特許第6047503号(P6047503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6047503Her3タンパク質SRM/MRMアッセイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047503
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】Her3タンパク質SRM/MRMアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20161212BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
   G01N33/68ZNA
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-547689(P2013-547689)
(86)(22)【出願日】2011年12月29日
(65)【公表番号】特表2014-505870(P2014-505870A)
(43)【公表日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】US2011067998
(87)【国際公開番号】WO2012092531
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2014年11月13日
(31)【優先権主張番号】61/428,147
(32)【優先日】2010年12月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505343745
【氏名又は名称】エクスプレッション、パソロジー、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】EXPRESSION PATHOLOGY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド、ビー.クリッツマン
(72)【発明者】
【氏名】トッド、ヘンブロー
(72)【発明者】
【氏名】シーノ、ティパランビル
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0108795(US,A1)
【文献】 特表2010−501175(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0215636(US,A1)
【文献】 特表2010−530980(JP,A)
【文献】 特表2006−509503(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/092932(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−27/70
G01N 33/48−33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析を用いて、ホルマリン固定組織のヒト生物学的試料から調製されたタンパク質消化物中のHer3断片ペプチドの量を検出すること、および定量すること、ならびに前記試料中のHer3タンパク質のレベルを計算することを含む、前記ヒト生物学的試料中の受容体チロシン―タンパク質キナーゼerbB−3(Her3)タンパク質のレベルを測定するための方法であって、Her3断片ペプチドが配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、および配列番号:10からなる群から選択され、前記レベルが、相対レベルまたは絶対レベルである、方法。
【請求項2】
記Her3断片ペプチドの量を検出すること、および/または定量する前に、前記タンパク質消化物を画分化する段階をさらに含み、前記画分化する段階が、液体クロマトグラフィー、ナノ逆相液体クロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィーおよび逆相高性能液体クロマトグラフィーからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質消化物が、プロテアーゼ消化物を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質消化物が、トリプシン消化物を含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記組織が、パラフィン包埋組織である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記組織が、腫瘍から得られる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Her3断片ペプチドを定量することに、1つの生物学的試料中の前記Her3断片ペプチドの量を、異なるそして別の生物学的試料中の同一のHer3断片ペプチドの量と比較することを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記Her3断片ペプチドを定量することに、公知の量の添加した内部標準ペプチドとの比較により、生物学的試料中のHer3断片ペプチドそれぞれの量を測定することが含まれ、生物学的試料中の前記Her3断片ペプチドを、同一のアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドと比較し、ここで該内部標準ペプチドが、同位体標識されたペプチドである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
タンパク質消化物中の前記Her3断片ペプチドの量を検出すること、および定量することが、Her3タンパク質の存在、および前記ヒト生物学的試料を得た対象中のがんとの関連を示唆する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
さらに、前記Her3断片ペプチドの量を検出すること、および定量することの結果、または前記Her3タンパク質のレベルを、がんの診断ステージ/グレード/状態と相関させることを含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記Her3断片ペプチドの量を検出すること、および定量することの結果、または前記Her3タンパク質のレベルを、がんの診断ステージ/グレード/状態と相関させることを、がんの診断ステージ/グレード/状態に関するさらなる情報を提供するために、多重フォーマットにて、他のタンパク質または他のタンパク質からのペプチドの量を検出すること、および/または定量すること、と組み合わせる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
