特許第6047054号(P6047054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ あおみ建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6047054-構造体の沈設誘導方法 図000002
  • 特許6047054-構造体の沈設誘導方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047054
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】構造体の沈設誘導方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/073 20060101AFI20161212BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   E21D10/14
   G01C15/00 102C
   G01C15/00 104Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-73772(P2013-73772)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198931(P2014-198931A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000172961
【氏名又は名称】あおみ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100060575
【弁理士】
【氏名又は名称】林 孝吉
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】沖山 禎雄
(72)【発明者】
【氏名】吉原 到
(72)【発明者】
【氏名】榊原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝一
(72)【発明者】
【氏名】村上 英幸
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4157416(JP,B2)
【文献】 特開2003−027508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/073
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に沈められた既設構造体に対して新規に沈められる新規構造体の相対位置出しと誘導を行うための構造体の沈設誘導方法であって、作業船に、信号処理用のコンピュータPCと該コンピュータPCに無線通信可能送受波器S1、S2とを設け、前記既設構造体には、各送受波器S1、S2と無線通信可能な一対のトランスポンダT1、T2を設置、前記新規構造体には、各送受波器S1、S2及び各トランスポンダT1、T2と無線通信可能な一対のトランスポンダT3、T4を設置し、各トランスポンダT1、T2、T3、T4は、水深に応じた水圧を計測する圧力計が接続されると共に前記トランスポンダT1、T2、T3、T4間を音波が往復する時間で距離を計測し、前記コンピュータPCが、前記送受波器S1、S2の少なくとも一方に送られる前記トランスポンダT3と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報及び前記トランスポンダT4と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報並びに前記各トランスポンダT1、T2、T3、T4の深度情報に基づいて前記既設構造体に対する前記新規構造体の相対的な位置を把握し、前記既設構造体に対して該新規構造体を隣接させる構造体の沈設誘導方法において、
前記一対のトランスポンダT1、T2は、互いに実距離L1だけ離して設置され、
前記コンピュータPCが、前記一対のトランスポンダT1、T2間の実距離L1と前記トランスポンダT1、T2間の測定距離とを比較し、前記送受波器S1、S2に送られる各種情報を補正することを特徴とする構造体の沈設誘導方法。
【請求項2】
前記一対のトランスポンダT3、T4は、互いに実距離L2だけ離して設置され、
前記コンピュータPCが、前記一対のトランスポンダT3、T4間の実距離L2と、前記トランスポンダT3、T4を介して得られる前記トランスポンダT3、T4間の測定距離とを比較し、前記送受波器S1、S2に送られる各種情報を補正することを特徴とする請求項に記載の構造体の沈設誘導方法。
【請求項3】
前記コンピュータPCが、前記トランスポンダT3と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報及び前記トランスポンダT4と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報と同時に前記トランスポンダT1、T2、T3、T4にそれぞれ設けられた圧力計が計測した水圧に応じた前記トランスポンダT1、T2、T3、T4の各深度情報が取得できるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体の沈設誘導方法。
