(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に説明する実施形態は、適応制御光学システム(AO)を用いた眼底用光断層画像生成装置に本発明の網膜用3次元画像生成装置を適用したものである。また、以下の実施形態の詳細について、図面を参照しながら説明する。
【0038】
[眼底用光断層画像生成装置]
まず、
図1及び
図2を用いて眼底用光断層画像生成装置100の一実施形態の構成について説明する。
【0039】
なお、
図1は、本実施形態における眼底用光断層画像生成装置100の構成を示すブロック図である。また、
図2(A)は、網膜Rにおける走査領域Sを説明するための図であり、
図2(B)は、
図2(A)の拡大図である。さらに、
図3は、網膜Rに照射される物体走査光ビームとラインビームの関係性を説明するための図であり、
図4は、ラインビームの網膜R上の走査について説明するための図である。
【0040】
本実施形態の眼底用光断層画像生成装置100は、適応制御光学システム(AO)技術を用いるとともに、光の干渉効果を利用して検査対象の物体(本実施形態においては眼球EYであり、具体的には、網膜R)の断層画像を取得するOCT測定装置である。
【0041】
この眼底用光断層画像生成装置100は、光ソースビーム(以下、「出射光ビーム」ともいう。)を検査対象に照射する物体走査光ビーム(以下、「物体走査光ビーム」ともいう。)と、干渉計測を行う際にその基準となる参照光ビームと、に分割するようになっている。そして、眼底用光断層画像生成装置100は、当該物体走査光ビームが物体に照射されて反射された物体反射光ビームと、参照光ビームが所定の反射鏡RMにて反射された参照反射光ビームと、を干渉させるようになっている。
【0042】
また、眼底用光断層画像生成装置100は、物体走査光ビームによって網膜Rを、当該網膜Rが形成されている網膜形成面に対して略平行である第1方向(幅方向)に走査するとともに、網膜形成面に対して略平行で、かつ、第1方向に略垂直な第2方向(縦方向)に走査するようになっている。
【0043】
そして、眼底用光断層画像生成装置100は、各ポイント(以下、「走査位置」又は「照射位置」ともいう。)毎に干渉された物体反射光ビームと参照反射光ビームに基づいて物体走査光ビームの進行方向(光軸方向)と平行な網膜Rの奥行き方向を含めた網膜Rの断層画像を生成するようになっている。
【0044】
具体的には、本実施形態の眼底用光断層画像生成装置100は、
図1に示すように、光ソースビームを照射する第1光源ユニット110と、照射された光ソースビームを参照光ビームと物体走査光ビームとに分配するとともに、参照反射光ビームと物体反射光ビームを干渉させる光分配結合ユニット120と、を有している。
【0045】
また、眼底用光断層画像生成装置100は、参照光ビームを反射させ、当該反射された参照光ビームである参照反射光ビームを光分配結合ユニット120に入射させる参照光ユニット130と、物体走査光ビームを網膜Rに照射させて物体反射光ビームを光分配結合ユニット120に入射させる検査ユニット140と、物体反射光ビームと参照反射光ビームが干渉した光ビーム(以下、「干渉光ビーム」という。)に基づいて物体の断層画像を取得する画像検出ユニット150と、から構成される。
【0046】
さらに、眼底用光断層画像生成装置100は、眼球EYの動き、すなわち、網膜Rの移動を検出するために、網膜R上でライン状に結像するための光ビーム(以下、「ラインビーム」という。)を出力する第2光源ユニット210と、網膜Rで反射したラインビーム(以下、「ライン反射ビーム」)を検出し、網膜Rの走査中の走査位置の「ずれ」を検出する位置ずれ検出ユニット220と、ラインビームを物体光走査ビームと検査ユニット140における同一の光路に伝搬させるためのダイクロイックミラー230と、検査ユニット140から出力されたライン反射ビームを位置ずれ検出ユニット220に出力するビームスプリッタ240と、から構成される。
【0047】
なお、例えば、本実施形態の第1光源ユニット110は、本発明の第1光源ユニットを構成し、光分配結合ユニット120は、光分割器を構成する。また、例えば、本実施形態の参照光ユニット130は、本発明の参照光ビームユニットを構成し、検査ユニット140は、本発明の測定ユニットを構成する。そして、例えば、本実施形態の画像検出ユニット150は、本発明の干渉強度検出手段及び生成手段を構成し、第2光源ユニット210は、本発明の第2光源ユニットを構成する。さらに、例えば、本実施形態の位置ずれ検出ユニット220は、本発明の位置ずれ検出ユニットを構成する。
【0048】
第1光源ユニット110は、時間的にインコヒーレントであり、かつ、空間的にもインコヒーレントである光を出射するようになっている。
