特許第6047089号(P6047089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047089
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】航空機用タイヤのクラウン補強材
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20161212BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B60C9/18 M
   B60C9/18 H
   B60C9/18 D
   B60C9/18 Q
   B60C9/22 G
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-517349(P2013-517349)
(86)(22)【出願日】2011年7月5日
(65)【公表番号】特表2013-533826(P2013-533826A)
(43)【公表日】2013年8月29日
(86)【国際出願番号】EP2011061270
(87)【国際公開番号】WO2012004237
(87)【国際公開日】20120112
【審査請求日】2014年6月6日
(31)【優先権主張番号】1055494
(32)【優先日】2010年7月7日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】カンパニー ジェネラレ デ エスタブリシュメンツ ミシュラン
(73)【特許権者】
【識別番号】508032479
【氏名又は名称】ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】エスタンヌ ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】ブシェ ローラン
【審査官】 佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−072003(JP,A)
【文献】 特開2002−002220(JP,A)
【文献】 特開2005−035345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18
B60C 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸、この回転軸に垂直な半径方向、前記回転軸に平行な軸方向、及び、前記半径方向と軸方向とにより決定される平面に垂直な周方向を備えた、航空機用のタイヤであって、
−トレッド(1)を介して路面に接触するようになっていて且つリムに接触するようになった2つのビードにサイドウォールによって連結されているクラウンと、
−前記2つのビードを互いに連結している半径方向カーカス補強材(2)と、
−前記トレッドの半径方向内側に位置し且つ前記半径方向カーカス補強材の半径方向外側に位置していて、実働補強材(3)及び保護補強材(4)を有するクラウン補強材とを有し、
−前記実働補強材は、前記保護補強材の半径方向内側に、前記実働補強材の少なくとも1つの層(30)を有し、
−各実働補強材層は、軸方向に並置された実質的に円周方向のストリップ(31,231,331,431)から成り、
−各ストリップは、ポリマー被覆材料(33,233,333,433)で被覆された相互に平行な繊維補強要素(32,232,332,432)で構成されている、タイヤにおいて、
前記少なくとも1つの実働補強材層の各ストリップは、少なくともその半径方向内側の軸方向フェースにわたって、少なくとも1本の平行な実質的に円周方向の細線状熱伝導性材料を含む熱伝達要素(34,234,334,434)と接触状態にあり、前記熱伝達要素の前記熱伝導性材料の熱伝導率は、前記熱伝達要素と接触状態にある前記ストリップの前記繊維補強要素の前記ポリマー被覆材料の熱伝導率の50倍以上であり、熱伝達要素の厚さと熱伝達要素の引張り弾性率の積は、前記ストリップの厚さと前記ストリップの引張り弾性率の積の0.3倍以下であり、かつ、前記ストリップの厚さと前記ストリップの引張り弾性率の積の0倍よりも大きい、タイヤ。
【請求項2】
