(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046901
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】植物生体用接着剤及びその製造方法、並びにそれを用いた植物の繁殖方法
(51)【国際特許分類】
A01G 1/06 20060101AFI20161212BHJP
A01N 43/38 20060101ALI20161212BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
A01G1/06 B
A01G1/06 Z
A01N43/38
A01P21/00
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-62660(P2012-62660)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-192496(P2013-192496A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】511197729
【氏名又は名称】有限会社 シリーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】椛澤 博
(72)【発明者】
【氏名】藤極 広
(72)【発明者】
【氏名】椛澤 理沙
【審査官】
本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−273517(JP,A)
【文献】
特開平03−179069(JP,A)
【文献】
米国特許第03574970(US,A)
【文献】
特開平10−155360(JP,A)
【文献】
実開昭59−006454(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/06
A01N 43/38
A01P 21/00
C09J 1/00−5/10;9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒟蒻粉末と、
大豆、ひよこ豆、いんげん、ささげ、小豆の中から選択された少なくとも1種の煮豆か
らなる混合物と、
納豆菌と、
を加えた混合物を発酵させた第1基材;及び
蒟蒻粉末と、
銀杏、スイセン属、チョウセンアサガオ属、ヒガンバナ属、アジサイ属、じゃがいもの中から選択されたアルカロイド類が含入する少なくとも1種、またはそれらの混合物と、
納豆菌と、
フェノール化合物と、
煮大豆と、
水と、
グルタチオンと、
を加えた混合物である第2基材;
の混合発酵物から成る植物生体用接着剤。
【請求項2】
さらに、植物成長ホルモン、植物成長調整剤、及び植物組織活性促進物質のうちの少なくとも1種が含有されており、また、この植物成長調整剤はインドール冠を有する分子式が「C9H9NO2」の化合物が含まれ、または、植物成長調整剤はインドール系生合成中間体が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の植物生体用接着剤。
【請求項3】
蒟蒻粉末30重量部と、大豆、ひよこ豆、いんげん、ささげ、小豆の中から選択された少なくとも1種の煮豆からなる混合物50重量部に微量の枯草菌類の納豆菌を加えた混合物(第1基材)を温度40〜45℃で、10〜22時間発酵させて一次発酵物を得る一次発酵工程と、
銀杏、スイセン属、チョウセンアサガオ属、ヒガンバナ属、アジサイ属、じゃがいもの中から選択されたアルカロイド類が含入する少なくとも1種、またはそれらの混合物50重量部に、微量の納豆菌と、50%濃度のフェノール化合物10〜20重量部と、蒟蒻粉末30重量部と、煮大豆50重量部と、水30重量部と、グルタチオン1重量部とを加え、加圧容器を用いて100〜130℃で約20分煮込まれた混合物(第2基材)を、前記一次発酵物に加え、さらに温度43〜50℃で、20〜30時間発酵させた二次発酵工程と、
