【実施例】
【0141】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって限定されない。
【0142】
〔第1実施例〕
第1実施例に係る装置を
図5に示す。この装置は、神経細胞ネットワーク形成用培養装置を、イオンチャンンネルバイオセンサーである培養型のプレーナーパッチクランプ装置として構成したものである。
【0143】
この装置における電気絶縁性の基板14として、シリコン基板を用いている。基板14には、その第一表面側(図の上側)と第二表面側(図の下側)を連通させる、直径1〜3μmの微細貫通孔15を設けている。
図5では微細貫通孔15を基板14の中央に1個設けているが、より大きな基板を用いて、複数ないし多数の微細貫通孔15を設け、これらの各微細貫通孔15に対してそれぞれ、以下のように構成しても良い。
【0144】
微細貫通孔15の第一表面側の開口部上の基板面には、複数の突起部12で囲まれた細胞定着部13が形成され、この細胞定着部13には1〜数個の神経細胞11が配置されている(図示の便宜上、1個の神経細胞のみを示す)。
【0145】
基板14はその第一表面側と第二表面側を1対のスペーサー16、17で挟着されている。スペーサー16、17の構成材料は限定されないが、第一表面側のスペーサー16については、好ましくは、弾力性のある光不透過性の材料、例えばシリコンゴムやPDMS(polydimethylesiloxane)等を用いることができる。一方、第二表面側のスペーサー17については、好ましくは光透過性の材料を用いることができる。
【0146】
スペーサー16の中央部分には神経細胞ネットワーク構成用の大きな培養スペース18が切欠き形成され、この培養スペース18における基板14面上に、上記の神経細胞11を配置した細胞定着部13が1ケ所又は複数〜多数ケ所、設けられている(図示の便宜上1ケ所の細胞定着部のみを示す)。又、基板14面における細胞定着部13以外の部分にも、神経細胞11が播種されている。
【0147】
スペーサー17においては、基板14の微細貫通孔15に対応する部分には例えば円形の切欠き部19が設けられているので、微細貫通孔15における第二表面側の開口部がこの切欠き部19に開口している。従って、この切欠き部19も、細胞定着部13及び微細貫通孔15に対応して、1ケ所又は複数〜多数ケ所、設けられる(図示の便宜上、1ケ所の切欠き部19のみを示す)。
【0148】
そして、上記の基板14及び1対のスペーサー16、17の全体が1対の丈夫なプレート20、21で締め付けられた構造となっている。プレート20、21の材料としては、120℃程度でのオートクレーブ滅菌に耐えられる材料であれば特段に限定されない。しかし、第一表面側のプレート20については、好ましくは、光不透過性の材料を用いることができる。一方、第二表面側のプレート21については、好ましくは、光透過性の材料を用いることができる。
【0149】
以上の構成において、第一表面側のプレート20の中央部には、第一表面側のスペーサー16における上記培養スペース18に対応する位置に、培養スペース18と同様の大きさの、例えば円形の切欠き部が設けられる。この切欠き部の周縁には、プレートの厚さの薄い凹部状の段部を形成し、この段部にカバーグラスのような蓋用部材(図示省略)を設置することによって、上記のスペーサー16における切欠き部の開口を開閉可能に構成しても良い。こうして、第一表面側に主液溜22が構成される。
【0150】
一方、第二表面側のスペーサー17における切欠き部19の開口をプレート21により塞ぐことで、第二表面側の液溜部23を形成している。第一表面側の主液溜22と、第二表面側の液溜部23とは、微細貫通孔15を介して連通している。
【0151】
主液溜22は第一表面側の液溜部の第1の領域を構成する。この主液溜22は、スペーサー16に設けた狭い通液路24を介して、第一表面側の液溜部の第2の領域を構成する副液溜25と連通している。副液溜25は、スペーサー16及びプレート20に共通に設けた穴によって形成されている。副液溜25には、後述する第一表面側の電極部28を配置している。
【0152】
主液溜22、通液路24及び副液溜25によって構成される第一表面側の液溜部には導電性液体である細胞培地が導入され、保持される。導電性液体には神経細胞を分散させておくことができる。導電性液体としては、140mM NaCl、3mM KCl、10mM 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid (HEPES)、2.5mM CaCl
2、1.25mM MgCl
2 及び10mM glucose at pH 7.4 (with HCl)等の緩衝液、又は10%(v/v)FBS、1%(v/v)GlutamaxTM(Gibco)を添加したDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM: Sigma)等の細胞培地を用いる。導電性液体の組成は、神経細胞の種類によって適宜に変更できる。