各実働補強材層(30)の各ストリップ(31,231,331,431)は、少なくともその半径方向内側の軸方向フェースにわたって、少なくとも1つの熱伝導性材料を含む熱伝達要素(34,234,334,434)と接触状態にある、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記熱伝達要素(34,234,334,434)は、少なくとも1つの実質的に円周方向の金属バンドで構成されている、請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記熱伝達要素は、軸方向幅が前記熱伝達要素と接触状態にある前記ストリップ(31,231)の軸方向幅に等しい単一の実質的に円周方向の金属バンド(34,234)で構成されている、請求項1乃至3の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記熱伝達要素は、軸方向幅の合計が前記熱伝達要素と接触状態にある前記ストリップ(331)の軸方向幅以下の複数の軸方向に並置された実質的に円周方向のバンド(334)で構成されている、請求項1乃至3の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記熱伝達要素は、前記熱伝達要素と接触状態にある前記ストリップ(431)の軸方向幅にわたって分布された複数の軸方向に分離された実質的に円周方向のバンド(434)で構成されている、請求項1乃至3の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
実質的に円周方向の金属バンド(34,234,334,434)が前記金属バンドの厚さ方向に延びる穴(235)を有する、請求項3乃至6の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
実質的に円周方向の金属バンド(34,234,334,434)が前記金属バンドの厚さ方向に延びる円形の穴(235)を有する、請求項3乃至7の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
実質的に円周方向の金属バンド(34,234,334,434)が、前記バンドの幅の半分以下の直径であり、前記金属バンドの厚さ方向に延びる穴(235)を有する、請求項3乃至8の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記熱伝達要素(34,234,334,434)の前記熱伝導性材料は、金属で作られている、請求項1乃至9の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記熱伝達要素(34,234,334,434)の前記熱伝導性材料は、アルミニウムである、請求項1乃至10の何れか1項に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記熱伝達要素(34,234,334,434)の厚さは、0.1mm以下、かつ、0mmよりも大きい、請求項11記載のタイヤ。
【請求項13】
前記熱伝達要素(34,234,334,434)は、軸方向に垂直な円周方向平面内に周期的な幾何学的振動形態を有する、請求項1乃至12の何れか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用タイヤ、特に、繊維補強要素の層を有する航空機用タイヤのクラウン補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、回転軸線に関して回転対称を呈する幾何学的形状を有するので、タイヤの幾何学的形状は、タイヤの回転軸線を含む子午面に関して説明できる。所与の子午面の場合、半径方向、軸方向及び円周方向は、それぞれ、タイヤの回転軸線に垂直な方向、タイヤの回転軸線に平行な方向及び子午面に垂直な方向を示している。以下において、「半径方向内側」及び「半径方向外側」という表現は、それぞれ、「半径方向においてタイヤの回転軸線の近くに位置する」及び「半径方向においてタイヤの回転軸線から遠ざかって位置する」を意味している。「軸方向内側」及び「軸方向外側」という表現は、それぞれ、「軸方向において赤道面の近くに位置する」及び「軸方向において赤道面から遠ざかって位置する」を意味し、赤道面は、タイヤの回転軸線に垂直な平面であり且つタイヤの踏み面(トレッド表面)の中央を通る平面である。
【0003】
