特許第6046903号(P6046903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドマテックスの特許一覧

特許6046903フィラー含有液状組成物及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046903
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】フィラー含有液状組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20161212BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20161212BHJP
   C09C 1/30 20060101ALI20161212BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C09D17/00
   C01B33/18 C
   C09C1/30
   C09C3/08
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-77976(P2012-77976)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-204030(P2013-204030A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】永野 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】楊原 武
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−213514(JP,A)
【文献】 特開2006−036916(JP,A)
【文献】 特開2004−059380(JP,A)
【文献】 特開2009−263153(JP,A)
【文献】 特開2000−044226(JP,A)
【文献】 特開2010−254548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09C 1/30
C09C 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積平均粒子径が1nmから100nmである原料シリカに対して、シラン化合物と、オルガノシラザンとで表面が処理されており、イソプロパノール、PMG、MEK、酢酸エチル、及びトルエンからなる群より選択される1種又は2種以上の分散媒に全体の質量を基準として10質量%分散させた分散液100mLに対して超音波を5分間照射した後、JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときに95%以上が通過するシリカ粒子材料と、
体積平均粒径が0.5μm以上である無機材料から構成されるフィラーと、
前記シリカ粒子材料及び前記フィラーを分散する液状組成物と、
を有し、
前記シラン化合物はシランカップリング剤、及び、3つのアルコキシ基とフェニル基とをもつ化合物から選択される1種以上の化合物で有り、
前記シリカ粒子材料の混合割合は、前記フィラー及び前記シリカ粒子材料の全体の質量を基準として、15%超50%未満であるフィラー含有液状組成物。
【請求項2】
粒子径が1nmから100nmである原料シリカに対して、シラン化合物と、オルガノシラザンとで表面が処理されており、イソプロパノール、PMG、MEK、酢酸エチル、及びトルエンからなる群より選択される1種又は2種以上の分散媒に全体の質量を基準として10質量%分散させた分散液100mLに対して超音波を5分間照射した後、JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときに95%以上が通過するシリカ粒子材料と、
粒径が0.5μm以上である無機材料から構成されるフィラーと、
前記シリカ粒子材料及び前記フィラーを分散する液状組成物と、
を有し、
前記シラン化合物はシランカップリング剤、及び、3つのアルコキシ基とフェニル基とをもつ化合物から選択される1種以上の化合物で有り、
前記シリカ粒子材料の混合割合は、前記フィラー及び前記シリカ粒子材料の全体の質量を基準として、15%超50%未満であることを特徴とするフィラー含有液状組成物。
【請求項3】
前記シリカ粒子材料は、式(1):−OSiXで表される官能基及び式(2):−OSiYで表される官能基と、両官能基が表面に結合するシリカ粒子とからなる請求項1又は2に記載のフィラー含有液状組成物。(上記式(1)、(2)中;Xはフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X、Xは−OSiR及び−OSiYよりそれぞれ独立して選択され;YはRであり;Y、YはR及び−OSiYよりそれぞれ独立して選択される。YはRであり;Y及びYは、R及び−OSiRからそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1〜3のアルキル基から独立して選択される。なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、近接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合しても良い。)
【請求項4】
前記式(1)で表される官能基と前記式(2)で表される官能基との存在数比が1:12〜1:60である請求項に記載のフィラー含有液状組成物。
【請求項5】
前記Xは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり0.5〜2.5個である請求項又はに記載のフィラー含有液状組成物。
【請求項6】
前記Rは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり1〜10個である請求項の何れか1項に記載のフィラー含有液状組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のフィラー含有液状組成物を製造するフィラー含有液状組成物の製造方法であって、
前記シリカ材料は、水を含む液状媒体中で前記シラン化合物及びオルガノシラザンによって前記原料シリカ粒子を表面処理する表面処理工程をもつ表面処理方法により処理され、
前記シラン化合物は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
前記シラン化合物と前記オルガノシラザンとのモル比は、前記シラン化合物:前記オルガノシラザン=1:2〜1:10である、
フィラー含有液状組成物の製造方法
【請求項8】
前記原料シリカ粒子の表面に存在したシラノール基のうちの80%以上には前記シラン化合物が結合し、且つ、
前記原料シリカ粒子の表面に存在したシラノール基の残部及び前記シラン化合物には前記オルガノシラザンが結合している請求項7に記載のフィラー含有液状組成物の製造方法
【請求項9】
