(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明をハイブリッド自動車用のリチウムイオン二次電池に適用した実施形態を図面を参照して説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1および
図2に示すように、薄型リチウムイオン二次電池は、外観が略直方体の薄型形状を呈している。この二次電池は、有底の金属製の電池缶1と、電池缶1の開口部に輪郭が合致する平板状の金属製の電池蓋2とを有している。電池缶1は、例えばアルミニウム合金の素材から、一対の幅広面1Wと、一対の細長い幅狭面1Nと、底面1Bとを有する薄型直方体に作製される。
【0013】
電池蓋2は本例ではアルミニウム合金製である。電池蓋2は、その外周輪郭が電池缶1の開口部10の内周部にレーザ(ビーム)溶接で接合され、電池缶1の開口部10が封止される。電池缶1と電池蓋2により電池外装容器が構成される。
【0014】
電池蓋2の中央には、電池外装容器内の圧力が上昇したときに予め設定された圧力で開裂し、ガスを外部放出するためのガス排出弁3が設けられている。ガス排出弁3は、電池蓋2と略同一の金属材で構成した薄膜部材であり、レーザ溶接等により電池蓋2に接合されている。
【0015】
電池外装容器の内部空間には、包袋状の絶縁シート12が収容され、捲回型電極群6は絶縁シート12内に収容されている。これによって、電池外装容器に対して捲回型電極群6が絶縁されている。さらに、電池外装容器内には、電解液等が収納されている。
なお、本実施形態の二次電池は、電池缶1および電池蓋2が極性を持たない中性である。
【0016】
図3Aに示すように、捲回型電極群6は、帯状のセパレータ6C、帯状の負極板6E、帯状のセパレータ6C、帯状の正極板6Dを、順次重ねて捲回した扁平捲回構造を有する。捲回型電極群6の捲回開始端部にはセパレータ6Cが数周捲回され、その周面に正負極板6D,6Eがセパレータ6Cを介在して捲回されている。捲回型電極群6の捲回終了端部においては、セパレータ6Cが数周捲回され、巻き解け防止のため、セパレータ6Cの最外周(
図2の最下面)が接着テープ(不図示)によって止められている。
【0017】
正極板6Dは、アルミニウム合金箔の両面に正極活物質合剤が塗布されて作製される。例えば、マンガン酸リチウム等のリチウム含有遷移金属複酸化物を含む正極活物質合剤が略均等かつ略均一に塗着(塗工)されている。アルミニウム合金箔の長手方向(捲回方向)に沿う捲回軸方向の一端部には、両面に、正極活物質合剤が未塗工の正極未塗工部6Aが形成されている。すなわち、正極未塗工部6Aにおいては、アルミニウム合金箔(正極集電体)が露出している。
【0018】
負極板6Eは、銅合金箔の両面に負極活物質合剤が塗布されて作製される。例えば、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な黒鉛等の炭素材を含む負極活物質合剤が略均等かつ略均一に塗着されている。銅合金箔の長手方向(捲回方向)に沿う捲回軸方向の他端部には、両面に、負極活物質合剤が未塗工の負極未塗工部6Bが形成されている。すなわち、負極未塗工部6Bにおいては、銅合金箔(負極集電体)が露出している。
【0019】
セパレータ6Cは、リチウムイオンが通過可能な微多孔性シート材で構成されている。本例では、数十μm厚のポリエチレンシートが用いられている。
【0020】
図2に示すように、電池蓋2の左右両端部には電池内部と外部を連結するための貫通孔(図示省略)が穿設され、貫通孔には正極導電部材4、負極導電部材5がそれぞれ絶縁性のシール材7を介して装着されている。電池蓋2の外部に露出する正極導電部材4、負極導電部材5はそれぞれ正負極外部端子4T,5Tとされ、捲回型電極群6と電池外部の電気的負荷や充電電源を接続する。電池缶内部に延在する正極導電部材4、負極導電部材5は、正極集電体4S、負極集電体5Sとされる。正極集電体4Sは、平面状の正極側接合部4Aにおいて正極未塗工部6Aに接合され、負極集電体5Sは、平面状の負極側接合部5Aにおいて負極未塗工部6Bに接合されている。
捲回型電極群6は、正負極導電部材4、5により電池蓋2と一体化され、電池蓋2に片持ち状態で支持されている。
【0021】
