(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対の歯部を内周側に形成され一対のピン孔を有するリンクプレートが動力伝達方向に多数直列に且つ厚み方向に複数枚並列に配列されて前記ピン孔内に挿入された連結ピンにより連結されてなり、巻き掛け半径が拡大又は縮小するサイレントチェーンであって、
歯部を備えず内周側に直線状又は円弧状のガイド面が形成されるとともに前記連結ピンがそれぞれ挿通される一対のピン孔を有する補助リンクプレートが、前記複数枚配列された前記リンクプレートの厚み方向最も外側で且つ動力伝達方向に多数直列に配列され、
それぞれの前記補助リンクプレートの内周側には、隣接する前記補助リンクプレートの内周側と厚み方向に重合して前記ガイド面を動力伝達方向に連続させる重合部が形成された
ことを特徴とする、サイレントチェーン。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の無段変速機構にかかる実施の形態を説明する。本実施形態の無段変速機構は、車両用変速機に用いて好適である。なお、本実施形態では、無段変速機構における回転軸の軸心に近い側(公転軸側)を内側とし、その反対側を外側として説明する。
【0018】
〔1.一実施形態〕
以下、一実施形態にかかる無段変速機構について説明する。
〔1−1.無段変速機構の構成〕
無段変速機構は、
図1に示すように、二組の複合スプロケット5,5と、これらの複合スプロケット5,5に巻き掛けられたチェーン6とを備えている。なお、複合スプロケット5とは、詳細を後述する複数のピニオンスプロケット20及び複数のガイドロッド29が多角形(ここでは十八角形)の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットを意味する。
【0019】
二組の複合スプロケット5,5のうち、一方は、入力側の回転軸1(入力軸)と同心に一体回転する一組の複合スプロケット5(
図1では左方に示す)であり、他方は、出力側の回転軸1(出力軸)と同心に一体回転する複合スプロケット5(
図1では右方に示す)である。これらの複合スプロケット5,5はそれぞれ同様に構成されているため、下記の説明では、入力側の複合スプロケット5に着目し、その構成を説明する。
【0020】
複合スプロケット5は、回転軸1と、この回転軸1に対して径方向に可動に支持された複数(ここでは三個)のピニオンスプロケット20及び複数(ここでは十五本)のガイドロッド(第一ガイドロッド)29とを有している。三個のピニオンスプロケット20は、回転軸1の軸心C
1を中心にした円周上において周方向に沿って等間隔に配置され、ピニオンスプロケット20の相互間にはそれぞれ五本のガイドロッド29が配置されている。
【0021】
図1には示さないが、複合スプロケット5は、複数のピニオンスプロケット20を移動させるスプロケット移動機構40Aと、スプロケット移動機構40Aに連動してピニオンスプロケット20に含まれる自転ピニオンスプロケット22,23を自転駆動する機械式自転駆動機構50と、複数のガイドロッド29を移動させるロッド移動機構40Bとを備えている(
図2〜
図5参照)。これらについては、詳細を後述する。
【0022】
この無段変速機構は、ピニオンスプロケット20及びガイドロッド29が多角形(ここでは十八角形)の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットの外径、即ち、複合スプロケット5の外径を変更(拡縮径)することによって変速比を変更するものである。
複合スプロケット5の外径とは、複数のピニオンスプロケット20の何れもを囲み、且つ、複数のピニオンスプロケット20の何れにも接する円(接円)の半径(以下、「接円半径」という)に対応するものである。また、複合スプロケット5にはチェーン6が巻き掛けられるため、複合スプロケット5の外径は、複数のピニオンスプロケット20とチェーン6との接触半径に対応するものともいえる。よって、接円半径或いは接触半径が最小径であるときには、複合スプロケット5の外径が最小径であり、また、接円半径或いは接触半径が最大径であるときには、複合スプロケット5の外径が最大径である。
【0023】
このため、無段変速機構は、接円半径の変更によって変速比を変更するものといえる。
なお、
図1には、入力側の接円半径が最小径であり、出力側の接円半径が最大径のものを示している。
以下、無段変速機構の構成を、複合スプロケット5及びこれに巻き掛けられるチェーン6の順に説明する。
【0024】
〔1−1−1.複合スプロケット〕
以下の複合スプロケット5にかかる構成の説明では、ピニオンスプロケット20,ガイドロッド29,スプロケット移動機構40A,ロッド移動機構40B,機械式自転駆動機構50,回転軸1の順に説明する。
〔1−1−1−1.ピニオンスプロケット〕
三個のピニオンスプロケット20は、それぞれチェーン6と噛合って動力伝達する歯車として構成され、回転軸1の軸心C
1周りに公転する。ここでいう「公転」とは、各ピニオンスプロケット20が、回転軸1の軸心C
1を中心に回転することを意味する。回転軸1が回転すると、この回転に連動して各ピニオンスプロケット20が公転する。つまり、回転軸1の回転数とピニオンスプロケット20の回転数とは等しい。なお、
図1には、白抜きの矢印で反時計回りの公転方向を示している。
【0025】
