特許第6047617号(P6047617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6047617
(24)【登録日】2016年11月25日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】無線基地局
(51)【国際特許分類】
   H04W 72/04 20090101AFI20161212BHJP
   H04W 16/32 20090101ALI20161212BHJP
【FI】
   H04W72/04 111
   H04W16/32
   H04W72/04 136
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-77430(P2015-77430)
(22)【出願日】2015年4月6日
(62)【分割の表示】特願2014-214321(P2014-214321)の分割
【原出願日】2010年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-146630(P2015-146630A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2015年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2009-251669(P2009-251669)
(32)【優先日】2009年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-94500(P2010-94500)
(32)【優先日】2010年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001106
【氏名又は名称】キュリーズ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智春
(72)【発明者】
【氏名】沖野 健太
【審査官】 松野 吉宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−253832(JP,A)
【文献】 Motorola,Views on Macro-diversity,R2-051935,フランス,3GPP,2005年 8月26日,paragraph 3
【文献】 Fujitsu,Efficient HARQ Protocol for SIC based DL CoMP,R1-091958,フランス,3GPP,2009年 4月28日,paragraph 3
【文献】 Fujitsu,Efficient HARQ Protocol for SIC based DL CoMP,R1-092431,フランス,3GPP,2009年 6月23日,paragraph 3
【文献】 Fujitsu,Efficient HARQ Protocol for SIC based DL CoMP,R1-093154,フランス,3GPP,2009年 8月18日,paragraph 3
【文献】 Nortel,Inter eNB handover in a synchronous network,R2-071978,フランス,3GPP,2007年 5月 4日,paragraph 2.2
【文献】 Nortel,Inter eNB handover in a synchronous network,R2-072476,フランス,3GPP,2007年 6月22日,paragraph 2.2
【文献】 IPWireless,Contention-free Intra-LTE handover in synchronous network,R2-072518,フランス,3GPP,2007年 6月22日,paragraph 2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 − 7/26
H04W 4/00 − 99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1無線基地局と、第2無線基地局と、前記第1無線基地局及び前記第2無線基地局に接続し、前記第1無線基地局及び前記第2無線基地局との同時通信を行う二重接続通信を開始した無線端末と、を備えた無線通信システムにおける前記第1無線基地局であって、
前記無線通信システムでは、前記二重接続通信のために、前記第1無線基地局の第1スケジューラ及び前記第2無線基地局の第2スケジューラが夫々、前記無線端末に無線リソースを割り当て、
前記第1無線基地局は、
前記第2無線基地局の無線リソースの中から前記第2無線基地局が前記無線端末に割り当てた無線リソースを示す制御情報を、X2インターフェースを介して前記第2無線基地局から受信する手段と、
前記第2無線基地局から受信した前記制御情報を前記無線端末に送信する手段と、を備えることを特徴とする第1無線基地局。
【請求項2】
前記受信する手段は、前記制御情報を受信する際に、前記無線端末を識別する端末識別情報を前記第2無線基地局から受信することを特徴とする請求項1に記載の第1無線基地局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる種別の基地局が混合して使用される無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルラ方式の無線通信システムにおいては、広範なサービスエリアをセルと呼ばれる通信エリア単位に分割し、通信エリア内の無線端末との無線通信を受け持つ基地局を通信エリア毎に設置することで、広範なサービスエリアを面的にカバーしている。このような基地局としては、送信出力電力が大きい高電力基地局(いわゆる、マクロセル基地局)が使用されている。
【0003】
近年では、高電力基地局よりも送信出力電力が小さい低電力基地局(いわゆる、ピコセル基地局又はフェムトセル基地局)が注目されている。低電力基地局を高電力基地局のセル内に設置することで、高電力基地局の負荷を低電力基地局に分散させることが可能になる。なお、高電力基地局と低電力基地局とが混合して使用される無線通信環境はヘテロジーニアス環境(Heterogeneous Deployment)と称されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】3GPP R1-093433 “Uplink performance evaluation in heterogeneous deployment”
【発明の概要】
【0005】
ところで、無線端末と基地局との無線通信では、ユーザデータ以外に制御情報も送受信される。制御情報は無線端末と基地局との無線通信に必要な情報であるため、無線端末は、基地局からの制御情報を受信できないと、当該基地局との無線通信を行うことができない。
【0006】
