特許第6046902号(P6046902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046902
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】サーミスタ素子及び温度センサ
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/00 20060101AFI20161212BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C04B35/00 J
   H01C7/04
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-67711(P2012-67711)
(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公開番号】特開2013-199396(P2013-199396A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2015年1月8日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖村 康之
(72)【発明者】
【氏名】山口 朋紀
(72)【発明者】
【氏名】坂 慎二
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−221519(JP,A)
【文献】 特表2010−521394(JP,A)
【文献】 I. BALASZ and E. BURZO,Structural and magnetic properties of Al doped Y2CaMn3O9 perovskites,Journal of Optoelectronics and Advanced Materials,2006年,vol.8, No.2,p.473-475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00− 35/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Laを除く第3族元素のうち少なくとも1種の元素をM1とし、
第2族元素のうち少なくとも1種の元素をM2とし、
第4族、第5族、第6族、第7族及び第8族元素のうち少なくとも1種の元素をM3としたとき、
一般式M11-aM2aM31-bAlb3で表記され、
aが0.18<a<0.50であり、
bが0.05<b<0.40であり、
前記元素M3は、
Mnである、または、
MnおよびCrであり、Crをモル比でMnの1/19含む
導電性酸化物焼結体を用いてなる
サーミスタ素子
【請求項2】
請求項1に記載のサーミスタ素子であって、
前記元素M1は、
Y、Yb、Ndのうち少なくともいずれかを含む
導電性酸化物焼結体を用いてなる
サーミスタ素子
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のサーミスタ素子であって、
前記元素M2は、
Sr、Ca、Mgのうち少なくともいずれかを含む
導電性酸化物焼結体を用いてなる
サーミスタ素子
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のサーミスタ素子を用いてなる温度センサ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有し、その抵抗値が温度によって変化する導電性酸化物焼結体を用いたサーミスタ素子、さらには、これを用いた温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、導電性を有し、その抵抗値(比抵抗)が温度によって変化する導電性酸化物焼結体、これを用いて温度測定を行うサーミスタ素子、さらには、このサーミスタ素子を用いた温度センサが知られている。例えば、特許文献1には、Laを除く3A族元素(第3族元素)のうち少なくとも1種の元素をM1とし、2A族元素(第2族元素)のうち少なくとも1種の元素をM2とし、4A、5A、6A、7A及び8A族元素(第4、第5、第6、第7及び第8族元素)のうち少なくとも1種の元素をM3としたとき、一般式がM1aM2bM3cAldCrefで、dが0.400≦d≦0.800などの条件を満たす導電性酸化物焼結体が開示されている。この導電性酸化物焼結体は、−40〜900℃の温度範囲の温度勾配定数(B定数)が2000〜3000Kの範囲の特性を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−315946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、特許文献1に記載の導電性酸化物焼結体は、B定数が2000〜3000Kの特性を有する。このため、これを用いたサーミスタ素子と適切な抵抗値のプルアップ固定抵抗とを直列接続した抵抗分圧回路を定電圧(例えば+5Vdc)に接続することで、例えば、−40〜600℃の温度範囲全体において、サーミスタ素子の温度を感度良く適切に測定することができる。
