(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
マイクロカプセルを含む医薬組成物であって、前記マイクロカプセルが、哺乳動物の生きた卵巣顆粒膜細胞、および、哺乳動物の生きた卵巣卵胞膜細胞の両方を含み、卵母細胞を含まず、
前記マイクロカプセルが、コアと、前記コアを取り囲む補助層とを含み、前記コアが、前記顆粒膜細胞を含み、前記補助層が、前記卵胞膜細胞を含む、組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「対象」は、本明細書で用いられる場合、一般的に、哺乳動物の対象である。ヒトの対象が好ましいが、対象は、いくつかの実施形態では、獣医学的な目的の場合、イヌおよびネコなどのその他の動物であってもよい。対象は、一般的に雌である。対象は、任意の適切な年齢であってよいが、対象は、典型的には成体であり、いくつかの実施形態では、閉経期の雌の対象である。
【0011】
「治療する」は、本明細書で用いられる場合、対象に利益を与える任意のタイプの治療を指し、対象における少なくとも1つの症状の発症を遅らせること、または、その重症度を減少させることを含むが、これらに限定されない。
【0012】
「薬学的に許容される」は、本明細書で用いられる場合、疾患の重症度と治療の必要性を考慮して、過度に有害な副作用を起こさずに本明細書において説明される治療を達成するために、化合物または組成物が対象に投与するのに好適であることを意味する。
【0013】
1.細胞
本発明を実施するのに使用される細胞は、一般に、適切なドナーから採取された生きた哺乳動物細胞である。ドナーは、一般に、哺乳動物(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、サル、チンパンジー、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ)である。ドナーは、治療されている対象と同じ種に属するものでもよいし、または、異なる種に属するものでもよい。いくつかの実施形態では、ドナーは、治療を受けている対象と同じであってもよく、このような場合、対象から適切な細胞が採取され、その後の使用のために保存された。
【0014】
細胞は、当技術分野で公知の技術に従って、ドナーから単離され、所望に応じてマイクロカプセル製造のために培養される。例えば、Sanjay K.Agarwalら、Leptin Antagonizes the Insulin−Like Growth Factor−I Augmentation of Steroidogenesis in Granulosa and Theca Cells of the Human Ovary、J.Clin Endocrinol Metab 84:1072〜1076(1999年);Jon C.Havelockら、Ovarian granulosa cell lines、Molecular and Cellular Endocrinology 228、67〜78(2004年);Jessica K.Wickenheisserら、Human ovarian theca cells in culture、Trends in Endocrinology & Metabolism 17、65〜71(2006年)を参照。一般に、新しい組織は、切り刻むこと、薄くそぐこと、粉砕、および/または、コラゲナーゼ消化によって分割される。続いて所望の細胞は、洗浄、濾過、遠心分離、または、摘み取り手順により夾雑細胞および夾雑材料から単離され、任意選択的に、カプセル化の前に所望に応じて培養および/または凍結保存される。
【0015】
2.マイクロカプセルの製造
生細胞のカプセル化は、公知の技術、または、当業者には明らかであるそれらのバリエーションによって行うことができる。例えば、Oparaに付与された米国特許第6,783,964号および米国特許第6,365,385号を参照(これらの開示は、参照することによりそれらの全体が本明細書の一部をなすものとする)。
【0016】