【0153】
第二表面側の液溜部23には、40mM CsCl、80mM CsCH
3SO
4、1mM MgCl
2、10 mM HEPES、2.5mM MgATP、0.2mM Na
2EGTA,(pH7.4)等のピペット溶液と呼ばれる緩衝液又は細胞培地などを導入する。液溜部23に対する導電性液体の導入はチューブ状の導入用通液路26によって行い、その排出は排出用通液路27によって行う。本実施例では、導入用通液路26及び排出用通液路27として外径1mm、内径0.5mmのPEEK製のチューブを用いたが、これらの通液路の構成材料についても、120℃程度でのオートクレーブ滅菌に耐えられる材料であれば、他の材料を用いても良い。
【0154】
排出用通液路27にも、第一表面側の電極部28と同様に構成された第二表面側の電極部29(1点鎖線により簡略化して図示する)を設置している。これらの電極部28、29の構成は後述する。通常、第一表面側の電極部28の電極を接地させ、第二表面側の電極部29の電極に膜電圧を印加する。
【0155】
神経細胞11を分散させた導電性液体を主液溜22に導入した場合において、排出用通液路27に連絡させた適宜な液体吸引デバイスによって液溜部23の導電性液体を吸引すると、微細貫通孔15を通じて主液溜22の導電性液体も吸引される。このような操作によって、神経細胞11を
図5に示す細胞定着部13(即ち、微細貫通孔15の開口位置)に効果的に配置させることができる。
【0156】
更にこの場合、吸引圧によって微細貫通孔15に接する部分の神経細胞11の細胞膜に微細な穴を形成することができる。このような穴を神経細胞11に形成するには、他にも、nystatin やamphotericin B 等の細胞膜穿孔性の抗生物質の溶液を導入用通液路26から第二表面側の液溜部23に導入すると言う方法もある。このような穴を細胞膜に形成すると、神経細胞内と第二表面側の液溜部23が電気的に導通した状態となる。
【0157】
一方、神経細胞11を細胞定着部13(微細貫通孔15の開口位置)に配置させる手段として、基板14の微細貫通孔15における第一表面側の開口部周縁に、細胞固定力を持つ細胞外マトリックス形成物質30を付着させておくこともできる。
【0158】
以上の構成において、神経細胞11には所定のイオンチャンネルが発現されており、そのイオンチャンネルを開く刺激物質が第一表面側の液溜部に加えられると、イオンチャンネルが開き、第一表面側の電極部28と第二表面側の電極部29間に印加電圧に応じたチャンネル電流が流れる。このとき、神経細胞11の細胞膜と基板14との間に隙間があると、シール抵抗が低下してチャンネル電流にリーク電流が重畳する。
【0159】
膜電位は、電極間に実際に印加される電圧に加えて、空間に存在する電磁波による誘導電圧や、電極金属表面とそれをとりまく緩衝液との間の界面電位や、液/液界面電位が重畳されるので、誘導雑音や界面電位の変動によりリーク電流がそれに対応して変動する。そのため、イオンチャンネル電流に対しては、ベースラインの変動という雑音として現れる。
【0160】
詳細なデータの提示は省略するが、ギガオーム以上のシール抵抗を容易に得られるピペットパッチクランプにおいては、膜電位の変動が比較的大きくても、ベースライン変動雑音の影響は無視できるほどに小さい。しかし、シール抵抗が比較的小さな(〜10MΩ)培養型プレーナーパッチクランプにおいては、この膜電位の変動を小さくする必要がある。そこで、本実施例では、膜電位の変動が小さく安定な電極を開発した。このような電極により、膜電位の変動を大幅に小さくし、シール抵抗が小さくても雑音電流を小さく抑えて、計測することができる。
【0161】
以下において、詳細な図示は省略するが、第一表面側及び第二表面側の電極部28、29の構造を説明する。内径1mmのパイレックス(登録商標)ガラスからなる筒状の電極容器31の内部は、KClとAgClが飽和濃度で溶解した電極溶液32で満たされている。KCl濃度は3.3M/L、AgClは約1.1mM/Lを添加している。なお、KClの場合、飽和濃度は常温で約3.3M/Lである。電極容器31内に収容されたAgCl/Ag電極33において、銀線の表面にはAgClがコートしてある。このようなAgCl/Ag電極33は、銀線の表面にAgCl粉末を塗布して形成したり、あるいは、次亜塩素酸ナトリウムを含む漂白剤などに銀線を浸しても製作できる。又、KCl溶液内での電気メッキによっても製作できる。
【0162】
電極容器31の先端部は、多孔質ガラスや多孔質セラミックス等の無機多孔質材料34で塞いでいる。無機多孔質材料34として、実際にはバイコールガラス(コーニング社)を使用した。このように電極容器31の容器壁の一部を構成している無機多孔質材料34は、その先端が導電性液体(細胞培養液や緩衝液)に浸漬される。導電性液体中のKCl濃度は数ミリモルであるが、無機多孔質材料34の効果で、電極容器31の容器内と容器外が電気的には導通した状態でありながら、電極溶液32と容器外の導電性液体との混合は無視できるほど小さいため、容器内と容器外での大きなKCl濃度差が一定に保たれ、これにより、AgCl/Ag電極33の界面電位や液/液界面電位が一定に保持される。電極容器31の基端部はシール材料でシールされ、そこから電極ピン35が突出している。