結合されている前記オルガノシラザンの一部が、3つのアルコキシ基と炭素数1〜3のアルキル基とを持つ第2のシラン化合物で置き換えられている請求項7又は8に記載のフィラー含有液状組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーを分散した液状組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂などの樹脂中にシリカ粒子材料などのフィラーを分散させた樹脂組成物の硬化物が知られている。樹脂中にシリカ粒子材料を含有させることにより耐熱性を向上したり、物理的強度を向上したりできる。樹脂組成物の硬化物を得るためには反応により硬化可能な流動性のあるプレポリマーを必要な形に成型して硬化させることが行われている(特許文献1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−256243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでフィラーとそのフィラーを分散する樹脂材料との間では比重が異なる場合が多く放置することでフィラーの分布が重力の影響により偏ることがあった。そうすると、半導体素子のアンダーフィル材としての利用時などでフィラー入りの液状樹脂組成物を充填した後、樹脂組成物を硬化するまでの間にフィラーが沈降したり、実際に樹脂組成物を使用するまでの保存している間にフィラーが沈降したりして想定したフィラーの含有量が確保されないおそれがあった。そのようなフィラーの沈降を抑制するためには液状樹脂組成物を充填した後、すぐに硬化させたり、保存している液状樹脂組成物を撹拌し続けたりといったことをする必要があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、フィラーの沈降速度が遅いフィラー含有液状組成物及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を行った結果、以下の発明を完成した。
(i)すなわち、上記課題を解決するフィラー含有液状組成物は、体積平均粒子径が1nmから100nmである原料シリカに対して、シラン化合物と、オルガノシラザンとで表面が処理されており、イソプロパノール、PMG、MEK、酢酸エチル、及びトルエンからなる群より選択される1種又は2種以上の分散媒に全体の質量を基準として10質量%分散させた分散液100mLに対して超音波を5分間照射した後、JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときに95%以上が通過するシリカ粒子材料と、
体積平均粒径が0.5μm以上である無機材料から構成されるフィラーと、
前記シリカ粒子材料及び前記フィラーを分散する液状組成物と、
を有することを特徴とする。
前記シラン化合物はシランカップリング剤、及び、3つのアルコキシ基とフェニル基とをもつ化合物から選択される1種以上の化合物で有る。
【0007】
液体中での沈降の終端速度は粒径の2乗に比例するため、フィラーよりも相対的に小さな粒径をもつシリカ粒子材料の沈降速度は小さくなる。また、フィラーはシリカ粒子材料の存在により邪魔されるために、その沈降速度も遅くなる。そのためにフィラーはシリカ粒子材料が存在しない場合と比べて安定的に液状組成物中に存在することになる。
【0008】
なお、本明細書における「粒径」とは体積球相当径である。また、本明細書での粒径は分離せずに一体的に移動するときの最小単位についての径である。つまり、一次粒子として分散されているときには一次粒子の粒径、二次粒子を形成して二次粒子として分散されているときには二次粒子の粒径である。
【0009】
更には(iii)の構成として、上記課題を解決するフィラー含有液状組成物は、粒子径が1nmから100nmである原料シリカに対して、シラン化合物と、オルガノシラザンとで表面が処理されており、イソプロパノール、PMG、MEK、酢酸エチル、及びトルエンからなる群より選択される1種又は2種以上の分散媒に全体の質量を基準として10質量%分散させた分散液100mLに対して超音波を5分間照射した後、JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときに95%以上が通過するシリカ粒子材料と、
粒径が0.5μm以上である無機材料から構成されるフィラーと、
前記シリカ粒子材料及び前記フィラーを分散する液状組成物と、
を有し、
前記シリカ粒子材料の混合割合は、前記フィラー及び前記シリカ粒子材料の全体の質量を基準として、15%超50%未満であることを特徴とする。
前記シラン化合物はシランカップリング剤、及び、3つのアルコキシ基とフェニル基とをもつ化合物から選択される1種以上の化合物で有る。
【0010】
上記(i)の構成に加えて、以下に記載する(ii)、(iv)、及び(viii)のうちの少なくとも1つの構成を付加することができる。そして(iv)の構成を採用する場合には以下に記載する(v)、(vi)、及び(vii)の構成のうちの少なくとも1つの構成を付加することができる。更に(viii)の構成を採用する場合には以下に記載する(ix)及び(x)の構成のうちの少なくとも1つの構成を付加することができる。
【0011】
(ii)前記シリカ粒子材料の混合割合は、前記フィラー及び前記シリカ粒子材料の全体の質量を基準として、15%超50%未満である。
(iv)前記シリカ粒子材料は、式(1):−OSiXで表される官能基及び式(2):−OSiYで表される官能基と、両官能基が表面に結合するシリカ粒子とからなる。上記式(1)、(2)中;Xはフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X、Xは−OSiR及び−OSiYよりそれぞれ独立して選択され;YはRであり;Y、YはR及び−OSiYよりそれぞれ独立して選択される。YはRであり;Y及びYは、R及び−OSiRからそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1〜3のアルキル基から独立して選択される。なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、近接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合しても良い。
(v)前記式(1)で表される官能基と前記式(2)で表される官能基との存在数比が1:12〜1:60である。
(vi)前記Xは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり0.5〜2.5個である。
(vii)前記Rは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり1〜10個である。
(viii)前記シリカ材料は、水を含む液状媒体中でシラン化合物及びオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する表面処理工程をもつ表面処理方法により処理され、
前記シラン化合物は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