【請求項4】
前記新規構造体の一端側に前記一対のトランスポンダT3、T4と同一平面上にトランスポンダT5を設け、前記送受波器S1、S2から前記トランスポンダT5に向けて音波を発射して、前記送受波器S1、S2と前記トランスポンダT5との距離情報と深度情報とを取得し、前記新規構造体の傾斜状態を把握することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の構造体の沈設誘導方法。
【請求項5】
前記送受波器S1、S2は、GPSで位置情報を取得可能であり、
前記トランスポンダT1、T2と前記トランスポンダT3、T4とが通信可能な距離まで前記新規構造体が前記既設構造体に接近する前に、前記コンピュータPCは、前記送受波器S1、S2から発せられて前記送受波器S1、S2と前記トランスポンダT3、T4との間を往復する音波から得られる前記送受波器S1、S2それぞれに対する前記トランスポンダT3、T4の位置情報及び前記各送受波器S1、S2の位置情報に基づいて前記新規構造体の位置を把握し、該新規構造体を座標が既知の前記既設構造体に向けて誘導することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の構造体の沈設誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造体の沈設誘導方法に関するものであり、特に、水中に沈められた既設構造体と新たに沈める新規構造体との相対位置関係を計測して、既設構造体に対して新規構造体を近接誘導して沈設するための構造体の沈設誘導方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の技術は、例えば海中トンネルを構築する工事現場や、漁礁を形成するブロック等を海中に沈設する工事現場で使用される。
【0003】
例えば、海底トンネルを構築する工事においては、多数の沈埋函を地上の工場で予め構築しておき、それを現場に運んで行く。1つ1つの沈埋函は、それ自体巨大な構造物であって、工事現場では沈埋函を1つずつ順に海底に沈ませ、これを互いに接合し、連続したトンネルを形成するようにしている。
【0004】
その沈埋函を沈設する工法として、既設の沈埋函(以下、「既設沈埋函」という)上にコントロールタワー及びポンツーンを形成し、新規の沈埋函(以下、「新規沈埋函」という)のバラストタンクに注水をしながら、ポンツーン上のウインチ操作により新規沈埋函を沈降させ、ダイバーが既設沈埋函と新規沈埋函の間の距離を計るとともに、コントロールタワー上のウインチ操作で新規沈埋函を水平方向に移動させて既設沈埋函に接合させる工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この方法では、大きな水深になると、コントロールタワーなども長くなり、また巨大な沈埋函の距離をダイバーが計測するのは難しく、負担も大きくなるので、精度の良い計測がしづらい。
【0006】
そこで、別の沈設工法として、GPS(全地球測位システム)を使用して作業船の位置をリアルタイムに測定しながら、その作業船により新規沈埋函を所定の位置まで移動させ、移動された位置で作業船からウインチなどを使用して水中(海中)へ吊り下げて海底に沈ませ、更に新規沈埋函に取り付けたCCDカメラで既設沈埋函との位置を見ながら水平に移動させて、それを互いに接合する工法が知られている(例えば、特許文献2参照)。そのCCDカメラと作業船の間は、ケーブルで接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−13150号公報。
【特許文献2】特開2004−44372号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、GPSを使用して作業船の位置をリアルタイムに測定し、その作業船からウインチを使用して新規沈埋函、すなわち新規構造体を吊り下げて海底に沈ませる方法では、作業船から水中へ吊り下げられた新規構造体や作業治具などの位置は、潮流の影響を受けて作業船の位置から左右、前後にずれてしまう。また、水深が大きくなれば潮流の影響などで位置ズレも大きくなり、作業船の位置と吊り下げられた新規構造体や作業治具などの相対位置を正確に把握することが困難であった。さらに、CCDカメラと作業船との間をケーブルで接続しているので、大きな水深になるとケーブルも長くなり作業も面倒で、また水中の明るさも低下するので、ターゲットをカメラで捉えることが困難になるという問題点があった。
【0009】
