(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6046960
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】サイディング材の目地の防水材、同防水材を備えた防水構造、同防水構造を備えた建築物、並びに、同防水材を使用した防水方法
(51)【国際特許分類】
E04F 13/08 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
E04F13/08 101X
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-195840(P2012-195840)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-51804(P2014-51804A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】598109187
【氏名又は名称】パーカーアサヒ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(72)【発明者】
【氏名】福地 保雄
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−071078(JP,A)
【文献】
特開2006−009285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/08
E04F 13/12
E04F 19/02
E04F 19/06
E04B 1/684
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地から離れた状態で隣接して設けられるサイディング材の目地を構成する対向部に、樋状の部材のそれぞれの側壁を接合させるとともに前記樋状の部材の底を前記下地に当接させるようにして配置される樋状の防水材であって、
前記防水材は、弾性を有するシート状物を樋状に折り曲げて形成され、前記防水材の側壁の前記サイディング材側に粘着剤が設けられ、
前記防水材の底の幅は、前記サイディング材の目地の幅よりも広くして、前記防水材の側壁の前記下地側は、傾斜して前記底に接続され、
前記防水材の側壁の開放端側を、前記サイディング材側へ傾斜させたことを特徴とするサイディング材の目地の防水材。
【請求項2】
前記防水材の側壁間の幅と前記底の幅との比は、1:1.3〜2.0であることを特徴とする請求項1に記載のサイディング材の目地の防水材。
【請求項3】
前記防水材の側壁の前記下地側の傾斜した部分の長さと、前記底の幅との比は、1:2〜4.0であることを特徴とする請求項2に記載のサイディング材の目地の防水材。
【請求項4】
前記防水材の側壁の開放端側の傾斜した部分の長さは、前記目地幅の0.3倍以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のサイディング材の目地の防水材。
【請求項5】
前記粘着剤は、離型シートを備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のサイディング材の目地の防水材。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の防水材が、前記目地に設けられ、前記防水材の内側にガスケットが設けられていることを特徴とするサイディング材の目地の防水構造。
【請求項7】
請求項6に記載の防水構造を備えたことを特徴とする建築物。
【請求項8】
請求項5に記載の防水材を、前記目地に挿入した後、前記粘着剤に設けられた前記離型シートを除去し、前記防水材内にガスケットを挿入することを特徴とするサイディング材の目地の防水方法。
【請求項9】
前記防水材は、垂直方向に延在する前記目地に設け、上下に隣接する前記サイディング材の接合部は、隣接する前記サイディング材の端部が重なり合うように形成し、いずれかの前記接合部に他の粘着剤を設けるとともに、前記他の粘着剤の露出面に膜厚5〜20μmの樹脂製硬化皮膜を設けて、接合時に前記樹脂製硬化皮膜を破ることにより、上下に隣接する前記サイディング材の接合部をシールするようにしたことを特徴とする請求項8に記載のサイディング材の目地の防水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイディング材の目地の防水材、同防水材を備えた防水構造、同防水構造を備えた建築物、並びに、同防水材を使用した防水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建築物は、
