特許第6047100号(P6047100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047100
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】前駆体化合物に対するプロセス簡略化
(51)【国際特許分類】
   C07C 227/18 20060101AFI20161212BHJP
   C07C 227/20 20060101ALI20161212BHJP
   C07C 229/48 20060101ALI20161212BHJP
   C07B 59/00 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C07C227/18
   C07C227/20
   C07C229/48
   !C07B59/00
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-543829(P2013-543829)
(86)(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公表番号】特表2014-509299(P2014-509299A)
(43)【公表日】2014年4月17日
(86)【国際出願番号】EP2011073204
(87)【国際公開番号】WO2012084794
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年12月11日
(31)【優先権主張番号】1021523.4
(32)【優先日】2010年12月20日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/424,693
(32)【優先日】2010年12月20日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305040710
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】バーグ,トム・クリスティアン
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/132689(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/063824(WO,A1)
【文献】 特表2006−510706(JP,A)
【文献】 WANG LIJUAN J,SYNTHESES OF NEW CONFORMATIONALLY CONSTRAINED S-[2-[(1-IMINOETHYL)AMINO]ETHYL] 以下備考,HETEROATOM CHEMISTRY,米国,VCH PUBLISHERS,2002年 1月 1日,V13 N1,P77-83,HOMOCYSTEINE DERIVATIVES AS POTENTIAL NITRIC OXIDE SYNTHASE INHIBITORS
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式IIの化合物を100g以上の大規模で得る方法であって、
【化1】
(式中、xは0〜4の整数である。)
(a)以下の式Iaの化合物を脱ベンジル化して以下の式Ibの化合物を生成させ、得られた化合物をガラス焼結ロートでの濾過とそれに続く乾燥のための減圧下留去のみによって精製する段階と、
【化2】
(式中、R11はC1-5直鎖又は枝分れアルキル基を表し、R12はアミノ保護基を表し、vは0〜4の整数である。)
【化3】
(式中、R21、R22及びwはそれぞれ式IaのR11、R12及びvについて定義した通りである。)
(b)段階(a)で直接得られる式Ibの化合物を、次の式Iで定義される適当な形態のXとの反応によって式Iの化合物に転化する段階と、
【化4】
(式中、R1、R2及びnはそれぞれ式IaのR11、R12及びvについて定義した通りであり、Xはハロゲン又は−O−SO2−R3基(式中、R3はハロゲン、直鎖又は枝分れC1-10アルキル、直鎖又は枝分れC1-10ハロアルキル又はC6-10アリールである。)から選択される脱離基を表す。)
(c)段階(b)で得られた式Iの化合物と適当な[18F]フッ化物源との反応によって次の式IIaの化合物を得る段階と、
【化5】
(式中、R31、R32及びyはそれぞれ式IaのR11、R12及びvについて定義した通りである。)
(d)段階(c)で得られる式IIaの化合物を脱保護して、R31及びR32を除去する段階と
を含む方法。
【請求項2】
Xが−O−SO2−R3基で表される基である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Xがトルエンスルホニル、ニトロベンゼンスルホニル、ベンゼンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、フルオロスルホニル及びパーフルオロアルキルスルホニルからなる群から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
Xがトリフルオロメタンスルホニルである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
Xがハロゲンである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ハロゲンがブロモ又はクロロである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
