特許第6047515号(P6047515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6047515ステンレス鋼の表面加工方法とそれを用いた熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047515
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ステンレス鋼の表面加工方法とそれを用いた熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/28 20060101AFI20161212BHJP
   C23F 1/18 20060101ALI20161212BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C23F1/28
   C23F1/18
   F28F21/08 F
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-61118(P2014-61118)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-183239(P2015-183239A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】川村 利則
(72)【発明者】
【氏名】田村 明紀
(72)【発明者】
【氏名】中野 広
(72)【発明者】
【氏名】木藤 和明
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−122872(JP,A)
【文献】 特開2009−068079(JP,A)
【文献】 特開平08−218151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/12
F28F 21/08
F28D 7/00
B24C 1/06
C21D 7/06
C23F 1/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼の表面に微細構造を形成するステンレス鋼の表面加工方法であって、
ステンレス鋼の表面内部の結晶粒を微細化する結晶粒微細化処理を施す第一の工程と、
前記第一の工程の後に、エッチング処理液でステンレス鋼の表面を粗化エッチング処理する第二の工程と、を有し、
前記第一の工程の結晶粒微細化処理でステンレス鋼の表面内部に形成された微細結晶層の厚さが1μm以上であり、前記微細結晶層の結晶粒の粒径が1μm以下であることを特徴とするステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項2】
前記結晶粒微細化処理が、ピーニング加工、機械加工、研磨のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項3】
前記第二の工程の粗化エッチング処理は、ステンレス鋼の表面の結晶粒界を優先的にエッチングすることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項4】
前記エッチング処理液は、塩化物イオンと鉄の標準電位より貴な遷移金属イオンを含み酸性であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項5】
前記遷移金属イオンは、銅、銀、パラジウム、金、白金のいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項に記載のステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項6】
前記第二の工程の後に、エッチング処理によってステンレス鋼の表面に析出した置換析出金属を除去する第三の工程を有することを特徴とする請求項に記載のステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項7】
前記第三の工程において、ステンレス鋼を溶解しにくく置換析出金属を優先的に溶解する金属除去処理液によって置換析出金属をエッチングすることを特徴とする請求項に記載のステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項8】