図1を示すように、間隔をおいて設けられた柱1の外壁となる側に、下地となる透湿の防水シート2を設け、その上から合板等からなる胴縁3に、サイディング材の取付金具4を釘5等より固定し、取付金具4にサイディング材6を固定し、胴縁3とサイディング材6との間に通気路7を設けるようにしている。
上下に隣接するサイディング材6の目地8は、
図2に示すように上側のサイディング材の下端部の外壁側に溝9を設け、下側のサイディング材の上端部の外壁側に凸部10を設けて、上下のサイディング材6,6の端部が外壁面に垂直方向に積層されるようにすることにより、通気路7への水の浸入を防ぐようにしている。また、サイディング材間に縦目地が生じる場合には、コーキング材により防水をしている。
【0003】
窯業系のサイディング材を使用する建築物においては、外壁の裏側に水が浸入した場合であっても、透湿の防水シートがあるために、これまでは、十分な防水施工を行っていなかった。
しかしながら、胴縁は、上記の通り、合板等を釘等で固定しただけのものであるので、水が浸入すれば腐食し易いという問題があったため、例えば、特許文献1や2に開示されるような防水方法等が提案されている。
【0004】
ところで、従来から、枠組壁工法においては、例えば、
図3や
図4で示すように、樹脂製防水材11を粘着剤12で目地に固定するという乾式の防水構造も採用されている。
図3に示す例では、目地8を構成する対向するサイディング材6,6のそれぞれに粘着剤12,12を設けて、断面形状がJ字状の樹脂製防水材11,11を、釘5,5により固定して防水構造としたものである。
図4の例では、目地8を構成する対向するサイディング材6,6のそれぞれに粘着剤12,12を設けて、目地8間に断面形状がW字状の樹脂製防水材11を挿入して防水構造としたものである。
【0005】
図3で示した防水構造は、防水材11の固定部位が多く、作業効率が非常に悪いという問題があった。
図4で示した防水構造の場合には、
図5に示すように、防水材11に挿入されるガスケット14が、元の形状に戻ろうとして、手前(外壁面の表面)側の粘着剤12,12が奥へと移動して、目地8から飛び出してしまうという問題があった。
【0006】
また、目地へコーキングする場合には、コーキング材の被着面の成層、マスキング、バックアップ材の充填、プライマーの塗布等の作業が必要であるため、極めて作業効率が悪いという問題があった。
また、窯業系のサイディング材は、重いにもかかわらず取付金具のみにより固定されているので、サイディング材が振動等すれば負荷が高くなり劣化が早いという問題があった。また、コーキング材を再度塗布する場合には、先に塗布されていたコーキング材を完全に除去する必要があったので極めて効率が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−1986号公報
【特許文献2】特開2011−174344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためのもので、サイディング材の裏面への水分の浸入を防ぎ、乾式で効率良く施工が可能なサイディング材の目地の防水材、同防水材を備えた防水構造、同防水構造を備えた建築物、並びに、同防水材を使用した防水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討の結果、下記の通り解決手段を見出した。
即ち、本発明のサイディング材の目地の防水材は、請求項1に記載の通り、下地から離れた状態で隣接して設けられるサイディング材の目地を構成する対向部に、樋状の部材のそれぞれの側壁を接合させるとともに前記樋状の部材の底を前記下地に当接させるようにして配置される樋状の防水材であって、前記防水材は、弾性を有するシート状物を樋状に折り曲げて形成され、前記防水材の側壁の前記サイディング材側に粘着剤が設けられ、前記防水材の底の幅は、前記サイディング材の目地の幅よりも広くして、前記防水材の側壁の前記下地側は、傾斜して前記底に接続され、前記防水材の側壁の開放端側を、前記サイディング材側へ傾斜させたことを特徴とする。
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の発明において、前記防水材の側壁間の幅と前記底の幅との比は、1:1.3〜2.0であることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の発明において、前記防水材の側壁の前記下地側の傾斜した部分の長さと、前記底の幅との比は、1:2〜4.0であることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の発明において、前記防水材の側壁の開放端側の傾斜した部分の長さは、前記目地幅の0.3倍以上であることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の発明において、前記粘着剤は、離型シートを備えたことを特徴とする。