1がエチルである、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
2がt−ブトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、フタルイミド基及びN−ベンジリデンアミン置換基からなる群から選択される、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
式Iの化合物が次式のものであり、
【化6】
式Iaの化合物が次式のものであり、
【化7】
式Ibの化合物が次式のものである、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【化8】
(式中、Etはエチルであり、OTfはトリフルオロメタンスルホニルであり、Bocはtert−ブチルオキシカルボニルである。)。
【請求項10】
脱保護が、R31を除去した後にR32を除去することを含む、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
31がエチルである、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
32がt−ブトキシカルボニル基である、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
式IIの化合物が次式のものであり、
【化9】
式IIaの化合物が次式のものである、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【化10】
(式中、Etはエチルであり、Bocはtert−ブチルオキシカルボニルである。)。
【請求項14】
脱保護する段階が、塩基性加水分解によるEtの除去及び酸性加水分解によるBocの除去を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
段階(c)及び(d)を自動合成装置上で行う、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性医薬品の前駆体、特に、陽電子放射断層撮影(PET)のようなインビボイメージング用の放射性標識アミノ酸製造用の前駆体として用いられる保護アミノ酸誘導体を得る方法に関する。本発明はさらに、放射性標識アミノ酸を得る方法も含む。
【背景技術】
【0002】
近年、[18F]1−アミノ−3−フルオロシクロブタンカルボン酸([18F]−FACBC)を始めとする一群の放射性ハロゲン標識アミノ酸化合物が、新規な放射性医薬品として設計されている。[18F]−FACBCはアミノ酸輸送体に特異的に取り込まれるという特性を有するために、高い増殖性をもつ腫瘍に対する診断薬として有効であると考えられる。欧州特許出願公開第1978015(A1)号は[18F]−FACBC化合物用前駆体及び前駆体を得る方法を提供する。欧州特許出願公開第1978015(A1)号は具体的には、前駆体1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルホニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステルを得る方法を開示し、方法は以下の段階を含む。
【0003】
【化1】
欧州特許出願公開第1978015(A1)号は、上記反応スキームの段階1が、水酸化バリウムBa(OH)2を溶液に添加し、混合液を114℃にて24時間以上還流することによりsyn−5−(3−ベンジルオキシシクロブタン)ヒダントイン1を加水分解することからなると述べている。エチルエステル化である段階2においては、syn−1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタン−1−カルボン酸2をエタノール(EtOH)に溶解し、塩化チオニル(SOCl2)と反応させてsyn−1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル3を生成させる。段階3は、3に二炭酸ジ−tert−ブチル((Boc)2O)を反応させてアミノ官能基にtert−ブトキシカルボニル(Boc)基を添加し、得られる物質をクロマトグラフィーにより精製してsyn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−ベンジルオキシ−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル4を得ることからなる。次に段階4において、化合物4をエタノール(EtOH)中に溶解し、活性炭担持パラジウム(Pd/C)を添加し、反応混合物をH2で多少の陽圧に加圧することにより、ベンジル保護中間体4を脱保護する。得られる物質をクロマトグラフィーにより精製して、段階5で用いるsyn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−ヒドロキシ−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル5を生成する。段階5は、5をトリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf2O)と反応させ、次にクロマトグラフィーにより精製し、引き続き生成物の再結晶を行うことでsyn−1−(N−(t−ブトキシカルボニル)アミノ)−3−[((トリフルオロメチル)スルホニル)オキシ]−シクロブタン−1−カルボン酸エチルエステル6を得ることからなる。欧州特許第2230229号及び米国特許出願公開第2010/016626号に同様な方法が記載される。これら全ての従来技術が教示するケースでは、これらの方法は研究目的の小規模な製造に適するものである。