そこで、ケーブルを使わず無線方式により、離れた作業船上から水中にある構造物や作業治具などの位置を簡単に、かつ短時間で精度良く測量を行い、既設構造体と新規構造体との位置関係をリアルタイムに把握し、新規構造体を所定の位置へ誘導して沈設することができるようにした構造体の沈設誘導方法を提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、水中に沈められた既設構造体に対して新規に沈められる新規構造体の相対位置出しと誘導を行うための構造体の沈設誘導方法であって、作業船に、信号処理用のコンピュータPCと該コンピュータPCに無線通信可能送受波器S1、S2とを設け、前記既設構造体には、各送受波器S1、S2と無線通信可能な一対のトランスポンダT1、T2を設置、前記新規構造体には、各送受波器S1、S2及び各トランスポンダT1、T2と無線通信可能な一対のトランスポンダT3、T4を設置し、各トランスポンダT1、T2、T3、T4には、水深に応じた水圧を計測する圧力計が接続されると共に前記トランスポンダT1、T2、T3、T4間を音波が往復する時間で距離を計測し、前記コンピュータPCが、前記送受波器S1、S2の少なくとも一方に送られる前記トランスポンダT3と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報及び前記トランスポンダT4と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報並びに前記各トランスポンダT1、T2、T3、T4の深度情報に基づいて前記既設構造体に対する前記新規構造体の相対的な位置を把握し、前記既設構造体に対して該新規構造体を隣接させる構造体の沈設誘導方法において、前記一対のトランスポンダT1、T2は、互いに実距離L1だけ離して設置され、前記コンピュータPCが、前記一対のトランスポンダT1、T2間の実距離L1と前記トランスポンダT1、T2間の測定距離とを比較し、前記送受波器S1、S2に送られる各種情報を補正する構造体の沈設誘導方法を提供する。
【0012】
記コンピュータPCが、前記既設構造体に設置された一対のトランスポンダT1、T2、又は、前記新規構造体に設置された一対のトランスポンダT3、T4により前記トランスポンダT1、T2、T3、T4間の距離及び深度を測定して前記送受波器S1、S2の少なくとも一方に送られる距離情報及び深度情報から水中にある前記新規構造体の位置を把握し、前記既設構造体に対して該新規構造体を隣接配置させるようにすると、精度を更に向上させることができる。
【0013】
また、前記コンピュータPCが、前記一対のトランスポンダT1、T2間の実距離L1と前記トランスポンダT1、T2間の測定距離とを比較し、前記送受波器S1、S2に送られる各種情報を補正すると、例えば海水の温度、比重の影響による誤差等を取り除いて、精度を更に向上させることができる。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記一対のトランスポンダT3、T4は、互いに実距離L2だけ離して設置され、前記コンピュータPCが、前記一対のトランスポンダT3、T4間の実距離L2と、前記トランスポンダT3、T4を介して得られる前記トランスポンダT3、T4間の測定距離とを比較し、前記送受波器S1、S2に送られる各種情報を補正する構造体の沈設誘導方法を提供する。
この方法によれば、前記コンピュータPCが、前記一対のトランスポンダT3、T4間の実距離L2と、前記トランスポンダT3、T4を介して得られる前記トランスポンダT3、T4間の測定距離とを比較し、前記送受波器S1、S2に送られる各種情報を補正すると、例えば海水の温度、比重の影響による誤差等を取り除いて、精度を更に向上させることができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の構成に加えて、前記コンピュータPCが、前記トランスポンダT3と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報及び前記トランスポンダT4と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報と同時に前記トランスポンダT1、T2、T3、T4にそれぞれ設けられた圧力計が計測した水圧に応じた前記トランスポンダT1、T2、T3、T4の各深度情報が取得できるようにした構造体の沈設誘導方法を提供する。
この方法によれば、前記各トランスポンダT1、T2、T3、T4に圧力計を設けて、各トランスポンダT1、T2、T3、T4の距離情報と同時に深度情報が取得できるようにすると、測距精度をより向上させることができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れか1項記載の発明の構成に加えて、前記新規構造体の一端側に前記一対のトランスポンダT3、T4と同一平面上にトランスポンダT5を設け、前記送受波器S1、S2から前記トランスポンダT5に向けて音波を発射して、前記送受波器S1、S2と前記トランスポンダT5との距離情報と深度情報とを取得し、前記新規構造体の傾斜状態を把握する構造体の沈設誘導方法を提供する。
この方法によれば、前記新規構造体の一端側に前記一対のトランスポンダT3、T4と同一平面上にトランスポンダT5を設け、前記送受波器S1、S2から前記トランスポンダT5に向けて音波を発射して、前記送受波器S1、S2と前記トランスポンダT5との距離情報と深度情報とを取得し、前記新規構造体の傾斜状態を把握するようすると、据付面が傾斜している場合でも、その傾斜に合わせて精度良く据え付けることが可能になる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4の何れか1項記載の発明の構成に加えて、前記送受波器S1、S2は、GPSで位置情報を取得可能であり、前記トランスポンダT1、T2と前記トランスポンダT3、T4とが通信可能な距離まで前記新規構造体が前記既設構造体に接近する前に、前記コンピュータPCは、前記送受波器S1、S2から発せられて前記送受波器S1、S2と前記トランスポンダT3、T4との間を往復する音波から得られる前記送受波器S1、S2それぞれに対する前記トランスポンダT3、T4の位置情報及び前記各送受波器S1、S2の位置情報に基づいて前記新規構造体の位置を把握し、該新規構造体を座標が既知の前記既設構造体に向けて誘導する構造体の沈設誘導方法を提供する。