本発明において有用なマイクロカプセルは、任意選択的に、ただしいくつかの実施形態では好ましくは、細胞を含む内部を取り囲む少なくとも1つの半透膜を有する。半透膜は、栄養素、生物学的に活性な分子、およびその他の選択された生成物を、表面の膜を通ってマイクロカプセルのコア中に拡散させることを可能にする。表面の膜は、膜の分子量カットオフを決定するサイズの孔を含む。膜の孔サイズは、エストロゲン、および、いくつかの実施形態ではプロゲステロンが、カプセル内部から外部環境に通過できるように、ただし宿主免疫反応因子が侵入する余地を与えないように選択される(ここでカプセル化された細胞は、自己由来ではない)。このような半透膜は、典型的には、以下でさらに考察されるように、ポリカチオン、例えばポリアミン(例えば、ポリリシン、および/または、ポリオルニチン)から形成される。
【0017】
カプセル化技術の非限定的な例示的な実施形態の一つにおいて、Limらに付与された米国特許第4,391,909号は、細胞を、アルギン酸ナトリウムを含む生理食塩水に懸濁し、細胞を含む液滴を製造する方法を説明している。細胞を含むアルギン酸塩の液滴は、生理食塩水中の塩化カルシウムに注がれる。負電荷を有するアルギン酸塩の液滴がカルシウムと結合し、アルギン酸カルシウムゲルを形成する。マイクロカプセルは、生理食塩水中で洗浄され、ポリ−L−リシンまたはポリ−L−オルニチン(またはそれらの組合せ)と共にインキュベートされ、正電荷を有するポリ−l−リシンおよび/またはポリ−L−オルニチンがカルシウムイオンで置換され、負電荷を有するアルギン酸塩と(イオン)結合し、高分子電解質の外側半透膜が生成される。アルギン酸ナトリウムの外側コーティングは、マイクロカプセルをアルギン酸ナトリウム溶液で洗浄し、ポリ−L−リシンおよび/またはポリ−L−オルニチン層にイオン結合させることにより付加してもよい(これは、対象においてポリカチオン性膜が組織と接触することにより引き起こされる可能性がある任意の炎症性反応を低減させるのに役立つ)。この技術により、「単一壁」マイクロカプセルと呼ばれるものが製造される。「二重壁」マイクロカプセルは、単一壁マイクロカプセルの場合と同じ手順を行うことによって製造することができるが、クエン酸ナトリウムとの任意のインキュベートの前に、マイクロカプセルは、再度、ポリ−l−リシンおよびアルギン酸ナトリウムとインキュベートされる。
【0018】
カプセル化法のさらなる非限定的な例において、Changら、米国特許第5,084,350号は、より大きいマトリックス中に封入されたマイクロカプセルを開示しており、マイクロカプセルがより大きいマトリックス内に入ると、マイクロカプセルは液化される。Tsangら、米国特許第4,663,286号は、アルギン酸ポリマーを用いたカプセル化を開示しており、ゲル層は、ポリリシンなどのポリカチオン性ポリマーで架橋されており、第二の層は、第二のポリカチオン性ポリマー(例えばポリオルニチン)を用いて形成され、続いて第二の層は、アルギン酸塩でコーティングされてもよい。Soon−Shiongらに付与された米国特許第5,762,959号は、アルギン酸カルシウム/バリウムが所定比率の固形の(キレート化されていない)アルギン酸塩ゲルのコアを有し、コア中に高分子材料を含むマイクロカプセルを開示している。Hubbellら付与された米国特許第5,801,033号および米国特許第5,573,934号は、最外層の高分子コーティング(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))を有するアルギン酸塩/ポリリシンマイクロスフェアを説明しており、Sawhneyら、Biomaterials 13:863(1991年)は、生体適合性を改善するための、マイクロカプセル表面上にポリ−l−リシンとポリエチレンオキシドとのグラフトコポリマーを包含するアルギン酸塩/ポリリシンマイクロカプセルを説明しており、米国特許第5,380,536号は、ポリエチレン(オキシド)などの水溶性の非イオン性ポリマーの最外層を有するマイクロカプセルを説明している。Weberらにに付与された米国特許第5,227,298号は、予めポリリシンアルギン酸塩でコーティングされた細胞に、第二のアルギン酸塩ゲルのコーティングを提供する方法を説明しており、いずれのアルギン酸塩コーティングもポリリシンで安定化される。Weberらに付与された米国特許第5,578,314号は、精製したアルギン酸塩の複数のコーティングを用いたマイクロカプセル化法を提供する。Dorianらに付与された米国特許第5,693,514号は、繊維を形成しないタイプのアルギン酸塩の使用を報告しており、アルギン酸塩コーティングの外面は、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含むアルカリ土類金属のカチオンと反応して、アルカリ土類金属のアルギン酸塩コーティングを形成する。アルギン酸塩コーティングの外面は、ポリリシンと反応しない。Soon−Shiongに付与された米国特許第5,846,530号は、カプセル化の前に、重合性アルギン酸塩、または、ポリリシンなどの重合性ポリカチオンで個々にコーティングされた細胞を含むマイクロカプセルを説明している。