航空機用タイヤは、公称圧力が9barを超え、公称撓みレベルが32%以上であることを特徴としている。公称圧力は、例えば、タイヤ・リム協会(Tire and Rim Association:TRA)により規定されている規格によって定義されたタイヤの公称インフレーション圧力である。タイヤの公称撓みレベルは、定義上、タイヤが例えばTRA規格によって定義されている公称荷重及び圧力条件下において荷重が加わっていないインフレート状態から静荷重が加えられたインフレート状態に変化したときのその半径方向変形分又は半径方向高さの変化分である。公称撓みレベルは、タイヤの半径方向高さのこの変化分と、タイヤの外径とリムフランジ上で測定されたリムの最大直径の差の半分の比によって定められた相対撓みの形態で表される。タイヤの外径は、公称圧力までインフレートされた荷重が加わっていない状態において静的条件下で測定される。
【0004】
タイヤは、一般に、踏み面を介して路面に接触するようになったトレッドを含むクラウン、リムに接触するようになった2つのビード及びクラウンをビードに連結している2つのサイドウォールを有する。例えば一般に航空機に用いられているラジアルタイヤは、より具体的に言えば、半径方向カーカス補強材及びクラウン補強材を有し、これら補強材は両方とも、例えば、欧州特許第1381525号明細書に記載されている。
【0005】
半径方向カーカス補強材は、タイヤの2つのビードを互いに連結するタイヤ補強構造体である。航空機用タイヤの半径方向カーカス補強材は、一般に、カーカス補強材の少なくとも1つの層を有し、各カーカス補強材層は、円周方向と80°〜100°の角度をなす通常繊維材料の相互に平行な補強要素で構成されている。
【0006】
クラウン補強材は、トレッドの半径方向内側に位置すると共に半径方向カーカス補強材の少なくとも部分的に半径方向外側に位置するタイヤ補強構造体である。航空機用タイヤのクラウン補強材は、一般に、クラウン補強材の少なくとも1つの層を有し、各クラウン補強材層は、ポリマー被覆材料で被覆された相互に平行な補強要素で構成されている。クラウン補強材層内では、通常繊維補強要素で構成された実働補強材を構成する実働補強材層と保護補強材層を構成すると共に実働補強材の半径方向外側に位置した金属又は繊維補強層で作られた保護補強材層とは区別される。
【0007】
航空機用タイヤの製造の際、実働補強材層は、通常、実働補強材層の予想軸方向幅を得るよう巻線の各ターンについてストリップの軸方向並進運動を行うことにより、繊維補強要素で構成されたストリップを円筒形製造装置回りにジグザグに巻回することによって又は折り返し状態で巻回することによって作られる。かくして、実働補強材層は、軸方向に並置されたストリップで構成される。ジグザグ巻回という用語は、一巻回ターン当たりの周期の半分又は一巻回ターン当たりの一周期を周期とする起伏部で形成された曲線状態の巻回であり、ストリップの繊維補強要素の角度は、一般に、円周方向に対して8°〜30°である。折り返し巻回により作られる実働補強材層に関し、ストリップの繊維補強要素の角度は、一般に、円周方向に対して0°〜8°である。したがって、ストリップの巻回形式がどのようなものであれ、ストリップの繊維補強要素の角度は、一般に、円周方向に対して30°未満である。この理由で、ストリップ及び結果的に得られる実働層は、実質的に円周方向であると言われ、このことは、円周方向に関して制限された振幅の起伏を有する方向に関して実質的に円周方向であることを意味している。
【0008】
実働補強材層の補強要素は、相互に平行であり、このことは、2つの隣り合う補強要素の幾何学的曲線相互間の距離が一定であると言えることを意味し、幾何学的曲線は、周期的起伏を呈すると言える。
【0009】
航空機用タイヤに関し、カーカス補強材層の補強要素及び実働補強材層の補強要素は、通常、好ましくは脂肪族ポリアミド又は芳香族ポリアミドで作られた繊維フィラメントの紡績糸で構成されたコードである。保護補強材層の補強要素は、金属細線で構成されたコードか繊維フィラメントの紡績糸で構成されたコードかのいずれかであるのが良い。
【0010】
繊維補強要素の張力下における機械的性質(弾性率、伸び率及び破断時力)は、事前状態調節後に測定される。「事前状態調節」という用語は、繊維補強要素が測定前に、欧州規DIN EN20139(20±2℃の温度、65±2%の相対湿度)に準拠した標準雰囲気内で少なくとも24時間にわたって貯蔵されていることを意味している。測定値は、ツヴィック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュテンクテル・ハフツング・ウント・カンパニー(ZWICK GmbH & Co )(独国)により製造された引張り試験機を用いて公知の仕方で取られる。繊維補強要素は、200mm/分の公称速度で400mmの初期長さに関して張力を受ける。結果は全て、10個の測定値にわたって平均される。
