(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液体を収容する液体収容部、及び、前記液体収容部の上方に連続して設けられ前記液体収容部内の前記液体が蒸発して生成した蒸発ガスが導入される蒸発ガス収容部、を備える容器と、
前記液体収容部及び前記蒸発ガス収容部の両方を加熱して、前記液体収容部内の前記液体を蒸発させるとともに、前記蒸発ガス収容部内の前記蒸発ガスの温度を上昇させる加熱部と、
を備え、
前記容器は、2つの有底筒状部材からなる二重構造を有し、内側有底筒状部材と外側有底筒状部材との間に形成される空間のうち下方部分が前記液体収容部をなし、上方部分が前記蒸発ガス収容部をなすことを特徴とする蒸発ガス発生装置。
【背景技術】
【0002】
臭化水素の製造方法は種々知られているが、工業的には、臭素ガスと水素ガスを反応させる方法が用いられている。このため通常は、臭化水素の製造設備は、液体臭素を加熱して蒸発させ、臭素の蒸発ガスを発生させる蒸発ガス発生装置を備えており、得られた臭素ガスを反応器に供給して水素ガスと反応させ、臭化水素を製造する。
このような臭化水素の製造設備において臭化水素を効率良く製造するためには、常に一定量の臭素ガスを安定的に反応器に供給する必要がある。したがって、蒸発ガス発生装置においては、液体臭素の蒸発量を制御する必要があった。
【0003】
従来は、蒸発ガス発生装置において液体臭素に加える熱の強さや加熱時間によって液体臭素の蒸発量を調整する方法が、一般的に用いられていた。例えば、液体臭素が収容された容器を加熱する電気ヒータの電源のオン・オフを繰り返すことにより、液体臭素の蒸発量を調整する方法が用いられていた。
しかしながら、電気ヒータの電源のオン・オフを繰り返すことにより液体臭素の蒸発量を調整する方法では、液体臭素に加える熱量が一定とはなりにくく、微小な変動が生じてしまうおそれがあった。そのため、液体臭素の蒸発量についても微小な変動が生じ、常に一定量の臭素ガスを発生させて安定的に反応器に供給することは容易ではなかった。
【0004】
例えば特許文献1に記載の技術を用いれば、液体臭素の蒸発量をおおよそ一定に制御することは可能であるが、液体臭素の蒸発量を一定に制御できたとしても、蒸発ガス発生装置から反応器に送られる過程で臭素の蒸発ガスの温度が低下し液化(凝縮)するおそれがあった。臭素ガスの液化が起こると、反応器に供給される臭素ガスの量が所望の設定値よりも少なくなってしまうおそれがある。
【0005】
そこで、臭素ガスの液化を防ぐために、蒸発ガス発生装置から反応器に送られる過程で蒸発ガスを過熱蒸気とする技術(以下「後過熱」と記すこともある)が知られている。例えば、蒸発ガス発生装置と反応器との間に設置した後過熱装置に、蒸発ガス発生装置から臭素ガスを送って加熱し、臭素ガスの温度を上昇させてから反応器に供給したり、蒸発ガス発生装置から反応器に臭素ガスを送る配管を加熱したりすることにより、蒸発ガス発生装置から反応器に送られる過程での臭素ガスの液化を防止する技術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、後過熱装置の設置や配管の加熱などの後過熱は、コスト上昇の要因となるという問題点を有していた。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、後過熱を行うことなく一定量の蒸発ガスを安定して発生させ供給することができる蒸発ガス発生装置及び蒸発ガス製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、臭素ガスの後過熱を行うことなく臭素ガスと水素ガスから臭化水素を効率良く生成する臭化水素製造装置及び臭化水素製造方法を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の態様は、次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る蒸発ガス発生装置は、液体を収容する液体収容部、及び、前記液体収容部の上方に連続して設けられ前記液体収容部内の前記液体が蒸発して生成した蒸発ガスが導入される蒸発ガス収容部、を備える容器と、前記液体収容部及び前記蒸発ガス収容部の両方を加熱して、前記液体収容部内の前記液体を蒸発させるとともに、前記蒸発ガス収容部内の前記蒸発ガスの温度を上昇させる加熱部と、を備えることを特徴とする。