これらのピニオンスプロケット20は、自転しない一つのピニオンスプロケット(以下、「固定ピニオンスプロケット」という)21と、この固定ピニオンスプロケット21を基準に公転の回転位相が進角側及び遅角側のそれぞれに配置され自転可能な二つの自転ピニオンスプロケット22,23とから構成されている。なお、以下の説明では、固定ピニオンスプロケット21を基準に進角側に設けられたピニオンスプロケット(進角側自転ピニオンスプロケット)を第一自転ピニオンスプロケット22と呼び、遅角側に設けられたピニオンスプロケット(遅角側自転ピニオンスプロケット)を第二自転ピニオンスプロケット23と呼んで区別する。
【0026】
各ピニオンスプロケット21,22,23は、いずれも、その中心に設けられた支持軸(ピニオンスプロケット軸)21a,22a,23aに対して結合されており、ここでいう「自転」とは、各自転ピニオンスプロケット22,23がその支持軸22a,23aの軸心C
3,C
4周りに回転することを意味する。なお、各支持軸21a,22a,23aの軸心C
2,C
3,C
4及び回転軸1の軸心C
1は、何れも相互に平行である。
【0027】
固定ピニオンスプロケット21は、本体部21bとこの本体部21bの外周部に部分的に形成された歯21cとを有する。すなわち、固定ピニオンスプロケット21には、チェーン6に噛合い可能な外周部領域に部分的に歯21cが突出形成されている。逆に言えば、固定ピニオンスプロケット21は、チェーン6と噛まない外周部領域には歯が形成されていない。
【0028】
なお、
図1には、固定ピニオンスプロケット21の歯が形成されていない部分の正面視形状が円弧状のものを例示するが、かかる形状は円弧状に限らず、矩形状や三角形状などの種々の形状を採用することができる。
自転ピニオンスプロケット22,23は、何れも本体部22b,23bとこの本体部22b,23bの外周部全周に突出形成された歯22c,23cとを有する。
当然ながら、各ピニオンスプロケット21,22,23に形成される歯の形状寸法及びピッチは同一規格のものとなっている。
【0029】
詳細は後述するが、第一自転ピニオンスプロケット22は、接円半径の拡径時に時計回りに自転し、接円半径の縮径時に反時計回りに自転する。一方、第二自転ピニオンスプロケット23は、接円半径の拡径時に反時計回りに自転し、接円半径の縮径時に時計回りに自転する。
【0030】
本実施形態では、
図2に示すように、各自転ピニオンスプロケット22,23は、それぞれ軸方向に三列の歯車を備え、図示省略するが、固定ピニオンスプロケット21も軸方向に三列の歯車を備え、これらの各列の歯車に対応してチェーン6も三本巻き掛けられている。このように、各ピニオンスプロケット21,22,23は、軸方向に三列の歯車を有する。ここでは、各ピニオンスプロケット20の三列の歯車は、スペーサを介し互いに間隔をあけて設けられている。
【0031】
なお、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯車の列数は、無段変速機構の伝達トルクの大きさによるが、二列又は四列以上であってもよいし一列であってもよい。また、
図2には、理解容易のため模式的に示しており、同断面に第一自転ピニオンスプロケット22,第二自転ピニオンスプロケット23及び後述する相対回転駆動機構30を示している。
【0032】
〔1−1−1−2.ガイドロッド〕
図1に示すように、複数のガイドロッド29は、チェーン6と回転軸1の軸心C
1との距離の変動を小さくするように、つまり、回転軸1周りのチェーン6の軌道を可能な限り円軌道に近づけるように、チェーン6をガイドするものである。このガイドロッド29は、その外側の周面に当接するチェーン6の軌道をガイドする。ピニオンスプロケット21,22,23及び各ガイドロッド29は多角形(略正多角形)の形状をなすので、チェーン6は、その内側のピニオンスプロケット21,22,23及び各ガイドロッド29に当接しガイドされながら多角形の形状に沿って転動する。
【0033】
各ガイドロッド29は、ロッド支持軸29a(
図1では一箇所のみ破線で示す)の外周に円筒状のガイド部材29bが外挿されたものであり、ロッド支持軸29aによって支持され、ガイド部材29bの外周面でチェーン6をガイドする。
【0034】
なお、ガイドロッド29の本数は、十五本に限らず、これよりも多くてもよいし少なくてもよい。この場合、ガイドロッド29の本数は、ピニオンスプロケット20の相互間の数(ここでは三つ)の倍数であることが好ましい。また、ガイドロッド29を多く設けるほど複合スプロケット5を真円に近づけ、チェーン6と回転軸1の軸心C
1との距離の変動を小さくすることができるが、パーツの増加による製造コストや重量の増加を招くため、これらを考慮してガイドロッド29の本数を設定することが好ましい。更に言えば、簡素な構成とするために、ガイドロッド29を省略してもよい。
【0035】
〔1−1−1−3.スプロケット移動機構,ロッド移動機構及び機械式自転駆動機構〕
次に、スプロケット移動機構40A,ロッド移動機構40B及び機械式自転駆動機構50をそれぞれ説明する。
スプロケット移動機構40Aは、複数のピニオンスプロケット20を移動対象とし、また、ロッド移動機構40Bは、複数のガイドロッド29を移動対象としている。
【0036】
これらの移動機構40A,40Bは、各移動対象(複数のピニオンスプロケット20,複数のガイドロッド29)を回転軸1の軸心C
1から等距離を維持させながら径方向に同期して移動させるものである。
機械式自転駆動機構50は、スプロケット移動機構40Aによる複数のピニオンスプロケット20の径方向移動に伴って、チェーン6に対する複数のピニオンスプロケット20の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40Aと連動して自転駆動するものである。
【0037】
〔1−1−1−3−1.前提構成〕
まず、