前記置換析出金属が銅であり、前記金属除去処理液が、過硫酸塩、過酸化水素のいずれかを含むことを特徴とする請求項に記載のステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項9】
前記置換析出金属が銀、パラジウム、金、白金のいずれかであり、前記金属除去処理液が、シアン化カリウムやペルオキソ硫酸アンモニウムのいずれかを含むことを特徴とする請求項に記載のステンレス鋼の表面加工方法。
【請求項10】
気体と接触して熱交換を行う伝熱部を備え、前記気体と接触する伝熱部は、高さ5μm以下、且つ、表面積が平滑面に対して15倍以上となる微細構造部を表面に有するステンレス鋼であることを特徴とする熱交換器。
【請求項11】
前記伝熱部の微細構造部における内部結晶粒径は1μm以下であることを特徴とする請求項10に記載の熱交換器。
【請求項12】
前記伝熱部の微細構造部における表面クロム濃度は、前記伝熱部の微細構造部を形成していない表面に対して1.5倍以上であることを特徴とする請求項10に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼の表面加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、強度や耐食性に優れるため建築部材、衛生部材、電気機器などの材料として多用途に使用されている。近年では、ステンレス鋼の耐食性を更に向上させるため表面に塗料や樹脂フィルムなどを積層させて使用される場合も多い。ステンレス鋼に塗料や樹脂フィルムを積層する際には、ステンレス鋼との密着性を向上させるためにステンレス鋼の表面を粗化する必要がある。このステンレス鋼の表面粗化技術としては、物理的に凹凸を形成するブラスト加工や化学的あるいは電気的に凹凸を形成する粗化エッチング処理、または、それらを組み合わせた方法がある。例えば、特許文献1では、硫酸、塩素イオン、第二銅イオンを主成分とするエッチング液により、ステンレス鋼の表面を化学的に均一に粗化する方法が提案されている。また、特許文献2では、サンドブラスト加工後に弗化水素酸、硝酸、塩酸、燐酸水溶液などで化学的にエッチングする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−11662号公報
【特許文献2】特開平5−264045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等に記載されたエッチング処理を利用した表面粗化技術では、結晶粒界が優先的にエッチングされることによって凹凸構造が形成される。そのため、凹凸構造の幅や高さなどのサイズはステンレス鋼の結晶粒径サイズに依存する。したがって、一般的なステンレス鋼の結晶粒径は10〜200μmであることから、凹凸構造のサイズを約10μm以下に形成するのは困難である。また、エッチング量を少なくして凸部の高さを低くすることも可能であるが、高さの低下とともに表面積が低下する。エッチング処理を利用した表面粗化技術で高さ5μmの微細構造を形成した場合には表面積は平滑面に対して14倍程度が限度であり、これよりも表面積を大きくすることは困難であった。
【0005】
特許文献2では、サンドブラスト加工とエッチング処理を組み合わせることにより複雑な凹凸構造を形成可能であるが、ベースとなる大きな凹凸構造は直径約100μmの研磨材を用いたサンドブラスト加工により形成されるため凹凸構造のサイズを10μm以下に形成するのは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、ステンレス鋼の表面に微細で且つ高表面積な凹凸構造(粗化面)を形成するステンレス鋼の表面加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本発明のステンレス鋼の表面加工方法は、ステンレス鋼の表面に微細構造を形成するものであって、ステンレス鋼の表面内部の結晶粒を微細化する結晶粒微細化処理を施す第一の工程と、前記第一の工程の後に、エッチング処理液でステンレス鋼の表面を粗化エッチングする第二の工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ステンレス鋼に微細で且つ高表面積な凹凸構造(粗化面)の形成が可能なステンレス鋼の表面加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】表面微細構造形成プロセスの概略図である。
図2】表面微細構造形成プロセスにおける基材の断面図である。
