【実施例】
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る第1の実施例を説明する作業船と既設構造体及び新規構造体等を模式的に示す斜視図である。
【0024】
図1において、海面11上に浮かべられた1対の作業船12A、12Bは、既に海底13に沈設されている既設構造体としての既設沈埋函14に対して、新たに接合される新規構造体としての新規沈埋函15を、沈降用ウインチ16、16から各々繰り出されたワイヤ17で吊り下げて工事現場まで運ぶものである。また、新規沈埋函15が所定の位置まで移動されたら、既設沈埋函14と新規沈埋函15の間の距離を計りながらワイヤ17を延ばして海底13に沈めるとともに、既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を誘導して隣接位置に沈設し、その後、既設沈埋函14と新規沈埋函15の間を固定して接合する。この作業を1つ1つの沈埋函について順に行い、連続したトンネルを形成するようになっている。なお、新規沈埋函15を吊り下げる作業船12A、12Bは1対とは限らず、一艘の場合も、あるいは3艘以上の場合もある。
【0025】
本発明では、その既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を誘導するための沈設誘導方法に係るもので、
図1にはその沈設誘導方法を実施するためのシステム構成が示されている。なお、本例では、
図1に示すように各沈埋函14、15が、前後方向に細長く延びる平板状のブロック形をしてなる場合として説明するが、この形状に限定されるものではない。
【0026】
まず、
図1に示すシステム構成において、既設沈埋函14は、海上にあるとき、上面14aの後端部に、1対のトランスポンダT1、T2が互いに左右方向に離れて、また後端面14bと平行に取り付けられ、そのトランスポンダT1とトランスポンダT2間の距離L1を実際に計測して、後述するコンピュータPCに記憶しておく。なお、1対のトランスポンダT1、T2の配置は、後端面14bと必ずしも平行でなくてもよい。
【0027】
一方、新規沈埋函15には、同じく海上にあるとき、上面15aの前端部にトランスポンダT3,T4、T5を取り付け、後端部に上記1対のトランスポンダT1,T2を取り付けておく。なお、
図1では、新規沈埋函15側のトランスポンダT1、T2は図示を省略している。そして、トランスポンダT3、T4は互いに距離L2離れて新規沈埋函15の前端面15cと平行に取り付けられ、トランスポンダT5はトランスポンダT3から後方(後端面15b側)に距離L3離れて取り付けられている。また、1対のトランスポンダT3、T4の配置は、既設沈埋函14の場合と同様に、前端面15cと必ずしも平行でなくてもよい。そのトランスポンダT3とトランスポンダT4との間の距離L2及びトランスポンダT3とトランスポンダT5との間の距離L3は、海上にあるときに実際に計測されてコンピュータPCに記憶しておく。
【0028】
前記新規沈埋函15を吊り下げている前記1対の作業船12A、12Bのうち、新規沈埋函15の前端側を吊り下げている作業船12Aの前端面12aには、上下方向に延びる1対のロッドR1、R2がそれぞれ左右に分かれて取り付けられている。その各ロッドR1、R2の上端部は、作業船12Aより上方に突出し、下端部は水中(海中)に沈められている。そして、各ロッドR1、R2の上端部(空中部分)側にGPSアンテナG1、G2が取り付けられ、下端部側には送受波器S1、S2が水中に沈められた状態で取り付けられている。
【0029】
また、その作業船12A上には、前記コンピュータPCが船上処理装置と共に取り付けられている。このコンピュータPCには、GPSからの信号をGPSアンテナG1、G2を介して受けて取得される送受波器S1、S2の位置情報と、送受波器S1からの信号により取得されるトランスポンダT1、T2、T3、T4と送受波器S1との間の距離情報及び各トランスポンダT1、T2、T3、T4間の距離情報と、送受波器S2からの信号により取得される、トランスポンダT1、T2、T3、T4と送受波器S2との間の距離情報及び各トランスポンダT1、T2、T3、T4間の距離情報等が各々入力され、これらの各情報を演算処理し、その結果から水中にある新規沈埋函15の位置を把握し、既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を誘導する指示を船上処理装置に与えることができるようになっている。また、船上処理装置では、その指示に従って作業船12A、12Bの移動及び沈降用ウインチ16等を操作し、既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を隣接位置に沈め、既設沈埋函14と新規沈埋函15との接合ができるようになっている。
【0030】
なお、各ロッドR1,R2及びGPSアンテナG1、G2、送受波器S1、S2、コンピュータPCは、新規沈埋函15を吊り下げている1対の作業船12Aと別の作業船に搭載される場合もある。
【0031】
次に、このように構成されたシステムの動作を説明する。
【0032】
前記トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5は、深度を測定する目的で、圧力計(圧力より深度を求める)が組み込まれており、測定距離と同時に深度データを送受波器S1,S2に送信する。また、送受波器S1,S2から各トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5間の距離及び各トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5同士の距離をそれぞれ測定できる機能を有している。深度はトランスポンダT1、T2、T3、T4、T5内に内蔵された圧力計により測定している。この場合、事前に5台のトランスポンダT1、T2、T3、T4、T5の圧力計を同時に作業船12Aより吊り下げ、各深度でのキャリブレーションをしておく。