【0049】
例えば、本実施形態の第1光源ユニット110は、光ソースビームを照射する第1照射光源111と、光アイソレータBIを有し、照射光源111から照射された光ソースビームに対してガラスを用いて所定のキャリブレーションを行うキャリブレーション部112と、を備えている。
【0050】
第1照射光源111は、スーパールミネセンスダイオードにて構成され、具体的には、780nm−920nm及び1000nm−1100nmの範囲の波長を有する光ビームを光ソースビームとして照射するようになっている。
【0051】
なお、本実施形態においては、780nmの波長の光ソースビームが用いられる。ただし、上記の波長に限らず、目に眩しくなく点光源で一定の照度があればよい。
【0052】
キャリブレーション部112は、光源ユニット110から照射された光分配結合ユニット120にのみ光ビームを伝送し、その逆の光ビームを伝送しない光アイソレータBIを有し、光ソースビームに対して所定のキャリブレーションを行うようになっている。
【0053】
光分配結合ユニット120は、光分配結合器121と、分割された物体走査光ビーム及び反射された物体反射光ビームの偏光を制御する第2偏光制御部122と、分割された物体走査光ビームを平行光ビームに変換するとともに物体反射光ビームを集光ビームに変換する光分配結合ユニット用変換レンズ123と、を有している。
【0054】
光分配結合器121は、光ファイバーやビーム分割プリズム等によって入射された光ソースビームを物体走査光ビームと参照光ビームに分割し、それぞれ、検査ユニット140及び参照光ユニット130に出力するようになっている。
【0055】
例えば、本実施形態の光分配結合器121は、所定の分配比(例えば50:50〜80:20程度の分配比)を有しており、入射した光ソースビームを当該分配比に基づいて分割してそれぞれに出力するようになっている。
【0056】
また、この光分配結合器121には、検査ユニット140の物体にて反射された物体反射光ビームと、参照光ユニット130で反射された参照反射光ビームとが入射されるようになっている。
【0057】
そして、この光分配結合器121は、入射された物体反射光ビーム及び参照反射光ビームを干渉させ、当該干渉させた干渉光ビームを画像検出ユニット150に出力するようになっている。
【0058】
例えば、本実施形態の光分配結合器121は、所定の結合比(例えば50:50〜80:20程度の分配比)、入射された物体反射光ビームと参照反射光ビームを当該結合比に基づいて結合して干渉させ、当該結合されて干渉された干渉光ビームを画像検出ユニット150に出力するようになっている。
【0059】
第2偏光制御部122は、入射された物体走査光ビームと参照光ビームとを干渉させないためにそれぞれ偏光させるものである。
【0060】
光分配結合ユニット用変換レンズ123は、コリメータレンズによって形成されており、光分配結合器121から出力された物体走査光ビームを平行光ビームに変換し、ダイクロイックミラー230に出力する。
【0061】
参照光ユニット130は、基本的には、物体走査光(反射光)ビームの光路と同一の長さを有する光路にて基準となる参照反射光ビームを生成するためのユニットである。ただし、実際には、参照光ユニットにおける光路は、物体走査光(反射光)ビームの光路と光ソースビームにおける診断に必要な深度に基づいて若干の光路差(τ)を有している。
【0062】
具体的には、本実施形態の参照光ユニット130は、分割された参照光ビーム及び反射された参照反射光ビームの偏光を制御する第1偏光制御部131と、参照光ビームを平行光ビームに変換するとともに平行光ビームである参照反射光ビームを集光させる第1変換レンズ132と、色収差補正を行う色収差補正レンズ133と、を有している。
【0063】
また、この参照光ユニット130は、色分散を調整するためのウォーターバイアル134と、参照光ビームを反射させる反射鏡RMと、平行光ビームである参照光ビームを集光させるとともに、集光されている参照反射光ビームを平行光ビームに変換する第2変換レンズ135と、を有している。
【0064】
特に、色収差補正レンズ133及びウォーターバイアル134は、検査ユニット140における物体走査光ビーム(具体的には、物体反射光ビーム)と眼球を通過したことと擬似的に同一の環境下を作り出すために設けられている。
【0065】
通常、これらの色収差補正レンズ及びウォーターバイアル134は、眼球EYに光ビームが照射された際に生じる色収差又は色分散を補正するためのものであり、参照光ユニット130においては、擬似的に検査ユニット140における色収差又は色分散を行った光ビームを生成するためのものである。
【0066】