【0163】
光でチャンネルが開くイオンチャンネルを発現した細胞を用いてチャンネル電流を制御する場合において、以上の第一表面側及び第二表面側の電極部28、29を配置すれば、第一表面側の液溜部が光不透過性のスペーサー16やプレート20によって形成されるので、主液溜22に照射される照射光が、第一表面側及び第二表面側の電極部28、29のAgCl/Ag電極を照射することがない。又、主液溜22には神経細胞11が配置してあり、細胞の外部の導電性液体のカリウムイオン濃度は数mM程度と小さいので、微量とは言え電極部から漏れ出るKClの影響を抑える事が望ましい、そのため、第一表面側の液溜部については、主液溜22に加えて副液溜25を作り、これらの主液溜22及び副液溜25を幅1mm以下の狭い通液路24で連結している。
【0164】
〔第2実施例〕
第2実施例を
図6に示す。この第2実施例及び次の第3実施例は第1実施例における要点を更に詳しく述べるものである。これらの実施例における部品番号は第1実施例とは異なるが、同じ部品名のものは実質的に同じ構成である。
【0165】
Si基板1の表面にネガテイヴフォトレジストSU8を厚み8〜10μmでスピンナーによりコートし、あらかじめ用意したフォトマスクを用い通常の工程により現像して、
図6(a)、
図6(b)に一例として示す柵状の複数の突起部12からなる細胞定着部13を形成した。
【0166】
この場合の突起部は、底面10μm×10μm、高さ8〜10μmの四角柱であり、突起部間の相互間隔は8〜10μmである。マウスやラットの大脳皮質や海馬の神経細胞の細胞体の径は通常、播種時に10μm前後、定着時には15〜20μmであるので、この複数の突起部からなる細胞定着部2中に配置された神経細胞3は、細胞定着部2の外には移動しない。しかし細胞培地は細胞定着部2の内外を移動し、細胞定着部2内の細胞の培養には問題ない。突起部の形状は円柱や楕円柱であっても、球状の固形物であっても構わない。
【0167】
複数の突起部12からなる細胞定着部13による神経細胞3の配置は、神経細胞ネットワークの形成と利用において有用性が発揮される。
図6(c)に概念図を示すように、細胞定着部13の内側に神経細胞3を配置すれば、細胞定着部13の外側の神経細胞3とネットワークを形成する。このネットワーク形成において、神経細胞3は軸索の先端から神経伝達物質を放出しながら、結合する相手をもとめて軸索の伸長を行い、受ける側の神経細胞3もこの神経伝達物質を受けて樹状突起を伸ばして、シナプス接合を形成する。
【0168】
本発明の特徴は、細胞定着部13内の神経細胞3と細胞定着部13外の神経細胞3が基板1の同じ平坦面上に存在するため、神経細胞間でのコミュニケーションが妨害されることなく行われ、安定な培養が継続され、安定なネットワークが形成される点にある。本実施例の場合、細胞定着部2の内部に配置した神経細胞3は1ケ月以上の培養が可能であった。
【0169】
このように所定の神経細胞の位置を指定してネットワークを形成することは、いろいろな点で有用である。
図5に示すような培養型プレーナーパッチクランプ装置に応用すると、その効果は特に大きい。
【0170】
細胞定着部13の内径は、
図6(a)、
図6(b)に示すように容易に変更できる。その内径は、神経細胞ネットワークの長期間の安定な培養を可能とするための複数個(比較的多数)の神経細胞3を配置できる内径とするか、ネットワークの機能解析が容易である1個ないし少数個の神経細胞3を配置できる内径とするか、という配慮に基づく最適の神経細胞の個体数(クラスターサイズ)により決まる。例えば、比較的丈夫なラット大脳皮質神経細胞では1〜4個のクラスターが良いが、比較的脆弱なiPS細胞やこれから分化・誘導されるニューロスフェアーでは、安定的培養のためにより多くの細胞体からなるクラスターが好ましい。
【0171】
〔第3実施例〕
第3実施例を
図7に基づいて説明する。同図において、
図7(A)の右下部分の「c」の丸囲いに示す図は、細胞定着部2の中央部の微細貫通孔4付近の断面を拡大した部分図である。培養型プレーナーパッチクランプは、Siやプラスチック、セラミックス、ガラスなどの基板1に直径1〜数μmの微細貫通孔4を形成し、この微細貫通孔4の上に神経細胞3を置き、基板1の上部、下部をそれぞれ所定の緩衝液で満たし、かつ上部電極7、下部電極8を設置した構成である。下部電極8は電流増幅器5に連絡されている。
【0172】
微細貫通孔4に接する神経細胞3の細胞膜に微細な穴をあけて、神経細胞3内と、基板1の下側の緩衝液溜めとが電気的に導通したホールセル状態を形成する。この神経細胞3に微細な穴をあける方法としては、第1実施例でも述べたように、下部液溜めに陰圧をかけて細胞膜を破る方法がある。又、ナイスタチンやアンフォテリシンなどの抗生物質を溶解した緩衝液を下部液溜めに流して、細胞膜にこれらの抗生物質を細胞膜に埋め込み、細胞内と下部液溜めとを電気的に導通した状態とすることを利用する方法もある。
