(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
(燃料電池スタック10の構成)
燃料電池スタック10の構成について図面を参照しながら説明する。
図1は燃料電池スタック10の構成を模式的に示す断面図である。
【0011】
燃料電池スタック10は、6枚の燃料電池20と、7個の集電部材30と、6個のセパレータ40とを備える。
【0012】
6枚の燃料電池20と7個の集電部材30は、積層方向において交互に積層されている。各セパレータ40は、各燃料電池20を取り囲むように配置される。燃料電池スタック10は、6個のセパレータ40と後述する7枚のセパレータ33を積層方向に貫通するボルトによって締結されている。
【0013】
6枚の燃料電池20は、いわゆる固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)である。6枚の燃料電池20それぞれは、平板状に形成される。
【0014】
(燃料電池20の構成)
燃料電池20は、燃料極21と、固体電解質層22と、空気極23とを有する。燃料極21と固体電解質層22と空気極23は、積層方向においてこの順に積層されている。
【0015】
燃料極21は、燃料電池20のアノードとして機能する。燃料極21は、燃料ガス透過性に優れた多孔質体である。燃料極21の厚みは、0.2mm〜5.0mmとすることができる。燃料極21は、例えばNiO(酸化ニッケル)-8YSZ(8mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)によって構成することができる。燃料極21がNiOを含んでいる場合、NiOの少なくとも一部は、燃料電池20の稼働時にNiに還元されてもよい。
【0016】
固体電解質層22は、セパレータ40に固定されている。固体電解質層22は、燃料極21と空気極23の間に配置される。固体電解質層22の厚みは、3μm〜30μmとすることができる。固体電解質層22は、ジルコニア系材料を主成分として含有する。ジルコニア系材料には、立方晶系ジルコニアと正方晶系ジルコニアが含まれる。
【0017】
本実施形態において、組成物Xが物質Yを「主成分として含む」とは、組成物X全体のうち、物質Yが70重量%以上を占めることを意味する。
【0018】
立方晶系ジルコニアとは、結晶相が主として立方晶の相からなるジルコニアである。立方晶系ジルコニアとしては、例えば、8YSZや10YSZ(10mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)が挙げられる。
【0019】
正方晶系ジルコニアとは、結晶相が主として正方晶の相からなるジルコニアである。正方晶系ジルコニアとしては、例えば、2.5YSZ(2.5mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)や3YSZ(3mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)のように3mol%以下のイットリアで安定化されたジルコニアが挙げられる。正方晶系ジルコニアの導電率は、立方晶系ジルコニアの導電率よりも低い。
【0020】
ここで、燃料電池20の焼成時や稼働時に、燃料電池20を構成する各部材の熱膨張係数が異なることや、燃料極に含まれるNiOがNiに還元されることによって燃料極の寸法が変化することに起因して、燃料極21と固体電解質層22との界面に歪みが生じてしまうおそれがある。そこで、固体電解質層22に損傷が生じることを抑制すべく、本実施形態では固体電解質層22の歪みが生じやすい部位に対して正方晶系ジルコニアが積極的に導入されている。固体電解質層22における正方晶系ジルコニアの分布については、分布例1と分布例2を挙げて後述する。
【0021】
空気極23は、固体電解質層22上に配置される。空気極23は、燃料電池20のカノードとして機能する。空気極23は、酸化剤ガス透過性に優れた多孔質体である。空気極23の厚みは、5μm〜50μmとすることができる。
【0022】
空気極23は、一般式ABO
3で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含有することができる。このようなペロブスカイト型複合酸化物としては、LSCF((La,Sr)(Co,Fe)O
3:ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、LSF((La,Sr)FeO
3:ランタンストロンチウムフェライト)、LSC((La,Sr)CoO
