特許第6046951号(P6046951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6046951空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046951
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/08 20060101AFI20161212BHJP
   B29D 30/60 20060101ALI20161212BHJP
   B60C 11/00 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   B60C19/08
   B29D30/60
   !B60C11/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-185547(P2012-185547)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-43138(P2014-43138A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 和生
【審査官】 馳平 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/026337(WO,A1)
【文献】 特開2009−161070(JP,A)
【文献】 特開2007−008388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00〜19/12
B29C67/20〜67/24
B29D30/00〜30/72
B29C47/00〜47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムリボンを螺旋状に巻き付けることにより形成されたゴムリボン巻付体からなるゴム部材を有する空気入りタイヤにおいて、
前記ゴムリボンは、非導電性ゴムと、その非導電性ゴムを部分的に被覆する導電性ゴムとにより形成された複合ゴムリボンを含み、
前記複合ゴムリボンは、幅に比べて厚みが小さい扁平な断面形状を有し、その幅方向の両端に向かって厚みが漸次小さくなり、
前記導電性ゴムは、前記複合ゴムリボンの断面積の3%以下となる断面積を有し、且つ、前記複合ゴムリボンの両端で前記非導電性ゴムが露出しないように、その複合ゴムリボンの両端における一方側の表面と他方側の表面を形成し、
前記ゴム部材では、幅方向に隣り合う前記複合ゴムリボンが部分的に重複し、それらの間で接続された前記導電性ゴムにより導電経路が設けられていて、
前記導電性ゴムは、一定の厚みをなして前記複合ゴムリボンの両端でV字状に折り返した第1の形状、または、前記複合ゴムリボンの両端の間で幅方向に延びる肉薄部と、前記肉薄部よりも厚みが大きく、前記複合ゴムリボンの両端の全厚をなす肉厚部とを備えた第2の形状を有し、
前記導電性ゴムが、前記複合ゴムリボンの断面における外周長さの50%以上となる表面を形成することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記導電性ゴムが、前記複合ゴムリボンの断面における外周長さの60%以下となる表面を形成する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
ゴムリボンを螺旋状に巻き付けることにより形成されたゴムリボン巻付体からなるゴム部材を用いて空気入りタイヤを製造する空気入りタイヤの製造方法において、
非導電性ゴムと、その非導電性ゴムを部分的に被覆する導電性ゴムとにより形成された複合ゴムリボンを被巻付体に供給する段階と、
前記複合ゴムリボンを前記被巻付体に巻き付けて、前記ゴム部材となるゴムリボン巻付体を形成する段階とを有し、
前記複合ゴムリボンは、幅に比べて厚みが小さい扁平な断面形状を有し、その幅方向の両端に向かって厚みが漸次小さくなり、
前記導電性ゴムは、前記複合ゴムリボンの断面積の3%以下となる断面積を有し、且つ、前記複合ゴムリボンの両端で前記非導電性ゴムが露出しないように、その複合ゴムリボンの両端における一方側の表面と他方側の表面を形成し、
前記導電性ゴムは、一定の厚みをなして前記複合ゴムリボンの両端でV字状に折り返した第1の形状、または、前記複合ゴムリボンの両端の間で幅方向に延びる肉薄部と、前記肉薄部よりも厚みが大きく、前記複合ゴムリボンの両端の全厚をなす肉厚部とを備えた第2の形状を有し、