【0173】
この場合、微細貫通孔4の周辺の基板1表面に細胞外マトリックス形成物質9を塗布しておくことが、神経細胞3を長時間生かしておく上で有効である。細胞外マトリックス形成物質9としては多くのものが公知であるが、ポリ−L−リジン、ラミニンなどがよく知られている。この系への神経細胞3の播種については、細胞定着部2の内部に単一細胞あるいは複数の細胞を間違いなく播種する必要から、図示するようなマイクロピペット6を利用して行うことが特に有効である。
【0174】
更に、この場合、
図7(A)の右下の要部拡大図である「c」の丸囲いに示すように、マイクロピペット6から所定の速度で神経細胞3の懸濁液を細胞定着部2の上部に注入すると同時に、当該下部液溜めに所定の陰圧を印加し、
図7(B)に示すように、微細貫通孔4の上に神経細胞3を効率よく配置することができる。但し、陰圧を大きくしすぎると神経細胞3が死んでしまうので、細胞種ごとに適切な圧力を設定する必要がある。
図7(B)ではHEK293細胞を用いて吸引の実験を行い、2kPaの陰圧ならば神経細胞3が損傷を受けないことを確認した。5kPaの陰圧であると、8割の神経細胞3が損傷を受けないことを確認した。但し、吸引により神経細胞3が微細貫通孔4の上に配置された直後に吸引圧力の解除を始めると、損傷が少なくなることも確認された。
【0175】
本実施例においては、神経細胞3にはCaイメージング用のプローブ分子があらかじめ導入してある。また、神経細胞3には、レーザー光などの光で刺激ができるようチャンネルロドプシンなどの光受容体イオンチャンネルも遺伝子導入により発現されている。この場合、チャンネルロドプシンの励起波長とCaプローブ分子の励起波長が干渉しないよう十分に離れていることが重要である。本実施例で利用したチャンネルロドプシンの励起波長は470〜480nmであり、Caプローブとしては、励起波長494nm、発光波長523nmのオレゴングリーンBAPTA-1を用いた。この第3実施例で実施した動作モードは以下の4種類である。
【0176】
(第一の動作モード)
微細貫通孔4の上の神経細胞3に所定の膜電位(通常−80〜+80mV)を上部電極7、下部電極8により印加しておき、自然発火などにより神経細胞3内に流れるイオンチャンネル電流をホールセルモードにより観測する(
図7(A)における矢印記号「a」)。この場合、周辺の神経細胞3の自然発火によるCaイオンの流入や、神経伝達物質を受けてのNa
+、K
+、Cl
−などのシナプス電流が観測され(K.S.Wilcox et al., Synapse 18 (1994) 128-151)、これにより軸索の状態や神経細胞3の状態に関する情報を得ることができる。
【0177】
(第二の動作モード)
微細貫通孔4の上の神経細胞3に上部電極7、下部電極8より所定の電流を注入し、あるいは電圧を印加(
図7(A)における矢印記号「b」)して、神経細胞3に刺激を与え、活動電位を発生させる。これにより、刺激を受けた神経細胞3にCaイオンが流入する。そのため、Caプローブの蛍光(
図7(A)における矢印記号「d1」)が観測されると共に、発生した活動電位が周辺の神経細胞3に伝搬して当該周辺の神経細胞3のCaプローブの発光(
図7(A)における矢印記号「d2」)を生じさせる。この発光を観測することにより、信号の伝搬を確認することができる。すなわち神経細胞ネットワークの信号伝搬特性についての情報を得ることができる。
【0178】
(第三の動作モード)
微細貫通孔4の上(細胞定着部2内)の神経細胞3の付近に存在し、かつ、チャンネルロドプシンを発現している単一の神経細胞3に470〜480nmのレーザー光を集光して照射(
図7(A)における矢印記号「e」)して、この単一の神経細胞3に活動電位を発生させる。そうすると、この活動電位信号がネットワークを通して微細貫通孔上の神経細胞3に伝搬され、Caチャンネルが開いて、Caイオンの流入が誘起される。その結果、あらかじめホールセルモードとなっている微細貫通孔上の神経細胞3に膜電位を印加している上部電極7、下部電極8により、イオンチャンネル電流を観測できる。第三の動作モードによれば、神経細胞ネットワークの信号伝搬特性を単一細胞レベルで測定し詳細に解析できる。
【0179】
(第四の動作モード)
前記の第一〜第三の動作モードにおいては、細胞定着部2と微細貫通孔4の組み合わせからなる
図7(A)に示す構造は、最低で1ケ所あれば素子として動作する。そして、この構造を基板1上に多数構成すれば、ハイスループットスクリーニング装置として動作する。これに対して、以下の第四の動作モードでは、前記のトリガー細胞とフォロワー細胞に対応してそれぞれ一つ(合計二つ)の
図7(A)に示す構造体をもって素子が構成される。
【0180】
基板1の上の複数ケ所に