なお、第1偏光制御部131は、反射された参照反射光ビームと参照光ビームとを干渉させないためにそれぞれ偏光させるものである。
【0067】
第2光源ユニット210は、光ソースビームを照射する第2照射光源211と、第2照射光源211から照射された光ソースビームを平行光ビームに変換する第2光源ユニット用変換レンズ212と、平行光ビームをラインビームに変換するシリンドリカルレンズ213と、を備えている。なお、例えば、第2照射光源211は、本発明の第2光源を構成する。
【0068】
第2照射光源211は、スーパールミネセンスダイオードにて構成され、具体的には、第1照射光源111と異なる波長を有する光ビームを光ソースビームとして照射するようになっている。また、例えば、本実施形態の第2照射光源211は、700nm又は900nmの波長を有する光ビームを光ソースビームとして照射するようになっている。
【0069】
なお、第2照射光源211は、上記の波長に限らず、第1照射光源111と異なる波長を有する光ビームであって、目に眩しくなく点光源で一定の照度があればよい。
【0070】
第2光源ユニット用変換レンズ212は、コリメータレンズによって形成されており、第2照射光源211から照射された光ソースビームを平行光ビームに変換し、シリンドリカルレンズ213に出力する。
【0071】
シリンドリカルレンズ213は、平行光ビームを、網膜Rにおいてライン状に結像するためのラインビームに変換して出力する。すなわち、シリンドリカルレンズ213は、物体走査光ビームによって網膜Rを縦方向(検査時における上下方向で
図2(B)においては紙面縦方向)に延伸するラインビームを出力する。
【0072】
例えば、本実施形態においては、シリンドリカルレンズ213は、後述するスキャニングミラー146を介して網膜R上に幅450μm(網膜Rの縦方向)で厚さ13μm(網膜Rの幅方向、すなわち、
図2(B)においては紙面横方向)の光ビームが照射可能なラインビームに変換して出力する。
【0073】
なお、網膜Rの幅方向、すなわち、走査ライン方向に走査することを主走査といい、次の走査ラインに移動すること、すなわち、網膜Rの縦方向にラインが移動することを副走査という。
【0074】
ビームスプリッタ240は、シリンドリカルレンズ213から出力されたラインビームの光路上に設けられる。そして、ビームスプリッタ240は、シリンドリカルレンズ213から出力されたラインビームを透過して検査ユニット140に出力するとともに、当該検査ユニット140から出力されたライン反射ビームを、ラインビームの光路に対して直行する方向に設けられた位置ずれ検出ユニット220に反射させる。
【0075】
例えば、ビームスプリッタ240は、シリンドリカルレンズ213から出力されたラインビームの90%を透過し、その10%を反射するとともに、ライン反射ビームの90%を反射し、その10%を透過する透過率及び反射率を有している。
【0076】
ダイクロイックミラー230は、ビームスプリッタ240を介してシリンドリカルレンズ213から出力されたラインビームの光路上に設けられる。
【0077】
そして、ダイクロイックミラー230は、ビームスプリッタ240を介してシリンドリカルレンズ213から出力されたラインビームを透過して検査ユニット140に出力するとともに、シリンドリカルレンズ213から出力されたラインビームの光路に対して直行する方向から出力された物体走査光ビームを反射して検査ユニット140に出力する。
【0078】
一方、ダイクロイックミラー230は、網膜Rで反射した物体反射光ビームを反射してラインビームの光路に対して直行する方向に出力し、光分配結合ユニット120に当該物体反射光ビームを入射させる。そして、ダイクロイックミラー230は、網膜Rで反射したライン反射ビームを透過し、ビームスプリッタ240を介して位置ずれ検出ユニット220に入射させる。
【0079】
すなわち、ダイクロイックミラー230は、波長の異なる光ビームを透過又は反射させて、ラインビームを物体走査光ビームと検査ユニット140における同一の光路に伝搬させるように、かつ、検査ユニット140から出力されたそれぞれの光ビームを該当する光路にそれぞれ出力することができるように、配置及び構成されている。
【0080】
検査ユニット140は、網膜Rの走査中における走査位置のずれを検出するため当該網膜Rへのラインビームの照射位置を調整するとともに、検出した走査位置のずれに基づいて、前記物体走査光ビームよって網膜Rを走査する位置を補正しつつ、当該走査を実行する。
【0081】
特に、検査ユニット140は、上述のように、物体走査光ビームよって網膜Rにおける1の方向(例えば、網膜Rの幅方向)と当該方向と直行する他の方向(例えば、網膜Rの縦方向)の2軸を走査する際に、