さらに、前記生物学的試料を得た対象に対して、1つまたはそれ以上のHer3断片ペプチドの存在、不在または量、またはHer3タンパク質のレベルに基づいた前記対象の処置選択を補助することを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記治療的薬剤が、前記Her3タンパク質に結合し、かつ/またはその生物学的活性を阻害する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチドが配列番号:2である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本明細書は、その内容がすべて引用することにより本明細書の開示の範囲とされる、2010年12月29日に申請された、「Her3タンパク質SRM/MRMアッセイ」と題された米国特許仮出願第61/428,147号明細書の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
Her3として、またプロトオンコジーン様タンパク質、c−ErbB−3、チロシンキナーゼ型細胞表面受容体Her3およびERBB3タンパク質として引用される、受容体チロシン―タンパク質キナーゼerbB-3タンパク質の部分列から由来する特定のペプチドが提供される。各ペプチドに対するペプチド配列と断片/遷移イオンが、多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring:MRM)アッセイ(複数可)としても引用可能な、質量分析に基づいた選択反応モニタリング(Selected Reaction Monitoring:SRM)アッセイ(複数可)にてとりわけ有用であり、本明細書以下では、SRM/MRMアッセイ(複数可)と呼ぶ。Her3タンパク質のSRM/MRM定量解析に対する、1つのそのようなペプチドの利用を記述する。
【0003】
本SRM/MRMアッセイは、Her3タンパク質からの1つまたはそれ以上の特定のペプチドの存在を検出するため、および相対的または絶対的量を測定するために使用可能であり、したがって、質量分析によって生物学的試料から得た当該タンパク質調製物中のHer3タンパク質の量を測定する手段を提供する。
【0004】
本明細書で記述したSRM/MRMアッセイは、ホルマリン固定がん患者組織のような、患者組織試料から入手した細胞から調製した複合タンパク質溶解物試料中で直接Her3ペプチドを測定可能である。ホルマリン固定組織からタンパク質試料を調製する方法は、その内容が全て参考文献によって本明細書に組み込まれている米国特許第7,473,532号明細書に記述されている。本特許に記述された方法は、Expression Pathology Inc.(Rockville,MD)から入手可能な、Liquid Tissue(商標)試薬およびプロトコールを用いて、便利に実施されてよい。
【0005】
がん患者から外科的に取り除いた組織のホルムアルデヒド/ホルマリン固定は、病理学的実施において、受け入れられた慣習である。結果として、ホルムアルデヒド/ホルマリン固定パラフィン包埋組織が、これらの患者からの組織の、もっとも広く利用可能な形状である。ホルムアルデヒド/ホルマリン固定は典型的には、ホルマリンとして引用されるホルムアルデヒドの水溶液を利用する。「100%」ホルマリンは、酸化と重合化の程度を制限するために、少量の安定化剤、通常メタノールを含む、水中のホルムアルデヒドの飽和溶液(約40容量%または37重量%ホルムアルデヒド)からなる。組織を保存するもっとも一般的な方法は、一般に10%中性緩衝ホルマリンと呼ばれる、水性ホルムアルデヒド中、長時間(8時間〜48時間)、全組織を浸し、続いて室温にて長期間保存のために、固定した全組織をパラフィンワックス中に包埋することである。したがって、ホルマリン固定がん組織を解析するための分子解析方法が、がん患者組織の解析に対して、もっとも許容され、頻繁に使用される方法であろう。
【0006】
SRM/MRMアッセイからの結果を、その組織(生物学的試料)が回収され、保存された患者または対象の特定の組織試料(例えばがん組織試料)内のHer3タンパク質の実際の、そして正確な定量レベルを相互に関係づけるために使用可能である。これは、がんに関する診断情報を提供するだけでなく、医師または他の医療専門家が患者に対する適切な治療を決定することを許容する。疾患組織または他の患者試料中のタンパク質発現のレベルに関する診断的および治療的に重要な情報を提供するそのようなアッセイは、コンパニオン診断アッセイと呼ばれる。例えば、そのようなアッセイは、がんのステージまたは程度を診断し、患者がもっとも応答する可能性のある治療薬剤を決定することが可能である。
【発明の概要】
【0007】
本明細書で記述したアッセイは、Her3タンパク質からの特定の未改変ペプチドの相対的または絶対的レベルを測定し、Her3タンパク質からの特定の改変ペプチドの相対的または絶対的レベルも測定可能である。改変の例には、ペプチド上に存在するリン酸化アミノ産残基、糖付加アミノ酸残基が含まれる。
【0008】
Her3タンパク質の相対的定量レベルが、SRM/MRM法によって、例えば、異なる試料(例えば対照試料および患者の組織から調製した試料)中の個々のHer3ペプチドのSRM/MRM痕跡ピーク面積(例えば痕跡ピーク面積または統合断片イオン強度)を比較することによって、決定される。あるいは、1つまたはそれ以上のさらなる、または異なる生物学的試料中のHer3タンパク質含有量で、1つの生物学的試料中の相対Her3タンパク質含有量を決定するために、多数のHer3痕跡ペプチドに対する、多数のSRM/MRM痕跡ピーク面積を比較することが可能であり、そこでは、各ペプチドがその固有の特定のSRM/MRM痕跡ピークを有する。本方法において、Her3タンパク質からの特定のペプチドまたはペプチド類の量、したがって、Her3タンパク質の量が、同一の実験条件下、2つ以上の生物学的試料にわたり、同一のHer3ペプチドまたはペプチド類に関して決定される。さらに、生物学的試料からの同一のタンパク質調節物内で、SRM/MRM法によるペプチドに対する痕跡ピーク面積を、異なるタンパク質またはタンパク質類からの、他の、および異なるペプチドまたはペプチド類に対する痕跡ピーク面積と比較することによって、単一の試料内のHer3タンパク質からの当該ペプチドまたはペプチド類に関して相対量を計算可能である。本方法において、Her3タンパク質からの特定のペプチドの量、したがって、Her3タンパク質の量を、同一の試料中、一つ一つに関して決定する。これらのアプローチは、生物学的試料からのタンパク質調節物中のHer3ペプチドの絶対重量対容量、重量対重量にかかわらず、ピーク面積によって決定したような量が、一つ一つ相関する、試料間および試料内で、他のペプチドまたはペプチド類の量に対するHer3タンパク質からの個々のペプチドまたはペプチド類の定量を産出する。異なる試料間の個々の痕跡ピーク面積に関する相対定量データは、試料あたり解析されたタンパク質量に対して標準化される。相対定量は、相対タンパク質量、他のペプチド/タンパク質に関して1つのペプチド/タンパク質への洞察を得るために、単一の試料中、および/または多くの試料にわたり同時に、多数のタンパク質およびHer3タンパク質からの多くのペプチドにわたって実施可能である。