この蒸発ガス発生装置においては、前記容器は、2つの有底筒状部材からなる二重構造を有し、内側有底筒状部材と外側有底筒状部材との間に形成される空間のうち下方部分が前記液体収容部をなし、上方部分が前記蒸発ガス収容部をなす構成としてもよい。
【0009】
また、前記内側有底筒状部材の内側及び前記外側有底筒状部材の外側の少なくとも一方に、前記加熱部を配してもよい。さらに、前記加熱部は、熱媒体が循環する加熱ジャケットとしてもよい。さらに、前記加熱ジャケットは、その上端部分に前記熱媒体の供給口を有し、その下端部分に前記熱媒体の排出口を有する構成としてもよい。さらに、前記熱媒体を水蒸気としてもよい。さらに、この蒸発ガス発生装置は、前記水蒸気の液化により生成した水を前記加熱ジャケットから排出する排水部を備えていてもよい。
【0010】
さらに、この蒸発ガス発生装置は、前記液体収容部に前記液体を導入する液体導入部と、前記液体が蒸発して生成した蒸発ガスを前記蒸発ガス収容部から排出する排出部と、前記容器内の前記液体の液面の高さを検出する液面検出部と、前記液面の高さが一定の範囲内に収まるように、前記液面検出部の検出結果に基づいて前記液体導入部を制御して、前記液体収容部への前記液体の導入量を調整する液面制御部と、を備えていてもよい。
さらに、前記液体を臭素としてもよい。
【0011】
また、本発明の他の態様に係る蒸発ガス製造方法は、液体収容部に収容された液体を加熱し、前記液体の液面の高さが一定の範囲内に収まるように制御しつつ前記液体を蒸発させて蒸発ガスを発生させる蒸発工程と、前記液体収容部に連続して設けられた蒸発ガス収容部に前記蒸発ガスを導入し加熱する蒸発ガス加熱工程と、を備えることを特徴とする。
この蒸発ガス製造方法においては、前記液体を臭素としてもよい。
さらに、本発明の他の態様に係る臭化水素製造装置は、前記蒸発ガス発生装置と、水素ガスを供給する水素ガス供給部と、前記蒸発ガス発生装置から供給された臭素ガスと前記水素ガス供給部から供給された水素ガスとを反応させて臭化水素を生成する反応器と、を備えることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の他の態様に係る臭化水素製造方法は、液体収容部に収容された液体臭素を加熱し、前記液体臭素の液面の高さが一定の範囲内に収まるように制御しつつ前記液体臭素を蒸発させて臭素ガスを発生させる蒸発工程と、前記液体収容部に連続して設けられた蒸発ガス収容部に前記臭素ガスを導入し加熱する蒸発ガス加熱工程と、前記蒸発ガス加熱工程で加熱された臭素ガスと水素ガスとを反応させて臭化水素を生成する反応工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る蒸発ガス発生装置及び蒸発ガス製造方法は、後過熱を行うことなく一定量の蒸発ガスを安定して発生させ供給することができる。また、本発明に係る臭化水素製造装置及び臭化水素製造方法は、臭素ガスの後過熱を行うことなく臭化水素を効率良く生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る蒸発ガス発生装置及び蒸発ガス製造方法並びに臭化水素製造装置及び臭化水素製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の蒸発ガス発生装置及び臭化水素製造装置を説明する図であり、
図2は、蒸発ガス発生装置の拡大断面図である。
図2の蒸発ガス発生装置は、液体を加熱して蒸発させ蒸発ガスを発生させる装置であり、水、有機溶剤等の種々の液体に対して適用可能であるが、腐食性液体である臭素に対して適用した例を以下に説明する。また、臭素ガスを発生させる蒸発ガス発生装置は、臭化水素製造装置に好適に使用可能であるので、
図2の蒸発ガス発生装置を臭化水素製造装置に適用した例を説明する。
【0016】
<本実施形態に係る臭化水素製造装置の構成について>
