、ビタミン、及び脂質から選択される物質を含む製剤。