【0009】
Her3タンパク質の絶対定量レベルは例えば、それによって、1つの生物学的試料中のHer3タンパク質からの個々のペプチドのSRM/MRM痕跡ピーク面積を、公知量の「スパイクした」内部標準のSRM/MRM痕跡ピーク面積と比較する、SRM/MRM法によって決定される。1つの実施形態において、内部標準は、1つまたはそれ以上の重アイソトープで標識した1つまたはそれ以上のアミノ酸残基を含む同一の実際のHer3ペプチドの合成バージョンである。そのようなアイソトープ標識化内部標準は、質量分析解析が、天然のHer3ペプチド痕跡ピークから異なり、区別できる、そして比較ピークとして使用可能な、予想可能で、一定なSRM/MRM痕跡ピークを産出するように、合成される。したがって、内部標準を、公知の量の生物学的試料からのタンパク質またはペプチド調製物内に公知の量でスパイクし、質量分析によって解析した時に、天然のペプチドのSRM/MRM痕跡ピーク面積を、内部標準ペプチドのSRM/MRM痕跡ピーク面積と比較し、この数的比較は、生物学的試料からの本来のタンパク質調製物中に存在する天然のペプチドの絶対モル濃度および/または絶対重量いずれかを示唆する。断片ペプチドに対する絶対定量データが、試料あたり解析されたタンパク質量にしたがって表示される。絶対定量は、個々の生物学的試料中、および個々の試料の全コホート中の絶対タンパク質量への洞察を得るために、単一試料内で同時に多くのペプチド、したがってタンパク質にわたり、および/または多くの試料にわたり、実施可能である。
【0010】
SRM/MRMアッセイ法を、例えば、ホルマリン固定組織のような患者由来の組織中直接、がんのステージの診断を補助するため、およびどの治療薬剤が、その患者を処置するために使用するためにもっとも有益であるかを決定することを補助するために使用可能である。部分的または全腫瘍の治療的除去のためのような手術を通して、または疑わしい疾患が存在するか、またはしないかを決定するために実施された生検手順を通してのいずれかで、患者より除去されるがん組織が、特定のタンパク質またはタンパク質類が、そしてどの形態のタンパク質が患者組織中に存在するかを決定するために解析される。さらに、タンパク質または多数のタンパク質の発現レベルを決定し、健康人組織にて発見される「正常な」または参照レベルと比較可能である。健康人組織にてみられる正常または参照レベルのタンパク質は、例えば、がんを有しない1人またはそれ以上の個人の関連組織から由来してよい。あるいは、正常または参照レベルは、がんに影響を受けていない関連組織の解析によって、がんを有する個人に対して得られてよい。
【0011】
タンパク質レベル(例えばHer3レベル)のアッセイをまた、Her3レベルを利用することによってがんと診断された患者または対象中のがんのステージを診断するために使用可能でもある。タンパク質またはペプチドのレベルまたは量は、SRM/MRMアッセイによって決定されるタンパク質またはペプチドのモル数、質量または重量で表される定量として定義可能である。レベルまたは量は、(例えばタンパク質のマイクロモル/マイクログラム、またはタンパク質のマイクログラム/マイクログラムとして表される)解析した溶解物中のタンパク質または他のコンポーネントの総レベルまたは量に対して標準化してよい。さらに、タンパク質またはペプチドのレベルまたは量を、例えばマイクロモルまたはナノグラム/マイクロリットルにて表される、容積基準に基づいて決定してよい。SRM/MRMアッセイによって決定されたようなタンパク質またはペプチドのレベルまたは量を、解析した細胞数に対して標準化することも可能である。Her3に関する情報をしたがって、正常組織で観察されたレベルと、Her3タンパク質(またはHer3タンパク質の断片ペプチド)のレベルを相関させることによって、がんのステージまたはグレードを決定することを補助するために使用可能である。
【0012】
一旦がんのステージおよび/またはグレード、および/またはHer3タンパク質発現特徴が決定されたならば、情報を、例えばアッセイしたタンパク質またはタンパク質(複数可)(例えばHer3)の異常発現によって特徴付けられるがん組織を特に処置するために開発された(化学および生物学的)治療薬剤のリストと適合可能である。例えばHer3タンパク質または当該タンパク質を発現している細胞/組織を特に標的化する治療薬剤のリストへのHer3タンパク質アッセイからのマッチング情報は、疾患を処置するためのパーソナライズ医療アプローチと呼ばれるものを定義する。本明細書で記述したアッセイ方法は、診断および処置決断のためのソースとして、患者固有の組織からのタンパク質の解析を用いることによる、パーソナライズ医療アプローチの基礎を形成する。
本発明の特定の実施形態を以下に記述する。
1.質量分析を用いて、生物学的試料から調製されたタンパク質消化物中の、1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドの量を検出すること、および/または定量すること、および前記試料中の改変または未改変Her3タンパク質のレベルを計算すること、を含む、前記生物学的試料中の受容体チロシン―タンパク質キナーゼerbB−3(Her3)タンパク質のレベルを測定するための方法であって、前記レベルが、相対レベルまたは絶対レベルである、方法。
2. 1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドの量を検出すること、および/または定量することの前に、前記タンパク質消化物を画分化する段階をさらに含む、実施様態1に記載の方法。
3.前記画分化する段階が、ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィー、キャピラリ電気泳動、ナノ逆相液体クロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィーまたは逆相高性能液体クロマトグラフィーからなる群より選択される、実施様態2に記載の方法。
4.前記生物学的試料の前記タンパク質消化物が、Liquid Tissue(商標)プロトコールによって調製される、実施様態1〜3のいずれか1つに記載の方法。