【0005】
ここで、上述の抵抗分圧回路を用いた場合について詳しく検討する。
例えば、B定数が2500Kのサーミスタ素子(基準温度100℃での基準抵抗値1kΩ)、及び、これに適合したプルアップ固定抵抗(1kΩ)で構成した抵抗分圧回路を用いて測温したときの、−40〜600℃の温度範囲における出力電圧の変化のグラフを図3に破線で示す。
また、B定数が2000〜3000Kの範囲よりも低い1000〜2000Kの範囲内である1500Kのサーミスタ素子(基準温度100℃での基準抵抗値1kΩ)、及び、プルアップ固定抵抗(1kΩ)からなる抵抗分圧回路を用いて、同様に測温したときの、−40〜600℃の温度範囲における出力電圧の変化のグラフを図3に実線で示す。
図3に示すグラフのうち、B定数が2500Kのサーミスタ素子を用いた抵抗分圧回路のグラフ(破線)では、約20〜240℃の温度範囲におけるグラフの傾き(即ち、単位温度変化当たりの電圧変化:V/deg)が大きい一方、−40〜20℃及び240〜600℃の温度範囲におけるグラフの傾きが小さい。このことから、B定数が2000〜3000Kの範囲内のサーミスタ素子を用いた抵抗分圧回路では、640deg(−40〜600℃)の温度範囲内のいずれの温度でも、良好な感度(単位温度変化当たりの電圧変化:V/deg)が得られる訳ではない。即ち、温度範囲の下限付近(−40℃付近)及び上限付近(600℃付近)では、感度(上述したグラフの傾き)が低くなることが判る。
【0006】
これに対し、実線のグラフでは、−40〜20℃及び240〜600℃の温度範囲におけるグラフの傾きが、その温度範囲における破線のグラフの傾きよりも大きい。このことから、B定数が2000〜3000Kの範囲より低い1000〜2000Kの特性を有するサーミスタ素子を用いれば、−40〜600℃の温度範囲全体での平均感度は低下するが、温度範囲の下限付近(−40℃付近)及び上限付近(600℃付近)でも、感度を相対的に高くできる。即ち、B定数が1000〜2000Kの特性を有するサーミスタ素子を用いる方が好ましい場合もあることが判る。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、B定数が1000〜2000Kの特性を有する導電性酸化物焼結体を用いたサーミスタ素子、さらには、これを用いた温度センサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、Laを除く第3族元素のうち少なくとも1種の元素をM1とし、第2族元素のうち少なくとも1種の元素をM2とし、第4族、第5族、第6族、第7族及び第8族元素のうち少なくとも1種の元素をM3としたとき、一般式M11-aM2aM31-bAlb3で表記され、aが0.18<a<0.50であり、bが0.05<b<0.40であり、前記元素M3は、Mnである、または、MnおよびCrであり、Crをモル比でMnの1/19含む導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子である。
【0009】
上述の導電性酸化物焼結体は、−40〜600℃の温度範囲におけるB定数が1000〜2000Kの特性を有するものとなる。
このため、上述のサーミスタ素子では、−40〜600℃の温度範囲におけるB定数が1000〜2000Kのサーミスタ素子とすることができ、上述の温度範囲の下限(−40℃)付近及び上限(600℃)付近での感度を向上させたサーミスタ素子とすることができる。
【0011】
加えて、上述の導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子では、元素M3がMnである、または、MnおよびCrでありMnを含むので、上記範囲のB定数が安定して得られ易いほか、導電性酸化物焼結体の耐熱性が確保され、長期間高温環境下に晒されても変質し難い導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子とすることができる。
