特許第6047594号(P6047594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047594
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】農業用ハウス
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20161212BHJP
   A01G 9/14 20060101ALI20161212BHJP
   A01G 9/20 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   A01G9/24 H
   A01G9/14 B
   A01G9/20 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-13524(P2015-13524)
(22)【出願日】2015年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-136883(P2016-136883A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】598012809
【氏名又は名称】エス・ピー・アイ・イグティブ社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】中原 康敏
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−193625(JP,A)
【文献】 実開平04−077757(JP,U)
【文献】 特開2007−312616(JP,A)
【文献】 実開昭51−127442(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14−9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎と、前記基礎の上に設けられる建物本体と、を備え、内部に幅方向と長手方向を有する栽培空間を有し、農地の上に建てられる農業用ハウスであって、
前記基礎は、
基礎構造と、前記栽培空間及び前記基礎構造を取り囲むとともに、下方の一部が前記農地の地中に埋め込まれる基礎断熱層と、を備え、
前記建物本体は、
前記基礎の上に連なり、前記基礎構造に立設する複数の柱と、複数の前記柱の外側に配置される本体断熱層と、前記本体断熱層を介して前記栽培空間と仕切られる外壁と、前記外壁に連なり前記栽培空間を上方から覆う屋根と、を備え、太陽光の主たる採光領域が前記屋根に制限され、
前記基礎構造は、
地中に一部が打ち込まれる複数の支持杭と、前記支持杭に支持され、前記幅方向に沿って設置される複数の支持管と、前記支持管に支持され、前記長手方向に沿って設置される複数の下支持管と、前記下支持管よりも上方に所定の間隔をあけて前記支持杭に支持され、前記長手方向に沿って設置される複数の上支持管と、を備え、前記基礎断熱層は、前記下支持管に支持され、
前記建物本体は、
前記上支持管に支持され、複数の前記柱を支持する複数の土台と、複数の前記土台に囲まれる領域に格子状に設けられる複数の大引と、複数の前記土台と複数の前記大引に当接して敷設される通気床パネルと、を備える、
ことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項2】
前記建物本体は、
前記屋根から取り入れた太陽光を、前記栽培空間内で反射させる反射層を前記本体断熱層に備えている、
請求項1に記載の農業用ハウス。
【請求項3】
前記基礎及び前記建物本体をなす構造部材が、木材からなる、
請求項1又は請求項2に記載の農業用ハウス。
【請求項4】
前記屋根は片流れ型の形態をなし、
前記屋根の表面が、南側を向くように配置される、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の農業用ハウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウスに関し、特に断熱性に優れ、さらに通気性に優れる農業用ハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農業用ハウスは、通気性を備え、外皮にはガラスやビニールシートが凡用されている。農業用ハウスは季節や雨などの天候にも左右されず作業ができて、ハウス内が温室のような環境になるので、冬でも種々の農作物、野菜や花弁類の栽培には好都合とされていた。