前記導電性ゴムが、前記複合ゴムリボンの断面における外周長さの50%以上となる表面を形成し、
前記ゴムリボン巻付体を形成する段階では、幅方向に隣り合う前記複合ゴムリボンを部分的に重複させ、それらの間で接続された前記導電性ゴムにより導電経路を設けることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記導電性ゴムが、前記複合ゴムリボンの断面における外周長さの60%以下となる表面を形成する請求項3に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体やタイヤで発生した静電気を路面に放出できる空気入りタイヤと、その空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の低燃費化と関係が深い転がり抵抗の低減や、濡れた路面での制動性能の向上を目的として、トレッドゴムをシリカ高配合とした空気入りタイヤが提案されている。ところが、かかるトレッドゴムは、カーボンブラック高配合としたものに比べて電気抵抗が高く、車体やタイヤで発生した静電気の路面への放出を阻害するため、ラジオノイズなどの不具合を生じやすいという問題があった。
【0003】
そこで、シリカ等を配合した非導電性ゴムからなるトレッドゴムに、カーボンブラック等を配合した導電性ゴムを部分的に配置して導電経路を設け、それにより通電性能を発揮できるようにした空気入りタイヤが開発されている。トレッドゴムに限らず、サイドウォールゴムなど他のタイヤ用ゴム部材を非導電性ゴムで形成することも可能であり、かかる場合には、そのゴム部材に導電経路が設けられる。
【0004】
また、成形ドラムなどの被巻付体に未加硫のゴムリボンを連続的に供給し、そのゴムリボンを螺旋状に巻き付けることでゴムリボン巻付体を形成する、いわゆるリボン巻き工法が知られている。リボン巻き工法によれば、巻き付け条件を適宜に調節することで、種々の断面形状を簡便に成形できる。そのうえ、ゴムリボン巻付体からなるゴム部材は、大きな段差を生じるジョイント部を有さず、一体的に押出して形成されたゴム部材に比べてユニフォミティに優れたものとなる。
【0005】
リボン巻き工法は、例えば特許文献1〜3に示されているように、上述した導電経路を有するゴム部材の形成にも利用できる。しかし、転がり抵抗の低減効果を高めるべく導電性ゴムを少量にした場合には、幅方向に隣り合うゴムリボンを部分的に重複させ、且つ、それらの間で導電性ゴムを接続する巻き付けにおいて、リボン界面での導電性ゴムの接続が不十分となって導電経路が断線しやすい。しかも、このリボン界面での断線はタイヤ周方向に沿って連続するため、通電性能に支障を来たす恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−227415号公報
【特許文献2】特開2007−8388号公報
【特許文献3】特開2008−13000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リボン巻き工法を採用しながらも通電性能を良好に確保できる空気入りタイヤと、その空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、ゴムリボンを螺旋状に巻き付けることにより形成されたゴムリボン巻付体からなるゴム部材を有する空気入りタイヤにおいて、前記ゴムリボンは、非導電性ゴムと、その非導電性ゴムを部分的に被覆する導電性ゴムとにより形成された複合ゴムリボンを含み、前記複合ゴムリボンは、幅に比べて厚みが小さい扁平な断面形状を有し、その幅方向の両端に向かって厚みが漸次小さくなり、前記導電性ゴムは、前記複合ゴムリボンの断面積の3%以下となる断面積を有し、且つ、前記複合ゴムリボンの両端で前記非導電性ゴムが露出しないように、その複合ゴムリボンの両端における一方側の表面と他方側の表面を形成し、前記ゴム部材では、幅方向に隣り合う前記複合ゴムリボンが部分的に重複し、それらの間で接続された前記導電性ゴムにより導電経路が設けられているものである。
【0009】
このタイヤは、ゴムリボン巻付体からなるゴム部材を有し、そのゴムリボンは、非導電性ゴムと導電性ゴムとにより形成された複合ゴムリボンを含む。ゴム部材には、静電気を放出するための導電経路が導電性ゴムにより設けられ、リボン巻き工法を採用しながらも通電性能が発揮される。導電性ゴムの断面積は複合ゴムリボンの断面積の3%以下であり、複合ゴムリボンにおける導電性ゴムの割合は少量である。このため、非導電性ゴムによる有利な効果(例えば、転がり抵抗の低減効果)が良好に得られる。