5.前記タンパク質消化物が、プロテアーゼ消化物を含む、実施様態1〜3のいずれかに記載の方法。
6.前記タンパク質消化物が、トリプシン消化物を含む、実施様態5に記載の方法。
7.前記質量分析が、タンデム質量分析、イオントラップ質量分析、三連四重極質量分析、MALDI−TOF質量分析、MALDI質量分析および/または飛行時間質量分析を含む、実施様態1〜6のいずれかに記載の方法。
8.使用した質量分析のモードが、選択反応モニタリング(Selected Reaction Monitoring:SRM)、多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring:MRM)、および/または多数の選択反応モニタリング(mSRM)である、実施様態7に記載の方法。
9.前記Her3断片ペプチドが、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10にて列記するようなアミノ酸配列を含む、実施様態1〜8のいずれかに記載の方法。
10.前記生物学的試料が血液試料、尿試料、血清試料、腹水試料、痰試料、リンパ液、唾液試料、細胞または固体組織である、実施様態1〜9のいずれかに記載の方法。
11.前記組織がホルマリン固定組織である、実施様態10に記載の方法。
12.前記組織がパラフィン包埋組織である、実施様態10または11に記載の方法。
13.前記組織が腫瘍から得られる、実施様態10に記載の方法。
14.前記腫瘍が原発腫瘍である、実施様態13に記載の方法。
15.前記腫瘍が二次腫瘍である、実施様態13に記載の方法。
16.さらに、改変または未改変Her3断片ペプチドを定量することを含む、実施様態1〜15のいずれかに記載の方法。
17.Her3断片ペプチドを定量することに、1つの生物学的試料中の配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10で示したような、Her3の約8〜約45アミノ酸残基のアミノ酸配列を含む、1つまたはそれ以上のHer3断片ペプチドの量を、異なるそして別の生物学的試料中の同一のHer3断片ペプチドの量と比較することを含む、実施様態16に記載の方法。
18.1つまたはそれ以上のHer3断片ペプチドを定量することに、公知の量の添加した内部標準ペプチドとの比較により、生物学的試料中のHer3断片ペプチドそれぞれの量を測定することが含まれ、生物学的試料中の各Her3断片ペプチドを、同一のアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドと比較する、実施様態17に記載の方法。
19.内部標準ペプチドが、同位体標識されたペプチドである、実施様態18に記載の方法。
20.前記アイソトープ標識内部標準ペプチドが、18O、17O、34S、15N、13C、2Hまたはそれらの組み合わせから選択される、1つまたはそれ以上の重安定アイソトープを含む、実施様態19に記載の方法。
21.タンパク質消化物中の1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドの量を検出すること、および/または定量することが、改変または未改変Her3タンパク質の存在、および対象中のがんとの関連を示唆する、実施様態1〜20のいずれかに記載の方法。
22.さらに、前記1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドの量を検出すること、および/または定量することの結果、または前記Her3タンパク質のレベルを、がんの診断ステージ/グレード/状態と相関させることをさらに含む、実施様態21に記載の方法。
23.前記1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドの量を検出すること、および/または定量することの結果、または前記Her3タンパク質のレベルを、がんの診断ステージ/グレード/状態と相関させることを、がんの診断ステージ/グレード/状態に関するさらなる情報を提供するために、多重フォーマットにて、他のタンパク質または他のタンパク質からのペプチドの量を検出すること、および/または定量すること、と組み合わせる、実施様態22に記載の方法。
24.さらに、前記生物学的試料を得た対象に対して、1つまたはそれ以上のHer3断片ペプチドの存在、不在または量、またはHer3タンパク質のレベルに基づいた処置を選択することを含む、実施様態1〜23のいずれか1つに記載の方法。
25.前記生物学的試料を得た患者に、治療的に効果的な量の治療薬剤を投与することをさらに含み、治療薬剤および/または投与した治療薬剤の量が、1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドの量またはHer3タンパク質のレベルに基づく、実施形態1〜24のいずれか1つに記載の方法。
26.治療的薬剤が、Her3タンパク質に結合する、および/またはその生物学的活性を阻害する、実施形態24および25に記載の方法。
27.前記生物学的試料が、Liquid Tissue(商標)プロトコールおよび試薬を用いる、1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドの量を定量化するために処理された、ホルマリン固定腫瘍組織である、実施形態1〜26に記載の方法。
28.前記1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドが、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上、4つまたはそれ以上、5つまたはそれ以上、6つまたはそれ以上、8つまたはそれ以上、または9つまたはそれ以上の表1中のペプチドである、実施形態1〜27のいずれかに記載の方法。
29.表2中のペプチドの量を定量することを含む、実施形態1〜28のいずれかに記載の方法。
30.1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上、4つまたはそれ以上、5つまたはそれ以上、6つまたはそれ以上、8つまたはそれ以上、または9つまたはそれ以上の表1中のペプチドまたはそれに対する抗体を含む組成物。
31.表2のペプチドまたはそれに対する抗体を含む、実施形態30に記載の組成物。
32.前記組成物が、本質的に純粋であるか、または他のタンパク質、膜脂質および/または核酸の任意の組み合わせから選択される他の細胞性コンポーネントを含まない、請求項30または31に記載の組成物。
33.前記ペプチドが、18O、17O、34S、15N、13C、2Hまたはそれらの組み合わせから選択される1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、または3つまたはそれ以上の重安定アイソトープを含む、アイソトープで標識された内部標準ペプチドである、実施形態30〜32のいずれかに記載の組成物。