前記二次発酵で得られた発酵物に更に水30〜40重量部を加え、さらに温度35〜45℃で、10〜15時間発酵させた三次発酵工程と、
前記三次発酵工程で得られた最終発酵物をアルコールの濃度が40〜60v/v%の水溶液で抽出する工程と、から成る植物生体用接着剤の製造方法。
【請求項4】
第1基材の一次発酵工程においては、重炭酸ソーダが事前に1〜4重量部混入され、また、
前記三次発酵工程で得られた最終発酵物を、エタノールまたは、メタノールから少なくとも1種選択されたアルコールとイソプロピルアルコールとを混合してなるアルコールの濃度が40〜60v/v%の水溶液で抽出し、
その抽出された液体を約90℃で30〜60分間密閉加熱し、
水素イオン濃度pHが5〜6.5になるように酢酸水溶液または、硫酸水溶液で調整し、
開放容器中で24〜48時間常温熟成し、この常温熟成した後の粘度が30〜90cPである、
ことを特徴とする請求項3に記載の植物生体用接着剤の製造方法。
【請求項5】
三次発酵工程で加えられる水には、コルヒチン1重量部が添加されていることを特徴とする請求項4に記載の植物生体用接着剤の製造方法。
【請求項6】
植物を芽接ぎによって繁殖させる方法であって、
芽接ぎの基部となる台木の茎枝部位の外周において、樹皮を形成層付近まで表皮側から中心部に向けて層状になるように上側から下側へ向けて舌状に複数枚カットし、
前記複数枚のカットによりできた削ぎ部の上下方向中間部分において、台木に、表皮側から中心部に向けて略水平方向に樹皮に切り込みして、形成層よりも表皮側の樹皮部分を切除し、
切り込みにより表れた切断口の、中心側の削ぎ部において、樹皮を圧開し、
前記圧開された削ぎ部に、請求項1に記載の植物生体用接着剤を注入又は塗布し、
前記圧開され且つ前記植物生体用接着剤を注入又は塗布された削ぎ部に、他から新規に移植される穂木芽を挿入・装着し、挿入・装着後に養生テープで固定し、さらに、
前記台木の外周において、前記芽接ぎ部位の上下方向に所定間隔をあけて表皮側から中心部に向けて略水平方向に円周角90〜120度延びる切れ込みを形成する、
ことを特徴とする植物の繁殖方法。
【請求項7】
植物を芽接ぎによって繁殖させる方法であって、
芽接ぎの基部となる台木の茎枝部位のうち、上記芽接ぎをしようとする部位の上側及び下側方向に所定間隔をあけた位置に、表皮側から中心部に向けて略水平方向に延びる切れ込みを形成し、
上側切れ込みから下側切れ込みにかけて樹皮を形成層付近まで、長方形で縦長のスリット状にカットして切り口部を形成し、
切り口部の左右両側の樹皮を、台木の本体から剥ぎ離して樹皮めくれ部を形成し、
切り口部に、請求項1に記載の植物生体用接着剤を塗布し、
前記植物生体用接着剤を塗布された切り口部に、他から新規に移植される穂木芽を装着し、
前記樹皮めくれ部を、穂木芽を包むようにして元に戻し、装着跡の穂木芽を装着後に養生テープで固定し、
さらに、
台木の外周において、上記芽接ぎ部位の上側及び下側方向に所定間隔をあけた位置に、表皮側から中心部に向けて略水平方向に円周角90〜120度延びる切れ込みを形成する、
ことを特徴とする植物の繁殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の部位である芽または、枝を同種の台木へ部位を移植して、成長させるための植物生体用接着剤及びその製造方法、並びにその植物生体用接着剤を用いた植物の繁殖方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、同一種の植物の繁殖方法として、実生、接ぎ木、芽接ぎ、挿し木による方法が一般的であった。これらの植物の繁殖方法に関連する先行技術としては、例えば下記先行技術文献に記載されたものがある。従来からの方法で植物の繁殖を行うと、実生は、雑種となる確率が非常に高くまた、先祖帰りしてしまうこともあり、また生育に時間が掛かるといった状況が生じ易い。
【0003】