【0018】
この方法によれば、無線方式により、GPSから取得される送受波器S1、S2の位置情報と、トランスポンダT1、T2、T3、T4と送受波器S1との間の距離情報及びトランスポンダT1、T2、T3、T4間の距離情報と、トランスポンダT1、T2、T3、T4と送受波器S2との間の距離情報及びトランスポンダT1、T2、T3、T4間の距離情報をコンピュータPCで取得し、それらの情報からコンピュータPCが水中にある新規構造体の位置をリアルタイムに把握し、既設構造体に対して新規構造体を誘導して隣接配置させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ケーブルを使わず無線方式により、コンピュータPCが既設構造体に対する新規構造体の位置を簡単、かつ高い精度で把握し、既設構造体に対して新規構造体を誘導して隣接した位置に簡単、かつ精度良く配置することができるので、接合精度を向上させることができるとともに、沈設に要するコストを低減でき、経済性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る構造体の沈設誘導方法の第1の実施例を説明する作業船と既設構造体及び新規構造体等を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明に係る構造体の沈設誘導方法の第2の実施例を説明する作業船と既設構造体及び新規構造体等を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ケーブルを使わず無線方式により、離れた作業船上から水中にある構造物や作業治具などの位置を簡単に、かつ短時間で精度良く測量を行い、既設構造体と新規構造体との位置関係をリアルタイムに把握し、新規構造体を所定の位置へ誘導して沈設することができるようにした構造体の沈設誘導方法を提供するという目的を達成するために、水中に沈められた既設構造体に対して新規に沈められる新規構造体の相対位置出しと誘導を行うための構造体の沈設誘導方法であって、作業船に、信号処理用のコンピュータPCと該コンピュータPCに無線通信可能送受波器S1、S2とを設け、前記既設構造体には、各送受波器S1、S2と無線通信可能な一対のトランスポンダT1、T2を設置、前記新規構造体には、各送受波器S1、S2及び各トランスポンダT1、T2と無線通信可能な一対のトランスポンダT3、T4を設置し、各トランスポンダT1、T2、T3、T4には、水深に応じた水圧を計測する圧力計が接続されると共に前記トランスポンダT1、T2、T3、T4間を音波が往復する時間で距離を計測し、前記コンピュータPCが、前記送受波器S1、S2の少なくとも一方に送られる前記トランスポンダT3と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報及び前記トランスポンダT4と前記各トランスポンダT1、T2との間の距離情報並びに前記各トランスポンダT1、T2、T3、T4の深度情報に基づいて前記既設構造体に対する前記新規構造体の相対的な位置を把握し、前記既設構造体に対して該新規構造体を隣接させる構造体の沈設誘導方法において、前記一対のトランスポンダT1、T2は、互いに実距離L1だけ離して設置され、前記コンピュータPCが、前記一対のトランスポンダT1、T2間の実距離L1と前記トランスポンダT1、T2間の測定距離とを比較し、前記送受波器S1、S2に送られる各種情報を補正するようにしたことにより実現した。
【0022】
以下、本発明の実施形態による構造体の沈設誘導方法を、海底トンネルを構築する場合を一例として詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る第1の実施例を説明する作業船と既設構造体及び新規構造体等を模式的に示す斜視図である。
【0024】
図1において、海面11上に浮かべられた1対の作業船12A、12Bは、既に海底13に沈設されている既設構造体としての既設沈埋函14に対して、新たに接合される新規構造体としての新規沈埋函15を、沈降用ウインチ16、16から各々繰り出されたワイヤ17で吊り下げて工事現場まで運ぶものである。また、新規沈埋函15が所定の位置まで移動されたら、既設沈埋函14と新規沈埋函15の間の距離を計りながらワイヤ17を延ばして海底13に沈めるとともに、既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を誘導して隣接位置に沈設し、その後、既設沈埋函14と新規沈埋函15の間を固定して接合する。この作業を1つ1つの沈埋函について順に行い、連続したトンネルを形成するようになっている。なお、新規沈埋函15を吊り下げる作業船12A、12Bは1対とは限らず、一艘の場合も、あるいは3艘以上の場合もある。
【0025】