【0019】
所望に応じて、アルギン酸塩−ポリリシンマイクロカプセルをクエン酸ナトリウム中でインキュベートすることにより、ポリ−l−リシンと反応しなかったあらゆるアルギン酸カルシウムを溶解させることができ、すなわち、細胞を含むアルギン酸ナトリウムの内部コアを溶解させて、細胞を含むコア部分を液化したマイクロカプセルを製造することができる。LimおよびSun、Science 210:908(1980年)を参照。このようなマイクロカプセルは、本明細書において、「キレート化」、「中空」または「液状」コアを有することを指す。
【0020】
所望に応じて、マイクロカプセルに含まれる細胞の生理学的な反応性を保持しながら、または、そのような反応性を過度に損なうことなくマイクロカプセルの耐久性を高めるために、マイクロカプセルを、硫酸ナトリウムなどの生理学的に許容可能な塩または類似の物質で処理するか、またはインキュベートしてもよい。例えば、Oparaに付与された米国特許第6,783,964号を参照。
【0021】
現在のところ好ましいマイクロカプセルの製造方法の一つは、O.Khannaら、Synthesis of multilayered alginate microcapsules for the sustained release of fibroblast growth factor−1 J.Biomed.Mater.Res.Part A:95A:632〜640(2010年)で説明されている。
【0022】
マイクロカプセルは、任意の適切なサイズであってよく、例えばその直径は、10、20または30マイクロメートルから、最大1000、2000、または5000マイクロメートルである。マイクロカプセルは、任意の適切な量の細胞を含んでいてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、顆粒膜細胞は、マイクロカプセル1つあたり1,000個または2,000個の細胞から、マイクロカプセル1つあたり最大1×10
6個、1×10
8個、または1×10
9個の細胞の量でマイクロカプセルに含まれ、卵胞膜細胞は、マイクロカプセル1つあたり1,000個または2,000個の細胞から、マイクロカプセル1つあたり最大1×10
6個、1×10
8個、または1×10
9個の細胞の量でマイクロカプセルに含まれる。
【0023】
本発明のマイクロカプセルは、所望に応じて、製造後に投与してもよいし、その後の使用のために冷蔵および/もしくは冷凍保存してもよいし、ならびに/または、その後の使用のために培養してもよい。本発明のマイクロカプセルは、それらの製造様式により所望に応じて、製剤化および/または投与の前に(例えば、滅菌生理食塩水中で)洗浄してもよい。
【0024】
3.製剤化および投与
本発明のマイクロカプセルは、そのものを投与してもよいし、または、任意の適切な技術によって投与用に製剤化してもよく、例えば滅菌生理食塩水と混合することによって製剤化してもよい。本発明のマイクロカプセルは、エストロゲン補充療法が使用される任意の状態のための治療として対象に投与してもよい。マイクロカプセルは、任意の適切な技術によって投与してもよく、このような技術としては、外科的移植または注射が挙げられるが、これらに限定されない。これらはいずれも、皮下、腹腔内、筋肉内、またはその他の任意の適切な区画に行ってもよい。投与される細胞の投与量は、公知の技術または当業者には明らかであるそれらのバリエーションに従って決定することができる。比較のために、糖尿病の治療において、国際膵島移植登録機関(the International Islet Transplant Registry)は、正常血糖値を達成するためには、レシピエントの体重1キログラムあたり少なくとも6,000個の細胞の移植を推奨している。本発明において、移植される細胞の数は、対象の年齢および状態、治療されている具体的な障害などによって決定される。本発明のいくつかの実施形態では、レシピエントの体重1キログラムあたり1,000個、2,000個、または3,000個の細胞から、レシピエントの体重1キログラムあたり最大20,000個、40,000個、または60,000個の細胞が投与される。