図2を参照して、上記の機構40A,40B,50の前提構成を説明する。ここでは、かかる前提構成として、回転軸1と一体に回転する固定ディスク群10と、この固定ディスク群10に対して同心に配置され且つ相対回転可能な可動ディスク19と、可動ディスク19を固定ディスク群10に対して相対回転駆動する相対回転駆動機構30とのそれぞれを説明する。
【0038】
なお、固定ディスク群10及び可動ディスク19は、複数のピニオンスプロケット20の両側(回転軸1の軸心C
1に沿う方向の一側及び他側)にそれぞれ設けられている。このため、ここでは一側(
図2の紙面上方側)に設けられた固定ディスク群10,可動ディスク19に着目し、その構成を説明する。
【0039】
〔1−1−1−3−1−1.固定ディスク〕
固定ディスク群10は、複数のピニオンスプロケット20側から順に、第一固定ディスク(径方向移動用固定ディスク)11及び第二固定ディスク(自転用固定ディスク)12を有する。これらの固定ディスク11,12は何れも回転軸1と一体に形成されるか、或いは、何れも回転軸1と一体回転するように結合されている。なお、
図2では、複数のピニオンスプロケット20側から第一固定ディスク11,後述する可動ディスク19,第二固定ディスク12の順に配置されたもの例示する。
【0040】
図3に示すように、第一固定ディスク11には、スプロケット用固定放射状溝11aとロッド用固定放射状溝11b(何れも一箇所のみに符号を付す)との二種の放射状溝が形成されている。
スプロケット用固定放射状溝11aは、ピニオンスプロケット20の個数(ここでは三個)に対応した溝数が設けられ、また、ロッド用固定放射状溝11bは、ガイドロッド29の本数(ここでは十五本)に対応した溝数が設けられている。
【0041】
スプロケット用固定放射状溝11aには、ピニオンスプロケット21,22,23の各支持軸21a,22a,23aが内挿され、また、ロッド用固定放射状溝11bには、各ガイドロッド29のロッド支持軸29a(一箇所のみに符号を付す)が内挿される。
【0042】
図2及び
図4に示すように、第二固定ディスク12には、ピニオンスプロケット21,22,23のそれぞれに対応して案内溝12a,12b,12cが形成されている。具体的には、固定ピニオンスプロケット21の径方向移動を案内する第一案内溝(固定ピニオンスプロケット案内溝)12aと、第一自転ピニオンスプロケット22の径方向移動を案内する第二案内溝12bと、第二自転ピニオンスプロケット23の径方向移動を案内する第三案内溝12cとが形成されている。これら案内溝12a,12b,12cのそれぞれは、対応するピニオンスプロケット21,22,23の径方向移動経路に沿って形成されている。
なお、
図4には、白抜きの矢印で反時計回りの公転方向を示している。
【0043】
また、第二固定ディスク12の外周部には、ヘリカルギヤ12Aが設けられている。このヘリカルギヤ12Aが設けられた第二固定ディスク12の外周部は、軸心C
1に沿った方向に所定長さを有するように突設され、ヘリカルギヤ12Aは所定長さに亘って設けられている。
なお、ここでいう「所定長さ」とは、後述する第二固定ディスク12と可動ディスク19との位相差に対応する相対回転駆動機構30における入力部材33の進退量に対応する長さをいう。
【0044】
〔1−1−1−3−1−2.可動ディスク〕
図3に示すように、可動ディスク19(破線で示す)には、スプロケット用可動放射状溝19aとロッド用可動放射状溝19b(何れも一箇所のみに符号を付す)との二種の可動放射状溝が形成されている。なお、可動ディスク19の外形は円形であり、円形である第一固定ディスク11の外形と一致して重合するが、
図3では便宜上の可動ディスク19の外形円を縮小して示している。
【0045】
スプロケット用可動放射状溝19aは、上記のスプロケット用固定放射状溝11aに交差し、その交差箇所にピニオンスプロケット21,22,23の各支持軸21a,22a,23aが位置する。同様に、ロッド用可動放射状溝19bは、上記のロッド用固定放射状溝11bに交差し、その交差箇所の各ロッド支持軸29aが位置する。
また、
図2及び
図4に示すように、可動ディスク19には、その外周部全周に歯(以下、「外周歯」という)19Aが形成されている。
【0046】
〔1−1−1−3−1−3.相対回転駆動機構〕
相対回転駆動機構30は、可動ディスク19を固定ディスク群10に対して相対回転駆動するもので、ここでは、
図2に示すように、可動ディスク19の外周に形成された外周歯19Aと噛合する回転駆動歯34aを有する出力部材34を回転させて、固定ディスク群10に対して可動ディスク19を相対回転駆動する。
【0047】
この相対回転駆動機構30は、モータ31と、モータ31の出力軸31aの回転運動を直線運動に切り替える運動変換機構32Aと、運動変換機構32Aで切り替えられた直線運動により軸方向に進退駆動(往復駆動)されるフォーク32と、フォーク32によって軸方向に進退駆動される入力部材33と、入力部材33の軸方向への進退に伴って入力部材33を連動回転させる連動回転機構34Aと、入力部材33と一体回転する出力部材34とを有している。
【0048】
なお、モータ31としては、例えばステッピングモータを用いることができる。
また、入力部材33は、出力部材34に対して軸方向に可動であって且つ一体に回転するように取り付けられている。例えば、入力部材33と出力部材34とはスプライン嵌合により取り付けられている。
【0049】
入力部材33は、第二固定ディスク12の外周部に設けられたヘリカルギヤ12Aと常時噛合するヘリカルギヤ33aと、フォーク32を挟み込んで摺動するフォーク溝33bとを有する。また、出力部材34は、可動ディスク19の外周歯19Aと常時噛合する出力歯34aを有する。
【0050】