しかし従来型の農業用ハウスや温室は、金属製の鋼材やパイプを組み合わせて枠体をつくり、この枠体の外皮に樹脂製の透明なシート、例えばビニールシートを被覆し、あるいは、透明なガラスや樹脂系板などで覆われる構造を有している。
しかも、その枠体を金属製パイプで造る農業用ハウスにいたっては、パイプが細かいこと及び外皮のビニールシートも3〜5年で張り替えなければならないためメンテナンスにも費用がかかり、強風や竜巻、大雪などにも弱いので農業用ハウスとしての寿命が短いのも事実である。
そこで、特許文献1は、木材を基本の骨格構造として採用し、これと基礎部の特殊構造体を組み合わせることを提案している。これにより、農業用施設としての従来からの温室やビニールハウスよりも、高い断熱性能を有し、安価で寿命も長く、そして大型化も図れる農業用の木製ハウスが得られるものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−121908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の農業用ハウス・温室(以下、農業用ハウスと総称する)は、冬期に太陽熱で温められた室内の熱が、農業用ハウスを構成する部材を介して室外に放出されやすい。外皮に使用するガラスやビニールシート、また枠体を構成する鋼材や金属製のパイプは、熱伝導性が高いために、外気に接すると建物全体を介して熱を放出しやすく、そのために暖房に要するエネルギが大量に消費されているのが実情である。
これに対して、枠体が木材からなる、特許文献1の農業用ハウスは、木材は熱伝導性も低く、木材自体が持っている高い蓄熱性と調湿性も活かせるので、金属製の枠体に比べると、外部への熱の放出を大きく抑えることができる。
【0005】
ところが、本発明者の検討によると、枠体を木材にしただけでは、未だ外部への熱の放出を十分に抑えることができていない。
そこで本発明は、外部への熱の放出を十分に抑えることのできる高い断熱性能を有する農業用ハウスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、基礎と、基礎の上に設けられる建物本体と、を備え、内部に幅方向と長手方向を有する栽培空間を有し、農地の上に建てられる農業用ハウスであって、基礎は、基礎構造と、栽培空間及び基礎構造を取り囲むとともに、下方の一部が農地の地中に埋め込まれる基礎断熱層と、を備え、建物本体は、基礎の上に連なり、基礎構造に立設する複数の柱と、複数の柱の外側に配置される本体断熱層と、本体断熱層を介して栽培空間と仕切られる外壁と、外壁に連なり栽培空間を上方から覆う屋根と、を備え、太陽光の主たる採光領域が屋根に制限されることを特徴とする。
本発明の基礎構造は、地中に一部が打ち込まれる複数の支持杭と、支持杭に支持され、幅方向に沿って設置される複数の支持管と、支持管に支持され、長手方向に沿って設置される複数の下支持管と、下支持管よりも上方に所定の間隔をあけて支持杭に支持され、長手方向に沿って設置される複数の上支持管と、を備え、基礎断熱層は下支持管に支持される。
また、本発明の建物本体は、上支持管に支持され、複数の柱を支持する複数の土台と、複数の土台に囲まれる領域に格子状に設けられる複数の大引と、複数の土台と複数の大引に当接して敷設される通気床パネルと、を備える。
【0007】
本発明の農業用ハウスにおいて、建物本体は、屋根から取り入れた太陽光を、栽培空間内で反射させる反射層を側壁に備えることが好ましい。
また、本発明の農業用ハウスにおいて、基礎及び建物本体をなす構造部材が木材からなることが好ましい。
また、本発明の農業用ハウスにおいて、屋根は片流れ型の形態をなし、屋根の表面が南側を向くように配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、外部への熱の放出を十分に抑えることのできる高い断熱性を有する農業用ハウスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態における農業用ハウスを示し、(a)は正面図、(b)は背面図である。