図3】表面微細構造の表面と断面SEM像および表面積比の結果である。
図4】結晶粒微細化処理後の断面結晶観察の結果である。
図5】表面微細構造形成前後の不動態被膜評価の結果である。
図6】表面微細構造形成前後の耐食性評価の結果である。
図7】実施例2に係るシェルアンドチューブ型熱交換器の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明に係るステンレス鋼の表面微細構造形成プロセスを示す手順図である。
【0012】
本発明では、図1に示すように、結晶粒微細化処理(第一の工程)、粗化エッチング処理(第二の工程)をこの順序で行う。なお、必要に応じて、粗化エッチング処理(第二の工程)の後に、置換析出金属を除去する除去処理(第三の工程)を行っても良い。
【0013】
本発明のステンレス鋼の表面に微細構造を形成するステンレス鋼の表面加工方法の特徴は、ステンレス鋼の表面内部の結晶粒径を微細化させてから、結晶粒界を優先的にエッチングすることである。また、図2に示すように、第一の工程の結晶粒微細化処理で形成される凹凸構造をR1、第二の工程の粗化エッチング処理で形成される凹凸構造をR2、第三の工程の置換析出金属除去処理で形成される凹凸構造をR3とした場合、本発明で得られる最終的な表面微細構造はR2またはR3となる。すなわち、本発明で得られる表面微細構造には、第一の工程の結晶粒微細化処理で形成される凹凸構造(R1)は含まれない。なお、凹凸構造のサイズとしては、R3<R2≪R1となるが、R2とR3はほぼ同等であり、十分に微細な凹凸構造を得ることが可能である。これらの特徴により、ステンレス鋼に微細で且つ高表面積な粗化面を形成することができる。
【0014】
結晶粒微細化処理(第一の工程)は、ステンレス鋼の表面内部の結晶粒を微細化して表層に微細結晶層を形成する処理である。本発明で得られる最終的な表面微細構造は、この結晶粒微細化処理で形成される微細結晶層の厚さや粒径の依存性が高いため、この微細結晶層は、厚さが1μm以上で粒径は1μm以下であるのが好ましい。なお、一般的なステンレス鋼の結晶粒径は10μm以上である。結晶粒微細化処理方法は、特に限定は無く公知のピーニング加工、研磨、ターニングまたはグラインダによる機械加工などを用いることができる。好適なのは、研磨材サイズや圧力などの加工条件により、微細結晶層の厚さや結晶粒径を調整可能なピーニング加工である。
【0015】
粗化エッチング処理(第二の工程)は、第一の工程で形成された微細結晶層の結晶粒界を優先的にエッチングする処理である。そのため、粗化エッチング処理の液組成は、強酸性で、塩化物イオンと、鉄に置換析出可能な遷移金属イオンを含むことが好ましい。塩化物イオンの効果は、ステンレス鋼表面に生成されている酸化クロムを主成分とする不動態被膜を破壊することである。塩化物イオンは、特に限定はなく、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどを用いることができる。鉄に置換析出可能な遷移金属イオンの効果は、ステンレス鋼の主成分である鉄に金属が置換析出し、エッチングを抑制することによって、結晶粒界部のエッチングを促進することである。鉄に置換析出可能な遷移金属イオンは、鉄の標準電位−0.44(V)より貴で、且つ、高電位差を得られる銅(+0.34(V))、銀(+0.80(V))、パラジウム(+0.99(V))、白金(+1.19(V))、金(+1.50(V))が良好である。特に好適なのは安価な銅イオンである。
【0016】
置換析出金属除去処理(第三の工程)は、第二の工程でステンレス鋼表面に析出した金属を選択的にエッチングする処理である。選択性の無いエッチング処理では、ステンレス鋼である表面微細構造も一緒にエッチングされるため好ましくない。したがって、置換析出金属除去処理で用いる液組成は、ステンレス鋼のエッチングを促進させる塩化物イオンや硝酸系を含まないこと、または、ステンレス鋼に対して溶解速度比の大きいことが重要である。なお、置換析出金属の種類によっても液組成は異なる。置換析出金属が銅の場合は、過硫酸塩または過酸化水素を含む液組成が良好である。置換析出金属が金、白金、パラジウム、銀の場合には、シアン化カリウムやペルオキソ硫酸アンモニウムを含む液組成が良好である。
なお、第三の工程は、製品の特性上、ステンレス鋼表面の微細構造に置換析出金属が存在することによって悪影響を及ぼす場合に実施される。例えば、表面微細構造に耐食性が求められる際に、置換析出金属が酸化しやすい銅である場合に置換析出金属除去処理を行うことが好適である。一方、表面微細構造に置換析出金属が存在していても悪影響を及ぼさない場合など、置換析出金属の除去が必要でない場合には第三の工程は省略される。
