特許第6046865号(P6046865)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6046865
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】研磨パッド及び研磨パッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 11/00 20060101AFI20161212BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20161212BHJP
   B24D 13/14 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B24D11/00 M
   B24D11/00 Q
   B24D3/00 340
   B24D13/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-531086(P2016-531086)
(86)(22)【出願日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2016062015
【審査請求日】2016年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-98355(P2015-98355)
(32)【優先日】2015年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】高木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西藤 和夫
(72)【発明者】
【氏名】田浦 歳和
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−292573(JP,A)
【文献】 特開平02−083172(JP,A)
【文献】 特表2009−535225(JP,A)
【文献】 特開昭61−079576(JP,A)
【文献】 実開昭62−181363(JP,U)
【文献】 特開平09−193023(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/046543(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D3/00−99/00
B24B3/00−7/30
B24B21/00−39/06
C03C19/00
G11B5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、この基材フィルムの表面側に積層され、砥粒及びそのバインダーを含む研磨層とを備える研磨パッドであって、
上記研磨層が、その研磨方向に沿って区分され、平均高さが異なる複数種の領域を有し、
上記領域毎の研磨層全体の重心からの距離に応じた複数の分割部分における研磨層の最大高さの平均値をその領域の基準高さとするとき、隣接する一対の上記領域の基準高さの差が5μm以上100μm未満であり、
上記研磨層の表面が溝で区分され、
上記溝の1つが、領域を分割する境界と一致するように配設されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
基材フィルムと、この基材フィルムの表面側に積層され、砥粒及びそのバインダーを含む研磨層とを備える研磨パッドであって、
円盤状のものであり、
上記研磨層が、その研磨方向に沿って区分され、平均高さが異なる複数種の領域を有し、
上記領域毎の研磨層全体の重心からの距離に応じた複数の分割部分における研磨層の最大高さの平均値をその領域の基準高さとするとき、隣接する一対の上記領域の基準高さの差が5μm以上100μm未満であり、
上記複数種の領域が略等角度間隔に配設されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項3】
上記複数種の領域が、基準領域と、この基準領域より研磨層の平均高さが小さい低高さ領域とからなり、研磨方向に沿って交互に配設されている請求項1又は請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
上記研磨層が、略等密度で配設され、平面視で一定形状の複数の研磨部を有する請求項1、請求項2又は請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
基材フィルムと、この基材フィルムの表面側に積層され、砥粒及びそのバインダーを含む研磨層とを備える研磨パッドの製造方法であって、
上記研磨層が、表面が溝で区分され、
上記溝の1つが、領域を分割する境界と一致するように配設されており、
上記基材フィルムの表面側がその研磨方向に沿って区分された複数種の領域毎に砥粒及びそのバインダー材料を含む研磨層用組成物を印刷する工程を備え、
上記領域毎の研磨層全体の重心からの距離に応じた複数の分割部分における研磨層の最大高さの平均値をその領域の基準高さとするとき、上記印刷工程での印刷回数又は研磨層用組成物の組成を異ならせることで、隣接する一対の上記領域の基準高さの差を5μm以上100μm未満に調整することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【請求項6】
基材フィルムと、この基材フィルムの表面側に積層され、砥粒及びそのバインダーを含む研磨層とを備える研磨パッドの製造方法であって、
上記研磨パッドが円盤状のものであり、
上記複数種の領域が略等角度間隔に配設されており、