【0012】
さらに、上述のサーミスタ素子であって、前記元素M1は、Y、Yb、Ndのうち少なくともいずれかを含む導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子とすると良い。
【0013】
上述の導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子では、元素M1がY、Yb、Ndのうち少なくともいずれかを含むので、−40〜600℃の温度範囲におけるB定数が1000〜2000Kの特性を有する導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子を安定して得ることができる。
【0014】
さらに、上述のいずれかのサーミスタ素子であって、前記元素M2は、Sr、Ca、Mgのうち少なくともいずれかを含む導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子とすると良い。
【0015】
上述の導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子では、元素M2がSr、Ca、Mgのうち少なくともいずれかを含むので、−40〜600℃の温度範囲におけるB定数が1000〜2000Kの特性を有する導電性酸化物焼結体を用いてなるサーミスタ素子を安定して得ることができる。
【0018】
さらに、本発明の他の一態様は、前述のいずれかのサーミスタ素子を用いてなる温度センサである。
【0019】
上述の温度センサは、前述のサーミスタ素子を用いているので、−40〜600℃の温度範囲におけるB定数が1000〜2000Kの温度センサとすることができ、上述の温度範囲の下限(−40℃)付近及び上限(600℃)付近での感度を向上させた温度センサとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態にかかるサーミスタ素子(導電性酸化物焼結体)を説明する説明図である。
図2】実施形態にかかる温度センサを説明する説明図である。
図3】サーミスタ素子を含む抵抗分圧回路を用いて測温したときの、−40〜600℃の温度範囲における出力電圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施例1)
次に、本発明の実施形態のうち実施例1について説明する。
まず、実施例1にかかる導電性酸化物焼結体10の製造について説明する。原料粉末として、Y23、SrCO3、MnO2、Al23、Cr23(いずれも純度99%以上の市販品)を用いて、組成式Y1-aSra(Mn,Cr)1-bAlb3としたときのa,bが、表1に示すモル数となるように、それぞれ秤量し、これらの原料粉末を湿式混合して乾燥することにより原料粉末混合物を調整した。なお、括弧内のMnとCrの比率については、表1に示す割合で調整した。次いで、この原料粉末混合物を大気雰囲気下1400℃で2Hr仮焼し、平均粒径1〜2μmの仮焼粉末を得た。その後、樹脂ポットと高純度アルミナ玉石とを用い、エタノールを分散媒として、湿式混合粉砕を行った。
【0022】
次いで、得られたスラリーを80℃で2Hr乾燥し、サーミスタ合成粉末を得た。その後このサーミスタ合成粉末100重量部に対し、ポリビニルブチラールを主成分とするバインダーを20重量部添加して混合、乾燥する。さらに、250μmメッシュの篩を通して造粒し、造粒粉末を得た。なお、使用しうるバインダーとしては、上述のポリビニルブチラールに特に限定されず、例えばポリビニルアルコール、アクリル系バインダー等が挙げられる。バインダーの配合量は上述の仮焼粉末全量に対し、通常5〜20重量部、好ましくは10〜20重量部とする。また、バインダーと混合するにあたり、サーミスタ合成粉末の平均粒子径は2.0μm以下としておくのが好ましく、これによって均一に混合することができる。
【0023】
上述した造粒粉末を用いて、金型成形法にて20MPaで一軸プレス成形したのち、冷間静水圧プレス(CIP)法にて150MPaで成形し、直径9mm、高さ10mmの円柱状の成形体を得た。その後、この成形体を、大気雰囲気下1500℃で2時間保持して焼成し、導電性酸化物焼結体を得た。次いで、各導電性酸化物焼結体を研磨し、直径6mm、高さ5mmの円柱状とし、その両端面に白金電極をスクリーン印刷法により形成した。
【0024】
得られた導電性酸化物焼結体を用いて、大気雰囲気下で直流四端子法により温度−40℃及び600℃での抵抗値(R(−40)、R(600))をそれぞれ測定し、この抵抗値から比抵抗ρ(−40)及びρ(600)を算出し、さらにB定数(B(−40〜600))を以下の式(1)に従って求めた。