図7(A)に示す微細貫通孔4と細胞定着部2の組み合わせのシステムを形成する。その内の幾つかの微細貫通孔4上にある神経細胞3(トリガー細胞)の活動電位の発生を電流注入あるいは電圧印加で行う。そして、それ以外の微細貫通孔4上にある神経細胞3(フォロワー細胞)への活動電位の伝搬を、このフォロワー細胞におけるイオンチャンネル電流のホールセルモードでの記録により解析することが考えられる。これらの装置において、神経細胞3を位置を指定して配置することは極めて重要であり、位置を指定しながらも安定な神経細胞ネットワークを形成できる本発明が極めて有用であることは明白である。
【0181】
又、上記の第一、第三、第四の動作モードにおいて、微細貫通孔4でのイオンチャンネル電流だけでなく、基板1の上部でのCaイメージングの観測を同時に行うことにより、ネットワークの機能解析をより精密に行うことができ、極めて効果的である。
【0182】
〔第4実施例〕
第4実施例を
図8(a)、(b)に示す。平面写真である
図8(a)において小さな円形で示される、直径約10μm、高さ約8μmの円柱12本からなる細胞定着部2をSi基板の表面に形成し、17日齢のラット胎仔の大脳皮質から採取した神経細胞3を播種し、14日間培養後に神経細胞ネットワークの形成を蛍光顕微鏡により確認した。培地を所定の緩衝液に交換したのち、この緩衝液にオレゴングリーンBapta-1というCaプローブを混入し、約2時間後再び、緩衝液をCaプローブを含まない液に交換して蛍光顕微鏡で神経細胞3を観察した。
【0183】
細胞定着部2内に安定に数個の神経細胞3が設置されていることと、細胞定着部2内と細胞定着部2外の神経細胞がネットワークでつながっている様子が観察される。また、
図8(b)は細胞定着部2内の神経細胞3の蛍光強度の時間変化を観察した結果であり、神経細胞3が活発に自然発火を繰り返し、神経細胞3内のCa濃度が変動している様子が観察される。本実施例では細胞定着部2は一組設置されているのみであるが、これを複数設置することにより、特定の細胞定着部2から別の細胞定着部2への信号伝搬の様子を観測することができ、ネットワークの機能解析を正確かつ安定に実施できる。
【0184】
〔第5実施例〕
第5実施例を
図9に示す。Si基板を用いて構成した培養型プレーナーパッチクランプ素子の微細貫通孔を囲むように、複数の突起部からなる細胞定着部を、ネガティブホトレジストを用いて、第2実施例〜第4実施例と同様の方法で形成した。ラット胎仔の大脳皮質から採取した神経細胞を第4実施例と同様な手法で播種し、培養14日後に細胞定着部の中の神経細胞が微細貫通孔の上に配置されていること、及び、当該神経細胞が周辺の神経細胞とネットワークを形成していることを確認した。
【0185】
その後、培地を基板の上側、下側でそれぞれ所定の緩衝液と交換し、下側の緩衝液にナイスタチン500μg/ml濃度で混入し、約10分間放置後、ホールセルモードの配置で基板1の下側に設置した電極に流入する電流を電流増幅器(Axopatch200B)により検出した。
【0186】
その結果を
図9(A)に示す。
図9(A)は、電流の膜電位依存性を示す。また、40mV―TTXは膜電位が40mVで、かつ上側の緩衝液にNaチャネルのブロッカーであるテトロドトキシン(TTX)を混入した時に観測された電流である。膜電位が−から+に変化すると電流の波形の向きも下(−)から上(+)に代わり、自然発火した神経細胞からの信号伝搬や、神経伝達物質の自然放出の場合のシナプス電流の特徴を示す。これらの波形はネットワークの特徴を反映しており、アンタゴニストやアゴニストの薬剤により、波形が変化する。細胞定着部と微細貫通孔の占める面積は非常に小さいので100点ほどの多点計測は容易であり、ハイスループットスクリーニングに必要な多点計測は容易に可能である。
【0187】
なお、
図9(B)、
図9(C)は、基板の上方部より、各神経細胞のCaイメージングによる蛍光強度の時間変化を計測した結果をまとめたものである。横軸が時間、縦軸が各々の神経細胞に付せられた番号である。円の大小はCa蛍光強度の強弱を表す。
図9(B)に示す場合は神経細胞の密度が小さく、35mmデイッシュあたり2×10
5個であるため、神経細胞からの発光は完全にランダムである。
【0188】
これに対して、
図9(C)に示す場合は神経細胞の密度が大きく、35mmデイッシュあたり2×10
6個であるため、Caイメージングによる発光が同期して起こるようになることが分かった。これらの結果は、基板の下側でイオンチャンネル電流を計測し、同時に上側でCaイメージングを行うことにより、より精密な計測と解析ができることを意味する。
【0189】
〔第6実施例〕
第6実施例は細胞定着部13の改良実施例に関する。
図10に示すように、微細貫通孔の第一表面側の開口部上の基板面には、第1実施例の場合と同様に複数の突起部12で囲まれた細胞定着部13が形成され、この細胞定着部13には神経細胞11が配置されている。そして細胞定着部13をリング状に構成する複数の突起部12の外側に、更に多くの突起部12で囲まれた外側細胞定着部36が形成されている。即ち、第6実施例では、突起部12で構成されるリングが、細胞定着部13と、外側細胞定着部36との二重リング構造となっているのが特徴である。
