特許第6046866号(P6046866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6046866液晶表示素子用シール剤、及び、上下導通材料、及び、液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6046866
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】液晶表示素子用シール剤、及び、上下導通材料、及び、液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1339 20060101AFI20161212BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G02F1/1339 505
   C08F299/02
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-531720(P2016-531720)
(86)(22)【出願日】2016年4月27日
(86)【国際出願番号】JP2016063185
【審査請求日】2016年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-95869(P2015-95869)
(32)【優先日】2015年5月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 秀幸
【審査官】 磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/139736(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/102550(WO,A1)
【文献】 特開2009−058933(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/154138(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/199853(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/132203(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1339
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂と、熱ラジカル重合開始剤とを含有する液晶表示素子用シール剤であって、
前記硬化性樹脂は、1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物と1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物とを含有し、
前記1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物は、エポキシメタアクリレートであり、前記硬化性樹脂全体100重量部中における前記1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量が20重量部以上である
ことを特徴とする液晶表示素子用シール剤。
【請求項2】
硬化性樹脂全体におけるアクリロイル基とメタクリロイル基との合計量に対するメタクリロイル基の比率が5モル%以上であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項3】
硬化性樹脂全体100重量部中における1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量が75重量部以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項4】
硬化性樹脂は、1分子中に1つ以上のエポキシ基と1つの(メタ)アクリロイル基とを有する部分(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項5】
硬化物のガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項6】
遮光剤を含有することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の液晶表示素子用シール剤。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の液晶表示素子用シール剤と導電性微粒子とを含有することを特徴とする上下導通材料。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5若しくは6記載の液晶表示素子用シール剤又は請求項7記載の上下導通材料を有することを特徴とする液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光部硬化性に優れ、高温高湿環境下においても優れた耐湿性及び接着性を有し、液晶表示素子の表示むらの発生を抑制することができる液晶表示素子用シール剤に関する。また、本発明は、該液晶表示素子用シール剤を用いて製造される上下導通材料及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示セル等の液晶表示素子の製造方法は、タクトタイム短縮、使用液晶量の最適化といった観点から、従来の真空注入方式から、例えば、特許文献1、特許文献2に開示されているような光熱併用硬化型のシール剤を用いた滴下工法と呼ばれる液晶滴下方式が主流となっている。
【0003】
滴下工法では、まず、2枚の電極付き透明基板の一方に、ディスペンスにより長方形状のシールパターンを形成する。次いで、シール剤が未硬化の状態で液晶の微小滴を透明基板の枠内全面に滴下し、すぐに他方の透明基板を重ねあわせ、シール部に紫外線等の光を照射して仮硬化を行う。その後、液晶アニール時に加熱して本硬化を行い、液晶表示素子を作製する。基板の貼り合わせを減圧下で行うようにすれば、極めて高い効率で液晶表示素子を製造することができる。
【0004】
ところで、携帯電話、携帯ゲーム機等、各種液晶パネル付きモバイル機器が普及している現代において、装置の小型化は最も求められている課題である。小型化の手法として、液晶表示部の狭額縁化が挙げられ、例えば、シール部の位置をブラックマトリックス下に配置することが行われている(以下、「狭額縁設計」ともいう)。
しかしながら、滴下工法で狭額縁設計の液晶表示素子を製造すると、ブラックマトリックスによりシール部に光の当たらない箇所が存在するため、光硬化系のシール剤を用いた場合、充分に光照射されず硬化が進行しない部分が生じ、硬化途中のシール剤が溶出してしまい、液晶が汚染されることがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−133794号公報