また、本発明のサイディング材の防水構造は、請求項6に記載の通り、請求項1乃至5の何れか1項に記載の防水材が、前記目地に設けられ、前記防水材の内側にガスケットが設けられていることを特徴とする。
また、本発明の建築物は、請求項7に記載の通り、請求項6に記載の防水構造を備えたことを特徴とする。
また、本発明のサイディング材の目地の防水方法は、請求項8に記載の通り、請求項5に記載の防水材を、前記目地に挿入した後、前記粘着剤に設けられた前記離型シートを除去し、前記防水材内にガスケットを挿入することを特徴とする。
また、請求項9に記載の本発明は、請求項8に記載の発明において、前記防水材は、
垂直方向に延在する前記目地に設け、上下に隣接する前記サイディング材の接合部は、隣接する前記サイディング材の端部が重なり合うように形成し、いずれかの前記接合部に他の粘着剤を設けるとともに、前記他の粘着剤の露出面に膜厚5〜20μmの樹脂製硬化皮膜を設けて、接合時に前記樹脂製硬化皮膜を破ることにより、上下に隣接する前記サイディング材の接合部をシールするようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、窯業系サイディング材の外壁の内側に設けられた通気路への水の浸入を防ぎ、胴縁等の部材の劣化を防ぐことができる。更に、防水材は施工後にも目地から外側に突出することがなく、目地防水の経年劣化を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図6は、本発明の防水材が取り付けられる施工部位を説明するための建築物の外壁構造の水平面の断面図であり、所謂、縦目地の断面図である。
胴縁3は柱1に釘5により固定され、この胴縁3の両側には取付金具4,4が設けられ、この取付金具4,4にサイディング材6,6が取り付けられる。尚、図示しないが、柱1と同縁3との間には、防水シートが設けられる。また、以下の説明で使用するため、取付金具4とサイディング材6の裏面との距離を(H)とし、サイディング材6,6間の幅、即ち、目地幅を(W)としている。
上記の通り、施工部位においてサイディング材6,6は胴縁3から距離(H)だけ離れて設けられ、サイディング材6,6の裏側に通気路7が形成される。
【0012】
施工部位に配置されることになる本発明の防水材15は、弾性を備えた樹脂シートを折り曲げて、
図7に断面図を示すように、目地方向に延在して、且つ、目地の幅よりも広い幅を有する底(A)と、サイディング材の目地を構成する対向部に接合される側壁(C)と、底の端部に接続され底上方に折り曲げられた側壁の第1の傾斜部(B)と、底と反対側に位置する側壁の開放端側をサイディング材側に折り曲げることにより形成された側壁の第2の傾斜部(D)とを備えるようにして形成される。
そして、側壁(C)には、
図8で示すように離型シート17が設けられた粘着剤16が設けられて、本発明の防水材15となる。
【0013】
次に、この防水材15を施工して防水を確保するための防水方法について説明する。
図8に示すように、目地の外方から防水材15を挿入して、底(A)を取付金具4に当接する。そして、目地の外方から、防水材15の第2の傾斜部(D)と粘着剤17との間の離型シート16を剥離する。
次に、
図9に示すように、防水材15の内側にガスケット14を挿入する。図示したガスケット14は、軸部に対して略円弧状の部材を複数間隔をおいて設けて構成されたもので、この略円弧状の部材は、ガスケット14の先端側から後端側に向かって徐々に大きくなる関係にある。
この防水構造によれば、第1の傾斜部(B)は、サイディング材6,6の下地側の角と当接した状態となる。このため、ガスケット14が元の形状に戻ろうと目地方向に広がろうと変形したとしても、傾斜部(B)がサイディング材6,6の下地側により引っ掛かり、防水材14が目地8の外方に飛び出すことがない。
また、上記の通りの方法により施工すれば、サイディング材6の目地の防水施工を乾式の施工により迅速且つ確実に行うことができる。
本発明の防水構造によれば、サイディング材6の内側の通気路7への水の浸入を防ぎ、胴縁等の部材の腐食を防ぐことができる。
【0014】
上記説明した例において、防水材15の底(A)が目地8を通過して、更に、第1の傾斜部(B)がサイディング材6の下地側に当接するためには、弾性を有するシート状物の弾性や厚さ、粘着剤の粘度や厚さ、目地幅(W)、距離(H)に応じて変更する必要がある。
例えば、目地8の幅(W)が10mm、目地8と下地(取付金具4)との間の距離(H)が5mmである場合には、厚さ0.4mmの弾性を有するシート状物を構成し、厚さ1.5mm、幅8mm、長さ11mm(側壁の部分(B)の長さ)の未加硫のブチルゴム系の粘着剤を使用した場合には、対向する側壁の部分(B)間の幅と、底(A)の幅との関係は、1:1.3〜2.0とする。