また、不稔性の品種の繁殖は、接ぎ木、芽接ぎ、挿し木の方法から選択されてきた。その中で、接ぎ木は台木と穂木の発育状態により作業時期の制約が有り、一般的には、冬期に行う植物品種と春芽吹き前に行う植物品種と秋接ぎ木の10月頃行われる植物品種等がある。時には接ぎ枝の癒合が遅れて冬の寒さに耐えることが出来ない冬期には、接ぎ木する植物を温めるなどの加温を行う必要があり、一般の接ぎ木方法は植物の種類によりシーズンが固定化される。挿し木も同じである。つまりこれらの繁殖方法にはある程度のリスクが伴い、繁殖成功率は40〜70%前後である。また植物の芽接ぎの場合、特にバラ科植物の芽接ぎは、殆どが芽のある部分に新規穂木芽が接がれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−14397号公報
【特許文献2】特開平8−317728号公報
【特許文献3】特開2005−2054号公報
【特許文献4】特許第2998736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、同一種の繁殖方法として、実生、接ぎ木、芽接ぎによる方法が一般的であったが、接ぎ木は、台木と穂木の発育状態により作業時期の制約が有り一般的には、春になる前の冬期に行う植物品種と秋接ぎ木の10月頃行われる植物品種があり、接ぎ枝の癒合が遅れて冬の寒さに耐えることが出来ない場合冬期に加温が必要となる。通常の接ぎ木は植物の品種によりシーズンが固定化されてきた。
【0006】
また、バラ科の芽接ぎは、殆どが芽のある部分に新規穂木芽の部位が接がれていた。また、鉢植えなど植物の形状美観が要求される観賞用の花木類は、生育中に剪定など美観を整え、商品価値を高めることが課題で、枝折れ、病害虫の影響で枝を切り落としすることがあり美観に影響が出て商品価値が下がってしまうという問題点もあった。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、芽接ぎ、接ぎ木による植物の繁殖、成長に寄与し、接ぎ木等の部位組織を確実に癒合・癒着させる安価な植物生体用接着剤及びその製造方法、並びにその植物生体用接着剤を用いた植物の繁殖方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、蒟蒻粉
末と、大豆、ひよこ豆、いんげん、ささげ、小豆の中から選択された少なくとも1種の煮豆からなる混合物と、納豆
菌と、を加えた混合物である第1基材;及び、蒟蒻粉
末と、銀杏、スイセン属、チョウセンアサガオ属、ヒガンバナ属、アジサイ属、じゃがいもの中から選択されたアルカロイド類が含入する少なくとも1種、またはそれらの混合物と、納豆
菌と、フェノール化合
物と、煮大豆と、水と、グルタチオンと、を加えた混合物である第2基材
;の混合発酵物から成る植物生体用接着剤を実現する。
【0009】
また本発明は、蒟蒻粉
末30重量部と、大豆、ひよこ豆、いんげん、ささげ、小豆の中から選択された少なくとも1種の煮豆からなる混合物50重量部に微量の枯草菌類の納豆
菌を加えた混合物(第1基材)を温度40〜45℃で、10〜22時間発酵させ
て一次発酵物を得る一次発酵工程と、銀杏、スイセン属、チョウセンアサガオ属、ヒガンバナ属、アジサイ属、じゃがいもの中から選択されたアルカロイド類が含入する少なくとも1種、またはそれらの混合物50重量部に、微量の納豆
菌と、50%濃度のフェノール化合
物10〜20重量部と、蒟蒻粉
末30重量部と、煮大豆50重量部と、水30重量部と、グルタチオン1重量部とを加え、加圧容器を用いて100〜130℃で約20分煮込まれた混合物(第2基材)を、前記一次発酵物に加え、さらに温度43〜50℃で、20〜30時間発酵させた二次発酵工程と、前記二次発酵で得られた発酵物に更に水30〜40重量部を加え、さらに温度35〜45℃で、10〜15時間発酵させた三次発酵工程と、
前記三次発酵工程で得られた最終発酵物をアルコールの濃度が40〜60v/v%の水溶液で抽出する工程と、から成る植物生体用接着剤の製造方法を実現する。
【0010】