【0004】
プロセス時間を短縮し、使用する機器と化学物質とを低減すること及びスケールアップを容易にすることを目的に、上述の多段階にわたる化学反応の煩雑さを低減することが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wang L. J. et al.,’Synthesis of new conformationally constrained S−A2−A(1−iminoethyl)aminoU ethylUhomocysteine derivatives as potential nitric oxide synthase inhibitors’,HETEROATOM CHEMISTRY,VCH PUBLISHERS,DEERFIELD BEACH,FL,US,vol. 13,no. 1,1 January 2002 (2002−01−01),pages 77−83
【発明の概要】
【0006】
本発明は、公知の方法に対して簡略化された[18F]−FACBC用前駆体化合物及び類似化合物の製造方法である。本発明の方法は、従来技術で教示される精製段階の1つを省略しており、したがって、生成する前駆体化合物をコスト及び時間の面で効率的に得ることを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1つの態様において本発明は、次の式Iの化合物を得る方法であって、
【0008】
【化2】
(式中、
1はC1-5直鎖又は枝分れアルキル基を表し、
2はアミノ保護基を表し、
Xはハロゲン又は−O−SO2−R3基(式中、R3はハロゲン、直鎖又は枝分れC1-10アルキル、直鎖又は枝分れC1-10ハロアルキル又はC6-10アリールである。)から選択される脱離基を表し、
nは0〜4の整数である。)
(a)以下の式Iaの化合物を脱ベンジル化して以下の式Ibの化合物を生成させる段階と、
【0009】
【化3】
(式中、R11、R12及びvはそれぞれ式IでR1、R2及びnについて定義した通りである。)
【0010】
【化4】
(式中、R21、R22及びwはそれぞれ式IでR1、R2及びnについて定義した通りである。)
(b)段階(a)で直接得られる式Ibの化合物を、適当な形態のX(ただし、Xは式Iで定義した通りである。)との反応によって式Iの化合物に転化する段階と
を含む方法に関する。
【0011】
単独で又は組み合わせで使用される用語「アルキル」は、一般式Cn2n+1の直鎖又は枝分れ基を意味する。この一般式中のnの値は、個々の事例で特定される。好ましいアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基又はイソプロピル基が挙げられる。
【0012】
用語「保護基」は、望ましくない化学反応を禁止又は抑制するが、当該分子の他の部分を変化させないに足るだけの温和な条件下で対象となる官能基から開裂し、所望の生成物を得ることができるだけの、十分な反応性を有するように設計された基を意味する。保護基は当業者に周知であり、’Protective Groups in Organic Synthesis’,Theorodora W. Greene and Peter G. M. Wuts,(Fourth Edition,John Wiley & Sons,2007)に記載される。好適なアミノ保護基は当技術分野で周知である。好適なアミノ保護基R2はカルバミン酸エステルである。好ましくは、R2はカルバミン酸tert−ブチル(BOC)、カルバミン酸9−フルオレニルメチル(Fmoc)、カルバミン酸メチル、カルバミン酸エチル、カルバミン酸2−クロロ−3−インデニルメチル(Climoc)、カルバミン酸ベンズ[f]インデン−3−イルメチル(Bimoc)、カルバミン酸2,2,2−トリクロロエチル(Troc)、カルバミン酸2−クロロエチル、カルバミン酸1,1−ジメチル−2,2−ジブロモエチル(DB−t−Boc)、カルバミン酸1,1−ジメチル−2,2,2−トリクロロエチル(TCBOC)、カルバミン酸ベンジル(CbZ)及びカルバミン酸ジフェニルメチルから選択される。最も好ましくは、R2はカルバミン酸tert−ブチルであり、N−tert−ブトキシカルボニルを与える。
【0013】
用語「脱離基」は求核的置換に適した部分を指し、不均一な結合開裂において1対の電子と共に離脱する分子断片である。
【0014】
単独で又は組み合わせで使用される用語「ハロゲン」又は「ハロ−」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素から選択される置換基を指す。
【0015】
用語「C1-10ハロアルキル」は、少なくとも1つの水素が上記に定義したハロゲンにより置換され、1〜10の間の炭素原子を含む上記に定義したアルキル基を指す。
【0016】
用語「C6-10アリール」は、単環を有する1価の芳香族炭化水素(すなわちフェニル)又は縮合環(すなわちナフチル)を指す。別途定義されない限り、そのようなアリール基は典型的には6〜10の環炭素原子を含む。
【0017】