3:ランタンストロンチウムコバルタイト)、LNF(La(Ni,Fe)O
3:ランタンニッケルフェライト)、LSM((La,Sr)MnO
3:ランタンストロンチウムマンガネート)などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0023】
(集電部材30の構成)
集電部材30は、燃料電池20同士を電気的に接続するとともに、燃料ガスと酸化剤ガスを隔離する。集電部材30は、燃料極集電体31と、空気極集電体32と、セパレータ33とを有する。
【0024】
燃料極集電体31は、燃料極21とセパレータ33の間に配置される。燃料極集電体31は、燃料極21とセパレータ33とを電気的に接続する。燃料極集電体31は、導電性接合剤を介して燃料極21及びセパレータ33と機械的に接続されていてもよい。燃料極集電体31は、導電性を有する材料によって構成される。燃料極集電体31は、燃料ガスを燃料極21に供給可能な形状を有する。燃料極集電体31としては、例えばニッケル製のメッシュ部材を用いることができる。
【0025】
空気極集電体32は、セパレータ33を挟んで燃料極集電体31の反対側に配置される。空気極集電体32は、空気極23とセパレータ33の間に配置される。空気極集電体32は、空気極23とセパレータ33とを電気的に接続する。空気極集電体32は、空気極23と電気的に接続される複数の接続部32aを有する。複数の接続部32aは、マトリクス状に配列されている。各接続部32aは、空気極23側に突出する。接続部32aは、導電性接合剤を介して空気極23と機械的に接続されていてもよい。空気極集電体32は、導電性を有する材料によって構成される。空気極集電体32は、酸化剤ガスを空気極23に供給可能な形状を有する。空気極集電体32としては、例えば鉄とクロムを含有するステンレス(SUS430等)製の板状部材を用いることができる。
【0026】
セパレータ33は、燃料極集電体31と空気極集電体32の間に配置される。セパレータ33は、導電性を有する材料によって構成される。セパレータ33としては、例えば鉄とクロムを含有するステンレス製の板状部材を用いることができる。セパレータ33と燃料極21の間には、燃料ガスが供給される空間が形成される。セパレータ33と空気極23の間には、酸化剤ガスが供給される空間が形成される。
【0027】
(固体電解質層22における正方晶系ジルコニアの分布例1)
次に、燃料電池20の固体電解質層22における正方晶系ジルコニアの好ましい分布例1について、図面を参照しながら説明する。
図2は、
図1の部分拡大図である。
図3は、燃料電池20の固体電解質層22の平面図である。
【0028】
本分布例1に係る固体電解質層22は、中央部22aと外周部22bとを含む。中央部22aと外周部22bは、一体的に形成される。
【0029】
中央部22aは、厚み方向(積層方向と同じ)に垂直な面方向において、固体電解質層22の中央に位置する。本分布例1において、中央部22aの平面形状は円形であるが、楕円形、矩形、多角形あるいは不定形であってもよい。中央部22aの平面サイズは特に限られるものではないが、固体電解質層22全面積の5%以上50%以下とすることができ、10%以上30%以下であることが好ましい。
【0030】
外周部22bは、中央部22aの外周を取り囲む。外周部22bは、固体電解質層22のうち中央部22a以外の部分である。外周部22bの平面形状や平面サイズは、中央部22aの平面形状及び平面サイズに応じて適宜設定することができる。
【0031】
中央部22aは、立方晶系ジルコニアを主成分として含有するとともに、正方晶系ジルコニアを副成分として含有する。
【0032】
外周部22bは、立方晶系ジルコニアを主成分として含有する。外周部22bは、正方晶系ジルコニアを副成分として含有していてもよいが、正方晶系ジルコニアを含有していなくてもよい。
【0033】
本実施形態において、固体電解質層22の中央22Aのラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比(以下、「第1強度比」という。)R1は、固体電解質層22の外縁22Bにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比(以下、「第2強度比」という。)R2よりも大きい。そのため、中央22A付近では、立方晶系ジルコニア粒子よりも粒径が比較的小さい正方晶系ジルコニア粒子によって立方晶系ジルコニア粒子同士を強固に連結することができる。これにより、中央22A付近の骨格構造を強化できるため、燃料電池20に含まれる各部材の熱膨張係数差に起因して燃料電池20に反りが生じたとしても、中央22A付近が応力集中によって損傷することを抑制できる。