さらに本発明は、植物の芽接ぎをするに当たり、芽接ぎの基部となる台木の茎枝部位の外周において、樹皮(表皮)を形成層付近まで表皮側から中心部に向けて層状になるように上側から下側へ向けて舌状に複数枚カット(多重切り)し、前記複数枚のカット部の上下方向中間部分において、台木に、表皮側から中心部に向けて略水平方向に樹皮に切り込みして、形成層よりも表皮側の樹皮部分を切除し、切り込みにより表れた切断口の、中心側のカット部において、樹皮を圧開し、前記圧開されたカット部に、請求項1に記載の植物生体用接着剤を注入又は塗布し、前記圧開され且つ前記植物生体用接着剤を注入又は塗布されたカット部に、他から新規に移植される穂木芽を挿入・装着し、挿入・装着後に養生テープで固定し、さらに、前記台木の外周において、前記芽接ぎ部位の上下方向に所定間隔をあけて表皮側から中心部に向けて略水平方向に延びる切れ込みを形成する、ことを特徴とする植物の繁殖方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の芽接ぎ、接ぎ木による植物の繁殖、成長に寄与する接着剤とその使用方法に関するものであり、確実に部位組織を癒合・癒着させる安価な接着剤の製造方法と樹木への部位移植方法である。
【0012】
接ぎ木は台木と穂木の発育状態により作業時期の制約があったが、本接着剤と樹木への部位移植方法の接ぎ木、芽接ぎにより失敗なく、作業シーズンを問わない(但し、気温は10〜30℃が好ましい) 芽接ぎ、接ぎ木による部位移植方法であって、また本接着剤を使用した新規芽接ぎ、接ぎ木の方法であり、仮に植物の休眠状態が続いても移植された部位の植物組織が壊死化する事が殆どない。
【0013】
また、この方法によれば一般的な芽接ぎまたは接ぎ木の組織癒合不良による失敗から枝枯れ、台木枯れによる無駄な損害が低減できる。また、接着剤に含まれるフェノール系の成分などにより細菌、カビ、一部のウイルス、病害虫などの被害が低減され、芽接ぎ、接ぎ木の作業中のナイフや鉈などは特別な消毒をしなくても問題にならない。
【0014】
また、本接着剤は芽接ぎ及び接ぎ木の台木の接ぎ部の切り口に直接塗布される為に、特に芽接ぎにおいてその接着剤の成分が他の枝・茎・芽・葉に移動し、部位が修飾されたキメラなどの発生を確認したが、それらを低減する新規繁殖方法が確立し、観賞用の植物芽接ぎに特に有効な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の植物生体用接着剤の成分である煮豆として使用される豆類の例を表にして示す図である。
【
図2】本発明の植物生体用接着剤の成分であるアルカロイド類が含入する植物種の例を表にして示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の植物生体用接着剤を製造するための手順を示すフローチャートである。
【
図4】植物の繁殖方法の事例を表にして示す図である。
【
図5】本発明の植物生体用接着剤を用いて芽接ぎを行う手順を示すフローチャートである。
【
図6】芽接ぎを行う場合の台木及び穂木芽の状態を示す正面図である。
【
図7】別の芽接ぎ方法で本発明の植物生体用接着剤を用いて芽接ぎを行う手順を示すフローチャートである。
【
図8】当該別の芽接ぎを行う場合の台木及び穂木芽の状態を示す正面図である。
【
図9】本発明の植物生体用接着剤による影響を写真撮影して示し、バラにキメラが発生していることを観察する図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態に係る芽接ぎ方法により芽接ぎを実施し、その育成結果を写真撮影して示す図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態に係る芽接ぎ方法により芽接ぎを実施するに当たって、本発明の植物生体用接着剤を塗布過多にした場合のバラの写真である。
【
図12】本発明の植物生体用接着剤を200倍に薄め、フラスコ内のバラの枝に塗布し、30日後に観察したバラの芽生えと気根を写真撮影して示す図である。
【
図13】植物生体用接着剤の成分分析結果を示す図である。
【
図14】代表的な植物の活性に影響を与えるインドールカルボン酸の一種のピークスペクトル参考データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態1)