【特許文献2】国際公開第02/092718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、遮光部硬化性に優れ、高温高湿環境下においても優れた耐湿性及び接着性を有し、液晶表示素子の表示むらの発生を抑制することができる液晶表示素子用シール剤を提供することを目的とする。また、本発明は、該液晶表示素子用シール剤を用いて製造される上下導通材料及び液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、硬化性樹脂と、熱ラジカル重合開始剤とを含有する液晶表示素子用シール剤であって、上記硬化性樹脂は、1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物と1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物とを含有する液晶表示素子用シール剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、シール剤に熱ラジカル重合開始剤を配合して速やかに硬化性樹脂を硬化させることにより、硬化途中のシール剤が液晶に溶出することによる液晶汚染を抑制することを検討した。しかしながら、熱ラジカル重合開始剤を用いた場合でも、遮光設計が厳しい場合、遮光部の架橋密度が充分ではなく、高温高湿環境下における耐湿性や接着性が不充分となって、高温高湿環境下で保管した後の液晶表示素子に表示むらが発生することがあるという問題があった。
そこで本発明者は鋭意検討した結果、熱ラジカル重合開始剤を含有するシール剤において、硬化性樹脂として1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物と1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物とを用いることにより、硬化物のガラス転移温度を特定の温度以上になるようにすることができ、遮光部硬化性に優れ、高温高湿環境下においても優れた耐湿性及び接着性を有し、液晶表示素子の表示むらの発生を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、硬化性樹脂を含有する。
上記硬化性樹脂は、1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物と1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物とを含有する。
以下、上記1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物と上記1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物とを併せて、ポリ(メタ)アクリル化合物ともいう。
なお、本明細書において、上記「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0010】
上記ポリ(メタ)アクリル化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸に水酸基を有する化合物を反応させることにより得られる(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸とエポキシ化合物とを反応させることにより得られるエポキシ(メタ)アクリレート、イソシアネート化合物に水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体を反応させることにより得られるウレタン(メタ)アクリレート等であって、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物が挙げられる。
なお、上記「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味し、上記「エポキシ(メタ)アクリレート」とは、エポキシ化合物中の全てのエポキシ基を(メタ)アクリル酸と反応させた化合物を意味し、上記「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
【0011】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物のうち2官能のものとしては、例えば、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、カーボネートジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエーテルジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジオールジ(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0012】
また、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物のうち3官能以上のものとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
上記エポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを、常法に従って塩基性触媒の存在下で反応させることにより得られるもの等が挙げられる。
【0014】
上記エポキシ(メタ)アクリレートを合成するための原料となるエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、2,2’−ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アルキルポリオール型エポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、グリシジルエステル化合物、ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂等が挙げられる。
【0015】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、jER828EL、jER1001、jER1004(いずれも三菱化学社製)、エピクロン850(DIC社製)等が挙げられる。
上記ビスフェノールF型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、jER806、jER4004(いずれも三菱化学社製)等が挙げられる。