【0034】
本実施形態において、固体電解質層22の中央22Aは、平面視における幾何学的中心である。固体電解質層22の中央22Aにおける第1強度比R1は、以下のようにして取得される。
【0035】
まず、固体電解質層22の厚み方向(積層方向と同じ)に平行な断面において、厚み方向に垂直な面方向に中央22Aから3mmの範囲内で5箇所のラマンスペクトルを取得する。ラマンスペクトルを取得する5箇所は、固体電解質層22を厚み方向に等分する位置に設定される。ラマンスペクトルの取得には、堀場製作所製の顕微レーザラマン分光装置(型式:LabRAM ARAMIS)が好適である。
【0036】
次に、立方晶系ジルコニア及び正方晶系ジルコニアそれぞれに固有のラマンスペクトル(既知のスペクトルデータ)を用いて5箇所のラマンスペクトルそれぞれを解析することによって、立方晶系ジルコニアのスペクトル強度に対する正方晶系ジルコニアのスペクトル強度の比を算出する。ラマンスペクトルを既知のスペクトルデータを用いて解析する手法としては、ラマンスペクトルから化学種を推定するための周知の手法であるCLS法を用いるものとする。
【0037】
次に、5箇所のラマンスペクトルそれぞれから算出された強度比を算術平均することによって、固体電解質層22の中央22Aにおける第1強度比R1が算出される。第1強度比R1は、固体電解質層22の中央22Aにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの濃度比(存在比率)を示す指標である。
【0038】
固体電解質層22の中央22Aにおける第1強度比R1の値は特に制限されないが、0.1以上1.5以下とすることができる。第1強度比R1の値は、0.2以上1.2以下であることが好ましい。
【0039】
また、厚み方向の5箇所で取得されたラマンスペクトルのうち、燃料極21から3μm以内の位置で検出されたラマンスペクトルにおいて、正方晶系ジルコニアのスペクトル強度比が最大値をとることが好ましい。これにより、固体電解質層22の中央22Aのうち燃料極21側の骨格構造を特に強化できるため、酸化還元反応によって膨張収縮しやすい燃料極21との界面付近が損傷することをより抑制できる。
【0040】
本実施形態において、固体電解質層22の外縁22Bは、平面視における外縁である。固体電解質層22の外縁22Bにおける第2強度比R2は、以下のようにして取得される。
【0041】
まず、固体電解質層22の厚み方向に平行な断面において、面方向に外縁22Bから10mmの範囲内で5箇所のラマンスペクトルを取得する。ラマンスペクトルを取得する5箇所は、固体電解質層22を厚み方向に等分する位置に設定される。ラマンスペクトルの取得には、堀場製作所製の顕微レーザラマン分光装置(型式:LabRAM ARAMIS)が好適である。
【0042】
次に、CLS法を用いて5箇所のラマンスペクトルそれぞれを解析することによって、立方晶系ジルコニアのスペクトル強度に対する正方晶系ジルコニアのスペクトル強度の比を算出する。
【0043】
次に、5箇所のラマンスペクトルそれぞれから算出された強度比を算術平均することによって、固体電解質層22の外縁22Bにおける第2強度比R2が算出される。第2強度比R2の値は特に制限されないが、0以上0.5以下とすることができる。第2強度比R2の値は、0以上0.4以下であることが好ましい。
【0044】
(固体電解質層22における正方晶系ジルコニアの分布例2)
次に、燃料電池20の固体電解質層22における正方晶系ジルコニアの好ましい分布例2について、図面を参照しながら説明する。
図4は、
図1の部分拡大図である。
【0045】
本分布例2に係る固体電解質層22は、重畳部22cと非重畳部22dとを含む。
【0046】
重畳部22cは、厚み方向において、空気極集電体32の接続部32aと重なる。
図4では、5つの接続部32aが図示されているため、それらに対応する5つの重畳部22cが固体電解質層22に設けられているが、重畳部22cの個数は接続部32aの個数に応じて適宜設定可能である。重畳部22cの平面形状及び平面サイズは、接続部32aの平面形状及び平面サイズに応じて適宜設定可能である。
【0047】
非重畳部22dは、厚み方向において接続部32aと重ならない。非重畳部22dの位置は、面方向において接続部32aの位置からずれている。固体電解質層22において、非重畳部22dは重畳部22c以外の部分である。非重畳部22dは、重畳部22cと一体的に形成される。非重畳部22dの平面形状や平面サイズは、重畳部22cの平面形状及び平面サイズに応じて適宜設定することができる。