34.さらに、前記タンパク質消化物中の1つ、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の核酸のレベル(量)および/または配列を査定すること、または決定することを含む、実施形態1〜29に記載の方法。
35.前記核酸が、約15、20、25、30、35、40、50、60、75または100ヌクレオチドより長い長さを有する、実施例34に記載の方法。
36.前記核酸が、約150、200、250、300、350、400、500、600、750、1000、2000、4000、5000、7500、10000、15000、または20000より短い長さを有する、実施例35に記載の方法。
37.レベル(量)または配列を査定することおよび/または決定することに、1つまたはそれ以上の核酸シークエンシング、制限断片多型解析、1つ以上の欠失および/または挿入の核酸ハイブリダイゼーション同定、および/または変異の存在の決定の内のいずれか1つにより核酸のヌクレオチド配列および/または核酸の特徴を決定することおよび/または単一塩基対多型、転移および/または塩基転換を含むが、これらに限定はされない、変異の存在を検出すること、が含まれる、実施形態34〜36のいずれかに記載の方法。
【発明の具体的説明】
【0013】
原則として、例えば公知の特異性のプロトケース(protocase)(例えばトリプシン)で消化することによって調製した、Her3タンパク質から由来した任意の予測ペプチドを、質量分析に基づくSRM/MRMアッセイを用いる、試料中のHer3タンパク質の存在度を決定するために、サロゲートレポーターとして使用可能である。同様に、潜在的に、Her3タンパク質中で改変されると公知である部位にて、アミノ酸残基を含む任意の予測ペプチド配列をまた、試料中Her3タンパク質の改変の程度をアッセイするために、潜在的に使用してもよい。
【0014】
Her3断片ペプチドは、米国特許第7,473,532号明細書中で提供されるLiquid Tissue(商標)プロトコールの利用によることを含む種々の手段によって産出されてよい。Liquid Tissue(商標)プロトコールおよび試薬は、組織/生物学的試料中のタンパク質のタンパク質分解消化によって、ホルマリン固定パラフィン包埋組織からの質量分析解析のために好適なペプチド試料を産出することが可能である。Liquid Tissue(商標)プロトコールにおいて、タンパク質架橋を戻すかまたは放出するために、組織/生物学的を、長時間(例えば、約10分間〜約4時間、約80℃〜約100℃)緩衝液中で高温にて維持する。使用した緩衝液は、中性緩衝液(例えばTrisベースの緩衝液、または界面活性剤を含む緩衝液)であり、有利に、質量分析解析と干渉しない緩衝液である。次に、組織/生物学的試料を、前記生物学的試料の組織および細胞性構造を破壊し、前記試料を液化するのに十分な時間(例えば、37℃〜65℃の温度にて、30分間〜24時間)、トリプシン、キモトリプシン、ペプシンおよびエンドプロテアーゼLys−Cを含むが、これらに限定はされない、1つまたはそれ以上のプロテアーゼで処理する。加熱およびタンパク質分解の結果が、液体、可溶性、希釈可能生体分子溶解物である。
【0015】
一旦溶解物を調製したならば、試料中のペプチドを、質量分析による、それらの解析および測定を促進する種々の技術にかけてよい。1つの実施形態において、ペプチドを、例えば、免疫学に基づく精製(例えば免疫親和力クロマトグラフィー)、イオン選択的培地上でのクロマトグラフィーのような親和性技術、またはペプチドが改変されている場合、炭化水素改変ペプチドの分離のためのレクチンのような、適切な培地を用いる分離によって、分離してよい。1つの実施形態において、質量分析解析の前に、ペプチドの免疫学的分離を使用する、SISCAPA法を使用する。SISCAPA技術は、例えば米国特許第7,632,686号明細書に記述されている。他の実施形態において、レクチン親和性法(例えば、親和性精製および/またはクロマトグラフィー)を、質量分析による解析の前に、溶解物からペプチドを分離するために使用してよい。レクチンベースの方法を含む、ペプチドの群の分離のための方法は、例えばGengら、J.Chromatography B,752:293−306(2001)にて記述される。免疫親和力クロマトグラフィー技術、レクチン親和力技術および親和力分離および/またはクロマトグラフィーの他の形態(例えば逆相、サイズベース分離、イオン交換)を、質量分析によるペプチドの解析を促進するために、任意の好適な組み合わせで使用してよい。
【0016】
驚くべきことに、Her3タンパク質からの多くの可能性のあるペプチド配列が、すぐには明白ではない理由のために、質量分析ベースのSRM/MRMアッセイにおける利用に好適ではないか、または無効であることがわかった。とりわけ、Her3タンパク質からの多くのトリプシンペプチドが、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織からのLiquid Tissue溶解物中、効果的には、または全く検出不可能であることがわかった。MRM/SRMのためのもっとも好適なペプチドを推定することが不可能であったので、Her3タンパク質に対する、信頼性があり、正確なSRM/MRMアッセイを開発するために、実際のLiquid Tissue(商標)溶解物中の改変および未改変ペプチドを実験的に同定する必要があった。任意の理論にとらわれることなしに、いくつかのペプチドが、よくイオン化せず、または他のタンパク質から異なる断片を産出せず、ペプチドはまた、分離(例えば液体クロマトグラフィー)において良好に分解できず、またはガラスまたはプラスチックウェアに接着するので、質量分析によって検出することが難しいと信じられる。したがって、ホルマリン固定組織資料から調製した、Liquid Tissue溶解物中で検出可能なHer3タンパク質からのペプチド(例えば表1および2中のペプチド)は、Her3 SRM/MRMアッセイを、SRM/MRMアッセイにて使用可能であるペプチドである。
【0017】
本明細書の種々の実施形態にてみられるHer3ペプチド(例えば表1および2)は、ホルマリン固定がん組織から入手した細胞から調製した、複合体Liquid Tissue(商標)溶解物内のすべてのタンパク質のプロテアーゼ消化によって、Her3タンパク質より誘導された。他に言及しない限り、各例において、プロテアーゼはトリプシンであった。Liquid Tissue(商標)溶解物をついで、質量分析によって解析して、質量分析によって検出し、解析されるHer3タンパク質から由来したそのようなペプチドを測定した。質量分析解析のためのペプチドの特定の好ましいサブセットの同定は、以下に基づいた。1)Liquid Tissue(商標)溶解物の質量分析解析において、どのタンパク質からのペプチドまたはペプチド類がイオン化するかどうか、の実験的測定および2)Liquid Tissue(商標)溶解物を調製することにおいて使用したプロトコールと実験条件で存続させるためのペプチドの能力。この後者の特性は、ペプチドのアミノ酸配列に対してだけでなく、試料調製の間、改変形態で存続する、ペプチド内の改変アミノ酸残基の能力に対しても拡張する。