運動変換機構32Aは、出力軸31aに形成された雄ネジ部31bと、雄ネジ部31bに螺合する雌ネジ部32aを有しフォーク32が結合された支持体32bと、入力部材33の外周に形成されたフォーク溝33b内に係合してフォーク32の回転を規制するフォーク外周部32cとから構成される。出力軸31aが回転すると、雄ネジ部31bと雌ネジ部32aとの螺合によって、自身の回転を規制されたフォーク32が出力軸31aに対して軸方向に移動して、入力部材33を軸方向に駆動する。
【0051】
連動回転機構34Aは、第二固定ディスク12の外周部に設けられたヘリカルギヤ12Aと、入力部材33の外周に形成されヘリカルギヤ12Aと噛合するヘリカルギヤ33aと、出力部材34の軸方向への移動を阻止する図示しない軸方向移動規制部材とを備え、入力部材33の軸方向移動に伴って、ヘリカルギヤ12A,33aの噛合を通じて第二固定ディスク12が入力部材33を回転駆動する。
【0052】
この相対回転駆動機構30によれば、モータ31によりフォーク32が進退駆動されると、各固定ディスク群10に対して可動ディスク19の回転位相が変更される。このように、フォーク32の進退量に対応して、固定ディスク群10と可動ディスク19との回転位相差が調整される。
【0053】
〔1−1−1−3−2.スプロケット移動機構及びロッド移動機構〕
次に、
図2及び
図3を参照して、スプロケット移動機構40A及びロッド移動機構40Bを説明する。
スプロケット移動機構40Aは、ピニオンスプロケット21,22,23のそれぞれに設けられた支持軸21a,22a,23aが内挿されるスプロケット用固定放射状溝11aが形成された第一固定ディスク11と、スプロケット用可動放射状溝19aが形成された可動ディスク19と、相対回転駆動機構30とから構成される。
【0054】
また、ロッド移動機構40Bは、ロッド支持軸29aが内挿されるロッド用固定放射状溝11bが形成された第一固定ディスク11と、ロッド用可動放射状溝19bが形成された可動ディスク19と、相対回転駆動機構30とから構成される。
このように、それぞれの移動機構40A,40Bの構成は、各移動対象の支持軸が異なるだけで、その他の構成は同様である。
【0055】
次に、
図3(a)〜(c)を参照して、移動機構40A及び40Bによる移動を説明する。
図3(a)は、放射状溝11a,19aにおけるピニオンスプロケット21,22,23(
図2等参照)の支持軸21a,22a,23aと放射状溝11b,19bにおけるロッド支持軸29aとが回転軸1の軸心C
1から最も近い位置に位置するものを示す。この場合、相対回転駆動機構30(
図2参照)により可動ディスク19の回転位相を第一固定ディスク11に対して変更すると、
図3(b),(c)の順に、スプロケット用固定放射状溝11aとスプロケット用可動放射状溝19aの交差箇所と、ロッド用固定放射状溝11bとロッド用可動放射状溝19bとの交差位置とが、回転軸1の軸心C
1から遠ざかる。すなわち、これらの交差箇所に支持軸21a,22a,23a,29aを支持されたピニオンスプロケット20及びガイドロッド29は、回転軸1の軸心C
1から等距離を維持しながら径方向に同期して移動される。
【0056】
一方、相対回転駆動機構30によって可動ディスク19の回転位相の変更方向を上記の方向と反対にすれば、ピニオンスプロケット20及びガイドロッド29は回転軸1の軸心C
1に近づく。
なお、入力側の移動機構40A,40Bが接円半径を拡径させるときには、チェーン6の弛緩や緊張が生じないように出力側の移動機構40A,40Bが接円半径を縮径させる。
【0057】
スプロケット移動機構40Aによりピニオンスプロケット20が移動されると、ピニオンスプロケット20の相互間の距離が変わることにより、チェーン6に対してピニオンスプロケット20の位相ズレが発生してしまう。そこで、かかる位相ズレを解消するために、機械式自転駆動機構50が装備されている。
【0058】
〔1−1−1−3−3.機械式自転駆動機構〕
次に、
図2及び
図4を参照して、機械式自転駆動機構50を説明する。機械式自転駆動機構50はピニオンスプロケット20を挟んで対称に構成されるため、ここでは一側(
図2の紙面上方側)の構成に着目して説明する。
【0059】
機械式自転駆動機構50は、上記したように、自転ピニオンスプロケット22,23を回転させ、チェーン6に対するピニオンスプロケット20間の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40Aと連動して機械的に自転駆動するものである。
一方、機械式自転駆動機構50は、径方向移動時の固定ピニオンスプロケット21を自転させないためのものでもある。
【0060】
まず、機械式自転駆動機構50について、固定ピニオンスプロケット21を自転させないための構成を説明する。
図4に示すように、固定ピニオンスプロケット21の支持軸21aは、第二固定ディスク12の第一案内溝12aに挿通されている。この固定ピニオンスプロケット21の支持軸21aには、案内部材59が一体的に結合されている。
【0061】
案内部材59は、第一案内溝12aに内挿されて径方向に案内される。この案内部材59は、径方向の所定長さにわたって第一案内溝12aに接触するように対応する形状に形成されている。このため、固定ピニオンスプロケット21を自転させるような回転力が作用したときには、案内部材59は、第一案内溝12aに対して回転力を伝達するとともに、この回転力の反作用(抗力)で固定ピニオンスプロケット21を固定するものといえる。すなわち、案内部材59は、第一案内溝12aにおいて径方向に摺動可能であって回り止め機能を有する形状に形成されている。なお、ここでいう所定長さとは、固定ピニオンスプロケット21を自転させるような回転力の抗力が確保可能な長さである。
