(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、応用例、詳細説明、補足説明等の関係にある。
【0022】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0023】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。
【0024】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数等(個数、数値、量、範囲等を含む)についても同様である。
【0025】
また、実施の形態で用いる図面において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0026】
以下、本明細書の説明においては、透光性を有する基板の厚さ方向をz軸、金属ワイヤの長手方向(延在方向)をy軸とするx、y、z座標系を統一して用いることにする。電磁波を垂直入射させる場合、p偏光光(TM(Transverse Magnetic)偏光光)の電場成分はx方向のみ、s偏光光(TE(Transverse Electric)偏光光)の電場成分はy方向のみになる。また、特に断らない限り、入射光(入射電磁波)は、光学素子に対して垂直入射するものとして説明を進める。偏光の定義は入射面に依存するため、引用する文献によっては、p偏光光とs偏光光、および、TM偏光光とTE偏光光の呼称が異なる場合があるが、金属ワイヤの長手方向(延在方向)を基準とする上述した座標系に従えば、物理的な作用・効果に関する矛盾は発生しないことになる。
【0027】
電磁波を記述するマクスウェル方程式の数値的解法としては、FDTD(Finite Differential Time Domain)法を用いる。
【0028】
金属や半導体材料の屈折率としては、特に断わらない限り、Palikのハンドブック「Palik E.D. (ed.) (1991) Handbook of Optical Constants of Solids II. Academic Press、 New York.」を参照するものとする。また、特に記載しない場合、透光性を有する基板は標準的なガラス材として、その屈折率は1.525であり、金属ワイヤの材質はアルミニウムとして話を進めることにする。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態1における技術的思想は、マクスウェル方程式に記述される電磁波に幅広く適用することができるが、特に、本実施の形態1では、電磁波の一種である光(可視光)を例に挙げて説明する。まず、本実施の形態1における技術的思想を説明する前に、ワイヤグリッド素子について説明し、その後、本実施の形態1における技術的思想について説明する。
【0030】
<ワイヤグリッド素子>
図1は、ワイヤグリッド素子の断面を示すTEM像である。
図1において、ワイヤグリッド素子は、透光性を有する基板としての石英基板(SiO
2)上に、アルミニウム(Al)膜からなる金属ワイヤが形成されていることがわかる。このとき、例えば、
図1において、金属ワイヤのピッチ(x方向)は150nm、金属ワイヤの幅は47nm、金属ワイヤの高さは160nmである。以下に、このようなワイヤグリッド素子の模式図を示し、ワイヤグリッド素子が偏光素子として機能することについて説明する。
【0031】
図2は、金属細線構造からなるワイヤグリッド素子の模式的構成を示す斜視図である。
図2において、ワイヤグリッド素子は、例えば、ガラス基板、石英基板、あるいは、プラスチック基板からなる透光性を有する基板1S上に、周期構造を有する凹凸形状部からなるワイヤグリッド(図ではWGと表記)が形成されている。具体的に、ワイヤグリッドは、
図2に示すように、y方向に延在する金属細線をx方向に所定間隔で配置した金属櫛状構造のことを言い、このワイヤグリッドを別表現で言えば、複数の金属細線を所定間隔で周期的に配列した凹凸形状部から構成されているとも言える。ここで、本明細書では、ワイヤグリッド素子を構成する各金属ワイヤのことをストレートワイヤと呼ぶ場合がある。
【0032】
このようなワイヤグリッド素子では、紙面上部(z軸プラス方向)から多数の偏光光を含む光を入射させると、基板1Sの下部から特定方向に偏光した偏光光だけを透過させることができる。つまり、ワイヤグリッド素子は、偏光素子(偏光板、偏光フィルタ)として機能する。以下に、このメカニズムについて図面を参照しながら簡単に説明する。
【0033】
まず、
図3に示すように、電場の振動方向がx軸方向であるp偏光光を入射する場合、電場の振動方向に応じて、ワイヤグリッドを構成する金属細線内の自由電子が金属細線の片側に集まり、これによって、個々の金属細線に分極が生じる。このように、p偏光光を入射する場合、金属細線内に分極が生じるだけであるので、p偏光光は、ワイヤグリッドを通過して、透光性を有する基板1Sに達する。このとき、基板1Sも入射される光に対して透光性を有するため、p偏光光は、基板1Sも透過する。この結果、p偏光光は、ワイヤグリッドおよび基板1Sを透過することになる。
【0034】
一方、
図4に示すように、電場の振動方向がy方向であるs偏光光を入射する場合、電場の振動方向に応じて、金属細線内の自由電子は、金属細線の側壁による制限を受けることなく振動することができる。このことは、s偏光光がワイヤグリッドに入射される場合も、連続した金属膜に光を入射する場合と同様の現象が起こっていることを意味する。したがって、s偏光光をワイヤグリッドに入射する場合、連続した金属膜に光を入射する場合と同様に、s偏光光は、反射されることになる。このとき、光が金属内に侵入できる厚さ(Skin Depth)よりも、金属細線のz方向の厚さが厚い場合、ワイヤグリッドは、p偏光光を透過し、s偏光光を反射する分離性能(消光比)の高い偏光分離機能を有することになる。すなわち、金属細線のz方向の厚さが厚い場合、ワイヤグリッドは、p偏光光の透過率が高く、s偏光光の透過率が低くなり、高い偏光コントラスト比を有することになる。
【0035】
以上のことから、ワイヤグリッド素子は、例えば、様々な偏光光を含む光を入射すると、特定方向に偏光した偏光光だけを透過させる機能を有することになる。これは、ワイヤグリッド素子が、偏光素子として機能することを意味するものである。
【0036】
次に、
図5は、ワイヤグリッド素子の透過率の波長依存性を示す測定結果と計算結果を示す図である。分光透過率の測定には、分光光度計(日立製、U4100)を使用した。さらに、p偏光光とs偏光光を分離して透過率を測定するために、ランバート社製Gran−Taylarプリズムを2つ使用して、それぞれ、検光子と偏光子として利用した。
【0037】
図5において、縦軸は透過率(%)を示しており、横軸は入射光の波長(nm)を示している。なお、Tpはp偏光光の透過率を示しており、Tsはs偏光光の透過率を示している。このとき、実線が測定結果を示しており、破線が計算結果を示している。
【0038】
図5からわかるように、計算結果は、測定結果に良好に一致しており、本実施の形態1で使用する計算方法が信頼できるものであることが裏付けられている。以下に、本実施の形態1で使用する計算方法では、特に断らない限り、説明の簡略化のため、光波が偏光素子に垂直入射する場合の計算結果を示すものとする。
【0039】
<ワイヤグリッド素子の設計上の制限>
続いて、ワイヤグリッド素子の設計上の制限について説明する。例えば、ワイヤグリッド素子は、入射される光波との間で共鳴現象あるいは回折現象による相互作用を受ける。このとき、ワイヤグリッド素子の構造周期は、光波の共鳴現象あるいは回折現象と大きな関係がある。そして、光波の共鳴現象あるいは回折現象は、ワイヤグリッド素子の偏光コントラスト比に大きな影響を与える。したがって、偏光コントラストの高いワイヤグリッド素子を製造するためには、光波の共鳴現象や回折現象を充分に考慮する必要があり、特に、ワイヤグリッド素子の構造周期は、光波の共鳴現象や回折現象に起因して、大きな制限を受けることになる。以下に、この点について説明することにする。
【0040】
ワイヤグリッド素子において、金属ワイヤの構造周期は、x方向に隣り合う金属ワイヤ間の構造周期(構造周期pと呼ぶ)だけである。この構造周期pが所定の値よりも大きくなると、レイリー共鳴現象が発生して、ワイヤグリッド素子の偏光分離性能が著しく低下することが知られている。すなわち、ワイヤグリッド素子の構造周期pと光波の相互作用の1つであるレイリー共鳴現象は、ワイヤグリッド素子の偏光コントラスト比に代表される特性を決定する上で重要な現象である。
【0041】
具体的に、ワイヤグリッド素子の構造周期をp、透光性を有する基板の屈折率をns、入射される光波の波長をλ、x方向の入射角をθxとすると、レイリー共鳴現象が発生する周期prは、
pr=λ/(ns±sinθx) ・・・(式1)
で与えられる。これは透光性を有する基板内に回折光が発生する条件に一致する。
【0042】
図6および
図7は、上述したFDTD計算方法を使用し、垂直入射光(θx=0)に関して、ワイヤグリッド素子の構造周期pとの光学性能の関係を計算した結果である。ここでは、ワイヤグリッド素子の構造周期pを150nm、金属ワイヤの材料をアルミニウム、金属ワイヤの幅を50nm、金属ワイヤの高さを150nm、透光性を有する基板として石英基板(ns=1.47)を使用し、入射される光波の波長を460nmとしている。
【0043】
図6は、ワイヤグリッド素子の構造周期pと透過率Tp、Tsの関係を示すグラフであり、
図7は、ワイヤグリッド素子の構造周期pと偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図6および
図7の両図において、横軸はレイリー共鳴現象が発生する周期prで規格化した構造周期(p/pr)となっている。
【0044】
図6において、縦軸は、p偏光光の透過率とs偏光光の透過率を示している。
図6に見られるように,p/pr<0.5の場合には、TpとTsに顕著な変化は見られないが、p/pr=1の近傍領域では、レイリー共鳴現象に起因する急激なTpの減少とTsの増加が発生し、レイリー共鳴現象によって偏光フィルタとしての性能が著しく低下することがわかる。この点に関し、特許文献1に記載されているように,入射される光波の波長λが450nmの場合、prは約210nmとなり、ワイヤグリッド素子の構造周期pは210nm以下でなければならない。これは(式1)により与えられるものである。
【0045】
図6では、p偏光光の透過率には、2箇所の極小点が存在することがわかる。第1の極小点(p=pr)は、レイリー共鳴現象に起因するものであり、第2の極小点(p=λ)は、基板を透過する回折光の発生に起因するものである。ただし、構造周期pがp<prに制限されるワイヤグリッド素子では回折光の発生は考えなくてよい。
【0046】
また、
図7に示すように、偏光コントラスト比は、ワイヤグリッド素子の構造周期pの増加とともに減少し、レイリー共鳴現象が発生すると1未満となり、もはや偏光フィルタとして機能を果たさなくなることが確認される。以上のことから、ワイヤグリッド素子においては、レイリー共鳴現象を回避して偏光コントラスト比を確保する観点から、ワイヤグリッド素子の構造周期pに関する制限が設けられることがわかる。具体的に、ワイヤグリッド素子の構造周期pに加わる制限は、以下に示す(式2)で与えられる。
【0047】
p<pr ・・・(式2)
<本発明者による新規な着目点>
上述したように、ワイヤグリッド素子においては、偏光素子の機能を充分に発揮する観点から、ワイヤグリッド素子の構造周期pは(式2)の制限を受ける。また、加工プロセスの制限を加味すると、現状のワイヤグリッド素子(直線状の金属グレーティング)では、さらなる偏光コントラスト比の向上を図ることが困難であることがわかる。
【0048】