ヘテロジーニアス環境においては、低電力基地局は制御情報の送信出力電力が小さいために、低電力基地局の近傍に位置する無線端末のみが低電力基地局との無線通信を行うことになる。すなわち、低電力基地局との無線通信が可能な無線端末は限定されていることから、基地局間での負荷分散が十分に図られないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、ヘテロジーニアス環境において基地局間での負荷分散を十分に図ることができる無線通信システム、低電力基地局、高電力基地局、無線端末、及び無線通信方法を提供することを目的とする。
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有している。まず、本発明の第1の特徴は、第1の基地局(例えば高電力基地局200)と、前記第1の基地局との通信が可能な第2の基地局(例えば低電力基地局100)とを有する無線通信システムであって、前記第2の基地局は、前記第1の基地局の通信エリア内にある無線端末(無線端末300)と前記第2の基地局との無線通信に必要な制御情報を、前記第1の基地局に送信し、前記第1の基地局は、前記第2の基地局から受信した前記制御情報を前記無線端末に送信し、前記無線端末は、前記第1の基地局から受信した前記制御情報を用いて、前記第2の基地局との無線通信を行うことを要旨とする。
【0009】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記第1の基地局は、高電力基地局であり、前記第2の基地局は、前記高電力基地局よりも送信出力電力が小さい低電力基地局であることを要旨とする。
【0010】
このような無線通信システムによれば、低電力基地局よりも送信出力電力が大きい高電力基地局が、低電力基地局に代わって、低電力基地局からの制御情報を無線端末に送信する。
【0011】
よって、無線端末は、低電力基地局からの制御情報を直接受信できない場合でも、低電力基地局からの制御情報を受信できる。すなわち、低電力基地局の近傍の無線端末以外の無線端末も低電力基地局との無線通信を行うことができる。
【0012】
したがって、本発明の特徴に係る無線通信システムは、ヘテロジーニアス環境において基地局間での負荷分散を十分に図ることができる。
【0013】
本発明の第3の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記第2の基地局は、前記第1の基地局が前記無線端末に前記制御情報を送信するタイミングを指定するタイミング指定情報を前記第1の基地局に送信し、前記第1の基地局は、前記第2の基地局から受信した前記タイミング指定情報により指定されたタイミングで前記制御情報を前記無線端末に送信することを要旨とする。
【0014】
本発明の第4の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記第1の基地局は、前記第2の基地局が前記第1の基地局に制御情報を送信するタイミングと、前記第1の基地局が前記無線端末に制御情報を送信するタイミングとの差を、前記第2の基地局に通知することを要旨とする。
【0015】
本発明の第5の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記第2の基地局は、前記無線端末を識別する端末識別情報を前記第1の基地局に送信し、前記端末識別情報は、前記第1の基地局から前記無線端末へ送信される前記制御情報の送信処理に用いられることを要旨とする。
【0016】
本発明の第6の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記無線端末が前記制御情報を前記第2の基地局から直接受信可能になった場合、前記第2の基地局は、前記制御情報の送信先を前記第1の基地局から前記無線端末に切り替え、前記無線端末が前記制御情報を前記第2の基地局から直接受信できなくなった場合、前記第2の基地局は、前記制御情報の送信先を前記無線端末から前記第1の基地局に切り替えることを要旨とする。
【0017】
本発明の第7の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記制御情報は、前記第2の基地局が前記無線端末から受信したデータの復号成否を示す確認応答情報を含むことを要旨とする。
【0018】
本発明の第8の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記制御情報は、前記第2の基地局が前記無線端末に割り当てた無線リソースを示すリソース割り当て情報を含むことを要旨とする。
【0019】
本発明の第9の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記第2の基地局は、前記無線端末において実行されるアプリケーションが低遅延の要求されるアプリケーションに切り替わったことを検知した場合に、前記無線端末の接続先を前記第1の基地局に切り替えるよう制御することを要旨とする。
【0020】
本発明の第10の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記第2の基地局は、低遅延の要求される第1のアプリケーションと低遅延の要求されない第2のアプリケーションとを前記無線端末が実行することを検知した場合に、前記第1のアプリケーションに対応する、前記無線端末の接続先を前記第1の基地局に切り替えるよう制御することを要旨とする。
【0021】
本発明の第11の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記第1の基地局は、低電力基地局であり、前記第2の基地局は、前記低電力基地局よりも送信出力電力が大きい高電力基地局であることを要旨とする。
【0022】
本発明の第12の特徴は、高電力基地局(高電力基地局200)よりも送信出力電力が小さい低電力基地局(低電力基地局100)であって、前記高電力基地局が形成する通信エリア(マクロセルC2)内に位置する無線端末(無線端末300)と前記低電力基地局との無線通信に必要な制御情報を前記高電力基地局に送信する基地局間通信部(有線通信部140)と、前記高電力基地局から前記制御情報を受信する前記無線端末との無線通信を行う無線通信部とを備えることを要旨とする。
【0023】
本発明の第13の特徴は、低電力基地局(低電力基地局100)よりも送信出力電力が大きい高電力基地局(高電力基地局200)であって、前記高電力基地局が形成する通信エリア(マクロセルC2)内に位置する無線端末(無線端末300)と前記低電力基地局との無線通信に必要な制御情報を前記低電力基地局から受信する基地局間通信部(有線通信部240)と、前記基地局間通信部が受信した前記制御情報を前記無線端末に送信する無線通信部(無線通信部210)とを備えることを要旨とする。
【0024】