図2図1の(a)は左側面図、(b)は右側面図である。
図3図1の農業用ハウスの横断面図である。
図4図1の農業用ハウスの設置手順を示し、断熱材を土台周りに付設する段階を示す横断面図である。
図5図1の農業用ハウスが備える通気床パネルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態係る農業用ハウス1に基づいて説明する。
本実施形態にかかる農業用ハウス1は、太陽光の入射のほとんどが屋根を介して行うとともに、基礎部分と外壁部分が高い断熱性能を備えていることを特徴としている。
農業用ハウス1は、図1及び図2に示すように、農地5の上に設けられるものであり、基礎10と、基礎10の上に設けられるユニット化された建物本体30と、を備えており、幅(幅方向)Wに対して長さ(長手方向)Lの寸法が大きい外観を有している。
農業用ハウス1は、それが設置される向きを特定することにより、片流れ型の屋根40が南面側を向くように農地5に施工されており、この屋根40が透過性の素材から構成されているので、太陽光の入射のほとんどがこの屋根40を介して行われる。
また、農業用ハウス1は、建物本体30の屋根40を除く側壁の部分が、遮光性及び断熱性を備える素材で構成されるとともに、基礎10が、農地5の地中に一部が埋め込まれる断熱層(基礎断熱層)23を備えることにより、外壁面において高い断熱性能を実現する。
【0011】
[農業用ハウス1の構成]
基礎10は、農業用ハウス1の建物荷重が軽いのでコストの高いコンクリート造りでなく、構造用単管Pの組み合わせを主体とし、耐久性・耐震性・耐風性にも十分耐えうる構造として、使用後もその撤去が容易な特殊鋼材構造の仕様として、施工も早くコストも安価なものとしている。
基礎10は、図2及び図3に示すように、構造用単管Pの組み合せ鋼材を用いた基礎構造11と、その周囲を取り囲むように配置される断熱層23と、を備える。
また、農業用ハウス1の内部に新鮮な空気を送り込むために機械換気だけではなく自然の力で供給するために開閉式の基礎ダンパー25も設置されている。
基礎構造11は、構造用単管Pの鋼材杭を所定位置まで農地5の地中に鉛直に打ち込んでなる複数の支持杭12と、支持杭12に設置される接続金具であるクランプにより支持される複数の支持管13と、下支持管14と、上支持管15と、が外周部に備えられる。
支持杭12は、農業用ハウス1の外周部、幅方向Wの両端部及び中央部の所定の位置に設けられるとともに、農業用ハウス1の長手方向Lにも所定の間隔をあけて同様に設けられる。
また、幅方向Wの支持管13は、下支持管14と、上支持管15と同じように上下ともに支持杭12によって固定設置されるが幅方向Wに沿って設けられる場合は、農業用ハウス1の出入口などで支障ある時は、その部分は地中などでつなぎがとれる施工方法として補強をしている。
農業用ハウス1の長手方向Lについては支持杭12に対応して下支持管14と上支持管15が、設けられている。
支持管13は、幅方向Wの両端部に設けられる支持杭12よりも、その両端が所定の寸法だけ幅方向Wの外側に突出しており、それぞれの突出部分の上面に構造用単管Pをその直径程度に短く切断してなる下支持管14が固定されている。また、下支持管14よりも上方に所定の間隔をあけて、下支持管14と同様の部材からなる上支持管15が支持杭12に固定されている。
このように、支持管13、下支持管14及び上支持管15は、外周部の支持杭12に対応する位置だけに設けられている。
また、外周部土台の下部には建物の荷重を支えるための鋼製の床束20が適所に付設されており、水平性を保つための調整機能は備わっているが、床束20は所定の沓石(くついし)21の上に設置して土台と固定することとしている。
【0012】
支持管13並びに下支持管14及び上支持管15には、所定の位置に図4(a)に示すように、建物本体30の土台と基礎断熱材を固定するために、特殊なL型金具が付いた接続金具(クランプ)16が、下支持管14の所定の位置に取り付けられ、基礎断熱材を固定するための受材である下地板18が固定される。また上支持管15にも接続金具17が所定の位置に取り付けられて、建物本体(ユニット化)30の土台19Aと緊結固定して建物本体30を順次組み立てていくものである。幅方向Wにおいても同様に特殊な接続金具16を取り付け、基礎用断熱材と土台とを緊結し建物本体(ユニット化)30を順次組み立てていくものである。下地板18及び土台19Aは木材からなり、それぞれが、長手方向Lと幅方向Wに沿って所定の位置に配置され取り付け固定される。