そこで、本発明者は、x方向だけでなく、各金属ワイヤが延在するy方向においても、構造周期を導入することを考えた。ただし、専門的な知識を有する当業者が当然考えることとして、y方向についても構造周期を導入する場合も、x方向と同様の現象が生じると容易に推察することができる。つまり、y方向について構造周期を導入する場合、y方向の構造周期がレイリー波長(λ/n)以上であると、x方向の構造周期と同等に偏光コントラスト比が著しく低下することが予想される(
図6参照)。したがって、y方向について構造周期を導入することを考えると、y方向の構造周期もレイリー波長以下にする必要があると考えることが当業者の常識と考えられる。また、当業者の常識として、y方向の構造周期を導入しても、偏光素子の偏光コントラスト比を向上できるということを裏付ける理論的な根拠も考えられていない。さらには、
図6の結果、および(式2)の制限は、専門的な知識を有する当業者が常識的に備えているものであるから、従来技術においては、透光性を有する基板上に形成された金属ワイヤの微細構造からなる偏光素子に関して、構造周期がレイリー波長以上となる領域での素子応答については明らかにされていないのが現状である。
【0049】
この点に関し、本発明者は、上述した当業者の予想を覆して、y方向にも構造周期を導入し、かつ、y方向の構造周期がレイリー波長以上である場合、偏光素子の偏光コントラスト比が向上することを見出した。つまり、本発明者は、当業者の予想を覆して、y方向にレイリー波長以上の構造周期を導入することにより、直線状の金属ワイヤ構造を有するワイヤグリッド素子の限界を超えた偏光コントラスト比を有する偏光素子を実現できることを見出したのである。以下に、本発明者が見出した本実施の形態1における偏光素子について説明することにする。
【0050】
<実施の形態1における偏光素子の構成>
図8は、本実施の形態1における偏光素子の外観構成を示す斜視図である。
図8に示すように、本実施の形態1における偏光素子は、透光性を有する基板1S上に、複数のスプリットワイヤSPWがx方向に配置しており、複数のスプリットワイヤSPWのそれぞれは、y方向に周期的な間隙を有しながら延在していることがわかる。ここで、本明細書では、
図8に示すように、y方向に周期的な間隙を有しながら延在している金属ワイヤをスプリットワイヤ(図ではSPWと表記)と呼び、このスプリットワイヤからなる偏光素子をスプリットワイヤ素子(Split Wire Element)と呼ぶことにする。
【0051】
図9は、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子に形成されている複数のスプリットワイヤSPWの平面構成を示す図である。
図9に示すように、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子においては、y方向に周期的に形成された間隙sを有するスプリットワイヤSPWがx方向に等間隔で配置されている。すなわち、本実施の形態1におけるスプリットワイヤSPWは、y方向に周期構造を有しながら延在している構造として定義される。このように構成されているスプリットワイヤ素子において、構造周期は、隣り合うスプリットワイヤSPWの周期p1、y方向の間隙sの周期Λ(p2)、x方向において、間隙sを挟む一対のスプリットワイヤSPWの周期p3(=2×p1)である。また、間隙sの長さ、x方向に隣り合うスプリットワイヤSPWに形成されている間隙sのy方向の距離差δが形状パラメータとして、スプリットワイヤSPWの幅wと、図示しないスプリットワイヤSPWの高さ(h)に加わる。
【0052】
このように本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子は、
図8および
図9に示すように、入射される電磁波に対して透光性を有する基板1Sと、基板1Sの主面上に形成された複数のスプリットワイヤSPWであって、x方向に周期p1(第1周期間隔)で配置され、かつ、x方向と直交するy方向にそれぞれ延在する複数のスプリットワイヤSPWと、を備える。このとき、本実施の形態1において、複数のスプリットワイヤSPWのそれぞれには、y方向に周期Λ(第2周期間隔)で複数の間隙sが形成されており、入射される電磁波の波長をλとし、基板1Sの屈折率をnとした場合、複数の間隙sの周期Λは、λ/n以上となっている。(Λ≧pr)。
【0053】
そして、
図9に示すように、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子において、複数のスプリットワイヤSPWのうち、第1スプリットワイヤに形成されている複数の間隙sのy方向における第1形成位置と、第1スプリットワイヤと隣り合う第2スプリットワイヤに形成されている複数の間隙sのy方向における第2形成位置は、ずれている。このすれが、
図9において、y方向の距離差δで示されており、特に、
図9では、y方向の距離差δ=Λ/2の例が示されている。
【0054】
さらに、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子においては、複数のスプリットワイヤSPWのうち、第1スプリットワイヤとは反対側で第2スプリットワイヤと隣り合うように第3スプリットワイヤが配置されており、第1スプリットワイヤに形成されている複数の間隙sのy方向における第1形成位置と、第3スプリットワイヤに形成されている複数の間隙sのy方向における第3形成位置は、一致している。このとき、第1スプリットワイヤと第3スプリットワイヤとのx方向における周期p3(第3周期間隔)は、x方向における周期p1(第1周期間隔)の2倍である。そして、x方向における周期p1は、λ/nよりも小さい一方、x方向における周期p3は、λ/nよりも大きくなっている。
【0055】
以上のように構成されている本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の特徴点は、
図9に示すように、複数のスプリットワイヤSPWのそれぞれにおいて、y方向に周期Λで間隙が形成されており、この周期Λがレイリー波長以上である点にある。これにより、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子によれば、y方向に周期構造を有さないストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子よりも光学性能の向上を図ることができる。つまり、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子によれば、ワイヤグリッド素子の限界を超えた偏光コントラスト比を有する偏光素子を実現することができるのである。以下に、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子によれば、偏光コントラスト比を向上できるメカニズムの概要について説明する。
【0056】
<偏光コントラスト比が向上するメカニズムの概要>
例えば、電磁波の受信に用いられるアンテナは、一般に複数の金属ワイヤから構成され、その構造は等価回路で表されることがある。一方、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子も金属ワイヤから構成されるため、アンテナと同様に、等価回路で表すことができる。すなわち、本実施の形態1において、入射される入射光は光波であるが、光波は電磁波の一種であることから、電磁波と相互作用をする本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子も等価回路で表すことができると考えられる。以下では、等価回路を使用することにより、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子によれば、偏光コントラスト比を向上できる定性的なメカニズムについて説明することにする。
【0057】
図10は、ワイヤグリッド素子の光波に対する等価回路を示す図である。ここでは、説明を簡略化するために、1本のストレートワイヤSTWについてのy方向の等価回路、すなわち、s偏光光に対する等価回路のみを示し、周期Λを単位として表示している。
図10に示すように、ワイヤグリッド素子の等価回路は、容易に理解できるように、周期的に抵抗R
0が直列接続された回路となる。この場合、s偏光光の応答は、抵抗R
0による周波数依存性のない一定のインピーダンスによって決定されるため、その周波数特性はフラットになる。つまり、ワイヤグリッド素子におけるs偏光光の応答は、周波数依存性を有さないことになる。
【0058】
これに対し、
図11は、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の光波に対する等価回路を示す図である。ここでも、説明を簡略化するために、1本のスプリットワイヤSPWについてのy方向の等価回路、すなわち、s偏光光に対する等価回路のみを示し、周期Λを単位として表示している。
図11に示すように、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の等価回路は、間隙が容量素子(コンデンサ)を構成するため、抵抗Rと容量素子Cの直接接続を構成要素として、この構成要素が直列接続された回路となる。この場合、s偏光光の応答は、RC直列回路の応答となるため、周波数依存性、すなわち、波長依存性を持つことになる。例えば、1つの構成要素におけるインピーダンスは、Z=R+1/jωCとなり、インピーダンスZには、角振動数(ω=2πf)が含まれるため、インピーダンスZが周波数依存性を有する。このことは、スプリットワイヤ素子に入射される光波の波長によって、スプリットワイヤSPWに対応するインピーダンスが変化することを意味する。したがって、波長の異なる光波に対して、インピーダンスが変化することになり、例えば、所定の波長の光波で、s偏光光に対して透過ではなく、選択的に反射や吸収を発生させることが可能となる。つまり、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子では、所定の波長の光波で、s偏光光の反射や吸収を発生させる共鳴現象を発現させることができるのである。この共鳴現象は、レイリー共鳴現象とは別の共鳴現象として取り扱うことが可能と考えられる。
【0059】
具体的に、
図12は、本実施の形態1における共鳴現象を模式的に示す図である。
図12において、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子に入射される光波の波長が半値幅HW1に存在する場合、その特定の波長に対するインピーダンスが、s偏光光に対して反射や吸収が生じる値となる。この結果、共鳴現象が生じることになる。
図12では、例えば、共鳴現象が鋭くなる場合が示されており、これは、共鳴の鋭さを示すQ値が大きい共鳴現象を示していることになる。この場合、例えば、共鳴の高さが1/2以上となる波長域を示す半値幅HW1は狭くなる。つまり、共鳴のQ値が大きくなると、半値幅HW1は狭くなることになる。
【0060】
以下では、上述した共鳴現象が発現すると、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比が向上する点について説明する。例えば、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子においても、ワイヤグリッド素子と同様のメカニズムによって、基本的には、p偏光光がスプリットワイヤ素子を透過し、s偏光光がスプリットワイヤ素子で反射される。理想的には、s偏光光のすべてが反射されることが望ましいが、実際のスプリットワイヤ素子では、一部のs偏光光がリーク成分として、スプリットワイヤ素子を透過することになる。このs偏光光のリーク成分の大小によって、スプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比が主に決定される。
【0061】