図3Bは、未塗工部6A,6Bの中央領域を圧縮した電極群6の斜視図である。電極群6は、中央部に平面部6Pが形成され、両端部中央領域には圧縮された積層体圧縮平面部6Sが形成されている。電極群6の平面部6Pの上下には捲回に伴う湾曲部6Wが形成されている。湾曲部6Wは、捲回時に正負極箔が折り曲げられて形成され、正負極箔が積層されているが、圧縮はされない。
図3Bにおいて、湾曲部6Wの四隅を積層体湾曲端部6Eと呼ぶ。
【0022】
図3Bの電極群6は電池缶1内にて、表裏の平面部6Pが電池缶1の一対の幅広面1Wと所定の間隙で対向し、4つの湾曲端部6Eが電池缶1の左右の幅狭面1Nと所定の間隙で対向する。また、湾曲部6Wの上面が電池蓋2の内面と所定の間隙で、湾曲部6Wの下面が電池缶1の底面1Bと所定の間隙で対向して配置される。これら4つの間隙は、電極群6の内部で発生したガスの流路となり得る箇所である。ガス流路については後述する。
【0023】
捲回型電極群6が未塗工部6A,6Bで正負極集電体4S,5Sと接合される領域は、上述した積層体圧縮平面部6Sである。複数回捲回された正負極箔の積層体圧縮平面部6Sは正負極集電体4S,5Sと超音波接合され、正負極箔同士の隙間も接合されている。したがって、捲回型電極群6の内部での短絡、発熱等により発生したガスは、積層体圧縮平面部6Sから電極群外にほとんど排出されない。
【0024】
一方、電極群6の湾曲部6Wは圧縮されないので、湾曲部6Wの4つの端部6Eでは、積層体を構成する正負極箔同士の間には微小の間隙が形成されている。これら微小の隙間は、電極群内部で発生したガスの排出流路となり得る。したがって、電極群6の四隅の積層体湾曲端部6Eはガス排出部として機能する。
【0025】
捲回型電極群6の内部での短絡等に起因した発熱によりガスが発生した場合、電池外装容器の内部圧力が上昇し、ガス排出弁3が開裂する。これによって電池外装容器の破裂が防止され、発生したガスは、以下のようなガス排出流路を経て、ガス排出弁3から排出される。
【0026】
電池缶1内で発生したガスがガス排出弁3から排出されるまでのガス排出流路について説明する。
湾曲部端部6Eには、積層された複数枚の箔同士の間にガスが流れる微小な隙間が存在する。破線矢印A1は正極側湾曲端部6E内の微小隙間の流れを、破線矢印A2は負極側ガス排出部6E内の微小隙間流れを示す。すなわち、
図4に破線矢印A1,A2で示すように、捲回型電極群6の内部で発生したガスは、湾曲部端部6E内で捲回型電極群6の捲回軸方向に流れる。
【0027】
電極群6の湾曲端部6Eから排出されるガスは、電極群6の4つの湾曲端部6Eが電池缶1の左右の幅狭面1Nと所定の間隙で対向して形成される垂直流路に流れ込み、電池蓋2に向かってガスB1,B2として流れる。この垂直流路を第1ガス排出流路FL1と呼ぶ。
第1ガス排出流路FL1を流れたガスは、湾曲部6Wの上面が電池蓋2の内面と所定の間隙で対向して形成される水平流路を経由してガス排出弁3に至る。この水平流路を第2ガス排出流路FL2と呼ぶ。
【0028】
電極群6の内部のガスA1,A2は、電極群6の両端面と電池缶幅狭面1Nとの間の空間に到達し、第1ガス排出流路FL1を垂直に電池蓋2に向って流れる。さらに、このガス流は、電極群6の湾曲部6Wと電池蓋2との間の第2ガス排出流路FL2である水平流路に流れ込み、ガス排出弁3に向かって流れる。
図4では、正極側、負極側における電池蓋2に向かう垂直ガスを破線矢印B1、B2で示す。また、正極側、負極側におけるガス排出弁3に向かう水平ガスを破線矢印C1、C2で示す。ガス排出弁3に向かう矢印C1、C2で示す水平ガスは、最終的に、ガス排出弁3の開裂開口から外部に矢印Dで示すように排出される。
【0029】
図4、
図5に示すように、電極群6の両端面と電池缶幅狭面1Nとの間の空間に形成される第1ガス排出流路FL1の断面積をS1A、S1B、その合計をS1とすると、
S1=S1A+S1B 式(1)
と表される。
【0030】
図6は、
図4のVI−VI切断線で切断して示す要部断面図、
図7は、