【0011】
ポリマー材料、例えば実働補強材層の繊維補強要素について用いられているポリマー被覆材料は、硬化後、引張り応力‐歪み特性が引張り試験によって定められるという機械的特徴を有する。この引張り試験は、例えば国際規格ISO37に準拠し且つ国際規格ISO471により定められた公称温度(23±2℃)及び湿度(50±5%相対湿度)条件下において当業者に知られている方法を用いて試験体について実施される。ポリマー混合物に関し、試験体の10%伸び率について測定される引張り応力は、10%伸び率における弾性率又は引張り弾性率として知られており、メガパスカル(MPa)で表される。
【0012】
使用にあたり、公称圧力、公称荷重の0〜2倍の範囲にわたる場合のあるタイヤに加えられる荷重及び航空機の速度の組み合わせ作用に起因して生じる走行時機械的応力は、実働補強材層の補強要素に張力サイクルを生じさせる。
【0013】
この張力サイクルは、実働補強材層の補強要素のポリマー被覆材料内に、特に実働補強材層の軸方向端部のところに熱源を生じさせる。これら熱源は、熱がポリマー被覆材料中に又は繊維補強要素中に拡散可能であるはずなので熱の除去が困難な局所化ホットスポットである。しかしながら、ポリマー被覆材料は、その熱伝導率が低いので、熱の不良導体である。同様に、繊維補強要素は、これらの熱伝導率が低いので、熱の除去に対して効果的な寄与をもたらすことができない。この結果、ポリマー被覆材料の過度の加熱が生じ、これは、その正確な機械的健全性を損なうと共に機械的健全性が劣化するようにする可能性があり、かくして時期尚早なタイヤの破損を招く。
【0014】
実働補強材中に生じる熱の除去のための経路を作ろうとする種々の技術的手段が考えられた。欧州特許第1031441号明細書及び日本国特開2007‐131282号公報は、熱伝導率を向上させた熱伝導性ポリマー材料を開示している。欧州特許第1548057号明細書は、熱伝導率を増大させるためにカーボンナノチューブ(carbon nanotube)を含むポリマー材料を提案している。欧州特許第1483122号明細書は、子午面内に布設されると共に実働補強材の端部のところに挿入された金属ケーブルの形態をした熱ドレン(thermal drain)を記載している。最後に、韓国特許第812810号明細書は、金属製であるのが良く且つ実働補強材の端部のところに配置された熱伝導性インサートを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第1381525号明細書
【特許文献2】欧州特許第1031441号明細書
【特許文献3】日本国特開2007‐131282号公報
【特許文献4】欧州特許第1548057号明細書
【特許文献5】欧州特許第1483122号明細書
【特許文献6】韓国特許第812810号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者は、タイヤのクラウン全体にわたって一様な温度分布状態を得ると同時にこれが実働補強材の加重に対する影響を最小限に抑えるために一般に実働補強材層の端部のところに位置した温度の最も高い箇所から一般に実働補強材の中央領域に位置した温度の最も低い箇所への航空機用タイヤの実働補強材中に生じた熱の除去具合を向上させるという目的の達成に取り組んだ。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、本発明によれば、航空機用のタイヤであって、
‐トレッドを介して路面に接触するようになっていて且つリムに接触するようになった2つのビードにサイドウォールによって連結されているクラウンと、
‐2つのビードを互いに連結している半径方向カーカス補強材と、
‐トレッドの半径方向内側に位置し且つ半径方向カーカス補強材の半径方向外側に位置していて、実働補強材及び保護補強材を有するクラウン補強材とを有し、
‐実働補強材は、保護補強材の半径方向内側に、実働補強材の少なくとも1つの層を有し、
‐各実働補強材層は、軸方向に並置された実質的に円周方向のストリップから成り、
‐各ストリップは、ポリマー被覆材料で被覆された相互に平行な繊維補強要素で構成されている、タイヤにおいて、
少なくとも1つの実働補強材層の各ストリップは、少なくともその半径方向内側の軸方向フェースにわたって、少なくとも1本の平行な実質的に円周方向の細線状熱伝導性材料を含む熱伝達要素と接触状態にあり、熱伝達要素の熱伝導性材料の熱伝導率は、熱伝達要素と接触状態にあるストリップの繊維補強要素のポリマー被覆材料の熱伝導率の少なくとも50倍に等しく、熱伝達要素の厚さと熱伝達要素の引張り弾性率の積は、ストリップの厚さとストリップの引張り弾性率の積のせいぜい0.3倍に等しいことを特徴とするタイヤを用いて達成される。