上記基材フィルムの表面側がその研磨方向に沿って区分された複数種の領域毎に砥粒及びそのバインダー材料を含む研磨層用組成物を印刷する工程を備え、
上記領域毎の研磨層全体の重心からの距離に応じた複数の分割部分における研磨層の最大高さの平均値をその領域の基準高さとするとき、上記印刷工程での印刷回数又は研磨層用組成物の組成を異ならせることで、隣接する一対の上記領域の基準高さの差を5μm以上100μm未満に調整することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド及び研磨パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク等の電子機器の精密化が進んでいる。このような電子機器の基板材料としては、小型化や薄型化に対応できる剛性、耐衝撃性及び耐熱性を考慮し、ガラスが用いられることが多い。このガラス基板は脆性材料であり、表面の傷により著しく機械的強度が損なわれる。このため、このような基板(被削体)の研磨には、加工効率と共に、傷の少ない平坦化精度が要求される。
【0003】
一般に仕上がりの平坦化精度を向上しようとすると加工時間は長くなる傾向にあり、加工効率と平坦化精度とはトレードオフの関係となる。このため加工効率と平坦化精度とを両立することが難しい。これに対し、加工効率と平坦化精度との両立のため、バインダーと砥粒とを含む研磨層を有し、その研磨層が研磨部を有する研磨パッドが提案されている(特表2002−542057号公報参照)。
【0004】
しかし、このような従来の研磨パッドは一定時間の研磨を実施すると、砥粒の目潰れや研磨層表面の目詰まりにより研磨レートが低下する。この低下した研磨レートを再生するためには、研磨パッドの表面を削り落とし新たな面を表面に出す、いわゆるドレスを行う必要がある。このドレス前後には研磨パッドの清掃も必要であり、このドレスは時間を要する作業である。ドレスの間、ガラス基板の研磨は中断されるため、従来の研磨パッドはドレスを行うことによる研磨効率の低下が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−542057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような不都合に鑑みてなされたものであり、高い平坦化精度を有し、かつ比較的長期間に渡り研磨レートが低下し難い研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、基材フィルムと、この基材フィルムの表面側に積層され、砥粒及びそのバインダーを含む研磨層とを備える研磨パッドであって、上記研磨層が、その研磨方向に沿って区分され、平均高さが異なる複数種の領域を有し、上記領域毎の研磨層全体の重心からの距離に応じた複数の分割部分における研磨層の最大高さの平均値をその領域の基準高さとするとき、隣接する一対の上記領域の基準高さの差が5μm以上100μm未満である。
【0008】
当該研磨パッドは、研磨層が研磨方向に沿って区分され、平均高さの異なる複数種の領域を有するので、研磨時に被削体が高さの小さい領域から大きい領域へ、またはその逆方向へ移動しながら研磨される。この高さ差を上記範囲内とすることで、その乗り越え抵抗により当該研磨パッドのグリップ力が向上し、また高さの大きい領域において面圧が高まる。これにより当該研磨パッドは、研磨時の面圧をより有効に活用できるので、高い平坦化精度を有し、かつ比較的長期間に渡り研磨レートが低下し難い。従って、当該研磨パッドはドレスを頻繁に行う必要がないため、ランニングコストの低減や工程管理の簡易化ができる。
【0009】
当該研磨パッドが円盤状のものであり、上記複数種の領域が略等角度間隔に配設されているとよい。ガラス基板等の研磨は研磨パッドを回転しながら被削体に当接することにより行われるのが一般的である。従って、円盤状のものを用い、複数種の領域を略等角度間隔に配設することで、被削体が領域間を周期的に移動するので、さらに高い平坦化精度と研磨レートの低下の抑止効果とが得られる。
【0010】
上記複数種の領域が、基準領域と、この基準領域より研磨層の研磨層の平均高さが小さい低高さ領域とからなり、研磨方向に沿って交互に配設されているとよい。このように平均高さの異なる2種類の領域を交互に配設することで、高い平坦化精度と研磨レートの低下の抑止効果とを維持しつつ、研磨パッドの製造コストの増加を抑止できる。
【0011】
上記研磨層が、略等密度で配設され、平面視で一定形状の複数の研磨部を有するとよい。このように一定形状の研磨部を略等密度で配設し、研磨部の配置を規則的とすることで、研磨する被削体への面圧や研磨作用点数を容易に制御できるため、平坦化精度がさらに高まる。
【0012】
従って、当該研磨パッドは、ガラス基板をはじめとする平面基板の研磨に好適に用いられる。
【0013】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、基材フィルムと、この基材フィルムの表面側に積層され、砥粒及びそのバインダーを含む研磨層とを備える研磨パッドの製造方法であって、上記基材フィルムの表面側がその研磨方向に沿って区分された複数種の領域毎に砥粒及びそのバインダー材料を含む研磨層用組成物を印刷する工程を備え、上記領域毎の研磨層全体の重心からの距離に応じた複数の分割部分における研磨層の最大高さの平均値をその領域の基準高さとするとき、上記印刷工程での印刷回数又は研磨層用組成物の組成を異ならせることで、隣接する一対の上記領域の基準高さの差を5μm以上100μm未満に調整する。
【0014】