前記シラン化合物と前記オルガノシラザンとのモル比は、前記シラン化合物:前記オルガノシラザン=1:2〜1:10である。
(ix)前記表面処理工程は、
前記シリカ粒子を前記シラン化合物で処理する第1の処理工程と、
前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、
前記第2の処理工程は、前記第1の処理工程後に行う。
(x)前記第2の処理工程において、3つのアルコキシ基と炭素数1〜3のアルキル基とを持つ第2のシラン化合物で前記オルガノシラザンの一部を置き換え、
前記第2の処理工程後に、さらに前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第3の処理工程を持つ。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、上記構成をもつことから、フィラーの沈降速度がフィラーの粒径から考えられる速度よりも小さくなり、液状組成物中におけるフィラーの分散の安定性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフィラー含有液状組成物について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態のフィラー含有液状組成物はフィラーを含有するため高い強度をもつなどの高い物理特性を持つことができると共に、含有するフィラーを安定的に分散させることできる。
【0014】
本実施形態のフィラー含有液状組成物はシリカ粒子材料とフィラーとそれらを分散する液状の組成物(樹脂材料、溶媒など)とを有する。液状組成物としては液状であること以外は特に限定しない。フィラーの含有量や、フィラーとシリカ粒子材料との合計量は必要な量だけ含有している。 シリカ粒子材料の含有量はフィラーとシリカ粒子とを合わせた全体の質量を基準として15%超であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。そして、50%未満であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。フィラーとシリカ粒子材料と液状組成物との混合方法は特に限定されず、公知の撹拌機・混練機などにより混合分散することができる。また、混合の順序も特に限定されない。
【0015】
また、液状組成物として、より小さな分子量の化合物から反応により生成する樹脂を採用する場合にはその反応中にシリカ粒子材料やフィラーを混合した状態で行うこともできる。更にはその反応にて結合可能な官能基を、シリカ粒子材料の表面やフィラーの表面に導入しておき、その反応により液状組成物と化学的に結合させることも可能である。
【0016】
・シリカ粒子材料
シリカ粒子材料としては以下の「第1形態」又は「第2形態」の構成をもつ。なお、第1形態及び第2形態とでは、フィラーよりも小さな粒径をもつシリカ粒子材料を添加しているとの発明の思想自体としては差異が無い。
(第1形態)
シリカ粒子材料は体積平均粒径が1nm〜100nmのシリカからなる粒子である原料シリカに対して、表面処理を行った材料である。原料シリカの粒径としては望ましくは2nm以上であり、特に望ましくは5nm以上であり、10nm以上が更に望ましい。また、80nm以下が望ましく、50nm以下が更に望ましい。
(第2形態)
シリカ粒子材料は粒径が100nm以下である。この場合にシリカ粒子材料の混合割合は、前記フィラー及び前記シリカ粒子材料の全体の質量を基準として、15%超50%未満である。粒径で規定しているのはフィラーとしてシリカからなるものを採用したときに区別ができにくいため、単純に粒径のみで峻別できるようにするためである。
(第1形態及び第2形態2の共通の特徴)
シリカ粒子材料の表面はシラン化合物とオルガノシラザンとで処理されている。シラン化合物はシランカップリング剤、及び、3つのアルコキシ基とフェニル基とをもつ化合物から選択される1種以上の化合物で有る。
【0017】
シリカ粒子材料は真球度が高い方が流動性が向上するため望ましい。真球度としては0.8以上にすることが望ましく、0.9以上にすることが更に望ましい。真球度の測定は、SEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(真球度)={4π×(面積)÷(周囲長)}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像処理装置(シスメックス株式会社:FPIA−3000)を用い、無作為に抽出した100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0018】
シリカ粒子材料はイソプロパノール、PMG、MEK、酢酸エチル、及びトルエンからなる群より選択される1種又は2種以上の分散媒に全体の質量を基準として10質量%分散させた分散液100mLに対して超音波を5分間照射した後、JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときに95%以上が通過するものである。この試験により、分散液中での分散性が評価できる。5種Cのろ紙は微細沈殿用のろ紙であり、高度な分散が為されないと透過しない。
【0019】
シリカ粒子材料に対してこのような分散性をもたせる方法としてはシラン化合物とオルガノシラザンとの併用を行うこと以外は特に限定しないが、例えば、その1、その2に後述する方法(併用しても良い)が挙げられる。
【0020】
(その1)
シリカ粒子材料は、式(1):−OSiXで表される官能基と、式(2):−OSiYで表される官能基とが表面に結合したシリカ粒子材料である。以下、式(1)で表される官能基を第1の官能基と呼び、式(2)で表される官能基を第2の官能基と呼ぶ
【0021】
第1の官能基におけるXは、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基である。X、Xは、それぞれ、−OSiR又は−OSiYである。YはRである。Y、Yは、それぞれ、R又は−OSiRである。
【0022】
第2の官能基におけるYはRである。Y、Yは、それぞれ、−OSiR又は−OSiYである。
【0023】
第1の官能基及び第2の官能基に含まれる−OSiRが多い程、シリカ粒子材料の表面にRを多く持つ。第1の官能基及び第2の官能基に含まれるR(炭素数1〜3のアルキル基)が多い程、シリカ粒子材料は凝集し難い。
【0024】
第1の官能基に関していえば、X、Xがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最小となる。また、X及びXがそれぞれ−OSiYであり、かつ、Y、Yがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最大となる。
【0025】
第2の官能基に関していえば、Y、Yがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最小となる。また、Y及びYがそれぞれ−OSiYであり、かつ、Y、Yがそれぞれ−OSiRである場合に、Rの数が最大となる。
【0026】