上記ビスフェノールS型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンEXA1514(DIC社製)等が挙げられる。
上記2,2’−ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、RE−810NM(日本化薬社製)等が挙げられる。
上記水添ビスフェノール型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンEXA7015(DIC社製)等が挙げられる。
上記プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、EP−4000S(ADEKA社製)等が挙げられる。
上記レゾルシノール型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、EX−201(ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
上記ビフェニル型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、jER YX−4000H(三菱化学社製)等が挙げられる。
上記スルフィド型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、YSLV−50TE(新日鉄住金化学社製)等が挙げられる。
上記ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、YSLV−80DE(新日鉄住金化学社製)等が挙げられる。
上記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、EP−4088S(ADEKA社製)等が挙げられる。
上記ナフタレン型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンHP4032、エピクロンEXA−4700(いずれもDIC社製)等が挙げられる。
上記フェノールノボラック型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンN−770(DIC社製)等が挙げられる。
上記オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンN−670−EXP−S(DIC社製)等が挙げられる。
上記ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンHP7200(DIC社製)等が挙げられる。
上記ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、NC−3000P(日本化薬社製)等が挙げられる。
上記ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、ESN−165S(新日鉄住金化学社製)等が挙げられる。
上記グリシジルアミン型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、jER630(三菱化学社製)、エピクロン430(DIC社製)、TETRAD−X(三菱ガス化学社製)等が挙げられる。
上記アルキルポリオール型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、ZX−1542(新日鉄住金化学社製)、エピクロン726(DIC社製)、エポライト80MFA(共栄社化学社製)、デナコールEX−611(ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
上記ゴム変性型エポキシ樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、YR−450、YR−207(いずれも新日鉄住金化学社製)、エポリードPB(ダイセル社製)等が挙げられる。
上記グリシジルエステル化合物のうち市販されているものとしては、例えば、デナコールEX−147(ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
上記ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、jER YL−7000(三菱化学社製)等が挙げられる。
上記エポキシ化合物のうちその他に市販されているものとしては、例えば、YDC−1312、YSLV−80XY、YSLV−90CR(いずれも新日鉄住金化学社製)、XAC4151(旭化成社製)、jER1031、jER1032(いずれも三菱化学社製)、EXA−7120(DIC社製)、TEPIC(日産化学社製)等が挙げられる。
【0016】
上記エポキシ(メタ)アクリレートのうち市販されているものとしては、例えば、EBECRYL860、EBECRYL3200、EBECRYL3201、EBECRYL3412、EBECRYL3600、EBECRYL3700、EBECRYL3701、EBECRYL3702、EBECRYL3703、EBECRYL3800、EBECRYL6040、EBECRYL RDX63182(いずれもダイセル・オルネクス社製)、EA−1010、EA−1020、EA−5323、EA−5520、EA−CHD、EMA−1020(いずれも新中村化学工業社製)、エポキシエステルM−600A、エポキシエステル40EM、エポキシエステル70PA、エポキシエステル200PA、エポキシエステル80MFA、エポキシエステル3002M、エポキシエステル3002A、エポキシエステル1600A、エポキシエステル3000M、エポキシエステル3000A、エポキシエステル200EA、エポキシエステル400EA(いずれも共栄社化学社製)、デナコールアクリレートDA−141、デナコールアクリレートDA−314、デナコールアクリレートDA−911(いずれもナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
【0017】
上記ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、2つのイソシアネート基を有するイソシアネート化合物1当量に対して水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体2当量を、触媒量のスズ系化合物存在下で反応させることによって得ることができる。
【0018】
上記ウレタン(メタ)アクリレートの原料となるイソシアネート化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、水添MDI、ポリメリックMDI、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート等が挙げられる。