B(−40〜600)=ln[ρ(600)/ρ(−40)]/[1/T(600)−1/T(−40)] ・・・(1)
なお、T(−40)=233K、T(600)=873Kである。
これらの結果について表1に示す。
【0025】

【0026】
(実施例2〜7,比較例1〜6)
また、本発明者らは、上述した実施例1の導電性酸化物焼結体とは、同じ元素を用いるが組成式中に記載のモル比(a,b)の組合せがそれぞれ異なる実施例2〜7及び比較例1〜6の導電性酸化物焼結体を用意した。
なお、これら実施例2〜7及び比較例1〜6の各導電性酸化物焼結体は、実施例1と同様の原料粉末を表1の実施例2〜7及び比較例1〜6の各欄のモル比(a,b)に応じて秤量した後、実施例1と同様にして作製する。
但し、これら実施例2〜7及び比較例1〜6のうち、比較例2,4,6では、十分に焼き締まらずに緻密な導電性酸化物焼結体が得られなかった(本明細書及び表1において「未焼結」と表示する)。
【0027】
実施例2〜7、及び、比較例1,3,5の各導電性酸化物焼結体とも、実施例1の導電性酸化物焼結体と同様にして抵抗値(R(−40),R(600))を測定して、比抵抗(ρ(−40),ρ(600))を算出し、さらにB定数(B(−40〜600))を算出した。
これらの結果について表1に示す。
【0028】
表1によれば、組成式Y1-aSra(Mn,Cr)1-bAlb3で表記される実施例1〜7及び比較例1〜6の導電性酸化物焼結体に関し、a=0.20とした実施例1,2及び比較例2のうち、b=0.25,0.30とした実施例1,2の導電性酸化物焼結体のB定数は、B(−40〜600)=1922K及び1960Kであり、1000〜2000Kの範囲内となる。一方、b=0.00とした比較例2は「未焼結」であった。
また、a=0.25とした実施例3〜5及び比較例3のうち、b=0.50とした導電性酸化物焼結体の比較例3のB定数は、2000Kを超えた大きな値となった。これに対し、b=0.25,0.30,0.38とした導電性酸化物焼結体の実施例3〜5のB定数は、いずれもB(−40〜600)=1000〜2000Kの範囲内となった。
また、a=0.30とした実施例6,7及び比較例4,5のうち、b=0.50とした導電性酸化物焼結体の比較例5のB定数は、2000Kを超えた値となったのに対し、b=0.15,0.30とした導電性酸化物焼結体の実施例6,7のB定数は、いずれもB(−40〜600)=1000〜2000Kの範囲内となった。なお、b=0.00とした比較例4は「未焼結」であった。
【0029】
なお、aの値を上述した実施例2(a=0.20)よりも小さくした比較例1(a=0.15)の導電性酸化物焼結体のB定数は、2000Kを超えている。このことから、aを0.18以下とした導電性酸化物焼結体のB定数は、2000Kを超えた値になってしまうことが判る。
また、実施例7(a=0.30)よりも大きくした比較例6(a=0.60)のものは未焼結であった。このことから、aを0.50以上とした導電性酸化物焼結体は、十分に焼き締まらないことが判る。
【0030】
また、bについて見ると、b=0.00とした比較例2,4の各導電性酸化物焼結体はいずれも「未焼結」であった。このことから、構成元素としてアルミニウムを含まない導電性酸化物焼結体は、aによらず十分に焼き締まらないことが判る。
さらに、bの値について、実施例4(b=0.30)よりも大きくした比較例3(b=0.50)の導電性酸化物焼結体、及び、実施例7(b=0.30)よりも大きくした比較例5(b=0.50)の導電性酸化物焼結体はいずれも、B定数が2000Kを超えた値となる。このことから、bを0.40以上とした導電性酸化物焼結体のB定数は、2000Kを超えた値になってしまうことが判る。
【0031】
以上により、aを0.18<a<0.50とし、bを0.05<b<0.40とした実施例1〜7の各導電性酸化物焼結体は、−40〜600℃の温度範囲のB定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kの範囲内となることが判る。
【0032】
(実施例8,9,参考例1
また、上述の実施例1〜7(及び比較例1〜6)では、一般式Y1-aSraM31-bAlb3で表記した導電性酸化物焼結体のうち、元素M3をMn及びCrとした例を示した。
これに対し、実施例8,9,参考例1では、元素M3をMnのみ、或いは、Mn及びFeとした導電性酸化物焼結体について調査した。