本発明の第14の特徴は、低電力基地局(低電力基地局100)よりも送信出力電力が大きい高電力基地局(高電力基地局200)が形成する通信エリア(マクロセルC2)内に位置する無線端末(無線端末300)であって、前記無線端末と前記低電力基地局との無線通信に必要な制御情報を前記高電力基地局から受信し、受信した前記制御情報を用いて、前記低電力基地局との無線通信を行う無線通信部(無線通信部310)を備えることを要旨とする。
【0025】
本発明の第15の特徴は、第1の基地局が形成する通信エリア内に位置する無線端末と第2の基地局との無線通信に必要な制御情報を、前記第2の基地局から前記第1の基地局に送信するステップと、前記第1の基地局が、前記第2の基地局から受信した前記制御情報を前記無線端末に送信するステップと、前記無線端末が、前記第1の基地局から受信した前記制御情報を用いて、前記第2の基地局との無線通信を行うステップとを有することを要旨とする。
【0026】
本発明によれば、ヘテロジーニアス環境において基地局間での負荷分散を十分に図ることができる無線通信システム、低電力基地局、高電力基地局、無線端末、及び無線通信方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1実施形態に係る無線通信システムの概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る無線端末に関連する通信チャネルを説明するための図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る低電力基地局の構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る高電力基地局の構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る無線端末の構成を示すブロック図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る無線通信システムのPUSCH送信に係る動作の流れを示す動作シーケンス図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る無線端末の構成を示すブロック図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る低電力基地局の構成を示すブロック図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る高電力基地局の構成を示すブロック図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る無線通信システムの動作を説明するための概略シーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の各実施形態における図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0029】
[第1実施形態]
第1実施形態においては、(1)無線通信システムの概略構成、(2)無線通信システムの詳細構成、(3)無線通信システムの動作、(4)実施形態の効果の順に説明する。
【0030】
(1)無線通信システムの概略構成
図1は、第1実施形態に係る無線通信システム1の概略構成図である。無線通信システム1は、例えば、第3.9世代(3.9G)セルラ無線通信システムであるLTE(Long Term Evolution) Release 9に基づく構成、または、第4世代(4G)セルラ無線通信システムとして位置づけられているLTE-Advancedに基づく構成を有する。以下においては、LTE Release 9及びLTE-AdvancedをLTEと総称する。
【0031】
無線通信システム1は、低電力基地局(低出力電力基地局あるいは小出力基地局)100、高電力基地局(高出力電力基地局あるいは大出力基地局)200、及び無線端末300を有する。低電力基地局100は、高電力基地局200よりも送信出力電力が小さい基地局である。低電力基地局100は、高電力基地局200の負荷を分散させることを主な目的として、マクロセルC2内に設置される。なお、LTEにおいて基地局はeNBと称され、無線端末はUE(User Equipment)と称される。
【0032】
第1実施形態では、低電力基地局100は、半径が数十から百m程度の通信エリアであるピコセルC1を形成するピコセル基地局である。なお、ピコセルは、ホットゾーンとも称される。また、高電力基地局200は、半径が数百m〜数km程度の通信エリアであるマクロセルC2を形成するマクロセル基地局である。このように、無線通信システム1では、ヘテロジーニアス環境が提供されている。
【0033】
低電力基地局100には、無線端末300が接続している。すなわち、第1実施形態において低電力基地局100は、無線端末300の接続先基地局(サービング基地局)である。
【0034】
一般的に、無線端末300での受信電力が最も大きい無線信号を送信する基地局が無線端末300の接続先として選択される。第1実施形態では、そのような受信電力を基準に接続先を選択する手法(以下、RP基準)ではなく、無線端末300との間の伝搬損失が最も小さい基地局を無線端末300の接続先基地局(サービング基地局)として選択する手法(以下、PL基準)を採用している。図1において、ピコセルC1は、RP基準での通信エリアを例示しているが、PL基準では図1よりもピコセルC1が論理的に拡大される。PL基準は、RP基準と比較して上りリンクの通信性能を最大限に高めることができる。
【0035】
低電力基地局100及び高電力基地局200は、有線通信網であるコアネットワーク10に接続されている。コアネットワーク10は通信事業者によって提供され、図示を省略するルータ等により構成される。低電力基地局100及び高電力基地局200は、コアネットワーク10に設定される論理的な通信路であるコネクションを介して直接的に基地局通信を行うことができる。当該コネクションはLTEにおいてX2インターフェースと称される。
【0036】
図2は、無線端末300に関連する通信チャネルを説明するための図である。
【0037】
無線端末300と低電力基地局100との間の上りリンクには、制御情報が伝送される上り制御チャネル(PUCCH: Physical Uplink Control CHannel)と、ユーザデータが伝送される上り共有チャネル(PUSCH: Physical Uplink Shared CHannel)とが設定されている。無線端末300と低電力基地局100との間の下りリンクには、ユーザデータが伝送される下り共有チャネル(PDSCH: Physical Downlink Shared CHannel)が設定されている。無線端末300と高電力基地局200との間の下りリンクには、制御情報が伝送される下り制御チャネル(PDCCH: Physical Downlink Control CHannel)及びハイブリッド自動再送制御(HARQ)インジケータチャネル(PHICH)が設定されている。HARQの詳細については後述する。