図3に示すように、物体走査光ビームの一走査中に当該走査されたラインを中心にラインビームを網膜Rに照射するように構成されている。
【0082】
具体的には、本実施形態の検査ユニット140は、第1平面ミラー141と、色収差補正レンズ142と、物体反射光ビームの波面収差を検出する波面センサ143と、物体反射光ビームを分割してその一部を波面センサ143に入射させるセンサ用プリズム144と、可変形ミラー145と、スキャニングミラー146と、第2平面ミラー147と、一対の凹面鏡148と、第3平面ミラー149と、スキャニングミラー146における光ビームの網膜R上の照射位置を制御する制御部300と、から構成される。
【0083】
なお、例えば、本実施形態のスキャニングミラーは、本発明の光制御機構及び可動ミラーを構成する。また、色収差補正レンズ142を省略した構成としてもよい。
【0084】
第1平面ミラー141、第2平面ミラー147及び第3平面ミラー149は、検査ユニット140を小型化、及び、他の部材を適切な位置に配置するために、物体走査光ビーム、物体反射光ビーム、ラインビーム及びライン反射光ビームが伝搬する光路(以下、「検査ユニット内光路」という。)を形成するために用いられる。
【0085】
本実施形態の波面センサ143は、シャック・ハルトマンセンサーにて構成されており、網膜Rで反射された物体反射光ビームの波面収差を検出するようになっている。
【0086】
可変形ミラー145は、波面センサ143によって鏡面の形状が制御されるようになっており、色収差補正レンズ142を通過した物体走査光ビーム及び網膜Rで反射された物体反射光ビームをそれぞれの方向に反射するようになっている。また、この可変形ミラー145は、所定の制御の下に、波面センサ143によって検出された物体反射光ビームの波面収差に基づいて、鏡面構造が変化する。
【0087】
スキャニングミラー146は、物体走査光ビーム及びラインビームの網膜R上の走査位置を同時に制御するために用いられる単一の光制御機構(すなわち、単一の可動ミラー)である。特に、スキャニングミラー146は、制御部300の制御の下、物体走査光ビーム及びラインビームを反射させつつ、網膜Rが形成されている網膜形成面に対して当該網膜Rの幅方向への走査、及び、網膜形成面に対して略平行であるとともに網膜Rの幅方向に直行する縦方向への走査を実行するように形成されている。
【0088】
具体的には、スキャニングミラー146は、物体走査光ビーム及びラインビームよって網膜Rにおける幅方向と当該幅方向と直行する縦方向の2軸を走査する際に、物体走査光ビーム及びラインビームを連動させつつ、ラインビームの網膜R上の結像ラインと物体走査光ビームの網膜R上の結像点とを、上下及び左右に移動させる。
【0089】
例えば、本実施形態のスキャニングミラー146は、上下左右とも振り角が0.3度で網膜上の走査位置が100μm移動することができるようになっており、
図2(A)及び(B)に示す網膜Rにおいて検査領域(すなわち、物体走査光ビームにおける走査領域S)が3m×3mの場合には、スキャニングミラー146は、上下左右とも振り角最大振り角10度の走査角を上下左右に調整し、物体走査光ビーム及びラインビームBを網膜Rの走査位置に結像させる。
【0090】
また、スキャニングミラー146は、
図3に示すように、網膜R上において、当該網膜Rの縦方向に所定の長さ(例えば、450μm)を有するラインビームBの中心(すなわち、縦方向の長さの中心)に、物体走査光ビームAを結像させつつ、網膜Rをその幅方向に走査するように、物体走査光ビームA及びラインビームBの照射方向を制御する。
【0091】
そして、スキャニングミラー146は、幅方向の1の走査が終了すると、物体走査光ビームが縦方向に移動し、次の走査ラインに移動して再度幅方向に走査するように、かつ、
図4に示すように、ラインビームも次の走査ラインに移動するように、物体走査光ビームA及びラインビームBの照射方向を制御する。
【0092】
なお、
図4は、走査領域Sにおいて、走査ラインが6μm毎に物体走査光ビームによって網膜Rが走査されている状態を示し、特に、i番目のラインビームとi+1番目のラインビームが網膜R上に照射された場合を示している。
【0093】
また、スキャニングミラー146は、物体走査光ビームによって網膜Rを走査している走査中に、位置ずれ検出ユニット220によって検出された網膜Rの走査中における走査位置のずれ量に基づいて、物体走査光ビーム及びラインビームによって網膜Rを走査する位置を補正する。
【0094】
すなわち、スキャニングミラー146は、
図3及び
図4に示すように、物体走査光ビームA及びラインビームBによって網膜Rを走査する際に、物体走査光ビームAにおける網膜R上の走査位置、すなわち、物体走査光ビームAの網膜R上の結像位置をリアルタイムで制御する際に用いられる。