【0190】
内側のリングで囲まれた領域である細胞定着部13には微細貫通孔があり、この領域に1ないし数個の神経細胞11が定着されており、神経細胞11が確実に微細貫通孔の上に存在する。そして同時に、内側のリングと外側のリングとの間の領域である外側細胞定着部36にも多数の神経細胞11が播種される。従って、細胞定着部13内部の神経細胞11間だけでなく、細胞定着部13の神経細胞11と外側細胞定着部36の神経細胞11との間にも神経細胞ネットワークが形成される。
【0191】
このような細胞定着部13と外側細胞定着部36からなる構成においては、例えばiPS細胞などのように、単一細胞では不安定で、多数の細胞が集合していないと安定的な培養ができない神経細胞について、確実に一個の神経細胞を微細貫通孔の上に定着させると共に、長期間、安定に培養できるというメリットがある。
【0192】
なお、第6実施例の場合において細胞定着部13と外側細胞定着部36にそれぞれ神経細胞11を播種する方法の1例については、次の第7実施例で簡単に述べる。
【0193】
〔第7実施例〕
第7実施例は、本発明の神経細胞播種デバイスに関する。神経細胞播種デバイスのデバイス本体は、上記の実施例に係る神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の装置基板上に設置し、装置基板における複数の突起部で囲まれた多数の細胞定着部に神経細胞を播種するためのものである。
【0194】
図11(a)に斜視図を示すように、本実施例に係る神経細胞播種デバイスのデバイス本体40は、4〜6mm程度の厚さと2×2cm程度の方形の平面形状を有する平坦なボード状であり、上部ボード41と下部ボード42からなる。上部ボード41と下部ボード42は、それぞれ、例えばプラズマ処理等で表面を清浄化したPDMS(ポリジメチルシロキサン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等の透明なプラスチック又はシリコンゴムからなり、これらは密着状態で加熱して接合された2層構造体を構成している。
【0195】
上部ボード41の上面の中央部の一端側には、神経細胞を一定密度で懸濁させた神経細胞懸濁液を外部から供給するための、第1懸濁液流路系を構成する懸濁液供給口43を開口させている。又、その上面の中央部の他端側には、第2懸濁液流路系を構成する第2懸濁液供給口43aを開口させている。以下において、まず、第1懸濁液流路系について説明する。第2懸濁液流路系に関しては、後述する。
【0196】
(第1懸濁液流路系)
第1懸濁液流路系は、前記の第9発明〜第12発明に係る懸濁液供給口と、懸濁液流路と、懸濁液注入口からなる。
【0197】
まず
図11(a)のX−X線に沿う断面図(一部省略)を
図11(b)に示すが、
図11(b)から分かるように、上部ボード41の下面(下部ボード42との接合面)には、懸濁液供給口43から分枝状に延設させた、内径と深さがそれぞれ50〜500μm程度の微細な溝を形成している。そのため、上部ボード41と下部ボード42とを密着状態で接合させると、これらの溝と下部ボード42の上面とによって、神経細胞懸濁液を流通させるための複数の微細な懸濁液流路44が構成される。
【0198】
上部ボード41の下面図(底面図)を
図12(a)に示す。
図11(b)においては単一の懸濁液流路44のみを図示するが、実際には、
図12(a)から分かるように、図の下側に示す懸濁液供給口43から複数の懸濁液流路44を分枝状に延設させている。これらの懸濁液流路44には、それぞれ適当な部位において余分な迂回路を設けることにより、それらの流路長が互いに近似するように調節している。
【0199】
なお、
図12(a)において、懸濁液流路44は、図示の便宜上、単に太い実線で示している。これらの図で示す後述の第2懸濁液流路44aも単に太い実線で示している。
【0200】
次に、
図12(b)は神経細胞ネットワーク形成用培養装置又はプレーナーパッチクランプ装置の基板1の上面図(平面図)を概念的に示し、基板1の上面には複数の突起部で囲まれた細胞定着部2(簡略化して単一のドットで示す)が集合的に多数設定された5ケ所の定着部設定エリアが図示されている。
図12(b)には、併せて、後述する第2懸濁液注入口45aも示されているが、これらは、実際には下部ボード42に形成されたものであって、基板1に形成されたものではないが、上記の5ケ所の定着部設定エリアとの位置関係を明示するために、あえて図示したものである。
【0201】
基板1の上に神経細胞播種デバイスのデバイス本体40が設置された状態を仮定して、上記の
図12(b)との関係で
図12(a)に基づく説明を更に加えると、懸濁液供給口43から分枝状に延設させた複数の懸濁液流路44は、基板1上の細胞定着部2が集合的に多数設定された5ケ所の定着部設定エリアの真上にそれぞれ至り、その位置において、下部ボード42に設けた多数の懸濁液注入口45と連絡する5ケ所の注入口設定部46を形成している。