【0019】
また、上記イソシアネート化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、トリメチロールプロパン、カーボネートジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール等のポリオールと過剰のイソシアネート化合物との反応により得られる鎖延長されたイソシアネート化合物も使用することができる。
【0020】
上記ウレタン(メタ)アクリレートの原料となる、水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコール等の二価のアルコールのモノ(メタ)アクリレートや、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン等の三価のアルコールのモノ(メタ)アクリレート又はジ(メタ)アクリレートや、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
上記ウレタン(メタ)アクリレートのうち市販されているものとしては、例えば、M−1100、M−1200、M−1210、M−1600(いずれも東亞合成社製)、EBECRYL230、EBECRYL270、EBECRYL4858、EBECRYL8402、EBECRYL8804、EBECRYL8803、EBECRYL8807、EBECRYL9260、EBECRYL1290、EBECRYL5129、EBECRYL4842、EBECRYL210、EBECRYL4827、EBECRYL6700、EBECRYL220、EBECRYL2220(いずれもダイセル・オルネクス社製)、アートレジンUN−9000H、アートレジンUN−9000A、アートレジンUN−7100、アートレジンUN−1255、アートレジンUN−330、アートレジンUN−3320HB、アートレジンUN−1200TPK、アートレジンSH−500B(いずれも根上工業社製)、U−2HA、U−2PHA、U−3HA、U−4HA、U−6H、U−6LPA、U−6HA、U−10H、U−15HA、U−122A、U−122P、U−108、U−108A、U−324A、U−340A、U−340P、U−1084A、U−2061BA、UA−340P、UA−4100、UA−4000、UA−4200、UA−4400、UA−5201P、UA−7100、UA−7200、UA−W2A(いずれも新中村化学工業社製)、AI−600、AH−600、AT−600、UA−101I、UA−101T、UA−306H、UA−306I、UA−306T(いずれも共栄社化学社製)等が挙げられる。
【0022】
上記ポリ(メタ)アクリル化合物は、液晶への悪影響を抑える点で、−OH基、−NH−基、−NH基等の水素結合性のユニットを有するものが好ましい。
【0023】
上記硬化性樹脂は、ポリ(メタ)アクリル化合物として、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールE型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート、及び、ビスフェノールS型エポキシ(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0024】
上記硬化性樹脂全体におけるアクリロイル基とメタクリロイル基との合計量に対するメタクリロイル基の比率の好ましい下限は5モル%である。上記メタクリロイル基の比率が5モル%以上であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が、高温高湿環境下で保管した後の液晶表示素子の表示むらを抑制する効果により優れるものとなる。上記メタクリロイル基の比率のより好ましい下限は10モル%である。
また、接着性等の観点から、上記メタクリロイル基の比率の好ましい上限は80モル%、より好ましい上限は70モル%である。
【0025】
上記硬化性樹脂全体100重量部中における上記1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量の好ましい下限は5重量部、好ましい上限は70重量部である。上記1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量がこの範囲であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が、優れた接着性を維持しつつ、高温高湿環境下で保管した後の液晶表示素子に表示むらを抑制する効果により優れるものとなる。上記1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量のより好ましい下限は20重量部、より好ましい上限は60重量部である。
【0026】
上記硬化性樹脂全体100重量部中における上記1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量の好ましい下限は1重量部、好ましい上限は75重量部である。上記1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量がこの範囲であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が、優れた接着性を維持しつつ、高温高湿環境下で保管した後の液晶表示素子に表示むらを抑制する効果により優れるものとなる。上記1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は60重量部、更に好ましい下限は20重量部、更に好ましい上限は50重量部である。
【0027】
上記硬化性樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で単官能の(メタ)アクリル化合物を含有してもよい。
また、上記硬化性樹脂は、得られる液晶表示素子用シール剤の接着性を向上させること等を目的として、本発明の目的を阻害しない範囲で、エポキシ化合物を含有してもよい。
上記エポキシ化合物としては、例えば、上記エポキシ(メタ)アクリレートを合成するための原料となるエポキシ化合物や、1分子中に1つ以上のエポキシ基と1つの(メタ)アクリロイル基とを有する部分(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、上記硬化性樹脂は、1分子中に1つ以上のエポキシ基と1つの(メタ)アクリロイル基とを有する部分(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0028】