【0025】
本発明の方法によって治療される対象または患者は、閉経期に付随する可能性がある、骨粗鬆症、ホットフラッシュ、不規則な月経、膣萎縮、膣および/もしくは膀胱の感染症、失禁(例えば、切迫尿失禁、ストレス失禁)、疲労、睡眠障害、興奮性、気分変動、うつ、筋肉量の低下、脂肪組織の増加、皮膚が薄くなり弾力がなくなること、骨組織の減少、認知障害など、子宮摘出、卵巣摘出、または、エストロゲンもしくはホルモンの補充療法が用いられるその他の状態の1種または複数に苦しむ対象、または、それらの危険性が高い対象を含む。
【0026】
以下の非限定的な実施例で本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0027】
[ラット卵巣の単離]
図1で図解されているように、生後21日目のフィッシャー(Fischer)344ラットに、連続して3日間、ゴマ油に溶解した1.5mg/0.2mlの17β−エストラジオール(E2)を皮下注射した。最後の注射から24時間後にラットを安楽死させ、卵巣を切り出し、実施例2で説明されているようにして内分泌細胞を単離した。
【実施例2】
【0028】
[細胞の単離および精製]
LiおよびHearn(J.Biochem.Biophys.Methods 45、169〜181(2000年)に従って、E2処理した未成熟ラットの卵巣から内分泌細胞を単離した。HEPES(25mM)、1mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)、L−グルタミン(2mM)、ペニシリン(10,000IU/ml)、ストレプトマイシン(10,000μg/ml)、および、アンホテリシンB(25μg/ml)を含む氷冷した培地199(M199)中で卵巣を採取した。外側の組織を取り除いた後、卵巣を氷冷したM199で2回洗浄し、続いて緩く詰め込まれた顆粒膜細胞を卵胞から放出させるために27Gの注射針で丁寧に穴を開け、このようにして採取された細胞を氷上で維持した。残った卵巣を切断して約0.25mm
2の細かい断片にし、この過程で放出された細胞を採取し、氷上で別々に維持した。続いて卵巣の断片をM199中でコラゲナーゼ(2mg/ml)およびDNアーゼ(10μg/ml)と共にときどき混合しながら90分インキュベートした。酵素消化した断片をパスツールピペットを用いて分散することにより単一細胞の懸濁液を得て、その細胞を回収し、別々の分画として氷上で保存した。このようにして回収された異なる分画からの細胞を、MagoffinおよびErickson(Endocrinology 122、2345〜2347(1988年))と同様にして精製した。簡単に言えば、細胞を不連続パーコール密度勾配法(底部は44%、中間部はd=1.055のパーコール(比重を1.055に調節)、および、上部は20%)の上にローディングし、4℃で400×gで20分遠心分離した。第一の相間(20%の層とd=1.055の層との間)からの細胞を顆粒膜細胞として回収し、第二の相間(d=1.055の層と44%の層との間)からの細胞を卵胞膜細胞として回収した(
図1Cを参照)。トリパンブルー法を用いて細胞の生存率を調べたところ、生存率は85〜95%の範囲であった。細胞特異的マーカーを用いたフローサイトメトリー分析によって各細胞型の純度を評価した。
【実施例3】
【0029】
[フローサイトメトリーを用いた細胞の解析]
不連続パーコール密度勾配法を用いて精製した細胞の分画(1つの細胞型あたり5×10
6個の細胞)を3.7%ホルムアルデヒド中で15分間固定した。
【0030】
ラット卵巣から単離した細胞型の純度を確認するために、細胞を細胞特異的マーカーで染色し、フローサイトメトリーで定量した。異なる相間からの細胞(
図1Cを参照)を一次抗体と共にインキュベートした。CYP19に対する抗体(マウス抗CYP19、Abbiotech、カタログ番号250549)およびFITCがコンジュゲートされた二次抗体を使用して、顆粒膜細胞を検出した。CYP17A1に対する抗体(ヤギ抗CYP17A1、Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号sc−46085)、および、PerCP Cy5.5がコンジュゲートされたロバ抗ヤギIgG二次抗体を使用して、卵胞膜細胞を検出した。細胞を適切な一次抗体と共に1時間インキュベートした。続いて未結合の抗体を洗い落とし、細胞を適切な二次抗体と共に1時間インキュベートした。未結合の二次抗体を洗い落とした後、フローサイトメトリーを用いて細胞を解析した。フローサイトメトリー分析から、パーコール密度勾配法で第一の相間から回収した細胞の74.15%がCYP19について陽性染色され(