【0202】
この注入口設定部46の拡大図を
図13に示す。それぞれの注入口設定部46においては、懸濁液流路44が縦向きの5条の流路に分枝され、それらの5条の分枝された流路は、それぞれ下部ボード42に設けた多数の懸濁液注入口45と連絡している。即ち、
図12(b)に示すように、基板1上の5ケ所の定着部設定エリアには縦方向に5条の細胞定着部2が形成され、その各1条には5つの細胞定着部2が含まれているが、これら全ての細胞定着部2に完全に対応して、懸濁液流路44の縦向きの5条の流路が位置しており、かつ、下部ボード42にも、全ての細胞定着部2に完全に対応して、懸濁液注入口45が形成されている。
【0203】
懸濁液注入口45の内径は細胞定着部2の内部領域の大きさとほぼ同じか、やや大きく、但し、突起部12も含めた細胞定着2の外形よりは小さい。そのため、突起部12が懸濁液注入口45の内部に入り込まない構成となっている。
【0204】
従って、第1懸濁液流路系を構成する懸濁液供給口43に神経細胞懸濁液を例えば加圧状態で供給したとき、懸濁液流路44と懸濁液注入口45を通じて、基板1上の5ケ所の定着部設定エリアに設けた合計250ケ所の細胞定着部2の全てに対して、極めて短時間の内に、しかもほとんど同一量の神経細胞懸濁液が注入される。その結果、「発明の効果」の欄で述べたような好ましい形態で、細胞定着部2に対して神経細胞が播種される。
【0205】
(第2懸濁液流路系)
第2懸濁液流路系は、前記第13発明に係る、装置基板における細胞定着部以外の領域に対して神経細胞懸濁液を注入するための懸濁液流路系であって、
図11(a)に示す第2懸濁液供給口43aと、この第2懸濁液供給口43aから
図12(a)に示すように分枝状に延設させた複数の第2懸濁液流路44aと、これらの第2懸濁液流路44aの各端末において下部ボード42に形成した第2懸濁液注入口45aからなる。それぞれの第2懸濁液注入口45aは、
図12(a)においては破線で示すが、
図12(b)においては実線で示す。
【0206】
第2懸濁液供給口43a、第2懸濁液流路44a及び第2懸濁液注入口45aの構造的な関係は、第1懸濁液流路系に関して
図11(b)に示した懸濁液供給口43、懸濁液流路44及び懸濁液注入口45の場合と同様である。但し、第2懸濁液流路系においては、複数の第2懸濁液流路44aの流路長は相違していても構わず、又、第2懸濁液注入口45aは、
図12(b)に示すように、基板1上における細胞定着部以外の領域に対して開口している。
【0207】
従って、第2懸濁液流路系を構成する第2懸濁液供給口43aに神経細胞懸濁液を例えば加圧状態で供給したとき、第2懸濁液流路44a及び第2懸濁液注入口45aを通じて、基板1上における細胞定着部以外の領域に神経細胞が播種される。
【0208】
なお、第6実施例のように細胞定着部13と外側細胞定着部36が形成されている場合は、デバイス本体40には、外側細胞定着部36に神経細胞を播種するために、デバイス本体40に懸濁液流路44と第2懸濁液流路44aに加えて、外側細胞定着部36に神経細胞を播種するための第3懸濁液流路(図示を省略)を形成することができる。あるいは、基板1上のデバイス本体40の位置を僅かにズラした後、懸濁液流路44を利用して、外側細胞定着部36に神経細胞を播種することもできる。
【0209】
〔第8実施例〕
以上のように、神経細胞播種デバイスのデバイス本体40に設けた第1懸濁液流路系を利用し、各細胞定着部2に対して所定の濃度の神経細胞懸濁液を注入する。そして細胞定着部2の複数の突起部12の相互間隔が、播種時の神経細胞の細胞体の寸法より小さく、かつ、神経細胞懸濁液の媒体液(例えば神経細胞の培養液)が容易に流出できるよう十分に広いので、細胞定着部2に対して上部より神経細胞懸濁液を導入することで、媒体液が流出するも神経細胞は細胞定着部2の内部に留まり、そこに播種される。
【0210】
よって、多数の細胞定着部2に短時間で、かつ、ほぼ同時に無損傷で細胞を播種することができる。その結果、多数の細胞定着部(プレーナーパッチクランプ装置の多数のチャンネル電流計測点)からなる神経細胞ネットワークを安定かつ容易に形成することができる。
【0211】
このように、突起部12間に隙間があることを利用して播種をする場合、その隙間と細胞体の寸法との関係をより詳細に検討することが重要である。即ち、神経細胞の細胞体は播種時と培養中では形状が大きく異なる場合が多い。又、細胞体の形状も真円ではなく、細長い楕円状となる。
【0212】
従って、突起部12の相互間隔を、播種時の細胞体の寸法最小値(短軸方向の寸法)、及び、培養中の細胞体の寸法最小値の、いずれか小さいほうの値以下とし、かつ、神経細胞懸濁液の媒体液が容易に流出できるよう、あるいは神経細胞の軸索や樹状突起が容易に細胞定着部2に出入りできるようできるだけ大きな値となるように、形成されている必要がある。
【0213】
一例として、ラット海馬の神経細胞で実験を行った結果を