図4のVIIVII切断線で切断して示す要部断面図である。電極群6の湾曲端部6Eからガス排出弁3までのガス排出流路のうち、水平ガスC1,C2が流れる第2ガス排出流路FL2には、正負極導電部材4、5が流路と直交して延在し、さらにシール材7も突出しており、多くの障害物を含む狭隘な空間である。したがって、第2ガス排出流路FL2の最小流路断面積は水平流路の有効断面積となる。ここで、この有効断面積は、電極群6の湾曲部6Wと電池蓋2とで区画された流路の断面積から、水平流路に突出する上記障害物の面積を除外した値である。障害物の面積とは、流路と直交する障害物の面積である。
【0031】
図6、
図7に示すように、
図4の破線矢印C1、C2で示す水平ガスが流れる第2ガス排出流路FL2の最小流路断面積をそれぞれS2A、S2B、その合計をS2とすると、
S2=S2A+S2B 式(2)
と表される。
【0032】
図8に示すように、電池蓋2の中央に設けられたガス排出弁3の開口面積はS3であり、開裂開口の最大面積となる。開裂開口は、必ずしも開口面積S3にまで開口しないが、通常、開口面積S3またはそれに近い値となる。
【0033】
本発明の実施形態による二次電池では、流路断面積S1、S2、S3は、S1<S2<
S3となるように設定され、流路断面積は下流に向かって順次拡大している。
【0034】
捲回型電極群6が発熱するとガスが発生して電池外装容器内部の圧力が上昇する。ガス圧力がガス排出弁3の開裂圧力以上となったときに、ガス排出弁3が開裂する。これによって、電池外装容器内部の圧力は一旦降下する。ガス排出弁3が開裂した後も、電極群6からガスが発生し続ける。このガスは、破線矢印A1,A2,B1,B2,C1,C2,Dで示されるガスとして、第1ガス排出流路FL1から第2ガス排出流路FL2を流れ、ガス排出弁3の開裂した開口を通って電池缶1の外部に排出される。
【0035】
図9に示すように、本実施形態の二次電池では、ガス排出弁3の開裂後のガス排出に際して、破線矢印C1,C2で示すガスが流れる第2ガス排出流路FL2のガス排出能力は、破線矢印B1、B2で示すガスが流れる第1ガス排出流路FL1のガス排出能力よりも高い。また、ガス排出弁3の開裂した開口によるガス排出能力は、破線矢印C1,C2で示すガスが流れる第2ガス排出流路FL2よりも高い。そのため、破線矢印C1,C2で示すガス流が破線矢印Dで示すようにガス排出弁3から外部へ向かう際に、第2ガス排出流路FL2の圧力上昇を抑制することができる。これによって、電池外装容器内部の圧力上昇が抑えられ、電池外装容器の破裂等の事故が防止される。
【0036】
図10に示す比較例のように、流路断面積S1、S2、S3が、S1>S2>S3となるように設定されていたとすると、破線矢印C1,C2で示すガスが流れる第2ガス排出流路FL2のガス排出能力が、破線矢印B1、B2で示されるガスが流れる第1ガス排出流路FL1のガス排出能力よりも低くなる。さらに、破線矢印Dで示されるガス排出弁3の開口によるガス排出能力が、第2ガス排出流路FL2のガス排出能力よりも低くなる。
【0037】
比較例のように電極群(ガス発生源)6からガス排出弁3に向かう複数の流路のガス排出能力が設定されると、以下のように電池缶内圧を効果的に低減することができない。
例えば、破線矢印B1,B2で示されるガスの第1ガス排出流路FL1における最大ガス排出流量が10L/S、発生ガス量、すなわち、破線矢印A1、A2で示されるガスの流量が10L/Sであったとき、第2ガス排出流路FL2における最大ガス排出流量は10L/Sよりも少ないので、第1ガス排出流路FL1の圧力が上昇する。
同様に、ガス排出弁3の最大ガス排出量は、破線矢印C1,C2で示される第2ガス排出流路FL2における最大ガス排出量よりも少ないので、第2ガス排出流路FL2の圧力が上昇する。
【0038】
従って、異常発生時に発生したガスによって電池外装容器内部の圧力が上昇し、ガス排出弁3が開裂しているにもかかわらず、電池外装容器の内圧が低下しない惧れがある。
【0039】
それに対し、本実施形態の二次電池では、それらのガス流路の断面積がS1<S2<S3と、ガス流路の断面積が下流に向かって順次拡大している。これにより、ガス排出能力は下流ほど大きくなり、ガスは極めて円滑に排出され、ガス排出弁3の開裂後に、電池外装容器内部の圧力が上昇する恐れはない。
【0040】
[強制内部短絡試験]
ガス排出流路面積を変化させたリチウムイオン電池を製造し、異常な動作を想定した強制内部短絡試験を行い、本発明の効果を確認した。
【0041】