【0018】
本発明によれば、少なくとも1つの実働補強材層の各ストリップは、少なくともその半径方向内側軸方向フェースにわたって、熱伝導性材料で作られた相互に平行な実質的に円周方向の細線状要素を含む熱伝達要素と接触状態にあり、このことは、ストリップのフェースがタイヤの回転軸線に平行であり且つタイヤの回転軸線の半径方向最も近くに位置していることを意味している。
【0019】
熱伝達要素は、少なくとも1つの熱伝導性材料の存在により熱を除去する機能を実行する。熱伝達要素は、必ずしも熱伝導性材料(これには限定されない)で構成される必要はない。
【0020】
熱伝導性材料は、熱伝導率が高い材料、例えば金属材料であることを意味している。材料の熱伝導率は、W・m-1・K-1で表される物理量であり、これは、材料が熱エネルギーを運ぶことができるという特徴を示している。熱伝導性材料の熱伝導率が高ければ高いほど、この材料は熱エネルギーをそれだけ一層良好に運搬できる。
【0021】
これとは対照的に、材料が熱の導体ではなく、より正確に言えば、熱の不良導体であるという表現は、材料の熱伝導率が低く、例えばタイヤに従来用いられている従来型ポリマー材料であることを意味している。
【0022】
実働補強材層の軸方向端部のところで生じた熱又は熱エネルギーは、実働補強材層の軸方向端部のところに位置するストリップと接触状態にある熱伝達要素によって除去され、次に、軸方向最も内側に位置すると共に軸方向に並置されたストリップと接触状態にある熱伝達要素に次第に軸方向内方に伝達される。ストリップは、実質的に円周方向に差し向けられているので、かかるストリップと接触状態にあるそれぞれの熱伝達要素は、実働補強材層の軸方向端部のところで生じた熱を円周方向に分布させる。かくして、実働補強材層の軸方向端部のところで生じた熱は、軸方向と円周方向の両方向において並置状態にあるストリップとそれぞれ接触状態にある熱伝達要素によって除去され、それにより実働補強材層のその軸方向端部とその中央部分との間の軸方向幅と実働補強材層の周囲にわたって温度を均一にする。
【0023】
目的が実働補強材層の軸方向端部と中央との間で温度を均一にすることにあるこの熱伝達が可能である。というのは、実働補強材層の軸方向端部と中央との間における温度が高く、それ故、熱の伝導を生じさせる温度勾配が作られるからである。
【0024】
実働補強材層を構成するストリップと接触状態にある熱伝達要素によって熱エネルギーを優先的に除去するためには、熱伝達要素の熱伝導性材料の熱伝導率は、熱伝達要素と接触状態にあるストリップの繊維補強要素を被覆しているポリマー被覆材料の熱伝導率よりも著しく高いことが必要であり、ポリマー被覆材料は、性質上、熱の不良導体である。本発明者は、熱伝達要素と接触状態にあるストリップの繊維補強要素を被覆しているポリマー被覆材料の熱伝導率の少なくとも50倍に等しい熱伝導性材料の熱伝導率が実働補強材層の軸方向端部のところの熱のレベルを許容可能なレベル、即ち、関与する材料を劣化させる可能性の低いレベルまで減少させることができるのに十分な量の熱エネルギーを除去することができるということを実証した。
【0025】
この場合も又、本発明によれば、熱伝達要素の厚さと熱伝達要素の引張り弾性率の積は、ストリップの厚さとストリップの引張り弾性率の積のせいぜい0.3倍に等しい。
【0026】
引張り弾性率は、張力曲線に接した直線の勾配として定められ、張力曲線上の点のところの伸びの関数として50daNの引張り力に一致した引張り力を定める。
【0027】
この特徴により、熱伝達要素がストリップと熱伝達要素の組立体の全体的円周方向伸び剛性に対してもたらす寄与の程度を制限することができる。換言すると、熱伝達要素の存在により、ストリップの受ける機械的応力に対する影響が制限される。
【0028】
具体的に説明すると、ストリップの厚さと引張り弾性率と伸びの積を計算すると、ストリップの単位軸方向幅当たりの円周方向荷重が与えられる。同様に、熱伝達要素の厚さと引張り弾性率と伸びの積により、熱伝達要素の単位軸方向幅当たりの円周方向荷重が与えられる。かくして、ストリップの伸びと熱伝達要素の伸びは、同一なので、このことは、熱伝達要素の単位軸方向幅当たりの円周方向荷重又は分布状態の張力は、熱伝達要素と接触状態にあるストリップの単位軸方向幅当たりの円周方向荷重のせいぜい0.3倍に等しいことを意味している。かくして、換言すると、熱伝達要素による機械的寄与の度合いは、円周方向荷重に反作用する際のストリップの機械的寄与の度合いの30%に制限されたままである。