第1の官能基に含まれるXの数、第1の官能基に含まれるRの数、第2の官能基に含まれるRの数は、RとXとの存在数比や、シリカ粒子材料の粒径や用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0027】
なお、X、X、Y、Y、Y、及びYの何れかは、隣接する官能基のX、X、Y、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合しても良い。例えば、第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかが、この第1の官能基に隣接する第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。同様に、第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかが、この第2の官能基に隣接する第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。さらには、第1の官能基のX、X、Y、及びYの何れかが、この第1の官能基に隣接する第2の官能基のY、Y、Y、及びYの何れかと−O−にて結合していても良い。
【0028】
第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60であれば、シリカ粒子材料の表面にXとRとがバランス良く存在する。このため、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60であるシリカ粒子材料は、樹脂に対する親和性及び凝集抑制効果に特に優れる。また、Xがシリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり0.5〜2.5個であれば、シリカ粒子材料の表面に充分な数の第1の官能基が結合し、第1の官能基及び第2の官能基に由来するRもまた充分な数存在する。従ってこの場合にも、樹脂に対する親和性及びシリカ粒子材料の凝集抑制効果が充分に発揮される。
【0029】
何れの場合にも、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたりのRは、1個〜10個であるのが好ましい。この場合には、シリカ粒子材料の表面に存在するXの数とRの数とのバランスが良くなり、樹脂に対する親和性及びシリカ粒子材料の凝集抑制効果との両方がバランス良く発揮される。
【0030】
シリカ粒子の表面に存在していた水酸基の全部が第1の官能基又は第2の官能基で置換されていることが好ましい。第1の官能基と第2の官能基との和が、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたり2.0個以上であれば、シリカ粒子材料において、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基のほぼ全部が第1の官能基又は第2の官能基で置換されているといえる。
【0031】
シリカ粒子材料は、表面にRを持つ。これは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。詳しくは、シリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルを固体拡散反射法で測定すると、2962±2cm−1にC−H伸縮振動の極大吸収がある。このため、本実施形態の無機粉体混合物がもつシリカ粒子材料であるか否かは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。
【0032】
また、上述したように本発明の無機粉体混合物がもつシリカ粒子材料は凝集し難い。従って、シリカ粒子材料としては粒径の小さなものに採用できる。例えば、シリカ粒子材料は、平均粒径3nm〜5000nm程度にできる。平均粒径3〜200nmのシリカ粒子材料に適用するのが好ましい。
【0033】
なお、シリカ粒子材料は、例え僅かに凝集した場合にも、超音波処理することによって再度分散可能である。詳しくは、シリカ粒子材料をメチルエチルケトンに分散させたものに、発振周波数39kHz、出力500Wの超音波を照射することで、シリカ粒子材料を実質的に一次粒子にまで分散できる。このときの超音波照射時間は10分間以下で良い。シリカ粒子材料が一次粒子にまで分散したか否かは、粒度分布を測定することで確認できる。詳しくは、このシリカ粒子材料のメチルエチルケトン分散材料をマイクロトラック装置等の粒度分布測定装置で測定し、シリカ粒子材料の粒度分布があれば、シリカ粒子材料が一次粒子にまで分散したといえる。
【0034】
このシリカ粒子材料は、凝集し難いため、水やアルコール等の液状媒体に分散されていないシリカ粒子材料として提供できる。また、シリカ粒子材料は凝集し難いために、水で容易に洗浄できる。
【0035】
(その2)
その1に示すシリカ粒子材料に代えて、以下に示す表面処理を行ったシリカ粒子材料を採用することもできる。なお、以下の方法によりシリカ粒子材料(その1)を得ることもできるため、その1とその2とは排他的なものではない。
【0036】
シリカ粒子材料の表面処理方法は、水を含む液状媒体中で、シラン化合物及びオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する工程(表面処理工程)を持つ。シラン化合物は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基(すなわち上記のX)とを持つ。
【0037】
シラン化合物で表面処理することで、シリカ粒子の表面に存在する水酸基がシラン化合物に由来する官能基で置換される。表面処理を行うシラン化合物の量は特に限定しないが、処理前のシリカ粒子材料の表面にあるシラノール基について80%以上反応できる量とすることができる。特に反応前のシリカ粒子材料の表面にシラノール基が2.5個/nm程度存在するときには80%以上反応させることで残存するシラノール基が0.5個/nm以下にすることができ脱水反応による水分発生量を充分に抑制できる。シラン化合物に由来する官能基は式(3);−OSiXで表される。式(3)で表される官能基を第3の官能基と呼ぶ。第3の官能基におけるXは式(1)で表される官能基におけるXと同じである。X、Xは、それぞれ、アルキコキシ基である。オルガノシラザンで表面処理することで、第3の官能基のX、Xがオルガノシラザンに由来する−OSiY(式(2)で表される官能基、第2の官能基)で置換される。シリカ粒子の表面に存在する水酸基の全てが第3の官能基で置換されていない場合には、シリカ粒子の表面に残存する水酸基が第2の官能基で置換される。このため、表面処理されたシリカ粒子材料の表面には、式(1):−OSiXで表される官能基(すなわち第1の官能基)と、式(2):−OSiYで表される官能基と(すなわち第2の官能基)が結合する。なお、シラン化合物とオルガノシラザンとのモル比は、シラン化合物:オルガノシラザン=1:2〜1:10であるため、得られたシリカ粒子材料における第1の官能基と第2の官能基との存在数比は理論上1:12〜1:60となる。
【0038】