本発明の第1の実施の形態として、植物生体用接着剤について説明する。本発明の植物生体用接着剤は、蒟蒻粉末(主成分がグルコマンナン)と煮豆の混合物に、納豆菌(Bacillus subtitles var. natto)を加えた混合物である第1基材、及び、蒟蒻粉末(主成分がグルコマンナン)と、銀杏または、アルカロイド類が含入する所定の植物種、またはそれらの植物種の混合物と、微量の納豆菌(Bacillus subtitles var. natto)と、フェノール化合物(p-クレゾール又はm-クレゾール、またはその混合物)と、煮大豆と、水と、グルタチオンと、を加えた混合物である第2基材;を混合し発酵して成る。
【0017】
第1基材において、上記煮豆として使用される豆類は大豆等が用いられ、その例を
図1に表にして示す。
図1に示されているように、煮豆には、大豆、ひよこ豆、いんげん、ささげ、小豆の中から選択されるか、或いはこれらの混合物が用いられる。上記「大豆」には黒豆が含まれ、「いんげん」にはクランベリービーンズが含まれる。
【0018】
上記「アルカロイド類が含入する所定の植物種」にはスイセン属などの植物が該当し、その例を
図2に表にして示す。
図2に示されているように、「アルカロイド類が含入する所定の植物種」には、スイセン属、チョウセンアサガオ属、ヒガンバナ属、及び、アジサイ、ジャガイモから選択される。それらの植物種について、使用される部位、すなわちアルカロイド類が含入するとされる部位(これを[部位]とする)と、含入しているアルカロイド類(これを[アルカロイド種]とする)は、スイセン属の場合、[部位]花、葉、麟茎;[アルカロイド種]リコリンである。またチョウセンアサガオ属の場合、[部位]種、花、葉;[アルカロイド種]アトロピン、ヒオスチアミンである。またヒガンバナ属の場合、[部位]葉、麟茎;[アルカロイド種]リコリンである。アジサイの場合、[部位]葉;[アルカロイド種]アトロピンである。またジャガイモの場合、[部位]芽;[アルカロイド種]ソラニジンである。
【0019】
納豆菌は、第1基材、第2基材いずれの場合も微量だけ混合される。
また、上記植物生体用接着剤には、植物成長ホルモン、植物成長調整剤、及び植物組織活性促進物質のうちの少なくとも1種が含入し、この植物成長調整剤はインドール冠を有する分子式(C
9H
9NO
2)の化合物が含まれている。
【0020】
(実施の形態2)
次に、本発明の第2の実施の形態として、上記のような組成を有する植物生体用接着剤の製造方法について説明する。
図3は、本発明の植物生体用接着剤を製造するための手順を示すフローチャートである。
【0021】
図3に示されているように、本発明の植物生体用接着剤を製造するには、まず、ステップS1において、蒟蒻粉末と煮豆の混合物に、納豆菌を加えた混合物である第1基材を発酵させる(これを一次発酵工程とする)。この一次発酵工程で使用される蒟蒻粉末は、主成分がグルコマンナンである。また、煮豆は、大豆、ひよこ豆、いんげん、ささげ、小豆の中から選択された少なくとも1種の煮豆からなる混合物である。上記一次発酵工程では、蒟蒻粉末30重量部と、煮豆からなる混合物50重量部に微量の枯草菌類の納豆菌を加えた混合物(第1基材)を温度40〜45℃で、10〜22時間発酵させる。
【0022】
次に、ステップS2において、銀杏、またはアルカロイド類が含入する植物種、またはそれらの混合物に、納豆菌と、フェノール化合物と、蒟蒻粉末と、煮大豆と、水と、グルタチオンと、を加えた混合物(第2基材)を前記一次発酵物に加え、発酵させる(これを二次発酵工程とする)。この二次発酵工程で使用される蒟蒻粉末は、主成分がグルコマンナンである。また、アルカロイド類が含入する植物種は、