また、第1の傾斜部(B)の長さと、底(A)の幅との比は、1:2.0〜4.0とする。
前記防水材の第2の傾斜部の長さ(D)は、ガスケット14がスムーズに挿入できる程度のものであれば特に制限するものではないが、目地8の幅(W)の0.3倍以上であることが好ましい。
【0015】
上記説明した例では、縦目地の防水構造について説明したが、これを
縦目地のみに適用して、上下方向に隣接するサイディング材間の防水は、
図10に示すような防水構造としてもよい。
図10では、上側のサイディング材6の下端部の外壁側に溝9を設け、下側のサイディング材6の上端部の外壁側に凸部10を設けて、上下のサイディング材の端部が外壁面に垂直方向に重なり合うように構成し、上側のサイディング材の溝9内に、露出面側に膜厚5〜20μmの樹脂製硬化被膜18aを備えた他の粘着剤18を設けた防水構造をしている。
この構造によれば、上下のサイディング材6,6は、接合位置を調整自在とすることができる。また、接合後には、サイディング材6,6の自重により、樹脂製硬化被膜18aが破れて、下側のサイディング材6の上端部にも粘着剤18が付着する。また、更に、上下のサイディング材6,6の目地側方に他の粘着剤18が押し出される程度に他の粘着剤18の量を調整することにより、他の粘着剤18が防水材15に設けられた粘着材16,16と接着して、サイディング材6,6の周囲全体が防水された防水構造となる。
【0016】
本発明における樹脂製のシート状物については、防水材15とした場合に、第1の傾斜部(B)が弾性変形して目地8を通過できる程度の弾性を有し、防水材15の下地側へ水が浸入しない程度の物性を有するものであれば特に制限はない。また、目地8への挿入時に施工位置を把握し易くするために透明性を有する合成樹脂シートを使用することが好ましい。尚、合成樹脂シートとして、ポリプロピレンシートを使用する場合には、例えば、50モル%以上のプロピレン単位成分を有する結晶性混合物を配向させることなく無延伸状態で均一な厚みにシート化したものを使用することが好ましい。また、合成樹脂シートは、厚みを0.3〜3.0mm程度にすることが好ましい。
また、樹脂製シートを防水材の形状とするためには、一般的な成形以外にも、シート状のものを折り曲げて、防水材としてもよい。
粘着剤についても、防水材とサイディング材とを接着させることができるものであれば特に制限はないが、シール性に優れたブチル系粘着剤を用いて接合することが好ましい。
ガスケットについても、先細で、両側のサイディング材側へ防水材を押圧できる程度の弾性と、外部からの要因によって樹脂製シート状物が損傷することがないように保護でき、且つ、手作業で取付・取り外し等できる程度の強度を備えたものであれば、ゴムや樹脂等の構成材料について特に制限はない。尚、樹脂製シート状物の材料としてキャスティングポリプロピレンを使用した場合には、火災時等に炎がシート状物に移ったり、熱により変形することを防ぐために耐熱性のEPDMを主成分としたものやTPOに黒鉛を添加したものなどからガスケットを構成することが望ましい。また、キャスティングポリプロピレンは耐光性が弱いため、光を遮ることができるようにガスケットは不透明な材料であることが好ましい。
また、他の粘着剤については、粘着性及びシール性を有するものであれば特に制限はないが、円柱状に成形した未加硫のブチルゴムを連接した粘着剤とすることにより、露出面に被覆される樹脂製硬化被膜が破られ易くなるので好ましい。また、樹脂製硬化皮膜を構成する樹脂としては、ポリウレタン、アクリル樹脂、ゼラチン、セルロース、澱粉や水ガラス等を挙げることができる。また、樹脂製硬化皮膜の膜厚は、樹脂の種類により適宜選択されるものであるが、上下のサイディング材の接合時に破られ易くする程度の厚さとして、膜厚5〜20μmとする。
尚、本発明のサイディング材は、市販されているもの全てに適用できるが、窯業系サイディング材の防水についてはほとんど行われていないので、特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】建築物への従来のサイディング材の取付状態を示す説明図
【
図3】従来のサイディング材の目地への乾式防水施工の説明図
【
図4】従来のサイディング材の目地への乾式防水施工の説明図
【
図6】本発明の一実施の形態の防水材の施工部位の説明図
【
図8】本発明の一実施の形態の防水材を目地へ挿入した状態を示す説明図
【
図9】
図8の状態の後にガスケットを挿入した状態を示す説明図
【
図10】本発明の一実施の形態の防水構造の変形例を示す説明図
【符号の説明】
【0018】
1 柱
2 防水シート
3 胴縁
4 取付金具
5 釘
6 サイディング材
7 通気路
8 目地
9 溝
10 凸部
11 樹脂製防水材
12 粘着剤
13 釘
14 ガスケット
15 防水材
16 離型シート
17 粘着剤