【0010】
複合ゴムリボンは、幅方向の両端に向かって厚みが漸次小さくなる扁平な断面形状を有しており、幅方向に隣り合う複合ゴムリボンを部分的に重複させて巻き付けるのに適している。導電性ゴムは、複合ゴムリボンの両端で非導電性ゴムが露出しないよう、その両端における一方側と他方側の表面を形成する。これにより、幅方向に隣り合う複合ゴムリボンの間で導電性ゴムを適切に接続させて、リボン界面での導電経路の断線を防ぎ、通電性能を良好に確保することができる。
【0011】
本発明の空気入りタイヤでは、前記導電性ゴムが、前記複合ゴムリボンの両端の間で幅方向に延びる肉薄部と、前記肉薄部よりも厚みが大きく、前記複合ゴムリボンの両端の全厚をなす肉厚部とを備えるものが好ましい。これにより、複合ゴムリボンの両端において導電性ゴムの厚みを大きくし、幅方向に隣り合う複合ゴムリボンの間で導電性ゴムを適切に接続することができる。
【0012】
本発明の空気入りタイヤでは、前記導電性ゴムが、前記複合ゴムリボンの断面における外周長さの60%以下となる表面を形成するものが好ましい。これによって、複合ゴムリボンに含まれる導電性ゴムが更に少量となり、非導電性ゴムによる有利な効果(例えば、転がり抵抗の低減効果)が良好に得られる。
【0013】
また、本発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、ゴムリボンを螺旋状に巻き付けることにより形成されたゴムリボン巻付体からなるゴム部材を用いて空気入りタイヤを製造する空気入りタイヤの製造方法において、非導電性ゴムと、その非導電性ゴムを部分的に被覆する導電性ゴムとにより形成された複合ゴムリボンを被巻付体に供給する段階と、前記複合ゴムリボンを前記被巻付体に巻き付けて、前記ゴム部材となるゴムリボン巻付体を形成する段階とを有し、前記複合ゴムリボンは、幅に比べて厚みが小さい扁平な断面形状を有し、その幅方向の両端に向かって厚みが漸次小さくなり、前記導電性ゴムは、前記複合ゴムリボンの断面積の3%以下となる断面積を有し、且つ、前記複合ゴムリボンの両端で前記非導電性ゴムが露出しないように、その複合ゴムリボンの両端における一方側の表面と他方側の表面を形成し、前記ゴムリボン巻付体を形成する段階では、幅方向に隣り合う前記複合ゴムリボンを部分的に重複させ、それらの間で接続された前記導電性ゴムにより導電経路を設けるものである。
【0014】
この方法は、ゴム部材となるゴムリボン巻付体を形成する段階を有し、ゴムリボンは、非導電性ゴムと導電性ゴムとにより形成された複合ゴムリボンを含む。ゴム部材には、静電気を放出するための導電経路が導電性ゴムにより設けられ、リボン巻き工法を採用しながらも通電性能が発揮される。導電性ゴムの断面積は複合ゴムリボンの断面積の3%以下であり、複合ゴムリボンにおける導電性ゴムの割合は少量である。このため、非導電性ゴムによる有利な効果(例えば、転がり抵抗の低減効果)が良好に得られる。
【0015】
複合ゴムリボンは、幅方向の両端に向かって厚みが漸次小さくなる扁平な断面形状を有しており、幅方向に隣り合う複合ゴムリボンを部分的に重複させて巻き付けるのに適している。導電性ゴムは、複合ゴムリボンの両端で非導電性ゴムが露出しないよう、その両端における一方側と他方側の表面を形成する。これにより、幅方向に隣り合う複合ゴムリボンの間で導電性ゴムを適切に接続させて、リボン界面での導電経路の断線を防ぎ、通電性能を良好に確保することができる。
【0016】
本発明の空気入りタイヤの製造方法では、前記導電性ゴムが、前記複合ゴムリボンの両端の間で幅方向に延びる肉薄部と、前記肉薄部よりも厚みが大きく、前記複合ゴムリボンの両端の全厚をなす肉厚部とを備えるものが好ましい。これにより、複合ゴムリボンの両端において導電性ゴムの厚みを大きくし、幅方向に隣り合う複合ゴムリボンの間で導電性ゴムを適切に接続することができる。
【0017】
本発明の空気入りタイヤの製造方法では、前記導電性ゴムが、前記複合ゴムリボンの断面における外周長さの60%以下となる表面を形成するものが好ましい。これによって、複合ゴムリボンに含まれる導電性ゴムが更に少量となり、非導電性ゴムによる有利な効果(例えば、転がり抵抗の低減効果)が良好に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図
図2】加硫成形前のトレッドゴムを概略的に示す断面図
図3】ゴムリボンの巻き付け位置の移動経路を示す概念図
図4】複合ゴムリボンの断面図
図5】ゴムリボンの断面図
図6】ゴムリボンの巻き付けを行うための製造設備を示す図