上記硬化性樹脂として上記エポキシ化合物を含有する場合、上記硬化性樹脂全体におけるアクリロイル基とメタクリロイル基とエポキシ基との合計量に対するエポキシ基の比率の好ましい上限は50モル%である。上記エポキシ基の比率が50モル%以下であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が液晶に溶解することによる液晶汚染を抑制することができ、得られる液晶表示素子が表示性能により優れるものとなる。上記エポキシ基の比率のより好ましい上限は20モル%である。
【0029】
また、上記硬化性樹脂として1分子中に1つ以上のエポキシ基と1つの(メタ)アクリロイル基とを有する部分(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂を含有する場合、上記硬化性樹脂全体100重量部中における上記部分(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の含有量の好ましい下限は3重量部、好ましい上限は50重量部である。上記部分(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂をこの範囲で用いることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が、接着性に優れ、かつ、得られる液晶表示素子の表示むらの発生を抑制する効果に優れるものとなる。上記部分(メタ)アクリル変性エポキシ樹脂の含有量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は40重量部である。
【0030】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、熱ラジカル重合開始剤を含有する。
上記熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物等からなるものが挙げられる。なかでも、高分子アゾ化合物からなる開始剤(以下、「高分子アゾ開始剤」ともいう)が好ましい。
なお、本明細書において高分子アゾ開始剤とは、アゾ基を有し、熱によって(メタ)アクリロイル基等のラジカル重合性基を反応させることができるラジカルを生成する、数平均分子量が300以上の化合物を意味する。
【0031】
上記高分子アゾ開始剤の数平均分子量の好ましい下限は1000、好ましい上限は30万である。上記高分子アゾ開始剤の数平均分子量がこの範囲であることにより、液晶への悪影響を防止しつつ、硬化性樹脂へより容易に混合することができる。上記高分子アゾ開始剤の数平均分子量のより好ましい下限は5000、より好ましい上限は10万であり、更に好ましい下限は1万、更に好ましい上限は9万である。
なお、本明細書において、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリスチレン換算により求められる値である。GPCによってポリスチレン換算による数平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex LF−804(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0032】
上記高分子アゾ開始剤としては、例えば、アゾ基を介してポリアルキレンオキサイドやポリジメチルシロキサン等のユニットが複数結合した構造を有するものが挙げられる。
上記アゾ基を介してポリアルキレンオキサイド等のユニットが複数結合した構造を有する高分子アゾ開始剤としては、ポリエチレンオキサイド構造を有するものが好ましい。このような高分子アゾ開始剤としては、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)とポリアルキレングリコールの重縮合物や、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)と末端アミノ基を有するポリジメチルシロキサンの重縮合物等が挙げられ、具体的には例えば、VPE−0201、VPE−0401、VPE−0601、VPS−0501、VPS−1001(いずれも和光純薬工業社製)等が挙げられる。
また、高分子ではないアゾ化合物の例としてはV−65、V−501(いずれも和光純薬工業社製)等が挙げられる。
【0033】
上記有機過酸化物としては、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0034】
上記熱ラジカル重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂100重量部に対して、好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が10重量部である。上記熱ラジカル重合開始剤の含有量がこの範囲であることにより、未反応の熱ラジカル重合開始剤による液晶汚染を抑制しつつ、得られる液晶表示素子用シール剤が熱硬化性により優れるものとなる。上記熱ラジカル重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0035】
本発明の液晶表示素子用シール剤における上記熱ラジカル重合開始剤の含有量は、上記硬化性樹脂100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記熱ラジカル重合開始剤の含有量が0.1重量部以上であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が熱硬化性により優れるものとなる。上記熱ラジカル重合開始剤の含有量が10重量部以下であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤の粘度が高くなりすぎず、塗布性等により優れるものとなる。上記熱ラジカル重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.15重量部、より好ましい上限は8重量部である。
【0036】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、上記熱ラジカル重合開始剤に加えて、光ラジカル重合開始剤を含有してもよい。
上記光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジル、チオキサントン等が挙げられる。
【0037】
上記光ラジカル重合開始剤のうち市販されているものとしては、例えば、IRGACURE 184、IRGACURE 369、IRGACURE 379、IRGACURE 651、IRGACURE 819、IRGACURE 907、IRGACURE 2959、IRGACURE OXE01、ルシリンTPO(いずれもBASF社製)、ベンソインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル(いずれも東京化成工業社製)等が挙げられる。