当該研磨パッドの製造方法は、印刷工程で各領域に対応する印刷回数又は研磨層用組成物の組成を異ならせることで、平均高さの異なる複数種の領域を有し、隣接する一対の上記領域の基準高さの差が上記範囲内である研磨パッドを容易かつ確実に製造できる。
【0015】
ここで、「研磨層の平均高さ」とは、例えばレーザ変位計(キーエンス株式会社の「LJV7020」)を用いて測定される基材フィルム平均界面からの研磨層の高さの平均を意味する。「平均高さが異なる複数種の領域」とは、平均高さに対する偏差が3%以内となる領域を1つの領域とし、この平均高さが異なる複数の領域を意味する。また、「研磨層全体の重心からの距離に応じた複数の分割部分」とは、研磨層全体の重心からその領域に至る最短距離をX[mm]、最長距離をY[mm]とするとき、研磨層全体の重心からの距離がX[mm]以上(X+1/n(Y−X))[mm]未満、(X+1/n(Y−X))[mm]以上(X+2/n(Y−X))[mm]未満、・・・(X+(n―1)/n(Y−X))[mm]以上Y[mm]以下に分割されたn個の部分を意味する。ここでnは2以上の整数であり、例えばn=3とできる。
【0016】
「領域が略等角度」とは、円盤の中心と各領域の中心とを結ぶ放射線がなす角の最小値と最大値との差が10°以下であることを意味し、「研磨部が略等密度」とは、複数の研磨部の間隔の偏差と面積の偏差とがそれぞれ平均値に対し10%以内であることを意味する。また、「研磨方向」とは研磨パッドが研磨時に移動する方向であり、例えば円盤状の研磨パッドであれば円周方向を指す。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の研磨パッドは、高い平坦化精度を有し、かつ比較的長期間に渡り研磨レートが低下し難い。従って、当該研磨パッドはドレスを頻繁に行う必要がないため、ランニングコストの低減や工程管理の簡易化ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本発明の実施形態に係る研磨パッドを示す模式的平面図である。
図1B図1AのA−A線での模式的断面図である。
図2図1Bとは異なる実施形態の研磨パッドを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態を適宜図面を参照しつつ詳説する。
【0020】
<研磨パッド>
図1A及び図1Bに示す当該研磨パッド1は、円盤状であり、基材フィルム10と、この表面側に積層される研磨層20とを主に備える。また、当該研磨パッド1は、基材フィルム10の裏面側に積層される接着層30を備える。
【0021】
(基材フィルム)
上記基材フィルム10は、研磨層20を支持するための板状の部材である。
【0022】
上記基材フィルム10の材質としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アラミド、アルミニウム、銅等が挙げられる。中でも研磨層20との接着性が良好なPET及びPIが好ましい。また、基材フィルム10の表面に化学処理、コロナ処理、プライマー処理等の接着性を高める処理が行われてもよい。
【0023】
上記基材フィルム10の大きさとしては、特に制限されないが、例えば外径270mm以上320mm以下、及び内径80mm以上130mm以下の円環状とできる。
【0024】
上記基材フィルム10の平均厚さとしては、特に制限されないが、例えば75μm以上1mm以下とできる。上記基材フィルム10の平均厚さが上記下限未満である場合、当該研磨パッド1の強度や平坦性が不足するおそれがある。一方、上記基材フィルム10の平均厚さが上記上限を超える場合、当該研磨パッド1が不要に厚くなり取扱いが困難になるおそれがある。
【0025】
(研磨層)
研磨層20は、砥粒21及びそのバインダー22を含む。上記研磨層20は、その研磨方向に沿って複数の領域X1、X2、X3及びX4に区分され、平均高さが異なる2種の領域X1及び領域X3と領域X2及び領域X4とを有する。また、上記研磨層20は表面に複数の溝23を有する。
【0026】
上記研磨層20の平均厚さ(溝23を除く平均厚さ)は特に制限されないが、上記研磨層20の平均厚さの下限としては、25μmが好ましく、30μmがより好ましい。また、上記研磨層20の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、800μmがより好ましい。上記研磨層20の平均厚さが上記下限未満である場合、研磨層20の耐久性が不足するおそれがある。一方、上記研磨層20の平均厚さが上記上限を超える場合、当該研磨パッド1が不要に厚くなり取扱いが困難になるおそれがある。
【0027】
(砥粒)
上記砥粒21としては、ダイヤモンド、アルミナ、シリカ等の粒子が挙げられる。中でも高い研磨効率が得られるダイヤモンド砥粒が好ましい。
【0028】
上記砥粒21の平均粒径の下限としては、3μmが好ましく、10μmがより好ましい。また、上記砥粒21の平均粒径の上限としては、15μmが好ましく、14μmがより好ましい。上記砥粒21の平均粒径が上記下限未満である場合、研磨レートが不十分となるおそれがある。一方、上記砥粒21の平均粒径が上記上限を超える場合、被削体が傷付くおそれがある。
【0029】
上記砥粒21の研磨層20に対する含有量の下限としては、35体積%が好ましく、40体積%がより好ましい。また、上記砥粒21の研磨層20に対する含有量の上限としては、70体積%が好ましく、65体積%がより好ましい。上記砥粒21の研磨層20に対する含有量が上記下限未満である場合、研磨層20の研磨力が不足するおそれがある。一方、上記砥粒21の研磨層20に対する含有量が上記上限を超える場合、被削体が傷付くおそれがある。
【0030】
(バインダー)