図1A)、第二の相間から得られた細胞の69.91%がCYP17A1について染色された(
図1B)ことが明らかになった。二次抗体のみとインキュベートした細胞を対照として使用した。
【実施例4】
【0031】
[顆粒膜細胞および卵胞膜細胞の培養]
T175フラスコ(Corning、Corning Inc.、NY、米国)中で、精製した顆粒膜細胞および卵胞膜細胞を、37℃で、5%CO
2の雰囲気下で、加湿空気中で別々にインキュベートし、L−グルタミン(2mM)、ペニシリン(10,000IU/ml)、ストレプトマイシン(10,000μg/ml)、アンホテリシンB(25μg/ml)、および、10%FBSが補充されたMcCoyの5A培地中で24時間培養した。顆粒膜細胞用の培地を、顆粒膜細胞用の増殖培地(L−グルタミン(2mM)、BSA(1mg/ml)、ペニシリン(10,000IU/ml)、ストレプトマイシン(10,000μg/ml)、および、アンホテリシンB(25μg/ml)、200ng/mlのFSH、100nMのE2、および、10nMのIGF−Iを含むMcCoyの5A)と交換し、さらに72時間培養した。同様にして、卵胞膜細胞を、卵胞膜細胞用の増殖培地(L−グルタミン(2mM)、BSA(1mg/ml)、ペニシリン(10,000IU/ml)、ストレプトマイシン(10,000μg/ml)、アンホテリシンB(25μg/ml)、100ng/mlのLH、10nMのIGF−Iが補充されたMcCoyの5A培地)中で、さらに72時間増殖させた。
【実施例5】
【0032】
[免疫蛍光染色]
各細胞型を、それぞれの増殖培地中のチャンバースライド上で培養し、ステロイド生成に関する必須の細胞成分の発現に関してスクリーニングした。細胞を3.7%ホルムアルデヒド中で15分固定した後、細胞をPBSで洗浄し、BSA(1%)を含むPBSでブロックした。次に、単分子層を一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートし、顆粒膜細胞を、ウサギ抗FSHR(Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号sc−13935)、および、マウス抗CYP19(Abbiotech、カタログ番号250549)と共にインキュベートした。同様にして、卵胞膜細胞を、ウサギ抗LHR(Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号sc−25828)、および、ヤギ抗CYP17A1(Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号sc−46085)と共にインキュベートした。一次抗体と共に一晩インキュベートした後に、スライドをPBSで洗浄し、二次抗体と共に4℃で2時間インキュベートした。未結合の二次抗体を洗い落とし、細胞核をDAPIで対比染色し、カバースライドを載せた。蛍光顕微鏡を用いて画像を得て、Image−Pro plusソフトウェア、バージョン6.3.1.542を用いて合成画像を作製した。
【0033】
卵胞膜細胞は、LH受容体(LHR)およびCYP17A1について陽性染色され(
図2)、顆粒膜細胞は、FSH受容体(FSHR)およびCYP19について陽性を示した(
図2)。
【実施例6】
【0034】
[別々にカプセル化された顆粒膜細胞および卵胞膜細胞]
培養細胞を、1〜3%(w/v)の超高純度の低粘度マンヌロン酸(LVM)高含有アルギン酸塩溶液中で、マルチノズル押出機を通じて塩化カルシウム溶液内に向かって5〜15分間の間(架橋のため)押出すことにより、別々にカプセル化して、直径がおよそ300〜600マイクロメートルのマイクロカプセルを製造した。全てのカプセル化および洗浄ステップは、室温で行われる。続いて顆粒膜細胞を含むマイクロカプセル、および、卵胞膜細胞を含むマイクロカプセルをそれぞれ等量部で共に合わせ、24ウェルプレートで、ペニシリン/ストレプトマイシン(それぞれ100IU/mlおよび100μg/ml)、アンホテリシンB(0.25μg/ml)、および、ウシ胎児血清(10%)が補充されたMcCoyの5A培地中で、37℃および5%CO