図7】トレッドゴムの断面図
図8】別実施形態におけるトレッドゴムを概略的に示す断面図
図9】別実施形態におけるゴムリボンの巻き付け位置の移動経路を示す概念図
図10】別実施形態における複合ゴムリボンの断面図
図11】別実施形態における複合ゴムリボンの断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示した空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3と、一対のビード部1の間に設けられたトロイド状のカーカス層7とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配設されている。
【0021】
カーカス層7は、少なくとも1枚(本実施形態では2枚)のカーカスプライにより構成されており、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカスプライは、タイヤ周方向に対して略90°の角度で延びるコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。カーカス層7の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム5が設けられている。
【0022】
また、このタイヤTは、ビード部1でカーカス層7の外側に設けられ、図示しないリムと接触可能なリムストリップゴム4と、サイドウォール部2でカーカス層7の外側に設けられたサイドウォールゴム9と、トレッド部3でカーカス層7の外側に設けられたトレッドゴム10とを備える。本実施形態では、カーカス層7のトッピングゴム(カーカスプライのトッピングゴム)及びリムストリップゴム4が、それぞれ導電性ゴムで形成され、サイドウォールゴム9が非導電性ゴムで形成されている
【0023】
トレッドゴム10のタイヤ径方向内側には、複数枚(本実施形態では2枚)のベルトプライにより構成されたベルト層6と、実質的にタイヤ周方向に延びるコードをトッピングゴムで被覆してなるベルト補強層8とが設けられている。各ベルトプライは、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるコードをトッピングゴムで被覆して形成され、該コードがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。ベルト補強層8は、必要に応じて省略しても構わない。
【0024】
図2は、加硫成形前のトレッドゴム10を概略的に示している。トレッドゴム10は、非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップ部12と、非導電性ゴムで形成され且つキャップ部12のタイヤ径方向内側に設けられたベース部11と、導電性ゴムで形成された導電部13とを有する。導電部13は、キャップ部12の外周面に露出した一端からキャップ部12の内周面に至る他端まで連続して延び、断面L字状をなしている。図面上での区別を容易にするため、図1などでは導電部13を薄黒く着色している。
【0025】
導電性ゴムは、室温(20℃)における体積抵抗率が10Ω・cm未満であるゴムを指し、例えば原料ゴムに補強剤としてカーボンブラックを高比率で配合することにより作製される。該カーボンブラックは、例えばゴム成分100重量部に対して30〜100重量部で配合される。導電性ゴムは、カーボンブラック以外にも、カーボンファイバーや、グラファイト等のカーボン系、及び金属粉、金属酸化物、金属フレーク、金属繊維等の金属系の公知の導電性付与材を配合することでも得られる。
【0026】
非導電性ゴムは、室温(20℃)における体積抵抗率が10Ω・cm以上であるゴムを指し、例えば原料ゴムに補強剤としてシリカを高比率で配合することにより作製される。該シリカは、例えばゴム成分100重量部に対して30〜100重量部で配合される。シリカとしては、湿式シリカを好ましく用いうるが、補強材として汎用されているものは制限なく使用できる。非導電性ゴムは、沈降シリカや無水ケイ酸などのシリカ類以外にも、焼成クレーやハードクレー、炭酸カルシウムなどを配合して作製してもよい。
【0027】
また、非導電性ゴムには、原料ゴムに配合する補強剤として、シリカを含まず又はシリカを低比率で配合し、高分散させたカーボンブラックを主体としたものを使用することも可能である。かかる非導電性ゴムは、転がり抵抗の増大を抑えるのに加え、剛性の確保にも有効である。そのため、サイドウォールゴム9やカーカスプライのトッピングゴムに適用することにより、タイヤ側方部の剛性を確保して操縦安定性能を高められる。