上記バインダー22を構成する組成物としては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂を主成分とするものがよい。熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン、ポリフェノール、エポキシ、ポリエステル、セルロース、エチレン共重合体、ポリビニルアセタール、ポリアクリル、アクリルエステル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド等を挙げることができる。これらの中でも熱硬化性エポキシが好ましい。熱硬化性エポキシは、バインダー22を構成する際に砥粒21の良好な分散性と基材フィルム10への良好な密着性とが確保し易い。ここで「主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
【0031】
上記バインダー22の主成分として無機物を用いてもよい。このような無機物としては、ケイ酸塩、リン酸塩、多価金属アルコキシド等を挙げることができる。中でも研磨層20の研磨粒子保持力が高いケイ酸塩が好ましい。
【0032】
上記バインダー22には、分散剤、カップリング剤、界面活性剤、潤滑剤、消泡剤、着色剤等の各種助剤及び添加剤などを目的に応じて適宜含有させてもよい。また、上記バインダー22の樹脂は、少なくとも一部が架橋していてもよい。
【0033】
(溝)
上記研磨層20は、表面が溝23で区分された複数の研磨部24を有する。上記研磨部24を区分する溝23の底面は、基材フィルム10の表面で構成される。また、上記溝23は、研磨層20の領域X1、領域X2、領域X3及び領域X4の表面に等間隔の格子状に配設される。すなわち研磨部24は平面視で一定形状であり、略等密度で配設されている。このように一定形状の研磨部24を略等密度で配設することにより、研磨する被削体への面圧や研磨作用点数を容易に制御でき、平坦化精度がさらに高まる。
【0034】
上記溝23の平均幅の下限としては、0.3mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。また、上記溝23の平均幅の上限としては、10mmが好ましく、8mmがより好ましい。上記溝23の平均幅が上記下限未満である場合、研磨により発生する研磨粉が溝23に詰まるおそれがある。一方、上記溝23の平均幅が上記上限を超える場合、研磨時に被削体に傷が生じるおそれがある。
【0035】
上記研磨部24のそれぞれの平均面積の下限としては、1mmが好ましく、2mmがより好ましい。また、上記研磨部24の平均面積の上限としては、150mmが好ましく、130mmがより好ましい。上記研磨部24の平均面積が上記下限未満である場合、研磨部24が基材フィルム10から剥離するおそれがある。一方、上記研磨部24の平均面積が上記上限を超える場合、研磨時に研磨層20の被削体への接触面積が大きくなり、研磨効率が低下するおそれがある。
【0036】
上記複数の研磨部24の上記研磨層20全体に対する面積占有率の下限としては、20%が好ましく、30%がより好ましい。また、上記複数の研磨部24の上記研磨層20全体に対する面積占有率の上限としては、60%が好ましく、55%がより好ましい。上記複数の研磨部24の上記研磨層20全体に対する面積占有率が上記下限未満である場合、研磨する被削体への面圧や研磨作用点数の制御が不十分となるため、十分な平坦化精度が得られないおそれがある。一方、上記複数の研磨部24の上記研磨層20全体に対する面積占有率が上記上限を超える場合、研磨層20の研磨時の摩擦抵抗が高くなり被削体が傷付くおそれがある。なお、「研磨層全体の面積」は、研磨層が溝を有する場合、その溝の面積も含む概念である。
【0037】
(研磨層の領域)
2種の領域X1及び領域X3と領域X2及び領域X4は、基準領域X1及び領域X3と、この基準領域X1及び領域X3より研磨層20の平均高さが小さい低高さ領域X2及び領域X4とからなり、研磨方向に沿って交互に配設されている。また、各領域は、研磨層20の円環の中心を通り直交する2つの直線により分割されている。つまり、上記領域X1、領域X2、領域X3及び領域X4は略等角度間隔に配設されている。このように2種の領域を略等角度間隔に配設することで、被削体が領域間を周期的に移動するので、さらに高い平坦化精度と研磨レートの低下の抑止効果とが得られる。
【0038】
また、溝23の1つが、領域を分割する境界と一致するように配設されるとよい。溝23の1つを境界と一致させることで、領域間の段差が溝23を挟んで対向するようになるため、溝23が緩衝エリアとなって被削体の縁欠けや割れの発生を抑止できる。
【0039】
上記領域の隣接する領域との基準高さの差(例えばX1とX2との基準高さの差)の下限としては、5μmであり、20μmがより好ましく、40μmがさらに好ましい。一方、上記領域の基準高さの差は、100μm未満であり、90μm未満がより好ましく、80μm未満がさらに好ましい。上記領域の基準高さの差が上記下限未満である場合、乗り越え抵抗が減少するため、乗り越え抵抗によるグリップ力向上効果が不足するおそれがある。逆に、上記領域の基準高さの差が上記上限以上である場合、乗り越え抵抗が大き過ぎるため、被削体の縁欠けや割れが発生するおそれがある。
【0040】
(接着層)
接着層30は、当該研磨パッド1を支持し研磨装置に装着するための支持体に当該研磨パッド1を固定する層である。
【0041】
この接着層30に用いられる接着剤としては、特に限定されないが、例えば反応型接着剤、瞬間接着剤、ホットメルト接着剤、粘着剤等が挙げられる。
【0042】