【0095】
一対の凹面鏡148は、スキャニングミラー146によって反射した物体走査光ビーム及びラインビームを眼球EYに入射させ、物体走査光ビーム及びラインビームを網膜R上で結像させるために用いられる。
【0096】
なお、網膜Rにて反射された物体反射光ビーム及びライン反射ビームは、上述の逆の経路(すなわち、戻り経路)を通って検査ユニット140から出力される。そして、物体反射光ビームは、ダイクロイックミラー230及び光分配結合ユニット120を介して画像検出ユニット150に入射し、ライン反射ビームは、ダイクロイックミラー230及びビームスプリッタ240を介して位置ずれ検出ユニット220に入射する。
【0097】
制御部300は、位置ずれ検出ユニット220からの指示に基づいて、スキャニングミラー146の物体走査光ビーム及びラインビームにおける照射方向を制御する。すなわち、制御部300は、検出された物体走査光ビームによる網膜Rの走査中における走査位置のずれ量に基づいて、スキャニングミラー146における物体走査光ビームの網膜Rを走査する際の走査位置を制御する。
【0098】
具体的には、制御部300は、スキャニングミラー146の可動を制御し、上述のように、ラインビーム及び物体走査光ビームの網膜R上の走査位置を制御する。すなわち、制御部300は、ラインビーム及び物体走査光ビームについて、網膜形成面に対して網膜Rの幅方向への走査、及び、網膜形成面に対して略平行であるとともに網膜Rの幅方向に直行する縦方向への走査を制御する。
【0099】
なお、上記
図3に示す3mm×3mmの網膜R上の領域においては、後述するように、走査ライン間隔を6μmとすると、制御部300は、物体走査光ビームA及びラインビームBを連動させて、走査ラインを網膜Rの縦方向に移動させつつ、網膜Rの幅方向に500回の物体走査光ビームA及びラインビームBの移動(すなわち、走査)を実行させる。
【0100】
画像検出ユニット150は、走査位置(網膜形成面の幅方向及び縦方向に走査される各点)毎に、干渉光ビームから各波長を抽出して各波長における干渉強度を算出するとともに、当該算出された各波長の干渉強度に基づいて奥行き方向の光強度データ(奥行き方向における反射分布率を示すデータ)を演算して表示するようになっている。
【0101】
通常、網膜R内部にて物体走査光ビームが反射した点によって参照反射光ビームとの光路の距離差が変化して波長毎に干渉強度が変化する。
【0102】
したがって、本実施形態の画像検出ユニット150は、当該変化した干渉強度を検出するとともに、この波長領域のデータである干渉強度をフーリエ変換して空間領域データに変換し、網膜Rにおける奥行き方向の光強度データを演算することができるようになっている。
【0103】
具体的には、本実施形態の画像検出ユニット150には、検査ユニット140から伝送された物体反射光ビームと参照光ユニット130から伝送された参照反射光ビームと結合させて干渉された干渉光ビームが入力されるようになっている。
【0104】
また、この画像検出ユニット150は、干渉光ビームの偏光を制御する第3偏光制御部151と、偏光された干渉光ビームを平行光ビームに変換する画像検出ユニット用変換レンズ152と、平行光ビームである干渉光ビームを波長毎に分光するグレーティング部153と、を備えている。
【0105】
そして、この画像検出ユニット150は、波長毎の干渉強度を検出する走査カメラ154と、検出された波長毎の干渉強度に基づいて光強度データを算出して網膜Rの3次元画像化を行う画像生成部155と、3次元画像化された画像データを表示する表示部156と、を備えている。
【0106】
特に、画像生成部155は、光強度データに基づいて、同一の位置の網膜を複数回にわたり画像化し、各画像の位置合わせをしつつ、それらを足し合わせて平均化することによって、スペックルノイズ(ランダムノイズ)の影響を低下させた網膜画像を得ることができるようになっている。
【0107】
位置ずれ検出ユニット220は、ラインセンサ221と、ビームスプリッタ240から出力されたライン反射ビームをラインセンサ221に集光させるための位置ずれ検出ユニット用変換レンズ222と、位置ずれ検出部223と、を備えている。なお、例えば、本実施形態のラインセンサ221は、本発明のラインセンサを構成する。
【0108】
ラインセンサ221は、CCD素子を有するラインスキャンカメラであり、それぞれのCCD素子に受光したライン反射ビームの強度の情報を出力するようになっている。なお、ラインスキャンカメラは、カラーのカメラであっても白黒のカメラであってもよい。
【0109】
ラインセンサ用変換レンズ212は、コリメータレンズによって形成されており、ビームスプリッタ240から出力されたライン反射ビームをラインセンサ221に集光させる。