なお、実施例8,9では、実施例1で用いた原料粉末のうちCr23を用いずに、また参考例1では、Cr23に代えてFe23を用いて、各原料粉末を表1の実施例8,9,参考例1の各欄のモル比(a,b)に応じて秤量し、実施例1と同様にして作製した。なお、実施例8,9,参考例1ではいずれも緻密な導電性酸化物焼結体となった。
上述の実施例8,9,参考例1の各導電性酸化物焼結体について、実施例1と同様、比抵抗(ρ(−40),ρ(600))を算出した上でB定数(B(−40〜600))を算出した(表1参照)。
【0033】
表1によれば、一般式Y1-aSraM31-bAlb3における元素M3に、Mn及びCrを用いた前述の実施例1〜7に加え、元素M3にMnのみ、或いは、Mn及びFeを用いた実施例8,9,参考例1の各導電性酸化物焼結体もまた、B定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kの範囲内となることが判る。このことから、元素M3にMn、Fe、Crのうち少なくともMnを含み、aを0.18<a<0.50とし、かつ、bを0.05<b<0.40とした実施例1〜9,参考例1の各導電性酸化物焼結体は、いずれもB定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kとなることが判る。
【0034】
(実施例11〜13)
また、前述の実施例1〜7では、一般式M11-aSra(Mn,Cr)1-bAlb3で表記した導電性酸化物焼結体のうち、元素M1をYとした例を示した。これに対し、実施例11〜13では、元素M1をNdのみ、或いは、Y及びYbとした導電性酸化物焼結体について調査した。
なお、原料粉末として、実施例11では、実施例1で用いた原料粉末のうちY23に代えてNd23を用いて、また、実施例12,13では、実施例1で用いた原料粉末の他にYb23を用いた。そして、各原料粉末を表1の実施例11〜13の各欄のモル比(a,b)に応じて秤量し、実施例1と同様にして作製した。なお、実施例11〜13ではいずれも緻密な導電性酸化物焼結体となった。
実施例11〜13の各導電性酸化物焼結体について、実施例1と同様、比抵抗(ρ(−40),ρ(600))を算出し、さらにB定数(B(−40〜600))を算出した(表1参照)。
【0035】
表1によれば、一般式M11-aSra(Mn,Cr)1-bAlb3における元素M1に、Yを用いた前述の実施例1〜7の導電性酸化物焼結体に加え、元素M1にNd、或いは、Y及びYbを用いた実施例11〜13の各導電性酸化物焼結体もまた、B定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kの範囲内となった。このことから、元素M1にY、Yb、Ndのうち少なくともいずれかを含み、aを0.18<a<0.50とし、かつ、bを0.05<b<0.40とした実施例1〜7及び実施例11〜13の各導電性酸化物焼結体は、いずれもB定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kとなることが判る。
【0036】
(実施例14〜16)
また、前述の実施例1〜7では、一般式Y1-aM2a(Mn,Cr)1-bAlb3で表記した導電性酸化物焼結体のうち、元素M2をSrとした例を示した。これに対し、実施例14〜16では、元素M2をCaのみ、或いは、SrとCa又はMgとした導電性酸化物焼結体について調査した。
なお、原料粉末として、実施例14では、実施例1で用いた原料粉末のうちSrCO3に代えてCaCO3を用いて、また、実施例15,16では、実施例1で用いた原料粉末の他にCaCO3(或いは、実施例16ではMgO)を用いた。そして、各原料粉末を表1の実施例14〜16の各欄のモル比(a,b)に応じて秤量し、実施例1と同様にして作製した。なお、実施例14〜16ではいずれも緻密な導電性酸化物焼結体となった。
実施例14〜16の各導電性酸化物焼結体について、実施例1と同様、比抵抗(ρ(−40),ρ(600))を算出し、さらにB定数(B(−40〜600))を算出した(表1参照)。
【0037】
表1によれば、一般式Y1-aM2a(Mn,Cr)1-bAlb3における元素M2に、Srを用いた前述の実施例1〜7の導電性酸化物焼結体に加え、元素M2にCaのみ、SrとCa或いはMgとを用いた実施例14〜16の各導電性酸化物焼結体もまた、B定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kの範囲内となった。このことから、元素M2がSr、Ca、Mgのうち少なくともいずれかを含み、aを0.18<a<0.50とし、かつ、bを0.05<b<0.40とした実施例1〜7及び実施例14〜16の各導電性酸化物焼結体は、いずれもB定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kとなることが判る。