例えば、s偏光光のリーク成分が大きくなると、偏光コントラスト比は低下する一方、s偏光光のリーク成分が小さくなると、偏光コントラスト比は向上する。この点に関し、本実施の形態1では、例えば、入射される光波の波長に対して、上述した共鳴現象が発現するように、インピーダンスが調整されているとする。この場合、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子に入射したs偏光光においては、上述した共鳴現象が生じることになる。このことは、共鳴現象が生じない場合に比べて、s偏光光の反射や吸収が大きくなることを意味する。すなわち、スプリットワイヤ素子を透過するs偏光光のリーク成分が、共鳴現象によって、s偏光光の反射や吸収に置き換わるのである。この結果、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子によれば、s偏光光のリーク成分が減少するため、これによって、偏光コントラスト比が向上するのである。
【0062】
以上が本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子によれば、従来技術におけるワイヤグリッド素子に比べて、偏光コントラスト比が向上する基本的なメカニズムである。続いて、このメカニズムに基づき、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子では、例えば、
図9に示すように、各スプリットワイヤSPWのy方向に周期的な間隙sを設けることにしている。そして、以下では、この基本構成に対して、偏光コントラスト比を向上する観点から、さらに詳細な検討を重ねて、望ましい構成を実現するため、様々な条件でのシミュレーションを実施している。以下では、このシミュレーション結果について説明することにする。
【0063】
なお、例えば、放送用の電磁波の波長帯では、金属を完全導体として扱うことができるが、可視光の波長帯では、ローレンツモデルやドルーデモデルに代表されるモデルにしたがって、金属種類に応じた反射、吸収、透過の応答がある。しかしながら、これらを含めて、マクスウェル方程式では、屈折率を複素数として扱うことができるため、FDTD法によって特性計算が可能となる。
【0064】
<ワイヤの高さと光学性能の関係>
図13は、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子について、ワイヤの高さと光学性能の関係を示すシミュレーション結果である。比較のため、
図13中には間隙が存在しないストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子の結果も示している。ここでは、入射光の波長λ=460nm、隣り合うスプリットワイヤのx方向の周期p1=150nm、スプリットワイヤの幅w=50nm、y方向の周期Λ=400nm、間隙s=30nmとする。また、透光性を有する基板の屈折率を1.525とし、スプリットワイヤはアルミニウムから構成されているとしている。
【0065】
図13(a)は、スプリットワイヤの高さとp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図13(a)に示すように、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子のTpは、同じ幅、高さ、ピッチを有するストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子とほぼ一致することがわかる。このことは、本実施の形態1においてy方向に導入した周期構造がp偏光光に関して大きな作用をしていないことを示している。この点は、重要である。すなわち、スプリットワイヤにおいて、y方向に構造周期を導入しても、p偏光光の透過率が、ほとんど変化していないことになる。この結果、本実施の形態1によれば、スプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比を向上することができるのである。
【0066】
例えば、上述したメカニズムで説明したように、y方向に間隙からなる周期構造を導入すると、s偏光光のリーク成分は、減少することになる。ただし、この際、p偏光光の透過率が、y方向に間隙からなる周期構造を導入することによって減少することになると、たとえ、s偏光光のリーク成分が減少しても、p偏光光の透過率も低下することになり、結果として、偏光コントラスト比の向上を図ることが困難となる。
【0067】
この点に関し、
図13(a)に示すように、y方向に間隙からなる周期構造を導入しても、p偏光光の透過率がほとんど変化しない。このことから、本実施の形態1によれば、y方向に間隙からなる周期構造を導入しても、p偏光光の透過率が変化しないという点と、y方向に間隙からなる周期構造を導入すると、s偏光光のリーク成分が減少する点とが相まって偏光コントラスト比が向上するという顕著な効果を得ることができるのである。
【0068】
次に、
図13(b)は、スプリットワイヤの高さと偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図13(b)に示すように、ストレートワイヤの場合は、偏光コントラスト比がストレートワイヤの高さに応じて一様に増加していることがわかる。縦軸は対数目盛であることから、この現象は吸収性のある膜の透過率と同等の応答であって、ワイヤグリッド素子がs偏光光に対して、通常の金属薄膜と同等の応答を示すことが理解される。
【0069】
一方、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の場合は、s偏光光に対する共鳴を示す複数のピークが存在することがわかり、ピークの振幅がワイヤグリッド素子の偏光コントラスト比を基準として1桁以上大きくなることがわかる。これは、スプリットワイヤ素子におけるs偏光光への応答は、上述したRC直列回路で示される等価回路での共鳴現象が大きく影響を及ぼしていることを示すものである。
図13(b)に示すように、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の共鳴現象は、スプリットワイヤの高さが20nm以上で顕著に発現していることがわかる。
【0070】
<y方向の周期と偏光コントラスト比の関係>
図14は、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子について、y方向の周期Λと偏光コントラスト比の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフである。ここでは、入射光の波長λ=460nm、隣り合うスプリットワイヤのx方向の周期p1=150nm、スプリットワイヤの幅w=50nm、スプリットワイヤの高さh=150nm、間隙s=25nmとしている。垂直入射に対応するレイリー共鳴現象が発生する周期prは301nmである。
図14に示すように、偏光コントラスト比は、y方向の周期Λの範囲が300〜560nmの範囲において、同じ幅、高さ、ピッチを有するワイヤグリッド素子の値よりも大きくなることがわかる。したがって、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子による偏光コントラスト比の向上効果は、y方向の周期Λがレイリー共鳴現象の生じる周期(Λ=pr)以上で大きくなり、透光性を有する基板の裏面からの回折光が発生する条件(Λ=λ)付近で最大となり、Λ=2×pr程度まで継続することがわかる。
【0071】
以上のように示した本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の特性から、y方向の周期Λをレイリー共鳴現象が生じるレイリー波長以上で、2×pr以下とすることによって、p偏光光への影響はほとんど生じない条件で、s偏光光の反射や吸収に選択的に作用して大きな偏光コントラスト比を得ることができることがわかる。これが本実施の形態1における基本思想である。
【0072】
なお、
図14に示すように、偏光コントラスト比が、y方向の周期Λに依存して変化することは、定性的に以下に示すように考えることができる。例えば、y方向の周期Λがレイリー波長以下の場合、波長λの入射光にとっては、y方向の周期構造が分解能以下の構造として把握され、上述したRC直列回路で示される等価回路で表現できないことが考えられる。このため、等価回路で説明されるs偏光光の反射や吸収による共鳴現象では説明できない現象が発現している可能性があり、これによって、偏光コントラスト比の向上が発現せず、偏光コントラスト比の低下が生じていると考えられる。
【0073】
一方、y方向の周期Λがレイリー波長以上の場合、上述したRC直列回路で示される等価回路が妥当性を有し、等価回路で説明されるs偏光光の反射や吸収による共鳴現象が主要因となって、偏光コントラスト比が向上しているものと考えられる。
【0074】
ただし、y方向の周期Λが入射波の波長を超えると、偏光コントラスト比の向上が限定的になる理由は、以下のように考えることができる。すなわち、インピーダンスZ=R+1/jωCにおいて、周期Λが長くなるということは、スプリットワイヤにおいて、相対的に金属ワイヤの部分の長さの影響が間隙の部分の影響よりも大きくなることに起因すると考えられる。すなわち、金属ワイヤの部分の長さが長くなる結果、抵抗Rが相対的に大きくなり、(1/jωC)でのインピーダンスの調整範囲が狭くなると考えられる。このことから、s偏光光の共鳴現象が起こる特定のインピーダンスになりにくくなり、これによって、s偏光光の共鳴現象が起こりにくくなることが考えられる。
【0075】
一方で、y方向の周期Λが入射波の波長を超えても、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子がワイヤグリッド素子に比べて、偏光コントラストが高い理由は、y方向の周期Λが入射波の波長を超えると、別のメカニズムも発現すると考えられるからである。すなわち、y方向の周期Λが入射波の波長を超える場合、p偏光光に対しては、ほとんど回折光が発生しない一方、s偏光光に対して回折光が生じる現象が確認される。この場合、s偏光光のリーク成分の一部が基板を透過する回折光になると考えられる。このことは、基板を透過して直進するs偏光光のリーク成分が減少することを意味し、これによって、偏光コントラスト比が上昇するのである。したがって、y方向の周期Λが入射波の波長(λ)を超えても、y方向の周期Λが2×pr程度までの範囲では、s偏光光の共鳴現象が生じにくくなったとしても、上述したs偏光光の回折光による影響により、高い偏光コントラスト比が維持されるものと考えられる。
【0076】
さらに、y方向の周期Λが大きくなると、s偏光光のリーク成分の一部が基板を透過する回折光となったとしても、回折光の回折角が小さくなる結果、直進するs偏光光のリーク成分と分離することができなくなる。この結果、s偏光光のリーク成分の一部が基板を透過する回折光になることに基づく偏光コントラスト比の向上が望めなくなるとともに、偏光コントラスト比が低下する何らかの現象が発現すると考えられる。これにより、y方向の周期Λが2×prよりも大きくなると、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比が、ワイヤグリッド素子の偏光コントラスト比よりも低くなると考えられる。
【0077】
<間隙と光学性能の関係>
続いて、スプリットワイヤに形成される間隙と光学性能の関係について説明する。上述したように、スプリットワイヤに形成される間隙は、容量素子として機能することから、間隙のサイズによって容量素子の容量値が変わることになり、これによって、Z=R+1/jωCで示されるインピーダンスの値も変化する。この結果、s偏光光の反射や吸収による共鳴現象も、スプリットワイヤに形成される間隙のサイズに依存すると考えられる。以下では、この点について説明することにする。
【0078】
図15は、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子について、間隙と光学性能の関係を示すシミュレーション結果である。ここでは、入射光の波長λ=460nm、隣り合うスプリットワイヤのx方向の周期p1=150nm、スプリットワイヤの幅w=50nm、スプリットワイヤの高さh=150nm、y方向の周期Λ=400nmとしている。