用語「脱ベンジル化」は化合物からベンジル置換基を開裂させることを指す。用語「ベンジル」は化学構造C65CH2−を有する基を指す。脱ベンジル化は当技術分野で周知の方法であり、一般的に、水素により炭素−炭素結合を開裂させる、すなわち炭素−炭素結合が水素による「分解」を受ける反応である「接触水素化」によって行われる。水素化分解は通常接触的に、例えば、炭素担持パラジウム(Pd/C)を触媒として使用して実施される。脱ベンジル化段階においてPd/Cのような触媒を用いる場合、次の段階に進む前に濾過によって反応混合物から触媒を除去する。用語「濾過」は流体から固体を機械的に分離することを指す。本発明において用いられる好適な濾過手段の限定されない例としては、濾過用ロートに加えて、ガラス焼結ロート又はガラス繊維フィルターが挙げられ、またその他のより特化した濾過方法もまた好適である。一般的に、脱ベンジル化の段階(a)の後であって転化段階(b)の前に、反応溶媒を乾燥により除去する。乾燥は、例えば窒素流通下での蒸発及び/又は減圧乾燥のような当業者に周知の方法で行うことができる。
【0018】
用語「直接得る」は段階(a)の後であって段階(b)の前に、反応混合物に対して精製段階を行わない事実を指す。特に、段階(a)を実施することにより得られる反応混合物に対して、段階(b)を実施する前にさらにクロマトグラフィーによる精製を行わない。換言すると、段階(b)を実施する前に、段階(a)から得られる反応混合物の精製を行わないという条件で、特に、段階(a)の後であって段階(b)の前に、段階(a)の反応混合物をクロマトグラフィーによって精製することを行わないという条件で、段階(b)を実施する。用語「クロマトグラフィー」は当技術分野で周知であり、化学物質を異なる物質の混合物から互いに分離するための実験室における技術である。クロマトグラフィーによる分離は、移動相に溶解した混合物を固定相の中を通過させることを伴い、移動相と固定相の間の分配差に基づいて着目する分子を混合物中の他の分子から分離する。
【0019】
用語「好適な形態のX」とは、置換反応においてヒドロキシル官能基を置換することが可能な形態にある本明細書で定義したXを意味する。
【0020】
式Iの化合物は、欧州特許出願公開第1978015(A1)号に記載される方法に従う、あるいはそれを改変して適用することにより得ることができる。例えば、欧州特許出願公開第1978015(A1)号に具体的に記載される化合物4は、本発明の方法に使用することが好適な式Iaの化合物である。欧州特許出願公開第1978015(A1)号に記載される化合物4を得る方法を以下のスキーム1に説明する。
【0021】
【化5】
McConathy et al(Appl Rad Isotop 2003; 58:657−666)もまた、式Iaの化合物を得る方法を記載している。McConathy et alの図2における化合物6は式Iaの化合物である。McConathy et alに記載される化合物6を得る方法を以下のスキーム2に説明する。
【0022】
【化6】
ヒダントイン1を180℃において3N−水酸化ナトリウム水溶液で処理し、続いて二炭酸ジ−tert−ブチルで処理することによりN−Boc酸5を得た。5をトリメチルシリルジアゾメタンと反応させてメチルエステル6を高収率で得た。
【0023】
上述の従来技術の方法を、本発明における定義の範囲内のその他の式Iaの化合物を得るために改変して適用することは、当業者の通常の技量の範囲である。出発物質であるヒダントイン化合物は、syn型及びanti型の鏡像異性体を含んでもよい。プロセスのいずれの段階においても、鏡像異性体を積極的に分離する必要はない。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、Xは−O−SO2−R3基である。Xが−O−SO2−R3である場合、最も好ましくは、該基は、トルエンスルホニル、ニトロベンゼンスルホニル、ベンゼンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、フルオロスルホニル及びパーフルオロアルキルスルホニルからなる群から選択される。特に好ましい実施形態では、−O−SO2−R3はトリフルオロメタンスルホニルである。本発明の方法の段階(b)において、−O−SO2−R3基は、式Ibの化合物を所望の−O−SO2−R3基の親電子的な誘導体との反応によって添加することができ、該誘導体が「好適な形態のX」の例である。例えば、トリフルオロメタンスルホン酸を添加することを所望する場合、式Ibの化合物をトリフルオロメタンスルホン酸無水物と反応させることができる。
【0025】
別の好ましい実施形態では、Xはハロゲンである。Xがハロゲンである場合、ブロモ又はクロロであることが最も好ましい。Xがハロゲンである場合の本発明の方法の段階(b)は、当業者に周知の方法で実施することができる。例えば、Xがクロロである式Iの化合物は、式Ibの化合物を塩化チオニル、五塩化リン(PCl5)、三塩化リン(PCl3)のような塩化物を含有する試薬との反応によって得ることができ、試薬のそれぞれは「好適な形態のX」の例である。Xがブロモである式Iの化合物は、式Ibの化合物を臭化水素酸(HBr)、三臭化リン(PBr3)のような臭素を含有する試薬との反応によって得ることができ、ここで再び、試薬のそれぞれは「好適な形態のX」の例である。
【0026】
好ましくは、R1はメチル又はエチルであり、最も好ましくはエチルである。この好ましいR1の定義はR11及びR12に対しても同様に適用される。
【0027】
R2は好ましくは炭酸エステル保護基であり、ここで用語「炭酸エステル」は、両側にアルコキシ基を有するカルボニル基からなり、一般構造RxO(C=O)ORyを有する官能基を指す。R2は最も好ましくはt−ブトキシカルボニル基である。この好ましいR2の定義はR12及びR22に対しても同様に適用される。