【0038】
上記光ラジカル重合開始剤の含有量は、上記硬化性樹脂100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記光ラジカル重合開始剤の含有量が0.1重量部以上であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が光硬化性により優れるものとなる。上記光ラジカル重合開始剤の含有量が10重量部以下であることにより、未反応の光ラジカル重合開始剤が多く残ることなく、得られる液晶表示素子用シール剤が耐候性により優れるものとなる。上記光ラジカル重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.2重量部、より好ましい上限は8重量部である。
【0039】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、熱硬化剤を含有してもよい。
上記熱硬化剤としては、例えば、有機酸ヒドラジド、イミダゾール誘導体、アミン化合物、多価フェノール系化合物、酸無水物等が挙げられる。なかでも、固形の有機酸ヒドラジドが好適に用いられる。
【0040】
上記固形の有機酸ヒドラジドとしては、例えば、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル−5−イソプロピルヒダントイン)、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド等が挙げられ、市販されているものとしては、例えば、アミキュアVDH、アミキュアUDH(いずれも味の素ファインテクノ社製)、SDH、IDH、ADH(いずれも大塚化学社製)、MDH(日本ファインケム社製)等が挙げられる。
【0041】
上記熱硬化剤の含有量は、上記硬化性樹脂100重量部に対して、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が50重量部である。上記熱硬化剤の含有量が1重量部以上であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が熱硬化性により優れるものとなる。上記熱硬化剤の含有量が50重量部以下であることにより、得られるシール剤の粘度が高くなりすぎず、塗布性により優れるものとなる。上記熱硬化剤の含有量のより好ましい上限は30重量部である。
【0042】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、粘度の向上、応力分散効果による接着性の改善、線膨張率の改善、硬化物の耐湿性の更なる向上等を目的として充填剤を含有してもよい。
【0043】
上記充填剤としては、例えば、タルク、石綿、シリカ、珪藻土、スメクタイト、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、モンモリロナイト、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、窒化珪素、硫酸バリウム、石膏、珪酸カルシウム、セリサイト、活性白土、窒化アルミニウム等の無機充填剤や、ポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、ビニル重合体微粒子、アクリル重合体微粒子、コアシェルアクリレート共重合体微粒子等の有機充填剤等が挙げられる。これらの充填剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明の液晶表示素子用シール剤100重量部中における上記充填剤の含有量の好ましい下限は10重量部、好ましい上限は70重量部である。上記充填剤の含有量がこの範囲であることにより、塗布性等の悪化を抑制しつつ、接着性の向上等の効果をより優れるものとなる。上記充填剤の含有量のより好ましい下限は20重量部、より好ましい上限は60重量部である。
【0045】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。上記シランカップリング剤は、主にシール剤と基板等とを良好に接着するための接着助剤としての役割を有する。
上記シランカップリング剤としては、基板等との接着性を向上させる効果に優れ、硬化性樹脂と化学結合することにより液晶中への硬化性樹脂の流出を抑制することができることから、例えば、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が好適に用いられる。これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本発明の液晶表示素子用シール剤100重量部中における上記シランカップリング剤の含有量の好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は20重量部である。上記シランカップリング剤の含有量がこの範囲であることにより、液晶汚染の発生を抑制しつつ、接着性を向上させる効果により優れるものとなる。上記シランカップリング剤の含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は10重量部である。
【0047】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、遮光剤を含有してもよい。上記遮光剤を含有することにより、本発明の液晶表示素子用シール剤は、遮光シール剤として好適に用いることができる。
【0048】
上記遮光剤としては、例えば、酸化鉄、チタンブラック、アニリンブラック、シアニンブラック、フラーレン、カーボンブラック、樹脂被覆型カーボンブラック等が挙げられる。なかでも、チタンブラックが好ましい。
【0049】
上記チタンブラックは、波長300〜800nmの光に対する平均透過率と比較して、紫外線領域付近、特に波長370〜450nmの光に対する透過率が高くなる物質である。即ち、上記チタンブラックは、可視光領域の波長の光を充分に遮蔽することで本発明の液晶表示素子用シール剤に遮光性を付与する一方、紫外線領域付近の波長の光は透過させる性質を有する遮光剤である。従って、上記光ラジカル重合開始剤として、上記チタンブラックの透過率の高くなる波長(370〜450nm)の光によって反応を開始可能なものを用いることで、本発明の液晶表示素子用シール剤の光硬化性をより増大させることができる。また一方で、本発明の液晶表示素子用シール剤に含有される遮光剤としては、絶縁性の高い物質が好ましく、絶縁性の高い遮光剤としてもチタンブラックが好適である。
上記チタンブラックは、1μmあたりの光学濃度(OD値)が、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。上記チタンブラックの遮光性は高ければ高いほどよく、上記チタンブラックのOD値に好ましい上限は特にないが、通常は5以下となる。