図2に示されているように、スイセン属、チョウセンアサガオ属、ヒガンバナ属、及び、アジサイ、ジャガイモから選択される。フェノール化合物としては、p-クレゾール、m-クレゾール、またはその混合物が使用される。上記二次発酵工程では、銀杏または、スイセン属、チョウセンアサガオ属、ヒガンバナ属、アジサイ属、じゃがいもの中から選択されたアルカロイド類が含入する少なくとも1種、またはそれらの混合物50重量部が、加圧容器で120℃約20分煮込まれ、その混合物に微量の納豆菌と、50%濃度のフェノール化合物10〜20重量部と、蒟蒻粉末30重量部と、煮大豆50重量部と、水30重量部と、グルタチオン1重量部と、を加えた混合物(第2基材)を前記一次発酵物に加え、さらに温度43〜50℃で、20〜30時間発酵させる。次に、ステップS3において、二次発酵物に更に水30〜40重量部を加え、さらに温度35〜45℃で、10〜15時間発酵させ最終発酵物を得る(これを三次発酵工程とする)。さらに、ステップS4において、上記最終発酵物をアルコール水溶液で抽出する。
【0023】
以上のような植物生体用接着剤の製造工程において、一次発酵工程においては、重炭酸ソーダが事前に1〜4重量部混入されてもよい。また、三次発酵工程で得られた最終発酵物をアルコール水溶液で抽出するときは、エタノールまたはメタノールから少なくとも1種選択されたアルコールとイソプロピルアルコールとを混合してなるアルコールの濃度が40〜60v/v%の水溶液で抽出する。さらに追加的に、上記アルコール水溶液で抽出された液体を約90℃で30〜60分間密閉加熱し、水素イオン濃度pHが5〜6.5になるように酢酸水溶液で調整してもよく、また、開放容器中で24〜48時間常温熟成してもよい。また、上記三次発酵工程で加えられる水には、コルヒチン1重量部が添加されていてもよく、このようにして製造方法された植物生体用接着剤の粘度は30〜90cPである。また、上記一次発酵工程から三次発酵工程のいずれかの工程において、植物成長ホルモンまたは、植物成長調整剤、または植物組織活性促進物質が、少なくも1種含まれていて、この植物成長調整剤はインドール冠を有する分子式(C
9H
9NO
2)の化合物が含まれている。
【0024】
以上のような処理工程により本発明の植物生体用接着剤が製造される。
【0025】
(実施の形態3)
次に、本発明の第3の実施の形態として、上記のような組成を有する植物生体用接着剤を用いた植物の繁殖方法について説明する。
図4は、植物の繁殖方法の事例を表にして示す図である。
図4に示されるように、植物の繁殖方法としては、盾接ぎ法(T字形芽接ぎ法)、逆芽接ぎ法、十字形芽接ぎ法、そぎ芽接ぎ法、環状芽接ぎ法といった各種の方法がある。これらの方法のうち、盾接ぎ法は、樹皮をT字形に切り込んで、削ぎ取った芽を切り込み部に差し込む方法である。この方法の適応樹種は、果樹としてはモモ、ナシ、リンゴ、ミカン、カキ、クリ、ペカン等があり、花木としてはサクラ、バラ、カエデ等がある。逆芽接ぎ法は樹皮を逆さT字形に切り込む方法である。十字形芽接ぎ法は樹皮を逆さ十字形に切り込む方法である。そぎ芽接ぎ法は台木の樹皮を舌状に削ぎ取って、そこへ削ぎ取った芽を合着させる方法である。逆さ十字形に切り込む方法である。環状芽接ぎ法は芽のついた樹皮をダブル刃のナイフの幅でリング状に剥皮し、同じナイフで台木を剥皮して、先のリング状の皮を嵌め込む方法である。本実施の形態では、植物の繁殖方法として、そぎ芽接ぎ法による処理を例として挙げる。
【0026】
図5は、本発明の植物生体用接着剤を用いて芽接ぎを行う手順を示すフローチャートである。
図6は、芽接ぎを行う場合の台木及び穂木芽の状態を示す正面図である。芽接ぎを行うのに使用される台木は、おもに根付苗である。穂木または、穂木芽は事前に採取し水に浸して乾燥させないようにしておく。
図5に示されている手順を
図6を参照しながら説明すると、まず、ステップS11において、芽接ぎの基部となる台木1の茎枝部位2に複数枚カット(多重切り)する。このカット処理では、台木1の茎枝部位2の外周において、樹皮(表皮)を形成層付近まで、上側から下側へ向けて舌状にカットする。この舌状にカットする操作は、1回目は茎枝部位2の外周から幾分浅い目の深さ位置でカットを行って切込み線3を入れ、2回目は1回目よりも深い位置(中心部寄りの部位)でカットを行って切込み線4を入れる、というように複数回行われる。これが多重切りの意味である。これにより表皮側から中心部に向けて層状に(或いは舌状で薄板構造に)削ぎ部5及び6ができる。この時点では削ぎ部5,6は台木1から切り離されることはなく、繋がったままにされる。次に、ステップS12において、複数枚の削ぎ部5,6の上下方向中間部分において、台木1に、表皮側から中心部に向けて略水平方向に樹皮に切り込みして、形成層よりも表皮側の樹皮部分を切除する。