図1に示す臭化水素製造装置は、液体臭素Bを貯留する臭素タンク2と、液体臭素Bを加熱して蒸発させ臭素ガスを発生させる蒸発ガス発生装置1と、水素ガスが充填された水素ボンベ等の水素ガス供給部4と、蒸発ガス発生装置1から供給された臭素ガスと水素ガス供給部4から供給された水素ガスとを反応させて臭化水素を生成する反応器3と、を備えている。
この蒸発ガス発生装置1は、液体臭素Bを収容する容器10と、臭素タンク2から容器10に液体臭素Bを導入する配管21(この配管21と後述するバルブ43とが、本発明の構成要件である液体導入部に相当する)と、容器10の壁面に熱を供給する加熱ジャケット35,36と、を備えている。
【0017】
まず、容器10の構造について、
図2を参照しながら説明する。容器10は、内側有底筒状部材11及び外側有底筒状部材12の2つの有底筒状部材からなる二重構造を有している。内側有底筒状部材11及び外側有底筒状部材12の底面は、下方に突出する凸面をなしている。この二重構造は、外側有底筒状部材12の内側に内側有底筒状部材11が収容された構造であるので、外側有底筒状部材12の内面と内側有底筒状部材11の外面との間に空間Sを有している。
言い換えると、容器10は、二重構造の底部と、その底部の周縁部から上方に立ち上がる二重構造の筒部とを有し、これら底部及び筒部の二重構造により形成される隙間は互いに連続していて、空間Sを形成している。
【0018】
そして、内側有底筒状部材11の上端部と外側有底筒状部材12の上端部が接続されているため、空間Sの上端部は閉鎖されている。
外側有底筒状部材12の底面(凸面)の略中心部には供給口13が形成されていて、この供給口13に液体臭素Bを導入する配管21が接続されている。
図1に示すように、この配管21は、液体臭素Bを貯留する臭素タンク2に接続していて、配管21の途中に配されたポンプ22を駆動することにより、液体臭素Bが臭素タンク2から容器10内に導入され、空間Sのうち下方部分15(前記底部に形成された隙間)に収容されるようになっている。なお、空間Sのうち液体臭素Bが収容される下方部分15が、本発明の構成要件である液体収容部に相当する。
【0019】
この容器10の内側及び外側、すなわち内側有底筒状部材11の内側(空間Sに面する側とは反対側)及び外側有底筒状部材12の外側(空間Sに面する側とは反対側)には、容器10の壁面(内側有底筒状部材11の内面及び外側有底筒状部材12の外面)に熱を供給する加熱ジャケット35,36が備えられている。内側有底筒状部材11及び外側有底筒状部材12と相似形状の筒状部材31,32が、内側有底筒状部材11の内側及び外側有底筒状部材12の外側に同軸に配されていて、これら2つの筒状部材31,32(以下、内側有底筒状部材11の内側の筒状部材31を「内套部材」、外側有底筒状部材12の外側の筒状部材32を「外套部材」と記す)と内側有底筒状部材11及び外側有底筒状部材12とで四重構造をなしている。
【0020】
外套部材32の内面と外側有底筒状部材12の外面との間、及び、内側有底筒状部材11の内面と内套部材31の外面との間には、それぞれ空間が形成されており、水蒸気配管34からこれらの空間に、熱媒体である水蒸気が供給されるようになっていて、これにより加熱ジャケット35,36が構成される。そして、内側有底筒状部材11の内面及び外側有底筒状部材12の外面に対して加熱ジャケット35,36から熱が供給され、容器10内の液体臭素B及び臭素ガスの加熱に供される。
【0021】
なお、内側有底筒状部材11の内面は、その全面が加熱ジャケット35で覆われている。また、外側有底筒状部材12の外面は、臭素ガスを排出するための排出口14(本発明の構成要件である排出部に相当する)が形成されている位置よりも下方の部分であって、且つ、外側有底筒状部材12の底面に設けられた供給口13及びその周辺部分以外の面が、加熱ジャケット36で覆われている。
【0022】
加熱ジャケット35,36による加熱で液体収容部15内の液体臭素Bが蒸発し、臭素ガスが生成するが、この臭素ガスは上昇して、外側有底筒状部材12の内面と内側有底筒状部材11の外面との間に形成された空間Sのうち液体臭素Bが収容されていない上方部分16(前記筒部に形成された隙間)に移動する。すなわち、空間Sのうち液体臭素Bが収容されていない上方部分16が、本発明の構成要件である蒸発ガス収容部に相当する。蒸発ガス収容部16は、液体収容部15の上方に連続して設けられているので、生成した臭素ガスは蒸発ガス収容部16に円滑に移動する。