2で、培養インサートの隔離されたチャンバーで共培養した。以下で考察されるように、生存率と17β−エストラジオール産生を30日にわたり定期的に評価した。
【0035】
長期培養中に、マイクロカプセルに、50ng/mlの卵胞刺激ホルモン(FSH)、および、50ng/mlの黄体形成ホルモン(LH)を与えた。in vitroで、卵胞膜細胞においてLH処理はCYP17A1(17、20リアーゼ)の発現を増加させ、顆粒膜細胞においてFSH処理はCYP19(アロマターゼ)の発現を増加させた(
図2)。この増加によりこれらの細胞のステロイド合成能は改善される。カプセル化により、細胞がアルギン酸塩マイクロカプセル中に均一に分配された(
図3)。最適な細胞密度が、マイクロカプセルの形状および構造にとって重要な要因であることが認められ、この最適な細胞密度は、マイクロカプセル1つあたりおよそ1,000〜10,000個の細胞であった。
【0036】
カプセル化細胞は、最長で30日の長期培養の間、生存能力を保ち続けた(実施例10および
図4を参照)。生存できない細胞の数は、長期培養の過程で増加した。
【0037】
注目すべきことに、卵胞膜細胞を含むマイクロカプセルと共培養された顆粒膜細胞を含むマイクロカプセルは、それぞれ個々に培養した場合よりも有意に高い濃度のE2を産生した(
図5A)。
【0038】
加えて、in vitroの長期培養において、顆粒膜細胞を含むマイクロカプセルと卵胞膜細胞を含むマイクロカプセルとの共培養は、FSHおよびLHに応答して高濃度のE2を分泌した(
図5BおよびC)。
【0039】
これらのデータは、アルギン酸塩ヒドロゲルマイクロカプセル中にカプセル化した卵巣の内分泌細胞は、in vitroにおいて、長期生存と生物活性との両方を示したことを示す。カプセル化技術を用いることによって、我々は、卵巣の内分泌ユニットをex vivoで再現可能なことを実証することができた。
【0040】
追加実験において、マイクロカプセルの一部を、FSH(100ng/ml)およびLH(100ng/ml)の存在下で約30日間培養し、培養培地を一日おきに採取して、性ステロイドの分泌を試験した。ELISAキットを用いて培養培地中の17β−エストラジオールおよびプロゲステロンの濃度を定量した。Enzo Life SciencesのELISAキット(カタログ番号ADI−901−008)を用いて培養培地中の17β−エストラジオールを測定した。Enzo Life SciencesのELISAキット(カタログ番号ADI−901−011)を用いて細胞培養培地中のプロゲステロン濃度を測定した。17β−エストラジオールおよびプロゲステロンの濃度を製造元の説明書に従って定量し、それらの希釈率に応じて補正した。
【0041】
顆粒膜細胞を含むマイクロカプセル、または、卵胞膜細胞を含むマイクロカプセルを別々にインキュベートしたところ、17β−エストラジオール産生の有意な増加はなかった。同じ実験で、プロゲステロン濃度は、4日目および6日目にそれぞれ1.3ng/mlおよび0.8ng/mlに達した(
図5Dおよび5Eを参照)。
【0042】
顆粒膜細胞を含むマイクロカプセル、および、卵胞膜細胞を含むマイクロカプセルを共培養したところ、17β−エストラジオール濃度は、18日目に約20pg/mlに達し、プロゲステロン濃度は、26日目に約1.5ng/mlの最大値を示した(
図5Dおよび5Eを参照)。
【実施例7】
【0043】
[共にカプセル化された顆粒膜細胞および卵胞膜細胞]
顆粒膜細胞と卵胞膜細胞とが共にカプセル化されるように、押出しする前にそれら2種を実質的に等量で共に混合することを除いては、この実施例は上述した実施例6と同様の方式で行われる。
【0044】
マイクロカプセルの一部を、FSH(100ng/ml)およびLH(100ng/ml)の存在下で約30日間培養し、培養培地を一日おきに採取して、性ステロイドの分泌を試験した。ELISAキットを用いて培養培地中の17β−エストラジオールおよびプロゲステロンの濃度を定量した。Enzo Life SciencesのELISAキット(カタログ番号ADI−901−008)を用いて培養培地中の17β−エストラジオールを測定した。Enzo Life SciencesのELISAキット(カタログ番号ADI−901−011)を用いて細胞培養培地中のプロゲステロン濃度を測定した。17β−エストラジオールおよびプロゲステロンの濃度を製造元の説明書に従って定量し、それらの希釈率に応じて補正した。2日目以降、カプセル化細胞はゴナドトロピンに応答した。17β−エストラジオール濃度は、25日目には基礎レベルと比較しておよそ5倍高く、プロゲステロン濃度は、基礎レベルと比較しておよそ2倍高かった(