【0028】
nは好ましくは0又は1であり、最も好ましくは0である。この好ましいnの定義はv及びwに対しても同様に適用される。
【0029】
本発明の方法の特に好ましい実施形態では、式Iの化合物は次式のものであり、
【0030】
【化7】
式Iaの化合物は次式のものであり、
【0031】
【化8】
であり、
式Ibの化合物は次式のものである。
【0032】
【化9】
式中、Etはエチル、OTfはトリフルオロメタンスルホニルそしてBocはtert−ブチルオキシカルボニルである。
【0033】
本発明の方法では、脱ベンジル化段階で得られる物質を精製せずに、2つの連続する反応段階を実施することが可能であるので、従来技術の方法に比較して、プロセス時間が短縮され、資材コストが低減される。このプロセス変更を導入することで、クロマトグラフィー精製の1段階を除外することにより、運転時間が短縮される。式Ibの化合物を含む粗生成物の転化は、単に物質を再溶解し、そして本発明の方法の段階(b)を行うことで行われる。後述の例に示すように、本発明の方法においては、得られる所望の式Iの化合物の純度が、従来技術の方法と比較して類似したものとなる。本発明の方法の重要な利点は、従来技術の方法ではできなかったスケールアップが受け入れられることにある。それ故、本発明の方法は、例えば100グラム以上、例えば300グラム又は500グラム以上に達するような製造を行う場合のような、大規模での製造において特に有益である。
【0034】
本発明の方法によって得られる式Iの化合物は、特定の[18F]標識化合物の放射性化合物合成用の有用な前駆体化合物である。したがって、本発明はまた、次の式IIの化合物を得る方法であって、
【0035】
【化10】
(式中、xはnについて定義した通りである。)
当該方法が、本明細書に記載した式Iの化合物を得る方法と、さらに以下の段階:
(c)本明細書で定義する式Iの化合物を好適な[18F]フッ化物源と反応させて式IIaの化合物を得る段階と、
【0036】
【化11】
(式中、R31、R32及びyはそれぞれ本明細書においてR1、R2及びnについて定義した通りである。)
(d)段階(c)で得られる式IIaの化合物を脱保護してR31及びR32を除去する段階と
を含む方法も提供する。
【0037】
典型的には、[18F]フッ素イオンは水溶液として得られ、これは[18O]水ターゲットの照射によって得られる生成物である。放射性標識するための求核反応に使用することに適するように、[18F]フッ化物を反応性の求核試薬に転化するためには、様々な段階を行うことが一般的である。非放射性のフッ素化の場合と同様に、これらの段階は、[18F]フッ素イオンから水を除去すること及び好適な対イオンを供給すること(Handbook of Radiopharmaceuticals 2003 Welch & Redvanly eds. Chapter 6 pp 195−227)を含む。そして、無水溶媒を用いて放射フッ素化反応を実施する(Aigbirhio et al 1995 J Fluor Chem; 70:pp 279−87)。
【0038】
フッ素化反応に対する[18F]フッ素イオンの反応性を高めるために、水を除去する前に対カチオンを添加する。[18F]フッ素イオンの溶解性を維持するために、対イオンは無水の反応溶媒中で十分な溶解性を有するものでなくてはならない。そのため、使用されてきた対イオンとしては、ルビジウム又はセシウムのような、大きいがソフトな金属イオン、Kryptofix(商標)のようなクリプタンドと錯形成した、カリウム又はテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。無水溶媒中での溶解性が良好であること及びフッ化物の反応性が高いことから、フッ素化反応に好ましい対イオンはKryptofix(商標)のようなクリプタンドと錯形成したカリウムである。
【0039】
脱保護である段階(d)は、当業者に周知の方法で実施する。‘Protective Groups in Organic Synthesis’,Theorodora W. Greene and Peter G. M. Wuts,(Fourth Edition,John Wiley & Sons,2007)に、広範囲の保護基及びそれらの除去方法に関する記載がある。好ましい実施形態では、カルボキシ保護基であるR31は、アミノ保護基であるR32よりも先に除去する。例えば、R31がEtである場合、塩基性下で加水分解して除去することができ、R32がBocである場合、その後に、酸性下で加水分解して除去することができる。
【0040】
上述のnの好適且つ好ましい定義の範囲は、式II及びIIaのx及びyに対して同様に適用される。
【0041】
上述のR1及びR2の好適且つ好ましい定義の範囲は、それぞれ式II及びIIaのR31及びR32に対して同様に適用される。
【0042】
好ましい実施形態では、式IIの化合物は次式の化合物であり、
【0043】
【化12】
式IIaの化合物はは次式の化合物である。
【0044】
【化13】
式中、Etはエチルを、Bocはtert−ブチルオキシカルボニルである。
【0045】