【0023】
蒸発ガス収容部16は、連続する液体収容部15とともに、その内側及び外側が加熱ジャケット35,36で覆われているので、蒸発ガス収容部16内の臭素ガスは加熱され温度が上昇する。すなわち、液体収容部15内の液体臭素Bは、容器10内の圧力における沸点で蒸発するので、生成した直後の臭素ガスの温度は前記圧力における沸点であるが、蒸発ガス収容部16において加熱されるため、前記圧力における沸点以上の温度となり過熱状態となる。
【0024】
臭素ガスは液体収容部15から連続的に発生し、蒸発ガス収容部16に移動するので、前記圧力における沸点以上の温度に加熱された臭素ガスは、新たに発生した臭素ガスに押し出されて、外側有底筒状部材12の上端部に設けられた排出口14から容器10の外部に送り出される。
【0025】
図2に示すように、内外の熱ジャケット35,36はそれぞれ、その上端部分に水蒸気の供給口31a,32aを有し、その下端部分に水蒸気の排出口を有する構成とすることが好ましい。このような構成であれば、熱ジャケット35,36に導入された水蒸気は、はじめに臭素ガスの加熱に供され、その後に下方に移動して液体臭素Bの加熱に供されることとなる。そうすると、所望の温度に設定した水蒸気が臭素ガスの加熱に供されるので、臭素ガスの温度を過熱状態まで確実に昇温することができる。
【0026】
液体臭素Bの加熱には、臭素ガスの加熱に使用され熱エネルギーが一部消費された水蒸気が供されることとなるが、液体臭素Bは前記圧力における沸点まで昇温すれば十分なので、熱エネルギーが一部消費された水蒸気でも差し支えない。
このように、臭素ガスの加熱に使用された水蒸気を液体臭素Bの加熱に使用する構成とすることにより、水蒸気の有する熱エネルギーを無駄なく効率的に利用することが可能となる。
【0027】
<本実施形態に係る蒸発ガス発生装置の液面の高さの制御について>
蒸発ガス発生装置1の稼働時には、液体臭素Bの蒸発量と液体臭素Bの供給量とがバランスするように、液体臭素Bが液体収容部15に一定の流量で導入されているが、加熱ジャケット35,36から供給される熱量が変動するなどの原因で前記バランスが崩れ、容器10内の液体臭素Bの液面Lの高さが変動する場合がある。そうすると、液体臭素Bの加熱に係る伝熱面積が変動することとなるため、液体臭素Bの蒸発量が変動し、常に一定量の臭素ガスを安定して発生させることが難しくなる。そこで、蒸発ガス発生装置1は、容器10内の液体臭素Bの液面Lの高さの変動を抑制し、液体臭素Bの液面Lの高さが一定の範囲内に収まるように制御する機構を備えている。
【0028】
すなわち、蒸発ガス発生装置1は、容器10内の液体臭素Bの液面Lの高さを検出する液面センサ41(本発明の構成要件である液面検出部に相当する)と、容器10内の液体臭素Bの液面Lが一定の範囲内に収まるように、液面センサ41の検出結果に基づいてバルブ43を制御し、液体収容部15への液体臭素Bの導入量を調整する液面制御部42と、を備えている。
液面センサ41は、例えば差圧伝送器で構成されており、この差圧伝送器は、蒸発ガス収容部16内の臭素ガスの圧力と液体収容部15内の圧力との差圧に対応する検出信号を、液面制御部42の演算装置に伝送する。液面制御部42の演算装置は、前記両圧力の差から、液体臭素Bの液面Lの高さを算出する。
【0029】
すなわち、液体収容部15内の圧力は、臭素ガスの圧力と液体臭素Bの液圧の和であるので、液体収容部15内の圧力から蒸発ガス収容部16内の臭素ガスの圧力を差し引くことにより液体臭素Bの液圧が算出される。そして、その液体臭素Bの液圧から液体臭素Bの液面Lの高さが算出される。
液面制御部42は、算出された液体臭素Bの液面Lの高さに基づいて、配管21に設けられたバルブ43の開度を調節することにより、液体収容部15に導入される液体臭素Bの量を調整して、容器10内の液体臭素Bの液面Lが一定の範囲内に収まるように制御する。
【0030】