【0110】
位置ずれ検出部223は、ラインセンサ221によって検出されたライン反射ビームに基づいて、網膜Rの動きの量、すなわち、走査中の走査位置のずれの量を算出し、当該算出結果に基づいて、制御部300に、スキャニングミラー146における物体走査光ビームの照射方向を制御するための指示を出力する。
【0111】
具体的には、位置ずれ検出部223は、ライン反射ビームから画像を生成し、当該生成した画像を走査ライン方向に所定数に分割しつつ、隣接する2つの走査ラインの同一位置の小領域の画像に基づいて、網膜Rの走査中における走査位置のずれ量を検出する。
【0112】
例えば、本実施形態の位置ずれ検出部223は、生成した画像を走査ライン方向に12個に分割し、隣接する2つの走査ラインの同一位置の小領域の画像に基づいて、網膜Rの走査中における走査位置のずれ量を検出する。
【0113】
なお、本実施形態の位置ずれ検出部223の位置ずれの検出原理については後述する。
【0114】
[光強度データの算出方法]
次に、
図5を用いて各波長の干渉強度データから網膜Rの深さ方向の光強度データを算出する方法について説明する。なお、
図5は、参照反射光ビームと物体反射光ビームとにおける干渉強度の算出方法を説明するための図である。
【0115】
光物体走査光ビーム(Ep(t))は、物体の奥行き方向、すなわち、光ビームの光軸方向をz軸として網膜Rの構造による反射散乱特性を(s(Z))及び光源ユニット110から照射された光ビーム(E(t))とすると、(式1)で表すことができる。
【0117】
なお、この「○」の中に「×」のがある記号は、コンボリューションを示す。また、(式1)が時間の関数によって表されているのは、z軸と光ビームの伝播方向が同じであり、伝播距離が時間に換算されるため(s(z))が時間の関数(s(t))で表されるからである。
【0118】
また、参照光ユニット130と検査ユニット140には、予め光路差(τ)が与えられており、光分配結合ユニット120に入る参照反射光ビームと物体反射光ビームの光振幅信号は
図5(a)のようになる。
【0119】
そして、グレーティング部153によって分光されてフーリエ変換された参照反射光ビーム及び物体反射光ビームの光干渉強度、すなわち、スペクトル干渉縞(E(ω)=F[Ep(t)])が走査カメラ154にて検出されることになる(
図5(b)参照)。
【0120】
このとき、干渉信号Iがフーリエ変換されたフーリエ干渉信号F[I]とスペクトル干渉縞の関係は、(式2)に示される。ただし、E*は、複素共役を示す。
【0122】
また、この(式2)は、相関演算(*)に基づいて(式3)にて表すことができる。
【0124】
ここで、右辺の第1項と第2項は参照反射光ビーム及び物体反射光ビームの自己相関信号を示し、
図5(c)の中央のピークである。また、右辺第3項と第4項は、参照反射光ビーム及び物体反射光ビームの相互相関を示し、自己相関信号に対して離間した位置に左右対称に現れる。
【0125】
また、右辺第3項(I
3項)は、(式1)の関係から(式4)となるが、参照光ビームが平面鏡にて反射して参照反射光ビームとなり、{Er(t)=E(t)}となるので、光源(光ソースビーム)の自己相関関数と光軸方向(いわゆる奥行き方向)の構造のコンボリューションとなる。
【0127】
すなわち、光ソースビームのパルス幅が十分に短いか、又は、スペクトル分布が十分に広い場合に、E(t)はデルタ関数と見なすことができるので、この相互相関信号の強度は、物体の奥行き方向の反射散乱特性となっているため、スペクトル領域においては奥行き方向への走査を必要とせずに、干渉強度のデータによって奥行き方向のデータを得ることができるようになっている。
【0128】
なお、深さ方向の分解能(Δz)は、光ソースビームの中心波長λと波長幅Δλを用いて(式5)のように表すことができる。ただし、「σ」は、ガウス分布をしている波長広がり幅を示す。
【0130】
[位置ずれ検出原理及び位置ずれ検出部]
次に、
図6及び
図7を用いて本実施形態における網膜Rの走査中の走査位置のずれを検出する検出原理及び位置ずれ検出部223について説明する。なお、
図6及び
図7は、本実施形態における網膜Rの走査中の走査位置のずれの検出原理を説明するための図である。
【0131】
通常、被験者が、目を凝視させることによって目の動きを止めているつもりであっても、目は、常に微動している。また、その動きの量は、網膜R上で最大100μmにもなり、そのときの最大速度は、約4μm/msになる。したがって、網膜Rの幅方向及び縦方向の2軸に対して物体走査光ビームの網膜Rの走査を単純に制御するだけでは、的確に当該網膜Rを走査することができないので、目の動きによる網膜Rの走査中における走査位置のずれの量を検出する必要がある。