【0028】
上記の原料ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用される。かかる原料ゴムには、加硫剤や加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤等も適宜に配合される。
【0029】
トレッドゴム10には、接地面からカーカス層7に至る導電経路が導電部13により設けられる。導電部13は、接地面からタイヤ径方向内側に延びてベース部11の外周面に到達し、キャップ部12とベース部11との間をタイヤ幅方向の一方側(図1の右側)に延びてカーカス層7に接続される。車体やタイヤで発生した静電気は、リムから、リムストリップゴム4、カーカス層7及び導電部13を経由して路面に放出される。したがって、ベルト層6やベルト補強層8のトッピングゴムは非導電性ゴムでも構わない。
【0030】
次に、空気入りタイヤTを製造する方法について説明する。空気入りタイヤTは、トレッドゴム10に関する点を除けば、従来のタイヤ製造工程と同様にして製造できるため、トレッドゴムの成形工程を中心に説明する。
【0031】
トレッドゴム10は、ベース部11を形成した後、リボン巻き工法でキャップ部12を形成することにより成形される。リボン巻き工法は、小幅で未加硫のゴムリボンをタイヤ周方向に螺旋状に巻き付けてゴム部材を成形する工法である。したがって、キャップ部12は、ゴムリボンを螺旋状に巻き付けることにより形成されたゴムリボン巻付体からなる。図3は、ゴムリボンの巻き付け位置の移動経路の一例を概念的に示しており、本実施形態では横向き8の字状の経路に沿ってゴムリボンが巻き付けられる。
【0032】
キャップ部12の形成に用いるゴムリボンは、図4に示すような、非導電性ゴム21と、その非導電性ゴム21を部分的に被覆する導電性ゴム22とにより形成された複合ゴムリボン20を含む。図4におけるゴムリボン20は、非導電性ゴム21と導電性ゴム22との複層のゴムリボンであるが、必要に応じて、図5のような非導電性ゴム21でのみ形成された単層のゴムリボンとされる。
【0033】
ゴムリボン20の成形及び巻き付けは、図6に例示したような設備を用いて行うことができる。この設備は、二種のゴムを共押出して複層のゴムリボン20を成形可能なゴムリボン供給装置30と、ゴムリボン供給装置30より供給されたゴムリボン20が巻き付けられる被巻付体としての回転支持体31と、ゴムリボン供給装置30及び回転支持体31の作動制御を行う制御装置32とを備える。回転支持体31は、軸31aを中心としたR方向の回転と、軸方向への移動とが可能に構成されている。
【0034】
押出機33は、ホッパー33a、スクリュー33b、バレル33c、スクリュー33bの駆動装置33d、及び、ギアポンプを内蔵するヘッド部33eを備えている。これと同様に、押出機34もホッパー34a、スクリュー34b、バレル34c、駆動装置34d及びヘッド部34eを備える。一対の押出機33、34の先端には、口金36が付設されたゴム合体部35が設けられている。
【0035】
ホッパー33aにゴム材料である非導電性ゴムを投入し、ホッパー34aにゴム材料である導電性ゴムを投入すると、各ゴムはスクリュー33b、34bで混練されながら前方に送り出され、ヘッド部33e、34eを経由し、ゴム合体部35にて所定の形状で合体され、複層のゴムリボン20として吐出口36aから押出成形される。成形されたゴムリボン20は、ロール37によって前方に送り出され、ローラ38によって押さえ付けられながら回転支持体31に巻き付けられる。
【0036】
ゴムリボン20を成形する際に、ヘッド部34e内のギアポンプの回転を制止し、必要であればスクリュー34bの回転も制止して、導電性ゴムの押出を停止すれば、図5のように非導電性ゴム21の単層としたゴムリボンが得られる。このようなヘッド部34e内のギアポンプ及びスクリュー34bの作動は制御装置32により制御され、ゴムリボンにおける単層と複層とを自在に切り換えられる。
【0037】
図4は、複合ゴムリボン20を長さ方向に垂直な平面で切断したときの断面である。複合ゴムリボン20は、幅に比べて厚みが小さい扁平な断面形状を有し、その幅方向WDの両端に向かって厚みが漸次小さくなる。かかる断面形状は、幅方向に隣り合う複合ゴムリボンを部分的に重複させて巻き付けるのに適している。複合ゴムリボン20の最大幅wは14〜36mmが好ましく、最大厚みtは1.0〜3.6mmが好ましい。ゴムリボン20の断面は、三角形状に限られず、楕円形状や菱形状など他の形状でも構わない。