表面処理工程においては、シリカ粒子をシラン化合物及びオルガノシラザンで同時に表面処理しても良い。又は、先ずシリカ粒子をシラン化合物で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良い。又は、先ずシリカ粒子をオルガノシラザンで表面処理し、次いでシラン化合物で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理しても良い。何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基全てが第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調整すれば良い。なお、シリカ粒子の表面に存在する水酸基は、全てが第3の官能基で置換されても良いし、一部のみが第3の官能基で置換され、他の部分が第2の官能基で置換されても良い。第3の官能基に含まれるX、Xは、全て第2の官能基で置換されるのが良い。
【0039】
なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシラン化合物で置き換えても良い。第2のシラン化合物としては、3つのアルコキシ基と、1つのアルキル基とを持つものである。この場合には、第3の官能基に含まれるX、Xが、第2のシラン化合物に由来する第4の官能基で置換される。第4の官能基は式(4);−OSiYで表される。Yは第2の官能基におけるYと同じRであり、X、Xはそれぞれアルコキシ基又は水酸基である。第4の官能基に含まれるX、Xは、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、又は、別の第4の官能基で置換される。この場合には、シリカ粒子材料の表面に存在するRの量をさらに多くする事ができる。なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシラン化合物に置き換える場合、第2のシラン化合物で表面処理した後に、再度オルガノシラザンで表面処理する必要がある。第4の官能基に含まれるX、Xを、最終的にはオルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換するためである。
【0040】
オルガノシラザンの一部を第2のシラン化合物で置き換える場合、上述した第1の官能基に含まれるX、Xは、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、第2のシラン化合物に由来する第4の官能基で置換される。X、Xが第4の官能基で置換された場合、第4の官能基に含まれるX、Xは、第2の官能基で置換されるか、別の第4の官能基によって置換される。第4の官能基に含まれるX、Xが別の第4の官能基によって置換された場合、第4の官能基に含まれるX、Xは、第2の官能基で置換される。このため第2のシラン化合物は、第1のシラン化合物及びオルガノシラザンのみで表面処理する場合(オルガノシラザンを第2のシラン化合物で置き換えなかった場合)に設定されるオルガノシラザンの量(a)molに対して、最大限5a/3mol置き換えることができる。この場合に必要になるオルガノシラザンの量は、8a/3molである。
【0041】
シラン化合物及び第2のシラン化合物のアルコキシ基は特に限定しないが、比較的炭素数の小さなものが好ましく、炭素数1〜12であることが好ましい。アルコキシ基の加水分解性を考慮すると、アルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基の何れかであることがより好ましい。
【0042】
シラン化合物として、具体的には、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる
【0043】
オルガノシラザンとしては、シリカ粒子の表面に存在する水酸基及びシラン化合物及び第2のシラン化合物に由来するアルコキシ基を、上述した第2の官能基で置換できるものであれば良いが、分子量の小さなものを用いるのが好ましい。具体的には、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン等が挙げられる。
【0044】
第2のシラン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
なお、表面処理工程において、シラン化合物の重合や第2のシラン化合物の重合を抑制するため、重合禁止剤を加えても良い。重合禁止剤としては、3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、p−メトキシフェノール(メトキノン)等の一般的なものを用いることができる。
【0046】
シリカ粒子材料を得るための表面処理について説明する。本表面処理方法は、表面処理工程後に固形化工程を備えても良い。固形化工程は、表面処理後のシリカ粒子材料を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る工程である。上述したように、一般的なシリカ粒子材料は非常に凝集し易いため、一旦固形化したシリカ粒子材料を再度分散するのは非常に困難である。しかし、シリカ粒子材料は凝集し難いため、固形化しても凝集し難く、また、例え凝集しても再分散し易い。なお、上述したように、シリカ粒子材料を水で洗浄することで、電子部品等の用途に用いられるシリカ粒子材料を容易に製造できる。なお、洗浄工程においては、シリカ粒子材料の抽出水(詳しくは、シリカ粒子材料を121℃で24時間浸漬した水)の電気伝導度が50 μS/cm以下となるまで、洗浄を繰り返すのが好ましい。
【0047】
固形化工程で用いる鉱酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などが例示でき、特に塩酸が望ましい。鉱酸はそのまま用いても良いが、鉱酸水溶液として用いるのが好ましい。鉱酸水溶液における鉱酸の濃度は0.1質量%以上が望ましく、0.5質量%以上が更に望ましい。鉱酸水溶液の量は、洗浄対象であるシリカ粒子材料の質量を基準として6〜12倍程度にすることができる。
【0048】
鉱酸水溶液による洗浄は複数回数行うことも可能である。鉱酸水溶液による洗浄はシリカ粒子材料を鉱酸水溶液に浸漬後、撹拌することが望ましい。また、浸漬した状態で1時間から24時間、更には72時間程度放置することができる。放置する際には撹拌を継続することもできるし、撹拌しないこともできる。鉱酸含有液中にて洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0049】
その後、洗浄して懸濁させたシリカ粒子材料をろ取した後、水にて洗浄する。使用する水はアルカリ金属などのイオンを含まない(例えば質量基準で1ppm以下)ことが望ましい。例えば、イオン交換水、蒸留水、純水などである。水による洗浄は鉱酸水溶液による洗浄と同じく、シリカ粒子材料を分散、懸濁させた後、ろ過することもできるし、ろ取したシリカ粒子材料に対して水を継続的に通過させることによっても可能である。水による洗浄の終了時期は、上述した抽出水の電気伝導度で判断しても良いし、シリカ粒子材料を洗浄した後の排水中のアルカリ金属濃度が1ppm以下になった時点としても良いし、抽出水のアルカリ金属濃度が5ppm以下になった時点としても良い。なお、水で洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0050】