【0038】
このように、第1実施形態に係る無線端末300は、上り・下りのユーザデータをPDSCH及びPUSCHを介して低電力基地局100と送受信し、下りリンクの無線通信を制御するための制御情報をPUCCHを介して低電力基地局100に送信し、上りリンクの無線通信を制御するための制御情報をPDCCHを介して高電力基地局200から受信する。
【0039】
このような仕組みを実現するために、低電力基地局100、高電力基地局200、及び無線端末300は、次の動作を行う。具体的には、低電力基地局100は、無線端末300と低電力基地局100との間の上りリンクの無線通信に必要な制御情報をX2インタフェースを介して高電力基地局200に送信する。高電力基地局200は、低電力基地局100から受信した制御情報をPDCCH又はPHICHを介して無線端末300に送信する。無線端末300は、高電力基地局200から受信した制御情報を用いて、上りユーザデータをPUSCHを介して低電力基地局100に送信する。
【0040】
このように、低電力基地局100よりも送信出力電力が大きい高電力基地局200が、低電力基地局100に代わって、低電力基地局100からの制御情報を無線端末300に送信する。よって、無線端末300は、低電力基地局100からの制御情報を直接受信できない場合でも、低電力基地局100からの制御情報を受信できる。なお、PDSCHを介して送信される下りユーザデータについては、適応変調制御やHARQ、セル間干渉制御(ICIC)により無線端末300が低電力基地局100から直接受信できる。以下においては、PUSCH送信に係る一連の動作を主として説明する。
【0041】
(2)無線通信システムの詳細構成
次に、無線通信システム1の詳細構成について説明する。具体的には、(2.1)低電力基地局の構成、(2.2)高電力基地局の構成、(2.3)無線端末の構成について説明する。ただし、本発明に関連する構成について説明する。
【0042】
(2.1)低電力基地局の構成
図3は、低電力基地局100の構成を示すブロック図である。図3に示すように、低電力基地局100は、アンテナ部101、無線通信部110、制御部120、記憶部130、及び有線通信部140を有する。
【0043】
無線通信部110は、例えば無線周波数(RF)回路やベースバンド(BB)回路等を用いて構成され、無線端末300と無線信号の送受信を行う。また、無線通信部110は、送信信号の変調と受信信号の復調とを行う。
【0044】
制御部120は、例えばCPUを用いて構成され、低電力基地局100が具備する各種の機能を制御する。記憶部130は、例えばメモリを用いて構成され、低電力基地局100の制御等に用いられる各種の情報を記憶する。有線通信部140は、コアネットワーク10を介して他の装置との通信を行う。
【0045】
第1実施形態において有線通信部140は、無線端末300と低電力基地局100との無線通信に必要な制御情報を高電力基地局200に送信する基地局間通信部に相当する。無線通信部110は、高電力基地局200から制御情報を受信する無線端末300との無線通信を行う。
【0046】
制御部120は、スケジューリング部121、HARQ処理部122、タイミング決定部123、端末情報管理部124、及び送信先切り替え部125を有する。
【0047】
スケジューリング部121は、プロポーショナルフェアネス等のスケジューリングアルゴリズムに従い、PUSCH及びPDSCHそれぞれの無線リソースを無線端末300に割り当てる。無線リソースは、周波数及び時間の組み合わせにより規定される。スケジューリング部121は、無線端末300に割り当てた無線リソースを示す情報をスケジューリング情報として生成する。スケジューリング情報は、制御情報の一つであり、リソース割り当て情報に相当する。
【0048】
HARQ処理部122は、HARQに従った再送制御を行う。上りリンクの通信では、HARQ処理部122は、PUSCHを介して無線端末300から受信したデータを復号し、復号に成功すれば肯定応答(Ack)を、復号に失敗すれば否定応答(Nack)を生成する。HARQ処理部122は、復号に失敗した場合には、復号に失敗したデータを破棄せずに保持しておき、保持しているデータと無線端末300からPUSCHを介して再送されたデータとを合成する。以下においては、Ack又はNackをAck/Nack情報と称する。Ack/Nack情報は、制御情報の一つであり、確認応答情報に相当する。
【0049】
有線通信部140は、スケジューリング部121によって生成されたスケジューリング情報と、HARQ処理部122によって生成されたAck/Nack情報とを、X2インタフェースを介して高電力基地局200に送信する。
【0050】
タイミング決定部123は、高電力基地局200が無線端末300に制御情報(スケジューリング情報、Ack/Nack情報)を送信するタイミング(以下、制御情報送信タイミング)を決定する。具体的には、タイミング決定部123は、高電力基地局200との間のX2インタフェースの遅延時間を予め把握しており、当該遅延時間に所定時間を加えた結果を制御情報送信タイミングとして決定する。無線端末300は、制御情報を受信してから規定時間(例えば4サブフレーム)の経過時に送信を行うため、低電力基地局100は、制御情報送信タイミングから規定時間の経過時に受信を行うことが保証される。
【0051】
なお、高電力基地局200との間のX2インタフェースの遅延時間に揺らぎ(ジッタ)がある場合には、タイミング決定部123は、当該遅延時間を周期的に測定し、測定値に基づいて制御情報送信タイミングを決定してもよい。あるいは、タイミング決定部123は、高電力基地局200との間のX2インタフェースの遅延時間の上限値(仕様で定められた上限の値)に基づいて制御情報送信タイミングを決定してもよい。
【0052】
タイミング決定部123は、決定した制御情報送信タイミングを示すタイミング指定情報を生成する。有線通信部140は、スケジューリング情報及び/又はAck/Nack情報を高電力基地局200に送信するとともに、タイミング決定部123によって生成されたタイミング指定情報をX2インタフェースを介して高電力基地局200に送信する。
【0053】
端末情報管理部124は、無線端末300に関する情報を管理する。具体的には、端末情報管理部124は、無線端末300を識別する端末識別情報を記憶部130に記憶させている。ここで、端末識別情報は、無線端末300に送信される制御情報の復号に用いられる。このため、有線通信部140は、スケジューリング情報及び/又はAck/Nack情報と、タイミング指定情報とに加え、端末情報管理部124が管理する端末識別情報をX2インタフェースを介して高電力基地局200に送信する。これらの各情報は、1つのメッセージに含めて送信する場合に限らず、複数のメッセージにより送信してもよい。
【0054】