【0029】
有利には、各実働補強材層の各ストリップは、少なくともその半径方向内側の軸方向フェースにわたって、少なくとも1つの熱伝導性材料を含む熱伝達要素と接触状態にある。最も高い温度を有する軸方向端部のところに生じる熱だけでなく、実働補強材層の各々の軸方向端部のところに生じる熱は、有利には、各実働補強材層中の、従って、半径方向補強材の厚さ全体にわたって温度を均一にするよう除去される。
【0030】
また、有利には、熱伝達要素は、少なくとも1つの実質的に円周方向のバンドで構成される。金属バンドが、ストリップの周囲全体にわたって延び且つ子午面における最も短い寸法が半径方向に差し向けられると共に子午面における最も長い寸法が軸方向に差し向けられる長方形の子午線断面を有する要素である。実質的に円周方向のバンドは、これが接触状態にあるストリップの実質的に円周方向の経路を辿る。
【0031】
第1の好ましい実施形態では、熱伝達要素は、軸方向幅が熱伝達要素と接触状態にあるストリップの軸方向幅に等しい単一の実質的に円周方向の金属バンドで構成される。単一の実質的に円周方向の金属バンドの軸方向幅がストリップの軸方向幅に等しいかかる実施形態は、タイヤの製造の面で有利である。というのは、ストリップと単一の実質的に円周方向の金属バンドをストリップの初歩的レベルで前もって組み立てることができ、次に、ストリップ及び単一の実質的に円周方向の金属バンドでこのようにして作られた組立体を実働補強材層を作るために用いられる円筒形製造装置に巻き付けることができるからである。さらに、円周方向及び軸方向における熱の伝導の連続性は、各単一の実質的に円周方向の金属製のバンドの連続性及びストリップの螺旋状又はジグザグ状円周方向巻回によって与えられる。かくして、この実施形態により、軸方向と円周方向の両方向における実働補強材層の端部のところで生じる熱を最適に除去することができる。
【0032】
本発明の第2の実施形態によれば、熱伝達要素は、軸方向幅の合計が熱伝達要素と接触状態にあるストリップの軸方向幅にせいぜい等しい複数の軸方向に並置された実質的に円周方向のバンドで構成される。この実施形態は、熱伝導という観点において、単一の実質的に円周方向金属バンドを含む先の実施形態と同等である。さらに、実質的に円周方向の基本的金属バンドの並置により、有利には、単一の実質的に円周方向金属バンドよりも低い半径方向周りの曲げ剛性が得られ、このことは、ストリップの半径方向周りの曲げ剛性に対し、及びかくして実働補強材層の半径方向周りの曲げ剛性に対するこの単一の実質的に円周方向金属バンドの影響が小さいことを意味しており、それ故、熱伝達要素の導入により、実働補強材の機械的挙動に対する影響が小さい。
【0033】
本発明の第3の実施形態の特徴によれば、熱伝達要素は、軸方向幅の合計が熱伝達要素が接触状態にあるストリップの軸方向幅にせいぜい等しい複数の軸方向に並置された実質的に円周方向の金属バンドで構成される。かくして、この実施形態では、熱伝達要素は、軸方向に1対ずつそれぞれが次のものから分離された複数の実質的に円周方向の金属バンドで構成され、このことは、実質的に円周方向金属バンドの軸方向幅の合計が実質的に円周方向金属バンドと接触関係をなすストリップの軸方向幅よりも小さいことを意味している。実質的に円周方向の金属バンド相互間のこの幾何学的不連続性のために、熱の伝導は、軸方向には連続して行われず、円周方向に連続して行われる。しかしながら、かかる実施形態により、互いに分離された実質的に円周方向の金属バンドで構成された熱伝達要素が単一の実質的に円周方向の金属バンドで構成された熱伝達要素の剛性よりも低い剛性を持つことが可能である。第2の実施形態の場合のように、1対ずつそれぞれが次のものから分離されている複数の実質的に円周方向の金属バンドの半径方向における曲げ剛性は、単一の実質的に円周方向の金属バンドの半径方向における曲げ剛性よりも低い。加うるに、この実施形態における熱伝達要素の円周方向伸び剛性は、ストリップと熱伝達要素の組立体の円周方向伸び剛性に対する寄与の度合いが僅かであるに過ぎず、これにより、実働補強材層が製造されているときに円筒形製造装置周りのストリップと熱伝達要素の組立体の容易な巻回が可能である。
【0034】