(表面と断面観察方法)
表面微細構造体の表面と断面の観察には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。なお、表面微細構造体の高さと幅は断面SEM象より求めた。ここでは、断面SEM像で観察される凸部のうち、高さ、幅の大きい5箇所の凸部の値を測定し、その平均値を表面微細構造体の凸部の高さと幅とした。
(表面積評価方法)
表面積測定には、クリプトンガス吸着法を用いた。測定した表面積は、表面微細構造形成プロセスを施していない平滑な試験片を基準とした表面積比として評価した。
(不動態被膜評価方法)
不動態被膜評価には、オージェ電子分光分析法を用いて表面クロム濃度を測定した。測定した表面クロム濃度は、表面微細構造形成プロセスを施していない平滑な試験片を基準とした表面クロム濃度比として評価した。
(微細結晶層観察方法)
微細結晶層観察には、電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いた。なお、結晶方位解析ソフトはTSL製OIM−Analysisを用いた。
(耐食性評価方法)
耐食性評価には、JISK5600−7−9「中性塩水噴霧サイクル試験法」に準拠した複合サイクル試験を用いた。試験サイクル数は42サイクルとした。腐食状態の判定には、JISZ2371付属書1(規定)レイティングナンバー法により行った。
(密着性評価方法)
密着性評価は、試験片にポリイミド(日立化成(株))を厚さ50μmに塗布し、粘着テープにて引き剥がす方法により行った。
【実施例1】
【0017】
実施例1では、図1における結晶粒微細化処理(第一の工程)にウェットピーニング加工、粗化エッチング処理(第二の工程)に、鉄に置換析出可能な遷移金属イオンを銅イオンとした粗化エッチング処理液、置換析出金属除去処理(第三の工程)に過硫酸塩を含んだ置換析出金属除去処理液を用いた場合について説明する。なお、試験片にはSUS304を用いた。
(1)結晶粒微細化処理(第一の工程)
ウェットピーニング加工条件は、研磨材に直径約50μmの球形ガラスを用いて、エア圧力0.33MPa、搬送速度20mm/secとした。なお、ウェットピーニング加工条件は、必要とする結晶粒径や微細結晶層の厚さに応じて適宜対応するのが好ましい。
(2)粗化エッチング処理(第二の工程)
粗化エッチング処理液の組成は、硫酸500g/l、塩化ナトリウム90g/l、塩化第二銅二水和物30g/lとした。また、液温は40℃、処理時間は5minで行った。なお、処理時間については、必要とするエッチング量に応じて適宜対応するのが好ましい。
(3)置換析出金属除去処理(第三の工程)
置換析出金属除去処理液の組成は、第二の工程の粗化エッチング処理液に鉄に置換析出可能な遷移金属イオンとして銅を用いたため、銅を選択的に除去可能である過硫酸ナトリウム200g/l、硫酸50ml/lとした。また、液温は30℃、処理時間は10minで行った。なお、処理時間については、置換析出金属量に応じて適宜対応するのが好ましい。
【0018】
実施例1の試験片について、表面と断面SEM観察、表面積評価、細結晶層観察を行った。
【0019】
図3に表面と断面SEM観察および表面積評価の結果を示す。図3の表面と断面SEM像から、幅1μm以下で高さ約3μmの微細な構造体が形成されていることが確認できる。また、この微細構造による表面積は平滑面に対して21倍であった。このように、ステンレス鋼に高さ5μm以下で、且つ表面積比15倍以上の表面微細構造を形成可能である。
【0020】
図4にウェットピーニング加工後の微細結晶層の観察結果を示す。微細結晶層はステンレス鋼の表面から深さ方向に約7μm形成されており、その結晶粒径は約0.8μmであった。このように、ウェットピーニング加工によりステンレス鋼の表面内部に結晶粒径1μm以下で、厚さ1μm以上の微細結晶層を形成可能である。
【実施例2】
【0021】