よって、液体臭素Bの液面Lの高さがわずかでも変動した場合には、直ちに液面制御部42が液面Lの高さを調整するので、液体臭素Bの液面Lの高さは大きく変動することなく一定の範囲内に収まるように保持される。容器10内の液体臭素Bの液面Lの高さが一定の範囲内に収まるように制御されれば、液体臭素Bの加熱に係る伝熱面積が一定に保たれることとなるので、臭素ガスの蒸発量の変動がほとんどなくなり、常に一定とすることができる。
【0031】
また、このような液面Lの高さを制御する方法によれば、従来技術のように加熱のオン・オフを行う必要はなく、加熱ジャケット35,36から容器10に一定の熱量を加える加熱を行えばよいので、液体臭素Bの蒸発量に微小な変動が生じにくい。
なお、液体臭素Bの液面Lの高さ設定値を変更することにより、必要に応じて速やかに発生ガス量を増加又は減少させるなどの調節も可能である。
【0032】
蒸発ガス発生装置1や臭化水素製造装置を構成する材質は特に限定されるものではなく、ステンレス鋼等の一般的な材質を用いることが可能である。ただし、液体が腐食性液体である場合には、容器10の各部のうち液体又はその蒸発ガスが接触する部分については、腐食性液体に対して耐食性を有する材質で構成することが好ましい。腐食性液体の種類や腐食性に応じて、材質を選択すればよい。本実施形態の場合は、蒸発ガス発生装置1が腐食性液体の臭素を取り扱うので、材質としてグラスライニングを用いることが好ましい。すなわち、容器10のうち外側有底筒状部材12の内面及び内側有底筒状部材11の外面や、配管21の内面などには、グラスライニングが施されていることが好ましい。
【0033】
次に、蒸発ガス発生装置1により臭素ガスを発生させ、その臭素ガスを用いて臭化水素製造装置により臭化水素を製造する方法について説明する。
まず、バルブ43を開状態とし且つポンプ22を駆動することにより、臭素タンク2に貯留されている液体臭素Bを、配管21を介して容器10内に導入し、液体収容部15に収容する。
【0034】
蒸発ガス収容部16において臭素ガスを確実に過熱状態にまで加熱するためには、蒸発ガス収容部16のスペースを十分に確保する必要がある。よって、容器10の空間Sの高さを基準とすると、必要とする蒸発ガス量を得るために導入する液体臭素Bの液面Lが、空間S(ただし、供給口13の空間を除く)の底から例えば10%の高さ位置となるように容器10を設計することが好ましい。すなわち、空間Sの底から10%の高さ位置までの部分が液体収容部15となり、この10%の高さ位置から空間Sの頂部までの部分が蒸発ガス収容部16となる。
【0035】
また、伝熱面積を基準とすると、加熱ジャケット35,36の全伝熱面積のうち例えば12%にあたる部分が、必要とする蒸発ガス量を得るために導入する液体臭素Bの液体収容部15となり、88%にあたる部分が蒸発ガス収容部16となるように、容器10を設計することが好ましい。
なお、容器10が設計された後などの場合には、空間S(ただし、供給口13の空間を除く)の底から例えば10%の高さ位置に液面Lが位置するような量の液体臭素Bを導入する方法を用いてもよい。
【0036】
上記のような数値条件を満たすように容器10を設計すれば、蒸発ガス収容部16において臭素ガスを確実に過熱状態にまで加熱して、後の液化を抑制することができる。このような数値条件を満たす液面Lの高さを、以下「基準液面高さ」と記す。
なお、液体収容部15のスペースの大きさに関して、空間Sの高さを基準とした場合は10%、伝熱面積を基準とした場合は12%を例示したが、これらは一例であって、空間Sの高さを基準とした場合は、必要とする蒸発ガス量に応じて1%以上15%以下の高さ位置に液面Lが位置するように容器10を設計することが好ましく、5%以上10%以下の高さ位置に液面Lが位置するように容器10を設計することがより好ましい。
【0037】
また、伝熱面積を基準とした場合は、加熱ジャケット35,36の全伝熱面積のうち、必要とする蒸発ガス量に応じて0.4%以上28%以下にあたる部分が液体収容部15となるように容器10を設計することが好ましく、2%以上11%以下にあたる部分が液体収容部15となるように容器10を設計することがより好ましい。