好ましい実施形態では、段階(c)及び(d)を自動合成装置上で行う。現在では、[18F]放射性トレーサーはしばしば自動放射性化合物合成装置上で簡便に製造される。Tracerlab(商標)及びFastlab(商標)(共にGE Healthcare Ltd)のような、数種の商業的に入手可能なそのような装置の例がある。そのような装置には通例、多くは使い捨てであり、放射性化合物合成を行うための装置に取り付けられ、その中で放射性化学を行う「カセット」を含む。カセットは通常、流体流路、反応槽及び試薬管を受けるためのポート、併せて放射性化合物合成後の浄化段階に使用する任意の固相抽出カートリッジから構成される。
【0046】
式IIの化合物の自動合成のための典型的なカセットは、
(i)本明細書で定義される式Iの化合物を含有する槽と、
(ii)槽内を本明細書で定義される[18F]フッ化物の好適な供給源によって溶出する手段と、
(iii)過剰な[18F]フッ化物を除去するためのイオン交換カートリッジと、
(iv)式IIaの化合物の脱保護を行い、式IIの化合物を形成するためのカートリッジと
を含む。
【0047】
次に、本発明を以下の例によって説明する。
【0048】
例の簡単な説明
例1は5−(3−ベンジルオキシシクロブタン)ヒダントインの合成について述べる。
【0049】
例2は1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタンカルボン酸の合成について述べる。
【0050】
例3は1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタンカルボン酸エチルエステルの合成について述べる。
【0051】
例4は化合物1aの合成について述べる。
【0052】
例5は精製した化合物1bの合成について述べる。
【0053】
例6は精製を伴わない化合物1bの合成について述べる。
【0054】
例7は従来技術である、精製した化合物1bを用いる化合物1の合成について述べる。
【0055】
例8は本発明の、粗製化合物1bを用いる化合物1の合成について述べる。
例において使用する略語一覧
DCM 二塩化メタン
EtOAc 酢酸エチル
Et2O ジエチルエーテル
Et3N トリエチルアミン
g グラム
hr 時間
l リットル
min 分
ml ミリリットル
mol モル
sat.aq 飽和水溶液
TLC 薄層クロマトグラフィー
w/w 重量/重量
【実施例】
【0056】
例1:5−(3−ベンジルオキシシクロブタン)ヒダントインの合成
【0057】
【化14】
反応器に炭酸アンモニウム(1250g、13.0mol)及び塩化アンモニウム(279.9g、5.23mol)及び水(9.0l)を仕込んだ。得られた混合物をN2雰囲気下、室温にて撹拌した。エタノール(8.51l)に溶解した3−ベンジルオキシシクロブタン−1−オン(McConathy et al,Appl Radiat Isotop 2003; 58:657−666に記載される方法に従って製造)(230.0g、1.31mol)を水溶液に108分間かけて徐々に添加し、得られた混合物を70分間撹拌した後、KCN(383.8g、5.89mol)添加した。得られた混合物を60℃に加熱し、18時間撹拌し、室温まで冷却し、減圧下、53〜56℃にて溶媒を留去した。
【0058】
粗生成物に対して水(1.7l)を添加して懸濁液を形成し、これを45分間穏やかに撹拌した。懸濁液をガラス焼結ロート(孔サイズ3)により濾過し、濾過ケークを冷水(1.2l、9.5℃)にて洗浄し、減圧下、27℃にて16時間10分乾燥した。
【0059】
減圧乾燥後の固形分(257.2g)を水−イソプロピルアルコール(15.0l、1:1)に溶解した。溶液を室温にて70分間撹拌し、ガラス焼結フィルター(孔サイズ3)により濾過して不溶性粒子を除去した。濾液から、初めの容量の約1/3になるまで、減圧下、45〜49℃にて溶媒を留去した。得られたスラリーを7.6℃に冷却し、ガラス焼結フィルターロート(孔サイズ3)により濾過し、冷水(2.0l、<7℃)にて洗浄した。濾過ケークをホウケイ酸ガラス製ビンに移し、減圧下、36℃にて18時間40分乾燥した。収量は229.6g(71%)であった。
1H NMR(500MHz,DMSO−d6)δ(ppm):10.63(s,1H,NH),8.24(s,1H,NH),7.38〜7.27(m,5H,Bz),4.32(s,1H,CH2−Bz),4.06〜3.98(m,1H,CH環),2.68〜2.61(m,2H,CH2環)及び2.24〜2.16(m,2H,CH2環)。
【0060】
例2:1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタンカルボン酸の合成
【0061】
【化15】
反応器にBa(OH)2(450.5g、2.63mol)及び水(8.1l)を仕込んだ。得られた混合物を室温にて機械式攪拌機を用いて撹拌した。5−(3−ベンジルオキシシクロブタン)ヒダントイン(229.6g、0.93mol)を反応混合物に添加し、ビンに残った5−(3−ベンジルオキシシクロブタン)ヒダントインを水(1.2l)で洗浄して反応器に加えた。得られた混合物を67時間10分環流した(反応の進行状況を監視するために、途中のHPLC用試料を抜き出した)。
【0062】
反応混合物を室温まで冷却し、H2SO4(110ml、1M)を加えて8分間撹拌し、混合物のpHを測定した結果7であった。沈殿したバリウム塩をガラス焼結ロート(孔サイズ3)により濾過して除去し、濾過ケークを水(2.3l)で洗浄し、減圧下、55〜60℃にて濾液から溶媒を留去した。1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタンカルボン酸をさらに減圧オーブン中、50〜60℃にて20時間54分乾燥した。収量は202.7g(98.3%)であった。