図15(a)は、間隙とp偏光光の透過率との関係を示すグラフである。
図15(a)に示すように、Tpの変化は、間隙の増加に応じて緩やかな増加傾向を示していることがわかる。これは、間隙の増加に応じたスプリットワイヤの金属面積の減少、あるいは、スプリットワイヤ素子の開口率の増加として定性的に理解できる。
【0079】
図15(b)は、間隙と偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。間隙s=0は、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子を意味している。
図15(b)に示すように、偏光コントラスト比は、間隙の値に強く依存しており、例えば、間隙s=25nmで最大となり、間隙s>50nmでは、ワイヤグリッド素子の偏光コントラスト比の値を超えることがないことがわかる。
【0080】
具体的には、
図15(b)に示すように、間隙sの値が4nm〜40nmの範囲において、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比が、ワイヤグリッド素子の偏光コントラスト比を上回っていることがわかる。特に、
図15(b)のシミュレーション結果は、y方向の周期Λ=400nmであることから、4/400(1%)≦s/Λ≦40/400(10%)の範囲において、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比が、ワイヤグリッド素子の偏光コントラスト比を上回っていることがわかる。このことから、スプリットワイヤに形成される間隙sのサイズは、偏光コントラスト比の向上を図る観点から、y方向の周期Λとの関係において、1%≦s/Λ≦10%の範囲に設定することが望ましいことになる。
【0081】
<δの影響>
次に、x方向に隣り合うスプリットワイヤのそれぞれに形成されている間隙のy方向の距離差δの影響に関して説明する。
【0082】
図16は、
図9に示すスプリットワイヤ素子において、y方向の距離差δ=0、x方向の周期p3=∞として、間隙sがx方向に整列した構造を有するスプリットワイヤ素子を示す摸式図である。
図16に示すスプリットワイヤ素子について、y方向の距離差δと、x方向の周期p3以外の条件を共通にして、
図15と同様に、間隙sと光学性能の関係とのシミュレーション結果を
図17に示す。
【0083】
図17(a)は、間隙sとp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図17(a)に示すように、Tpの変化は間隙sの増加に応じて緩やかではあるが、減少する結果となっている。これは、間隙sの増加に応じたスプリットワイヤの金属面積の減少、あるいは、スプリットワイヤ素子の開口率の増加効果では説明できない結果である。
【0084】
図17(b)は、間隙sと偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。間隙s=0はストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子を意味している。
図17(b)に示すように、偏光コントラスト比は、間隙sの増加に応じて単調に減少する特性となっていることがわかる。つまり、y方向の距離差δ=0の場合、間隙sのサイズを変化させても、スプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比は、ワイヤグリッド素子の偏光コントラスト比よりも高くならないことになる。
【0085】
以上のことから、本実施の形態1に関して、間隙sがx方向に整列した構造(δ=0)のスプリットワイヤ素子の場合、s偏光光に選択的に作用して、s偏光光の透過率を減少させるという現象が顕在化しないことがわかる。したがって、本実施の形態1におけるスプリットワイや素子を製造する場合には、プロセス上の条件等によってδの値を適宜設定することが可能であるが、δ=0については避けることが望ましいことがわかる。
【0086】
<スプリットワイヤ素子における波長依存性>
続いて、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の波長依存性について説明する。
図18は、
図9に示す本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子について、可視光の青色波長帯における波長依存性のシミュレーション結果を示すグラフである。ここでは、隣り合うスプリットワイヤのx方向の周期p1=150nm、スプリットワイヤの幅w=50nm、スプリットワイヤの高さh=150nm、y方向の周期Λ=400nm、間隙s=25nmとしている。なお、比較のため、
図18には、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子の結果も示している。
【0087】
図18(a)は、入射光の波長とp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図18(a)に示すように、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子のTpは、0.3%以内で、ワイヤグリッド素子のTpに一致している。
【0088】
図18(b)は、入射光の波長と偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図18(b)に示すように、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子の場合、偏光コントラスト比は、波長の増加に応じて緩やかに増加する。これは、主としてアルミニウム材料における複素屈折率の波長依存性に応じたものである。一方、スプリットワイヤから構成される本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の場合、s偏光光に対する共鳴効果に応じて、ピークをもつ特性を示していることがわかる。特に、
図18(b)に示すように、偏光コントラスト比の最大値は、波長450nmにおいて約200,000である。この値は、ワイヤグリッド素子よりも約1000倍大きいという値であり、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子は、ワイヤグリッド素子に比べて、優れた偏光コントラスト比を有していることがわかる。また、ピーク波長付近の±10nmの波長範囲において、偏光コントラスト比は10,000以上となっている。以上のことから、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子は、使用する光源がレーザやLEDのように波長範囲の狭いものに対して、優れた偏光コントラスト性能を提供することができることがわかる。
【0089】
<実施の形態1における主要な特徴の要旨>
本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の特徴点は、例えば、
図9に示すように、複数のスプリットワイヤSPWのそれぞれにおいて、y方向に周期Λで間隙が形成されている点にある。そして、
図14に示すように、この周期Λがレイリー波長以上である点に特徴がある。これにより、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子によれば、y方向に周期構造を有さないストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子よりも光学性能の向上を図ることができる。つまり、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子によれば、ワイヤグリッド素子の限界を超えた偏光コントラスト比を有する偏光素子を実現することができるのである。
【0090】
上述した特徴点によって、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子は、少なくとも3つ以上の構造周期を有することになる点で、構造周期が1つだけであるワイヤグリッド素子と相違することになる。
【0091】
例えば、ワイヤグリッド素子の構造周期は、x方向に隣り合うストレートワイヤ間の周期p1の1つだけであり、この周期p1は、レイリー波長よりも小さくなっている。これに対し、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の構造周期は、少なくとも、x方向に隣り合うスプリットワイヤ間の周期p1と、y方向に配置された間隙の周期Λと、間隙を挟む一対のスプリットワイヤの周期p3と、を含む。そして、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子では、周期Λと周期p3がレイリー波長以上となっている。
【0092】
このように本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子では、レイリー波長以上の構造周期を導入しながら、偏光コントラスト比に代表される光学性能の向上を図っている点で斬新な構造をしているといえる。すなわち、例えば、
図6および
図7に示すように、レイリー波長以上の構造周期を導入すると、偏光コントラスト比は低下するというのは、当業者にとって技術常識であり、偏光コントラスト比を確保する観点から、ワイヤグリッド素子において、構造周期はレイリー波長よりも小さくする制限が課せられることが一般的である。これに対し、本実施の形態1における技術的思想では、レイリー波長以上の構造周期を導入することは、偏光コントラスト比を向上する観点から回避すべきであるという技術常識を覆して、レイリー波長以上の構造周期を導入しながら、偏光コントラスト比に代表される光学性能を向上させている点で斬新な技術的思想である。すなわち、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の構造は、当業者の技術常識では考えられない構造、すなわち、技術常識にとらわれない斬新な技術的思想でなされた構造であり、かつ、従来のワイヤグリッド素子の限界性能を超える性能を実現できる点で、非常に価値の高い光学素子ということができる。
【0093】
<実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の製造方法>
本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子は、上記のように構成されており、以下に、その製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0094】
本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の製造方法については、y方向に周期構造を有するため、一般的なワイヤグリッド素子の製造方法に適用される干渉露光法を用いることはできないが、これに替えて、ナノインプリント法等によってレジストマスクを形成した後、RIE(Reactive Ion Etching)法で金属膜を加工することにより実現できる。以下に、この製造方法について説明する。
【0095】
図19は、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の平面構成を示す平面図である。
図19において、x方向に複数のスプリットワイヤSPWが配置されていることがわかる、ここで、
図19に示すA−A線における断面に対応して、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子の製造工程について説明することにする。
【0096】