なお、タイミング指定情報は、制御情報送信タイミングに相当するフレーム番号やサブフレーム番号を指定するといった絶対指定に限らず、高電力基地局200が制御情報を受信してから何サブフレーム後に当該制御情報を送信するよう指定するといった相対指定であってもよい。
【0055】
送信先切り替え部125は、無線端末300が制御情報を低電力基地局100から直接受信可能になった場合、制御情報の送信先を高電力基地局200から無線端末300に切り替える。また、送信先切り替え部125は、無線端末300が制御情報を低電力基地局100から直接受信できなくなった場合、制御情報の送信先を無線端末300から高電力基地局200に切り替える。ここで、無線端末300が制御情報を低電力基地局100から直接受信できるか否かの判断は、無線端末300から報告されるチャネル品質情報に基づいて行うことができる。チャネル品質情報とは、無線端末300が低電力基地局100から受信する無線信号(具体的には、参照信号)の受信電力を示す値、又は、当該無線信号のSINRを示す値等を意味する。
【0056】
(2.2)高電力基地局の構成
図4は、高電力基地局200の構成を示すブロック図である。図4に示すように、高電力基地局200は、アンテナ部201、無線通信部210、制御部220、記憶部230、及び有線通信部240を有する。
【0057】
無線通信部210は、例えばRF回路やBB回路等を用いて構成され、無線端末300に対する制御情報の送信を行う。また、無線通信部210は、送信信号の符号化及び変調と、受信信号の復調及び復号とを行う。
【0058】
制御部220は、例えばCPUを用いて構成され、高電力基地局200が具備する各種の機能を制御する。記憶部230は、例えばメモリを用いて構成され、高電力基地局200の制御等に用いられる各種の情報を記憶する。
【0059】
第1実施形態において有線通信部240は、X2インタフェースを用いて低電力基地局100との基地局間通信を行う基地局間通信部に相当する。有線通信部240は、高電力基地局200が形成するマクロセルC2内に位置する無線端末300と低電力基地局100との無線通信に必要な制御情報を低電力基地局100から受信する。無線通信部210は、有線通信部240が受信した制御情報をPDCCHを介して無線端末300に送信する。
【0060】
制御部220は、無線端末300に対する制御情報の送信を制御する制御情報送信制御部221を有する。
【0061】
制御情報送信制御部221は、低電力基地局100からX2インタフェースを介して受信したタイミング指定情報により指定されたタイミング(サブフレーム)で制御情報を無線端末300に送信する。このため、制御情報送信制御部221は、タイミング指定情報により指定されたタイミングになるまで、制御情報を記憶部230に一時的に記憶させておく。
【0062】
制御情報送信制御部221は、低電力基地局100からX2インタフェースを介して受信した端末識別情報を用いて、無線端末300に送信する制御情報をPDCCH及び/又はPHICHとして割り当てる。ここで、端末識別情報は、スクランブル及びPDCCH/PHICHのリソース(時間・周波数)割り当てに使用される。すなわち、第1実施形態において端末識別情報が使用される送信処理とは、スクランブル及びPDCCH/PHICHのリソース割り当てを意味する。
【0063】
制御情報送信制御部221は、制御情報のうちスケジューリング情報については、PDCCHを介して無線端末300に送信する。一方、制御情報のうちAck/Nack情報については、制御情報送信制御部221は、PHICHを介して無線端末300に送信する。
【0064】
(2.3)無線端末の構成
図5は、無線端末300の構成を示すブロック図である。図5に示すように、無線端末300は、アンテナ部301、無線通信部310、制御部320、記憶部330、及びバッテリ340を有する。
【0065】
無線通信部310は、例えばRF回路やBB回路等を用いて構成され、無線信号の送受信を行う。また、無線通信部310は、送信信号の符号化及び変調と、受信信号の復調及び復号とを行う。
【0066】
第1実施形態では、無線通信部310は、無線端末300と低電力基地局100との無線通信に必要な制御情報を高電力基地局200から受信し、受信した制御情報を用いて、低電力基地局100との無線通信を行う。
【0067】
制御部320は、例えばCPUを用いて構成され、無線端末300が具備する各種の機能を制御する。記憶部330は、例えばメモリを用いて構成され、無線端末300の制御等に用いられる各種の情報を記憶する。バッテリ340は、無線端末300の各ブロックに供給する電力を蓄える。
【0068】
制御部320は、制御情報復号部321、HARQ処理部322、及びデータ送信制御部323を有する。
【0069】
記憶部330には無線端末300の端末識別情報が予め記憶されており、制御情報復号部321は、無線通信部310が受信した制御情報を当該端末識別情報を用いて復号する。
【0070】
HARQ処理部322は、HARQに従った再送制御を行う。HARQ処理部122は、1つのHARQプロセスについて、Ack/Nack情報に応じて再送処理を繰り返す。再送処理には、誤り訂正符号化(ターボ符号化等)の処理が含まれる。LTEでは、複数のHARQプロセスを平行して実行可能である。すなわち、1つのHARQプロセスが完了する前に、次のHARQプロセスを開始できる。
【0071】
データ送信制御部323は、低電力基地局100に対するユーザデータの送信を制御する。データ送信制御部323は、スケジューリング情報によって示されるPUSCHの無線リソースを用いてデータ送信を行う。
【0072】
(3)無線通信システムの動作
次に、PUSCH送信に係る無線通信システム1の動作の流れについて、図6を参照しながら説明する。
【0073】
ステップS101において、無線端末300の無線通信部310は、サウンディング用参照信号(SRS)、及びバッファ状態レポート(BSR)を低電力基地局100に送信する。低電力基地局100の無線通信部110は、SRS及びBSRを受信する。SRSは、無線端末300と低電力基地局100との間の上りリンクのチャネル品質を低電力基地局100で測定するために使用される。BSRは、無線端末300の記憶部330のバッファ領域に存在する上りユーザデータの量(以下、上りバッファ量)を低電力基地局100に報告するメッセージである。上りバッファ量が多いということは、低電力基地局100に送信すべきユーザデータが多いことを意味しており、無線リソースを優先して割り当てる必要がある。
【0074】
ステップS102において、低電力基地局100のスケジューリング部121は、BSRが示す上りバッファ量を考慮しつつ、プロポーショナルフェアネス等のスケジューリングアルゴリズムに従って、無線リソースを無線端末300に割り当てる処理であるスケジューリングを行う。
【0075】
ステップS103において、高電力基地局200の有線通信部140は、スケジューリング部121によって生成されたスケジューリング情報をX2インタフェースを介して高電力基地局200に送信する。その際、有線通信部140は、タイミング指定情報及び端末識別情報も高電力基地局200に送信する。高電力基地局200の有線通信部240は、スケジューリング情報、タイミング指定情報、及び端末識別情報を受信する。