1H NMR(500MHz,D2O)δ(ppm):7.37〜7.28(m,5H,Bz),4.40(s,2H,CH2),4.30〜4.23(m,1H,CH環),2.79〜2.71(m,2H,CH2環)及び2.26〜2.18(m,2H,CH2環)。
【0063】
例3:1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタンカルボン酸エチルエステルの合成
【0064】
【化16】
1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタンカルボン酸(202.7g、0.94mol)を仕込んだ反応器にエタノール(7.0l)を添加し、室温にてN2雰囲気下、18分間混合物を機械的撹拌により撹拌した。反応混合物にEt3N(350ml、2.51mol)を添加し、−1.8℃に冷却し、反応温度を注意深く10℃未満の温度に保ちながらSOCl2(170ml、2.4mol)を添加した。反応混合物を20時間10分環流した(TLCにより反応の進行状況を監視)。反応が完結したところで、反応混合物を20℃に冷却し、減圧下、35℃にて溶媒を留去した。塩を含んだ粗生成物の重量は631.2gであった。
1H NMR(500MHz,DMSO−d6)δ(ppm):7.38〜7.27(m,5H,Bz),4.41(s,2H,CH2),4.16(q,2H,CH2),4.07〜4.01(m,1H,CH環),2.77〜2.70(m,2H,CH2環),2.26〜2.19(m,2H,CH2環)及び1.22(t,3H,CH3)。
【0065】
例4:化合物1aの合成
【0066】
【化17】
1−アミノ−3−ベンジルオキシシクロブタンカルボン酸エチルエステル(631.2g、2.53mol)を仕込んだ反応器にエタノール(18.5l)を添加し、室温にてN2雰囲気下、得られた混合物を機械的撹拌により撹拌した。反応混合物にEt3N(2.0l、14.3mol)を添加し、混合物を−8.5℃に冷却した後、二炭酸ジ−t−ブチル(602.5g、2.76mol)を注意深く添加した。得られた混合物を室温まで放冷し、20時間撹拌した(TLCにより反応の進行状況を監視)。反応が完結したところで、混合物から減圧下、35℃にて溶媒を留去した。
【0067】
粗生成物を冷EtOAc(12.0l、3.8℃)中に懸濁して機械式攪拌機付の反応器に移し、15分間撹拌した。水(6.0l)を添加し、混合物を激しく撹拌し、相分離させ、水相を廃棄した。有機相を冷HCl(12.0l、0.5M、4.7℃)、水(6.0l、2回)、NaHCO3(6.0l、sat.aq)、水(6.0l)及びNaCl(6.0l、sat.aq、2回)で洗浄し、無水Na2SO4(2.52kg、無水)上で1時間乾燥した。混合物をガラス焼結ロート(孔サイズ3)により濾過し、濾過ケークをEtOAc(2.6l)にて洗浄し、濾液から減圧下、38℃にて溶媒を留去して、粗生成物を276g得た。粗生成物をDCM(1000ml)に再溶解し、SiO2(611.5g)上で吸着処理した。
【0068】
粗生成物を、5kgのSiO2カートリッジ、ヘプタン中10〜50%EtOAcを用いた傾斜溶離によるBiotage Flash systemを用いたクロマトグラフィーによる精製方法で精製した。生成物画分を合わせ、減圧下、33℃にて溶媒を留去して、化合物1aを得た。収量は233.7g(73%)であった。
1H NMR(500MHz,DMSO−d6)δ(ppm):7.73(1H,NH),7.38〜7.26(m,5H,Bz),4.37(s,2H; CH2),4.15〜3.95(m,2H,CH2及びm,1H,CH環),2.80〜2.71(m,2H,CH2環),2.10〜2.02(m,2H,CH2環),1.37(s,9H,CH3,BOC),1.22〜1.11(m,CH3).少量の立体配座異性体についてはNMRスペクトル中に記載しない。
【0069】
例5:化合物1bの合成及び精製
【0070】
【化18】
化合物1a(31.83g、91mmol)を仕込んだ反応フラスコにエタノール(600ml)及び酢酸(8ml、139mmol)を添加し、N2雰囲気とし、反応フラスコをH2供給源にも接続した。湿らせた炭素担持Pd(6.28g、10%w/w)を混合物に添加し、反応混合物にH2ガスを供給した。反応混合物を室温にて2日間撹拌して完全に転化させた(TLCにより反応の進行状況を監視)。反応混合物をガラス繊維フィルターにより濾過し、濾過ケークをエタノール(160ml)にて洗浄し、減圧下、40℃未満の温度で濾液から溶媒を留去し、化合物1bの粗生成物(24.64g)を得た。粗生成物をDMC(500ml)に再溶解して、SiO2(65g)上で吸着処理した。
【0071】
粗生成物を、SiO2(360g)カラム、30%のEtOAcを含むヘプタンを溶離液に用い、ヘプタン中30〜70%EtOAcによる傾斜溶離を用いたフラッシュクロマトグラフィーによる精製方法で精製した。生成物画分を合わせ、減圧下、38℃にて溶媒を留去して、20.1g(86%)、GC純度99.8%の化合物1bを得た。
1H NMR(500MHz,DMSO−d6)δ(ppm):7.64(1H,NH),5.15(1H,OH),4.12〜3.99(m,1H,CH環及びm,2H,CH2),2.75〜2.66(m,2H,CH2環),2.02〜1.93(m,2H,CH2環),1.37(s,9H,BOC)及び1.22〜1.12(m,3H,CH3)。
【0072】
例6:次反応段階での使用前の精製を伴わない化合物1bの合成