【0132】
例えば、網物体走査光ビームの縦方向の走査間隔(副走査の走査間隔)を6μmとすると、網膜Rが幅方向(x方向)にΔx及び縦方向(y方向)にΔy移動した場合には、網膜Rの走査中における走査位置のずれは、x方向にΔxμmで、y方向に(Δy+6)μmとなる。
【0133】
そこで、本実施形態においては、網膜Rの走査中における走査位置のずれを検出するために、物体走査光ビームの網膜R上のスポット径から算出される物体走査光ビームの縦方向の走査間隔より小さい間隔毎に、所定の幅(網膜Rの検出領域の縦方向の長さ)を有するラインビームを照射するようになっている。
【0134】
すなわち、網膜Rで反射したラインビーム(すなわち、上述のライン反射ビーム)に基づいて得られたラインビームの走査ラインが隣接する2つ画像(トラッキング画像)を取得し、その2つの画像における重複した画像領域について相互相関を算出することによって、目の動きに起因して網膜Rの走査中における走査位置のずれ(すなわち、位置ずれ)を算出することができるようになっている。
【0135】
一方、ラインビームの1の走査には所定の時間が必要となるため、走査ラインが隣接する2つの画像を得るためには、その2倍の時間が必要となる。すなわち、ラインビームは物体走査光ビームと連動して主走査方向に走査され、かつ、当該物体走査光ビームの副走査に伴って移動するので、2つのトラッキング画像を得るためには、2つの走査ラインを完了する時間が必要となる。したがって、その時間から換算される網膜Rの移動距離が画像分解能以上になった場合には、上記の相互相関を算出しても、網膜Rの走査中における走査位置のずれを除去できなくなってしまう。
【0136】
このため、網膜画像を生成する際に、物体走査光ビームがランダムに干渉し合うことにより発生するスペックルノイズ(ランダムノイズ)の影響を低下させるためには、同一位置の網膜の画像を複数得て平均化する必要があるが、網膜Rの走査中に当該走査位置における位置ずれが生ずると(すなわち、除去できなくなると)、結果的に、スペックルノイズ(ランダムノイズ)の影響を低下させることができない。
【0137】
例えば、上述のように、網膜Rの検査領域の幅が3mmの場合においては、一般的な走査スピード140kHzとすると、物体走査光ビームの一走査に要する時間は、3.57msとなるので、隣接する走査ラインの2つのライン反射ビームからそれぞれの画像を得るためには、2倍の時間である7.14msの時間が必要となる。このため、網膜Rが移動する際の最大速度は、約4μm/msであるので、この間の位置ずれは約30μmとなる。
【0138】
また、上述のように波長780nmの物体走査光ビームを用いた場合には、物体走査光ビームの網膜R上におけるスポット径Wは、光の回析理論から(式6)に示すように13μmと算出することができるので、その分解能は、13μmとなる。なお、装置の開口を3mm及び眼球の直径を20mmとすると、開口数NAは0.0748となり、回折の理論式の係数1.2を用いてスポット径wを、(式6)を用いて計算すると、13μmとなる。
【0140】
このように、目の動きに起因して生ずる位置ずれが30μmであり、走査における分解能が13μmとなると、網膜Rの走査中における走査位置のずれが、物体走査光ビームにおける分解能より大きくなる場合には、上記の相互相関を算出したとしても、網膜Rの走査中における走査位置のずれを算出できなくなってしまう。
【0141】
そこで、本実施形態においては、
図6に示すように、1のライン反射ビームによって得られる画像を、当該ラインビームの走査方向(すなわち、網膜Rの幅方向)に対して複数の小領域Pに分割するとともに、走査ラインが隣接する2つのライン反射ビームの同一の位置(x方向の位置)の2つの小領域の画像について重複した画像領域の相互相関を算出し、当該算出結果に基づいて網膜Rを走査中における走査位置のずれをリアルタイムに消去することができるようになっている。そして、同一位置の網膜の画像を複数得て平均化する際に、各画像の位置合わせを的確に実行させることができるので、結果的に、スペックルノイズ(ランダムノイズ)の影響を低下させた良質な網膜画像を得ることができるようになっている。
【0142】
具体的には、本実施形態の位置ずれ検出部223は、各ライン反射ビームをリアルタイムで画像化し、各ライン反射ビームによって得られる画像を、当該ラインビームの主走査方向に対して複数の小領域Pに分割し、ライン反射ビームの走査ラインが隣接する2つのライン反射ビームにおける主走査方向において同一の位置に属する2つの小領域Pの画像について、重複した画像領域の相互相関を算出し、前記算出した画像領域の相互相関に基づいて網膜Rの走査中における走査位置のずれを算出する。