【0062】
図4では、第一案内溝12aが径方向に長手方向を有する矩形状に形成されており、この矩形状よりも小さい矩形状に形成された案内部材59を例示している。
また、第一案内溝12aの内壁に接する案内部材59の側壁、特に案内部材59の四隅に、ベアリングを装着すれば、案内部材59のよりスムーズな摺動を確保することができる。
次に、機械式自転駆動機構50について、自転ピニオンスプロケット22,23を自転駆動するための構成について説明する。
【0063】
機械式自転駆動機構50は、自転ピニオンスプロケット22,23の支持軸22a,23aのそれぞれと一体回転するように固設されたピニオン51,52と、ピニオン51,52のそれぞれに対応して噛合するように設けられたラック53,54と、を有する。
ピニオン51,52は、自転ピニオンスプロケット22,23の各支持軸22a,23aにおける軸方向端部にそれぞれ設けられている。かかるピニオン51,52にそれぞれ対応するラック53,54は、第二固定ディスク12に径方向に沿って固設されている。
【0064】
なお、以下の説明では、第一自転ピニオンスプロケット22のピニオン(進角側ピニオン)51を第一ピニオン51と呼び、この第一ピニオン51と噛合するラック(進角側ラック)53を第一ラック53と呼んで区別する。同様に、第二ピニオンスプロケット23のピニオン(遅角側ピニオン)52を第二ピニオン52と呼び、この第二ピニオン52と噛合するラック(遅角側ラック)54を第二ラック54と呼ぶ。
【0065】
図4に示すように、第一ラック53は、第一ピニオン51に対して公転方向基準で遅角側に配置される。逆に、第二ラック54は、第二ピニオン52に対して公転方向基準で進角側に配置される。このため、ピニオン51,52及びラック53,54は、ピニオン51,52が拡径方向又は縮径方向に移動されると、ピニオン51,52はこれに噛合するラック53,54によって互いに逆方向に回転されるように配設されている。
【0066】
すなわち、機械式自転駆動機構50は、スプロケット移動機構40Aにより移動されたピニオンスプロケット20の径方向位置に応じて、自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相を設定するものである。つまり、機械式自転駆動機構50によって、ピニオンスプロケット20の径方向位置と自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相は一対一の対応関係となる。
【0067】
このように、機械式自転駆動機構50は、固定ピニオンスプロケット21が自転しないように案内し、自転ピニオンスプロケット22,23が自転するように案内する。
なお、ピニオン51,52に対するラック53,54の位置関係が異なる点を除いては、第一ピニオン51と第二ピニオン52とは同様に構成され、また、第一ラック53と第二ラック54とは同様に構成されている。このため、以下の説明では、第一ピニオン51及び第一ラック53に着目して説明する。
【0068】
第一ピニオン51の外径(ピッチ円直径)は、第一自転ピニオンスプロケット22の外径(ピッチ円直径)の略半分に形成されている。逆に言えば、第一自転ピニオンスプロケット22の外径は、第一ピニオン51の外径の略二倍に形成されている。その理由を以下に示す。
三個のピニオンスプロケット20が周方向に等間隔に配置されているため、第一ピニオンスプロケット22と固定ピニオンスプロケット20との間のチェーン長は、第一自転ピニオンスプロケット22が径方向に距離xだけ移動したときには「2πx/3」だけ変化する。
【0069】
このため、第一自転ピニオンスプロケット22が、長さが「2πx/3」のチェーン6を第一自転ピニオンスプロケット22と固定ピニオンスプロケット21との間に送り込むか引き出すように回転(自転)すれば、チェーン長が適切に調整される。
したがって、チェーン長を適切に調整するには、第一ピニオン51が距離xだけ回転するときに、第一自転ピニオンスプロケット22は2πx/3だけ回転することが必要になる。すなわち、第一自転ピニオンスプロケット22は第一ピニオン51に対して周方向長さにおいて2π/3倍だけ回転することが必要となる。言い換えれば、第一自転ピニオンスプロケット22の外径と第一ピニオン51の外径との比が「2π/3:1」であることが必要となる。
【0070】
よって、第一自転ピニオンスプロケット22の外径は、第一ピニオン51の外径の「2π/3」倍(略二倍)に形成されている。
なお、図示省略するが、第一自転ピニオンスプロケット22には、その支持軸22aと自転用ピン22b,22cとの間に皿ばねが介装されている。これは、変速比の変更中に発生しうる第一自転ピニオンスプロケット22とチェーン6との噛合時のショック(衝撃)を吸収するためである。この皿ばねは、固定ピニオンスプロケット21及び第二自転ピニオンスプロケット23にもそれぞれ備えられている。
【0071】
〔1−1−1−4.回転軸〕
次に、回転軸1について、
図1を参照して説明する。なお、回転軸1の説明では、出力側の複合スプロケット5に着目し、その構成を説明する。
図1には、相対回転駆動機構30の駆動により拡縮される出力側の接円半径が、最大径のものを実線で示し、最小径のものを一点鎖線で示す。
回転軸1には、複数のピニオンスプロケット20を収容しうる凹所2が形成されている。凹所2には、接円半径が最小径となった際に複数のピニオンスプロケット20が最も深く収容される。この状態から複数のピニオンスプロケット20の径位置が外側(拡径側)に移動するに連れて、複数のピニオンスプロケット20の凹所2への収容度合(収容深さ)が小さくなり、更に径位置が外側に移動すると複数のピニオンスプロケット20は凹所2に収容されなくなる。