シリカ粒子材料の乾燥は、常法により行うことができる。例えば、加熱や、減圧(真空)下に放置する等である。
・フィラーとしては体積平均粒径が0.5μm以上であること(第1形態のシリカ粒子材料の場合)、又は、粒径が0.5μm以上であること(第2形態のシリカ粒子材料の場合)である。フィラーを構成する材料としては無機材料からなること以外は限定しない。例えばフィラーとしてはシリカ、アルミナ(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、ゼオライト、酸化チタン(TiO)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、ほう酸アルミニウム、ボロンナイト、炭酸カルシウム、酸化鉛、酸化すず、酸化セリウム、酸化カルシウム、四酸化三マンガン、酸化マグネシウム、セリウムジルコネイト、カルシウムシリケート、ジルコニウムシリケート、ITO、チタンシリケートを、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0051】
フィラーの形態としても特に限定しないがフィラーについても真球度が0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることが更に好ましい。更に、フィラーの表面についても適正に選択される(反応可能なものであったり、付着可能であったりする表面処理剤を選択する。そして、液状組成物との親和性を向上させたりする目的で行われる。)。
【0052】
・液状樹脂材料
液状樹脂材料としては使用温度において流動性をもつものであればよい。例えば低分子量の物質(溶媒など)や、熱可塑性樹脂を採用しその熱可塑性樹脂の融点以上の温度での使用を考える場合を含む。また、後に行われる硬化反応により硬化する材料であっても良い。
【0053】
具体的には高分子材料及び/又は高分子材料の前駆体とを有することができる。高分子材料前駆体は高分子又は低分子の材料であり、更に反応が進行することにより分子量が増大したり、架橋が進行したりして硬化物を形成できる材料である。高分子材料、並びに、高分子材料前駆体により形成される硬化物は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などの一般的な樹脂材料が例示できる。高分子材料前駆体は、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ブロックされたイソシアネート基、アミノ基、ハーフエステル基、アミック基、カルボキシ基、及び炭素-炭素二重結合基を化学構造中に有することが望ましい。これらの官能基は好適な反応条件を設定することで互いに結合可能な官能基(重合性官能基)であり、混合材料の分子量を向上できる。好適な反応条件としては単純に加熱や光照射を行ったり、熱や光照射によりラジカルやイオン(アニオン、カチオン)などの反応性種を生成したり、それらの官能基間を結合する反応開始剤(重合開始剤)を添加して加熱や光照射を行うことなどである。重合反応に際して必要な化合物を硬化剤として添加したり、その反応に対する触媒を添加することもできる。
【0054】
高分子材料前駆体としては重合により高分子材料を形成する単量体や、上述したような重合性官能基により修飾した高分子材料が好ましいものとして挙げられる。例えば、硬化前の、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などのプレポリマーが好適である。
【0055】
シリカ粒子材料やフィラーの表面処理を行うシラン化合物やオルガノシラザンとしては樹脂材料として選択した材料に応じて選択されることが望ましい。例えば、その樹脂材料に親和性をもつ官能基をシリカ粒子材料の表面に付与することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明のフィラー含有液状組成物について実施例に基づき詳細に説明する。
【0057】
(フィラー含有液状組成物の調製)
・シリカ粒子材料の調製
原料シリカとして、水ガラスから合成したナノサイズのコロイダルシリカ(体積平均粒径10nm、 水中に分散されており固形分濃度20%)を準備した。
アルコールとして、イソプロパノールを準備した。
シラン化合物として、メタクリルシランを準備した。
オルガノシラザンとして、ヘキサメチルジシラザン(HMDS、信越化学工業株式会社製、HDMS−1)を準備した。
【0058】
(表面処理工程)
(1)準備工程
シリカ粒子が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール60質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、原料シリカが液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
【0059】
(2)第1工程
この分散液にビニルシラン2.0 質量部を加え、40℃で72時間混合した。この工程により、原料シリカの表面に存在する水酸基をシラン化合物で表面処理した。なお、このときビニルシランは、必要な量の水酸基(一部)が表面処理されず残存するように計算して加えた。
【0060】
(3)第2工程
次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン4.3質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水及びイソプロパノールの中で安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、ビニルシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は1:2であった。
【0061】
(固形化工程)
表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液を5質量部を加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に200℃で2時間真空乾燥して、シリカ粒子材料の固形物(シリカ粒子材料)を得た。シリカ粒子材料の表面には処理前には2.5個/nmのシラノール基が存在し、そのシラノール基の約70%がこれらの処理によって消費された。
【0062】
・フィラー
一次粒子の体積平均粒径0.25μm、二次粒子の体積平均粒径1μmの酸化チタンをフィラーとして用いた。
【0063】
・沈降試験用試料の調製