【0038】
以上の結果から、一般式M11-aM2aM31-bAlb3(但し、元素M1がLaを除く第3族元素のうち少なくとも1種、元素M2が第2族元素のうち少なくとも1種の元素、及び、元素M3が第4族、第5族、第6族、第7族及び第8族元素のうち少なくとも1種)で表記され、aが0.18<a<0.50を、bが0.05<b<0.40を満たす本実施形態(実施例1〜16)の各導電性酸化物焼結体10は、−40〜600℃の温度範囲におけるB定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kの特性を有するものとなる。
なお、元素M3としてMn、Fe、Crのうち少なくともMnを含むと良い。加えて、元素M1がY、Yb、Ndのうち少なくともいずれかを含むと良い。さらに、元素M2がSr、Ca、Mgのうち少なくともいずれかを含むと良い。
【0039】
次いで、本実施形態にかかるサーミスタ素子1について、図1を参照しつつ説明する。
このサーミスタ素子1は、前述した実施例1〜9,11〜16にかかる導電性酸化物焼結体10と、この導電性酸化物焼結体10から延出する、Pt−Rh合金製の一対の電極線11,12とを有する(図1参照)。
このため、−40〜600℃の温度範囲におけるB定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kのサーミスタ素子1とすることができ、温度範囲の下限(−40℃)付近及び上限(600℃)付近での感度を向上させたサーミスタ素子1とすることができる。
【0040】
次いで、上述のサーミスタ素子1を用いた温度センサ100について、図2を参照しつつ説明する。
この温度センサ100は、サーミスタ素子1と、このサーミスタ素子1を内部に収容する筐体110とを有する(図2参照)。このうち、筐体110は、円筒形状の本体部111と、この本体部111から突出する、本体部111よりも径小な円筒形状の突出部112とからなる。この突出部112は、内側にサーミスタ素子1を配置しており、突出部112の周囲の温度を測温することができる。
なお、本実施形態(実施例1〜9,11〜16)にかかる温度センサ100は、例えば、図2に示すように、車両のエンジン(図示しない)から排出されてエキゾーストパイプEP内を流れる排気ガスEGの温度を計測するのに用いる。この場合、筐体110の突出部112をエキゾーストパイプEPの内側に配置しつつ、筐体110の本体部111をエキゾーストパイプの壁に固定する(図2参照)。
【0041】
本実施形態(実施例1〜9,11〜16)にかかる温度センサ100は、前述のサーミスタ素子1を用いているので、−40〜600℃の温度範囲におけるB定数がB(−40〜600)=1000〜2000Kの温度センサ100とすることができ、温度範囲の下限(−40℃)付近及び上限(600℃)付近での感度を向上させた温度センサ100とすることができる。
【0042】
以上において、本発明を実施形態(実施例1〜9,11〜16)に即して説明したが、本発明は上記実施例等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施例1〜9,11〜16の導電性酸化物焼結体を作製する際、原料粉末として各元素を含む化合物を例示したが、例示した化合物のほか、各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等の化合物を用いても良い。なお、特に酸化物、炭酸塩を用いるのが好ましい。
また、Laを除く第3族元素のうち少なくとも1種の元素からなるM1として、実施例ではY、Y及びYb、あるいは、Ndを用いた例を示したが、これ以外のLaを除く第3族元素を用いたり、Y、Yb及びNdを共に用いても良い。さらに、第2族元素のうち少なくとも1種の元素からなるM2として、実施例ではSr、Ca、Sr及びCa、あるいは、Sr及びMgを用いた例を示した。しかし、これ以外の第2族元素を用いたり、Sr、Ca及びMgを共に用いても良い
また、導電性酸化物焼結体の焼結性、B定数など、導電性酸化物焼結体、サーミスタ素子或いは温度センサに要求される特性を損なわない範囲で、導電性酸化物焼結体に、Na,K,Ga,Si,C,Cl,S等の他の成分を含有していても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 サーミスタ素子
10 導電性酸化物焼結体
100 温度センサ
図1
図2
図3