この接着層30に用いられる接着剤としては、粘着剤が好ましい。接着層30に用いられる接着剤として粘着剤を用いることで、支持体から当該研磨パッド1を剥がして貼り替えることができるため当該研磨パッド1及び支持体の再利用が容易になる。このような粘着剤としては、特に限定されないが、例えばアクリル系粘着剤、アクリル−ゴム系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、ブチルゴム系等の合成ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤等が挙げられる。
【0043】
接着層30の平均厚さの下限としては、0.05mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。また、接着層30の平均厚さの上限としては、0.3mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。接着層30の平均厚さが上記下限未満である場合、接着力が不足し、研磨パッド1が支持体から剥離するおそれがある。一方、接着層30の平均厚さが上記上限を超える場合、例えば接着層30の厚みのため当該研磨パッド1を所望する形状に切る際に支障をきたすなど、作業性が低下するおそれがある。
【0044】
研磨層20の1回目の研磨における研磨レートに対する5回目の研磨時の研磨レートの比の下限としては、90%が好ましく、95%がより好ましく、99%がさらに好ましい。上記研磨レートの比が上記下限未満である場合、研磨レートの低下により研磨効率が低下するおそれがある。ここで、研磨レートとは、直径6.25cm、比重2.4のソーダライムガラスを研磨圧力150g/cm、上定盤回転数60rpm、下定盤回転数90rpm及びSUNギア回転数30rpmの条件で15分間で繰り返し行った際の1回当たりの研磨レートを指す。具体的には、研磨レートは、研磨前後のガラス基板の重量変化(g)を、基板の表面積(μm)、基板の比重(g/μm)及び研磨時間(分)で除すことで算出できる。
【0045】
<研磨パッドの製造方法>
当該研磨パッド1は、研磨層用組成物を準備する工程、研磨層用組成物を基材フィルム10の表面側に印刷する工程、及び接着層30を貼付する工程により製造できる。当該研磨パッド1は、上記印刷工程での印刷回数又は研磨層用組成物の組成を異ならせることで、隣接する一対の上記領域の基準高さの差を所定範囲内に調整する。以下、この2つの方法について説明する。
【0046】
〔印刷回数による方法〕
まず、印刷回数を異ならせることで、隣接する一対の上記領域の基準高さの差を所定範囲内に調整する当該研磨パッド1の製造方法について説明する。
【0047】
(研磨層用組成物準備工程)
まず、研磨層用組成物準備工程において、砥粒21及びそのバインダー22を含む研磨層用組成物を溶剤に分散させた溶液を塗工液として準備する。上記溶剤としては、バインダー22の形成材料が可溶であれば特に限定されない。具体的には、メチルエチルケトン(MEK)、イソホロン、テルピネオール、Nメチルピロリドン、シクロヘキサノン、プロピレンカーボネート等を用いることができる。塗工液の粘度や流動性を制御するために、水、アルコール、ケトン、酢酸エステル、芳香族化合物等の希釈剤などを添加してもよい。
【0048】
(印刷工程)
次に、印刷工程において、上記研磨層用組成物準備工程で準備した塗工液を用い、基材フィルム10の表面側がその研磨方向に沿って区分された2種の領域に上記研磨層用組成物を印刷する。具体的には、上記基材フィルム10の表面をその研磨方向に沿って2種の領域が交互に配設されるように区分する。つまり、この2種の領域に対応するマスクを用意し、このマスクを介して上記研磨層用組成物を印刷する。なお、上記マスクは、溝23を形成するために、溝23の形状に対応する形状を有する。
【0049】
この印刷方式としては、例えばスクリーン印刷、メタルマスク印刷等を用いることができる。印刷後、塗工液を加熱脱水及び加熱硬化させることで研磨層20を形成する。具体的には、例えば塗工液を室温(25℃)で乾燥させ、70℃以上90℃以下の熱で加熱脱水させた後、100℃以上160℃以下の熱で硬化させ、バインダー22を形成する。
【0050】
上記印刷工程において、基準領域にのみ印刷を行うマスクを用いた研磨層用組成物の印刷と、低高さ領域にのみ印刷を行うマスクを用いた研磨層用組成物の印刷とを個別に行う。その際、基準領域の印刷回数を増やすことで、研磨層20の平均高さを大きくすることができる。このように印刷回数を異ならせることで、隣接する一対の上記領域の基準高さの差を所定の範囲内に調整する。
【0051】
(接着層貼付工程)
最後に、接着層貼付工程において、上記基材フィルム10の裏面に接着層30を貼付し、当該研磨パッド1を得ることができる。
【0052】
〔研磨層用組成物の組成による方法〕
まず、研磨層用組成物の組成を異ならせることで、隣接する一対の上記領域の基準高さの差を所定範囲内に調整する当該研磨パッド1の製造方法について説明する。
【0053】
(研磨層用組成物準備工程)
研磨層用組成物準備工程において、砥粒21及びそのバインダー22を含む研磨層用組成物を溶剤に分散させた溶液を塗工液として準備する。上記溶剤としては、印刷回数による方法で説明した溶剤と同様とできる。
【0054】
本手法では、配合の異なる2種類の研磨層用組成物を準備する。すなわち平均高さの異なる2つの領域(領域X1及び領域X3と領域X2及び領域X4)に用いる研磨層用組成物の配合を変える。具体的には、平均高さの大きい2つの領域の印刷に用いる研磨層用組成物として固形分濃度の高い研磨層用組成物を準備し、平均高さの小さい2つの領域の印刷に用いる研磨層用組成物として固形分濃度の低い研磨層用組成物を準備する。このように印刷を行う領域に応じて研磨層用組成物を変えることで、同じ印刷回数で形成される研磨層20の平均高さを領域毎に変えることができる。