【0072】
凹所2は、固定ピニオンスプロケット21に対応する第一凹所2aと、各自転ピニオンスプロケット22,23に対応する二つの第二凹所2b,2bとを有している。なお、一方の第二凹所2bと他方の第二凹所2bとは、同様に構成されている。
第一凹所2aは、固定ピニオンスプロケット21の外周形状に応じた形状に形成されている。具体的に言えば、固定ピニオンスプロケット21の本体部21bの外周形状が円弧状に形成されており、第一凹所2aは、円柱状の回転軸の外周面側からこれよりも細い円柱をなす固定ピニオンスプロケット21の本体部21bを取り除いた形状に形成されている。
【0073】
この第一凹所2aには、接円半径が最小径となった際に、固定ピニオンスプロケット21の本体部21bが当接する。このとき、固定ピニオンスプロケット21の本体部21bは、回転軸1に食い込むように収容される。
第二凹所2bは、自転ピニオンスプロケット22,23の外周形状に応じた断面形状に形成されている。具体的に言えば、第二凹所2bは、円柱状の回転軸の外周面側から自転ピニオンスプロケット22,23の各歯の先端をつないで形成される円を底面又は上面とする円柱の一部を取り除いた形状に形成されている。
【0074】
この第二凹所2bには、接円半径が最小径となった際に、自転ピニオンスプロケット22,23の先端がそれぞれ当接する。このとき、自転ピニオンスプロケット22,23は、回転軸1に食い込むように収容される。
【0075】
このように、接円半径が最小径となった際には、第一凹所2aを規定する回転軸1に固定ピニオンスプロケット21が当接し、第二凹所2bを規定する回転軸1に自転ピニオンスプロケット22,23が当接する。
また、各凹所2a,2bとの相互間に位置する回転軸1の外周面1aには、接円半径が最小径となった際に、ガイドロッド29が当接する。
【0076】
〔1−1−2.チェーン〕
次に、チェーン6について説明する。
図5に示すように、ガイドロッド29にガイドされるチェーン6は、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯車の列数(ここでは三列)に対応する本数が設けられている。ここでは、第一チェーン6A,第二チェーン6B及び第三チェーン6Cの三本が設けられている。
【0077】
これらのチェーン6A,6B,6Cは、動力伝達方向に位相をずらして巻き掛けられており、互いにピッチをずらして設けられている。ここでは、1/3ピッチだけ互いのピッチをずらしている。これに対応して、各チェーン6A,6B,6Cに噛合するピニオンスプロケット20の各歯21c,22c,23c(以下、これらを区別せずに示すときには「歯20c」という)の位相もずらして配置されている。
なお、チェーン6A,6B,6Cは、配設ピッチ以外は同様に構成される。
また、無段変速機構の伝達トルクによっては二本又は四本以上のチェーン6が用いられるが、この場合には「1/チェーンの本数」ピッチだけ各チェーンのピッチをずらして設けられるのが好ましい。
【0078】
ここで、サイレントチェーンを用いた各チェーン6A,6B,6Cについてさらに説明する。
各チェーン6A,6B,6Cは、それぞれ多数のリンクプレート(駆動リンク)61が動力伝達方向に直列に配列されたリンクプレート列61Sが、リンクプレート61の厚み方向に複数並列されて、連結ピン62により連結されて構成される。言い換えれば、リンクプレート61は厚み方向に複数枚並列に配列されている。
【0079】
図7に示すように、リンクプレート61は、チェーン6A,6B,6Cの内周側に突出した歯部61aが動力伝達方向に離隔して一対形成され、一対の歯部61a,61aの形成個所に対応(動力伝達方向への対応)して一対のピン孔61b,61bが所定間隔で穿設されている。また、一対の歯部61a,61aの相互間には、ピニオンスプロケット20の歯20cが係合する溝(リンク溝)61cが形成されている。
【0080】
図5に示すように、リンクプレート61は、互いに動力伝達方向に隣接しながら、これらのリンクプレート61,61における隣接したピン孔61b,61bが所定間隔(ピン孔61b,61b間の長さ)となるように配置されて、リンクプレート列61Sが形成される。そして、厚み方向に隣接したリンクプレート列61Sは互いに歯部61aを1歯分だけずらせて配置され、厚み方向に整列した各ピン孔61bを同時に貫通する連結ピン62により環状に連結される。
【0081】
本実施形態では、各チェーン6A,6B,6Cの厚み方向両端部のそれぞれに、多数の補助リンクプレート63が動力伝達方向に直列に配列された補助リンクプレート列63Sが装備されている。言い換えれば、補助リンクプレート63は、複数枚並列されたリンクプレート61の厚み方向最も外側で且つ動力伝達方向に多数配列されている。
この補助リンクプレート列63Sは、補助リンクプレート63の内周側に形成されたガイド面63aがガイドロッド29の外周面に当接して案内されるものである。また、補助リンクプレート列63Sは、動力伝達方向に沿って一列に配設された補助リンクプレート63から構成される。
【0082】
なお、補助リンクプレート63には、樹脂製のものを用いることができる。この場合、ポリアミドやポリエステルといった所謂エンジニアリングプラスチックなどのガイドロッド29との当接に耐えうる強度や剛性を有する樹脂を用いることが好ましい。
【0083】
多数のガイドロッド29は、変速比を変更する際に、基本的にはピニオンスプロケット21,22,23と共に多角形をなすように、ピニオンスプロケット21,22,23と同様に径方向に移動して、複合スプロケット5の外径を変更する。各チェーン6A,6B,6Cは、この複合スプロケット5の外径の変更に追従して転動経路が変更され、ピニオンスプロケット21,22,23と噛み合う箇所の間では、ガイドロッド29に当接して転動経路を案内される。