本発明では、その既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を誘導するための沈設誘導方法に係るもので、図1にはその沈設誘導方法を実施するためのシステム構成が示されている。なお、本例では、図1に示すように各沈埋函14、15が、前後方向に細長く延びる平板状のブロック形をしてなる場合として説明するが、この形状に限定されるものではない。
【0026】
まず、図1に示すシステム構成において、既設沈埋函14は、海上にあるとき、上面14aの後端部に、1対のトランスポンダT1、T2が互いに左右方向に離れて、また後端面14bと平行に取り付けられ、そのトランスポンダT1とトランスポンダT2間の距離L1を実際に計測して、後述するコンピュータPCに記憶しておく。なお、1対のトランスポンダT1、T2の配置は、後端面14bと必ずしも平行でなくてもよい。
【0027】
一方、新規沈埋函15には、同じく海上にあるとき、上面15aの前端部にトランスポンダT3,T4、T5を取り付け、後端部に上記1対のトランスポンダT1,T2を取り付けておく。なお、図1では、新規沈埋函15側のトランスポンダT1、T2は図示を省略している。そして、トランスポンダT3、T4は互いに距離L2離れて新規沈埋函15の前端面15cと平行に取り付けられ、トランスポンダT5はトランスポンダT3から後方(後端面15b側)に距離L3離れて取り付けられている。また、1対のトランスポンダT3、T4の配置は、既設沈埋函14の場合と同様に、前端面15cと必ずしも平行でなくてもよい。そのトランスポンダT3とトランスポンダT4との間の距離L2及びトランスポンダT3とトランスポンダT5との間の距離L3は、海上にあるときに実際に計測されてコンピュータPCに記憶しておく。
【0028】
前記新規沈埋函15を吊り下げている前記1対の作業船12A、12Bのうち、新規沈埋函15の前端側を吊り下げている作業船12Aの前端面12aには、上下方向に延びる1対のロッドR1、R2がそれぞれ左右に分かれて取り付けられている。その各ロッドR1、R2の上端部は、作業船12Aより上方に突出し、下端部は水中(海中)に沈められている。そして、各ロッドR1、R2の上端部(空中部分)側にGPSアンテナG1、G2が取り付けられ、下端部側には送受波器S1、S2が水中に沈められた状態で取り付けられている。
【0029】
また、その作業船12A上には、前記コンピュータPCが船上処理装置と共に取り付けられている。このコンピュータPCには、GPSからの信号をGPSアンテナG1、G2を介して受けて取得される送受波器S1、S2の位置情報と、送受波器S1からの信号により取得されるトランスポンダT1、T2、T3、T4と送受波器S1との間の距離情報及び各トランスポンダT1、T2、T3、T4間の距離情報と、送受波器S2からの信号により取得される、トランスポンダT1、T2、T3、T4と送受波器S2との間の距離情報及び各トランスポンダT1、T2、T3、T4間の距離情報等が各々入力され、これらの各情報を演算処理し、その結果から水中にある新規沈埋函15の位置を把握し、既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を誘導する指示を船上処理装置に与えることができるようになっている。また、船上処理装置では、その指示に従って作業船12A、12Bの移動及び沈降用ウインチ16等を操作し、既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を隣接位置に沈め、既設沈埋函14と新規沈埋函15との接合ができるようになっている。
【0030】
なお、各ロッドR1,R2及びGPSアンテナG1、G2、送受波器S1、S2、コンピュータPCは、新規沈埋函15を吊り下げている1対の作業船12Aと別の作業船に搭載される場合もある。
【0031】
次に、このように構成されたシステムの動作を説明する。
【0032】
前記トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5は、深度を測定する目的で、圧力計(圧力より深度を求める)が組み込まれており、測定距離と同時に深度データを送受波器S1,S2に送信する。また、送受波器S1,S2から各トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5間の距離及び各トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5同士の距離をそれぞれ測定できる機能を有している。深度はトランスポンダT1、T2、T3、T4、T5内に内蔵された圧力計により測定している。この場合、事前に5台のトランスポンダT1、T2、T3、T4、T5の圧力計を同時に作業船12Aより吊り下げ、各深度でのキャリブレーションをしておく。
【0033】
そして、測量をするに当たっては、まず、GPSを使用して、作業船12A上に取り付けられた送受波器S1,S2の位置座標X、Y、Zを、GPSを求める。
【0034】
新規沈埋函15の位置の測量は、送受波器S1からトランスポンダT3,T4に向けて音波を発射し、送受波器S1とトランスポンダT3、T4間の音波の往復伝搬時間から船上処理装置で距離を求め、深度は各々のトランスポンダT3、T4が送受波器S1に送る。同時に、送受波器S2からトランスポンダT3,T4に向けて音波を発射し、送受波器S2とトランスポンダT3,T4間の音波の往復伝搬時間から船上処理装置で距離を求める。