化合物1a(8.5g、24.3mmol)を仕込んだ反応フラスコにエタノール(155ml)及び酢酸(2.13ml、37.2mmol)を添加し、N2雰囲気とし、反応フラスコをH2供給源にも接続した。湿らせた炭素担持Pd(2.13g、10%w/w)を混合物に添加し、反応混合物にH2ガスを供給した。反応混合物を室温にて2.25日間撹拌して完全に転化させた(TLCにより反応の進行状況を監視)。反応混合物をガラス焼結フィルターにより濾過し、濾過ケークをエタノール(40ml)で洗浄し、減圧下、40℃未満の温度で濾液から溶媒を留去し、化合物1bの粗生成物(6.21g)を得た。得られた物質を、さらに如何なる精製も行うことなく、次の反応段階に使用した。
【0073】
この反応段階については、NMRスペクトルの記録はない。
【0074】
例7:精製した化合物1bを用いた化合物1の合成(従来技術の方法)
【0075】
【化19】
化合物1b(20.1g、78mmol)を仕込んだ反応フラスコに二塩化メタン(500ml)及びピリジン(19ml、235mmol)を添加し、得られた混合物を5℃未満の温度に冷却した。トリフリン酸無水物(19.5ml、115mmol)を、添加している間反応温度を5℃未満の温度に保ちながら、混合物に30分間かけて少しずつ添加した。得られた混合物を氷浴上で1時間撹拌し(TLCにより反応の進行状況を監視)、反応が完結したところで、水(500ml)を添加して反応を停止させた。
【0076】
反応混合物をEt2O(950ml)で抽出し、水相を廃棄し、有機相をHCl(500ml、1M)、飽和食塩水(500ml、sat.aq.)で洗浄し、Na2SO4(56g)上で乾燥した。混合物をガラス焼結フィルターにより濾過し、濾過ケークをEt2O(100ml)で洗浄し、減圧下、30℃未満の温度で濾液から溶媒を留去して、化合物1の粗生成物(28.11g)を得た。粗生成物を二塩化メタン(400ml)に再溶解し、SiO2(80g)上で吸着処理した。
【0077】
粗生成物を、SiO2(330g)カラム、ペンタン:ジエチルエーテル(3:1)による均一溶媒溶離を用いたフラッシュクロマトグラフィーによる精製方法を用いて精製した。生成物画分を合わせ、減圧下、30℃未満の温度で溶媒を留去して、化合物1(21.9g)を得た。
【0078】
物質をジエチルエーテル(50ml)に溶解し、全ての固形物が溶解するまでこの混合物を35℃未満の温度でゆっくりと撹拌し、再結晶によりさらに化合物1を精製した。溶液を1時間5分かけてゆっくりと25℃まで冷却し、さらにその温度で1時間20分撹拌した。溶液をさらに5℃未満の温度まで冷却し、20分間穏やかに撹拌し、さらに−20℃未満の温度まで15分かけて冷却し、1時間30分撹拌し、氷冷したヘプタン(110ml)を添加し、溶液を穏やかに1時間20分撹拌した。予冷したガラス焼結フィルターを用いて濾過を行って形成した結晶を採取し、氷冷したヘプタン(110ml、−5℃未満の温度)で洗浄した。この反応により、19.47g(64%)、NMR純度99%以上の化合物1が得られた。
1H NMR(500MHz,DMSO−d6)δ(ppm):5.44〜4.95(m,1H,CH環及びs,br,1H,NH),4.26(q,2H,CH2),3.15〜2.68(m,4H,2×CH2環),1.45(s,9H,BOC)及び1.31(t,3H,CH3
例8:粗製化合物1bを用いた化合物1の合成(本発明の方法)
この反応に使用した物質は従来技術の操作方法に基づく精製を行わなかった。出発物質である化合物1bに対して唯一行った精製は、ガラス焼結ロートを用いた濾過とそれに続く乾燥のための減圧下での留去であった。
【0079】
化合物1b(3.0g、12mmol)を仕込んだ反応フラスコに二塩化メタン(77.5ml)及びピリジン(2.95ml、36.6mmol)を添加し、得られた溶液を5℃未満の温度に冷却した。トリフリン酸無水物(3.01ml、17.9mmol)を、添加している間反応温度を5℃未満の温度に保ちながら、混合物に23分間かけて少しずつ添加した。得られた混合物を氷浴上で31分撹拌し(TLCにより反応の進行状況を監視)、反応が完結したところで、水(70ml)を添加して反応を停止させた。
【0080】
反応混合物をEt2O(150ml)で抽出し、水相を廃棄し、有機相をHCl(75ml、1M)、飽和食塩水(75ml、sat.aq.)で洗浄し、Na2SO4上で乾燥した。混合物をガラス焼結フィルターにより濾過し、減圧下、<30℃にて濾液から溶媒を留去して、化合物1の粗生成物を得た。粗生成物を二塩化メタン(40ml)に再溶解し、SiO2(9.5g)上で吸着処理した。
【0081】
粗生成物を、SiO2カラム、ペンタン:ジエチルエーテル(3:1)による均一溶媒溶離を用いたフラッシュクロマトグラフィーによる精製方法を用いて精製した。生成物画分を合わせ、減圧下、30℃未満の温度で溶媒を留去して、化合物1(3.22g)を得た。
【0082】
物質をジエチルエーテル(7.7ml)に溶解し、全ての固形物が溶解するまでこの混合物を35℃未満の温度でゆっくりと撹拌し、再結晶によりさらに化合物1を精製した。溶液を45分かけてゆっくりと25℃まで冷却し、さらにその温度で1時間25分撹拌した。溶液をさらに5℃未満の温度まで冷却し、その温度で54分間穏やかに撹拌し、さらに−20℃未満の温度まで冷却し、その温度で1時間4分撹拌し、氷冷したヘプタン(25ml)を添加し、溶液を穏やかに1時間20分撹拌した。予冷したガラス焼結フィルターを用いて濾過することにより、形成した結晶を採取し、氷冷したヘプタン(25ml、−5℃未満の温度)で洗浄した。この反応により、2.86g(61%)の化合物1が得られた。