なお、容器10が設計された後などの場合には、加熱ジャケット35,36の全伝熱面積のうち上記の数値範囲内にあたる部分が液体収容部15となるような量の液体臭素Bを導入する方法を用いてもよい。
【0038】
液体臭素Bを容器10に導入する際には、配管21の途中に予熱器51を設け、予熱器51により予熱した液体臭素Bを容器10内に導入することが好ましい。液体臭素Bを蒸発させるために、容器10は例えば80℃以上100℃以下の高温とされるが、そこに低温の液体臭素Bを導入すると、温度差に起因する熱衝撃により容器10が損傷するおそれがある。特に、グラスライニングは熱衝撃による損傷が生じやすいので、容器10の温度に近い温度(例えば、容器10の温度よりも低い温度で、且つ、その温度差が0℃以上80℃以下)に予熱した液体臭素Bを導入することが好ましい。また、熱衝撃による損傷を防止するために、容器10に導入される液体臭素Bの温度は一定とすることが好ましい。
【0039】
次に、液体収容部15に導入された液体臭素Bは、加熱ジャケット35,36により加熱され蒸発する。容器10の空間S内の圧力は、液体臭素Bを効率良く蒸発させるために0MPa以上0.15MPa以下とすることが好ましいが、例えば0.15MPaの場合は液体臭素は88℃で蒸発する。発生した88℃の臭素ガスは上方の蒸発ガス収容部16に移動し、加熱ジャケット35,36によって例えば90℃以上95℃以下の範囲内の温度に加熱され、過熱状態となる。そして、この過熱状態の臭素ガスは排出口14から容器10の外部に送り出される。
【0040】
なお、加熱ジャケット35,36には、水蒸気の液化により生成した水を加熱ジャケット35,36から排出する排水部を設けることが好ましい。液化した水が加熱ジャケット35,36内に蓄積すると、容器10の壁面のうち水が接触している部分には十分な熱が供給されないため、液体臭素Bの加熱が不十分となるおそれがある。よって、液化した水が加熱ジャケット35,36内に蓄積した状態が発生しないように、加熱ジャケット35,36内の水を逐次排水することが好ましい。
【0041】
本実施形態においては、外側有底筒状部材12の外側に設けられた加熱ジャケット36の底部(すなわち、外套部材32の底部)にドレン61が設けられており、液化した水を抜き出すことが可能となっている。また、内套部材31の内側には、内側有底筒状部材11の内側に設けられた加熱ジャケット35の底部から液化した水を吸引する吸引管62が設けられている。吸引管62が内套部材31の底部を貫通し、吸引管62の先端に設けられた吸引口62aが加熱ジャケット35内の最深部近傍に配されているため、液化した水を吸引口62aから吸引して抜き出すことが可能となっている。
【0042】
また、前述したように、蒸発ガス発生装置1の稼働時に液体臭素Bの液面Lの高さが変動すると、常に一定量の臭素ガスを安定して発生させることが難しくなる。よって、蒸発ガス発生装置1においては、容器10内の液体臭素Bの液面Lの高さが一定の範囲内に収まるように制御しつつ液体臭素Bを蒸発させて臭素ガスを発生させている。
【0043】
例えば、液面センサ41が、液体臭素Bの液面Lの高さが基準液面高さよりも低いことを検出した場合は、液面制御部42が液面Lの低下度合いに応じてバルブ43の開度を大きくし、液体収容部15に導入される液体臭素Bの量を増量して液体臭素Bの液面Lを基準液面高さまで上昇させる。反対に、液面センサ41が、液体臭素Bの液面Lの高さが基準液面高さよりも高いことを検出した場合は、液面制御部42が液面Lの上昇度合いに応じてバルブ43の開度を小さくし、液体収容部15に導入される液体臭素Bの量を減量する。すると、液体収容部15への液体臭素Bの導入量よりも液体臭素Bの蒸発量の方が多くなるので、液体臭素Bの液面Lが基準液面高さまで降下する。
【0044】
このようにして、容器10内の液体臭素Bの液面Lの高さを、基準液面高さを中心として一定の範囲内に収まるように制御する。これにより、液体臭素Bの加熱に係る伝熱面積が一定となるので、臭素ガスの蒸発量の変動がほとんどなくなり、常に一定とすることができる。
容器10内の液体臭素Bの液面Lの高さは、基準液面高さを中心として、容器10の空間Sの高さの0.5%低い位置から0.5%高い位置までの範囲内の高さに制御することが好ましく、0.2%低い位置から0.2%高い位置までの範囲内の高さに制御することがより好ましい。