本実施例では、実施例1の粗化エッチング処理(第二の工程)の処理時間を3minに変更した以外は実施例1と同様の条件で試験片の表面に微細構造体を形成した。実施例2の試験片について、表面と断面SEM観察、表面積評価を行った。図3に表面と断面SEM観察および表面積評価の結果を示す。図3の表面と断面SEM像から、幅1μm以下で高さ約1μmの微細な構造体が形成されていることが確認できる。また、この微細構造による表面積は平滑面に対して15倍であった。このように、ウェットピーニング加工、エッチング処理の条件を変更することで微細構造体のサイズや表面積を調整することが可能である。また、実施例1と比較して微細構造体の高さが低くなったことから表面積比が小さくなっているが、微細構造体の高さ1μmにおいても表面積比15倍を実現することが可能であった。
【実施例3】
【0022】
本実施例では、実施例1で作製した試験片について、不動態被膜評価、耐食性評価、密着性評価を行った結果について説明する。
【0023】
図5に表面微細構造を形成した後の不動態被膜評価を示す。ステンレス鋼表面のクロム濃度は、表面微細構造を形成する前に対して1.5倍高くなっていることが確認された。この原因は、本実施例の表面加工方法によって、ステンレス鋼内部に分散していたクロムが表面に残留するためではないかと考えられる。
【0024】
図6に表面微細構造の形成前後の耐食性評価を示す。レイティングナンバーは、表面微細構造形成前の6(腐食面積0.5〜1.0%)に対して、表面微細構造形成後は10(腐食面積0.0%)であった。このように、本実施例の表面加工方法によって表面微細構造を形成することで、耐食性が向上していることが確認された。この原因は、不動態被膜評価結果から、表面微細構造形成プロセスによって、表面のクロム濃度が高くなるためではないかと考えられる。
【0025】
表面微細構造形成プロセス後の密着性評価の結果、ポリイミド膜の剥がれは発生しなかった。このように、表面微細構造形成プロセスを施すことによって高い密着力を得ることが可能である。
〔比較例1〕
比較例1では、ステンレス鋼の表面微細構造の形成方法としてウェットブラスト加工を用いた場合について説明する。なお、試験片にはSUS304を用いた。
【0026】
ウェットブラスト加工条件は、研磨材に直径約15μmの多角径アルミナを用いて、エア圧力0.2MPaとした。
【0027】
比較例1の試験片について、表面と断面SEM観察、表面積評価を行った。図3に表面と断面SEM観察および表面積評価の結果を示す。比較例1は、図3の表面と断面SEM像から、幅2〜3μmで高さ約0.5μmの微細構造体が形成されていることが確認できる。比較例1の表面積は平滑面に対して3倍であった。
【0028】
また、表面微細構造形成プロセス後の密着性評価の結果、全面でポリイミド膜の剥がれが生じた。
〔比較例2〕
比較例2では、ステンレス鋼の表面微細構造の形成方法として粗化エッチング処理を用いた場合について説明する。なお、試験片にはSUS304を用いた。
【0029】
粗化エッチング処理条件は、実施例1と同様とし、液組成は硫酸500g/l、塩化ナトリウム90g/l、塩化第二銅二水和物30g/l、液温は40℃、処理時間は5minで行った。
【0030】
比較例2の試験片について、表面と断面SEM観察、表面積評価を行った。図3に表面と断面SEM観察および表面積評価の結果を示す。比較例2は、図3の表面と断面SEM像から、幅2〜5μmで高さ約3μmの微細構造体が形成されていることが確認できる。比較例2の表面積は平滑面に対して10倍であった。
【0031】
また、表面微細構造形成プロセス後の密着性評価の結果、ポリイミド膜に一部剥がれが生じた。
【0032】
実施例1、2と比較例1、2を比較してみると、比較例1のウェットブラスト加工で形成される表面微細構造は、研磨材サイズにも影響するが微細構造体間の距離がやや大きく緻密性が低い。また、比較例2の粗化エッチング処理で形成される表面微細構造は、結晶粒界エッチングのため基材の結晶粒径に依存し微細構造体の幅が大きい。このように、従来の表面構造形成方法であるウェットブラスト加工と粗化エッチング処理では、ステンレス鋼に高さ5μm以下で、且つ表面積比15倍以上の表面微細構造を形成することは困難である。
【実施例4】
【0033】
次に、本発明の表面加工方法によって表面微細構造を形成したステンレス鋼の適用例について説明する。微細で且つ高表面積な凹凸構造が形成されたステンレス鋼が適用可能な好適な例として、気体で熱交換を行う空冷熱交換器が挙げられる。空冷熱交換器の伝熱部に本発明の表面加工が施されたステンレス鋼を適用することによって、表面積の増加による伝熱性能が向上し、さらに凹凸構造が非常に微細であることから圧力損失が抑制され、高い伝熱促進効果を得ることができる。
【0034】