【0038】
導電性ゴム22は、複合ゴムリボン20の断面積の3%以下となる断面積を有する。これにより、複合ゴムリボン20における導電性ゴム22の割合が少量となるため、非導電性ゴム21による有利な効果(例えば、転がり抵抗の低減効果)が良好に得られる。この断面積比は3%未満が好ましく、2%以下が更に好ましい。また、導電経路を適切に設けるうえで、この断面積比は1%以上であることが好ましい。
【0039】
導電性ゴム22は、複合ゴムリボン20の両端で非導電性ゴム21が露出しないように、その複合ゴムリボン20の両端における一方側(図4の下側)の表面と他方側(図4の上側)の表面を形成する。これにより、後ほど詳述する複合ゴムリボン20の巻き付けにおいて、幅方向に隣り合う複合ゴムリボン20の間で導電性ゴム22を適切に接続させることができる。その結果、リボン界面での導電経路の断線を防いで、通電性能を良好に確保できる。
【0040】
本実施形態では、導電性ゴム22が、複合ゴムリボン20の両端の間で幅方向に延びる肉薄部22aと、肉薄部22aよりも厚みが大きく、複合ゴムリボン20の両端の全厚をなす肉厚部22bとを備える。肉薄部22aの厚みtaは、例えば0.04〜0.20mmであり、肉厚部22bの最大厚みtbは、例えば0.1〜0.5mmである。肉厚部22bの幅wbは、例えば複合ゴムリボン20の最大幅wの5〜50%、好ましくは5〜20%である。肉薄部22aは、一対の肉厚部22bを連結するように幅方向に連続し、肉厚部22bは、導電性ゴム22の幅方向両端を構成している。
【0041】
複合ゴムリボン20の表面は、非導電性ゴム21と導電性ゴム22とにより形成されている。巻き付け時には、図4の下側が回転支持体31に対向する内周側となる。複合ゴムリボン20の内周側となる表面は、全て導電性ゴム22により被覆されている。複合ゴムリボン20に含まれる導電性ゴム22を少量にするうえで、導電性ゴム22は、複合ゴムリボン20の断面における外周長さの60%以下となる表面を形成することが好ましい。また、導電経路を適切に設けるうえで、導電性ゴム22は前記外周長さの50%以上となる表面を形成することが好ましい。
【0042】
トレッドゴム10を形成する際には、まず、回転支持体31の外周面に非導電性ゴム21でベース部11を形成する。図3には描かれていないが、回転支持体31の外周面には予めベルト層6とベルト補強層8とが設けられており、それらの上にベース部11が形成される。ベース部11の形成は、押出成形法とリボン巻き工法のどちらを利用しても構わない。押出成形法は、所定の断面形状を有する未加硫の帯状ゴム部材を押出成形し、その端部同士をジョイントして環状に成形する工法である。
【0043】
続いて、ベース部11を形成したら、その外周に図3の経路でゴムリボンを巻き付けていき、キャップ部12を形成する。このとき、巻き付け最中のゴムリボンに導電性ゴム22を部分的に設け、被巻付体としての回転支持体31に複合ゴムリボン20を供給する。そして、複合ゴムリボン20を被巻付体に巻き付け、キャップ部12となるゴムリボン巻付体を形成する。ゴムリボン巻付体を形成する段階では、幅方向に隣り合う複合ゴムリボン20を部分的に重複させ、それらの間で接続された導電性ゴム22により導電経路を設ける。
【0044】
具体的には図7に示すように、複合ゴムリボン20は、幅方向に隣り合う複合ゴムリボン20が部分的に重複し、それらの間で導電性ゴム22が接続されるように巻き付けられる。複合ゴムリボン20はP1からP2までの区間で供給され、その導電性ゴム22により導電経路が設けられる。P1は接地面に露出する地点であり、P2はベース部11の片方の端部を通過した地点である。その他の箇所では導電性ゴム22が設けられず、図5に示した単層のゴムリボンとされる。
【0045】
導電性ゴム22の接続を確保するうえで、両端における一方側の表面と他方側の表面を導電性ゴム22で形成した複合ゴムリボン20の構造は都合が良く、リボン界面での導電経路の断線を防いで通電性能の確保に資する。図7に示すように、導電部13は、図2に示した部分だけでなく、その部分から接地面側に分岐して途中で終端する複数の枝状部分を有するが、図1,2では記載を省略している。但し、導電部13は、そのような枝状部分を具備するものに限られない。
【0046】