【0076】
ステップS104において、高電力基地局200の無線通信部210は、PDCCHを介してスケジューリング情報を無線端末300に送信する。無線端末300の無線通信部310は、PDCCHを介してスケジューリング情報を受信する。
【0077】
スケジューリング情報の受信から規定時間(4サブフレーム)経過後のステップS105において、無線端末300の無線通信部310は、スケジューリング情報によって示される無線リソースを用いて、PUSCHを介してユーザデータを低電力基地局100に送信する。低電力基地局100の無線通信部110は、PUSCHを介してユーザデータを受信する。
【0078】
ステップS106において、低電力基地局100のHARQ処理部122は、無線通信部110が受信したユーザデータを復号する。その際、HARQ処理部122は、必要に応じて、保存されているデータとの合成等を行う。
【0079】
ステップS107において、低電力基地局100の有線通信部140は、HARQ処理部122によって生成されたAck/Nack情報を、X2インタフェースを介して高電力基地局200に送信する。その際、有線通信部140は、タイミング指定情報及び端末識別情報も高電力基地局200に送信する。高電力基地局200の有線通信部240は、Ack/Nack情報、タイミング指定情報、及び端末識別情報をX2インタフェースを介して受信する。
【0080】
ステップS108において、高電力基地局200の無線通信部210は、PHICHを介してAck/Nack情報を無線端末300に送信する。無線端末300の無線通信部310は、PHICHを介してAck/Nack情報を受信する。
【0081】
ステップS109において、無線端末300の無線通信部310は、Nack受信時等、再送が必要である場合には、Nackに対応する再送データをPUSCHを介して低電力基地局100に送信する。
【0082】
なお、X2インタフェースでの遅延時間に起因して、図6のD1に示すようなスケジューリング遅延と、図6のD2に示すようなHARQ遅延とが生じることになるが、HARQプロセス数を増加させることで、スループットの低下を回避できる。
【0083】
(4)実施形態の効果
以上説明したように、無線通信システム1は、ヘテロジーニアス環境において基地局間での負荷分散を十分に図ることができる。
【0084】
また、無線通信システム1において、高電力基地局200は、低電力基地局100から受信したタイミング指定情報により指定されたタイミングで制御情報を無線端末300に送信する。
【0085】
これにより、X2インタフェースの遅延が変化する場合でも、指定されたタイミングまで高電力基地局200が制御情報の送信を待つことができ、X2インタフェースの遅延の揺らぎ(ジッタ)を吸収できるため、低電力基地局100は、予定のタイミングで無線端末300との無線通信を行うことができる。
【0086】
無線通信システム1において、低電力基地局100は、無線端末300を識別する端末識別情報を高電力基地局200に送信し、端末識別情報は、高電力基地局200から無線端末300へ送信される制御情報の復号に用いられる。
【0087】
これにより、本来の送信元である低電力基地局100とは異なる高電力基地局200が制御情報を送信する場合でも、無線端末300は、高電力基地局200から受信する制御情報を正常に復号できる。
【0088】
無線通信システム1において、無線端末300が制御情報を低電力基地局100から直接受信可能になった場合、低電力基地局100は、制御情報の送信先を高電力基地局200から無線端末300に切り替える。また、無線端末300が制御情報を低電力基地局100から直接受信できなくなった場合、低電力基地局100は、制御情報の送信先を無線端末300から高電力基地局200に切り替える。
【0089】
これにより、高電力基地局200を経由する経路と、高電力基地局200を経由しない経路とを適切に使い分けることができる。
【0090】
無線通信システム1において、制御情報は、低電力基地局100が無線端末300から受信したデータの復号成否を示すAck/Nackを含む。
【0091】
これにより、無線端末300が低電力基地局100からの制御情報を直接受信できない場合でも、上りリンクにおけるHARQを機能させることができる。
【0092】
無線通信システム1において、制御情報は、低電力基地局100が無線端末300に割り当てた無線リソースを示すリソース割り当て情報を含む。
【0093】
これにより、無線端末300が低電力基地局100からの制御情報を直接受信できない場合でも、上りリンク及び下りリンクにおけるスケジューリングを機能させることができる。
【0094】
[第2実施形態]
上述した第1実施形態においては、高電力基地局200が、低電力基地局100に代わって、低電力基地局100からの制御情報を無線端末300に送信していた。しかしながら、このような方法は、X2インタフェースの遅延を考慮すると、低電力基地局100に接続する複数の無線端末300のうち低電力基地局100からPDCCHを直接受信することが困難な全ての無線端末300に一様に適用する必要はない。
【0095】
第2実施形態では、低電力基地局100に接続する無線端末300であって低電力基地局100からPDCCHを直接受信することが困難な無線端末300のうち、低遅延(低RTT: Round Trip Time)の要求されるアプリケーション種別(トラフィック種別)の無線端末300に対し、接続先を低電力基地局100から高電力基地局200に切り替えるようにハンドオーバ制御を行う。なお、以下の第2実施形態では、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明を省略する。
【0096】
図7は、第2実施形態に係る無線端末300の構成を示すブロック図である。
【0097】
図7に示すように、無線端末300は、第1実施形態で説明した構成に加え、マイク350、スピーカ360、表示部370、操作部380、及びアプリケーション実行部324を有する。マイク350は、音声を音声信号に変換して制御部320に入力する。スピーカ360は、制御部320から入力される音声信号を音声に変換して出力する。表示部370は、制御部320から入力される画像信号に応じて画像を表示する。操作部380は、ユーザからの入力操作を受け付けて、入力操作に応じた操作信号を制御部320に入力する。
【0098】