液状組成物としてメチルエチルケトン(MEK)を用いた。全体の質量に対して酸化チタンを5%になるように分散させ、更に前述のシリカ粒子材料をフィラー(酸化チタン)の質量を基準として、0%(試験例1:フィラーとシリカ粒子材料とを合わせた全体の質量を基準として0%)、15%(試験例2:フィラーとシリカ粒子材料とを合わせた全体の質量を基準として約13%)、30%(試験例3:フィラーとシリカ粒子材料とを合わせた全体の質量を基準として約23.1%)、50%(試験例4:フィラーとシリカ粒子材料とを合わせた全体の質量を基準として約33.3%)とし、均一に撹拌した。これらの試験試料を4日間放置した結果、試験試料1及び2については二層に分離しており、フィラーの沈殿が認められたのに対して試験試料3及び4では均一な状態の1層のままであり沈殿防止効果が認められた。
【0064】
試験試料1〜4についてそれぞれ粘度を測定した(回転式粘度計)。結果を試験試料1(濃度0%)を1としたときの相対値で示す。試験試料2は1.1、試験試料3は1.1、試験試料4は1.7であった。
【0065】
・参考試験
(参考試験例1)
(材料)
シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOS(日産化学工業株式会社製、平均粒径10nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を準備した。
アルコールとして、イソプロパノールを準備した。
シラン化合物として、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−103)を準備した。
オルガノシラザンとして、ヘキサメチルジシラザン(HMDS、信越化学工業株式会社製、HDMS−1)を準備した。
【0066】
(表面処理工程)
(1)準備工程
シリカ粒子が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール60質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
【0067】
(2)第1工程
この分散液にフェニルトリメトキシシラン1.8質量部を加え、40℃で72時間混合した。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシラン化合物で表面処理した。なお、このときフェニルトリメトキシシランは、必要な量の水酸基(一部)が表面処理されず残存するように計算して加えた。
【0068】
(3)第2工程
次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水及びイソプロパノールの中で安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0069】
(固形化工程)
表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液を5質量部を加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得た。
【0070】
(参考試験例2)
参考試験例2のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランにかえてビニルトリメトキシシランを用い、ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が2:5であったこと以外は、試験例5のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、ビニルトリメトキシシラン1.36質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加えた。
【0071】
なおビニルトリメトキシシランとしては、信越化学工業株式会社製 KBM−1003を用いた。
【0072】
(参考試験例3)
参考試験例3のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランにかえてビニルトリメトキシシランを用い、ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:5であったこと以外は、参考試験例1のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、ビニルトリメトキシシラン1.36質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン7.41質量部を加えた。
【0073】
(参考試験例4)
参考試験例4のシリカ粒子の表面処理方法においては、シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOL(日産化学工業株式会社製、平均粒径50nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を用いた。また、第1工程においてシラン化合物として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)0.48質量部を加えた。さらに、このシラン化合物に加えて重合禁止剤(3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、関東化学株式会社製)を0.01質量部加えた。また、第2工程において、ヘキサメチルジシラザン0.78質量部を加えた。さらに、固形化工程においては、表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液2.6質量部を加えてシリカ粒子材料を沈殿させた。これ以外は、試験例8のシリカ粒子の表面処理方法は、参考試験例1のシリカ粒子の表面処理方法と同じであった。なお、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0074】
(参考試験例5)
参考試験例5のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:1であったこと以外は、参考試験例1のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、フェニルトリメトキシシラン4.5質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加えた。
【0075】
(参考試験例6)
参考試験例6のシリカ粒子の表面処理方法は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が2:1であったこと以外は、参考試験例4のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.48質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン0.16質量部を加えた。
【0076】
(参考試験例7)
参考試験例7のシリカ粒子の表面処理方法は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:1であったこと以外は、参考試験例4のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.48質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン0.31質量部を加えた。
【0077】
(凝集性評価試験)