強制内部短絡試験では、流路断面積がS1<S2<S3である薄型リチウムイオン二次電池を作製して試料1(実施形態)とし、流路断面積がS1<S2およびS3<S2である薄型リチウムイオン二次電池を作製して試料2とした。そして、電池幅広面中央に、直径5mm、先端角度60°の釘を貫通させて短絡を生じさせ、その後、ガス発生事象が終了するまで内部圧力を測定した。なお、試料1,2で使用する電極群6の電池容量は略等しい。
【0042】
図11に示すように、試料2の薄型リチウムイオン二次電池においては、強制内部短絡により発生した多量のガスで内圧が上昇し、予め設定された開裂圧力でガス排出弁3が開裂した。しかし、その後、ガス排出が円滑に行われないため、電池外装容器内部の圧力がガス排出弁3の開裂圧力を若干超える圧力に上昇した。
一般に薄型リチウムイオン二次電池は開裂圧力近くの圧力に対しては安全であるが、長期間の繰り返し過熱、繰り返し応力等に曝された場合、開裂圧力近傍の圧力上昇により、電池外装容器の耐久性が低下する惧れがある。
【0043】
一方、試料1の薄型リチウムイオン二次電池では、強制内部短絡により発生した多量のガスで圧力が上昇し、開裂圧力でガス排出弁3が開裂し、その後も、ガス排出が円滑に行われたため、圧力上昇が抑制された。
【0044】
なお、試料1、試料2のガス排出弁3の開裂圧力は相違するが、これは製品のバラつきである。
【0045】
[第2実施形態]
本発明による薄型リチウムイオン二次電池の第2実施形態を、
図12を参照して説明する。なお、図中、第1実施形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、説明を省略する。第2実施形態は、第1実施形態におけるガス排出弁の位置を電池蓋の中央から偏倚させたものである。
【0046】
図12に示すように、薄型リチウムイオン二次電池はガス排出弁3が電池蓋2の中央から偏倚している。このため、電池蓋2に沿ったガス流路において、破線矢印C1の流路と、破線矢印C2の流路の長さが異なる。しかし、ハイブリッド自動車用の実用的な薄型リチウムイオン二次電池のサイズでは、電池蓋2上のガス排出弁3の偏倚がガス排出性能に与える影響は無視し得る範囲であった。すなわち、第2実施形態は第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0047】
[変形例]
以上の説明は一実施形態であり、本発明の趣旨に逸脱しない種々の構造の二次電池に本発明を適用することができる。本発明の主たる特徴は、電極群6の内部で発生したガスがガス排出弁3から排出されるまでのガス排出流路について、下流ほど断面積を大きく設定した点である。したがって、この主たる特徴を有する二次電池は、たとえば、以下のように変形して実施することができる。
【0048】
(1)電極群6の捲回開始端部ではセパレータ6Cを複数回捲回して電極群6の軸芯の代用とした。しかし、軸芯の外周面にセパレータ、負極板、セパレータ、正極板を捲回した電極群にも本発明を適用できる。
【0049】
(2)以上の実施形態では、電極群6の未塗工部6A、6Bに正負極導電部材4,5の一端を接合し、電池蓋2を貫通して容器外に突出した導電部材4,5の他端を外部端子4T,5Tとした。しかしながら、本発明による二次電池はこのような導電部材の形状、構成に限定されない。
【0050】
(3)以上の実施形態では、電池缶底面1Bと対向する細長い矩形開口を電池蓋2で覆うようにし、この電池蓋2にガス排出弁3を設けた。しかし、電池缶1の幅広面1Wを電池蓋2で封口し、電池蓋2にガス排出弁3を設けた二次電池にも本発明を適用できる。
【0051】
(4)実施形態では、第1ガス排出流路FL1の断面積が第2ガス排出流路FL2の断面積よりも大きいものとして説明した。しかし、第1ガス排出流路FL1の断面積と第2ガス排出流路FL2との断面積が略等しいものも本発明に含まれる。したがって、本発明は、電極群で発生するガスがガス排出弁から排出され、ガス排出弁の開裂時の開口面積が、電極群からガス排出弁まで至るガス排出流路の断面積よりも大きく設定したあらゆる二次電池に適用することができる。
【0052】
(5)本発明はリチウムイオン二次電池以外、ニッケル水素二次電池など、捲回型電極群を有する種々の二次電池に適用できる。また、捲回型電極群を有する種々のリチウムイオンキャパシタにも適用することができる。