【0033】
そして、測量をするに当たっては、まず、GPSを使用して、作業船12A上に取り付けられた送受波器S1,S2の位置座標X、Y、Zを、GPSを求める。
【0034】
新規沈埋函15の位置の測量は、送受波器S1からトランスポンダT3,T4に向けて音波を発射し、送受波器S1とトランスポンダT3、T4間の音波の往復伝搬時間から船上処理装置で距離を求め、深度は各々のトランスポンダT3、T4が送受波器S1に送る。同時に、送受波器S2からトランスポンダT3,T4に向けて音波を発射し、送受波器S2とトランスポンダT3,T4間の音波の往復伝搬時間から船上処理装置で距離を求める。
【0035】
また、これらのデータをコンピュータPCで処理することにより、水中にある新規沈埋函15の正確な位置を把握することができる。そして、新規沈埋函15と既設沈埋函14の位置が把握できるので、新規沈埋函15と既設沈埋函14の相対位置を知ることができる。なお、新規沈埋函15には、トランスポンダ3,T4,T5を取り付けることで新規沈埋函15の姿勢を正確に把握することができ、海底13での据付面が傾斜している場合でもその傾斜に合わせて据え付けることが可能である。
【0036】
図2は、本発明の実施形態に係る第2の実施例を説明する作業船と既設構造体及び新規構造体等を概略的に示す斜視図である。この第2の実施例は、
図1に示した第1実施例におけるシステムで使用された測量方法から更に精度を向上させるために改良された測量方法を使用したものである。すなわち、
図1に示す第1の実施例では、GPSを使用して新規沈埋函15と既設沈埋函14の公共座標を求めているが、作業船12A、12Bの前後・左右の傾斜が発生すると、送受波器S1、S2の平面X,Y座標が傾斜により変わり、全体の位置精度が悪くなる欠点があった。
【0037】
そこで、この第2実施例におけるシステムで使用される測量方法では、その欠点を解決するためになされたものであり、第1の実施例で使用していた送受波器S1、S2のGPSによる測量は除外して、既設沈埋函14上のトランスポンダT1,T2を基点とした測量方法を行うようにしたものである。そこで、
図1に示したシステム構成と同じ構成部分には同一符号を付して重複説明は省略し、第1の実施例と異なる点について以下説明する。
【0038】
図2において、既設沈埋函14は海底13に据えてある。トランスポンダT1、T2は固定点であり、距離L1、L2は既知の長さであり、新規沈埋函15上のトランスポンダT3、T4、T5が浮遊点と考える。
【0039】
トランスポンダT4により、トランスポンダT4とトランスポンダT2間の距離L4と深度、及び、トランスポンダT4とトランスポンダT1の距離L5と深度を測定し、その情報を送受波器S1に送信する。同様に、トランスポンダT3により、トランスポンダT3とトランスポンダT1間の距離と深度、及び、トランスポンダT3とトランスポンダT2の距離と深度を測定し、その情報を送受波器S1に送信する。また、随時、送受波器S1よりトランスポンダT4とトランスポンダT1の距離L5を測定し深度情報を得る。
【0040】
そして、これらの測量情報をコンピュータPCで演算処理し、既設沈埋函14及び新規沈埋函15の相対位置を把握する。
【0041】
ところで、既設沈埋函14と新規沈埋函15との間の距離を測定するには、深度(水圧)、トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5の音波による往復伝搬距離が必要であり、その精度が問題となる。深度はトランスポンダT1、T2、T3、T4、T5内に内蔵された圧力計により測定している。事前に5台のトランスポンダT1、T2、T3、T4、T5の圧力計を同時に作業船12Aより吊り下げ、各深度でのキャリブレーションをしておくことにより解決できる。
【0042】
しかし、距離は、音波の往復伝搬距離を測定しているので、海水の温度、比重等の影響を受けて誤差が生じるため、各トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5でキャリブレーションをして誤差を取り除く。すなわち、トランスポンダT1、T2の実際の距離L1と水中でのT1,T2間の距離を比較することで、トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5の計測距離を補正できる。また、T3,T4も同様に補正する。新規沈埋函15は、最終的には既設沈埋函15から数メートルの距離に接近するため、上記測量を接近したときに再度行い精度を高めることが可能である。
【0043】
したがって、本発明の各実施例によれば、ケーブルを使わずに無線方式により、コンピュータPCが既設沈埋函14と新規沈埋函15の位置を簡単、かつ高い精度で把握し、既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を誘導して隣接した位置に簡単、かつ精度良く配置することができるので、接合精度を向上させることができるとともに、沈設に要するコストを低減でき、経済性の向上が期待できる。
【0044】
なお、本発明は海底トンネルを構築する場合を例に挙げて説明したが、これに限ることなく、海中に漁礁を形成するブロック等、水中に構造体を沈設する工事に、広く適用できるものである。
【0045】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。