【0048】
重畳部22cは、立方晶系ジルコニアを主成分として含有するとともに、正方晶系ジルコニアを副成分として含有する。
【0049】
非重畳部22dは、立方晶系ジルコニアを主成分として含有する。非重畳部22dは、正方晶系ジルコニアを副成分として含有していてもよいが、正方晶系ジルコニアを含有していなくてもよい。
【0050】
本実施形態において、重畳部22cのラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比(以下、「第3強度比」という。)R3は、非重畳部22dにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比(以下、「第4強度比」という。)R4よりも大きい。そのため、重畳部22cでは、立方晶系ジルコニア粒子よりも粒径が比較的小さい正方晶系ジルコニア粒子によって立方晶系ジルコニア粒子同士を強固に連結することができる。これにより、重畳部22cの骨格構造を強化できるため、接続部32aに近いことに起因して重畳部22cが高温になったとしても、重畳部22cが応力集中によって損傷することを抑制できる。
【0051】
本実施形態において、重畳部22cにおける第3強度比R3は、以下のようにして取得される。
【0052】
まず、固体電解質層22の厚み方向に平行な断面において、重畳部22cにおける5箇所のラマンスペクトルを取得する。ラマンスペクトルを取得する5箇所は、重畳部22cを厚み方向に等分する位置に設定される。ラマンスペクトルの取得には、堀場製作所製の顕微レーザラマン分光装置(型式:LabRAM ARAMIS)が好適である。
【0053】
次に、CLS法を用いて5箇所のラマンスペクトルそれぞれを解析することによって、立方晶系ジルコニアのスペクトル強度に対する正方晶系ジルコニアのスペクトル強度の比を算出する。
【0054】
次に、5箇所のラマンスペクトルそれぞれから算出された強度比を算術平均することによって、重畳部22cにおける第3強度比R3が算出される。第3強度比R3の値は特に制限されないが、0.1以上1.6以下とすることができる。第3強度比R3の値は、0.2以上1.2以下であることが好ましい。
【0055】
また、厚み方向の5箇所で取得されたラマンスペクトルのうち、燃料極21から3μm以内の位置で検出されたラマンスペクトルにおいて、正方晶系ジルコニアのスペクトル強度比が最大値をとることが好ましい。これにより、重畳部22cのうち燃料極21側の骨格構造を特に強化できるため、酸化還元反応によって膨張収縮しやすい燃料極21との界面付近が損傷することをより抑制できる。
【0056】
本実施形態において、非重畳部22dにおける第4強度比R4は、以下のようにして取得される。
【0057】
まず、固体電解質層22の厚み方向に平行な断面において、非重畳部22dにおける5箇所のラマンスペクトルを取得する。ラマンスペクトルを取得する5箇所は、非重畳部22dを厚み方向に等分する位置に設定される。ラマンスペクトルの取得には、堀場製作所製の顕微レーザラマン分光装置(型式:LabRAM ARAMIS)が好適である。
【0058】
次に、CLS法を用いて5箇所のラマンスペクトルそれぞれを解析することによって、立方晶系ジルコニアのスペクトル強度に対する正方晶系ジルコニアのスペクトル強度の比を算出する。
【0059】
次に、5箇所のラマンスペクトルそれぞれから算出された強度比を算術平均することによって、非重畳部22dにおける第4強度比R4が算出される。第4強度比R4の値は特に制限されないが、0以上0.5以下とすることができる。第4強度比R4の値は、0以上0.4以下であることが好ましい。
【0060】
(燃料電池スタック10の製造方法)
次に、燃料電池スタック10の製造方法の一例について説明する。
【0061】
まず、NiO粉末、セラミックス粉末、造孔剤(例えばPMMA)、バインダー(例えばPVA)をポットミルで混合することによって燃料極用スラリーを作製する。そして、燃料極用スラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製して、混合粉末を一軸プレスすることで板状の燃料極21の成形体を作製する。
【0062】
次に、立方晶系ジルコニア粉末と正方晶系ジルコニア粉末とテルピネオールとバインダーを混合して中央部用スラリー又は重畳部用スラリーを作製する。
【0063】
次に、スクリーン印刷法などを用いて、中央部用スラリー又は重畳部用スラリーを燃料極21の成形体上に所定パターンで塗布することによって、中央部22a又は重畳部22cの成形体を形成する。