【0084】
このため、各チェーン6A,6B,6Cには、ガイドロッド29に当接する補助リンクプレート列63Sが装備されている。すなわち、補助リンクプレート列63Sを構成する各補助リンクプレート63の内周側に直線状又は円弧状に形成されたガイド面63aがガイドロッド29に当接される。
なお、補助リンクプレート63は、
図6(a)に示すような一対のピン孔63b,63bのそれぞれに上記の連結ピン62が貫通されて、リンクプレート61と連結されている。
【0085】
ここでは、ガイド面63aが円弧状に形成されたものに着目して説明する。このガイド面63aは、チェーン6A,6B,6Cの最大の巻き掛け半径(最大の接円半径に対応)の円弧に応じて形成されている。
それぞれの補助リンクプレート63の内周側には、動力伝達方向に隣接する補助リンクプレート63の内周側と厚み方向に重合してガイド面63aを動力伝達方向に連続させる重合部64A,64Bが形成されている。これらの重合部64A,64Bは、補助リンクプレート63において隣接する他の補助リンクプレート63側(即ち、動力伝達方向の上流側及び下流側のそれぞれ)に形成される。
【0086】
以下の説明では、補助リンクプレート63において、動力伝達方向の一方側に設けられた重合部を第一重合部64Aとし、動力伝達方向の他方側に設けられた重合部を第二重合部64Bとする。
第一重合部64Aは、隣接する他の補助リンクプレート63の第二重合部64Bと隣接している。これらの第一重合部64Aと第二重合部64Bとが重合する。
【0087】
図6(a)及び(b)に示すように、重合部64A,64Bのそれぞれは、対応する形状に形成されている。具体的には、重合部64A,64Bのそれぞれが、補助リンクプレート63が厚み方向に切り欠かれた切欠部65bによって薄肉化された肉薄部65aで形成されている。第一重合部64Aの切欠部65bが第二重合部64Bの肉薄部65aに対応するとともに、第二重合部64Bの切欠部65bが第一重合部64Aの肉薄部65aに対応する形状が構成されている。
【0088】
ここでは、
図6(b)に示すように、重合部64A,64Bそれぞれの肉薄部65aの厚みと切欠部65bの厚みとが等しい又は略等しく設けられている。ただし、肉薄部65及び切欠部65bそれぞれの厚みは、任意に設定することができる。
なお、重合部64A,64Bの形状としては、種々の形状を採用することができる。例えば、
図6(b)に二点鎖線で示すように、各重合部64A,64Bが動力伝達方向端部に向かうに連れて切欠部65bの厚み方向長さが大きくなるような形状を採用してもよい。
【0089】
また、重合部64A,64bは、チェーン6A,6B,6Cが最小の巻き掛け半径(接円半径)をなすときに、互いに干渉することなく重合するように設定されている。
一方、重合部64A,64bは、最大の巻き掛け半径をなすときであっても重合し、ガイド面63aが動力伝達方向に連続するように重合領域が設定されている。なお、重合領域とは、動力伝達方向に直交する方向(ピン軸方向)から視たときの重合面積に対応する。
詳細には、チェーン6A,6B,6Cの巻き掛け半径(接円半径)が小さくなるに連れて、第一重合部65Aの切欠部65bに第二重合部65Bの肉薄部65aが進入するとともに、第二重合部65Bの切欠部65bに第一重合部65Aの肉薄部65aが進入して、両肉薄部65aの重合する領域が大きくなる。
【0090】
〔1−2.作用及び効果〕
本発明の一実施形態にかかる無段変速機構は、上述のように構成されるため、以下のような作用及び効果を得ることができる。
まず、ガイドロッド29に案内されるチェーン6A,6B,6Cに着目して説明する。
【0091】
複合スプロケット5,5に巻き掛けられた、サイレントチェーンが適用されたチェーン6A,6B,6Cは、複数のピニオンスプロケット20と係合して動力伝達する。このとき、各チェーン6A,6B,6Cは、補助リンクプレート63のガイド面63aにガイドロッド29が当接されて案内される。
このガイド面63aは、それぞれの補助リンクプレート63の内周側に形成されるとともに隣接する他の補助リンクプレート63の内周側と厚み方向に重合する重合部64A,64Bによって動力伝達方向に連続されるため、ガイド面63aとガイドロッド29とを円滑に接触させることができ、静音性を確保することができる。さらに、振動を抑制することができ、耐久性の向上にも寄与しうる。
【0092】
隣接する重合部64A,64Bは、それぞれが対応する形状に形成され、チェーン6A,6B,6Cが最小の巻き掛け半径をなすときに干渉することなく重合するとともに、最大の巻き掛け半径において重合し、ガイド面63aが動力伝達方向に連続するように重合領域が設定されるため、巻き掛け半径の拡縮径するときに、静音性の確保することができや、振動を抑制することができる。
【0093】
具体的には、重合部64A,64Bは、厚み方向に切り欠いた切欠部65bによって薄肉化された肉薄部65aで形成されるため、隣接する重合部64A.64Bどうしが重合するときには、一方の切欠部65bに他方の肉薄部65aが位置するとともに他方の切欠部65bに一方の肉薄部65aが位置する。かかる切欠部65bの厚みと肉薄部65aの厚みとが等しい又は略等しく設けられているため、各重合部64A.64Bに対する負荷を均すことができる。これにより、耐久性の向上に寄与する。
【0094】
重合部64A,64Bは、チェーン6A,6B,6Cの巻き掛け半径が小さくなるに連れて重合領域が大きくなるため、さまざま巻き掛け半径に対応することができる。