参考試験例1〜7のシリカ粒子材料について、液状媒体中における凝集性を測定した。
【0078】
詳しくは、参考試験例1〜3及び参考試験例5については、シリカ粒子材料10gとメチルエチルケトン40gとの混合物を攪拌し、シリカ粒子材料の分散試料を得た。
【0079】
参考試験例4、6、7については、シリカ粒子材料10gとメチルエチルケトン10gとの混合物を攪拌し、シリカ粒子材料の分散試料を得た。得られた各分散試料に含まれるシリカ粒子材料の粒度分布を、粒祖分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラック)により測定した。
【0080】
その結果、参考試験例1〜4のシリカ粒子材料は、凝集のない一次粒子の状態で分散していることが分かった。これは、参考試験例1〜4のそれぞれのシリカ粒子材料の粒度分布(ピーク)が、粒子径10nm〜50nm程度の位置に一つのみ現れていることから裏付けられる。シリカ粒子材料が二次粒子であれば(すなわち、少しでも凝集があれば)、粒子径100nm以上の位置に少なくとも一つのピークが現れる。このため、試験例5〜8のシリカ粒子材料は、一旦固形化したにもかかわらず、その殆どが一次粒子であり、殆ど凝集していないことがわかる。これに対して、試験例9〜11のシリカ粒子材料は、攪拌するだけでは分散せず、攪拌後に発振周波数39kHz、出力500Wで1時間以上超音波照射しても、肉眼で凝集が確認でき、一次粒子にまで分散しなかった。この結果から、シラン化合物とオルガノシラザンとのモル比を1:2〜1:10の範囲にすることで、固形化しても凝集し難いシリカ粒子材料を製造できることがわかる。なお、試験例5のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、試験例6のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、試験例7のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、試験例8のシリカ粒子材料の平均粒径は50nmであった。この結果から、凝集抑制のためには、シラン化合物とオルガノシラザンとのモル比を1:5〜2:5の範囲にするのが好ましいことがわかる。
【0081】
(極大吸収測定試験)
参考試験例1〜7のシリカ粒子材料を準備し、この試料の赤外線吸収スペクトルを、サーモニコレット社製 FT−IR Avatorを用いた粉体拡散反射法で測定した。このときの測定条件は、分解能4、スキャン回数64であった。結果、試験例5〜11のシリカ粒子材料の赤外吸収スペクトルは、何れも、2962cm−1にC-H伸縮振動の極大吸収(ピーク)を持つ。このため、これらのシリカ粒子材料は、アルキル基を持つこと(すなわち、アルキル基を持つオルガノシラザンで表面処理されていること)がわかる。なお、参考試験例5〜7のシリカ粒子材料のピーク高さは、参考試験例1〜4のシリカ粒子材料のピーク高さに比べて低かった。この結果は、参考試験例5〜7のシリカ粒子材料においては、充分な量のアルキル基を持たないことを示唆している。詳しくは、試験例5〜8のシリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルにおいては、シラン化合物に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm−1)のピーク高さが3倍以上であった。参考試験例5〜7のシリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルにおいては、シラン化合物に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm−1)のピーク高さが2倍以下であった。上述したように、参考試験例1〜4のシリカ粒子材料は凝集し難く、参考試験例5〜7のシリカ粒子材料は凝集し易かった。これらの結果から、シラン化合物に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm−1)のピーク高さが3倍以上であるシリカ粒子材料は凝集し難いといえる。
【0082】
(炭素量測定試験)
参考試験例1〜7のシリカ粒子材料について、シリカ粒子材料の質量あたりに存在する炭素の量(質量%)を測定した。測定には、有機炭素測定装置(HORIBA社製、EMIA−320V)を用いた。
【0083】
その結果、参考試験例1のシリカ粒子材料の炭素量は3.5質量%であり、参考試験例2のシリカ粒子材料の炭素量は2.6質量%であり、参考試験例3のシリカ粒子材料の炭素量は2.8質量%であり、参考試験例4のシリカ粒子材料の炭素量は0.96質量%であった。参考試験例5のシリカ粒子材料の炭素量は4.0質量%であり、参考試験例6のシリカ粒子材料の炭素量は1.8質量%であり、参考試験例7のシリカ粒子材料の炭素量は1.0質量%であった。
【0084】
(X数測定試験)
参考試験例1〜7のシリカ粒子材料について、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたりのXの存在数を測定した。参考試験例1及び参考試験例5のシリカ粒子材料におけるXはフェニル基であり、参考試験例2、3のシリカ粒子材料におけるXはビニル基であり、参考試験例4、6、7のシリカ粒子材料におけるXはメタクリロキシ基であった。シリカ粒子材料の表面積(比表面積)は窒素を用いたBET法で測定した。Xの存在数はシリカ粒子材料の炭素量を基に算出した。詳しくは、第1工程後のシリカ粒子を、水で洗浄し遠心分離した後に乾燥して、シラン化合物処理後のシリカ粒子試料を得た。この試料の炭素量を、有機炭素測定装置を用いて測定し、測定値を基にX数を算出した。
【0085】
その結果、参考試験例1のシリカ粒子材料におけるX数は、約1.2個/nmであった。参考試験例2のシリカ粒子材料におけるX数は、約1.1個/nmであった。参考試験例3のシリカ粒子材料におけるX数は、約1.1個/nmであった。参考試験例4のシリカ粒子材料におけるX数は、約2.0個/nmであった。参考試験例5のシリカ粒子材料におけるX数は、約1.7個/nmであった。参考試験例6のシリカ粒子材料におけるX数は、約2.0個/nmであった。参考試験例7のシリカ粒子材料におけるX数は、約2.0個/nmであった。参考までに、シラン化合物処理後のシリカ粒子試料の炭素量は、参考試験例1のシリカ粒子材料では3.6質量%、参考試験例2のシリカ粒子材料では1.1質量%、参考試験例3のシリカ粒子材料では1.1質量%、参考試験例4のシリカ粒子材料では1.5質量%であった。また、参考試験例5のシリカ粒子材料では5.0質量%、参考試験例6のシリカ粒子材料では1.5質量%、参考試験例7のシリカ粒子材料では1.5質量%であった。
【0086】
上述したように、シリカ粒子材料の樹脂材料に対する親和性はXの数及び種類によって異なり、参考試験例1のシリカ粒子材料及び参考試験例4のシリカ粒子材料は、樹脂材料に対する親和性に優れていた。この結果から、樹脂材料に対して優れた親和性を発揮するためには、シリカ粒子材料の単位表面積(nm)あたりのXは0.5個〜2.5個であるのが好ましく、1.0個〜2.0個であるのがより好ましいといえる。