本発明のオプションとしての一特徴によれば、実質的に円周方向の金属バンドが、有利には、穴を有する。熱伝達要素が単一の実質的に円筒形の金属バンドで構成されているにせよ複数本の軸方向に並置され又は互いに分布された実質的に円周方向の金属バンドで構成されているにせよいずれにせよ、各実質的に円周方向金属バンドに設けられた穴は、金属バンドの半径方向外側のストリップと半径方向内側のストリップとの良好な付着をこれら穴を介するこれら2つのストリップのそれぞれのポリマー被覆材料相互間の直接的な接触により促進する。
【0035】
本発明のオプションとしての別の特徴によれば、実質的に円周方向の金属バンドが円形の穴を有する。ストリップと熱伝達要素の組立体の円周方向伸び剛性の面における上述の利点とは別に、例えば穴あけによって円形の穴を作ることは、工業的観点からは容易である。
【0036】
実質的に円周方向の金属バンドが、有利には、せいぜいバンドの軸方向幅の半分に等しい直径の穴を有する。というのは、金属バンドの穴の断面は、金属バンドが熱を伝導する上で効果的であるようにするために制限されなければならないからである。
【0037】
熱伝達要素の熱伝導性材料は、有利には、依然として金属製である。金属材料、例えばアルミニウムの熱伝導率は、200W・m-1・K-1であり、これに対し、ポリマー材料の熱伝導率は、0.3W・m-1・K-1である。
【0038】
好ましくは、熱伝達要素の熱伝導性材料は、熱伝導率が高く且つ密度が低いアルミニウムである。アルミニウムは、これが接触状態にあるストリップのポリマー被覆材料にくっつくようにするためのインターフェース被膜を必要とし、これを達成するのに利用できる技術は種々あり、かかる技術としては、真鍮形式の被膜、有機形式(シラン又はアミノシラン)の被膜、エポキシ又は市販の接着剤が挙げられる。
【0039】
アルミニウムで作られた1本又は数本の実質的に円周方向金属バンドで構成された熱伝達要素は、有利には、熱伝達要素の円周方向伸び剛性を制限するようせいぜい0.1mmに等しい一定の厚さを有する。
【0040】
最後に、熱伝達要素は、その周囲全体に沿って、軸方向に垂直な円周方向平面内に周期的な幾何学的振動形態を有することが有利である。これら周期的な幾何学的振動形態は、交互にV字形の曲がり部又は正弦波形状の起伏部であるのが良いが、これらには限定されない。周期的な幾何学的振動形態の存在により、熱伝達要素の円周方向伸長性が増大し、従って、熱伝達要素の引張り破壊の恐れが減少する。
【0041】
有利には、周期的幾何学的振動形態の最高最低振幅とこの周期の波長の比は、熱伝達要素に満足のいく円周方向伸長性を与えるために0.05を超える。
【0042】
本発明の別の要旨は、金属化ストリップであって、ポリマー被覆材料で被覆された相互に平行な繊維補強要素で構成されているストリップを有する金属化ストリップにおいて、金属化ストリップは、少なくともその半径方向内側の軸方向フェースにわたって、少なくとも1つの熱伝導性材料を含む熱伝達要素と接触状態にあり、熱伝達要素の熱伝導性材料の熱伝導率は、熱伝達要素と接触状態にあるストリップの繊維補強要素のポリマー被覆材料の熱伝導率の少なくとも50倍に等しく、熱伝達要素の厚さと熱伝達要素の引張り弾性率の積は、ストリップの厚さとストリップの引張り弾性率の積のせいぜい0.3倍に等しいことを特徴とするタイヤにある。
【0043】
本発明は又、本発明のタイヤへの上述の金属化ストリップの使用に関する。
【0044】
本発明の別の要旨は、本発明のタイヤに関して上述した特徴の全てを備える金属化ストリップにある。
【0045】
本発明の特徴及び他の利点は、添付の図1図4bの助けを借りると良好に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明のタイヤクラウンの子午線断面図であり、特に、実働補強材層のストリップ及び熱伝達要素の対応の実質的に円周方向バンドを概略的に示す図である。
図2】実働補強材層のストリップと本発明の第1の実施形態としての熱伝達要素の組立体の略図である。
図3】実働補強材層のストリップと本発明の第2の実施形態としての熱伝達要素の組立体の略図である。
図4】実働補強材層のストリップと本発明の第3の実施形態としての熱伝達要素の組立体の略図である。
図5】変形形態としての熱伝達要素の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明を理解しやすくするために、図1図5は、縮尺通りには描かれていない。
【0048】