図5Dおよび5Eを参照)。
【実施例8】
【0045】
[層中に共にカプセル化したブタ骨髄間質細胞]
O.Khannaら、J.Biomed.Mater.Res.Part A 95A:632〜640(2010年)で説明された技術に従って、(
図6で図解された)2層マイクロカプセルを製造した。簡単に言えば、ブタ骨髄間質細胞(pBMSC)を、ペニシリン/ストレプトマイシン(それぞれ100IU/mlおよび100μg/ml)、アンホテリシンB(0.25μg/ml)、ウシ胎児血清(10%)が補充されたDMEM中で、37℃および5%CO
2で培養し、生体蛍光プローブのCellTracker green、および、CellTracker orange(Invitrogen)を用いてタグ付けした。CellTracker greenをプローブとしたpBMSCを、マルチノズル押出機を通じて塩化カルシウム溶液に向かって押出すことにより、1〜2%の低粘度マンヌロン酸(LVM)高含有アルギン酸塩中にカプセル化した。続いてマイクロカプセルを0.05〜0.2%のポリ−L−オルニチン溶液に4℃で約5〜30分間懸濁し、選択透過性膜層を作製した。続いてコーティングされたマイクロカプセルを、第二のアルギン酸塩の層、すなわちCellTracker orangeをプローブとしたpBMSCを含む0.5〜2%(w/v)の低粘度グルクロン酸高含有アルギン酸塩(LVG)の層でコーティングした。カプセルの各層には、約1,000〜10,000個の細胞が含まれる。
【実施例9】
【0046】
[2層マイクロカプセル中にカプセル化した顆粒膜細胞および卵胞膜細胞]
顆粒膜細胞を1.5%(w/v)LVM中にカプセル化し、ポリ−L−オルニチン(PLO)(0.1%w/v)で20分間コーティングした。続いてPLOでコーティングしたマイクロカプセルと1.5%(w/v)LVMに懸濁した卵胞膜細胞とを混合し、
図6に示したように天然の卵胞の構造的な様式と類似した多層マイクロカプセル(多層マイクロカプセルと呼ぶ)を得るために、再度、マイクロ流体装置(
図1)を用いてカプセル化した。
【0047】
マイクロカプセルの一部を、FSH(100ng/ml)およびLH(100ng/ml)の存在下で約30日間培養し、培養培地を1日おきに採取して、性ステロイドの分泌を試験した。ELISAキットを用いて培養培地中の17β−エストラジオールおよびプロゲステロンの濃度を定量した。Enzo Life SciencesのELISAキット(カタログ番号ADI−901−008)を用いて培養培地中の17β−エストラジオールを測定した。Enzo Life SciencesのELISAキット(カタログ番号ADI−901−011)を用いて細胞培養培地中のプロゲステロン濃度を測定した。17β−エストラジオールおよびプロゲステロンの濃度を製造元の説明書に従って定量し、それらの希釈率に応じて補正した。25日目には、17β−エストラジオールは基礎レベルと比較して10倍増加し、プロゲステロン濃度はおよそ2倍高かった(
図5Dおよび5Eを参照)。
【0048】
多層マイクロカプセルにおいて異なる細胞型が分別区画化されたことを実証するために、多層マイクロカプセルを合成する前に、顆粒膜細胞をCell Tracker green(Invitrogen、カタログ番号C2925)で予め染色し、卵胞膜細胞をCell−tracker Orange(Invitrogen、カタログ番号C2927)で予め染色した。共焦点顕微鏡(Zeiss LSM510)を用いて多層マイクロカプセルを画像化した。
【実施例10】
【0049】
[カプセル化した卵巣の内分泌細胞の生存率]
生存/死亡解析を用いてカプセル化細胞の生存率を評価した。実施例6、7、8および9からのマイクロカプセルの一部を、FSH(100ng/ml)およびLH(100ng/ml)の存在下で、約30日間培養し、培養培地をおよそ3日おきに採取して、カプセル化細胞の生存率を調べた。指定された時間で、カプセル化細胞を24ウェルプレートに移し、無血清培地中の25μΜのCFDA SE(カルボキシフルオレセインジアセテート、スクシンイミジルエステル)(Invitrogen、カタログ番号V12883)と共に、37℃で15分間、5%CO