本実施の形態1においては、ナノインプリント法を使用して、スプリットワイヤ素子を形成する。このナノインプリント法は、スタンパを基板に押し当てることにより、微細加工を行なう技術である。したがって、ナノインプリント法によるスプリットワイヤ素子の製造方法では、ナノインプリント用の型であるスタンパが使用されるため、まず、スタンパ形成工程を説明した後に、スプリットワイヤ素子の製造工程について説明することにする。
【0097】
(1)スタンパ形成工程
まず、
図20に示すように、スタンパの型となるマスタ基板Mを形成する。例えば、シリコン(Si)基板などからなるマスタ基板Mを加工することにより、スプリットワイヤの形状に対応する凸部MPを形成する。具体的には、シリコン基板上に、フォトレジスト膜(図示せず)を形成し、露光・現像処理であるフォトリソグラフィ技術を使用することにより、凸部形成領域にのみフォトレジスト膜を残存させる。次に、このフォトレジスト膜をマスクにして、シリコン基板の表面を所定の深さまでエッチングすることにより、凸部MPを形成する。そして、凸部MP上に残存するフォトレジスト膜をアッシング処理などにより除去する。
【0098】
なお、上述した工程においては、フォトリソグラフィ技術を使用したが、電子線描画法を使用してもよい。例えば、シリコン基板上に電子線描画用のレジスト膜を形成し、電子線を描画することにより、レジスト膜を加工してもよい。
【0099】
続いて、
図21に示すように、マスタM上に、紫外線を照射することにより硬化する紫外線硬化樹脂Rsを塗布する。そして、紫外線硬化樹脂Rs上にスタンパ用の支持基板Ssを搭載する。この支持基板Ssは、例えば、透光性を有する樹脂基板から構成される。その後、
図22に示すように、支持基板Ssを介して、紫外線硬化樹脂Rsに紫外線を照射する。これにより、塗布した紫外線硬化樹脂Rsが硬化することになる。
【0100】
次に、
図23に示すように、マスタMから紫外線硬化樹脂Rsおよび支持基板Ssを剥離する。これにより、支持基板Ssと紫外線硬化樹脂RsからなるスタンパSTが形成される。このとき、スタンパSTの紫外線硬化樹脂Rsには、マスタMの凸部MPが転写され、この凸部MPに対応する溝部(凹部)DITが形成される。
【0101】
(2)スプリットワイヤ素子形成工程
続いて、上述したスタンパSTを使用したナノインプリント法により、スプリットワイヤ素子を形成する。以下に、この工程について説明する。
【0102】
まず、
図24に示すように、透光性を有する基板1Sとして、例えば、ガラス基板を準備する。この基板1Sは、例えば、略円盤形状のウェハ形状をしている。そして、この基板1S上に金属層MLとして、例えば、アルミニウム層(Al層)をスパッタリング法などにより形成する。その後、金属層ML上に、レジスト樹脂RRを塗布する。レジスト樹脂RRとしては、例えば、紫外線硬化樹脂を使用することができる。
【0103】
次に、
図25に示すように、基板1Sの上部にスタンパSTを配置し、基板1Sの上面上にスタンパSTを押し付ける。これにより、スタンパSTの溝部DITの内部にレジスト樹脂RRが充填される。この際、レジスト樹脂RRが精度良く溝部DITの内部に充填されるように、レジスト樹脂RRの塗布量と、スタンパSTの基板1Sに対する圧力が調整される。
【0104】
続いて、
図26に示すように、スタンパSTを介してレジスト樹脂RRに紫外線を照射することにより、レジスト樹脂RRを硬化させる。ここで、例えば、この工程で使用される紫外線は、スタンパSTの製造工程で使用した紫外線に比べて長波長の紫外線とする。このように、本工程で使用する紫外線として、スタンパSTの製造工程で使用した紫外線の波長、すなわち、スタンパSTの硬化波長よりも長波長とすることにより、スタンパSTの変質を防止することができる。
【0105】
次に、
図27に示すように、スタンパSTからレジスト樹脂RRを剥離する。これにより、レジスト樹脂RRにスタンパSTの溝部DITの形状が転写される。すなわち、溝部DITに対応する凸部を有するレジスト樹脂RRが金属層ML上に形成される。
【0106】
その後、
図28に示すように、加工されたレジスト樹脂RRをマスクとして、金属層MLをドライエッチングする。エッチングガスとしては、例えば、Cl
2ガス(塩素ガス)、BCl
3ガス等や、これらの混合ガスを用いることができる。なお、エッチングガスをイオン化してもよい。このようなドライエッチングにより、
図29に示すように、レジスト樹脂RRの凸部に対応して、金属層MLのパターンであるスプリットワイヤSPWを形成することができる。
【0107】
そして、金属層MLよりなるスプリットワイヤSPWの上部に残存するレジスト樹脂RRをアッシング処理などで除去する。例えば、アッシングガスとして、O
2ガス(酸素ガス)を主成分としたガスを使用することができる。その後、ダイシングラインに沿って、基板1Sをダイシングすることにより、
図30に示すような本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子を形成することができる。このように本実施の形態1では、ナノインプリント法を使用することにより、スプリットワイヤ素子を低コストで製造することができる。
【0108】
<関連技術との対比>
続いて、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子と、関連技術との相違点を明確化するために、対比することにする。
【0109】
図31は、y方向に周期構造を有する光学素子の入射光に対する等価回路を示す図である。
図31に示すように、この光学素子では、金属ワイヤの長手方向であるy方向に、金属ワイヤの幅が幅w1と幅w2(幅w1<幅w2)で変調され、その周期はΛとなっている。このように構成されている光学素子の等価回路は、対向する幅w2の部分に容量素子があることを含めて示すように、抵抗R2と、抵抗R1と容量素子Cの並列接続された構成要素が周期的に直列接続されたものとなる。このような等価回路で示される光学素子においても、s偏光光に対するインピーダンスを調整することは可能であるが、容量素子Cと並列な抵抗R1が存在するため、この光学素子においては、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子と比較して、インピーダンスの調整範囲が狭くなる。このことから、この光学素子において、偏光コントラスト比に代表される光学性能等は、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子と比較して小さくなると考えることができる。
【0110】
ここで、特許文献3に記載される技術と本実施の形態1における技術的思想との差異について説明する。特許文献3には、透光性を有する基板上に金属ワイヤを有するワイヤグリッド素子で、金属ワイヤの上端に周期的な凸形状を形成することにより、不要な偏光光を選択的に吸収する機能を付加した光学素子に関する技術が記載されている。この光学素子の等価回路は、幅のかわりに金属ワイヤの高さが変調されているものと考えることができることから、
図31に示す等価回路と同じものになる。この結果、特許文献3に記載されている光学素子において、偏光コントラスト比に代表される光学性能等は、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子と比較して小さくなると考えることができる。
【0111】
さらに、特許文献3では、凸形状の高さは10nmから50nmの範囲に制限があり、凸形状の高さは、金属ワイヤの高さ未満であることから、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子のように完全な間隙を形成するものではない。この点で、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子と、特許文献3に記載されている光学素子とは、構成上に大きな相違点があることになる。
【0112】
次に、特許文献4に記載されている技術と本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子との差異について述べる。特許文献4には、ガラス層内に金属パターンを、いわゆるチェッカーフラッグ状に配置して、1つの偏光光を別の偏光光に変換する光学素子に関する技術が記載されている。
【0113】
この点に関し、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子と、特許文献4に記載されている光学素子には、以下に示す相違点が存在する。すなわち、第1の相違点は、光学素子の提供する機能である。具体的に、特許文献4に記載されている光学素子は、1つの偏光光を別の偏光光に変換する機能を有する光学素子であるのに対し、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子は、特定の偏光光を選択透過させる偏光フィルタとしての機能を提供する光学素子であるという相違点がある。そして、第2の相違点は、金属ワイヤのパターンである。具体的に、特許文献4に記載されている金属パターン同士の間隔(L1)は、入射光の波長をλとした場合、λ/4以下で構成されることが望ましい旨が記載されている。そして、入射光の波長λ=688nmであることから、間隔(L1)は、172nm以下が望ましいことになる。この場合、特許文献4に記載された技術において、周期Λ=300nm+172nm=472nmとなり、L1/Λ=36%となる。この結果、特許文献4に記載された技術では、本実施の形態1において、偏光コントラスト比の向上を図る観点から望ましい範囲である1%≦S/Λ≦10%の関係を満たさない条件も含んでいる。この点において、本実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子と、特許文献4に記載されている光学素子とは、構成上に相違点が存在することになる。
【0114】
(実施の形態2)
<実施の形態2における基本思想>
前記実施の形態1で説明したように、使用する光源がレーザやLEDのように波長範囲の狭いものに対して、前記実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子は、優れた偏光コントラスト比を実現することができる。例えば、
図18(b)に示すように、入射光の波長が450nmの場合、前記実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子では、約200,000という高い偏光コントラスト比を得ることができる。一方で、前記実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子では、
図18(b)に示すように、入射光の波長が480nm以上になると、偏光コントラスト比が、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子よりも低くなる。すなわち、より広い波長範囲において、良好な偏光コントラスト比を実現する必要がある場合においては、前記実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子では、充分に対応できず、さらなる改善の余地が存在するのである。
【0115】
そこで、本実施の形態2では、例えば、波長範囲が400nm〜500nmである青色波長帯にわたる広い波長範囲で、優れた偏光コントラスト比を実現できるスプリットワイヤ素子について説明する。
【0116】
前記実施の形態1で説明したように、スプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比が向上するのは、スプリットワイヤ素子に入射したs偏光光で共鳴現象が生じることにより、s偏光光の反射や吸収が大きくなる結果、スプリットワイヤ素子を透過するs偏光光のリーク成分が減少するためであると考えることができる。したがって、幅広い波長域でs偏光光の反射や吸収が大きくなる共鳴現象を生じさせることができれば、より広い波長域で偏光コントラスト比を向上することができると考えられる。つまり、幅広い波長域で、s偏光光の反射や吸収を増加させる共鳴現象を生じさせるように構成する点に、本実施の形態2における基本思想がある。以下に、この基本思想の概要について説明する。