農業用ハウス1の中で、例えば水耕用栽培の設備を設置したり、培養土栽培のプランタを何段かに積み重ねて栽培したり、また、温室ハウス1を密閉モードにして害虫や雑菌が入らない温室にしてLED(発光ダイオード)と太陽光を併用して植物を栽培したりすることも可能である。その時は、土台19A,19Aに囲まれる領域の中に、複数の大引19B,19Bが格子状に設けられる。土台19A,大引19Bは、鋼製の床束20により支持される。床束20は、下端が農地5に固定された沓石21に支持され、上端が支持片22を介して土台19A,大引19Bを支持している。
なお、以下で説明する農業用ハウス1の構造部材は、特に素材に言及しない限り、木材からなものとする。
【0013】
基礎10は、その最外殻部分に、断熱層23が施工されている。断熱層23は、栽培空間2を取り囲むとともに、下方の一部が農地5の地中に埋め込まれており、地中から露出する他方端側が土台19Aと同等の高さまで立ち上がり、基礎構造11を取り囲んでいる。断熱層23には、適宜の位置に断熱層23の表裏を貫通する基礎ダンパー25が設けられている。
断熱層23は、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、フェノールフォーム、さらにはポリカーボネートを高倍率に発砲させたフォームなどの公知のパネルを組み合わせるなどして構成することができる。また、これらファームの表裏面に樹脂モルタルを塗布して、耐久性を高めることもできる。
【0014】
次に、建物本体30について説明する。
建物本体30は、横架材である土台19A,大引19B上に当接して敷設される通気床パネル50を備えている。通気床パネル50は締結具により横架材に直接固定されるものであり、建物本体30は剛床工法(根太レス工法)により施工される。
【0015】
通気床パネル50は、図5に示すように、3尺×6尺、1m×2m等の短辺と長辺との寸法比が1対2、板厚27mm以上の構造用合板で形成されるものである。通気床パネル50は、図5(a)に示すように、そのうら面52の周縁の近傍に、うら面52から所定の深さ(板厚の略半分程度)、寸法で作製した短溝状の通気用スリット溝53が規定の間隔で並置され、図5(b)に示すように、各通気用スリット溝53の縁端にはおもて面51まで達する半円形の切り欠き54が形成されている。同様にして、通気用スリット溝53と同じ深さ、所定の寸法で削成した長溝状(通気用スリット溝53の約2倍の長さ)の通気用スリット溝55が、通気床パネル50の裏面の中央部分に中心線に沿って既定の間隔で配置され、各通気用スリット溝55の中央には表面まで貫通する円形の貫通孔56が形成されている。
【0016】
図5(c)に、格子状に組み込まれた横架材(図中、想像線で示した大引19A等)上に通気床パネル50を敷設した状態の裏面図を示す。図に示すように、通気用スリット溝53は、両端辺及び両長辺に対称の位置に配置され、小口面を当接して敷設した場合、当接した通気床パネル50の通気用スリット溝53の開口位置が一致して連通するように配置され、切り欠き54が当接して円形の貫通孔が形成される。
通気性パネル50の上には、例えば水耕栽培用のプラント設備や培養土栽培用のプランタを何段かにして栽培する。また農業用ハウス1を密閉モードにして害虫や雑菌が入らない無菌室のようにしてLEDと太陽光を併用して栽培したりすることも可能である。
【0017】
建物本体30は、土台19Aに複数の柱31と間柱、さらに耐力壁(筋交又は面材)(31A,31B)を架設し、その外側に断熱層(本体断熱層)33を隙間なく張り、断熱層33の外側に通気用の胴縁34を付設して、胴縁34の外側に外壁(材)35を隙間なく施工している。幅方向Wに並ぶ一対の柱31A,31Bの上端部には、桁36A,36Bが施工され、また、幅方向Wに沿う梁37が、長手方向Lに所定の間隔をあけて設けられている。断熱層33は、基礎10の断熱層23と同様の素材で構成されているが、栽培空間2に臨む内側の面に光を反射させる層33Aが形成されている。この光反射層33Aは、栽培空間2に取り込まれた太陽光を反射することで、栽培空間2の内部に太陽光を漏れなく行きわたらせるために設けられる。光反射層としては、例えばアルミニウム箔を貼り付けることにより構成することができる。なお、断熱層33を断熱層23と異なる素材で構成してもよい。