2雰囲気下で、加湿空気中でインキュベートした。続いてCFDAを含む培地を10%FBSを含む培地と交換し、上述した条件下でさらに30分間、再度インキュベートした。続いて血清を含む培地を50μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)(Invitrogen、カタログ番号V12883)と交換し、室温で2分間インキュベートし、マイクロカプセルを洗浄して過量のPIを除去した。続いてマイクロカプセルを倒立蛍光顕微鏡で観察し、画像化した。得られた合成画像から、Image−Pro plusソフトウェアのバージョン6.3.1.542を用いて生細胞の数と死細胞の数を解析した。
【0050】
注釈:生細胞は、膜透過性の非蛍光性CFDAのエステル基を切断し、そのCFDAを非透過性の緑色蛍光FDAに変換し、そのFDAが生存可能な細胞の内部に捕獲される。一方で、死細胞は、機能が低下した膜を有するため、プロピジウムが細胞核に透過し、DNAが赤く染色される。定期的な生存/死亡解析から、カプセル化した卵巣の内分泌細胞は、長期培養の間中、長期的な生存能を有することが解明された(
図4を参照)。
【実施例11】
【0051】
[in vivoにおける組織工学的に作製された卵巣の内分泌単位の機能]
卵巣摘出術および多層マイクロカプセルの移植。6カ月齢のフィッシャー344ラットの左右の卵巣を麻酔下で摘出し、それらのE
2およびP
4の血中濃度を、基礎レベルに達するまで追跡した。基礎レベルに達したら、実施例9による多層マイクロカプセルを卵巣摘出ラットの大網膜で作製された小袋に入れて移植した。各実験用ラット(n=5)に、各細胞型を0.5×10
6細胞充填したおよそ1000個のマイクロカプセルを移植した。対照ラット(n=5)に、大網の小袋中に入れた同数の中になにも含まないアルギン酸塩マイクロカプセルを入れた。ELISAキットを用いて17β−エストラジオールおよびプロゲステロンの血漿濃度を定量した。Enzo Life SciencesのELISAキット(カタログ番号ADI−901−174)を用いて血漿中の17β−エストラジオールを測定した。ELISAキット(Enzo,Life sciences、カタログ番号ADI−901−011)を用いてプロゲステロンの血漿濃度を測定した。17β−エストラジオールおよびプロゲステロンの濃度を製造元の説明書に従って定量し、それらの希釈率に応じて補正した。卵巣摘出対照ラットと比較したところ、測定された全ての時点において組織構築物を移植したラットにおける17β−エストラジオールの血漿濃度が有意に高かった(
図7A)。同様に、プロゲステロン濃度も、対照ラットの濃度よりも有意に高かった(
図7B)。
【0052】
in vivoの研究でスチューデントのt検定を行い、マイクロカプセルを移植したラットのホルモン濃度の平均と、卵巣摘出ラットのホルモン濃度の平均とを比較した。
【実施例12】
【0053】
[2D系における長期の共培養]
顆粒膜細胞および卵胞膜細胞を単離した後、これらを、2D系中で、ゴナドトロピン、LHおよびFSHの存在下で、別々に培養するか、または、共培養した(
図8Aおよび8Bを参照)。この実施例において、プロゲステロン濃度は、培養培地中で時間がたつにつれて(2日目の0.2ng/mlから、30日目の約2ng/mlに)増加したが、17β−エストラジオール濃度は、2日目の28pg/mlから、30日目の約5pg/mlに減少した。これらのデータは、顆粒膜細胞がそれらのエストロゲン合成能を失って、プロゲステロン合成能を獲得することにより、培地中で観察されるプロゲステロン濃度を高める、異常な細胞応答を示しており、これは、天然の卵巣におけるそれらの細胞の正常な生理学的応答とは対照的である。
【実施例13】
【0054】
[統計的分析]
SPSSソフトウェア(バージョン10.0.1)を用いて統計分析を行った。結果は、特に他の指定がない限り平均±標準偏差として示される。in vitroでの研究について、分散分析(ANOVA)を用いて、3つの異なるスキームのホルモン濃度の平均と対照群との比較を行い、続いて、適切な場合は、ボンフェローニ補正を用いてポストホック(post−hoc)検定を行った。差は、P<0.05の場合、統計学的に有意であるとみなされた。
【0055】
これまで述べたことは、本発明を例示するためであり、本発明を制限するものではない。本発明は、以下の特許請求の範囲で定義され、特許請求の範囲の均等物も包含される。