【0050】
上記チタンブラックは、表面処理されていないものでも充分な効果を発揮するが、表面がカップリング剤等の有機成分で処理されているものや、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム等の無機成分で被覆されているもの等、表面処理されたチタンブラックを用いることもできる。なかでも、有機成分で処理されているものは、より絶縁性を向上できる点で好ましい。
また、遮光剤として上記チタンブラックを配合した本発明の液晶表示素子用シール剤を用いて製造した液晶表示素子は、充分な遮光性を有するため、光の漏れ出しがなく高いコントラストを有し、優れた画像表示品質を有する液晶表示素子を実現することができる。
【0051】
上記チタンブラックのうち市販されているものとしては、例えば、12S、13M、13M−C、13R−N(いずれも三菱マテリアル社製)、ティラックD(赤穂化成社製)等が挙げられる。
【0052】
上記チタンブラックの比表面積の好ましい下限は13m/g、好ましい上限は30m/gであり、より好ましい下限は15m/g、より好ましい上限は25m/gである。
また、上記チタンブラックの体積抵抗の好ましい下限は0.5Ω・cm、好ましい上限は3Ω・cmであり、より好ましい下限は1Ω・cm、より好ましい上限は2.5Ω・cmである。
【0053】
上記遮光剤の一次粒子径は、液晶表示素子の基板間の距離以下であれば特に限定されないが、好ましい下限は1nm、好ましい上限は5μmである。上記遮光剤の一次粒子径がこの範囲であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤の塗布性等を悪化させることなく遮光性により優れるものとすることができる。上記遮光剤の一次粒子径のより好ましい下限は5nm、より好ましい上限は200nm、更に好ましい下限は10nm、更に好ましい上限は100nmである。
なお、上記遮光剤の一次粒子径は、NICOMP 380ZLS(PARTICLE SIZING SYSTEMS社製)を用いて、上記遮光剤を溶媒(水、有機溶媒等)に分散させて測定することができる。
【0054】
本発明の液晶表示素子用シール剤100重量部中における上記遮光剤の含有量の好ましい下限は5重量部、好ましい上限は80重量部である。上記遮光剤の含有量が5重量部以上であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が遮光性により優れるものとなる。上記遮光剤の含有量が80重量部以下であることにより、得られる液晶表示素子用シール剤が、基板に対する密着性、硬化後の強度、及び、描画性により優れるものとなる。上記遮光剤の含有量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は70重量部であり、更に好ましい下限は30重量部、更に好ましい上限は60重量部である。
【0055】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、更に、必要に応じて、粘度調整の為の反応性希釈剤、パネルギャップ調整の為のポリマービーズ等のスペーサー、3−P−クロロフェニル−1,1−ジメチル尿素、イソシアヌルカルボン酸等の硬化促進剤、消泡剤、レベリング剤、重合禁止剤、その他のカップリング剤等の添加剤を含有してもよい。
【0056】
本発明の液晶表示素子用シール剤を製造する方法としては、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて、硬化性樹脂と、熱ラジカル重合開始剤と、必要に応じて添加するシランカップリング剤等の添加剤とを混合する方法等が挙げられる。
【0057】
本発明の液晶表示素子用シール剤は、硬化物のガラス転移温度の好ましい下限が100℃である。上記硬化物のガラス転移温度が100℃以上であることにより、高温高湿環境下で保管した後の液晶表示素子の表示むらを抑制する効果により優れるものとなる。上記硬化物のガラス転移温度のより好ましい下限は110℃である。
また、接着性の観点から、上記硬化物のガラス転移温度の好ましい上限は130℃、より好ましい上限は120℃である。
なお、本明細書において上記「ガラス転移温度」とは、動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大のうち、ミクロブラウン運動に起因する極大が現れる温度を意味し、粘弾性測定装置等を用いた従来公知の方法により測定することができる。また、上記ガラス転移温度を測定する硬化物は、液晶表示素子用シール剤を加熱により硬化させる場合は、120℃で1時間加熱することにより得ることができ、光照射により硬化させる場合は、100mW/cmの紫外線を30秒照射することにより得ることができる。
【0058】
本発明の液晶表示素子用シール剤に導電性微粒子を配合することにより、上下導通材料を製造することができる。このような本発明の液晶表示素子用シール剤と導電性微粒子とを含有する上下導通材料もまた、本発明の1つである。
【0059】
上記導電性微粒子としては、例えば、金属ボール、樹脂微粒子の表面に導電金属層を形成したもの等を用いることができる。なかでも、樹脂微粒子の表面に導電金属層を形成したものは、樹脂微粒子の優れた弾性により、透明基板等を損傷することなく導電接続が可能であることから好適である。
【0060】
本発明の液晶表示素子用シール剤又は本発明の上下導通材料を用いてなる液晶表示素子もまた、本発明の1つである。
本発明の液晶表示素子を製造する方法としては、液晶滴下工法が好適に用いられ、具体的には例えば、ITO薄膜等の電極を有する2枚の透明基板の一方に、本発明の液晶表示素子用シール剤をスクリーン印刷、ディスペンサー塗布等により枠状のシールパターンを形成する工程、液晶の微小滴をシールパターンの枠内全面に滴下塗布し、真空下で他方の基板を重ね合わせる工程、及び、加熱してシール剤を硬化させる工程を有する方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、遮光部硬化性に優れ、高温高湿環境下においても優れた耐湿性及び接着性を有し、液晶表示素子の表示むらの発生を抑制することができる液晶表示素子用シール剤を提供することができる。また、本発明によれば、該液晶表示素子用シール剤を用いて製造される上下導通材料及び液晶表示素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0063】
(実施例1〜12、比較例1〜4)
表1、2に記載された配合比に従い、各材料を、遊星式撹拌装置(シンキー社製、「あわとり練太郎」)にて撹拌した後、セラミック3本ロールにて均一に混合して実施例1〜12、比較例1〜4の液晶表示素子用シール剤を得た。