【0117】
図32(a)は、共鳴現象におけるQ値が大きい場合の例を示す模式図である。
図32(a)に示すように、Q値が大きい場合には、ピークが鋭くなり、半値幅HW1の幅が小さくなる。このことは、半値幅HW1の範囲内に含まれる波長範囲が狭くなることを意味し、これは、共鳴現象が発現する波長域が狭くなることを意味する。この場合、s偏光光の反射や吸収が大きくなる共鳴現象が発現する波長域が狭くなり、これによって、偏光コントラスト比が向上する波長域が限定的になることが理解できる。
【0118】
この点に関し、
図32(b)は、
図32(a)の場合に比べて、共鳴現象におけるQ値が小さい場合の例を示す模式図である。
図32(b)に示すように、Q値が中程度の場合には、ピークがなだらかになり、半値幅HW2の幅は、
図32(a)の半値幅HW1よりも大きくなる。このことは、半値幅HW2の範囲内に含まれる波長範囲が広くなることを意味し、これは、共鳴現象が発現する波長域が広くなることを意味する。この場合、s偏光光の反射や吸収が大きくなる共鳴現象が発現する波長域が広くなり、これによって、偏光コントラスト比が向上する波長域が幅広くなると考えられる。
【0119】
このように、本実施の形態2における基本思想は、Q値をある程度小さくして、半値幅HW2に含まれる波長範囲を大きくすることにより、より広い波長範囲において、s偏光光の反射や吸収が大きくなる共鳴現象を発現させるものである。以下では、この基本思想を具現化した本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子の構成について説明する。
【0120】
<実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子の構成>
図33は、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子の構成を示す平面図である。
図33に示すように、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子においては、y方向に周期的に形成された間隙sを有するスプリットワイヤSPW1とスプリットワイヤSPW2に挟まれるように、1本のストレートワイヤSTWが配置されている。このように構成されている本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子において、構造周期は、隣り合うスプリットワイヤSPW1とストレートワイヤSTWの周期p1、y方向の間隙sの周期Λ、x方向において、間隙sを挟むスプリットワイヤSPW1とスプリットワイヤSPW2の周期p3である。
【0121】
このとき、入射される電磁波の波長をλとし、基板の屈折率をnとした場合、周期Λは、λ/n以上となっている。また、x方向における周期p1は、λ/nよりも小さい一方、x方向における周期p3は、λ/nよりも大きくなっている。
【0122】
ここで、本実施の形態2の特徴は、スプリットワイヤSPW1とスプリットワイヤSPW2に挟まれるように、1本のストレートワイヤSTWが配置されている点にある。これにより、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子においては、前記実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子のようにスプリットワイヤだけから構成されるのではなく、構造の相違するスプリットワイヤとストレートワイヤが混在している構成をしていることになる。
【0123】
この場合、例えば、スプリットワイヤは、RC直列回路という等価回路で表すことができるため、スプリットワイヤのs偏光光に対するインピーダンスが周波数依存性(言い換えれば、波長依存性)を有し、これによって、s偏光光の反射や吸収を大きくする共鳴現象が発現する。一方、ストレートワイヤは、抵抗の直列回路という等価回路で表すことができるため、ストレートワイヤのs偏光光に対するインピーダンスは、周波数依存性がなくフラットとなり、共鳴現象は発現しない。
【0124】
以上のことから、共鳴現象に影響を及ぼすスプリットワイヤの本数が多いほど、共鳴現象のQ値が大きくなることが定性的に理解できる。つまり、前記実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子では、すべての金属ワイヤがスプリットワイヤから構成されているため、共鳴現象のQ値は大きくなる。一方、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子では、一対のスプリットワイヤに挟まれるように1本のストレートワイヤが挿入されているため、結果的に、共鳴現象に影響を及ぼすスプリットワイヤの本数が減少する。この結果、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子によれば、共鳴現象のQ値を中程度に小さくすることができる。このことは、
図32(a)および
図32(b)で説明したように、半値幅HW2が大きくなることを意味し、これによって、共鳴現象が発現する波長域を大きくすることができることになる。すなわち、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子の構成によれば、より広い波長範囲に対して、優れた偏光コントラスト比を得ることができるのである。以下では、この効果を裏付けるシミュレーション結果について説明する。
【0125】
<スプリットワイヤ素子における青色波長帯での波長依存性>
図34は、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子での青色波長帯における波長依存性を示すシミュレーション結果である。ここでは、隣り合うスプリットワイヤとストレートワイヤのx方向の周期p1=135nm、スプリットワイヤおよびストレートワイヤの幅w=45nm、スプリットワイヤおよびストレートワイヤの高さh=130nm、スプリットワイヤにおけるy方向の周期Λ=400nm、間隙s=50nmとしている。比較のため、
図34には、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子の結果も示している。
【0126】
図34(a)は、入射光の波長とp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図34(a)に示すように、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子のTpは、ワイヤグリッド素子のTpとほぼ一致する。
【0127】
また、
図34(b)は、入射光の波長と偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図34(b)に示すように、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比は、青色波長帯の全域にわたって、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子よりも大きくなっていることがわかる。
【0128】
このことから、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子によれば、例えば、青色波長帯という広い波長範囲にわたって、偏光コントラスト比を向上できることがシミュレーションの結果からも裏付けられていることがわかる。
【0129】
<斜入射される入射光に対する波長依存性>
続いて、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子において、斜入射される入射光に対する波長依存性について説明する。ここでは、例えば、入射光の入射角をx方向に20度傾けている場合について説明する(θx=20度)。なお、
図35は、x方向に傾いた入射角を説明する図である。本明細書において、x方向に傾いた入射角は、
図35に示すように、xz平面において、z軸からの傾き角をθxと定義することにする。
【0130】
図36は、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子について、青色波長帯での波長依存性を示すシミュレーション結果である。
図36(a)は、入射光の波長とp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図36(a)に示すように、x方向に20度傾けた入射光に対しても、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子のTpは、ワイヤグリッド素子のTpとほぼ一致することがわかる。
【0131】
また、
図36(b)は、入射光の波長と偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図36(b)に示すように、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比は、青色波長帯の全域にわたって、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子よりも大きくなっていることがわかる。
【0132】
次に、例えば、入射光の入射角をy方向に20度傾けている場合について説明する(θy=20度)。なお、
図37は、y方向に傾いた入射角を説明する図である。本明細書において、y方向に傾いた入射角は、
図35に示すように、yz平面において、z軸からの傾き角をθyと定義することにする。
【0133】
図38は、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子ついて、青色波長帯での波長依存性を示すシミュレーション結果である。
図38(a)は入射光の波長とp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図38(a)に示すように、y方向に20度傾けた入射光に対しても、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子のTpは、ワイヤグリッド素子のTpとほぼ一致することがわかる。
【0134】
また、
図38(b)は、入射光の波長と偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図38(b)に示すように、波長が420nmから450nmの範囲おいて、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比が、ワイヤグリッド素子よりも小さくなってしまうことがわかる。この現象は、以下のように考えることができる。すなわち、この現象は、例えば、y方向への斜入射の場合、s偏光光の波数ベクトルの大きさをkとすると、斜入射することによって、z方向の波数ベクトルがkcosθyとなるとともに、y方向の波数ベクトルがksinθyとなることによるものである。つまり、スプリットワイヤ素子の周期Λによって作用される波数は2π/Λによって一定であるのに対して、斜入射の場合、y方向の波数ベクトルとz方向の波数ベクトルが垂直入射の場合と異なるため、共鳴条件のずれによって、上述した現象が発生すると考えられる。
【0135】
以上のことから、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子では、前記実施の形態1におけるスプリットワイヤ素子に比べて、より広い波長範囲(青色波長帯全域)にわたって良好な偏光コントラスト比を得ることができる。一方、
図38(b)で説明したように、y方向の斜入射に対しては、波長によって偏光コントラスト比が低下するため、本実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子は、入射光の入射角が垂直に近く、例えば、θy<10度程度の光学装置への応用が適しているといえる。なお、本実施の形態2に存在するy方向の斜入射に対する改善の余地への工夫については、以下の実施の形態3で説明することにする。