【0064】
次に、立方晶系ジルコニア粉末とテルピネオールとバインダーを混合して外周部用スラリー又は非重畳部用スラリーを作製する。この際、正方晶系ジルコニア粉末を添加してもよいが、中央部用スラリー又は重畳部用スラリーよりも含有率が少なくなるよう調整する。
【0065】
次に、スクリーン印刷法などを用いて、外周部用スラリー又は非重畳部用スラリーを燃料極21の成形体上に形成された中央部22a又は重畳部22cの成形体を避けるように塗布することによって、外周部22b又は非重畳部22dの成形体を形成する。これにより、固体電解質層22の成形体が完成する。この際、固体電解質層22の燃料極21側における正方晶系ジルコニア濃度を高くしたい場合には、正方晶系ジルコニアを含有する中央部用スラリー又は重畳部用スラリーを塗布した後に、それよりも正方晶系ジルコニアの含有率が低いスラリー、或いは、正方晶系ジルコニアを含まないスラリーを塗布すればよい。
【0066】
次に、燃料極21及び固体電解質層22の成形体を共焼成(1300℃〜1600℃、2〜20時間)して、燃料極21及び固体電解質層22の共焼成体を形成する。
【0067】
次に、空気極用粉末にテルピネオールとバインダーを混合して空気極用スラリーを作製する。そして、スクリーン印刷法などを用いて、空気極用スラリーを固体電解質層22上に塗布して空気極23の成形体を形成する。
【0068】
次に、空気極23の成形体を焼成(1000℃〜1100℃、1〜10時間)して空気極23を形成する。以上によって燃料電池20が完成する。
【0069】
次に、6枚の燃料電池20と6個のセパレータ40とを接合する。
【0070】
次に、7枚のセパレータ33の両主面に燃料極集電体31と空気極集電体32とを接合することによって、7個の集電部材30を作製する。
【0071】
次に、セパレータ40が接合された6枚の燃料電池20と7個の集電部材30とを積層方向において交互に配置する。この際、セパレータ33と燃料電池20の間にシール用のガラス材料を介挿させてもよい。
【0072】
次に、セパレータ40とセパレータ33を貫通する貫通孔にボルトを締結することによって、積層方向に押圧した状態で一体化する。この際、積層体の外側面をシール用のガラス材料で被覆してもよい。
【0073】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0074】
上記実施形態では特に触れていないが、燃料電池20は、固体電解質層22と空気極23の間に設けられる拡散防止層を備えていてもよい。拡散防止層は、CeやGdなどの1種以上の希土類元素とZrとを含有する複合酸化物によって構成することができる。このような拡散防止層によって、空気極23の構成元素が固体電解質層22に拡散することを抑制できる。
【0075】
上記実施形態において、固体電解質層22は、空気極集電体32の各接続部32aと積層方向に重なる全ての位置に重畳部22cを有することとしたが、接続部32aと積層方向に重なる少なくとも1つの重畳部22cを有していればよい。また、空気極集電体32が空気極23に接続される接続部32aを有することとしたが、燃料極集電体31が燃料極21と部分的に接続される接続部を有していてもよい。この場合、積層方向において燃料極集電体31の接続部と重なる位置に固体電解質層22の重畳部22cを設ければよい。さらに、燃料極集電体31と空気極集電体32それぞれが、同じパターン又は異なるパターンの接続部を有していてもよい。この場合、燃料極集電体31と空気極集電体32の接続部のうち少なくとも1つと積層方向に重なる位置に固体電解質層22の重畳部22cを設ければよい。
【0076】
上記実施形態において、集電部材30は、燃料極集電体31と空気極集電体32とセパレータ33とによって構成されることとしたが、周知のセパレータ(例えば、特開2001−196077号公報)を集電部材として用いることができる。
【0077】
上記実施形態では、6枚の燃料電池20それぞれの固体電解質層22が、中央部22a又は重畳部22cを有することとしたが、6枚のうち一部の燃料電池20のみが中央部22a又は重畳部22cを有していてもよい。特に、燃料電池スタック10の稼動開始時に集電部材30との熱膨張度合いの差により応力が発生しやすい、積層方向中央の2枚の燃料電池20の固体電解質層22に中央部22a又は重畳部22cを形成することが有効である。
【実施例】
【0078】
(サンプルNo.1の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1に係る燃料電池スタックを作製した。