【0035】
また、これらのデータをコンピュータPCで処理することにより、水中にある新規沈埋函15の正確な位置を把握することができる。そして、新規沈埋函15と既設沈埋函14の位置が把握できるので、新規沈埋函15と既設沈埋函14の相対位置を知ることができる。なお、新規沈埋函15には、トランスポンダ3,T4,T5を取り付けることで新規沈埋函15の姿勢を正確に把握することができ、海底13での据付面が傾斜している場合でもその傾斜に合わせて据え付けることが可能である。
【0036】
図2は、本発明の実施形態に係る第2の実施例を説明する作業船と既設構造体及び新規構造体等を概略的に示す斜視図である。この第2の実施例は、図1に示した第1実施例におけるシステムで使用された測量方法から更に精度を向上させるために改良された測量方法を使用したものである。すなわち、図1に示す第1の実施例では、GPSを使用して新規沈埋函15と既設沈埋函14の公共座標を求めているが、作業船12A、12Bの前後・左右の傾斜が発生すると、送受波器S1、S2の平面X,Y座標が傾斜により変わり、全体の位置精度が悪くなる欠点があった。
【0037】
そこで、この第2実施例におけるシステムで使用される測量方法では、その欠点を解決するためになされたものであり、第1の実施例で使用していた送受波器S1、S2のGPSによる測量は除外して、既設沈埋函14上のトランスポンダT1,T2を基点とした測量方法を行うようにしたものである。そこで、図1に示したシステム構成と同じ構成部分には同一符号を付して重複説明は省略し、第1の実施例と異なる点について以下説明する。
【0038】
図2において、既設沈埋函14は海底13に据えてある。トランスポンダT1、T2は固定点であり、距離L1、L2は既知の長さであり、新規沈埋函15上のトランスポンダT3、T4、T5が浮遊点と考える。
【0039】
トランスポンダT4により、トランスポンダT4とトランスポンダT2間の距離L4と深度、及び、トランスポンダT4とトランスポンダT1の距離L5と深度を測定し、その情報を送受波器S1に送信する。同様に、トランスポンダT3により、トランスポンダT3とトランスポンダT1間の距離と深度、及び、トランスポンダT3とトランスポンダT2の距離と深度を測定し、その情報を送受波器S1に送信する。また、随時、送受波器S1よりトランスポンダT4とトランスポンダT1の距離L5を測定し深度情報を得る。
【0040】
そして、これらの測量情報をコンピュータPCで演算処理し、既設沈埋函14及び新規沈埋函15の相対位置を把握する。
【0041】
ところで、既設沈埋函14と新規沈埋函15との間の距離を測定するには、深度(水圧)、トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5の音波による往復伝搬距離が必要であり、その精度が問題となる。深度はトランスポンダT1、T2、T3、T4、T5内に内蔵された圧力計により測定している。事前に5台のトランスポンダT1、T2、T3、T4、T5の圧力計を同時に作業船12Aより吊り下げ、各深度でのキャリブレーションをしておくことにより解決できる。
【0042】
しかし、距離は、音波の往復伝搬距離を測定しているので、海水の温度、比重等の影響を受けて誤差が生じるため、各トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5でキャリブレーションをして誤差を取り除く。すなわち、トランスポンダT1、T2の実際の距離L1と水中でのT1,T2間の距離を比較することで、トランスポンダT1、T2、T3、T4、T5の計測距離を補正できる。また、T3,T4も同様に補正する。新規沈埋函15は、最終的には既設沈埋函15から数メートルの距離に接近するため、上記測量を接近したときに再度行い精度を高めることが可能である。
【0043】
したがって、本発明の各実施例によれば、ケーブルを使わずに無線方式により、コンピュータPCが既設沈埋函14と新規沈埋函15の位置を簡単、かつ高い精度で把握し、既設沈埋函14に対して新規沈埋函15を誘導して隣接した位置に簡単、かつ精度良く配置することができるので、接合精度を向上させることができるとともに、沈設に要するコストを低減でき、経済性の向上が期待できる。
【0044】
なお、本発明は海底トンネルを構築する場合を例に挙げて説明したが、これに限ることなく、海中に漁礁を形成するブロック等、水中に構造体を沈設する工事に、広く適用できるものである。
【0045】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、高精度な計測が可能で、水中における距離計測手段としても幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
11 海面
12A、12B 作業船
12a 前端面
13 海底
14 既設沈埋函(既設構造体)
14a 上面
14b 後端面
15 新規沈埋函(新規構造体)
15a 上面
15b 後端面
15c 前端面
16 沈降用ウインチ
17 ワイヤ
PC コンピュータ
T1〜T5 トランスポンダ
L1 T1とT2間の距離
L2 T3とT4間の距離
L3 T3とT5間の距離
L4 T1とT3間の距離
R1、R2 ロッド
G1、G2 GPSアンテナ
S1、S2 送受波器
図1
図2