【0055】
(印刷工程)
次に、印刷工程において、上記研磨層用組成物準備工程で準備した塗工液を用い、基材フィルム10の表面側がその研磨方向に沿って区分された2種の領域に対して上記研磨層用組成物を印刷する。使用するマスク及び印刷方式については、印刷回数による方法と同様とできる。
【0056】
上記印刷工程において、基準領域にのみ印刷を行うマスクを用いた固形分濃度の高い研磨層用組成物の印刷と、低高さ領域にのみ印刷を行うマスクを用いた固形分濃度の低い研磨層用組成物の印刷とを個別に行う。この際、基準領域の印刷に用いる研磨層用組成物の固形分濃度が高いので、基準領域の研磨層20の平均高さを大きくすることができる。この場合、基準領域の印刷回数の印刷回数は、低高さ領域の印刷回数と同回数であってもよい。このように研磨層用組成物の組成を異ならせることで、隣接する一対の上記領域の基準高さの差を所定の範囲内に調整する。
【0057】
(接着層貼付工程)
最後に、接着層貼付工程において、上記基材フィルム10の裏面に接着層30を貼付し、当該研磨パッド1を得ることができる。
【0058】
<利点>
当該研磨パッド1は、研磨層20が研磨方向に沿って区分され、平均高さの異なる複数種の領域を有するので、研磨時に被削体が高さの小さい領域から大きい領域へ、またはその逆方向へ移動しながら研磨される。この高さ差を上記範囲内とすることで、その乗り越え抵抗により当該研磨パッド1のグリップ力が向上し、また高さの大きい領域において面圧が高まる。これにより当該研磨パッド1は、研磨時の面圧をより有効に活用できるので、高い平坦化精度を有し、かつ比較的長期間に渡り研磨レートが低下し難い。従って、当該研磨パッド1はドレスを頻繁に行う必要がないため、ランニングコストの低減や工程管理の簡易化ができる。
【0059】
従って、当該研磨パッド1は、ガラス基板をはじめとする平面基板の片面又は両面研磨に好適に用いられる。
【0060】
また、当該研磨パッド1の製造方法は、印刷工程で各領域に対応する印刷回数又は研磨層用組成物の組成を異ならせることで、平均高さの異なる複数種の領域を有し、隣接する一対の上記領域の基準高さの差が上記範囲内である研磨パッド1を容易かつ確実に製造できる。
【0061】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2の実施形態を適宜図面を参照しつつ詳説する。
【0062】
<研磨パッド>
図3に示す当該研磨パッド2は、円盤状であり、基材フィルム11と、この表面側に積層される研磨層20とを備える。また、当該研磨パッド2は、基材フィルム11の裏面側に積層される接着層30を備える。さらに、当該研磨パッド2は、接着層30を介して積層される支持体40及びその支持体40の裏面側に積層される支持体接着層41を備える。なお、第1実施形態と同様の構成要素は同一の符号を付し、説明を省略する。
【0063】
(基材フィルム)
上記基材フィルム11は、研磨層20を支持するための板状の部材である。基材フィルム11は、その研磨方向に沿って領域X1、領域X2、領域X3及び領域X4に分断されている。
【0064】
基材フィルム11の材質、大きさ及び平均厚さは、第1実施形態の基材フィルム10と同様とできる。
【0065】
(支持体)
支持体40は、基材フィルム11を支持し、また当該研磨フィルム2を研磨装置に固定するための板状の部材である。
【0066】
上記支持体40の材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性を有する樹脂やポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。上記支持体40にこのような材質を用いることにより上記支持体40が可撓性を有し、当該研磨パッド2が被削体の表面形状に追従し、研磨面と被削体とが接触し易くなるため研磨効率が向上する。
【0067】
上記支持体40の平均厚さとしては、例えば0.5mm以上2mm以下とすることができる。上記支持体40の平均厚さが上記下限未満である場合、支持体40の強度が不足するおそれがある。一方、上記支持体40の平均厚さが上記上限を超える場合、上記支持体40を研磨装置に取り付け難くなるおそれや上記支持体40の可撓性が不足するおそれがある。
【0068】
(支持体接着層)
支持体接着層41は、支持体40を研磨装置に装着するための層である。
【0069】
支持体接着層41の接着剤の種類及び平均厚さは接着層30と同様とできる。
【0070】
<研磨パッドの製造方法>
当該研磨パッド2は、研磨層用組成物を準備する工程、研磨層用組成物を基材フィルム11の表面側に印刷する工程、上記基材フィルム11を支持体40に固定する工程及び支持体接着層41を貼付する工程により製造できる。
【0071】
(研磨層用組成物準備工程)
研磨層用組成物準備工程は、第1実施形態における研磨層用組成物準備工程と同様であるので、説明を省略する。
【0072】
(印刷工程)
次に、印刷工程において、上記研磨層用組成物準備工程で準備した塗工液を用い、2種の領域に上記研磨層用組成物を印刷する。
【0073】
具体的には、各領域用に2枚の基材フィルム11を準備する。この基材フィルム11に対応するマスクを用意し、このマスクを介して上記研磨層用組成物を印刷する。なお、上記マスクは、溝23を形成するために、溝23の形状に対応する形状を有する。印刷方法は、第1実施形態と同様とできる。また、上記印刷を行う際、第1実施形態と同様に印刷回数又は研磨層用組成物の組成を異ならせることで、2枚の基材フィルム上に形成される研磨層20の基準高さの差が、所定の範囲内となるように調整する。