さらに、チェーン6A,6B,6Cの巻き掛け半径が小さいときには、1リンクあたりの負荷が大きくなるものの、巻き掛け半径の小さくなるに連れて重合領域が大きくなるため、確実に負荷に対抗し、耐久性を確保することができる。
【0095】
補助リンクプレート63に樹脂製のものを用いれば、一般に用いられる鋼製のものに比較して軽量化を図ることができる。さらに、ガイドロッド29との当接にかかる振動や衝撃を緩衝させて、振動や騒音の軽減に寄与しうる。
【0096】
例えば、ガイド面63aがチェーン6A,6B,6Cの最大の巻き掛け半径よりも小さい径に合わせて形成されているものでは、巻き掛け半径が最大のときに、ガイド面63aに対するガイドロッド29の当接が安定せず、振動や騒音を発生するおそれがある。これに対し、本実施形態のチェーン6A,6B,6Cによれば、補助リンクプレート63のガイド面63aが最大の巻き掛け半径の円弧状に応じて形成されているため、ガイド面63aに対してガイドロッド29を良好に当接させることができ、振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0097】
このように、複数のピニオンスプロケット20及びガイド部材29に当接されて案内されるチェーン6A,6B,6Cを本実施形態の無段変速機構に用いることで、振動や騒音を抑制させることができ、摩耗を軽減させることができる。このため、本実施形態のチェーン6A,6B,6Cは、かかる無段変速機構に用いて好適である。
チェーン6A,6B,6Cは、互いにピッチをずらして設けられているため、チェーン6A,6B,6Cとガイドロッド29との接触による騒音を分散させることにより、騒音を更に低減させることができる。
【0098】
補助リンクプレート列63Sは、動力伝達方向に沿って一列に配設された補助リンクプレート63から構成されるため、チェーン6A,6B,6Cにおいて動力伝達方向に直交する方向(厚み方向)の長さを抑えることができる。
【0099】
次に、ピニオンスプロケット20の自転について説明する。
相対回転駆動機構30により固定ディスク群10に対する可動ディスク19の回転位相を変化させると、スプロケット移動機構40A及びロッド移動機構40Bが稼働して、回転軸1の軸心C
1に対するピニオンスプロケット20及びガイドロッド29の径方向位置が等距離を維持されながら同期して変更される。これにより、接円半径が変更される。この場合、ピニオンスプロケットが自転しなければ、チェーンに対するピニオンスプロケットの位相ズレが発生してしまうが、かかる位相ズレは、機械式自転駆動機構50による自転ピニオンスプロケット22,23の自転により解消される。
【0100】
固定ピニオンスプロケット21と第一自転ピニオンスプロケット22又は第二自転ピニオンスプロケット23にチェーン6が巻き掛けられている場合に、接円半径が拡径する際には、固定ピニオンスプロケット21と第一自転ピニオンスプロケット22又は第二自転ピニオンスプロケット23との間の最適なチェーン長が長くなり、機械式自転駆動機構50が設けられていなければチェーン長不足を招いてしまう。このとき、第一自転ピニオンスプロケット22又は第二自転ピニオンスプロケット23が機械式自転駆動機構50により自転されることにより、固定ピニオンスプロケット21と第一自転ピニオンスプロケット22又は第二自転ピニオンスプロケット23との間にはチェーン長の不足分だけが送り込まれる。
【0101】
一方、固定ピニオンスプロケット21と第一自転ピニオンスプロケット22又は第二自転ピニオンスプロケット23にチェーン6が巻き掛けられている場合に、接円半径が縮径する際には、固定ピニオンスプロケット21と第一自転ピニオンスプロケット22又は第二自転ピニオンスプロケット23との間の最適なチェーン長が短くなり、機械式自転駆動機構50が設けられていなければチェーンの弛みを招いてしまう。このとき、第一自転ピニオンスプロケット22又は第二自転ピニオンスプロケット23が機械式自転駆動機構50により自転されることにより、固定ピニオンスプロケット21と第一自転ピニオンスプロケット22又は第二自転ピニオンスプロケット23との間からチェーン長の余り分(弛み分)だけが引き出される。
【0102】
接円半径が拡縮径する際に自転する自転ピニオンスプロケット22,23は、機械式自転駆動機構50によって、ピニオンスプロケット20の径方向位置と自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相は一対一の対応関係となっている。つまり、自転ピニオンスプロケット22,23は、接円半径の拡縮径による変速比の変更時に、チェーン6の過不足分を調整しながら動力伝達することができる。
【0103】
このように、機械式自転駆動機構50が、スプロケット移動機構40Aによる複数のピニオンスプロケット20の径方向移動に伴って、チェーン6に対する複数のピニオンスプロケット20の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40と連動して自転駆動するため、複数のピニオンスプロケット20の径方向移動時、即ち、変速比の変更時に、ピニオンスプロケット間のチェーン長が適切に調整されることにより、動力伝達しながら変速比を変更することができる。
【0104】
〔2.その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した一実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせてもよい。ここではサイレントチェーンが無段変速機のチェーン6A,6B,6Cに適用されたものを説明したが、その他の機構に本発明のサイレントチェーンを適用することもできる。