図1は、本発明のタイヤのクラウンの子午線断面を示しており、この子午線断面は、子午面における断面を意味している。図1は、トレッド1を介して路面に接触するようになったクラウン、半径方向カーカス補強材2、トレッドの半径方向内側に位置すると共に半径方向カーカス補強材の外側に位置したクラウン補強材を示しており、クラウン補強材は、実働補強材3及び保護補強材4を含む。実働補強材層を重ね合わせることにより形成された実働補強材3は、全体が図示されてはおらず、本発明を理解しやすくするために実働補強材30が1つしか示されていない。実働補強材層は、軸方向に並置された実質的に円周方向のストリップ31で構成されている。各ストリップは、ポリマー被覆材料33で被覆された相互に平行な繊維補強要素32で構成されている。各ストリップは、その半径方向内側軸方向フェースが熱伝達要素34と接触状態にある。
【0049】
図2は、実働補強材層のストリップ231と本発明の第1の実施形態としての熱伝達要素234の組立体の略図である。ポリマー被覆材料233で被覆されている相互に平行な繊維補強要素232で構成されたストリップは、その半径方向内側の軸方向フェースにわたって、熱伝達要素234と接触状態にあり、熱伝達要素234は、軸方向幅が接触状態にあるストリップ231の軸方向幅に等しい単一の実質的に円周方向金属バンドで作られている。
【0050】
図3は、実働補強材層のストリップ331と本発明の第2の実施形態としての熱伝達要素334の組立体の略図である。ポリマー被覆材料333で被覆されている相互に平行な繊維補強要素332で構成されたストリップ331は、その半径方向内側軸方向フェースにわたって、熱伝達要素334と接触状態にあり、熱伝達要素334は、実質的に円周方向の細線状要素335及びポリマー被覆材料336で構成されている。熱伝達要素334は、複数本の軸方向に並置された実質的に円周方向のバンドで構成され、実質的に円周方向バンドの各々の軸方向幅の合計であるかかるバンドの全軸方向幅は、接触状態にあるストリップ331の軸方向幅に等しい。
【0051】
図4は、実働補強材層のストリップ431と本発明の第3の実施形態としての熱伝達要素434の組立体の略図である。ポリマー被覆材料433で被覆されている相互に平行な繊維補強要素432で構成されたストリップは、その半径方向内側の軸方向フェースにわたって、熱伝達要素434と接触状態にあり、熱伝達要素434は、接触状態にあるストリップ431の軸方向幅全体にわたって分布して配置された複数本の軸方向に互いに分離された実質的に円周方向の金属バンドで構成されている。
【0052】
最後に、図5は、円形穴235を備えた単一の実質的に円周方向の金属バンドで構成された熱伝達要素234を示している。
【0053】
本発明者は、サイズ46×17R20の航空機用タイヤについて本発明をその第1の実施形態に従って実施したが、この航空機用タイヤの使用条件としては、15.9barの公称圧力、20473daNの公称静荷重及び225km/時の最大基準速度が挙げられる。このタイヤの実働クラウン補強材は、9個の実働補強材層を有し、これら実働補強材層は、実質的に円周方向のストリップで構成され、これらストリップのうちの3本が軸方向に並置されているターンの状態で布設され、これらストリップのうちの6本は、一巻回ターン当たり1つの周期の状態でジグザグに巻回され、ストリップの繊維補強要素の最大角度は、周方向に対して11°に等しい。各ストリップは、熱伝導率が0.3W・m-1・K-1に等しいポリマー被覆材料で被覆されたハイブリッド型の補強要素、即ち、芳香族ポリアミドのフィラメントの紡績糸と脂肪族ポリアミドのフィラメントの紡績糸の組み合わせで構成されている。各実質的に円周方向ストリップは、その半径方向内側フェースが厚さが0.02mm、熱伝導率が237W・m-1・K-1のアルミニウムで作られた金属バンドで構成されている熱伝達要素と接触状態にある。熱伝達要素を構成するアルミニウムの熱伝導率は、熱伝達要素と接触状態にあるストリップの繊維補強要素のポリマー被覆材料の熱伝導率の約600倍に等しい。
【0054】
本発明者は、20.5トンの公称静荷重及び15.9barの公称圧力下で安定して10km/時の速度で走行しているタイヤについて有限要素数値シミュレーションを用いて熱伝達要素を備えていないストリップを有する基準タイヤから本発明のタイヤに切り替えたときに、熱負荷が最も大きく加えられた実働補強材層の赤道面の付近における軸方向端部と中央部分との間の温度の差が90.5℃から78.5℃に下がることを実証した。かくして、選択された実施例では、本発明は、クラウン補強材の端部のところでの最大温度に関して12℃の減少を可能にしている。
図1
図2
図3
図4
図5