【表1】
【表2】
【0018】
ホルマリン(ホルムアルデヒド)固定組織から直接入手した細胞からのタンパク質溶解物を、組織顕微解剖を介して試料チューブ内へ細胞を回収することと、続く長期間のLiquid Tissue(商標)緩衝液中細胞を熱することを伴うLiquid Tissue(商標)試薬およびプロトコールを用いて調製した。一旦ホルマリン誘導架橋が、負に作用したならば、組織/細胞をついで、例えばプロテアーゼトリプシンを含むが、これに限定はされないような、プロテアーゼを用いる予測可能な様式にて完了まで消化する。各タンパク質溶解物が、プロテアーゼによる完全なままのポリペプチドの消化によって、ペプチドの一群に変わる。データが、各タンパク質溶解物中に存在するすべての細胞性タンパク質から、質量分析によって同定可能なほどできるだけ多くのペプチドの同定として表された、ペプチドの多重グローバルプロテオミクスサーベイを実施するために、(例えば、イオントラップ質量分析によって)各Liquid Tissue(商標)溶解物を解析する。イオントラップ質量分析器、または単一の複合タンパク質/ペプチド溶解物からの可能な限り多くのペプチドの同定のために、グローバルフィッティングを実施することが可能な他の型の質量分析器を使用する。イオントラップ質量分析器がしかしながら、ペプチドのグローバルプロファイリングのために、もっともよい質量分析器の型であってよい。SRM/MRMアッセイを、MALDI、イオントラップまたは三連四重極を含む任意の型の質量分析器上で開発および実施可能であり、SRM/MRMアッセイに対するもっとも有利な器具プラットフォームは、三連四重極器具プラットフォームであるとしばしば考えられる。
【0019】
一旦、出来るだけ多くのペプチドが、使用した条件下、単独溶解物の単独MS解析にて同定された場合、ペプチドのリストを順に並べ、その溶解物中で検出されたタンパク質を決定するために使用した。この工程を、多重Liquid Tissue(商標)溶解物に対して繰り返し、非常に大きなペプチドのリストを、単独データセット内に順に並べた。この型のデータセットは、(プロテーゼ消化後に)解析された生物学的試料の型、とりわけ生物学的試料のLiquid Tissue(商標)溶解物中で検出可能なペプチドを表すと考えることが可能であり、したがって例えばHer3タンパク質のような、特定のタンパク質に対するペプチドを含む。
【0020】
1つの実施形態において、絶対または相対量のHer3受容体の測定において有用であると同定されたHer3トリプシンペプチドには、1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上、4つまたはそれ以上、5つまたはそれ以上、6つまたはそれ以上、8つまたはそれ以上、9つまたはそれ以上の配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、および配列番号:10、のペプチドが含まれ、これらそれぞれが表1にて列記される。これらのペプチドのそれぞれを、ホルマリン固定、パラフィン包埋組織から調製した、Liquid Tissue(商標)溶解物中の質量分析によって検出した。したがって、表1中の各ペプチド、またはこれらのペプチドの任意の組み合わせ(例えば、1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上、4つまたはそれ以上、5つまたはそれ以上、6つまたはそれ以上、8つまたはそれ以上、9つまたはそれ以上の表1中に列記したペプチド、およびとりわけ表2で見られるペプチドの組み合わせ)が、ホルマリン固定患者組織中で直接を含む、ヒト生物学的試料中のHer3タンパク質に対する定量的SRM/MRMでの使用のための候補である。
【0021】
表1にて列記したHer3トリプシンペプチドには、前立腺、大腸および乳を含む異なるヒト器官の多重の異なるホルマリン固定組織の多重Liquid Tissue(商標)溶解物から検出されたものが含まれる。各これらのペプチドは、ホルマリン固定組織中のHer3タンパク質の定量的SRM/MRMアッセイのために有用であると考えられる。さらに、これらの実験のデータ解析が、任意の特定の器官部位から、任意の特定のペプチドに対して優先傾向は観察されないことを示唆した。したがって、各これらのペプチドは、任意の生物学的試料から、または体内の任意の器官部位から発生する、任意のホルマリン固定組織からの、Liquid Tissue(商標)溶解物上での、Her3タンパク質のSRS/MRMアッセイを実施するために好適であると信じられる。
【0022】
1つの実施形態において、表1中のペプチド、またはこれらのペプチドの任意の組み合わせ(例えば、1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上、4つまたはそれ以上、5つまたはそれ以上、6つまたはそれ以上、8つまたはそれ以上、9つまたはそれ以上の表1中に列記したペプチド、およびとりわけ表2で見られるペプチドの組み合わせ)が、免疫学的方法(例えばウエスタンブロッティングまたはELISA)を含むが限定はされない、質量分析に頼らない方法によってアッセイされる。どのようにペプチド(複数可)の量(絶対的または相対的)に指向する情報を得るかに関わらず、情報は、対象におけるがんの存在を指摘すること(診断すること)、がんのステージ/グレード/状態を決定すること、予後を提供すること、または対象/患者に対する治療または処置レジメを決定することを含む、本明細書で記述した任意の方法にて使用されてよい。
【0023】