図14、
図15に基づいて述べる。
図14においては、ラット海馬の多数の神経細胞体の播種時における寸法最大値(長軸方向の寸法)の分布を左側のグラフに示し、その寸法最小値(短軸方向の寸法)の分布を右側のグラフに示す。
図14に示すように、播種時の細胞体の寸法最小値は約7.5μmであった。
【0214】
一方、
図15においては、同上の細胞体の培養時における寸法最大値(長軸方向の寸法)の分布を左側のグラフに示し、その寸法最小値(短軸方向の寸法)の分布を右側のグラフに示す。
図15に示すように、培養時では、細胞体が細長くなり、細胞体の寸法最小値は約8μmであった。
【0215】
更に、ラット海馬の神経細胞で行った別の実験について、
図16に基づいて述べる。
図16は培養4日目の神経細胞の様子を示す光学顕微鏡写真であって、写真中の4個の大きな円形は細胞定着部2を構成する4個の突起部12であり、白抜きの実線で示す輪郭が神経細胞を表している。
図16に示すように、神経細胞が外部から突起部12間の隙間を通って細胞定着部2に侵入しようとしている。結果的に、この神経細胞は侵入することができず、しばらくしてから後退した。突起部12間の隙間は11μm、神経細胞の細胞体の短軸方向の寸法は8.5μmである。従って
図16の場合、突起部12間の隙間をもう少し狭くした方が安全であることを示す。
【0216】
〔第9実施例〕
第9実施例は、播種に用いるラット神経細胞懸濁液の調製方法に関する。この懸濁液の調製は以下のように行った。即ち、17〜18日齢のWistar Rat胎児の脳から大脳皮質または海馬を採取し、0.25%の Trypsin溶液を用いた酵素処理(37℃、20分間)を経て組織をばらばらにした。次に、Minimum Essential Medium (MEM)を基本培地とした血清含有の培地を用いて1.0×10
7cells/mlの細胞懸濁液を調製した。そして、この細胞懸濁液をマイクロ流路もしくはマイクロインジェクターを用いて細胞定着部に導入して播種した。
【0217】
〔第10実施例〕
第10実施例は、播種するiPS細胞の調製に関する。即ち、独立行政法人 理化学研究所(日本国)のCELL BANKよりヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)株である201B7を入手し、マイトマイシンCにより増殖能を不活性化処理したSTO細胞由来細胞(SNL)をフィーダー細胞として培養した。フィーダー細胞は、iPS細胞の自己複製を補助する役割を果たす他の細胞を意味する。
【0218】
培養液としては、代替血清であるKSR、L-グルタミン、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノールを含む哺乳動物細胞培養用培地(DMEM/F12培地)を用い、更に組み換えヒトbasic fibroblast growth factor(bFGF)を使用直前に添加した。フィーダー細胞を3×10
4cells/cm
2の濃度として、フィーダー細胞に適したコーティングを施した6cmのデイッシュに播種し、その1日後にiPS細胞をフィーダー細胞上へ播種した。良い状態のiPS細胞は、コロニーの輪郭が明瞭で内部の細胞密度が高くなる。iPS細胞の継代は通常、3〜4日に1回の頻度で継代を行う。3〜4代の継代を行った後に、運動ニューロンへの分化誘導を目的として、オンフィーダー培養から、表面をゼラチンもしくはマトリゲルでコートした6cmのデイッシュに細胞を移し、フィーダーレス培養へ移行させた。
【0219】
フィーダーレス培養で3〜4代の継代を行った後に、運動ニューロンへの分化誘導を開始した。フィーダーレス培養されたiPS細胞を、増殖因子の存在下で浮遊培養することによって、神経幹細胞へ分化誘導した。分化誘導培地は、グルコース、グルタミン、インスリン、トランスフェリン、プロジェステロン、プトレシン、塩化セレンを添加したDMEM/F12培地である。分化誘導の浮遊培養工程として5×10
4cells/mlの密度で2 日間浮遊培養を行った。その後、レチノイン酸(10
-8 M)を添加した分化誘導培地に交換し、4
日間の浮遊培養を行った。更にその後、FGF2(20ng/ml)、SHH-N(30nM) を添加した分化誘導培地に交換し、7 日間培養した。この処理により細胞の形態は神経幹細胞となった。
【0220】
この神経幹細胞をバラバラにし、poly-L-lysineにてコーティングした培養ディッシュで接着培養を行うことで、接着培養開始5週間後に成熟した運動ニューロンへ分化した。センサー基板上に神経細胞ネットワークを形成する場合は、基板表面をpoly-L-lysineにてコーテイングし、その上にバラバラにした神経幹細胞を播種し接着培養開始5週間後に運動ニューロンを含むネットワークを形成した。基板上に神経細胞ネットワークを形成する場合に当り、基板表面をpoly-L-lysineにてコーティングし、その上にバラバラにした神経幹細胞を播種し、接着培養開始5週間後に運動ニューロンを含むネットワークを形成した。