【0143】
例えば、位置ずれ検出部223は、
図7に示すように、例えば、幅0.45mmの波長700nmのライン反射ビームが網膜Rの幅方向に0.25mm毎に所定数(例えば、12)の小領域Pに分割し、分割した各小領域Pにおける画像(以下、「小領域走査画像」という。)を用いるようになっている。
【0144】
また、位置ずれ検出部223は、各走査ラインのライン反射ビームにおける1の小領域Pにおける小領域画像と、各走査ラインの次の走査ラインのライン反射ビームにおける同一の位置の小領域Pにおける小領域画像との重複分を検出し、当該検出した重複部分における相互相関を算出し、網膜Rの動きに起因する両領域の網膜Rの走査中における走査位置のずれ量を算出する。
【0145】
すなわち、位置ずれ検出部223は、i番目の走査におけるライン反射ビームNにおける12の小領域Pのうち、j番目の小領域P(i,j)の小領域走査画像と、i+1番目の走査におけるライン反射ビームN+1における12の小領域Pのうち、j番目の小領域P(i+1,j)の小領域走査画像と、において、重複した領域について、それぞれの画像の相互相関を計算する。
【0146】
なお、(i,j)の小領域走査画像と、(i+1,j)の小領域走査画像との画像を得るための時間は、1の走査を行う時間と同等の3.57msとなり、この間における網膜Rの走査中における走査位置のずれは、最大約14μmである。そして、この値は、上述の分解能とほぼ等しくなり、画像検出ユニット150において得られる画像の歪みは無視できるほど小さくなっている。
【0147】
また、分割される小領域は、特に限定されず、ラインビーム及び物体走査光ビームのスポット径、網膜Rの走査中における走査位置のずれ量の算出時間又は検出能力等によるが、縦及び横とも、網膜Rの走査中における走査位置のずれの最大量100μm以上の大きさが必要となる。
【0148】
さらに、位置ずれ検出部223は、このように網膜Rの走査中における走査位置のずれ量を算出すると、算出した位置ずれ量に基づいてスキャニングミラー146を制御するための指示を制御部300に出力する。
【0149】
以上のように、本実施形態の眼底用光断層画像生成装置100は、検査ユニット140において同一の光路を用いて物体走査光ビームとラインビームを伝搬させて網膜Rに照射することができる。
【0150】
したがって、本実施形態の眼底用光断層画像生成装置100は、網膜Rの走査中における走査位置のずれを検出するビームの光路を、網膜Rを走査するビームの光路と同一にすることができるので、簡易な構成によって網膜Rの走査中における走査位置のずれを的確に検出することができる。
【0151】
また、本実施形態の眼底用光断層画像生成装置100は、的確に走査位置のずれを検出することができるので、同一位置の網膜の画像を複数得て平均化する際に、各画像の位置合わせを的確に行うことができる。
【0152】
したがって、本実施形態の眼底用光断層画像生成装置100は、物体走査光ビームがランダムに干渉し合うことにより発生するスペックルノイズ(ランダムノイズ)の影響を低下させた良質な網膜画像を得ることができる。
【0153】
特に、本実施形態の眼底用光断層画像生成装置100は、1の走査ライン全てについてのラインビームによる画像を得る場合に比べて、該当する小領域についての画像が得られれば、網膜Rの走査中における走査位置のずれを検出することができるので、迅速に網膜Rの走査中における走査位置のずれを検出することができる。
【0154】
また、本実施形態の眼底用光断層画像生成装置100は、隣接するラインビームを用いて網膜Rの走査中における走査位置のずれを検出することができるので、迅速に網膜Rの走査中における走査位置のずれを検出することができる。
【0155】
また、本実施形態においては、ラインビーム及び物体走査光ビームの網膜R上への照射位置の調整については、スキャニングミラー146を用いているが、これに限られず、ラインビーム及び物体走査光ビームの走査位置を調整することができるとともに、検出された網膜Rの走査中における走査位置のずれに基づいてラインビーム及び物体走査光ビームの網膜R上への照射位置を調整することができればよい。
【0156】
また、本実施形態においては、位置ずれ検出部223は、走査ラインが隣接する2つのライン反射ビームによって得られる2つの画像の相互相関を算出しているが、最初の走査ラインにおけるライン反射ビームを基準とし、その他のライン反射ビームとによって得られる2つの画像の相互相関を算出して網膜Rの走査中における走査位置のずれ量を検出してもよいし、i番目とi+2番目のライン反射ビーム等、走査ラインが隣接していないライン反射ビームによって得られる2つの画像の相互相関を算出して網膜Rの走査中における走査位置のずれ量を検出してもよい。