本明細書の実施形態には、1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上、4つまたはそれ以上、5つまたはそれ以上、6つまたはそれ以上、8つまたはそれ以上、9つまたはそれ以上の表1中のペプチドを含む組成物が含まれる。いくつかの実施形態において、組成物には、表2中のペプチドが含まれる。ペプチドを含む組成物には、同位体で標識された、1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上、4つまたはそれ以上、5つまたはそれ以上、6つまたはそれ以上、8つまたはそれ以上、9つまたはそれ以上のペプチドが含まれてよい。各ペプチドは、18O、17O、34S、15N、13C、Hまたはそれらの組み合わせからなる群より独立して選択された、1つまたはそれ以上の同位体で標識されてよい。同位体標識されているか、されていないか、いずれかのHer3タンパク質からのペプチドを含む組成物は、当該タンパク質からのすべてのペプチド(例えばトリプシンペプチドの完全組)を含む必要はない。いくつかの実施形態において、組成物は、1つまたはそれ以上、2つまたはそれ以上、3つまたはそれ以上、4つまたはそれ以上、5つまたはそれ以上、6つまたはそれ以上、8つまたはそれ以上、9つまたはそれ以上のHer3からのペプチド、とりわけ表1または表2中に示されているペプチドを含まない。ペプチドを含む組成物は、乾燥または凍結乾燥材料、液体(例えば水性)溶液または懸濁液、アレイまたはブロットの形態であってよい。
【0024】
SRM/MRMアッセイを実施する時に重要な考慮は、ペプチドの解析にて使用してよい器具の型である。SRM/MRMアッセイは、MALDI、イオントラップまたは三連四重極を含む任意の型の質量分析器上で開発および実施可能であるけれども、SRM/MRMアッセイに対して現在もっとも有益な器具プラットフォームはしばしば、三連四重極装置プラットフォームであると考えられる。この質量分析器の型は、細胞内に含まれるすべてのタンパク質からの、数百、数千〜数百万の個々のペプチドからなってよい、非常に複雑なタンパク質溶解物内の単一の単離標的ペプチドを解析するための、もっとも好適な器具であると考えることができる。
【0025】
Her3タンパク質から由来した各ペプチドに対してSRM/MRMアッセイを、最も効率的に実行するために、解析において、ペプチド配列に加えて、情報を利用することが望ましい。この追加情報は、アッセイが効果的に実施されるように、特定の標的化ペプチド(複数可)の正確で、焦点をあてた解析を実施するために、質量分析器(例えば三連四重極質量分析器)を指向すること、および指導することにおいて使用してよい。
【0026】
一般に標的ペプチドについて、および特定のHer3ペプチドについての追加情報には、1つまたはそれ以上の各ペプチドのモノ同位体質量、その前駆体電荷状態、前駆体m/z値、m/z遷移イオン、各遷移イオンのイオン型が含まれてよい。Her3タンパク質に対してSRM/MRMアッセイを開発するために使用してよい追加ペプチド情報は、例えば例によって表1中のリストからの1つのHer3ペプチドによって示され、表2で示される。表2中の例によって示されたこの一つ(1)のHer3ペプチドについて記述された同様の追加情報が、表1に含まれる他のペプチドの解析に対して、作成され、得られ、適用されてよい。
【0027】
以下で記述した方法を、1)Her3タンパク質に対する質量分析ベースのSRM/MRMアッセイのために使用可能であるHer3タンパク質から、候補ペプチドを同定する、2)相互に関連づけるために、Her3タンパク質からの標的ペプチドに関して、個々のSRM/MRMアッセイまたはアッセイ類を開発する、および3)がん診断および/または最適な治療の選択に対して、定量アッセイを適用するために使用した。
【0028】
アッセイ方法
1.Her3タンパク質に対するSRM/MRM候補断片ペプチドの同定
a.タンパク質を消化するために、(トリプシンを含んでよく、または含まなくてよい)プロテアーゼまたはプロテアーゼ類を用いて、ホルマリン固定生物学的試料から、Liquuid Tissue(商標)タンパク質溶解物を調製する
b.イオントラップタンデム質量分析器上で、Liquid Tissue(商標)溶解物中のすべてのタンパク質断片を解析し、Her3タンパク質からすべての断片ペプチドを同定し、そこで個々の断片ペプチドは、リン酸化または糖付加のような任意のペプチド改変を含まない。
c.イオントラップタンデム質量分析器上で、Liquid Tissue(商標)溶解物中のすべてのタンパク質断片を解析し、例えばリン酸化または糖付加残基のような、ペプチド改変を有するHer3タンパク質からすべての断片ペプチドを同定する。
d.全、完全長Her3タンパク質から特定の消化方法によって産出したすべてのペプチドが本質的に測定可能であるが、SRM/MRMアッセイの開発のために使用される好ましいペプチドは、ホルマリン固定生物学的試料から調製される、複合体Liquid Tissue(商標)タンパク質溶解物中で直接、質量分析によって同定されるものである。
e.患者組織内で、特に改変され(リン酸化された、糖付加されたなど)、ホルマリン固定生物学的試料からのLiquid Tissue(商標)溶解物を解析した時に、質量分析器内でイオン化され、したがって検出可能であるペプチドは、Her3タンパク質のペプチド改変をアッセイするための、候補ペプチドとして同定される。
【0029】
2.Her3タンパク質からの断片ペプチドに対する質量分析アッセイ
a.Liquid Tissue(商標)溶解物中で同定された、個々の断片ペプチドに対する、三連四重極質量分析器上でのSRM/MRMアッセイを、Her3タンパク質からのペプチドに適用する。
i.ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィー、キャピラリ電気泳動、ナノ逆相液体クロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィーまたは逆相高性能液体クロマトグラフィーを含むが、これらの限定はされない最適なクロマトグラフィー条件に関して、断片ペプチドに対する最適な保持時間を決定する。
ii.各ペプチドに対してSRM/MRMアッセイを開発するために、ペプチドのモノ同位体質量、各ペプチドに対する前駆体電荷状態、各ペプチドに対する前駆体m/z値、各ペプチドに対するm/z遷移イオン、各断片ペプチドに対する各遷移イオンのイオン型を測定する。
iii.SRM/MRMアッセイをついで、各ペプチドが、三連四重極質量分析器上で実施するような固有のSRM/MRMアッセイを正確に定義する、特徴的かつ固有のSRM/MRM痕跡ピークを有する、三連四重極質量分析器上、(i)および(ii)からの情報を用いて実施可能である。
b.SRM/MRM質量分析解析から固有のSRM/MRM痕跡ピーク面積の関数として検出されるHer3タンパク質の断片ペプチドの量が、特定のタンパク質溶解物中のタンパク質の相対量と絶対量の両方を示唆可能であるように、SRM/MRM解析を実施する。
i.相対定量が、
1.1つのホルマリン固定生物学的試料からの、Liquid Tissue(商標)溶解物中で検出されるHer3ペプチドからの、SRM/MRM痕跡ピーク面積を、少なくとも第二、第三、第四またはそれ以上のホルマリン固定生物学的試料からの、少なくとも第二、第三、第四またはそれ以上のLiquid Tissue(商標)溶解物中の同一のHer3断片ペプチドの同一のSRM/MRM痕跡ピーク面積と比較することにより、当該Her3タンパク質の存在の増加または減少を測定すること、