【0074】
(基材フィルム貼付工程)
次に、基材フィルム貼付工程において、研磨層20を形成した上記基材フィルム11を各領域の形状に合うように切断し、接着層30を介して支持体40にそれぞれ接着する。
【0075】
(支持体接着層貼付工程)
最後に、支持体接着層貼付工程において、上記支持体40の裏面に支持体接着層41を貼付し、当該研磨パッド2を得ることができる。
【0076】
<利点>
当該研磨パッド2が支持体40を備えることにより、当該研磨パッド2の取扱いが容易となる。
【0077】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0078】
上記実施形態では、研磨パッドが円盤状である場合を説明したが、研磨パッドの形状は円盤状に限定されない。例えば研磨パッドは方形状とすることができる。研磨パッドを方形状とする場合の大きさとしては特に限定されないが、例えば一辺が140mm以上160mm以下の正方形状とすることができる。
【0079】
上記実施形態では、研磨部を等間隔の格子状に構成したが、格子の間隔は、等間隔でなくともよく、例えば縦方向と横方向とで間隔を変えてもよい。ただし、研磨部の間隔が異なる場合、研磨に異方性が生じるおそれがあるため、等間隔が好ましい。また、研磨部の平面形状は格子状でなくともよく、例えば四角形以外の多角形が繰り返される形状、円形状、平行な線を複数有する形状等であってもよい。これらの形状は不規則に配設されてもよい。
【0080】
また、上記実施形態において、上記複数の溝部の底面が基材フィルムの表面である構成としたが、溝部の深さが研磨層の平均厚さよりも小さく、溝部が基材フィルムの表面に達さなくともよい。その場合、溝部の深さは、研磨層の平均厚さの50%以上とできる。溝部の深さが上記下限未満である場合、摩耗により溝部が消失するおそれがあり、研磨パッドが耐久性に劣る場合がある。
【0081】
上記研磨層は、溝を有さなくともよい。また、上記研磨層は、領域間にのみ溝を有する構成としてもよい。
【0082】
上記実施形態では、基準領域と低高さ領域とから構成される2種類の領域からなる研磨パッドについて説明したが、平均高さが異なる領域の数は2種類に限定されず、平均高さが異なる領域の数が3種類以上であってもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、複数種の領域が研磨方向に沿って交互に配設されている場合を説明したが、上記複数種の領域は、研磨方向に沿って配設されていなくともよい。また、その配設は交互でなくともよい。
【0084】
上記実施形態では、領域として研磨層を4分割する場合を説明したが、分割数は4分割に限定されるものではなく、2分割、3分割や5分割以上であってもよい。
【0085】
また、複数の領域が略等角度間隔に配設されることは必須の構成要件ではなく、複数の領域が不規則な間隔で配設された研磨パッドも本発明の意図するところである。
【0086】
上記第1実施形態では、研磨パッドが接着層を有する場合を説明したが、接着層は必須の構成要件ではなく、省略可能である。例えば接着層は支持体側にあってもよく、またビス留め等の他の固定手段を用いて支持体に固定してもよい。
【0087】
また、当該研磨パッドの用途は、ガラス基板の研磨に限定されるものではなく、例えばガラス基板と同様に高い平坦化精度と研磨レートが低下し難い加工効率とが求められる難研磨材の研磨に用いることもできる。このような難研磨材としては、サファイア基板、GaN、SiC等の化合物半導体基板などを挙げることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、当該発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
<ガラス基板の研削>
[比較例1]
エポキシ樹脂(三菱化学株式会社の「JER1001」)に希釈溶剤(イソホロン)、硬化剤(新日本理化株式会社の「リカシッドMH700」)、適量の硬化触媒、及びダイヤモンド砥粒(ランズ社の「LSシリーズ」、平均粒径14μm)を加えて混合し、ダイヤモンド砥粒の研磨層に対する含有量が50質量%となるよう調製し塗工液を得た。
【0090】
基材フィルムとして平均厚さ75μmのPETフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社の「メリネックスS」)を準備した。この基材フィルムは円環状であり、外径290mm及び内径103mmである。
【0091】
上記基材フィルムの表面に印刷法により研磨層パターンを形成した。なお、印刷のパターンとして研磨部に対応するマスクを用いることで、研磨層に溝で区切られた研磨部を形成した。研磨部は、平面視で1辺1.5mmの正方形状とし、溝部を1.0mm幅とすることで、研磨部の研磨層全体に対する面積占有率を36%とした。
【0092】
上記印刷工程後の研磨層パターンを温度120℃で3分間以上乾燥させた後、温度120℃で16時間以上20時間以下硬化させた。
【0093】
また、研磨装置に固定する支持体として平均厚さ1mm、平面視円形状の硬質塩化ビニル樹脂板(タキロン株式会社の「SP770」)を用い、上記基材フィルムの裏面と上記支持体の表面とを平均厚さ130μmの粘着材で貼り合わせた。上記粘着材としては、両面テープ(積水化学株式会社の「#5605HGD」)を用いた。このようにして比較例1の研磨パッドを得た。
【0094】
(実施例1)