本実施例では、実施例1の表面加工方法により表面微細構造を形成したステンレス鋼の伝熱管を用いたシェルアンドチューブ型熱交換器により伝熱性能を評価した。
【0035】
図7は実施例4に係るシェルアンドチューブ型熱交換器の構造図である。円形または多角形のシェル200の両側に伝熱部である伝熱管201を支えるための管板202が設置されている。管板202には伝熱管201を通すための多数の穴が千鳥状に配列されており、伝熱管201はこれらの管穴に挿入されて両端で管板202に固着される。伝熱管201の長さは、流れの代表長さDの25倍以上である。なお、本実施例の管群に沿った流れの代表長さDは、水力等価直径を取る。伝熱管201の長さを、流れの代表長さDの25倍以上とすることで、気流状態が乱流の場合に伝熱性能をより向上することができる。
【0036】
微細構造体203は伝熱管201の管外表面に形成する。低温流体である空気204は熱交換器下部の側面に設けられたノズル205より熱交換器内に流入し、伝熱管201外を上昇し、伝熱管壁を介して高温流体である水蒸気206と熱交換する。高温流体である水蒸気206は熱交換器上部のノズル207から熱交換器内に流入し、熱交換器上部の水室208を経由して伝熱管201内を流下する。水蒸気206は伝熱管壁を介して低温流体である空気204と熱交換して凝縮し、圧縮水となる。圧縮水は熱交換器下部の水室を経由し、熱交換器下部のノズルから熱交換器外へ流出する。
【0037】
伝熱管201に実施例1の表面加工方法により表面微細構造を形成したステンレス鋼を用いた結果、表面加工処理を施していないシェルアンドチューブ型熱交換器に比べ伝熱性能を約6%向上させることができた。このように本発明の表面加工方法により表面微細構造を形成したステンレス鋼を伝熱管に適用することにより、伝熱管本数を増加せずに伝熱性能を向上することができる。すなわち、目標の伝熱性能を得る際には、伝熱管本数を削減でき、熱交換器のコストを削減できる。
【0038】
比較のため、伝熱管201に比較例2の表面加工方法により表面微細構造体を形成したステンレス鋼を用いた結果、表面加工処理を施していないシェルアンドチューブ型熱交換器に比べ伝熱性能は約2.5%向上した。この結果から、伝熱管201の表面積比が大きいほど伝熱性能を向上することが確認された。
【0039】
また、微細構造体の高さに関しては、微細構造体の表面積が同じであればその高さはより低い方が好ましい。これは、微細構造体が高くなると圧力損失が増大するためである。微細構造体の高さが境界層を超えると高い伝熱促進効果が期待できるものの、これとトレードオフするかたちで圧力損失が大きくなる。この結果、圧力損失の増加によってトータルとしては伝熱性能が向上しない場合がある。なお、境界層とは、気体が接触する接触面の近傍に存在する、気体の粘性を無視することができない(気体の粘性の影響を強く受ける)薄い層をいう。境界層の厚さは熱交換器の仕様、すなわち気体の流速や流れ方、伝熱部の形状等の様々な要件によって変化する。そのため、確実に圧力損失を低減するという観点からは微細構造体の高さがより低く、かつ、表面積比が大きいことが望ましい。本発明の表面加工方法によれば、従来困難であった高さ5μm以下で、且つ表面積比15倍以上の表面微細構造を形成できることから、この微細構造体を表面に有するステンレス鋼を熱交換器の伝熱部に採用することによって、従来よりも高い伝熱性能を得ることができる。
【0040】
また、図5、6に示したようにステンレス鋼表面のクロム濃度が高くなり、耐食性に優れるという特徴を有する。そのため、耐食性が要求される熱交換器の伝熱部に好適である。
【0041】
なお、実施例4では熱交換器としてシェルアンドチューブ型熱交換器を例として説明したが、本発明で適用可能な熱交換器はこれに限定されるわけではない。例えば、パワー半導体のフィン型熱交換器(ヒートシンク)、空調機や自動車のラジエータのクロスフィン型熱交換器など、気体と接触して熱交換を行う熱交換器において、前記気体と接触する伝熱部がステンレス鋼である熱交換器に実施可能である。
【符号の説明】
【0042】
100 ステンレス鋼
101 微細結晶層
102 置換析出金属
R1 結晶粒微細化処理後の凹凸構造
R2 粗化エッチング処理後の凹凸構造
R3 置換析出金属除去処理後の凹凸構造
200 シェル
201 伝熱管
202 管板
203 微細構造体
204 空気
205 ノズル
206 水蒸気
207 ノズル
208 水室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7