【0136】
(実施の形態3)
<実施の形態3の基本思想>
本実施の形態3では、液晶プロジェクタへの適用を想定し、波長範囲が400nmから500nmである青色波長帯にわたって優れた偏光コントラスト比を提供することができ、かつ、入射角が20度の範囲まで偏光コントラスト比を維持できるスプリットワイヤ素子について説明する。
【0137】
上述したように、前記実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子においては、y方向の斜入射に対して、波長によって偏光コントラスト比が低下することになる。この理由は、斜入射の場合、y方向の波数ベクトルとz方向の波数ベクトルが垂直入射の場合と異なるため、共鳴条件のずれによって、垂直入射の場合には、共鳴現象が発現するのに対し、斜入射に対しては、共鳴現象が発現しなくなることが考えられる。
【0138】
そこで、例えば、斜入射に対しても、s偏光光の反射や吸収が大きくなる共鳴現象を生じさせることができれば、斜入射に対しても、偏光コントラスト比を向上することができると考えられる。つまり、共鳴条件のずれによっても、依然として共鳴現象が生じる範囲に波長域が含まれるように構成することにより、斜入射に対しての偏光コントラスト比の向上を図ることができると考えられる。このことは、前記実施の形態2よりも、さらに幅広い波長域でs偏光光の反射や吸収を増加させる共鳴現象を生じさせるようにすればよいことを意味している。この点に本実施の形態3における基本思想がある。この基本思想の概要について説明する。
【0139】
図39(a)は、前記実施の形態2に対応して、共鳴現象におけるQ値が中程度の場合の例を示す模式図である。
図39(a)に示すように、Q値が中程度の場合には、主に半値幅HW2に含まれる波長範囲において共鳴現象が発現する。
【0140】
この点に関し、
図39(b)は、
図39(a)の場合に比べて、さらに共鳴現象におけるQ値が小さい場合の例を示す模式図である。
図39(b)に示すように、Q値が小さい場合には、ピークがさらになだらかになり、半値幅HW3の幅は、
図39(a)の半値幅HW2よりも大きくなる。このことは、半値幅HW3の範囲内に含まれる波長範囲が広くなることを意味し、これは、共鳴現象が発現する波長域が広くなることを意味する。この場合、s偏光光の反射や吸収が大きくなる共鳴現象が発現する波長域が広くなり、これによって、偏光コントラスト比が向上する波長域がさらに幅広くなると考えられる。
【0141】
このように、本実施の形態3における基本思想は、前記実施の形態2の場合よりも、Q値をさらに小さくして、半値幅HW3に含まれる波長範囲を大きくすることにより、より広い波長範囲において、s偏光光の反射や吸収が大きくなる共鳴現象を発現させるものである。以下では、この基本思想を具現化した本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子の構成について説明する。
【0142】
<実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子の構成>
図40は、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子の構成を示す平面図である。
図40に示すように、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子においては、y方向に周期的に形成された間隙sを有するスプリットワイヤSPW1とスプリットワイヤSPW2に挟まれるように、2本のストレートワイヤSTW2およびストレートワイヤSTE3が配置されている。このように構成されている本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子において、構造周期は、隣り合うスプリットワイヤSPW1とストレートワイヤSTW1の周期p1、y方向の間隙sの周期Λ、x方向において、間隙sを挟むストレートワイヤSTW1とストレートワイヤSTW2の周期p3(=2×p1)である。さらに、本実施の形態3では、スプリットワイヤSPW1とスプリットワイヤSPW2のスキップ周期SP(=3×p1)も存在することになる。
【0143】
このとき、入射される電磁波の波長をλとし、基板の屈折率をnとした場合、周期Λは、λ/n以上となっている。また、x方向における周期p1は、λ/nよりも小さい一方、x方向における周期p3は、λ/nよりも大きくなっている。
【0144】
ここで、本実施の形態2の特徴は、スプリットワイヤSPW1とスプリットワイヤSPW2に挟まれるように、2本のストレートワイヤSTW2とストレートワイヤSTW3が配置されている点にある。これにより、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子においては、前記実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子よりも、スプリットワイヤ間に挟まれるストレートワイヤの本数が増加することになる。
【0145】
ここで、前記実施の形態2でも説明したように、共鳴現象に影響を及ぼすスプリットワイヤの本数が多いほど、共鳴現象のQ値が大きくなると考えられる。つまり、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子では、前記実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子よりも、一対のスプリットワイヤに挟まれるストレートワイヤの本数が増加しているため、結果的に、共鳴現象に影響を及ぼすスプリットワイヤの本数が減少する。この結果、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子によれば、前記実施の形態2よりも、共鳴現象のQ値をさらに小さくすることができるのである。このことは、
図39(a)および
図39(b)で説明したように、半値幅HW3が大きくなることを意味し、これによって、共鳴現象が発現する波長域を大きくすることができることになる。すなわち、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子の構成によれば、斜入射も考慮した広い波長範囲に対して、優れた偏光コントラスト比を得ることができるのである。以下では、この効果を裏付けるシミュレーション結果について説明する。
【0146】
<スプリットワイヤ素子における青色波長帯での波長依存性>
図41は、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子について、青色波長帯での波長依存性を示すシミュレーション結果である。ここでは、垂直入射光に対する結果を示す。隣り合うスプリットワイヤとストレートワイヤのx方向の周期p1=135nm、スプリットワイヤおよびストレートワイヤの幅w=45nm、スプリットワイヤおよびストレートワイヤの高さh=130nm、y方向の周期Λ=400nm、間隙s=50nmとしている。比較のため、
図41には、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子の結果も示している。
【0147】
図41(a)は、入射光の波長とp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図41(a)に示すように、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子のTpは、ワイヤグリッド素子のTpとほぼ一致することがわかる。
【0148】
また、
図41(b)は、入射光の波長と偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図41(b)に示すように、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比は、青色波長帯の全域にわたって、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子よりも大きくなっていることがわかる。
【0149】
<斜入射される入射光に対する波長依存性>
続いて、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子において、斜入射される入射光に対する波長依存性について説明する。ここでは、例えば、入射光の入射角をx方向に20度傾けている場合について説明する(θx=20度)。
【0150】
図42は、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子について、青色波長帯での波長依存性を示すシミュレーション結果である。
図42(a)は、入射光の波長とp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図42(a)に示すように、x方向に20度傾けた入射光に対しても、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子のTpは、ワイヤグリッド素子のTpとほぼ一致することがわかる。
【0151】
また、
図42(b)は、入射光の波長と偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図42(b)に示すように、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比は、青色波長帯の全域にわたって、ストレートワイヤから構成されるワイヤグリッド素子よりも大きくなっていることがわかる。
【0152】
次に、例えば、入射光の入射角をy方向に20度傾けている場合について説明する(θy=20度)。
【0153】
図43は、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子ついて、青色波長帯での波長依存性を示すシミュレーション結果である。
図43(a)は入射光の波長とp偏光光の透過率の関係を示すグラフである。
図43(a)に示すように、y方向に20度傾けた入射光に対しても、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子のTpは、ワイヤグリッド素子のTpとほぼ一致することがわかる。
【0154】
また、
図43(b)は、入射光の波長と偏光コントラスト比の関係を示すグラフである。
図43(b)に示すように、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子は、前記実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子と異なり、y方向に20度傾けた入射光に対しても、スプリットワイヤ素子の偏光コントラスト比は、青色波長帯の全域にわたって、ストレートワイヤからなるワイヤグリッド素子よりも大きくなっている。このことから、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子によれば、前記実施の形態2におけるスプリットワイヤ素子と比較して、応用目的に応じた光学特性の改善を確認することができる。
【0155】
スプリットワイヤ素子では、等価回路に示したようにs偏光光に対して選択的な共鳴効果を発生させることによって、ワイヤグリッド素子と比較して大きな偏光コントラスト比を得ることができる。また、y方向に周期的な間隙を形成したスプリットワイヤ間にストレートワイヤを挿入することにより、スプリットワイヤ間のx方向の配置間隔であるスキップ周期を変えることによって、共鳴現象のQ値を制御し、用途に応じた波長範囲、入射角度、偏光コントラスト比を設計することが可能となる。以下では、こうしたQ値の制御方法についての適用限界について説明する。
【0156】
<Q値の制御方法についての適用限界>