アプリケーション実行部324は、操作部380からの操作信号に基づいて、アプリケーションを実行する。ここで、アプリケーションとは、例えば、音声通話アプリケーション、双方向ゲームアプリケーション、ファイルダウンロードアプリケーション、Web閲覧アプリケーション、又はメールアプリケーション等である。音声通話アプリケーションや双方向ゲームアプリケーション等のリアルタイム系アプリケーションは、低遅延の要求されるアプリケーションである。ファイルダウンロードアプリケーションや、Web閲覧アプリケーション、メールアプリケーション等の非リアルタイム系アプリケーションは、低遅延の要求されないアプリケーションである。第2実施形態では、アプリケーション実行部324が実行するアプリケーションが、非リアルタイム系アプリケーションからリアルタイム系アプリケーションに切り替えられるケースを想定する。
【0099】
第2実施形態では、無線通信部310は、アプリケーション実行部324が実行するアプリケーションのQoS(低遅延の要求度合い等)を示すQoS情報をバッファ状態レポート(BSR)に含めて低電力基地局100に送信する。
【0100】
図8は、第2実施形態に係る低電力基地局100の構成を示すブロック図である。
【0101】
図8に示すように、低電力基地局100は、第1実施形態で説明した構成に加え、ハンドオーバ制御部126を有する。ハンドオーバ制御部126は、無線通信部110が無線端末300から受信したBSRに含まれるQoS情報に基づいて、無線端末300のハンドオーバを制御する。第2実施形態では、ハンドオーバ制御部126は、無線端末300において実行されるアプリケーションがリアルタイム系アプリケーションに切り替わったことを検知した場合に、無線端末300の接続先を高電力基地局200に切り替えるよう制御する。
【0102】
図9は、第2実施形態に係る高電力基地局200の構成を示すブロック図である。
【0103】
図9に示すように、高電力基地局200は、第1実施形態で説明した構成に加え、スケジューリング部222及びHARQ処理部223を有する。スケジューリング部222は、無線端末300が高電力基地局200にハンドオーバした後、プロポーショナルフェアネス等のスケジューリングアルゴリズムに従い、PUSCH及びPDSCHそれぞれの無線リソースを無線端末300に割り当てる。HARQ処理部223は、無線端末300が高電力基地局200にハンドオーバした後、HARQに従った再送制御を行う。
【0104】
次に、第2実施形態に係る無線通信システムの動作について説明する。図10は、第2実施形態に係る無線通信システムの動作を説明するための概略シーケンス図である。図10のステップS210よりも前の段階において、無線端末300は、PDSCH、PUSCH及びPUCCHを低電力基地局100と設定し、PDCCHを高電力基地局200と設定しており、且つ、非リアルタイム系アプリケーションを実行しているとする。
【0105】
ステップS201において、無線端末300のアプリケーション実行部324は、実行するアプリケーションを非リアルタイム系アプリケーションからリアルタイム系アプリケーションに切り替える。
【0106】
ステップS202において、無線端末300の無線通信部310は、SRS及びBSRを低電力基地局100に送信する。ここで、BSRは、上述したQoS情報を含む。低電力基地局100の無線通信部110は、SRS及びBSRを受信する。
【0107】
ステップS203において、低電力基地局100のハンドオーバ制御部126は、BSRに含まれるQoS情報に基づき、無線端末300において実行されるアプリケーションがリアルタイム系アプリケーションに切り替わったことを検知する。例えば、QoS情報がQoSの高さを示す値である場合には、当該QoSの高さを示す値が閾値を超えたときに、リアルタイム系アプリケーションに切り替わったことを検知する。ハンドオーバ制御部126は、リアルタイム系アプリケーションに切り替わったことを検知した場合に、高電力基地局200へのハンドオーバを実行すると判定する。
【0108】
ステップS204において、低電力基地局100の有線通信部140は、X2インタフェースを介してハンドオーバ要求を高電力基地局200に送信する。高電力基地局200は、X2インタフェースを介してハンドオーバ要求を受信する。高電力基地局200の制御部120は、無線端末300の受け入れ可否を判定する。
【0109】
ステップS205において、高電力基地局200の有線通信部240は、無線端末300を受け入れ可と判定された場合に、その旨のハンドオーバ応答をX2インタフェースを介して低電力基地局100に送信する。低電力基地局100は、X2インタフェースを介してハンドオーバ応答を受信する。
【0110】
ステップS206において、低電力基地局100の無線通信部110は、ハンドオーバを指示するためのハンドオーバ指示を無線端末300に送信する。無線端末300は、ハンドオーバ指示を受信すると、ハンドオーバを実行する。
【0111】
ハンドオーバ後において、無線端末300は、PDSCH、PUSCH、PDCCH及びPUCCHを高電力基地局200と設定し、且つ、リアルタイム系アプリケーションを実行する。
【0112】
以上説明したように、第2実施形態によれば、低電力基地局100に接続する無線端末300であって低電力基地局100からPDCCHを直接受信することが困難な無線端末300のうち、低遅延の要求されるアプリケーション種別の無線端末300については、高電力基地局200に接続するように制御することによって、当該無線端末300のアプリケーション品質が低下する可能性を低減できる。
【0113】
なお、第2実施形態では、低電力基地局100は、BSRに含まれるQoS情報を判断基準としていたが、同様のQoS情報が低電力基地局100の上位装置(具体的には、MME: Mobility Management Entity)から取得可能である場合、BSRに含まれるQoS情報に代えて、MMEから取得したQoS情報を判断基準としてもよい。
【0114】
[第2実施形態の変更例]
第2実施形態においては、無線端末300の接続先を1つとしていたが、将来的には、無線端末300が複数の無線基地局を接続先とし、複数の無線基地局と同時に無線通信を行うことが可能になる可能性もある。
【0115】
本変更例においては、無線端末300のアプリケーション実行部324は、複数のアプリケーションを同時実行可能に構成される。低電力基地局100のハンドオーバ制御部126は、リアルタイム系アプリケーションと非リアルタイム系アプリケーションとを無線端末300が実行することを検知した場合に、リアルタイム系アプリケーションに対応する、無線端末300の接続先を高電力基地局200に切り替えるよう制御する。すなわち、非リアルタイム系アプリケーションに対応する、無線端末300の接続先は低電力基地局100のまま維持される。
【0116】
その結果、リアルタイム系アプリケーションに係るリソーススケジューリングは高電力基地局200が行い、非リアルタイム系アプリケーションに係るリソーススケジューリングは低電力基地局100が行うことになる。非リアルタイム系アプリケーションについては、第1実施形態と同様に、高電力基地局200が、低電力基地局100に代わって、低電力基地局100からの制御情報を無線端末300に送信する。
【0117】