【0064】
<評価>
実施例及び比較例で得られた各液晶表示素子用シール剤について以下の評価を行った。結果を表1、2に示した。
【0065】
(1)ガラス転移温度
実施例1〜12及び比較例1〜3で得られた各液晶表示素子用シール剤を120℃で1時間加熱してシール剤を完全に硬化させ、厚さ300μmのフィルムを作製し、試験片とした。比較例4で得られた液晶表示素子用シール剤については、120℃で1時間加熱する代わりに、メタルハライドランプを用いて100mW/cmの紫外線を30秒照射することによって試験片を得た。得られた試験片について、動的粘弾性測定装置(IT計測制御社製、「DVA−200」)を用いて、−80〜200℃、10Hzにおいて動的粘弾性を測定し、損失正接(tanδ)の極大値の温度をガラス転移温度として求めた。
【0066】
(2)接着性(初期接着性及び高温高湿試験後接着性)
実施例及び比較例で得られた各液晶表示素子用シール剤に、シリカスペーサー(積水化学工業社製、「SI−H055」)を1重量%配合し、2枚のITO膜付きアルカリガラス試験片(30×40mm)のうち一方に微小滴下し、これにもう一方のガラス試験片を十字状に張り合わせた。実施例1〜12及び比較例1〜3で得られた各液晶表示素子用シール剤については、次いで、120℃で1時間加熱することによって接着試験片を得た。比較例4で得られた液晶表示素子用シール剤については、120℃で1時間加熱する代わりに、メタルハライドランプを用いて100mW/cmの紫外線を30秒照射することによって接着試験片を得た。得られた接着試験片の上下にチャックを配して引っ張り試験(5mm/sec)を行った。
また、同様にして作製した接着試験片について、121℃、100%RH、2気圧の環境下に48時間放置した後、引っ張り試験(5mm/sec)を行った。
得られた測定値(kgf)をシール塗布断面積(cm)で除した値が290kgf/cm以上であった場合を「◎」、270kgf/cm以上290kgf/cm未満であった場合を「○」、250kgf/cm以上270kgf/cm未満であった場合を「△」、250kgf/cm未満であった場合を「×」として初期接着性及び高温高湿試験後接着性を評価した。
【0067】
(3)遮光部硬化性
厚さ0.7mmのコーニングガラスの半面をクロム蒸着した基板(A)と、前面をクロム蒸着した基板(B)とを別途準備した。次に、実施例及び比較例で得られた各液晶表示素子用シール剤100重量部にスペーサ微粒子(積水化学工業社製、「ミクロパールSI−H050」、5μm)1重量部を分散させ、該シール剤を基板Aの中央部(クロム蒸着部と非蒸着部との境界)に塗布し、基板Bを貼り合わせてからシール剤を充分に押し潰した。実施例1〜12及び比較例1〜3で得られた各液晶表示素子用シール剤については、次いで、120℃で1時間加熱してシール剤を硬化させた。比較例4で得られた液晶表示素子用シール剤については、120℃で1時間加熱する代わりに、基板A側からメタルハライドランプを用いて100mW/cmの紫外線を30秒照射してシール剤を硬化させた。
その後、カッターを用いて基板A及びBを剥がし、基板Aのクロム蒸着部と非蒸着部との境界からクロム蒸着部側へ50μm離れた位置にあったシール剤について顕微IR法によってスペクトルを測定し、シール剤中の(メタ)アクリロイル基の転化率を以下の方法により求めた。即ち、815〜800cm−1のピーク面積を(メタ)アクリロイル基のピーク面積とし、845〜820cm−1のピーク面積をリファレンスピーク面積として、下記式により(メタ)アクリロイル基の転化率を算出し、(メタ)アクリロイル基の転化率が95%以上であったものを「○」、90%以上95%未満であったものを「△」、90%未満であったものを「×」として遮光部硬化性を評価した。
(メタ)アクリロイル基の転化率(%)=(1−(シール剤硬化後の(メタ)アクリロイル基のピーク面積/シール剤硬化後のリファレンスピーク面積)/(シール剤硬化前の(メタ)アクリロイル基のピーク面積/シール剤硬化前のリファレンスピーク面積))×100
【0068】
(4)液晶表示素子の表示性能(作製直後、及び、高温高湿環境下で保管した後に駆動した液晶表示素子の色むら評価)
実施例及び比較例で得られた各液晶表示素子用シール剤をディスペンス用のシリンジ(武蔵エンジニアリング社製、「PSY−10E」)に充填し、脱泡処理を行った。次いで、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング社製、「SHOTMASTER300」)を用いて、2枚のITO薄膜付きの透明電極基板のうちの一方に長方形の枠を描く様にシール剤を塗布した。続いて、TN液晶(チッソ社製、「JC−5001LA」)の微小滴を液晶滴下装置にて滴下塗布し、他方の透明基板を、真空張り合わせ装置にて5Paの減圧下にて貼り合わせ、セルを形成した。実施例1〜12及び比較例1〜3で得られた各液晶表示素子用シール剤については、得られたセルを120℃で1時間加熱することによってシール剤を硬化させ、液晶表示素子を作製した。比較例4で得られた液晶表示素子用シール剤については、得られたセルを120℃で1時間加熱する代わりに、メタルハライドランプを用いて100mW/cmの紫外線を30秒照射することによってシール剤を硬化させ、液晶表示素子を作製した。得られた液晶表示素子について、作製直後、及び、温度80℃湿度90%RHの環境下にて36時間保管した後に、AC3.5Vの電圧駆動をさせ、目視で観察した。液晶表示素子の周辺部に表示むら(色むら)が全く見られなかった場合を「◎」、周辺部に少し薄い表示むらが見えた場合を「○」、周辺部にはっきりとした濃い表示むらがあった場合を「△」、はっきりとした濃い表示むらが周辺部のみではなく、中央部まで広がっていた場合を「×」として液晶表示素子の表示性能を評価した。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、遮光部硬化性に優れ、高温高湿環境下においても優れた耐湿性及び接着性を有し、液晶表示素子の表示むらの発生を抑制することができる液晶表示素子用シール剤を提供することができる。また、本発明によれば、該液晶表示素子用シール剤を用いて製造される上下導通材料及び液晶表示素子を提供することができる。
【要約】
本発明は、遮光部硬化性に優れ、高温高湿環境下においても優れた耐湿性及び接着性を有し、液晶表示素子の表示むらの発生を抑制することができる液晶表示素子用シール剤を提供する。また、該液晶表示素子用シール剤を用いて製造される上下導通材料及び液晶表示素子を提供することを目的とする。
本発明は、硬化性樹脂と、熱ラジカル重合開始剤とを含有する液晶表示素子用シール剤であって、前記硬化性樹脂は、1分子中にアクリロイル基を2つ以上有する化合物と1分子中にメタクリロイル基を2つ以上有する化合物とを含有する液晶表示素子用シール剤である。