y方向に周期的な間隙を形成したスプリットワイヤ間にストレートワイヤを挿入した場合のスプリットワイヤ間のx方向に配置間隔であるスキップ周期に着目すると、隣り合うスプリットワイヤとストレートワイヤ間の周期p1と、挿入されるストレートワイヤの本数nによって、x方向のスキップ周期は(n+1)×p1となる。すなわち、スプリットワイヤ間に挿入されるストレートワイヤの本数が増加すると、スキップ周期が大きくなる。この場合、挿入されるストレートワイヤの本数が増加して、スキップ周期が大きくなると、スキップ周期に応じて基板を透過する回折光が発生する場合がある。
【0157】
図44は、液晶プロジェクタへの応用を前提にして、回折光の影響を摸式的に示す図である。
図44に示すように、スプリットワイヤ素子SWEから透過回折光が生じる場合、その回折角をΦとすると、回折角Φは、スキップ周期SP、波長λ、および、mを整数として、sinΦ=mλ/SPで表される。特に、光学装置に影響する透過回折光は、主として、m=±1の1次回折光である。
【0158】
ここでは、例えば、
図44に示すように、スプリットワイヤ素子SWEと液晶パネルLCPを透過した光が投影レンズLENによって結像される例を考える。この例は、一般的な液晶プロジェクタなどに適用される簡略化した構成である。この場合、投影レンズLENの開口数がNA(=sinθ)であるとすると、回折角ΦがΦ>θの条件を満たす場合、投影レンズLENを通じて、回折光がスクリーン上に結像されることはない。つまり、スプリットワイヤ素子のスキップ周期SPを、Φ>θ(NA=sinθ)の条件を満たすように設定することにより、スクリーンに回折光が投影されることを防ぐことができる。一般にθの値はθ=10〜20度程度と考えることができる。
【0159】
図45は、スプリットワイヤを配置するスキップ周期SPと垂直入射光に対する回折角の関係を示すグラフである。波長λ=460nm、隣り合うスプリットワイヤとストレートワイヤの周期p1=135nmとした場合、
図45に示すように、スキップ周期SPが10×p1を超えると回折角が20度以下となる。したがって、スキップ周期SPによってQ値を制御する場合、スキップ周期SPは、10×p1以下にすることが望ましい。この関係は構造周期、使用波長、投影レンズの開口数等によって変化するが、概ね、ここで示した基準にしたがうことにより、回折光によってスクリーン上に、いわゆるゴースト像が形成されることを抑制することができる。
【0160】
以上のことから、スプリットワイヤ間に挿入されるストレートワイヤの本数を増加させると、共鳴現象のQ値を小さくすることができ、これによって、共鳴現象が発現する波長域を大きくすることができる。一方、スプリットワイヤ間に挿入されるストレートワイヤの本数を増加させると、スプリットワイヤ間のスキップ周期が大きくなることになり、これによって、透過回折光が発生することになる。そして、スキップ周期が大きくなりすぎると、透過回折光の回折角が小さくなって、スクリーン上に透過回折光によるゴースト像が形成されてしまうことが懸念される。したがって、共鳴現象のQ値を小さくして、共鳴現象が発現する波長域を大きくする制御方法は、透過回折光によるゴースト像が形成されない条件内で行なう必要があり、これによって、Q値の制御方法についての適用限界(制約)が存在することがわかる。
【0161】
<斜入射による回折光の影響>
続いて、斜入射による回折光の影響について説明する。
図46は、本実施の形態3のスプリットワイヤ素子において、入射角θxと、1次透過回折光を含む透過光の透過率との関係を示すシミュレーション結果である。
図46において、Tpはp偏光光の透過率であり、Tsはs偏光光の透過率である。また、Tp(回折)は、p偏光光の1次透過回折光の透過率であり、Ts(回折)は、s偏光光の1次透過回折光の透過率である。なお、
図46では、入射光の波長λ=460nmの場合の結果が示されている。
【0162】
図46に示すように、基板を透過する透過回折光は入射角θxが10度以上で発生することがわかる。言い換えれば、入射角θxが10度よりも小さい場合には、透過回折光は発生しない。
【0163】
ここで、
図46に示すように、透過回折光の透過率(Tp(回折)、Ts(回折))は0.015%程度であり、s偏光光の透過率の1/3程度、p偏光光の透過率とのコントラスト比では約10,000となる。このため、本実施の形態3におけるスプリットワイヤ素子の場合、透過回折光の影響は実質的に無視することができる。
【0164】
以上、本発明のスプリットワイヤ素子について説明したが、実施の形態1〜3で示した数値は、それに限定されるものではなく、例えば、構造周期を調整して対応する波長域を変えたり、アルミニウム以外の金属材料を用いることも可能である。また、スプリットワイヤ素子を誘電体で覆って、耐環境性を向上することも可能である。さらに、スプリットワイヤ素子の上部に透明誘電体や光吸収性を有する材料からなる反射抑止構造を形成することによって、s偏光光の反射を抑制し、例えば、液晶プロジェクタの液晶素子の後段に配置する偏光フィルタとして用いることもできる。
【0165】
(実施の形態4)
本実施の形態4では、前記実施の形態1〜3におけるスプリットワイヤ素子を適用した光学装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態4では、様々な光学装置のうち、特に、画像投影装置の1つである液晶プロジェクタを例に挙げて説明する。
【0166】
<液晶プロジェクタの構成>
図47は、本実施の形態4における液晶プロジェクタの光学系を示す模式図である。
図47において、本実施の形態4における液晶プロジェクタは、光源LS、導波光学系LGS、ダイクロイックミラーDM(B)、DM(G)、反射ミラーMR1(R)、MR1(B)、MR2(R)、スプリットワイヤ素子SWE1(B)、SWE1(G)、SWE1(R)、SWE2(B)、SWE2(G)、SWE2(R)、液晶パネルLCP(B)、LCP(G)、LCP(R)、投影レンズLENを有している。
【0167】
光源LSは、ハロゲンランプなどから構成され、青色光と緑色光と赤色光とを含む白色光を射出するようになっている。そして、導波光学系は、光源LSから射出された光分布の一様化やコリメートなどを実施するように構成されている。
【0168】
ダイクロイックミラーDM(B)は、青色光に対応した波長の光を反射し、その他の緑色光や赤色光を透過するように構成されている。同様に、ダイクロイックミラーDM(G)は、緑色光に対応した波長の光を反射し、その他の赤色光を透過するように構成されている。また、反射ミラーMR1(R)は、赤色光を反射するように構成されている。
【0169】
スプリットワイヤ素子SWE1(B)、SWE2(B)は、青色光を入射して特定の偏光光を選択透過するように構成されており、スプリットワイヤ素子SWE1(G)、SWE2(G)は、緑色光を入射して特定の偏光光を選択透過するように構成されている。また、スプリットワイヤ素子SWE1(R)、SWE2(R)は、赤色光を入射して特定の偏光光を選択透過するように構成されている。
【0170】
具体的に、スプリットワイヤ素子SWE1(B)、SWE1(G)、SWE1(R)、SWE2(B)、SWE2(G)、SWE2(R)は、前記実施の形態1〜3で説明したスプリットワイヤ素子である。
【0171】
反射ミラーMR1(B)は、青色光を反射するように構成されており、反射ミラーMR1(R)および反射ミラーMR2(R)は、赤色光を反射するように構成されている。
【0172】
液晶パネルLCP(B)は、青色用のスプリットワイヤ素子SWE1(B)から射出された偏光光を入射し、画像情報に応じて偏光方向を変化させるように構成されている。同様に、液晶パネルLCP(G)は、緑色用のスプリットワイヤ素子SWE1(G)から射出された偏光光を入射し、画像情報に応じて偏光方向を変化させるように構成され、液晶パネルLCP(R)は、赤色用のスプリットワイヤ素子SWE1(R)から射出された偏光光を入射し、画像情報に応じて偏光方向を変化させるように構成されている。液晶パネルLCP(B)、LCP(G)、LCP(R)は、液晶パネルを制御する制御回路(図示せず)と電気的に接続されており、この制御回路からの制御信号に基づいて、液晶パネルに印加される電圧が制御されるようになっている。なお、投影レンズLENは、画像を投影するためのレンズである。
【0173】
<液晶プロジェクタの動作>
本実施の形態4における液晶プロジェクタは、上記のように構成されており、以下に、その動作について説明する。まず、
図47に示すように、ハロゲンランプなどより構成される光源LSから青色光と緑色光と赤色光を含む白色光が射出される。そして、光源LSから射出された白色光は、導波光学系LGSに入射されることにより、白色光に対して光分布の一様化やコリメートなどが実施される。その後、導波光学系LGSを射出した白色光は、最初にダイクロイックミラーDM(B)に入射する。ダイクロイックミラーDM(B)では、白色光に含まれる青色光だけが反射され、緑色光と赤色光は、ダイクロイックミラーDM(B)を透過する。
【0174】
ダイクロイックミラーDM(B)を透過した緑色光と赤色光は、ダイクロイックミラーDM(G)に入射される。ダイクロイックミラーDM(G)では、緑色光だけが反射され、赤色光は、ダイクロイックミラーDM(G)を透過する。このようにして、白色光から青色光と緑色光と赤色光に分離することができる。
【0175】
続いて、分離された青色光は、反射ミラーMR1(B)を介して、スプリットワイヤ素子SWE1(B)に入射され、青色光に含まれる特定の偏光光が選択透過される。そして、選択透過された偏光光は、液晶パネルLCP(B)を透過した後、スプリットワイヤ素子SWE2(B)から射出される。こうした構成において、液晶パネルLCP(B)では、制御信号に基づいて、液晶の配向方向の制御が実施されることにより、偏光光の偏光方向が制御される。
【0176】
同様に、分離された緑色光は、スプリットワイヤ素子SWE1(G)に入射され、緑色光に含まれる特定の偏光光が選択透過される。そして、選択透過された偏光光は、液晶パネルLCP(G)に入射され、液晶パネルLCP(G)を透過した後、スプリットワイヤ素子SWE2(G)から射出される。液晶パネルLCP(G)においても、偏光光の偏光方向が制御される。
【0177】
また、分離された赤色光は、反射ミラーMR1(R)および反射ミラーMR2(R)を介して、スプリットワイヤ素子SWE1(R)に入射され、赤色光に含まれる特定の偏光光が選択透過される。そして、選択透過された偏光光は、液晶パネルLCP(R)を透過した後、スプリットワイヤ素子SWE2(R)から出射される。液晶パネルLCP(R)においても、偏光光の偏光方向が制御される。
【0178】
その後、スプリットワイヤ素子SWE2(B)から射出された偏光光(青色)と、スプリットワイヤ素子SWE2(G)から射出された偏光光(緑色)と、スプリットワイヤ素子SWE2(R)から射出された偏光光(赤色)とが合波され、投影レンズLENを介して、スクリーン(図示せず)に投影される。このようにして、本実施の形態4における液晶プロジェクタによれば、画像を投影することができる。
【0179】
本実施の形態4によれば、従来のワイヤグリッド素子に置き換えて、スプリットワイヤ素子を使用しているので、コントラスト比を改善した液晶プロジェクタを実現することができる。言い換えれば、本実施の形態4によれば、液晶プロジェクタの画質を向上することができる。
【0180】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0181】
例えば、前記実施の形態では、可視光から近赤外線光に対応する光学素子や光学装置について説明したが、これに限らず、マクスウェル方程式に従う電磁波であれば、本願発明の技術的思想を同様に適用することができる。具体的には、77GHzの無線デバイスでは、電磁波の波長は約4mmであり、このような電磁波に対しても、例えば、スプリットワイヤ素子を光学部品として適用することができる。
【0182】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。