まず、比較例1と同様にして研磨層を形成した第1の基材フィルムを準備した。次に、希釈溶剤(イソホロン)の添加量を増やし、ダイヤモンド砥粒の研磨層に対する含有量が
42質量%となるよう調製し塗工液を用いて比較例1と同様にして研磨層を形成した第2の基材フィルムを準備した。塗工液を希釈しているため、この第2の基材フィルムの研磨層の領域の平均高さは、第1の基材フィルムの研磨層の平均高さよりも小さい。
【0095】
最後に、支持体の中心を通り直交する2つの直線により分割される4つの領域に支持体を区分し、上記4領域に対して円周方向(研磨方向)に沿って2種類の基材フィルムを上記領域に合致するように切断し、交互に貼り合わせることで、実施例1の研磨パッドを得た。実施例1の研磨パッドの基準高さの差は表1に示す通りである。
【0096】
(実施例2、3及び比較例2)
まず、実施例1と同様にして第1の基材フィルムを準備した。次に、塗工液として実施例1の第1の基材フィルムと同様の塗工液を用い、実施例1より研磨層の印刷回数を減らして第2の基材フィルムを準備した。なお、第2の基材フィルムの印刷回数は、実施例1を基準として実施例2が−2回、実施例3が−3回、及び比較例2が−4回である。
【0097】
準備した第1及び第2の基材フィルムを用いて、実施例1と同様にして実施例2、3及び比較例2の研磨パッドを得た。実施例2、3及び比較例2の研磨パッドの基準高さの差は表1に示す通りである。
【0098】
(実施例4)
支持体の中心を通る直線により等面積の8つの領域に支持体を区分した。上記8領域に対して円周方向に沿って2種類の基材フィルムを上記領域に合致するように切断し、交互に貼り合わせた以外は、実施例3と同様にして実施例4の研磨パッドを得た。実施例4の研磨パッドの基準高さの差は表1に示す通りである。
【0099】
[研磨条件]
上記実施例1〜4及び比較例1、2で得られた研磨パッドを用いて、ガラス基板の研磨を行った。上記ガラス基板には、直径6.25cm、比重2.4のソーダライムガラス(平岡特殊硝子製作株式会社製)を用いた。上記研磨には、市販の両面研磨機(日本エンギス株式会社の「EJD−5B−3W」)を用いた。両面研磨機のキャリアは、厚さ0.6mmのエポキシガラスである。研磨は、研磨圧力を150g/cmとし、上定盤回転数60rpm、下定盤回転数90rpm及びSUNギア回転数30rpmの条件で15分間で6回行った。その際、クーラントとして、株式会社モレスコの「ツールメイトGR−20」を毎分120cc供給した。
【0100】
[評価方法]
実施例1〜4及び比較例1、2の研磨パッドを用いて研磨したガラス基板について、研磨レートと研磨後の被削体の仕上がり粗さとを求めた。結果を表1に示す。
【0101】
(研磨レート)
研磨レートについて、研磨毎に研磨前後の基板の重量変化(g)を、基板の表面積(μm)、基板の比重(g/μm)及び研磨時間(分)で除し、算出した。
【0102】
(仕上がり粗さ)
実施例1〜4及び比較例1、2の仕上がり粗さについては、接触式表面粗さ計(株式会社ミツトヨの「S−3000」)を用い、表面及び裏面それぞれ任意の3カ所を測定し、合計6カ所の平均値を求めた。
【0103】
【表1】
【0104】
表1において、基準高さの差の「−」は、領域が1つしかないため、定義されないことを意味する。また、比較例2による研磨では、基板の縁欠け及び割れの不良が発生し、研磨レートの測定を行うことができなかった。
【0105】
表1から、実施例1〜4の研磨パッドは、比較例1、2の研磨パッドに比べガラス基板の研磨において仕上がり粗さが低く、かつ研磨レートの低下が少ない。これに対し、比較例1の研磨パッドは、平均高さの異なる領域が存在しないため、4回目以降の研磨で研磨レートの低下が発生したと考えられる。また、比較例2の研磨パッドは、基準高さの差が100μm以上の105μmであり、乗り越え抵抗が大き過ぎるため、ガラス基板の縁欠けや割れが発生したと考えられる。
【0106】
以上のガラス基板の研磨の結果から、研磨層の平均高さが異なる複数種の領域を有し、隣接する一対の上記領域の基準高さの差が所定範囲内の実施例1〜4の研磨パッドは高い平坦化精度を有し、かつ比較的長期間に渡り研磨レートが低下し難い。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の研磨パッドは、高い平坦化精度を有し、かつ比較的長期間に渡り研磨レートが低下し難い。従って、当該研磨パッドは、ガラス基板をはじめとする平面基板の片面又は両面研磨に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0108】
1、2 研磨パッド
10、11 基材フィルム
20 研磨層
21 砥粒
22 バインダー
23 溝
24 研磨部
30 接着層
40 支持体
41 支持体接着層
X1、X2、X3、X4 領域
【要約】
本発明は、高い平坦化精度を有し、かつ比較的長期間に渡り研磨レートが低下し難い研磨パッドを提供することを目的とする。本発明の研磨パッドは、基材フィルムと、この基材フィルムの表面側に積層され、砥粒及びそのバインダーを含む研磨層とを備える研磨パッドであって、上記研磨層が、その研磨方向に沿って区分され、平均高さが異なる複数種の領域を有し、上記領域毎の研磨層全体の重心からの距離に応じた複数の分割部分における研磨層の最大高さの平均値をその領域の基準高さとするとき、隣接する一対の上記領域の基準高さの差が5μm以上100μm未満である。上記複数種の領域が、基準領域と、この基準領域より研磨層の平均高さが小さい低高さ領域とからなり、研磨方向に沿って交互に配設されているとよい。上記研磨層が、略等密度で配設され、平面視で一定形状の複数の研磨部を有するとよい。
図1A
図1B
図2