[第3実施形態]
上述した各実施形態では、高電力基地局200は、低電力基地局100から受信したタイミング指定情報により指定されたタイミングで制御情報を無線端末300に送信していた。また、低電力基地局100は、当該指定タイミングにおいて、下りユーザデータを無線端末300へ送る、又は無線端末300が送ってくる上りユーザデータを受信し、当該指定タイミングから規定のサブフレーム後において、無線端末300からフィードバックされる下りユーザデータのACK/NACK情報を受信していた。
【0118】
このように、上述した各実施形態では、低電力基地局100が制御情報を高電力基地局200に送信してから、高電力基地局200が当該制御情報を無線端末300に送信するまでのタイミング差は、低電力基地局100によって決定及び指定されていた。
【0119】
第3実施形態では、低電力基地局100が制御情報を高電力基地局200に送信してから、高電力基地局200が当該制御情報を無線端末300に送信するまでのタイミング差を、高電力基地局200によって決定及び指定する。すなわち、第3実施形態では、上述した各実施形態に係るタイミング決定部が高電力基地局200に設けられる。
【0120】
高電力基地局200は、低電力基地局100との間のX2インタフェースの遅延時間を予め把握しており、当該遅延時間に所定時間を加えた結果を、上記タイミング差として決定する。なお、低電力基地局100との間のX2インタフェースの遅延時間に揺らぎ(ジッタ)がある場合には、高電力基地局200は、当該遅延時間を周期的に測定し、測定値に基づいて上記タイミング差を決定してもよい。あるいは、高電力基地局200は、低電力基地局100との間のX2インタフェースの遅延時間の上限値(仕様で定められた上限の値)に基づいて上記タイミング差を決定してもよい。高電力基地局200は、決定したタイミング差を示すタイミング指定情報を生成して小出力基地局100に通知する。
【0121】
[第4実施形態]
上述した各実施形態では、低電力基地局100の通信エリア範囲(カバレッジ)が拡大された状況下で、低電力基地局100から無線端末300への制御情報を、高電力基地局200経由で無線端末300に送信することによって、無線端末300が当該制御情報を良好に受信可能にする形態を説明した。これにより、無線端末300を低電力基地局100に優先的に接続可能にしていた。
【0122】
しかしながら、高速移動する無線端末300等については、低電力基地局100に接続しても直ぐにハンドオーバしてしまうため、高電力基地局200に優先的に接続させることが望ましい。例えば、高電力基地局200に接続し、且つ高速移動する無線端末300が、低電力基地局100に近づいても、高電力基地局200に接続したままにする形態が想定される。そのような形態は、上述した各実施形態における低電力基地局100と高電力基地局200との関係を入れ替えることで実現できる。
【0123】
具体的には、高電力基地局200は、無線端末300と高電力基地局200との間の上りリンクの無線通信に必要な制御情報をX2インタフェースを介して低電力基地局100に送信する。低電力基地局100は、高電力基地局200から受信した制御情報をPDCCH又はPHICHを介して無線端末300に送信する。無線端末300は、低電力基地局100から受信した制御情報を用いて、上りユーザデータをPUSCHを介して高電力基地局200に送信する。
【0124】
このような通信方法を適用することで、次のような通信チャネル設定が可能になる。無線端末300と高電力基地局200との間の上りリンクには、制御情報が伝送される上り制御チャネル(PUCCH)と、ユーザデータが伝送される上り共有チャネル(PUSCH)とが設定される。無線端末300と高電力基地局200との間の下りリンクには、ユーザデータが伝送される下り共有チャネル(PDSCH)が設定される。無線端末300と低電力基地局100との間の下りリンクには、制御情報が伝送される下り制御チャネル(PDCCH)及びハイブリッド自動再送制御(HARQ)インジケータチャネル(PHICH)が設定される。
【0125】
このように、第4実施形態に係る無線端末300は、上り・下りのユーザデータをPDSCH及びPUSCHを介して高電力基地局200と送受信し、下りリンクの無線通信を制御するための制御情報をPUCCHを介して高電力基地局200に送信し、上りリンクの無線通信を制御するための制御情報をPDCCHを介して低電力基地局100から受信する。
【0126】
[その他の実施形態]
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
【0127】
例えば、上述した各実施形態では、基地局間通信が有線通信であるケースを例示したが、基地局間通信を無線通信としてもよい。
【0128】
上述した各実施形態では、低電力基地局がピコセル基地局(ホットゾーン基地局)であるケースを例示したが、低電力基地局が、ピコセル基地局よりも送信出力電力が小さいフェムトセル基地局(ホームeNB)であってもよい。
【0129】
上述した各実施形態では、低電力基地局100が、上りリンク及び下りリンクの両リンクのサービング基地局であるケースを例示した。しかしながら、今後、上りリンクと下りリンクとで異なる基地局をサービング基地局にできるようになる可能性がある。そのようなケースでは、上りリンクのサービング基地局を低電力基地局100とし、下りリンクのサービング基地局を高電力基地局200としてもよい。上りリンクと下りリンクとで異なる基地局をサービング基地局とするケースにも本発明は適用可能である。
【0130】
上述した各実施形態では、接続先の選択基準としてPL基準を採用していたが、PL基準に限定されるものではなく、RP基準等の他の選択基準を採用してもよい。
【0131】
上述した各実施形態では特に触れなかったが、アンテナ部101、アンテナ部201、及びアンテナ部301は、SIMO(Single Input Multiple Output)若しくはMIMO(Multiple Input Multiple Output)通信を実行するために複数のアンテナを含んでいてもよい。
【0132】
このように本発明は、ここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【0133】
なお、日本国特許出願第2009−251669号(2009年11月2日出願)及び第2010−094500号(2010年4月15日出願)の全内容が、参照により、本願明細書に組み込まれている。
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上のように、本発明に係る無線通信システム、低電力基地局、高電力基地局、無線端末、及び無線通信方法は、ヘテロジーニアス環境において基地局間での負荷分散を十分に図ることができるため、移動体通信などの無線通信において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10