図6(a)はこの削ぎ部5,6の樹皮部分を切除した後の状態を示す。切除した後には切り口平面(カマボコ形平面)7と切り口垂直面11とが表れている。削ぎ部5,6の上下方向中間部分で切り込みしたから、削ぎ部5,6を形成する切込み線3,4は切り口平面7よりさらに下方まで延びている。
【0027】
次に、ステップS13において、切り込みにより表れた切り口平面7の、中心側の削ぎ部6において、樹皮を圧開すなわち、めくり上げる。この圧開は、例えばヘラ或いはナイフのような刃状の道具を切込み線4の部分にこじ入れ、削ぎ部5、6を台木1の外方すなわち表皮側へ押し開くようにして行われる。次に、ステップS14において、圧開された削ぎ部6に、本発明による植物生体用接着剤を注入又は塗布する。次に、ステップS15において、圧開され且つ前記植物生体用接着剤を注入又は塗布された削ぎ部6に、新規に移植される穂木芽8を挿入・装着し、挿入・装着後に養生テープ等で結束させ固定する。
図6(a)はこの削ぎ部6に、新規に移植される穂木芽8を挿入・装着した状態を示す図である。穂木芽8は、その下端部が削ぎ部6に挿入された状態で固定される。さらに、ステップS16において、台木1の外周において、上記芽接ぎ部位の上側及び下側方向に所定間隔をあけた位置に、表皮側から中心部に向けて略水平方向円周上に90〜120度延びる切れ込み9,10を形成する。なお、この切れ込み9,10を形成する時期は一連の芽接ぎ作業のどの時点で行ってもよい。そして、この切れ込み9,10を形成する理由は、本発明の植物生体用接着剤の成分が他の枝、茎、芽、葉への影響を低減するためである。
【0028】
(実施の形態4)
図7は、
図5及び
図6に示された芽接ぎとは別の方法で、本発明の植物生体用接着剤を用いて芽接ぎを行う手順を示すフローチャートである。
図8は、当該別の芽接ぎを行う場合の台木及び穂木芽の状態を示す正面図である。
芽接ぎを行うのに使用される台木は、おもに根付苗である。穂木または、穂木芽は事前に採取し水に浸して乾燥させないようにしておく。
【0029】
図7に示されている手順を
図8を参照しながら説明すると、まず、ステップS21において、芽接ぎの基部となる台木1の茎枝部位2のうち、上記芽接ぎをしようとする部位の上側及び下側方向に所定間隔をあけた位置に、表皮側から中心部に向けて略水平方向に延びる切れ込み15,16を形成し、上側切れ込み15から下側切れ込み16にかけて1枚カットする。このカット処理では、台木1の茎枝部位2の外周において、樹皮(表皮)を形成層付近まで、スリット状にカットする。このスリット状のカットは、上側切れ込み15から下側切れ込み16にかけて縦方向に2本の平行な切れ線17,18を付け、その間の樹皮を削ぎ取ることによって行う。これにより表皮側から中心部に向けて長方形で縦長の削ぎ片19が切除される。
図8(a)はこの削ぎ部5,6の樹皮部分を切除した後の状態を示す。切除した後には上下方向に延びる切り口部20が表れている。次に、ステップS22において、切り口部20の左右両側の樹皮を、台木1の本体から剥ぎ離す。この操作により切り口部20の左右両側には樹皮めくれ部21、22ができる。
図8(b)はこの樹皮めくれ部21、22が作製された状態を示す。次に、ステップS23において、切り口部20に、本発明による植物生体用接着剤を塗布する。
【0030】
次に、ステップS24において、上記植物生体用接着剤を注入又は塗布された切り口部20に、新規に移植される穂木芽23を装着し、さらに上記樹皮めくれ部21、22を元に戻す。このとき、元に戻される樹皮めくれ部21、22により穂木芽23を包むようにする。この操作ができるように、穂木芽23は、その幅寸法が切り口部20の幅寸法よりも大きくなるように切り出される。穂木芽23の縦方向寸法は、切り口部20の縦寸法とほぼ同じである。穂木芽23の装着後に養生テープ等で結束させ固定する。