桁36Aの上には、束38Aを介して母屋39Aが設けられており、また、梁37の上には、幅方向Wの中央に束38Bを介して桁39Bが設けられている。
【0018】
建物本体30は、図1及び図2に示すように、南・北を向く外壁35(南側面35S,北側面35N)の適宜の位置に換気用の開閉窓Wiが設けられている。また、建物本体30は、東・西を向く外壁35(正面35E,背面35W)のそれぞれには、作業のために作業者が出入りをするためのドアDoが設けられており、また、適宜の位置に換気扇Faが設けられている。
【0019】
屋根40は、図3に示すように、屋根垂木41が母屋39A,桁39B及び桁36Bに設けられる屋根垂木41と、屋根垂木41の上に隙間なく設けられる屋根外壁43と、を備えている。屋根外壁43は、太陽光を透過させる素材から構成されている。この素材としては、ポリカーボネート、アクリル、硬質塩化ビニールなどの樹脂、あるいは、ガラスを用いることができるが、価格、強度の観点からポリカーボネートを用いるのが最も好ましい。また、屋根外壁43は、偏平な素材から構成することができるが、折板形状の素材を用いることができる。
【0020】
屋根40は、図1及び図2に示すように、片流れの形態をなしており、農業用ハウス1はこの屋根40の表面である採光面44が南Sを向くように配置されている。農業用ハウス1は、太陽光を屋根40の採光面44を介して農業用ハウス1の栽培空間2に取り込む。屋根40の母屋39Aが設けられる側には、反射鏡46の反射面47が南Sを向いて設けられている。反射鏡46は、屋根40の採光面44を介して取り入れられた太陽光の一部を栽培空間2に向けて反射させるために設けられている。
本実施形態において、屋根40の傾斜角度θは任意であるが、夏季及び冬季のそれぞれにおける太陽の高度を考慮して、栽培空間2により多くの太陽光を取り込める角度を選択することが好ましい。
屋根40には、地域によっては換気用の開閉式の天窓Wiを設けることもできる。
【0021】
[効果]
次に、本実施形態の農業用ハウス1による効果を説明する。
始めに、農業用ハウス1による断熱性能について説明する。
国内の極寒地を除く地域では、一般の住宅は、その表面温度が夜間の放射冷却によって例えば−2℃になっても、住宅の内部は人が住んでいないとしても、4℃程度までしか温度が下がらない。これは、住宅の外装材や構造部材及び内装材、家具類が蓄熱材となるためである。ところが、同じ−2℃の外気に触れる農業用ハウスの場合は、外皮がガラスやビニールシートだけでは、夜間の放射冷却現象によって、外部への熱の流出を止めることができないので、−2℃までにはいかないにしろ、一般の住宅よりはかなり低い温度になってしまう。
そこで、農業用ハウス1は、基礎10に断熱層23を、また、建物本体30に断熱層33を備えているので、太陽が沈んだ後に外気が低くなったとしても、栽培空間2の内部の温度低下を最小限に抑えることができる。また、農業用ハウス1の屋根40は、基礎10や建物本体30に比べると放射冷却による熱の外部への流出は多いものの、従来の農業用ハウスのほぼ前周面がガラス等でなされているのに比べると、熱の流出量は極めて少なく、一般的に使用されている防寒シートも天井部分には前もって設置しておくことができる。しかも、本実施形態で用いるポリカーボネートは、ガラス、ビニールに比べて熱伝導率が低いので、熱の流出を極力抑えることができる。
【0022】
また、基礎10に設けられた断熱層23は、農業用ハウス1にとって極めて重要である。
農業用ハウス1は、夜間に外気温が下がると、栽培空間2の温度低下を避けるために、前もって屋根内側部分に設置されている天井用防寒シートを張ったりするが、温室は昼間の太陽熱を温室内に取得して、地面なども蓄熱体として熱を溜めるのが重要であり、外気や外部地面の冷熱などによって基礎部に温熱が吸収されて行くのを遮断し防ぐことができるからである。
外気温が−2℃になったことを前提とする本発明者の試算によると、冷熱を遮蔽しない場合には、取得できる地熱の温度が0〜7℃であるのに対して、本実施形態のように冷熱を遮蔽すれば、取得できる地熱の表面温度が7〜10℃となり、栽培空間2の温度を4〜10℃に維持することができる。