【0045】
続いて、容器10の外部に出された臭素ガスは、配管71により臭化水素製造装置の反応器3に送られる。そして、蒸発ガス発生装置1から供給された臭素ガスと水素ガス供給部4から供給された水素ガスとを、反応器3内において反応させると、臭化水素が得られる。
蒸発ガス発生装置1の外部に出た臭素ガスは、沸点よりも高い温度の過熱状態とされているため、配管71を加熱する必要はなく、保温するのみでも配管71中での液化が生じにくくなっている。よって、所望の設定量の臭素ガスが正確且つ安定的に反応器3に供給されるので、効率良く臭化水素を生成することができる。また、配管71を加熱する必要がないので、臭素ガスや臭化水素を低コストで製造することができる。
【0046】
また、蒸発ガス発生装置1内で過熱状態の臭素ガスが生成されるため、蒸発ガス発生装置1と反応器3との間に後過熱装置を設けて臭素ガスの温度を上昇させずとも、臭素ガスの液化を防止することができる。臭素のような腐食性を有する物質を取り扱う場合には、後過熱装置を高価なグラスライニングで構成する必要がある。グラスライニング製の装置を蒸発ガス発生装置1の他にも設けるとなると、臭素ガスの製造コストや臭化水素の製造コストが大幅に上昇することとなるが、本実施形態の蒸発ガス発生装置1であれば、後過熱装置を設ける必要がないので、大幅なコスト上昇を伴うことなく臭素ガスや臭化水素を製造することができる。
【0047】
さらに、本実施形態によれば、液体臭素Bの加熱と臭素ガスの加熱との両方が、1つの装置(蒸発ガス発生装置1)で行われるため、加熱ジャケット35,36の熱媒体である水蒸気の熱が効率よく利用される。例えば、前述したように、臭素ガスの加熱に供された水蒸気が加熱ジャケット35,36の下方に移動して液体臭素Bの加熱に供されれば、水蒸気の有する熱エネルギーが無駄なく効率的に利用されることとなる(すなわち、熱エネルギーの利用効率が高い)。
【0048】
これに対して、蒸発ガス発生装置と反応器との間に後過熱装置を別途設けて臭素ガスを後過熱する場合や、蒸発ガス発生装置から反応器へ臭素ガスを送るための配管を加熱する加熱ジャケット等を別途設けて配管中の臭素ガスを後過熱する場合には、これら後過熱のための水蒸気は、蒸発ガス発生装置で液体臭素を加熱するための水蒸気とは別系列となっており、それぞれ別々に加熱に供される。
そのため、蒸発ガス発生装置で液体臭素の加熱に供された水蒸気や、後過熱に供された水蒸気は、他の加熱に利用可能な熱エネルギーを有していたとしても利用されず廃棄されるため、熱エネルギーの利用効率が低くなる。
【0049】
このように、本実施形態の構成によれば、水蒸気の有する熱エネルギーの利用効率が高いので、この点からも、臭素ガスや臭化水素の製造コストを低減することができる。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、液面センサ41として差圧式の液面センサを用いたが、液面センサの種類は特に限定されるものではなく、フロート式、超音波式、静電容量式等の一般的な液面センサを使用することができる。
【0050】
また、本実施形態においては、容器10の内側及び外側の両方に加熱ジャケット35,36を設けたが、いずれか一方のみに加熱ジャケットを設けることも可能である。ただし、容器10の内側及び外側の両方に加熱ジャケットを設けた方が、伝熱面積が約2倍となるので、液体臭素Bの蒸発量をより正確且つ効率的に制御することができる。
【0051】
さらに、本実施形態においては、加熱ジャケット35,36の熱媒体として水蒸気を用いた例を説明したが、熱媒体の種類は水蒸気に限定されるものではなく、一般的な熱媒体を使用することができる。例えば、水蒸気以外の気体状の熱媒体を用いてもよいし、オイル等の液体状の熱媒体を用いてもよい。
さらに、本実施形態においては、容器10内において液体臭素Bと臭素ガスを加熱する加熱部として加熱ジャケットを用いた例を説明したが、加熱部の種類は加熱ジャケットに限定されるものではなく、例えば電気ヒータや赤外線加熱装置を用いることもできる。