【0079】
まず、NiO粉末と8YSZ粉末とPMMAの調合粉末にIPAを混合したスラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製した。
【0080】
次に、混合粉末を一軸プレス(成形圧50MPa)することによって板を成形し、その板をCIP(成形圧100MPa)でさらに圧密することによって燃料極の成形体を作製した。
【0081】
次に、立方晶系ジルコニア粉末にテルピネオールとバインダーを混合して固体電解質用スラリーを作製した。サンプルNo.1では、固体電解質用スラリーに正方晶系ジルコニア粉末を添加しなかった。
【0082】
次に、スクリーン印刷法を用いて、固体電解質用スラリーを燃料極の成形体上に塗布することによって、固体電解質層の成形体を形成した。
【0083】
次に、燃料極及び固体電解質層の成形体を共焼成(1400℃、2時間)して、燃料極及び固体電解質層の共焼成体を形成した。燃料極のサイズは、縦100mm×横100mm、厚み800μmであった。固体電解質層のサイズは、縦100mm×横100mm、厚み10μmであった。
【0084】
次に、LSCF粉末にテルピネオールとバインダーを混合して空気極用スラリーを作製した。そして、スクリーン印刷法を用いて空気極用スラリーを固体電解質層上に塗布して空気極の成形体を形成した。その後、空気極の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極を形成した。空気極のサイズは、縦90mm×横90mm、厚み50μmであった。
【0085】
以上のように作製した燃料電池を6枚準備して、6枚の燃料電池それぞれにステンレス製セパレータを接合した。
【0086】
次に、7枚のステンレス板それぞれの両主面にニッケルメッシュと複数の凸部(空気極との接続部)を有するステンレス部材とを接合して、7個の集電部材を作製した。
【0087】
次に、ステンレス製セパレータが接合された6枚の燃料電池と7個の集電部材とを積層方向において交互に配置した。
【0088】
次に、セパレータとセパレータを貫通する貫通孔にボルトを締結することによって、積層方向に押圧した状態で一体化した。
【0089】
(サンプルNo.2〜7の作製)
以下のようにして、サンプルNo.2〜7に係る燃料電池スタックを作製した。
【0090】
まず、NiO粉末と8YSZ粉末とPMMAの調合粉末にIPAを混合したスラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製した。
【0091】
次に、混合粉末を一軸プレス(成形圧50MPa)することによって板を成形し、その板をCIP(成形圧100MPa)でさらに圧密することによって燃料極の成形体を作製した。
【0092】
次に、立方晶系ジルコニア粉末と正方晶系ジルコニア粉末にテルピネオールとバインダーを混合して中央部用スラリーを作製した。この際、正方晶系ジルコニア粉末の添加量を調整することによって、表1に示すように、固体電解質層の中央のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの第1強度比R1をサンプルごとに調整した。
【0093】
次に、スクリーン印刷法を用いて、中央部用スラリーを燃料極の成形体の中央に塗布することによって、中央部の成形体を形成した。
【0094】
次に、立方晶系ジルコニア粉末にテルピネオールとバインダーを混合して外周部用スラリーを作製した。表1に示すように、実施例1〜3,5,7の外周部用スラリーには、正方晶系ジルコニア粉末を添加せず、実施例4,6の外周部用スラリーには中央部用スラリーよりも少量の正方晶系ジルコニア粉末を添加した。そして、スクリーン印刷法を用いて、外周部用スラリーを燃料極の成形体上に形成された中央部の成形体を取り囲むように塗布することによって、外周部の成形体を形成した。これにより固体電解質層の成形体が完成した。
【0095】
次に、燃料極及び固体電解質層の成形体を共焼成(1400℃、2時間)して、燃料極及び固体電解質層の共焼成体を形成した。燃料極及び固体電解質層のサイズは、サンプルNo.1と同じであった。中央部のサイズは、縦10mm×横10mmであった。
【0096】
次に、LSCF粉末にテルピネオールとバインダーを混合して空気極用スラリーを作製した。そして、スクリーン印刷法を用いて空気極用スラリーを固体電解質層上に塗布して空気極の成形体を形成した。その後、空気極の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極を形成した。空気極のサイズは、サンプルNo.1と同じであった。