図8(c)はこの切り口部20に、新規に移植される穂木芽23を装着した状態を示す図である。さらに、ステップS25において、台木1の外周において、上記芽接ぎ部位の上側及び下側方向に所定間隔をあけた位置に、表皮側から中心部に向けて略水平方向円周上に90〜120度延びる切れ込み24,25を形成する。なお、この切れ込み24,25を形成する時期は一連の芽接ぎ作業のどの時点で行ってもよい。そして、この切れ込み24,25を形成する理由は、本発明の植物生体用接着剤の成分が他の枝、茎、芽、葉への影響を低減するためである。
【0031】
上述のような、芽接ぎをバラに対して行い、その成長の過程を観察した。
図9乃至
図12は本発明の植物生体用接着剤による影響を写真撮影して示す図である。
図9ではバラにキメラが発生していることが観察された。本発明の植物生体用接着剤を植物の芽接ぎに使用すると芽接ぎ枝の先端部にキメラが発生する事が度々あった。このキメラを低減する芽接ぎ方法として、上述した切れ込み9,10または切れ込み24,25を形成することによりキメラの発生が無くなった。
【0032】
図10は上記第3の実施の形態に係る芽接ぎ方法により芽接ぎを実施したバラの写真である。芽接ぎを実施してから60日間で、芽接ぎによる部位が癒合し、その10日後養生テープを外して撮影した芽接ぎされたバラである。
【0033】
図11は上記第3の実施の形態に係る芽接ぎ方法により芽接ぎを実施するに当たって、本発明の植物生体用接着剤を塗布過多にした場合のバラの写真である。この場合では、肥大化したキメラが発生している。また、巨大化したカルスが、新芽の部位を修飾している様子が分かる。このような現象が発生すると、バラの芽生えが遅れ、場合により、台木組織に吸収されてしまうということも起こった。したがって、本発明の植物生体用接着剤を塗布する場合、適量の使用が必要になる。
【0034】
図12は、本発明の植物生体用接着剤を200倍に薄め、フラスコ内のバラの枝に塗布し、30日後に観察したバラの芽生えと気根である。なおバラは根と葉のない枝訳8センチメートルを寒天培地上で栽培実験している。本発明により実現された植物用生体接着剤に植物成長調整剤が含まれてもよいとした理由として、
図9のキメラが突然発生したこと、
図10の芽接ぎが約70日間の短期に完成したこと、
図11の過多の接着剤塗布によりカルスが肥大化したこと、及び
図12におけるように、フラスコ中の寒天培地でバラの枝に本接着剤を200倍に薄め、フラスコ内のバラの枝に塗布し、7日間で葉芽が発生し、その3〜4日後に気根らしき組織が発生したことから植物成長調整剤が成長ホルモンのオーキシン類のインドール系でインドール冠を有する分子式(C
9H
9NO
2)の化合物が含まれていることが、
図13の
1HNMR分析結果から推測される。
【0035】
図13は本発明による植物生体用接着剤に用いられる植物成長調整剤の構成についての
1HNMR分析結果を示す図である。
図14は代表的な植物の活性に影響を与えるインドールカルボン酸の一種DL-2-Indolinecarboxylic acidのピークスペクトル参考データである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の芽接ぎ、接ぎ木による植物の繁殖、成長に寄与する接着剤とその使用方法に関するものであり、確実に部位組織を癒合・癒着させる等の効果がある。また、果樹、園芸品種、種苗産業・研究者などの関係機関において、種の保存に大いに寄与でききまた、山林用の樹木苗の育成に新たな技法が取り入れられる可能性がある等、大いに利用可能性がある。
【符号の説明】
【0037】
1 台木
2 茎枝部位
3,4 切込み線
5,6 削ぎ部
7 切り口平面
8,23 穂木芽
9,10,15,16,24,25 切れ込み
11 切り口垂直面
17,18 切れ線
19 削ぎ片
20 切り口部
21,22 樹皮めくれ部
23 新規移植穂木芽の部位
24,25 水平方向に円周角90〜120度延びる切れ込み