農業用ハウス1の優れた断熱性能は、その他にも土台19A、大引19B、柱31などの構造部材が木材からできているために、金属に比べると蓄熱効果が極めて大きく、気温の高い日中に貯える熱も温室内の温度管理にも寄与する。
また、基礎10の断熱層23の断熱材には撥水性があり地中に埋め込まれていることで、農業用ハウス1の周りの土壌に含まれる水分が、当該領域に浸透したり、領域内の水分が吸収されて発散されたりするのを防ぐことができる。農業にとって水分の確保及び水分量の調整は重要であり、断熱層23は、栽培空間2の温度維持に加えて、水分保持の管理にも効果を発揮する。
【0023】
次に、農業用ハウス1は、外壁35である正面35E、背面35W、南側面35S及び北側面35Nからの太陽光の入射を遮る一方、栽培空間2への採光を実質的には光を透過させる素材でできている屋根外壁43だけから行っている。
ここで、一般的な農業用ハウスは、栽培空間の空気が温まると、生育中の農作物を含む栽培空間2の中に存在するもののすべてが、栽培空間の気温と同じ温度になるので、例えば気温が35℃になれば農作物も35℃になってしまう。ところが、その農作物に太陽光が直接に当たると、農作物の表面温度はさらに高くなってしまうので、農作物は火傷を起こしてしまい、商品価値を失ってしまう。したがって、農業用ハウスの全周面が光透過性の素材で構成されていると、この火傷を起こす確率が格段に高くなる。そこで、本実施形態は、農業用ハウス1の上部にある屋根外壁43だけから採光するようにしている。しかも、断熱層33の内面に特殊な光反射層を設けることにより、採光した太陽光を栽培空間2の全体に漏れなく行きわたらせることによって、農作物の光合成を活性化させることができる。
日射の調整もあらかじめ天井部分に遮光カーテンを設けると、従来と同じように日射調整することも可能である。もっとも、農業用ハウス1によれば、遮光カーテンによる日射調整が必要な面積を少なくすることができる。
【0024】
次に、農業用ハウス1は、自然による換気・通気、通風にも優れている。つまり、基礎10の開閉式の基礎ダンパー25から流入した空気は、通気床パネル50の周縁に亘って配置された通気用スリット溝53及び切り欠き54を通って、通気床パネル50よりも上の栽培空間2へと流通する。この空気は屋根40の近くに設けられた開閉式の窓Wiから屋外へ排出される。このように、基礎空間内に流入した空気が自然対流により建物本体30内を流通するように、自然による通気性の向上も図られているので、万が一の自然災害による長期停電にも対応が可能である。
【0025】
以上、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、農業用ハウス1は通気床パネル50を用いた高床のフロアを備えるものであるが、フロアを備えないで、農地面に有機栽培ができる農業用ハウス1について本発明を適用することができる。
また、農業用ハウス1は、基礎部は建設予定地での現場施工とするが、建物本体30と基礎10の断熱層23は工場で生産し組立、いくつかのパーツに分けてユニット化し、そのユニットを現場に搬入して順次組み立て固定することができる。また、屋根40も同じく、プレカットの状態で搬入して、付設することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 農業用ハウス
2 栽培空間
5 農地
10 基礎
11 基礎構造
12 支持杭
13 支持管
14 下支持管
15 上支持管
16,17 接続金具
18 下地板
19A 土台
19B 大引
20 床束
21 沓石
22 支持片
23 断熱層
25 基礎ダンパー
30 建物本体
31,31A,31B 柱
33 断熱層
34 胴縁
35 外壁
35E 正面
35W 背面
35N 北側面
35S 南側面
36A,36B 桁
37 梁
38A,38B 束
39A 母屋
39B 桁
40 屋根
41 屋根垂木
43 屋根外壁
44 採光面
46 反射鏡
47 反射面
50 通気床パネル
51 おもて面
52 うら面
53,55 通気用スリット溝
56 貫通孔
P 構造用単管
Do ドア
Wi 開閉窓
図1
図2
図3
図4
図5