【0097】
以上のように作製した燃料電池を6枚準備して、6枚の燃料電池それぞれにステンレス製セパレータを接合した。
【0098】
次に、7枚のステンレス板それぞれの両主面にニッケルメッシュと複数の凸部を有するステンレス部材とを接合して、7個の集電部材を作製した。
【0099】
次に、ステンレス製セパレータが接合された6枚の燃料電池と7個の集電部材とを積層方向において交互に配置した。
【0100】
次に、セパレータとセパレータを貫通する貫通孔にボルトを締結することによって、積層方向に押圧した状態で一体化した。
【0101】
(サンプルNo.8〜13の作製)
以下のようにして、サンプルNo.8〜13に係る燃料電池スタックを作製した。
【0102】
まず、NiO粉末と8YSZ粉末とPMMAの調合粉末にIPAを混合したスラリーを窒素雰囲気下で乾燥させることによって混合粉末を作製した。
【0103】
次に、混合粉末を一軸プレス(成形圧50MPa)することによって板を成形し、その板をCIP(成形圧100MPa)でさらに圧密することによって燃料極の成形体を作製した。
【0104】
次に、立方晶系ジルコニア粉末と正方晶系ジルコニア粉末にテルピネオールとバインダーを混合して重畳部用スラリーを作製した。この際、正方晶系ジルコニア粉末の添加量を調整することによって、表1に示すように、重畳部のラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの第3強度比R3をサンプルごとに調整した。
【0105】
次に、燃料極の成形体上において、後述するステンレス部材(空気極集電体)の複数の凸部(空気極との接続部)に対応する位置に重畳部用スラリーをスクリーン印刷法で塗布することによって、重畳部の成形体を形成した。
【0106】
次に、立方晶系ジルコニア粉末にテルピネオールとバインダーを混合して非重畳部用スラリーを作製した。表1に示すように、実施例8〜10,12,13の非重畳部用スラリーには、正方晶系ジルコニア粉末を添加せず、実施例11の非重畳部用スラリーには、重畳部用スラリーよりも少量の正方晶系ジルコニア粉末を添加した。
【0107】
次に、燃料極の成形体上に形成された重畳部の成形体を避けるように非重畳部用スラリーをスクリーン印刷法で塗布することによって、非重畳部の成形体を形成した。これにより固体電解質層の成形体が完成した。
【0108】
次に、燃料極及び固体電解質層の成形体を共焼成(1400℃、2時間)して、燃料極及び固体電解質層の共焼成体を形成した。燃料極及び固体電解質層のサイズは、サンプルNo.1と同じであった。重畳部のサイズは、縦10mm×横10mmであった。サンプルNo.8〜13では、9個の重畳部を固体電解質層内に均一に配列した。
【0109】
次に、LSCF粉末にテルピネオールとバインダーを混合して空気極用スラリーを作製した。そして、スクリーン印刷法を用いて空気極用スラリーを固体電解質層上に塗布して空気極の成形体を形成した。その後、空気極の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極を形成した。空気極のサイズは、サンプルNo.1と同じであった。
【0110】
以上のように作製した燃料電池を6枚準備して、6枚の燃料電池それぞれにステンレス製セパレータを接合した。
【0111】
次に、7枚のステンレス板それぞれの両主面にニッケルメッシュと複数の凸部を有するステンレス部材とを接合して、7個の集電部材を作製した。
【0112】
次に、ステンレス製セパレータが接合された6枚の燃料電池と7個の集電部材とを積層方向において交互に配置した。この際、重畳部とステンレス部材の凸部が積層方向において重なるように燃料電池とステンレス部材の位置を調整した。
【0113】
次に、セパレータとセパレータを貫通する貫通孔にボルトを締結することによって、積層方向に押圧した状態で一体化した。
【0114】
(ラマン分光法による立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの強度比測定)
サンプルNo.1〜No.13の固体電解質層について、厚み方向に平行な断面上の所定位置においてラマンスペクトルを取得した。
【0115】