2.1つのホルマリン固定生物学的試料からの、Liquid Tissue(商標)溶解物中で検出されるHer3ペプチドからの、SRM/MRM痕跡ピーク面積を、異なる、そして分離した生物学的供給源から由来した他の試料中、他のタンパク質からの断片ペプチドから発展したSRM/MRM痕跡ピーク面積と比較することによって、当該Her3タンパク質の存在の増加または減少を測定することで、ペプチド断片に対する2つの試料間のSRM/MRM痕跡ピーク面積比較は、各試料中で解析されたタンパク質の量に対して標準化される。
3.種々の細胞条件下、それらの発現レベルを変化させない他のタンパク質のレベルに対して、Her3タンパク質のレベルの変化を標準化するために、Her3ペプチドに対するSRM/MRM痕跡ピーク面積を、ホルマリン固定生物学的試料からの、同一のLiquidTissue(商標)溶解物内の、異なるタンパク質から誘導された他の断片ペプチドからのSRM/MRM痕跡ピーク面積と比較することによって、当該Her3タンパク質の存在の増加または減少を測定すること、
4.これらのアッセイは、Her3タンパク質の、未改変断片ペプチドと改変断片ペプチドの両方に適用可能であり、そこで改変には、リン酸化および/または糖付加が含まれるが、これらに限定はされず、改変されたペプチドの相対レベルが、未改変ペプチドの相対量を測定するのと同一の様式にて測定される、
によって達成されてよい。
ii.当該ペプチドの絶対定量を、個々の生物学的試料中のHer3タンパク質からの断片ペプチドに対する、SRM/MRM痕跡ピーク面積を、生物学的試料からのタンパク質溶解物内へスパイクした、内部断片ペプチド標準のSRM/MRM痕跡ピーク面積と比較することによって達成してよい。
1.内部標準は、詮索されているHer3タンパク質からの断片ペプチドの標識された合成バージョンである。この標準を、公知の量で試料中にスパイクし、SRM/MRM痕跡ピーク面積を、別々に生物学的試料中の内部断片ペプチド標準と、天然の断片ペプチドに関して測定してよく、続いて両方のピーク面積を比較する。
2.これは、未改変断片ペプチドと改変断片ペプチドに適用可能であり、そこで改変には、リン酸化および/または糖付加が含まれるが、これらの限定はされず、改変ペプチドの絶対レベルは、未改変ペプチドの絶対レベルを測定するのと同一の様式で決定可能である。
3.がん診断および処置に、断片ペプチド定量を適用する
a.Her3タンパク質の断片ペプチドレベルの相対および/または絶対定量を実施し、またがん領域でよく理解されるように、患者腫瘍組織内のがんのステージ/グレード/状態に対する、Her3タンパク質発現の先に測定した関連が確認されたことを示す。
b.Her3タンパク質の断片ペプチドレベルの相対および/または絶対定量を実施し、異なる処置戦略からの臨床結果との相関を示し、ここで、本相関がすでに本領域で示されているか、または患者と、そのような患者からの組織のコホートにわたる、相関試験を通して将来示すことが可能である。一旦先に確立された相関、または将来誘導される相関のいずれかが、本アッセイによって確認されたならば、ついでアッセイ方法を、最適な処置戦略を決定するために使用可能である。
【0030】
ホルマリン固定患者由来組織の解析に基づいた、組織中のHer3タンパク質レベルの査定により、各特定の患者についての、診断、予後および治療に関連した情報が提供されうる。1つの実施形態において、本明細書は、質量分析を用いて、前記生物学的試料から調製したタンパク質消化物中の1つまたはそれ以上の改変または未改変Her3断片ペプチドの量を検出すること、および/または定量すること、および試料中の改変または未改変Her3タンパク質のレベルを計算することを含む、生物学的試料中のHer3タンパク質のレベルを測定するための方法を記述しており、前記レベルは相対レベルまたは絶対レベルである。関連する実施形態において、1つまたはそれ以上のHer3断片ペプチドを定量することには、公知の量の添加した内部標準ペプチドに対する比較による、生物学的試料中の各Her3断片ペプチドの量を測定することが含まれ、そこで生物学的試料中の各Her3断片ペプチドが、同一のアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドと比較される。いくつかの実施形態において、内部標準は、18O、17O、34S、15N、13C、Hまたはそれらの組み合わせから選択される1つまたはそれ以上の重安定同位体を含む、同位体標識された内部標準ペプチドである。
【0031】
本明細書で記述した生物学的試料中のHer3タンパク質(またはそのサロゲートとしての断片ペプチド)のレベルを測定するための方法は、患者または対象中のがんの診断指標として使用してよい。1つの実施形態において、Her3タンパク質のレベルの測定からの結果を、組織中でみられるHer3受容体のレベルを正常および/またはがん性または前がん性組織にてみられるタンパク質のレベルと、相関させること(例えば比較すること)によって、がんの診断ステージ/グレード/状態を測定するために使用してよい。
【0032】
核酸とタンパク質と両方が、同一のLiquid Tissue生体分子調製物から解析可能であるので、同一の試料から疾患診断および薬物処理決断に関する追加情報を産出することが可能である。例えば、Her3タンパク質は、特定の細胞シグナルタンパク質経路の活性化によって、制御されていない細胞増殖(がん)を刺激することが可能な、チロシンキナーゼ受容体である。Her3が、増加レベルまで特定の細胞によって発現される場合、SRMデータによってアッセイした時に、細胞の状態およびそれらの制御されていない増殖に対する潜在力、潜在的な薬剤耐性に関する情報が供給され、がんの発展がえられうる。同時に、Her3遺伝子および/またはそれがコード化する核酸およびタンパク質についての状態について(たとえば、mRNA分子、およびそれらの発現レベルまたはスプライシング変異型)情報を、同一の分子生物学的調製にて存在する核酸から得ることが可能である。たとえば、Her3および/または1つ、2つ、3つ、4つまたは添え以上の追加的なタンパク質についての情報が、これらのタンパク質をコードする核酸を試験することにより査定してもよい。たとえば、制限断片多型解析、欠失の同定、挿入、および/または制限するものではないが、1対の塩基対の遺伝子多型、転移、および/または塩基転換を含む変異の存在の決定の内の1つ以上により、これらの核酸を試験することができる。
【0033】
方法および組成物の上記記述および例示的実施形態は、本明細書の範囲の例示である。当業者に対して明らかであろう変化のため、本明細書は、以上で記述した特定の実施形態に制限される意図はない。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]