トレッドゴム10の成形工程後は、グリーンタイヤの成形工程へと移行し、トロイド状に成形したカーカス層7の外周面にトレッドゴム10を貼り合わせるとともに、他のタイヤ構成部材と組み合わせてグリーンタイヤを成形する。その後、グリーンタイヤの加硫工程へと移行し、グリーンタイヤに加硫処理を施すことで、図1に示した空気入りタイヤTが製造される。複合ゴムリボン20の巻き付けにより生じるリボン界面は、加硫処理後のタイヤ断面において特定が可能であり、例えば鋭利な刃物でタイヤを切断することによって、その断面に薄く観察されるゴム界面の性状によって判別できる。
【0047】
トレッドゴム10に所要の導電経路が設けられていれば、導電部13の形状は特に制限されない。例えば図8のような一対の導電部13を有するキャップ部12を、図9のようなゴムリボンの巻き付けにより形成することもできる。
【0048】
導電部13により構成される導電経路は、キャップ部12を貫通して外周面から内周面に至るものに限られず、例えばキャップ部12の外周面からトレッドゴム10の側面に到達するものでもよい。トレッドゴム10の側面で露出した導電部13は、サイドウォールゴム9に埋設された導電部に接続され、或いは導電性ゴムにより形成されたサイドウォールゴム9に接続される。静電気は、リムから、リムストリップゴム4、サイドウォールゴム9(に設けられた導電部)、導電部13を経由して路面に放出される。
【0049】
本実施形態では、サイドウォールゴム9の端部をトレッドゴム10の端部に載せてなるサイドオントレッド構造を採用しているが、これに代えて、トレッドゴム10の端部をサイドウォールゴム9の端部に載せてなるトレッドオンサイド構造を採用することも可能である。その場合、導電部13は、サイドウォールゴム9に埋設された導電部に接続したり、或いは導電性ゴムにより形成されたサイドウォールゴム9に接続したりしてもよい。
【0050】
図10,11のような複合ゴムリボン20であっても、上記同様にリボン界面での導電経路の断線を防いで通電性能の確保に資する。図10は、導電性ゴム22が一定の厚みをなす例であり、図11は、導電性ゴム22が複合ゴムリボン20の中央部で途切れる例である。何れの例でも導電性ゴム22は少量であり、複合ゴムリボン20の両端における一方側の表面と他方側の表面が導電性ゴム22により形成されている。図11の導電性ゴム22に、上述した肉薄部と肉厚部を設けることも可能である。
【0051】
ゴムリボン巻付体からなるゴム部材は、トレッドゴム10を構成するキャップ部12に限られず、他のゴム部材でも構わない。したがって、例えば、上記の如き複合ゴムリボンの巻き付けにより、導電経路が設けられるサイドウォールゴムを形成することも可能である。
【0052】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0054】
(1)転がり抵抗
国際規格ISO28580(JISD4234)に準じて転がり抵抗を測定し、その逆数にて評価した。実施例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど転がり抵抗に優れていることを示す。
【0055】
(2)操縦安定性
実車にタイヤを装着して車両指定の空気圧とし、直進走行や旋回走行を実施してドライバーの官能試験により評価した。実施例1の結果を100として指数で評価し、数値が大きいほど操縦安定性に優れていることを示す。
【0056】
図4,5に示したゴムリボンを用いてリボン巻き工法によりキャップ部を形成し、図1の構造を有する空気入りタイヤを製造した。評価に供したタイヤのサイズは195/65R15であり、断面積比(複合ゴムリボンの断面積に対する導電性ゴムの断面積の比率)を除いて、各例におけるタイヤ構造やゴム配合は共通している。評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、比較例に比べて実施例1〜3では転がり抵抗に優れており、実施例2,3ではより良好である。また、比較例に比べて実施例1〜3では操縦安定性に優れている。これは、導電性ゴムを少量にできたことから、非導電性ゴムを主体としたキャップ部における異種ゴムが少なくなり、横方向への剪断剛性の低下を抑えて旋回性能の悪化が低められたものと考えられる。
【符号の説明】
【0059】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 リムストリップゴム
7 カーカス層
9 サイドウォールゴム
10 トレッドゴム
11 ベース部
12 キャップ部
13 導電部
20 複合ゴムリボン
21 非導電性ゴム
22 導電性ゴム
22a 肉薄部
22b 肉厚部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11