サンプルNo.1では、固体電解質層の中央、外縁、重畳部及び非重畳部においてラマンスペクトルを取得した。ラマンスペクトルは、堀場製作所製のLabRAM ARAMISを用いて、固体電解質層を厚み方向に等分する5箇所で取得した。そして、CLS法を用いて5箇所のラマンスペクトルそれぞれを解析することにより、立方晶系ジルコニアのスペクトル強度に対する正方晶系ジルコニアのスペクトル強度の比を算出し、その算術平均値を求めた。これによって、中央における正方晶系ジルコニアの第1強度比R1、外縁における正方晶系ジルコニアの第2強度比R2、重畳部における正方晶系ジルコニアの第3強度比R3、及び非重畳部における正方晶系ジルコニアの第4強度比R4を取得した。
【0116】
サンプルNo.2〜No.7では、固体電解質層の中央及び外縁においてラマンスペクトルを取得し、サンプルNo.1と同様にして、中央における正方晶系ジルコニアの第1強度比R1と外縁における正方晶系ジルコニアの第2強度比R2を取得した。
【0117】
サンプルNo.8〜No.13では、固体電解質層の重畳部及び非重畳部においてラマンスペクトルを取得し、サンプルNo.1と同様にして、重畳部における正方晶系ジルコニアの第3強度比R3と非重畳部における正方晶系ジルコニアの第4強度比R4を取得した。
【0118】
(燃料電池スタックの熱サイクル試験)
サンプルNo.1〜No.13について熱サイクル試験を行った。
【0119】
具体的には、まず、常温から750℃まで90分かけて昇温した後、750℃に維持した状態で4%水素ガス(Arガスに対して4%の水素ガス)を燃料極側に供給することで還元処理を行った。そして、燃料電池スタックの初期出力を測定した。次に、4%水素ガスの供給を継続して還元雰囲気を維持しながら100℃以下になるまで降温した。そして、昇温工程と降温工程を1サイクルとして、20サイクル繰り返した。
【0120】
その後、燃料極側に加圧したHeガスを供給して、空気極側へのHeガスの漏洩の有無を確認した。また、固体電解質層の断面を顕微鏡で観察することによって、固体電解質層におけるクラックの有無を確認した。
【0121】
以上の熱サイクル試験結果を表1にまとめて示す。表1では、初期出力が高く(すなわち、固体電解質層の抵抗が小さく)、かつ、クラックが発生していなかったサンプルが「◎(良)」と評価され、初期出力が比較的低い(すなわち、固体電解質層の抵抗が比較的大きい)サンプル、又は、燃料電池の性能及び耐久性への影響が小さい5μm以下のクラックだけが発生していたサンプルが「○(可)」と評価され、5μmより大きなクラックが発生していたサンプルが「×(不良)」と評価されている。
【0122】
【表1】
【0123】
表1に示すように、固体電解質層の中央における立方晶系ジルコニアの第1強度比R1を外縁における立方晶系ジルコニアの第2強度比R2より大きくしたサンプルNo.2〜No.7では、サンプルNo.1に比べて、固体電解質層のクラックを抑制することができた。同様に、固体電解質層の重畳部における立方晶系ジルコニアの第3強度比R3を非重畳部における立方晶系ジルコニアの第4強度比R4より大きくしたサンプルNo.8〜No.13では、サンプルNo.1に比べて、固体電解質層のクラックを抑制することができた。これは、立方晶系ジルコニア粒子よりも粒径が比較的小さい正方晶系ジルコニア粒子によって立方晶系ジルコニア粒子同士を強固に連結することによって、中央部又は重畳部における骨格構造を強化できたためである。
【0124】
なお、実施例4,6においても固体電解質層のクラックを抑制することができたことから、R2が0より大きかったとしても、R1>R2が成立する限り効果を得られることが確認された。同様に、実施例11においても固体電解質層のクラックを抑制することができたことから、R4が0より大きかったとしても、R3>R4が成立する限り効果を得られることが確認された。
【0125】
また、表1に示すように、固体電解質層の中央における立方晶系ジルコニアの第1強度比R1を0.2以上1.2以下とすることによって、固体電解質層のクラックをより抑制できるとともに、固体電解質層の抵抗を低減できることがわかった。
【0126】
また、表1に示すように、固体電解質層の重畳部における立方晶系ジルコニアの第3強度比R3を0.2以上1.2以下とすることによって、固体電解質層のクラックをより抑制できるとともに、固体電解質層の抵抗を低減できることがわかった。
【解決手段】燃料電池20は、燃料極21と、空気極23と、燃料極21と空気極23の間に配置される固体電解質層22とを備える。固体電解質層22は、ジルコニア系材料を主成分とする。固体電解質層22の中央部22Aのラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの第1強度比R1は、外縁22Bのラマンスペクトルにおける立方晶系ジルコニアに対する正方晶系ジルコニアの第2強度比R2よりも大きい。